JP5530899B2 - ピストンおよび火花点火式内燃機関 - Google Patents

ピストンおよび火花点火式内燃機関 Download PDF

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Description

本発明は、火花点火式内燃機関用のピストン、および、それを備えた火花点火式内燃機関に関する。
火花点火式内燃機関において、例えば燃焼室の混合気の燃焼または流体の流れを制御するべく、ピストンの形状を改良することが提案されまたは行われている。例えば、特許文献1の内燃機関は、ピストンの頂面の縁部に形成された燃焼室の壁面に沿った凸部と、燃焼室の前記壁面と前記凸部の外面との間に形成される押出流形成部と、前記凸部に形成された孔とを備える。該孔は、押出流形成部と燃焼室の中心側とを連通する噴孔であり、押出流形成部から燃焼室の中心側に向かうスキッシュ流を形成するように設計されている。ただし、この凸部は、ピストンの頂面の縁部であって、吸気弁リセスと排気弁リセスとの間に位置する部分が燃焼室に向けて突出するように形成されている。
特開2007−303339号公報
火花点火式内燃機関では、ピストン表面に荒れが生じることがある。このような表面荒れの発生は、制御上または設計上、好ましいものではない。本発明者らは、この問題に対する鋭意研究の結果、そのような表面荒れが生じる原因およびメカニズムを解明するに至った。
そこで本発明はかかる事情に鑑みて創案されたものであり、その一の目的は、火花点火式内燃機関においてピストン表面荒れが生じることを抑制することにある。
本発明の一態様によれば、火花点火式内燃機関用のピストンであって、該ピストンの外周側面に隣接して該ピストンの頂面に形成された2つの凹部と、該2つの凹部に挟まれるように前記ピストンの前記外周側面に隣接して該ピストンの前記頂面に形成された凸部とを備え、前記凸部には、該ピストンの前記頂面の縁部側に向けて延びる副凹部が形成されている、ピストンが提供される。
好ましくは、前記副凹部は、前記内燃機関の燃焼室で生じた圧力波が前記2つの凹部および前記凸部のそれぞれを介して前記ピストンの前記外周側面上に至るとき、前記2つの凹部および前記凸部のそれぞれを介した圧力波が前記外周側面上で同時に衝突しないように、前記凸部における前記外周側面への圧力波の伝播ルートを該副凹部がない場合に比べて短くするべく、設けられる。
好ましくは、前記副凹部は、前記ピストンの中心線を基準に半径方向に向けて延びるように形成される。
好ましくは、前記副凹部は、前記ピストンの中心線に直交する方向に延びるように形成された底部を備える。
好ましくは、前記副凹部の前記頂面の前記縁部側の端部が円弧形状に拡がるように前記副凹部は形成される。
好ましくは、前記副凹部は、前記ピストンの中心線から離れるほど周方向幅が広くなるように形成される。
前記凸部には前記副凹部が複数形成されてもよい。この場合、該複数の副凹部の各々は前記ピストンの前記頂面の中央部側から前記縁部側に向けて延びるように形成されるとよい。
好ましくは、前記凸部は燃焼室の流体の流れを制御するように形成され、前記凹部の各々は対応する開閉弁と前記ピストンとの干渉を避けるように形成される。
本発明は、また、上記したようなピストンを備えた、火花点火式内燃機関にも存する。
本発明が適用される前のベースピストンを示す斜視図である。 本発明が適用される前のベースピストンを示す平面図である。 実機試験に用いた試験用ピストンの平面図である。 プラグ位置におけるノッキング時筒内圧波形を示すグラフである。 トップランド位置におけるノッキング時筒内圧波形を示すグラフである。 プラグ位置ノック振幅とトップランド位置ノック振幅との関係を示すグラフである。 CFD解析に用いたピストンの平面図である。 CFD解析の結果を示す斜視図である。 CFD解析の結果を示す斜視図である。 CFD解析の結果を示す斜視図である。 CFD解析の結果を示す斜視図である。 図1のピストンにおいて3者の圧力波が衝突する様子を示す平面図である。 本発明の第1実施形態に係るピストンの斜視図である。 本発明の第1実施形態に係るピストンの平面図である。 図14の線XV−XVに沿った本発明の第1実施形態に係るピストンの一部の断面模式図である。 第1実施形態に係るピストンにおいて3者の圧力波が衝突する様子を示す平面図である。 本発明の第2実施形態に係るピストンの平面図である。 本発明の第2実施形態に係るピストンの、第1実施形態に係るピストンの一部の断面模式図である図15に相当する図である。 本発明の第3実施形態に係るピストンの斜視図である。 本発明の第3実施形態に係るピストンの平面図である。 本発明の第3実施形態に係るピストンの凸部の副凹部周囲の部分的な拡大図である。 本発明の第4実施形態に係るピストンの斜視図である。 本発明の第4実施形態に係るピストンの平面図である。
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて説明する。
まず、本発明が適用される前のベースとなるピストン1を図1および図2に基づいて説明する。図1はピストン1の斜視図、図2はピストン1の平面図である。ピストン1は、ガソリンエンジン等の火花点火式内燃機関のピストンであり、その用途は問わないが例えば自動車用である。
図2に示す平面視において、ピストン1の中心線(軸線)Oを原点とする直交座標を定義し、図の左右方向に延びる軸をX軸、図の上下方向に延びる軸をY軸とする。X軸は、ピストンピン穴(図示せず)の中心線およびクランク軸(図示せず)の中心線に平行である。他方、Y軸はX軸と直交する。X軸を境に図の下側が吸気側、上側が排気側である。また説明を容易にするためにY軸を境に図の右側を前、左側を後とする。X軸は、ピストン1を吸気側と排気側とに仕切り、あるいは二分割する。Y軸は、ピストン1を前側と後側とに仕切り、あるいは二分割する。また説明を容易にするためにピストン中心線Oに沿った紙面厚さ方向手前側を上、奥側を下とする。
図1および図2に示すように、ピストン1は外周側面2と頂面3とを有する(以下、それぞれピストン外周側面2およびピストン頂面3という)。ピストン外周側面2には、それぞれピストンリングを収容するための複数(3つ)のリング溝4,5,6が形成されている。最上のリング溝すなわちトップリング溝4にはトップリング(図示せず)が収容され、中間のリング溝すなわちセカンドリング溝5にはセカンドリング(図示せず)が収容され、最下のリング溝すなわちオイルリング溝6にはオイルリング(図示せず)が収容される。オイルリング溝6の下方にはスカート7が形成されている。
他方、ピストン1において、トップリング溝4の上方にはトップランド8が形成されている。ここでトップランド8とは、トップリング溝4の上方に位置するピストン1の肉の部分全体をいう。このトップランド8に属するピストン外周側面2の部分がトップランド外周側面9を形成する。なお、トップリング溝4とセカンドリング溝5との間にはセカンドランド10が形成され、セカンドリング溝5とオイルリング溝6との間にはサードランド11が形成されている。
ピストン頂面3には、複数の凹部が形成されている。具体的には、ピストン頂面3においては、その吸気側に複数の吸気弁リセス12F,12Rが設けられ、その排気側に複数の排気弁リセス13F,13Rが設けられている。吸気弁リセス12F,12Rは吸気通路の下流側端部を開閉する開閉弁である吸気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。また排気弁リセス13F,13Rは排気通路の上流側端部を開閉する開閉弁である排気弁(図示せず)との干渉を避けるためのものであり、ピストン頂面3に凹設されている。
ここでは吸気弁リセスの数は2つである。前側の吸気弁リセスを12Fで表し、後側の吸気弁リセスを12Rで表す。これら吸気弁リセス12F,12Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有し、Y軸に対して対称に配置されている。
同様に、ここでは排気弁リセスの数も2つである。前側の排気弁リセスを13Fで表し、後側の排気弁リセスを13Rで表す。これら排気弁リセス13F,13Rは平面視(図2)において略半円状であり、同一径を有するが、吸気弁リセス12F,12Rよりも小径である。そしてY軸に対して対称に配置されている。
これら吸気弁リセス12F,12Rおよび排気弁リセス13F,13Rの底面は、知られているように、X軸から離れるほど位置が下がるように傾斜されている。そして前側吸気弁リセス12Fおよび後側吸気弁リセス12Rは、それぞれピストン外周側面2に隣接する、特に内接するように延びている。これにより、トップランド外周側面9の上端縁部は、前側吸気弁リセス12Fおよび後側吸気弁リセス12Rとの接続位置において、下方に切り欠かれたような形状となっている。この前側および後側の切欠き形状部を図1に14F,14Rで示す。これら前側および後側切欠き形状部14F,14RはY軸に対し対称に配置されていて、ここでは吸気弁リセス12F,12Rとピストン外周側面2とを概ね滑らかにつなげる。
2つの吸気弁リセス12F,12Rの間のピストン頂面3の部分は、燃焼室に向けて突出するような凸部であるスキッシュ部15を形成する。スキッシュ部15は、ピストン頂面3の外周側に位置され、平面視(図2)において略扇状である。また、Y軸とピストン1の中心線Oとを含むように定義される平面上でのスキッシュ部15の断面形状は略三角形状であり、スキッシュ部15は、ピストン外周側面2に概ね滑らかにつながる外側傾斜面15aと、燃焼室の中心側に向く内側傾斜面15bと、これら外側傾斜面15aおよび内側傾斜面15bの間に延びるエッジ部(頂縁部)15cとを有する(図2参照)。凸部であるスキッシュ部15は、燃焼室の流体の流れを制御するように形成され、ここでは特にスキッシュ流の形成を促すように設けられ、機関運転時にシリンダブロックとシリンダヘッド(いずれも図示せず)の隙間から流出するスキッシュ流が積極的に当たる部位となる。スキッシュ部15はY軸に対し対称に配置されている。このように、スキッシュ部15は、2つの凹部である吸気弁リセス12F,12Rに挟まれるようにピストン外周側面2に隣接してピストン頂面3に形成された凸部である。
スキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9の部分は、トップランド外周側面9のうち、図中Lで示される範囲の部分、すなわち吸気弁リセス12F,12Rとスキッシュ部15との境界が最も半径方向外側となる2つのピストン周方向位置の間におけるトップランド外周側面9の部分である。このスキッシュ部15に接続するトップランド外周側面9の部分を、符号9Lを用いて区別して表し、スキッシュ接続トップランドともいう。スキッシュ接続トップランド9Lは、Y軸に対し対称に配置されている。
スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置9LmはY軸上に存在する。そしてこの周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に最も離れた位置に、スキッシュ接続トップランド9Lの前端9Lfおよび後端9Lrが存在する。前側および後側切欠き形状部14F,14Rは、これら前端9Lfおよび後端9Lrよりも、さらに周方向中間位置9Lmから周方向に沿って前後に離れた位置に存在する。
ピストン頂面3の中心部には、僅かに窪まされた中心凹部16が形成されている。そして中心凹部16の真上に、図示しない点火プラグがシリンダヘッドに取り付けられて設けられることとなる。
次に、上記したようなピストンにおける表面荒れについて、本発明者らの知見により得られた発生原因とメカニズムを説明する。まず、行った種々の実験の結果を説明する。
まず本発明者らは実機試験を行った。図3に実機試験に用いた試験用ピストン101を示す。この試験用ピストン101は、前述したベースピストン1とは異なるが、ベースピストン1と同様、ピストン頂面103に吸気弁リセス112F,112Rと排気弁リセス113F,113Rとが2つずつ備えられている。また、吸気弁リセス112F,112R間にスキッシュ部115が設けられている。
図3中、着色部分は、実験より求めたノッキング発生率の分布を表す。概して着色が濃いほどノッキング発生率が高いことを意味する。第1領域A1はノッキング発生率が最も高い領域であり、第2領域A2は中間程度のノッキング発生率の領域であり、第3領域A3はノッキング発生率が最も低い領域であった。
また、スキッシュ接続トップランド109Lに表面荒れが顕著に見られた。但しスキッシュ部115にも、スキッシュ接続トップランド109Lほどではないが、そのような荒れが見られた。このようなピストン表面荒れは、本発明者らが調べた結果、物理的または機械的な作用による減肉現象であるエロージョンに主に起因することが分かった。さらに、本発明者らは、種々の実験を行った。その結果がさらに以下に説明される。
図4〜図6に多点圧力解析の結果を示す。図4〜図6に表された結果に関する実験では、火花点火式内燃機関の燃焼室で自着火を故意に生じさせて、つまりノッキング発生時を模擬し、そのときの筒内圧を次のように計測した。図4は、点火プラグの位置(プラグ位置という)で筒内圧センサを用いて筒内圧を計測したときのノッキング時の筒内圧波形を示す。横軸はクランク角であり、縦軸は筒内圧である。図5は、スキッシュ接続トップランド109Lの周方向中間位置に対向するシリンダ内周面の位置(トップランド位置という)で筒内圧センサを用いて筒内圧を計測したときのノッキング時の筒内圧波形を示す。横軸はクランク角であり、縦軸は筒内圧である。
これら図を比較すると分かるように、トップランド位置ではプラグ位置よりも、ノッキング時の筒内圧波形が大きく振動しており、自着火に伴う圧力波が大きくなっている。
これら図4および図5に示したような筒内圧波形を複数取得し、その結果に基づき作成したのが図6のグラフである。横軸はプラグ位置ノック振幅であり、縦軸はトップランド位置ノック振幅である。ここでノック振幅とは、図4および図5に示したような1燃焼当たりの筒内圧波形のうちの最大振幅Wをいう。
図6から分かるように、トップランド位置ノック振幅はプラグ位置ノック振幅に対し概ね比例関係にあるが、その比例係数は1より大きく、しかも図6中円内に示すように、トップランド位置ノック振幅がプラグ位置ノック振幅より顕著に大きくなることがある。この結果から、スキッシュ接続トップランド109Lの位置において、自着火発生時に圧力が急激に増大していることが分かる。なお図6の円内のデータは、図4および図5の筒内圧波形に基づいたデータである。
次に本発明者らはCFD解析を行った。図7にCFD解析に用いたピストン201の頂面を示す。このCFD解析用ピストン201も、前述したベースピストン1とは異なるが、ベースピストン1と同様、ピストン頂面203に吸気弁リセス212F,212Rと排気弁リセス213F,213Rとが2つずつ設けられている。また、吸気弁リセス212F,212R間にスキッシュ部215が設けられている。なおこのCFD解析用ピストン201は、筒内直噴エンジンのものであり、ピストン頂面203には燃料衝突用凹部219が設けられている。
このCFD解析においては、初期条件として、矢印Bで示す領域を既燃領域として温度を2000℃に設定し、矢印Cで示す領域を未燃領域として温度を1000℃に設定し、その境界層から自着火を模擬した圧力または圧力波を伝播させた。ピストン201の位置は圧縮上死点後(ATDC)15°に固定した。
図8〜図11はCFD解析の結果であり、それぞれ開始から6μsec後、12μsec後、18μsec後、24μsec後の状態を示している。まず図8に示す6μsec後では、吸気弁リセス212F,212Rから、スキッシュ接続トップランド209Lの位置(すなわちスキッシュ接続トップランド209Lと、これに対向するシリンダ内周面との間の隙間)に、圧力波P1F,P1Rが進入した。特にこの進入は、トップランド外周側面209の上端縁部における切欠き形状部214F,214Rを通じて行われた。なお切欠き形状部214F,214Rがない場合もあるが、このときには吸気弁リセス212F,212Rの内側壁を乗り越えて上記したのと同様の進入が行われ得た。
次に、図9に示す12μsec後では、スキッシュ部215から圧力波P2がY軸方向且つ半径方向外側に進み、スキッシュ接続トップランド209Lの位置に進入した。他方、既に進入した吸気弁リセス212F,212Rからの圧力波P1F,P1Rは、スキッシュ接続トップランド209Lとこれに対向するシリンダ内周面との隙間を、周方向に回り込んで進んだ。つまり、これら3者の圧力波P1F,P1R,P2は互いに合流する方向に向かうことが分かった。
次に、図10に示す18μsec後では、スキッシュ部15からの圧力波P2がトップリング(図示せず)に衝突し、当該衝突位置で圧力が部分的に上昇した。
次に、図11に示す24μsec後では、吸気弁リセス212F,212Rからの圧力波P1F,P1Rが、圧力上昇したスキッシュ部15からの圧力波P2と衝突した。よって3者の圧力波P1F,P1R,P2の衝突位置で圧力が急激に上昇した。この衝突位置ないし圧力上昇位置は、Y軸近傍の位置、すなわちスキッシュ接続トップランド209Lの周方向中間位置の近傍の位置である。
このように、例えば自着火により発生した圧力波は、スキッシュ接続トップランド209Lの周方向中間位置の近傍で、重ね合わさって増幅することが判明した。そしてこのことが、図3に示したような実機のピストン101において、スキッシュ接続トップランド109L(特にその周方向中間位置)にエロージョンによる表面荒れが顕著に発生する理由と推測される。図12に、ベースピストン1における、上記したような3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する様子を示す。
3者の圧力波P1F,P1R,P2が衝突する位置は3重点をなす。このような3重点が現れる理由は、これら圧力波P1F,P1R,P2の伝播ルートが上記3重点の発生に適しているからと考えられる。
そこで、これら圧力波P1F,P1R,P2のうちの一つの伝播ルートを変えれば、すなわち3者の伝播のバランスを崩せば、そのような3重点の発生を回避できることとなり、ピストン表面荒れの発生を抑制可能となる。
本発明者らは、鋭意研究の結果、上記したようにピストン表面荒れの原因およびメカニズムを見出し、このことを利用して本発明を創案するに至った。以下に、本発明が実施形態に基づいて具体的に説明されるが、それらはいずれも、ピストン表面の凸部(例えばスキッシュ部)を介する圧力波とピストン表面の凹部(例えば吸気弁リセス)を介する圧力波との衝突を複数に分散させるための構成を備える。より詳しくは、圧力波がピストン表面の凸部を同隙間に向けてより速く通過することを可能にする構成として、ピストンの頂面の凸部に形成された副凹部つまり溝を本発明は備える。したがって、以下に説明される本発明の実施形態によれば、火花点火式内燃機関において、喩え燃焼室で意図しない大きな圧力が生じた場合であっても、上記3重点の発生を回避でき、それに起因してピストン表面荒れが生じることを抑制できる。
ここで、本発明の第1実施形態に係るピストン1Aが説明される。図13および図14に、前記ベースピストン1に対して本発明を適用した第1実施形態に係るピストン1Aを示す。なお、ベースピストン1と同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。
図示するように、第1実施形態に係るピストン1Aにおいては、ピストン頂面3の凸部であるスキッシュ部15に、副凹部20Aが形成されている。副凹部20Aは、ピストン1Aの頂面3の中央部22側から縁部24側に向けて延びる凹部である。副凹部20Aは、燃焼室で生じた圧力波が任意の箇所から入ることができるように燃焼室側に開いているので、以下、溝と称され得る。
溝20Aは、ピストン1Aの中心線(軸線)Oを基準に半径方向に向けて延びるように形成されていて、Y軸上に延在する。ここでは、溝20Aの深さは、図15に示すように、溝20Aの中央部22側と縁部24側とで概ね等しい。ただし、溝20Aは、図14によく表されているように、ピストン1Aの中心線Oから離れるほど周方向幅が広くなるように形成されている。
このように溝20Aをスキッシュ部15に形成するので、上記3重点の発生を回避可能になる。図15および図16を参照して説明する。図15は、ピストン1Aの一部の断面模式図であるが、圧力波P2の伝播ルートが模式的に示されている。図16は、ピストン1Aを備えた火花点火式内燃機関における、上記したように伝播する圧力波P1F,P1R,P2が衝突する様子を模式的に示す。
ピストン1Aを備えた火花点火式内燃機関でも、仮に自着火等により燃焼室で局所的に意図しない高圧が生じた場合、上記したのと同様に、吸気弁リセス12F,12Rを介して圧力波P1F、P1Rが伝播し得る。これに対して、そのときに生じたスキッシュ部15の表面を伝播する圧力波P2はスキッシュ部15の溝20Aを通ることができる。
ここで、ピストン頂面3の中央部22側から縁部24側に向けて延びる圧力伝播ルートを考える。スキッシュ部15の溝20A上に定められるピストン1Aの頂面3の中央部22側から縁部24側に向けて延びるルート1(図15の矢印α参照)は、溝20Aのないスキッシュ部15上に定められる上記ピストン1におけるルート2(図15の矢印β参照)に対して短い。それ故、上記したように、スキッシュ部15の表面を介する圧力波P2はスキッシュ部15の溝20Aを通ることができるので、そのような圧力波P2は、溝20Aを通ることで、より速くにピストン外周側面2に至ることができる。したがって、図16に示すように、圧力波P2は、圧力波P1F、P1Rに比べて、速くに、スキッシュ接続トップランド9Lの周方向中間位置の近傍に達することができる。その結果、圧力波P2は、例えば圧力波P2F、P2Rに分かれて、ピストン外周側面2上を周方向に伝播して、圧力波P1F、P1Rと衝突することができ、これにより上記3重点の発生を回避することができる。
このようにピストン1Aの頂面3の凸部であるスキッシュ部15上を介してピストン外周側面2に至る圧力波P2の伝播ルートを短くするための溝部20Aをスキッシュ部15に設けることで、吸気弁リセス12F,12Rからの圧力波P1F、P1Rと、スキッシュ部15からの圧力波P2との3者の同時衝突を回避し、各圧力波の衝突タイミングをずらし、圧力増幅箇所を分散することができる。このように、第1実施形態に係るピストン1Aを用いることで、上記3重点の発生を回避し、特にスキッシュ接続トップランド9Lにおいて顕著であったエロージョンによる表面荒れの発生を抑制することが可能になる。
次に、本発明の第2実施形態に係るピストン1Bが説明される。図17および図18に基づいて、前記ベースピストン1に対して本発明を適用した第2実施形態に係るピストン1Bが説明される。なお、ベースピストン1と同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。また、ここでは、上記ピストン1Aに対するピストン1Bの相違点つまり特徴についてのみ説明し、上記した符号を同様に用いることでそれらの共通部分または類似部分の説明を省略する。
上記3重点の発生を回避するためには、スキッシュ部の溝を伝播する圧力波P2の伝播ルートをさらに短くするとよく、第2実施形態に係るピストン1Bはそのような構成を備えている。
ピストン1Bは、スキッシュ部15に、ピストン1Bの中心線(軸線)Oに直交する方向に延びるように形成された底面または底部26を備える溝20Bを備えている。なお、図18ではピストン1Bの中心線Oに平行な線O´が表されている。このような溝20Bを通るように定められるピストン頂面3の中央部22側から縁部24側に向けて延びるルート3(図18の矢印γ参照)は、上記ルート1(図15の矢印α参照)およびルート2(図15および図18の矢印β参照)よりも短い。それ故、溝20Bを備えるピストン1Bは、上記ピストン1Aが奏する作用および効果を同様に奏し、特に、上記3重点の発生を回避することにさらに優れる。
次に、本発明の第3実施形態に係るピストン1Cが説明される。図19および図20に、前記ベースピストン1に対して本発明を適用した第3実施形態に係るピストン1Cを示す。なお、ベースピストン1と同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。また、ここでは、上記ピストン1Aに対するピストン1Bの相違点つまり特徴についてのみ説明し、上記した符号を同様に用いることでそれらの共通部分または類似部分の説明を省略する。
ピストン1Cのスキッシュ部15には、溝20Cが、ピストン頂面3の縁部24側の該溝20Cの端部20C´が円弧形状に拡がるように換言すると扇形になるように、形成されている。これは、圧力波P2をより適切にピストン外周側面2の周方向に方向付けて周方向に伝播させるためである(図21の矢印参照)。これにより、ピストン1Cは、上記溝20Aを備えたピストン1Aと同様の作用および効果をより的確に奏することが可能になる。
なお、溝20Cは、上記溝20Aと同様に、溝20Bの中央部22側と縁部24側とで深さの点で概ね等しくなるように形成されている。しかし、溝20Cは、上記第2実施形態に係るピストン1Bの上記溝20Bと同様に、同様の理由により、ピストンの中心線Oに直交する方向に延びる底部を備えるように設計変更され得る。
次に、本発明の第4実施形態に係るピストン1Dが説明される。図22および図23に、前記ベースピストン1に対して本発明を適用した第4実施形態に係るピストン1Dを示す。なお、ベースピストン1と同一の構成要素には図中同一符号を付し、説明を省略する。また、ここでは、上記ピストン1Aに対するピストン1Dの相違点つまり特徴についてのみ説明し、上記した符号を同様に用いることでそれらの共通部分または類似部分の説明を省略する。
ピストン1Dには、凸部であるスキッシュ部15に、3つの副凹部つまり溝20Da、20Db、20Dcが形成されている。そして、これら溝20Da、20Db、20Dcの各々は、ピストン1Dの頂面3の中央部22側から縁部24側に向けて延びるように形成されていて、燃焼室で生じた圧力波が任意の箇所から入ることができるように燃焼室側に開いている。これらの溝20Ca、20Cb、20Ccの各々は上記溝20Aと同様の作用および効果を生じるように設計されている。
なお、溝20Da、20Db、20Dcの各々は、上記溝20Aと同様に、溝の中央部22側と縁部24側とで深さの点で概ね等しくなるように形成されている。しかし、溝20Da、20Db、20Dcの各々は、上記第2実施形態に係るピストン1Bの上記溝20Bと同様に、同様の理由により、ピストンの中心線Oに直交する方向に延びる底部を備えるように設計変更され得る。
なお、本第4実施形態のピストンでは、凸部であるスキッシュ部に3つの溝が設けられた。しかし、本発明は、ピストンの頂面の凸部に2つまたは4つ以上、複数の溝つまり副凹部が設けられることを許容する。換言すると、本発明に係るピストンでは、ピストンの頂面の凸部に少なくとも1つの副凹部が設けられ得る。
以上、本発明を上記した4つの実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これら実施形態に限定されず、例えばこれらを部分的に任意に組み合わせた変形例をも許容する。また、上記実施形態では、ピストンの頂面の凸部はスキッシュ流に関係するように形成されたが、本発明における副凹部つまり溝が形成される凸部は、スキッシュ流に関係のあるまたは無縁の凸部であってもよく、燃焼室の流体の流れを様々に制御するように形成される凸部であり得る。なお、このような凸部に副凹部が上記の如く形成されるが、副凹部の形成により凸部の機能が実質的にまたはある程度以上低下しないように、各々が種々の形状を有し得る少なくとも1つの副凹部が凸部に形成されるとよい。また、上記実施形態では、副凹部つまり溝が形成される凸部は吸気弁リセスに挟まれるように形成されたが、本発明における凸部は、排気弁リセスに挟まれてもよく、または、吸気弁リセスと排気弁リセスとに挟まれてもよい。
また、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の実施形態は他にも種々考えられる。例えば、2つより多い例えば3つの吸気弁を有する内燃機関において、ピストンに同数の3つの吸気弁リセスが設けられる場合にも、本発明は適用可能である。この場合、互いに隣り合う2つの吸気弁リセスの組が2組設けられるが、それぞれの組に対して、前記実施形態で述べたような構造または構成を適用することが可能である。
本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
1A〜1D ピストン
2 外周側面
3 頂面
4 トップリング溝
5 セカンドリング溝
6 サードリング溝
8 トップランド
9 トップランド外周側面
9L スキッシュ接続トップランド
12F 前側吸気弁リセス
12R 後側吸気弁リセス
14F 前側切欠き形状部
14R 後側切欠き形状部
15 スキッシュ部
20A〜20Dc 副凹部(溝)
O ピストン中心線

Claims (10)

  1. 火花点火式内燃機関用のピストンであって、
    該ピストンの外周側面に隣接して該ピストンの頂面に形成された2つの凹部と、
    該2つの凹部に挟まれるように前記ピストンの前記外周側面に隣接して該ピストンの前記頂面に形成された凸部と
    を備え、
    前記凸部には、該ピストンの前記頂面の縁部側に向けて延びる副凹部が形成されていて、
    前記副凹部は、前記内燃機関の燃焼室で生じた圧力波が前記2つの凹部および前記凸部のそれぞれを介して前記ピストンの前記外周側面上に至るとき、前記2つの凹部および前記凸部のそれぞれを介した圧力波が前記外周側面上で同時に衝突しないように、前記凸部における前記外周側面への圧力波の伝播ルートを該副凹部がない場合に比べて短くするべく、設けられている、
    ピストン。
  2. 火花点火式内燃機関用のピストンであって、
    該ピストンの外周側面に隣接して該ピストンの頂面に形成された2つの凹部と、
    該2つの凹部に挟まれるように前記ピストンの前記外周側面に隣接して該ピストンの前記頂面に形成された凸部と
    を備え、
    前記凸部には、該ピストンの前記頂面の縁部側に向けて延びる副凹部が形成されていて、
    前記副凹部の前記頂面の前記縁部側の端部が円弧形状に拡がるように前記副凹部は形成されている、ピストン。
  3. 火花点火式内燃機関用のピストンであって、
    該ピストンの外周側面に隣接して該ピストンの頂面に形成された2つの凹部と、
    該2つの凹部に挟まれるように前記ピストンの前記外周側面に隣接して該ピストンの前記頂面に形成された凸部と
    を備え、
    前記凸部には、該ピストンの前記頂面の縁部側に向けて延びる副凹部が形成されていて、
    前記副凹部は、前記ピストンの中心線から離れるほど周方向幅が広くなるように形成されている、ピストン。
  4. 前記副凹部の前記頂面の前記縁部側の端部が円弧形状に拡がるように前記副凹部は形成されている、請求項1または3に記載のピストン。
  5. 前記副凹部は、前記ピストンの中心線から離れるほど周方向幅が広くなるように形成されている、請求項1または2に記載のピストン。
  6. 前記副凹部は、前記ピストンの中心線を基準に半径方向に向けて延びるように形成されている、請求項1から5のいずれかに記載のピストン。
  7. 前記副凹部は、前記ピストンの中心線に直交する方向に延びるように形成された底部を備えている、請求項1から6のいずれかに記載のピストン。
  8. 前記凸部には前記副凹部が複数形成され、該複数の副凹部の各々は前記ピストンの前記頂面の中央部側から前記縁部側に向けて延びるように形成されている、請求項1からのいずれかに記載のピストン。
  9. 前記凸部は燃焼室の流体の流れを制御するように形成され、
    前記凹部の各々は対応する開閉弁と前記ピストンとの干渉を避けるように形成されている、請求項1からのいずれかに記載のピストン。
  10. 請求項1からのいずれかに記載のピストンを備えた、火花点火式内燃機関。
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