以下、本発明に係るスポット溶接方法につき、これを実施するスポット溶接装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態に係るスポット溶接装置10の要部拡大図である。このスポット溶接装置10は、アームを有するロボット(ともに図示せず)と、前記アームを構成する手首部12に支持された溶接ガン14とを有する。
この場合、溶接ガン14は、ガン本体24の下方に配設された略C字形状の固定アーム30を具備する、いわゆるC型のものである。この固定アーム30の下方先端には、ガン本体24を臨むようにして、第2溶接チップとしての下チップ32が設けられ、該下チップ32は、ガン本体24に向かって延在している。
ガン本体24には、ボールねじ機構(図示せず)が収容されている。このボールねじ機構のボールねじは、ガン本体24から突出し且つ前記下チップ32に向かって延在する連結ロッド34を図1における上下方向(矢印Y2方向又は矢印Y1方向)に変位させるためのものである。なお、前記ボールねじは、前記ボールねじ機構を構成する図示しないサーボモータの作用下に回転動作する。
連結ロッド34の先端部には、ステー36を介して、第1溶接チップとしての上チップ38が前記下チップ32に対向するようにして設けられる。さらに、ステー36には、橋架部材40を介して2個のシリンダ機構42a、42bが支持される。これらシリンダ機構42a、42bを構成するシリンダチューブ44a、44bからは、加圧部材としての加圧ロッド46a、46bが上チップ38と平行に延在するようにして突出している。
溶接対象である積層体48aにつき若干説明すると、この場合、積層体48aは、3枚の金属板50a、52a、54aが下方からこの順序で積層されることによって構成される。この中の金属板50a、52aの厚みはD1(例えば、約1mm〜約2mm)に設定され、金属板54aの厚みはD1に比して小寸法のD2(例えば、約0.5mm〜約0.7mm)に設定される。すなわち、金属板50a、52aの厚みは同一であり、金属板54aはこれら金属板50a、52aに比して薄肉である。すなわち、金属板54aの肉厚は、積層体48aを構成する3枚の金属板50a、52a、54a中で最小である。
金属板50a、52aは、例えば、いわゆるハイテン鋼であるJAC590、JAC780又はJAC980(いずれも日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能高張力鋼板)からなる高抵抗ワークであり、金属板54aは、例えば、いわゆる軟鋼であるJAC270(日本鉄鋼連盟規格に規定される高性能絞り加工用鋼板)からなる低抵抗ワークである。金属板50a、52aは同一金属種であってもよいし、異種金属種であってもよい。
前記下チップ32及び前記上チップ38は、これら下チップ32及び上チップ38の間に溶接対象である積層体48aを挟持し、且つ該積層体48aに対して通電を行うものである。なお、下チップ32は電源56の負極に電気的に接続されており、一方、上チップ38は前記電源56の正極に電気的に接続されている。このため、第1実施形態では、上チップ38から下チップ32に向かって電流が流れる。
後述するように、上チップ38と加圧ロッド46a、46bの離間距離Z1、Z2は、金属板54aと、その直下の金属板52aとの間に適切な面圧の分布が得られるように設定される。
以上の構成において、前記ボールねじ機構を構成する前記サーボモータ、シリンダ機構42a、42b及び電源56は、制御手段としてのガンコントローラ58に電気的に接続されている。すなわち、これらサーボモータ、シリンダ機構42a、42b及び電源56の動作ないし付勢・滅勢は、ガンコントローラ58によって制御される。
第1実施形態に係るスポット溶接装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、第1実施形態に係るスポット溶接方法との関係で説明する。
積層体48aに対してスポット溶接を行う際、換言すれば、金属板50a、52a同士を接合するとともに金属板52a、54a同士を接合する際には、先ず、前記ロボットが、下チップ32と上チップ38の間に積層体48aが配置されるように前記手首部12、すなわち、溶接ガン14を移動させる。
ガン本体24が所定の位置まで降下した後、ガンコントローラ58の作用下に前記ボールねじ機構を構成する前記サーボモータが付勢され、これに伴って前記ボールねじが回転動作を開始する。これにより、上チップ38及び加圧ロッド46a、46bが積層体48aに対してさらに接近するように、矢印Y1方向に向かって降下する。その結果、下チップ32と上チップ38の間に積層体48aが挟持される。
その一方で、ガンコントローラ58がシリンダ機構42a、42bを付勢する。これにより加圧ロッド46a、46bが矢印Y1方向に向かってさらに突出し、該加圧ロッド46a、46bが、下チップ32と上チップ38によって積層体48aが挟持されるのと同時、又はその前後に金属板54aに当接する。図2には、このときの模式的な縦断面図が示されている。
ここで、上チップ38と加圧ロッド46a、46bの離間距離Z1、Z2は、図3に示すように、金属板54aと金属板52aとの間の接触面に、上チップ38で押圧される箇所で面圧が最大となり、且つ加圧ロッド46a、46bで押圧される箇所で、次に大きい面圧が得られるように設定される。なお、好適にはZ1=Z2である。
換言すれば、前記接触面には、上チップ38の加圧による面圧、及び加圧ロッド46a、46bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成される。これにより、図2に示すような加圧力の分布が形成される。以下、この分布につき詳述する。
ガンコントローラ58は、金属板54aに対する上チップ38及び加圧ロッド46a、46bの合計加圧力(F1+F2+F3)が、金属板50aに対する下チップ32の加圧力(F4)と均衡するように、前記ボールねじ機構のボールねじを回転動作させるサーボモータの回転付勢力、及びシリンダ機構42a、42bの推進力を制御する。この制御により、積層体48aに対する矢印Y1方向に沿って作用する加圧力(F1+F2+F3)と、矢印Y2方向に沿って作用する加圧力(F4)とが略同等となる。なお、F2=F3であることが好適である。
すなわち、このとき、F1<F4が成り立つ。従って、積層体48aが下チップ32と上チップ38から受ける力は、図2に模式的に示すように、上チップ38から下チップ32に向かうにつれて作用範囲が広くなる(大きくなる)ように分布する。このため、金属板52a、54aの接触面に作用する力は、金属板50a、52aの接触面に作用する力に比して小さくなる。なお、離間距離Z1、Z2が過度に小さいために上チップ38の加圧による面圧、及び加圧ロッド46a、46bの加圧による面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成されない場合、このような分布が形成され難くなる。
図4は、加圧ロッド46a、46bを用いずにF1=F4とした場合における積層体48aが下チップ32と上チップ38から受ける力の分布を模式的に示したものである。図4から諒解されるように、この場合、力は、上チップ38から下チップ32にわたって均等である。換言すれば、金属板52a、54aの接触面に作用する力と、金属板50a、52aの接触面に作用する力とが等しくなる。
図2及び図4には、金属板52a、54aの接触面に作用する力の範囲を太実線で示している。図2及び図4を対比して諒解される通り、力が作用する範囲は、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して狭い。このことは、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比して金属板54aが金属板52aに対して押圧される範囲が狭いこと、換言すれば、接触面積が小さいことを意味する。
ここで、このように上チップ38から下チップ32に至るまでの加圧力を分布させ、金属板52aに対する金属板54aの接触面積を小さくしたことに伴い、積層体48aから上チップ38に向かう反力が生じる。第1実施形態では、この反力を加圧ロッド46a、46bで受けている。
上記したように、加圧ロッド46a、46bを含むシリンダ機構42a、42bは、ガン本体24に収容されるボールねじ機構に連結された連結ロッド34に対し、橋架部材40を介して支持されている。このため、加圧ロッド46a、46bで受けた前記反力は、結局、ガン本体24(溶接ガン14)に吸収される。
従って、この場合、積層体48aからの反力がロボットに作用することが回避される。このため、ロボットとして剛性が大きいものを採用する必要がない。換言すれば、ロボットとして小型のものを採用することができ、その結果、設備投資を低廉化することができる。
次に、ガンコントローラ58は、電源56に通電開始の制御信号を発する。これにより、図2(及び図4)に示すように、上チップ38から下チップ32に向かう方向に電流iが流れ始める。上記したように、上チップ38、下チップ32の各々が電源56の正極、負極に接続されているからである。そして、電流iに基づくジュール熱により、金属板50a、52aの間、及び金属板52a、54aの間がそれぞれ加熱される。
ここで、上記したように、図2に示される金属板54aと金属板52aとの接触面積は、図4に示される金属板54aと金属板52aとの接触面積に比して小さい。このため、金属板52a、54aの接触面における接触抵抗及び電流密度は、図2に示される場合の方が図4に示される場合に比して、換言すれば、F1<F4であるときの方がF1=F4であるときに比して大きくなる。すなわち、F1<F4であるときには、F1=F4であるときに比してジュール熱の発生量、換言すれば、発熱量が大きくなる。従って、F1<F4であるときには、図5に示すように、金属板50a、52aの接触面に生成する加熱領域60と、金属板52a、54aの接触面に生成する加熱領域62とが略同等の大きさに成長する。
金属板50a、52aの接触面、金属板52a、54aの接触面は、これら加熱領域60、62によって加熱され、十分に温度上昇して溶融し始める。これにより形成された溶融部が冷却固化する結果、金属板50a、52aの間、金属板52a、54aの間にナゲット64、66がそれぞれ形成される。なお、図5においては、理解を容易にするためにナゲット64、66として示しているが、通電中は、液相である溶融部として存在する。以降の図面も同様である。
上記したように、金属板50a、52aの接触面における加熱領域60と、金属板52a、54aの接触面における加熱領域62とは互いに略同等の大きさである。従って、ナゲット64、66もまた、互いに略同等の大きさとなる。
溶融部が形成される間、金属板54aは、加圧ロッド46a、46bで金属板52a側に押圧されている。この押圧により、低剛性の金属板54aが通電(加熱)に伴って反ること、すなわち、金属板52aから離間することが抑制される。このため、軟化した溶融部が金属板54aと金属板52aとの離間箇所からスパッタとして飛散することを防止することができる。
所定時間が経過して前記溶融部が十分成長した後、通電を停止するとともに、上チップ38を金属板54aから離間させる。又は、上チップ38を金属板54aから離間させることで上チップ38と下チップ32を電気的に絶縁するようにしてもよい。
なお、スポット溶接の開始から終了するに至るまでの上記した動作は全て、ガンコントローラ58の制御作用下に営まれる。
このようにして通電が停止されることに伴い、金属板50a、52a、54aの発熱も終了する。時間の経過とともに前記溶融部がそれぞれ冷却固化してナゲット64、66となり、これらナゲット64、66を介して金属板50a、52a同士、金属板52a、54a同士が互いに接合された接合品が得られるに至る。
この接合品においては、金属板50a、52a同士の接合強度と同様に、金属板52a、54a同士の接合強度も優れる。上記したように金属板52a、54aの接触面に十分なジュール熱が発生したことに伴って、金属板52a、54aの間のナゲット66が十分に成長しているからである。
以上のように、第1実施形態によれば、スパッタが生成することを回避しつつ、金属板52a、54aの間に、金属板50a、52aの間のナゲット64と略同程度の大きさのナゲット66を成長させることができ、これにより、金属板52a、54a同士の接合強度が優れた成形品を得ることができる。
第1実施形態では、加圧ロッド46a、46bによる加圧力F2、F3を大きくするほど金属板52a、54a間のナゲット66を大きくすることができるが、加圧力F2、F3がある程度大きくなると、ナゲット66の大きさが飽和する傾向がある。換言すれば、加圧力F2、F3を過度に大きくしても、ナゲット66を一定の大きさ以上に成長させることは困難である。また、加圧力F2、F3を過度に大きくすると、加圧力F1、F2、F3の総和で加圧力F4と均衡させる関係上、加圧力F1を過度に小さくする必要がある。このため、金属板50a、52a間のナゲット64が小さくなる。
従って、上チップ38による加圧力F1と、加圧ロッド46a、46bによる加圧力F2、F3との差は、ナゲット64、66を可及的に大きくし得るように設定することが好ましい。
なお、図1に示すスポット溶接装置10では、シリンダ機構42a、42bを連結ロッド34で支持するようにしているが、シリンダ機構42a、42bは、ガン本体24で支持するようにしてもよいし、固定アーム30で支持するようにしてもよい。
また、いずれの場合においても、シリンダ機構42a、42bに代替し、スプリングコイル、サーボモータ等の各種の圧力付加手段を採用することができる。
さらに、加圧部材は、上チップ38を囲繞するような円環形状のものであってもよい。
さらに、金属板50a、52a、54aの素材の組み合わせは、上記した鋼材に特に限定されるものではなく、スポット溶接が可能なものであればよい。例えば、金属板50a、52a、54aの全てが軟鋼である組み合わせであってもよいし、金属板50aのみがハイテン鋼で且つ金属板52a、54aが軟鋼である組み合わせであってもよい。
また、溶接対象は、最上に位置する金属板54aの厚みが金属板50a、52aに比して小さい積層体48aに限定されるものではなく、図6に示すように、厚みが最小である金属板52bを、金属板50b、54bで挟むようにして形成された積層体48bであってもよい。この場合の素材の組み合わせ例としては、金属板50bがハイテン鋼、金属板52b、54bが軟鋼である組み合わせが挙げられるが、特にこれに限定されるものではないことは勿論である。
勿論、中央に位置する金属板の厚みが最大である積層体であってもよいし、最下に位置する金属板の厚みが他の2枚の金属板に比して小さい積層体であってもよい。
そして、金属板の個数は、上記した3枚に特に限定されるものではない。例えば、図7に示すように、ハイテン鋼からなる金属板50cに対してハイテン鋼からなる金属板52cが積層された積層体48cであってもよい。
加圧部材は、補助電極であってもよい。以下、この場合を第2実施形態として説明する。なお、図1〜図7に示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図8は、第2実施形態に係るスポット溶接装置の要部拡大一部横断面斜視図である。このスポット溶接装置を構成する図示しない溶接ガンは、上記第1実施形態に係るスポット溶接装置を構成する溶接ガンと同様に、図示しないロボットの手首部12(図1参照)に設けられ、第2溶接チップとしての下チップ32と、第1溶接チップとしての上チップ38とを具備し、さらに、加圧ロッド46a、46bと同様にロッド状に形成された補助電極68a、68bを有する。なお、第2実施形態においても上チップ38から下チップ32に向かって電流が流れるものとする。
この場合、上チップ38を支持するガン本体24には、前記補助電極68a、68bを積層体48aに対して接近又は離間させるための変位機構、例えば、ボールねじ機構又はシリンダ機構等が設けられる。この変位機構により、補助電極68a、68bは、上チップ38とは別個に積層体48aに対して接近又は離間することが可能である。なお、第2実施形態においても、変位機構は好ましくは溶接ガン側に設けられる。
第2実施形態では、電源56の正極に対して上チップ38が電気的に接続されるとともに、下チップ32及び補助電極68a、68bが前記電源56の負極に対して電気的に接続される。このことから諒解される通り、上チップ38と補助電極68a、68bはともに、積層体48a中の最上に位置する金属板54aに当接するものの、その極性は互いに逆である。なお、以降の図面においては、上チップ38と補助電極68a、68bとが電気的に接続されて分岐電流i2が発生しているときには補助電極68a、68bの極性を図中に示し、逆に、分岐電流i2が発生していないときには補助電極68a、68bの極性を示さないものとする。
上チップ38と補助電極68a、68bとの離間距離Z3、Z4は、第1実施形態と同様に加圧力が分布するように、上チップ38による面圧、及び補助電極68a、68bによる面圧に比して面圧が小さくなる箇所が形成されるように設定される(図3参照)。このため、上チップ38と補助電極68a、68bはある程度離間されるが、上チップ38と補助電極68a、68bとの離間距離Z3、Z4が過度に大きい場合、上チップ38と補助電極68a、68bとの間の抵抗が大きくなり、後述する分岐電流i2(図10参照)が流れることが困難となる。
従って、離間距離Z3、Z4は、金属板54aと金属板52aとの間に上記のような適切な面圧の分布が得られ、且つ上チップ38と補助電極68a、68bとの間の抵抗が、分岐電流i2が適切な電流値で流れることが可能となる距離に設定される。
以上の構成において、図示しない変位機構及び電源56はガンコントローラ58に電気的に接続される。
第2実施形態に係るスポット溶接装置の要部は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、第2実施形態に係るスポット溶接方法との関係で説明する。
積層体48aに対してスポット溶接を行う際には、第1実施形態と同様に、前記ロボットが、上チップ38と下チップ32の間に積層体48aが配置されるように前記溶接ガンを移動させる。その後、上チップ38と下チップ32が相対的に接近し、その結果、互いの間に積層体48aが挟持される。
この挟持と同時、又はその前後に補助電極68a、68bを金属板54aに当接させ、図8に模式的な縦断面図として示す状態とする。勿論、補助電極68a、68bを金属板54aに当接させるための変位は、該補助電極68a、68bを変位させる前記変位機構の作用下に行われる。
この場合においても、ガンコントローラ58は、補助電極68a、68bの金属板54aに対する加圧力F2、F3を、該加圧力F2、F3と上チップ38による加圧力F1との合計(F1+F2+F3)が下チップ32による加圧力F4と均衡するように設定する。
第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、上チップ38による加圧力F1と、補助電極68a、68bによる加圧力F2、F3との差を、金属板50a、52aの間に形成されるナゲットと、金属板52a、54aとの間に形成されるナゲットとを可及的に大きくし得るように設定することが好ましい。
次に、通電を開始する。第2実施形態では、上チップ38、下チップ32の各々が電源56の正極、負極に接続されているため、図9に示すように、上チップ38から下チップ32に向かう電流i1が流れる。この電流i1に基づくジュール熱により、金属板50a、52aの間、及び金属板52a、54aの間がそれぞれ加熱され、加熱領域70、72が形成される。
ここで、金属板54aには補助電極68a、68bも当接しており、この補助電極68a、68bの極性は負である。従って、上チップ38からは、上記した電流i1と同時に、補助電極68a、68bに向かう分岐電流i2が出発する。
このように、第2実施形態においては、金属板50a、52aには流れず金属板54aにのみ流れる分岐電流i2が発生する。この結果、上チップ38及び下チップ32のみを使用する一般的なスポット溶接に比して金属板54aの内部を通過する電流値が大きくなる。
従って、この場合、金属板54aの内部に、前記加熱領域72とは別の加熱領域74が形成される。加熱領域74は、時間の経過とともに拡大し、図10に示すように、加熱領域72と一体化する。
金属板52a、54aの接触面には、このようにして一体化した加熱領域72、74の双方から熱が伝達される。しかも、この場合、第1実施形態と同様に、金属板52a、54aの接触面の接触抵抗が金属板50a、52aの接触面に比して大きくなる。このため、該接触面が十分に温度上昇して溶融し始め、その結果、金属板52a、54aの間にナゲット76が形成される。
ここで、分岐電流i2の割合を大きくするほど加熱領域74を大きくすることが可能であるが、分岐電流i2の割合を過度に大きくした場合、電流i1の電流値が小さくなるので、加熱領域70、72が小さくなる。このため、ナゲット76の大きさが飽和する一方、ナゲット78が小さくなる傾向がある。従って、分岐電流i2の割合は、ナゲット78が十分に成長する程度の電流i1が流れるように設定することが好ましい。
なお、電流i1と分岐電流i2の割合は、例えば、上記したように上チップ38と補助電極68a、68bとの離間距離Z3、Z4(図8参照)を変更することで調節することが可能である。電流i1と分岐電流i2の好適な割合は、例えば、70:30である。
溶融部、ひいてはナゲット76は、通電が継続される限り、時間の経過とともに成長する。従って、通電を所定の時間継続することにより、ナゲット76を十分に成長させることができる。
この場合、金属板50a、52aに流れる電流i1の電流値は、一般的なスポット溶接に比して小さい。このため、金属板52a、54aの間の溶融部(ナゲット76)が大きく成長している間に金属板50a、52aの発熱量が過度に大きくなることが回避される。従って、スパッタが発生する懸念が払拭される。
この間、電流i1によって金属板50a、52aの間にもナゲット78となる溶融部が形成される。分岐電流i2が継続して流れるようにすると、分岐電流i2を停止した場合に比して電流i1の全通電量が少なくなるので、加熱領域70、ひいてはナゲット78が若干小さくなる傾向がある。
従って、ナゲット78をさらに成長させる場合には、図11に示すように、補助電極68a、68bのみを金属板54aから離間させて上チップ38から下チップ32への通電を続行することが好ましい。補助電極68a、68bが金属板54aから離間することに伴って電流i1の電流値が大きくなるので、通電終了までの電流i1の全通電量が多くなるからである。
この場合、分岐電流i2が消失するため、金属板54aには、上チップ38から下チップ32へ向かう電流i1のみが流れるようになる。その結果、加熱領域74(図10参照)が消失する。
その一方で、金属板50a、52aにおいては、通常のスポット溶接時と同様の状態が形成される。すなわち、厚みが大きい金属板50a、52aではジュール熱による発熱量が増加し、その結果、加熱領域70が広がるとともにその温度が一層上昇する。金属板50a、52aの接触面は、この温度上昇した加熱領域70に加熱され、これにより、該接触面近傍の温度が十分に上昇して溶融し、溶融部(ナゲット78)の成長が促進される。
以降は、溶融部(ナゲット78)が十分に成長するまで、例えば、図12に示すように、ナゲット76となる溶融部と一体化するまで通電を継続すればよい。通電継続時間に対するナゲット78の成長の度合いも、テストピース等を用いたスポット溶接試験で予め確認しておけばよい。
ここで、金属板50a、52aの接触面は、金属板52a、54a同士の間にナゲット76を成長させる際に電流i1が通過することに伴って形成された加熱領域70によって予め加熱されている。このため、金属板50a、52a同士は、ナゲット78となる溶融部が成長する前になじみが向上している。従って、スパッタが発生し難い。
以上のように、第2実施形態によれば、金属板52a、54aの間のナゲット76を成長させる際、金属板50a、52aの間のナゲット78を成長させる際の双方でスパッタが発生することを回避することができる。
所定時間が経過してナゲット78となる溶融部が十分成長した後、通電を停止するとともに、図12に示すように、上チップ38を金属板54aから離間させる。又は、上チップ38を金属板54aから離間させることで上チップ38と下チップ32を電気的に絶縁するようにしてもよい。
なお、スポット溶接の開始から終了するに至るまでの上記した動作は全て、ガンコントローラ58の制御作用下に営まれる。
このようにして通電が停止されることに伴い、金属板50a、52aの発熱も終了する。時間の経過とともに溶融部が冷却固化し、これにより、ナゲット78を介して金属板50a、52aが互いに接合される。
以上のようにして、積層体48aを構成する金属板50a、52a同士、金属板52a、54a同士が接合され、製品としての接合品が得られるに至る。
この接合品においては、金属板50a、52a同士の接合強度と同様に、金属板52a、54a同士の接合強度も優れる。上記したように金属板54aに分岐電流i2が流されたことに伴って、金属板52a、54aの間のナゲット76が十分に成長しているからである。
しかも、上記から諒解される通り、第2実施形態に係るスポット溶接装置を構成するに際しては、補助電極68a、68bと、該補助電極68a、68bを変位させるための変位機構とを設ければよい。従って、補助電極68a、68bを設けることに伴ってスポット溶接装置の構成が複雑化することもない。
第2実施形態においても、溶接対象は積層体48aに特に限定されるものではなく、金属板の個数、素材、厚みが種々相違する様々な積層体を溶接することが可能である。以下、この点につき具体例を挙げて説明する。
図13に示す積層体48bは、上記したように、厚みが最小である金属板52bを、金属板50b、54bで挟むようにして形成される。例えば、金属板50bは、ハイテン鋼からなる高抵抗ワークであり、金属板52b、54bは、軟鋼からなる低抵抗ワークである。
上チップ38と下チップ32のみで積層体48bに対してスポット溶接を行う場合、金属板50b、52bの接触面が優先的に溶融する。金属板50bが高抵抗ワークであるために、金属板50b、52bの接触抵抗が金属板52b、54bの接触抵抗よりも大きいからである。従って、金属板52b、54bの接触面にナゲットを十分に成長させるべく上チップ38から下チップ32への通電を継続すると、金属板50b、52bの接触面からスパッタが発生する懸念がある。
これに対し、補助電極68a、68bを用いる第2実施形態によれば、図13に示すように、金属板50b、52bの接触面、及び金属板52b、54bの接触面の双方に加熱領域80、82が形成される。上記の積層体48aにおける場合と同様に、分岐電流i2が金属板54b内を流れることにより、金属板52b、54bの接触面が十分に加熱されるからである。
これにより、図14に示すナゲット83、84が形成される。分岐電流i2を消失させた後に電流i1を継続して流すことにより、例えば、図15に示すように、金属板50b、52bの接触面、及び金属板52b、54bの接触面の双方に跨るようにして十分に成長したナゲット85を形成することができる。
積層体48a、48bに対するスポット溶接に関する以上の説明から諒解されるように、補助電極68a、68bを用いることにより、加熱領域、ひいてはナゲットを、該補助電極68a、68bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
なお、金属板50bがハイテン鋼、金属板52b、54bが軟鋼である組み合わせに特に限定されるものではないことは勿論である。
次に、図16に、ハイテン鋼からなる金属板50cに対してハイテン鋼からなる金属板52cが積層された積層体48cに対し、補助電極68a、68bを用いてスポット溶接を行う場合を示す。補助電極68a、68bを用いない場合、図23及び図24に示すように、金属板50c、52c(高抵抗ワーク1、2)の接触面において、溶融部6が比較的短時間で大きく成長する。このため、スパッタが発生し易くなる。
これに対し、補助電極68a、68bを用いる第2実施形態によれば、図16に示すように、金属板50c、52cの接触面に加熱領域86が形成されるとともに、金属板50c、52cの接触面よりも上方、換言すれば、金属板52cにおける補助電極68a、68bに近接する側に加熱領域87が形成される。分岐電流i2が金属板52c内を流れることにより、該金属板52c内が十分に加熱されるからである。すなわち、この場合においても、加熱領域、ひいてはナゲット(図17参照)を、該補助電極68a、68bを当接させた側に近接するように移動させることができる。
そして、その結果、金属板50c、52cの接触面が軟化してシール性が向上する。従って、図17に示すように十分に成長したナゲット88を形成するべく電流i1を継続して流しても、スパッタが発生し難くなる。
次に、図18に示す積層体48dに対してスポット溶接を行う場合につき説明する。なお、積層体48dは、軟鋼からなり低抵抗な金属板50d、ハイテン鋼からなり高抵抗な金属板52d、54d、軟鋼からなり低抵抗な金属板90dを下方からこの順序で積層して構成される。また、金属板50d、90dの厚みは、金属板52d、54dに比して小さく設定されている。
この場合、上チップ38側に補助電極68a、68bを設けるとともに、下チップ32側に補助電極68c、68dを設ける。これら補助電極68c、68dは、電源56の正極に対して電気的に接続されており、従って、その極性は下チップ32と逆である。なお、補助電極68c、68dを変位させるための変位機構(ボールねじ機構又はシリンダ機構等)は、例えば、固定アーム30(図1参照)等に設ければよい。
そして、先ず、図18に示すように、上チップ38と下チップ32で積層体48dを挟持すると同時に、又はその前後に補助電極68a、68bのみを金属板90dに当接させる。その後、通電を開始し、上チップ38から下チップ32に向かう電流i1と、上チップ38から補助電極68a、68bに向かう分岐電流i2とを流す。これにより、上記と同様に、金属板52d、54dの接触面と、金属板54d、90dの接触面とにナゲット92、94がそれぞれ形成される。
次に、図19に示すように、補助電極68a、68bと電源56の負極との電気的接続を切断することで分岐電流i2を消失させると同時に、又はその前後に補助電極68c、68dを金属板50dに当接させる。これにより、最下の金属板50dの内部に、補助電極68c、68dから下チップ32に向かう分岐電流i3が流れる。
分岐電流i2の消失に伴って、ナゲット94の成長が停止する。その一方で、上チップ38から下チップ32に向かう電流i1が継続して流れているので、金属板52d、54dの接触面におけるナゲット92が成長するとともに、分岐電流i3によって金属板50d、52dの接触面にナゲット96が新たに形成される。
次に、図20に示すように、補助電極68c、68dを金属板50dから離間させて分岐電流i3を消失させ、これによりナゲット96の成長を停止させる。この後も電流i1を継続して流すことにより、金属板52d、54dの接触面におけるナゲット92のみを成長させて、例えば、ナゲット94、96と一体化することもできる。
なお、上記した第2実施形態においては、上チップ38に先んじて補助電極68a、68bを金属板54aから離間させるようにしているが、補助電極68a、68bと上チップ38を金属板54aから同時に離間させるようにしてもよい。
また、図21に示すように、金属板50aに当接した下チップ32から、金属板54aに当接した上チップ38に向かう電流を流すようにしてもよい。この場合にも、金属板54aに当接した補助電極68a、68bの極性を上チップ38と逆にする。すなわち、下チップ32及び補助電極68a、68bを電源56の正極に電気的に接続する一方、上チップ38を電源56の負極に電気的に接続する。これにより、下チップ32から上チップ38に向かう電流i1と、補助電極68a、68bから上チップ38に向かう分岐電流i2とが発生する。
さらに、図22に示すように、分岐電流i2を、上チップ38が接触した金属板54aのみならず、該金属板54aの直下に位置する金属板52aにも流れるようにしてもよい。
そして、補助電極68a、68bを金属板54aから離間することに代替し、補助電極68a、68bと電源56との間にスイッチを設け、このスイッチを切断(オフ)状態とすることによって、上チップ38から補助電極68a、68bに向かう分岐電流のみ、又はその逆方向に流れる分岐電流のみを停止するようにしてもよい。この場合において、加熱領域74を形成するためには、前記スイッチを接続(オン)状態とすることはいうまでもない。
この場合、補助電極68a、68bを上チップ38とは別個に変位させるための変位機構を設ける必要は特にない。このため、装置構成及び動作制御が一層簡素になるという利点が得られる。
いずれの場合においても、補助電極は、上記した2本の長尺棒状の補助電極68a、68bに特に限定されるものではない。例えば、1本又は3本以上の長尺棒状体であってもよい。3本以上を用いる場合は、上記の2本の場合と同様に、複数本の補助電極68a、68bを最外の金属板に対して同時に当接又は離間させるようにしてもよい。また、補助電極は、下チップ32又は上チップ38を囲繞する円環形状体のものであってもよい。
加えて、第2実施形態に係るスポット溶接装置の構成において、補助電極68a、68bと電源56とを電気的に絶縁すれば、第1実施形態に係るスポット溶接方法を実施することができる。すなわち、第2実施形態に係るスポット溶接装置の構成によれば、補助電極68a、68bに対して電流を流す・流さないを選択することにより、第2実施形態に係るスポット溶接方法、又は第1実施形態に係るスポット溶接方法のいずれを実施するかを選択することができる。
さらに、上記した第1実施形態及び第2実施形態では、C型の溶接ガンを例示して説明したが、溶接ガンはいわゆるX型のものであってもよい。この場合、下チップ32及び上チップ38を、開閉自在な1組のチャック爪の各々に設け、該1組のチャック爪を開動作又は閉動作することによって、下チップ32と上チップ38とを互いに離間又は接近させればよい。
また、5枚以上の金属板で積層体を構成するようにしてもよいことは勿論である。