JP5517813B2 - 画像加熱用回転体および画像加熱装置 - Google Patents

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Description

本発明は、記録材上の画像を加熱するための画像加熱用回転体および画像加熱装置に関する。
画像加熱装置としては、例えば、記録材上の未定着画像を加熱定着する定着装置や記録材に定着された画像を加熱して画像の光沢を増大させる光沢増大化装置(画像改質装置)などが挙げられる。画像加熱用回転体は加熱手段で外部加熱或いは内部加熱され、記録材の画像形成面に接触して画像を加熱するローラ状やエンドレスベルト状の回転体である。
例えば、電子写真方式・静電記録方式等の作像プロセスを採用した、複写機やLBP等画像形成装置に搭載される画像加熱装置としての加熱定着装置には各種の方式・構成の装置が知られている。
本出願人は、特許文献1において、コストダウンやサイズダウンを目的として簡素化した加熱定着装置構成として、加圧部材固定方式の装置を提案している。この装置は、画像加熱用回転体である定着ローラと圧接して記録材を挟持搬送するための定着ニップ部を形成する加圧部材に加圧パッドや加圧シートのような非回転の固定部材を用いたものである。特許文献2には、定着ローラに板ばね性を有するシート状加圧部材を当接させ、トナー画像が転写された記録紙を定着ローラとシート状加圧部材との間を通過させる際に加熱/加圧することにより記録紙にトナー画像を定着させる定着装置が記載されている。
このような加圧部材固定方式の加熱定着装置においては、非回転の固定部材である加圧部材がニップ部における記録材の搬送抵抗となる。そこで、加圧部材の表面には摩擦係数の小さい材料を選択し、定着ローラの表面には摩擦係数の大きい材料を選択する。これにより、記録材の裏側が加圧部材の表面をすべりながら搬送されるようにしている。具体的な例として、定着ローラの表面にはシリコーンゴムなどのタック性の強い材料を用いたり、あるいはフッ素樹脂中に摩擦力を上げる材料をフィラー(filler:充填剤)として含有させたりすることで、定着ローラ表面の摩擦係数μを高くしている。
特開2007−328020号公報 特開2003−91192号公報
本発明は上記のような従来技術を更に発展させたものである。その主要な目的は、加圧部材固定方式の画像加熱装置の画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して、回転トルクを抑えながらも、安定して記録材を搬送することが可能な画像加熱用回転体を提供することである。
他の目的は、画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して回転トルクを抑え出力のより小さい駆動用モータを使用することを可能にする画像加熱用回転体を提供することである。
更に他の目的は、加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して、回転トルクを抑えながらも、安定して記録材を搬送することが可能な画像加熱用回転体を用いた加圧部材固定方式の画像加熱装置を提供することである。
また、他の目的は、画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制することで回転トルクを抑えて出力のより小さい駆動用モータを使用可能にしコストダウンやサイズダウンが可能な加圧部材固定方式の画像加熱装置を提供することである。
上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱用回転体の代表的な構成は、加熱手段により加熱される画像加熱用回転体と、前記画像加熱用回転体の外面に圧接してニップ部を形成する固定された加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持搬送して記録材上の画像を加熱する画像加熱装置に使用される前記画像加熱用回転体であって、外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層を有しており、前記フィラーの少なくとも一部が前記表層の表面から露出することによってあるいは前記フィラーが隆起することによって前記表層の表面に分布して凸部が形成されており、前記表層の表面の動摩擦係数μに関して、前記表層の表面を画像加熱のための温度に昇温させた時の動摩擦係数μ(hot)が常温時の動摩擦係数μ(cold)と比較して、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係にあることを特徴とする。
また、上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱装置の代表的な構成は、加熱手段により加熱される画像加熱用回転体と、前記画像加熱用回転体の外面に圧接してニップ部を形成する固定された加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持搬送して記録材上の画像を加熱する画像加熱装置であって、前記画像加熱用回転体は外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層を有しており、前記フィラーの少なくとも一部が前記表層の表面から露出することによってあるいは前記フィラーが隆起することによって前記表層の表面に分布して凸部が形成されており、前記表層の表面の動摩擦係数μに関して、前記表層の表面を画像加熱のための温度に昇温させた時の動摩擦係数μ(hot)が常温時の動摩擦係数μ(cold)と比較して、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係にあることを特徴とする。
本発明によれば、加圧部材固定方式の画像加熱装置の画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して、回転トルクを抑えながらも、安定して記録材を搬送することが可能な画像加熱用回転体を提供することができる。画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して回転トルクを抑え出力のより小さい駆動用モータを使用することを可能にする画像加熱用回転体を提供することができる。加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制して、回転トルクを抑えながらも、安定して記録材を搬送することが可能な画像加熱用回転体を用いた加圧部材固定方式の画像加熱装置を提供することができる。画像加熱用回転体の加圧部材に対する表層の摩擦力を抑制することで回転トルクを抑えて出力のより小さい駆動用モータを使用可能にしコストダウンやサイズダウンが可能な加圧部材固定方式の画像加熱装置を提供することができる。
(a)は実施例1における画像形成装置の概略構成図、(b)は定着装置の概略構成図。 (a)は定着ローラ表層を説明する概略図、(b)と(c)はそれぞれ定着ローラ表層の凸部の形態を説明する概略図。 (a)は定着ローラ表面を昇温させた時の動摩擦係数の変化を説明するグラフ、(b)は動摩擦係数の測定方法を説明する概略図。 実施例の効果を説明する概略図。 実施例の効果を説明する概略図。 (a)は定着ローラ表面を説明する概略図、(b)は記録材搬送力の測定方法を説明する概略図。 (a)は実施例3の効果を説明する概略図、(b)は実施例4の効果を説明する概略図。 定着ベルト式の定着装置の概略構成図。
[実施例1]
(1)画像形成装置例
図1の(a)は本発明に係る画像加熱装置を定着装置(画像加熱定着装置)6として搭載した画像形成装置100の一例の概略構成図である。この装置100は転写式電子写真プロセスを利用した、レーザービームプリンタである。即ち、ホストコンピューター・ネットワーク・イメージリーダー等のホスト装置200から装置100側の制御部(コントローラ部)101に入力する電気的画像信号に基づいてシート状の記録材Pに画像形成を行う。制御部101はホスト装置200や装置100の操作部102との間で各種の電気的な情報の授受をする。また、制御部101は装置100の画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って統括的に制御する。
装置100内には、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、ドラムと記す)が配設されている。ドラム1は、アルミニウムやニッケルなどのドラム状(シリンダ状)の基体の周面に、OPC、アモルファスSe、アモルファスSi等の感光材料層が形成されている。ドラム1は矢印の時計方向に所定の速度(プロセススピード)で回転駆動され、表面が帯電装置としての帯電ローラ2によって所定の極性・電位に一様に帯電される。次に、そのドラム1の帯電処理面に対して、画像露光装置としてのレーザースキャナ3より、ホスト装置200から制御部101に入力した画像情報に応じてON/OFF制御されたレーザビームLによる走査露光が施される。これによりドラム1の面に走査露光パターンに対応した静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像装置4により現像剤(以下、トナーと記す)にてトナー画像として可視化される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法、FEED現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像とを組み合わせて用いられることが多い。
ドラム1に形成されたトナー画像はドラム1と転写装置としての転写ローラ5との当接部である転写ニップ部Tにおいて記録材Pに対して順次に転写される。記録材Pは給送カセット103に積載して収容されており、所定の制御タイミングで給送ローラ104が駆動されて、記録材Pが一枚ずつ分離給送され、搬送路105を通ってニップ部Tに導入される。ここで、ドラム1上のトナー画像の画像形成位置と記録材Pの先端の書き出し位置がニップ部Tにおいて合致するように搬送路105に設けたトップセンサ8にて記録材Pの先端を検知し、ドラム1に対する画像の書き出しタイミングを合わせている。ローラ5には、記録材Pがニップ部Tを挟持搬送される間、転写バイアス電源部(不図示)からトナーの帯電極性とは逆極性で所定電位の転写バイアスが印加される。これにより、ドラム1面のトナー画像が記録材Pの面に順次に転写される。
記録材Pはニップ部Tを通過するとドラム1の面から分離されて搬送路106を通って定着装置6に導入され、加熱加圧されて、未定着のトナー画像が固着像として記録材上に定着される。装置6を出た記録材Pは搬送路107を通って画像形成物として排出トレイ108上に排出される。また、ニップ部Tにて記録材Pが分離された後のドラム表面はクリーニング装置7により転写残りトナー等の付着残留物が除去されて、繰り返して画像形成に供される。9は定着装置6内に設けられた排紙センサであり、記録材Pがトップセンサ8と装置6との間で紙詰まりなどを起こした際に、それを検知する為のセンサである。
(2)定着装置6
図1の(b)は本実施例における定着装置6の概略構成図である。この装置6は加圧部材固定方式、外部加熱方式の画像加熱装置である。装置6は、記録材上の画像を加熱するための画像加熱用回転体としての、弾性層を有する定着ローラ10を有する。また、ローラ10の外面に接触して加熱ニップ部Hを形成してローラ10を外側から加熱する外部加熱手段としてのとしてのプレート状のヒータ15を有する。また、ローラ10の外面に圧接して記録材Pを挟持搬送するためのニップ部(定着ニップ部)Nを形成する固定された非回転の加圧部材20(固定式加圧部材)を有する。本実施例においては、ヒータ15と加圧部材20はローラ10を挟んで上下に180°対向位置に配設されている。
1)定着ローラ10
ローラ10は芯金11を有するローラ体であり、外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層14を有しており、芯金11と表層14の間には、少なくとも1層以上の弾性層12・13を形成してある。本実施例のローラ10は、アルミあるいは鉄製の芯金11の外側に、低熱伝導性シリコーンゴム(弾性層)で形成された低熱伝導層12を設けてある。さらにその外側に薄膜の高熱伝導性シリコーンゴム(弾性層)からなる高熱伝導層13、さらに最外層(表層)に離型性層14を順次設けた構成から成る。
低熱伝導層12である低熱伝導性の弾性層は本実施例においてはシリコーンゴム組成物である。より具体的には、熱硬化性オルガノポリシロキサン組成物100重量部に平均粒子径が500μm以下の中空フィラーを0.1〜200重量部配合してなるシリコーンゴム組成物を加熱硬化して形成される。ここで、中空フィラーとしては、硬化物内に気体部分を持つことでスポンジゴムのように熱伝導率を低下させるもので、マイクロバルーン材等がある。このような材料としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、カーボンバルーン、フェノールバルーン、アクリロニトリルバルーン、塩化ビニリデンバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、シラスバルーンなど、いかなるものでもかまわない。低熱伝導層12は、弾性ローラ全体の熱容量を下げると共に、ローラ10の外側から接触するヒータ15からの熱を断熱し、ローラ表面の温度を高く維持する役割を持つ。スタンバイ状態(装置の待機状態)からローラ表面を定着可能な温度まで昇温させるのに、低熱伝導層12があると昇温速度が早まり、ヒータ15の立ち上がりまでのウエイト時間を減らすことが可能となる。
高熱伝導層13はソリッド(発泡されていない中実質の弾性層)のシリコーンゴムからなり、熱伝導率を上げるために金属粉、金属酸化物やセラミック等の高熱伝導性の粒子(アルミナ、窒化アルミ、SiC、酸化亜鉛等)が添加されている。本実施例ではアルミナ粒子を用いている。高熱伝導層13の熱伝導率は高ければ高いほど良い。本実施例で用いている高熱伝導層13はその熱伝導率が1.5W/mkのものを使用している。また、高熱伝導層13の厚みが厚いほど蓄熱効果が得られる。しかし、厚すぎると熱容量が大きくなるためローラ温度が上がらなくなり、返って定着効率を損ねることとなる。また、高熱伝導層13の厚みは、記録材Pの搬送速度によっても変化させることが望ましい。これは記録材Pの搬送速度によって、熱のやり取りが行われる層の厚みが異なってくるからである。本発明者らが計算した結果によれば、搬送速度が遅い場合には、高熱伝導層13の表面からより深い部分までに存在する熱が定着に寄与する。しかし、搬送速度が速くなるに従い高熱伝導層13の浅い部分に蓄熱された熱のみが定着に寄与するようになることが分かっている。つまり、記録材Pの搬送速度が速い場合には高熱伝導層13の厚みは比較的薄くて良く、必要以上に厚い層を設けた場合は、熱容量が増大により返って定着効率を損ねることになる。本実施例における記録材搬送速度は約130mm/secであり、この速度での最適な厚みは約150μmである。また、ローラ10の外径はφ12とした。
ここで、ローラ10の弾性層は上述のように、必ずしも低熱伝導層と高熱伝導層のような2層を設ける必要は無く、ヒータ15の立ち上がり時間や、記録材Pの加熱効率を問題としない場合はソリッドゴム層単層を設けるような構成であっても良い。また、必要に応じて2層以上の複数層を設けても問題は無い。
表層(離型性層)14は、フィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る。フィラーの少なくとも一部が表層の表面から露出することによってあるいはフィラーが隆起することによって表層の表面に分布して凸部が形成されている。そして、表層14の表面の動摩擦係数μに関して、表層14の表面を画像加熱のための温度に昇温させた時の動摩擦係数μ(hot)が常温時の動摩擦係数μ(cold)と比較して、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係にあることを特徴とする。この表層14については(4)項において詳述する。
2)ヒータ15
ヒータ15は、低熱容量のプレート状に形成してある。このヒータ15は、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性セラミック基板やポリイミド、PPS、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂基板などから成る細長い基板15aを有する。基板15aの表面には、長手方向に沿って、Ag/Pd(銀パラジウム)、RuO、TaN等の通電発熱抵抗層15bが、厚み約10μm、幅約1〜5mm程度でスクリーン印刷等により形成されている。また、基板15aの表面には、熱効率を損なわない範囲で抵抗層15bを保護する保護層15cを設けてあっても良い。保護層15cの厚みは十分薄く、表面性を良好にする程度が望ましい。保護層15cの材料としては、一般的にはガラスコート等の保護層が考えられるが、その他の材料としてはフッ素樹脂層が考えられる。フッ素樹脂層として、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)を用いることができる。また、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(CTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等を用いることができる。また、ポリイミドあるいはポリアミドイミド等のイミド系樹脂層を単層あるいは混合して被覆するか、グラファイト、ダイアモンド・ライク・カーボン(DLC)、二硫化モリブデン等から成る乾性皮膜潤滑剤などを用いることも可能である。また、基板15aとして熱伝導性の良好な窒化アルミ等を使用する場合には、通電発熱抵抗層15bは基板15aに対して定着ローラ10と反対側に形成してあってもよい。
ヒータ15を保持する断熱ステイホルダー16は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成さる。また、ホルダー16は、熱伝導率が低いほどローラ10への熱伝導が良くなるので、樹脂層中にガラスバルーンやシリカバルーン等のフィラーを内包してあっても良い。ホルダー16は長手両端部において加圧バネ等の加圧手段(不図示)によりローラ10に対して加圧され、ヒータ15の表面をローラ表面に当接させている。これにより、ヒータ15とローラ10表面の間に、ローラ15を加熱するための所定幅(ローラ10の回転方向に関して所定幅)の加熱ニップ部Hを形成している。また、ヒータ15とローラ10との間には、ヒータ表面の保護や汚れ付着を防止するために耐熱性シート等(不図示)が挟まれていてもよい。
3)加圧部材20
本実施例において加圧部材20はパッド状部材(加圧パッド)である。パッド20は、長手方向に細長い基材21と、その基材21の表面に形成された摺動層22と、から形成される。パッド20は、ローラ10の径方向においてヒータ15と対向するように配置される。そして、基材21の長手両端部が装置フレーム(不図示)に保持されるとともに加圧手段としての加圧バネ23によってローラ10側に加圧される。バネ23の加圧力により基材21上の摺動層22がローラ10の表面と接し、弾性層12が変形して所定幅(ローラ10の回転方向において所定幅)のニップ部Nが形成される。バネ23は、コイルバネ形状を有するとともに、パッド20の長手方向の両端付近と中央付近の計3箇所に配置している。これにより、パッド20の撓みを抑えた状態でローラ10に加圧することができるため、ニップ部Nは所定幅に略均一に形成させることができる。なお、本実施例での加圧力は、総圧5kgf(A4幅の加熱定着装置を想定。長手寸法を22cmとすると単位長さ当たりの圧力としては、0.23kgf/cm)で加重している。これは従来の熱ローラ方式やフィルム加熱方式の加熱定着装置で設定される加圧力よりも低い値である。本発明では加圧部材が固定式であるため、少しでも加圧力を低くし、ローラ10の回転時のトルクを小さくするほうが望ましい。従って総圧として2kgf〜10kgf(単位長さあたりとしては0.09kgf/cm〜0.45kgf/cm)が適当な範囲である。
摺動層22の材料は、記録材Pの搬送を妨げないような摺動性と、記録材Pからローラ10の表面へ転移したトナー等が付着しないような離型性と、記録材Pとの摺擦で削れないような耐磨耗性と、を有していることが好ましい。そのため、摺動層22の材料としては、例えばPTFE、FEP、PFAといったフッ素樹脂、PAI(ポリアミドイミド)やPI(ポリイミド)樹脂等が用いられる。一方、基材21の材料は、上記摺動層22の形成や配置に適した材料であれば特に制限は無い。もちろん、摺動層22の材料は、上記材料例に限定される訳ではなく、また基材21と摺動層22を一体的に設けても構わない。
(3)定着装置6の定着動作
ローラ10は芯金11の両端部が装置フレーム(不図示)に対して軸受部材を介して回転可能に支持されている。そして、ローラ10は、芯金11の端部に設けられた駆動ギア(不図示)が回転駆動系(不図示)により駆動されることにより矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。ローラ10はニップ部Hとニップ部Nとにおいてそれぞれヒータ15と加圧部材20に対して摺動しながら回転する。また、制御部101の温度制御部109が通電駆動手段としてのトライアック素子110をONし、AC電源111よりヒータ15の基板15aの長手端部に設けられた電極部(不図示)を通じて抵抗層15bへの通電を開始する。抵抗層15bは通電されることで発熱し、ヒータ15が昇温する。ヒータ15の温度は基板15aの他方の面(基板裏面)に設けられたサーミスタ等の温度検知手段17により検知される。その検知温度情報が温度制御部109に入力する。温度制御部109は入力する検知温度情報に基づき抵抗層15bに印加される電圧のデューティー比や波数等を適切に制御することで、ヒータ15を所定の温度(目標温度)に維持する。ローラ10はニップ部Hにおいてヒータ15の熱により外側から加熱(外部加熱)され、ローラ表面がトナーを定着させることが可能な温度に加熱される。
この状態において、ニップ部Nに未定着のトナー画像tが形成されている記録材Pが画像面をローラ10側にして導入され、記録材Pの裏側が加圧部材20の摺動層22に接して摺動層表面をすべりながらニップ部Nを挟持搬送されていく。この挟持搬送過程において記録材上の未定着トナー画像tがローラ10による加熱とニップ部Nの加圧により記録材面に固着像として定着される。ニップ部Nを出た記録材Pはローラ10から分離されて排出搬送される。装置6の温度制御の他の構成として、ローラ10の表面の温度を温度検知手段で検知し、その検知信号に基づきヒータ15の抵抗層15bへの通電を制御することよって、ローラ10の表面を所定の温度に維持するようにしてもよい。
(4)ローラ10の表層(離型層)14の構成
本発明の特徴である、ローラ10の表層14の構成について以下に詳細を述べる。まず、表層14に用いる材料のベースとしては、トナーに対するオフセットや汚れ防止の観点からフッ素樹脂成分を含んでいる必要がある。例えばPFAやFEP等のフッ素樹脂材の他、フッ素ゴムとPFAやFEPなどのフッ素樹脂を含むラテックスゴムが好適な材料として挙げられる。これらは単一の種類として用いることが出来る他、複数の材料を混合したものをベース材料として用いても良い。更にはこれらのベース材にカーボンブラック等の導電材を混入し、表層を導電被膜とすることも可能である。
上記のベース材塗料に、シリカやアルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等の酸化物フィラー、或いは炭化ケイ素、チッ化ホウ素、チッ化アルミ、チッ化ケイ素等の無機フィラーを混合し分散させたものを塗布液とする。本実施例では、ベース材塗料への分散性等を考慮して、主としてアルミナや炭化ケイ素をフィラーとして用いた。フィラーが分散された塗布液をローラ表面にスプレーコートやディップなどの方法により均一に塗布する。塗布後、乾燥工程を経て電気オーブンにより約300℃前後の温度にて15分程度焼成し成膜する。
なお、フィラーをベース材塗料に分散するにあたり、所定の表面活性剤や分散剤を添加してもよい。塗布工程においては混合塗料中にフィラーが均一に分散した状態を保ちながら塗布することが望ましく、フィラーの量や大きさによっては混合塗料をスターラー等で攪拌し続け、塗料中に沈降することの無いように制御する工夫が求められる。
図2の(a)に表層14の断面模式図を示す。表層14のベース材となるフッ素樹脂中にフィラー18を分散させ、その一部がフッ素樹脂面より突出していることが必要である。フィラー18の突出については、図2の(b)のように、フィラー18自身の表面がそのままフッ素樹脂面14より露出しているものに限られない。図2の(c)のように、突出したフィラー18の一部あるいは全部がベース材のフッ素樹脂14に被覆され、凹凸を与える隆起状のものであっても良い。即ち、ローラ10は、外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層を有している。そして、フィラー18の少なくとも一部が表層14の表面から露出することによってあるいはフィラー18が隆起することによって表層14の表面に分布して凸部が形成されている。つまり、フィラー18の露出部および隆起部よりなる凸部は表層14の表面に分布していることが必要である。
このようなフィラー18により形成された凹凸により、ローラ10の回転トルクの低減と安定した記録材搬送性を両立するための最適な表面状態についてさらに詳細を説明する。固定式の加圧部材であるパッド20を用いた場合、ローラ10が回転していて、記録材Pがニップ部Nを通過していない状態時においては、ローラ10の表面とパッド20の表面が直接接触して摺擦するので、その摺擦面の摩擦力が回転トルクに大きく影響を及ぼす。ローラ10が回転していて、記録材Pがニップ部Nを通過していない状態時としては、記録材Pがニップ部Nに導入されるまでの装置100の前回転時(前回転動作中)や、連続通紙中の紙間時があげられる。また、一連のプリント動作後に行われる装置100の後回転時(後回転動作中)が挙げられる。大きな摩擦力のもとでローラ10を回転させる為には、回転トルクが高くなるので、その動力を発生させるための出力の大きなモータが必要となる。コストダウンやサイズダウンの為に加圧部材を固定化しているにもかかわらず、モータの出力が大きくなれば、その分のコストが上がってしまい、モータのサイズも大きくなるので本来の目的を達成することができない。摩擦力を小さく抑えることが出来れば、自ずとトルクも低減される。この摩擦力を決定するのは、ローラ10の表面の加圧部材20に対する動摩擦係数μである。
ローラ10の表層14のベース材料にフッ素樹脂を用いた場合、ローラ10の表面の動摩擦係数μは温度によって、次のような挙動をする。図3の(a)に示すように、表層14のベース材料にフィラー18を添加していないa)の場合、ローラ10の表面の温度の上昇に伴って、動摩擦係数μが上昇する。これは、フッ素樹脂の温度に対する粘弾性の変化に起因するものである。表面温度の上昇により粘弾性が小さくなると、材料は外部から力を受けたときに、より大きく変形しようとする。実際には変形を引き戻そうとする弾性力が瞬間的に働くので、接触部分に抵抗力が生じ摩擦力となる。すなわち、表層14にフィラー18を添加しないローラ10はパッド20と直接接触して摺擦して回転している状態では、温度上昇とともにトルクが大きくなる。また、この状態で記録材(紙)Pをニップ部Nに導入しても、ローラ10が記録材Pを送ろうとする力は、記録材Pがパッド20から受ける抵抗力に大きく打ち勝つことが出来ず、記録材搬送を行うことが出来ない。
ここで、ローラ10の表面温度を変化させた場合の動摩擦係数μの測定は図3の(b)に示す方法で行った。即ち、測定を行うローラ10とステンレスやアルミ等より成型されたスライド可能な加圧板61の間に摺動シート60を挟む。加圧板61は所定の加圧力(例えば500gf)にてローラ10に対して加圧される。摺動シート60はSUSシート、あるいは、図1の(b)の装置6におけるパッド20の表面材質に合わせて、フッ素樹脂等がコート材やテープ材を用いて被覆してあっても良い。本実施例においてはSUSシート60の表面にスコッチ社製のフッ素樹脂(PTFE)テープ5490を被覆したものを使用した。シート60の端部にフォースゲージ30を取り付け、ローラ10を回転させた際に、シート60が矢印の方向(左)へ搬送されようとするのを引きとめる力Fをゲージ30にて測定する。測定した値Fを加圧力で割ったものを動摩擦係数μとして算出する。そして、ハロゲンヒータ70などの熱源によりローラ10の表面を非接触に加熱し、ローラ10の表面が昇温した時の動摩擦係数μを温度に応じて測定すればよい。
次に、表層14にフィラー18を添加した場合について考える。ここで、以下の説明において、フィラー18の添加量は、成膜後の表層14に含まれる固形分全体(全体の固形分)を100重量%とした時に、フィラー18の占める割合を重量%として表すものとする。また、フィラー18の粒径は平均粒径である。フィラー粒径については「レーザー回折法」により測定を行っている。レーザー回折法の代表的な測定機器は、マイクロトラックHRA(日機装株式会社製)などが挙げられる。測定により得られる粒度分布を、累積分布として表した際の、累積値が50%を示す粒子径をメジアン径(D50)と呼び、これを「平均粒径」としている。粒度分布の測定は、上記の回折法の他に、コールカウンター法などを用いても良い。球形状や非球形状の定義レーザー回折法やコールカウンター法で得られる粒度分布は、フィラーの球形状や非球形状などの形状因子を反映しておらず、粒子と同じ体積を持つ球体の直径として表される。厳密には、針状や鱗片状のフィラーはアスペクト比等で形状を表現するが、以下においては、フィラー粒径はメーカデータとしての平均粒径で説明を行っている。
フィラー18は、丸み状の粒径4.0μmのアルミナを用いた。図3の(a)中のb)に示すように、フィラー18の添加量を5重量%とした場合、ローラ10の表面の温度上昇に伴って、動摩擦係数μが上昇する傾向は、a)のフィラーが無い場合と同じである。これは、フィラー添加により、ローラ表面に凹凸が形成されたものの、図4の(a)に示すように、フィラーの添加量が少ないうちは、ローラ10の表面とパッド20の表面の密着性が良い。そのために、粘弾性の低下によって抵抗力の増したローラ10の表面と密着したパッド20と間の摩擦力が大きくなるからである。このような表面状態において記録材Pの通紙を行った場合、添加したフィラー18の効果により、フィラーの存在しない場合よりも搬送力は強くなるが、安定して記録材Pを搬送し続けるにはまだ十分でない。
これに対し、図3の(a)中のd)に示した、フィラー添加量が20重量%のローラ10では、常温状態での動摩擦係数μは若干高くなるものの、ローラ10の表面温度が上昇しても摩擦係数は大きくならず、ほぼ一定の値を推移する。これは図4の(b)に示すように、温度上昇によりフッ素樹脂面の粘弾性が低下しても、フィラー18の凸部が多く点在することでローラ10の表面がパッド20と接触する面積を減らすことができ、摩擦力の上昇を抑制している為である。すなわち回転トルクの抑制に効果をもたらす。このような表面状態で記録材Pをニップ部Nに導入する。そうすると、図4の(c)に示すように、ローラ10の表面に多く点在するフィラー18の凸部が、記録材Pの凹凸にしっかりとアンカーし、それぞれの凸部がローラ10の回転方向に記録材Pを押し出そうとする力が結集する。記録材Pがローラ10の表面から受ける力は、パッド20から受ける抵抗力よりも十分に大きくなり安定した記録材搬送を行うことが出来る。
上述のように、ローラ10の表面の摩擦力の低減と記録材Pの搬送性向上を両立するためには、十分な量のフィラー18を添加して、多くの凸部をローラ表面に形成することが必要である。図5の(a)に、ローラ10の表面の温度が180℃において、フィラー18の添加量を増加させた時のローラ10の表面の動摩擦係数μ(T=180℃)の変化を示す。180℃という温度は、装置6が画像定着動作中のローラ10の表面(表層14の表面)の温度(画像加熱のための温度)である。図5の(a)より、フィラー18の添加量が約10重量%以上から動摩擦係数μの上昇が抑制されている。すなわち、ローラ10のトルクアップ抑制に効果があることがわかる。また、後述の表1より明らかなように、トルクの抑制と同時に記録材Pの搬送力も安定し始める。
ここで重要なのは、ローラ10の表面とパッド20との接触面積を減らしつつ、記録材Pに十分なアンカー効果をもたらす為の表面状態である。表層14に添加するフィラー18の量が少なければフィラー18の露出や隆起による凸部が少なくなり、より多くのフィラー18を添加することにより凸部が増えることになる。図6の(a)にローラ10の表層14の表面を拡大観察した模式図を示す。このような観察画像は例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡等の観察機器により500〜1000倍程度の表面拡大写真を撮影することによって得られる。例えばこのような観察画像から、フィラー18による凸部を選択してその投影面積の合計を計算し、観察画像全体の投影面積で割ることにより、凸部の占有割合を求めることができる。
図5の(b)において、横軸をフィラー18の添加量ではなく、フィラー18による凸部の占有割合に置き換えたものを示す。グラフより、およそフィラー18による凸部の占有割合が5%以上(フィラー添加量10重量%に対応する)であれば、動摩擦係数μの上昇が抑制できているものと考えられる。
以下、比較実験の項で詳細は述べるが、フィラー18の種類や形状、粒径が異なれば、トルクの低減と記録材搬送力アップの両立に効果をもたらすフィラー18の添加量は異なる。しかしながら、フィラー18の粒径や種類、形状が異なっても、添加量の調整によって、フィラー18の凸部合計が、表面全体の投影面積の約5%を超えていれば、ローラ10のトルク抑制と記録材搬送力の付与が両立できることが確認できた。
従って、フィラー18の添加によって、凸部の占有面積が5%以上になるような表面性をコントロールすることが重要である。ところが、ローラ10の表面の観察方法やフィラー凸部の認識基準、あるいは観察者が異なると、特定される凸部の大きさや数が異なってしまい、一意的に5%以上の凸部が効果的であると断定できない。従って、凸部の占有割合はあくまで表面状態を記述する目安である。実際には、用いるフィラー18の種類や形状、粒径が決まった時点で、加熱時のトルクや動摩擦係数μ、また記録材Pの搬送力を測定する。そして、ローラ10の表面の温度上昇によるトルクアップや動摩擦係数μの上昇が認められないような添加量とそれに対応する表面状態を把握することが重要である。
言い換えると、ローラ10の表面の温度上昇によりトルクや動摩擦係数μの上昇が認められる状態とは、ローラ10の表面特性に支配的に影響を与えているのはベース材料であるフッ素樹脂の特性であり、フィラー18の特性がまだ発揮できていない状態である。十分な記録材搬送力も得ることが出来ない。フィラー18の添加量を増やすことで、フィラー及びフィラーにより形成された凸部の特性が支配的となって、昇温時のトルクの抑制と安定した記録材搬送力に効果をもたらす。したがって、ローラ10の表面が常温状態と昇温した状態において動摩擦係数μの変化を捉えることで、ローラ10の表面特性がベース材料の特性に支配的であるか、フィラー特性に支配的であるかを判断することが出来る。
前述した図3の(a)に代表されるような方法において、動摩擦係数μをローラ10の温度に応じて測定し、常温時(例えば25℃)における動摩擦係数をμ(cold)とする。また、ローラ10の表面が180℃(画像加熱のための温度)に昇温した時の動摩擦係数をμ(hot)とする。トルクの抑制には、図3の(a)のグラフに示すように、十分なフィラー18を添加し(フィラー添加量20wt%)、μ(hot)=μ(cold)あるいは、μ(hot)<μ(cold)となることが望ましい。
また、ローラ10の表面の特性を支配する要因が、ベース材料からフィラー18による凸部の特性に切り替わるところでは、μ(cold)とμ(hot)の関係が上記のように同等となる場合がある。また、わずかにμ(hot)の方が大きくなる等、不安定な値を示す場合がある。図3の(a)中のc)に示した、フィラー添加量10重量%がそれに相当する。これは、加熱によるローラ10の外径の膨張などによって表面積が増えた分だけ、表面特性がわずかにベース材料の影響を受けやすくなるためと考えられる。また、ローラ10の周方向におけるフィラー18の分散ばらつきや、ローラ10そのものの振れや軸中心のズレに起因して、動摩擦係数μがある程度の上下幅を持って変動することによる。しかしながら、実際のローラ10の使用時を考慮すると、フィラー18による凸部の効果により安定した記録材Pの搬送が可能であり、トルクの上昇も抑制することが出来た。これについては後述する表1により詳述する。
これらを考慮すると、本発明の効果を発現できる形態としてはμ(hot)<1.2×μ(cold)であれば、ローラ10の表面の特性がフィラー18およびフィラー18により形成される凸部により支配的となる。これにより、使用時のトルクの抑制と安定した記録材の搬送力を得ることができる。また、ローラ10の昇温時の動摩擦係数μ(hot)は上記のように180℃に限定されるものではなく、加熱定着が行われる際の温度であれば良い。連続通紙時のローラ10の端部の異常昇温等も考慮すると、およそ150℃以上で測定すれば問題無い。
また、添加するフィラー18の量が多くなりすぎると、表層14の成膜性が低下してしまい、焼成後表面にヒビが入ったり、ローラ10の回転時に摺動のストレスにより表面の被膜が割れたりする。その為、ベースとなるフッ素樹脂材料の種類や用いるフィラー種や形状による相性を踏まえ、添加量は調整すべきである。
また、添加するフィラー18の量と大きさ(外径:平均粒径)の関係については、上述したフィラー18の突出を考慮すると、表層14の膜厚、すなわち塗布量によって調整が必要である。つまり、膜厚が厚い場合は大きめのフィラー18を用いることにより少ない量でも突出しやすくなるが、小さめのフィラー18を用いると添加量を増やさないとベース面から突出しにくくなる。逆に、膜厚が薄い場合は、比較的小さめのフィラー18でもベース面から突出できるが、フィラー18が大きすぎると、突出量が大きくなりすぎてしまい、使用時にフィラー18がベース材から剥がれやすくなり、所望の機能を果たすことが困難となる。塗布膜厚に影響を与えるのは、ベース材量となるフッ素樹脂の種類、塗布液の粘度や塗布条件(例えばスプレー塗装なら、噴出量や塗布回数など)であり、適宜調整が必要である。さらに、フィラー18の形状についても、パッド20との接触状態や、記録材Pの搬送性に影響を与える因子であるため、目的に応じて最適な形状を選択する必要がある。
(5)比較実験
以上に説明した観点に基づき、ベース材料の種類や添加するフィラー18の量や大きさ、形状についての効果を従来例と比較したので以下に説明する。
I:フィラー18の添加量による考察
以下にフィラー18の添加量による効果の違いを比較した。ここでは表層14のベース樹脂としてパーフルオロアルコキシ樹脂(以下PFA)を用いた。PFAをベース材に用いた場合、フィラー18を添加した塗料の粘性が低いので、ムラのない表面性を得るためには約10μm程度の膜厚が表層として最適である。また使用したフィラー18は粉砕タイプの丸み状アルミナ(平均粒径が4μm)である。成膜後の表層14全体を100重量%とした場合に、フィラー18の重量%が0〜50重量%となるような塗布液を作製し、スプレーコートにて塗布、乾燥し所定の焼成工程を経て成膜する。フィラー18の添加量は、成膜後の表層14に含まれる固形分全体を100重量%とした時に、フィラー18の占める割合を重量%として表すものとする。また、ローラ10の外径はφ12とし、加圧部材20には、アルミ板金21上にフッ素樹脂として、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)22をコートしたパッドを用いた。作製したローラ10は定着装置6に具備し、回転時のローラ軸上の回転トルクと、記録材搬送中の搬送力を測定した。結果を下記表1に示す。
表1におけるトルク(kgf・cm)は、本実施例で使用する定着装置6のモータ出力とのバランスを考慮すると1.0kgf・cm前後が望ましく、2.0kgf・cm付近になると回転不能となってしまう。少なくとも1.4kgf・cm以下であれば、モータの駆動力で回転可能であるとする。また、搬送力(kgf)とは、A4サイズの普通紙がニップ部Nに挟まれながら搬送している際に、その紙の搬送を止める為に必要とするバックテンションの大きさであり、図6の(b)のように、フォースゲージ30などを用いながら測定したものである。本実施例では少なくとも0.3kgf以上の値がないと、安定した紙の搬送が不可能となる。
なお、記録材搬送力の判断基準は一義的に決められるものではなく、加熱定着部の前工程にあたる転写部からの記録材Pの押し込み力や、排紙部で受ける搬送力、またその他の補助的な搬送部材の影響により必要な値は異なるものである。画像形成装置に応じて決定されるものである。
表1の比較実験によれば、最適なトルクや搬送力を得るためには、実施例I−1〜I−5で代表されるようなフィラー18の添加量が必要である。成膜性も考慮すると、表層14の全体の重量に対して、およそ10重量%以上60重量%以下、就中、10重量%以上40重量%以下の添加量が最適であると言える。
また、表1にはフィラー18の凸部の合計が表面の投影面積に対して占有する割合を「凸部割合」として示したが、トルクが高い値を示す比較例2では占有割合が3.0%であり、トルクが抑制し始める実施例I−1では占有割合が5.0%である。このことから、トルク抑制の為には、フィラー18の添加によっておよそ凸部の占有割合を5.0%以上に設定することが必要であると言える。
また、ローラ表面温度が180℃における動摩擦係数μを比較すると、動摩擦係数μの減少に伴って、トルクが減少していることがわかる(表1の動摩擦係数μのデータは図5のグラフに対応している。)。実施例I−1における、ローラ10の昇温時の動摩擦係数μ(180℃)と常温時の動摩擦係数μ(25℃)の比はμ(180℃)/μ(25℃)=1.197である。動摩擦係数μの比較においては180℃昇温時の方が若干高い値を持つが、記録材Pの搬送を行う使用時においては、トルクの抑制と安定した記録材搬送力を両立できる。つまり、実施例I−1で形成されているローラ10の表面の状態とは、ローラ10の表面の特性がベース材料であるフッ素樹脂の特性から、フィラー18による凸部の特性に変化し始めた所であると言える。すなわち、ローラ10の表面特性として、フィラー18による凸部の特性が支配的な表面状態では、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係が成り立つことがわかる。
II:フィラー18の粒径に関する考察
上記Iの比較では添加するフィラー18の平均粒径を同じにして、添加量の違いがもたらす影響について考察した。ここでは、異なる粒径のフィラー18を用いた場合の影響について考察する。ベースに用いるフッ素樹脂材料とコート膜厚については(5−1)と同様である。フィラー18の材質と形状はIと同様であり丸み状のアルミナである。コート厚み10μmに対して平均粒径がそれぞれ8μm、15μm、20μm、25μmのフィラー18を、添加量を変えて表層14をコートし比較実験を行った。結果を下表2に示す。
例えば、フィラー18に粒径を8μmとした場合(表2の実施例II−1〜II−3)は、フィラー18の添加量が同量であっても、粒径が4μmの場合(表1)と比較してトルクが低い傾向が見られる。これは粒径が大きくなることで、少ない添加量でもコート膜表面からフィラーが突出し始めることを意味している。表2に示すフィラー18の「凸部割合」の数値を比較しても粒径8μmフィラーの方が占有割合が大きくなっていることからも理解できる。同じ理由で記録材搬送力も若干大きくなる傾向がある。一方で、添加量を増やした時の成膜性が劣る傾向があり、40%程度の添加量からコート膜の割れが発生し始める。従って、粒径を4μmから8μmとした場合、最適な添加量が10〜30重量%となる。
次に、膜厚10μmよりも大きいフィラー18として粒径15μmを選択した場合(実施例II−4、II−5)、フィラー添加量が10%であってもトルクの減少が見られない。これは、フィラー径が大きくなった為に表面積に対する分散割合が減ったことを意味する。すなわち、フィラー自体の存在する箇所(サイト)が少なくなり、表面の投影面積に対してフィラー18の凸部が占有する割合が3.5%と少なくなったことによる。サイト間に平滑なPFA面が多くなることで、パッド20との摺擦面積が増えトルクを抑えられないことを表している。添加量を増やすことで、トルクの抑制と搬送力の増加が期待できるが、添加しすぎると成膜性が損なわれるのは、粒径8μmのフィラーと同じ傾向である。従って、膜厚よりも大きな外径(平均粒径)のフィラー18を用いると、効果を発揮できる添加量の幅が狭くなり、粒径15μmのフィラーでは20〜30重量%の添加量が最適であることがわかる。また、表2には省略してあるが、トルクの抑制が効いている状態では、ローラ昇温時の動摩擦係数μは、常温時のそれと比較して、略同等以下であった。
また、さらに大きな粒径である粒径20μmのフィラーを用いた場合でも20〜30重量%のフィラー添加量でトルクの抑制と記録材搬送力の両立を維持できる。しかし、より大きな粒径25μmのフィラーを用いた場合、実際にローラ10を使用した時にフィラー18がコート面から剥れやすくなり、比較的耐久初期の段階で所望の効果を発揮できなくなる。そのため、膜厚に対してあまりにも大きな粒径のフィラーを用いることは望ましくない。
以上より、トルクの抑制と記録材搬送力のアップを両立するためには、表層14の膜厚に応じて、最適なフィラー粒径の範囲があり、およそ膜厚に対して200%くらいのまでが使用可能なフィラー粒径の上限であると考えられる。
一方、効果の期待できるフィラー粒径の下限は、例えば表1の比較で使用した丸み状4μmの粒径よりも小さいフィラーとして、粒径3μmおよび2μmの丸み状フィラーを用いて添加量の調整を行った。両方とも添加量を増加するに従って、フィラー18による凸部が増え、トルクを下げる効果は発揮できた。記録材搬送力については、粒径3μmのフィラーであれば30重量%の添加で0.32kgfという値が得られ、記録材搬送が可能である。しかし、粒径2μmのフィラーでは添加量を増やしても、0.26kgfの紙搬送力しか得られず、安定した紙搬送を行うことが不可能であった。これはフィラー粒径が小さすぎることにより、記録材搬送力を与えるのに十分な大きさの凸部を形成出来ないことによる。これは、以下に述べる異形状のフィラーであっても同様の結果であった。
従って、本発明の効果を発現できるフィラー18の平均粒径の範囲としては、下限が3μm以上であり、上限が表層14の膜厚に対して200%以下の粒径であればよい。また、その範囲内でより大きな粒径のフィラー18を用いることで記録材搬送力の向上が見込みやすく、安定した記録材搬送性を得ることができる。さらに、用いるフィラー18の粒径に応じて最適な添加量も変化し、それらはトルクの減少と必要な搬送力が両立できるポイントと成膜限界から決定することがわかった。
最適なフィラー18の添加量は、本実施例での作製条件により決められたものであり、用いる材料や塗布液の作製条件、あるいは焼成条件を変えることにより成膜性が変化する場合は、適宜最適な添加量は調整されるべきである。即ち、フィラーの添加量は、表層14の全体の固形分を100重量%とした場合、10重量%以上60重量%以下となるように配合され、表層14の膜厚やフィラー18の平均粒径に応じて、調整される。
III:フィラー18の形状に関する考察
フィラー18の形状による影響について以下に説明する。IIで使用したアルミナの丸み形状の粉砕フィラーに対し、球形状のフィラー、立方状(角形状)の粉砕フィラー、鱗片状フィラーについて効果を比較した。いずれも平均粒径は8μm、添加量は20重量%と固定してある。結果を表3に示す。ベース材料および膜厚条件は上記I、IIと同じである。
表3の結果より明らかなように、形状が球体に近いほど搬送力は小さくなり、異形状(非球形状)になるほど搬送力がアップする傾向がある。フィラー形状が異形状なほど、表層14のベース面から突出する量が大きくなりやすく、また形状による紙繊維への食いつきが強くなることから、記録材Pに対するアンカー効果が増すことで搬送力がアップしていると考えられる。球形のフィラー18は、コート時にベース面から突出していても、フィラー表面がベース材に覆われている量が多く、記録材Pと摺擦しても滑りやすくなっているために搬送力が弱いものと考えられる。
以上I〜IIIに説明した比較結果を総合すると、フィラー18の粒径としては3μm以上で、表層14のコート膜厚に対して200%以下の平均粒径が望ましい。フィラー形状としてより異形状のフィラー(鱗片状、針状、角形状、立方形状等の非球形状のフィラー)を用い、成膜性が良好となる範囲で添加量を調整することで、効果的にトルクダウンと記録材搬送力向上の両立が図れる。ここで、表層14に用いるベース材料、フィラー分散後の塗布溶液の処理条件、製作する際の塗布方法、および焼成条件や乾燥条件、さらには下層との間に設けるプライマ層の処理等によっては、成膜性や効果の発現性は変化するものと考えられる。これらの条件や構成に応じて、適宜フィラーの添加量や形状等は最適化するべきものである。
以上のように、ローラ10の表面が加熱等により昇温した場合においても、フィラー18の凸部が表面に分布した状態で、動摩擦係数μ(hot)の上昇が抑制されていれば次の効果が得られる。即ち、ローラ表面に分布する凹凸が、固定式の加圧部材との接触面積を減らす程度の表面状態を形成し、結果として摩擦力が減りトルクの上昇を抑制することができる。且つ、記録材が通紙される際は、突出したフィラーの凸部が記録材の表面に十分にアンカーすることによって、安定した紙搬送力を与えることが可能となる。
[実施例2]
本実施例1で使用する画像形成装置および加熱定着装置の構成は実施例1と同様であるため説明を省略する。本実施例では表層14のベースと成るフッ素樹脂成分(ベース材料)に、フッ素樹脂とフッ素ゴムの混合物から成るラテックス系の塗料を用いることを特徴とする。本文中では特に注釈のない限りフッ素ゴム中にフッ素樹脂を分散させたコートをフッ素ゴムラテックスコートと呼ぶことにする。
実施例1のように、フッ素樹脂単体の塗料をベースとした場合、一般的に成膜可能なコートとして塗布膜厚の限界は15μm程度である。実施例1で説明したように、添加するフィラーの平均粒径の大きさの限界は膜厚に依存し、粒径を大きくしすぎると、フィラーが剥がれやすくなり、表面性が粗くなるという問題が生じる。従って、フッ素樹脂ベースの場合、使用できるフィラー粒径の限界は20〜30μm程度である。また、分散可能な添加量としても、重量%として30〜40重量%前後であり、多量のフィラーを分散させることは困難である。
一方、フッ素ゴムラテックスは、10μm以下の膜厚で成膜することは困難であり、塗布液の粘性や比重の観点から20μm〜30μm程度の塗布膜厚が製造上コントロールし易い。塗布膜厚を厚くできるということは、添加するフィラーの粒径を大きくすることができる。また、フッ素ゴム成分を含有することで成膜後のコート層硬さがフッ素樹脂単体よりも柔軟性を持っている為、焼成による割れも発生し難いことから、より多量のフィラーを添加することが容易である。すなわちフッ素ゴムラテックスコートを表層のベース材料として用いることにより表層14に添加するフィラー18の種類と添加量について選択の幅を増やすことができる。
IV:ベース材料の違いに関する考察
そこで以下において、フッ素ゴムラテックスをベース材料とした場合の挙動について、実施例1と比較しながら効果を説明する。
本実施例2の表層14のベース材料として用いたフッ素ゴムラテックスは具体的にはダイキン工業製、フッ素ゴムラテックスGLS213Fである。含まれるフッ素樹脂成分はFEPである。このGLS213F中に下記表4に示す分量のフィラーと硬化剤GL200Bを混ぜた塗布溶液を作製し、これを定着ローラ表面にスプレー塗工し、乾燥後電気オーブンにて300℃で15分加熱焼成したものである。実施例IV−1、2としては、丸み状の粒径10μmのアルミナフィラーを60重量%まで添加した。また実施例IV−3としては、丸み状の粒径30μmのアルミナフィラーを30重量%添加した。
表4の結果より明らかなように、フッ素ゴムラテックスを使用した方が、トルクの抑制は維持したまま、記録材搬送力を更に向上させることが可能である。これらは、実施例IV−1に示すように、ラテックスを使用することによりフィラーの添加量を増加できたので、表層14から突出したフィラー18による凸部の占有割合が増えたことによるものと考えられる。さらにフィラー18の添加量としても、60重量%まで増やしてもコートの割れ等が発生せず良好な表層が得られた。比較例10に示すように、70重量%までフィラー18を増加させると、成膜性が損なわれることから、添加できるフィラー18の量としては、60重量%程度までが限界である。
また実施例IV−3に示すように、フッ素ゴムラテックスは膜厚を20μmまで厚く塗布することが出来るので、より粒径の大きいフィラー18を使用することが可能となる。その結果、表層14から突出するフィラー18の突出量が大きくなり、記録材表面をアンカーする効果が高まるので、より安定して記録材搬送できるものと考えられる。また、フッ素ゴムラテックスを用いた場合でも、粒径が3μmより小さいフィラー18では十分な記録材搬送力を得ることが出来なかった。さらに、20μmの膜厚に対して、粒径40μmの丸み状フィラー18を添加した場合は、トルク抑制と記録材搬送を両立できたが、それ以上の粒径のフィラー18では、使用時のフィラー剥がれの問題が生じた。従って、ベース材量の種類や厚みが変わっても、適用できるフィラー粒径として、下限は3μm以上であり、上限が膜厚の200%以下である。また、表4の比較では、丸み形状の粉砕タイプのフィラー18を用いたが、実施例1に示したように、鱗片状、針状、角形状、立方形状等の非球形状など、異形状のフィラーを用いれば、更なる搬送力の向上も期待できる。
最適なフィラー18の添加量は、本実施例での作製条件により決められたものであり、用いる材料や塗布液の作製条件、あるいは焼成条件を変えることにより成膜性が変化する場合は、適宜最適な添加量は調整されるべきである。即ち、フィラーの添加量は、表層14の全体の固形分を100重量%とした場合、10重量%以上60重量%以下となるように配合され、表層14の膜厚やフィラー18の平均粒径に応じて、調整される。
[実施例3]
実施例1および2では、表層14に単一種のフィラーを添加するものであったが、本実施例3では、2種類以上の異なるフィラー(複数種のフィラー)を表層のベース材料に添加することを特徴とする。ここでは、実施例2で用いたフッ素ゴムラテックスをベース材料に用いた構成について説明する。
実施例2で述べたように、フッ素ゴムラテックスをベース材料に用いた構成では、膜厚を厚くコートできる。そのため、より粒径(平均粒径)の大きなフィラー18(複数種のフィラーの内、1種類のフィラー)を添加することによって、記録材搬送力を向上させることが可能となる。しかしながら、粒径の大きなフィラー18の添加量が多すぎると、ローラ10の表面性が粗くなってしまい、記録材との密着性が低下する。そのために離型性そのものが損なわれ、記録材上へのトナーの定着性やオフセットのレベル低下、さらにはオフセットトナーの蓄積などの問題が生じる。表面性を向上させるためには、搬送力を犠牲にしながらも添加量を減らすことも可能であるが、粒径の大きなフィラーを減らすと、フィラーの存在しない表面性の良好な面積が増える。そのために、パッド20とローラ10の表面の密着性が増してトルクアップの原因となる。
そこで、大粒径のフィラー添加量を減らしながら、小粒径フィラーの添加を行う。これにより、図7の(a)に示すように、大粒径フィラーの存在しないエリアにも小さいフィラーを析出させることによって、トルクアップを抑制しながら記録材搬送力も維持し、且つ平面部分の離型性もオフセット等の発生しないレベルに抑制できる。
V:2種類以上のフィラー添加に関する比較
以下に、粒径や形状の異なる2種類のフィラーを添加した場合の効果について比較した。実施例V−1では、大径フィラーとして鱗片状の粒径30μm(長径)のアルミナフィラーを15重量%、小径フィラーとして丸み状の粒径4μmのアルミナフィラーを20重量%添加した。即ち、フィラーは複数種のフィラーにより構成され、その複数種のフィラーのうち、1種類のフィラーの平均粒径は他種類のフィラーの平均粒径よりも大きい。また、実施例V−2では。大径フィラーとして立方状の粒径15μmの炭化ケイ素(SiC)フィラーを15重量%、小径フィラーとして丸み状の粒径4μmのアルミナフィラーを25重量%添加した。即ち、フィラーは複数種のフィラーにより構成され、フィラーの形状のうち、少なくとも1種類は鱗片状、針状、角形状、立方形状等の非球形状である。表層14のベース材料は実施例2と同様にGLS213Fであり、コート膜厚も20μmである。
表5において、オフセットのレベルとして、定着後のトナー画像にオフセットがわずかでも認められる場合は△レベル、目視ではほとんど確認できないレベルを○とした。実施例IV−2や比較例11で代表されるように、比較的粒径の大きな単一フィラーを多く添加した場合は、表面性が粗くなりオフセットが目立つようになる。添加量を減らすと、比較例12のように表面性は良化しオフセットも改善するが、フィラーの存在するサイトが減った分、平滑な面積が増えたために摩擦力が大きくなりトルクが上昇する結果となった。
一方で実施例V−1やV−2に示すように、大粒径のフィラーを減らし、且つ小粒径のフィラーを添加することで、必要な搬送力を維持しつつトルクを抑制し、平面部の粗さもオフセットの許容レベルまで抑制できることが可能となる。つまり、大粒径のフィラーが安定した搬送力を与えるフィラーとして機能し、小粒径のフィラーがトルク抑制と表面性の低下を抑制する働きを持つ。そこで、そのような種類(複数種)の異なるフィラーの機能を効果的に使い分けることで、ローラとして必要な特性を向上させることが可能となる。
また、アルミナ等のフィラーは高熱伝導性の性質を有するため、大粒径フィラーのサイト間に添加した小粒径のフィラーは、表層の熱伝導性を向上する働きも有り、記録材上のトナーを定着させるための制御温度を下げることが出来るなどの利点がある。
なお、添加する複数種のフィラーの種類や粒径および形状等の組み合わせは、表5に示すような大径フィラーと小径フィラーの組み合わせに限定されるものではない。フィラー18の粒径、形状や材質などの組み合わせにより、使用する定着装置の特性に応じて適宜最適化されるべきものである。摩擦による記録材搬送力とトルク、および表面性による離型性や熱伝導性等の特性を向上させることを目的に、複数のフィラーを組み合わせることによって、単一種のフィラーを用いる構成よりも特性が向上するように最適化すればよい。また、ベースとなるフッ素樹脂もフッ素ゴムラテックスに限定されるものではなく、実施例1に代表するようなPFAやFEP等のフッ素樹脂に複数のフィラーを添加するものであっても良い。
[その他の実施の形態]
(1)実施例1乃至3の定着装置6において、ローラ10を外部加熱する加熱手段15は実施例のローラ10の外面に接触して加熱するプレート状のヒータ15に限られるものではない。ローラ10の外面に接触して回転するヒートローラであってもよい。ローラ10の外面に非接触に対向して配設されたハロゲンランプや赤外線ヒータなどであってもよい。ローラ10の構成層に加熱手段として通電発熱抵抗層を具備させてもよい。ローラ10の構成層に電磁誘導発熱層を具備させて、その発熱層に交番磁束を作用させる励磁コイルをローラ10の外側或いは内側に配設した構成にすることもできる。
(2)ローラ10の加熱方式は外部加熱方式に限られない。図7の(b)のような内部加熱方式とすることもできる。この定着装置6は、ローラ10の芯金11を中空体にし、その内部に加熱手段15としてハロゲンヒータ等の熱源を挿入してローラ10を内部から加熱する構成である。この構成では、中空のローラ芯金11の周囲に直接あるいは所定の厚みの弾性層12を介して、表層14を形成する。そして、表層14が実施例1乃至3で説明したような構成であれば、固定式の加圧部材20との摺擦に対してトルクを抑制し、且つ記録材Pの通紙時にも安定した紙搬送力を与えることが可能となる。この内部加熱方式の場合、ローラ10の弾性層12を厚く形成しすぎると、ローラ10の立ち上がり時間が長くなってしまう他、内部に設置した加熱手段15からの熱エネルギーを効率的に記録材Pに伝えることが出来なくなる。従って、弾性層12は設けないか、出来るだけ薄く形成することになる。この場合、加圧部材20が剛体であると定着に必要なニップ部Nを形成するのが困難となる。そのため、加圧部材(加圧パッド)20の構成は、例えば、基材21の上にシリコーンゴムなどの耐熱性ゴムで形成した弾性層23の上に、PFA、PTFE等の離型性層22を設けることによって、所定幅のニップ部Nを形成しやすくすればよい。ローラ10の温調はつぎのようになされる。AC電源111より給電された熱源15の発熱により内部から加熱されたローラ10の表面温度がローラ10の表面に接触させて或いは非接触に設けられたサーミスタ等の温度検知手段17により検知される。その検知温度情報が温度制御部109に入力する。温度制御部109は入力する検知温度情報に基づき通電駆動手段110を制御する。即ち、加熱手段15から熱源15への供給電力を制御することで、ローラ10の表面温度を所定の定着温度に温調する。ローラ10の加熱構成は、その他、電磁誘導加熱構成、ローラ自体に通電発熱抵抗層を積層して具備させる構成など適宜の加熱構成を採り得る。
(3)画像加熱用回転体10はローラ体に限られない。可撓性を有するエンドレスベルト体の形態とすることもできる。図8は画像加熱用回転体10を可撓性を有するエンドレスベルト体とした、外部加熱方式の定着装置6の一例の概略図である。画像加熱用回転体としての可撓性を有するエンドレスベルト10は、内側から外側に順に、可撓性を有する基体層11、低熱伝導層(弾性層)12、高熱伝導層(弾性層)13、表層(離型性層)14の積層ベルトであり、全体に可撓性を有する。ベルト10は駆動ローラ81とテンションローラ82との間に懸回張設されており、ローラ81により矢印の時計方向に回転駆動される。また、ローラ81のベルト懸回部にはベルト10の外面に圧接して記録材Pを挟持搬送するためのニップ部(定着ニップ部)Nを形成する固定された非回転の加圧部材20(加圧パッド)20を有する。ベルト10の外面は、ベルト10の外面に非接触に対向して配設された加熱手段としてのハロゲンランプ15により所定の画像加熱温度に外部加熱される。そして、ベルト10の表層14が実施例1乃至3に説明したような構成であれば、固定式の加圧部材20との摺擦に対してトルクを抑制し、且つ記録材Pの通紙時にも安定した紙搬送力を与えることが可能となる。ベルトの温調はつぎのようになされる。AC電源111より給電されたランプ15の発熱により外部から加熱されたベルト10の表面温度がベルト10の表面に接触させて或いは非接触に設けられたサーミスタ等の温度検知手段17により検知される。その検知温度情報が温度制御部109に入力する。温度制御部109は入力する検知温度情報に基づき通電駆動手段110を制御する。即ち、電源111からランプ15への供給電力を制御することで、ベルト10の表面温度を所定の定着温度に温調する。ベルト10の加熱構成は、その他、電磁誘導加熱構成、ベルト自体に通電発熱抵抗層を積層して具備させる構成など適宜の加熱構成を採り得る。
(4)固定式の加圧部材20は、加圧パッドに限られず、加圧シート、板ばね性を有するシート状加圧部材などにすることができる。
6・・画像加熱装置、10・・画像加熱用回転体、14・・表層、15・・加熱手段、18・・フィラー、20・・加圧部材、N・・ニップ部、P・・記録材、t・・画像

Claims (20)

  1. 加熱手段により加熱される画像加熱用回転体と、前記画像加熱用回転体の外面に圧接してニップ部を形成する固定された加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持搬送して記録材上の画像を加熱する画像加熱装置に使用される前記画像加熱用回転体であって、
    外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層を有しており、前記フィラーの少なくとも一部が前記表層の表面から露出することによってあるいは前記フィラーが隆起することによって前記表層の表面に分布して凸部が形成されており、前記表層の表面の動摩擦係数μに関して、前記表層の表面を画像加熱のための温度に昇温させた時の動摩擦係数μ(hot)が常温時の動摩擦係数μ(cold)と比較して、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係にあることを特徴とする画像加熱用回転体。
  2. 前記フィラーの平均粒径は3μm以上、前記表層の膜厚に対して200%以下であることを特徴とする請求項1に記載の画像加熱用回転体。
  3. 前記フィラーは、複数種のフィラーにより構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像加熱用回転体。
  4. 前記複数種のフィラーのうち、1種類のフィラーの平均粒径は他種類のフィラーの平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の画像加熱用回転体。
  5. 前記フィラーの形状のうち、少なくとも1種類は非球形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  6. 前記フィラーの添加量は、前記表層の全体の固形分を100重量%とした場合、10重量%以上60重量%以下となるように配合され、前記表層の膜厚や前記フィラーの平均粒径に応じて、調整されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  7. 前記フッ素樹脂成分が、フッ素ゴムとフッ素樹脂を含むラテックスであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  8. 前記画像加熱用回転体は芯金を有するローラ体であり、前記芯金と前記表層の間には、少なくとも1層以上の弾性層を形成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  9. 前記画像加熱用回転体は可撓性を有するエンドレスベルト体であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  10. 前記加熱手段は、前記画像加熱用回転体を外側から加熱する外部加熱手段、あるいは内側から加熱する内部加熱手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の画像加熱用回転体。
  11. 加熱手段により加熱される画像加熱用回転体と、前記画像加熱用回転体の外面に圧接してニップ部を形成する固定された加圧部材と、を有し、前記ニップ部で記録材を挟持搬送して記録材上の画像を加熱する画像加熱装置であって、
    前記画像加熱用回転体は外周面にフィラーが分散されたフッ素樹脂成分より成る表層を有しており、前記フィラーの少なくとも一部が前記表層の表面から露出することによってあるいは前記フィラーが隆起することによって前記表層の表面に分布して凸部が形成されており、前記表層の表面の動摩擦係数μに関して、前記表層の表面を画像加熱のための温度に昇温させた時の動摩擦係数μ(hot)が常温時の動摩擦係数μ(cold)と比較して、μ(hot)<1.2×μ(cold)の関係にあることを特徴とする画像加熱装置。
  12. 前記フィラーの平均粒径は3μm以上、前記表層の膜厚に対して200%以下であることを特徴とする請求項11に記載の画像加熱装置。
  13. 前記フィラーは、複数種のフィラーにより構成されていることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の画像加熱装置。
  14. 前記複数種のフィラーのうち、1種類のフィラーの平均粒径は他種類のフィラーの平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項13に記載の画像加熱装置。
  15. 前記フィラーの形状のうち、少なくとも1種類は非球形状であることを特徴とする請求項11乃至請求項14のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
  16. 前記フィラーの添加量は、前記表層の全体の固形分を100重量%とした場合、10重量%以上60重量%以下となるように配合され、前記表層の膜厚や前記フィラーの平均粒径に応じて、調整されることを特徴とする請求項11乃至請求項15のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
  17. 前記フッ素樹脂成分が、フッ素ゴムとフッ素樹脂を含むラテックスであることを特徴とする請求項11乃至請求項16のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
  18. 前記画像加熱用回転体は芯金を有するローラ体であり、前記芯金と前記表層の間には、少なくとも1層以上の弾性層を形成してあることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
  19. 前記画像加熱用回転体は可撓性を有するエンドレスベルト体であることを特徴とする請求項11乃至請求項17のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
  20. 前記加熱手段は、前記画像加熱用回転体を外側から加熱する外部加熱手段、あるいは内側から加熱する内部加熱手段であることを特徴とする請求項11乃至請求項19のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
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