本発明は、分岐状ポリマーと針状炭素を含むことを特徴とする電子放出源用ペーストである。以下、詳細に説明する。
一般に電界放出型ディスプレイなどに用いられる電子放出源には、モリブデンに代表される金属材料や、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノツイストといった針状炭素、ダイアモンド、ダイアモンドライクカーボン、グラファイト、カーボンブラック、フラーレンに代表される炭素系材料があり、本発明では低い仕事関数特性によって低電圧駆動が可能であることから針状炭素を用いる。針状炭素の中でもカーボンナノチューブは高アスペクト比であるために良好な電気放出特性を持つことからより好ましい。以下、針状炭素の代表としてカーボンナノチューブを用いた電子放出源用ペーストについて一例として述べる。
本発明で用いるカーボンナノチューブには単層、または2層、3層等の多層カーボンナノチューブがある。層数の異なるカーボンナノチューブの混合物としてもよいし、未精製カーボンナノチューブ粉末はアモルファスカーボンや触媒金属等の不純物を含むことがあるため、精製することによって純度を高めて使用することもできる。また、カーボンナノチューブの長さを調整するため、ボールミルやビーズミル等でカーボンナノチューブ粉末を粉砕してもよい。
電子放出源用ペースト全体に対するカーボンナノチューブの含有量は0.1〜20重量%が好ましい。また0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの含有量が前記範囲内であると、電子放出源用ペーストの良好な分散性、印刷性およびパターン形成性が得られる。
本発明の電子放出源用ペーストは分岐状ポリマーを含む。ここでいう分岐状ポリマーとは、ポリマーの重合単位であるモノマーが3次元的に枝分かれを繰り返しながら成長している多分岐構造を有する高分子化合物である。本発明の電子放出源用ペーストに分岐状ポリマーを用いると表面平滑性が良好な塗膜を得ることができる。直線状ポリマーはポリマー分子鎖同士の絡み合いによってペーストの流動性が悪くなるため、電子放出源用ペーストを印刷して得られる塗膜の表面平坦性が悪くなる。これに対して、分岐状ポリマーは三次元的なネットワーク構造を有することから、ポリマー鎖の立体障害によって分子鎖同士の絡み合いが生じにくいことを利用してペーストの流動性を改良し、表面平滑性が良好な塗膜を得ることができる。特にカーボンナノチューブが分散したペーストに直線状ポリマーを分散した系においては、カーボンナノチューブ同士の相互作用に加えてカーボンナノチューブとポリマーとの相互作用によって、ペーストの流動性および塗膜の表面平滑性が悪いものであった。しかし、カーボンナノチューブが分散したペーストに分岐状ポリマーを分散した系においては、ポリマー鎖の立体障害に起因するカーボンナノチューブとの相互作用低下によってペーストの流動性が著しく改善され、表面平滑性の良好な塗膜が得られると考えられる。表面平滑性が良好な塗膜から得られる電子放出源は、均一な電子放出特性を示す。さらに分岐状ポリマーは溶剤への溶解性が良好であるため、カーボンナノチューブが分散して溶解性が低下したペーストに対しても優れた溶解性を有することができる。従って、電子放出源用ペースト中にカーボンナノチューブやポリマーを高濃度に溶解しても、スクリーン印刷などの方法で印刷するのに適した粘度を容易に調整することができ、厚膜形成しても表面平滑性の良好な塗膜が得られるため好ましい。
本発明で用いる分岐状ポリマーとしてはデンドリマー、スターポリマー、ハイパーブランチポリマー、グラフトポリマー、リニアデンドリティックポリマー、デンドリグラフトポリマー、スターハイパーブランチポリマーなどの多分岐構造を有する高分子化合物が挙げられ、これらの中でも合成方法の簡易性の点からハイパーブランチポリマーが好ましく用いられる。ハイパーブランチポリマーは、重合単位であるモノマーの繰り返し単位に枝分かれ構造をもつ多分岐高分子化合物であり、一般的な直線状のポリマーとは異なる構造を有する。ハイパーブランチポリマーの構造の規則性や分子量分布については、デンドリマーのように精密でないことから、分岐度や分子量が異なる高分子化合物の混合物である。
本発明に用いることができるハイパーブランチポリマーとしては、1)1分子中に2種類の置換基を合計3個以上持つ、ABx型分子の自己重縮合により合成されるハイパーブランチポリマー、2)開始剤部位を有するビニル系モノマー分子の連鎖重合により合成されるハイパーブランチポリマー、3)パラジウム触媒を用いた開環化合物の開環重合により合成されるハイパーブランチポリマー、4)2官能性モノマー(A2)と3官能性モノマー(B3)の重合により合成されるハイパーブランチポリマー、5)連鎖移動剤を添加した系にて、多官能性ビニルモノマーのラジカル重合により合成されるハイパーブランチポリマー、6)可逆的に解離/結合できる連鎖移動剤を添加した系にて、ビニルモノマーをリビングラジカル重合により合成されるハイパーブランチポリマー、7)多量の重合開始剤を添加した系にて、ジビニル化合物のラジカル重合により得られるハイパーブランチポリマー、等が挙げられ、いずれも用いることができるが、特殊な構造のモノマーを必要とせず、ラジカル重合にて容易に合成できる点で、5)連鎖移動剤を添加した系にて、多官能性ビニル化合物のラジカル重合により合成されるハイパーブランチポリマーが好ましい。
以下、5)で表されるハイパーブランチポリマーについて詳細に説明する。ハイパーブランチポリマーの具体的な製造方法は、例えばFrancoise,I.他「Synthesis of Branched Poly(methyl methacrylate)s:Effect of the Branching Comonoer Structure」、Macromolecules、2004、37巻、2096−2105頁に記載されているように、連鎖移動剤が添加された系において、1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を1つ有する単官能性モノマーと、1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を2つ以上有する多官能性モノマーをラジカル共重合することにより合成することができる。前記方法で合成されたハイパーブランチポリマーは単官能性モノマーと多官能性モノマーの共重合体であって、多官能性モノマーが複数の分岐鎖を有する分岐点となっているものである。通常、多官能性モノマーをラジカル重合すると、多官能性モノマーが起点となって3次元的に架橋されたネットワークを形成するためゲル化するが、単官能性モノマーと多官能性モノマーの共重合時に連鎖移動剤を多量添加することで、重合系のフリーラジカル濃度の低減と分岐状ポリマー間の停止反応を抑制し、ゲル化を防止することができる。
分岐状ポリマーの構造は、核磁気共鳴(NMR)スペクトルにより決定することができる。具体的には得られた分岐状ポリマーの溶液又は固体NMRにおいて、分岐鎖に存在する特有のケミカルシフトを示すシグナルがプロトン、カーボンなどの原子のNMRで判別することが可能である。また、分子量測定により分岐状ポリマーの存在を確認することができる。具体的には得られた分岐状ポリマーは重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の分散比(Mw/Mn)は3以上となるため、GPCなどの分子量測定装置によって判別することができる。
1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を1つ有する単官能性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルが用いられる。具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニルまたはこれらの酸無水物、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−n−ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチレングリコールアクリレート、2―エチルヘキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、ヘプタデカフロロデシルアクリレート、2−ヒロドキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、イソデキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、オクタフロロエチルアクリレート、トリフロロエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリラート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリラート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、グリセロールアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリレート、プロピレングリコールアクリレート、アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、スチレン、α−メチルスチレンまた前記化合物の分子内のアクリレートの一部もしくは全てをメタクリレートに変えた化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明では、これらを1種または2種類以上用いることができる。
1分子内にラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を2つ以上有する多官能性モノマーとしては、2官能性モノマー、3官能性モノマー、4官能性モノマー、5官能性モノマー、6官能性モノマーなどが挙げられるが、2官能性モノマーを用いることで重合時のゲル化が生じにくい点で反応を制御しやすく、また分岐点が多い分岐状ポリマーが得られることから、ペースト中での流動性向上による表面平滑性の改良効果がより得られるため好ましく用いられる。2官能性モノマーの具体例としては、ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニルモノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、又はポリエステルジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、トリデシルメルカプタン、テトラデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン又はチオグリコール酸などのメルカプタン類が挙げられる。
本発明に用いることができる分岐状ポリマーの重量平均分子量(Mw)は2,000〜500,000であることが好ましく、5,000〜300,000であることがさらに好ましく、10,000〜200,000であることが特に好ましい。分岐状ポリマーの数平均分子量(Mn)は1,000〜30,000であることが好ましく、3,000〜20,000であることがさらに好ましい。分岐状ポリマーの分散比(Mw/Mn)は1〜20であることが好ましく、3〜15であることがさらに好ましい。
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分散比(Mw/Mn)が前記範囲内である分岐状ポリマーは、電子放出源用ペーストへの溶解性が良好であり、十分な流動性と表面平坦性を有する塗膜を得ることができるため好ましい。
本発明における分岐状ポリマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はテトラヒドロフランを移動相としたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した値である。カラムはShodex KF−803を用い、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はポリスチレン換算により計算することができる。
本発明に用いることができる分岐状ポリマーは、分子内にアルキレンオキシド鎖を有することが好ましい。アルキレンオキシド鎖を有する分岐状ポリマーは熱分解性が良好であり、電子放出源内に有機残渣が残らないため電子放出特性が良好な電子放出源が得られる。電子放出源内に有機残渣が残るとパネル内の真空度が悪化して良好な電子放出特性が得られない。アルキレンオキシド鎖を有する分岐状ポリマーとしては、前記ハイパーブランチポリマーの製造方法において、2官能性モノマーとして前記アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いることで合成されたハイパーブランチポリマーなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。分岐状ポリマーの熱分解率は、TG測定装置(TGA−50、(株)島津製作所(株)製)にて測定した値を元に以下の式にて算出することができる。測定条件は、TG測定装置に約20mgの試料をセットした後、窒素雰囲気下で流量80ml/分、昇温速度5℃/分で500℃まで昇温し、昇温中の試料の重量を測定する。所定温度における熱分解率(T)を求める式は、
T=(前記条件で測定された所定温度における試料重量)/(昇温開始時の試料重量)×100
である。
本発明に用いる分岐状ポリマーの含有量は、電子放出源用ペースト全量に対して0.1〜50重量%が好ましく、0.5〜40重量%がさらに好ましく、1〜30重量%が特に好ましい。分岐状ポリマーの含有量が前記範囲内であると、電子放出源用ペーストの良好な流動性と塗膜の形成性や形状維持性が得られる。
また、本発明の電子放出源用ペーストは分岐状ポリマーの他に直線状のポリマーを混ぜて使用することもできる。前記のように直線状ポリマーはペーストの流動性および塗膜の表面平滑性を悪くするものであるが、本発明のように、カーボンナノチューブが分岐状ポリマーに分散する系では、さらに直線状ポリマーを含有した系においても、表面平滑性が良好な塗膜が得られることがわかった。これはカーボンナノチューブと直線状ポリマーの相互作用によって流動性が低下した場合でも、分岐状ポリマーの良好なレベリング性によって膜を平坦化する効果が得られるためである。さらに直線状ポリマーは分岐状ポリマーよりも熱分解性が良好であることから、電子放出源内に有機残渣が残らないため電子放出特性が良好な電子放出源が得られる。従って、分岐状ポリマーと直線状ポリマーを混合した系においては良好な表面平滑性と電子放出特性が両立できるため好ましい。
ここでいう直線状ポリマーとは、付加重合(ラジカル重合またはイオン重合)、開環重合、重付加、重縮合等の一般的な重合方法によって得られ、主鎖であるモノマーの繰り返し単位が直線状に連なったポリマーを表す。このような直線状ポリマーの具体例としては、ポリ(メタ)アクリレート、セルロース樹脂、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられ、印刷性が良好であることからポリ(メタ)アクリレートまたはセルロース樹脂であることが好ましく、熱分解性が良好であることからポリ(メタ)アクリレートであることがさらに好ましい。
分岐状ポリマーと直線状ポリマーの混合比率は、分岐状ポリマー100重量部に対して、直線状ポリマーの添加量は10〜1000重量部であることが好ましく、50〜750重量部がさらに好ましい。分岐状ポリマーと直線状ポリマーの混合比率が前記範囲内であると、塗膜の平坦性と良好な電子放出特性を両立できる。
本発明に用いる分岐状ポリマーは、活性水素含有基を有していることが好ましい。活性水素含有基に対し、さらにエチレン性不飽和基を有する化合物を反応させると、分岐状ポリマーに感光性を付与することができる。また、本発明の電子放出源用ペーストは、このようにして感光性を付与した分岐状ポリマーと光重合開始剤を有することが好ましい。前記電子放出源用ペーストを用いることでフォトリソグラフィーによるパターン形成が可能となる。さらにこのような分岐状ポリマーでは緻密なUV硬化膜が得られることから、通常のエチレン性不飽和基を有する直線状ポリマーと比較しても高感度で微細なパターン形成が可能となる。
感光性を付与した分岐状ポリマーは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基やメルカプト基等の活性水素含有基を有するハイパーブランチポリマーとエチレン性不飽和基を有する化合物を反応させて得ることができる。例えば、上記ハイパーブランチポリマーの製造方法において、エチレン性不飽和基を1つ有する単官能性モノマーの1つとしてカルボキシル基を有する(メタ)アクリル酸を選択し、得られたハイパーブランチポリマー中のカルボキシル基に対して、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジル、アクリロイルイソシアネート、メタアクリロイルイソシアネート、アクリロイルエチルイソシアネート、メタアクリロイルエチルイソシアネートなどのグリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させることにより得ることができる。
分岐状ポリマー中のエチレン性不飽和基の含有量(二重結合密度)は、0.5〜3.0mol/kgが好ましく、0.5〜2.0mol/kgがさらに好ましい。エチレン性不飽和基の含有量が0.5mol/kg以上であると、光重合による硬化性が得られるため好ましく、3.0mol/kg以下であると、良好な熱分解性を有して有機残渣が低減されるため好ましい。エチレン性不飽和基の含有量はJIS−K0070(1992)に準拠して測定されたヨウ素価から求めることができる。具体的には、二重結合密度(mol/kg)=10×ヨウ素価/253.81(ヨウ素分子の分子量)によって求めることができる。また、エチレン性不飽和基の含有量は、分岐状ポリマー中に含まれるカルボキシル基の量と、エチレン性不飽和基を有する化合物の付加量によって制御することができる。
本発明に用いることができるエチレン性不飽和基を有する分岐状ポリマーは、さらに酸性基を有していることが好ましい。酸性基は何でも良いが、好ましくはカルボキシル基である。前記分岐状ポリマーは側鎖にカルボキシル基を含有することにより、アルカリ水溶液での現像を可能にする。この場合、感光性樹脂の酸価は50〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価を50mgKOH/g以上とすることで、可溶部分の現像液に対する溶解性が低下することがなく、200mgKOH/g以下とすることで、現像許容幅を広くすることができる。なお、酸価の測定は、JIS−K0070(1992)に準拠して求める。
エチレン性不飽和基を有する分岐状ポリマーを用いる場合、その含有量は全感光性有機成分に対し、好ましくは30〜95重量%の範囲であり、より好ましくは50〜90重量%である。エチレン性不飽和基を有する分岐状ポリマーの含有量が30重量%以上であると、カーボンナノチューブと無機粉末の良好な分散性と高感度でのパターン形成性が得られるため好ましく、エチレン性不飽和基を有する分岐状ポリマーの含有量が95重量%以下であると、現像液に対する溶解性と微細なパターン形成性が得られるため好ましい。
本発明に用いることができる光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、オキシム系化合物、チオキサントン系化合物、トリアジン系化合物、ビイミダゾール系化合物、ホスフィン系化合物、チタノセン系化合物、オキサジアゾール系化合物、キノン系化合物、ジケトン系化合物、チオール系化合物などが挙げられ、これらを1種または2種類以上用いることができる。前記光重合開始剤の中でも高感度でパターン形成可能な点でオキシム系化合物が好ましく用いられる。
光重合開始剤の具体例としては、1,2−オクタンジオン−1−[4−(フェニルチオ)フェニル−2−(o−ベンゾイルオキシム)]、エタノン−1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(o−アセチルオキシム)などのアシルオキシム系化合物が挙げられる。
光重合開始剤を用いる場合、その含有量は感光性有機成分に対して0.05〜20重量%の範囲が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。光重合開始剤の含有量を0.05重量%以上とすることでパターン形成するために十分な光硬化性が得られ、20重量%以下とすることで深部硬化性と良好なパターン形状が得られるため好ましい。
本発明の電子放出源用ペーストは無機粉末を含むことができる。無機粉末としては接着剤としての役割を果たすものであればいずれも用いることができる。カーボンナノチューブの耐熱性が500〜600℃であること、基板ガラスとしてソーダライムガラス(軟化点500℃程度)を用いることなどを考慮すると、無機粉末の焼結温度は500℃以下が好ましく、450℃以下がさらに好ましい。前記焼結温度を有する無機粉末を用いることで、カーボンナノチューブの焼失を抑制し、ソーダライムガラスなどの安価な基板ガラスを使用することができる。このような無機粉末の具体例としては銀、銅、ニッケル、合金、はんだなどの金属粉末、ガラス粉末、もしくはそれらを混ぜて使用することができる。金属粉末は触媒作用によってカーボンナノチューブの焼失を促進することから、本発明の電子放出源用ペーストにおいてはガラス粉末が好ましく用いられる。
ガラス粉末の焼結温度を表すガラス軟化点はガラス組成によって異なるため、ガラス組成の選択によって制御することができる。本発明の電子放出源用ペーストに含むガラス粉末としてはBi2O3系ガラス、アルカリ系ガラス、SnO−P2O5系ガラス、SnO−B2O3系ガラスが好ましく用いられる。前記ガラス粉末を用いると、ガラス軟化点を300℃〜450℃の範囲に制御することができるため好ましい。
電子放出源とカソード電極は強固に接着している必要があるが、電子放出源用ペーストに含まれるカーボンナノチューブとガラス粉末の比は、カーボンナノチューブ100重量部に対し、ガラス粉末が200〜8000重量部であると、優れた接着性を得ることができる。200重量部未満だと十分な接着性が得られない。8000重量部より大きいとペースト粘度が高くなりすぎる。
ガラス粉末の平均粒径は2μm以下が好ましい。さらに好ましくは1μmより小さいことである。ガラス粉末の平均粒径が2μm以下であると、微細な電子放出源パターンの形成性と電子放出源とカソード電極の接着性を得ることができる。
ここで平均粒径とは、累積50%粒径(D50)のことをさす。これは一つの粉体の集団の全体積を100%として体積累積カーブを求めたとき、その体積累積カーブが50%となる点の粒径を表したものであり、累積平均径として一般的に粒度分布を評価するパラメータの1つとして利用されているものである。なお、ガラス粉末の粒度分布の測定はマイクロトラック法(日機装(株)製マイクロトラックレーザー回折式粒度分布測定装置による方法)で測定することができる。
また、本発明の電子放出源用ペーストは無機粉末として導電性粒子を含むことができる。電子放出源用ペーストが導電性粒子を含むことで、電子放出源内部の抵抗値が下がり、電子放出源から低電圧での電子放出が可能となる。前記導電性粒子は、導電性のあるものであれば特に限定されないが、導電性酸化物を含む粒子、あるいは酸化物表面の一部または全部に導電性材料がコーティングされた粒子であることが好ましい。金属は触媒活性が高く、焼成や電子放出により高温になったときにカーボンナノチューブを劣化させることがあるためである。導電性酸化物としては、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、酸化亜鉛などが好ましい。また、酸化チタン、酸化ケイ素などの酸化物表面の一部または全部にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、金、白金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、鉄、コバルトなどがコーティングされたものも好ましい。この場合も、導電性材料のコーティング材料としては、ITO、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性酸化物が好ましい。
電子放出源用ペースト中における導電性粒子の含有量は、カーボンナノチューブ1重量部に対して導電性粒子0.1〜100重量部であることが好ましく、0.5〜50重量部であることがさらに好ましい。導電性粒子の含有量が前記範囲内であると、カーボンナノチューブとカソード電極の電気的接触がより良好となることから特に好ましい。
導電性粒子の平均粒径は0.1〜1μmが好ましく、0.1〜0.6μmがさらに好ましい。導電性粒子の平均粒径が前記範囲内であると、電子放出源内部の抵抗値均一性が良好であり、さらには表面平坦性が得られることから、低電圧で表面から均一な電子放出を得ることができる。
本発明の電子放出源用ペーストは、必要に応じて溶媒、分散剤、光硬化性モノマー、紫外線吸収剤、重合禁止剤、増感助剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加成分を含んでもよい。
溶媒は分岐状ポリマーや他の有機成分を溶解するものが好ましい。例えば、エチレングリコールやグリセリンに代表されるジオールやトリオールなどの多価アルコール、アルコールをエーテル化および/またはエステル化した化合物(エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート)などが挙げられる。具体的には、テルピネオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトールアセテートなどやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。
溶媒を用いる場合、その含有量は、電子放出源用ペースト全量に対し、好ましくは10〜99重量%の範囲であり、より好ましくは20〜90重量%である。溶媒の含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な分散安定性、印刷特性、塗膜形成性が得られる。
電子放出源用ペースト中で無機粉末やカーボンナノチューブ分散性を向上させるために、分散剤を用いてもよい。分散剤はアミン系くし形ブロックコポリマーが好ましい。アミン系くし形ブロックコポリマーとしては、たとえば、アビシア(株)製のソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース24000GR、ソルスパース28000(いずれも商品名)などが挙げられる。
本発明の電子放出源用ペーストは、光硬化性モノマーを含むことでフォトリソグラフィーによるパターン加工性を向上させることができる。光硬化性モノマーの具体的な例としては、光反応性を有する炭素−炭素不飽和結合(エチレン性不飽和基)を含有する化合物を用いることができ、例えばアルコール類(例えば、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、カルボン酸(例えば、酢酸プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、酒石酸、クエン酸など)とアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジル、またはテトラグリシジルメテキシリレンジアミンとの反応生成物、アミド誘導体(例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドなど)、エポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸との反応物などを挙げることができる。また、多官能の光硬化性モノマーにおいて、不飽和基は、アクリル、メタクリル、ビニル、アリル基が混合して存在してもよい。本発明では、これらを1種または2種以上使用することができる。
光硬化性モノマーを用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは1〜50重量%の範囲であり、より好ましくは5〜30重量%である。光硬化性モノマーの含有量を1重量%以上とすることで、露光部の架橋密度が向上し、50重量%以下とすることで、現像液耐性と良熱分解性が得られる。
本発明の電子放出源用ペーストは、紫外線吸収剤を含むことでフォトリソグラフィーによるパターン加工性を向上させることができる。紫外線吸収剤は、波長領域300〜550nmの範囲に紫外線吸収がある有機系染料が好ましく、紫外線吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)が波長300〜550nmの範囲にある有機系染料がさらに好ましい。これらの波長領域に紫外線吸収を持つ有機系染料を用いることで、紫外線照射時の電子放出源用ペースト内部での光散乱を抑制することが可能となる。これにより、非紫外線照射部の光硬化が抑制されるため、電子放出源パターン以外の部分でのカーボンナノチューブを含む残渣を大幅に減少させることができる。
紫外線吸収剤の具体的な例としては、アゾ系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、クマリン系、キサテン系、キノリン系、アントラキノン系、ベンゾエート系、ベンゾイン系、ケイ皮酸系、サリチル酸系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、トリアジン系、アミノ安息香酸系、キノン系などが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
紫外線吸収剤を用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは0.001〜10重量%であり、より好ましくは0.01〜5重量%である。紫外線吸収剤の含有量を0.001重量%以上とすることで露光散乱光の抑制効果が得られ、10重量%以下とすることで深部まで光が透過することができる。
本発明の電子放出源用ペーストは重合禁止剤を含んでもよく、その具体的な例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンのモノエステル化物、N−ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、N−フェニルナフチルアミン、2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
重合禁止剤を用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.02〜5重量%である。重合禁止剤の含有量を0.01重量%以上とすることでラジカル捕捉効果が得られ、10重量%以下とすることで光重合が阻害されない。
本発明の電子放出源用ペーストは、各種成分を所定の組成になるよう調合した後、3本ローラー、ボールミル、ビーズミル等の混練機で均質に混合分散することによって作製することができる。ペースト粘度は、ガラス粉末、増粘剤、有機溶媒、可塑剤および沈殿防止剤等の添加割合によって適宜調整されるが、その範囲は2〜200Pa・sである。例えば、基板への塗布をスリットダイコーター法やスクリーン印刷法以外にスピンコート法、スプレー法やインクジェット法で行う場合は、0.001〜5Pa・sが好ましい。
以下に、本発明の電子放出源用ペーストを用いたフィールドエミッション用電子放出源および電子放出素子の作製方法について説明する。なお、電子放出源および電子放出素子の作製は、その他の公知の方法を用いてもよく、後述する作製方法に限定されない。
はじめに電子放出源の作製方法について説明する。電子放出源は、以下に説明するように、本発明の電子放出源用ペーストからなるパターンを基板上に形成後、焼成することにより得られる。まず、本発明の電子放出源用ペーストを用いて基板上に電子放出源のパターンを形成する。基板としては電子放出源を固定するものであればいかなるものでも良く、ガラス基板、セラミック基板、金属基板、フィルム基板などが挙げられ、さらに基板上には導電性を有する膜が形成されていることが好ましい。基板上に電子放出源のパターンを形成する方法としては、一般的なスクリーン印刷法、インクジェット法などの印刷法が好ましく用いられる。また、感光性を付与した電子放出源用ペーストを用いると、フォトリソグラフィーによって微細な電子放出源のパターンを一括で形成することができるため好ましい。具体的には、スクリーン印刷法またはスリットダイコーター等で基板上に本発明の感光性を付与した電子放出源用ペーストを印刷した後、熱風乾燥機で乾燥して電子放出源用ペーストの塗膜を得る。前記塗膜に対して、上面(電子放出源用ペースト側)からフォトマスクを通じて紫外線を照射した後、アルカリ現像液や有機現像液などで現像して電子放出源パターンを形成することができる。次に電子放出源のパターンを焼成する。焼成雰囲気は大気中または窒素などの不活性ガス雰囲気中にて、焼成温度は400〜500℃の温度で焼成する。焼成した電子放出源のパターンには表面処理を行い、表面からカーボンナノチューブが突出した電子放出源が得られる。表面処理の方法としては、粘着性を有するテープまたはローラーを用いた剥離法やレーザー処理法などが用いることができる。
次に電子放出素子の作製方法について説明する。電子放出素子は、本発明の電子放出源用ペーストからなる電子放出源をカソード電極上に形成して背面板を作製し、アノード電極と蛍光体を有する前面板と対向させることにより得ることができる。以下、ダイオード型電子放出素子の作製方法とトライオード型電子放出素子の作製方法について詳細に説明する。
ダイオード型電子放出素子の作製方法においては、まず、ガラス基板上にカソード電極を形成する。カソード電極は、ITOやクロム等の導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。カソード電極上には、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いて電子放出源を作製し、ダイオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次にガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極はITO等の透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、ダイオード型電子放出素子の前面板が得られる。ダイオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で融着することによりダイオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
トライオード型電子放出素子の作製方法においては、まず、ガラス基板上にカソード電極を作製する。カソード電極は、ITOやクロム等の導電性膜をスパッタ法などによって成膜することができる。次いで、カソード電極上に絶縁層を作製する。絶縁層は絶縁材料を印刷法または真空蒸着法などにより、膜厚3〜20μm程度で作製することができる。次いで、絶縁層上にゲート電極層を作製する。ゲート電極層はクロムなどの導電性膜を真空蒸着法などにより形成することで得られる。次いで、絶縁層にエミッタホールを作製する。エミッタホールの作製方法は、まずゲート電極上にレジスト材料をスピンコーター法などで塗布、乾燥し、フォトマスクを通じて紫外線を照射してパターンを転写した後、アルカリ現像液などで現像する。現像によって開口した部分からゲート電極および絶縁層をエッチングすることで、絶縁層にエミッタホールを形成することができる。次いで、前述の方法によって本発明の電子放出源用ペーストを用いてエミッタホール内部に電子放出源を作製し、トライオード型電子放出素子用の背面板が得られる。次にガラス基板上にアノード電極を形成する。アノード電極はITO等の透明導電性膜をスパッタ法などによってガラス基板上に成膜することができる。ガラス基板上に形成されたアノード電極上に蛍光体を印刷し、トライオード型電子放出素子の前面板が得られる。トライオード型電子放出素子用背面板および前面板は、電子放出源と蛍光体が対向するようにスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で融着することによりダイオード型電子放出素子が得られる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kV、ゲート電極に20〜150Vの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各合成例における分岐状ポリマーの熱分解率は、TG測定装置(TGA−50、(株)島津製作所製)にて測定した値を元に以下の式にて算出した。測定条件は、TG測定装置に約20mgの試料をセットした後、窒素雰囲気下で流量80ml/分、昇温速度5℃/分で500℃まで昇温し、昇温中の試料の重量を測定した。
熱分解率(%)=(前記条件で測定された450℃における重量)/(昇温開始時の重量)×100。
また、各合成例のポリマーはGPCによる重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分散比(Mw/Mn)の結果から分岐状ポリマーであることを確認した。
(合成例1)
窒素雰囲気の反応容器中に3−メトキシ−3−メチルブタノール90gを仕込み、オイルバスを用いて80℃まで昇温した。これに、メタクリル酸イソブチル17.5g、メタクリル酸メチル17.5g、テトラプロピレングリコールジメタクリレート8g、ラウリルメルカプタン2.4g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3gおよび3−メトキシ−3−メチルブタノール10gからなる混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに6時間重合反応を行った。その後、ハイドロキノンモノメチルエーテル1gを添加して重合反応を停止した。得られた反応溶液をメタノールで精製することで未反応不純物を除去し、さらに24時間真空乾燥することで目的のハイパーブランチポリマーIの粉末を得た。得られたハイパーブランチポリマーIの数平均分子量は8,000、重量平均分子量は72,000、分散比は9であった。また、ハイパーブランチポリマーIの熱分解率は97.9%であった。
(合成例2)
合成例1と同様に、スチレン17.5g、メタクリル酸メチル17.5gとジビニルベンゼン8gからなるハイパーブランチポリマーIIを得た。得られたハイパーブランチポリマーIIの数平均分子量は10,000、重量平均分子量は130,000、分散比は13であった。また、ハイパーブランチポリマーIIの熱分解率は88.1%であった。
(合成例3)
合成例1と同様に、メタクリル酸イソブチル15g、メタクリル酸メチル15gとトリメチロールプロパントリアクリレート1gからなるハイパーブランチポリマーIIIを得た。得られたハイパーブランチポリマーIIIの数平均分子量は21,000、重量平均分子量は67,000、分散比は3.2であった。また、ハイパーブランチポリマーIIIの熱分解率は96.9%であった。
(合成例4)
合成例1と同様に、メタクリル酸イソブチル35gと“ブレンマーPDP400”(日本油脂(株)製、分子内にアルキレンオキシド鎖を有するジメタクリレート化合物)8gからなるハイパーブランチポリマーIVを得た。得られたハイパーブランチポリマーIVの数平均分子量は7,500、重量平均分子量は86,000、分散比は11.5であった。また、ハイパーブランチポリマーIVの熱分解率は98.5%であった。
(合成例5)
窒素雰囲気の反応容器中に3−メトキシ−3−メチルブタノール90gを仕込み、オイルバスを用いて80℃まで昇温した。これに、メタクリル酸イソブチル30g、メタクリル酸15g、テトラプロピレングリコールジメタクリレート8g、ラウリルメルカプタン2.4g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.3gおよび3−メトキシ−3−メチルブタノール10gからなる混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに6時間重合反応を行った。その後、ハイドロキノンモノメチルエーテル1gを添加して重合反応を停止した。引き続きグリシジルメタクリレート6.2g、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド1gおよび3−メトキシ−3−メチルブタノール10gからなる混合物を0.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間付加反応を行った。得られた反応溶液をメタノールで精製することで未反応不純物を除去し、さらに24時間真空乾燥することで目的のハイパーブランチポリマーVの粉末を得た。得られたハイパーブランチポリマーVの酸価は、102mgKOH/g、二重結合密度は、1.9mol/kg、数平均分子量は15,000、重量平均分子量は150,000、分散比は10であった。また、ハイパーブランチポリマーVの熱分解率は93.6%であった。
(合成例6)
合成例6と同様に、スチレン15g、メタクリル酸イソブチル15g、メタクリル酸15gとジビニルベンゼン8gからなるハイパーブランチポリマーにグリシジルメタクリレートを付加したハイパーブランチポリマーVIを得た。得られたハイパーブランチポリマーVIの酸価は、96mgKOH/g、二重結合密度は、1.8mol/kg、数平均分子量は12,000、重量平均分子量は140,000、分散比は11.7であった。また、ハイパーブランチポリマーVIの熱分解率は86.1%であった。
(合成例7)
合成例6と同様に、メタクリル酸イソブチル30g、メタクリル酸7.5gと“ブレンマーPDP400”(日本油脂(株)製)8gからなるハイパーブランチポリマーにグリシジルメタクリレートを付加したハイパーブランチポリマーVIIを得た。得られたハイパーブランチポリマーVIIの酸価は、50mgKOH/g、二重結合密度は、1.0mol/kg、数平均分子量は9,000、重量平均分子量は120,000、分散比は13.3であった。また、ハイパーブランチポリマーVIIの熱分解率は95.6%であった。
(合成例8)
窒素雰囲気の反応容器中にベンゼン80gを仕込み、オイルバスを用いて80℃まで昇温した。これに、ジビニルベンゼン3g、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル12gおよびベンゼン10gからなる混合物を15分かけて滴下した。滴下終了後、さらに100分間重合反応を行った。その後、ハイドロキノンモノメチルエーテル1gを添加して重合反応を停止した。得られた反応溶液をヘキサンで精製することで未反応不純物を除去し、さらに24時間真空乾燥することで目的のハイパーブランチポリマーVIIIの粉末を得た。得られたハイパーブランチポリマーVIIIの数平均分子量は6,000、重量平均分子量は38,000、分散比は6.3であった。また、ハイパーブランチポリマーVIIIの熱分解率は60.1%であった。
各実施例および比較例に用いた針状炭素、無機粉末および有機成分ならびに各実施例および比較例における評価項目の評価方法は次の通りである。
A.針状炭素
カーボンナノチューブ:2層カーボンナノチューブ(東レ(株)社製)
B.無機粉末
ガラス粉末I:Bi2O3(84重量%)、B2O3(7重量%)、SiO2(1重量%)、ZnO(8重量%)の組成のものを用いた。このガラス粉末の軟化点は380℃、平均粒径は0.5μmのものを用いた。
ガラス粉末II:SnO−P2O5系ガラス“KF9079”(旭硝子(株)製)を用いた。このガラス粉末の軟化点は340℃、平均粒径は0.2μmのものを用いた。
導電性粒子:白色導電性粉末(球状の酸化チタンを核として、SnO2 /Sb導電層を被覆したもの)、石原産業(株)製、ET−500W、比表面積6.9m2/g、密度4.6g/cm3、平均粒径0.19μm
C.有機成分
分岐状ポリマー:上記合成例1〜8で得られたハイパーブランチポリマーおよびアクリル系グラフトポリマー“レゼダGP−301”(東亞合成(株)製)
直線状ポリマーとして以下のポリマーI〜III
ポリマーI:エチルセルロース“エトセル20cp”(日進化成(株)製)
ポリマーII:メタクリル酸イソブチル50wt%、メタクリル酸メチル50wt%の共重合体で、重量平均分子量が60,000の樹脂
ポリマーIII:メタクリル酸イソブチル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸= 30/30/40重量部からなる共重合体のカルボキシル基に対して、0.5当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもので重量平均分子量が90,000の樹脂
光硬化性モノマー:“ブレンマーPDP−400”(日本油脂(株)製)
光重合開始剤:“イルガキュアOXE02”(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤:“スダンIV”(東京化成工業(株)製)
重合禁止剤:ハイドロキノンモノメチルエーテル
溶剤:テルピネオール
分散剤:“ソルスパース24000GR”(アビシア(株)製)
D.数平均分子量、重量平均分子量の測定
分岐状ポリマー、樹脂の数平均分子量および重量平均分子量はテトラヒドロフランを移動相としたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。カラムはShodex KF−803を用い、重量平均分子量はポリスチレン換算により計算した。
E.塗膜の厚み測定
東京精密(株)製サーフコム1400を用いて触針式で、電子放出源用ペースト塗膜の厚みを測定した。
F.表面平滑性の測定
電子放出源用ペースト塗膜の表面平滑性は表面うねり(Wa)で評価した。東京精密(株)製サーフコム1400を用いてJIS B0610−2001に準じ、触針式で電子放出源用ペースト塗膜の表面うねり(Wa)の測定を行った。表面平滑性は表面うねり(Wa)が0.20μm以下を良好とした。
G.発光面積の測定
真空度を5×10−4Paにした真空チャンバー内に、ITO基板上に1cm×1cm角の電子放出素子が形成された背面基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22)を形成した前面基板を、100μmのスペーサーを挟んで対向させ、電圧印可装置(菊水電子工業(株)製耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって0.3kVの電圧を印加して、前面基板を発光させた。発光面積はCCDカメラによって発光像を取り込み、1cm×1cm角の電子放出素子内での発光部分割合を測定し、数値化した。
H.1mA/cm2に達する電界強度の測定
真空度を5×10−4Paにした真空チャンバー内に、ITO基板上に1cm×1cm角の電子放出素子が形成された背面基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22)を形成した前面基板を、100μmのスペーサーを挟んで対向させ、電圧印可装置(菊水電子工業(株)製耐電圧/絶縁抵抗試験器TOS9201)によって0.25V/秒で電圧印加した。得られた電流電圧曲線(最大電流値10mA/cm2)から1mA/cm2に達する電界強度を求めた。
I.感度の評価
電子放出源用ペーストをガラス基板上にスクリーン印刷法で塗布し、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥させて、ガラス基板上に電子放出源用ペーストの塗布膜を形成した。前記電子放出源用ペーストの塗布膜に、5〜30μmφのホールパターンを有するフォトマスクを介して、50mW/cm2出力の超高圧水銀灯から紫外線を100〜100000mJ/cm2の範囲で照射した後、炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない部分を除去した。現像後、光学顕微鏡を用いて各ホールパターンの観察を行い、形成された最小ホールパターン径(μm)を解像度として評価し、最小ホールパターン径が形成されるのに必要な最小の露光量(mJ/cm2)を感度として評価した。
実施例1
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ハイパーブランチポリマーI、分散剤、溶剤を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚および表面うねり(Wa)を測定した結果、膜厚は1.3μm、表面うねり(Wa)は0.05μmであった。
実施例2〜4
実施例1と同様に、表1に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、ガラス基板上に電子放出源用ペーストの塗膜を形成した後、膜厚および表面うねり(Wa)の測定を行った。結果を表1に示した。
実施例5
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ガラス粉末I、ハイパーブランチポリマーI、分散剤、溶剤を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたカソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚および表面うねり(Wa)を測定した結果、膜厚は1μm、表面うねり(Wa)は0.03μmであった。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で加熱し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ0.1N/20mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cm2に達する電界強度は3.2V/μm、発光面積は90%であった。
実施例6〜10
実施例5と同様に、表1〜2に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出素子を作製した。膜厚、表面うねり(Wa)、1mA/cm2に達する電界強度および発光面積の測定結果を表1〜2に示す。
実施例11
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ガラス粉末、導電性粒子、ハイパーブランチポリマーIV、光重合開始剤、光硬化性モノマー、紫外線吸収剤、分散剤、溶剤を表2に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペーストの膜厚は2.6μm、表面うねり(Wa)は0.05μmであった。乾燥後の電子放出源用ペーストに対して、ネガ型クロムマスク(5〜30μmφ)を用いて上面から50mW/cm2出力の超高圧水銀灯で100mJ/cm2の紫外線を照射した。その後、炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない部分を除去した。現像後、光学顕微鏡を用いて最小ホールパターン径を調べたところ、5μmであった。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で加熱し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ0.1N/20mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cm2に達する電界強度は2.4V/μm、発光面積は95%であった。
実施例12
実施例11と同様に、表2に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、ガラス基板上に電子放出源用ペーストの塗膜を形成した後、露光、現像を行ってホールパターンを作製し、さらに焼成して電子放出素子を得た。膜厚、表面うねり(Wa)、1mA/cm2に達する電界強度、発光面積、感度および解像度の測定結果を表2に示す。
比較例1
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ポリマーII、分散剤、溶剤を表3に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚および表面うねり(Wa)を測定した結果、膜厚は1.2μm、表面うねり(Wa)は0.40μmであった。
比較例2
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ガラス粉末I、ポリマーII、分散剤、溶剤を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上にITOをスパッタ法により成膜してカソード電極を形成した。得られたカソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚および表面うねり(Wa)を測定した結果、膜厚は2μm、表面うねり(Wa)は0.39μmであった。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で加熱し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ0.1N/20mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cm2に達する電界強度は4.1V/μm、発光面積は54%であった。
比較例3
比較例2と同様に、表3に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出素子を作製した。膜厚、表面うねり(Wa)、1mA/cm2に達する電界強度および発光面積の測定結果を表3に示す。
比較例4
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、ガラス粉末I、導電性粒子、ポリマーIII、光重合開始剤、光硬化性モノマー、紫外線吸収剤、分散剤、溶剤を表3に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
次に、ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により10mm角の塗膜を印刷した後、熱風乾燥機中85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペーストの膜厚は2.7μm、表面うねり(Wa)は0.42μmであった。乾燥後の電子放出源用ペーストに対して、ネガ型クロムマスク(5〜30μmφ)を用いて上面から50mW/cm2出力の超高圧水銀灯で2000mJ/cm2の紫外線を照射した。その後、炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない部分を除去した。現像後、光学顕微鏡を用いて最小ホールパターン径を調べたところ、15μmであった。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で加熱し、電子放出素子を得た。焼成後の膜に対して、剥離接着強さ0.1N/20mmのテープにより起毛処理を行った。1mA/cm2に達する電界強度は3.9V/μm、発光面積は51%であった。
実施例13〜16
実施例5と同様に、表4に示す組成比の電子放出源用ペーストおよび電子放出素子を作製した。膜厚、表面うねり(Wa)、1mA/cm2に達する電界強度および発光面積の測定結果を表4に示す。