JP5496655B2 - 多重ねじ転造ダイスの製造方法および多重ねじ転造ダイスならびにこれを用いた多重ねじボルトの製造方法 - Google Patents

多重ねじ転造ダイスの製造方法および多重ねじ転造ダイスならびにこれを用いた多重ねじボルトの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、緩み防止機能を有する多重ねじボルトの製造に用いられる多重ねじ転造ダイスの製造方法および多重ねじ転造ダイスならびにこれを用いた多重ねじボルトの製造方法に関する。
近年、緩み防止機能を有する種々のボルトおよびその製造方法が研究開発されている。例えば、本発明者らは、特許文献1において、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチが小さくかつピッチが異なる複数の細目ねじをそれぞれ展開したときに並目ねじ山の位相ずれに応じて並目ねじ山のn巻きごとに周期的に現れるそれぞれの細目ねじ山に対応する突起とを有する多重ねじ転造ダイスを用いて、多重ねじボルトを転造により製造する技術を開示している。
このような多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトでは、ボルトの並目ねじ部に並目ナットを螺合させた後、細目ねじ部に細目ナットをこの並目ナットに重ねて螺合させて、ボルトおよび両ナット間を締結させることができる。このような多重ねじボルト、並目ナットおよび細目ナットにより構成される多重ねじボルト締結体によれば、細目ナットと並目ナットのピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、両ナット間の接触面(座面)に反発力が働き、並目ナットが緩み方向に回転するのを防止することができる。
特許第3546211号公報
しかしながら、上記多重ねじ転造ダイスでは、並目ねじ山に重ねて細目ねじ山が形成されるというねじ山(溝)形状の特殊性から、ダイス本体端面近傍においてダイスが受ける応力が非常に高い。そのため、多重ねじ転造ダイスは、通常の単一ねじ転造用ダイスに比べて、細目ねじ加工部の耐久性、特に耐チッピング性が劣ってしまうという欠点がある。
そこで、本発明においては、細目ねじ加工部の耐久性を向上した多重ねじ転造ダイスの製造方法および多重ねじ転造ダイスならびにこれを用いた多重ねじボルトの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の多重ねじ転造ダイスの製造方法は、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスの製造方法であって、ねじ転造ダイス材料に、並目ねじ山の山頂部を平坦にした形状を有する第1の切削工具を、細目ねじ山に対応する突起の最大高さ以下の位置まで送り込み、ねじ転造ダイス材料の一部分を切削することにより、ねじ転造ダイス上の並目ねじ山の山部分を形成する工程と、この第1の切削工具による切削後のねじ転造ダイス材料に、細目ねじ山の形状を有する第2の切削工具を、ねじ転造ダイス上の並目ねじ山の谷部から細目ねじ山に対応する突起の形状に合わせて送り込み、ねじ転造ダイス材料を基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置まで切削することにより、ねじ転造ダイスの並目ねじ山の谷部分および細目ねじ山に対応する突起を形成する工程とを含む。
本発明によれば、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、細目ねじ山に対応する突起が形成された部分の底部が、基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされた本発明の多重ねじ転造ダイスが得られる。本発明の多重ねじ転造ダイスによれば、並目ねじ山と細目ねじ山の位相が一致する点およびその近傍で細目ねじ山の谷部の深さが規定よりも浅くなり、周期的に変化する谷部の断面積の割合が減少する。これにより、この多重ねじ転造ダイスにボルト材料を押し付けて転造を行うと、ボルト材料は、多重ねじ転造ダイスによって押圧されることにより、並目ねじ山の表面に沿って塑性変形しながら並目ねじ山の山部の間を埋めていき、並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起の表面に沿って塑性変形しながら突起の間を埋めていくが、本発明の多重ねじ転造ダイスによる転造時にはボルト材料が細目ねじ山の谷部に流れ込む際の転造荷重の変動が抑制されるので、耐チッピング性能が向上する。
ここで、第2の切削工具は、細目ねじ山の形状のチップを周縁部に備えた回転工具であることが望ましい。多重ねじ転造ダイスを第2の切削工具により切削する際、通常のバイトによって切削する場合には、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起を形成する際にその前後約0.25回転の位置からバイトを送り込む必要がある。そのため、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起を形成する際に、前後それぞれ約0.25回転分が切削されてしまい、チッピングを発生しやすい微小な切欠が多重ねじ転造ダイスに形成されてしまう。そこで、本発明では、細目ねじ山の形状のチップを周縁部に備えた回転工具により切削することで、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起を形成する際に、その突起の形成位置から回転工具を送り込むことを可能にする。これにより、チッピングを発生しやすい微小な切欠がほぼ消失するので、耐チッピング性能が大幅に向上する。
なお、本発明において、山部とは、並目ねじの有効径に対応する並目ねじ山の位置よりも高い部分をいい、谷部とは同位置よりも低い部分をいう。また、並目ねじとは、直径とピッチとの組み合わせが一般的で最も普通に使用されているねじをいう。また、細目ねじとは、並目ねじに比べて直径に対するピッチの割合が細かく、谷が浅いねじをいう。本発明の多重ねじ転造ダイスに係る細目ねじ山のピッチは、並目ねじ山のピッチ以下であればよい。また、それぞれのねじ山の形状は、三角ねじ、台形ねじ、角ねじ、鋸歯ねじ、丸ねじ、ポールねじやその他の特殊ねじなどのいずれでもよく、任意に組み合わせることも可能である。
また、本明細書中においては、つる巻き線の方向は一致するが、ピッチの異なる二つ以上のねじ山を同軸上に持つ、円柱体または円錐体のことを多重ねじという。多重ねじは、ピッチの異なるねじ山の数が2の場合、二重ねじ、3の場合、三重ねじ、4の場合、四重ねじ、・・・、nの場合、n重ねじと呼ぶ。多重ねじは、その最も大きなピッチのねじ山と最も小さなピッチのねじ山の比をa対nとするとき(aとnは最小の整数比)、大きなピッチのねじ山のピッチaごとにその多重ねじのねじ山の形状は周期的に変化する。
二重ねじボルトを製造する場合、多重ねじ転造ダイスとしての二重ねじ転造ダイスは、並目ねじを展開した並目ねじ山の一部と、この並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチの小さい細目ねじ(但し、並目ねじと細目ねじのピッチの比はa対bであり、aとbは最小の整数比である。)を展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のb巻きごとに周期的に現れる細目ねじ山の一部とを有するものとする。
また、多重ねじ転造ダイスが、さらに、並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部により形成される谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち細目ねじよりもさらにピッチの小さい最細目ねじ(但し、並目ねじと細目ねじと最細目ねじのピッチの比はa対b対cであり、aとbとcは最小の整数比である。)を展開したときに並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部との位相ずれに応じて並目ねじ山のc巻きごとに周期的に現れる最細目ねじ山の一部を有する三重ねじ転造ダイスとすることで、並目ねじ山の一部と細目ねじ山の一部と最細目ねじ山の一部とが形成された三重ねじボルトを製造することが可能である。
さらに、n重ねじボルトを製造する場合、多重ねじ転造ダイスとしてのn重ねじ転造ダイスは、並目ねじを展開した並目ねじ山の一部と、この並目ねじ山の谷部に並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち並目ねじよりもピッチが小さくかつピッチが異なる一つまたは複数の細目ねじ(但し、並目ねじと一つまたは複数の細目ねじのピッチの比はa対・・・対nであり、a,・・・,nは最小の整数比である。)をそれぞれ展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のn巻きごとに周期的に現れるそれぞれの細目ねじ山の一部とを有するものとする。これにより、並目ねじ山の一部と複数の細目ねじ山それぞれの一部とが形成された多重ねじボルトを製造することが可能である。
また、本発明の多重ねじ転造ダイスが、丸ダイス上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部を形成したものであれば、この多重ねじ転造ダイスを所定間隔で配置してそれぞれ同一方向に回転させ、この多重ねじ転造ダイス間にボルト材料を押圧させることにより、多重ねじボルトを製造することができる。
また、本発明の多重ねじ転造ダイスが、平ダイス上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部を形成したものであれば、この多重ねじ転造ダイスを所定間隔で配置し、一方を固定して他方を平行移動させるか、または互いに逆方向に平行移動させ、この多重ねじ転造ダイス間にボルト材料を押圧させることにより、多重ねじボルトを製造することができる。
なお、本発明の多重ねじ転造ダイスは、所定間隔で配置する複数の多重ねじ転造ダイスのうち少なくとも一つ配置すればよいが、すべての多重ねじ転造ダイスを本発明の多重ねじ転造ダイスとすることも可能である。多重ねじ転造ダイスのうち一つを本発明の多重ねじ転造ダイスとする場合、他の多重ねじ転造ダイスは並目ねじのみを展開した通常の並目ねじダイスとする。また、ロータリプラネタリ方式のボルトの製造方法または製造装置に適用する場合、本発明の多重ねじ転造ダイスは丸ダイスまたはセグメントダイスのいずれか一方に適用すればよく、両方に適用してもよい。
(1)ねじ転造ダイス材料に、並目ねじ山の山頂部を平坦にした形状を有する第1の切削工具を、細目ねじ山に対応する突起の最大高さ以下の位置まで送り込み、ねじ転造ダイス材料の一部分を切削することにより、ねじ転造ダイス上の並目ねじ山の山部分を形成する工程と、この第1の切削工具による切削後のねじ転造ダイス材料に、細目ねじ山の形状を有する第2の切削工具を、ねじ転造ダイス上の並目ねじ山の谷部から細目ねじ山に対応する突起の形状に合わせて送り込み、ねじ転造ダイス材料を基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置まで切削することにより、ねじ転造ダイスの並目ねじ山の谷部分および細目ねじ山に対応する突起を形成する工程とを含む多重ねじ転造ダイスの製造方法により、並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山の谷部に周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、細目ねじ山に対応する突起が形成された部分の底部が、基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされた本発明の多重ねじ転造ダイスが得られる。この多重ねじ転造ダイスによれば、並目ねじ山と細目ねじ山の位相が一致する点およびその近傍で細目ねじ山の谷部の深さが通常よりも浅くなり、周期的に変化する谷部の溝面積の割合が減少する。これにより、転造時にはボルト材料が細目ねじ山の谷部に流れ込む際の転造荷重の変動が抑制され、耐チッピング性能が向上する。
(2)第2の切削工具が、細目ねじ山の形状のチップを周縁部に備えた回転工具であることにより、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起を形成する際に、その突起の形成位置から回転工具を送り込むことが可能となる。これにより、チッピングを発生しやすい微小な切欠がほぼ消失するので、耐チッピング性能が大幅に向上する。
本発明の実施の形態における多重ねじボルトの製造装置を示す概略図である。 図1の平面図である。 図1の多重ねじ転造ダイスを示す斜視図である。 図3の多重ねじ転造ダイスの外周の転写パターンの一部を平面に展開した図である。 (A),(B),(C),(D),(E),(F)はそれぞれ図4のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図、D−D線断面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。 多重ねじ転造ダイスの製造手順を示すフロー図である。 (a)は多重ねじ転造ダイスの製造に用いる第1の切削工具を示す平面図、(b)は第2の切削工具を示す平面図である。 本実施形態における多重ねじ転造ダイスの製造の並目ねじ山加工工程を示す説明図である。 突起加工工程を示す説明図である。 大ピッチ二重ねじボルト製造用のねじ転造ダイスの加工例を示す図である。 単一の切削工具を用いた多重ねじ転造ダイスの製造工程を示す図である。 細目ねじ山に対応する突起を加工する際の第2の切削工具の移動経路を示す図であって、(a)は第2の切削工具として回転工具を用いた場合を示す図、(b)は切削工具のようなバイトを用いた場合を示す図である。 回転工具を用いて製造した多重ねじ転造ダイスの各位相における断面を示す図である。 バイトを用いて製造した多重ねじ転造ダイスの各位相における断面を示す図である。 図13および図14に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの図13および図14の(a)〜(h)の各位相に対応する位相の位置を示す図である。 図13に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの部分側面図である。 図14に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの部分側面図である。
符号の説明
1 多重ねじ転造ダイス
2 ボルト支持部
3 ボルト材料
4 転写パターン
5 並目ねじ山部
5a 谷部
5b 谷底
6 突起
6a 細目ねじ山の想像線
6b 谷底
6c 底部
10 回転工具
11 チップ
20 第1の切削工具
21 並目ねじ山
22 先端部
25 第2の切削工具
26 細目ねじ山
27 先端部
28 バイト
30 ダイス材料
40 回転砥石
50,51 多重ねじ転造ダイス
52 切欠
60,61 細目ねじ山
図1は本発明の実施の形態における多重ねじボルトの製造装置を示す概略図、図2は図1の平面図、図3は図1の多重ねじ転造ダイスを示す斜視図である。
図1および図2に示すように、本実施形態における多重ねじボルトの製造装置は、多重ねじボルトとしての二重ねじボルトを製造するものであって、所定間隔で対向配置した一対の多重ねじ転造ダイス1と、円柱状のボルト材料3を所定位置で支持するボルト支持部2とを備える。また、図3に示すように、多重ねじ転造ダイス1は、円筒形のダイス(丸ダイス)の外周に二重ねじボルト形成用の転写パターン4を形成したものである。
図4は図3の多重ねじ転造ダイスの外周の転写パターンの一部を平面に展開した図、図5の(A),(B),(C),(D),(E),(F)はそれぞれ図4のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図、D−D線断面図、E−E線断面図、F−F線断面図である。
図4に示すように、多重ねじ転造ダイス1の外周には、製造する二重ねじボルトに対応する転写パターン4が1周につき10個分繰り返して形成されている。多重ねじ転造ダイス1の外径は181.444mmであり、二重ねじボルトは呼び径M20で並目ねじピッチ2.5mm、細目ねじピッチ1.25mmである。したがって、二重ねじボルト1個分の転写パターン4は、多重ねじ転造ダイス1の外周1周360°のうち36°の範囲に形成されていることになる。図4のA−A線、B−B線、C−C線、D−D線、E−E線、F−F線は、それぞれ6°間隔で設けたものである。
図5の(A)〜(F)に示すように、多重ねじ転造ダイス1の転写パターン4(図5に実線で示す。)は、並目ねじを丸ダイスの表面に展開した基準のねじ山となる並目ねじ山の一部(以下、「並目ねじ山部」と称す。)5と、この並目ねじ山の谷部5aに周期的に形成された付加的な突起6とにより構成されている。突起6は、展開した並目ねじ山の元の並目ねじと同一方向のつる巻き線を持ち、並目ねじよりもピッチの小さい細目ねじを展開した細目ねじ山(図5に点線(想像線)6aで示す。)と並目ねじ山との位相ずれ7に応じて周期的な形状に形成されたものである。
ここで、並目ねじと細目ねじのピッチの比をa対b(但し、aとbは最小の整数比。図示例では2対1としている。)とすると、突起6は、細目ねじを展開したときに並目ねじ山との位相ずれに応じて並目ねじ山のb巻き(図示例では1巻き)ごとに周期的に現れる細目ねじ山の一部となる。図5の(A)〜(F)に示すように、想像線6aで示す細目ねじ山は、並目ねじ山との位相ずれ7によって、この並目ねじ山から突出した部分のみが、付加的な突起6として現れている。すなわち、突起6は、細目ねじ山そのものではなく、位相ずれ7に応じてずれた分だけ細目ねじ山の想像線6aに対応するように、並目ねじ山に対して付加的に突出させた突起である。並目ねじ山部5は、多重ねじ転造ダイス1の表面に現れている細目ねじ山の一部(突起6の表面)を除く部分である。
但し、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1では、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷底5bよりも浅い位置で平坦となるように底上げしている。このような多重ねじ転造ダイス1では、並目ねじ山と細目ねじ山の位相が一致する点(図5の(A)参照。)およびその近傍(図5の(B),(F)参照。)で細目ねじ山の谷部の深さが規定よりも浅くなり、周期的に変化する谷部の断面積の割合が減少している。この多重ねじ転造ダイス1により転造を行った場合、ボルト材料3が細目ねじ山の谷部に流れ込む際の転造荷重の変動が抑制されるので、耐チッピング性能が向上している。なお、この底部6cの底上げ高さdhは、基準となる細目ねじ山の想像線6aのねじ山高さHに対して5〜50%となるようにする。また、この底部6cとねじ部斜面との接合部は工具Rの曲面とする。
ところで、図5の(A)〜(F)に示す例では、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bと、突起6に対応させた細目ねじ山の想像線6aの谷底6bとの位置を一致させているが、これに限るものではない。例えば、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1により製造された二重ねじボルト(図示せず。)の並目ねじ山に並目ナットを螺合させると、多重ねじ転造ダイス1の突起6の分だけ接触面積が減ることになるが、突起6に対応させた細目ねじ山の想像線6aの谷底6bの位置を図5の下方へ移動させることにより、二重ねじボルトの並目ねじ山と並目ナットとの接触面積を増やすことができる。なお、この場合においても、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷底5bよりも浅い位置で平坦となるように底上げする。
なお、通常のねじ転造ダイスであれば、その表面に並目ねじ山または細目ねじ山のいずれか一方のみが形成されているため、並目ねじナットまたは細目ねじナットを嵌めることができる。しかし、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1の場合、並目ねじナットおよび細目ねじナットを嵌めようとしても嵌らない。多重ねじ転造ダイス1の表面に、特許文献1に記載のように従来の並目ねじ山と細目ねじ山とが一体に形成されたもの(具体的な構造は明らかでないが)ではなく、並目ねじ山部5とこの並目ねじ山部5の元の並目ねじ山の谷部5aに周期的な形状の突起6とが形成されたものだからである。
次に、この多重ねじ転造ダイス1の製造方法について説明する。図6は多重ねじ転造ダイス1の製造手順を示すフロー図、図7(a)は多重ねじ転造ダイス1の製造に用いる第1の切削工具を示す平面図、(b)は第2の切削工具を示す平面図、図8は本実施形態における多重ねじ転造ダイス1の製造の並目ねじ山加工工程を示す説明図、図9は突起加工工程を示す説明図である。
まず、切削工具について説明する。
図7(a)に示すように、第1の切削工具20は、その先端部(並目ねじ山21の山頂部)22を平坦にした形状を有するバイトである。なお、同図において破線23は、通常の多重ねじ転造ダイスに並目ねじ山を形成する際に用いられるバイトの形状を示す想像線である。破線23によって、本実施形態における第1の切削工具20は、通常の並目ねじ山の形状を有するバイトの先端部を、所要形状(平坦)に切り欠いたものであることが分かる。
図7(b)に示すように、第2の切削工具25は、細目ねじ山26の形状を有するバイトである。この第2の切削工具25の先端部(細目ねじ山26の山頂部)27には、必要に応じて曲面加工が施してある。
図6に示すように、多重ねじ転造ダイス1の製造に際して、まず、ワークとしてのダイス材料30(図8参照。)の旋削を行い(ステップS11)、続いて並目ねじ山加工工程(ステップS12)および突起加工工程(ステップS13)を行う。
ステップS12の並目ねじ山加工工程では、第1の切削工具20を用いる。図8に示すように、並目ねじ山加工工程では、ダイス材料30に、第1の切削工具20を、図5に示す突起6の最大高さ以下の位置まで送り込み、並目ねじ山のピッチで図8の矢印で示す工具進行方向に進行させて、ダイス材料30の一部分を切削する。これにより、並目ねじ山部5の一部分が形成される。
ステップS13の突起加工工程では、第2の切削工具25を用いる。突起加工工程では、まず、第1切削工程において切削した後のダイス材料30に、図9の(a)、(b)、(c)、(d)、(le)、(lf)、(lg)、(lh)、(li)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)に示すように、第2の切削工具25を、並目ねじ山部5の一部分の谷部5aから図5に示す突起6の形状に合わせて送り込み、細目ねじ山のピッチで図9の矢印で示す工具進行方向に進行させて、ダイス材料30を切削する。このとき、第2の切削工具25は、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bよりも浅い位置で平坦となるように底上げするため、底部6cの深さ以上には送り込まないようにする。
これにより、並目ねじ山部5の残りの部分および突起6が形成されるが、図9の(a)、(b)、(c)、(d)、(le)、(lf)、(lg)、(lh)、(li)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)に示す工程では、底部6cの左側面しか加工されておらず、平坦となっていないため、再び第2の切削工具25を、図9の(re)、(rf)、(rg)、(rh)、(ri)に示すように送り込み、底部6cの右側面加工を行う。これにより、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bよりも浅い位置で平坦となる。
その後、(1)焼き入れ、(2)焼き戻しの熱処理工程(ステップS14)および(1)内径研削、(2)外径、端面研削の形状研削工程(ステップS15)を行った後、(1)並目ねじ山研削、(2)突起研削の研削工程(ステップS16)を行う。なお、並目ねじ山研削工程では、第1の切削工具20と同様の形状の研削工具を用い、突起研削工程では、第2の切削工具25と同様の形状の研削工具を用いる。これにより、図5に示す断面形状を有した多重ねじ転造ダイス1が得られる。
なお、ピッチの大きな二重ねじボルト(以下、「大ピッチ二重ねじボルト」と称す。)の製造に用いる多重ねじ転造ダイスを製造する際、ピッチの大きさによっては図10の(a)、(b)に示すように2回位相を変えて第1の切削工具20により切削を行うと加工性が良くなる。なお、図10の(a)の工程と(b)の工程の順序はどちらでもよい。
上記構成の多重ねじ転造ダイスを用いて二重ねじボルトを製造するには、円柱状のボルト材料3をボルト支持部2上に配置し、このボルト材料3を一対の多重ねじ転造ダイス1間に押圧させ、一対の多重ねじ転造ダイス1をそれぞれ同一方向(例えば、図1に矢印で示すように右回り)に回転させる。
ここで、ボルト材料3は、多重ねじ転造ダイス1によって押圧されることにより、並目ねじ山部5の表面に沿って塑性変形しながら並目ねじ山部5の谷部5aを埋めていき、並目ねじ山部5の谷部5aに周期的に形成された細目ねじ山に対応する突起6の表面に沿って塑性変形しながら谷部5aを埋めていく。
これにより、外周表面に、図5の多重ねじ転造ダイス1の転写パターン4の逆パターンの溝(並目ねじ山部5および突起6に相当する溝)が形成された二重ねじボルトが得られる。
このように、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1によれば、ボルト材料3の外周表面上に並目ねじ山の一部および細目ねじ山の一部が一工程で一度に転写され、並目ねじ部の一部と細目ねじ部の一部とが形成された二重ねじボルトが得られる。この得られた二重ねじボルトは、従来の切削により形成した二重ねじボルトと同様、並目ねじ山が形成されたうえで、細目ねじ山がえぐり取られた状態のものとなる。したがって、得られた二重ねじボルトには並目ねじナットと細目ねじナットとを嵌めることができる。
また、本実施形態における多重ねじ転造ダイスは単一の切削工具を用いて製造することも可能である。図11は単一の切削工具を用いて多重ねじ転造ダイスを製造する場合の製造工程を示す図である。
図11の例では、前述のように二つのバイトによる切削加工を行わずに単一の切削工具としての回転砥石40を用いている。多重ねじ転造ダイス1の製造に際し、まず、ダイス材料30を熱処理し、並目ねじ山部5および突起6以外の加工を終了した後、単一の回転砥石40によって研削加工を行う。
研削加工は、回転砥石40を図11の(a)〜(h)のそれぞれに示すように規則的に半径方向に送り込みながら、指定された細目ねじ山のピッチの進行速度でダイス材料30の表面に沿って進行させることにより行う。このとき、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bよりも浅い位置で平坦となるように底上げするため、回転砥石40を底部6cの深さ以上には送り込まないようにするのは前述の通りである。こうして、ダイス材料30に突起6を残して並目ねじ山部5を切削することにより、前述の多重ねじ転造ダイス1が得られる。
このように単一の回転砥石40を用いて加工を行う場合、二つのバイトによる切削加工が不要であり、この切削加工がないことによって位相合わせも不要となる。
また、本実施形態における多重ねじ転造ダイスは、第2の切削工具25に代えて、細目ねじ山の形状のチップを周縁部に備え、切削するダイス材料の回転中心と平行な軸を中心として回転する回転工具を用いることが望ましい。図12は細目ねじ山に対応する突起6を加工する際の第2の切削工具の移動経路を示す図であって、(a)は第2の切削工具として回転工具を用いた場合を示す図、(b)は切削工具25のようなバイトを用いた場合を示す図である。なお、図12ではダイス材料30の表面を平面に展開して示している。
図12の(a)に示すように、細目ねじ山の形状のチップ11を周縁部に備えた回転工具10によってダイス材料30を切削する場合には、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起6を形成する際に、突起6の形成開始位置から回転工具10をダイス材料30の周面に対して直角に送り込むことができる(図のA方向)。そして、回転するダイス材料30の周面をこの位置を起点として切削するので、ダイス材料30は突起6の形成位置の前後で回転工具10のチップ11の回転半径R分のみ切削される。
一方、図12の(b)に示すように、ダイス材料30を通常のバイト28によって切削する場合には、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起6を形成する際に、突起6の形成開始位置よりも約0.25回転前の位置からバイト28を送り込む必要がある。形成終了位置も同様である。そのため、ボルト材料の1回転分の細目ねじ山に対応する突起6を形成する際に、前後それぞれ約0.25回転分が切削されてしまい、チッピングを発生しやすい微小な切欠が多重ねじ転造ダイスに形成されることになる。
図13は回転工具10を用いて製造した多重ねじ転造ダイスの各位相における断面を示す図、図14はバイト28を用いて製造した多重ねじ転造ダイスの各位相における断面を示す図、図15は図13および図14に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの図13および図14の(a)〜(h)の各位相に対応する位相の位置を示す図、図16は図13に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの部分側面図、図17は図14に示す多重ねじ転造ダイスにより製造される多重ねじボルトの部分側面図である。
図13の(d),(f)と図14の(d),(f)とを比較すると分かるように、バイト28を用いて製造した多重ねじ転造ダイス51の場合には、図に現れるような微小な切欠52が形成されるが、回転工具10を用いて製造した多重ねじ転造ダイス50の場合には極わずかな切欠(図には現れていない)しか形成されない。回転工具10を用いた場合、前述のように突起6の形成開始位置から回転工具10をダイス材料30の周面に対して直角に送り込むため、この位置で回転工具10により削られる分しか切欠として現れないからである。
一方、バイト28を用いた場合には、突起6の形成開始位置の前後約0.25回転の位置からバイト28を送り込むため、この前後約0.25回転分の切欠52が現れる。この切欠52は製造された多重ねじ転造ダイス51を用いて多重ねじボルトを製造した場合、図17に示すように細長い余分な細目ねじ山61として現れる。そのため、バイト28を用いて製造した多重ねじ転造ダイス51の場合には、この微小な切欠52の部分でチッピングを発生しやすい。
しかしながら、回転工具10を用いて製造した多重ねじ転造ダイス50の場合には、このチッピングを発生しやすい微小な切欠52がほぼ消失するので、図16に示すようにごく一部にしか余分な細目ねじ山60は現れず、耐チッピング性能が大幅に向上する。なお、回転工具10を用いて製造する場合には、突起6の形成開始位置(図12の(a)に示す回転工具10の接触位置)よりも前の位置(図の右側)から送り込んだ場合でも、この図12の(a)に示す回転工具10の接触位置から前に送り込んだ位置までの長さの分だけ切欠52が増えるだけである。したがって、この突起6の形成開始位置は調整可能である。
なお、本発明の多重ねじ転造ダイスは、上述の製造方法以外の方法により製造することも可能であり、要するに、本実施形態における多重ねじ転造ダイス1のように、突起6が形成された部分の底部6cが、基準となる並目ねじ山の谷部5aの谷底5bよりも浅い位置で平坦となるように底上げされた形状の多重ねじ転造ダイスであれば耐チッピング性能を向上させることが可能である。
実施例として、M20の基準細目ねじ山高さH=0.767mmに対して底上げ高さをdh=0.065mmとして、底部6cの底上げ率が0.065/0.767×100≒8.5%の多重ねじ転造ダイスを製造した。なお、このときの回転工具10に備えた細目ねじ山形状のチップ11の先端Rは0.2mmであった。同様に、底上げ高さをdh=0.25mmとして底上げ率32.6%、dh=0.35mmとして底上げ率45.6%の多重ねじ転造ダイス1を製造した。このように底上げ率を大きくしていくと、底部6cが底上げ率に比例して長くなるので、工具先端Rをより大きくとることができる。
すなわち、これらの多重ねじ転造ダイス1では、底部6cの底上げ高さdhが、基準となる細目ねじ山の想像線6aのねじ山高さHに対して5〜50%の範囲にある。このような多重ねじ転造ダイス1では、多重ねじ転造ダイス1の谷部の周期的に変化する断面積の割合が減少していることから、ボルト材料3が細目ねじ山の谷部に流れ込む際の材料の流動が滑らかであった。すなわち、先に材料が充填された部分と遅れて充填される部分との不均衡が減少し、応力集中部が減少するのでダイスにかかる転造荷重が減少して、多重ねじ転造ダイス1の耐チッピング性能が向上した。このように材料の流動を滑らかにすることは谷部に限らず山部に対しても同様な効果がある。
この多重ねじ転造ダイス1を用いて製造された多重ねじボルトは、並目ねじ部に並目ナットを螺合させた後、細目ねじ部に細目ナットをこの並目ナットに重ねて螺合させて、ボルトおよび両ナット間を締結させることに何ら問題はなく使用できた。
本発明の多重ねじ転造ダイスの製造方法および多重ねじ転造ダイスならびにこれを用いた多重ねじボルトの製造方法は、緩み防止機能を有する多重ねじボルトの製造に有用である。特に、本発明は、細目ねじ加工部の耐久性を向上した多重ねじ転造ダイスとして好適である。

Claims (5)

  1. 並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部(以下、「ダイス谷部」と称す。)に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起(以下、「ダイス突起」と称す。)とを備えた多重ねじ転造ダイスの製造方法であって、
    ねじ転造ダイス材料に、並目ねじ山の山頂部に当たる部分を平坦にした形状を有する第1の切削工具を、前記ダイス突起の前記ダイス谷部の底からの最大高さよりも浅い位置または最大高さの位置まで送り込み、前記ねじ転造ダイス材料の一部分を切削することにより、前記ねじ転造ダイス上の並目ねじ山の山部分を形成する工程と、
    前記切削後のねじ転造ダイス材料に、細目ねじ山の形状を有する第2の切削工具を、前記ねじ転造ダイス上のダイス谷部から前記ダイス突起の形状に合わせて送り込み、前記ねじ転造ダイス材料を基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置まで切削することにより、前記ねじ転造ダイスの並目ねじ山の谷部分、および、底部が前記基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされた前記ダイス突起を形成する工程と
    を含む多重ねじ転造ダイスの製造方法。
  2. 前記第2の切削工具は、細目ねじ山の形状のチップを周縁部に備えた回転工具であることを特徴とする請求項1記載の多重ねじ転造ダイスの製造方法。
  3. 並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起とを備えた多重ねじ転造ダイスにおいて、
    前記細目ねじ山に対応する突起が形成された部分の底部は、基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされたものであることを特徴とする多重ねじ転造ダイス。
  4. 並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起とを備え、前記細目ねじ山に対応する突起が形成された部分の底部が、基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされた多重ねじ転造ダイスにボルト材料を押し付けて転造する多重ねじボルトの製造方法。
  5. 並目ねじを展開した並目ねじ山の山部と、細目ねじを展開した細目ねじ山と前記並目ねじ山との位相ずれに応じて前記並目ねじ山の谷部に周期的に形成された前記細目ねじ山に対応する突起とを備え、前記細目ねじ山に対応する突起が形成された部分の底部が、基準となる並目ねじ山の谷底よりも浅い位置で平坦となるように底上げされた多重ねじ転造ダイスにボルト材料が押し付けられて転造された多重ねじボルト。
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