JP5495141B2 - スティックスリップ現象の予兆検出方法、予兆検出装置、及び該予兆検出方法を用いた管の冷間抽伸方法 - Google Patents

スティックスリップ現象の予兆検出方法、予兆検出装置、及び該予兆検出方法を用いた管の冷間抽伸方法 Download PDF

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Description

本発明は、スティックスリップ現象の予兆検出方法、予兆検出装置、及び該予兆検出方法を用いた管の冷間抽伸方法に関する。
従来より、鋼管等の管を加工して細径管にする方法として、管内にプラグを入れ、ダイスを通して管を引っ張って抽伸する冷間抽伸加工が行われている。抽伸機による管の抽伸加工時には、その加工のメカニズム上、抽伸中にスティックスリップ現象が発生する場合がある。
スティックスリップ現象について、図1を参照して説明する。
管T内のプラグ3は、プラグ支持棒4の先端に設けられ、プラグ支持棒4は後端が抽伸機の架台に固定されている。抽伸時には、管Tの先端に取り付けられたキャリッジ(図示せず)が管Tを抽伸方向に引っ張る。すると、管Tとの摩擦力によってプラグ3が挟持され、引っ張られて抽伸方向に移動する。プラグ3が引っ張られて抽伸方向に移動すると、プラグ支持棒4が抽伸方向に伸び、プラグ支持棒4の弾性による収縮力によってプラグ3には引き戻す力が働く。そして、プラグ3の抽伸方向への移動距離が大きくなると、プラグ支持棒4の弾性による収縮力が大きくなり、管Tが摩擦力によってプラグ3を挟持出来なくなると、プラグ3と管Tとの間に滑りが生じてプラグ3はプラグ支持棒4側に引き戻される。そして、プラグ3が引き戻されてプラグ支持棒4の収縮力が小さくなると、プラグ3は、また管Tに引っ張られて抽伸方向に移動する。このようにしてプラグ3の抽伸方向への移動とプラグ支持棒4側への引き戻しが繰り返されることにより、プラグ3は抽伸方向に振動する。スティックスリップ現象時には、このようにして、抽伸中にプラグ3と管Tとの間の摩擦と滑りとによってプラグ3が抽伸方向に大きく振動し、音が発生する。このスティックスリップ現象は、抽伸速度が速い場合や管とプラグとの間の潤滑性が悪い場合等に発生し易い。
このスティックスリップ現象が発生すると、抽伸後の管の外径、内径寸法が管の長手方向で変動する寸法不良が発生するのみならず、スティックスリップ現象が著しい場合には割れ疵などが発生する。
スティックスリップ現象が発生するとプラグ等の振動による音が生じるので、作業者は、抽伸中にスティックスリップ現象の音を聞くと抽伸速度を遅くし、以後の同一ロットの管については、遅くした抽伸速度以下の速度で抽伸すること等によりスティックスリップ現象の発生を防止している。このために、スティックスリップ現象の発生を危惧するあまり、抽伸速度を必要以上に遅くするおそれがあり、生産効率が低下する。
また、スティックスリップ現象の検出を作業者の聴覚に頼っているので、検出の精度が十分でなく、また、作業者間で検出力に差があるので、スティックスリップ現象が発生しても対応が遅れるおそれがある。このため、従来から、上記のスティックスリップ現象を検出する方法が種々提案されている。
例えば、ダイスにAEセンサーを取り付け、所定の周波数の振動を検出したときにスティックスリップ現象が発生したと判断する抽伸方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、管を引っ張るキャリッジの歪を測定し、歪変化量の周波数解析結果からスティックスリップ現象の発生を判断する検出方法が提案されている(特許文献2参照)。
上記のように音で判断する方法や特許文献1及び2の方法によって、スティックスリップ現象の発生を一応検出できる。しかしながら、スティックスリップ現象が発生した時点で管が寸法不良となっているので、スティックスリップ現象が発生する前の段階で予兆を検出することが望ましい。予兆を検出し、スティックスリップ現象が発生する前に抽伸速度を遅くすればスティックスリップ現象の発生を防止することができる。
特開平1−170513号公報 特開平10−225712号公報
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、スティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出方法、予兆検出装置、及び該予兆検出方法を用いた管の冷間抽伸方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために本発明者が鋭意検討したところ、管の寸法不良や音の発生を伴うスティックスリップ現象が発生する前の段階で、プラグが抽伸方向にスティックスリップ現象発生時よりも小さい振動幅で振動することを知見した。そこで、このスティックスリップ現象の発生前のプラグの振動を検出する方法を検討したところ、プラグの振動に対応して、プラグに繋がっているプラグ支持棒における抽伸方向の荷重(引張荷重)が変動することを知見した。このため、プラグ支持棒における抽伸方向の荷重の変動に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出できることを見出した。
特許文献1のダイスに取り付けたAEセンサーによる振動の検出では、次の理由により、スティックスリップ現象の予兆(以下、スティックスリップ現象の予兆を単に予兆とも略す)を検出するのが難しいと考えられる。
ダイスに取り付けたAEセンサーによっても、特許文献1での本来の検出対象であるダイスの振動と共に、スティックスリップ現象の発生前のプラグの小さな振動が検出されていると思われる。しかしながら、ダイスに取り付けたAEセンサーによる振動の検出では、スティックスリップ現象の発生前のプラグの小さな振動のみならず、ダイスの振動、管を引っ張るキャリッジによる振動、周囲の他の設備による振動、及び工場建屋の振動等まで一緒に検出してしまうので、スティックスリップ現象の発生前のプラグの振動幅の小さい振動を他の振動から見分けることが難しい。
また、特許文献2の検出方法では、次の理由により、予兆を検出するのが難しいと考えられる。
特許文献2の検出方法では、管を引っ張るキャリッジの歪を測定している。キャリッジの歪の測定は、特に冷間抽伸がチェーン方式の場合にはキャリッジや他の設備の振動等の影響を受け易い。そして、例えば、振動の波形が特許文献2の図2で示されるような波形の場合、周波数解析を実施してもノイズが大きいので誤判定するおそれがある。更に、スティックスリップの予兆が発生した場合に、キャリッジが引っ張っている管は、プラグとの間で滑りと摩擦による狭持とを繰り返しながらプラグに接しているだけであり、管はプラグを常には狭持していないので、管を引っ張るキャリッジの歪にはプラグの振動の影響が直接には現れない。従って、キャリッジの歪を測定しても、スティックスリップ現象の発生前のプラグの振動幅の小さい振動を検出するのは困難と考えられる。
本発明者は、上述した知見に基づき本発明を完成した。すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、ダイスと、該ダイス内に設けられたプラグと、該プラグを支持するプラク支持棒とを備えた抽伸機による管の冷間抽伸時に、スティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出方法であって、抽伸を開始した後予め定めた0.4秒以下の荷重測定時間において、前記プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重を測定する荷重測定ステップと、前記荷重測定ステップで得られた荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出ステップとを含み、前記予兆検出ステップにおいて、前記荷重測定値を10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析し、得られた周波数スペクトルのピーク強度が所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断することを特徴とするスティックスリップ現象の予兆検出方法を提供する。
本発明において、荷重測定ステップの測定開始時点と測定終了時点は、例えば、次のようにして定める。
スティックスリップ現象の予兆が抽伸開始後のどの時点で発生し易いかを事前に調査して取得する。予兆が発生し易い時点の分布である発生分布が、広範囲に及ぶ場合には、抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間の任意の時間に荷重測定ステップと予兆検出ステップとを複数回行うように荷重測定ステップの測定開始時点と測定終了時点を定めればよい。即ち、測定開始時点と測定終了時点との対を抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間の任意の時間に複数対定めればよい。例えば、抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間に、常に、荷重測定ステップと予兆検出ステップとを繰り返して行うように測定開始時点と測定終了時点との対を複数対定めれば、予兆を漏れなく検出することが期待できる。この測定開始時点から測定終了時点までの間(以下、測定開始時点から測定終了時点までの間を荷重測定時間ともいう)は短くすることが望ましい。スティックスリップ現象の予兆が発生した場合に、予兆検出ステップによって直ぐに予兆を検出しスティックスリップ現象の防止処置を行えるからである。
また、予兆が発生し易い時点の分布である発生分布が短い時間範囲内に入るのであれば、荷重測定ステップと予兆検出ステップとを1回として、その発生分布が測定開始時点から測定終了時点までの間に入るように、荷重測定ステップの測定開始時点と測定終了時点を定めればよい。このとき、荷重測定時間中に予兆が検出された場合にスティックスリップ現象が発生するまでの間にスティックスリップ現象の防止処置を行えるように、測定終了時点は抽伸を開始する時点に近づけることが望ましい。
また、予兆検出ステップにおいて、荷重測定値を所定の周波数帯域について周波数解析することによって予兆を検出する場合には、検出の精度を良くするために、荷重測定時間は短く定めることが望ましい。長い荷重測定時間と短い荷重測定時間とで同じ予兆を捕えた場合に、短い荷重測定時間で捕えた方が、周波数解析の対象とする荷重測定値中での全データに対する予兆に関するデータの割合が増えるからである。
以上の観点より、本発明では、抽伸を開始した後の0.4秒以下の荷重測定時間において荷重を測定している。
本発明で測定するプラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重には、管を引っ張るキャリッジによる振動や周囲の他の設備による振動や工場建屋の振動は、影響し難い。これは、管を引っ張るキャリッジや他の設備や工場建屋が振動すると、その振動によって、プラグ支持棒は、プラグ支持棒の後端を固定している架台と共に振動し、プラグ支持棒全体が伸縮を伴わずに振動方向に変位する。このように、キャリッジ等が振動しても、プラグ支持棒が伸縮しないので、プラグ支持棒中には、抽伸方向の荷重が発生しない。従って、プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重には、管を引っ張るキャリッジによる振動や周囲の他の設備による振動や工場建屋の振動は、影響し難い。
また、本発明では、振動源であるプラグに直接繋がっているプラグ支持棒に掛かる荷重を測定しているので、スティックスリップ現象の発生前のプラグの振動幅の小さい振動を検出することができる。
これらのことにより、スティックスリップ現象の発生前の予兆を、本発明の方法によって検出できると考えられる。
また、本発明では、前記予兆検出ステップにおいて、前記荷重測定値を10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析し、得られた周波数スペクトルのピーク強度が所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する。
重測定値を周波数解析する周波数帯域の範囲は、例えば、事前に抽伸条件を変化させて強制的にスティックスリップ現象を発生させ、そのスティックスリップ現象の予兆時の荷重測定値を周波数解析し、予兆時のプラグの振動がどのような周波数の振動を有しているかを調べて設定すればよい。また、周波数スペクトルのピーク強度の所定の基準値についても、強制的に発生させたスティックスリップ現象の予兆時の荷重測定値を事前に調べて設定すればよい。また、スティックスリップ現象を強制的に発生させずに、通常の抽伸条件での冷間抽伸加工時に荷重測定値を常に測定し、スティックスリップ現象が発生した場合のその発生前の荷重測定値から周波数解析する周波数帯域の範囲及び周波数スペクトルのピーク強度の所定の基準値を求めてもよい。
以上の観点より、本発明では、10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析している。
本発明によれば、荷重測定値を所定の周波数帯域について周波数解析して予兆の発生を判断するので、予兆時のプラグの振動数以外の振動数を有するノイズに影響され難くなり、予兆の発生を精度よく判断することが期待できる。
また、本発明は、請求項1に記載の予兆検出方法によってスティックスリップ現象の予兆を検出したときに、前記抽伸機による管の抽伸速度を低下させることを特徴とする管の冷間抽伸方法を提供する。
スティックスリップ現象の予兆を検出したときに抽伸速度を低下させるので、スティックスリップ現象を発生し難くすることができる。
また、前記課題を解決するため、本発明は、ダイスと、該ダイス内に設けられたプラグと、該プラグを支持するプラク支持棒とを備えた抽伸機によって管を冷間抽伸するときのスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出装置であって、抽伸を開始した後の0.4秒以下の荷重測定時間において、前記プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重を測定する荷重測定部と、前記荷重測部により測定した荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出部とを備え、前記予兆検出部は、前記荷重測定部が測定した荷重測定値を10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析する周波数解析部と、前記周波数解析部によって得られた周波数スペクトルのピーク強度が所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する判断部とを具備することを特徴とするスティックスリップ現象の予兆検出装置を提供する。
本発明によれば、管の冷間抽伸時にスティックスリップ現象の予兆を検出できる。
図1は、スティックスリップ現象を説明する図である。 図2は、本発明の実施形態に係る予兆検出方法に用いる抽伸機及びスティックスリップ現象の予兆検出装置の一構成例の概略図である。 図3は、予兆検出装置で測定したプラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重の推移図である。 図4は周波数スペクトルの図である。図4(a)は、図3に示される通常状態での荷重測定値を周波数解析して得られて周波数スペクトルの図であり、図4(b)は、図3に示される予兆状態での荷重測定値を周波数解析して得られて周波数スペクトルの図である。 図5は、振動計で測定した抽伸方向の加速度の推移図である。 図6は、周波数スペクトルの図である。図6(a)は、図5に示される通常状態での加速度測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルの図であり、図6(b)は、図5に示される予兆状態での加速度測定値を周波数解析して得られて周波数スペクトルの図である。
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の実施形態に係るスティックスリップ現象の予兆検出方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る予兆検出方法に用いる抽伸機及びスティックスリップ現象の予兆検出装置の一構成例の概略図である。
鋼管Tを抽伸する抽伸機1は、ダイス2と、ダイス2内に設けられたプラグ3と、プラグ3を支持するプラク支持棒4とを備えている。プラグ3は、プラグ支持棒4の先端に設けられ、プラグ支持棒4の後端は、抽伸機1の架台に固定ピン5で固定されている。
そして、抽伸機1でのスティックスリップ現象の予兆を予兆検出装置6で検出する。
予兆検出装置6は、プラグ支持棒4に掛かる抽伸方向の荷重を測定する荷重測定部61と、荷重測定部61が測定した荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出部62とを備えている。予兆検出装置6は、また、予兆検出部62等の動作を制御する制御部63と、予兆の検出を報知する報知部64とを備えている。
荷重測定部61は、例えば、プラグ支持棒4に貼り付けられる歪ゲージ61aと、歪ゲージ61aが測定した歪量を荷重に演算する荷重演算部61bとを具備しており、荷重演算部61bは演算した荷重測定値を予兆検出部62に送信する。荷重測定部61は、このような構成に限られず、例えばロードセルでもよい。本実施形態では、荷重測定部61が歪ゲージ61aと荷重演算部61bとを具備している場合を例として説明する。
予兆検出部62は、例えば、荷重測定部61が測定した荷重測定値を所定の周波数帯域について周波数解析する周波数解析部62aと、周波数解析によって得られる周波数スペクトルからスティックスリップ現象の予兆の発生を判断する判断部62bとを具備している。
周波数解析部62aには、荷重測定値を周波数解析する周波数帯域の範囲が、抽伸条件に応じて記憶されている。荷重測定値を周波数解析する周波数帯域の範囲は、例えば、事前にスティックスリップ現象の予兆時の荷重測定値を周波数解析し、予兆時のプラグ3の振動がどのような周波数の振動を有しているかを調べて設定する。
判断部62bは、得られた周波数スペクトルのピーク強度が、所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する。判断部62bには、予兆が発生したと判断する所定の基準値が、抽伸条件に応じて記憶されている。この所定の基準値は、例えば、スティックスリップ現象の予兆時の荷重測定値を事前に調べて設定する。
制御部63は、予兆検出部62が予兆を検出すると、予兆を検出したことを報知部64に報知させる。報知部64は、例えば、音、音声、及び表示等によって予兆を検出したことを作業者に報知する。
次に、スティックスリップ現象の予兆を検出する方法について説明する。
鋼管Tを抽伸機1にセットし、キャリッジ(図示せず)によって鋼管Tの先端を引っ張り、抽伸を開始する(開始ステップ)。
抽伸を開始した後に、予め定めた測定開始時点から測定終了時点までの間、前記プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重(引張荷重)を測定する(荷重測定ステップ)。
測定開始時点と測定終了時点は、例えば、次のようにして定める。
スティックスリップ現象の予兆が抽伸開始後のどの時点で発生し易いかを事前に調査して取得する。予兆が発生し易い時点の分布である発生分布が、広範囲に及ぶ場合には、抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間の任意の時間に荷重測定ステップと予兆検出ステップとを複数回行うように荷重測定ステップの測定開始時点と測定終了時点を定めればよい。即ち、測定開始時点と測定終了時点との対を抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間の任意の時間に複数対定めればよい。例えば、抽伸の開始時点から抽伸の終了時点までの間に、常に、荷重測定ステップと予兆検出ステップとを繰り返して行うように測定開始時点と測定終了時点との対を複数対定めれば、予兆を漏れなく検出することが期待できる。この測定開始時点から測定終了時点までの間は短くすることが望ましい。スティックスリップ現象の予兆が発生した場合に、予兆検出ステップによって直ぐに予兆を検出しスティックスリップ現象の防止処置を行えるからである。
また、予兆が発生し易い時点の分布である発生分布が短い時間範囲内に入るのであれば、荷重測定ステップと予兆検出ステップとを1回として、その発生分布が測定開始時点から測定終了時点までの間に入るように、荷重測定ステップの測定開始時点と測定終了時点を定めればよい。このとき、荷重測定時間中に予兆が検出された場合にスティックスリップ現象が発生するまでの間にスティックスリップ現象の防止処置を行えるように、測定終了時点は抽伸を開始する時点に近づけることが望ましい。
測定開始時点と測定終了時点は、予め制御部63に記憶させておく。抽伸機1が抽伸を開始した時点を測定開始時点と測定終了時点との計時の基準とする場合には、抽伸機1が抽伸を開始した時に、抽伸機1から抽伸開始信号を制御部63に送信し、制御部63は抽伸開始信号を受信したときを基準として測定開始時点と測定終了時点とをカウントするようにする。
荷重測定部61bは、歪ゲージ61aが測定したプラグ支持棒4の歪量からプラグ支持棒4に掛かる荷重を一定の間隔で演算する。そして、演算して得た荷重測定値を順次、周波数解析部62aに送信する。
続いて、荷重測定ステップで得られた荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する(予兆検出ステップ)。
荷重測定値に基づく予兆の検出は、例えば次のように行う。
制御部63は、測定開始時点から測定終了時点までの間に荷重演算部61bが送信した荷重測定値を、周波数解析部62aに、所定の周波数帯域について周波数解析させる。そして、判断部62bは、周波数解析部62aによる周波数解析によって得られた周波数スペクトルのピーク強度が、所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する。
この場合、検出の精度を良くするために、測定開始時点から測定終了時点までの間である荷重測定時間は短く定めることが望ましい。長い荷重測定時間と短い荷重測定時間とで同じ予兆を捕えた場合に、短い荷重測定時間で捕えた方が、周波数解析の対象とする荷重測定値中での全データに対する予兆に関するデータの割合が増えるからである。荷重測定時間は、例えば0.4秒以下に設定する。
判断部62bは、スティックスリップ現象の予兆が発生したと判断すると、予兆を検出したことを示す信号を制御部63に送信する。
図3は、予兆検出装置6で測定したプラグ支持棒4に掛かる抽伸方向の荷重測定値の推移図の例である。横軸が抽伸時間を示し、縦軸がプラグ支持棒4の掛かる抽伸方向の荷重を示す。この推移図は、抽伸条件が下記の場合での荷重測定値である。
(1)鋼管材質:ベアリング鋼(SUJ2:JIS G 4805)
(2)抽伸前寸法:外径45.00mm、肉厚5.90mm、
(3)抽伸後寸法:外径34.30mm、肉厚5.20mm、
(4)プラグ支持棒の外径:19mm
(5)抽伸速度:40m/min
時間経過と共に、通常状態L1からスティックスリップ現象の予兆が発生している予兆状態L2に変わり、更にスティックスリップ現象が発生しているスティックスリップ現象状態L3に推移している。
荷重は、通常状態L1では、変動幅が0.01(tf)程度であるが、予兆状態L2になると、0.05(tf)程度に少し大きくなり、スティックスリップ現象発生状態L3では、0.6(tf)程度に増大している。
図4は、図3の荷重測定値を周波数解析して得た周波数スペクトルの図である。図4(a)は、通常状態L1での荷重測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルの図であり、図4(b)は、予兆状態L2での荷重測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルの図である。ここでの周波数解析にはフーリエ解析を用いている。
周波数解析する周波数帯域の範囲は、プラグ支持棒4の外径、引張荷重、管の材質、管の抽伸前後の外径及び肉厚、抽伸速度等によって決まるが、鋼管の場合、例えば下限を10Hz以上の範囲に設定し、上限を600Hz以下の範囲に設定することにより、予兆を検出することができる。
本実施形態では、周波数解析する周波数帯域の範囲Rは10〜100Hzとしている。10〜100Hzの範囲での周波数スペクトルのピーク強度Pは、通常状態L1では、100以下であるが、予兆状態L2では250以上になっている。従って、ピーク強度の基準値を例えば100に設定しておけば、予兆を容易に検出できる。
制御部63は、予兆を検出したことを示す信号を判断部62bから受信すると、報知部64によって、予兆を検出した旨を報知する。
このように、本実施形態では、プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重測定値に基づいて、スティックスリップ現象の予兆を検出することができる。
次に、本発明と異なり、プラグ支持棒4に振動計を取り付け、プラグ支持棒4についての抽伸方向の振動を測定した場合について説明する。振動計には、例えば特許文献1に記載されているのと同様のAEセンサーを用いることができる。抽伸条件は、図3の場合と同じである。
図5は、振動計で測定した抽伸方向の加速度の推移図である。
加速度は、通常状態L1の時に比べて、予兆状態L2の時に大きくなり、スティックスリップ現象発生状態L3の時に更に大きくなっている。しかしながら、この加速度測定値は、抽伸機1以外の振動源がない場合であり、他の振動源がある場合には、それらの振動の影響を受けるので、通常状態L1、予兆状態L2、スティックスリップ現象発生状態L3での加速度の差が小さくなる。従って、加速度の大きさからスティックスリップ現象発生前の予兆を検出するのは困難である。
図6は、図5の加速度測定値を周波数解析して得た周波数スペクトルの図である。図6(a)は、通常状態L1での加速度測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルの図であり、図6(b)は、予兆状態L2での加速度測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルの図である。ここでの周波数解析にはフーリエ解析を用いている。
周波数解析する周波数帯域の範囲Rは、荷重の場合と同じ10〜100Hzとしている。10〜100Hzの範囲での周波数スペクトルのピーク強度Pは、通常状態L1と予兆状態L2とで、大きな差が見られない。従って、加速度測定値を周波数解析した周波数スペクトルからスティックスリップ現象発生前の予兆を検出するのは困難である。
本実施形態において、制御部63は、判断部62bが予兆を検出すると、抽伸機1に予兆を検出した旨を報知する予兆検出信号を送信し、予兆検出信号を受信した抽伸機1が抽伸速度を低下させるような構成にしてもよい。
予兆検出ステップにおいて判断部62bがスティックスリップ現象の予兆を検出すると、制御部63は、抽伸機1に予兆検出信号を送信する(速度低下ステップ)。予兆検出信号を受信した抽伸機1は、抽伸速度を低下させる。
また、予兆が検出されたときの報知部64による報知によって、人が抽伸速度を低下させるようにしてもよい。
スティックスリップ現象の予兆を検出したときに、抽伸速度を低下させるので、スティックスリップ現象を発生し難くすることができる。
本実施形態では、スティックスリップ現象の予兆を、プラグ支持棒4に掛かる荷重の測定値を周波数解析して得られた周波数スペクトルのピーク強度に基づいて検出したが、周波数解析を行わずに荷重測定値に基づいて検出するようにしてもよい。例えば、図3に示すように、荷重測定値の変動幅が、通常状態L1のときに比べて予兆状態L2のときに大きくなるので、荷重測定値の変動幅の大きさに基づいて検出するようにしてもよい。予兆検出部62に、スティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する荷重測定値の変動幅の基準値を記憶させておき、荷重測定値の変動幅が基準値を超えたときにスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断部62bが判断するようにすればよい。
本実施形態で測定するプラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重には、鋼管を引っ張るキャリッジによる振動や周囲の他の設備による振動や工場建屋の振動は、影響し難い。これは、鋼管を引っ張るキャリッジや他の設備や工場建屋が振動すると、その振動によって、プラグ支持棒は、プラグ支持棒の後端を固定している架台と共に振動し、プラグ支持棒全体が伸縮を伴わずに振動方向に変位する。このように、キャリッジ等が振動しても、プラグ支持棒が伸縮しないので、プラグ支持棒中には、抽伸方向の荷重が発生しない。従って、プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重には、鋼管を引っ張るキャリッジによる振動や周囲の他の設備による振動や工場建屋の振動は、影響し難い。
また、本発明では、振動源であるプラグに直接繋がっているプラグ支持棒に掛かる荷重を測定しているので、スティックスリップ現象の発生前のプラグの振動幅の小さい振動を検出することができる。
これらのことにより、スティックスリップ現象の発生前の予兆を、本発明の方法によって検出できると考えられる。
特に、荷重測定値を所定の周波数帯域について周波数解析し、得られる周波数スペクトルのピーク強度に基づいて予兆の発生を判断するようにすれば、予兆時のプラグの振動数以外の振動数を有するノイズに影響され難くなり、予兆の発生を精度よく判断することが期待できる。
1・・・抽伸機
2・・・ダイス
3・・・プラグ
4・・・プラグ支持棒
6・・・予兆検出装置
61・・・荷重測定部
62・・・予兆検出部
63・・・制御部
T・・・鋼管(管)

Claims (3)

  1. ダイスと、該ダイス内に設けられたプラグと、該プラグを支持するプラク支持棒とを備えた抽伸機による管の冷間抽伸時に、スティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出方法であって、
    抽伸を開始した後予め定めた0.4秒以下の荷重測定時間において、前記プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重を測定する荷重測定ステップと、
    前記荷重測定ステップで得られた荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出ステップとを含み、
    前記予兆検出ステップにおいて、前記荷重測定値を10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析し、得られた周波数スペクトルのピーク強度が所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断することを特徴とするスティックスリップ現象の予兆検出方法。
  2. 請求項1に記載の予兆検出方法によってスティックスリップ現象の予兆を検出したときに、前記抽伸機による管の抽伸速度を低下させることを特徴とする管の冷間抽伸方法。
  3. ダイスと、該ダイス内に設けられたプラグと、該プラグを支持するプラク支持棒とを備えた抽伸機によって管を冷間抽伸するときのスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出装置であって、
    抽伸を開始した後の0.4秒以下の荷重測定時間において、前記プラグ支持棒に掛かる抽伸方向の荷重を測定する荷重測定部と、
    前記荷重測部により測定した荷重測定値に基づいてスティックスリップ現象の予兆を検出する予兆検出部とを備え
    前記予兆検出部は、前記荷重測定部が測定した荷重測定値を10〜100Hzの周波数帯域について周波数解析する周波数解析部と、前記周波数解析部によって得られた周波数スペクトルのピーク強度が所定の基準値を超えた場合にスティックスリップ現象の予兆が発生したと判断する判断部とを具備することを特徴とするスティックスリップ現象の予兆検出装置。
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