しかしながら、特許文献1の電子放出素子の構成では、電子放出素子の内部を流れる電流(素子内電流)の量の抑制が難しく、素子内電流量に対する放出電子量が少ない、換言すると、電子放出効率が低いといった解決すべき課題を有している。ここで、電子放出効率とは、素子内電流量に対する電子放出量であり、電子放出量に相当する電子放出電流の値を素子内電流の値で除した値を百分率で表した値である。
特許文献1の電子放出素子のように、導電微粒子と絶縁体微粒子とを含む電子加速層を設けた構成においては、電子放出素子の電圧電流特性は、導電性微粒子の量或いはその分散状態の度合いを調整することで制御することができる。実際、特許文献1の実施例に記載されているように、導電性微粒子の添加量や分散状態の度合いを適宜調整することで、電子放出量を増加させることができた。
しかしながら、素子内電流量に対する放出電子量は少なく、電子放出効率にして0.01%程度を満足するのがせいぜいであった。電子放出効率が低いということはつまり、電子放出素子における消費電力の大部分が素子内電流として消費されてしまい、放出電子として利用されるものが僅かしかないということである。
したがって、電子放出素子において、電子放出効率を向上させることは、必須の達成目的である。
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、本願出願人が先に提案している電子放出素子に比べて格段に電子放出効率に優れた素子特性を有する電子放出素子及びその製造方法、並びに電子放出装置を提供することを目的としている。
本発明の電子放出素子は、対向する電極基板と薄膜電極との間に電子加速層を有し、電極基板と薄膜電極との間に電圧が印加されることで、電子加速層にて電子を加速させて薄膜電極から電子を放出する構成を前提としている。
上記構成によれば、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層内に電流路が形成され、一部の電子が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極側より放出される。
電子加速層内部での弾道電子の発生機構については、多くの不明な点を残すが、素子表面から放出される電子は、電子加速層内部に形成された電流路を伝導する電荷の一部を、局所的に形成された高電界部で加速し、ホットエレクトロン(弾道電子)となって空間に飛び出すものと理解している。
空間に放出された電子は、電子加速層内に形成された電界に沿って弾性衝突を繰り返しながら進む電子のうちの一部が、表面の薄膜電極を透過あるいは電極の隙間からすり抜けて、電子放出素子の表面から出てくるものと考えられる。
そして、本願発明者らは、このような構成を有する電子放出素子において、電子放出効率の向上を図るといった上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、電子加速層を、電子供与体を有した塩基性分散剤を表面に付与した球形のシリカ微粒子を含む微粒子層と、紡錘形をした酸化チタン微粒子を含む微粒子層とを積層した構成とすることで、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立できることを見出し、本願発明を行うに至った。
つまり、本発明の電子放出素子は、上記した前提となる電子放出素子において、電子加速層が、球形のシリカ微粒子を含む第1の微粒子層と紡錘形の酸化チタン微粒子を含む第2の微粒子層とが積層された積層構造を有し、これら2つの微粒子層のうち、第1の微粒子層が電極基板側に位置し、第2の微粒子層が薄膜電極側に位置し、かつ、シリカ微粒子及び酸化チタン微粒子の各微粒子の表面には、塩基性分散剤が付着していることを特徴としている。
電子加速層の構成を、このような構成とすることで、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることが可能となった。電子放出効率を向上させることができたメカニズムについては、以下のように考察している。
上記構成によれば、電子加速層は、シリカ微粒子を含む第1の微粒子層と、酸化チタン微粒子を含む第2の微粒子層とを備えている。電子加速層を構成するシリカ微粒子及び酸化チタン微粒子は、いずれも電気抵抗の大きい絶縁体微粒子であるので、第1の微粒子層も第2の微粒子層も、本来は電気を流し難い構成である。
しかしながら、上記構成によれば、これらシリカ微粒子及び酸化チタン微粒子の各微粒子の表面に、塩基性分散剤を付着させているので、第1の微粒子層も第2の微粒子層も、電気伝導が可能になる。塩基性分散剤を絶縁体微粒子の表面に付着させることで、絶縁体微粒子の層において、電気伝導が可能になっていることは確認済みである。絶縁体微粒子の層に電気伝導が可能になるのは、絶縁体微粒子の表面に付着した塩基性分散剤により、各微粒子表面に電流路が形成され易くなるためと考えられる。
塩基性分散剤は、そもそもは、立体反発効果により各微粒子の溶媒への分散を促進するものである。塩基性分散剤は、立体反発効果によって微粒子を分散させる基本骨格となる高分子体に、電子対を供与する電子対供与体が置換基として導入されてなる。そして、この導入された電子供与体が作用することで、各微粒子表面に電流路が形成され易くなると推察される。
そして、上記構成によれば、電子加速層を構成する第1の微粒子層のシリカ微粒子は、形状が球形であるので、第1の微粒子層は、微粒子が詰まった状態、換言すると微粒子同士の接点が多い状態の微粒子層となっている。しかも、シリカ微粒子は、電気抵抗が高い。したがって、このような第1の微粒子層は、素子内電流を抑制する方向に作用すると考えられる。
一方、電子加速層を構成する第2の微粒子層の酸化チタン微粒子は、形状が紡錘形であるので、第2の微粒子層の表面(薄膜電極側となる表面)には、ミクロな凹凸が形成される。詳細については、〔発明を実施するための形態〕の項に記載するが、このような第2の微粒子層の表面凹凸は、電子放出に必要な局所的強電界部を形成する役割を担っていると考えられる。しかも、絶縁体微粒子ではあっても、酸化チタン微粒子は、シリカ微粒子よりも電気抵抗は小さい。したがって、このような第2の微粒子層は、電子放出素子からの電子放出を容易にする方向に作用すると考えられる。
このように、第1の微粒子層が素子内電流を抑制し、第2の微粒子層が電子放出を容易にするといった作用をそれぞれ奏することにより、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができたと考察する。
本発明の電子放出素子においては、さらに、電子加速層は、シリカ微粒子及び酸化チタン微粒子の各微粒子を連結するシリコーン樹脂によって固化されている構成とすることが好ましい。
上記構成によれば、電子加速層を構成するシリカ微粒子及び酸化チタン微粒子の各微粒子は、シリコーン樹脂によって連結され、固化されているので、電子加速層の機械的強度が増し、容易に壊れ難い構造となる。
本発明の電子放出素子においては、さらにシリカ微粒子の平均粒子径は、10〜1000nmである構成とすることが好ましい。
この場合、粒子径の分散状態は平均粒子径に対してブロードであっても良く、例えば平均径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。シリカ微粒子の粒子径が10nmよりも小さいと、微粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、シリカ微粒子の粒子径が1000nmを超えると、分散性は良いけれども、第1の微粒子層を成膜した際、均一な膜厚の電子加速層を作成することが困難となる。粒子径が大きいと、スピンコート法では回転に伴う粒子の運動エネルギーが大きくなり、微粒子分散液の粘度とコート時の回転速度とのバランス取りに苦慮する。また、粒子の規則配列が比較的容易な垂直析出法等では、粒子の付着力が有効に機能し、規則配列化を実現できる粒径は、サブミクロン粒子に限られる。いずれにせよ、不均一な膜厚の電子加速層は、特に薄い部分への電界集中を引き起して絶縁破壊に至る為、避けなければならない。
本発明の電子放出素子においては、さらに酸化チタン微粒子の平均径は、酸化チタン微粒子の平均粒子径は、紡錘形の長い方の長さを直径とする球に相当する径として、10〜1000nmである構成とすることが好ましい。
この場合も、シリカ微粒子と同様に、粒子径の分散状態は平均粒子径に対してブロードであっても良く、例えば平均径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。酸化チタン微粒子の粒子径が10nmよりも小さいと、微粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、酸化チタン微粒子の粒子径が1000nmを超えると、分散性は良いけれども、第2の微粒子層を成膜した際、シリカ粒子同様、均一な膜厚の電子加速層の形成が困難と成る。第2の微粒子層の不均一化は、電子加速層内の加速電界(平行電界)に偏りを作り、電子放出点の不均一化を生じてしまう。
本発明の電子放出素子においては、さらに、電子加速層の層厚は、20〜6000nmである構成とすることが好ましい。
この範囲とすることで、電子加速層を構成する第1の微粒子層及び第2の微粒子層がそれぞれ有効に機能し、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができる。
本発明の電子放出素子においては、さらに、薄膜電極は、金属材料として、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいる構成とすることが好ましい。
薄膜電極に、金、銀、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。また、薄膜電極として、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体材料を用いることが好ましく、金、銀等の貴金属を用いることがより好ましい。
本発明の電子放出装置は、前記した本発明の電子放出素子と、該電子放出素子にける電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
既に電子放出素子において記載したとおり、本発明の電子放出素子は、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子であるので、このような電子放出素子を備えることで、本発明の電子放出装置は、電子放出効率の高い構成となる。
本発明の電子放出素子の製造方法は、電極基板と、薄膜電極と、電子加速層とを有し、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電極基板と薄膜電極との間に設けられた電子加速層にて電子を加速させて、薄膜電極から電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、シリコーン樹脂及び塩基性分散剤を含む溶媒に球形のシリカ微粒子が分散されている第1の微粒子分散溶液を用いて、電極基板上に第1の微粒子層を形成する工程と、シリコーン樹脂及び塩基性分散剤を含む溶媒に紡錘形の酸化チタン微粒子が分散されている第2の微粒子分散溶液を用いて、第1の微粒子層の上に第2の微粒子層を形成する工程と、第2の微粒子層の上に薄膜電極を形成する工程と、を有することを特徴としている。
このような製造方法にて電子放出素子を製造することで、素素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができる。
本発明の電子放出素子は、以上のように、電子加速層が、球形のシリカ微粒子を含む第1の微粒子層と紡錘形の酸化チタン微粒子を含む第2の微粒子層とが積層された積層構造を有し、これら2つの微粒子層のうち、第1の微粒子層が電極基板側に位置し、第2の微粒子層が薄膜電極側に位置し、かつ、シリカ微粒子及び酸化チタン微粒子の各表面には、塩基性分散剤が付着している構成である。
これにより、電子放出素子を構成する各微粒子表面に付着した塩基性分散剤により電子加速層での電気伝導を可能にしつつ、電気抵抗の高い第1の微粒子層は、電子放出素子を流れる素子内電流を抑制し、ミクロな表面凹凸を形成する第2の微粒子層は、電子放出を容易にし、その結果、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができる。
以下、本発明に係る電子放出素子及び電子放出装置の実施形態、実施例について、図1〜図7を参照して説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって何ら限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置11の構成を示す模式図である。図1に示すように、電子放出装置11は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1と電源10とを有する。
電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極5と、その間に挟まれて存在する電子加速層8を備えている。該電子加速層8は、球形のシリカ微粒子6を含む第1の微粒子層3と、紡錘形の酸化チタン微粒子7を含む第2の微粒子層4とが積層されてなる、積層構造を有しており、詳細については後述する。
電極基板2と薄膜電極5とは電源10に繋がっており、電源10より対向して配置された電極基板2と薄膜電極5との間に電圧を印加できるようになっている。電極基板2と薄膜電極5との間に電圧が印加されることで、電極基板2と薄膜電極5との間、つまり、電子加速層8に電流が流れ、その一部が、印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極5を通過(透過)して、或いは絶縁体微粒子間の隙間の影響から生じる薄膜電極5の孔(隙間)もしくは、絶縁体微粒子の段差等からすり抜けて外部へと放出される。
電極基板2は、電極としての機能に付加して、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有する基板であれば、特に制限を受けることなく用いることができる。
具体的には、例えばSUSやAl、Ti、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を挙げることができる。また、ガラス基板やプラスティック基板等の絶縁体基板の表面(電子加速層8との界面)に、金属などの導電性物質を電極として付着させたものであってもよい。絶縁体基板の表面に付着させる上記導電性物質としては、導電性に優れ、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。但し、これら材料及び数値に限定されることはない。
薄膜電極5は、電圧の印加が可能となるような材料であれば、特に制限を受けることなく用いることができる。ただし、電子加速層8で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスなく透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。
このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどを挙げることができる。中でも電子放出素子1を大気圧中でも動作させることを想定すると、酸化物及び硫化物形成反応のない金が最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
また、薄膜電極5の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、15〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極5の金属材料薄膜層を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の放出が極端に減少してしまう。弾道電子の放出量減少は、薄膜電極5で弾道電子の吸収或いは反射による電子加速層8への再捕獲が生じたためと考えられる。
次に、上記電子放出素子1における電子加速層8の構成について、図1、図2を用いて説明する。図2は、電子放出素子1の電子加速層8付近の模式図である。
図1に示すように、電子加速層8は、球形のシリカ微粒子6を含む第1の微粒子層3と、紡錘形の酸化チタン微粒子7を含む第2の微粒子層4とが積層されてなる積層構造を有している。第1の微粒子層3が電極基板2側に位置し、第2の微粒子層4が薄膜電極5側に位置する。そして、第1の微粒子層3を構成するシリカ微粒子6及び第2の微粒子層4を構成する酸化チタン微粒子7の各微粒子表面には、塩基性分散剤16が付着しており、微粒子間に立体障害となる領域15を形成している。
本願出願人は、電子加速層8を、このような構成とすることで、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子1を得ることができた。以下、電子放出効率を向上させることができたメカニズムについて考察する。
電子加速層8を構成するシリカ微粒子6及び酸化チタン微粒子7は、いずれも電気抵抗の大きい絶縁体微粒子であるので、第1の微粒子層3も第2の微粒子層4も、本来は電気を流し難い構成である。
しかしながら、上記構成によれば、これらシリカ微粒子6及び酸化チタン微粒子7の各微粒子の表面に、塩基性分散剤16を付着させているので、第1の微粒子層3も第2の微粒子層4も、電気伝導が可能となる。
塩基性分散剤16を絶縁体微粒子の表面に付着させることで、絶縁体微粒子の層において、電気伝導が可能になることは実験にて確認済みである。塩基性分散剤16を付与することで電気伝導が可能にるのは、絶縁体微粒子の表面に付着した塩基性分散剤16により、各微粒子表面に電流路が形成され易くなるためと考えられる。なお、塩基性分散剤による作用については、後述する。
そして、上記構成によれば、球形のシリカ微粒子6と紡錘形の酸化チタン微粒子7とを用いて第1、第2の微粒子層3,4を形成している。
球形のシリカ微粒子13で形成される第1の微粒子層は、微粒子が詰まった状態、換言すると微粒子同士の接点が多い状態の微粒子層となっている。しかも、シリカ微粒子の電気抵抗は酸化チタン微粒子のそれよりも高い。
シリカ微粒子6と酸化チタン微粒子7とは、どちらも絶縁体微粒子ではあるが、母体金属の電気特性を受けるため、シリカ微粒子は、母体金属の電気特性であるシリコンの半導体特性を有し、酸化チタン微粒子7は、母体金属の電気特性であるチタンの導体特性を有している。そのため、シリカ微粒子6と酸化チタン微粒子7とを比較した場合、シリカ微粒子6が高抵抗、酸化チタン微粒子7が低抵抗となる。
本実施形態の電子放出素子1において用いられるシリカ微粒子6の電気抵抗(粉体の比抵抗値)は1×1013〜14Ω・cm、酸化チタン微粒子7の電気抵抗(粉体の比抵抗値)は1×109〜10Ω・cmという値にある。
このように、第1の微粒子層3は、電気抵抗の高いシリカ微粒子が、微粒子同士の接点が多い状態の微粒子層となっているので、第1の微粒子層3は、素子内電流を抑制する方向に作用すると考えられる。
一方、第2の微粒子層4の酸化チタン微粒子7は、形状が紡錘形であるので、第2の微粒子層4は、球形の第1の微粒子層ほどには微粒子は詰まっておらず、かつ、薄膜電極側となる表面は、その形状がゆえにミクロな凹凸を多く有したものとなっている。
非特許文献1には、MIM構造を有する電子放出素子において、素子表面のミクロな表面凹凸と電子放出機構との関係が記載されている。この非特許文献では、電子放出が素子の表面形状と絶縁体層中の電気的不均一性に起因すると指摘しており、少なくとも素子表面に存在する凸形状が局所的な強電界部を形成し、電子放出を可能にすると理解できる。つまり、第2の微粒子層4の表面凹凸は、電子放出に必要な局所的強電界部を形成する役割を担っていると考えられる。
しかも、上述したように、絶縁体微粒子ではあっても、酸化チタン微粒子7は、シリカ微粒子6よりも電気抵抗は小さい。したがって、このような第2の微粒子層4は、電子放出素子1からの電子放出を容易にする方向に作用すると考えられる。
このように、第1の微粒子層3が素子内電流を抑制し、第2の微粒子層4が電子放出を容易にするといった作用をそれぞれ奏することにより、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができたと考察する。
また、上記電子放出素子1においては、シリカ微粒子6及び酸化チタン微粒子7の各微粒子の表面は、HMDS処理(ヘキサメチルシジラザン蒸気処理)を施すことが好ましい。HMDS処理を施すことで、大気中での水蒸気の微粒子表面への付着を抑制し、大気中での安定した電子放出が抑制可能と成る。
また、シリカ微粒子6の平均粒子径としては、10〜1000nmであるのが好ましく、10〜200nmであるのがより好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒子径に対してブロードであっても良く、例えば平均径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。シリカ微粒子6の粒子径が10nmよりも小さいと、微粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、シリカ微粒子の粒子径が1000nmを超えると、分散性は良いけれども、第1の微粒子層3を成膜した際、均一な膜厚の電子加速層を作成することが困難となる。粒子径が大きいと、スピンコート法では回転に伴う粒子の運動エネルギーが大きくなり、微粒子分散液の粘度とコート時の回転速度とのバランス取りに苦慮する。また粒子の規則配列が比較的容易な垂直析出法等では、粒子の付着力が有効に機能し、規則配列化を実現できる粒径は、サブミクロン粒子に限られる。いずれにせよ、不均一な膜厚の電子加速層は、特に薄い部分への電界集中を引き起して絶縁破壊に至る為、避けなければならない。
酸化チタン微粒子7の平均粒子径は、紡錘形の長い方の長さを直径とする球に相当する径として、シリカ微粒子層と同様に、10〜1000nmであるのが好ましく、10〜200nmであるのがより好ましい。
この場合も、シリカ微粒子と同様に、粒子径の分散状態は平均粒子径に対してブロードであっても良く、例えば平均径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。酸化チタン微粒子の粒子径が10nmよりも小さいと、微粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、酸化チタン微粒子の粒子径が1000nmを超えると、分散性は良いけれども、第2の微粒子層を成膜した際、シリカ粒子同様、均一な膜厚の電子加速層の形成が困難と成る。第2の微粒子層の不均一化は、電子加速層内の加速電界(平行電界)に偏りを作り、電子放出点の不均一化を生じてしまう。
また、電子放出特性の観点から、紡錘形の最大直径と最小直径との比(真球で1)は、1.3のもので有効であることが確認できている。
第1の微粒子層3及び第2の微粒子層4よるなる電子加速層8全体の層厚としては、20〜6000nmであるのが好ましく、700〜2000nmであるのがより好ましい。なお、実験事実として、スピンコート法でn層の微粒子層を作成した場合、n層目はn−1層目より薄くなることが分かっている(nは正の整数)。
この範囲とすることで、電子加速層を構成する第1の微粒子層及び第2の微粒子層がそれぞれ有効に機能し、素子内電流の抑制と電子放出量の確保とを両立した、高効率の電子放出素子を得ることができる。
さらに、電子加速層8は、シリカ微粒子6及び酸化チタン微粒子7の各微粒子を連結するシリコーン樹脂によって固化されている構成とすることが好ましい。
本実施形態の電子放出素子1においては、図2に示すように、電子加速層8を構成するシリカ微粒子6及び酸化チタン微粒子7の各微粒子間には、シリコーン樹脂14が付着しており、シリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7を強固に連結する。この結果、第1、第2の微粒子層3、4は機械的強度に優れた微粒子層となり、電子加速層8の機械的強度が増し、電子放出素子1を、容易に壊れ難い構造とできる。
シリコーン樹脂は、各微粒子を分散させた微粒子分散溶液に添加することで、混合せられる。当然ながら、シリコーン樹脂の添加量には最適値がある。シリコーン樹脂の添加量が少ない場合は、電子加速層を構成する微粒子を連結、固化する能力を発揮できない。一方、シリコーン樹脂の添加量が過多の場合、微粒子分散溶液の粘性が増加し過ぎるため、電子加速層の成膜手段であるスピンコート法による膜形成が困難となる。また、シリコーン樹脂は電気絶縁性が高いため、電子加速層内で、その存在割合が増すと、素子内電流が極めて流れ難くなり、素子からの電子放出ができなくなる。
よって、シリコーン樹脂14はシリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7の形成する空間全体を満たすように存在する必要は無く、かつ、各微粒子を連結する程度には存在する必要がある。また、シリコーン樹脂14は、耐熱特性に優れる素材であり、電子放出素子1が駆動時に生じるジュール熱にも十分耐え、その強度を維持可能である。
次に、上記した塩基性分散剤16について説明する。塩基性分散剤16は、微粒子間に立体障害となる領域15を形成する。塩基性分散剤16、凝集し易いシリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7の溶媒への分散を良好にして、電極基板2表面に微粒子層の形成を実現する分散剤としての本来の機能と、第1の微粒子層3、第2の微粒子層4の電気伝導を可能にするといったさらなる機能とを有するものである。
塩基性分散剤16は、高分子と、該高分子の一部に導入された電子対供与体とを有する。高分子が、立体反発効果によって分散性を付与する。図2においては、参照符号15にて、シリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7それぞれの微粒子間に形成される立体障害となる領域を示す。
電子対供与体は、シリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7に吸着するアンカーとしての役割を果たす。また、電子対供与体は、電子対を供与したことで、プラスイオンとなり、イオン電導を可能にする。シリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7の粒子表面の電気伝導を可能にする機能は、塩基性分散剤16における上記イオン電導を可能にする部分が、電荷の受け渡しをしているためと考えられる。また、塩基性分散剤16のイオン電導部分は、電気的に互いに反発し合うため、シリカ微粒子6および酸化チタン微粒子7の分散性にも寄与する。
電子対供与体の部分は、電子供与基から成る特定の置換基であり、上記置換基としては、例えば、π電子系であるフェニル基やビニル基、そしてアルキル基、アミノ基等である。
本発明に適用できる塩基性分散剤16の市販品を例示すると、アビシア社製の商品名:ソルスパース9000、13240、13940、20000、24000、24000GR、24000SC、26000、28000、32550、34750、31845等の各種ソルスパース分散剤、ビックケミー社製の商品名:ディスパービック106、112、116、142、161、162,163、164、165、166、181、182、183、184、185、191、2000、2001、味の素ファインテクノ社製の商品名:アジスパーPB711、PB411、PB111、PB821、PB822、エフカケミカルズ社製の商品名:EFKA−47、4050等を挙げることができる。
第1の微粒子層3、第2の微粒子層4への塩基性分散剤16の添加は、第1の微粒子層3、第2の微粒子層4を構成するシリカ微粒子6または酸化チタン微粒子7を溶媒中に分散する過程で行う。
つまり、使用する溶媒に必要量の塩基性分散剤16を投入して分散した分散剤含有溶媒にシリカ微粒子6または酸化チタン微粒子7を加え、各微粒子の十分な分散を行うことで、シリカ微粒子6または酸化チタン微粒子7の表面に塩基性分散剤16を付着させ、立体障害となる領域15を形成する。シリカ微粒子6または酸化チタン微粒子7の表面における分散剤の付着量は、溶媒に対する分散剤16の投入量を操作することで制御可能である。
第1の微粒子層3及び第2の微粒子層4における塩基性分散剤16の添加量は、電子放出量と相関のある電子放出素子の素子内電流の流れ易さに関係するため、電子放出量を制御する上で、重要な制御因子の一つである。
分散剤16の投入量と、分散剤16の添加後に得られる第1の微粒子層3、第2の微粒子層4を通じた電流の流れ易さは一対一の関係ではなく、ある添加量に電流の流れ易さのピークを持つ特性を有する。
添加量が少ない場合には、電子の担い手が少ないため、当然ながら第1の微粒子層3、第2の微粒子層4を流れる電流量は小さくなる。一方、添加量が多すぎる場合には、塩基性分散剤16の有する高分子の成分が、素子内を流れる電流に対して抵抗成分として強く作用してしまい、電流値を小さくしてしまう。
このように、塩基性分散剤16の最適な添加量は、シリカ微粒子6、酸化チタン微粒子7との関連から設計事項となり、素子内に流れる電流量を鑑みて、最適に設定するものである。添加量を適切に制御することで、素子内電流量を余計に増加させず、電子放出素子からの十分な電子放出を得ることができる。
一概にはいえないが、シリカ微粒子6または酸化チタン微粒子7が分散された分散溶液を滴下してスピンコート法で第1の微粒子層3および第2の微粒子層4を成膜する条件において、溶媒に対する塩基性分散剤の添加量にて規定すると、添加量0.4〜10wt%が好ましく、より好ましくは1〜5wt%以下である。
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
分散溶媒の入った試薬瓶を2本用意し、それぞれの瓶に規定量の塩基性分散剤16を投入・溶解させる。この試薬瓶の一つにシリカ微粒子6、もう一つに酸化チタン微粒子7を投入し、超音波分散器にかけて分散させる。その後、両試薬瓶に規定量のシリコーン樹脂14を投入し、再び超音波分散器にかけて分散させる。ここで、シリカ微粒子6が分散した微粒子分散溶液A、酸化チタン微粒子7が分散した微粒子分散溶液Bを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。
ここで、分散溶媒としては、塩基性分散剤16およびシリコーン樹脂14を溶解でき、且つ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限を受けることなく用いることができる。分散溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等を用いることができる。
そして、上記のように作成した微粒子分散溶液Aを、電極基板2上に塗布して、第1の微粒子層3を形成し、一旦150℃のホットプレートにて1分間加熱乾燥する。次に微粒子分散溶液Bを、上記第1の微粒子層3が形成された電極基板2上に塗布して、第2の微粒子層4を形成し、再度150℃のホットプレートにて1分間加熱乾燥し、電子加速層8を形成する。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。
第1、第2の微粒子層3、4の成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。
そして、第1、第2の微粒子層3、4の形成後、第2の微粒子層4の成膜表面に薄膜電極5を成膜する。金属材料から成る薄膜電極5の成膜には、マグネトロンスパッタ法を用いることができるが、例えば、蒸着法、インクジェット法や、スピンコート法等を用いても良い。
ここで、塩基性分散剤の添加の有無と素子内電流との関係、本実施例記載の素子構造による電子放出素子1の電子放出特性、そして特許文献1記載の従来素子構造を有する素子の電子放出特性を調べた実験結果について説明する。
まず、電子放出素子1の詳細な作成条件について説明する。
10mLの試薬瓶2本(試薬瓶1、試薬瓶2)にそれぞれトルエン溶媒を1.5g入れ、さらに両試薬瓶に塩基性分散剤を0.012g入れ、超音波分散器にかけて分散させた。ここで塩基性分散剤としては、アミン価が10〜17mgKOH/gであり、線状ポリマーの一部に直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、或いはフェニル基を有する分散剤である、味の素ファインテクノ株式会社の製造販売する「顔料分散剤アジスパーPB821」を使用した。
試薬瓶1にシリカ微粒子を0.25g投入し、同様に試薬瓶を超音波分散器にかけて分散させた。ここでシリカ微粒子は、直径50nmのフュームドシリカC413(キャボット社)であり、表面はヘキサメチルシジラザン処理されている。約5分間超音波分散器にかけることで、シリカ微粒子はトルエン溶媒に乳白色に分散した。試薬瓶2には酸化チタン微粒子を0.25g投入し、同様に試薬瓶を超音波分散器にかけて分散させた。ここで酸化チタン微粒子の外形は紡錘形を呈しており、粒子の最大面積断面で得られる楕円形において、短軸にあたる部分の直径が30nm、同長軸にあたる部分の直径が40nmという形状である。この様な外観を有する酸化チタン微粒子として、STT−550(チタン工業社)を用いた。
各粒子の分散後、両試薬瓶にシリコーン樹脂を0.08g投入し、約2分間超音波分散器にかけて分散させた。
試薬瓶1のシリカ微粒子が分散したものが、微粒子分散溶液Aであり、試薬瓶2の酸化チタン微粒子が分散したものが、微粒子分散溶液Bである。
上記と同様の工程で、塩基性分散剤を投入しなかった微粒子分散溶液A’と、微粒子分散溶液B’も作成した。
24mm角のガラス基板にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した電極付きガラス基板を、電極基板2として用意した。
上記電極付きガラス基板表面に、微粒子分散溶液Aを滴下し、スピンコート法を用いて第1の微粒子層3を形成した。スピンコート法による成膜条件は、500RPMにて5秒間回転している間に、上記微粒子分散溶液Aを基板表面へ滴下し、続いて3000RPMにて10秒間の回転を行うこととした。第1の微粒子層3を形成後、電極付きガラス基板表面を150℃のホットプレートを用いて1分間加熱乾燥させた。
続いて、第1の微粒子層3が形成された電極付きガラス基板表面に、微粒子分散溶液Bを滴下し、前述の条件のスピンコート法を用いて、第1の微粒子層3の上に第2の微粒子層4を積層形成した。第2の微粒子層4の形成後も、同様に150℃のホットプレートを用いて1分間加熱乾燥させた。
第1の微粒子層と第2の微粒子層とが積層された電子加速層の膜厚は、800nmであった。
続いて、第2の微粒子層4の表面に、薄膜電極5として、マグネトロンスパッタ装置を用いて、金、パラジウムターゲット(Au―Pd)を使用し、膜厚が50nm、同面積が0.01cm2と成るように、金とパラジウム合金の薄膜電極を成膜した。こうして作成されたものが、電子放出素子1である。
また、塩基性分散剤の機能評価のために、塩基性分散剤を添加しなかった微粒子分散溶液A’、B’を用いて、上記と同様の工程にて、比較例1の電子放出素子を作成した。比較例1の電子放出素子の第1の微粒子層と第2の微粒子層とが積層された電子加速層の膜厚は、780nmであった。
続いて、酸化チタン微粒子の電気特性評価のために、前述の微粒子分散溶液Bを用いて、比較例3の電子放出素子を作成した。上記作成工程と異なり、第1の微粒子層および第2の微粒子層は微粒子分散溶液Bのみで作成された。第1の微粒子層と第2の微粒子層とが積層された電子加速層の膜厚は、920nmであった。
上記の通り作成した実施例1の電子放出素子1と、比較例1の電子放出素子とについて、図3に示す測定系を用いて電子放出実験を行った。
図3に、電子放出実験に用いた測定系を示す。図3の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極5側に、絶縁体スペーサ13(径:1mm)を挟んで対向電極12を配置させる。そして、電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極5との間には、電源10AによりV1の電圧が印加され、対向電極12には電源10BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極5と電源10Aとの間を流れる電流I1を素子内電流、対向電極12と電源10Bとの間に流れる電流I2を電子放出電流として測定を行った。このような実験系を1×10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行った。
図4に、塩基性分散剤の添加した実施例1の電子放出素子1と、塩基性分散剤を添加しなかった比較例1の電子放出素子の素子内電流I1を測定した結果を示す。ここで、印加電圧V1は、0〜30Vまで段階的に上げ、印加電圧V2は100Vとした。
図4から分かるように、素子内電流I1〔単位:A/cm2〕は、塩基性分散剤の添加によって変化することが分かる。印加電圧V1が25Vの時の素子内電流I1は、塩基性分散剤の添加によって、約50000倍に増加している。
また、塩基性分散剤の添加なしの比較例1の電子放出素子では、十分な素子内電流を流すことができないために、素子からの電子放出も得られなかった(グラフ未記載)。一方、十分な素子内電流を流すことができた実施例1の分電子放出素子1では、素子からの電子放出が得られた(図5参照)。
図5には、塩基性分散剤を添加した実施例1の電子放出素子1の素子内電流I1〔単位:A/cm2〕、電子放出電流I2〔単位:A/cm2〕、そして電子放出効率〔%〕を示す。電子放出効率は、I2/I1を百分率で表した値である。印加電圧26Vにおいて、電子放出電流が1.12×10−5A/cm2、電子放出効率が1.18%を達成した。
一方、図6には、電子放出特性の比較例として、特許文献1に記載されたうちの最も優れた電子放出素子(比較例2)の特性を掲載する。
比較例2の電子放出素子の電子放出電流は1.0×10−6A/cm2台であり、電子放出効率は0.02%程度である。印加電圧V1が10Vで測定を停止しているのは、電子加速層に添加している銀ナノ粒子の分散不良に起因した素子短絡が生じるためであり、電圧値の最大値には制限がある。
また、図7には、比較例3として示された電子放出素子の特性を掲載する。低印加電圧の時点で多くの素子内電流I1を流すが、上下の変動も大きく不安定である。印加電圧V1が12Vを過ぎた点で、閃光を伴う突発的な電子放出を発生するが、同時に電子加速層が物理的に破壊されてしまった。形状および電気抵抗の面から、シリカ粒子に比べて電流路を形成し易いと考えられる酸化チタンから成る電子加速層は、極度の電流集中を起し易く、それ故、素子の破壊も生じ易いと考えられる。