JP5489170B2 - チェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーン - Google Patents

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この発明は、チェーンの屈曲抵抗を過大にすることなく、シール性、耐久性を向上させることができるチェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーンに関する。
注油を必要としない無注油のローラチェーンは、ピンと、ピンに装着するブシュとの間に封入するオイルの漏出を防ぐために、シールリングが組み込まれている。
従来のシールリングは、いわゆるXリングが普通であって、上下左右対称のX字状の断面形状を有する。これに対し、内周側のシールリップの軸方向の圧縮強度が外周側のシールリップのそれより格段に大きくなるように、内周側、外周側の各シールリップの形状を上下非対称に形成することが知られている(特許文献1)。このシールリングは、外周側のシールリップが形成する大径のシールの摩擦抵抗を小さくすることができるため、チェーンの屈曲抵抗を小さく抑えるとともに、シールリングの耐久性を向上させることができる。
特許第4317358号公報
かかる従来技術によるときは、以前に使用されていたXリングに比して、組込み性、低屈曲抵抗性、耐久性などの向上を実現することができた。しかし、近年、チェーンの使用環境が一層苛酷になっており、シールリングを含むチェーンの更なる性能向上の要求が高まっている。
そこで、この発明の目的は、かかる実情に鑑み、従来の良好な性能を維持しつつ、シール性、耐久性の向上を図ることができるチェーン用のシールリングと、それを使用するローラチェーンを提供することにある。
かかる目的を達成するためのこの出願に係る第1発明(請求項1に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、内周側に設ける内周溝と、内周溝を挟んで設ける一対の内周リップと、外周側に設ける外周溝と、外周溝を挟んで設ける一対の外周リップとを備えてなり、各内周リップは、軸方向に突出する環状リブにより軸方向の先端を形成し、内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離を内周溝の深さより大きく形成するとともに、内周側の先端と環状リブの基部との間を凸面または斜面によって滑らかに接続することをその要旨とする。
なお、各内周リップは、内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離をブシュの内周面からブシュの先端のリング状の平坦面の外径までの径方向の距離より大きくすることができる。
また、内周リップは、軸方向の先端間の距離から環状リブの軸方向の高さを除去した距離を外周リップの軸方向の先端間の距離より小さくしてもよく、内周リップの幅は、外周リップの幅より大きくしてもよい。
第2発明(請求項5に係る発明をいう、以下同じ)の構成は、ピンとブシュとを介して屈曲自在に連結する各一対の外リンクプレート、内リンクプレートと、ブシュを介して内リンクプレートの間に回転自在に装着するローラと、内リンクプレートの外側に突出するブシュの先端部を介して各外リンクプレート、内リンクプレートの間に介装する第1発明に係るチェーン用のシールリングとを備えてなり、シールリングは、少なくとも一方の内周リップがブシュの外周面上にシールを形成し、外周リップと環状リブとが外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することをその要旨とする。
かかる第1発明の構成によるときは、シールリングをローラチェーンに適正に組み込むと、少なくとも一方の内周リップは、ブシュの外周面上にシールを形成し、各環状リブ、外周リップは、対応する外リンクプレートまたは内リンクプレートの表面上にシールを形成する。このとき、軸方向に圧縮される環状リブは、外リンクプレートまたは内リンクプレートの表面との接触面積を十分に小さくすることが可能なため、軸方向の圧縮強度が小さく、シール圧力を大きくして良好なシール性を実現することができる。なお、内周リップは、実質的に軸方向に圧縮する必要がないため、軸方向の圧縮強度が大きくてもよく、外周リップは、外周溝に向けて互いに近付く方向に弾性変形するため、軸方向の圧縮強度が十分小さい。したがって、環状リブ、外周リップによるシールの摩擦抵抗が十分小さく、それに起因するチェーンの屈曲抵抗を小さく抑えることができるとともに、シールリングの耐久性を向上させることができる。
各内周リップは、内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離を内周溝の深さより大きく形成することにより、軸方向の圧縮強度を十分に大きくするとともに、環状リブを含む軸方向の先端間の距離を必要最小に抑えることができる。なお、内周リップの間の内周溝は、ブシュの外周面との間にオイル溜りを形成する。また、各内周リップの内周側の先端と環状リブとの間を滑らかに接続する凸面または平面状の斜面は、シールリングをブシュに嵌め込む場合に、シールリングをブシュの中心に適切にガイドすることができる。
なお、シールリングは、全体として均一な断面形状のリング状に一体成形するものとする。また、シールリングの材料は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ふっ素ゴムなどの合成ゴム材が好ましく、温度条件を含む使用条件によって適宜選択することができる。
各内周リップの内周側の先端と軸方向の先端との径方向の距離を適切に設定にすると、シールリングをブシュに嵌め込む場合に、有害な捻れの発生を防止することができる。
環状リブの軸方向の高さを除く内周リップの軸方向の先端間の距離を外周リップの軸方向の先端間の距離より小さくすれば、環状リブは、外周リップにより外リンクプレートまたは内リンクプレート上にシールを形成するために、軸方向に過大に圧縮する必要がない。
内周リップの幅を外周リップの幅より大きくすれば、内周リップは、軸方向の圧縮強度が大きくなり、実質的に軸方向に弾性変形することがなく、軸方向の先端間の距離を最小にすることができる。
第2発明の構成によるときは、シールリングは、少なくとも一方の内周リップがブシュの外周面上にシールを形成し、各環状リブ、外周リップが外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することにより、チェーンの屈曲抵抗を過大にすることなく、ピンとブシュとの間に封入されているオイルの漏出を有効に防止することができる。また、内周リップの軸方向の先端間の距離を小さくして、チェーンの強度を向上させることができる。
ローラチェーンの要部拡大断面図 シールリングの要部拡大断面図 シールリングの組立状態説明図 シールリングの使用状態説明図
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
ローラチェーンは、ピン21、ブシュ22を介して各一対の外リンクプレート23、23、内リンクプレート24、24を屈曲自在に連結してなる(図1)。ただし、図1は、特定のピン21による連結部分の模式断面図であり、ローラチェーンは、等ピッチに配設するピン21、21…を介し、多数組の外リンクプレート23、23…、内リンクプレート24、24…が図1の左右方向に連続的に連鎖されている。
ピン21には、ブシュ22が相対回転自在に装着されている。ピン21の両端は、それぞれ外リンクプレート23のピン孔23aに挿入してかしめ付けられており、ブシュ22の両端は、それぞれ内リンクプレート24のピン孔24aに圧入されている。そこで、ピン21の両端、ブシュ22の両端は、それぞれ外リンクプレート23、23、内リンクプレート24、24の外側にまで突出している。ブシュ22には、内リンクプレート24、24の間において、ローラ25が相対回転自在に装着されている。
ピン21の両端部の外リンクプレート23、23、内リンクプレート24、24の間には、それぞれブシュ22の先端部を介してシールリング10が介装されている。各シールリング10は、外リンクプレート23、内リンクプレート24により軸方向に圧縮されて弾性変形し、外リンクプレート23、内リンクプレート24の各表面上にシールを形成するとともに、内リンクプレート24の外側に突出するブシュ22の外周面上にもシールを形成し、ピン21、ブシュ22の間に封入されるオイルの漏出を防止する。
シールリング10の自由形状を図2に示す。
シールリング10は、内周側に設ける滑らかな凹形状の内周溝11と、内周溝11を挟んで左右対称に設ける一対の内周リップ12、12と、外周側に設ける滑らかな凹形状の外周溝13と、外周溝13を挟んで左右対称に設ける一対の外周リップ14、14とを備えている。なお、ここでいう左右対称とは、軸Cに直交し、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cの中間を通る仮想平面PLに関して対称であることをいう。
各内周リップ12は、内向きに滑らかな凸形状の内周側の先端12cを有し、軸C方向に突出する環状リブ12aにより軸C方向の先端12bを形成している。環状リブ12aによる先端12bは、断面円弧状の山形に形成されている。なお、先端12bは、曲率半径0.1〜0.2mmとすれば、シール性と成形性の面で好適である。各内周リップ12は、内周側の先端12cと軸C方向の先端12bとの径方向の距離L2 を内周溝11の深さL1 より大きく形成し、また、先端12cと環状リブ12aの基部との間を凸面12dによって滑らかに接続している。
各外周リップ14は、軸C方向の先端14aを有し、先端14aは、断面円弧状の山形に形成されている。なお、先端14aは、曲率半径0.1〜0.2mmとすれば、シール性と成形性の面で好適である。また、各外周リップ14の先端14aの外周側、内周側は、それぞれ径方向に対して傾き角θb =45°の斜面14b、14cに形成されている。各斜面14bは、滑らかな外向きの凸形状となって外周溝13と接続されている。
なお、内周リップ12、12の軸C方向の先端12b、12b間の距離H1 から環状リブ12a、12aの軸C方向の高さh、hを除去した距離H2 =H1 −2hは、外周リップ14、14の軸C方向の先端14a、14a間の距離H3 より小さくなっている。ただし、図2において、H1 =H3 となっているが、H1 、H3 は、必ずしも同じにする必要はない。
各内周リップ12の軸C方向の先端12bは、各外周リップ14の軸C方向の先端14aと滑らかな凹形状の中間溝15を介して径方向に接続されている。また、中間溝15、15は、仮想平面PLに対して左右対称の一対として形成されている。なお、各中間溝15の内周側、外周側は、それぞれ斜面15a、14cに形成されている。そこで、各内周リップ12の内周側の先端12cから環状リブ12aの基部までの間の凸面12dは、中間溝15の斜面15aに倣って、内周側の先端12cに滑らかに接続する斜面としてもよい。
各内周リップ12の内周側の先端12cと軸C方向の先端12bとの径方向の距離L2 は、ブシュ22の内周面からブシュ22の先端のリング状の平坦面22aの外径までの径方向の距離L3 より大きくなっている(図3)。ただし、ブシュ22の両端は、それぞれ内周面側に微少な面取りが施され、外周面側が適切な曲率半径に滑らかに丸められている。また、図3において、距離L2 は、ブシュ22の厚さtに対し、L2 <tに図示されているが、L2 ≧tとしてもよい。
シールリング10は、内リンクプレート24の外側に突出するブシュ22の先端に嵌め込むために、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cによる最小内径D1 が、ブシュ22の外径D2 に対し、D1 <D2 の関係に設定されている(図1、図2)。すなわち、シールリング10は、全長を引き伸ばすようにしてブシュ22の先端に嵌め込むことができ(図3の矢印A方向)、このとき、シールリング10のブシュ22側の凸面12dは、シールリング10を適切にガイドしてブシュ22の中心に自動的に心合せすることができる。凸面12dを斜面に代えても、全く同様である。なお、ブシュ22に嵌め込んだシールリング10の内周側には、ブシュ22に嵌め込む前の深さL1 より浅く内周溝11が残存するものとする。
各シールリング10は、ローラチェーンに正規に組み込まれると、外リンクプレート23、内リンクプレート24に挟まれ、軸C方向に圧縮されて弾性変形する(図1、図4)。このとき、内周リップ12、12の内周側の先端12c、12cは、ブシュ22の外周面上に弾発的に当接して二重のシールを形成する。また、環状リブ12aによる一方の内周リップ12の軸C方向の先端12b、外周リップ14の軸C方向の先端14aは、外リンクプレート23の表面上に弾発的に当接して小径、大径の二重のシールを形成し、他方の先端12b、14aは、内リンクプレート24の表面に当接して二重のシールを形成する。ただし、図4において、環状リブ12a、12aは、いずれも軸C方向に圧縮されて消失している。
また、シールリング10は、中間溝15、15間の距離Bが外リンクプレート23と内リンクプレート24との距離Sより小さく、中間溝15、15が消失しない限度において全体として軸C方向に圧縮するものとし、したがって、左右対称の中間溝15、15は、それぞれ外リンクプレート23または内リンクプレート24の表面上の二重のシール間にオイル溜りを形成する。また、内周リップ12、12の間の内周溝11も、ブシュ22の外周面上の二重のシール間にオイル溜りを形成する。
内周リップ12は組込性の機能も備えるため幅W1 を大きくして剛性を上げているが、外周リップ14、14は外部からのダスト侵入防止を目的とし、リップ屈曲性を持たせるため幅W2 を小さくして剛性を下げている(図2)。よって、外周リップ14、14は図4のように、外周リップ14、14がそれぞれ外周溝13に向けて傾き、互いに近づくように容易に弾性変形する。なお、各外周リップ14は、外周溝13に向けて傾くと、外周側の斜面14bの傾き角θb >45°となり、外部からのダストの侵入を防止するとともに、付着したダストを外部に落とし易い。
シールリング10は、軸C方向に圧縮し易い環状リブ12a、12aを設けることによって、従来品の組込み性、低屈曲抵抗性などを維持しつつシール性、耐久性を向上させることができる。また、シールリング10を装着するための外リンクプレート23と内リンクプレート24との距離Sを従来品より10%以上小さくし、ローラチェーン自体の強度を高めることができる。
他の実施の形態
各環状リブ12aは、軸C方向に圧縮し易く、外リンクプレート23または内リンクプレート24に対する接触面積が小さく、良好なシール性を実現し得ることなどを条件として、断面円弧状の山形以外の断面形状としてもよい。
また、シールリング10は、内リンクプレート24側の一方の内周リップ12の内周側の先端12cだけをブシュ22の外周面上に当接させ、一重のシールを形成してもよい。すなわち、内周リップ12、12は、少なくとも一方がブシュ22の外周面上にシールを形成することができる。
なお、シールリング10の材料は、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、多硫化ゴム、ポリエーテルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムなどの合成ゴム材も使用可能である。
この発明は、たとえばバイクの走行用チェーンのような苛酷な使用条件のローラチェーンに対し、特に好適に適用することができる。
C…軸
H1 、H2 、H3 …距離
L1 …深さ
L2 、L3 …距離
h…高さ
t…厚さ
W1 、W2 …幅
10…シールリング
11…内周溝
12…内周リップ
12a…環状リブ
12b、12c…先端
12d…凸面
13…外周溝
14…外周リップ
14a…先端
21…ピン
22…ブシュ
22a…平坦面
23…外リンクプレート
24…内リンクプレート
25…ローラ

Claims (5)

  1. 内周側に設ける内周溝と、該内周溝を挟んで設ける一対の内周リップと、外周側に設ける外周溝と、該外周溝を挟んで設ける一対の外周リップとを備えてなり、前記各内周リップは、軸方向に突出する環状リブにより軸方向の先端を形成し、内周側の先端と前記軸方向の先端との径方向の距離を前記内周溝の深さより大きく形成するとともに、前記内周側の先端と前記環状リブの基部との間を凸面または斜面によって滑らかに接続することを特徴とするチェーン用のシールリング。
  2. 前記各内周リップは、前記内周側の先端と前記軸方向の先端との径方向の距離をブシュの内周面からブシュの先端のリング状の平坦面の外径までの径方向の距離より大きくすることを特徴とする請求項1記載のチェーン用のシールリング。
  3. 前記内周リップは、前記軸方向の先端間の距離から前記環状リブの軸方向の高さを除去した距離を前記外周リップの軸方向の先端間の距離より小さくすることを特徴とする請求項1または請求項2記載のチェーン用のシールリング。
  4. 前記内周リップの幅は、前記外周リップの幅より大きくすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載のチェーン用のシールリング。
  5. ピンとブシュとを介して屈曲自在に連結する各一対の外リンクプレート、内リンクプレートと、前記ブシュを介して前記内リンクプレートの間に回転自在に装着するローラと、前記内リンクプレートの外側に突出する前記ブシュの先端部を介して前記各外リンクプレート、内リンクプレートの間に介装する請求項1ないし請求項4のいずれか記載のチェーン用のシールリングとを備えてなり、該シールリングは、少なくとも一方の前記内周リップが前記ブシュの外周面上にシールを形成し、前記外周リップと前記環状リブとが前記外リンクプレート、内リンクプレートの表面上にシールを形成することを特徴とするローラチェーン。
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