JP5483413B2 - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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Description

本発明はリチウムイオン二次電池に関するものである。
リチウムイオン二次電池は、リチウムをドープ、脱ドープすることができる炭素質材料等を活物質とした負極と、リチウムと遷移金属酸化物との複合酸化物を活物質とした正極が用いられており、それぞれ帯状の負極集電体、正極集電体に塗布してセパレータを介して積層したものを、ラミネートフィルム等の外装材で被覆するか、あるいはこれらを積層したものを渦巻状に巻回した巻回体を電池缶内に収容して電池を製造している。この正極に用いられる正極活物質としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウムと遷移金属との複合酸化物が用いられる。
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、近年、携帯電話、ノート型パソコン、カムコーダ等の電源として広く用いられている。これらの非水電解液二次電池は、従来の鉛蓄電池、アルカリ蓄電池等の水性電解液を用いた二次電池に比べて、体積、あるいは重量容量密度が大きく、しかも高電圧を取り出すことが可能であるので、小型の機器用の電源として広く採用され、今日のモバイル機器の発展に大きく寄与している。
一方、近年では環境問題への意識の高まりからクリーンエネルギー社会への移行、環境技術の確立が注目を集めており、電力貯蔵用途・無停電電源(UPS)用途・移動体向け電源用途などに適した高性能二次電池の早期実現が求められている。リチウムイオン二次電池は前述の高エネルギー密度という特性から、こうした大型電池への展開にも積極的に検討されているものの、適用製品の幅広い普及のためには、現有製品に対するライフサイクルコスト上の優位性が必須であり、低価格化が不可欠な要素である。
換言すると、動作電圧の高いリチウムイオン二次電池において、低価格な材料を用いて充放電電流値を大きくすることが出来れば、高性能のUPSあるいはハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EVとあらわすことがある)の実現、ひいては高度情報化社会やクリーンエネルギー社会の構築に寄与できる。こうした背景から、リチウムイオン二次電池の低価格化と高容量・高出力化は積極的に検討されている。
たとえば、従来、小型携帯用途では正極活物質材料にコバルト酸リチウムの採用が主流であったが、コバルト酸リチウム代替材料としてコバルト酸リチウムのCoを他元素で置き換える試み、あるいはオリビン構造を有する鉄系材料などの開発が加速されている。
正極にコバルト酸リチウムを用いると、4Vを超える起電力が得られたことから精力的に研究が行われ、従来、小型携帯用途ではコバルト酸リチウムの採用が主流である。このコバルト酸リチウムは、電位平坦性、容量、放電電位、サイクル特性などトータルな性能で良好な特性を示すため、今日のリチウムイオン二次電池の正極活物質として広く用いられている。
しかしながら、コバルト酸リチウムに含まれる元素であるコバルトは、地殻存在量が少なく、高価な材料であるため、原料の供給安定性や価格に問題がある。また、コバルト酸リチウムは層状岩塩構造(α−NaFeO構造)を有しているため、充電時のリチウムにより、電気陰性度の大きな酸素層が隣接することになる。そのため、実使用時にはリチウムの引き抜き量を制限する必要があり、過充電状態などリチウムの引き抜き量が多すぎる場合、酸素層間の静電反発力による構造変化を起こして発熱するため、電池の安全性に大きな改善の余地を有しており、電池の安全性を確保するために外部に大きな保護回路を必要とし、より安全性の高い正極材料が求められている。
ニッケル酸リチウムはコバルト酸リチウム以上の容量を有しているものの、結晶構造はコバルト酸リチウムと同じ層状構造で、充電時のNi4+の不安定性に起因し、コバルト酸リチウムよりも酸素脱離温度が低く、安全性確保はより困難な材料である。さらに、放電電位がコバルト酸リチウムよりも低いことや、Niの環境負荷が高いことを考慮すると、コバルト酸リチウムの代替材料としては魅力が薄い。
一方、マンガン酸リチウムはリチウムイオン二次電池用の正極材料の一つとして非常に期待を集めている材料である。マンガンはコバルトに比べ地殻存在量が豊富であり、安価な元素であり、原料の供給安定性も問題はない。
このマンガン酸リチウムは化学式LiMnで表されるスピネル構造をとり、λ−MnOとの組成間で4V級の正極材料として機能する。スピネル構造のマンガン酸リチウムはコバルト酸リチウム等が有するような層状岩塩構造とは異なる三次元のホスト構造を持つため、理論容量のほとんどが使用可能であり、サイクル特性に優れることが期待される。
マンガン酸リチウムLiMnは現在主流の正極活物質コバルト酸リチウムの代替材料として大きな期待を集める複合酸化物であるものの、従来のマンガン酸リチウムを用いた二次電池は高温で充放電サイクルを繰り返すことによる容量劣化と、自己放電による保存容量の減少の2点でその実用化には問題がある。
充放電サイクルに伴う容量劣化の原因はLiの出入りに伴う電荷補償としてMnイオンの平均価数が3価と4価の間で変化し、そのためJahn−Teller歪みが結晶中に生じてしまうこと、およびマンガン酸リチウムからのMnの溶出ないしはMn溶出が起因するインピーダンス上昇にある。すなわち充放電サイクルを繰り返すことにより充放電容量が低下する容量劣化の原因としては、不純物の影響、マンガン酸リチウムからのMnの溶出および溶出したMnの負極活物質上あるいはセパレータ上への析出、活物質粒子の遊離による不活性化、さらには含有水分により生成した酸の影響、マンガン酸リチウムからの酸素放出による電解液の劣化等が考えられる。
単一スピネル相が形成されているとした場合、Mnの溶出はスピネル構造中の3価のMnが4価のMnと2価のMnに一部不均化することにより電解液中にMnが溶解しやすい形になってしまうこと、Liイオンの相対的な不足から溶出してしまうことなどが考えられ、充放電の繰り返しにより不可逆な容量分の発生や結晶中の原子配列の乱れが促進されるとともに、溶出したMnイオンが負極あるいはセパレータ上に析出して、Liイオンの移動を妨げると思われる。また、Mnイオンの負極あるいはセパレータへの析出の際に、負極またはセパレータ上に導電性の低い被膜を形成するため電池の直流抵抗値が上昇し、出力の低下の原因となる。またマンガン酸リチウムはLiイオンを出し入れすることにより、立方体対称はJahn−Teller効果により歪み、単位格子長の数%の膨張・収縮を伴う。従ってサイクルを繰り返すことにより、一部電気的なコンタクト不良が生じたり、遊離した粒子が電極活物質として機能しなくなったりすることも予想される。
さらにMn溶出に付随してマンガン酸リチウムからの酸素の放出も容易になってくると考えられる。酸素欠陥の多いマンガン酸リチウムはサイクル経過により3.3Vプラトー容量が大きくなり、結果的にサイクル特性も劣化する。また、酸素の放出が多いと電解液の分解に影響を与えると推測され、電解液の劣化によるサイクル劣化も引き起こすと思われる。この問題点の解決のため、これまで、合成方法の改善、他遷移金属元素添加、Li過剰組成等が検討されてきたが、放電容量の増加とサイクル寿命の向上の両面を同時に満足させるには至っていない。
従って、Mn溶出を低減させること、格子の歪みを軽減すること、酸素欠損を少なくすること等が対策として導き出される。
次に、高温保存後における保存容量の減少の原因としては、電池の製造プロセス起因の正負極のアライメント不足、電極金属屑混入等の内部ショートの現象を除外すると、保存特性の改善も、電解液に対するマンガン酸リチウムの安定性の向上、すなわちMnの溶出、電解液との反応、酸素の放出等の抑制に効果があると考えられる。
特に高温環境下における使用ではこれらの劣化はともに促進されることが、用途拡大の大きな障害となっている。しかしながら、起電力の高さ、放電時の電圧平坦性、サイクル特性、エネルギー密度等、現在の高性能二次電池に求められる性能を満足できるポテンシャルを期待できる材料系が限られるため、充放電容量劣化のない、サイクル特性、保存特性の優れた新たなスピネル構造のマンガン酸リチウムが求められている。
これらの問題を改善する方法として種々の方法が検討されている。例えば特許文献1では、LiMnで表わされ、1.025≦x≦1.185である物質を正極活物質とすることにより、非水電解質二次電池のサイクル特性を向上させることができるとの記載がある。
また、特許文献2には、正極材料の活物質が、Li1+xMn2−x(0<x<1.33)に、Al,Si,Mgからなる少なくとも1種類の元素を、Mnに対してモル比で0.01%から10%の量を添加した酸化物であることを特徴とする正極材料を用いることにより長寿命の2次電池用活物質が得られることが記載されている。
特許文献3には、アルミニウム及び/又はマグネシウムと、チタン、ジルコニウム、ハフニウムから選ばれる少なくとも1種類以上の元素と、硫黄と、を含むスピネル構造からなるリチウム遷移金属複合酸化物を有する構成とする非水電解二次電池用正極活物質は、サイクル充放電特性に優れることが記載されている。
負極と、正極活物質を主体とする正極とを具備し、前記正極活物質はリチウムマンガン酸化物とリチウムニッケル酸化物とを含むリチウム二次電池において、前記リチウムマンガン酸化物はホウ素を含むこと特徴とするリチウム二次電池は、充放電サイクルの繰り返しに伴う容量低下が小さく、高温保存特性に優れることが特許文献4に記載されている。
特開平2−270268号公報 特許第3928231号公報 特開2004−172108号公報 特開2002−170566号公報
しかし、これらの開示された技術は一定の効果が見られるものの、実用化を想定した長期的信頼性を向上させるためには、リチウムマンガン複合酸化物の充放電特性、特に高温におけるサイクル特性および容量保存特性の改善が求められる。
ところで安価なマンガンから成るリチウムマンガン酸化物はスピネル構造を有するLiMnや単斜晶など層状構造を有するLiMnOなどがある。LiMnは動作電圧が4Vであるのに対してLiMnOは動作電圧が3Vであるためにエネルギー密度の観点からはLiMnが有利である。ただし、その構造の違いからリチウムイオン伝導性はLiMnよりもLiMnOが有利である。
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、電池特性、特に長期高温特性に優れた正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の技術的課題は、長期高温での容量維持率が高く、体積増加率が少ないリチウムイオン二次電池を提供することにある。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウムイオン二次電池であって、正極活物質表面の、アルゴンレーザーを用いたラマンスペクトルにおける単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来の600cm−1のピーク強度に対する480cm−1のピーク強度比が0.3以上、0.9以下である前記正極活物質が、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物であることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムマンガン複合酸化物は、前記正極活物質表面の少なくとも一部に前記単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させたリチウムマンガン複合酸化物であることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムマンガン複合酸化物は、Li1+xMn2−x−y(0.02≦x≦0.15、0≦y≦0.3、MはMg,Al,Co,Bの少なくとも一種を含む)で表されることを特徴とする。
本発明により、長期高温での容量維持率が高く、体積増加率が少ないリチウムイオン二次電池の提供が可能となる。
本発明のリチウムイオン二次電池の構成を示す模式図。 本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の高温サイクル特性評価前後でのラマン分光測定結果を示した図。
本発明の実施の形態を説明する。
本発明者らは、従来の技術を精査し、種々の検討を重ねた結果、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させると、高温における長期充放電サイクル特性、特にハイレートサイクル特性、それに伴う体積増加の改善に関して極めて大きな影響を及ぼすことを見出し、本発明に至ったものである。
本発明によれば、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させることにより高温における体積増加が小さく、長期充放電サイクル特性、特にハイレートサイクル特性の改善につながることを見出した。すなわち、正極活物質表面の、アルゴンレーザーを用いたラマンスペクトルにおける単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来の600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比が0.3以上、0.9以下で、高温における体積増加が小さく、長期充放電サイクル特性が良好であることを見出した。詳細は実施例に記載する。また、Li−Mn−Oの三成分と別の元素としてはアルミニウム(Al)または及びマグネシウム(Mg)または及びボロン(B)または及びコバルト(Co)が好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池用の正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物を用いることにより該粒子表面に付着させる単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が高温における長期充放電サイクル試験後、長期保存試験後も安定して存在するのに対して、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトを添加・ドープしていないLiMnの該粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させても高温における長期充放電サイクル試験後はスピネル構造に変化することが分かった。
リチウムイオン伝導性がスピネル構造よりも高い単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が粒子表面に付着し続けることで、リチウムイオンの挿入・脱離がスムーズに起こり、粒子内部、外部での電位のムラが出来づらく、高電位で起こる電解液分解によるガス発生が抑えられ、高温における良好な長期充放電サイクル特性、長期保存特性が得られると考えられる。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の構成を示す模式図である。正極集電体11上のリチウムイオンを吸蔵、放出し得る正極活物質を含有する層12と、負極集電体14上のリチウムイオンを吸蔵、放出する負極活物質を含有する層13とが、電解液を含むセパレータ15を介して対向して配置されている。
本発明のリチウムイオン二次電池は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の表面の少なくとも一部に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させた正極活物質を含む正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を持つ負極を主要成分とし、正極と負極の間に電気的接続を起こさないようなセパレータが挟まれ、正極と負極はリチウムイオン伝導性の非水電解液に浸った状態で、非水電解液を介して対向配置され、これらがラミネートフィルムの中に密閉された状態となっている。正極と負極に電圧を印加することにより正極活物質からリチウムイオンが脱離し、負極活物質にリチウムイオンが吸蔵され、充電状態となる。また、正極と負極を電池外部の機器に接続し出力させることにより、充電時と逆に、負極活物質からリチウムイオンが放出され、正極活物質にリチウムイオンが吸蔵されることにより、放電が起こる。
(正極)
本発明に係るリチウムイオン二次電池用の正極活物質は、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させる正極活物質を含む。
次にスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の作製方法について説明する。スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の作製原料として、Li原料には、LiCO、LiOH、LiO、LiSOなどを用いることができるが、LiCO、LiOHなどが適している。Mn原料としては、電解二酸化マンガン(EMD)・Mn、Mn、化学二酸化マンガン(CMD)等の種々のMn酸化物、MnCO、MnSOなどを用いることができる。Al原料としては、Al、AlCl、Al(OH)、Al(SO、Al(CO)、Al(NOなどが使用可能である。Mg原料としてはMgO、Mg(OH)、MgCl、Mg(NO、Mg(PO、MgCOなどが使用可能である。B原料としてはB、HBO、リチウムホウ素化合物、オルトホウ酸、酸化ホウ素、リン酸ホウ素などが使用可能である。Co原料としてはCoO、Co、CoCl、Co(OH)、CoSO、CoCO、Co(NOなどが使用可能である。
Mn原料や、置換元素原料は、焼成時に元素拡散が起こり難い場合があり、焼成後、Mn酸化物、置換元素酸化物が異相として残留してしまうことがある。このためMn原料、Al原料、Mg原料、B原料、Co原料を水溶液中に溶解混合させた後、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩などの形で析出させたAl、Mg、B、Co、Mn混合物や置換元素を含むAl、Mg、B、Co、Mn混合物を原料として用いることが可能である。また、このような混合物を焼成させたAl、Mg、B、Co、Mn酸化物やAl、Mg、B、Co、Mn混合酸化物を用いることも可能である。このような混合物を原料として用いた場合にはMn、Al、Mg、B、Coが原子レベルで良く拡散しており、スピネル構造の16dサイトへのAl、Mg、B、Coの導入が容易となる。
これらの原料を目的の金属組成比となるように秤量して混合する。これらを、ボールミル、ジェットミルなどにより粉砕混合する。混合粉を600℃から950℃の温度で、空気中または酸素中で焼成することによってスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を得る。焼成温度は、それぞれの元素を拡散させるためには高温である方が望ましいが、焼成温度が高すぎると酸素欠損を生じ、電池特性に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、焼成温度は、650℃から850℃程度とするのが好ましい。またゾル−ゲルのプロセスや水熱合成など液系の手法によって合成したスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物も、最終的な組成を所定のものとすれば、同様に用いることができる。
得られたスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の比表面積は0.01m/g以上、10m/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05m/g以上、2m/g以下である。比表面積が10m/gより大きいと、結着剤が多く必要であり、正極活物質の容量密度の点で不利になり、比表面積が0.01m/gより小さいと、正極活物質からのLiの挿入脱離が阻害されるため、充放電特性が劣る恐れがあるからである。
次に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の作製方法について説明する。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の作製原料として、Li原料にはLiCO、LiOH、LiO、LiSOなどを用いることができるが、LiCO、LiOHなどが適している。Mn原料としては、電解二酸化マンガン(EMD)・Mn、Mn、化学二酸化マンガン(CMD)等の種々のMn酸化物、MnCO、MnSOなどを用いることができる。
これらの原料を目的の金属組成比となるように秤量して混合する。これらを、ボールミル、ジェットミルなどにより粉砕混合する。混合粉を400℃から1000℃の温度で、アルゴンガス中で焼成することによって単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を得る。またゾル−ゲルのプロセスや水熱合成など液系の手法によって合成した単斜晶リチウムマンガン複合酸化物も、最終的な組成を所定のものとすれば、同様に用いることができる。
得られた単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の比表面積は0.01m/g以上、10m/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05m/g以上、2m/g以下である。比表面積が10m/gより大きいと、結着剤が多く必要であり、正極活物質の容量密度の点で不利になり、比表面積が0.01m/gより小さいと、正極活物質からのLiの挿入脱離が阻害されるため、充放電特性が劣る恐れがあるからである。
次にスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させる作製方法について説明する。分散剤が溶けた水溶液中に攪拌しながら単斜晶リチウムマンガン複合酸化物粉末を投入し、次いでスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物粉末を攪拌しながら投入し、攪拌しながら温度20℃から400℃の範囲で乾燥させることによりスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得ることができる。またメカノフュージョンなど物理的に粒子表面に付着させる方法も、最終的に同構造をとれば、同様に用いることができる。
なお、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を独立に作製するのではなく、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を基材としてそれらの周りに単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の作製法としてゾル−ゲルのプロセスや水熱合成など液系の手法によって合成したものも、最終的に同構造をとれば、同様に用いることができる。
正極の製造方法としては、特に制限はないが、例えばスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物であり、該粉末本体の表面の少なくとも一部には単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を、導電性付与剤およびバインダーと共に、バインダーを溶解しうる適当な分散媒で混合(スラリー法)した上で、アルミ箔等の集電体上に塗布し、溶剤を乾燥した後、プレス等により圧縮して成膜する。
導電性付与剤としては、特に制限はなく、カーボンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、炭素繊維等を用いることができる。また、バインダーとしても、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を用いることができる。
導電性付与剤の添加量は合剤の質量に対し好ましくは1〜10質量%程度であり、結着剤の添加量も合剤の質量に対し1〜10質量%程度である。これは、導電性付与剤と結着剤の割合が10質量%程度より大きいと、リチウムイオン二次電池用の正極活物質の割合が小さくなり重量当たりの容量が小さくなる恐れがあるためである。また、導電性付与剤と結着剤の割合が1質量%より小さいと、導電性が保てなくなったり、電極剥離の問題が生じたりする恐れがあるからである。形成された二次電池正極を構成する、集電体を除いた、合剤の密度は、2.5g/cm以上、3.5g/cm以下とするのが好ましい。合剤の密度を上記の値とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上し好ましいからである。
(負極)
負極活物質はリチウム金属、シリコン系材料、スズ系材料、遷移金属含有酸化物または炭素材料などのリチウムを吸蔵、放出できる材料により構成されている。炭素材料としては、リチウムを吸蔵する黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなど、あるいは、これらの複合物を用いることができる。負極活物質としてリチウム金属を用いる場合には融液冷却方式、液体急冷方式、アトマイズ方式、真空蒸着方式、スパッタリング方式、プラズマCVD(化学気相成長法)方式、光CVD方式、熱CVD方式、ゾル‐ゲル方式、などの適宜な方式により負極活物質を含有する層を得ることができる。また、炭素材料の場合には、カーボンとPVDF(ポリビニリデンフルオライド)等の結着剤を混合して、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)等の溶剤中に分散混錬し、これを銅箔等の基体上に塗布するなどの方法や、蒸着法、CVD法、スパッタリング法などの方法により負極活物質を含有する層を得ることができる。
(集電体)
正極集電体としてはアルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金などを用いることができ、負極集電体としては銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータとしては、織布、不織布、多孔膜等を用いることができる。特にポリプロピレン、ポリエチレン系の多孔膜が薄膜でかつ大面積化、膜強度や膜抵抗の面で好ましく用いられる。
電解液の溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1、2−ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1、3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1、3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して使用できる。このうち、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを単独もしくは混合して用いることが好ましい。
これらの有機溶媒に支持塩としてリチウム塩を溶解させる。リチウム塩としては、例えばLiPF、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO、LiCCO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類などがあげられる。また、電解液に代えてポリマー電解質を用いてもよい。4級アンモニウム塩などを含むイオン性液体を用いても良い。電解質濃度は、たとえば0.5mol/L以上、1.5mol/L以下とするのが好ましい。濃度が1.5mol/Lより高いと密度と粘度が増加し、濃度が0.5mol/Lより低いと電気伝導率が低下する恐れがあるからである。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、一例として、乾燥空気または不活性ガス雰囲気において、負極および正極を、セパレータを介して積層した後に、ラミネートフィルムパックに挿入し、電解液を含浸させ、ラミネートフィルムを封止することで得られる。
電池形状には制限がなく、セパレータを挟んで対向した正極、負極を巻回型、積層型などの形態を取ることが可能であり、セルに関しても、コイン型、ラミネートパック、角型セル、円筒型セルを用いることができる。
以下に本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
(スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の合成)
まず、平均粒径5μm以下に粉砕、分級した炭酸リチウム(LiCO)と、平均粒径10μm以下に粉砕、分級した酸化マンガン(Mn)、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化コバルト(Co(OH))、酸化ホウ素とを用意し、これらを所定の比率で調合し、遊星型ボールミルにより2時間混合した後、その混合物を坩堝に入れ、空気中において800℃で一次焼成した。次いで、この一次焼成物を解砕し、再混合した後に空気中において600℃で二次焼成した。次いで、前記の工程で得られた焼成物を、石川式ライカイ機を用いて粉砕することにより、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0、Mはなし)を得た。
得られた粉末状の正極活物質を、CuKα線を用いてX線回折測定を行った。そのX線回折パターンがそのJCPDS(既知物質の回折データチャート)に示される値によく一致した。合成した粉末には異相は見られず、基本的にスピネル構造を有していることを確認した。
(単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の合成)
まず、平均粒径5μm以下に粉砕、分級した炭酸リチウム(LiCO)と、平均粒径10μm以下に粉砕、分級した酸化マンガン(Mn)を用意し、これらを所定の比率で調合し、遊星型ボールミルにより2時間混合した後、その混合物を坩堝に入れ、アルゴンガス中において400℃で焼成した。次いで、前記の工程で得られた焼成物を、石川式ライカイ機を用いて粉砕することにより、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を得た。
得られた粉末状の正極活物質を、CuKα線を用いてX線回折測定を行った。そのX線回折パターンがそのJCPDSに示される値によく一致した。合成した粉末には異相は見られず、基本的に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物であることを確認した。
(単斜晶リチウムマンガン複合酸化物の付着処理)
次にスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させる作製方法について説明する。分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを使用した。0.5重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に攪拌しながら単斜晶リチウムマンガン複合酸化物粉末を0.5重量%投入し、次いで攪拌しながらスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物粉末を10重量%投入した。攪拌しながら50℃の温度で水がなくなるまで乾燥させ、完全に水がなくなる100℃の温度で乾燥させることでスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。
得られた粉末状の正極活物質について、アルゴンレーザーを用いたラマン分光測定を行った。そのラマンスペクトルはスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物由来の630cm−1、380cm−1、300cm−1付近のラマンバンド、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来の600cm−1、480cm−1、420cm−1付近のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。このとき単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.3であった。
(実施例2)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.15、y=0、Mはなし)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.5であった。
(実施例3)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.3、MはAl)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.6であった。
(実施例4)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.15、y=0.3、MはAl)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.7であった。
(実施例5)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.15、MはMg)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.6であった。
(実施例6)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.1、MはCo)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.6であった。
(実施例7)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.3、MはB)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.9であった。
(比較例1)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0、y=0、Mはなし)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例2)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0、Mはなし)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例3)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.15、y=0、Mはなし)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例4)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.3、MはAl)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例5)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.15、y=0.3、MはAl)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例6)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.15、MはMg)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例7)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.1、MはCo)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例8)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0.02、y=0.3、MはB)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成しなかった。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドは観測されなかった。
(比較例9)
スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を合成し、Li1+xMn2−x−y(x=0、y=0、Mはなし)を得た。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を合成し、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の粒子表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が付着する粉末を得た。得られた粉末状の正極活物質について、ラマン分光測定を行ったが、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンバンドが観測され、合成した粉末には異相は見られなかった。単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比は0.2であった。
実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例9に関して、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物(単斜晶物)の付着処理の有無、ラマンスペクトルのピーク強度比、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物Li1+xMn2−x−yの組成を表1に示す。
Figure 0005483413
(積層型ラミネートフィルム外装リチウムイオン二次電池の作製)
実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例9に関して、得られた粉末状の正極活物質と導電性付与剤を乾式混合し、バインダーであるフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)を溶解させたNMP中に均一に分散させスラリーを作製した。導電性付与剤としてはカーボンブラックを用いた。そのスラリーを正極集電体となるアルミ金属箔(厚さ20μm)上に塗布後、NMPを蒸発させることにより膜厚85μmの正極シートとした。正極中の固形分比率は正極活物質:導電性付与剤:PVDF=90:4:6(質量%)とした。一方、負極は、カーボン:PVDF=90:10(質量%)の比率となるように混合しNMPに分散させ、負極集電体となる銅箔(厚さ10μm)上に塗布して膜厚47μmの負極シートを作製した。
負極を30mm×14mmの負極活物質層とその短辺部に5mm×5mmの未塗布部が延出した形状に切り出した。同様に、正極を28mm×13mmの正極活物質層と5mm×5mmの未塗布部が延出した形状に切り出した。セパレータは32mm×16mm及びセパレータ凸部分としてセパレータの長辺部分に4mm×3mmの形状に切り出した。負極、正極、セパレータをそれぞれ6枚、5枚、10枚用意し、積層体の上下最外層には負極となるように、負極と正極とセパレータを介して順次積層した。また正極の未塗布部同士と負極の未塗布部同士が重なるようにして、両極の未塗布部は積層体の左右に位置するように配置した。
幅5mm、長さ20mm、厚み0.1mmのアルミ製のシーラントつきのタブを正極未塗布部に、同サイズのニッケル製のシーラントつきのタブを負極未塗布部に、タブと集電体および集電体同士が電気的に接続されるように超音波溶接を行って一体化した。次に電池外装体として厚み125μmの70mm×70mmのポリプロピレンとアルミ箔からなるアルミラミネートフィルムを2枚におり、上記積層体を挿入し、電解液を注入する一辺を除く辺は熱融着により接着した。電解質としての1mol/LのLiPFを用いた電解液を注液して減圧下にて含浸させた後、開口部を真空封止することで、積層型ラミネート電池を作製した。
(積層型ラミネート電池での高温サイクル特性評価)
作製した積層型ラミネート電池を用いて、高温サイクル特性評価1として以下に示すサイクル試験を行った。温度60℃において充電レート1.0C、放電レート1.0C、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vとした。容量維持率(%)は1000サイクル後の放電容量(mAh)を、10サイクル目の放電容量(mAh)で割った値である。また体積増加率は10サイクル目の体積を基準とした1000サイクル後の体積の増加率であり、体積はアルキメデス法により測定した。サイクル試験後に、アルゴンレーザーを用いたラマン分光測定を行い、ピーク強度比(単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比)を求めた。
また、作製した積層型ラミネート電池を用いて、高温サイクル特性評価2として以下に示すサイクル試験を行った。温度60℃において充電レート5.0C、放電レート5.0C、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3.0Vとした。容量維持率(%)は5000サイクル後の放電容量(mAh)を、10サイクル目の放電容量(mAh)で割った値である。また体積増加率は10サイクル目の体積を基準とした5000サイクル後の体積の増加率であり、体積はアルキメデス法により測定した。サイクル試験後に、アルゴンレーザーを用いたラマン分光測定を行い、ピーク強度比(単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルにおける600cm−1付近のピーク強度に対する480cm−1付近のピーク強度比)を求めた。
実施例1〜実施例7、比較例1〜比較例9に関して、高温サイクル特性評価1、2実施後の、それぞれの容量維持率、体積増加率、ラマンスペクトルのピーク強度比を表2に示す。
Figure 0005483413
表2の結果よりスピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の表面の少なくとも一部に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させた実施例1〜7において、容量維持率、及びそれに伴う体積増加率が良好であることがわかった。特に高温サイクル特性評価2で行った5Cサイクルでの結果が特異的に良好であることがわかった。
図2は本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の高温サイクル特性評価前後でのラマン分光測定結果を示した図である。これは、高温サイクル特性評価2(5Cサイクル特性)の結果が最も良好であった実施例5のサイクル試験前後でのラマン分光測定結果を示したものである。サイクル試験前後でスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物由来のピーク及び単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のピークが確認できた。
また、ほかの比較例、実施例に関するラマン分光測定結果から、スピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物を用いることで表面に付着させた単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が、サイクル試験後も単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来のラマンスペクトルが確認でき、安定して存在することが確認できた。これに対してスピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトを添加・ドープしていないLiMnでは表面に付着させた単斜晶リチウムマンガン複合酸化物のラマンスペクトルはサイクル試験後では確認できず、スピネル構造を有するマンガン酸リチウム由来のラマンスペクトルが確認できた。
これにより、サイクル試験に伴い構造が、単斜晶からスピネルへ変化してしまっていることが分かった。そのため、Li過剰及びまたは他元素置換したスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させることで、サイクル試験後も単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が安定して付着し続け、リチウムイオン伝導性がスピネル構造よりも高い単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が粒子表面にあることで、リチウムイオンの挿入・脱離がスムーズに起こり、粒子表面、内部での電位のムラが出来づらく、電解液の分解により起こるガス発生を抑えた結果、良好な高温における長期充放電サイクル特性、特にハイレートサイクル特性が得られたと考えられる。
容量維持率及び体積増加率は、Li量xは0.02以上、0.15以下の範囲で特に良好であり、Mの置換量yは0以上、0.3以下の範囲で良好であることがわかった。このときxとyが同時に置換した場合でも、同様の効果が得られることを確認している。また今回示した元素以外の元素でも構造の安定化が図られていれば同様の効果が得られると考えられる。
(比較例10)
比較例4と同一のスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を重量比で20:1の割合で、付着させずに混合して、同一の電極組成のものを用いて積層型ラミネート電池を作製した。この積層型ラミネート電池での高温サイクル特性評価1(60℃、1Cでの1000サイクル試験)及び高温サイクル特性評価2(60℃、5Cでの5000サイクル試験)を行い、容量維持率及び体積増加率を測定した。
比較例10、比較例4、実施例3に関して、単斜晶リチウムマンガン複合酸化物(単斜晶物)の処理方法と、高温サイクル特性評価1、2実施後の、それぞれの容量維持率、体積増加率を表3に示す。
Figure 0005483413
表3よりスピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物と単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を単に混合させただけでは効果は得られず、本発明のスピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の表面に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させることによって良好な容量維持率及び体積増加率が得られることが分かった。
以上よりスピネル構造を有するマンガン酸リチウムのマンガン(Mn)サイトをリチウム(Li)または及びLi−Mn−Oの三成分と別の元素を添加・ドープしたリチウムマンガン複合酸化物の表面の少なくとも一部に単斜晶リチウムマンガン複合酸化物を付着させた正極活物質を用いることで、容量維持率及び体積増加率が良好なリチウムイオン二次電池を提供できることがわかった。
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。これはあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
11 正極集電体
12 正極活物質を含有する層
13 負極活物質を含有する層
14 負極集電体
15 電解液を含むセパレータ

Claims (2)

  1. 正極と、負極と、非水電解液とを備えたリチウムイオン二次電池であって、
    アルゴンレーザーを用いたラマンスペクトルにおける単斜晶リチウムマンガン複合酸化物由来の600cm−1のピーク強度に対する480cm−1のピーク強度比が0.3以上、0.9以下である単斜晶リチウムマンガン複合酸化物が、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物の表面の少なくとも一部に付着してなる正極活物質を含む正極を有する
    ことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  2. 前記スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物は、Li1+xMn2−x−y(0.02≦x≦0.15、0≦y≦0.3、MはMg,Al,Co,Bの少なくとも一種を含む)で表される
    ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
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