しかしながら、悪路走行時のように急激な路面変化が生じると、バネ下部材の上下運動が激しくなり、バネ下上下加速度に基づいて求められる慣性補償制御量の演算がバネ下上下加速度の変化に追従できなくなり、制御の位相遅れが発生してしまう。
この結果、乗り心地が悪化する。また、位相遅れにより電動モータの動きが遅れて、直列サブアブソーバのストロークを規制するストッパ当たりの頻度が増すとともに、ストッパ当たりの衝撃の大きさも増加する。これに伴って、ボールネジ機構のボールネジに働く軸力が増加し、ボールネジ機構の信頼性が低下してしまう。このため、ボールネジの強度を増加させる必要が生じる。
こうした制御量の位相遅れは、マイクロコンピュータの高スペック化を図れば改善されるが、その場合には大幅なコストアップを招いてしまう。
本発明は、上記問題を解決するためになされるものであり、バネ下部材の上下方向の運動量に基づいて求められる制御量の演算遅れを低コストにて抑制して乗り心地を向上させることを目的とする。
上記課題を解決する本発明の特徴は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に配設されたサスペンションバネ(20)と並列に設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力および減衰力を発生する電磁アクチュエータ(30)と、前記バネ上部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ上運動量を検出するバネ上運動量検出手段(61)と、前記バネ下部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ下運動量を検出するバネ下運動量検出手段(62)と、前記バネ上運動検出手段により検出したバネ上運動量に基づいて前記電磁アクチュエータのバネ上関連制御量を所定の周期で演算するバネ上関連制御量演算手段(110)と、前記バネ下運動検出手段により検出したバネ下運動量に基づいて前記電磁アクチュエータのバネ下関連制御量を所定の周期で演算するバネ下関連制御量演算手段(120,130)と、前記バネ上関連制御量と前記バネ下関連制御量とに基づいて前記電磁アクチュエータの目標制御量(fmotor*)を所定の周期で演算する目標制御量演算手段(140,150)と、前記目標制御量演算手段により演算された目標制御量にしたがって前記電磁アクチュエータを駆動制御する駆動制御手段(70)と、前記バネ下運動量検出手段により検出されたバネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えている否かを判断するバネ下運動判断手段(170,S13)と、前記バネ下運動判断手段によりバネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えていると判断された場合には、前記基準運動量を超えていると判断されない場合に比べて、前記バネ上関連制御量演算手段の演算周期を長くするとともに前記バネ下関連制御量演算手段および前記目標制御量演算手段の演算周期を短くする演算周期設定手段(170,S19,S20)とを備えたことにある。
本発明においては、バネ上運動量検出手段がバネ上部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ上運動量を検出し、バネ下運動量検出手段がバネ下部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ下運動量を検出する。この上下方向の運動に関する物理量は、各部材の上下方向の加速度あるいは速度により検出することができる。そして、バネ上関連制御量演算手段が、バネ上運動量に基づいて電磁アクチュエータのバネ上関連制御量を所定の周期で演算し、バネ下関連制御量演算手段が、バネ下運動量に基づいて電磁アクチュエータのバネ下関連制御量を所定の周期で演算する。この場合、バネ上関連制御量演算手段は、バネ下運動量には基づかないバネ上関連制御量を演算するものである。
目標制御量演算手段は、こうして演算されたバネ上関連制御量とバネ下関連制御量とに基づいて電磁アクチュエータの目標制御量を所定の周期で演算し、この目標制御量にしたがって、駆動制御手段が電磁アクチュエータを駆動制御する。電磁アクチュエータとしては、例えば、電動モータと、電動モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構(ボールネジ機構など)とを備えて構成することができる。この場合においては、駆動制御手段が電動モータに流れる電流を制御することになる。これにより、電磁アクチュエータが、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力あるいは減衰力を発生して車両の上下振動を抑制する。
こうした車両の制振制御を行う場合、悪路走行時のように急激な路面変化が生じると、バネ下部材の振動が激しくなり、バネ下関連制御量演算手段の演算がバネ下部材の動きに追従できず、バネ下関連制御量に位相遅れが生じやすい。また、これに伴って、最終的な電磁アクチュエータの目標制御量に位相遅れが生じることになる。それぞれの演算手段は、マイクロコンピュータの演算処理により実現されるものであるため、マイクロコンピュータの高スペック化を図れば、位相遅れを改善することができるが、その場合には、コストアップを招いてしまう。
そこで、本発明においては、悪路走行時のような目標制御量に位相遅れが生じるおそれのある状況においては、各演算手段の演算周期のバランスを切り替えることにより、位相遅れを抑制する。そのために、バネ下運動判断手段は、バネ下運動量検出手段により検出されたバネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えている否かを判断する。そして、演算周期設定手段が、バネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えていると判断された場合には、基準運動量を超えていると判断されない場合に比べて、バネ上関連制御量演算手段の演算周期を長くするとともにバネ下関連制御量演算手段および目標制御量演算手段の演算周期を短くする。つまり、各演算手段は、マイクロコンピュータにより構成され、予め設定された演算周期で所定の演算を行うが、バネ下部材の上下方向の運動が激しい場合には、バネ下運動量に関連するバネ下関連制御量および目標制御量の演算周期を短くし、バネ下運動量に関連しないバネ上関連制御量の演算周期を長くする。
これにより、バネ上関連制御量の演算負荷が軽減されてマイクロコンピュータの能力に余裕が生まれ、この余裕をバネ下関連制御量、目標制御量の演算に充てることができる。従って、マイクロコンピュータの有する能力の範囲内で、バネ下運動に追従した目標制御量を演算することができるようになる。尚、目標制御量の演算周期を短くした場合に、目標制御量を駆動制御手段に指令する速度(例えば、通信周期)が、目標制御量の演算周期に比べて遅くなる場合には、目標制御量を駆動制御手段に指令する速度を増加させる(例えば、通信周期を短くする)ようにするとよい。
この結果、本発明によれば、電磁アクチュエータの目標制御量の位相遅れを低コストにて抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。
本発明の他の特徴は、前記電磁アクチュエータと前記バネ下部材との間に配設され、前記電磁アクチュエータと直列に設けられる直列バネ(40b)と直列ダンパ(40a)とを並列に備えた直列サブアブソーバ(40)を備えたことにある。
本発明においては、高周波の路面入力がバネ下部材に加えられた場合、直列サブアブソーバの直列バネが路面入力から受ける衝撃をやわらげるとともに、直列ダンパが減衰力を発生する。これにより路面入力の電磁アクチュエータ側への伝達を抑制する。従って、直列サブアブソーバは、高周波振動のフィルタとして機能する。
また、電磁アクチュエータの目標制御量の位相遅れが抑制されるため、直列ダンパがストロークエンドに達してしまうストッパ当たりの頻度、および、ストッパ当たりの衝撃の大きさを低減することができる。従って、直列サブアブソーバおよび電磁アクチュエータの信頼性を向上させることができる。
尚、直列ダンパは、例えば、内部に作動液が封入されたシリンダおよびシリンダ内に配設されたピストンを有するとともに、ピストンまたはシリンダのいずれか一方が電磁アクチュエータに直列的に接続され、いずれか他方がバネ下部材に連結しているものである構成を用いるとよい。そして、ピストンがシリンダ内を相対移動することにより、作動液の粘性に基づく減衰力を発生するように構成するとよい。また、直列サブアブソーバを介装した場合には、制御量演算手段は、バネ下部材に作用させるべき力であるバネ下制振制御力と、電磁アクチュエータの発生する力が直列サブアブソーバを介してバネ下部材に伝達される場合における力の伝達特性を表す伝達関数である直列伝達補償用伝達関数とに基づいて、制御量を演算するように構成するとよい。
本発明の他の特徴は、前記目標制御量演算手段は、前記バネ上部材と前記バネ下部材との間に設けられ前記バネ上部材と前記バネ下部材とのいずれにも固定されていない中間部材が、前記バネ下部材が変位することによって発生する慣性力の影響を補償するための慣性補償制御量を加味して演算することにある。
本発明においては、バネ下部材が変位することによって中間部材が慣性力を発生するため、その慣性力の影響を補償するように電磁アクチュエータの目標制御量を演算する。従って、最適な目標制御量を演算することができ、乗り心地を向上させることができる。バネ下部材が変位することによって発生する中間部材の慣性力は、中間部材の質量とバネ下上下加速度から計算することができる。従って、慣性補償制御量の演算には、バネ下上下加速度が必要となる。尚、中間部材の質量は、例えば、電動モータとボールネジ機構とを用いて電磁アクチュエータを構成した場合には、バネ下部材の上下方向の変位に対して回転する部材が存在するため、その回転部材に関しては、回転部材の慣性モーメントを慣性質量に換算して計算するとよい。
この場合、バネ下部材の上下運動が激しい場合には、バネ下上下加速度から演算される慣性補償制御量に位相遅れが生じやすいが、上記のように演算周期が調整されるため位相遅れが抑制される。このため、適切な慣性補償制御量を演算することができ、乗り心地をさらに向上させることができる。また、直列ダンパのストッパ当たりの頻度、および、ストッパ当たりの衝撃の大きさをさらに低減することができ、この結果、直列サブアブソーバおよび電磁アクチュエータの信頼性をさらに向上させることができる。
本発明の他の特徴は、前記バネ下運動検出手段は、前記バネ下部材の上下方向の加速度であるバネ下上下加速度を検出するものであり、前記バネ下運動判断手段は、前記バネ下運動検出手段により検出されたバネ下上下加速度の変化率の大きさに基づいて、前記バネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えているか否かを判断することにある。
本発明においては、バネ下上下加速度の変化率の大きさに基づいて、バネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えているか否かを判断する。つまり、バネ下上下加速度の変化率の大きさが予め設定した基準値を超えているときに、バネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えていると判断する。従って、特に、バネ下上下加速度に基づいて慣性補償制御を行う構成の場合には、慣性補償制御量がバネ下上下加速度から計算されるものであることから、演算周期を切り替えるタイミングが適切となり、慣性補償制御の位相遅れを抑制することができる。
本発明の他の特徴は、前記バネ下運動判断手段は、前記バネ下運動検出手段により検出されたバネ下上下加速度の変化率の大きさが予め設定された基準変化率を超え、かつ、バネ下上下加速度の大きさが予め設定した基準加速度を超えるという条件が満足した場合に、前記バネ下運動量が予め設定された基準運動量を超えていると判断することにある。
本発明においては、バネ下上下加速度の変化率の大きさが予め設定された基準変化率を超えるという条件に加えて、バネ下上下加速度の大きさが予め設定した基準加速度を超えるという条件も設定している。このため、演算周期を切り替えるタイミングがより適切となり、更に乗り心地をさらに向上させる事ができる。
尚、上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件を前記符号によって規定される実施形態に限定させるものではない。
以下、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成の概略図である。
このサスペンション装置は、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと車体Bとの間にそれぞれ設けられる4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRと、各サスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRの作動を制御するサスペンション制御装置100とを備える。以下、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRおよび車輪WFL,WFR,WRL,WRRは、特に前後左右を区別する場合を除き、本明細書において単にサスペンション本体10および車輪Wと総称される。
図2は、サスペンション本体10の部分断面概略図である。図示するように、サスペンション本体10は、エアバネ装置20と、電磁アクチュエータ30と、直列サブアブソーバ40とを備える。エアバネ装置20は、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車両の重量を弾性支持する。このエアバネ装置20に支えられる側、つまり車体B側の部材がバネ上部材であり、エアバネ装置20を支持する側、つまり車輪W側の部材がバネ下部材である。したがって、エアバネ装置20,電磁アクチュエータ30および直列サブアブソーバ40は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に設けられる。
電磁アクチュエータ30は、電動モータ31とボールネジ機構32とを備える。電動モータ31は、モータケーシング311と、中空状の回転軸312と、永久磁石313と、極体314とを備える。モータケーシング311は電動モータ31の外郭を構成するハウジングであり、図示上下方向に軸を持つ段付円筒形状とされる。回転軸312は、モータケーシング311と同軸的にモータケーシング311内に配設され、軸受331,332によりモータケーシング311に回転可能に支持される。この回転軸312の外周面に永久磁石313が固定される。回転軸312および永久磁石313により電動モータ31のロータが構成される。永久磁石313に対向するように極体314(コアにコイルが巻回されたもの)が、モータケーシング311の内周面に固定される。極体314により電動モータ31のステータが構成される。
ボールネジ機構32は、電動モータ31に連結しており、電動モータ31の回転運動を直線運動に変換する変換機構としての機能を有する。ボールネジ機構32は、ネジ溝321aが形成されたボールネジ軸321と、このボールネジ軸321のネジ溝321aに螺合するボールネジナット322とを備える。ボールネジナット322はモータケーシング311内に配設され、回転軸312の下端部分に接続されるとともに、ボールベアリングを介して回転可能且つ軸方向移動不能にモータケーシング311に支持される。したがって、回転軸312が回転すると、それに伴いボールネジナット322も回転する。
ボールネジ軸321は、モータケーシング311に同軸的に配置されており、モータケーシング311内にてボールネジナット322を螺合するとともに、その上方部分が回転軸312の内周側に挿入される。また、ボールネジ軸321の下方部分はモータケーシング311の下端面を突き抜けてさらに下方に延在する。
ボールネジナット322の図示下方にスプラインナット35が配設される。このスプラインナット35はモータケーシング311の最下方部位に配置固定される。スプラインナット35にはスプラインが形成された貫通孔が設けられており、この貫通孔にボールネジ軸321が挿通される。なお、ボールネジ軸321のネジ溝321aにはスプライン溝も同時に形成されている。したがってボールネジ軸321はスプラインナット35にスプライン嵌合し、回転不能かつ軸方向移動可能にスプラインナット35に支持される。
直列サブアブソーバ40は、電磁アクチュエータ30に直列的に連結するように、電磁アクチュエータ30とバネ下部材との間に配設されている。直列サブアブソーバ40は、液圧式ダンパ40aと、コイルスプリングユニット40bとを並列に設けて構成される。
液圧式ダンパ40aは、内部に作動液(例えば作動油)が封入されたシリンダ41と、シリンダ41の内部に配設されシリンダ41内で相対移動するバルブピストン42とを備える。バルブピストン42によってシリンダ41の内部が上室と下室とに区画される。シリンダ41の下端はブッシュを介してバネ下部材であるロアアームに連結される。
本実施形態において液圧式ダンパ40aは、ツインチューブ式のショックアブソーバであり、シリンダ41が同軸配置された外筒411および内筒412を有する。外筒411と内筒412の間の空間によりリザーバ室が形成される。バルブピストン42は、内筒412内に配設される。バルブピストン42が内筒412内を軸方向に移動するときに上室と下室との間を作動液が流通することにより、上記移動に対し、作動液の粘性に依存した抵抗力(減衰力)が発生する。また、内筒412の下方端には、ベースバルブ413が取り付けられ、このベースバルブ413を介して下室とリザーバ室が連通する。バルブピストン42の移動に伴って作動液が下室とリザーバ室との間を流通することにより、上記移動に対し、作動液の粘性に依存した抵抗力(減衰力)が発生する。つまり、液圧式ダンパ40aは、作動液の粘性に基づいて減衰力を発生する。
また、内筒412内には、ピストンロッド43が挿入される。ピストンロッド43は、その下端にてバルブピストン42に連結される。ピストンロッド43は、その上端にてボールネジ軸321の下端に連結され、その連結部分から図において下方に伸び、液圧式ダンパ40aのシリンダ41の上面側から内筒412内に挿入される。よって、バルブピストン42は、ピストンロッド43を介して電磁アクチュエータ30のボールネジ軸321に連結される。このようにして、液圧式ダンパ40aが電磁アクチュエータ30に直列的に接続される。
コイルスプリングユニット40bは、液圧式ダンパ40aの外周に液圧式ダンパ40aと同軸状に設けられる。コイルスプリングユニット40bは、第1圧縮コイルスプリング49a、第2圧縮コイルスプリング49b、下部リテーナ44a、上部リテーナ44b、中央リテーナ44cを備えている。
下部リテーナ44aは、液圧式ダンパ40aの外筒411の外周部分に環状に設けられる。下部リテーナ44aの外周には、第1筒部21が連結される。第1筒部21は、下部リテーナ44aに連結された部分から液圧式ダンパ40aのシリンダ41を覆うように図において上方に伸びている。第1筒部21の上端部に径内方に屈曲したフランジ部211が形成される。フランジ部211の下面側には、環状の上部リテーナ44bが設けられる。
また、ボールネジ軸321とピストンロッド43との連結部分には、中央リテーナ44cが取り付けられる。中央リテーナ44cは、ボールネジ軸321とピストンロッド43との連結部分から水平方向に放射状に伸びた円板状の部分44c1と、円板状の部分44c1の外周から下方に伸びた円筒状の部分44c2と、円筒状の部分44c2から径外方に伸びた環状の鍔部分44c3とを備える。このような形状の中央リテーナ44cの鍔部分44c3と下部リテーナ44aとの間に第1圧縮コイルスプリング49aが、鍔部分44c3と上部リテーナ44bとの間に第2圧縮コイルスプリング49bが配設される。このようにして、コイルスプリングユニット40bは、電磁アクチュエータ30とバネ下部材との間に、液圧式ダンパ40aと並列に設けられる。
また、ピストンロッド43の外周には、内筒412内において、径方向に延びたリング状の弾性材からなるロッド側下ストッパ45が固定して設けられている。また、内筒412の上端には、弾性材からなるシリンダ側下ストッパ46がロッド側下ストッパ45に向かい合うように固定して設けられている。従って、ピストンロッド43に対してシリンダ41が下方向に相対移動したときに、ロッド側下ストッパ45とシリンダ側下ストッパ46とが当接して、それ以上の相対移動を規制する。
また、シリンダ側下ストッパ46の上方には、シリンダ41の上端に固定されたリング板状のシリンダ側上ストッパ47が固定して設けられている。また、中央リテーナ44cの内側には、弾性材からなるロッド側上ストッパ48がシリンダ側上ストッパ47と向かい合うように固定して設けられている。従って、ピストンロッド43に対してシリンダ41が上方向に相対移動したときに、ロッド側上ストッパ48とシリンダ側上ストッパ47とが当接して、それ以上の相対移動を規制する。
これにより、液圧式ダンパ40aは、上下方向のストローク移動が規制されている。以下、液圧式ダンパ40aにおいて、ロッド側下ストッパ45とシリンダ側下ストッパ46とが当接する状態、あるいは、ロッド側上ストッパ48とシリンダ側上ストッパ47とが当接する状態をストッパ当たりと呼ぶ。
エアバネ装置20は、上述の第1筒部21と、第1筒部21の外周側に配置された第2筒部22と、第2筒部22の上端部分にその下端部分が接続され、その上端部分にてブラケット25を介してモータケーシング311に接続された第3筒部23と、袋状に形成されて内周部分が第1筒部21の外周に連結され外周部分が第2筒部22の内周に連結されたダイヤフラム24とを備える。第1筒部21と、第2筒部22と、第3筒部23と、ダイヤフラム24とにより、圧力室26が区画形成される。圧力室26には、流体としての圧縮空気が封入されている。この圧縮空気の圧力によりバネ上部材が支持される。
また、サスペンション本体10は、車体Bに形成される孔部から電動モータ31のモータケーシング311の上方部分が上部に突出するように配置され、且つそのような配置状態を保つように、アッパーサポート12を介して車体Bに取り付けられている。アッパーサポート12は樹脂部材12aとブラケット12bとからなり、弾性的にサスペンション本体10を車体Bに連結する。
以上のように構成されたサスペンション本体10においては、車載バッテリ(図示略)からの電力供給により電磁アクチュエータ30の電動モータ31が回転すると、電動モータ31の回転軸312に連結したボールネジナット322が回転する。ボールネジナット322の回転によってボールネジ軸321が軸方向移動する。ボールネジ軸321の軸方向移動に伴い、このボールネジ軸321に連結されたピストンロッド43および、ピストンロッド43に連結されたバルブピストン42も軸方向移動する。このとき、シリンダ41もバルブピストン42との間の相対移動をほとんど生じることなく軸方向移動する。これによりバネ上部材とバネ下部材との間の相対距離が変化する。このようにして、電動モータ31は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力を発生する。この推進力は、例えば乗り心地が向上するように制御される。
また、例えば、比較的低周波の外力(路面入力など)がサスペンション本体10に加えられた場合、この外力がシリンダ41に働いて、シリンダ41の運動がバルブピストン42,ピストンロッド43を介して電磁アクチュエータ30のボールネジ軸321に伝達される。これにより、ボールネジ軸321が軸方向に移動し、ボールネジナット322が回転する。ボールネジナット322の回転により電動モータ31が回される。このとき電動モータ31は発電機として作用するので、電動モータ31は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する抵抗力(減衰力)を発生する。これによりバネ上部材とバネ下部材との間の相対振動が抑制される。なお、液圧式ダンパ40aのバルブピストン42とシリンダ41は低周波の外力によっては相対移動しない。
また、20Hz程度の高周波の路面入力がサスペンション本体10に加えられた場合、第1圧縮コイルスプリング49aと第2圧縮コイルスプリング49bが伸縮してシリンダ41がバルブピストン42に対して相対移動する。これにより、バネ下部材の高周波振動は、シリンダ41に伝達されるだけで、ほとんどボールネジ機構32側に伝達されない。従って、直列サブアブソーバ40は、高周波振動のフィルタとして機能する。
次に、サスペンション本体10の作動を制御するサスペンション制御装置100について説明する。以下、サスペンション制御装置100をサスペンションECU100と呼ぶ。サスペンションECU100は、図1に示すように、車体Bに搭載される。サスペンションECU100には、バネ上加速度センサ61とバネ下加速度センサ62とが接続される。バネ上加速度センサ61は、バネ上部材の各サスペンション本体10が取り付けられている位置(各輪位置)に設けられており、バネ上部材の各輪位置における上下方向に沿った加速度(バネ上上下加速度)を検出し、バネ上上下加速度を表す検出信号G2を出力する。このバネ上加速度センサ61は、バネ上部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ上運動量を検出する本発明のバネ上運動量検出手段に相当する。バネ下加速度センサ62は、各サスペンション本体10が取り付けられるロアアームなどのバネ下部材に設けられており、そのバネ下部材の上下方向に沿った加速度(バネ下上下加速度)を検出し、バネ下上下加速度を表す検出信号G1を出力する。このバネ下加速度センサ62は、バネ下部材の上下方向の運動に関連する物理量を表すバネ下運動量を検出する本発明のバネ下運動量検出手段に相当する。
サスペンションECU100は、マイクロコンピュータを主要部として備える。サスペンションECU100は、車両の良好な乗り心地性を得るために、バネ上部材とバネ下部材との間の相対移動に対する推進力または減衰力の目標値を演算する。尚、ここでは、「推進力または減衰力」と表現しているが、これは、電磁アクチュエータ30が推進力と減衰力とを同時に発生するものではなく何れか一方を発生するから「または」と表現しているのであって、電磁アクチュエータ30の発生する力は、振動の状態に応じて推進力になったり減衰力になったりするものである。本実施形態においてこれらの推進力または減衰力は、電磁アクチュエータ30の電動モータ31により発生される。電動モータ31が発生する上記推進力または減衰力を、本明細書においてモータ力と呼ぶ。また、上記推進力または減衰力の目標値を、本明細書において目標モータ力と呼ぶ。
サスペンションECU100は、演算した目標モータ力に対応する制御信号をモータドライブ制御装置(以下、モータEDUと呼ぶ)70に出力する。モータEDU70は、各サスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRの近傍に設けられ、サスペンションECU100とワイヤハーネスにて接続されており、サスペンションECU100から出力された制御信号を入力し、その制御信号に従って目標モータ力が発生するように電動モータ31を駆動制御する。モータEDU70も、各種の演算処理を行うためのマイクロコンピュータを備えている。
図3は、サスペンションECU100におけるマイクロコンピュータが行う制御処理を表す機能ブロック図である。各機能部は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御プログラムを所定の演算周期で繰り返し実行することにより実現されるものである。サスペンションECU100は、バネ上減衰制御力演算部110と、バネ下減衰制御力演算部120と、慣性力演算部130と、制振制御力演算部140と、目標モータ力演算部150と、通信部16と、周期設定部170とを備えている。
バネ上減衰制御力演算部110は、バネ上ローパスフィルタ処理部111と、バネ上速度演算部112と、バネ上ゲイン乗算部113とから構成される。バネ上ローパスフィルタ処理部111は、バネ上加速度センサ61の出力する検出信号G2を入力し、次式の伝達関数H(s)によって表されるローパスフィルタを用いて、バネ上上下加速度を表す検出信号G2の高周波ノイズ成分をフィルタ処理して除去する。
H(s)=K・(1/(1+sτ))
ここで、sはラプラス演算子であり、τはフィルタの時定数、Kは通過域のゲインである。カットオフ周波数fcは、(1/2πτ)として表され、時定数τの逆数に比例する。
バネ上ローパスフィルタ処理部111は、フィルタ処理して得たバネ上上下加速度x2”をバネ上速度演算部112に出力する。バネ上速度演算部112は、バネ上上下加速度x2”を入力し、時間で積分することにより、バネ上部材の上下方向に沿った速度であるバネ上上下速度x2’を演算し、その演算結果をバネ上ゲイン乗算部113に出力する。バネ上ゲイン乗算部113は、バネ上上下速度x2’にバネ上ゲインC2(減衰係数に相当する)を乗算することにより、バネ上部材の振動を減衰するように働くバネ上減衰制御力(C2・x2’)を演算し、その演算結果を制振制御力演算部140に出力する。
このバネ上減衰制御力演算部110は、バネ上部材の運動量に基づいて電磁アクチュエータ30のバネ上関連制御量を演算する本発明のバネ上関連制御量演算手段に相当する。
バネ下減衰制御力演算部120は、バネ下ローパスフィルタ処理部121と、バネ下速度演算部122と、バネ下ゲイン乗算部123とから構成される。バネ下ローパスフィルタ処理部121は、バネ下加速度センサ62の出力する検出信号G1を入力し、伝達関数H(s)によって表されるローパスフィルタを用いて、バネ下上下加速度を表す検出信号G1の高周波ノイズ成分をフィルタ処理して除去する。
バネ下ローパスフィルタ処理部121は、フィルタ処理して得たバネ下上下加速度x1”をバネ下速度演算部122に出力する。バネ下速度演算部122は、バネ下上下加速度x1”を入力し、時間で積分することにより、バネ下部材の上下方向に沿った速度であるバネ下上下速度x1’を演算し、その演算結果をバネ下ゲイン乗算部123に出力する。バネ下ゲイン乗算部123は、バネ下上下速度x1’にバネ下ゲインC1(減衰係数に相当する)を乗算することにより、バネ下部材の振動を減衰するように働くバネ下減衰制御力(C1・x1’)を演算し、その演算結果を制振制御力演算部140に出力する。
バネ下ローパスフィルタ処理部121で演算されたバネ下上下加速度x1”は、慣性力演算部130にも出力される。慣性力演算部130は、バネ下上下加速度x1”に中間部材の質量m3(等価慣性質量)を乗じた値を慣性力(m3・x1”)として演算する。ここで、中間部材とは、バネ上部材とバネ下部材との間に設けられバネ上部材にもバネ下部材にも固定されていない部材を表す。例えば、電動モータ31のロータ(回転軸312,永久磁石313)、ボールネジ機構32、液圧式ダンパ40aにおけるバルブピストン42,ピストンロッド43などが中間部材に相当する。
中間部材には、バネ下部材の上下方向に変位に対して回転する部材(例えば、電動モータ31のロータ、ボールネジ機構32のボールネジナット322)が存在するため、その回転部材に関する質量は、回転部材の慣性モーメントを慣性質量に換算した値とする。
慣性力演算部130は、演算した慣性力(m3・x1”)を目標モータ力演算部150に出力する。
バネ下減衰制御力演算部120および慣性力演算部130は、バネ下部材の運動量に基づいて電磁アクチュエータ30のバネ下関連制御量を演算する本発明のバネ下関連制御量演算手段に相当する。
制振制御力演算部140は、バネ上減衰制御力(C2・x2’)とバネ下減衰制御力(C1・x1’)とを入力し、バネ上部材とバネ下部材とのあいだに作用させるべき必要作用力である制振制御力foutを次式により計算する。
fout=C2・x2’−C1・x1’
この制振制御力foutは、スカイフックダンパ理論に基づく制御と、擬似的なグランドフック理論に基づく制御とにより、バネ上部材およびバネ下部材の振動を減衰させるために必要とされる力を計算したものである。制振制御力演算部140は、算出した制振制御力foutを目標モータ力演算部150に出力する。
目標モータ力演算部150は、制振制御力演算部140から出力された制振制御力foutと、慣性力演算部130から出力された慣性力(m3・x1”)とを入力し、それらに基づいて目標制御量である目標モータ力fmotor*を演算する。
本実施形態において、目標モータ力fmotor*は、制振制御力foutと、制振制御力foutが直列サブアブソーバ40および中間部材を介してバネ下部材に伝達される場合における力の伝達特性を表す伝達関数である直列伝達補償用伝達関数と、中間部材の慣性力(m3・x1”)とに基づいて演算される。
図4は、本実施形態におけるサスペンション本体10のモデル図である。図において、fmotorは時間tをパラメータとするモータ力、frは時間tをパラメータとしたバネ下部材に実際に作用する力(バネ下実作用力)、Ksはコイルスプリングユニット40bの第1圧縮コイルスプリング49aと第2圧縮コイルスプリング49bを一つのバネと仮定した場合のバネ定数、Csは液圧式ダンパ40aの減衰係数、x1は時間tをパラメータとしたバネ下部材の基準位置からの上下変位量であり、x2は時間tをパラメータとしたバネ上部材の基準位置からの上下変位量である。また、m3は、中間部材の質量(等価慣性質量)を表す。x3は時間tをパラメータとした中間部材の基準位置からの上下変位量を表す。
中間部材の運動方程式は、下記の(1)式により表される。
(1)式をラプラス変換することにより(2)式が得られる。
(2)式において、X
3(s),X
1(s),Fmotor(s)は、それぞれx
3,x
1,fmotorをラプラス変換した関数である。またsはラプラス演算子である。
また、バネ下部材の運動方程式は、下記の(3)式により表される。
(3)式をラプラス変換することにより(4)式が得られる。
(4)式において、F
r(s)はf
rをラプラス変換した関数である。
(4)式を変形すると(5)式が得られ、さらに(5)式から、(6)式および(7)式が導かれる。
(6)式および(7)式を(2)式に代入することにより、(8)式が得られる。
目標モータ力fmotor
*は、バネ下実作用力f
rが制振制御力foutになるように決定されるモータ力である。したがって、目標モータ力fmotor
*は、(8)式のF
r(s)にFout (s)を代入した(9)式に基づいて求めることができる。
(9)式において、Fmotor(s)*は目標モータ力fmotor
*をラプラス変換した関数、Fout(s)は制振制御力foutをラプラス変換した関数である。(9)式の右辺第1項は、モータ力が中間部材および直列サブアブソーバ40を介してバネ下部材に伝達される場合における力の伝達率を考慮した項(直列伝達補償項)であり、制振制御力Fout(s)に係る伝達関数は、モータ力が中間部材および直列サブアブソーバ40を介してバネ下部材に伝達される場合における力の伝達特性を表す伝達関数(直列伝達補償用伝達関数)である。また、(9)式の右辺第2項は、中間部材の慣性力を考慮した項(慣性補償項)である。
目標モータ力演算部150は、(9)式に基づいて演算した目標モータ力fmotor*に対応する制御信号を通信部160に出力する。
制振制御力演算部140および目標モータ力演算部150は、バネ上関連制御量と前バネ下関連制御量とに基づいて電磁アクチュエータの目標制御量を演算する本発明の目標制御量演算手段に相当する。
通信部160は、目標モータ力fmotor*を表す制御信号を、所定の通信周期(通信速度)でモータEDU70に送信する。
モータEDU70は、通信部71とPWM制御信号出力部72と3相インバータ73とを備えている。通信部71は、サスペンションECU100の通信部160から送信される目標モータ力fmotor*を表す制御信号を受信してPWM制御信号出力部72に出力する。PWM制御信号出力部72は、目標モータ力fmotor*を表す制御信号に基づいてPWM制御信号を生成し、そのPWM制御信号を3相インバータ73のスイッチング素子に出力する。このPWM制御信号は、目標モータ力fmotor*を電動モータ31で発生するように3相インバータ73の各スイッチング素子のデューティ比が設定された制御信号である。
3相インバータ73には、図示しない車載バッテリから電源が供給されている。従って、3相インバータ73のスイッチング素子のデューティ比が制御されることにより、目標モータ力fmotor*に応じた電流が車載バッテリから電動モータ31に流れて、電動モータ31が目標モータ力fmotor*を発生する。このとき電動モータ31からの回生電流が目標通電量よりも多ければ、その差分だけ車載バッテリ側に回生電流が流れ、逆に、電動モータ31からの回生電流が目標通電量よりも少なければ、その差分だけ車載バッテリから電動モータ31に通電される。
このような車両の制振制御を行う場合、悪路走行時のように急激な路面変化が生じると、目標モータ力fmotor*に位相遅れが発生しやすい。これは、バネ上下加速度を一定の周期で取得しているため、取得値の更新から次の更新までの間に時間差(=位相遅れ)が発生するためである。また、中間部材の慣性力の影響を補償するために演算される慣性補償制御量(9式右辺第2項)は、このバネ下上下加速度x1”を用いて演算されるが、その演算がバネ下上下加速度x1”の変化に追従できない。これらの結果、バネ下部材の激しい振動が慣性補償制御量の位相遅れを招き、最終的には、目標モータ力fmotor*の位相遅れとなって表れる。
こうした目標モータ力fmotor*の位相遅れが発生すると、中間部材の慣性力の影響を良好に補償することができない。このため、例えば、路面の凸部によりシリンダ41が急に突き上げられたとき、電動モータ31の動作に位相遅れが生じて、中間部材を上方に引き上げることができない。この結果、中間部材とバネ下部材との相対変位が縮小し、シリンダ側上ストッパ47とロッド側上ストッパ48とにおいてストッパ当たりが発生する。
このようなことから、悪路走行時においては、直列サブアブソーバ40でのストッパ当たりの強さ、および、発生頻度が増加してしまい、ボールネジ機構32に加わる軸力が増加する。従って、ボールネジ機構32の強度を増す必要が生じる。
こうした制御遅れは、サスペンションECU100の演算部となるマイクロコンピュータを高スペック化すれば改善できるものの、その場合には、大幅なコストアップを招いてしまう。そこで、本実施形態においては、既存のマイクロコンピュータの処理能力の範囲内において、演算処理別に演算負担配分を切り替えて、トータルとして目標モータ力fmotor*の位相遅れが生じないようにする。
本実施形態のサスペンションECU100は、上述した各機能部は、マイクロコンピュータのROMに記憶された制御プログラムを所定の演算周期で繰り返し実行するものであり、機能部によってその演算周期が決められている。バネ上減衰制御力演算部110は、バネ上部材の運動に関連する制御量(バネ下部材の運動に関連しない制御量)を演算する機能部であり、バネ上部材の上下運動が低速であることから、速い演算速度が要求されず、その演算周期は長めに設定されている。一方、バネ下減衰制御力演算部120、慣性力演算部130、制振制御力演算部140、目標モータ力演算部150は、バネ下部材の運動に関連する制御量を演算する機能部であり、バネ下部材の上下運動が高速であることから、速い演算速度が要求され、その演算周期は短めに設定されている。また、通信部160の通信周期(通信速度)も、この目標モータ力演算部150の演算した目標モータ力fmotor*を遅れないように通信できる通信周期が設定されている。
周期設定部170は、こうした各機能部の演算周期を切り替えるものである。バネ上減衰制御力演算部110の演算周期Tbは、通常時においては、バネ上制振を行うのに適した演算周期Tbnormalに設定される。また、悪路走行時においては、演算周期Tbnormalよりも長い(演算速度の遅い)演算周期Tblowに設定される。以下、この演算周期Tbをバネ上演算周期Tbと呼ぶ。
また、バネ下部材の運動に関連する制御量を演算する機能部となるバネ下減衰制御力演算部120、慣性力演算部130、制振制御力演算部140、目標モータ力演算部150は、それぞれ同じ演算周期Twに設定される。この演算周期Twは、通常時においては、バネ上とバネ下の制振を行うのに適した演算周期Twnormalに設定される。この演算周期Twnormalは、上記演算周期Tbnormalに比べて短い。また、演算周期Twは、悪路走行時においては、演算周期Twnormalよりも短い(演算速度の速い)演算周期Twhighに設定される。以下、この演算周期Twをバネ下演算周期Twと呼ぶ。
また、通信部160は、目標モータ力演算部150が演算した目標モータ力fmotor*を表す制御信号をモータEDU70に送信するものであるため、その通信周期(通信速度)は、目標モータ力演算部150の演算周期に対応した値に設定される。従って、通常時においては、通信周期Tsnormalに設定され、悪路走行時においては、通信周期Tsnormalよりも短い通信周期Tshighに設定される。
次に、こうした演算周期、通信周期を切り替える周期設定部170の処理について説明する。図5は、周期設定部170の実行する演算周期設定制御ルーチンを表す。この演算周期設定制御ルーチンは、予め設定した一定の演算周期にて繰り返し実行される。
周期設定部170は、ステップS11において、バネ下加速度センサ62の出力する検出信号G1を読み込む。続いて、ステップS12において、検出信号G1から、バネ下上下加速度の変化率の大きさ|G1’|を演算する。続いて、ステップS13において、バネ下上下加速度の変化率の大きさ|G1’|が基準値Th1よりも大きく、かつ、検出信号G1が表すバネ下加速度の大きさ|G1|が基準値Th2よりも大きいか否かを判断する。この基準値Th1,Th2は、悪路走行時か否かを判定する閾値であって、予め制御プログラム内に記憶されている。直列サブアブソーバ40でストッパ当たりが発生するような悪路走行時には、バネ下上下加速度の大きさ|G1|、および、変化率の大きさ|G1’|がともに大きくなるため、こうした判定条件(以下、悪路判定条件と呼ぶ)を用いている。
周期設定部170は、悪路判定条件が成立している場合には(S13:Yes)、その処理をステップS14に進め、悪路判定条件が成立していない場合には(S13:No)、その処理をステップS16に進める。
車両が平坦路を走行しているときには、悪路判定条件が成立しない。この場合には、ステップS16において、悪路判定条件が成立していない状況が基準時間Toff以上継続しているか否かを判断する。本ルーチンが起動した直後においては、基準時間Toff以上継続していないため、「No」と判定される。この場合、周期設定部170は、次のステップS18において、悪路判定フラグFが「1」であるか否かを判断する。
悪路判定フラグFは、本ルーチンの起動時においては「0」に設定されている。従って、ステップS18の判定は「No」となり、ステップS20において、バネ上演算周期Tbを通常値である演算周期Tbnormalに設定し、バネ下演算周期Twを通常値である演算周期Twnormalに設定し、通信周期Tsを通常値である通信周期Tsnormalに設定する。続いて、ステップS21において、バネ上演算周期Tbをバネ上減衰制御力演算部110に出力し、バネ下演算周期Twをバネ下減衰制御力演算部120、慣性力演算部130、制振制御力演算部140、目標モータ力演算部150に出力し、通信周期Tsを通信部160に出力して本ルーチンを一旦終了する。尚、悪路判定フラグFは記憶保持される。
本ルーチンは、一定の短い周期で繰り返される。従って、ステップS13の悪路判定条件が成立しない間は、こうした処理が繰り返され、バネ上演算周期Tb、バネ下演算周期Tw、通信周期Tsが、それぞれTbnormal、Twnormal、Tsnormalに維持される。これにより、サスペンションECU100における各機能部は、それぞれ指定された演算周期Tb,Tw,Tsにて制御プログラムの実行を繰り返す。
車両が悪路に進入すると、ステップS13において、悪路判定条件が成立する。この場合、周期設定部170は、ステップS14において、悪路判定条件が成立している状況が基準時間Ton以上継続しているか否かを判断する。悪路判定条件が成立した直後においては、基準時間Ton以上継続していないため、「No」と判定され、ステップS18において、悪路判定フラグFの設定状態が確認される。この時点においては、悪路判定フラグFは「0」であるため、バネ上演算周期Tb、バネ下演算周期Tw、通信周期Tsは、それぞれTbnormal、Twnormal、Tsnormalに維持される。(S20)。
こうした処理が繰り返され、悪路判定条件が成立している状況が基準時間Ton以上継続すると(S14:Yes)、周期設定部170は、ステップS15において、悪路判定フラグFを「1」に設定する。従って、次のステップS18では「Yes」と判定され、その処理がステップS19に進められる。周期設定部170は、ステップS19において、バネ上演算周期TbをTbnormalよりも長い演算周期Tblowに設定し、バネ下演算周期TwをTwnormalよりも短い演算周期Twhighに設定し、通信周期TsをTsnormalよりも短い通信周期Tshighに設定する。そして、ステップS21において、そのバネ上演算周期Tb、バネ下演算周期Tw、通信周期Tsをそれぞれの機能部に出力する。
上述したように悪路走行時においては、バネ下部材の運動に関連した制御量に位相遅れが発生する。そこで、バネ下運動量(バネ下上下加速度)に関連した制御量を演算する機能部の演算周期Twを短くして、バネ下運動に追従した制御量を演算できるようにする。この場合、マイクロコンピュータの能力を超えることはできないため、バネ上運動量(バネ上上下加速度)に関連した制御量を演算する機能部の演算周期Twを長くする。これにより、バネ上関連制御量の演算負荷が軽減されてマイクロコンピュータの能力に余裕が生まれ、この余裕をバネ下関連制御量の演算に充てる。従って、バネ下運動に追従した慣性補償制御量を演算することができるようになる。また、目標モータ力fmotor*の演算周期に合わせて通信部160の通信周期を短くする。
こうした処理が繰り返され、車両が悪路から平坦路に進入すると、ステップS13において、悪路判定条件が不成立となる。この場合、周期設定部170は、ステップS16において、悪路判定条件が成立していない状況が基準時間Toff以上継続しているか否かを判断する。悪路判定条件が不成立となった直後においては、基準時間Toff以上継続していないため、「No」と判定される。従って、悪路判定フラグFが変更されず、バネ上演算周期Tb、バネ下演算周期Tw、通信周期Tsは、それぞれTblow、Twhigh、Tshighに維持される。
そして、悪路判定条件が成立していない状況が基準時間Toff以上継続すると、ステップS17において、悪路判定フラグFが「0」に設定され、バネ上演算周期Tb、バネ下演算周期Tw、通信周期Tsが、それぞれ通常値であるTbnormal、Twnormal、Tsnormalに戻される。
このように、周期設定部170では、悪路判定条件を使って、慣性補償制御量に位相遅れが生じやすい状況であるか否かを判定し、悪路判定条件が成立しているときには、悪路判定条件が成立していないときに比べて、バネ上関連制御量の演算周期を長くするとともに、バネ下関連制御量の演算周期および通信周期を短くする。この場合、一時的に悪路判定条件が成立したり不成立になったりしても、判定結果の一定時間の継続が得られないときには、演算周期や通信周期の切替を行わないため、安定した周期設定制御を行うことができる。
以上説明した本実施形態のサスペンション装置によれば、悪路判定条件が成立しているときには、バネ上関連制御量の演算周期を長くしてマイクロコンピュータの負荷を軽くし、その分、バネ下関連制御量の演算周期を短くするため、慣性補償制御量の位相遅れを抑制することができる。また、これに合わせて通信部160の通信周期も短くするため、電動モータ31の制御遅れを抑制することができる。尚、モータECU70は、サスペンションECU100に比べて短い演算周期で3相インバータを制御しているため、モータECU70側での演算周期の変更に対して追従可能となっている。
この結果、中間部材の慣性力の影響を補償するように電磁アクチュエータ30を駆動制御することができるため乗り心地が向上する。また、直列サブアブソーバのストッパ当たりが抑制されるため、ボールネジ機構32に加わる軸力を低減することができる。このため、ボールネジ機構32の強度を増加させなくても所望の耐久性能を確保することができ、高い信頼性を得ることができる。
また、悪路判定条件として、バネ下上下加速度の変化率の大きさ|G1’|が基準値Th1よりも大きいという条件と、バネ下上下加速度の大きさ|G1|が基準値Th2よりも大きいという条件との両方の成立を要件としているため、信号ノイズ等による誤判定が防止される。このため、演算周期等を適切なタイミングで切り替えることができる。
以上、本実施形態のサスペンション装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、電磁アクチュエータとバネ下部材との間に直列サブアブソーバ40を介装した構成であるが、必ずしも、直列サブアブソーバ40を介装する必要はない。直列サブアブソーバ40を介装しない構成であっても、バネ下部材の振動により目標モータ力fmotor*の位相遅れが発生する場合には、本発明を有効に適用することができるからである。
また、本実施形態においては、目標モータ力fmotor*に中間部材の慣性力の影響を考慮した慣性補償項を組み込んでいるが、必ずしも、慣性補償制御を行うものである必要はなく、目標制御量の演算にバネ下運動量を使うものであれば本発明を有効に適用することができる。
また、本実施形態においては、悪路判定条件として、バネ下上下加速度の変化率の大きさ|G1’|が基準値Th1よりも大きいという条件と、バネ下上下加速度の大きさ|G1|が基準値Th2よりも大きいという条件との両方の成立を要件としているが、バネ下上下加速度の変化率の大きさ|G1’|だけの条件に基づいて悪路判定を行うようにしてもよい。
また、本実施形態においては、車両の上下振動を抑制するように、バネ上減衰制御力とバネ下減衰制御力とに基づいて制振制御力foutを演算しているが、例えば、車両姿勢変化を抑制するように働く制御量(ロール抑制制御量、ピッチ抑制制御量)を加味するようにしてもよい。