特許文献1に記載のサスペンション装置によれば、バネ下部材の上下方向速度の高周波成分により表わされるバネ下部材の高周波振動は、ダンパ装置を介してアクチュエータに伝達される。アクチュエータ(モータ)の慣性質量が大きければ、伝達された高周波振動によりアクチュエータが動かされることはない(モータが回されることはない)。しかし、実際にはアクチュエータ(モータ)の慣性質量は小さいので、伝達された高周波振動によってアクチュエータが動かされ、アクチュエータが高周波で振動してしまう。また、アクチュエータに取り付けられたダンパ装置は、アクチュエータがバネ下部材の高周波振動に対して静止状態であるときに限り、バネ下部材の上下方向速度の高周波成分に対する所望の減衰力を発生するように設計されている。このため高周波振動によってアクチュエータが動かされている場合は所望の減衰力を発生することはできない。
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に設けられたアクチュエータおよびこのアクチュエータに取り付けられたダンパ装置を有するサスペンション装置において、バネ下部材の高周波振動入力時にダンパ装置がバネ下部材の上下方向速度の高周波成分に対する所望の減衰力を発生するように構成されたサスペンション装置を提供することを目的とする。
本発明のサスペンション装置は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に配設され、モータ(31)を有するとともに前記モータが回転することにより伸縮してバネ上部材とバネ下部材との間の間隔を変化させるアクチュエータ(30)と、前記アクチュエータとバネ下部材との間に取り付けられるダンパ装置(40)と、前記アクチュエータの作動速度を取得する作動速度取得部(51)と、前記作動速度取得部により取得された前記アクチュエータの作動速度に基づいて、前記アクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力(fm_filt)を演算する減衰力演算部(524,525)と、前記モータが前記減衰力演算部により演算された減衰力を発生するように、前記モータが出力すべき目標制御力を演算する目標制御力演算部(526)と、を備え、前記目標制御力演算部により演算された目標制御力に基づいて前記モータを制御する。
本発明のサスペンション装置によれば、減衰力演算部により、アクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力が演算される。また、目標制御力演算部により、モータが減衰力演算部により演算された減衰力を発生するように、モータが出力すべき目標制御力が演算される。そして、目標制御力演算部により演算された目標制御力に基づいてモータが制御される。モータが発生する上記減衰力により、バネ下部材の高周波振動がダンパ装置を介してアクチュエータに伝達されることにより生じるアクチュエータの高周波振動が抑えられる。このためバネ下部材の高周波振動入力時にアクチュエータがその高周波振動に対して静止する。したがって、ダンパ装置は、バネ下部材の上下方向速度の高周波成分に対する所望の減衰力を発生することができる。
上記発明において、「前記アクチュエータの作動速度の高周波成分」は、アクチュエータを伸縮作動させるために回転するモータを制御により追従させることができる最大周波数以上の周波数成分を含むものであるのがよい。
前記ダンパ装置は、バネ下部材の上下方向速度の高周波成分(高周波振動)に対する減衰力を発生するものであれば、どのようなものでもよい。例えば流体粘性を利用したダンパ装置(オイルダンパなど)でも良い。また、ダンパ装置は、アクティブサスペンション装置に用いられる一般的なモータを制御によって追従させることができる最大周波数以上の振動に対する減衰力を発生するのがよい。
前記作動速度取得部は、アクチュエータの作動速度を表す物理量を取得するように構成されていればよい。例えば、作動速度取得部は、アクチュエータの伸縮速度を取得してもよいし、あるいは、アクチュエータの伸縮に伴って回転するモータの回転角速度を取得してもよい。また、作動速度取得部は、アクチュエータの作動速度を表す物理量を検出してもよいし、演算により求めてもよい。
前記減衰力演算部は、前記作動速度取得部により取得された前記アクチュエータの作動速度の高周波成分、または、前記作動速度取得部により取得された前記アクチュエータの作動速度に対する減衰力の高周波成分を抽出するハイパスフィルタ(525)を備えるのがよい。
この場合、前記減衰力演算部は、前記作動速度取得部により取得された作動速度に基づいて、例えば作動速度に予め設定された減衰ゲインを乗じることにより、その作動速度に対する減衰力を演算し、演算した減衰力をハイパスフィルタ処理することにより、前記アクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力を演算してもよい。あるいは、前記減衰力演算部は、前記作動速度をハイパスフィルタ処理することにより作動速度の高周波成分を抽出し、抽出した作動速度の高周波成分に基づいて、例えば作動速度の高周波成分に予め設定された減衰ゲインを乗じることにより、その作動速度の高周波成分に対する減衰力を演算してもよい。
前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、前記モータを制御によって追従させることができる最大周波数またはそれ以下の周波数として予め定められた周波数であるのがよい。これによれば、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を最大周波数またはそれ以下の周波数に設定することにより、設定周波数以下の周波数成分がハイパスフィルタによりカットされる。設定周波数以下の周波数成分に対してモータは追従することができるので、斯かる周波数成分の振動は、モータを制御することでアクチュエータにより吸収させることができる。一方、設定周波数以上の周波数成分はハイパスフィルタに抽出され、抽出された周波数成分に対する減衰力(トルク)がモータに発生させられる。斯かる発生トルクにより、バネ下部材の高周波振動によりモータが動かされることが防止される。
ハイパスフィルタにより抽出される高周波成分や、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は具体的に限定される必要はないが、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、好ましくは5Hz〜8Hzであるのがよい。カットオフ周波数を上記範囲内の周波数に設定することにより、アクティブサスペンション装置に用いられるモータが追従できない周波数の振動に対してアクチュエータを静止させることができる。
また、本発明のサスペンション装置は、バネ上部材の上下方向速度に基づいて、バネ上部材の振動を抑えるように前記モータにより出力されるべき制御力であるバネ上制御力を演算するバネ上制御力演算部(521)と、バネ下部材の上下方向速度に基づいて、バネ下部材の振動を抑えるように前記モータにより出力されるべき制御力であるバネ下制御力を演算するバネ下制御力演算部(522)とをさらに備えるのがよい。そして、目標制御力演算部(526)は、前記バネ上制御力演算部により演算されたバネ上制御力(fb)と、前記バネ下制御力演算部により演算されたバネ下制御力(fw)と、前記減衰力演算部により演算された減衰力(fm_filt)とに基づいて、前記モータが出力すべき目標制御力を演算するものであるとよい。
これによれば、バネ上制御力によってバネ上部材の振動が抑えられ、バネ下制御力によりバネ下部材の振動が抑えられる。このため車両の乗り心地がより向上する。加えて、減衰力演算部により演算された減衰力をモータが出力することによりアクチュエータがバネ下部材の高周波振動により動かされることが防止される。
この場合、本発明のサスペンション装置は、前記バネ下制御力演算部により演算されたバネ下制御力(fw)の低〜中周波成分(fw_filt)を抽出するローパスフィルタ(523)をさらに備えるのがよい。そして、前記目標制御力演算部は、前記バネ上制御力演算部により演算されたバネ上制御力(fb)と、前記ローパスフィルタに抽出されたバネ下制御力の低〜中周波成分(fw_filt)と、減衰力演算部により演算されたアクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力(fm_filt)との総和により、前記モータが出力すべき目標制御力(f)を演算するものであるとよい。さらにこの場合、前記ローパスフィルタのカットオフ周波数とハイパスフィルタのカットオフ周波数は等しい周波数であるのがよい。
これによれば、バネ下制御力の低〜中周波成分の抽出に用いられるローパスフィルタのカットオフ周波数と、アクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力を演算する際に用いられるハイパスフィルタのカットオフ周波数とを一致させることにより、バネ下制御力の低〜中周波成分によるモータの制御と、アクチュエータの作動速度の高周波成分に対する減衰力によるモータの制御との干渉を避けることができる。さらに、カットオフ周波数以下の周波数の振動はモータがバネ下制御力を発生することにより吸収され、カットオフ周波数以上の周波数の振動に対してモータが減衰力を発生することによりその振動でアクチュエータが動かされることが防止される。
以下、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成の概略図である。
このサスペンション装置は、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRと、サスペンションECU50とを備える。4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRは、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと車体Bとの間にそれぞれ設けられる。以下、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRおよび車輪WFL,WFR,WRL,WRRについて、特に前後左右を区別する場合を除いて、単にサスペンション本体10および車輪Wと総称する。
図2は、サスペンション本体10の概略断面図である。このサスペンション本体10は、エアばね装置20と、アクチュエータ30と、液圧ダンパ装置40とを有する。
アクチュエータ30は、モータ31と、ボールネジ機構35とを備える。モータ31は、モータケーシング311と、中空状の回転軸312と、永久磁石313と、極体314とを備える。モータケーシング311はモータ31の外郭を構成するハウジングである。回転軸312はモータケーシング311内に配設され、軸受331,332によりモータケーシング311に回転可能に支持される。この回転軸312の外周面に永久磁石313が固定される。回転軸312および永久磁石313によりモータ31のロータが構成される。永久磁石313に対向するように極体(コアにコイルが巻回されたもの)314が、モータケーシング311の内壁に固定される。極体314によりモータ31のステータが構成される。
また、モータケーシング311内に回転角センサ315が設けられる。この回転角センサ315は、モータ31の回転角φmを検出する。
ボールネジ機構35は、モータ31に連結しており、モータ31の回転運動を直線運動に変換する変換機構としての機能を有する。ボールネジ機構35は、ネジ溝351aが形成されたボールネジ軸351と、このボールネジ軸351のネジ溝351aに螺合するボールネジナット352とを備える。ボールネジナット352はモータケーシング311内に配設され、回転軸312の下端部分に接続されるとともに、ボールベアリングを介して回転可能且つ軸方向移動不能にモータケーシング311に支持される。したがって、回転軸312が回転すると、それに伴いボールネジナット352も回転する。
ボールネジ軸351は、図に示されるように、モータケーシング311に配置されており、モータケーシング311内にてボールネジナット352を螺合するとともに、その上方部分にて回転軸312の内周側に挿入される。また、ボールネジ軸351の下方部分はモータケーシング311の下端面を突き抜けてさらに下方に延在する。
ボールネジナット352の図示下方にスプラインナット36が配設される。このスプラインナット36はモータケーシング311の最下方部位に配置固定される。スプラインナット36にはスプラインが形成された貫通孔が設けられており、この貫通孔にボールネジ軸351が挿通される。なお、ボールネジ軸351のネジ溝351aにはスプライン溝も同時に形成されている。したがってボールネジ軸351はスプラインナット36にスプライン嵌合し、回転不能かつ軸方向移動可能にスプラインナット36に支持される。
このような構成のアクチュエータ30において、モータ31が回転すると、その回転運動がボールネジ機構35により直線運動に変換される。このためアクチュエータ30は伸縮する。アクチュエータ30が伸縮することにより、バネ上部材とバネ下部材との間の間隔(上下間隔)が変化させられる。
液圧ダンパ装置40は、内部に作動液(例えば作動油)が封入されたシリンダ41と、シリンダ41の内部に配設されシリンダ41内で相対移動するバルブピストン42とを備える。バルブピストン42によってシリンダ41の内部が上室と下室とに区画される。シリンダ41の下端はブッシュを介してロアアームなどの車輪側の部材LAに連結される。
また、シリンダ41内にピストンロッド43が挿入される。ピストンロッド43はその下端にてバルブピストン42に連結される。ピストンロッド43は、その上端にてボールネジ軸351の下端に連結され、その連結部分から図において下方に伸びて液圧ダンパ装置40のシリンダ41内に挿入される。このような構成からわかるように、液圧ダンパ装置40は、アクチュエータ30の下方に取り付けられる。
シリンダ41の外周に環状の下部リテーナ44aが気密的に取り付けられる。下部リテーナ44aの外周には第1筒部21が気密的に連結される。第1筒部21は、下部リテーナ44aに連結された部分からシリンダ41を覆うように図において上方に伸びる。第1筒部21の上端部に径内方に屈曲したフランジ部が形成され、このフランジ部の下面側に環状の上部リテーナ44bが設けられる。
また、ボールネジ軸351とピストンロッド43との連結部分に中央リテーナ44cが取り付けられる。中央リテーナ44cは、ボールネジ軸351とピストンロッド43との連結部分から水平方向に放射状に伸びた円板状の部分と、円板状の部分の外周から下方に伸びた円筒状の部分と、円筒状の部分から径外方に伸びた環状の鍔部分とを備える。このような形状の中央リテーナ44cの鍔部分と下部リテーナ44aとの間に第1コイルスプリング46aが、鍔部分と上部リテーナ44bとの間に第2コイルスプリング46bが配設される。
このような構成の液圧ダンパ装置40は、バネ下部材の上下方向速度の高周波成分(例えば8Hz以上)に対する減衰力を発生するように設計されている。つまり、高周波振動が路面から入力されてバネ下部材が高周波振動したときに、シリンダ41がバルブピストン42に対して相対移動する。この相対移動により発生する減衰力により高周波振動が減衰される。
エアばね装置20は、上述の第1筒部21と、第1筒部21の外周側に配置された第2筒部22と、第2筒部22の上端部分にその下端部分が気密的に接続され、その上端部分にてブラケット25を介して気密的にモータケーシング311に接続された第3筒部23と、展開形状がリング状をなし、内周部分が第1筒部21の外周に気密的に連結され外周部分が第2筒部22の内周に気密的に連結されたダイヤフラム24とを備える。第1筒部21と、第2筒部22と、第3筒部23と、ダイヤフラム24により、外部との連通が遮断された空間Sが形成される。
エアばね装置20、アクチュエータ30および液圧ダンパ装置40を含むサスペンション本体10は、その上部位置にてアッパーサポート12を介して車体Bに釣り下げられるように弾性的に連結される。したがってサスペンション本体10は、その下部位置にて車輪側の部材LAに支持されるとともに、その上部位置にて車体Bに取り付けられる。
エアばね装置20内の空間S内には流体としての圧縮空気が封入される。エアばね装置20内の圧縮空気の圧力により車体側の部材が弾性的に保持される。エアばね装置20により保持される車体側の部材がバネ上部材であり、エアばね部材を保持する車輪側の部材がバネ下部材である。図からわかるようにアクチュエータ30はバネ上部材とバネ下部材との間に配設される。また、液圧ダンパ装置40はアクチュエータ30とバネ下部材との間に取り付けられる。
図3は、バネ上部材と、バネ下部材と、これらの部材間に介装されたサスペンション本体10とにより構成される振動モデルを表す図である。図に示すように、バネ上部材(車体など)とバネ下部材(車輪やロアアームなど)との間に、エアばね装置20と、アクチュエータ30と、液圧ダンパ装置40が介装されている。図において、バネ上部材の質量がMで、バネ下部材の質量がmで表わされる。液圧ダンパ装置40の減衰係数がCsにより、バネ定数がKsにより表わされる。また、中間部材は、バネ上部材とバネ下部材との間に介装されている物(例えばモータ31やボールネジ機構35等)を表す。
図1に示すように、車両には、バネ上加速度センサ61とストロークセンサ62が取り付けられている。バネ上加速度センサ61は、バネ上部材の各サスペンション本体10が取り付けられている近傍位置に配設されていて、その位置におけるバネ上部材の上下方向加速度(バネ上加速度)αbをそれぞれ検出する。ストロークセンサ62は各サスペンション本体の近傍に取り付けられていて、各サスペンション本体10のストローク変位量(バネ上部材とバネ下部材との間の間隔の変化量)xsをそれぞれ検出する。各バネ上加速度センサ61および各ストロークセンサ62はサスペンションECU50に電気的に接続されており、各センサからの検出情報はサスペンションECU50に入力される。
また、車両には、各サスペンション本体10ごとに駆動回路100が設けられる。駆動回路100はサスペンションECU50に電気的に接続される。駆動回路100はインバータなどにより構成され、サスペンションECU50から入力される信号に基づいて、対応するサスペンション本体10のモータ31に駆動電流を供給する。
サスペンションECU50は、ROM、RAM、CPUを備えるマイクロコンピュータにより構成され、各サスペンション本体10のモータ31を制御する。図4は、サスペンションECU50の機能構成を示すブロック図である。図4に示すように、サスペンションECU50は、状態量演算部51および制御力演算部52を備える。
状態量演算部51は、バネ上加速度センサ61から各バネ上加速度αb[m/s2]を、ストロークセンサ62から各ストローク変位量xs[m]を、回転角センサ315から各モータ31の回転角φm[rad]を、それぞれ入力する。状態量演算部51は、入力したバネ上加速度αbを時間積分することにより、バネ上部材の上下方向速度(バネ上速度)Vb[m/s]を演算し、演算したバネ上速度Vbを制御力演算部52に出力する。また、状態量演算部51は、入力したストローク変位量xsを時間微分することにより、サスペンション本体10のストローク速度(バネ上部材とバネ下部材との間の間隔の変化速度)Vs[m/s]を演算し、さらに、バネ上速度Vbとストローク速度Vsとの差(Vb−Vs)から、バネ下部材の上下方向速度(バネ下速度)Vw[m/s]を演算する。そして、演算したバネ下速度Vwを制御力演算部52に出力する。また、状態量演算部51は、演算したバネ下速度Vwを時間微分することによりバネ下部材の上下方向加速度(バネ下加速度)αw[m/s2]を演算し、演算したバネ下加速度αwを制御力演算部52に出力する。さらに、状態量演算部51は、入力した回転角φmを時間微分することによりモータ31の回転角速度Vm[rad/s]を演算し、演算したモータ31の回転角速度Vmを制御力演算部52に出力する。なお、バネ下加速度αwを取得するにあたり、車両の各バネ下部材にバネ下加速度センサを取り付けておき、そのバネ下加速度センサの検出信号からバネ下加速度αwを取得してもよい。
制御力演算部52は、入力したバネ上速度Vb、バネ下速度Vw、バネ下加速度αw、回転角速度Vmに基づいて、入力した各物理量に対応するサスペンション本体10のモータ31が出力すべき目標制御力fを演算する。そして、そのモータ31が目標制御力fを出力するように、そのモータ31に対応する駆動回路100に駆動制御信号を出力する。これによりモータ31が目標制御力fに基づいて制御される。
図5は、制御力演算部52の機能構成を示すブロック図である。図5に示すように、制御力演算部52は、バネ上スカイフック制御力演算部521と、バネ下スカイフック制御力演算部522と、ローパスフィルタ部523と、モータ減衰力演算部524と、ハイパスフィルタ部525と、目標制御力演算部526とを備える。
バネ上スカイフック制御力演算部521は、バネ上速度Vbを入力するとともに、入力したバネ上速度Vbに予め設定されているバネ上スカイフックゲインCbを乗じることにより、バネ上スカイフック制御力fbを演算する。モータ31がバネ上スカイフック制御力fbを出力することにより、バネ上部材の上下振動が抑えられる。なお、バネ上部材の質量は大きいのでバネ上スカイフック制御力fbの振動周波数は低い。したがって、バネ上スカイフック制御力演算部521からは、図中のグラフ(a)に示すように、低周波の制御力fbが出力される。
バネ下スカイフック制御力演算部522は、バネ下速度V
wおよびバネ下加速度α
wを入力するとともに、入力したバネ下速度V
wおよびバネ下加速度α
wに基づいて、バネ下スカイフック制御力f
wを演算する。モータ31がバネ下スカイフック制御力f
wを出力することにより、バネ下部材の上下振動が抑えられる。この場合において、バネ下スカイフック制御力演算部522は、中間部材の慣性の影響および伝達特性を考慮して、バネ下スカイフック制御力f
wを演算する。本実施形態では、下記(1)式に基づいて、バネ下スカイフック制御力f
wが演算される。
上記(1)式において、F
w(s)はバネ下スカイフック制御力f
wのラプラス変換、I
dは中間部材の等価慣性質量、C
sは液圧ダンパ装置40の減衰係数(図3参照)、K
sは液圧ダンパ装置40のバネ定数(図3参照)、C
wは予め設定されているバネ下スカイフックゲイン、V
w(s)はバネ下速度V
wのラプラス変換、α
w(s)はバネ下加速度のラプラス変換、sはラプラス演算子である。この式の具体的な導出方法は、本発明と関連性が薄いので、省略する。
バネ下スカイフック制御力演算部522は、(1)式に基づいて演算したバネ下スカイフック制御力fwをローパスフィルタ部523に出力する。
ローパスフィルタ部523は、入力したバネ下スカイフック制御力fwをローパスフィルタ処理する。本実施形態では、一次遅れ要素(1/(Tws+1):Twはフィルタ時定数)により表わされるローパスフィルタを用いるが、この限りでない。図6は、ローパスフィルタ部523で用いられるローパスフィルタの周波数特性を表す図である。図に示すように、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、本実施形態では8Hzである。したがって、ローパスフィルタ部523に入力されたバネ下スカイフック制御力fwのうち8Hz以上の周波数成分がカットされる。換言すれば、ローパスフィルタ部523から、バネ下スカイフック制御力fwのうち8Hz以下の周波数成分(低〜中周波成分)fw_filtが出力される。
なお、バネ下部材の質量は小さいので、バネ下スカイフック制御力fwの周波数は比較的高い。しかし、ローパスフィルタ部523により8Hz以上の周波数成分がカットされている。したがって、ローパスフィルタ部523からは、図5のグラフ(b)に示すように、中周波の制御力fw_filtが出力される。
モータ減衰力演算部524は、回転角速度Vmを入力する。また、モータ減衰力演算部524は、入力した回転角速度Vmに予め設定されているモータ減衰ゲインCmを乗じることにより、モータ減衰力fmを演算する。このモータ減衰力fmは、モータ31の回転を妨げる方向に働く力である。モータ減衰力演算部524は演算したモータ減衰力fmをハイパスフィルタ部525に出力する。
ハイパスフィルタ部525は、入力したモータ減衰力fmをハイパスフィルタ処理する。本実施形態では、ハイパスフィルタの伝達関数が、Tms/(Tms+1)(Tmはフィルタ時定数)により表わされるが、この限りでない。図7は、ハイパスフィルタ部525で用いられるハイパスフィルタの周波数特性を表す図である。図に示すように、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、本実施形態では8Hzである。したがって、ハイパスフィルタ部525に入力されたモータ減衰力fmのうち8Hz以下の周波数成分がカットされる。換言すれば、ハイパスフィルタ部525からモータ減衰力fmのうち8Hz以上の周波数成分(高周波成分)fm_filtが出力される。ハイパスフィルタ部525から出力される制御力は図5のグラフ(c)に示すように、高周波である。
このように、本実施形態では、モータ減衰力演算部524およびハイパスフィルタ部525にて、モータ31の回転角速度Vm(アクチュエータ30の作動速度)に基づいて、回転角速度Vmの高周波成分(例えば8Hz以上)に対する減衰力(回転角速度Vmに対するモータ減衰力fmの高周波成分fm_filt)が演算される。
目標制御力演算部526は、バネ上スカイフック制御力fbと、バネ下スカイフック制御力fwの低〜中周波成分fw_filtと、モータ減衰力fmの高周波成分fm_filtを入力する。そして、入力したこれらの制御力を加算することにより、モータ31が出力すべき目標制御力fを演算する。そして、演算した目標制御力fに対応する駆動信号を、対応する駆動回路100に出力する。駆動回路100は駆動信号に基づいて対応するモータ31に駆動電流を供給する。このようにして、目標制御力fに基づいてモータ31が制御される。ここで、目標制御力fの中にモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtが含まれている。したがって、モータ31は、このモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtを発生するように制御される。モータ31がモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtを発生することにより、モータ31が高周波で回されることが妨げられる。従来のアクティブサスペンション装置では、このようなモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtが発生しない。
図8は、モータを有するアクチュエータとアクチュエータに取り付けられたダンパ装置とを備える従来のアクティブサスペンション装置にバネ下部材の高周波振動が入力された場合における、ストローク速度Vsの変化(図8(a))と、モータ31の回転角速度Vmの変化(図8(b))と、ストローク速度Vsに対する理想的な減衰力f_damp*(=C×Vs)の変化(図8(c))と、実際にダンパ装置により発生される減衰力f_damp_actの変化(図8(d))とを、時間軸を一致させて示すグラフである。図において横軸が時間であり、縦軸が対応する物理量である。
バネ下部材の高周波振動がサスペンション本体に入力された場合、アクチュエータとバネ下部材との間に配置されたダンパ装置が高周波振動する。したがって、図8(a)に示すストローク速度Vsの変化はダンパ装置の振動成分を表す。また、バネ下部材の高周波振動はダンパ装置を介してアクチュエータにも伝達される。アクチュエータの慣性質量が大きければ、伝達された高周波振動によりアクチュエータが動かされることはない。しかし、アクチュエータの慣性質量は一般的に小さいため、伝達された高周波振動によってアクチュエータも動かされ、アクチュエータが高周波振動する。したがって、図8(b)に示すように、バネ下部材の高周波振動が入力されているときにモータが回される(モータの回転角速度Vmが大きく変化する)。
また、ダンパ装置は、理想的にはバネ下部材の上下方向速度の高周波成分に対する減衰力、すなわちバネ下部材の高周波振動に対する減衰力を発生する。この理想的な減衰力f_damp*はダンパ装置の伸縮速度(図8(a)に示すストローク速度Vs)に減衰ゲインを乗じることにより求められる。したがって、図8(c)に示す理想的な減衰力f_damp*の変化波形は図8(a)に示すストローク速度Vsの変化波形にほとんど等しい。ダンパ装置に図8(c)に示すような減衰力f_damp*を発生させることにより、バネ下部材の高周波振動が抑えられる。
しかし、ダンパ装置に図8(c)に示すような減衰力を発生させるためには、バネ下部材の高周波振動入力時にその高周波振動に対してアクチュエータが静止していなければならない。この点につき、従来のサスペンション装置においては上述したように、バネ下部材の高周波振動によってアクチュエータが動かされる(モータの回転角速度Vmが大きく変化する)。このため実際にダンパ装置により発生される減衰力f_damp_actの変化波形(図8(d))は理想的な減衰力f_damp*の変化波形(図8(c))と異なる。実際に発生する減衰力f_damp_actが理想的な減衰力f_damp*と異なる場合、ダンパ装置によりバネ下部材の高周波振動を十分に抑えることができず、乗り心地の悪化を招く。
図9は、本実施形態のアクティブサスペンション装置にバネ下部材の高周波振動が入力された場合における、ストローク速度Vsの変化(図9(a))と、モータ31の回転角速度Vmの変化(図9(b))と、ストローク速度Vsに対する理想的な減衰力f_damp*の変化(図9(c))と、実際に液圧ダンパ装置40により発生される減衰力f_damp_actの変化(図9(d))とを、時間軸を一致させて示すグラフである。図において横軸が時間であり、縦軸が対応する物理量である。
図9(a)に示すようにバネ下部材の高周波振動が入力されてストローク速度Vsが変化した場合、その高周波振動が液圧ダンパ装置40を介してアクチュエータ30に伝達されてモータ31が回されようとする。このとき本実施形態によれば、モータ31は、モータ31の回転角速度Vmの高周波成分に対する減衰力(すなわちモータ減衰力fmの高周波成分)fm_filtを発生する。このモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtによって、バネ下部材の高周波振動によりアクチュエータ30が動かされることが抑えられる。したがって、図9(b)に示すように、バネ下部材の高周波振動が入力されているときでもアクチュエータ30はほとんど動かされない(モータ31がほとんど回されない)。このため液圧ダンパ装置40により実際に発生される減衰力f_damp_actの変化波形(図9(d))と理想的な減衰力f_damp*の変化波形はほぼ一致する。つまり、液圧ダンパ装置40に所望の減衰力を発生させることができる。故に、本実施形態によれば、液圧ダンパ装置40によりバネ下部材の高周波振動を十分に抑えることができるのである。
以上のように、本実施形態のサスペンション装置は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に配設され、モータ31を有するとともにモータ31が回転することにより伸縮してバネ上部材とバネ下部材との間の間隔を変化させるアクチュエータ30と、アクチュエータ30とバネ下部材との間に取り付けられ、バネ下速度Vwの高周波成分に対する減衰力を発生する液圧ダンパ装置40と、モータ31の回転角速度Vm(アクチュエータ30の作動速度)を取得する状態量演算部51と、状態量演算部51により取得された回転角速度Vmに基づいて、回転角速度Vmの高周波成分(例えば8Hz以上)に対する減衰力(モータ減衰力fmの高周波成分)fm_filtを演算する減衰力演算部(モータ減衰力演算部524およびハイパスフィルタ部525)と、モータ31が減衰力fm_filtを発生するように、モータ31が出力すべき目標制御力fを演算する目標制御力演算部526と、を備え、目標制御力演算部526により演算された目標制御力fに基づいてモータ31を制御する。
モータ31が発生するモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtにより、バネ下部材の高周波振動が液圧ダンパ装置40を介してアクチュエータ30に伝達されることにより生じるアクチュエータ30の動きが抑えられ、高周波振動入力時にアクチュエータ30がその高周波振動に対して静止する。したがって、液圧ダンパ装置40にその高周波振動に対する所望の減衰力を発生させることができる。
また、本実施形態によれば、モータ31の回転角速度Vmに基づいて、モータ減衰力fmの高周波成分fm_filtがフィードバック制御される。つまりモータ31は、バネ下部材の高周波振動により回されて初めてモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtを発生する。このようなフィードバック制御により、バネ下部材の高周波振動に応じて適切なモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtをモータ31に発生させることができる。
また、本実施形態のサスペンション装置によれば、バネ上速度Vbに基づいて、バネ上部材の振動を抑えるようにモータ31により出力されるべき制御力であるバネ上スカイフック制御力fbが演算され、バネ下速度Vwに基づいて、バネ下部材の振動を抑えるように前記モータにより出力されるべき制御力であるバネ下スカイフック制御力fwが演算される。そして、演算されたバネ上スカイフック制御力fbと、バネ下スカイフック制御力fwの低〜中周波成分fw_filtと、モータ減衰力fmの高周波成分fm_filtの総和により目標制御力fが求められ、求められた目標制御力fに基づいてモータ31が制御される。バネ上スカイフック制御力fbによってバネ上部材の振動が抑えられ、バネ下スカイフック制御力fwの低〜中周波成分fw_filtによりバネ下部材の振動が抑えられるので車両の乗り心地がより向上する。加えて、モータ減衰力fmの高周波成分fm_filtによりモータ31がバネ下部材の高周波振動により動かされることが防止される。
また、バネ下スカイフック制御力fwの低〜中周波成分fw_filtの抽出に用いられるローパスフィルタのカットオフ周波数(8Hz)と、モータ減衰力fmの高周波成分fm_filtの抽出に用いられるハイパスフィルタのカットオフ周波数(8Hz)とを一致させることにより、バネ下スカイフック制御力fwの低〜中周波成分fw_filtによるモータ31の制御とモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtによるモータ31の制御との干渉を避けることができる。
以上の本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、ハイパスフィルタおよびローパスフィルタのカットオフ周波数が8Hzである例を示したが、カットオフ周波数は、モータが制御により追従することができる最大周波数または最大周波数以下の周波数として予め設定された周波数であれば、それ以外の周波数でもよい。また、上記実施形態では、モータ31の回転角速度Vmに基づいて演算されたモータ減衰力fmをハイパスフィルタ処理してモータ減衰力fmの高周波成分fm_filtを抽出する例を示したが、モータ31の回転角速度Vmをハイパスフィルタ処理して抽出した回転角速度の高周波成分Vm_filtに対する減衰力fm_filtを演算してもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変形可能である。