しかし、従来におけるコーティング液及びハードコート構造は、次のような問題点があった。
即ち、特許文献1では、ハロゲン化水素をアルコール溶媒に溶解させた酸および水を使用し、この酸/水の重量比を設定した下地層(下地膜)によりコーティング全体の耐久性及び緻密性を高めており、また、特許文献2では、熱硬化性樹脂材料を用いた下地層によりハードコート層との架橋密度向上,耐摩耗性及び耐熱水性を高めているが、結合強度(強固性)を確保する観点から、いずれも被コーティング基材とハードコート層間に介在する下地層の硬度が高くなる傾向にある。
したがって、使用環境、特に、加熱と冷却(非加熱)が繰り返される温度変動の大きい使用環境に晒された場合においては、被コーティング基材とハードコート層の相対的な体積変化により下地層が無用な応力を受けてしまう。結局、下地層に剥離やクラックが発生しやすくなるなど、ハードコート全体における耐久性及び耐熱水性等の面においては、必ずしも満足するコーティング性能を得ているとは云えない問題があった。
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したコーティング液及びハードコート構造の提供を目的とするものである。
本発明に係るコーティング液は、上述した課題を解決するため、メラミン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,アクリル樹脂,ポリカーボネート樹脂,ABS樹脂,又はアルミニウムを用いた被コーティング基材Mの表面Mfにコーティングすることにより当該表面Mfを保護するコーティング液であって、メチルトリメトキシシラン(MTMS),γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)とジメチルジメトキシシラン(DMDMS)の混合原料,MTMSとDMDMSの混合原料,MTMSとテトラメトキシシラン(TMOS)の混合原料,の一つを用いたシリコンアルコキシド中のケイ素(Si)と、ヒドロキシアセトンを用いたヒドロキシケトン誘導体と、水との調合比を、モル比で、[1]:[0.02〜0.8]:[1〜3]に選定した組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて得ることを特徴とする。
また、本発明に係るハートコード構造1は、上述した課題を解決するため、メラミン樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレンテレフタレート樹脂,アクリル樹脂,ポリカーボネート樹脂,ABS樹脂,又はアルミニウムを用いた被コーティング基材Mの表面Mfに設けることにより当該表面Mfを保護するハードコート構造であって、MTMS,MTMSとTMOSの混合原料,の一つを用いた第一シリコンアルコキシド中のSiと、ヒドロキシアセトンを用いたヒドロキシケトン誘導体と、水と、の調合比を、モル比で、[1]:[0.02〜0.8]:[1〜3]に選定した組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した最外層コーティング液をコーティングした最外層1cと、この最外層1cと被コーティング基材Mの表面Mf間に介在し、GPTMSとDMDMSの混合原料を用いた第二シリコンアルコキシド中のSiと、ヒドロキシアセトンを用いたヒドロキシケトン誘導体と、水と、の調合比を、モル比で、[1]:[0.02〜0.8]:[1〜3]に選定した組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した下地層コーティング液をコーティングした下地層1aとを含むことを特徴とする。
この場合、最外層コーティング液をコーティングして設ける最外層1cは、無機系のガラスコーティング層(ハードコート層)として形成される。したがって、コーティング時には、例えば、使用環境及び耐熱温度を考慮した硬化温度(例えば、110〔℃〕)を用いることにより、当該使用環境に十分に耐え得る機械的強度(表面硬度)及び耐久性,耐熱性及び耐熱水性を得れるとともに、望ましい疎水性及び耐汚染性が確保される。
一方、このような物性を有する最外層1cは、被コーティング基材Mの表面Mfに対し、十分な密着性(接着性)及び非剥離性を確保できないため、この最外層1cと被コーティング基材Mの表面Mf間に、下地層コーティング液をコーティングして設ける下地層1aを介在させている。下地層1aは、所要の有機成分を含有するため、有機無機複合ガラスコーティング層として形成される。これにより、下地層1aには、必要な粘着性(柔軟性)が得られ、最外層1cと表面Mf間の望ましい密着性(接着性)が確保されるとともに、熱膨張率の差が緩和されて非剥離性が確保される。
なお、混合時の温度は、材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜60〔℃〕の範囲、特に、この範囲の40〔℃〕以下が好ましい。また、混合後の温度は、材料が凝固及び揮発しにくい温度を選択するのが好ましく、5〜95〔℃〕の範囲、特に、20〜80〔℃〕、更に好ましくは40〜60〔℃〕を選定することができる。加温の継続時間は十分な反応を進行させる時間が好ましく、1〜360〔時間〕、特に、12〜240〔時間〕、更には72〜168〔時間〕が好ましい。
さらに、本発明に係るハードコート構造1の好適な態様として、最外層1cと下地層1a間に介在し、MTMSとDMDMSの混合原料を用いた第三シリコンアルコキシド中のSiと、ヒドロキシアセトンを用いたヒドロキシケトン誘導体と、水と、の調合比を、モル比で、[1]:[0.02〜0.8]:[1〜3]に選定した組成物をゾルゲルプロセスにより反応させて生成した中間層コーティング液をコーティングした少なくとも一つの中間層1bを含ませることができる。
このような中間層1bを含ませることにより、最外層1cと下地層1a間における密着性をより高めることができるとともに、最外層1cと下地層1a間の熱膨張率の差をより緩和して非剥離性を高めることができる。なお、混合時の温度や時間に係わる条件は、上述した最外層1cと下地層1aの場合と同様に設定できる。
本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
(1) ハードコート構造1は、無機系のガラスコーティング層として形成される最外層1cを有するため、被コーティング基材Mのハードコートに要求される十分な機械的強度(表面硬度)及び耐久性,耐熱性及び耐熱水性を得ることができるとともに、望ましい疎水性及び耐汚染性を確保することができる。
(2) ハードコート構造1は、有機無機複合ガラスコーティング層として形成される下地層1aを有するため、被コーティング基材Mのハードコートに要求される十分な密着性(接着性)を確保できるとともに、熱膨張率の差の緩和により非剥離性を確保することができる。特に、被コーティング基材Mの外観性(光沢性)や質感を長期にわたって維持できることにより、長寿命化を図ることができる。
(3) ハードコート構造1は、下地層1aから最外層1cまでの主成分が無機成分(シリカ成分)となり、また、遷移金属触媒或いは酸及び塩基性の触媒を用いないため、コーティング被膜に触媒が残留する不具合を回避できる。一般に、コーティング被膜に触媒や水分が残留するとコーティング被膜自体の劣化や被コーティング基材Mの腐食の原因となるが、本発明に係るハードコート構造1では、このような不具合を回避できる。
(4) 本発明に係るコーティング液は、粒子などのフィラーを含まないため、無色透明であり、これにより形成されるハードコート構造1は高い光透過性(可視光透過率)を有する。したがって、被コーティング基材Mの透明性や表面の色調を維持することができる。
(第一実施例)
以下、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1の第一実施例について、図1〜図7を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係るハードコート構造1の模式的構成を示している。同図中、Mはコーティング液のコーティング対象となる被コーティング基材であり、例示の被コーティング基材Mは、メラミン樹脂(基板)を用いたプラスチックである。ハードコート構造1は、被コーティング基材Mの表面Mfに順次コーティングして設けた、下地層1a,中間層1b,最外層1cの三つの層からなり、表面Mf上にこれらの積層されたハードコートCが設けられる。
〔コーティング液〕
本発明に係るハードコート構造1の有効性を検証(評価)するため、図3に示すように、生成条件を変えた複数のコーティング液Fa,Fb,Ma,Mb,Ga,Gbを生成して用意した。この場合、コーティング液Fa,Fbは最外層1cに、コーティング液Ma,Mb,Ga,Gbは中間層1bと下地層1aにそれぞれ使用した。図3中、A1はメチルトリメトキシシラン(MTMS)、B1はジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、B2はγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、HAはヒドロキシアセトンを示す。いずれのコーティング液も生成条件は異なるも基本的な生成方法は同じである。
次に、各コーティング液の生成方法について、図1に示す生成処理工程を参照して説明する。
最外層1cに用いるコーティング液Faは次のように生成する。まず、調合材料として、MTMS,HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この場合、MTMSは第一シリコンアルコキシドとなり、この第一シリコンアルコキシド中のSi(ケイ素)とHAと水の調合比は、モル比で、1:0.1:2に選定する。そして、これらの材料を混合し、撹拌工程において、常温(25〔℃〕程度)下で1〔時間〕程度撹拌する(ステップS4)。撹拌工程が終了したなら、反応工程において、MTMS,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS5)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を4〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら濃縮工程(エバポレーション工程)において、不要な水分等を除去する(ステップS6)。即ち、濃縮工程では、反応工程で得られた組成物を40〔℃〕に加温しつつ減圧ポンプにより減圧する。濃縮工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、粘性調整工程において、粘性調整される。具体的には、溶液原料に所定量のイソプルピルアルコール(IPA)を添加して粘性調整を行う。これにより、目的とするコーティング液Faを得ることができる(ステップS7,S8)。また、濃縮工程を行わない条件により、コーティング液Fbを同様に生成することができる。
中間層1b又は下地層1aに用いるコーティング液Maは次のように生成する。まず、調合材料として、モル比で、MTMSとDMDMSを7:3により調合した第三シリコンアルコキシドを用意するとともに、HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この際、第三シリコンアルコキシド中のSiとHAと水の調合比は、モル比で、1:0.1:2に選定する。そして、これらの材料を混合し、撹拌工程において、常温(25〔℃〕程度)下で1〔時間〕程度撹拌する(ステップS4)。撹拌工程が終了したなら、反応工程において、第三シリコンアルコキシド,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS5)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を5〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら上述したコーティング液Faの生成と同様の濃縮工程により不要な水分等を除去する(ステップS6)。濃縮工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、上述したコーティング液Faの生成と同様の粘性調整工程により粘性調整を行う。これにより、目的とするコーティング液Maを得ることができる(ステップS7,S8)。また、濃縮工程を行わない条件により、コーティング液Mbを同様に生成することができる。
さらに、コーティング液Gaは次のように生成する。まず、調合材料として、モル比で、GPTMSとDMDMSを5:5により調合した第二シリコンアルコキシドを用意するとともに、HA及び水を用意する(ステップS1,S2,S3)。この際、第二シリコンアルコキシド中のSiとHAと水の調合比は、モル比で、1:0.1:2に選定する。そして、これらの材料を混合し、撹拌工程において、常温(25〔℃〕程度)下で1〔時間〕程度撹拌する(ステップS4)。撹拌工程が終了したなら、反応工程において、第二シリコンアルコキシド,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる(ステップS5)。反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕に加温する状態を7〔日〕間維持する。反応工程が終了したなら上述した最外層コーティング液F1の生成と同様の濃縮工程により不要な水分等を除去する(ステップS6)。濃縮工程の終了により溶液原料が得られる。そして、得られた溶液原料は、上述したコーティング液Faの生成と同様の粘性調整工程により粘性調整を行う。これにより、目的とするコーティング液Gaを得ることができる(ステップS7,S8)。また、濃縮工程を行わない条件により、コーティング液Gbを同様に生成することができる。
〔コーティング方法〕
次に、コーティング方法について説明する。図4は、被コーティング基材Mの表面MfにハードコートCを設ける際のコーティング工程を示すとともに、図5は、ハードコートCを設ける際の具体的なコーティング条件を示す。第一実施例では、図5に示すように、試料番号X1〜X11の計11の試料を製作した。この場合、各試料番号X1〜X11ではハードコートCを設けるコーティング条件がそれぞれ異なる。
以下、試料番号X1のコーティング方法について、図4に示すコーティング工程に従って説明する。
まず、コーティング対象となる被コーティング基材M(図2)を用意する(準備工程Po)。第一実施例では被コーティング基材Mとしてメラミン樹脂基板を用いた。この被コーティング基材Mは、コーティングラインに送られ、被コーティング基材Mの表面Mfに対するコーティング処理が行われる。コーティングラインでは、最初に、脱脂工程P1により被コーティング基材Mに対する脱脂処理が行われる。即ち、被コーティング基材Mに対して110〔℃〕の洗浄溶液により1〔時間〕の洗浄処理が行われ、表面Mfに付着した油脂成分等が除去される。脱脂工程P1の終了した被コーティング基材Mは、乾燥工程P2により十分な乾燥処理が行われる。具体的には、ドライデシケータを利用して30〔分〕間程度の乾燥処理が行われる。乾燥処理が終了し、常温まで放冷したなら、下地層コーティング工程P3により、被コーティング基材Mに対して、コーティング液Ga(図3)のコーティングが行われる。コーティングはスピンコーターを使用し、スピンコート法によるコーティングを行った。この場合、条件として、回転数1500〔rpm〕,時間60〔秒〕とした。なお、本発明のコーティング液の特徴から、コーティングには、その他、ディップコーティング,スプレーコーティング,キャピラリーコーティング,バーコーティング等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、下地層コーティング工程P3の終了した被コーティング基材Mに対して、下地層硬化工程P4により硬化処理が行われる。この場合、図5に示すように、硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は4〔時間〕に設定される。下地層硬化工程P4が終了したなら、放冷工程P5により常温まで放冷及び乾燥される。これにより、被コーティング基材Mの表面Mf上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の下地層1aが設けられる。
次いで、下地層1aをコーティングした被コーティング基材Mは、中間層コーティング工程P6において、中間層コーティング液Ma(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、上述した下地層コーティング工程P3と同様に、スピンコーターを使用し、同様のコーティング条件により行う。中間層のコーティングにおいても、その他、ディップコーティング,スプレーコーティング,キャピラリーコーティング,バーコーティング等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、中間層コーティング工程P6の終了した被コーティング基材Mに対して、中間層硬化工程P7により硬化処理が行われる。この場合、図5に示すように、硬化温度は80〔℃〕、硬化時間は2〔時間〕に設定される。中間層硬化工程P7が終了したなら、放冷工程P8により常温まで放冷及び乾燥が行われる。これにより、下地層1aの上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の中間層1bが設けられる。
次いで、下地層1a及び中間層1bをコーティングした被コーティング基材Mは、最外層コーティング工程P9において、最外層コーティング液Fa(図3)のコーティングが行われる。コーティングは、上述した下地層コーティング工程P3と同様に、スピンコーターを使用し、同様のコーティング条件により行う。最外層のコーティングにおいても、その他、ディップコーティング,スプレーコーティング,キャピラリーコーティング,バーコーティング等の公知のコーティング手法を適用でき、特定の手法には限定されない。また、最外層コーティング工程P9の終了した被コーティング基材Mは、第一硬化工程P10(硬化温度:80〔℃〕,硬化時間1〔時間〕)及び第二硬化工程P11(硬化温度:110〔℃〕,硬化時間1〔時間〕)により硬化処理される。なお、この第一硬化工程P10は省略することができる。第二硬化工程P11が終了したなら放冷及び乾燥が行われる。これにより、中間層1bの上には、膜厚が0.1〜0.5〔μm〕の最外層1cが設けられるとともに、下地層1a,中間層1b及び最外層1cの三層が積層された目的のハードコート構造1を有するハードコートC、即ち、ハードコートCがコーティングされた被コーティング基材M(試料)が得られる(工程P12)。
以上、試料番号X1について説明したが、他の試料番号X2〜X11についても、図5に示すように一部のコーティング条件を異ならせる点を除き、基本的には同様のコーティング工程を経てコーティングが行われる。各試料番号X2〜X11において、試料番号X2〜X7までは、コーティング液Ga,Gb,Ma,Mb,Fa,Fbの組合わせを異ならせたものであり、この点を除き、他のコーティング条件は試料番号X1と同じである。また、試料番号X8,X9は中間層1bを設けない場合であり、下地層1aと最外層1cの二層となるとともに、試料番号X10は下地層1aと中間層1bを設けない場合であり、最外層1cの一層となる。さらに、試料番号X11は、試料番号X1に対して中間層1bのコーティング液を変更、即ち、コーティング液Maの代わりにMbを用いたものである。なお、各試料X1〜X11は同一の試料X1〜X11毎に複数用意する。
〔コーティング層の評価〕
図7には、試料番号X1〜X11におけるハードコートC…の評価結果を示す。なお、試料の評価に際しては、前述した工程P12で得られた試料(ステップS11)に対する初期評価(ステップS12)と、図6に示す負荷処理を行った後の試料に対する負荷処理後評価を行った(ステップS16)。この場合、負荷処理は、図6に示すフローチャートのように、まず、工程P12で得られた試料を、120〔℃〕の温度環境に30〔分〕間放置する加熱処理を行う(ステップS13)。次いで、加熱された試料を、直ちに10〔℃〕の蒸留水中に投入して10〔分〕間放置する急冷処理を行う(ステップS14)。そして、この負荷サイクルをN回(例示は5回)繰り返す(ステップS15)。
また、評価は、外観,密着性,硬度(鉛筆硬度)について行った。外観については目視観察を行うことにより10段階評価を行った。密着性の評価は、JIS K5600−5−6に基づくクロスカット法により10段階評価を行った。なお、実施したクロスカット法では、カッターによりクロスカットした後、表面のカット屑をブロワーにより除去し、この後、粘着テープを付着させた。硬度の評価は、JISK5600−5−4に基づいて行った。
評価結果は、図7に示すように、外観は、初期及び負荷処理後の評価共に、試料番号X1〜X6,X9,X11については「○」、試料番号X7,X8,X10については「△」となった。この場合、「○」は良好であり10段階評価では「8〜10」が含まれ、「△」は概ね良好であり10段階評価では「5〜7」が含まれる。外観については、均一性等について若干バラツキも感じられるが、実用レベルではいずれも問題の無いレベルと思われる。また、密着性の評価は、特に負荷処理後においては、試料番号X1〜X6,X9,X11については10段階評価において「10」となった。密着性については剥離等の問題は確認されず、特殊用途の環境下でなければ、いずれも実用的には問題のないレベルにあると思われる。硬度の評価では、試料番号X7を除いて良好な鉛筆硬度を確保した。
(第二実施例)
次に、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1の第二実施例について、図8及び図9を参照して説明する。
第二実施例は、被コーティング基材Mの素材を変更した例を示す。第一実施例では被コーティング基材Mとしてメラミン樹脂を用いた場合を示したが、第二実施例では、メラミン樹脂以外の樹脂素材、具体的には、ポリプロピレン(PP)樹脂,ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂,アクリル樹脂について、ハードコート構造1の有効性を検証(評価)した。
したがって、コーティング液としては、前述した図3に示す複数のコーティング液Fa,Fb,Mb,Ga,Gbを使用した。また、基本的なコーティング方法は第一実施例の場合と同じであるが一部のコーティング条件を変更した。変更した条件を表1にまとめて示す。
この場合、コロナ処理は、被コーティング基材Mにコロナ放電を照射し、表面の化学的改質を行うことにより、表面の付着性(接着性)及びコーティングの硬度をより高めるための処理である。コロナ処理を行った場合には、行わない場合と比較してコーティング時の濡れ性が改善され、硬化後の密着性も全体に良好であった。特に、PPでその効果が顕著であった。図8は、第二実施例におけるハードコートCを設ける際の具体的なコーティング条件を示す。第二実施例では、試料番号YP1〜YP3(PP樹脂),YE1〜YE3(PET樹脂),YA1〜YA4(アクリル樹脂)の計10の試料を製作した。図9には、試料番号YP1〜YP3,YE1〜YE3,YA1〜YA4におけるハードコートC…の評価結果を示す。なお、試料の評価に際しては、第一実施例と同様、初期評価と負荷処理後評価を行った。また、評価は、外観,密着性について行った。硬度(鉛筆硬度)については、樹脂素材が柔らかいために行わなかった。
評価結果は、図9に示すように、外観は、負荷処理後の評価において、試料番号YA1及びYA2が「△」となり、それ以外の試料は「○」となった。この場合、「○」は良好であり10段階評価では「8〜10」が含まれ、「△」は概ね良好であり10段階評価では「5〜7」が含まれる。外観については、第一実施例の場合と同様、実用レベルではいずれも問題の無いレベルと思われる。また、密着性の評価は、特に負荷処理後においては、試料番号YP1〜YP3(PP樹脂)及びYE1〜YE3(PET樹脂)については、10段階評価において「10」となった。いずれも密着性については剥離等の問題は確認されず、特殊用途の環境下でなければ、実用的には問題のないレベルにあると思われる。しかし、試料番号YA1〜YA3(アクリル樹脂)については、YA3を除き十分なコーティング性能は得られなかった。なお、コロナ処理は、原理上、本コーティングにとっても有効な処理と思われる。
(第三実施例)
次に、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1の第三実施例について、図10及び図11を参照して説明する。
第三実施例は、被コーティング基材Mとして、さらに他の素材を用いた例を示す。即ち、被コーティング基材Mの素材として、ABS樹脂,ポリカーボネート(PC)樹脂を用いるとともに、他方、金属素材であるアルミニウム(AL)を用いたものであり、これらの素材について、ハードコート構造1の有効性を検証(評価)した。
コーティング液としては、第一実施例(図3)に示した複数のコーティング液Fa,Fb,Ma,Mb,Ga,Gbを使用した。なお、基本的なコーティング方法は第一実施例と同じである。図10に、第三実施例におけるハードコートCを設ける際の具体的なコーティング条件を示す。また、コロナ処理については、第二実施例と同様に、ABS樹脂基板及びポリカーボネート樹脂基板に対して行った。ABS樹脂基板及びポリカーボネート樹脂基板においてもコロナ処理は有効であり、いずれも密着性が向上し、特に、ABS樹脂基板はその効果が大きい。第三実施例では、試料番号YB1〜YB4(ABS樹脂),YC1〜YC4(PC樹脂),YD1〜YD3(AL)の計11の試料を製作した。
図11に、試料番号YB1〜YB4,YC1〜YC4,YD1〜YD3におけるハードコートC…の評価結果を示す。試料の評価に際しては、第二実施例と同様、初期評価と負荷処理後評価を行った。負荷処理については、工程P12で得られた試料を、70〔℃〕の温度環境下で30〔分〕間放置する加熱処理を行うとともに、加熱された試料を直ちに10〔℃〕の蒸留水中に投入して10〔分〕間放置する急冷処理を行う負荷サイクルをN回(例示は5回)繰り返した。また、評価は、外観,密着性について行った。硬度(鉛筆硬度)については、樹脂素材が柔らかいために行わなかった。アルミニウムも同様であり、硬度4H以上では基板が削れてしまうために行わなかった。
評価結果は、図11に示すように、外観は、負荷処理後の評価において、試料番号YB1,YB4,YC1及びYC2が「△」となったが、それ以外の試料は「○」となった。前述したように、「○」は良好であり10段階評価では「8〜10」が含まれ、「△」は概ね良好であり10段階評価では「5〜7」が含まれる。外観については、第一実施例の場合と同様、実用レベルではいずれも問題の無いレベルと思われる。一方、密着性の評価は、10段階評価において、全ての試料が「10」となった。いずれも密着性については剥離等の問題は確認されなかった。このように、第三実施例の結果を考慮すれば、基本的には、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1は、ほとんどの樹脂素材に対して有効と思われる。さらに、アルミニウムに対しても有効であることを確認できた。したがって、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1は、金属素材に対しても十分に有効であると思われる。
(第四実施例)
次に、本発明に係るコーティング液及びハードコート構造1の第四実施例について、図12〜図15を参照して説明する。
第四実施例は、第一実施例〜第三実施例とは異なるコーティング液を用いた例を示す。図12に、第四実施例で用いるコーティング液を生成するための材料を示すとともに、図13に、同コーティング液の生成条件を示す。生成するコーティング液はTa〜Tdの4種類であり、いずれも最外層1cに用いることを想定している。
コーティング液Taの生成は次のように行った。最初に、調合材料として、MTMS,TMOS,HA及び水を用意する。このMTMSとTMOSが第一シリコンアルコキシドとなり、この第一シリコンアルコキシド中のSi(ケイ素)とHAと水の調合比は、モル比で、1:0.1:2に選定する。図12中の配合量は、この条件を満たしている。まず、図12の配合量(配合比)に従って、MTMS,HA及び水を初期配合する。そして、撹拌工程において、常温(25〔℃〕程度)の温度環境下で1〔時間〕程度撹拌を行う。次いで、前段反応工程において、MTMS,HA及び水を含有する組成物をゾルゲルプロセスにより反応させる。この前段反応工程では、組成物を撹拌しながら60〔℃〕の温度環境下で1〔時間〕程度撹拌を行う。この後、図12の配合量(配合比)に従って、TMOS及び水を追加配合し、後段反応工程により、50〔℃〕の温度環境下で撹拌(反応撹拌)を行う。この場合、所定の反応時間にわたって撹拌を行うことにより、溶液粘度を10〔mPa・s〕前後に調製する。図13に示すように、コーティング液Taでは、反応時間を75〔時間〕に設定しており、これにより、12.8〔mPa・s〕の溶液粘度が得られた。
次いで、濃縮工程(エバポレーション工程)を行い、不要な水分等を除去する。この場合、後段反応工程で得られた組成物を40〔℃〕の温度環境下で加温しつつ減圧ポンプにより減圧する。濃縮工程の終了により溶液原料が得られるため、得られた溶液原料は、粘性調整工程において、粘性調製する。即ち、溶液原料に所定量(例示の場合、25〔ミリリットル〕)のIPAを添加し、3〜5〔mPa・s〕程度の溶液粘度を得れるように粘性調製を行った。コーティング液Taの場合には、3.9〔mPa・s〕の溶液粘度が得られた。これにより、目的とするコーティング液Taを得ることができる。この後、図12及び図13の配合量(配合比)に従って、同様に、コーティング液Tbを生成する。また、濃縮工程を行わない条件により、コーティング液Tc,Tdを同様に生成する。
図14は、ハードコートCを設ける際の具体的なコーティング条件を示す。第四実施例では、被コーティング基材Mとして、メラミン樹脂基板を用いる。また、最外層1cには、第四実施例のコーティング液Ta〜Tdを用いるも、下地層1a,中間層1bにおいては、第一実施例のコーティング液Ga,Mbを用いた。第四実施例では、図14に示す試料番号X12〜X15の四つの試料を製作した。なお、コーティング方法は第一実施例の場合と同じになる。
図15に、試料番号X12〜X15におけるハードコートC…の評価結果を示す。試料の評価に際しては、第一実施例と同様に、初期評価と負荷処理後評価を行うとともに、負荷処理は、第一実施例と同様に行った。評価結果は、図15に示すように、外観及び密着性の双方とも負荷処理後の評価においては、いずれも「○」となった。「○」は良好であり10段階評価では「8〜10」が含まれる。また、硬度の評価においても良好な鉛筆硬度を確保した。外観については、第一実施例の場合と同様、実用レベルではいずれも問題の無いレベルと思われる。密着性については、いずれも剥離等の問題は確認されず、特殊用途の環境下でなければ、実用的には問題のないレベルにあると思われる。
他方、図16は、本発明に係るコーティング液を被コーティング基材にコーティングした際の可視光透過率〔%〕のデータを示すとともに、図17及び図18は、図16に示した試料の波長〔nm〕に対する可視光透過率〔%〕を示している。図16から明らかなように、コーティング前の透明なアクリル樹脂基板の可視光透過率は、92.9〔%〕であるのに対して、このアクリル樹脂基板に、図8の試料YA3をコーティングした場合の可視光透過率は、93.2〔%〕となった。また、コーティング前の透明なPC樹脂基板の可視光透過率は、90.2〔%〕であるのに対して、このPC樹脂基板に、図10の試料YC3をコーティングした場合の可視光透過率は、91.0〔%〕となった。図16〜図18に示すように、いずれの試料も可視光透過率は高く、被コーティング基材にコーティングを施した場合であって可視光透過率の低下を招くことはない。なお、図17及び図18の特性線に付した記号は、図16の試料番号に一致する。
以上、好適実施例(第一実施例〜第四実施例)について詳細に説明したが、本発明は、このような実施例に限定されるものではなく、細部の材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、第一シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比,第二シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比,第三シリコンアルコキシド中のケイ素とヒドロキシケトン誘導体と水の調合比は、例示したモル比に限定されるものではなく、第一〜第三シリコンアルコキシド中のケイ素をモル比で1とした場合、ヒドロキシケトン誘導体をモル比で0.02〜0.8の範囲に、水を1〜3の範囲に選定可能である。