JP5463795B2 - アルミニウム合金と耐熱アルミニウム合金材およびその製造方法 - Google Patents
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《アルミニウム合金》
(1)本発明のアルミニウム合金は、全体を100質量%(以下単に「%」という)としたときに、基本元素である鉄(Fe)を5〜11%と、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種からなる第1群元素を1元素あたり0.03〜5%と、残部が主元素であるアルミニウム(Al)とからなり、母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とする。
また、この本発明に係るアルミニウム合金材は、そのような高温雰囲気に長時間曝された後でも、それ以前とほぼ同等か、さらにはそれ以上の高い室温強度や硬さを発現し得る。つまり、本発明のアルミニウム合金は、高温の熱履歴を受けた場合であっても、その強度や硬さの劣化が非常に少ない。むしろ、本発明のアルミニウム合金は、高温環境下に曝すことによって、より一層強度を高め得ることさえある。従って、本発明のアルミニウム合金は、熱履歴を受けても軟化しにくい、つまり耐軟化性に著しく優れるものである。
さらに本発明のアルミニウム合金は、高い熱的安定性を発現し得るので、熱処理後や高温雰囲気に長時間曝した後であっても、形状変化や寸法変化がほとんどない。このため、熱処理後の修正加工等の省略も可能となり、アルミニウム合金材の製造コストの削減を図れる。また寸法安定性も高いので、高い精度が要求される耐熱部材にも本発明のアルミニウム合金を用いることが可能となる。
先ず、アルミニウム合金中のFe量が比較的多いと、母相であるα相の周囲に形成される、AlとFeの金属間化合物(Al−Fe系金属間化合物:第1化合物相)と母相からなる層状の共晶組織が多く形成される。この組織がアルミニウム合金の強度や硬さを高める。もっとも、このような第1化合物相を含む金属組織は、必ずしも熱的に安定ではない。すなわち、熱処理や高温域での使用等によって、高温雰囲気に曝された第1化合物相は、相変態や形状変化(粗大化)などを生じ得る。このため、単にFeを多く含有するだけのアルミニウム合金では、高い耐熱強度や耐軟化性は得られない。
このように本発明のアルミニウム合金の場合、アルミニウム合金の強度や硬さを担うAl−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)の界面周囲に、熱的に安定な整合相が母相と整合しつつ存在することによって、その第1化合物相の相変態や形状変化が抑制されると考えられる。つまり、高温環境下で、整合相が第1化合物相の相変態や形状変化をピン留めする作用を果たしていると考えられる。
上述したことからも明らかなように、本発明はアルミニウム合金としてのみならず、例えば、原材(鋳造材)であるアルミニウム合金に熱履歴等を与えることにより、前記の整合相を晶出または析出させたアルミニウム合金材としても把握される。すなわち、本発明は、上記したアルミニウム合金からなり、該アルミニウム合金の母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とする少なくとも耐熱性に優れた耐熱アルミニウム合金材としても把握される。
さらに本発明は、その耐熱アルミニウム合金材の製造方法としても把握される。すなわち本発明は、上述したアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る凝固工程と、該合金原材に少なくとも熱処理を施すことにより前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなり該アルミニウム合金の母相に整合する整合相を析出させる析出工程とを備え、前述の耐熱アルミニウム合金材が得られることを特徴とする耐熱アルミニウム合金材の製造方法としても把握される。
(1)本明細書でいう「アルミニウム合金」は、組成範囲が本発明の範囲内であれば足り、その形態や金属組織などは問わない。例えば、本発明のアルミニウム合金は、合金溶湯でも良いし、それを鋳造したインゴット状、棒状、管状、板状等の素材等であっても良い。形状も、最終的な形状またはそれに近い形状に鋳造または成形されたものであっても良い。
本発明のアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金材を含めて、単に「アルミニウム合金」という。)は、少なくとも基本元素であるFeと、整合相を形成し得る第1群元素とからなり、適宜、第2群元素や第3群元素を含み得る。
(1)基本元素(Fe)
Feは、アルミニウム合金材の強度や硬さなどを高める元素である。アルミニウム合金全体を100質量%としたときに(以下ではこの記載を省略する。)、Feは5〜11%であると好ましい。Feが過少では十分な強度などが得られず、Feが過多では鋳造性、成形性または加工性などが低下し得る。Feの下限値は5.5%、6%さらには6.5%でもよい。その上限値は10.5%、10%さらには9.5%でもよい。
第1群元素は、Zr、Ti、V、HfまたはNbのいずれか一種でも二種以上でもよい。この第1群元素は、本発明のアルミニウム合金材の耐熱性を高める整合相を形成する重要な元素であり、第1群元素に属する一元素あたり0.03〜5%であると好ましい。
第1群元素が過少では整合相の形成(晶出または析出)が不十分であり、アルミニウム合金材の耐熱性が十分には高められない。第1化合物相が過多では、鋳造時にAlと第1群元素との間で粗大な晶出物が形成されたり、アルミニウム合金材の加工性や成形性が低下し得る。第1群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は4%、3%さらには2%でもよい。
第2群元素は、MgまたはCuのいずれか一種または二種である。この第2群元素は、本発明のアルミニウム合金材の強度向上に有効な元素であり、一元素あたり0.03〜3%であると好ましい。第1群元素が過少ではその効果が乏しく、過多ではアルミニウム合金材の加工性や成形性の低下を招く。第2群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は2.5%さらには2%でもよい。
第3群元素は、Cr、Mn、CoまたはNiのいずれか一種または二種以上である。
このうち、CrまたはCoは、Feと共に、Alとの間で金属間化合物を形成する。例えば、Al−(Fe、Cr、Co)、Al−(Fe、Cr)、Al−(Fe、Co)等の金属間化合物を形成する。またNiは、Alとの間でAl−Ni系金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物からなる相(第2化合物相または第3化合物相)が形成されることにより、Al母相中にAl−Fe化合物からなる相(第1化合物相)が単体で存在する場合よりも、アルミニウム合金材の加工性、成形性さらには伸びなどが向上し得る。
このような第3群元素は、一元素あたり0.03〜3%であると好ましい。第3群元素が過少ではその効果が乏しく、過多では逆にアルミニウム合金材の加工性や成形性が低下し得る。第3群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は2.5%さらには2%でもよい。
(1)本発明のアルミニウム合金材は、Alの母相(α相)と、主元素であるAlと第1群元素との金属間化合物からなる整合相を少なくとも有する。第1群元素が、例えばZrやTiである場合、この整合相はAl3(Zr、Ti)などである。この整合相は、少なくとも、その接する界面にある母相と整合的であれば足る。従って、整合相が全体として均質的である必要はなく、例えば、粒子内で組成が傾斜していてもよい。勿論、整合相は母相のみならず、後述する種々の化合物相などとも整合的であると、より好ましい。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法は、主に、凝固工程と、析出工程とからなる。
(1)凝固工程は、本発明の組成範囲にあるアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る工程である。
合金溶湯を冷却凝固させる方法は特に問わないが、重力鋳造法、ダイキャスト鋳造法、連続鋳造法、またはアトマイズ法などがある。本発明に係るアルミニウム合金材が高い耐熱性を安定して発現するために、凝固工程は、例えば、冷却速度が80〜20000℃/秒さらには200〜20000℃/秒程度の急冷凝固工程であると好ましい。冷却速度が過小では、整合相を構成するZr、Ti、V、HfまたはNbが母相中に十分に固溶しないため、後の析出工程で所望の整合相が析出せず、十分な強度の向上が図られない。また過大な冷却速度を実現するのはコスト高となって好ましくない。
例えば、200〜500℃の加熱工程だけなら20分間以上の加熱時間を要するところ、加工率5%以上の加工工程を加えることで、その加熱時間を10分間以上にまで短縮できる。また、加工工程と加熱工程の順序は問わないので、加熱工程の直後に温間加工や熱間加工を行えば、余熱を利用できて効率的である。
本発明のアルミニウム合金は、その用途や使用環境を問わないが、優れた耐熱性を有するので、内燃機関の吸気バルブ、コンロッド、過給機ロータ、圧縮機の羽根車、飛翔体(航空機等)の外板など、高温環境下で使用され強度の要求される構造部材材などに好適である。なお、アルミニウム合金に加えられる熱処理や加工などの条件は、製品の要求仕様に応じて適宜調整されればよい。
《試料の製造》
表1〜表7に示す各種組成からなるアルミニウム合金の溶湯を調製した(溶湯調製工程)。この合金溶湯を、楔形状先端に平滑部を設けた銅製鋳型を用いて、冷却速度200〜500℃/秒で急冷凝固させた(凝固工程)。なお、この冷却速度は、各合金溶湯の固相線温度±40℃の範囲を通過するときの合金溶湯の温度変化速度である。
(1)強度測定
上記のアルミニウム合金材から引張試料を切り出し、JIS Z2241に沿った引張試験を行い、各試料の室温における引張強度を求めた。
上記のアルミニウム合金材から切り出し試料を用いて、ビッカース試験機により、荷重0.49N、保持時間15sの条件で、室温におえるビッカース硬さを測定した。
以上の測定結果を表1〜表7に併せて示した。
各試料について、上述した初期のビッカース硬さのみならず、それら各試料を400℃の大気雰囲気中で10時間保持した後のビッカース硬さもそれぞれ測定した。測定した条件は上述の通りである。
(1)強度および硬さ
表1〜表6に示した結果から、本発明の組成範囲内にある試料はいずれも、十分な強度および硬さを有することがわかる。ここで、基本元素であるFe量に着目すると、Fe量が増加する程、アルミニウム合金材の強度や硬さが増加する傾向にある。特にこの傾向は、Fe量が4%を超えて5%以上となる範囲で顕著である。
もっとも表7に示した結果からもわかるように、Fe量が本発明の組成範囲を超えて多量(12%程度)になると、逆にアルミニウム合金材の強度や硬さなどが低下することがわかる。これは過剰量のFeが凝固時に粗大に晶出するため、所望の金属組織が得られず、強度や硬さが低下したと考えられる。
各試料に加えた熱履歴とそのビッカース硬さの変化から、各試料の耐軟化性を評価した。つまり、400℃の高温環境下に曝す前の各試料の硬さをHVR0、その高温環境下に10時間曝した後の各試料の硬さをHVR1とすると、HVR0≦HVR1のとき、耐軟化性の評価を「○」とした。
また図2から、本発明の組成範囲内にある試料はいずれも、従来材とは異なって、高温環境下である程度長く曝されると、硬さがむしろ増加する傾向を示し、高温環境下で耐熱性がより向上することがわかる。
このような優れた耐熱性の発現は、図3の電子顕微鏡写真が示すように、整合相がアルミニウム合金材の母相中に整合的に析出し、さらに、図4の電子顕微鏡写真が示すように、その整合相がその母相とAl−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)との間に介在するためと考えられる。
Claims (11)
- 全体を100質量%(以下単に「%」という)としたときに、
基本元素である鉄(Fe)を5〜11%と、
ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種からなる第1群元素を1元素あたり0.03〜5%と、
残部が主元素であるアルミニウム(Al)とからなり、
母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とするアルミニウム合金。 - さらに、マグネシウム(Mg)または銅(Cu)の少なくとも1種からなる第2群元素を1元素あたり0.05〜3%含む請求項1に記載のアルミニウム合金。
- さらに、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)の少なくとも1種からなる第3群元素を1元素あたり0.05〜3%含む請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
- 全体を100%としたときに、
基本元素であるFeを5〜10%と、
第1群元素であるZrおよびTiをそれぞれ0.05〜3%と、
第2群元素であるMgを0.1〜2%と、
残部が主元素であるAlとからなり、
母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とするアルミニウム合金。 - 請求項1〜4のいずれかに記載したアルミニウム合金からなり、
前記金属組織は、さらに、AlとFeとの金属間化合物からなる第1化合物相を有し、
前記整合相は、該第1化合物相と前記母相との界面に介在していることを特徴とする少なくとも耐熱性に優れた耐熱アルミニウム合金材。 - 前記アルミニウム合金は、第3群元素であるCrおよびCoをそれぞれ0.05〜3%含み、
前記金属組織は、さらに、AlとFe、CrおよびCoとの金属間化合物からなる第2化合物相を有し、
前記整合相は、該第2化合物相と前記母相との界面に介在している請求項5に記載の耐熱アルミニウム合金材。 - 前記アルミニウム合金は、第3群元素であるNiを0.05〜3%含み、
前記金属組織は、さらに、AlとNiとの金属間化合物からなる第3化合物相を有し、
前記整合相は、該第3化合物相と前記母相との界面に介在している請求項5または6に記載の耐熱アルミニウム合金材。 - 前記整合相は、平均サイズが2〜20nmである請求項5〜7のいずれかに記載の耐熱アルミニウム合金材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載したアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る凝固工程と、
該合金原材に少なくとも熱処理を施すことにより前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなり該アルミニウム合金の母相に整合する整合相を析出させる析出工程とを備え、
請求項5〜8のいずれかに記載の耐熱アルミニウム合金材が得られることを特徴とする耐熱アルミニウム合金材の製造方法。 - 前記凝固工程は、前記合金溶湯を80〜20000℃/秒の冷却速度で急冷凝固させる工程である請求項9に記載の耐熱アルミニウム合金材の製造方法。
- 前記析出工程は、前記合金原材を200〜500℃で加熱する加熱工程である請求項9または10に記載の耐熱アルミニウム合金材の製造方法。
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