JP5463795B2 - アルミニウム合金と耐熱アルミニウム合金材およびその製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金と耐熱アルミニウム合金材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高温環境下に曝される部材などに適した耐熱アルミニウム合金材とその製造方法およびそのアルミニウム合金材が得られるアルミニウム合金に関する。
最近の環境意識の高揚に伴い、自動車、二輪車、航空機などの輸送機器分野では、燃費またはCO2排出量等に影響を及ぼす環境性能を向上させることが強く要求されている。その一つの効果的な対策として各種部材の軽量化がある。このため、高温雰囲気等の過酷な環境で使用される部材の材質まで、従来の鉄鋼材や鋳鉄材から、軽量で実用強度に優れるアルミニウム合金材へ変更することが積極的に検討されている。
もっとも、一般的にアルミニウム合金は融点が低く耐熱性が必ずしも十分ではない。このためアルミニウム合金材の用途拡大を図る上で、その耐熱性の向上が非常に重要となる。このような観点から、耐熱性を高めたアルミニウム合金に関する提案が種々なされており、例えば、下記のような特許文献に関連する記載がある。
特開平1−319643号公報 特開平9−249930号公報 特開2008−200752号公報
特許文献1には、Ceを必須元素としたガスアトマイズ粉末からなる耐熱性アルミニウム合金材に関する記載がある。また特許文献2には、Moをほぼ必須の元素としつつ、Moを含有しない場合には必須元素であるMnを4%以上とした耐熱性に優れるアルミニウム合金に関する記載がある。さらに特許文献3には、Feを0.8〜5質量%とした耐軟化性に優れるアルミニウム合金に関する記載がある。
特許文献1または2に記載のアルミニウム合金材などは、例えば400℃x100時間の高温環境下に長時間曝された後に、強度が大きく低下(軟化)して耐軟化性に劣る傾向がある。また特許文献3のアルミニウム合金材は、耐軟化性には優れるとしても、熱履歴に伴う金属組織や形状の安定性に関する詳細は明かではなく、さらなる耐熱性の向上が求められている。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、従来のアルミニウム合金とは異なる成分組成からなり、従来になく優れた耐熱性が得られるアルミニウム合金材およびその製造方法と、そのような耐熱アルミニウム合金材となり得るアルミニウム合金を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Feの含有量を従来とは異なる範囲としつつ、TiやZrなどの元素を適量含有させることによって、熱的安定性に優れ、熱履歴にかかわらず安定した強度や硬さを発揮する耐熱アルミニウム合金材を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《アルミニウム合金》
(1)本発明のアルミニウム合金は、全体を100質量%(以下単に「%」という)としたときに、基本元素である鉄(Fe)を5〜11%と、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種からなる第1群元素を1元素あたり0.03〜5%と、残部が主元素であるアルミニウム(Al)からなり、母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とする。
(2)本発明のアルミニウム合金を用いれば、例えば300℃以上さらには400℃といった高温雰囲気で使用される場合でも、高強度を安定して発現するアルミニウム合金材が得られる。つまり、十分に高い耐熱強度を備えたアルミニウム合金材が得られる。
また、この本発明に係るアルミニウム合金材は、そのような高温雰囲気に長時間曝された後でも、それ以前とほぼ同等か、さらにはそれ以上の高い室温強度や硬さを発現し得る。つまり、本発明のアルミニウム合金は、高温の熱履歴を受けた場合であっても、その強度や硬さの劣化が非常に少ない。むしろ、本発明のアルミニウム合金は、高温環境下に曝すことによって、より一層強度を高め得ることさえある。従って、本発明のアルミニウム合金は、熱履歴を受けても軟化しにくい、つまり耐軟化性に著しく優れるものである。
さらに本発明のアルミニウム合金は、高い熱的安定性を発現し得るので、熱処理後や高温雰囲気に長時間曝した後であっても、形状変化や寸法変化がほとんどない。このため、熱処理後の修正加工等の省略も可能となり、アルミニウム合金材の製造コストの削減を図れる。また寸法安定性も高いので、高い精度が要求される耐熱部材にも本発明のアルミニウム合金を用いることが可能となる。
このように本発明のアルミニウム合金によれば、従来よりも遙かに高い耐熱性(耐熱強度、耐軟化性または熱的安定性など)が発揮されるので、高温環境下で使用等される部材を従来の鉄鋼材から本発明のアルミニウム合金に置換することが可能となり、それにより比較的低コストで、各種機器の軽量化を図れ得る。
(3)ところで本発明のアルミニウム合金が、このように優れた耐熱性を発現するメカニズムは、現状必ずしも定かではない。もっとも本発明者の鋭意研究した結果から次のように考えられる。
先ず、アルミニウム合金中のFe量が比較的多いと、母相であるα相の周囲に形成される、AlとFeの金属間化合物(Al−Fe系金属間化合物:第1化合物相)と母相からなる層状の共晶組織が多く形成される。この組織がアルミニウム合金の強度や硬さを高める。もっとも、このような第1化合物相を含む金属組織は、必ずしも熱的に安定ではない。すなわち、熱処理や高温域での使用等によって、高温雰囲気に曝された第1化合物相は、相変態や形状変化(粗大化)などを生じ得る。このため、単にFeを多く含有するだけのアルミニウム合金では、高い耐熱強度や耐軟化性は得られない。
本発明のアルミニウム合金の場合、基本元素であるFe量が単に多いのみならず、ZrやTiなどの第1群元素を適量含有している。本発明者の研究によると、この第1群元素は、主元素であるAlとの間で、超微細な金属間化合物を形成し、母相に整合的な新たな相(整合相)を形成する。しかも、その整合相は、母相とAl−Fe系金属間化合物との界面に析出等することもわかっている。そしてこの整合相は、高温域でも非常に安定している。
このように本発明のアルミニウム合金の場合、アルミニウム合金の強度や硬さを担うAl−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)の界面周囲に、熱的に安定な整合相が母相と整合しつつ存在することによって、その第1化合物相の相変態や形状変化が抑制されると考えられる。つまり、高温環境下で、整合相が第1化合物相の相変態や形状変化をピン留めする作用を果たしていると考えられる。
さらに本発明のアルミニウム合金は、高温域で熱処理(例えば時効処理)されたり高温雰囲気に曝されたりすることによって、上記の整合相の析出量を増加させると考えられる。この結果、例えば熱間圧延や焼鈍等を行ったり、高温雰囲気に長時間さらしても強度や硬さなどが低下せず、むしろ向上する傾向を示すようになったと考えられる。
《耐熱アルミニウム合金材》
上述したことからも明らかなように、本発明はアルミニウム合金としてのみならず、例えば、原材(鋳造材)であるアルミニウム合金に熱履歴等を与えることにより、前記の整合相を晶出または析出させたアルミニウム合金材としても把握される。すなわち、本発明は、上記したアルミニウム合金からなり、該アルミニウム合金の母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とする少なくとも耐熱性に優れた耐熱アルミニウム合金材としても把握される。
《耐熱アルミニウム合金材の製造方法》
さらに本発明は、その耐熱アルミニウム合金材の製造方法としても把握される。すなわち本発明は、上述したアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る凝固工程と、該合金原材に少なくとも熱処理を施すことにより前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなり該アルミニウム合金の母相に整合する整合相を析出させる析出工程とを備え、前述の耐熱アルミニウム合金材が得られることを特徴とする耐熱アルミニウム合金材の製造方法としても把握される。
《その他》
(1)本明細書でいう「アルミニウム合金」は、組成範囲が本発明の範囲内であれば足り、その形態や金属組織などは問わない。例えば、本発明のアルミニウム合金は、合金溶湯でも良いし、それを鋳造したインゴット状、棒状、管状、板状等の素材等であっても良い。形状も、最終的な形状またはそれに近い形状に鋳造または成形されたものであっても良い。
本明細書でいう「耐熱アルミニウム合金材」(以下、適宜「アルミニウム合金材」という。)は、成分組成が本発明の範囲内であると共に、上述した本発明に係る金属組織を備えるものである。もっとも、このアルミニウム合金材も、形態(形状や大きさなど)を問わず、部材への加工前のものでも加工後のものでもよい。勿論、最終製品自体もアルミニウム合金材に含まれる。
(2)本明細書でいう「耐熱性に優れる」とは、高温域における強度または硬さ、耐クリープ性、熱履歴を受けた後の硬さまたは強度の変化である耐軟化性などの少なくとも一つに優れていれば足る。なお、「耐熱性に優れる」ものは、必然的に室温域での強度特性にも優れることとなる。
(3)本明細書でいう「整合」とは、隣接する母相の結晶基本構造が同一で、母相と整合相との界面において原子面あるいは原子列が過不足なく連なっている場合をいう。但し、加工等による変形が加わった場合に、導入された転位によって原子列の乱れや点欠陥などが生じ得るが、このようなものは除いて考える。つまり、そのような原子列の乱れや点欠陥などが存在する場合も、本明細書でいう「整合」に含まれる。
(4)本明細書中でいう「改質元素」は、基本元素および第1群元素、さらには後述する第2群元素や第3群元素以外の元素であって、アルミニウム合金材の特性改善に有効な元素である。改善される特性は、その種類は問わないが、高温域または室温域における強度、硬さ、靱性、延性、寸法安定性などがある。このような改質元素の具体例として、銀(Ag)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、タンタル(Ta)などがある。各元素の配合などは任意であるが、通常、その含有量は微量である。
「不可避不純物」は、溶解原料中に含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。本発明に係るアルミニウム合金の場合であれば、例えば、シリコン(Si)等がある。なお当然ながら、改質元素や不可避不純物の組成は特に限定されない。
(5)特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。また、本明細書に記載した種々の下限値または上限値は、任意に組合わされて「a〜b」のような範囲を構成し得る。さらに、本明細書に記載した範囲内に含まれる任意の数値を、特定の数値範囲を設定するための上限値または下限値とすることができる。
アルミニウム合金材中のFe量が異なる金属組織の顕微鏡写真であり、同図(a)はFe量が4%のアルミニウム合金材(Al−4%Fe−1%Zr−0.85%Ti:単位は質量%)の金属組織であり、同図(b)はFe量が7%のアルミニウム合金材(Al−4%Fe−1%Zr−0.85%Ti:単位は質量%)の金属組織である。 種々の試料について、高温(400℃)での保持時間とビッカース硬さとの関係を示す相関図である。 本発明に係る整合相が、アルミニウム合金材の母相中に整合的に存在する様子を示す電子顕微鏡写真である。 その整合相が、アルミニウム合金材の母相とAl−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)との間に介在している様子を示す電子顕微鏡写真である。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係るアルミニウム合金のみならず、そのアルミニウム合金材およびその製造方法にも適宜適用される。なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容中から任意に抽出した一つまたは二つ以上の構成を、カテゴリーを越えて上述した本発明の構成に付加し得る。例えば、成分組成に関する構成であれば、物のみならず製造方法にも関連し、製造方法に関する構成でも、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《組成》
本発明のアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金材を含めて、単に「アルミニウム合金」という。)は、少なくとも基本元素であるFeと、整合相を形成し得る第1群元素とからなり、適宜、第2群元素や第3群元素を含み得る。
(1)基本元素(Fe)
Feは、アルミニウム合金材の強度や硬さなどを高める元素である。アルミニウム合金全体を100質量%としたときに(以下ではこの記載を省略する。)、Feは5〜11%であると好ましい。Feが過少では十分な強度などが得られず、Feが過多では鋳造性、成形性または加工性などが低下し得る。Feの下限値は5.5%、6%さらには6.5%でもよい。その上限値は10.5%、10%さらには9.5%でもよい。
(2)第1群元素
第1群元素は、Zr、Ti、V、HfまたはNbのいずれか一種でも二種以上でもよい。この第1群元素は、本発明のアルミニウム合金材の耐熱性を高める整合相を形成する重要な元素であり、第1群元素に属する一元素あたり0.03〜5%であると好ましい。
第1群元素が過少では整合相の形成(晶出または析出)が不十分であり、アルミニウム合金材の耐熱性が十分には高められない。第1化合物相が過多では、鋳造時にAlと第1群元素との間で粗大な晶出物が形成されたり、アルミニウム合金材の加工性や成形性が低下し得る。第1群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は4%、3%さらには2%でもよい。
(3)第2群元素
第2群元素は、MgまたはCuのいずれか一種または二種である。この第2群元素は、本発明のアルミニウム合金材の強度向上に有効な元素であり、一元素あたり0.03〜3%であると好ましい。第1群元素が過少ではその効果が乏しく、過多ではアルミニウム合金材の加工性や成形性の低下を招く。第2群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は2.5%さらには2%でもよい。
(4)第3群元素
第3群元素は、Cr、Mn、CoまたはNiのいずれか一種または二種以上である。
このうち、CrまたはCoは、Feと共に、Alとの間で金属間化合物を形成する。例えば、Al−(Fe、Cr、Co)、Al−(Fe、Cr)、Al−(Fe、Co)等の金属間化合物を形成する。またNiは、Alとの間でAl−Ni系金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物からなる相(第2化合物相または第3化合物相)が形成されることにより、Al母相中にAl−Fe化合物からなる相(第1化合物相)が単体で存在する場合よりも、アルミニウム合金材の加工性、成形性さらには伸びなどが向上し得る。
さらにMnは、母相中に固溶して母相を安定化させ、アルミニウム合金材の耐熱性を高める元素である。
このような第3群元素は、一元素あたり0.03〜3%であると好ましい。第3群元素が過少ではその効果が乏しく、過多では逆にアルミニウム合金材の加工性や成形性が低下し得る。第3群元素の一元素あたりの組成範囲は、下限値が0.05%、0.1%さらには1%でもよい。その上限値は2.5%さらには2%でもよい。
(5)本発明のアルミニウム合金は、上述した範囲内で任意の組成をとり得る。その一例として、例えば、全体を100%としたときに、基本元素であるFeを5〜10%と、第1群元素であるZrおよびTiをそれぞれ0.05〜3%と、第2群元素であるMgを0.1〜2%と、残部が主元素であるAlと不可避不純物および/または改質元素とからなるアルミニウム合金は、室温環境下または高温環境下での強度や硬さなどは勿論、耐軟化性にも優れる。しかも、このような組成のアルミニウム合金は、原料コストを低く抑えることができるので、アルミニウム合金材の低コスト化を図れる。
《金属組織》
(1)本発明のアルミニウム合金材は、Alの母相(α相)と、主元素であるAlと第1群元素との金属間化合物からなる整合相を少なくとも有する。第1群元素が、例えばZrやTiである場合、この整合相はAl(Zr、Ti)などである。この整合相は、少なくとも、その接する界面にある母相と整合的であれば足る。従って、整合相が全体として均質的である必要はなく、例えば、粒子内で組成が傾斜していてもよい。勿論、整合相は母相のみならず、後述する種々の化合物相などとも整合的であると、より好ましい。
(2)本発明のアルミニウム合金材が優れた耐熱性を発現するのは、前述したように、その金属組織がAlとFeとの金属間化合物からなる第1化合物相を有し、この第1化合物相と母相との界面に、熱的に安定な整合相が介在しているためである。この第1化合物相は、アルミニウム合金材の強度や硬さなどを高める上で重要であるが、同様な作用は第1化合物相以外の化合物相も発揮し得る。
例えば、本発明のアルミニウム合金が第3群元素であるCrおよびCoを含む場合はAlとFe、CrおよびCoとの金属間化合物からなる第2化合物相が、また、第3群元素であるNiを含む場合はAlとNiとの金属間化合物からなる第3化合物相が、第1化合物相と同様にアルミニウム合金材の特性を高める。もっとも、これらの化合物相も第1化合物相と同様に、熱的に必ずしも安定ではない。そこで、それらの化合物相と母相との界面に熱的に安定な整合相が介在することにより、アルミニウム合金材は、単なる室温特性のみならず、優れた高温特性(耐熱強度や耐軟化性など)を発揮するようになる。
(3)ちなみに、本発明に係る整合相は、平均サイズが2〜20nmさらには5〜15nmであると好ましい。整合相が過小でも過大でも、アルミニウム合金材の耐熱性の向上効果が低下し得る。なお平均サイズとは、アルミニウム合金材中より無作為に抽出したサンプルを透過電子顕微鏡観察し、30個以上の分散する整合相の平均直径を画像処理法により解析して求めた値である。
《製造方法》
本発明のアルミニウム合金材の製造方法は、主に、凝固工程と、析出工程とからなる。
(1)凝固工程は、本発明の組成範囲にあるアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る工程である。
合金溶湯を冷却凝固させる方法は特に問わないが、重力鋳造法、ダイキャスト鋳造法、連続鋳造法、またはアトマイズ法などがある。本発明に係るアルミニウム合金材が高い耐熱性を安定して発現するために、凝固工程は、例えば、冷却速度が80〜20000℃/秒さらには200〜20000℃/秒程度の急冷凝固工程であると好ましい。冷却速度が過小では、整合相を構成するZr、Ti、V、HfまたはNbが母相中に十分に固溶しないため、後の析出工程で所望の整合相が析出せず、十分な強度の向上が図られない。また過大な冷却速度を実現するのはコスト高となって好ましくない。
この急冷凝固を重力鋳造法を行う場合であれば、例えば、熱伝導性に優れた銅製鋳型を用いればよい。また、連続鋳造を行う場合であれば、単ロール式、双ロール式、ブロック式、ベルト式またはホイール式などを用いるとよい。またアトマイズ法を行う場合であれば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などにより、急冷凝固粉末(合金原材)を得ることができる。
(2)析出工程は、凝固工程で得られた合金原材に少なくとも熱処理を施すことにより、前述した整合相を析出させる工程である。この析出工程は、例えば、アルミニウム合金材を200〜500℃で加熱する加熱工程(時効処理工程など)により行える。この加熱により、本発明に係る整合相がアルミニウム合金材中に微細に析出し始める。本発明のアルミニウム合金の場合、従来材とは異なり、高温加熱後または高温環境下に曝した後でも、急激な強度の低下を伴わず、むしろ、強度が増加する傾向を示す。このため、250〜500℃さらには300〜450℃という、比較的高温の加熱温度を選択できる。もっとも、その範囲を超えて加熱温度が過大になると、金属組織(具体的には金属間化合物、さらには整合相)が粗大化してアルミニウム合金材の耐熱性が低下し得る。また、加熱温度が過小では、整合相の成長が不十分であったり、整合相の析出に長時間を要して好ましくない。
整合相の析出は、加熱によるアルミニウム合金材への熱エネルギーの導入の他、加工等によるアルミニウム合金材への歪みエネルギーの導入によっても促される。そこで、上記の加熱工程と共に、冷間加工、温間加工または熱間加工などの加工工程を組み合わせて行ってもよい。これにより、加熱工程の加熱時間を短縮しつつ、所望形状のアルミニウム合金材を効率的に得ることが可能となる。
例えば、200〜500℃の加熱工程だけなら20分間以上の加熱時間を要するところ、加工率5%以上の加工工程を加えることで、その加熱時間を10分間以上にまで短縮できる。また、加工工程と加熱工程の順序は問わないので、加熱工程の直後に温間加工や熱間加工を行えば、余熱を利用できて効率的である。
《用途》
本発明のアルミニウム合金は、その用途や使用環境を問わないが、優れた耐熱性を有するので、内燃機関の吸気バルブ、コンロッド、過給機ロータ、圧縮機の羽根車、飛翔体(航空機等)の外板など、高温環境下で使用され強度の要求される構造部材材などに好適である。なお、アルミニウム合金に加えられる熱処理や加工などの条件は、製品の要求仕様に応じて適宜調整されればよい。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
表1〜表7に示す各種組成からなるアルミニウム合金の溶湯を調製した(溶湯調製工程)。この合金溶湯を、楔形状先端に平滑部を設けた銅製鋳型を用いて、冷却速度200〜500℃/秒で急冷凝固させた(凝固工程)。なお、この冷却速度は、各合金溶湯の固相線温度±40℃の範囲を通過するときの合金溶湯の温度変化速度である。
こうして、30x70x0.5〜1.5mmの板状をしたアルミニウム合金の原材を得た。この原材を大気中で400℃x1時間加熱した(析出工程)。こうして得られたアルミニウム合金材からなる試料を以下の測定に供した。
《試料の測定》
(1)強度測定
上記のアルミニウム合金材から引張試料を切り出し、JIS Z2241に沿った引張試験を行い、各試料の室温における引張強度を求めた。
(2)硬さ測定
上記のアルミニウム合金材から切り出し試料を用いて、ビッカース試験機により、荷重0.49N、保持時間15sの条件で、室温におえるビッカース硬さを測定した。
以上の測定結果を表1〜表7に併せて示した。
(3)耐熱性(耐軟化性)の測定
各試料について、上述した初期のビッカース硬さのみならず、それら各試料を400℃の大気雰囲気中で10時間保持した後のビッカース硬さもそれぞれ測定した。測定した条件は上述の通りである。
また、各試料について、上述した初期の強度のみならず、それら各試料を400℃の大気雰囲気中で10時間保持した後の300℃における引張強度もそれぞれ測定した。測定した条件は上述の通りである。
さらに、一例として、試料No.5、試料No.27および試料No.30と、耐熱アルミニウム合金材材として市販されている従来材(JIS A2618)を、400℃の大気雰囲気中に保持し、種々の保持時間後のビッカース硬さをそれぞれ測定した。こうして得られた各試料に関する保持時間とビッカース硬さとの関係を図2に示した。
《試料の評価》
(1)強度および硬さ
表1〜表6に示した結果から、本発明の組成範囲内にある試料はいずれも、十分な強度および硬さを有することがわかる。ここで、基本元素であるFe量に着目すると、Fe量が増加する程、アルミニウム合金材の強度や硬さが増加する傾向にある。特にこの傾向は、Fe量が4%を超えて5%以上となる範囲で顕著である。
このことは、図1に示す試料No.C2(同図(a))と試料No.45(同図(b))とについて観察した顕微鏡写真からもわかるように、Fe量が5%前後で耐熱アルミニウム合金材の金属組織が大きく変化しているためと思われる。ちなみに、Al−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)は白く写っている部分である。Fe量:7%のとき、その第1化合物相は、微細な多数のロッド状(針状)となって晶出または析出していることが分かる。
もっとも表7に示した結果からもわかるように、Fe量が本発明の組成範囲を超えて多量(12%程度)になると、逆にアルミニウム合金材の強度や硬さなどが低下することがわかる。これは過剰量のFeが凝固時に粗大に晶出するため、所望の金属組織が得られず、強度や硬さが低下したと考えられる。
(2)耐熱性
各試料に加えた熱履歴とそのビッカース硬さの変化から、各試料の耐軟化性を評価した。つまり、400℃の高温環境下に曝す前の各試料の硬さをHVR0、その高温環境下に10時間曝した後の各試料の硬さをHVR1とすると、HVR0≦HVR1のとき、耐軟化性の評価を「○」とした。
同様に、各試料の300℃における引張強度から、各試料の耐熱強度を評価した。なお、本発明のアルミニウム合金材の耐熱強度σ1、前述した従来材であるA2618合金のT6処理材の300℃における引張強度をσ0として、σ0≦σ1のとき、耐熱強度の評価を「○」とした。
これらの評価を表1〜表7に併せて示した。これらの結果から、本発明の組成範囲内にある試料はいずれも、十分な耐軟化性や耐熱性等を有し、機械的特性の熱的安定性が高いことが確認された。もっとも、表7に示した結果からもわかるように、本発明の組成範囲外となる試料の場合、少なく耐軟化性または耐熱強度の一方が劣り、熱的安定性が十分ではないことが確認された。
また図2から、本発明の組成範囲内にある試料はいずれも、従来材とは異なって、高温環境下である程度長く曝されると、硬さがむしろ増加する傾向を示し、高温環境下で耐熱性がより向上することがわかる。
このような優れた耐熱性の発現は、図3の電子顕微鏡写真が示すように、整合相がアルミニウム合金材の母相中に整合的に析出し、さらに、図4の電子顕微鏡写真が示すように、その整合相がその母相とAl−Fe系金属間化合物相(第1化合物相)との間に介在するためと考えられる。

Claims (11)

  1. 全体を100質量%(以下単に「%」という)としたときに、
    基本元素である鉄(Fe)を5〜11%と、
    ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ハフニウム(Hf)またはニオブ(Nb)の少なくとも1種からなる第1群元素を1元素あたり0.03〜5%と、
    残部が主元素であるアルミニウム(Al)からなり、
    母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とするアルミニウム合金。
  2. さらに、マグネシウム(Mg)または銅(Cu)の少なくとも1種からなる第2群元素を1元素あたり0.05〜3%含む請求項1に記載のアルミニウム合金。
  3. さらに、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)の少なくとも1種からなる第3群元素を1元素あたり0.05〜3%含む請求項1または2に記載のアルミニウム合金。
  4. 全体を100%としたときに、
    基本元素であるFeを5〜10%と、
    第1群元素であるZrおよびTiをそれぞれ0.05〜3%と、
    第2群元素であるMgを0.1〜2%と、
    残部が主元素であるAlからなり、
    母相(α相)と、該母相に整合して点在し前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなる整合相と、により構成される金属組織を有することを特徴とするアルミニウム合金。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載したアルミニウム合金からなり、
    前記金属組織は、さらに、AlとFeとの金属間化合物からなる第1化合物相を有し、
    前記整合相は、該第1化合物相と前記母相との界面に介在していることを特徴とする少なくとも耐熱性に優れた耐熱アルミニウム合金材。
  6. 前記アルミニウム合金は、第3群元素であるCrおよびCoをそれぞれ0.05〜3%含み、
    前記金属組織は、さらに、AlとFe、CrおよびCoとの金属間化合物からなる第2化合物相を有し、
    前記整合相は、該第2化合物相と前記母相との界面に介在している請求項に記載の耐熱アルミニウム合金材。
  7. 前記アルミニウム合金は、第3群元素であるNiを0.05〜3%含み、
    前記金属組織は、さらに、AlとNiとの金属間化合物からなる第3化合物相を有し、
    前記整合相は、該第3化合物相と前記母相との界面に介在している請求項5または6に記載の耐熱アルミニウム合金材。
  8. 前記整合相は、平均サイズが2〜20nmである請求項5〜のいずれかに記載の耐熱アルミニウム合金材。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載したアルミニウム合金の溶湯を冷却凝固させて合金原材を得る凝固工程と、
    該合金原材に少なくとも熱処理を施すことにより前記主元素と前記第1群元素との金属間化合物からなり該アルミニウム合金の母相に整合する整合相を析出させる析出工程とを備え、
    請求項5〜のいずれかに記載の耐熱アルミニウム合金材が得られることを特徴とする耐熱アルミニウム合金材の製造方法。
  10. 前記凝固工程は、前記合金溶湯を80〜20000℃/秒の冷却速度で急冷凝固させる工程である請求項に記載の耐熱アルミニウム合金材の製造方法。
  11. 前記析出工程は、前記合金原材を200〜500℃で加熱する加熱工程である請求項または10に記載の耐熱アルミニウム合金材の製造方法。
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