JP5457392B2 - 半導体レーザ - Google Patents

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Description

本発明は、光通信システムにおいて用いられる半導体レーザに関するものである。
近年、インターネットをはじめとするマルチメディア技術の進展に伴い、通信ネットワークのトラヒック量が急速に増大している。このトラヒック量の急増に対応するため、高速での変調が可能な光モジュールの重要性が増している。
通信ネットワークの中でもメトロ・アクセス系ネットワークで用いられる光モジュールは、低価格、かつ、低消費電力であることが求められる。この要求を満たすために、光モジュールの光源となる半導体レーザは、温度調整が不要で、さらに高速で直接変調が可能なことが望まれる。
具体的には、動作温度が上昇しても、発振しきい値電流の増加が少なく光出力の低下が小さい、いわゆる温度特性の良い半導体レーザが望ましく、さらに注入電流の変調のみで10 Gbps以上の速度で直接変調できる半導体レーザであることが望ましい。
このメトロ・アクセス系ネットワークにおいて、現在用いられている、あるいは、将来用いられる可能性がある波長域は、国際電気通信連合 電気通信標準化部門(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector:ITU-T)において光通信用として勧告されている波長帯(O帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯)のうち、光ファイバの監視光用に使用されるU帯を除く波長域であり、具体的には1.260μmから1.625μmまでの波長となる。
半導体レーザにおける温度特性や変調速度を改善するためには、その活性層としてバルク構造より量子井戸構造を用いた方が有効であることが知られている。半導体レーザにおける量子井戸構造を構成する材料として、従来は、In, Ga, As, Pからなる材料(以下、InGaAsP材料系と呼ぶ)が用いられてきた。近年は、InGaAlAsやInAlAsなどAlを含む材料(以下、InGaAlAs材料系と呼ぶ)も用いられている。
半導体レーザで高速変調を可能にするための有効な手段は、量子井戸活性層の微分利得を増加させることである。この微分利得を増加させるには、有効質量が小さく、井戸層から漏れ易い電子を井戸層に効率よく閉じ込める必要がある。電子の井戸層への閉じ込めを良くすることは、動作温度の上昇に伴う電子の井戸層からの漏れ出しも抑制できるため、半導体レーザの温度特性を改善する上でも有効である。
電子の井戸層への閉じ込めを良くするためには、井戸層と障壁層のそれぞれの伝導帯のΓ点における最下点のエネルギー差を大きくする必要がある。このエネルギー差は、一般に伝導帯のバンド不連続と呼ばれており、この伝導帯のバンド不連続を大きくすることにより、半導体レーザの温度特性の改善と高速変調の両立が可能になる。
半導体レーザの温度特性の改善と高速変調を可能にする手段としては、上記の電子の井戸層への閉じ込めの改善のほか、活性層である量子井戸構造の井戸層の数を増やすことが有効である(例えば、非特許文献1を参照)。
具体的には、活性層を1つの井戸層しかない単一量子井戸構造から、2つ以上の井戸層を有する多重量子井戸構造に変えることでレーザ特性の改善が可能になる。この1つの理由は、井戸層の数を増やすことにより、各井戸層においてレーザ発振させるために必要となる電子密度の低減が可能であり、その結果として電子の井戸層から漏れ出しを抑制できるためである。
K. Uomi et al., "Dependence of high-speed properties on the number of quantum wells in 1.55μm InGaAs-InGaAsP MQW λ/4-shifted DFB lasers," IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 29, No. 2, 1993, 355-360. S.R. Forrest et al., "Relationship between the conduction-band discontinuities and band-gap differences of InGaAsP/InP heterojunctions," Applied Physics Letters, Vol. 45, No. 11, 1984, 1199-1201. A. Kasukawa et al., "InAsP/InGaP all-ternary strain-compensated multiple quantum wells and their application to long-wavelength lasers," Japanese Jourrnal of Applied Physics, Vol. 34, Part 2, No. 8A, 1995, L965-L967. A. Hangleiter et al., "Damping of the relaxation resonance in multiple-quantum-well lasers by slow interwell transport," Applied Physics Letters, Vol. 62, No. 19, 1993, 2316-2318. C. E. Zah et al., "High-performance uncooled 1.3-μm AlxGayIn1-x-yAs/InP strained-layer quantum-well lasers for subscriber loop applications," IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 30, No. 2, 1994, 511-523. Y. Matsui et al., "Enhanced modulation bandwidth for strain-compensated InGaAlAs-InGaAsP MQW lasers," IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. 34, No. 10, 1998, 1970-1978. T. Tsuchiya et al., "In-situ etching of InP and InGaAlAs materials by using HCl gas in metalorganic vapor-phase epitaxy," Journal of Crystal Growth, Vol. 272, 2004, 125-130. J. O. McCaldin et al., "Correlation for III-V and II-VI semiconductors of the Au schottky barrier energy with anion electronegativity," Physical Review Letters, Vol. 36, No. 1, 1976, 56-58. SH. Wei et al., "Calculated natural band offsets of all II-VI and III-V semiconductors:chemical trends and the role of cation d orbitals," Applied Physics Letters, Vol. 72, No. 161, 1998, 2011-2013. C. G. Van de Walle , "Band lineups and deformation potentials in the model-solid theory, " Physical Review B, Vol. 39, No. 3, 1989, 1871-1883. C. Silfvenius et al. , "Design, growth and performance of different QW structures for improved 1300 nm InGaAsP lasers, " Journal of Crystal Growth, Vol. 195, 1998, 700-705.
前述のようにInGaAsP材料系とInGaAlAs材料系のいずれの材料を用いる場合でも、温度特性が良く、高速変調が可能な半導体レーザの実現には、伝導帯におけるバンド不連続を大きくし、活性層となる量子井戸構造の井戸層の数を増加させることが有効である。しかしながら、InGaAsP材料系とInGaAlAs材料系のいずれの材料を活性層に用いた場合でも、それぞれ下記のような課題がある。
まず、InGaAsP材料系を用いた場合の課題について述べる。伝導帯におけるバンド不連続を大きくするには、障壁層のバンドギャップを大きくする必要がある。しかしながら、InGaAsP材料系を用いた場合、伝導帯のバンド不連続が増加する以上に価電子帯のバンド不連続が増加する。これは、InGaAsP材料系を用いた量子井戸構造では、価電子帯のバンド不連続と伝導帯のバンド不連続の比が3:2程度と価電子帯のバンド不連続の方が大きく、さらにこの比は井戸層と障壁層のIII族やV族の組成を変えてもほとんど変化しないためである(非特許文献2を参照)。
正孔は電子に比べて有効質量が大きく、井戸層間の移動が困難である。このために、大きな価電子帯のバンド不連続を持つ多重量子井戸構造では、注入される正孔の密度分布がp側の光閉じ込め層に近い井戸層で高く、n側の光閉じ込め層に近い井戸層で低くなる。この状態では、レーザ発振させることができても、正孔の消費は主として誘導放出が起こったp側の光閉じ込め層に近い井戸層で起こり、n側の光閉じ込め層に近い井戸層では誘導放出を起こすまで正孔密度を増加させることが困難である。
一方、電子についても、多重量子井戸構造内で電気的中性条件を満たすように分布するために、その密度も不均一になる。
図6は、この正孔および電子の不均一な分布の様子を模式的に示したものである。
このように正孔と電子が不均一に分布した状況下では、n側の光閉じ込め層に近い活性層領域は発光よりも光吸収の方が顕著になるため、レーザの温度特性は劣化する。このために、InGaAsP材料系を用いた多重量子井戸レーザでは、障壁層のバンドギャップを大きくし過ぎると、価電子帯のバンド不連続が増加するために、逆にレーザの温度特性が劣化するという課題がある(レーザ特性の例としては、例えば、非特許文献3を参照)。
さらに、価電子帯のバンド不連続が大きな多重量子井戸レーザでは、正孔が井戸間を移動するのに長い時間が必要となるため、井戸層の数を増やしても高速変調することが困難であるという課題もある(例えば、前述の非特許文献1や非特許文献4を参照)。
一方、InGaAlAs材料系を用いた多重量子井戸では、障壁層のバンドギャップを大きくしても、InGaAsP材料系の場合と異なり、価電子帯よりも伝導帯のバンド不連続を大きくすることが可能である。これは材料的な特性の違いによるものであり、価電子帯と伝導帯のバンド不連続の比が、InGaAsP材料系を用いた場合が前述のように3:2程度であるのに対し、InGaAlAs材料系を用いた場合は3:7程度であることに起因している(非特許文献5を参照)。
図7は、障壁層のバンドギャップを井戸層に対して大きくしていった場合の伝導帯と価電子帯のバンド不連続の変化を示している。図7で伝導帯のバンド不連続としてΔEcを得ようとした場合、InGaAsP材料系を用いた量子井戸構造では価電子帯のバンド不連続がΔEv,1となるが、InGaAlAs材料系の場合のバンド不連続ΔEv,2はΔEv,1の約2/7の大きさである。このため、InGaAlAs材料系を用いた多重量子井戸構造では、井戸層の数を増加させても各井戸層に均一に正孔と電子を分布させることが比較的容易である。
図8は、多重量子井戸レーザにおいて電子及び正孔が均一に分布した理想的な状況を示したものであり、InGaAlAs材料系を用いた多重量子井戸レーザでは、InGaAsP材料系を用いた場合に比べてこのような状況を実現することが容易である。したがって、InGaAlAs材料系を用いた多重量子井戸レーザでは、InGaAsP系を用いた多重量子井戸レーザよりも温度特性が良く、さらに井戸層の数を増加させることによって微分利得を増加させることも容易である(レーザの例としては、例えば、非特許文献5、非特許文献6を参照)。
このように、InGaAlAs材料系を用いた多重量子井戸レーザでは、InGaAsP材料系に場合に比べて温度特性が良く、高速変調が可能なレーザを実現することが容易である。
しかしながら、Alを含む材料では表面に安定な酸化膜が形成され、この酸化膜に起因した課題がある。具体的には、Alを含む材料の表面に形成される酸化膜は、レーザの端面を劣化させる原因となるため、長期間安定したレーザ特性を得ることが難しい。
さらに、Alを含む材料を用いたレーザでは、この酸化膜のためにレーザ構造の作製も制約される。例えば、InGaAsP材料系を用いたレーザでは、横モードの制御性向上や電極プロセスの容易さなどから、活性層の幅を1〜2μm程度に加工し、その両側にInPを再成長させた埋込型レーザ構造を用いることが一般的である。しかしながら、Alを含む材料では上記の酸化膜の除去が難しく、再成長が困難なために埋込型レーザ構造の作製が難しいといったレーザ構造の作製上の制約がある(例えば、非特許文献7を参照)。
以上のように、温度特性が良く、高速での直接変調が可能な半導体レーザを実現しようとすると、InGaAsP材料系、InGaAlAs材料系のいずれの材料系を用いた多重量子井戸構造をレーザの活性層にした場合でも、それぞれの材料系の特性に起因した課題があった。
本発明は、上記の課題を鑑みなされたものであり、通信ネットワークのトラヒック量が急増するメトロ・アクセス系ネットワークで用いられる光モジュールの光源として、温度特性が良く、高速変調が可能な半導体レーザの提供を主な目的とする。
上記課題を解決する第1の発明に係る半導体レーザは、
InP基板上の半導体量子井戸構造を活性層とする半導体レーザにおいて、前記半導体量子井戸構造は、井戸層としてInGaAsPまたはInAsPまたはInGaAsを含み、障壁層はInGaPSbまたはInGaAsPSbを含むことを特徴とする。
上記課題を解決する第2の発明に係る半導体レーザは、
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、前記活性層に含まれる前記井戸層の数が2以上であることを特徴とする。
上記課題を解決する第3の発明に係る半導体レーザは、
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、発振波長が1.260μmから1.625μmまでの間であることを特徴とする。
上記課題を解決する第4の発明に係る半導体レーザは、
請求項1に記載の半導体レーザにおいて、前記活性層に含まれる前記障壁層は、そのV族元素中に占めるSbの組成が、0より大きく0.5より小さい範囲であることを特徴とする。
本発明によれば、InP基板上の多重量子井戸構造を活性層とするレーザにおいて、井戸層にはSbを含まないInGaAsP、InAsP、InGaAsのいずれかを用い、障壁層にはSbを含むInGaPSb、InGaAsPSbのいずれかを用いることで、伝導帯のバンド不連続を大きくしても、InGaAsP材料系を用いた多重量子井戸構造に比べて、価電子帯のバンド不連続の小さくできる。このために、バンドギャップの大きなInGaAsP材料系を障壁層に用いた多重量子井戸レーザにおいて問題となる井戸層の数を増加させた際の正孔と電子の不均一な分布の発生を避けることができる。その結果として、このSbを含む材料を障壁層とする多重量子井戸構造をレーザ活性層とすることで、InGaAsP材料系を障壁層に用いる場合より温度特性の改善や高速変調を実現することが容易になる。
さらに、活性層にはAlが含まれないため、活性層の表面を大気に晒してもInGaAlAs材料系のような安定な酸化膜は形成されず、その除去も容易である。その結果として、InGaAsP材料系を用いた場合と同様に埋込型レーザ等の作製も容易であり、さらに端面の酸化膜に起因した長期信頼性への影響もInGaAlAs材料系を用いた場合に比べて小さい。
本発明の実施形態に係る多重量子井戸構造を示す構成図である。 本発明の実施形態のInGaPSb障壁層を用いた多重量子井戸構造と、従来のInGaAsP障壁層を用いた多重量子井戸構造のホトルミネセンス発光スペクトルとを比較して示す特性図である。 本発明の実施形態に係る半導体レーザの層構成を示す構成図である。 本発明の実施形態に係る半導体レーザ〔試験体1〕の注入電流と光出力の関係を温度別に示した特性図である。 本発明の実施形態に係る半導体レーザ〔試験体2〕の注入電流と光出力の関係を温度別に示した特性図である。 大きな価電子帯のバンド不連続を持つ多重量子井戸構造を活性層とする半導体レーザにおいて、電子と正孔が不均一に分布した様子を模式的に示した模式図である。 InGaAsP材料を用いた量子井戸とInGaAlAs系材料を用いた量子井戸に関して、伝導帯におけるバンド不連続に対する価電子帯のバンド不連続の変化を示した図である。 理想的な状況として、多重量子井戸レーザにおいて電子及び正孔が均一に分布した様子を示した模式図である。 量子井戸構造におけるバンド不連続を説明するための図である。 非特許文献9の計算結果をもとに、V族元素にP, As, およびSbを含む2元混晶の価電子帯の頂上のエネルギーのInPに対する相対的な位置関係を示した特性図である。 圧縮歪InGaAsPを井戸層、引張歪InGaAsPを障壁層とした歪補償量子井戸構造において、InGaAsP障壁層の歪量一定とし、As組成を変えた際の伝導帯及び価電子帯のバンド不連続の変化を示した特性図である。 圧縮歪InGaAsPを井戸層とした歪補償量子井戸構造において、InGaAsP障壁層のAs組成及びInGaPSb障壁層のSb組成を変化させた際のバンドギャップ波長の変化を示した特性図である。 圧縮歪InGaAsPを井戸層、引張歪InGaPSbを障壁層とした歪補償量子井戸構造において、InGaPSb障壁層の歪量一定とし、Sb組成を変えた際の伝導帯及び価電子帯のバンド不連続の変化を示した特性図である。 圧縮歪InGaAsPを井戸層とした歪補償量子井戸構造において、伝導帯に対する価電子帯のバンド不連続の変化について、障壁層にInGaAsPとInGaPSbを用いた場合を比較した特性図である。 圧縮歪InAsPを井戸層、引張歪InGaPSbを障壁層とした歪補償量子井戸構造において、InGaPSb障壁層の歪量一定とし、Sb組成を変えた場合の伝導帯及び価電子帯のバンド不連続の変化を示した特性図である。 圧縮歪InGaAsPを井戸層、InPに格子整合するInGaPSbを障壁層とした歪量子井戸構造において、InGaPSb障壁層を格子整合させた状態で、Sb組成を変えた際の伝導帯及び価電子帯のバンド不連続の変化を示した特性図である。 InP基板上のGaPSbにおけるSb組成に対するバンドギャップ波長の変化を示した特性図である。
本発明は、従来技術によるInGaAsP材料系やInGaAlAs材料系を用いた半導体多重量子井戸レーザの課題に着目し、温度特性が良く、高速変調が可能で、安定した長期信頼性を得られる半導体多重量子井戸レーザを提供することを目的としている。
上述した課題を解決するために、本発明に係る半導体レーザでは、InPを基板とした多重量子井戸レーザの活性層として、井戸層にはSbを含まないInGaAsP、InAsP、InGaAsのいずれかを用いているが、障壁層にはSbを含むInGaPSb、InGaAsPSbのいずれかを用いている。井戸層はSbを含んでおらず、障壁層のみにSbを含む材料を用いることで、InGaAsP材料系を用いた多重量子井戸レーザの課題である正孔および電子の不均一な分布を避けることができる。
また、井戸層、障壁層ともにAlを含まない材料系のために酸化膜の除去が容易であり、InGaAlAs材料系を用いた場合のような酸化膜に起因した作製上の制約や長期信頼性への影響も回避することができる。
これまでにSbを含む材料系の半導体レーザは、ほとんどは発振波長が2μm以上の中赤外波長域への応用を図ったのもので、本発明の対象である1.260μmから1.625μmまでの光通信波長帯に応用したものは少なかった。Sbを含む材料系を光通信用レーザへ応用した例でも、井戸層にSbを加えることで発振波長を長波長化させる目的がほとんどで、本発明のように井戸層にはSbを加えず、障壁層のみにSbを加えることで、レーザの温度特性や変調特性を改善しようという考え方はなかった。
本発明の障壁層のみにSbを含む材料を用いることで、正孔および電子の不均一分布を回避できる理由は、InGaAsP材料系を用いた場合に比べて価電子帯におけるバンド不連続を小さくできるためである。
以下に、量子井戸構造におけるバンド不連続と、障壁層にのみSbを含むことにより価電子帯のバンド不連続を小さくできる理由について説明する。
図9は、量子井戸構造におけるバンド不連続を示したものであり、図中のΔEvとΔEcがそれぞれ価電子帯と伝導帯のバンド不連続である。ΔEvとΔEcは、障壁層及び井戸層に関する価電子帯の頂上のエネルギーとバンドギャップを用いてそれぞれ下記のように表すことができる。
ΔEv = Ev, well − Ev, barrier (1)
ΔEc = (Ev, barrier+ Eg, barrier) − (Ev, well+ Eg, well) (2)
ここで、Ev, baiierとEv, well はそれぞれ障壁層と井戸層の価電子帯の頂上のエネルギーであり、Eg, barrierとEg, well はそれぞれ障壁層と井戸層のバンドギャップである。ΔEvとΔEcは、厳密には歪応力によるバンド構造の変化や量子準位の影響などを考慮する必要があるが、バンド不連続の概算値は、式(1)と(2)から求めることができる。
式(1)から、価電子帯のバンド不連続を求めることができる。III-V族半導体混晶では、同じV族元素を含む場合、この価電子帯の頂上のエネルギーがほぼ一致することが実験的に分かっている(共通アニオン則[Common Anion Rule]と呼ばれる、非特許文献8を参照)。さらに、この価電子帯の頂上のエネルギーは、計算によっても見積ることができ、実験と同様、含まれるV族元素が同じで有ればほぼ一致することが分かっている(例えば、非特許文献9を参照)。
図10は、〔非特許文献9〕の結果をもとに、V族元素にP, As, およびSbを含む2元混晶について、価電子帯のΓ点における頂上のエネルギーのInPに対する相対的な位置を示した図である。この図より、価電子帯の頂上のエネルギーは、含まれるIII族元素がInかGaであるかによらず、含まれるV族元素が同じであれば、ほぼ等しくなることが分かる。
一方、この頂上のエネルギーは、含まれるV族元素(P, As, Sb)によって大きく変化し、(Sbを含む結晶) > (Asを含む結晶) > (Pを含む結晶)の順で高くなる。このことから、III族元素にInとGaを含むIII-V族半導体混晶の場合、SbをV族元素として加えることで価電子帯の頂上のエネルギーを高くすることができる。従って、障壁層にSbを含む材料を用いることにより、前述したようなInGaAsP材料系における価電子帯のバンド不連続に起因した課題を解決することができる。
なお、図10は、2元混晶の価電子帯の頂上のエネルギーの計算例であるが、Model-solid-theoryと呼ばれる計算方法を適用することで、3元以上の混晶に関しても価電子帯の頂上のエネルギーを求めることができる(非特許文献10を参照)。
次に、このModel-solid-theoryを用いて、伝導帯のバンド不連続が等しい場合、V族元素にSbを含むInGaPSbを障壁層に用いることにより、InGaAsP障壁層を用いる場合よりも価電子帯のバンド不連続を小さくできることを示す。
まず、比較例としてInGaAsP材料系の場合について説明する。図11は、InGaAsP障壁層とInGaAsP井戸層とに反対方向の格子歪を加え、量子井戸構造全体の歪応力を0になるようにした歪補償量子井戸構造において、障壁層のAs組成を変化させた場合の伝導帯(電子)と価電子帯(重い正孔、軽い正孔)のバンド不連続の変化を示している。
InGaAsP井戸層は、InPに対する格子歪が+0.72%(圧縮歪)、膜厚が10 nmであり、組成は一定である。一方、InGaAsP障壁層は、InPに対する格子歪が-0.72%(引っ張り歪)、膜厚が10 nmであり、As組成を変化させてもInPに対する格子歪が一定になるように、III族元素であるInとGaの組成を変えている。
また、図11では、歪応力によるバンド構造の変化と量子準位による効果も入れており、井戸層における電子、重い正孔、軽い正孔の第1準位に関するバンド不連続を示している。井戸層には圧縮歪が加わっているため、価電子帯において重い正孔の方が軽い正孔よりも伝導帯に近くなる。このため、井戸層からの発光は、主として電子が伝導帯の第1準位から価電子帯における重い正孔の第1準位へ遷移するエネルギーに対応した波長(バンドギャップ波長と呼ばれる)になる。
図12は、バンドギャップ波長とInGaAsP障壁層のAs組成の関係を示したものであり、波長はAs組成を変えてもほぼ1.3μmのままである。
図11より、伝導帯(電子)と価電子帯(重い正孔)に関するバンド不連続のAs組成による変化曲線は、互いにほぼ並行であることが分かる。これは、InGaAsP材料系を障壁層に用いた量子井戸構造では、障壁層のAs組成をどのように変化させても伝導帯と価電子帯のバンド不連続の大小差がほとんど変わらないことを意味する。
レーザ特性の改善のためには、伝導帯のバンド不連続は大きく、価電子帯のバンド不連続は小さいことが望まれる。しかしながら、InGaAsP障壁層を用いた場合、伝導帯のバンド不連続を大きくすると価電子帯のバンド不連続が大きくなり、一方でこの価電子帯のバンド不連続を小さくすると伝導帯のバンド不連続が小さくなる。レーザ構造において、前者は正孔・電子の不均一な分布を引き起こす原因となり、後者は電子の井戸層の漏れ出しを引き起こす原因となる。このため、InGaAsP障壁層を用いた場合、障壁層の組成を変えるだけでレーザ特性を改善することは難しい。
次に本発明の例を示す。図13は、本発明によるInGaPSbを障壁層に用いた歪補償量子井戸構造において、障壁層のSb組成を変化させた場合の伝導帯(電子)と価電子帯(重い正孔)のバンド不連続の変化を示している。井戸層は、図11の場合と同じく、InPに対する格子歪が+0.72%、膜厚が10 nmのInGaAsPである。InGaPSb障壁層に関しては、図11のInGaAsP障壁層の場合と同じInPに対する格子歪(-0.72%)、膜厚(10 nm)で、Sb組成を変化させてもInPに対する格子歪が一定になるようにIII族元素であるInとGaの組成を変えている。図12に示すようにこのInGaPSb障壁層を用いた場合も、井戸層からの発光波長はほぼ1.3μmである。
図13より、InGaPSb障壁層のSb組成を増加させた場合、価電子帯(重い正孔)のバンド不連続は単調に減少していることが分かる。これに対して、伝導帯のバンド不連続は、InGaAsP障壁層の場合と異なり、Sb組成を増加させていくとSb組成に対する減少率が小さくなり、その後、増加に転じることが分かる。この図13の結果と、前述のInGaAsP障壁層を用いた図11の結果をもとに、InGaPSb障壁層を用いると、InGaAsP障壁層を用いた場合に比べて価電子帯のバンド不連続を小さくできることを示す。
図14は、図11と図13の結果をもとに、伝導帯のバンド不連続に対する価電子帯のバンド不連続の変化を示したものである。この図から伝導帯のバンド不連続が等しい場合、価電子帯のバンド不連続は、InGaPSb障壁層を用いた場合の方がInGaAsP障壁層を用いた場合より小さいことが分かる。
例えば、図14で伝導帯のバンド不連続が80 meVの場合、価電子帯のバンド不連続は、InGaAsP障壁層を用いた場合が160 meVであるのに対し、InGaPSb障壁層を用いた場合は125 meVである。
レーザにおいて、正孔に不均一な分布が発生する価電子帯バンド不連続のエネルギーは、井戸層の数、障壁層の膜厚、レーザの素子構造、動作温度などにより変わるため、数値的な限定は難しい。しかしながら、レーザ特性の劣化から、価電子帯のバンド不連続が130 meV以上で正孔の不均一な分布が起こるという報告もある(非特許文献11を参照)。図14で示したように、InGaPSb障壁層を用いれば、伝導帯のバンド不連続を変化させることなく価電子帯バンド不連続のみを小さくすることも可能であるが、価電子帯のバンド不連続が小さくなっても正孔を井戸層に閉じ込めることは容易なため、レーザ特性を改善させることはあっても、劣化させる要因は少ない。
また、本特許のレーザでは、障壁層以外はInGaAsP材料系の井戸層を用いており、さらには障壁層における酸化膜の影響もInGaAlAs材料系と異なり小さいため、レーザの作製方法や井戸層の条件など、従来のInGaAsP材料系多重量子井戸活性層を用いた半導体レーザの技術を流用できる部分が多い。
これらの理由から、本特許を用いれば、光通信用半導体レーザの温度特性の改善や高速変調の実現が容易である。
図13は、井戸層に圧縮歪を有するInGaAsP、障壁層に引っ張り歪を有するInGaPSbを用いた歪補償量子井戸構造に関する結果であるが、Sbが障壁層に含まれ、井戸層に含まれなければ、InGaPSb障壁層の組成や格子歪が代わっても、また、井戸層がInGaAsPからInAsPやInGaAsに代わっても本特許は有効である。例として、井戸層をInGaAsPからInAsPに代えても、本特許が有効であることを示す。
図15は、井戸層に図13のInGaAsPに変えてInAsPを用いた量子井戸構造において、InGaPSb障壁層のSb組成を変化させた場合の伝導帯(電子)及び価電子帯(重い正孔)のバンド不連続の変化を示している。InAsP井戸層は、InPに対する格子歪が+1.45%、膜厚が10 nmであり、電子の第1準位と重い正孔の第1準位間のエネルギー差に対応したバンドギャップ波長は、ほぼ1.3μmである。一方、InGaPSb障壁層は、図13と同様にInPに対する格子歪が-0.72%、膜厚が10 nmであり、Sb組成を変化させてもInPに対する格子不整合が一定になるようにIII族元素であるInとGaの組成比を変化させている。
図15のInAsP井戸層を用いた場合も、図13のInGaAsP井戸層を用いた場合と同様、InGaPSb障壁層のSb組成の増加に伴って価電子帯(重い正孔)のバンド不連続は単調に減少する。一方、InAsP井戸層を用いた場合の伝導帯(電子)に対するバンド不連続に関しても、InGaAsP井戸層を用いた場合と同様、Sb組成を増加させてくとSb組成に対する減少率が小さくなり、その後、増加に転じる。このため、InGaAsPに代えてInAsPを井戸層に用いた場合も、図13で示したInGaAsP井戸層を用いた場合と同様に価電子帯のバンド不連続を小さくできる。すなわち、井戸層にはSbを含まない材料、障壁層にはSbを含む材料を用いれば、この例のように井戸層の組成を変えても、レーザの温度特性の改善や高速変調の実現が容易になる。
また、本特許は障壁層の格子歪が変わっても有効である。このことを、InPに格子整合する障壁層の例をとって説明する。
図16は、図13の引っ張り歪を有するInGaPSb障壁層に代えてInPに格子整合するInGaPSbを用いた量子井戸構造において、InGaPSb障壁層のSb組成を変化させた場合の伝導帯(電子)と価電子帯(重い正孔)のバンド不連続の変化を示している。井戸層は、図13の場合と同様にInPに対する格子歪が+0.72%であり、膜厚が10 nmのInGaAsPである。一方、InPに格子整合するInGaPSb障壁層の膜厚は10 nmであるが、InPに格子整合させてあり、Sb組成を変化させても格子整合条件を保つようにIII族元素であるInとGaの組成比を変化させている。InPに格子整合するInGaPSb障壁層を用いた場合も、図13の引っ張り歪を有するInGaPSb障壁層を用いた場合と同様、InGaPSb障壁層のSb組成を増加させてくと、重い正孔に対するバンド不連続が単調に減少する。
一方、伝導帯(電子)に対するバンド不連続に関しては、引っ張り歪のInGaPSb障壁層を用いた時と同様に、Sb組成を増加させていくとSb組成に対する減少率が小さくなり、その後、増加に転じる。このため、図16のInPに格子整合するInGaPSb障壁層を用いた場合も、図13で示した引っ張り歪みを有するInGaPSb障壁層を用いた場合と同様に、InGaAsP障壁層を用いた場合に比べて、レーザの温度特性の改善や高速変調の実現が容易になる。
以上、図13から図15で示したように本発明による半導体レーザでは、障壁層にSbが含まれ、Sb組成の下限は0以上で有りさえすればレーザ特性の改善の効果が得られる。
一方でInGaPSb障壁層のSb組成の上限に関しては、井戸層で発光した光がInGaPSb障壁層で吸収しないような組成にする必要がある。具体的には、本発明は光通信用の半導体レーザに関するものであるため、InGaPSb障壁層のバンドギャップ波長を光通信で用いられる波長よりも短くする必要がある。InGaPSbのバンドギャップ波長は、In組成を減少させていくと短くなり、In組成が0であるGaPSbで最短のバンドギャップ波長を持つ。このGaPSbのバンドギャップ波長を光通信で用いられる波長より短くしておけば、井戸層から発光した光のInGaPSb障壁層での吸収を小さくすることができる。
図17は、GaPSbに関するバンドギャップ波長のSb組成による変化を示している。図17のバンドギャップ波長は、歪み応力によるバンド構造の変化を考慮しているため、バンドギャップ波長は伝導帯〜価電子帯(重い正孔)間と伝導帯〜価電子帯(軽い正孔)間で異なる。本発明の対象である波長領域は1.260μmから1.625μmであるため、図17よりSb組成として少なくとも0.5以下にすれば波長1.26μmの光は吸収されない。このことから、InGaPSb障壁層のSb組成を0より大きく0.5より小さい範囲に設定すれば、井戸層から発光した光のInGaPSb障壁層での吸収を小さくできる。
これまでの例は、障壁層としてInGaPSbを用いた場合について説明した。本発明は、井戸層にはSbを含まない材料系、障壁層にはSbを含む材料系を用いた多重量子井戸構造を活性層とすることによりレーザの特性を改善するものであるため、障壁層はSbを含み、酸化膜の除去が容易なAlを含まない材料であれば良く、InGaPSb に変えてInGaAsPSbを障壁層に用いた場合にも同様の効果が得られることは云うまでもない。
次に本発明の好適な実施例を示し、その形態について実施例に則した図面を参照しながら説明する。
まず、本発明に係る半導体レーザに用いる量子井戸構造について、障壁層のSbを加えることにより伝導帯のバンド不連続が大きくなるため、電子の井戸層内への閉じ込めが強くなり、半値幅(full width at half maximum, FWHM)の狭いホトルミネセンス(PL)発光スペクトルが得られることを示す(図1と図2)。次に、この量子井戸構造を用いたレーザの実施例について示す(図3〜図5)。
量子井戸からのPL発光スペクトルは、電子の状態密度により大きく変化し、半値幅の小さい発光ピークを得るためには、伝導帯のバンド不連続を大きくし、井戸層への電子の閉じ込めを強くした方が有利である。本特許の効果をこのPL発光スペクトルから確認するために、障壁層にInGaPSbと従来のInGaAsPを用いた多重量子井戸構造を作製し、そのPL発光スペクトルのピーク半値幅を比較する。
図1は、比較に用いた多重量子井戸構造を示したものである。作製には、III族原料ガスにトリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルガリウム(TEGa)、V族原料ガスにホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いた有機金属分子線エピタキシー法を用いる。
具体的には、n型InP基板1上に膜厚0.2μmのアンドープInP2を成長させ、引き続きInGaPSb障壁層3とInGaAsP井戸層4からなる多重量子井戸構造5を成長させ、最後に膜厚0.1μmのアンドープInP6を成長する。多重量子井戸構造5における井戸層の数は、10である。
成長時の基板温度は、多重量子井戸構造5が530℃、それ以外の層が505℃である。InGaAsP井戸層4は、InPに対する格子歪が+1.58%で、膜厚が6.0 nmである。InGaPSb障壁層3は、InPに対する格子歪が-0.6%であり、膜厚が10.5 nmである。InGaPSb障壁層3は、Sb原料であるトリスジメチルアミノアンチモンの供給量を変えることにより、Sb組成が2.6%の〔試料1〕とSb組成が3.6%の〔試料2〕を検討した。InGaPSb障壁層3のバンドギャップ波長は、Sb組成が2.6%のもので1.0μm、Sb組成が3.6%のもので1.1μmである。
比較のため、障壁層にInGaAsP(InPに対する格子歪が-0.6%、膜厚が10.5 nm、バンドギャップ波長が1.1μm)、井戸層に〔試料1〕と〔試料2〕と同じ組成と膜厚のInGaAsPを持つ〔試料3〕を作製する。
PL測定は、励起光に波長532 nmのレーザを用い、レーザ発振に近いキャリア密度を実現するために高い励起密度(460 W/cm2)の状況下で行う。
図2は、作製した〔試料1〕〜〔試料3〕のPL発光スペクトルを示している。縦軸には、規格化したPL発光強度を用いているが、実際の試料間での発光強度の差も±10%以内に収まっており、発光強度の差異はほとんどない。PL発光スペクトルのピーク半値幅は、障壁層にInGaPSbを用いた〔試料1〕と〔試料2〕では31 meVであるのに対して、障壁層にInGaAsPを用いた〔試料3〕では35 meVである。このように、障壁層をInGaAsPからInGaPSbに変えることにより、PL発光スペクトルのピーク半値幅を小さくできる。井戸層の組成と膜厚は、図2のすべての試料で同じため、PL発光のピーク半値幅の差異は障壁層に起因したものである。すなわち、InGaPSb障壁層を用いた試料では、InGaAsP障壁層を用いた試料よりも伝導帯のバンド不連続が大きいため、電子を井戸層により強く閉じ込めることができ、その結果として狭い半値幅のPL発光ピークが得られることが分かる。
上記のように、PL発光スペクトルを調べることで、障壁層をInGaAsPからInGaPSbに変えることによる伝導帯のバンド不連続の増大を確認できる。この伝導帯のバンド不連続の増大は、前述のように量子井戸レーザで井戸層からの電子の漏れ出しを抑制するのに有効であるため、レーザの温度特性の改善や高速変調の実現を容易にするものである。
本実施例では、量子井戸構造の作製方法として有機金属分子線エピタキシー法を用いた場合について説明したが、本発明は障壁層にSbが含まれ、井戸層にはSbが含まれないことを特徴とするため、作製方法は上記の量子井戸構造が作製可能であれば良く、有機金属気相エピタキシー法や分子線エピタキシー法などの他の成長方法を用いた場合も有効であることは云うまでもない。
次に、図3〜図5を参照にして、本発明に係る半導体レーザの実施の形態について説明する。
まず、本発明に係る半導体レーザの層構成を図3の断面図を用いて説明する。本発明に係る半導体レーザでは、まず、図3に示すようにn型InP基板7上に、膜厚0.5 μmのn型InPバッファ層8を成長した。引き続き、膜厚0.1μm、バンドギャップ波長1.0μmのInGaAsP層9を成長した後、10層のInAsP井戸層と11層のInGaPSb障壁層からなる多重量子井戸構造10を成長し、その上に膜厚0.1μm、バンドギャップ波長1.0μmのInGaAsP層11、膜厚1.5μmのp型InP層12を成長させた。最後に、p型InP層12の上にp型InGaAs層13を成長した。
多重量子井戸構造10を構成するInAsP井戸層は、InPに対する格子歪が+1.63%、膜厚が5 nmであり、室温におけるPL発光のピーク波長はほぼ1.3μmである。
一方、多重量子井戸構造10を構成するInGaPSb障壁層は、そのSb組成が2.6%〔試験体1〕と3.6%〔試験体2〕の異なるSb組成のInGaPSb障壁層を持つ2つ試料を検討する。こられのInGaPSb障壁層は、ともにInPに対する格子歪が-0.60%、膜厚が10.5 nmである。
成長には、有機金属分子線エピタキシー法を用い、成長時の基板温度は、InGaAsP層9、多重量子井戸構造10、InGaAsP層11が530℃、それ以外の層が500℃である。
p型電極14は、ウェハ前面にシリコン酸化膜を蒸着した後、ストライプ状に幅40μmの領域のシリコン酸化膜を除去した後、p型InGaAs層13におけるストライプ状の領域上に金属を蒸着した後、熱処理して形成する。
n型電極15は、n型InP基板7を薄く研磨した後、この上に金属を蒸着した後、熱処理して形成する。
レーザ構造は、へき開により共振器を形成したファブリペロー型レーザであり、共振器長は600μmである。
図4と図5は、それぞれSb組成が2.6%〔試験体1〕とSb組成が3.6%〔試験体2〕を、動作温度を変えてパルス駆動させた際の注入電流と光出力の関係を示している。動作温度15℃でのしきい値電流密度は、〔試験体1〕で1.33 kA/cm2、〔試験体2〕で1.05 kA/cm2であり、InGaAsP材料系を用いた多重量子井戸レーザと同等である。
半導体レーザにおける温度特性の評価には、一般に特性温度と呼ばれるパラメータを用いる。特性温度は、しきい値電流の温度変化を測定することにより、次式から求めることができる。
Jth = J0 exp (T/T0)
ここで、Jthは動作温度 T におけるしきい値電流密度、J0は定数、T0が特性温度である。
この式から、このT0が大きいほど動作温度の上昇に対するしきい値電流密度の増加が小さいことになり、レーザの温度特性が良いことになる。InGaPSb障壁層を用いた〔試験体1〕、〔試験体2〕の特性温度は、図4と図5から、それぞれ80.6 K、73.0 Kと見積もられる。
一方、一般にInGaAsP障壁層に用いた多重量子井戸レーザの特性温度は50K程度と低い。すなわち、InGaAsP障壁層を用いた場合に比べて、InGaPSb障壁層を用いることで半導体レーザの温度特性を改善できることが分かる。
このInGaPSb障壁層を用いることでレーザの温度特性が改善される理由は、前述のようにInGaAsP障壁層を用いた場合に比べて、伝導帯のバンド不連続を大きくできることと、価電子帯のバンド不連続を小さくできることによるものである。この2つは、ともにレーザの高速変調を可能にするものであり、本特許のレーザ構造を用いれば高速で直接変調できるレーザの作製も容易である。
この実施例では、井戸層にInAsP、障壁層にInGaPSbを用い、発振波長が1.3μmとなる多重量子井戸レーザの場合について説明してきたが、実施の形態は、上述の構成に限られるものではなく、変更が可能である。
すなわち、発振波長に応じて、Sbを含まない材料系を用いた井戸層と、Sbを含む材料系を用いた障壁層を用い、それぞれの組成と膜厚を変更すれば良い。例えば、発振波長が1.625μmの多重量子井戸レーザを得ようとすれば、井戸層にInAsPに比べてバンドギャップを小さくできるInGaAs、障壁層にInGaPSbに比べてバンドギャップを小さくできるInGaAsPSbを用いても良く、本実施例と同様にInGaAsP障壁層を用いた場合に比べ、レーザにおける温度特性の改善や高速変調が容易になることは云うまでもない。
また、本実施例では、半導体レーザの作製方法として有機金属分子線エピタキシー法を用いた例を説明したが、本発明は障壁層にSbが含まれ、井戸層にはSbが含まれないことを特徴とするため、作製方法は上記の量子井戸構造が作製可能であれば良く、有機金属気相エピタキシー法や分子線エピタキシー法などの他の成長方法を用いた場合も有効であることは云うまでもない。
本発明は、光ファイバ通信システムで用いられる光モジュールで使用される半導体レーザに好適なものであり、温度特性が良く、高速で直接変調でき、長期信頼性に優れた半導体レーザの作製が容易になる。これにより、現在および将来の通信ネットワークのトラヒック量の増加に対応した光モジュールの提供が容易になるという効果がある。
1 n型InP基板
2 InP
3 InGaPSb障壁層
4 InGaAsP井戸層
5 多重量子井戸構造
6 InP
7 n型InP基板
8 n型InP
9 InGaAsP
10 InAsP/InGaPSb多重量子井戸
11 InGaAsP
12 p型InP
13 p型InGaAs
14 p型電極
15 n型電極

Claims (4)

  1. InP基板上の半導体量子井戸構造を活性層とする半導体レーザにおいて、
    前記半導体量子井戸構造は、井戸層としてInGaAsPまたはInAsPまたはInGaAsを含み、障壁層はInGaPSbまたはInGaAsPSbを含むことを特徴とする半導体レーザ。
  2. 請求項1に記載の半導体レーザにおいて、前記活性層に含まれる前記井戸層の数が2以上であることを特徴とする半導体レーザ。
  3. 請求項1に記載の半導体レーザにおいて、発振波長が1.260μmから1.625μmまでの間であることを特徴とする半導体レーザ。
  4. 請求項1に記載の半導体レーザにおいて、前記活性層に含まれる前記障壁層は、そのV族元素中に占めるSbの組成が、0より大きく0.5より小さい範囲であることを特徴とする半導体レーザ。
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