次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
図1は本発明のガスバリア性シートの一例を示す模式的な断面図であり、図2は本発明のガスバリア性シートの他の一例を示す模式的な断面図であり、図3は本発明のガスバリア性シートのさらに他の一例を示す模式的な断面図である。
本発明のガスバリア性シート1は、図1に示すように、基材2上にガスバリア膜3を有するガスバリア性シート1Aの形態を有している。また、本発明のガスバリア性シート1は、図2に示すように、基材2上にガスバリア膜3を有し、さらにガスバリア膜3上に透明導電膜4を有するガスバリア性シート1Bの形態を有することもできる。さらに、本発明のガスバリア性シート1は、図3に示すように、ガスバリア性シート1Cの少なくとも片面にハードコート膜5を設けた形態を有することもできる。より具体的には、ガスバリア性シート1Cは、基材2上にガスバリア膜3と透明導電膜4とをこの順に有し、基材2のガスバリア膜3が形成された面との反対側の面にハードコート膜5が設けられている。なお、ハードコート膜5の代わりにガスバリア膜を形成してもよい。こうした膜の積層に関するバリエーションは、本発明の要旨の範囲内において適宜採用することができる。
(基材)
基材2としては、各種の基材を用いることができ、主にはシート状やフィルム状、巻き取りロール状のものが用いられるが、具体的な用途や目的等に応じて、非フレキシブル基板やフレキシブル基板を用いることができる。例えば、ガラス基板、硬質樹脂基板、ウエハ、プリント基板、様々なカード、樹脂シート等の非フレキシブル基板を用いてもよいし、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリシルセスキオキサン、ポリノルボルネン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、非晶質シクロポリオレフィン、セルローストリアセテート等のフレキシブル基板を用いてもよい。基材2が樹脂製である場合、用いる樹脂としては上記例示した樹脂を適宜混合して用いてもよい。また、基材2が樹脂製である場合、好ましくは100℃以上、特に好ましくは150℃以上の耐熱性を有するものが適当である。
こうした樹脂製の基材2としては、具体的には、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルム(例えば、日本ゼオン株式会社のゼオネックス(登録商標)やゼオノア(登録商標)、JSR株式会社のARTON等)、ポリカーボネートフィルム(例えば、帝人化成株式会社のピュアエース等)、ポリエチレンテレフタレートフィルム(例えば、帝人化成株式会社製のもの等)、セルローストリアセテートフィルム(例えば、コニカミノルタオプト株式会社のコニカタックKC4UX、KC8UX等)、ポリエチレンナフタレートフィルム(例えば、帝人デュポンフィルム株式会社のテオネックス(登録商標)等)の市販品を挙げることができる。
基材2の厚さは、可撓性及び形態保持性の観点から、通常10μm以上、好ましくは50μm以上、また、通常200μm以下、好ましくは150μm以下とする。
基材2を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子の基板として用いる場合には、基材2は無色透明であることが好ましい。基材2とともにガスバリア膜3等の他の膜を無色透明とすることにより、ガスバリア性シート1を透明とすることが可能となる。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内での基材2の平均光透過度が80%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度は基材2の材質と厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
基材2の表面は、平滑であることが好ましい。具体的には、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常0.3nm以上とする。この範囲とすれば、基材2に適度な表面粗さを付与することができ、基材2を巻き取りロールとした際に互いに接触する基材2同士の接触面に滑りが生じにくくなる。また、基材2の表面の算術平均粗さ(Ra)は、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下とする。この範囲とすれば、基材2の平滑性が向上し、有機ELディスプレイ等の表示素子を作製する際に発生することのある短絡を抑制できる利点が発揮されやすくなる。なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601−2001(ISO4287−1997準拠)に従って測定すればよい。
基材2は、熱に対して変形しにくいことが好ましい。ガスバリア性シート1が有機ELディスプレイに適用される場合には、ヒートサイクル試験のような加熱・冷却のストレスに対してもガスバリア性シート1が変形しないことが求められるからである。具体的には、基材2の線膨張係数は、通常5ppm/℃以上、また、通常80ppm/℃以下、好ましくは50ppm/℃以下とする。線膨張係数の測定は、従来公知の方法を用いて行えばよく、例えばTMA法(熱機械分析法)を挙げることができる。TMA法に用いる測定装置としては、例えば、示差膨張方式熱機械分析装置であるリガク 製 CN8098F1を用いることができる。
基材2として樹脂製のものを用いる場合には、その製造方法も従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。また、樹脂製の基材2を用いる場合には、延伸フィルムを用いてもよい。延伸の方法も従来公知の一般的な方法を用いればよい。延伸倍率は、基材2の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ2〜10倍とすることが好ましい。
基材2の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。
(ガスバリア膜)
図4は、ガスバリア膜を拡大して示す模式的な断面図である。具体的には、ガスバリア膜3の厚さ方向における組成の分布を説明するための模式的な断面図である。ガスバリア膜3は、下面近傍の領域8L、中間領域9A、中央近傍の領域8M、中間領域9B、及び上面近傍の領域8Uから構成され、元素X、炭素、窒素、及び酸素を含有する。なお、本発明の要旨の範囲内であれば、ガスバリア膜3は、不純物や添加剤として元素X、炭素、窒素、及び酸素以外の元素や物質を含有してもよい。そして、ガスバリア膜3の両面のうち、基材2側の面を下面6、下面6とは反対側の面を上面7とし、下面近傍の領域8L及び上面近傍の領域8Uのそれぞれにおける、元素X、炭素、窒素、及び酸素の原子数比を元素Xの原子数比を1として求めた場合に、下面近傍の領域8L及び上面近傍の領域8Uにおいて、炭素、窒素及び酸素の原子数比が、元素Xの原子数比に対して特定の割合になるように制御されている。具体的には、下面近傍の領域8Lでの組成比が、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が0.3以上0.8以下となるように制御され、上面近傍の領域8Uでの組成比が、(窒素の原子数比+酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が1.2以上2以下となるように制御されている。
ガスバリア膜3の下面近傍の領域8L及び上面近傍の領域8Uにおける、炭素、窒素、及び酸素の組成比を上記のように制御することにより、ガスバリア膜3の下面近傍の領域8Lでは炭素が相対的に多く含有される組成となって基材2との接着性が確保されやすくなる一方で、ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uでは窒素及び/又は酸素が多く含有される組成となってガスバリア性が確保されるとともに、ガスバリア膜3の表面の撥水性と濡れ性とのバランスを制御することが可能となる。その結果、ガスバリア性、密着性に優れ、撥水性や表面濡れ性を良好に制御することが可能なガスバリア性シート1を提供することができるようになる。
ガスバリア膜3において、下面近傍の領域8Lとは、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、ガスバリア膜3の下面6(下側の端面)から0.1以下の長さを持った範囲におけるいずれかの領域をいう。一方、上面近傍の領域8Uとは、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、ガスバリア膜3の上面7(上側の端面)から0.1以下の長さを持った範囲におけるいずれかの領域をいう。ここで、ガスバリア膜3の厚さは、ガスバリア性確保の観点から、通常10nm以上、好ましくは30nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは150nm以下とする。したがって、下面近傍の領域8Lは、下面6から通常1nm〜20nm程度の範囲におけるいずれかの領域をいう。一方、上面近傍の領域8Uは、上面7から通常1nm〜20nm程度の範囲におけるいずれかの領域をいう。
ガスバリア膜3の下面近傍の領域8Lにおいては、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり0.3以上とするが、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.4以上とする。この範囲とすれば、炭素の量を確保して基材2との密着性を確保しやすくなる。なお、下面近傍の領域8Lを炭素リッチな組成とすることで、基材2との密着性が確保される理由は、下面近傍の領域8Lに基材との親和性が高い官能基、例えばエステル基、有機シラノール基が多数導入されることになり、基材と化学結合しやすくなる効果が発現するためと考えられる。この効果は、基材2が樹脂製である場合に顕著に発揮されやすくなる。一方、ガスバリア膜3の下面近傍の領域8Lにおける(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり0.8以下とするが、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.7以下とする。この範囲とすれば、窒素が適度に含有されることになるので下面近傍の領域8Lでのガスバリア性を確保しやすくなる。
ガスバリア膜3の下面近傍の領域8Lにおいては、炭素が多く含有される分、(窒素の原子数比+酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、通常0.1以上、好ましくは0.3以上、また通常1.1以下、好ましくは1以下となる。
ガスバリア膜3の下面近傍の領域8Lにおける、合計原子数比(元素X、炭素、窒素、及び酸素の各原子数比を合計した原子数比)に対する炭素、窒素、及び酸素の各比率は以下のようになる。すなわち、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.11以上、好ましくは0.15以上、また、通常0.57以下、好ましくは0.41以下とする。また、(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.11以上、また、通常0.78以下、好ましくは0.58以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.2以下とする。さらに、(酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.05以上、好ましくは0.11以上、また、通常0.78以下、好ましくは0.58以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.25以下とする。
ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uにおいては、(窒素の原子数比+酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり1.2以上とするが、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.4以上とする。この範囲とすれば、ガスバリア膜3の表面近傍での窒素と酸素の量を確保して、ガスバリア膜3のガスバリア性と表面塗れ性との制御が行いやすくなる。なお、上面近傍の領域8Uを窒素リッチな組成とすることで、ガスバリア性を確保できる理由は、密度の高く、緻密性に優れたSiN構造を多く含むようになるためと考えられる。また、上面近傍の領域8Uを酸素リッチな組成とすることで、ガスバリア膜3の上面7(表面)の濡れ性が確保できる理由は、ガスバリア膜3の上面7の酸化が進むことにより表面エネルギーが小さくなり水との親和性が高まるためと考えられる。一方、ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uにおける(窒素の原子数比+酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり2以下とするが、好ましくは1.9以下、より好ましくは1.8以下とする。この範囲とすれば、ガスバリア膜3の柔軟性や緻密性を保持しやすくなる。なお、(窒素の原子数比+酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)の上限を2とするのは、2を超える場合には物理的には存在しにくい組成となるからである。
ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uにおいては、窒素や酸素が多く含有される分、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、また通常0.5以下、好ましくは0.45以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.15以下となる。
ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uにおける、合計原子数比(元素X、炭素、窒素、及び酸素の各原子数比を合計した原子数比)に対する炭素、窒素、及び酸素の各比率は以下のようになる。すなわち、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、また、通常0.15以下、好ましくは0.09以下、より好ましくは0.07以下とする。また、(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.25以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.38以上、さらに好ましくは0.43以上、また、通常0.9以下、好ましくは0.62以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.45以下とする。さらに、(酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比+炭素の原子数比+窒素の原子数比+酸素の原子数比)は、通常0.15以上、好ましくは0.17以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.38以上、特に好ましくは0.43以上、また、通常0.9以下、好ましくは0.62以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.45以下とする。
ガスバリア膜3においては、下面6から上面7に向かうにつれ、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に減少するように、ガスバリア膜3の厚さ方向の炭素の含有量を制御することが好ましい。これにより、基材2との密着性に寄与する炭素をガスバリア膜3内で基材2(下面6)側に十分存在させることができるとともに、上面7側ではガスバリア性への寄与度が低い炭素を低減することができるようになる。その結果、密着性とガスバリア性との両立がより行いやすくなる。なお、「(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に減少する」とは、ガスバリア膜3の下面6から上面7に向かうにつれて傾斜組成となっていること、すなわち単位厚さあたりに含有される炭素の原子数比(含有量)が徐々に減少するということを意味する。より具体的には、下面近傍の領域8L→中間領域9A→中央近傍の領域8M→中間領域9B→上面近傍の領域8Uとなるにつれて、単位厚さあたりに含有される炭素の原子数比(含有量)が徐々に減少することを意味する。ただし、炭素の原子数比(含有量)は、常に線形に減少する場合に限られるものではない。例えば、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、0.1だけ離れた2点において、より上面7側にある点近傍の単位厚さあたりの炭素の原子数比が、下面6側にある点近傍の単位厚さあたりの炭素の原子数比よりも少なければよく、上記0.1の厚さの間では炭素の単位厚さあたりの原子数比が必ずしも線形的に減少する必要はない。
ガスバリア膜3に含有される元素Xは特に制限はないものの、Si,Al,Mg,及びSnから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。元素Xとして、Si,Al,Mg,及びSnから選ばれる少なくとも1つを用いることにより、ガスバリア性に優れる化合物をガスバリア膜3に用いることができる。その結果、ガスバリア性がより改善されたガスバリア性シート1を提供しやすくなる。ガスバリア性の確保の観点から、元素Xは、より好ましくはSi,Al,Snから選ばれる少なくとも1つであり、さらに好ましくはSi,Alから選ばれる少なくとも1つであり、特に好ましくはSiである。
ガスバリア膜3における第1の好ましい組成分布を以下説明する。すなわち、第1の好ましい組成分布においては、上面近傍の領域8Uにおける(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)が0.75以下であることが好ましい。これにより、上面近傍の領域8Uにおける酸素の含有量に対する窒素の含有量を相対的に多くすることができる。その結果、ガスバリア性がより改善されたガスバリア性シート1を提供しやすくなる。上面近傍の領域8Uにおける(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)は、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.65以下、特に好ましくは0.6以下とする。この範囲とすれば、上面近傍の領域8Uにおける窒素の原子数比を増加させることができ、よりガスバリア性を確保しやすくなる。なお、通常、(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)は、0.1以上とする。
ガスバリア膜3の第1の好ましい組成分布においては、下面6から上面7に向かうにつれ、(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に増加することが好ましい。これにより、ガスバリア性に寄与する窒素をガスバリア膜3内で上面7側に十分存在させることができるとともに、基材2(下面6)側では基材との密着性への寄与度が低い窒素を低減することができるようになり、ガスバリア膜3の厚さ方向のガスバリア性を精密に制御することができる。その結果、ガスバリア性がさらに改善されたガスバリア性シート1を提供しやすくなる。すなわち、上面近傍の領域8Uにおいては窒素の原子数比(含有量)が多い組成となっているので、この上面近傍の領域8Uを基準として、下面6に向かって徐々に窒素の原子数比(含有量)を減少させていけば、下面近傍の領域8Lでは炭素の原子数比(含有量)を確保して基材2との密着性を確保しやすくなる。その結果、ガスバリア膜3の中央付近から上面7に向かって一定量以上の窒素を存在させることができるようになるので、ガスバリア性を確保しやすくなる。なお、「(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に増加する」とは、ガスバリア膜3の下面6から上面7に向かうにつれて傾斜組成になっていること、すなわち単位厚さあたりに含有される窒素の原子数比(含有量)が徐々に増加するということを意味する。より具体的には、下面近傍の領域8L→中間領域9A→中央近傍の領域8M→中間領域9B→上面近傍の領域8Uとなるにつれて、単位厚さあたりに含有される窒素の原子数比(含有量)が徐々に増加することになる。ただし、窒素の原子数比(含有量)は、常に線形に増加する場合に限られるものではない。例えば、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、0.1だけ離れた2点において、より上面7側にある点近傍の単位厚さあたりの窒素の原子数比が、下面6側にある点近傍の単位厚さあたりの窒素の原子数比よりも多ければよく、上記0.1の厚さの間では窒素の単位厚さあたりの原子数比が必ずしも線形的に増加する必要はない。
ガスバリア膜3における第2の好ましい組成分布を以下説明する。すなわち、第2の好ましい組成分布においては、上面近傍の領域8Uにおける(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)が0.75より大きい場合には、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mにおける(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が0.5以上1.2以下であることが好ましい。これにより、上面近傍の領域8Uにおける酸素の含有量が窒素に対して多くなってガスバリア膜3の上面7(表面)の濡れ性が上がる分、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mで窒素の含有量を多くしてガスバリア性を確保することができるようになる。その結果、ガスバリア膜3の上面7(表面)の塗れ性を確保しつつ、ガスバリア性に優れるガスバリア性シート1を確保しやすくなる。すなわち、上面近傍の領域8Uにおける(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)が0.75より大きくなるとは、上面近傍の領域8Uにおいて酸素リッチの組成となっていることを意味し、酸素が多く含有される分、上面7の濡れ性が上がって透明導電膜4等の成膜が容易となる。一方で、上面近傍の領域8Uで窒素含有量が相対的に少なくなる分、ガスバリア性を確保するためには、上面近傍の領域8U以外のガスバリア膜3の厚さ方向の領域で窒素を多く含有させる必要がある。そこで、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mにおける(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)を0.5以上1.2以下とすることが好ましい。なお、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mとは、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、ガスバリア膜3の下面6(下側の端面)から0.4〜0.6の範囲におけるいずれかの領域をいう。
ガスバリア膜3における第2の好ましい組成分布においては、上面近傍の領域8Uにおける(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)は、上述のとおり0.75より大きくすることが好ましいが、より好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上である。この範囲とすれば、ガスバリア膜3の上面7(表面)の濡れ性をより確保しやすくなる。なお、通常、(酸素の原子数比)/(窒素の原子数比)は0.9以下とする。また、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mにおける(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり0.5以上とすることが好ましいが、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1以上とする。この範囲とすれば、ガスバリア性をより確保しやすくなる。また、ガスバリア膜3の中央近傍の領域8Mにおける(窒素の原子数比)/(元素Xの原子数比)は、上述のとおり1.2以下とすることが好ましいが、より好ましくは1.15以下、さらに好ましくは1.1以下とする。この範囲とすれば、組成の相違に起因する応力によるガスバリア膜3の剥離を抑制しやすくなる。
ガスバリア膜3における第2の好ましい組成分布においては、下面6から上面7に向かうにつれ、(酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に増加することが好ましい。これにより、濡れ性に寄与する酸素をガスバリア膜3内で上面7側に十分存在させることができるとともに、基材2(下面6)側では基材との密着性への寄与度が低い酸素を低減することができるようになり、ガスバリア膜3の上面(表面)塗れ性を精密に制御することができる。その結果、表面塗れ性がさらに改善されたガスバリア性シート1を提供しやすくなる。すなわち、上面近傍の領域8Uにおいては酸素の含有量が多い組成となっているので、この上面近傍の領域8Uを基準として、下面6に向かって徐々に酸素の含有量を減少させていけば、下面近傍の領域8Lでは炭素の原子数比(含有量)を確保して基材2との密着性を確保しやすくなる。その結果、ガスバリア膜3の中央付近から上面7に向かって一定量以上の酸素を存在させることができるようになるので、上面7(表面)濡れ性を確保しやすくなる。なお、「(酸素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が徐々に増加する」とは、ガスバリア膜3の下面6から上面7に向かうにつれて傾斜組成になっていること、すなわち単位厚さあたりに含有される酸素の原子数比(含有量)が徐々に増加するということを意味する。より具体的には、下面近傍の領域8L→中間領域9A→中央近傍の領域8M→中間領域9B→上面近傍の領域8Uとなるにつれて、単位厚さあたりに含有される酸素の原子数比(含有量)が徐々に増加することになる。ただし、酸素の原子数比(含有量)は、常に線形に増加する場合に限られるものではない。例えば、ガスバリア膜3の厚さを1とした場合に、0.1だけ離れた2点において、より上面7側にある点近傍の単位厚さあたりの酸素の原子数比が、下面6側にある点近傍の単位厚さあたりの酸素の原子数比よりも多ければよく、上記0.1の厚さの間では酸素の単位厚さあたりの原子数比が必ずしも線形的に増加する必要はない。
ガスバリア膜3における、元素Xの種類や、元素X、炭素、窒素、及び酸素の組成比は、例えば、元素X、C、N、Oの原子数比を求めることにより確認することができる。こうした原子数比を求める方法としては、従来公知の方法を用いることができ、例えば、XPS(X線光電子分析装置)等の分析装置で得られた結果で評価できる。本発明においては、XPSの測定は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定している。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用している。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行っている。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、Al:2p、Mg:2p、Sn:3d、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行っている。このとき、C:1sのピークのうち、炭化水素に該当するピークを基準として、各ピークシフトを修正し、ピークの結合状態を帰属させる。そして、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、Al=0.57、Mg=0.36、Sn=24.72、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めている。得られた原子数比について、元素Xの原子数を1とし、他の成分であるC,N,Oの原子数を算出して成分割合としている。但し、Mgを含むガスバリア膜3を測定する場合は、X線源のMgKα線を検出する場合があるので、X線源としてAlKα線を用いるのが好ましい。
ガスバリア膜3において、下面近傍の領域8Lや上面近傍の領域8Uの組成分析や、下面6から上面7までの単位厚さあたりの組成比(例えば炭素の原子数比)の変化の分析や、中央近傍の領域8Mの組成分析をするためには、ガスバリア膜3の厚さ(深さ)方向の組成比の分析を行う必要がある。こうした方法としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、ガスバリア膜3の上面7にスパッタリングを施してガスバリア膜3を徐々に削っていき、削りながら経時的に削り出されたガスバリア膜3の表面の組成を上記XPS等によって測定することによって行うことができる。より具体的には、XPSにて深さ方向の分析を行えばよい。測定試料の表面を極薄に削るイオン銃としては、一般には電子衝撃型が用いられる。こうしたイオン銃を用いる場合、フィラメントから発生した熱電子をアルゴン気体中(0.01〜0.001Paレベル)に導入することによってアルゴンをイオン化し、これを数keVに加速して試料表面に照射する。この衝撃によって、試料の表面はエッチングされることになるので、所定時間後にイオン銃を停止する。その後、X線を照射し、X線により励起された薄膜中の光電子を光電子倍増管にて検出する(通常のXPS分析を行う)。なお、分光器には同心静電型分析器や円筒鏡型分析器が用いられる。イオン銃の照射と削り出された表面のXPS分析を繰り返すという工程を繰り返すことで、深さ方向の分析が可能となる。ここで、イオン銃の照射やXPS分析の条件は、エッチング時間が10秒、エッチング前後の待機時間が20秒とする。そして、測定試料の定量分析及びエッチングの繰り返し回数は、ガスバリア膜3の組成及び膜厚に依存するために、適宜、最適値を選択すればよい。
ガスバリア膜3を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子のガスバリア膜として用いる場合には、ガスバリア膜3は透明であることが好ましい。ガスバリア膜3とともに基材2等の他の膜を透明とすることにより、ガスバリア性シート1を透明とすることが可能となる。より具体的には、例えば400nm〜700nmの範囲内でのガスバリア膜3の平均光透過度が75%以上の透明性を有するように構成することが好ましい。こうした光透過度はガスバリア膜3の組成や厚さに影響されるので両者を考慮して構成される。
ガスバリア膜3の透明性を確保するために、ガスバリア膜3の消衰係数を、0.000001以上、0.03以下とすることが好ましい。消衰係数は、より好ましくは0.000005以上、さらに好ましくは0.00001以上、また、より好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下とする。消衰係数を上記範囲とすることにより、ガスバリア膜3の透明性を確保しやすくなるので、その結果、透明性の高いガスバリア性シート1を得ることができる。
ガスバリア膜3における消衰係数の測定は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、エリプソメーターを用いることができる。本発明においては、消衰係数をJOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定している。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVの条件で行っている。
ガスバリア膜3の製造方法は特に制限はないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、Cat−CVD法やプラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法等を用いればよい。こうした製造方法は、成膜材料の種類、成膜のしやすさ、工程効率等を考慮して選択すればよい。こうした製造方法のいくつかにつき以下説明する。
真空蒸着法とは、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子線やイオンビーム等のビーム加熱等により、るつぼに入った材料を加熱、蒸発させて基材2に付着させ、ガスバリア膜3を得る方法である。その際、ガスバリア膜3の組成等により加熱温度、加熱方法を変化させることができ、成膜時に酸化反応等を起こさせる反応性蒸着法も使用できる。
スパッタリング法とは、真空チャンバー内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、基材2に付着させ、ガスバリア膜3を得る方法である。このとき、チャンバー内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、ターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させてガスバリア膜3を形成する、反応性スパッタリング法を用いてもよい。スパッタリング法としては、例えば、DC2極スパッタリング、RF2極スパッタリング、3極・4極スパッタリング、ECRスパッタリング、イオンビームスパッタリング、及びマグネトロンスパッタリング等を挙げることができるが、工業的にはマグネトロンスパッタリングを用いることが好ましい。
イオンプレーティング法とは、真空蒸着とプラズマの複合技術であり、原則としてガスプラズマを利用して、蒸発粒子の一部をイオンもしくは励起粒子とし、活性化して薄膜を形成する方法である。イオンプレーティング法においては、反応ガスのプラズマを利用して蒸発粒子と結合させ、化合物膜を合成させる反応性イオンプレーティングが有効である。プラズマ中の操作であるため、安定なプラズマを得るのが第1条件であり、低ガス圧の領域での弱電離プラズマによる低温プラズマを用いる場合が多い。このため、混合物や複合酸化物を形成する場合に好ましく用いられる。放電を起こす手段から、直流励起型と高周波励起型に大別されるが、ほかに蒸発機構にホローカソード、イオンビームを用いる場合もある。
プラズマCVD法とは、化学気相成長法の一種である。プラズマCVD法においては、プラズマ放電中に原料を気化して供給し、系内のガスを衝突により相互に活性化してラジカル化するため、熱的励起のみによっては不可能な低温下での反応が可能となる。基材2は背後からヒータによって加熱され、電極間の放電中での反応により膜が形成される。プラズマの発生に用いる周波数により、HF(数十〜数百kHz)、RF(13.56MHz)、及びマイクロ波(2.45GHz)に分類される。マイクロ波を用いる場合は、反応ガスを励起し、アフターグロー中で成膜する方法と、ECR条件を満たす磁場(875Gauss)中にマイクロ波導入するECRプラズマCVDに大別される。また、プラズマ発生方法で分類すると、容量結合方式(平行平板型)と誘導結合方式(コイル方式)に分類される。
本発明においては、ガスバリア膜3の下面近傍の領域8L、上面近傍の領域8Uの組成を制御する必要がある。また、ガスバリア膜3の下面6から上面7に向かうにつれて炭素、窒素、酸素の含有量を制御することが好ましく、中央近傍の組成8Mの組成も制御することが好ましい。ガスバリア膜3の厚さ方向に組成分布を持たせるような方法としては、種々考えられるが、上記説明した製造方法を用いる場合には、例えば、プラズマCVD法において成膜開始と同時にアンモニアガスを流し込むとともにその濃度を徐々に増加又は減少させるという手法が考えられる。また、ガスバリア膜3を下面近傍の領域8L、中間領域9A、中央近傍の領域8M、中間領域9B、及び上面近傍の領域8Uにそれぞれ分け、それぞれの領域ごとにプラズマCVD法の成膜条件を変化させてガスバリア膜3を形成する方法も挙げることができる。また、真空蒸着法やイオンプレーティング法を用いる場合には、炭素源である炭化水素類(例えば、エチレン、プロピレン、アセチレン、アセトン、エタノール、イソプロパノールなど)や窒素源である窒素化合物(例えば、アンモニア、亜酸化窒素、二酸化窒素、ピリジン、トリメチルアミンなど)の供給量を変化させる方法も挙げることができる。さらに、真空蒸着法やイオンプレーティング法において、例えば、蒸着材料の配置を巻き出し側から炭化物(例えば、SiC、AlC)、窒化物(例えば、SiNx、AlNx)、酸化物(例えば、SiOx、AlOx、SnOx、MgOx)と連続的に変化させる方法を挙げることもできる。
(透明導電膜)
透明導電膜4は、図2に示すように、ガスバリア膜3上に設けられる。より具体的には、ガスバリア性シート1Bにおいて、透明導電膜4がガスバリア膜3上に設けられている。図4に示すように、ガスバリア膜3の上面近傍の領域8U中の酸素の原子数比を多くすることにより、ガスバリア膜3の上面7の表面塗れ性を確保することができる。その結果、透明導電膜4とガスバリア膜3との密着性を向上させることができるようになる。なお、透明導電膜4は、有機ELディスプレイの陽極として利用する、又は放熱機能及び帯電防止機能をガスバリア性シートに付与することができるので、透明導電膜4を設けることにより、有機ELディスプレイの生産性や寿命を向上させることができる。
透明導電膜4は、有機ELディスプレイに陽極がすでに設けられている場合には、帯電防止性能と放熱機能をガスバリア性シート1に付与する目的で設けられることもある。具体的には、ガスバリア性シート1が有機ELディスプレイを内包する場合には、透明導電膜4により有機ELディスプレイで発生するジュール熱を放熱させる、フィルム上で帯電する外部電荷を逃がすというような機能を付与することができる。例えば、有機ELディスプレイの課題である発熱による素子劣化を抑制するために透明導電膜4を設けることができるのである。
透明導電膜4には導電性を付与することが好ましい。こうした観点から、透明導電膜4は、金属アルコキシド等の加水分解物、透明導電粒子と金属アルコキシド等の加水分解物を塗布して形成される無機酸化物を主成分とするコーティング膜としてもよい。
透明導電膜4は、導電性を付与する観点から、抵抗加熱蒸着法、誘導加熱蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、及びプラズマCVD法等の真空成膜法によって形成される膜であってもよい。透明導電膜4は、抵抗値が低くでき、表面処理が可能な装置構成が可能となることから、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を用いて形成することが好ましい。こうした形成方法を用いる場合の透明導電膜4の材料は、例えば、インジウム−錫系酸化物(ITO)、インジウム−錫−亜鉛系酸化物(ITZO)、ZnO2等の酸化亜鉛系、CdO系、及びSnO2(酸化錫)系、酸化インジウム、インジウム−亜鉛系酸化物(IZO)、アルミニウム添加酸化亜鉛、ガリウム添加酸化亜鉛、アンチモン添加酸化錫等の酸化物;金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム等の金属;酸化物と金属の積層体を挙げることができる。こうした材料を適宜選択して使用すればよいが、上記材料のうち、透明性及び導電性が優れている点でインジウム−錫系酸化物(ITO)が好ましい。また、透明導電膜4に放熱機能を付与する場合には、放熱効果を高める観点から透明導電膜4として赤外光を吸収する材料を用いることが好ましいが、こうした観点からもインジウム−錫系酸化物(ITO)を用いることが好ましい。さらに、インジウム−錫系酸化物(ITO)を用いることにより、ガスバリア膜3の上面近傍の領域8Uの酸素の原子数比を多くして上面7の表面塗れ性を制御する意義が大きくなる。インジウム−錫系酸化物(ITO)を用いる場合には、錫の含有量が5〜15モル%であるものを用いることが特に好ましい。
透明導電膜4の厚さは、通常10nm以上、好ましくは60nm以上、より好ましくは100nm以上とする。上記範囲とすれば、透明導電膜4の導電性・放熱性を確保しやすくなる。また、透明導電膜4の厚さは、通常1000nm以下、好ましくは450nm以下、より好ましくは200nm以下とする。上記範囲とすれば、透明導電膜4の透明性を確保しやすく、耐屈曲性も良好となりやすい。
(ハードコート膜)
ハードコート膜5は、図3に示すように、ガスバリア性シート1Cの少なくとも片面に設けられる。より具体的には、ハードコート膜5は、基材2のガスバリア膜3が形成された面との反対側の面に設けられている。これにより、ガスバリア性シート1Cがハードコート膜5により保護されるので、その結果、傷が付きにくいガスバリア性シート1Cを提供することができる。
ハードコート膜5としては、従来公知のものを適宜用いることができる。具体的には、ハードコート膜5の材料としては、電離放射線硬化型樹脂であるアクリレート系の官能基を有するもの、すなわち、アクリル骨格を有するもの、エポキシ骨格を有するものが適当であり、ハードコート膜5の硬度や耐熱性、耐溶剤性、耐擦傷性を考慮すると、高い架橋密度の構造とすることが好ましい。こうした構造を得るための材料としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の2官能以上のアクリレートモノマーを挙げることができる。なお、上記において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタアクリレートの両者を意味する。
ハードコート膜5の材料として、上記の電離放射線硬化型樹脂を用いる場合、公知の光重合開始剤や光増感剤を併用することができる。こうした光重合開始剤や光増感剤は、紫外線を照射して電離放射線硬化型樹脂を硬化させる場合に好ましく用いられる。なぜなら、電子線を照射する場合には電離放射線硬化型樹脂は十分硬化する傾向を有するからである。光重合開始剤や光増感剤の添加量は、一般に、電離放射線硬化型樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下とする。こうした材料の他、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機、有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
ハードコート膜5は、上記の材料を塗布液として基材2上に塗布し硬化させることによって形成することができる。ここで塗布液の塗布量としては、固形分として、通常、0.5g/m2以上、15g/m2以下が適当である。なお、硬化に用いる紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯等を挙げることができる。紫外線の波長としては、通常、190nm以上、380nm以下の波長域を使用することができ、また、電子線源としては、例えばコッククロフトワルト型等の各種電子線加速器を用いることができる。
ハードコート膜5の厚さは、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは8μm以下とする。この範囲とすれば、ガスバリア性シート1Cの透明性を損ないにくく、かつ、耐擦傷性も良好となりやすい。
(その他の膜)
上記説明した、基材2、ガスバリア膜3、透明導電膜4、及びハードコート膜5以外にも、必要に応じて他の膜を用いることもできる。こうしたものとしては、アンカーコート剤膜(易接着膜)、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、カラーフィルタ及び平滑化膜を挙げることができる。これらのうち、反射防止膜、帯電防止膜、防汚膜、防眩膜、カラーフィルタは、光学粘着剤を介して本発明のガスバリア性シートと貼り合わせることで、所望の機能を得てもよい。
アンカーコート剤膜(易接着膜)は、通常、基材2とガスバリア膜3との間に設けられる。本発明においては、ガスバリア膜3と基材2との接着性が良好になっているので、基本的にはアンカーコート剤膜を用いる必要性は低い。但し、基材2とガスバリア膜3との密着性をさらに向上させることが必要となる用途(例えば、包装材料)においては、アンカーコート剤膜を用いる意義がある。アンカーコート剤膜は、カルドポリマー、多官能アクリル樹脂、層状化合物、及び、有機官能基と加水分解基とを有するシランカップリング剤と、このシランカップリング剤が有する有機官能基と反応する第2の有機官能基を有する架橋性化合物と、を原料として構成された組成物、の少なくとも一つを含有することが好ましい。
アンカーコート剤膜の厚さは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、また、通常5μm以下、好ましくは1μm以下とする。こうしたアンカーコート剤膜の成膜は、用いる材料に応じて適宜選択すればよく、従来公知の方法を適宜用いればよい。
反射防止膜は外光の映り込みを抑制する機能をもつものであり、帯電防止膜は塵や埃が付着することを防止する機能をもち、防汚膜は指紋等の油脂の付着を阻害するものであり、従来公知のものを適宜用いればよいが、いずれもハードコート膜5の表面に形成されることが多い。但し、反射防止機能や透明導電機能をハードコート膜5に付加することもできる。平滑化膜は、表面を平坦化するために用いられるものであり、例えば、基材2の表面やガスバリア膜3の表面に形成されることがある。
平滑化膜としては、従来公知のものを適宜用いればよい。平滑化膜の材料としては、例えば、ゾル−ゲル材料、電離放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、及びフォトレジスト材料等を挙げることができる。
平滑化膜をガスバリア膜3の表面に形成する場合においては、ガスバリア機能を保持させつつ膜の形成を容易にする観点から、平滑化膜の材料として電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、エポキシ基をもつ反応性のプレポリマー、オリゴマー、及び/又は単量体を適宜混合したものである電離放射線硬化型樹脂や、電離放射線硬化型樹脂に必要に応じてウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ブチラール系、ビニル系等の熱可塑性樹脂を混合して液状となした液状組成物のような、分子中に重合性不飽和結合を有し、紫外線(UV)や電子線(EB)を照射することにより、架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化する樹脂が好ましい。ハードコート膜5は、こうした樹脂を、例えば、ロールコート法、ミヤバーコート法、及びグラビアコート法等の従来公知の塗布方法で塗布・乾燥・硬化させることにより形成することができる。平滑化膜は、ハードコート膜5と同様の方法で形成してもよい。
また、平滑化膜をガスバリア膜3の表面に形成する場合においては、ガスバリア膜3との良好な密着性を確保する観点から、平滑化膜の材料としてガスバリア膜3と同材料系の塗膜を形成できるゾルーゲル法を用いたゾル−ゲル材料を用いることも好ましい。ゾル−ゲル法とは、有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤と、このシランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物とを少なくとも原料として構成された塗料組成物の塗工方法、及び塗膜のことをいう。有機官能基と加水分解基を有するシランカップリング剤としては、従来公知のものを適宜用いることができ、例えば、特開2001−207130号公報に開示されるアミノアルキルジアルコキシシランやアミノアルキルトリアルコキシシランを用いればよい。また、シランカップリング剤が有する有機官能基と反応する有機官能基を有する架橋性化合物としては、例えば、グリシジル基、カルボキシル基、イソシアネート基、及びオキサゾリン基等のアミノ基と反応しうる官能基を有するものを挙げることができる。こうした材料も従来公知のものを適宜用いることができる。さらに、上記の塗料組成物には、例えば、溶媒、硬化触媒、濡れ性改良剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤等の無機・有機系の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
さらに、平滑化膜の材料としては、従来公知のカルドポリマーを含有させることも好ましい。
平滑化膜の厚さは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下とする。
(ガスバリア性シート)
以上説明した、基材2及びガスバリア膜3や、必要に応じて、透明導電膜4、ハードコート膜5、及びその他の膜を設けることによって、ガスバリア性シート1が形成される。ガスバリア性シート1は、通常、水蒸気透過率が0.1g/m2/day(g/m2・day)以下で、酸素透過率が0.1cc/m2/day・atm(cc/m2・day・atm)以下の高いガスバリア性を示す。
ガスバリア性シート1を、透明性が必要とされる有機ELディスプレイ等の発光素子のガスバリア性シートとして用いる場合には、ガスバリア性シート1は透明であることが好ましい。この場合、具体的には、全光線透過率は、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とする。また、色味(YI)は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下とする。YIが高いほどガスバリア性シート1が黄色く見えるため、外観上YIを上記範囲に制御することが好ましい。なお、全光線透過率及びYIの測定は、例えば、分光測色計を用いて測定することができる。本発明においては、全光線透過率及びYIの測定は、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して測定している。そして、測定は、JIS K7105に準拠して実施している。
本発明のガスバリア性シートは、フィルム状の形態で用いられることが好ましい。フィルム状とすることにより、有機ELディスプレイ等の用途に適用しやすくなる。また、本発明のガスバリア性シートは、巻き取りロール状の形態で用いることも可能であり、有機ELディスプレイ等の製造の後工程に合わせて適宜用いればよい。なお、本発明のガスバリア性シートは、有機ELディスプレイ等の基板として用いることができるだけでなく、封止用の硝子や缶の代替となる封止用フィルムとしても適用が可能である。
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
(実施例1)
基材として、厚さ100μmのポリエチレンナフタレートフィルム(テオネックス(登録商標)Q65F、帝人デュポンフィルム株式会社製)を用い、この基材上へ、プラズマCVD法を用い、下記成膜条件でガスバリア膜を形成した。そして、ガスバリア膜の成膜開始直後からアンモニアガスを0から5sccm毎に段階的に増加させて30sccmとし、30nmのガスバリア膜を形成した。アンモニアガスは5秒毎に5sccmずつ増加させた。なお、ガスバリア膜の厚さは、段差計(株式会社アルバック製、DEKTAK IIA)を使用して測定した。そして、スキャン範囲を2mm、スキャンスピードをLowに設定して測定を行った。
原料:ヘキサメチレンジシロキサン、30sccm
反応ガス:Ar 30sccm、酸素 50sccm
電力:300W
以上のようにして準備したガスバリア膜を有するガスバリア性シートの特性を以下の方法で評価した。
(組成の分析)
ガスバリア膜の組成、より具体的には元素X(Si),C,N,Oの原子数比は、XPS(VG Scientific社製ESCA LAB220i−XL)により測定した。X線源としては、Ag−3d−5/2ピーク強度が300Kcps〜1McpsとなるX線源であるMgKα線を用い、直径約1mmのスリットを使用した。測定は、測定に供した試料面の法線上に検出器をセットした状態で行い、適正な帯電補正を行った。測定後の解析は、上述のXPS装置に付属されたソフトウエアEclipseバージョン2.1を使用し、Si:2p、C:1s、N:1s、O:1sのバインディングエネルギーに相当するピークを用いて行った。このとき、各ピークに対して、シャーリーのバックグラウンド除去を行い、ピーク面積に各元素の感度係数補正(C=1.0に対して、Si=0.87、N=1.77、O=2.85)を行い、原子数比を求めた。得られた原子数比について、Si原子数を1とし、他の成分であるC,N,Oの原子数を算出して成分割合とした。
ガスバリア膜の下面から上面までの厚さ方向の組成分析は、ガスバリア膜の上面にArイオンによるエッチングを施してガスバリア膜を徐々に削っていき、削りながら経時的に削り出されたガスバリア膜の表面の組成を上記XPSによって測定することによって行った。より具体的には、エッチング時間を10秒とし、エッチング前後の待機時間を20秒とし、X線源をMgKα線とし、測定元素は炭素、酸素、窒素、ケイ素とし、測定の繰り返し回数は5回とした。ガスバリア膜の厚さ方向に対する組成の変化を分析した。得られたデータを、表−1に示す。
(ガスバリア膜の消衰係数の測定)
ガスバリア膜の消衰係数の測定をJOBIN YVON社製のUVISELTMにより測定した。そして、測定は、キセノンランプを光源とし、入射角度を−60°、検出角度を60°、測定範囲を1.5eV〜5.0eVの条件で行った。その結果、ガスバリア膜の消衰係数は、0.003であった。
(全光線透過率、YIの測定)
ガスバリア性シートの全光線透過率及びYIの測定は、SMカラーコンピューターSM−C(スガ試験機製)を使用して測定した。そして、測定は、JIS K7105に準拠して実施した。その結果、全光線透過率は81.2%、YIは2.1であった。
(水蒸気透過率の測定)
水蒸気透過率は、測定温度37.8℃、湿度100%Rhの条件下で、水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、PERMATRAN−W 3/31:商品名)を用いて測定した。その結果、0.05g/m2・dayであった。なお、測定に用いた水蒸気透過率測定装置の検出限界は、0.05g/m2・dayである。
(酸素透過率の測定)
酸素透過率は、測定温度23℃、湿度90%Rhの条件下で、酸素ガス透過率測定装置(米国MOCON社製、OX−TRAN 2/20:商品名)を用いて測定した。その結果、0.05cc/m2・day・atmであった。なお、測定に用いた酸素ガス透過率測定装置の検出限界は、0.05cc/m2・day・atmである。
(接着性の評価)
ガスバリア性シートの接着性をクロスカット試験によって評価した。具体的には、JIS−K5400の8.5.1の記載に準拠して評価を行った。すなわち、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて、ガスバリア膜を貫通して基材に達する切り傷を縦横につけて、100個のマス目状とし、セロハン粘着テープ(ニチバン社製405番 24mm幅)をマス状の切り傷面に張り付け、消しゴムでこすって完全に付着させた後、垂直に引き剥がした。そして、剥離後の面を目視により観察し、100個のマス目における層残留率(マス目の一部分でも剥がれたものも剥がれた個数として扱う)を接着性の尺度とし、接着性(%)=(1−(剥がれたマス目/100マス))×100を算出して評価した。
上記のクロスカット試験を、ガスバリア性シート製造直後と、耐湿熱試験後と、の両方で行った。耐湿熱試験は、エスペック社製のデジタル恒温恒湿器PR−3Kを用い、温度60℃/湿度95%RHの環境下で1000時間ガスバリア性シートを保持することによって行った。
その結果、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性も100%であった。
(表面塗れ性の評価)
ガスバリア膜上面の濡れ性を、協和界面科学社製のDM−300を用いて接触角を測定することにより評価した。具体的には、試料をDM−300上に載せ、純水を滴下し、水滴と試料の接触角を装置付属の解析ソフトであるFAMASにて測定した。その結果、接触角は42.3°であった。
(実施例2)
イオンプレーティング法を用いて下記成膜条件でガスバリア膜を形成したこと、ガスバリア膜の成膜開始直後からアンモニアガスを0から5sccm毎に段階的に増加させて20sccmとしたこと、80nmのガスバリア膜を形成したこと、以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを得た。アンモニアガスは5秒毎に5sccmずつ増加させた。
原料:SiCタブレット
反応ガス:Ar 10sccm、酸素 30sccm
電力:300W
以上のようにして準備したガスバリア膜を有するガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。ガスバリア膜の厚さ方向の組成の表−2に示す。また、ガスバリア膜の消衰係数は0.001であり、全光線透過率は80.9%、YIは1.9であり、水蒸気透過率は0.05g/m2・dayであり、酸素透過率は0.05cc/m2・day・atmであった。さらに、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性も100%であった。そして、ガスバリア膜上面の接触角は47.2°であった。
(実施例3)
成膜室が2室からなる巻き取り式プラズマCVD装置を用い、第一室、第二室の順番にガスバリア膜の形成を行い、第一室及び第二室での条件をそれぞれ下記のようにしたこと、40nmのガスバリア膜を形成したこと、以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性シートを得た。
第一室の条件
原料:ヘキサメチレンジシロキサン、1slm
反応ガス:Ar 1slm、酸素 1slm
電力:1kW
第二室の条件
原料:ヘキサメチレンジシロキサン、1slm
反応ガス:Ar 1slm、酸素 0.5slm、アンモニア 1slm
電力:1.5kW
以上のようにして準備したガスバリア膜を有するガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。ガスバリア膜の厚さ方向の組成の表−3に示す。また、ガスバリア膜の消衰係数は0.05であり、全光線透過率は79.4%、YIは2.5であり、水蒸気透過率は0.05g/m2・dayであり、酸素透過率は0.05cc/m2・day・atmであった。さらに、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性も100%であった。そして、ガスバリア膜上面の接触角は45.1°であった。
(比較例1)
アンモニアガスを成膜開始時の0sccmから段階的に増加させて成膜終了時には10sccmとしたこと、アンモニアガスを10秒毎に5sccmずつ増加させたこと、その他のガスバリア膜の製造条件を以下のようにしたこと、以外は実施例1と同様にしてガスバリア性シートを製造した。
原料:ヘキサメチレンジシロキサン、50sccm
反応ガス:Ar 30sccm、酸素 20sccm
電力:200W
そして、ガスバリア性シートの特性を実施例1と同様にして評価した。ガスバリア膜の厚さ方向の組成の表−4に示す。また、ガスバリア膜の消衰係数は0.07であり、全光線透過率は78.3%、YIは5.3であり、水蒸気透過率は0.05g/m2・dayであり、酸素透過率は0.05cc/m2・day・atmであった。さらに、ガスバリア性シート製造直後の接着性は100%、耐湿熱試験後の接着性も100%であった。そして、ガスバリア膜上面の接触角は56.3°であった。
表−4に示すとおり、下面表面において、(炭素の原子数比)/(元素Xの原子数比)が0.8よりも大きくなっている。このため、YIが大きくなり、ガスバリア性シートの透明性が低下することになる。