JP5452060B2 - 銅合金及びその製造方法 - Google Patents
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すなわち、電子部品用の金属材料においては、電子部品の小型化が進むにつれて薄板化されるために強度をより一層向上させる必要があると共に、多ピン化及び狭ピッチ化が進むにつれて断面積が小さくなるために導電性をより一層向上させる必要がある。
しかしながら、最近の環境問題への配慮から、Beを含有する合金材料の使用が避けられるようになってきた。そこで、これらの合金材料に代わる銅合金の開発が精力的に行われている。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、強度及び導電性の両方に優れる、具体的には、900N/mm2を超える引張強度及び20%IACS以上の導電率を有する銅合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
と共に、銅合金中に析出する介在物の大きさを調整することで、銅合金の組織構造を最適
化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、3.3質量%以上5.1質量%以下のNi及び0.6質量%以上2.1質量%以下のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物で構成される銅合金であって、前記Niと前記Siとの質量比(Ni/Si)が4.3以上5.5以下であると共に、前記銅合金中に析出する介在物の大きさが10μm以下であり、引張強度が900N/mm 2 を超え、導電率が27%IACS以上であることを特徴とする銅合金である。
(銅合金)
本発明の銅合金は、3.3質量%以上8.4質量%以下のNi及び0.6質量%以上2.1質量%以下のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物で構成される。Niの含有量が3.3質量%未満であるか、又はSiの含有量が0.6質量%未満であると、十分な量のNi2Si結晶相が生じず、所望の強度及び導電性が得られない。一方、Niの含有量が8.4質量%を超えるか、又はSiの含有量が2.1質量%を超えると、Ni−Si化合物相やCu−Ni−Si合金相が多く析出してしまい、所望の強度及び導電性が得られない。
なお、本発明における不可避的不純物とは、通常の地金中に含まれるもの、又は銅合金の製造中に混入する不純物を意味し、例えば、As,Sb、Bi、Pb、S、Fe、O2及びH2等が挙げられる。
ここで、本発明における介在物とは、銅合金の製造中に生じる粗大な析出粒子を意味し、具体的には、大気との反応による酸化物や、Ni2Si微結晶以外の好ましくないNi−Si化合物相又はCu−Ni−Si合金相による粒子を意味する。
また、介在物の大きさとは、球形であればその直径の寸法を意味し、楕円形又は矩形であれば短直径又は短辺の寸法を意味する。
かかる元素の含有量は、総量で0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。かかる元素の配合量が0.1質量%未満であると、かかる元素の添加による曲げ加工性の向上効果が得られないことがある。一方、かかる元素の配合量が0.5質量%を超えると、導電性が低下してしまうことがある。
(銅合金の製造方法)
従来の銅合金の製造方法では、銅合金原料を溶解して鋳造することによって得られた鋳塊を複数回の熱処理(時効処理)を行うことで、銅合金中に格子欠陥を生じさせ、銅合金の強度及び導電率を向上させている。
例えば、特許文献1の銅合金の製造方法では、銅合金原料を溶解して金型に鋳造することによって所望寸法の鋳塊を得た後、その鋳塊を950〜1000℃に1分以上保持する溶体化処理を施して熱間圧延し、少なくとも300〜600℃の温度範囲を10℃/秒以上の冷却速度で冷却する。続いて、50%以上の加工率で冷間加工し、450〜550℃の温度で1分〜30分熱処理を行った後、更に30〜80%の加工率で冷間加工し、380〜440℃の温度で5〜180分の間熱処理を行っている。
さらに詳細に説明すると、本発明者らは、溶体化処理後の急冷により銅合金には十分な格子欠陥が導入されており、複数回の熱処理等によって歪を与えることは不要であることを見出した。その一方で、発明者らの試行により、時効処理後の冷却速度を10℃/h以上100℃/h以下とすることにより、Ni2Si化合物の十分な量の析出がなされると共に、銅合金に残余歪を残さないという効果があることを見出した。
さらに、銅合金原料として、曲げ加工性をより一層向上させる観点から、Mn及びFeからなる群より選択される少なくとも1種を総量で0.1質量%以上0.5質量%以下配合することもできる。かかる配合量とする理由は、上述の通りである。
なお、(a)工程中、鋳塊のスケールを除去する観点から、鋳塊を形成した後に面削を行ってもよい。また、(a)工程後に、合金内部の応力を除去する等の観点から焼鈍を行ってもよい。かかる面削及び焼鈍の方法は、特に制限されることはなく、公知の方法に従って行うことができる。
(c)工程における時効処理では、溶体化処理後の圧延材を400℃以上600℃以下で2時間以上8時間以下加熱する。かかる加熱温度及び時間であれば、微細なNi2Si化合物を析出した状態が得られる。また、加熱の方法は、特に制限されることはなく、公知の方法に従って行えばよい。
また、所定の冷却速度での冷却を380℃よりも高い温度までとすると、適切な銅合金の組織構造が得られず、所望の強度及び導電性が得られない。なお、かかる冷却温度が380℃に達した後は、その後の冷却過程によって銅合金の組織構造が大きく変化することはないため、かかる冷却温度の下限は特に制限されないが、適切な組織構造の銅合金を安定して得る観点から、350℃までは50℃/hの冷却速度で冷却することがより好ましい。
実施例及び比較例で得られた銅合金の下記の特性評価は、次の手順に従った。
(1)介在物の最大サイズ
介在物の最大サイズは、本発明の銅合金の断面を研磨し、研磨面をエッチングして走査電子顕微鏡により観察して測定した。具体的には、100μm角程度の観察領域を任意に5箇所観察して求めた。
(2)引張強度
引張強度の評価は、JIS Z2241に準拠して室温にて行った。
(3)導電率
導電率の評価は、JIS H0505に準拠して室温にて行った。
メッキ密着性の評価は、銅合金に厚さ3μmの電気Snメッキを施し、105℃で500時間の加熱を行った後、180度の折り曲げ、曲げ戻し試験を行い、試料表面を目視で観察することによって行った。この評価においては、メッキ膜が全く損傷していないものを○、メッキ膜は剥離していないが、損傷が認められるものを△、メッキ膜が剥離したものを×として表した。
(5)曲げ加工性
曲げ加工性の評価は、JIS Z2248に準拠し、90度V曲げ試験を行い、曲げた先端部表面を光学顕微鏡に観察することによって行った。この評価においては、しわが無いものをA、しわが小さいものをB、しわが大きいものをC、割れが小さいものをD、割れが大きいものをEとして表した。
実施例1では、Cu、Ni、Si及び不可避的不純物を所定の組成比で含有する銅合金(本発明品1〜3)を図1に示すフローチャートに従って製造した。なお、Cuの量については明示していないが、示された他の成分の量から見積もることが容易であることは言うまでもない。以下に、該フローチャートを用いて銅合金の製造方法を具体的に説明する。
まず、表1に示す組成比を満たすように銅合金原料(Cu、Ni、Si等)を準備し、当該銅合金原料を高周波溶解炉で溶解した後、厚さ10mmの板状の鋳塊に鋳造した(ステップS1)。
次に、鋳塊表面のスケールを除去するために面削を行った(ステップS2)。
その後、薄板を、900℃で2分間加熱した後、水中で冷却することによって溶体化処理を施した(ステップS4)。
次に、薄板を460℃で2時間加熱することによって時効処理を施した(ステップS5)。
次に、薄板を10℃/h以上100℃/h以下の冷却速度(具体的には、表1に示す各冷却速度)で380℃まで冷却した(ステップS6)。
その後、薄板を冷間圧延(仕上げ圧延)し、厚さ0.3mmの銅合金を得た(ステップS7)。
なお、この実施例における最終冷間加工率はいずれも21%であった。
実施例2では、Cu、Ni、Si、Zn及び不可避的不純物を所定の組成比で含有する銅合金(本発明品4〜7)を図1に示すフローチャートに従って製造した。
この実施例の製造条件は、実施例1と同じである。なお、この実施例における最終冷間効率はいずれも21%であった。
比較例1では、Cu、Ni、Si及び不可避的不純物を含有するが、組成比が所定の範囲外である銅合金(比較品1〜4)を図1に示すフローチャートに従って製造した。
この比較例の製造条件は、実施例1と同じである。なお、かかる比較例における最終冷間効率はいずれも21%であった。
比較例2では、Cu、Ni、Si、Zn及び不可避的不純物を所定の組成比で含有するが、時効処理後の冷却速度が所定の範囲外である銅合金(比較品5)を図1に示すフローチャートに従って製造した。
この比較例の製造条件は、時効処理後の冷却速度を5℃/hとしたこと以外は、実施例1と同じである。なお、この比較例における最終冷間効率は21%であった。
実施例1及び2、並びに比較例1及び2で得られた銅合金における介在物の最大サイズ、引張強度、導電率及びメッキ密着性評価結果を表1に示す。また、銅合金の引張強度と導電率との関係を図2に示す。
実施例3では、Cu、Ni、Si、Zn及び不可避的不純物に加えて、Mn及びMnからなる群より選択される少なくとも1種を所定の組成比で含有する銅合金(本発明品8〜15)を図1に示すフローチャートに従って製造した。この実施例の製造条件は、表2に示す組成比の銅合金原料を用いたこと及び冷却速度を50℃/hとしたこと以外は、実施例1と同じである。なお、この実施例における最終冷間効率はいずれも11%であった。
実施例3で得られた銅合金における引張強度、導電率及び曲げ加工性の評価結果を表2に示す。
Claims (8)
- 3.3質量%以上5.1質量%以下のNi及び0.6質量%以上2.1質量%以下のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物で構成される銅合金であって、
前記Niと前記Siとの質量比(Ni/Si)が4.3以上5.5以下であると共に、前記銅合金中に析出する介在物の大きさが10μm以下であり、
引張強度が900N/mm 2 を超え、導電率が27%IACS以上である
ことを特徴とする銅合金。 - 0.1質量%以上1.0質量%以下のZnをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
- Mn及びFeからなる群より選択される少なくとも1種を総量で0.1質量%以上0.5質量%以下さらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の銅合金。
- 前記銅合金中に析出する介在物の大きさが5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の銅合金。
- (a)3.3質量%以上5.1質量%以下のNi及び0.6質量%以上2.1質量%以下のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物で構成され、且つ前記Niと前記Siとの質量比(Ni/Si)が4.3以上5.5以下である銅合金原料を溶解して鋳塊を形成した後、前記鋳塊を圧延する工程と、
(b)前記圧延材を800℃以上1000℃以下に加熱した後に急冷する溶体化処理を施す工程と、
(c)前記溶体化処理後の圧延材を400℃以上600℃以下で2時間以上8時間以下加熱する時効処理を施す工程と、
(d)前記時効処理後の圧延材を、少なくとも380℃までは10℃/h以上100℃/h以下の冷却速度で冷却する工程と、
(e)前記冷却後の圧延材を冷間圧延して仕上げる工程と
を含むことを特徴とする
引張強度が900N/mm 2 を超え、導電率が27%IACS以上である銅合金の製造方法。 - 前記銅合金原料が、0.1質量%以上1.0質量%以下のZnをさらに含有することを特徴とする請求項5に記載の銅合金の製造方法。
- 前記銅合金原料が、Mn及びFeからなる群より選択される少なくとも1種を総量で0.1質量%以上0.5質量%以下さらに含有することを特徴とする請求項5又は6に記載
の銅合金の製造方法。 - 前記各工程を経て製造される銅合金中に析出する介在物の大きさが10μm以下であることを特徴とする請求項5ないし7のいずれか1項記載の銅合金の製造方法。
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