JP5452027B2 - 疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板 - Google Patents
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この特許文献5では、ブレージングシートの圧延方向に繰り返し応力が負荷された場合の疲労特性向上を意図しており、その実施例段落0035にも記載する通り、ブレージングシート(心材であるAl−Mn系合金板)の、圧延方向に対して平行な方向のX線回折強度比を測定している。したがって、この特許文献5では、ブレージングシートの圧延方向に対して平行な方向のCube方位を発達させようとしている。そして、これによって、ブレージングシートの圧延方向に引っ張りまたは圧縮の繰り返し応力が負荷された場合の、変形の局所的な集中を防止し、板厚方向への亀裂の進展を遅らせ、塑性域での疲労を含めた寿命を向上させることを狙いとしている。
本発明の積層板は、熱交換器に組み立てられる前に、先ず、図1に示すアルミニウム合金積層板1として、予め製造される。この積層板1は、ろう付けされる場合には、心材アルミニウム合金板2の一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。
このブレージングシートなどのアルミニウム合金積層板1を、成形ロールなどにより幅方向に曲折して、管内面側に皮材3が配置されるように偏平管状に形成した後、これを電縫溶接等により、偏平管状のチューブを形成する。即ち、図2に示す、流体通路が形成された偏平管状のチューブ(積層部材)11とする。
以下に、本発明積層板における心材アルミニウム合金板の組織について説明する。ここで、積層板あるいはろう付け相当加熱(熱履歴)後の積層板における心材アルミニウム合金板は、3000系アルミニウム合金組成からなる。
回転Cube方位 {001}<110>(Cube方位が板面回転した方位)
Goss方位 {011}<100>
回転Goss方位 {011}<011>
Brass 方位(B方位){011}<211>
Copper方位(Cu方位){112}<111>
若しくはD方位 {4411}<11118>
S方位 {123}<634>
B/G方位 {011}<511>
B/S方位 {168}<211>
P方位 {011}<111>
本発明における圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率の測定は、電界放射型走査電子顕微鏡FESEM(Field Emission Scanning Electron Microscope )による、後方散乱電子回折像EBSP(Electron Backscatter Diffraction Pattern )を用いた結晶方位解析方法により測定する。
本発明では、Al−Mn系(3000系)の心材アルミニウム合金板の集合組織における、圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率を10%以上に発達させることによって、本発明が課題とする疲労特性を向上させる。
本発明では、Al−Mn系(3000系)の心材アルミニウム合金板の集合組織における、圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率を10%以上に発達させるために、後述する通り、常法に比して、特に、中間焼鈍前の前半の冷間圧延工程における圧下率を93%以上に著しく高める。冷間加工率93%以上と加工ひずみを高めることにより、中間焼鈍時に45°Cube方位の発達の起点となる核が発生しやすくなり、45°Cube方位が発達する。
以下、本発明に係る積層板を構成する各部材のアルミニウム合金組成を説明する。先ず、本発明に係る心材アルミニウム合金板2は、前記した通り、3000系アルミニウム合金組成からなる。ただ、本発明心材アルミニウム合金板はチューブ材およびヘッダー材などの熱交換器用部材として、後述する本発明組織とするためだけでなく、それ以外にも、成形性、ろう付け性あるいは溶接性、強度、耐食性などの諸特性が要求される。
SiはFeと金属間化合物を形成して心材Al合金板の強度を高める。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.2%以上含有させる。一方、Si含有量が多過ぎると、心材中に粗大な化合物を形成して、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての耐食性が低下するため、上限は1.5%以下とする。したがって、Siの含有量範囲は0.2〜1.5%の範囲とする。
Cuは固溶状態にてAl合金板中に存在し、心材Al合金板の強度を向上させる。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.05%以上含有させる。一方、Cu含有量が多過ぎると、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての耐食性が低下するため、上限は1.2%以下とする。したがって、Cuの含有量範囲は0.05〜1.2%の範囲とする。
Mnは、規定している析出物などの金属間化合物をAl合金板中に分布させ、心材Al合金板の、耐食性を低下させることなく、強度を向上させるための元素である。また、結晶粒径を微細化させ、疲労特性を高める効果もある。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保し、疲労特性を高めるためには、下限0.3%以上含有させる。
Tiは、アルミニウム合金板中で微細な金属間化合物を形成し、心材アルミニウム合金板の耐食性を向上させる働きを有する。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な耐食性を確保するためには、下限0.03%以上含有させる。一方、Ti含有量が多過ぎると、アルミニウム合金積層板の成形性が低下し、部品形状への組付け等の加工時にアルミニウム合金積層板が割れてしまう恐れがある。このため、Ti含有量の上限は0.3%以下とする。したがって、Tiの含有量範囲は0.03〜0.3%の範囲とする。
Feは、不純物としてスクラップをAl合金溶解原料として使用する限り、心材Al合金板に必然的に含まれる。Feには、前述のようにSiと金属間化合物を形成して心材Al合金板の強度を高めるとともに、結晶粒径を微細化し、さらに心材の溶接性を高める効果がある。しかし、その含有量が多すぎると、心材Al合金板の耐食性が著しく低下する。このためFe含有量は1.0%以下に規制する。
Mgは心材Al合金板の強度を高めるが、その含有量が多いとフッ化物系フラックスを用いるノコロックろう付け法などにおいてろう付け性が低下する。このため、Mgによってろう付け性が低下するようなろう付け条件による熱交換器向けには、Mg含有量は0.5%以下に規制することが好ましい。
Cr、Zn、Zrは、心材Al合金板の疲労特性を高める効果がある。この効果を発揮させたい場合には、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%の各含有量範囲で、1種または2種以上を含有させる。
次に、心材Al合金板2にクラッドされるろう材合金4は、従来から汎用されているJIS4043、4045、4047などの4000系のAl−Si系合金ろう材など公知のろう材Al合金が使用できる。但し、前記した通り、ろう材合金はろう付けされる場合にのみ、選択的に必要で、一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。これに対して、溶接される場合には、一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3のみをクラッドしたクラッドシートとして構成される。
更に、心材アルミニウム合金板2にクラッドされる犠牲防食材合金3は、従来から汎用されているAl−1質量%Zn組成のJIS7072などの7000系アルミニウム合金等、Znを含む公知の犠牲防食材アルミニウム合金が使用できる。このような犠牲防食材は、冷却水がチューブ内面側に存在する自動車用熱交換器では必須となる。即ち、前記した冷却水が存在するチューブ内面側の腐食性に対する防食、耐蝕性確保のためには必須となる。
積層板の製造は以下の通りとした。表1に示すA〜Jの組成の3000系Al合金組成を溶解、鋳造してAl合金心材鋳塊を製造とした。この心材鋳塊の一方の面に、Al−1質量%Zn組成からなるJIS7072アルミニウム合金板を犠牲防食材3として、他面にAl−10質量%Si組成からなるJIS4045アルミニウム合金板をろう付け材4として、各々クラッドした。
前記した測定方法を各々用いて、上記冷延クラッド板である各積層板の心材部分と、上記ろう付け相当加熱後の各積層板(組み立て後の熱交チューブ部材を模擬)の心材部分の集合組織における、圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率(%)を各々求めた。45°方向のCube方位の面積率は、上記短時間のろう付け加熱では変化しない。クラッド板(積層板)素材の心材部分と、上記ろう付相当加熱後の各積層板の心材部分の両方について、各々表2、3に示す。
上記ろう付け相当加熱後の各積層板の引張り試験を行い、引張強さ(MPa)、を測定した。これらの結果を表3に示す。
上記ろう付け相当加熱後の各積層板の疲労特性の評価は、図3に示す、前記特許文献5にも記載された、公知の片振り型平面曲げ疲労試験機によって、常温にて行った。即ち、上記加熱後の各積層板から、圧延方向と平行となるように、10mm×60mm×板厚の試験片を切り出して試験片を作製した。この試験片の一端を、図3の右側に示すように、片振り平面曲げ疲労試験機の固定側に取り付けた。そして、この試験片の他端を、図3の左側に示すように、駆動側のナイフエッジで挟持した。
評価は、13000回以上を疲労寿命非常に良好:◎、10000回以上を疲労寿命良好:○、10000回未満を疲労寿命不十分:×とした。これらの結果を表3に示す。
Claims (10)
- 少なくとも心材アルミニウム合金板とアルミニウム合金犠牲防食材とをクラッドし、ろう付けによって熱交換器とされるアルミニウム合金積層板であって、前記心材アルミニウム合金板が、質量%で、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.05〜1.2%、Mn:0.3〜1.8%、Ti:0.03〜0.3%を各々含有するとともに、Fe:1.0 %以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金組成を有し、この心材アルミニウム合金板の集合組織における、圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率が10%以上、15%以下であることを特徴とする、疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有する請求項1に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Mgを0.5 質量%以下に規制した請求項1または2に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板の板厚が0.25mm未満の薄肉である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板の板厚が0.3mm未満の薄肉である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 少なくとも心材アルミニウム合金板とアルミニウム合金犠牲防食材とがクラッドされ、前記心材アルミニウム合金板が、質量%で、Si:0.2〜1.5%、Cu:0.05〜1.2%、Mn:0.3〜1.8%、Ti:0.03〜0.3%を各々含有するとともに、Fe:1.0 %以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金組成を有し、更に、600℃、3分間の加熱後の組織として、この心材アルミニウム合金板の集合組織における、圧延方向に対して45°方向のCube方位の面積率が10%以上、15%以下であることを特徴とする、疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Cr:0.03〜0.3%、Zn:0.2〜1.0%、Zr:0.03〜0.3%のうちの1種または2種以上を含有する請求項6に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Mgを0.5質量%以下に規制した、請求項6または7に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板の板厚が0.25mm未満の薄肉である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板の板厚が0.3mm未満の薄肉である請求項6乃至9のいずれか1項に記載の疲労特性に優れたアルミニウム合金積層板。
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