JP3908847B2 - 熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材および熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材 - Google Patents

熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材および熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ろう付けにより製造される自動車用熱交換器のチューブ管などに好適な、酸性とアルカリ性の両冷媒に適用可能な熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材および熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車用熱交換器のラジエーターは、図1(イ)(ロ)に示す構造のもので、冷媒を通すチューブ管1の間にフィン2を配置し、チューブ管1の両端にそれぞれヘッダープレート3を取付けてコア4を組立て、この組立体をろう付けした後、ヘッダープレート3にパッキン5を介して樹脂タンク6、7を取付けて製造される。コア4の側面はサイドプレート(図示せず)により補強される。冷媒は循環使用され、チューブ管を通る際冷却される。
前記フィン2にはJIS−3003合金にZnを1.5%程度添加した厚さ約0.1mmの薄板が用いられる。チューブ管1にはJIS−3003合金を芯材とし、その片面にろう材を、他面にJIS−7072合金を犠牲陽極材としてクラッドした厚さ0.2〜0.4mmのアルミニウム合金複合材(ブレージングシート)を、前記犠牲陽極材を内側(冷媒側)にして筒状に電縫加工したものが用いられる。ヘッダープレート3には厚さ1.0〜1.3mmのチューブ管と同じ材質のアルミニウム合金複合材が用いられる。
【0003】
従来より、熱交換器の冷媒には酸性冷媒が使用されてきたが、最近アルカリ性冷媒も使用されるようになり、チューブ管には酸性とアルカリ性の両方の腐食環境下に耐える材料が要求されている。
そして、JIS−7072合金に種々の合金元素を添加した犠牲陽極材を用いた改良型チューブ管(特開平9−176768号など)が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、本発明者等が前記改良型チューブ管について調査したところでは、前記チューブ管はアルカリ性腐食環境下では十分な耐食性が得られないことが判明し、その原因として、▲1▼アルカリ性腐食環境下では犠牲陽極材表面に水酸化アルミニウム皮膜が生成して犠牲陽極材の犠牲効果が阻害されること、▲2▼pHが10を超えるアルカリ性腐食環境下では芯材(JIS−3003合金)の自然電極電位が卑側に大きく移行して犠牲陽極材(Al−1〜3%Zn合金)との電位関係が逆転することの2点が挙げられた。
これらのことを基に、本発明者等は鋭意研究を進めて、酸性およびアルカリ性の両腐食環境下で優れた犠牲効果を示すアルミニウム合金犠牲陽極材並びに前記犠牲陽極材を用いた耐食性に優れるアルミニウム合金複合材の開発に成功した。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、Zn6.1〜12.0重量%(以下、%と略記する)、Fe0.5〜3.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材である。
【0006】
請求項2記載の発明は、Zn6.1〜12.0%、Fe0.5〜3.0%、Mn0.1〜2.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材である。
【0007】
請求項3記載の発明は、Si0.005〜1.2%、Fe0.005〜0.8%、Cu0.003〜1.2%、Mn0.1〜2.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、前記芯材の片面に請求項1または請求項2記載の犠牲陽極材がクラッドされていることを特徴とする熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材である。
【0008】
請求項4記載の発明は、Si0.005〜1.2%、Fe0.005〜0.8%、Cu0.003〜1.2%、Mn0.1〜2.0%を含有し、更にMg0.03〜0.5%、Cr0.03〜0.3%、Zr0.03〜0.3%、Ti0.03〜0.3%、Ni0.05〜2.0%の1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、前記芯材の片面に請求項1または請求項2記載の犠牲陽極材がクラッドされていることを特徴とする熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材である。
【0009】
【発明の実施の形態】
請求項1の発明のアルミニウム合金犠牲陽極材は、AlにZnを多量に含有させてpH10超のアルカリ性腐食環境下でも自然電極電位が芯材より卑になるようにし、またFeを所定量含有させ、これを微細な金属間化合物として分散させてアルカリ性腐食環境下での水酸化アルミニウム皮膜の生成を抑え、以てアルカリ性腐食環境下でも犠牲陽極効果が十分発揮されるようにしたものである。
【0010】
請求項1の発明において、Znの含有量を6.1〜12.0%に規定する理由は、アルカリ性腐食環境下では芯材の自然電極電位は大幅に卑側に移行するので、犠牲陽極材はZnを6.1%以上多めに含有させて犠牲陽極材の電位を十分卑にしておくことが望ましく、12.0%を超すと圧延加工性が低下するためである。
【0011】
またFeの含有量を0.5〜3.0%に規定する理由は、0.5%未満では前記水酸化皮膜の生成抑制効果が十分に得られず、3.0%を超えると犠牲陽極材の自己耐食性並びに圧延加工性が低下するためである。特に望ましいFeの含有量は0.5〜1.2%である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の犠牲陽極材にさらにMnを含有させ、これをAl−Mn−Fe系化合物としてマトリックス中に分散させて水酸化アルミニウム皮膜の生成を抑制するとともに強度を向上させた犠牲陽極材である。
Mnの含有量を0.1〜2.0%に規定する理由は、0.1%未満ではその効果が十分に得られず、2.0%を超えると犠牲陽極材の自己耐食性並びに圧延加工性が低下するためである。Mnの含有量は0.2〜1.2%が特に望ましい。不可避不純物元素のSiは0.5%以下、できれば0.1%以下が望ましい。Si以外の不純物元素は各0.05%以下なら含まれていても問題ない。
【0013】
請求項3、4のアルミニウム合金複合材の発明は、アルミニウム合金芯材の片面に前記アルミニウム合金犠牲陽極材をクラッドしたものである。
以下に、前記アルミニウム合金芯材の合金元素について説明する。
Siは、ろう付け時にマトリックス中に固溶して芯材の強度を向上させる。
Siの含有量を0.005〜1.2%に規定する理由は、0.005%未満ではその効果が十分に得られず、1.2%を超えるとSiが単体で析出して芯材の自己耐食性を低下させるためである。Siの含有量は0.005〜0.8%が特に望ましい。
【0014】
Feは粗大な金属間化合物としてマトリックス中に分布して、芯材の結晶粒を微細化し、チューブ管に成形するときの割れの発生を防止する。
Feの含有量を0.005〜0.8%に規定する理由は、0.005%未満ではその効果が十分に得られず、0.8%を超えると芯材の自己耐食性が低下するためである。Feの含有量は0.05〜0.3%が特に望ましい。
【0015】
Cuは強度向上に寄与する。
Cuの含有量を0.003〜1.2%に規定する理由は、0.003%未満ではその効果が十分に得られず、1.2%を超えると融点が低下して芯材がろう付け時の加熱で局部的に溶融するためである。
なお、Cuは、特にアルカリ性腐食環境下では、芯材表面に再析出して強力なカソードとなり芯材の自己耐食性を低下させるので、強度をそれ程要しない場合は、Cuの含有量は0.01%未満にするのが望ましい。
【0016】
Mnは微細な金属間化合物を形成してマトリックス中に分布し、耐食性を低下させることなく強度を向上させる。
Mnの含有量を0.1〜2.0%に規定する理由は、0.1%未満ではその効果が十分に得られず、2.0%を超えると圧延加工性が低下するためである。Mnの含有量は0.1〜1.5%が特に望ましい。
【0017】
選択元素のCr、Zr、Ti、Niは、いずれも微細な金属間化合物を形成して芯材の強度と耐食性を向上させる。
Cr、Zr、Tiの含有量をそれぞれ0.03〜0.3%に規定する理由は、0.03%未満ではいずれもその効果が十分に得られず、0.3%を超えるといずれも鋳造割れの発生頻度が増すためである。これら元素の特に望ましい含有量はそれぞれ0.08〜0.2%である。
Niの含有量は0.05〜2.0%に規定するが、規定理由は前記Crなどの場合と同じである。Niの特に望ましい含有量は0.08〜1.0%である。
選択元素のMgは、SiとともにMg−Si系化合物を時効析出して強度向上に寄与する。Mgの含有量を0.03〜0.5%に規定する理由は、0.03%未満ではその効果が十分に得られず、0.5%を超えるとろう付けの際にMgがろう材に拡散しフラックスと反応してろう付け性が低下するためである。
鋳塊組織を微細化するためのBまたはその他の不可避不純物元素は各0.05%以下であれば含有されていても差し支えない。
【0018】
本発明のアルミニウム合金複合材には、アルミニウム合金芯材の片面にアルミニウム合金犠牲陽極材をクラッドし、更に他面にアルミニウム合金ろう材をクラッドしたものも含まれる。前記ろう材にはAl−Si系のJIS−4343合金、JIS−4045合金、JIS−4004合金などが使用できる。
本発明のアルミニウム合金複合材は、熱交換器のチューブ管やヘッダープレートなどに適用される。
前記チューブ管は、従来の電縫加工法や折り曲げ加工した筒体の端部をろう付けする方法などにより形成することができる。
【0019】
【実施例】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)
表1〜3に示す本発明規定組成の芯材と犠牲陽極材の合金をそれぞれ金型鋳造し、芯材用鋳塊は厚さ40mmに面削し、犠牲陽極材用鋳塊は、面削後、熱間圧延して厚さ5mmの板とした。ろう材はJIS−4343合金を金型鋳造して得た鋳塊は面削後、熱間圧延して厚さ5mmの板とした。
前記犠牲陽極材用板、芯材用鋳塊、ろう材用板をこの順に重ねて500℃にて熱間圧延して厚さ5mmの3層クラッド材とし、これを厚さ0.29mmに冷間圧延し、次いで340℃で2時間加熱する中間焼鈍を施した後、冷間圧延して厚さ0.25mmのアルミニウム合金複合材(H14材のブレージングシート)を製造した。ここで犠牲陽極材のクラッド率は15%、ろう材のクラッド率は10%であった。
【0020】
(比較例1)
芯材と犠牲陽極材の合金組成を表3に示す本発明規定組成外とした他は、実施例1と同じ方法によりアルミニウム合金複合材を製造した。
【0021】
得られた各々のブレージングシートについて、引張試験および耐食性試験を行った。耐食性試験は酸性環境下とアルカリ性環境下の両方について行った。従来材についても同様の調査を行った。
試験方法を下記に示す。
〔引張試験〕
各アルミニウム合金複合材(ブレージングシート)からJIS5号引張試験片を切出し、これを窒素ガス中で600℃(ろう付け相当温度)で3分間熱処理した後、引張試験を行った。
〔耐食性試験〕
各アルミニウム合金複合材を電縫加工してチューブ管(長さ500mm、断面の幅16mm、高さ2mm)とし、このチューブ管を用いて図1に示す構造の熱交換器を組立て、この熱交換器に酸性またはアルカリ性の腐食液を所定期間循環させた。その後、各熱交換器からチューブ管をランダムに10本づつサンプリングし、チューブ管内面の孔食深さを光学顕微鏡を用いた焦点深度法により測定した。測定値は四捨五入して5μm単位で表し、そのうちの最大深さを表示した。
フィンにはAl−0.5%Si−1.0%Mn−2.0%Zn合金からなる厚さ0.1mmの薄板材をコルゲート加工したものを用いた。
ヘッダープレートとサイドプレートには、JIS−3003合金にMgを0.15%添加した芯材の片面にAl−1.5%Zn合金の犠牲陽極材を、他面にJIS−4343合金のろう材をそれぞれクラッド率10%でクラッドした厚さ1.2mmのアルミニウム合金複合材を用いた。
酸性腐食液にはCl1-イオン195ppm、SO4 2- イオン60ppm、Cu2+イオン1ppm、Fe3+イオン30ppmを含む水溶液(pH3)を用いた。
アルカリ性腐食液にはCl1-イオン195ppm、SO4 2- イオン60ppm、Cu2+イオン1ppm、Fe3+イオン30ppmを含む水溶液にNaOHを添加してpH11に調整した腐食液を用いた。
各腐食液の循環は、腐食液を88℃に加熱して8時間、室温で16時間循環するサイクルを6ヶ月間繰り返して行った。
結果を表4、5に示す。
なお、表4、5には、引張強さが150MPaを超えたものに◎、150MPa以下のものに○を付記した。また最大孔食深さが100μmを超えたものに×、100μm以下のものに○を付記した。またアルカリ性腐食試験の場合は、最大孔食深さが50μm以下のものに◎を付記した。
【0022】
【表1】
Figure 0003908847
【0023】
【表2】
Figure 0003908847
【0024】
【表3】
Figure 0003908847
【0025】
【表4】
Figure 0003908847
【0026】
【表5】
Figure 0003908847
【0027】
表4〜5より明らかなように、本発明例のNo.1〜20は酸性およびアルカリ性の両腐食環境下において孔食深さが100μm以下の優れた耐食性を示した。中でも、犠牲陽極材が6.1%以上のZnと適量のFeを含有し、或いはさらにMnを適量含有し、かつ芯材のCuが0.01%未満のNo.1〜4、7〜9、13〜16はいずれもアルカリ性腐食環境下での耐食性が特に優れた。芯材のCuが0.01%以上のNo.5〜6、10〜12、17〜20は引張強さが150MPaを超え特に優れていた。一方、比較例のNo.21は犠牲陽極材のZnが少ないためアルカリ性腐食環境下で犠牲陽極材と芯材との電位差が小さくなり、No.22は犠牲陽極材のFeが少ないためアルカリ性腐食環境下で犠牲陽極材表面に水酸化アルミニウム皮膜が形成されていずれも耐食性が劣った。No.23は犠牲陽極材のZnが多いため圧延途中で割れてしまいアルミニウム合金複合材を製造できなかった。No.24は犠牲陽極材のFeが多いため両腐食環境下で犠牲陽極材の自己耐食性が低下した。No.25は犠牲陽極材のMnが多いためチューブ管に成形できなかった。No.26は芯材のSiが多いため芯材にSi単体が析出し両腐食環境下で芯材の自己耐食性が低下した。No.27は芯材のCuが多いためろう付け加熱時にチューブ管が溶融した。従来材のNo.28は犠牲陽極材のZnが1.0%と少ないためアルカリ性腐食環境下で犠牲陽極材と芯材との電位差が十分にとれず耐食性が劣った。
【0028】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明のアルミニウム合金犠牲陽極材は酸性およびアルカリ性の両腐食環境下で優れた犠牲効果を示し、また前記犠牲陽極材を用いたアルミニウム合金複合材は酸性およびアルカリ性の両腐食環境下で優れた耐食性を示し、熱交換器のチューブ管などに用いて高い信頼性が得られる。依って、工業上顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(イ)は自動車用熱交換器(ラジエーター)の正面図、(ロ)は(イ)のA−A断面拡大図である。
【符号の説明】
1 チューブ管
2 コルゲートフィン
3 ヘッダープレート
4 コア
5 パッキン
6、7 樹脂タンク

Claims (4)

  1. Zn6.1〜12.0重量%(以下、%と略記する)、Fe0.5〜3.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材。
  2. Zn6.1〜12.0%、Fe0.5〜3.0%、Mn0.1〜2.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金犠牲陽極材。
  3. Si0.005〜1.2%、Fe0.005〜0.8%、Cu0.003〜1.2%、Mn0.1〜2.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、前記芯材の片面に請求項1または請求項2記載の犠牲陽極材がクラッドされていることを特徴とする熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材。
  4. Si0.005〜1.2%、Fe0.005〜0.8%、Cu0.003〜1.2%、Mn0.1〜2.0%を含有し、更にMg0.03〜0.5%、Cr0.03〜0.3%、Zr0.03〜0.3%、Ti0.03〜0.3%、Ni0.05〜2.0%の1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金を芯材とし、前記芯材の片面に請求項1または請求項2記載の犠牲陽極材がクラッドされていることを特徴とする熱交換器用高耐食性アルミニウム合金複合材。
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