JP5739828B2 - アルミニウム合金積層板 - Google Patents
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Description
本発明の積層板は、熱交換器に組み立てられる前に、先ず、図1に示すアルミニウム合金積層板1として、予め製造される。この積層板1は、ろう付けされる場合には、心材アルミニウム合金板2の一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。
このブレージングシートなどのアルミニウム合金積層板1を、成形ロールなどにより幅方向に曲折して、管内面側に皮材3が配置されるように偏平管状に形成した後、これを電縫溶接等により、偏平管状のチューブを形成する。即ち、図2に示す、流体通路が形成された偏平管状のチューブ(積層部材)11とする。
ここで、積層板(ろう付け相当加熱前後)における心材アルミニウム合金板は、3000系アルミニウム合金組成からなる。本発明では、この心材アルミニウム合金板の強度と耐エロージョン性を高めるために、ろう付け処理される前のあるいは熱交換器組み立て(熱履歴)前の素材積層板としての、この心材の組織における分散粒子の平均数密度と分散粒子の組成とを規定する。なお、この規定は、アルミニウム合金積層板がろう付けに相当する加熱処理を受けた後でも、あるいはろう付けによって熱交換器とされた後でも、この心材の組織における分散粒子の平均数密度と分散粒子の組成の規定として、熱交換器における前記心材の強度と耐エロージョン性を高めるために有効である。
本発明では、心材(板)の強度と耐エロージョン性を高めるために、心材アルミニウム合金板の板厚中心部(心材アルミニウム合金板の圧延面板厚中心部)での50000倍のTEMにより観察される、円相当直径が0.5μm以下のサブミクロンレベルの大きさの分散粒子(析出物)の平均数密度を規定する。これによって、本発明では、これらサブミクロンレベルの大きさの分散粒子の平均数密度を好適範囲内に制御したうえで、組織内に積極的に多く存在(分散)させ、これら分散した析出物の作用によって、耐エロージョン性を向上させる。また、強度に関しては、前記分散した析出物の作用に加えて、後記する分散粒子の組成の制御による作用の組合せによって、向上させる。
本発明では、心材(板)が0.17mm未満のより薄肉なブレージングシートにおいて、熱交換器に必要な強度を高めるために、心材アルミニウム合金板の板厚中心部における、円相当直径が0.5μm以下のサブミクロンレベルの大きさの分散粒子(析出物)の平均数密度を規定する。また、これに加えて、これら円相当直径が0.5μm以下の分散粒子(析出物)のうち、Al−Mn−Si系分散粒子の平均Mn/Si組成比(質量%換算)を2.50以上とする。
心材に合金元素として含有され、心材(熱交換器)に必要な強度と耐エロージョン性に効くSiは、マトリックスに固溶する分と、Al−Mn−Si系分散粒子となって析出する分とに分かれる。この分散粒子に消費されるSi量が多くなって、固溶するSi量が少ないと、幾らSiの含有量自体が多くても、心材に必要な強度がSiからは得られない。したがって、本発明では、この分散粒子に食われる(消費される)Si量を極力小さくして、固溶するSi量を増す。
また、Siの含有量が少ない=Mn/Si組成比が大きいα−AlMnSi相粒子の組成は前述したようにMn3SiAl12であることから、α−AlMnSi相粒子の割合が増大するほど、Mn/Si組成比は3.0に近づくことになる。但し、この化合物には組成幅があるため、Mn/Si組成比として実測で得られる上限は5.0程度である。
同時に、もうひとつの分散粒子の組成の要件として、前記固溶Siの確保だけでなく、これら円相当直径が0.5μm以下のAl−Mn−Si系分散粒子のα型分散粒子とβ型分散粒子との割合も、心材に必要な強度を得るために重要となる。すなわち、前記Al−Mn−Si系分散粒子のうちで、Mnの量が多い=Mn/Si組成比が高い立方晶であるα型分散粒子を多くし、Mnの量が少ない=Mn/Si組成比が低い六方晶であるβ型分散粒子が少ない方が、心材の固溶Si含有量が増大し、心材に必要な強度が向上する。
また、実際にα型分散粒子の割合が100%になることはないため、a/bの比の上限としては、50程度である。
これら分散粒子のサイズと組成および平均数密度の測定は、50,000倍のFE−TEM(透過型電子顕微鏡)と、これに付随するX線分光装置(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy、EDSとも言う)によって行う。
本発明で規定する範囲内に分散粒子を制御するためには、心材(積層板)の製造工程において、高温域を多くすることが必要である。すなわち、前記した平均Mn/Si組成比が2.50以上の分散粒子、あるいはMnの量が多い=Mn/Si組成比が高い立方晶であるα型Al−Mn−Si系分散粒子を多くする(目安としての前記体積分率a/bの比を0.50以上とする)ためには、これらが生成(析出)しやすい高温域下で長時間保持することが必要となる。
なお、本発明の心材組織の前提として、ろう付け相当加熱後の積層板としての、心材アルミニウム合金板の前記平均結晶粒径が微細化した場合には、板の耐エロージョン性が低下する。したがって、ろう付け相当加熱後の積層板における心材アルミニウム合金板の、圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径は120μm以上に粗大化させることが好ましく、さらに好ましくは150μm以上である。一方、平均結晶粒径が大きくなりすぎると、ろう付け後強度が低下するため、250μm以下が好ましく、さらに好ましくは200μm以下である。
以下、本発明に係る積層板を構成する各部材のアルミニウム合金組成を説明する。先ず、本発明に係る心材アルミニウム合金板2は、前記した通り、3000系アルミニウム合金組成からなる。ただ、本発明心材アルミニウム合金板はチューブ材およびヘッダー材などの熱交換器用部材として、後述する本発明組織とするためだけでなく、それ以外にも、成形性、ろう付け性あるいは溶接性、強度、耐食性などの諸特性が要求される。
Siはマトリックスに固溶して、心材(熱交換器)に必要な強度に効く。ただ、Siは、前記した通り、Al−Mn−Si系分散粒子に消費される分もあるので、固溶Si量を確保する意味からも下限0.4%以上含有させる。また、Siは、特に前記Al−Mn−Si系分散粒子を形成することでも、心材アルミニウム合金板の強度を高める効果もある。Si含有量が0.4%未満では、これらの効果が不足する。一方、Si含有量が多過ぎると、心材の融点を低下させると共に、低融点相の増加に起因してろう付け時に心材の溶融が生じてしまうため、上限は1.5%以下とする。したがって、Siの含有量範囲は0.4〜1.5%の範囲とする。
Cuは固溶状態にてアルミニウム合金板中に存在し、心材アルミニウム合金板の強度を向上させる元素であり、また、ろう材側の耐食性も向上させる。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.05%以上含有させる。一方、Cu含有量が多過ぎると、ろう付け加熱後の冷却時に粗大なCu系化合物が結晶粒界に析出して粒界腐食が起こりやすくなり、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての耐食性が低下する。また、心材の融点を低下させるため、ろう付け時に心材の溶融が生じてしまう。従って、上限は1.2%以下とする。したがって、Cuの含有量範囲は0.05〜1.2%の範囲とする。
Mnは、規定している微細分散粒子をアルミニウム合金板中に分布させ、心材アルミニウム合金板の、耐食性を低下させることなく、分散強化によって強度を向上させるための元素である。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な強度を確保するためには、下限0.5%以上含有させる。
Tiは、アルミニウム合金板中で微細な金属間化合物を形成し、心材アルミニウム合金板の耐食性を向上させる働きを有する。具体的には、Tiの添加によって、心材アルミニウム合金板中に層状に析出し、孔食が深さ方向へ進行することを抑制すると共に、Tiの添加により心材電位を貴に移行させることができる。また、Tiはアルミニウム合金において拡散速度が小さく、ろう付け時の移動も少ないため、Tiを添加することは、心材とろう材、または心材と犠材の電位差を維持して、電気化学的に心材を紡織することに有効である。このため、前記積層板やろう付け相当加熱後の積層板としての必要な耐食性を確保するためには、下限0.03%以上含有させる。
Feは、不純物としてスクラップをアルミニウム合金溶解原料として使用する限り、心材アルミニウム合金板に必然的に含まれる。Feには、前述のようにSiと金属間化合物を形成して心材アルミニウム合金板の強度を高めるとともに、心材のろう付け性を高める効果もある。しかし、その含有量が多すぎると、心材アルミニウム合金板の自己耐食性が著しく低下する。また、粗大な化合物を形成し、アルミニウム合金積層板の成形性が低下し、部品形状への組付け等の加工時にアルミニウム合金積層板が割れてしまう恐れがある。このため、Fe含有量は1.0%以下(0%を含む)に規制する。
Mgは心材アルミニウム合金板の強度を高める効果もあるが、その含有量が多いと、ろう材へのMgの拡散の影響が強くなるために、フッ化物系フラックスを用いるノコロックろう付け法などにおいて、ろう付け時にろう材表面に塗布されるフッ化物系フラックスと材料中のMgが反応し、ろう付け性が著しく低下する。このため、Mgによってろう付け性が低下するようなろう付け条件による熱交換器向けには、Mg含有量は0.8%以下に規制することが好ましい。
Cr、Zr、Niは、規定している円相当直径が100nm以下のサブミクロンレベルの大きさの析出物(金属間化合物)をアルミニウム合金板中に分布させるための元素であり、これらのうちの1種または2種以上を含有させる。このうちでも、特にZrが、微細分散粒子を規定の粒度分布だけアルミニウム合金板中に分布させる効果が最も大きい。Cr、Zr、Niが各規定下限量未満では、微細分散粒子を充分分布させることができずに、分散強化による強度向上効果が得られない。また、Cr、Zr、Niが各規定上限量を超えて多すぎると、粗大な化合物を形成し、アルミニウム合金積層板の成形性が低下し、部品形状への組付け等の加工時にアルミニウム合金積層板が割れてしまう恐れがある。したがって、含有させる場合、Crは0.02〜0.4%、Zrは0.02〜0.4%、Niは0.02〜0.4%の各範囲とする。
Znは、固溶強化によって、心材アルミニウム合金板の強度を高める効果がある。ただし、Znは母相の電位を卑にして優先的に腐食する作用があるため、心材へのZnの含有量が多いと、優先腐食層として設けられた犠牲防食材と心材の電位差が小さくなり、耐食性が劣化する。従って、Zn含有量はこの効果を発揮させたい場合には、Zn:0.2〜1.0%の範囲で選択的に含有させる。
心材アルミニウム合金板2にクラッドされるろう材合金4は、従来から汎用されているJIS4043、4045、4047などの4000系のAl−Si系合金ろう材など公知のろう材アルミニウム合金が使用できる。ろう材合金は、一方の面にアルミニウム合金犠牲防食材(板)3と、他面にアルミニウム合金ろう付け材(板)4とをクラッドしたブレージングシートとして構成される。
心材アルミニウム合金板2にクラッドされる犠牲防食材合金3は、従来から汎用されているAl−1質量%Zn組成のJIS7072などの7000系アルミニウム合金等、Znを含む公知の犠牲防食材アルミニウム合金が使用できる。このような犠牲防食材は、冷却水がチューブ内面側に存在する自動車用熱交換器では必須となる。即ち、前記した冷却水が存在するチューブ内面側の腐食性に対する防食、耐蝕性確保のためには必須となる。
積層板の製造は以下の通りとした。表1に示すA〜Tの組成の3000系アルミニウム合金組成を溶解、鋳造してアルミニウム合金心材鋳塊を製造とした。発明例は、この心材鋳塊のみを、表2に示す温度条件にて共通して10時間保持する1回目の均熱処理を行った。その後、犠牲防食材およびろう付け材を積層した後で、再加熱して2回目の均熱処理(共通して3時間保持)を行った。表2に示している「1回目の均熱処理温度」は心材鋳塊のみの均熱処理温度であり、「2回目の均熱処理温度」は積層板(積層鋳塊)の均熱処理温度である。
前記した測定方法を各々用いて、上記冷延クラッド板である積層板の心材部分と、上記加熱後の各積層板の心材部分との組織を観察した。具体的には、積層板の心材部分の、圧延方向の縦断面における圧延方向の平均結晶粒径(μm)を前記した測定方法で測定した。ここで、素材であるろう付け相当加熱前の積層板の心材アルミニウム合金板の平均結晶粒径は、表2に示していないが、合金組成や製造条件によって、加工組織のままや再結晶組織となっているものなど様々であり、加工組織に関しては平均粒径が評価できないものもあり、さらに、表2に示す、ろう付け相当加熱後の積層板における心材アルミニウム合金板の平均結晶粒径とは対応関係が認められなかった。
上記ろう付け相当加熱後の各積層板の引張り試験を行い、引張強さ(MPa)を各々測定した。これらの結果を表2に示す。試験条件は、各積層板から圧延方向に対し垂直方向のJISZ2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚)を採取し、引張り試験を行った。引張り試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温20℃で試験を行った。また、クロスヘッド速度は、5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
耐エロージョン性は、エロージョン深さを測定して評価した。前記ろう付け相当加熱前の積層板に、市販の非腐食性フラックスを3〜5g/m2 塗布し、酸素濃度が200ppm以下の雰囲気中において600℃で5分以上保持し、ろう付け試験片を作製した。次に、ろう付け相当加熱を施した積層板の圧延方向の縦断面を、機械研磨、電解エッチングによって前処理した後に、100倍の光学顕微鏡を用いて5視野観察する。その5視野の中で、ろう材の心材への浸入深さ(エロージョン深さ)を測定し、それらの平均値としてエロージョン深さ(μm)を求めた。
比較例20は、表1の合金略号Nのように、Cu量が少なすぎる。
比較例21は、表1の合金略号Oのように、Mn量が少なすぎる。
比較例22は、表1の合金略号Pのように、Fe量が多すぎる。
比較例23は、表1の合金略号Qのように、Ti量が少なすぎる。
比較例24、25は、表1の合金略号R、Sのように、Cr、Zr、Niを含有していない。
比較例26は、表1の合金略号Tのように、Zn量が多すぎる。
Claims (6)
- 少なくとも心材アルミニウム合金板とアルミニウム合金犠牲防食材とをクラッドし、ろう付けによって熱交換器とされるアルミニウム合金積層板であって、前記心材アルミニウム合金板が、質量%で、Mn:0.5〜1.8%、Si:0.4〜1.5%、Cu:0.05〜1.2%、Ti:0.03〜0.3%を各々含有するとともに、Fe:1.0%以下(0%を含む)に規制し、更に、Cr:0.02〜0.4%、Zr:0.02〜0.4%、Ni:0.02〜0.4%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金組成を有し、この心材アルミニウム合金板の圧延面板厚中心部で観察される円相当直径が0.5μm以下の分散粒子の平均数密度が10個/μm3以上25個/μm3以下であり、かつ、前記円相当直径が0.5μm以下の分散粒子に含まれるAl−Mn−Si系分散粒子の平均Mn/Si組成比(質量%換算)が2.50以上であり、かつ、前記円相当直径が0.5μm以下のAl−Mn−Si系分散粒子のうち、Mn/Si組成比(質量%換算)が2.50以上のAl−Mn−Si系分散粒子の体積分率aと、Mn/Si比(質量%換算)が2.50未満のAl−Mn−Si系分散粒子との体積分率bとの比a/bが0.50以上であることを特徴とするアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Zn:0.2〜1.0%を含有する、請求項1に記載の強度と耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板が、更に、Mgを0.8%以下(0%を含む)に規制した、請求項1または2に記載の強度と耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板における心材アルミニウム合金板の板厚が0.17mm未満の薄肉である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の強度と耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記積層板の板厚が0.2mm未満の薄肉である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の強度と耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金積層板。
- 前記アルミニウム合金積層板が、ろう付けに相当する加熱処理を受けた後でも、あるいはろう付けによって熱交換器とされた後でも、前記心材アルミニウム合金板の板厚中心部で観察される円相当直径が0.5μm以下の分散粒子の平均数密度が5個/μm3以上20個/μm3以下であり、かつ、前記円相当直径が0.5μm以下の分散粒子に含まれるAl−Mn−Si系分散粒子の平均Mn/Si組成比(質量%換算)が2.50以上であり、かつ、前記円相当直径が0.5μm以下のAl−Mn−Si系分散粒子のうち、Mn/Si組成比(質量%換算)が2.50以上のAl−Mn−Si系分散粒子の体積分率aと、Mn/Si比(質量%換算)が2.50未満のAl−Mn−Si系分散粒子との体積分率bとの比a/bが0.50以上である組織を有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の強度と耐エロージョン性に優れたアルミニウム合金積層板。
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