以下本発明の実施の形態を図1〜図10に基づいて説明する。図1に第1実施形態の車輪用軸受装置を示し、この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と、複列の転がり軸受2と、等速自在継手3とが一体化されるとともに、ハブ輪1と、ハブ輪1の孔部22に嵌挿される等速自在継手3の外側継手部材の軸部12とが凹凸嵌合構造Mを介して分離可能に結合されてなる。
等速自在継手3は、図6に示すように、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその軸孔内径6aにシャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面にて外輪5の内球面13と接し、内球面にて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、各トラック溝14、16の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
また、マウス部11の開口部はブーツ18にて塞がれている。ブーツ18は、大径部18aと、小径部18bと、大径部18aと小径部18bとを連結する蛇腹部18cとからなる。大径部18aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド19aにて締結され、小径部18bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド19bにて締結されている。
ハブ輪1は、図1と図3に示すように、筒部20と、筒部20のアウトボード側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸部嵌合孔22aと、アウトボード側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する内壁22cが設けられている。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。なお、この内壁22cの反軸部嵌合孔側の端面には凹窪部51が設けられている。自動車等の車両に組付けた状態で車両の外側となる方をアウトボード側、自動車等の車両に組付けた状態で車両の内側となる方をインボード側という。
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりも反内壁側の開口側に大径部46を有し、軸部嵌合孔22aよりも内壁側に小径部48とを有する。大径部46と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)49aが設けられている。このテーパ部49aは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。テーパ部49aのテーパ角度θは、例えば15°〜75°とされる。なお、軸部嵌合孔22aと小径部48との間にもテーパ部49bが設けられている。
転がり軸受2は、ハブ輪1の筒部20のインボード側に設けられた小径段部23に嵌合する内輪24を有する内方部材と、ハブ輪1の筒部20乃至内輪24に跨って外嵌される外方部材25とを備える。外方部材25は、その内周に2列の外側軌道面(アウタレース)26、27が設けられ、第1外側軌道面26とハブ輪1の軸部外周に設けられる第1内側軌道面(インナレース)28とが対向し、第2外側軌道面27と、内輪24の外周面に設けられる第2内側軌道面(インナレース)29とが対向し、これらの間に転動体30としてのボールが介装される。すなわち、ハブ輪1の一部(筒部20の外径面)と、ハブ輪1のインボード側の端部の外周に圧入される内輪24とで、インナレース28,29を有する内方部材を構成している。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材S1、S2が装着されている。また、外方部材25である外輪には、図示省略の車体の懸架装置から延びるナックル34(図6等参照)が取り付けられている。
この場合、ハブ輪1のインボード側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
外輪5の軸部12には、その軸心部にアウトボード側の端面に開口するねじ孔50が設けられている。このねじ孔50は、その開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部50aとされている。また、軸部12のアウトボード側の端部には小径部12bが設けられている。すなわち、軸部12は大径の本体部12aと小径部12bとを備える。
凹凸嵌合構造Mは、図2に示すように、例えば、軸部12に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)であり、各凸部35の凹部嵌合部位とは、図2(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
このように、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したように、ハブ輪1のインボード側の端部を加締めて、その加締部31にて軸受2に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて軸受2に予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図3に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う山部41aと谷部41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の山部41aが硬化処理されて、この山部41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。このスプライン41は、軸部12の本体部12aの小径部側に設けられている。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れ行う方法である。軸部12のスプライン41のモジュールを0.5以下の小さい歯とする。ここで、モジュールとは、ピッチ円直径を歯数で割ったものである。
また、ハブ輪1の孔部22の内径面37(つまり、軸部嵌合孔22aの内径面)側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。さらに、具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37)の位置に対応する。すなわち、図3に示すように、軸部嵌合孔22aの内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大直径寸法、つまりスプライン41の山部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、軸部外径面の凸部間に形成された谷部41bの最小直径寸法、つまりスプライン41の谷部41bの底を結ぶ円の直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。また、孔部22の大径孔46の孔径寸法D3よりもD1を小さく設定する。
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
そして、図3に示すように、ハブ輪1の軸心と等速自在継手3の外輪5の軸心とを合わせた状態とする。この状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。この際、前記したように、軸部嵌合孔22aの内径面37の径寸法Dと、凸部35の最大直径寸法D1と、凸部35間の谷部41bの最小直径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が内径面37の硬度よりも20ポイント以上大きいので、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。
この圧入は、軸部12の小径部12bに端面52が内壁22cの端面53に当接するまで若しくは図示しないが等速自在継手3のバック面11a部がハブ輪かしめ部31に当接するまで行われる。これによって、図2(a)(b)に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が孔部22の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。すなわち、軸部12側のスプライン(雄スプライン)41によって、ハブ輪1の孔部22の内径面に、雄スプライン41に密着する雌スプライン42が形成される。
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29のボール接触部位置に対して径方向に対応しない位置である。
また、圧入後には、アウトボード側から軸部12のねじ孔50にボルト部材54を螺着する。ボルト部材54は、図3に示すように、フランジ付き頭部54aと、ねじ軸部54bとからなる。ねじ軸部54bは、大径の基部55aと、小径の本体部55bと、先端側のねじ部55cとを有する。この場合、内壁22cに貫通孔56が設けられ、この貫通孔56にボルト部材54の軸部54bが挿通されて、ねじ部55cが軸部12のねじ孔50に螺着される。図3に示すように、貫通孔56の孔径d1は、軸部54bの大径の基部55aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部55cの最大外径は、大径の基部55aの外径と同じか基部55aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
このように、ボルト部材54を軸部12のねじ孔50に螺着することによって、ボルト部材54の頭部54aのフランジ部60が内壁22cの凹窪部51に嵌合する。すなわち、この内壁22cが、ボルト部材54に座面を構成することになる。この場合、この実施形態では、軸部12のアウトボード側の端面52が内壁22cのインボード側の端面に当接して、この軸部12とボルト部材54の頭部54aとで内壁22cが挟持される。
ところで、本発明においては、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。すなわち、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間に隙間58が設けられる。このため、図5(a)(b)に示すように、この隙間58をシール部材59にて塞ぐようにするのが好ましい。この場合、隙間58は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとの間から軸部嵌合孔22aと軸部12の本体部12aとの間まで形成される。この実施形態では、シール部材59はハブ輪1の加締部31と本体部12aとのコーナ部に配置される。なお、シール部材59としては、図5(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図5(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。
また、ボルト部材54の座面60aと内壁22cとの間もシール材(図示省略)を介在させてもよい。この場合、例えば、ボルト部材54の座面60aに、塗布後に硬化して座面60aと内壁22cの凹窪部51の底面との間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
このように、本発明では、軸部12の凸部35とハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。しかも、凹部36が形成される部材には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、しかもスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
また、凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
また、ハブ輪1の孔部22に外輪5の軸部12を圧入する際、この芯出し用テーパ部49aが圧入開始時のガイドを構成することができる。これにより、ハブ輪1の孔部22に対して外輪5の軸部12を、ズレを生じせさることなく圧入することができ、安定したトルク伝達が可能となる。
なお、ハブ輪1の孔部22においてテーパ部49aが形成されない場合、外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際の芯合わせができず、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5とが芯ズレ、芯傾きを起すおそれがある。このため、テーパ部49aの傾斜角度θ(図3参照)としては、前記したように、15°〜75°とするのが好ましい。すなわち、15°未満であれば、ガイドとしての機能を発揮することができるが、テーパ部49aの軸方向長さが長くなって、圧入作業性に劣るとともに、ハブ輪1の軸方向長さが大となるおそれもある。また、75°を越えれば、芯ズレを起すおそれがある。
ところで、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図4に示すように、カールしつつ軸部12の小径部12bの外径側に設けられる空間からなる空間の収納部57に収納されて行く。ここで、はみ出し部45は、凸部35が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。このため、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部であるはみ出し部45が収納部57内に入り込んでいく。
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納する収納部57を設けることによって、はみ出し部45をこの収納部57内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45を収納部57に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
ボルト固定によって、ハブ輪1からの軸部12の軸方向の抜けが規制され、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。特に、外輪5の軸部12のアウトボード側の端面52とボルト部材54の頭部54aとで挟持される内壁22cを設けたことによって、ボルト固定が安定するとともに、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
また、ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって軸受2に予圧を付与する必要がなくなる。このため、軸受2への予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。
これに対して、ハブ輪1の加締部31とマウス部11のバック面11aとを当接させるものであってもよい。その場合、軸部12の小径部12bに端面52が内壁22cの端面53部は当接せずに隙間となる。当接させる場合、両者の接触面圧は100MPa以下とするのが望ましい。接触面圧が100MPaを超えると、大トルク負荷時に継手外輪5とハブ輪1との捩れ量に差が生じ、この差によって接触部に急激なスリップが生じて異音を発生するおそれがあるからである。従って、接触面圧を100MPa以下とすることで、異音の発生を防止して静粛な車輪用軸受装置を提供することができる。
外輪5のマウス部11と、ハブ輪1の端部が加締られてなる加締部31との間の隙間58をシール部材59にて密封しているので、この隙間58から雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材54の座面60aと、内壁22cとの間にシール材を介在させたので、このボルト部材54からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
また、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面上に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。すなわち、凸部35の相手側に対する圧入代を十分にとることができる。これによって、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
図1等に示す実施形態では、外輪5の軸部12に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けるとともに、この凸部35の軸方向端部の硬度をハブ輪1の孔部内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入するものであれば、軸部側の硬度を高くでき、軸部の剛性を向上させることができる。
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受2を提供することができる。
前記実施形態のように、軸部12に形成するスプライン41は、モジュールが0.5以下の小さい歯を用いたので、このスプライン41の成形性の向上を図ることができるとともに、圧入荷重の低減を図ることができる。なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
また、外輪5のマウス部11と、ハブ輪1の端部が加締られてなる加締部31との間の隙間58をシール部材59にて密封しているので、この隙間58から雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等のよる密着性の劣化を回避することができる。ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材54の座面60aと、内壁22cとの間シール材を介在させたので、このボルト部材54からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
前記図2に示すスプライン41では、山部41aのピッチと谷部41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図2(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
これに対して、図9に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の山部43の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の山部43(凸歯)の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の山部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の山部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。なお、図9における凸部35は、断面台形(富士山形状)としている。
ところで、図1に示す状態から、ボルト部材54を螺退させることによって、ボルト部材54を取外せば、ハブ輪1から外輪5を引き抜くことができる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
例えば、図6に示すような取外用治具70にてハブ輪1と等速自在継手3とを分離することができる。治具70は、基盤71と、この基盤71の雌ねじ(ねじ孔)72に螺進退可能に螺合する押圧力付与用ボルト73を備える。基盤71には貫孔74が設けられ、この貫孔74にハブ輪1のボルト33が挿通され、ナット部材75がこのボルト33に螺合される。この際、基盤71とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤71がハブ輪1に取り付けられる。
軸部12のねじ孔50と、基盤71の雌ねじ72とのねじ山の方向を逆方向としている。すなわち、ねじ孔50が右ねじ(時計廻りすると進むねじ)であれば、雌ねじ72が左ねじ(反時計廻りすると進むねじ)であり、逆に、ねじ孔50が左ねじであれば、雌ねじ72が右ねじである。
このように基盤71をハブ輪1に取り付けた後、又は基盤71を取り付ける前に、軸部12のねじ孔50に螺合されているボルト部材54を螺退させて、ボルト部材54の頭部54aを内壁22cからアウトボード側へ突出させる。ボルト部材54の突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。
その後は、図6に示すように、押圧力付与用ボルト73をアウトボード側から基盤71のねじ孔72に螺着し、この状態で、矢印のようにねじ軸76側へ螺進させる。この際、ボルト部材54と、押圧力付与用ボルト73とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設されているので、この螺進によって、押圧力付与用ボルト73がボルト部材54を矢印方向へ押圧する。これによって、ボルト部材54に対して分離力が生じ、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
ところで、押圧力付与用ボルト73が螺合する雌ねじ72と、ボルト部材が螺合するねじ孔50とのねじ山の方向を同一方向とすることも可能である。しかしながら、同一方向であれば、押圧力付与用ボルト73を螺進させれば、ボルト部材が共廻りしてボルト部材もねじ孔50に対して螺進することになる。そこで、図7に示すように、長さ寸法が大のねじ軸76を用い、ねじ軸76の先端をねじ孔50の底に到達するようにする。この状態で、ねじ軸76の基端部を内壁22cからアウトボード側へ突出させる。
この場合、押圧力付与用ボルト73を雌ねじ72に対して螺進させれば、ねじ軸76が共廻りすることなく、ねじ軸76が矢印方向へ押圧される。これによって、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
このように、雌ねじ72とねじ孔50とがねじ山の方向が同一方向であれば、供回りを防止するために、長さ寸法が大のねじ軸76を用いることになる。このため、分離する際には、固定用のボルト部材54を用いることができず、しかも、ねじ軸76を、その先端がねじ孔50の底に到達するまで螺進させる必要がある。したがって、雌ねじ72とねじ孔50とがねじ山の方向が同一方向であれば、分離作業時において、作業時間が大となる。ねじ軸76の長さ寸法が大であるので、取扱い性に劣ることになる。
これに対して、軸部12のねじ孔50と取外用治具70の雌ねじ72とのねじ山の方向を逆方向とすれば、押圧力付与用ボルト73を螺進させても、ボルト部材が共廻りすることがなく、ボルト部材54に押圧力を安定して付与できる。このため、ボルト部材54の先端がねじ孔50の底面に当接させることなく、ボルト部材54に押圧力を付与することができ、固定用のボルト部材を分離用のボルト部材としてそのまま使用することができ、分離作業性の向上及びコスト低減化を図ることができる。
また、ハブ輪1から外輪5が外れた状態からは、例えば、ボルト部材54を使用して再度、ハブ輪1と外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤71を取外すとともに、図8に示すように、ボルト部材54を貫通孔56を介して軸部12のねじ孔50に螺合させる。この状態では、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相を合わせる。
そして、この状態にて、ボルト部材54をねじ孔50に対して螺進させる。これによって、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に構成することができる。
特に、ボルト部材54をねじ孔50に対して螺進させる際に、図6に示すように、ボルト部材54の基部55aが、貫通孔56に対応した状態となる。しかも、貫通孔56の孔径d1は、軸部54bの大径の基部55aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材54の基部55aの外径と、貫通孔56に内径とが、ボルト部材54がねじ孔50を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔56の軸方向長さとしても、短すぎると、安定したガイドを発揮できず、逆に長すぎると、内壁22cの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できないとともに、ハブ輪1の重量が大となる。このため、これらを考慮して種々変更することができる。
なお、軸部12のねじ孔50の開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部50aとさているので、ねじ軸76やボルト部材54をねじ孔50に螺合させ易い利点がある。
ところで、1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)では、圧入荷重が比較的大きいので、圧入のために、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重を1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外輪5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
このように、外輪5の軸部12に軸方向の引き抜き力を付与することによって、ハブ輪1の孔部22から外輪5を取外すことができるので、各部品の修理・点検の作業性(メンテナンス性)の向上を図ることができる。しかも、各部品の修理・点検後に再度外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することによって、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成することができる。このため、安定したトルク伝達が可能な車輪用軸受装置を再度構成することができる。
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、図9に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン61(山部61a及び谷部61bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン61も公知公用の手段である転造加工、ブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン61の山部61aである凸部35の頂点を結ぶ円の直径寸法(凸部35の最小直径寸法)D4を、軸部12の外径寸法D6よりも小さく、スプライン61の谷部61bの底を結ぶ円の直径寸法(凸部間の谷部61bの最大直径寸法)D5を軸部12の外径寸法D6よりも大きく設定する。すなわち、D4<D6<D5とされる。
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
ここで、嵌合接触部位38とは、図10(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間62が形成される。
この場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部57を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面37に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けるとともに、この凸部35の軸方向端部の硬度を外輪5の軸部12の外径部よりも高くして、圧入するものでは、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手の外側継手部材(外輪5)の生産性に優れる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図2に示す実施形態では断面三角形状であり、図9に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41を形成し、このスプライン41の山部(凸歯)41aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手3との間で回転トルクの伝達ができればよい。
ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図2等では隙間40が形成されるが、凸部35間の谷部まで、ハブ輪1の内径面37が食い込むようなものであってもよい。なお、凸部35側と、凸部35にて形成される凹部形成面側との硬度差としては、前記したようにHRCで20ポイント以上とするのが好ましいが、凸部35が圧入可能であれば20ポイント未満であってもよい。
凸部35の端面(圧入始端)は前記実施形態では軸方向に対して直交する面であったが、軸方向に対して、所定角度で傾斜するものであってもよい。この場合、内径側から外径側に向かって反凸部側に傾斜しても凸部側に傾斜してもよい。
さらに、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、収納部57の容積を小さくでき、収納部57の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
軸受2の転動体30として、ローラを使用したものであってもよい。また、前記実施形態では、第3世代の車輪用軸受装置を示したが、第1世代や第2世代さらには第4世代であってもよい。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材54の座面60aと、内壁22cとの間に介在されるシール材は、前記実施形態ではボルト部材54の座面60a側に樹脂を塗布して構成していたが、逆に、内壁22c側に樹脂を塗布するようにしてもよい。また、座面60a側および内壁22c側に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材54を螺着した際において、ボルト部材54の座面60aと、内壁22cの凹窪部51の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。すわなち、凹窪部51の底面を研削することによって、ボルト部材54の座面60aとの密着性を向上させたりすることができる。もちろん、凹窪部51の底面を研削することなく、いわゆる旋削仕上げ状態であっても、密着性を発揮できれば、シール材を省略することができる。
また、ハブ輪1と外輪5とを分離させる場合に使用するボルト部材として、前記実施形態では、連結用(固定用)のボルト部材を用いていたが、固定用のボルト部材と分離用のボルト部材とが相違するものであってもよい。