JP5448979B2 - Ipmモータのロータ鉄心用鋼板、その製造方法およびipmモータのロータ鉄心 - Google Patents
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一方、ロータには、永久磁石が埋め込まれ、鉄心は主にヨークとして磁束密度を高める役割を担っており、ステータ側から発生する僅かな交流磁界の影響は受けるものの、その影響は限定的である。しかし、ステータのみに電磁鋼板を使用すると、電磁鋼板の製品歩留りが低下して、モータの製造コストが高くなることもあって、通常はステータ側と全く同じ電磁鋼板を素材として用いていた。
例えば、特許文献1には、磁気特性および耐変形性に優れた電磁鋼板およびその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、鉄損特性の内、ヒステリシス損よりも渦電流損失の改善に着目し、高強度化との両立を図った電磁鋼板およびその製造方法が開示されている。特許文献2に開示される製造方法は、Cを通常の電磁鋼板よりも高め、連続焼鈍設備にて変態強化することを特徴とする。さらに、特許文献3には、C:0.06質量%超〜0.90質量%以下、Si:0.05質量%〜3.0質量%、Mn:0.2質量%〜2.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜4.95質量%を、Si+Al:5.0質量%以下なる条件で含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延鋼板を1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して所定の板厚とし、その後、200〜500℃の温度まで加熱することを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法が開示されている。
また、本発明は、そのようなIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法およびそれを用いたロータ鉄心を提供することも目的とする。
すなわち、本発明は、C:0.05質量%〜0.35質量%、Si:0.05質量%〜1.0質量%、Mn:0.2質量%〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜2.95質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、炭化物の平均粒径が0.4μm〜1.0μmであり、炭化物の球状化率が80%以上の金属組織を有し、引張試験による降伏強度が590N/mm2以下、磁界の強さが2,000A/mのときの磁束密度B2,000が1.2T以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板である。
上記IPMモータのロータ鉄心用鋼板の少なくとも片方の表面には、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜または有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜を形成してもよい。
<C:0.05質量%〜0.35質量%>
焼入れ処理後に780N/mm2以上の降伏強度を得るためには、0.05質量%以上のCを添加することが必要である。しかし、0.35質量%超のCを添加すると、十分な延性が得られず、また磁束密度も低下する。
Siは、高強度化に有効である上に、体積抵抗率を高め、渦電流損を小さくするのに有効な元素である。その効果を得るためには、0.05質量%以上のSiを添加することが必要である。しかし、1.0質量%超のSiを添加すると、鋼板の靭性が劣化する。
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、0.2質量%以上のMnを添加することが必要である。しかし、1.5質量%超のMnを添加すると、強度の向上効果は飽和するとともに、かえって磁束密度の低下を招く。
Pは、高強度化に有効な元素であるが、鋼の靭性を著しく低下させる。0.05質量%までは許容できるため、上限を0.05質量%とする。
Sは、高温脆化を惹起する元素であり、多量に添加すると、熱間圧延時に表面欠陥を生じ、表面品質を劣化させる。そのため、できるだけ低減することが望まれる。0.02質量%までは許容できるため、上限を0.02質量%とする。
Alは、脱酸剤として添加されるほか、Siと同様に鋼の体積抵抗率を上昇させるのに有効な元素である。その効果を得るためには、0.005質量%以上のAlを添加することが必要である。しかし、AlをSiとの合計で3.0質量%を超えて添加すると、磁束密度の低下が大きくなり、モータの性能が低下する。
Ti、NbおよびVは、鋼中で炭窒化物を形成し、析出強化による高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、Ti、NbおよびVの少なくとも1種を、合計で0.01質量%以上添加することが好ましい。しかし、それらの元素を0.20質量%を超えて添加しても、析出物の粗大化により強度上昇は飽和するとともに、製造コストの増大を招く。
Cr、NiおよびBは、鋼の焼入れ性を高め、高強度化に有効な元素である。その効果を得るためには、それぞれ単独で、設定した下限値以上添加することが好ましい。しかし、それらの元素を、それぞれの上限値を超えて添加してもその効果は飽和するととともに製造コストの増加を招く。なお、それらの元素を単独で添加しても組み合わせて添加してもその効果は認められるが、組み合わせて添加する場合は、それぞれ設定した上限値の1/2を超える量を添加すると、その効果に比して製造コストの上昇が大きくなるので、それぞれ設定した上限値の1/2以下の量を添加することが望ましい。
<炭化物の平均粒径:0.4μm〜1.0μm>
炭化物の平均粒径を大きくすることで、鋼中の炭素量は一定であることから、炭化物総数は減少する。これにより、炭化物を起点として生成したミクロボイドの連結を抑制し、良好な打抜き性が得られるため、炭化物の平均粒径を0.4μm〜1.0μmとした。なお、本発明における炭化物の平均粒径は、鋼板断面の金属組織を観察するとき、観察視野にある個々の炭化物の面積を画像解析により測定し、円相当径を算出して全測定炭化物について平均したものである。
球状化が不十分な炭化物がミクロボイドの起点となるため、炭化物の球状化率を80%以上とした。なお、本発明における炭化物の球状化率は、鋼板断面の金属組織を観察するとき、観察視野で最大長さpとそれに直行する方向の最大長さqの比p/qが3未満の炭化物を球状化した炭化物とし、全炭化物数に占める割合を算出したものである。
<降伏強度:590N/mm2以下>
鋼板を高強度化すると、磁気特性は劣化する傾向にある上に、打抜き性が悪くなるため、鋼板の降伏強度は590N/mm2以下とした。なお、本発明における降伏強度は、JIS5号引張試験片を用い、JIS Z2241に準拠した引張試験方法により測定されるものである。
<磁界の強さが2,000A/mのときの磁束密度B2000:1.2T以上>
ロータ鉄心に用いられる鋼板は、主にヨークの役割を果たしており、従来の鋼板と同等以上のトルク性能を発揮するためには、磁界の強さが2,000A/mのときの磁束密度が1.2T以上であることが必要である。
本発明の製造方法は、上記した成分組成を有する鋼材を用いることと、熱延鋼板に冷間圧延を施した後の3段階の焼鈍処理に特徴がある。上記した成分組成を有する熱延鋼板を冷間圧延して得られた鋼板を、予めAc1点未満の特定温度域で一定時間以上加熱することで、Ac1点以上の温度域において未溶解炭化物を適量残存させることができる。さらにその後の冷却速度を遅くすることで、オーステナイト中に固溶したCがパーライトを生成せず、未溶解炭化物を核として析出するので、それによって鋼板の磁気特性や打抜き加工性と密接な関わりのある焼鈍後の炭化物の球状化率を高くすることができる。具体的には、冷間圧延して得られた鋼板に、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上保持する1段目の熱処理を施し、次に、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5時間〜20時間保持する2段目の熱処理を施し、最後に、Ar1−80℃〜Ar1の温度範囲で2時間〜60時間保持する3段目の熱処理を施す。ただし、2段目の熱処理温度から3段目の熱処理温度への冷却速度は5℃/h〜30℃/hとする必要がある。なお、本発明におけるAc1変態点およびAr1変態点は、直径5mm×長さ10mmの試験片を、10℃/hで900℃まで昇温し、900℃で10分間保持して完全にオーステナイト化した後、10℃/hで冷却するヒートパターンで、試験片の収縮・膨張を測定し、その収縮・膨張曲線の変化から求めたものである。
<1段目の熱処理>
1段目の熱処理の目的は、Ac1点未満の温度に鋼板を保持し、熱間圧延で生成したパーライト(熱延パーライト)を分断して、炭化物(セメンタイト)の球状化を図ることである。熱延パーライトの分断および炭化物の球状化を促進するためには、Ac1点未満の温度範囲でなるべく高温が望ましい。加熱温度がAc1−50℃より低温では、炭化物の球状化が十分に進まない。一方、加熱温度がAc1点以上になると界面面積の大きい熱延パーライトは容易にオーステナイトに固溶してしまう。従って、加熱温度はAc1−50℃〜Ac1未満の範囲とした。また、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度を保持する時間は0.5時間以上であることが必要である。保持時間が0.5時間未満であると、十分な球状化組織が得られない可能性がある。
2段目の熱処理の目的は、1段目の熱処理を経た鋼板をAc1点以上の温度に保持し、オーステナイト化した部分において微細な炭化物を固溶・消失させるとともに、続く3段目の熱処理で炭化物析出の核となる比較的大きな球状炭化物を未溶解のまま残すことである。加熱温度がAc1点未満ではオーステナイトが生成しない。一方、加熱温度がAc1+100℃の温度を超えると、1段目の加熱で球状化した炭化物がオーステナイト中に固溶・消失し、未溶解炭化物が少なくなりすぎてしまう。従って、加熱温度はAc1〜Ac1+100℃の範囲とした。また、Ac1〜Ac1+100℃の温度を保持する時間は0.5時間〜20時間であることが必要である。保持時間が0.5時間未満であると、十分な球状化組織が得られない可能性がある。20時間を越えて処理しても、微細な炭化物を固溶・消失させる効果は飽和し、生産性を低下させてしまうので、保持時間は20時間を上限とするのが好ましい。
この冷却速度が速いとオーステナイトの過冷度が大きくなり、再生パーライトが生成しやすくなる。再生パーライトの生成を十分抑制するためには冷却速度を30℃/h以下とする必要がある。一方、冷却速度を5℃/h以下にしても、再生パーライトの抑制効果は飽和し、工業的メリットがない。従って、冷却速度は5℃/h〜30℃/hの範囲とした。
3段目の熱処理の目的は、1段目〜2段目の熱処理を経た鋼板をAr1点以下の温度に保持し、2段目の温度からの冷却でオーステナイト→フェライト変態に伴ってオーステナイトから吐き出されるCを、未溶解炭化物を核として析出させるとともに、これらの炭化物をオストワルド成長させることである。加熱温度がAr1点以下でないとオーステナイト→フェライト変態が起こらない。一方、加熱温度がAr1−80℃より低温では、オストワルド成長が十分進まない。従って、加熱温度はAr1−80℃〜Ar1の範囲とした。また、Ar1−80℃〜Ar1の温度を保持する時間は2時間〜60時間であることが必要である。保持時間が2時間未満であると、十分な球状化組織が得られない可能性がある。60時間を越える処理を行っても、未溶解炭化物を核とした析出の効果が飽和する。
<実施例1>
表1に示す成分組成を有する鋼を真空溶解し、これらの鋳造片を1,250℃に加熱し、860℃で仕上げ圧延して560℃で巻取り、板厚2.0mmの熱延鋼板を得た。これらの熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して板厚0.5mmの冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板を690℃に加熱して4時間保持し、次いで730℃に加熱して5時間保持した後、20℃/hで680℃まで冷却し、引き続いて680℃で5時間保持する3段焼鈍を施した。なお、表1に示す変態点Ac1およびAr1は、直径5mm×長さ10mmの試験片を用いて、10℃/hで900℃まで昇温し10分間保持して完全にオーステナイト化した後10℃/hで冷却するヒートパターンで、試験片の収縮・膨張を測定し、その収縮・膨張曲線の変化から求めた値である。
引張試験は、JIS5号引張試験片を用い、平行部の標点間距離を50mmとして行った。
切欠引張試験は、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45°、深さ2mmのVノッチを形成した試験片を用い、引張試験を行った。Vノッチを含む標点間距離5mmに対する伸び率を破断後に求め、その伸び率を切欠引張伸び(Elv)とした。Elvが30%以上であれば、IPMモータのロータ鉄心へ加工しやすいと言える。
磁化測定は、内径33mmおよび外径45mmのリング状の試験片を打抜きにより作製し、磁界の強さが2,000A/mのときの磁束密度B2,000を測定した。
打抜き性試験は、鋼板100枚を直径80mmのロータ鉄心形状に打抜き、それぞれのバリ高さを測定し、その算術平均を平均バリ高さとした。ロータ鉄心は、通常、鋼板を積層して作製するため、打抜き後のバリ高さが大きいと占積率が低下し、モータ性能も劣化する。そのため、打抜き後の平均バリ高さは小さい程、ロータ鉄心用鋼板として好ましいと言える。
一方、本発明例であるNo.4〜10鋼は、磁気特性および打抜き加工性がともに良好であった。
引張試験は、JIS5号引張試験片を用い、平行部の標点間距離を50mmとして行った。
ビッカース硬さは、JIS Z2244に準拠して測定した。
一方、本発明例であるNo.4〜10鋼は、780N/mm2以上の降伏強度を有しており、ロータの高速回転化に十分耐え得る強度を有するものであった。
表1のNo.6鋼について、3段焼鈍の条件を表4に示すAまたはBに変更する以外は、実施例1と同様にして鋼板を得た。
Claims (7)
- C:0.05質量%〜0.35質量%、Si:0.05質量%〜1.0質量%、Mn:0.2質量%〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜2.95質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、炭化物の平均粒径が0.4μm〜1.0μmであり、炭化物の球状化率が80%以上の金属組織を有し、引張試験による降伏強度が590N/mm2以下、磁界の強さが2,000A/mのときの磁束密度B2,000が1.2T以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- Ti、NbおよびVからなる群から選択される1種以上の成分を合計して0.01質量%〜0.20質量%さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- Cr:0.1質量%〜2.0質量%、Ni:0.1質量%〜1.8質量%およびB:0.0005質量%〜0.005質量%からなる群から選択される1種以上の成分をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- 鋼板の少なくとも片方の表面に、有機材料からなる絶縁皮膜、無機材料からなる絶縁皮膜または有機・無機複合材料からなる絶縁皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板。
- C:0.05質量%〜0.35質量%、Si:0.05質量%〜1.0質量%、Mn:0.2質量%〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、酸可溶Al:0.005質量%〜2.95質量%かつSi+Al:3.0質量%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する熱延鋼板に、1回または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を施して所定の板厚とし、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上保持する1段目の熱処理、Ac1〜Ac1+100℃の温度範囲で0.5時間〜20時間保持する2段目の熱処理およびAr1−80℃〜Ar1の温度範囲で2時間〜60時間保持する3段目の熱処理を含みかつ2段目の熱処理温度から3段目の熱処理温度への冷却速度を5℃/h〜30℃/hとする3段焼鈍を施すことを特徴とするIPMモータのロータ鉄心用鋼板の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれか一項に記載のIPMモータのロータ鉄心用鋼板の打抜き片を積層させた積層体に焼入れ処理を施して得られ、引張試験による降伏強度が780N/mm2以上であることを特徴とするIPMモータのロータ鉄心。
- 前記焼入れ処理が、ロータの梁部のみに施されていることを特徴とする請求項6に記載のIPMモータのロータ鉄心。
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