===開示の概要===
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかとなる。
即ち、(A)流体を噴射するノズルが所定方向に並ぶノズル列と媒体とを前記所定方向と交差する方向に相対移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる画像記録動作と、前記ノズル列に対する前記媒体の相対位置を前記所定方向の一の方向に移動させる動作とを繰り返す流体噴射装置が、実施する記録方法の決定方法であって、(B)噴射特性が変動した不良ノズル、又は、噴射特性が変動すると予測される不良ノズルの前記ノズル列における位置を特定することと、(C)前記ノズル列における前記不良ノズルの位置に基づいて、前記媒体の前記所定方向における中央部に画像を記録する通常処理と、前記媒体の前記所定方向における端部に画像を記録する端部処理であって、前記ノズル列に対する前記媒体の前記所定方向への相対移動量が前記通常処理の前記相対移動量よりも短い端部処理と、を実施する第1の記録方法と、前記通常処理と前記端部処理の間に、前記相対移動量が、前記端部処理の前記相対移動量以上であり、且つ、前記通常処理の前記相対移動量以下である中間処理を実施する第2の記録方法とのうち、前記流体噴射装置が実施する記録方法を選択することと、(D)を有することを特徴とする記録方法の決定方法である。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制する記録方法を決定することができる。
かかる記録方法の決定方法であって、前記第2の記録方法では、前記交差する方向に沿うドット列を記録可能な前記ノズルのうち、前記端部処理の前記ノズルよりも、前記中間処理の前記ノズル又は前記通常処理の前記ノズルを、優先的に使用すること。
このような記録方法の決定方法によれば、端部処理における不良ノズルを画像の記録に使用しないノズルにすることができる。
かかる記録方法の決定方法であって、前記不良ノズルが前記ノズル列における端部に位置する場合、前記第1の記録方法を選択し、前記不良ノズルが前記ノズル列における端部以外に位置する場合、前記第2の記録方法を選択すること。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制する記録方法を決定することができる。
かかる記録方法の決定方法であって、前記第2の記録方法を選択した場合、前記中間処理の前記相対移動量を複数変化させて、前記交差する方向に沿う各ドット列を記録する際に使用される前記不良ノズルの割合を算出し、算出した前記割合に基づいて、前記中間処理の前記相対移動量を決定すること。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制できる中間処理の相対移動量を決定することができる。
かかる記録方法の決定方法であって、各前記ドット列の前記割合の中の最大値が最も小さい前記中間処理の前記相対移動量を、前記第2の記録方法における前記中間処理の前記相対移動量に決定すること。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制できる中間処理の相対移動量を決定することができる。
かかる記録方法の決定方法であって、前記不良ノズルの数と前記中間処理の前記相対移動量とを複数変化させて、各前記ドット列を記録する際に使用される前記不良ノズルの割合を算出し、算出した前記割合に基づいて、前記中間処理の前記相対移動量を決定すること。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制できる中間処理の相対移動量を決定することができる。
かかる記録方法の決定方法であって、前記中間処理における前記画像記録動作の数と前記中間処理の前記相対移動量とを複数変化させて、各前記ドット列を記録する際に使用される前記不良ノズルの割合を算出し、算出した前記割合に基づいて、前記中間処理の前記相対移動量を決定すること。
このような記録方法の決定方法によれば、画像の画質劣化を抑制できる中間処理の相対移動量を決定することができる。
また、(A)流体を噴射するノズルが所定方向に並ぶノズル列と媒体とを前記所定方向と交差する方向に相対移動させながら前記ノズルから流体を噴射させる画像記録動作と、前記ノズル列に対する前記媒体の相対位置を前記所定方向の一の方向に移動させる動作とを繰り返す流体噴射装置の製造方法であって、(B)噴射特性が変動すると予測される不良ノズルの前記ノズル列における位置を特定することと、(C)前記ノズル列における前記不良ノズルの位置に基づいて、前記媒体の前記所定方向における中央部に画像を記録する通常処理と、前記媒体の前記所定方向における端部に画像を記録する端部処理であって、前記ノズル列に対する前記媒体の前記所定方向への相対移動量が前記通常処理の前記相対移動量よりも短い端部処理と、を実施する第1の記録方法と、前記通常処理と前記端部処理の間に、前記相対移動量が、前記端部処理の前記相対移動量以上であり、且つ、前記通常処理の前記相対移動量以下である中間処理を実施する第2の記録方法とのうち、前記流体噴射装置が実施する記録方法を選択することと、(D)選択した前記記録方法を前記流体噴射装置が実施するように、選択した前記記録方法を前記流体噴射装置の記憶部に記憶させることと、(E)を有することを特徴とする流体噴射装置の製造方法である。
このような流体噴射装置の製造方法によれば、画像の画質劣化を抑制する記録方法を実施する流体噴射装置を製造することができる。
===印刷システムについて===
以下、流体噴射装置をインクジェットプリンター(以下、プリンター)とし、プリンターとコンピューターが接続された印刷システムを例に挙げて実施形態を説明する。
図1は、プリンター1の全体構成ブロック図である。図2Aは、プリンター1の斜視図であり、図2Bは、ヘッド41におけるノズル配列を示す図である。コンピューター60は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1に画像を印刷させるための印刷データをプリンター1に出力する。なお、コンピューター60には、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換するためのプログラム(プリンタードライバー)がインストールされている。プリンタードライバーは、CD−ROMなどの記憶媒体に記憶されていたり、インターネットを介してコンピューターにダウンロード可能であったりする。
コントローラー10は、プリンター1の制御を行うための制御ユニットである。インターフェース部11はコンピューター60とプリンター1との間でデータの送受信を行うためのものである。CPU12はプリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー13はCPU12のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。CPU12はユニット制御回路14により各ユニットを制御する。なお、プリンター1内の状況を検出器群50が監視し、その検出結果に基づいて、コントローラー10は各ユニットを制御する。
搬送ユニット20は、媒体S(印刷用紙など)を印刷可能な位置に送り込み、印刷時には搬送方向(所定方向)に所定の搬送量で媒体Sを搬送するものである。
キャリッジユニット30は、ヘッド41を搬送方向と交差する移動方向に移動させるためのものであり、キャリッジ31を有する。
ヘッドユニット40は、媒体Sにインクを噴射するためのものであり、ヘッド41を有する。ヘッド41はキャリッジ31によって移動方向に移動する。図2Bに示すようにヘッド41の下面には、インク噴射部であるノズルが複数設けられ、各ノズルには、インクが入ったインク室(不図示)が設けられている。なお、図2Bはヘッド41の上面から仮想的にノズルを見た図である。ヘッド41には、4色のインクをそれぞれ噴射する4つのノズル列(イエローノズル列Y,マゼンタノズル列M,シアンノズル列C,ブラックノズル列K)が設けられている。各ノズル列では、360個のノズルが媒体の搬送方向に所定の間隔(360dpi)で並んでいる。搬送方向下流側のノズルから順に小さい番号を付す(#1〜#360)。
このようなプリンター1では、移動方向に沿って移動するヘッド41からインク滴を断続的に噴射させて媒体上にドットを形成する画像記録動作(パス)と、媒体をヘッド41に対して搬送方向に搬送する搬送動作とが繰り返される。そうすることで、先の画像記録動作により形成されたドットの位置とは異なる媒体上の位置に、後の画像記録動作にてドットを形成することができ、媒体上に2次元の画像を印刷することができる。
===印刷方法例===
本実施形態のプリンター1は、第1印刷方法(第1の記録方法に相当)と第2印刷方法(第2の記録方法に相当)を実施可能とする。
<第1印刷方法>
図3Aは、媒体上端部に対する第1印刷方法を説明する図であり、図3Bは、媒体下端部に対する第1印刷方法を説明する図である。媒体における搬送方向下流側の端部を「上端部」と呼び、媒体における搬送方向上流側の端部を「下端部」と呼ぶ。第1印刷方法は、媒体の上端部を印刷する上端処理と、媒体の下端部を印刷する下端処理と、端部以外の部分(媒体の中央部)を印刷する通常処理から構成される。図3Aに示すように、パス1からパス4までを上端処理とし、パス5以降を通常処理とし、また、図3Bに示すように、パス11までを通常処理とし、パス12からパス15までを下端処理とする。なお、図では、1つのマス目を1つのノズルとして表し、ノズル列に属するノズル数を64個に減らして描く。また、実際のプリンター1ではヘッド41(ノズル列)に対して媒体が搬送方向下流側に搬送されるが、図では、ノズル列がパスごとに搬送方向上流側にずれる様子を示す。また、ノズル列において搬送方向に並ぶノズルの間隔(マス目の搬送方向の長さ)を「D」とする。
第1印刷方法は、1つのラスターライン(移動方向に沿うドット列)を複数のノズルで印刷する印刷方法(所謂、オーバーラップ印刷)とする。媒体において1つのドットが形成される単位領域を「画素領域」とすると、ラスターラインは移動方向に並ぶ複数の画素領域に形成される。移動方向に並ぶ画素領域は4つに分類され、各画素領域に4つの水平位置(1〜4)の何れかが対応付けられるとする。通常処理では、各水平位置の画素領域に対して2つのノズルでドットが形成される。即ち、通常処理では、1つのラスターラインが8個のノズルで印刷される。このように、同じ水平位置の画素領域に対して他のノズルと共にドットを形成するノズルを「オーバーラップノズル(以下、OLノズル)」と呼ぶ。図中では、OLノズルを斜線のマス目で示す。また、搬送方向下流側のラスターラインから順に小さい番号を付し、例えば、搬送方向の最も下流側に位置するラスターラインを「1番ラスター(L1)」と呼ぶ。図3Aに示す52番ラスター(L52)に対応する位置には8個のOLノズルが移動方向に並んでおり、これは、52番ラスターが8個のOLノズルによって形成されることを示す。
また、図3では、搬送方向に並ぶラスターラインの間隔を「D」とする。ゆえに、通常処理では、1回の媒体搬送量が「8D」となり、媒体搬送量に相当するラスターライン数は「8」となる。即ち、通常処理では、1回の媒体搬送動作によって、媒体はヘッド41に対して8個のラスターライン分だけ搬送方向下流側に搬送される。以上をまとめると、通常処理では、ノズル列を移動方向に移動させながらノズル列に属する64個のノズルからインク滴が噴射される画像記録動作と、媒体を搬送方向下流側に搬送量「8D」だけ搬送する媒体搬送動作とが繰り返される。
ここで仮に、印刷開始時から通常処理を実施してしまうと、ヘッド41に対する印刷開始位置が搬送方向上流側となってしまう。逆に、印刷終了時まで通常処理を実施してしまうと、ヘッド41に対する印刷終了位置が搬送方向下流側となってしまう。そうすると、媒体の余白が大きくなったり、媒体に対するヘッド41の飛び出し量が大きくなったりしてしまう。そこで、第1印刷方法では、印刷開始時、即ち、媒体上端部の印刷時には、媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量8Dよりも短い「D」である上端処理を実施し、印刷終了時、即ち、媒体下端部の印刷時には、媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量8Dよりも短い「D」である下端処理を実施する。上端処理および下端処理の媒体搬送量は、言い換えれば、1個のラスターライン分の長さに相当する。
また、媒体の上端部および下端部では、ラスターラインに割り当てられるノズル数が少ない(移動方向に並ぶマス目が少ない)。そのため、通常処理時のように、1つのラスターラインを8個のノズルで形成できない場合がある。そこで、上端処理および下端処理では、一部のノズルに対して、通常処理時には2つのノズルで担う役割を1つのノズルに担わせる。即ち、ある水平位置の全画素領域に対して1つのノズルにドットを形成させる。このように、同じ水平位置の画素領域に対して自身のノズルだけでドットを形成するノズルを「通常ノズル」と呼ぶ。図中では、通常ノズルを白抜きのマス目で示す。
一方、上端処理のノズル列のうちの搬送方向上流側のノズル(番号の大きいノズル)が割り当てられるラスターラインには通常処理のノズルも割り当てられるため、そのラスターラインに割り当てられるノズル数が8個以上となる。同様に、下端処理のノズル列のうちの搬送方向下流側のノズル(番号の小さいノズル)が割り当てられるラスターラインにも通常処理のノズルが割り当てられるため、そのラスターラインに割り当てられるノズル数が8個以上となる。第1印刷方法では、1つのラスターラインに割り当てられるノズル数が8個以上である場合、上端処理のノズルよりも通常処理のノズルが優先して印刷に使用され、下端処理のノズルよりも通常処理のノズルが優先して印刷に使用されるようにする。また、同じ上端処理内においても、先のパスのノズルよりも後のパスのノズルが優先して印刷に使用され、同じ下端処理内においても、後のパスのノズルよりも先のパスのノズルが優先して印刷に使用されるようにする。
ゆえに、上端処理のノズル列および下端処理のノズル列には、印刷に使用されないノズル(以下、非使用ノズルと呼ぶ)が発生する。図中では、非使用ノズルをバツ印のマス目で示す。図示するように、上端処理のノズル列のうちの搬送方向上流側のノズルが非使用ノズルとなり、下端処理のノズル列のうちの搬送方向下流側のノズルが非使用ノズルとなっている。なお、印刷開始位置よりも下流側のノズルおよび印刷終了位置よりも上流側のノズルも非使用ノズルとなる。
<第2印刷方法>
図4Aは、媒体上端部に対する第2印刷方法を説明する図であり、図4Bは、媒体下端部に対する第2印刷方法を説明する図である。第2印刷方法では、上端処理と通常処理の間に、上端処理の媒体搬送量(D)よりも長く、且つ、通常処理の媒体搬送量(8D)よりも短い媒体搬送量(4D)である中間処理(上端側中間処理とも呼ぶ)が設けられ、下端処理と通常処理の間に、下端処理の媒体搬送量(D)よりも長く、且つ、通常処理の媒体搬送量(8D)よりも短い媒体搬送量(4D)である中間処理(下端側中間処理とも呼ぶ)が設けられている。図4Aに示すように、パス1からパス4までを上端処理とし、パス5からパス8までを上端側中間処理とし、パス9以降を通常処理とする。また、図4Bに示すように、パス11までを通常処理とし、パス12からパス15までを下端側中間処理とし、パス16からパス19までを下端処理とする。なお、中間処理が設けられていること以外は、第1印刷方法と第2印刷方法は同じであり、上端処理および下端処理の媒体搬送量は短く、1個のラスターライン分の長さに相当し、通常処理の媒体搬送量は長く、8個のラスターライン分の長さに相当する。
上端処理と通常処理の間に、媒体搬送量が通常処理時よりも短い中間処理を設けることで、主に中間処理のパス5〜8のノズルが割り当てられるラスターラインにおいて、各ラスターラインに割り当てられるノズル数(移動方向に並ぶノズル数)を増やすことが出来る。例えば、第1印刷方法(図3A)では27番ラスター(L27)に割り当てられるノズル数が7個であるのに対して、第2印刷方法(図4A)では27番ラスター(L27)に対応付けられるノズル数が9個となっている。同様に、下端処理と通常処理の間に、媒体搬送量が通常処理時よりも短い中間処理を設けることで、主に中間処理のパス12〜15のノズルが割り当てられるラスターラインにおいて、各ラスターラインに割り当てられるノズル数を増やすことが出来る。
そして、第2印刷方法では、1つのラスターラインに割り当てられるノズル数が8個以上である場合、上端側では先のパスのノズルよりも後のパスのノズルが優先して印刷に使用され、上端処理のノズルよりも中間処理のノズルが優先され、中間処理のノズルよりも通常処理のノズルが優先される。一方、下端側では後のパスのノズルよりも先のパスのノズルが優先して印刷に使用され、下端処理のノズルよりも中間処理のノズルが優先され、中間処理のノズルよりも通常処理のノズルが優先される。その結果、上端・下端処理の不良ノズルの少なくとも一部を非使用ノズルにすることができる。
ゆえに、第2印刷方法(図4)では第1印刷方法(図3)に比べて、上端処理のノズル列および下端処理のノズル列において、非使用ノズル数を増やすことができ、また、OLノズル数を増やすことができている(言い換えれば、通常ノズル数を減らすことができている)。例えば、第1印刷方法の上端処理のパス1ではノズル#44〜#64が非使用ノズルであるのに対して、第2印刷方法の上端処理のパス1ではノズル#28〜#64が非使用ノズルとなる。また、第1印刷方法の下端処理の最後のパス15ではノズル#1〜#28が非使用ノズルであるのに対して、第2印刷方法の下端処理の最後のパス19ではノズル#1〜#44が非使用ノズルとなる。また、第1印刷方法の上端処理のパス4ではノズル#1〜#32までが通常ノズル(白抜きのマス目)であるのに対して、第2印刷方法の上端処理のパス4ではノズル#1〜#16までが通常ノズルとなる。
なお、原則として、中間処理の媒体搬送量は、上端・下端処理の媒体搬送量よりも大きく、且つ、通常処理の媒体搬送量よりも小さいとする。ただし、例えば、印刷用紙のサイズに応じた位置合わせのために、中間処理のあるパスの媒体搬送量が、上端・下端処理の媒体搬送量と等しくなったり、通常処理の媒体搬送量と等しくなったりする場合もある。即ち、中間処理の媒体搬送量は、上端・下端処理の媒体搬送量以上であり、通常処理の媒体搬送量以下とする。
===不良ノズル群の発生===
ところで、経時変化により、ノズル列において局所的に不良ノズルが発生する場合がある。不良ノズルとは、インク噴射量が設計上の噴射量から変動したノズルや、インク滴の着弾位置が設計上の着弾位置からずれたノズルである。即ち、不良ノズルとは、噴射特性が変動したノズル、又は、噴射特性が変動すると予測されるノズルである。以下、前述の第1印刷方法(図3)や第2印刷方法(図4)を実施するプリンター1において、ノズル列の中央部に8個の不良ノズル群が発生した場合を例に挙げる。図3や図4に示すように、ノズル列の中央部の太枠で囲われたノズル(#29〜#36)を不良ノズル群とする。
まず、中央部に不良ノズル群が発生したノズル列によって第1印刷方法(図3)が実施された場合について説明する。通常処理では(パス5以降では)、媒体搬送量が比較的に大きい。そのため、あるパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群と、その前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群とが重複しない。ゆえに、通常処理のパスで不良ノズルが割り当てられるラスターラインには、不良ノズルが1個だけ割り当てられる。例えば、図3Aに示す通常処理のパス6で不良ノズル#29が割り当てられる45番ラスター(L45)には、他のパスにおいて不良ノズルが割り当てられていない。よって、45番ラスターを形成する際の不良ノズルの使用比率は12.5%となる。
不良ノズルの使用比率とは、1つのラスターラインが形成される画素領域の数(移動方向に並ぶ画素領域の数)に対する不良ノズルに割り当てられる画素領域の数の割合である。即ち、不良ノズルの使用比率は、各ラスターラインを印刷する際に使用される不良ノズルの割合である。例えば、45番ラスターに対応付けられる不良ノズル#29はOLノズルである。そのため、4つの水平位置の中の1つの水平位置である画素領域の半分の画素領域が、不良ノズル#29に割り当てられる。よって、45番ラスターを形成する際の不良ノズルの使用比率は、式「0.5/4×100=12.5%」によって算出される。
これに対して、上端処理では媒体搬送量が比較的に小さい。そのため、あるパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群と、その前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群とが重複してしまう。即ち、同じラスターラインに連続して不良ノズルが割り当てられてしまう。ゆえに、上端処理のパスで不良ノズルが割り当てられるラスターラインには、複数の不良ノズルが割り当てられてしまう。例えば、図3Aに示すように、27番ラスター(L27)には2つの不良ノズルが割り当てられ、28番ラスター(L28)には3つの不良ノズルが割り当てられ、29番ラスター(L29)には4つの不良ノズルが割り当てられている。よって、27番ラスターを形成する際の不良ノズルの使用比率は25%(=(0.5×2)/4×100)となり、28番ラスターを形成する際の不良ノズルの使用比率は37.5%(=(0.5×3)/4×100)となり、29番ラスターを形成する際の不良ノズルの使用比率は62.5%(=(0.5×3+1)/4×100)となる。
また、上端処理では、不良ノズル群が連続して同じラスターラインに割り当てられるだけに限らず、29番ラスター(L29)のように、通常ノズル(白抜きのマス目)が不良ノズルとなる場合がある。通常ノズルはOLノズル(斜線のマス目)に比べて、対応付けられる画素領域の数が多い。よって、ラスターラインに、不良ノズルである通常ノズルが割り当てられる方が、不良ノズルであるOLノズルが割り当てられるよりも、不良ノズルの使用比率が高くなってしまう。
同様に、下端処理も媒体搬送量が比較的に小さい。そのため、あるパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群と、その前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群とが重複し、1つのラスターラインに複数の不良ノズルが割り当てられてしまう。その結果、例えば、図3Bに示すように、92番ラスター(L92)を形成する際の不良ノズルの使用比率は62.5%(=(0.5×5)/4×100)となり、93番ラスター(L93)を形成する際の不良ノズルの使用比率は50%(=(0.5×4)/4×100)となり、94番ラスター(L94)を形成する際の不良ノズルの使用比率は37.5%(=(0.5×3)/4×100)となる。なお、図3Bに示す下端処理では通常ノズル(白抜きのマス目)が不良ノズルとなっていないが、下端処理においても上端処理と同様に、通常ノズルが不良ノズルとなり、不良ノズルの使用比率が高くなる場合もある。
このように、通常処理に比べて上端処理および下端処理では媒体搬送量が短く、1つのラスターラインに連続して不良ノズル群が割り当てられてしまう。また、上端処理および下端処理では、OLノズルでなく通常ノズルが存在するため、通常ノズルが不良ノズルとなる場合がある。その結果、通常処理のパスで不良ノズルが割り当てられるラスターライン(例えばL45)に比べて、上端・下端処理のパスで不良ノズルが割り当てられるラスターライン(例えばL27〜29、L92〜94)の方が、不良ノズルの使用比率が高くなる。
例えば、不良ノズルから噴射されるインク量が設計上のインク噴射量よりも少ないとすると、不良ノズルの使用比率が高いラスターラインは他のラスターラインに比べて濃度の淡いラインとなる。よって、不良ノズルの使用比率が高いラスターラインは画像上に白スジとなって現れ、印刷画像の画質が劣化してしまう。そして、不良ノズルの使用比率が高くなるほどラスターラインの濃度がより淡くなり、そのラスターラインが画像上において目立ち易くなり、印刷画像の画質がより劣化してしまう。つまり、各ラスターラインを形成する際の不良ノズルの最大使用比率を低下させることで、画質劣化を抑制できる。
また、上端処理および下端処理の媒体搬送量は1個のラスターライン分に相当するため、搬送方向に並ぶラスターラインに連続して不良ノズル群が割り当てられてしまう。即ち、不良ノズルの使用比率が比較的に高いラスターラインが搬送方向に連続して並び、そのラスターライン群が画像上において目立ってしまう。このことも印刷画像の画質劣化に繋がる。
次に、中央部に不良ノズル群(#29〜#36)が発生したノズル列によって第2印刷方法(図4)が実施された場合について説明する。第2印刷方法も第1印刷方法と同様に、上端処理および下端処理の媒体搬送量が短く、1個のラスターライン分に相当する長さである。ゆえに、第2印刷方法においても、上端・下端処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターラインには、連続して不良ノズルが割り当てられてしまう。ただし、前述のように、第2印刷方法では上端・下端処理と通常処理の間に中間処理を設けることにより、第1印刷方法に比べて、上端・下端処理のノズル列において、非使用ノズル数やOLノズル数を増やすことができる。
その結果、例えば、第1印刷方法(図3)では上端処理のパス1の不良ノズル群(#29〜#36)が印刷に使用されるノズル(OLノズル)であるのに対して、第2印刷方法(図4)では上端処理のパス1の不良ノズル群が非使用ノズルとなる。パス1に限らず、パス2の不良ノズル群の一部(#35,#36)も非使用ノズルとなる。同様に、第1印刷方法では下端処理の最後のパス15の不良ノズル群が印刷に使用されるノズル(OLノズル)であるのに対して、第2印刷方法では下端処理の最後のパス19の不良ノズル群が非使用ノズルとなる。不良ノズル群が非使用ノズルとなることによって、不良ノズルに割り当てられる画素領域を減らすことが出来る。また、第1印刷方法ではパス4の不良ノズル群の一部(#29〜#32)が通常ノズルであるのに対して、第2印刷方法ではパス4の不良ノズル群が全てOLノズルとなる。不良ノズルが通常ノズルであるよりも不良ノズルがOLノズルである方が、不良ノズルに割り当てられる画素領域を減らすことができる。
ゆえに、第2印刷方法では第1印刷方法に比べて、上端・下端処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターラインの不良ノズルの使用比率を低下させることができる。具体的には、第1印刷方法の29番ラスター(L29)の不良ノズルの使用比率は62.5%であるのに対して、第2印刷方法の29番ラスターの不良ノズルの使用比率は37.5%(=(0.5×3)/4×100)となる。また、第1印刷方法の92番ラスター(L92)の不良ノズルの使用比率は62.5%であるのに対して、第2印刷方法の92番ラスターの不良ノズルの使用比率は37.5%(=(0.5×3)/4×100)となる。
図5は、第1印刷方法と第2印刷方法における不良ノズルの使用比率の違いを示すグラフである。横軸がラスターラインの番号を示し、縦軸が各ラスターラインにおける不良ノズルの使用比率を示す。図5は、上端処理にて印刷されるラスターラインの不良ノズルの使用比率を示す。グラフにおいて、第1印刷方法によるラスターラインの不良ノズルの使用比率を実線と丸(●)で示し、第2印刷方法によるラスターラインの不良ノズルの使用比率を点線と三角(▲)で示す。このグラフから、第1印刷方法における不良ノズルの最大使用比率(62.5%)よりも、第2印刷方法における不良ノズルの最大使用比率(37.5%)の方が低いことが分かる。
以上の結果、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合、上端・下端処理と通常処理の間に中間処理のない第1印刷方法よりも、上端・下端処理と通常処理の間に中間処理のある第2印刷方法を実施する方が、不良ノズルの最大使用比率を低下させることができる。不良ノズルの最大使用比率を低下させることで、他のラスターラインと濃度差のあるラスターラインが印刷画像上において目立ってしまうことを防止し、印刷画像の画質劣化を抑制できる。つまり、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合、第2印刷方法の方が印刷画像の画質劣化を抑制できる最適な印刷方法であると言える。
なお、図4に示す第2印刷方法では、上端処理と通常処理の間にも、下端処理と通常処理の間にも、中間処理が設けられた印刷方法を示すが、これに限らず、何れか一方の間にだけ中間処理が設けられた印刷方法でもよい。この場合にも、第1印刷方法を実施するよりも第2印刷方法を実施する方が、媒体の上端部と下端部のうちの何れか一方の端部の画質劣化を抑制することができる。よって、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合には第2印刷方法が最適な印刷方法となる。
図6Aおよび図6Bは、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生した場合の不良ノズルの使用比率を説明する図である。図6では、ノズル列の搬送方向下流側端部の8個のノズル(#1〜#8)を不良ノズルとする。図6Aは、上端処理と通常処理の間に中間処理を設けない第1印刷方法を示し、図6Bは、上端処理と通常処理の間に中間処理を設けた第2印刷方法を示す。
中間処理を設けることで、図6Bに示すように、上端処理のパス1のノズル#29よりも搬送方向上流側のノズルを非使用ノズルにすることが出来る。しかし、ここでは、ノズル列の端部に不良ノズルが発生するとしているため、上端処理のパスの不良ノズル(太枠で囲われた領域)を非使用ノズルにすることができない。よって、第1印刷方法(図6A)における不良ノズルの最大使用比率(L1〜L5=100%)と、第2印刷方法(図6B)における不良ノズルの最大使用比率(L1〜L5=100%)とが等しい。
第1印刷方法では、上端処理の後に媒体搬送量の比較的に長い通常処理が実施されるため、上端処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン(図6AのL1〜L8)と、通常処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン(図6AのL9以降)とが重複しない。よって、上端処理の後の通常処理で不良ノズルが割り当てられるラスターラインには、1個の不良ノズルずつしか割り当てられない。これに対して、第2印刷方法では、上端処理の後に通常処理時よりも媒体搬送量の短い中間処理が実施されるため、上端処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン(図6BのL1〜L8)と、中間処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン(図6BのL5以降)とが重複してしまう。よって、中間処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン(図6BのL5以降)には、複数の不良ノズルが割り当てられる。
そのため、第1印刷方法の6番ラスター(L6)の不良ノズルの使用比率は75%(=(1×3)/4×100)であるのに対して、第2印刷方法の6番ラスターの不良ノズルの使用比率は87.5%(=(1×3+0.5)/4×100)となってしまう。また、第1印刷方法の7番ラスター(L7)の不良ノズルの使用比率は50%(=(1×2)/4×100)であるのに対して、第2印刷方法の7番ラスターの不良ノズルの使用比率は62.5%(=(1×2+0.5)/4×100)となる。即ち、不良ノズルの最大使用比率は第1印刷方法と第2印刷方法とで同じであるが、2番目,3番目に大きい不良ノズルの使用比率は、第1印刷方法よりも第2印刷方法の方が大きい。
また、第1印刷方法にて上端処理の不良ノズル群が割り当てられるラスターラインよりも上流側のラスターライン(L9以降)では、不良ノズルの使用比率が12.5%(=0.5/4×100)となる。これに対して、第2印刷方法にて上端処理の不良ノズル群が割り当てられるラスターラインよりも上流側のラスターライン(L9以降)では、不良ノズルの使用比率が25%(=(0.5×2)/4×100)となる。このように、上端処理の不良ノズル群が割り当てられるラスターラインよりも上流側のラスターラインにおいもて、第1印刷方法の不良ノズルの使用比率よりも第2印刷方法の不良ノズルの使用比率の方が大きい。
以上の結果、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生する場合、第1印刷方法の方が第2印刷方法に比べて、不良ノズルの使用比率を全体的に低くすることができる。そうすると、不良ノズルの影響を受けたラスターラインと他のラスターラインとの濃度差を小さくすることができ、印刷画像の画質劣化を抑制できる。ゆえに、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生する場合、第1印刷方法が最適な印刷方法であると言える。これは、第2印刷方法において、中間処理を設けて上端・下端処理の非使用ノズル数を増やしたとしても、ノズル列の端部に不良ノズルがある場合、不良ノズルを非使用ノズルにすることができないからである。逆に、第2印刷方法において、中間処理を設けることによって、上端処理と中間処理でそれぞれ不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群が重複したり、中間処理の前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群が重複したりして、1つのラスターラインに割り当てられる不良ノズル数が増えてしまうからである。
また、第2印刷方法では、通常処理時よりも媒体搬送量の短い中間処理を設けるため、第1印刷方法に比べて印刷時間が長くなる。ゆえに、ノズル列の端部に不良ノズルが発生する場合には、印刷時間の観点からも、第1印刷方法が最適な印刷方法であると言える。
図7Aおよび図7Bは、ノズル列の端部と中央部の間に不良ノズル群が発生した場合の不良ノズルの使用比率を説明する図である。図7では、64個のノズル列から構成されるノズル列の端部(ノズル#1)と中央部(ノズル#32)の間の8個のノズル(#13〜#20)を不良ノズルとする。図7Aは、上端処理と通常処理の間に中間処理を設けない第1印刷方法を示し、図7Bは、上端処理と通常処理の間に中間処理を設けた第2印刷方法を示す。
前述の図6と同様に、中間処理を設けることで、図7Bに示すように、上端処理のパス1のノズル#29よりも搬送方向上流側のノズルを非使用ノズルにすることが出来る。しかし、ここでは、ノズル列の端部と中央部の間に不良ノズル(#13〜#20)が発生するとしているため、上端処理のパスの不良ノズル(太枠で囲われた領域)を非使用ノズルにすることができない。
ただし、第2印刷方法において中間処理を設けることで、図7Bに示すように、上端処理で不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群(L10〜L20)において、各ラスターラインに割り当てられるノズル数を増やすことが出来る。よって、そのラスターライン群(L10〜L20)に割り当てられるOLノズル(斜線のマス目)を増やすことが出来る。その結果、第1印刷方法(図7A)では、通常ノズル(白抜きのマス目)であった不良ノズルを、第2印刷方法(図7B)では、OLノズル(斜線のマス目)にすることができる。
例えば、第1印刷方法を示す図7Aではパス2の8個の不良ノズルのうちの6個のノズルが通常ノズルであるのに対して、第2印刷方法を示す図7Bではパス2の8個の不良ノズルの全てがOLノズルである。通常ノズルよりもOLノズルの方が対応付けられる画素領域の数が少ない。よって、第1印刷方法における不良ノズルの最大使用比率(L13〜L16の87.5%)よりも、第2印刷方法における不良ノズルの最大使用比率(L13〜L17の62.5%)を小さくすることができる。ゆえに、ノズル列の端部と中央部の間に不良ノズルが発生する場合、第2印刷方法が最適な印刷方法であると言える。
以上をまとめると、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合には(図3〜図5)、中間処理のある第2印刷方法が最適な印刷方法となり、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生する場合には(図6)、中間処理のない第1印刷方法が最適な印刷方法となり、ノズル列の端部と中央部の間に不良ノズル群が発生する場合には(図7)、中間処理のある第2印刷方法が最適な印刷方法となる。このように、ノズル列における不良ノズル群の発生位置によって最適な印刷方法が異なる。
そのため、例えば、仮に、経時変化によってノズル列の中央部に不良ノズル群が発生するプリンター1に対して中間処理のない第1印刷方法を実施するように設定してしまったとする。そうすると、ラスターラインを形成する際の不良ノズルの最大使用比率が大きく、印刷画像の画質が劣化してしまう。逆に、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生するプリンター1に対して中間処理のある第2印刷方法を実施するように設定してしまうと、印刷画像の画質が劣化してしまう。
そこで、本実施形態では、ノズル列における不良ノズルの発生位置に応じて最適な印刷方法、即ち、印刷画像の画質劣化が抑制される印刷方法を決定することを目的とする。また、印刷画像の画質劣化が抑制される印刷方法に設定されたプリンター1を製造することを目的とする。以下、プリンター1に対する最適な印刷方法の決定方法について具体的に説明する。
===印刷方法の決定方法===
図8は、プリンター1に設定する最適な印刷方法(記録方法)の決定方法を示すフロー図である。例えば、プリンター1の出荷前にはノズル列に不良ノズル群が発生していなくとも、前述のように、経時変化によりノズル列に不良ノズル群が発生する場合がある。そこで、本実施形態では、プリンター1の設計工程などにおいて、経時変化によりノズル列に発生する不良ノズル群の位置を予測し、予測した位置に応じて、そのノズル列(ヘッド41)を搭載するプリンター1の最適な印刷方法を決定する。ただし、プリンター1の設計工程において最適な印刷方法を決定するに限らない。例えば、ユーザーのもとでプリンター1を使用している時に、ノズル列に実際に不良ノズル群が発生した時点で、実際に発生した不良ノズル群の位置に応じて最適な印刷方法を決定してもよい。
そのため、まず、ノズル列における不良ノズル群の位置を特定する、又は、不良ノズル群の位置を予測する(S01)。不良ノズル群の位置を特定するために、例えば、ノズル列に属する各ノズルにラインを形成させる。なお、プリンター1の設計時であり不良ノズル群の位置を予測する場合には、プリンター1に搭載するヘッド41のノズル列から所定回数のインク滴を噴射させた後に、ノズル列に属する各ノズルにラインを形成させる。そして、ノズル列に属する各ノズルによって形成されたラインの太さやラインの間隔に基づいて、不良ノズルを決定する。例えば、他のノズルによって形成されたラインよりも細いラインを形成したノズルは、インク噴射量が少ない不良ノズルであると判断でき、逆に、他のノズルによって形成されたラインよりも太いラインを形成したノズルは、インク噴射量の多い不良ノズルであると判断できる。また、ノズル列方向(搬送方向)に並ぶ2つのノズルによって形成されるラインの間隔が設計上のラインの間隔と異なる場合、その2つのノズルのうちの少なくとも一方のノズルの着弾位置が設計上の着弾位置からずれる不良ノズルであると判断できる。また、ノズル列に属する各ノズルにラインを形成させるに限らず、例えば、ノズルから噴射されるインク量を実際に測定することによって不良ノズルか否かを判断してもよい。こうして、ノズル列における不良ノズル群の発生位置を特定する(予測する)。
次に、ノズル列における不良ノズル群の発生位置に基づいて、第1印刷方法と第2印刷方法の中から、そのノズル列を搭載するプリンター1の最適な印刷方法を選択する。前述のように、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生する場合、中間処理のない第1印刷方法が最適な印刷方法であり、ノズル列の中央部、又は、中央部と端部の間に不良ノズル群が発生する場合、中間処理のある第2印刷方法が最適な印刷方法である。そこで、ノズル列の端部に不良ノズル群が発生する場合には(S02→YES)、プリンター1に最適な印刷方法を「第1印刷方法」に決定し(S03)、ノズル列の端部以外(中央部又は端部と中央部の間)に不良ノズル群が発生する場合には(S02→NO)、プリンター1に最適な印刷方法を「第2印刷方法」に決定する(S04)。こうすることで、プリンター1に対して、印刷画像の画質劣化を抑制する印刷方法を決定することができる。
ところで、前述の図4において説明しているように、第2印刷方法では上端処理の後や下端処理の前に、通常処理時よりも媒体搬送量の短い中間処理を設けることで、1つのラスターラインに割り当てられるノズル数を増やすことができ、上端・下端処理のノズル列における非使用ノズル数やOLノズル数を増やすことができる。その結果、ノズル列の端部以外に不良ノズル群がある場合には、不良ノズルが非使用ノズルとなったりOLノズルとなったりするため、ラスターラインを形成する際の不良ノズルの最大使用比率を下げることができる。その一方で、中間処理の媒体搬送量を短くし過ぎると、中間処理の前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群の重複率が大きくなり、1つのラスターラインに割り当てられる不良ノズル数が増えてしまう。ゆえに、中間処理の媒体搬送量によって、ラスターラインを形成する際の不良ノズルの使用比率が変動する。
そこで、プリンター1の最適な印刷方法として第2印刷方法が選択された場合には、更に、中間処理の最適な媒体搬送量を決定する。そのために、中間処理の媒体搬送量を複数変化させて、各媒体搬送量における不良ノズルの使用比率を算出し、算出した不良ノズルの使用比率に基づいて、中間処理の最適な媒体搬送量を決定する。そうすることで、画質劣化を抑制できる中間処理の媒体搬送量を決定することができる。
また、同じ種類のヘッド41の場合、ノズル列における不良ノズル群の発生位置は等しいが、個々のヘッド41によって発生する不良ノズル数が異なる場合がある。また、通常処理において1つのラスターラインを形成するノズルの構成によって、1サイクルのパス数(通常処理にて1つのラスターラインを完成させるためにドットが形成されるパス数)が異なる。例えば、図4に示す通常処理では8個のOLノズルによって1つのラスターラインが形成されるため、1サイクルが8パスとなるのに対して、6個のOLノズルと1個の通常ノズルによって1つのラスターラインが形成される場合には、1サイクルが7パスとなる。そのため、上端処理または下端処理のパス数と中間処理のパス数の合計数を1サイクルのパス数にする場合、通常処理にて1つのラスターラインを形成するノズルの構成によって中間処理のパス数が異なってくる。
つまり、プリンター1が第2印刷方法を実施するとしても、ヘッド41によってノズル列に発生する不良ノズル数が異なったり、印刷条件によって中間処理のパス数が異なったりする。不良ノズル数や中間処理のパス数が異なると、各ラスターラインを形成する際の不良ノズルの使用比率が変動する。
そこで、本実施形態では、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するために、中間処理の媒体搬送量を複数変化させるだけでなく、不良ノズル数や中間処理のパス数も複数変化させて、各条件における不良ノズルの使用比率を算出する。そうして算出した不良ノズルの使用比率に基づいて、中間処理の最適な媒体搬送量を決定する。そうすることで、画質劣化を抑制できる中間処理の媒体搬送量を決定することができる。
本実施形態では、条件ごとに中間処理の最適な媒体搬送量を決定し、より多くの条件において最適となる媒体搬送量を、中間処理の媒体搬送量に決定する。各条件において最適となる媒体搬送量とは、不良ノズルの最大使用比率が最も低くなる媒体搬送量とする。そうすることで、不良ノズルの使用比率が最大であるラスターラインと他のラスターラインとの濃度差を出来る限り小さくすることができ、不良ノズルの使用比率が最大であるラスターラインが画像上においてスジとなって目立ってしまうことを抑制できる。
また、不良ノズルの最大使用比率が同じである場合は、不良ノズルの使用比率が最大であるラスターライン数が少ない媒体搬送量や、2番目に大きい不良ノズルの使用比率が最も低くなる媒体搬送量を、各条件における最適な媒体搬送量にするとよい。そうすることで、画像上にて目立つラスターラインを減らすことができ、画質劣化を抑制できる。
以下では、説明のため、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合を例に挙げる。また、図4に示す第2印刷方法では、上端処理と通常処理の間にも、下端処理と通常処理の間にも中間処理を設けている。そのため、媒体上端側のラスターラインを形成する際の不良ノズルの使用比率と媒体下端側のラスターラインを形成する際の不良ノズルの使用比率の両方を考慮して、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するとよい。ただし、図4に示すように、上端処理と通常処理の間に中間処理を設けることによる作用と、下端処理と通常処理の間に中間処理を設けることによる作用は、同じである。よって、以下では、説明の簡略のため、媒体上端側のラスターラインを形成する際の不良ノズルの使用比率だけを考慮して、最適な媒体搬送量を決定する。
まず、不良ノズル数、及び、中間処理の媒体搬送量を複数変化させて、各条件における不良ノズルの使用比率を算出する(S05)。
図9Aは、経時変化により発生する不良ノズル数が4個である場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフであり、図9Bは、不良ノズル数が8個である場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフであり、図9Cは、不良ノズル数が16個である場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフである。横軸がラスターラインの番号を示し、縦軸が不良ノズルの使用比率を示す。なお、前述の図4に示す第2印刷方法と同様に、通常処理では1つのラスターラインが8個のOLノズルによって完成され、1サイクルが8パスであり、中間処理のパス数を4パスとする。また、通常処理の媒体搬送量が8個のラスターライン分の長さに相当し、上端・下端処理の媒体搬送量が1個のラスターライン分の長さに相当するとした。
そして、ここでは、ノズル列の中央部に不良ノズル群が発生する場合を例に挙げる。よって、ノズル列に属する64個のノズルのうち、図9Aでは4個のノズル#31〜#34を不良ノズルとし、図9Bでは8個のノズル#29〜#36を不良ノズルとし、図9Cでは16個のノズル#25〜#40を不良ノズルとする。
各グラフには、中間処理の媒体搬送量(7)が通常処理の媒体搬送量(通常送り量・8)よりも1個のラスターライン分の長さだけ短い場合の不良ノズルの使用比率の算出結果(四角(■)・実線)と、中間処理の媒体搬送量(4)が通常処理の媒体搬送量(8)の1/2である場合の不良ノズルの使用比率の算出結果(三角(▲)・実線)と、中間処理の媒体搬送量(2)が上端処理の媒体搬送量(上端送り量・1)よりも1個のラスターライン分の長さだけ長い場合の不良ノズルの使用比率の算出結果(バツ(×)・実線)が、示されている。なお、図3、図4に示す印刷条件に限らず、ノズル列の端部以外に不良ノズル群が発生する場合には、第1印刷方法よりも第2印刷方法の方が最適な印刷方法であることを示すために、図9Aおよび図9Bには第1印刷方法における不良ノズルの使用比率の算出結果(丸(○)・点線)も示す。
不良ノズル数が4個であるときは、図9Aのグラフに示されるように、中間処理の媒体搬送量が上端処理の媒体搬送量よりも1個のラスターライン分だけ長い場合(×)に、ラスターラインを形成する際の不良ノズルの最大使用比率が最も低くなり、最も画質劣化を抑制できる。
不良ノズル数が8個であるときは、図9Bのグラフに示されるように、中間処理の媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量の半分である場合(▲)に、ラスターラインを形成する際の不良ノズルの最大使用比率が最も低くなり、最も画質劣化を抑制できる。
不良ノズル数が16個であるときは、図9Cのグラフに示されるように、全ての媒体搬送量における不良ノズルの最大使用比率が同じである。ただし、中間処理の媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量の半分である場合(▲)に、不良ノズルの使用比率が最大となるラスターライン数が最も少ない。不良ノズルの使用比率が最大となるラスターライン数が少ないほど、画像上にてスジとなって現れるラスターライン数を少なくすることができる。ゆえに、中間処理の媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量の半分である場合に、最も画質劣化を抑制できる。
以上の結果、不良ノズル数が4個のときは、上端処理の媒体搬送量よりも1個のラスターライン分だけ長い搬送量(2)が中間処理の最適な搬送量となる。一方、不良ノズル数が8個、16個のときは、通常処理の媒体搬送量の半分の搬送量(4)が中間処理の最適な搬送量となる。なお、これは、不良ノズル数が少ない場合、中間処理の媒体搬送量が短くとも、中間処理の前後のパスで不良ノズル群が割り当てられるラスターライン群が重複し難いからである。
次に、中間処理のパス数、及び、中間処理の媒体搬送量を複数変化させて、各条件における不良ノズルの使用比率を算出する(S06)。
図10Aは、中間処理のパス数が3パスである場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフであり、図10Bは、中間処理のパス数が2パスである場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフであり、図10Cは、中間処理のパス数が1パスである場合の不良ノズルの使用比率を示すグラフである。なお、ノズル列の中央部に4個の不良ノズル(#31〜#34)が発生したとし、上端・下端処理の媒体搬送量は1個のラスターライン分の長さに相当する。
中間処理のパス数が3パスである場合、通常処理の媒体搬送量が9個のラスターライン分の長さに相当し、通常処理時に1つのラスターラインが6個のOLノズルと1個の通常ノズルで形成される。中間処理のパス数が2パスである場合、通常処理の媒体搬送量が10個のラスターライン分の長さに相当し、通常処理時に1つのラスターラインが4個のOLノズルと2個の通常ノズルで形成される。中間処理のパス数が1パスである場合、通常処理の媒体搬送量が12個のラスターライン分の長さに相当し、通常処理時に1つのラスターラインが2個のOLノズルと3個の通常ノズルで形成される。なお、ここでは、通常処理の媒体搬送量に相当するラスターライン数が9個(奇数)である場合、通常処理の媒体搬送量の半分の値(4.5)を切捨てた値(4)を中間処理の媒体搬送量とする。ただし、これに限らず、通常処理の媒体搬送量の半分の値(4.5)を切上げた値(5)を中間処理の媒体搬送量としてもよい。
中間処理のパス数が3パスであるときは、図10Aのグラフに示されるように、中間処理の媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量の半分である場合(▲)に、不良ノズルの最大使用比率が最も低くなり、画質劣化を抑制できる。同様に、中間処理のパス数が2パスであるときも(図10B)、中間処理のパス数が1パスであるときも(図10C)、中間処理の媒体搬送量が通常処理の媒体搬送量の半分である場合(▲)に、不良ノズルの最大使用比率が最も低くなり、画質劣化を抑制できる。以上の結果、不良ノズル数が4個であり、中間処理のパス数が1から3パスであるときは、通常処理の媒体搬送量の半分の搬送量が中間処理の最適な搬送量となる。
こうして、不良ノズル数、中間処理のパス数、中間処理の媒体搬送量を複数変化させて不良ノズルの使用比率を算出し、各条件における中間処理の最適な媒体搬送量に基づいて、プリンター1が第2印刷方法を実施する際の中間処理の媒体搬送量を決定する(S07)。図9Aから図9C及び図10Aから図10Cの結果では、通常処理の媒体搬送量の半分(1/2)の媒体搬送量が、より多くの条件において、中間処理の最適な媒体搬送量となっている。よって、本実施形態では、中間処理の最適な媒体搬送量を、通常処理の媒体搬送量の半分の搬送量に決定する。その結果、より多くの条件において画質劣化を抑制することができる。なお、この場合、中間処理のパス数に応じて(1つのラスターラインを形成するためのノズルの構成に応じて)通常処理の媒体搬送量が異なる場合には、中間処理のパス数に応じて中間処理の媒体搬送量が異なる。
また、不良ノズル数、中間処理のパス数を複数変化させて、不良ノズルの使用比率を算出するに限らない。最適な印刷方法を決定するプリンター1において不良ノズル数や中間処理のパス数以外の他の条件(例えば、上端・下端処理の媒体搬送量など)が変動する場合、その他の条件も複数変化させて、不良ノズルの使用比率を算出するとよい。即ち、他の条件も考慮して、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するとよい。
そうして、ノズル列における不良ノズル群の発生位置に応じて最適な印刷方法が決定された後、また、中間処理のある第2印刷方法に決定された場合には中間処理の最適な媒体搬送量が決定された後、この決定された印刷方法にてプリンター1が印刷を実施するように、決定された印刷方法をプリンター1に設定する、即ち、決定された印刷方法をプリンター1のメモリー13(記憶部)に記憶させる(S08)。具体的には、決定された印刷方法に関するパラメーター(中間処理の有無や中間処理の媒体搬送量など)をプリンター1のメモリー13に記憶させる。また、プリンター1のメモリー13に記憶させるに限らず、決定された印刷方法に関するパラメーターを、印刷データを作成するためのプログラムであるプリンタードライバーに記憶させてもよい。
このように、本実施形態では、プリンター1の設計工程において、経時変化によりノズル列に発生する不良ノズル群の予測位置に応じて、最適な印刷方法を決定し、決定された最適な印刷方法をプリンター1に設定することによって、プリンター1を製造する。その結果、ノズル列に不良ノズル群が発生したとしても、プリンター1による印刷画像の画質劣化を抑制できる。
なお、ここまで、プリンター1が同じ第2印刷方法を実施する場合であっても、ノズル列に発生する不良ノズル数や中間処理のパス数が変化するとしているが、これに限らない。
例えば、個々のヘッド41によってノズル列に発生する不良ノズル数が変動せずに、同じ種類のヘッド41であればノズル列に発生する不良ノズル数が固定される場合もある。例えば、不良ノズル数が4個と固定される場合、不良ノズル数が4個であり、中間処理のパス数を複数変化させた結果である図9A及び図10Aから図10Cに基づいて、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するとよい。
また、通常処理にて1つのラスターラインを形成するノズルの構成が一定であり、即ち、1サイクルのパス数が一定であり、中間処理のパス数が固定される場合がある。例えば、中間処理のパス数が4パスと固定される場合、中間処理のパス数が4であり、ノズル列に発生する不良ノズル数を複数変化させた結果である図9Aから図9Cに基づいて、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するとよい。
また、不良ノズル数が4個に固定され、中間処理のパス数も4パスと固定される場合、図9Aに基づいて、中間処理の最適な媒体搬送量を決定するとよい。図9Aでは、中間処理の媒体搬送量を上端処理の媒体搬送量に1個のラスターライン分だけ長い長さとしたときに、不良ノズルの最大使用比率が最も低下する。よって、この場合、中間処理の最適な媒体搬送量は、上端処理の媒体搬送量に1個のラスターライン分だけ長い長さとなる。
===その他の実施の形態===
上記の各実施形態は、主としてインクジェットプリンターを有する印刷システムについて記載されているが、印刷方法等の開示が含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
<プリンターについて>
前述の実施形態では、ヘッド41を移動方向に移動させながら単票紙に画像を形成する動作と、ヘッド41に対して単票紙を搬送方向に搬送する動作とを繰り返すプリンターを例に挙げているが、これに限らない。例えば、印刷領域に搬送された連続用紙に対して、ヘッドを媒体搬送方向に移動しながら画像を形成する動作と、ヘッドを紙幅方向に移動する動作と、を繰り返して画像を形成し、その後、未だ印刷されていない媒体部分を印刷領域に搬送するプリンターでもよい。