JP5439750B2 - 被覆部材の製造方法および被覆部材 - Google Patents

被覆部材の製造方法および被覆部材 Download PDF

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本発明は、基材の表面に被覆膜を被覆した被覆部材に関するものであり、基材と被覆膜との密着性が向上した被覆部材の製造方法およびその製造方法により得られる被覆部材に関するものである。
一般に、工具や金型、各種装置の部品などの表面には、求められる性能に応じた被覆膜が形成されている。たとえば、耐久性が求められる工具や金型の表面には硬質な被覆膜が形成される。これらの被覆膜は、めっき、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)といった方法により基材の表面に成膜されるのが一般的である。基材の表面に被覆膜を形成してなる被覆部材では、成膜された表面部に残留応力が不可避的に発生する。残留応力は、被覆膜の密着性はもちろんのこと、表面特性にも大きく影響する。そのため、被覆部材に発生する残留応力を除去する必要がある。
非特許文献1には、PVDにより基材の表面に成膜された被覆膜をもつ被覆部材の密着性の改善方法がいくつか記載されている。たとえば、基材と被覆膜との間に中間層を形成する、被覆膜の組成を厚さ方向に傾斜させたり添加元素を用いたりする、基材の表面を清浄化したり凹凸を形成(特許文献1参照)したりする、などの方法により基材と被覆膜との密着性が向上することが記載されている。
また、特許文献2では、基材の表面に硬質な被覆膜を形成した後、被覆膜の残留応力を除去することを目的とし、被覆膜にレーザビームを照射して被覆膜にクラックを形成して被覆膜を細分割している。
特開平10−130817号公報 特開平 5−116003号公報 石神、他2名、「熱処理」、日本熱処理技術協会、平成5年2月、33巻1号、p.35−43
従来、被覆部材の密着性を向上させるための中間層の形成や基材の表面の改質などは、基材に被覆膜を形成する前に行われることが多い。また、被覆膜の組成を制御して密着性を向上させる方法もあるが、被覆膜の組成が変化するとその物性も変化するおそれがあり、基材の表面に所望の特性が付与されない場合も考えられる。また、特許文献2では、成膜後の被覆膜にレーザビームを照射している。しかしながら、被覆膜に割れが生じると、被覆部材を摺動部材に用いる場合には摺動の相手材、金型に用いる場合には被加工材、がその割れに噛み込み、被覆膜が早期に損傷することが予測される。
本発明は、上記問題点に鑑み、基材と被覆膜との密着性を向上させるための新規の手法を用いた被覆部材の製造方法およびその製造方法により得られる被覆部材を提供することを目的とする。
本発明の被覆部材の製造方法は、
基材の表面の少なくとも一部に100℃以上の高温で被覆膜として非晶質炭素被膜を形成する被覆膜形成工程と、
圧縮残留応力が発生した前記被覆膜の表面側からショットピーニングまたはウォータジェットにより応力を付与して、該被覆膜の弾性変形範囲内で、引張り残留応力が発生した前記基材の表層部を塑性変形させて該被覆膜にかかる残留応力を緩和させる応力緩和工程と、
を含むことを特徴とする。
前述のように、基材とその表面に被覆された被覆膜とからなる被覆部材では、成膜された表面部に残留応力が不可避的に発生する。被覆部材に生じる残留応力の発生要因として、熱膨張係数の差に起因する熱応力、構造(相変態、固溶原子の拡散など)に起因する真応力、の2つが主に挙げられる。たとえば、CVD法により500℃程度の高温で金属製の基材の表面に非晶質炭素(DLC)膜を成膜すると、成膜時の基材とDLC膜との温度差から生じる熱膨張差に起因して、室温ではDLC膜に圧縮残留応力が、基材に引張り残留応力が、それぞれ発生する。なお、室温付近で形成可能なニッケル−リンめっきを金属製の基材の表面に被覆すると、めっき層と基材との結晶構造のミスフィットが残留応力の要因となり、めっき層に引張り残留応力が、基材に圧縮残留応力が、それぞれ発生する。すなわち、基材および被覆膜の種類、被覆膜の形成方法、形成条件、に応じて、基材側および被覆膜のいずれか一方に引張り残留応力が発生し、被覆膜にかかる残留応力が大きいと被覆膜が基材の表面から剥離しやすい。
そこで、本発明の被覆部材の製造方法では、基材の表層部を塑性変形させる(応力緩和工程)。塑性変形されるのは、引張り残留応力が発生している基材の表層部である。塑性変形されることで被覆膜にかかる残留応力は緩和され、その結果、基材と被覆膜との密着性が向上する。
また、本発明の被覆部材の製造方法において、応力緩和工程は、被覆膜の表面にショットピーニングまたはウォータジェットを施す工程である。ショットピーニングまたはウォ ータジェットを適切な条件の下で行うことにより、基材の表層部のみに圧縮応力が付与され、簡便に塑性変形させることができる。基材の表層部のみを塑性変形させる場合には、被覆膜の弾性変形範囲内となるような条件とす非晶質炭素被膜は、弾性変形範囲が広 いため、好適である。
また、応力緩和工程は、特に密着性が必要となる被覆部材の一部のみの残留応力を緩和させる工程であってもよい。すなわち、被覆膜の表面の一部のみにショットピーニングなどを施せばよく、特に密着性が必要な被覆部材の一部のみの被膜の耐剥離性を向上させることができる。
本発明の被覆部材は、上記本発明の方法により製造される被覆部材である。すなわち、本発明の被覆部材は、基材と該基材の表面に被覆された被覆膜とからなる被覆部材であって、
前記基材の表面の少なくとも一部に100℃以上の高温で被覆膜として非晶質炭素被膜を形成した後、前記被覆膜の表面側からショットピーニングまたはウォータジェットによ り応力を付与して、該被覆膜の弾性変形範囲内で、引張り残留応力が発生した前記基材の 表層部を塑性変形させて該被覆膜にかかる残留応力を緩和させてなることを特徴とする。
以下に、本発明の被覆部材の製造方法および被覆部材を実施するための最良の形態を説明する。
[被覆部材の製造方法]
本発明の被覆部材の製造方法は、被覆膜形成工程と応力緩和工程とを含む。
被覆膜形成工程は、基材の表面の少なくとも一部に被覆膜を形成する工程である。基材は、種々の部品であったり装置の一部を構成するものであったりすればよく、その寸法や形状に特に限定はない。また、被覆膜は、基材の表面の少なくとも一部を覆い、その表面に耐摩耗性、耐蝕性、装飾性などの機能を付与する。
基材は、形状や材質に特に限定はないが、金属製またはセラミックス製であるとよい。被覆膜が形成される基材の表面には、凹凸形成処理、清浄化処理、窒化などの表面改質処理、などの前処理がされていてもよい。被覆膜形成工程の後の応力緩和工程において基材の表層部を塑性変形させる場合には、塑性変形能をもつ材料からなる基材を使用する必要がある。塑性変形能は、数%もあれば、被覆膜で覆われた基材の表層部であっても塑性変形可能である。望ましい塑性変形能は、0.5%以上さらには1〜5%である。具体的には、鉄、鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、超硬合金、などが挙げられる。また、ジルコニアなどの応力誘起変態能をもつセラミックス製の基材は、セラミックスの中でも塑性変形能が大きいため、本発明の被覆部材の製造方法に好適である。
被覆膜は、非晶質炭素被膜である。非晶質構造を有する炭素を主成分とする非晶質炭素(DLC)は、耐摩耗性、固体潤滑性などの機械的特性に優れ、絶縁性、可視光/赤外光透過率、低誘電率、酸素バリア性などを合わせもつため、好適である。非晶質炭素は、主として炭素と水素からなるが、金属元素や珪素を含有してもよい。
被覆膜形成工程では、上記基材の表面の少なくとも一部に上記被覆膜を形成すればよい。被覆膜の形成方法としては、CVDやPVDに代表される蒸着、電気めっきや無電解めっきなどの各種めっき法、など、基材および被覆膜の材質に応じて適宜選択すればよい。このとき、被覆膜の厚さを0.5〜50μmさらには1〜20μmとするとよい。本発明の被覆部材の製造方法では、被覆膜の膜厚が上記の範囲において、被覆膜に生じる割れや剥離が低減され、密着性の向上効果が良好に発現するためである。
通常、被覆膜形成工程後の被覆部材では、次の応力緩和工程に供される前において、基材の表層部に引張り残留応力がかかった状態では、被覆膜に圧縮残留応力がかかる。また、基材の表層部に圧縮残留応力がかかった状態では、被覆膜に引張り残留応力がかかる。被覆膜にかかる引張り残留応力または圧縮残留応力が、密着性の低下の一因となる。
ここで、被覆膜形成工程が、被覆膜として炭素被膜またはセラミックス被膜を100℃以上さらには150℃以上、450℃以上の高温で形成する工程である場合には、被覆膜形成工程後の室温での被覆部材には、被覆膜に圧縮残留応力が、基材に引張り残留応力が、それぞれ発生することが多い。また、被覆膜形成工程が、被覆膜として金属被膜を室温以上95℃以下の低温で形成する工程である場合には、金属被膜に引張り残留応力が、基材に圧縮残留応力が、それぞれ発生することが多い。しかしながら、基材と被覆膜のどちらに引張り応力が発生するかは、成膜条件だけでなく、それぞれの材質に因るところが大きい。基材と被覆膜のどちらに引張り応力が発生するかは、従来から行われている内部応力の測定法により容易に判断が可能である。たとえば、薄片状の基材の片面のみを被覆膜で覆い、その反りの程度から残留応力を測定することが可能である。ただし基材は、薄くしたときに弾性のある材料に限られる。また、X線回折測定を行い、回折ピークのピーク位置および半価幅から残留応力を推定することも可能である。ただし被覆膜は、結晶性の材料に限られる。そのほか、超音波顕微鏡による表面波音速変化量、レーザラマン分光法によるラマンシフト量、などからも残留応力を測定することができる。
応力緩和工程は、基材の表層部を塑性変形させて、被覆膜にかかる残留応力を緩和させる工程である。塑性変形させるのは、引張り残留応力が発生した基材の表層部である。引張り残留応力が発生している部分を塑性変形させることで、その部分が延ばされ、被覆膜にかかる残留応力が緩和される。つまり、引張り残留応力が発生した基材の表層部は、被覆膜にかかる残留応力が少しでも低減される程度に塑性変形されることで、基材と被覆膜との密着性が向上する。また、基材や被覆膜の材質によっては、塑性変形とともに応力誘起変態が生じ、被覆膜にかかる残留応力が緩和される。なお、基材の表層部とは、被覆部材の密着性に影響する基材のごく表面の部分のみを指す。あえて規定するのであれば、表面を基準として1〜500μmさらには5〜100μmまでの厚さの部分である。
応力緩和工程は、被覆膜の表面から応力を付与して、基材の表層部を塑性変形させるとよい。たとえば、被覆膜の表面に各種ピーニングを施すのが簡便である。ピーニングの手法としては、ショットピーニング、ドライアイスショットピーニング、超音波衝撃処理、ウォータジェットなどが挙げられる。また、キャビテーション・ショットレス・ピーニング、レーザショックも可能である。本発明では、ショットピーニングまたはウォータジェ ットを用いる。これらの手法は、被覆膜の表面を大きく損傷させることなく、基材の表層部を容易に塑性変形させることができる。また、被覆膜の表面をピーニングすることにより、被覆膜が基材側に押し付けられること、凹凸形成によるアンカー効果、等によりさらに密着性が向上する。
塑性変形は、必ずしも被覆された全表面に渡って行う必要はない。密着性が特に必要とされる一カ所あるいは複数カ所を選択的に塑性変形させてもよい。すなわち、応力緩和工程は、被覆膜の表面の一部のみにショットピーニングまたはウォータジェットを施す工程であってもよい。被覆部材のうち、特に高面圧がかかる部分、被覆膜の剥離しやすい角部、などに選択的にピーニングを施すことで、被覆膜の耐剥離性を効率よく向上させられる。
ピーニングは、基材の表層部および被覆膜のうちのいずれに引張り残留応力が発生しているかによって、その処理条件を選定する必要がある。処理条件の選定方法としては、先に説明した残留応力の測定方法を用いることが可能である。たとえば、薄片状の基材の片面のみを被覆膜で被覆した残留応力測定の試料に対し、被覆膜の表面にピーニングを施す。ピーニング前後の反りの程度を比較することで、処理条件を簡単に選定することができる。
また、応力緩和工程において、基材の表層部に引張り残留応力が発生している場合には、被覆膜の表面から応力を付与しても、被覆膜を塑性変形させずに基材の表層部を塑性変形させなければならない。そのため、基材の表層部に引張り残留応力が発生している場合には、被覆膜の弾性変形範囲内で、基材の表層部を塑性変形させる。非晶質炭素被膜のように弾性変形範囲の広い材料からなる被覆膜を備える被覆部材であれば、被覆膜の表面にピーニングを施しても、被覆膜を変形させることなく基材の表層部を容易に塑性変形させられる。以下に、金属製の基材と非晶質炭素膜とを備える被覆部材について、応力緩和工程を具体的に説明する。
通常、金属製の基材と、その表面に被覆された非晶質炭素(DLC)膜と、からなる被覆部材には、基材の表層部に引張り残留応力、DLC膜に圧縮残留応力、が発生する。すわわち、応力緩和工程では、基材の表層部を塑性変形させてDLC膜にかかる残留応力を緩和させる。ショットピーニングであれば、DLC膜の表面に投射するショット粒子の種類および平均粒子速度を変化させることで、被覆部材にかかる応力が変化する。ショット粒子の平均粒径は、10〜200μmさらには50〜80μmであるのが望ましい。ショット粒子の平均硬さはヴィッカース硬さでHv20〜500さらにはHv50〜200、Hv70〜180であるのが望ましい。平均粒子速度は、15〜120m/秒、20〜100m/秒さらには40〜90m/秒とするとよい。また、ウォータジェットであれば、基材の0.2%耐力(σ0.2)を超え、かつ、基材を破壊しない水圧で行う必要がある。通常、30〜500MPaの範囲で行えばよいが、たとえば、Hv150程度の鋼製の基材であれば150〜300MPaの水圧で行うのが望ましい。上記の条件でピーニング処理を行うことで、DLC膜を損傷させることなく、基材の表層部のみを塑性変形させることが可能となる。その結果、DLC膜にかかる残留応力が緩和され、基材とDLC膜との密着性が向上する。
[被覆部材]
本発明の被覆部材は、以上説明した本発明の被覆部材の製造方法により製造される。本発明の被覆部材は、被覆膜の損傷が無く、基材と被覆膜との密着性が向上され、被覆膜の耐剥離性が非常に高い。なお、基材および被覆膜の形態については、既に説明した通りである。
本発明の被覆部材は、被覆膜に高面圧がかかる耐摩耗部材に好適である。たとえば、自動車部品、繊維機械部品、コンプレッサ部品などに用いられる摺動部品、金型、治具、工具などの生産用具などが挙げられる。
以上、本発明の被覆部材の製造方法および被覆部材の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、本発明の被覆部材の製造方法および被覆部材の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
ステンレス鋼(SUS440C(JIS))製の円盤状の基材(表面硬さHv650)の表面に、プラズマCVD法により厚さ3μmの珪素含有非晶質炭素(DLC−Si)膜を成膜し、12枚の試験片を作製した。基材の寸法は直径30mm×厚さ3mmであり、円形表面の片面のみにDLC−Si膜を成膜した。DLC−Si膜の組成は、H:28at%、Si:6at%、残部がCであった。DLC−Si膜の成膜温度(成膜時の基材の温度)は500℃とした。
次に、得られた試験片の反りを測定した。反りの測定は、試験片を定盤に静置し、定盤面から試験片の上面までの高さを測定して行った。いずれの試験片もDLC−Si膜側に凸状に変形しており、突出量は5μm程度であった。すなわち、基材に引張り残留応力(DLC−Si膜に圧縮残留応力)が発生した状態であった。
次に、作製した各試験片に対してそれぞれ異なる条件で、DLC−Si膜の表面にショットピーニングを行った。ショットピーニングは、平均粒径70μmのステンレス(SUS304)製ショット粒子(平均硬さHv170)またはアルミニウム合金(Al−12wt%Si)製ショット粒子(平均硬さHv80)を用い、ショット粒子の平均粒子速度を10〜160m/秒の範囲で変化させて、DLC−Si膜の表面にショット粒子を投射した。ショット条件を表1に示す。
ショットピーニングを行った後の各試験片に対し、基材とDLC−Si膜との密着性(被覆膜の耐剥離性)の評価を行った。密着性の評価は、CSM社製スクラッチテスター(TRIBOXTHT;S/N:08−149)を用いて測定した、DLC−Si膜の剥離臨界荷重により行った。測定結果を「密着力」として、表1に示す。
Figure 0005439750
表1において、#01〜#07は実施例であるが、#C1はショットピーニングを行わない比較例、#C2〜#C5は密着力が#C1以下である比較例である。
ショットピーニングを施す前の密着力は、50Nであった。ショット粒子の平均速度が10m/秒では、密着力にほとんど変化はなかった。つまり、DLC−Si膜にかかる残留応力は緩和されなかったと推測される。ショット粒子の平均粒子速度を20m/秒とすることで、密着性が向上することがわかった。しかし、ショット粒子の平均速度が早すぎると、DLC−Si膜が剥離するとともに密着力がショット前より低下した。ショット粒子の平均速度を100m/秒以下とすることで、DLC−Si膜を損傷させることなく密着性を向上させることができると予測される。
なお、密着力が最も高い#02の試験片の反りを上記と同様の方法により測定した結果、ショット前に5μm程度であった試験片の反りが1μm以下に減少した。すなわち、DLC−Si膜の表面にショットピーニングを施すことで、基材がわずかに塑性変形して、DLC−Si膜にかかる圧縮残留応力(基材に発生した引張り残留応力)が緩和された。
[実施例2]
ダイス鋼(SKD11(JIS))製の短冊状の基材(表面硬さHv700)の表面に、プラズマCVD法により厚さ5μmの珪素含有非晶質炭素(DLC−Si)膜を成膜し、2枚の試験片を作製した。基材の寸法は20mm×50mm×3mmであり、20mm×50mmの表面の片面のみにDLC−Si膜を成膜した。DLC−Si膜の成膜温度(成膜時の基材の温度)は500℃とした。
次に、得られた試験片の反りを上記の方法で測定した。どちらの試験片もDLC−Si膜側に凸状に変形しており、突出量は14μm程度であった。すなわち、基材に引張り残留応力(DLC−Si膜に圧縮残留応力)が発生した状態であった。
次に2枚のうちの一方の試験片のDLC−Si膜の表面にショットピーニングを行った。ショットピーニングは、実施例1と同様のSUS304製ショット粒子を用い、ショット粒子の平均粒子速度を50m/秒としてDLC−Si膜の表面にショット粒子を投射した。
2枚の試験片に対し、基材とDLC−Si膜との密着性(耐剥離性)の評価を上記と同様の方法で行った。測定結果を表2に示す。
Figure 0005439750
表2において、#08は実施例であるが、#C6はショットピーニングを行わない比較例である。
ショットピーニングを施す前の密着力は、52Nであった。一方、#08の試験片では、密着力が70Nに向上し、試験片の反りも低減した。すなわち、DLC−Si膜の表面にショットピーニングを施すことで、基材がわずかに塑性変形して、DLC−Si膜にかかる圧縮残留応力(基材に発生した引張り残留応力)が緩和された。
なお、実施例2では、ショット粒子の平均粒子速度を50m/秒としたが、同様の処理を10〜160m/秒の範囲で行ったところ、50m/秒あたりで最も密着力の向上が現れた。
[実施例3]
基材を10mm×50mm×15mmのSKD11製剪断刃とし、DLC−Si膜の膜厚を3μmとしたほかは、実施例2と同様にして作製し、ショットピーニングを行った。得られた2つの試験片のうち、ショットピーニングを行った試験片を#09、未処理の試験片を#C7(比較例)とした。
試験片#09および#C7に対し、厚さ2.5mmの熱延鋼板を用いた剪断加工試験を実施した。その結果、#C7では、6万回の剪断試験の後DLC−Si膜の剥離が生じた。一方、#09では、15万回の剪断試験までDLC−Si膜の剥がれは生じなかった。
参考例1
高速度鋼(SKH51(JIS))製の短冊状の基材の表面に、イオンプレーティング法により厚さ3.5μmの窒化チタン(TiN)膜を成膜し、2枚の試験片を作製した。基材の寸法は20mm×50mm×3mmであり、20mm×50mmの表面の片面のみにTiN膜を成膜した。TiN膜の成膜温度(成膜時の基材の温度)は450℃とした。
次に、得られた試験片の反りを上記の方法で測定した。どちらの試験片もTiN膜側に凸状に変形しており、突出量は10μm程度であった。すなわち、基材に引張り残留応力(TiN膜に圧縮残留応力)が発生した状態であった。
次に、2枚のうちの一方の試験片のTiN膜の表面にショットピーニングを行った。ショットピーニングは、実施例2と同様の条件で行った。
2枚の試験片に対し、基材とTiN膜との密着性(耐剥離性)の評価を上記と同様の方法で行った。
ショットピーニングを行わない試験片の密着力は、30Nであった。一方、ショットピーニングを施した試験片では、密着力が45Nに向上(1.5倍)し、ショット前にあった試験片の反りも低減した。すなわち、TiN膜の表面にショットピーニングを施すことで、基材がわずかに塑性変形して、TiN膜にかかる圧縮残留応力(基材に発生した引張り残留応力)が緩和された。
参考例2
SKH51製の短冊状の基材の表面に、厚さ15μmの無電解ニッケル−リン(Ni−P)合金めっきでめっき層を被覆し、2枚の試験片を作製した。基材の寸法は20mm×50mm×1mmであり、20mm×50mmの表面の片面のみにNi−P合金めっきを施した。Ni−P合金めっきは室温で行った。
次に、得られた試験片の反りを上記の方法で測定した。どちらの試験片もめっき層側に凹状に変形しており、変形量は12μm程度であった。すなわち、めっき層に引張り残留応力(基材に圧縮残留応力)が発生した状態であった。
次に、2枚のうちの一方の試験片のめっき層の表面にショットピーニングを行った。ショットピーニングは、平均粒径50μmのAl−12wt%Si製ショット粒子(平均硬さHv80)を用い、ショット粒子の平均粒子速度を50m/秒でめっき層の表面に投射した。
2枚の試験片に対し、基材とめっき層との密着性(耐剥離性)の評価を上記と同様の方法で行った。
ショットピーニングを行わない試験片の密着力は、26Nであった。一方、ショットピーニングを施した試験片では、密着力が37Nに向上し、ショット前に12μm程度であった試験片の反りが3μm以下に減少した。すなわち、めっき層の表面にショットピーニングを施すことで、めっき層がわずかに塑性変形して、めっき層にかかる引張り残留応力(基材に発生した圧縮残留応力)が緩和された。
[実施例
500℃で1時間窒化処理を行った窒化鋼(SACN645(JIS))製の短冊状の基材の表面に、プラズマCVD法により厚さ3μmのDLC−Si膜を成膜し、2枚の試験片を作製した。基材の寸法は20mm×50mm×3mmであり、20mm×50mmの表面の片面のみにDLC−Si膜を成膜した。DLC−Si膜の成膜温度(成膜時の基材の温度)は500℃とした。
次に、得られた試験片の反りを上記の方法で測定した。どちらの試験片もDLC−Si膜側に凸状に変形しており、突出量は13μm程度であった。すなわち、基材に引張り残留応力(DLC−Si膜に圧縮残留応力)が発生した状態であった。
次に2枚のうちの一方の試験片のDLC−Si膜の表面に高圧水を利用したウォータジェット(水圧200MPa)をあてた。そして、2枚の試験片に対し、基材とDLC−Si膜との密着性の評価を上記と同様の方法で行った。
ウォータジェットをあてない試験片の密着力は、40Nであった。一方、ウォータジェットをあてた試験片では、密着力が52Nに向上し、13μm程度であった試験片の反りが3μm以下に減少した。すなわち、DLC−Si膜の表面にショットピーニングを施すことで、基材がわずかに塑性変形して、DLC−Si膜にかかる圧縮残留応力(基材に発生した引張り残留応力)が緩和された。

Claims (8)

  1. 基材の表面の少なくとも一部に100℃以上の高温で被覆膜として非晶質炭素被膜を形成する被覆膜形成工程と、
    圧縮残留応力が発生した前記被覆膜の表面側からショットピーニングまたはウォータジェットにより応力を付与して、該被覆膜の弾性変形範囲内で、引張り残留応力が発生した前記基材の表層部を塑性変形させて該被覆膜にかかる残留応力を緩和させる応力緩和工程と、
    を含むことを特徴とする被覆部材の製造方法。
  2. 前記応力緩和工程は、平均径が10〜200μmかつ平均硬さがヴィッカース硬さでHv20〜500であるショット粒子を用い、15〜120m/秒の平均粒子速度でショットピーニングを行う請求項1に記載の被覆部材の製造方法。
  3. 前記平均粒子速度は、20〜100m/秒である請求項2に記載の被覆部材の製造方法。
  4. 前記ショット粒子の平均径が50〜80μmかつ平均硬さがHv50〜200である請求項2または3に記載の被覆部材の製造方法。
  5. 前記応力緩和工程は、前記基材の0.2%耐力を超え、かつ、該基材を破壊しない水圧でウォータジェットを行う請求項1に記載の被覆部材の製造方法。
  6. 前記ウォータジェットの水圧は、30〜500MPaである請求項5に記載の被覆部材の製造方法。
  7. 前記基材は、0.5%以上の塑性変形能を有する材料からなる請求項1〜6のいずれかに記載の被覆部材の製造方法。
  8. 基材と該基材の表面に被覆された被覆膜とからなる被覆部材であって、請求項1〜7のいずれかの方法により製造される被覆部材。
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