JP5573290B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に係り、特に磁区細分化処理を施すことにより鉄損を低減した方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、主として変圧器等の鉄心として使用され、その磁気特性の改善が常に要求されている。とりわけ鉄損の低減は省エネルギーの観点から極めて重要であり、昨今省エネルギー化の要請が高まる中、更なる鉄損の低減が必須とされている。
方向性電磁鋼板の一般的な製造工程は次のとおりである。Si:2〜4mass%程度含有する鋼を熱間圧延、次いで必要に応じて熱延板焼鈍し、1回もしくは中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延工程により最終板厚に仕上げた冷延鋼板を得る。次いで脱炭焼鈍により一次再結晶を行った後、例えばMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を施す。仕上げ焼鈍工程では、まず二次再結晶焼鈍を施すことにより{110}<100>方位(ゴス方位)を持った二次再結晶組織を発達させ、更に純化焼鈍を施すことにより不純物を除去する。以上の工程により、結晶組織がゴス方位に高度に集積され、且つ、磁気の流れの妨げとなる不純物や析出物が低減される。また、仕上げ焼鈍時にはフォルステライト等が形成されるが、必要に応じて更に絶縁コーティング被膜を形成することにより、最終製品としての方向性電磁鋼板が得られる。
以上のように、方向性電磁鋼板では、鋼板のゴス方位集積度を高めること、並びに、最終製品としての電磁鋼板に存在する不純物や析出物を低減することによりヒステリシス損を抑制し、方向性電磁鋼板の鉄損が低減されている。しかしながら、ヒステリシス損の抑制のみによって鉄損を十分に低減することはできず、鉄損の更なる低減に有効な技術として磁区細分化処理が挙げられる。
二次再結晶焼鈍によりゴス方位に大きく成長した結晶粒は大きな磁区幅を有するが、磁区幅が大きいと磁化する際に鋼板中に生じる渦電流の増大に伴い鉄損特性は低下する。そこで、仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板に歪み等を付与する磁区細分化処理を施し、磁区幅を狭くすることにより、上記渦電流に起因する鉄損が抑制され、鉄損の更なる低減が可能となる。
磁区細分化処理技術に関し、例えば特許文献1では、仕上げ焼鈍済みの方向性電磁鋼板の表面に、圧延方向にほぼ直角にパルスレーザービームを数mm間隔で照射し、鋼板表面に高転位密度領域を形成することにより磁区幅を細分化して鉄損を低減する技術が提案されている。また、特許文献2では、仕上げ焼鈍済みの方向性珪素鋼板の表面に金属粒、合成樹脂粒、植物製粒状体等の粒状体を投射し、鋼板表面に点状歪みを線状に付与する技術が提案されており、具体的には粒状体としてスチールショットを用いる場合について例示されている。
特公昭57−2252号公報 特公昭60−56404号公報
しかしながら、特許文献1に提案された鋼板表面にパルスレーザーを照射する技術では、パルスレーザー照射スポットの走査に精密な光学系を要する等、パルスレーザー照射装置の構成が複雑かつ高価であるという問題があった。また、絶縁被膜が形成された鋼板表面にパルスレーザーを照射すると、パルスレーザー照射箇所の絶縁被膜が照射熱により蒸発、消失してしまう。そのため、パルスレーザー照射後に再度絶縁被膜を形成する必要があり、生産効率が悪いという問題があった。
また、特許文献2で提案されているように、スチールショットをはじめとする金属粒、合成樹脂粒、植物製粒状体等の粒状体を絶縁被膜が形成された鋼板表面に投射すると、絶縁被膜が損傷する。そのため、特許文献1に提案された技術と同様に、粒状体を投射後に再度絶縁被膜を形成する必要があり、生産効率が悪いという問題があった。加えて、鋼板との衝突で飛散した粒状体の回収作業、更に粒状体を再利用するに際しては割れ・変形等を生じた消耗粒状体の分離・廃棄作業が煩雑である上、設備コストも嵩むという問題があった。
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、方向性電磁鋼板の製造方法に関し、高価な設備を用いることなく、簡便且つ効率的に磁区細分化処理を施し、鉄損を低減することが可能な方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、方向性電磁鋼板表面に粒状体を投射して磁区細分化処理を施すに際し、粒状体として氷粒子、ドライアイス粒子を採用することにより、方向性電磁鋼板表面に形成された絶縁被膜を損傷することなく、鉄損を効率的に低減することができるという新たな知見を得た。
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)仕上げ焼鈍を経た後、張力絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板表面の圧延方向と交差する方向に延びる線状の領域に、氷、ドライアイスの何れか一方または両方の粒子を、噴射圧力:2.0MPa以上で衝突させることにより、前記方向性電磁鋼板表面に局所的な歪みを導入することを特徴とする、方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法によると、高価な設備を用いることなく、簡便且つ効率的に磁区細分化処理を施すことが可能となる。そのため、本発明は、鉄損が十分に低減された方向性電磁鋼板を安価に製造する上で極めて有益である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、仕上げ焼鈍を経た後、張力絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板表面の圧延方向と交差する方向に延びる線状の領域に、氷、ドライアイスの何れか一方または両方の粒子を衝突させることにより、前記方向性電磁鋼板表面に局所的な歪みを導入することを特徴とする。
本発明は、仕上げ焼鈍を経た後、張力絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板、すなわち、二次再結晶焼鈍により結晶粒がゴス方位に成長して大きな磁区幅を有する方向性電磁鋼板の表面に、粒子を衝突させて方向性電磁鋼板表面に歪みを導入することにより、磁区幅を細分化して方向性電磁鋼板の鉄損を低減する技術である。
本発明が対象とする方向性電磁鋼板は、その種類を問わず公知の方向性電磁鋼板を対象とすることができ、例えば、C:0.08mass%以下、Si:2〜4mass%、Mn:0.005〜1.0mass%等を含む方向性電磁鋼板が挙げられる。
方向性電磁鋼板の仕上げ焼鈍までの製造工程についても、公知の方法が利用できる。例えば、所定の成分組成を有するスラブを加熱後、熱間圧延を行い、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、ついで1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、一次再結晶焼鈍を行なった後、二次再結晶を目的とした仕上げ焼鈍が施される。なお、仕上げ焼鈍後の鋼板表面には通常、フォルステライト被膜が形成される。
上記フォルステライトは張力絶縁被膜として機能するが、フォルステライトの上層に、
公知の張力絶縁被膜を形成することができる。例えば、金属酸化物、金属酸化物の水和物、金属水酸化物、シュウ酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、あるいはこれらの複合体など、焼付け後にセラミックスとなる粒子を原材料とする。セラミックスの材質は限定されないが、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、コーディエライト、ムライト、スピネルおよびジルコン等が好適に用いられる。これらは、無機溶液、有機溶液、無機有機複合溶液の溶質として用いられることが多い。具体的には、リン酸−(クロム酸)−コロイダルシリカを主成分とする液、リン酸アルミニウム−(無水クロム酸)を主成分とする液、リン酸マグネシウム−(無水クロム酸)を主成分とする液、リン酸アルミニウム−(無水クロム酸)−コロイダルシリカを主成分とする液、リン酸マグネシウム−(無水クロム酸)−コロイダルシリカを主成分とする液、酸化アルミニウム−酸化ほう素系複合被膜またはほう酸アルミニウム質被膜が得られるアルミナゾルとほう酸とを含む微粒子分散液等があげられる。特にリン酸アルミニウムまたはリン酸マグネシウムとシリカを主成分とするガラス質の張力絶縁被膜を形成することが好ましい。その形成方法については特に問わず、例えば、仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板表面に絶縁被膜処理液を塗布し、400〜900℃程度に加熱する焼付け処理を施す方法等、従前の方法に従い形成することができる。また、二次再結晶焼鈍時にフォルステライトを形成することなく上記ガラス質等の張力絶縁被膜のみを素地鋼板に形成することもできる。
本発明においては、仕上げ焼鈍が施され、張力絶縁被膜が形成された後の方向性電磁鋼板に粒子を衝突させる必要がある。本発明では粒子を衝突させることにより鋼板表面に所望の歪みを導入して磁区幅を細分化するが、粒子を衝突させた後の鋼板表面に高温加熱処理を伴う先述の如き仕上げ焼鈍および絶縁被膜形成を施すと、導入された歪みが加熱処理によって緩和または完全に除去されてしまう。そのため、本発明では、仕上げ焼鈍が施され、張力絶縁被膜が形成された後の方向性電磁鋼板に対して粒子を衝突させる。
また、磁区細分化処理を施す前の方向性電磁鋼板については、二次再結晶のゴス方位集積度が高いほど、磁区細分化処理後の鉄損特性に優れることが知られている。そのため、本発明は、粒子を衝突させる前の方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍を経た後、張力絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板)として、B8(800A/mで磁化したときの磁束密度)が1.88T以上、より好ましくは1.92T以上のものに適用することが、特に有効である。
本発明においては、方向性電磁鋼板表面の圧延方向と交差する方向に延びる線状の領域に局所的な歪みを導入するが、この線状歪み導入領域は圧延方向に対して60°〜90°の方向に延びる線状領域とすることが、圧延方向に沿った磁区を分断して磁区細分化の効果を大ならしめるために好ましい。また、方向性電磁鋼板の寸法、磁気特性等にも依存するが、上記線状領域は、その線幅を0.5mm以下とし、圧延方向に2mm以上20mm以下の間隔で繰り返し形成することが好ましい。なお、上記線状領域は、方向性電磁鋼板の片面のみに形成してもよく、両面に形成してもよい。
本発明においては、方向性電磁鋼板表面に上記線状領域に歪みを導入することにより方向性電磁鋼板の磁区幅を細分化するが、本発明において特記すべき点は、方向性電磁鋼板の表面に氷粒子、ドライアイス粒子を衝突させることにより歪みを導入する点である。
先述のとおり、方向性電磁鋼板に衝突させる粒状体を金属粒、合成樹脂粒、植物製粒状体等とする従来技術では、粒状体の衝突により、鋼板表面に形成された絶縁被膜が損傷してしまう。これに対し、本発明では、方向性電磁鋼板に衝突させる粒状体として、ガラス質の絶縁鋼板よりも硬度が低い氷粒子、ドライアイス粒子を用いるため、絶縁被膜の損傷を大幅に低減することができる。
また、方向性電磁鋼板に衝突させる粒状体を金属粒、合成樹脂粒、植物製粒状体等とする従来技術では、使用済み粒状体の回収・廃棄等の煩雑さ、設備コスト増等が問題となる。これに対し、本発明において粒状体として用いる氷粒子、ドライアイス粒子は、鋼板衝突後に水、二酸化炭素となるので、容易に回収することができる。また、衝突後の生じる上記水、二酸化炭素は有害な不純物を含まないため、そのまま放散させておいても特段の問題を生じない。更に、氷粒子、ドライアイス粒子は0℃以下の低温粒子であるため、鋼板表面上で生じる粒子衝突熱を相殺し、粒子衝突熱に起因する熱歪みや発熱による絶縁被膜の変質等も抑制することができる。
以上の理由により、本発明によると、方向性電磁鋼板の磁区細分化処理を、設備コストを抑えつつ、簡便な方法により実施することができる。なお、本発明において方向性電磁鋼板表面に衝突させる粒子としては、氷粒子、ドライアイス粒子の何れか一方を用いることも、氷粒子、ドライアイス粒子の両方を用いることもできる。
本発明において方向性電磁鋼板に衝突させる氷粒子、ドライアイス粒子の形状は、球状やその他曲面体、立方体、直方体や多面体等、如何なる形状でもよいが、ノズル等からの噴出を容易にする点から球状の粒子を用いることが好ましい。また、上記氷粒子、ドライアイス粒子の粒径は、1mm以下、更には0.5mm以下とすることが、方向性電磁鋼板表面に歪みを導入する上記線状領域の線幅を0.5mm以下とする上で好ましい。
但し、上記粒径の下限値は、0.05mmとすることが、ノズルや配管内での詰まりを防ぐために好ましい。
なお、上記粒子形状が球状でない場合には、球相当径を粒径とする。
本発明において方向性電磁鋼板表面に衝突させる氷粒子、ドライアイス粒子は、予め用意した氷、ドライアイスの塊やペレットを粉砕して形成することができる。或いは、断面積が急拡大する形状の流路に水とガス(空気、窒素等の毒性のない不燃性ガス)の二相流、または、二酸化炭素流を通過させ、断熱膨張による温度低下を利用して氷粒子、ドライアイス粒子を形成する等、本発明においては任意の手段により氷粒子、ドライアイス粒子を形成することができる。
本発明において方向性電磁鋼板表面に氷粒子、ドライアイス粒子を衝突させる方法も任意であり、例えば、上記粒子を高速ガス流(空気、窒素等)に乗せて鋼板表面に噴射する方法、回転羽によって鋼板表面に投射する方法等、種々の方法を採用することができる。なお、方向性電磁鋼板表面に対する上記粒子の衝突角は任意であるが、効率的に歪を導入するためには概ね直角とすることが好ましい。
方向性電磁鋼板表面に上記の如く線幅0.5mm以下の線状領域に歪みを導入する場合、すなわち、方向性電磁鋼板に氷粒子、ドライアイス粒子を衝突させる領域を線幅0.5mm以下の線状領域とする場合には、直径0.5mm以下のノズル孔を有するノズルから高圧ガス流とともに氷粒子、ドライアイス粒子を鋼板表面に吹き付ける方法や、スリット状の開口部が形成されたマスクやシャッターを鋼板表面、或いは鋼板表面近傍に配置した状態で氷粒子、ドライアイス粒子を投射する方法等を採用すればよい。
氷粒子、ドライアイス粒子を衝突させることにより歪みが導入され、磁区細分化された方向性電磁鋼板には、必要に応じて更に絶縁被膜を形成してもよい。ただし、磁区細分化処理後に絶縁被膜を形成する場合には、絶縁被膜形成時の鋼板加熱温度を約500℃以下に抑制し、導入した歪みが緩和しないようにする必要がある。
C:0.06mass%、Si:2.9mass%、Mn:0.07mass%を含有する組成を有し、仕上焼鈍後、リン酸マグネシウムとコロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜処理液を塗布・焼付した、板厚0.23mmの高配向性電磁鋼板(張力絶縁被膜の厚さ:約1μm)から、圧延方向を長手方向とする幅30mm、長さ280mmの試験片を採取した。採取した試験片に、アルゴン雰囲気中800℃×2hの歪み取り焼鈍を施した後、エプスタイン試験により磁気特性を測定したところ、鉄損W17/50:0.90W/kg、磁束密度B8:1.93Tであった。
一方、長さ:30mm、幅:0.3mmのスリットを間隔:3mmで全長:300mmにわたり形成したステンレス鋼製のマスクを作製し、このマスクのスリットが上記試験片の長手方向と直交するように、試験片上にマスクを載置した。この状態で、マスク上方からスリットをめがけて表1に示す各種の粒子を噴射することより、粒子を試験片に衝突させ、線状領域に歪みを導入した。粒子の噴射は、鋼板より5mm離れたノズル(孔径:3mm)から0.5MPaから4.5MPaまでの圧力範囲において0.5MPa間隔で変化させた高圧空気により噴射し、粒子を衝突させた後の試験片の鉄損W17/50をエプスタイン試験により測定した。鉄損W17/50の低減量(粒子衝突前の鉄損−粒子衝突後の鉄損)の最大値、並びに、最大値が得られたときの高圧空気の圧力(噴射圧力)を表1に示す。また、粒子衝突後の試験片について、絶縁被膜を目視により観察した結果も併せて表1に示す。
Figure 0005573290
表1に示したとおり、鉄損W17/50の低減量は試験片に衝突させた粒子の種類を問わず同程度であったが、試験片に衝突させた粒子がスチールショット、アルミナ、クルミ殻である場合、絶縁被膜の剥離が生じた。これに対し、試験片に衝突させた粒子が氷、ドライアイスである場合には、スチールショット等と同程度の鉄損低減量が得られる上、絶縁被膜の剥離が生じなかった。また、衝突後の粒子は有害物質を含まない水、二酸化炭素として処理することができるため、試験片に衝突させた粒子の後処理作業も大幅に軽減された。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法によると、高価な設備を用いることなく、簡便且つ効率的に磁区細分化処理を施すことが可能となり、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板を工業的に量産する上で極めて有用である。

Claims (1)

  1. 仕上げ焼鈍を経た後、張力絶縁被膜を形成した方向性電磁鋼板表面の圧延方向と交差する方向に延びる線状の領域に、氷、ドライアイスの何れか一方または両方の粒子を、噴射圧力:2.0MPa以上で衝突させることにより、前記方向性電磁鋼板表面に局所的な歪みを導入することを特徴とする、方向性電磁鋼板の製造方法。
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