JP5432549B2 - ゴム材料のシミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とが配合されたゴム材料の変形を精度良く解析するのに役立つゴム材料のシミュレーション方法に関する。
従来、タイヤ、スポーツ用品、その他各種の工業製品に使用されているゴム材料には、その機械的特性を向上させるために、カーボンが多用されていた。しかしながら、近年では、カーボンに代えてシリカが多用されつつある。その理由は、シリカ配合はカーボン配合に比べてエネルギーロスが小さいので、タイヤの転がり抵抗を小さくし、燃費性能の向上に寄与するためである。また、シリカは脱石油資源であるため、環境にも優しいフィラーとも言える。従って、シリカが配合されたゴム材料の変形を精度良くコンピュータシミュレーションで解析することは今後のタイヤ等の開発にきわめて有益となる。
従来、コンピュータを用いたゴム材料のシミュレーション方法としては、下記の非特許文献1及び特許文献1などが知られている。特許文献1のものでは、ゴム材料モデルとして、数値解析が可能な要素でモデル化したマトリックスモデルとフィラーモデルとが設定され、フィラーの影響を考慮した有限要素法による変形計算が行われる。
特許3668238号公報 Ellen M. Arruda and Marry C. Boyce著「 A THREE-DIMENSIONAL CONSTITUTIVE MODEL FOR THE LARGE STRECH BEHAVIOR OF RUBBER ELASTIC MATERIALSS」 Journal of the Mechanics and Physics of Solids Volume 41, Issue 2, Pages 389-412 (February 1993)
ところで、シリカ配合ゴム材料のシミュレーションを行う際には、図17に示されるように、ゴムマトリックスを模したマトリックスモデル21と、その中に分散配置されかつシリカをモデル化したシリカモデル22と、該シリカモデル22の表面を環状に取り囲む界面モデル23とからなるゴム材料モデル20が採用されていた。
前記マトリックスモデル21及びシリカモデル22には、それぞれの物性が予め定義される。例えば、シリカモデル22は、硬質の弾性体として取り扱われるので、弾性率が設定される。また、マトリックスモデル21には、前記物性として、フィラーが配合されていないいわゆる純ゴムの引張試験の結果に基づいた物性(応力と伸びとの関係を示す関数)が定められる。
また、シリカ配合ゴム材料では、シリカとゴムとを結合するために、シランカップリング剤等の界面結合剤が配合される。従って、これまでのシミュレーションにおいては、シリカとゴムとが界面結合剤によって結合されていることを前提として、シリカとゴムとの界面にのみ前記界面モデル23が定義されていた。
しかしながら、このようなゴム材料モデル20を使用して、例えば引張変形を与えたときのシミュレーションを行った場合、応力−伸びの結果が、実際の引張試験で得られた応力−伸びの結果と大きく異なる場合がある。種々の実験の結果、このような結果のずれは、シリカ配合ゴムに配合される界面結合剤の影響が大きいことを発明者らは知見した。
即ち、発明者らは、界面結合材の働きについてさらに鋭意研究を重ねた結果、界面結合材は、シリカとマトリックスゴムとの界面だけに存在するのみならず、相互に隣接するシリカ粒子間にも高密度で存在しこれらの粒子の動きを拘束しているとの仮定を打ち立てた。そして、このようなモデルに従ってシミュレーションを行った結果、実際の試験結果と非常に高い相関性を得ることができることを見出し本発明を完成させるに至った。
以上のように、本発明は、精度良くシリカ配合ゴムの変形を計算しうるシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
本発明のうち請求項1記載の発明は、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むゴム材料の変形をコンピュータ装置を用いてシミュレーションするシミュレーション方法であって、前記ゴム材料を数値解析が可能な要素でモデル化したゴム材料モデルを前記コンピュータ装置に入力するステップと、前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記ゴム材料モデル変形計算を行うステップと、前記コンピュータが、前記変形計算から必要な物理量を取得するステップと、前記コンピュータが、前記取得した物理量をディスプレイ装置に視覚化して表示するステップとを含むとともに、前記ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、前記該マトリックスモデル中に分散して配置されかつ前記シリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、隣接するシリカモデルを互いに連結するとともに前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された連結モデルとを含むことを特徴とする。
また請求項2記載の発明は、前記連結モデルは、マトリックスモデルよりも限界ストレッチが小さい請求項1記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
また請求項3記載の発明は、前記連結モデルは、隣接する全てのシリカモデルの組み合わせを連結する請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
また請求項4記載の発明は、前記連結モデルは、予め定めた距離以下で隣接するシリカモデルの組み合わせを連結する請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
また請求項5記載の発明は、前記連結モデルは、前記シリカモデルの周りを小厚さでかつ環状に取り囲む界面部と、該界面部間をつなぐ接続部とを含む請求項1乃至4のいずれかに記載のゴム材料のシミュレーション方法である。
本発明によれば、ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、該マトリックスモデル中に分散して配置されかつシリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、隣接するシリカモデルを互いに連結するとともに前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された連結モデルとを含む。このようなゴム材料を用いてシミュレーション(変形計算)を行うことにより、実際のシリカ配合ゴム材料の変形挙動と非常に相関の高い計算結果を得ることができる。
本実施形態で用いたコンピュータ装置の一例を示す斜視図である。 本実施形態の処理手順を示すフローチャートである。 ゴム材料モデル(微視構造)の一実施形態を示す線図である。 (A)は粘弾性材料、(B)はその分子鎖1構造を説明する線図、(C)は1本の分子鎖の拡大図、(D)はセグメントの拡大図である。 (A)は粘弾性材料の網目構造体を示す斜視図、(B)は8鎖モデルの一例を示す斜視図である。 (A)、(B)は分子鎖の接合点の破断を説明する線図である。 マトリックスモデル及び連結モデルの物性の一例を示す応力−ひずみ曲線である。 変形シミュレーションの手順を示すフローチャートである。 均質化法を説明する微視構造と全体構造との関係を示す。 全体構造の部分拡大図である。 (a)〜(c)は、連結モデルの他の実施形態を示す模式図である。 実施例の8鎖モデルの構成図である。 マトリックスモデル及び連結モデルの公称応力−伸び曲線である。 シミュレーションの結果と実験値とを比較する公称応力−伸び曲線である。 ヒステリシスロスと、繰り返し変形回数との関係を示すグラフである。 ゴム材料モデルの応力及び分子鎖の伸びの分布を示すコンター図である。 従来のシリカ配合ゴム材料のモデルである。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明する。
図1には、本発明のシミュレーション方法を実施するためのコンピュータ装置1が示されている。このコンピュータ装置1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aの内部には、CPU、ROM、作業用メモリー及び磁気ディスク等のなどの大容量記憶装置が設けられる。また、本体1aには、CD−ROMやフレキシブルディスクのドライブ装置1a1、1a2が設けられる。そして、前記大容量記憶装置には後述する本発明のシミュレーション方法を実行するための処理手順(プログラム)が記憶されている。
本実施形態のシミュレーション方法では、ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むシリカ配合ゴム材料の変形がシミュレーションされる。図2には、そのシミュレーション方法の処理手順の一例が示される。本実施形態では、先ず、ゴム材料のモデルが設定される(ステップS1)。
前記界面結合材として、本実施形態では、シランカップリング剤が用いられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ポリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ポリスルフィドなどが挙げられ、これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでも、シランカップリング剤の添加効果およびコストの両立から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが好適に用いられる。
図3には、繰り返し最小単位の微視構造としてのゴム材料モデル2の一例が視覚化して示されている。該ゴム材料モデル2は、解析しようとするシリカ配合ゴム材料(実在するか否かを問わない)の微小領域が、有限個の小さな要素2a、2b、2c…に置き換えられたものである。各要素2a、2b、2c…は、数値解析が可能に定義される。
前記数値解析が可能とは、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法といった数値解析法により、各要素ないし系全体についての変形計算が可能なことを意味する。具体的には、各要素2a、2b、2c…について、座標系における節点座標値、要素形状、材料特性などが定義される。各要素2a、2b、2c…には、例えば2次元平面としての三角形ないし四辺形の要素、3次元要素としては、例えば4ないし6面体の要素が好ましく用いられる。これにより、ゴム材料モデル2は、前記コンピュータ装置1にて取り扱い可能な数値データを構成する。
この実施形態のゴム材料モデル2は、後述する変形シミュレーションにおいて平面ひずみ状態で解析が行われる。したがってz方向にはひずみを持たない。この実施形態において、微視構造としてのゴム材料モデル2は、例えば300nm×300nmの正方形である。
また、本実施形態のゴム材料モデル2は、ゴムマトリックス部分がモデル化されたマトリックスモデル3と、このマトリックスモデル3の中に分散して配置されかつシリカがモデル化されたシリカモデル4と、隣接するシリカモデル4、4…を互いに連結するとともに前記マトリックスモデル3よりも硬い物性が定義された連結モデル5(ここでは、理解しやすいように薄く着色している。)とを含むことを特徴とする。
前記マトリックスモデル3は、ゴム材料モデル2の主要部を構成し、かつ、例えば三角形ないし四辺形の複数個の要素を用いて表現されている。変形計算を行うために、マトリックスモデル3を構成する各要素には、その物性として応力と伸びとの関係を表す関数が定義される。本実施形態のゴム材料のシミュレーション方法では、ゴム弾性応答を表現するために、前記マトリックスモデル3及び連結モデル5のゴム部分は、いずれも分子鎖網目理論に基づいて計算が行われる。
分子鎖網目理論とは、図4(A)、(B)に示されるように、連続体としてのゴム材料aは、微視構造として、無秩序に配向された分子鎖cが接合点bで連結された網目構造を持つとの考えを前提とするものである。接合点bは、例えば分子間の化学的結合であってそれには架橋点などが含まれる。
分子鎖網目理論では、接合点bが原子の揺らぎ周期に対して長時間的には平均位置が変化しないものとし、接合点bの回りの摂動が無視される。さらに、二つの接合点b、bを両端に持つ分子鎖cの端−端ベクトル(end-to-end vector )は、それが埋め込まれているゴム材料の連続体と共変形するとの仮定が置かれる。
また、1本の分子鎖cは、図4(C)に示されるように、複数のセグメントdから構成されるものとする。各セグメントdは、化学的には同図(D)に示すように、炭素原子が共有結合によって連結した複数個のモノマーfが連結したものに相当する。個々の炭素原子は、原子同士の結合軸の周りで互いに自由に回転しうるため、セグメントdは全体として曲がりくねるなど様々な形態をとることができる。モノマーfの数が十分多ければ、スケーリング則によってセグメントdの巨視的な性質は変わらないので、一つのセグメントdは、分子鎖網目理論においては繰り返しの最小構成単位として取り扱われる。さらに、図4(C)に示される二つの接合点b、bによって定義される分子鎖の形態は非ガウス統計分布に従うものとされる。従って、二つの接合点b、bを結ぶ方向に伸び(ストレッチ)λを加えた場合に生じる応力σは、下式(1)で表すことができる。
そして、網目構造の全体的な応答特性は、個々の分子鎖の寄与を考慮して得ることができる。しかし、それら全てを正確に考慮して計算するのは数学的に困難である。このため、分子鎖網目理論では、平均化手法が導入される。本実施形態では、8鎖モデルを採用した分子鎖網目理論に準拠している。即ち、この手法では、図5(A)に示されるように、超弾性体であるゴム材料は、巨視的には、微小な8鎖モデルg…が集合した立方体状の網目構造体hであると仮定される。また、一つの8鎖モデルgは、図5(B)に拡大して示されるように、立方体の中心に定められた一つの接合点b1から、各頂点に設けられた8つの各接合点b2にそれぞれ分子鎖cがのびているものと仮定して計算が行われる。
また、本実施形態では、分子鎖網目理論に、材料のひずみに応じた接合点bの消滅が考慮される。現実のゴム材料において、荷重の負荷における変形過程では、分子鎖の互いに絡み合った部分(即ち、前記接合点b)が大きなひずみによって消滅することが知られている。つまり、接合点bの数が減少する。例えば、図6(A)に示されるように、一つの接合点bで接合されている分子鎖c1ないしc4に矢印方向の引張応力が作用すると、各分子鎖c1ないしc4の伸びにより接合点bは大きなひずみを受けて消滅する。この結果、図6(B)に示されるように、これまで2本であった分子鎖c1及びc2は、1本の長い分子鎖c5になる。分子鎖c3及びc4についても同様である。このような現象は、ゴム材料の負荷変形が進むにつれて逐次発生する。また、接合点bの数の減少は、1本の分子鎖cに含まれるセグメントの数を増加させることになる。
そして、上記の現象は、図5(A)に示した網目構造体hに適用される。該網目構造体hは、幅方向、高さ方向及び奥行き方向にそれぞれ8鎖モデルgがk個結合されているものとする。網目構造体hに含まれる接合点bの総数を「からみ数」として符号mで表すと、それは式(2)で表される。同様に、網目構造体hに含まれる分子鎖cの数(即ち、マトリックスモデル3の単位体積中に含まれる分子鎖の数)nは、式(3)で表される。
m=(k+1)3 +k3 …式(2)
n=8k3 …式(3)
ここで、kは十分に大きい数とすると、上式(2)からkの3次項以外を省略して次式(4)が得られる。さらに式(3)及び(4)の関係から、からみ数mは、nを用いて式(5)で表される。
m=2k3 …式(4)
m=n/4 …式(5)
さらに、網目構造体hは、変形の前後で材料の出入りが無いので、そのセグメントの総数NA は常に一定と仮定できる。従って、式(6)、及び(7)が成り立つ。
A =n・N …式(6)
N=NA /n=NA /4m …式(7)
ここで、上述の接合点bの消滅は、マトリックスモデル3におけるからみ数mを減少させ、ひいては1本の分子鎖cに含まれるセグメントの数を増加させることに相当する。従って、8鎖モデルを用いた分子鎖網目理論に、上述の負荷変形(伸び)に伴った接合点の減少を導入するために、前記式(1)における分子鎖1本当たりの平均セグメント数Nを、ひずみに関するパラメータλcに応じて増大させる。このひずみに関するパラメータλcとしては、例えば、ひずみ、伸び、ひずみ速度又はひずみの1次の不変量などが挙げられる。また、上記負荷変形時とは、微小時間の間でモデルのひずみが増大する変形であり、逆に除荷変形時とは、ひずみが減少する変形とする。
以上より、本実施形態のマトリックスモデル3では、1本の分子鎖当たりの平均セグメント数Nは、下式(8)のように、1本の分子鎖当たりの初期セグメント数N0に、材料のひずみに応じたパラメータf(λc)の項が加算された関数として定義される。
N(λc)=N0+f(λc) …(8)
従って、上記式(8)で得られる平均セグメント数Nを用いた前記式(1)は、マトリックスモデル3のひずみに依存して応力を変化させることができる。そして、後述するゴム材料モデル2の変形シミュレーションでは、マトリックスモデル3の各要素について、負荷変形時においては前記パラメータλc が常時計算され、それらは式(8)に代入される。これにより、当該要素のセグメント数Nが常に更新されてシミュレーションに取り込まれる。
次に、前記シリカモデル4は、シリカを四辺形の複数個の要素を用いてモデル化したもので、全体として円形に形成されている。前記シリカは、直径約60〜300nm程度のゴムに比べて非常に硬い単粒子からなる。シリカモデル4には、このような解析対象となるシリカの物性とほぼ等しい物性が設定される。また、本実施形態において、シリカモデル4は、粘弾性体ではなく弾性体として取り扱われる。
本実施形態では、シリカモデル4の体積含有率μが10%となるよう、5つのシリカモデル4がゴム材料モデル2の一つの微視構造の中に含まれている。より具体的に述べると、微視構造の正方形輪郭の中心を通るy軸及びx軸に関して線対称となるようその4個のシリカモデル4aが四隅に配されるとともに、微視構造の正方形の中心に、中心を揃えられた一つのシリカモデル4bが配置されている。各シリカモデル4は、円形であり、その粒子径は全て等しく設定されている。ただし、ゴム材料モデル2に含まれるシリカモデル4の個数などは解析対象となるゴムのシリカ配合量などに応じて適宜定めることができる。
前記連結モデル5は、シリカとマトリックスゴムとを化学的に結合させるシランカップリング剤をシミュレーションに取り込むためにモデル化したものである。本実施形態の連結モデル5は、シリカモデル4の周りを環状に取り囲む界面部6と、該界面部6、6間をつなぐ接続部7とから構成される。
前記界面部6は、小さい厚さtでシリカモデル4を連続して取り囲んでおり、その内周面はシリカモデル4に接触している。界面部6の内周面とシリカモデル4の外周面とは、互いに剥離しない条件が設定される。一方、必要に応じて、予め定めた閾値以上の応力が生じたときに、シリカモデル4と界面部6との境界を分離させるように条件が設定されても良い。なお、界面部6の厚さtは、特に限定されるものではないが、種々の実験結果などに鑑み、シリカモデル4の直径の10〜30%程度、より好ましくは15〜25%程度に設定されるのが実際のゴム材料と整合する点で望ましい。
前記接続部7は、隣接するシリカモデル4(この例では界面部6で囲まれたシリカモデル4)を互いに連結するように配置される。本実施形態の接続部7は、一定の幅で直線状にのびる棒状にモデル化されている。また、接続部7の幅中心線は、シリカモデル4、4の中心間を結ぶ直線と実質的に一致している。換言すれば、接続部7は、隣設するシリカモデル4、4間を最短距離で連結する。実際のシリカ配合ゴムでは、シリカ粒子間をつなぐ形でゴム分子が存在すると考えられ、それはシリカ粒子の変形抵抗になりゴム全体を固くする役割を担っていると考えられる。このようなゴム分子の存在確率が最も高いところがシリカ粒子間の最短距離の位置になるので、本実施例のモデルは実際の材料と整合すると考える。
また、本実施形態の接続部7は、隣接する全てのシリカモデル4同士を連結している。即ち、中心に配置された一つのシリカモデル4bは、その周りに配置された4つのシリカモデル4aと第1の連結モデル5aを介して連結されている。他方、四隅に配置された4つのシリカモデル4aは、それぞれx軸方向及びy軸方向で隣接する他の2つのシリカモデル4aと第2の連結モデル5bを介して連結されるとともに、前記第1の連結モデル5aを介して一つの中心のシリカモデル4bと連結されている。
ただし、連結モデル5は、予め定めた距離以下で隣接するシリカモデル4の組み合わせだけを連結するように定義されても良い。例えば、ゴム材料モデル2の微視構造を設定後、コンピュータ装置1にて各シリカモデル4の粒子間距離を計算し、これが予め定められた距離よりも大きい組み合わせについては、連結モデル5を削除するという修正ステップを加えることもできる。これにより、シリカモデル4、4間の拘束が緩和された部分を意図的に作り出すことができる。
また、本実施形態では、第1の連結モデル5aの接続部7は、第2の連結モデル5bの接続部7よりも小長さで形成される。さらに、本実施形態では、第1の連結モデル5aの接続部7の幅T1が、第2の連結モデル5bの接続部7の幅T2よりも大きく形成される。これにより、連結モデル5に同一の物性を与えた場合でもあっても、第1の連結モデル5aの伸びを、第2の連結モデル5bの伸びよりも小さく抑えることが可能になる。これにより、実際の界面結合剤の働きを精度良く再現し、隣接するシリカモデル4の挙動をより正確に再現しうる点で好ましい。即ち、シリカ粒子間の距離が小さいほど、界面結合剤の影響は大きくなると考えられるので、微視構造の正方形の周囲に配置されたシリカモデル4aと、中心に配置されたシリカモデル4との結合力を、微視構造の正方形の周囲に配置されたシリカモデル4a、4a間の連結力よりも大きくすることができる。ただし、幅T1、T2を同一とすることは可能である。また、前記幅T1、T2は、いずれもシリカモデル4の直径の10〜50%程度が望ましい。
前記連結モデル5(即ち、界面部6及び接続部7)にも前記式(1)に準じた応力と伸びとの関係が定義される。しかし、連結モデル5で用いられる式(1)の平均セグメント数Nは、固定値N0に設定され、式(8)で採用されるようなf(λc)の項は含まれない。また、実際の界面結合材の物性に鑑み、この連結モデル5はマトリックスゴムよりも硬い物性が定義される。本実施形態では、式(8)の平均セグメント数Nの初期値N0を、マトリックスモデル3に適用される初期値N0よりも小さくする。これにより、連結モデル5は、マトリックスモデル3よりも伸び難く定義される。このような定義により、連結モデル5には、マトリックスモデル4よりも硬い物性(正確には粘弾性特性)が定義される。ただし、連結モデル5は、シリカモデル4よりは軟らかいのは言うまでもない。
また、連結モデル5には、マトリックスモデル3よりも小さい限界ストレッチが定義されるのが望ましい。実際のシリカ配合ゴム材料では、シリカ粒子間にも多くの界面結合剤が存在していると考えられるため、その部分の架橋密度がゴムマトリクス部分に比べて高いと推察することは合理的である。この状態をシミュレーションに反映させるために、図7に示されるように、連結モデル5については、応力が立ち上がり始めるひずみ(限界ストレッチ)を、マトリックスモデル3のそれよりも小さく設定するのが望ましい。
次に、ゴム材料モデル2を変形させるための変形条件が設定される(ステップS2)。本実施形態では、図3のy方向に任意の平均ひずみ速度を加えてゴム材料モデル2に引張変形を与える条件が定義される。また、所定のひずみ量に達した後は、逆に前記と同じひずみ速度でひずみを零まで漸減させる。ただし、変形条件は種々定めうるのは言うまでもない。
次に本実施形態のシミュレーション方法では、上述のように設定されたゴム材料モデル2を用いて変形シミュレーションが行われる(ステップS3)。変形シミュレーションの具体的な処理手順は、図8に示される。変形シミュレーションでは、先ずゴム材料モデル2の各種のデータがコンピュータ装置1に入力される(ステップS31)。入力されるデータには、各要素に定義された節点の位置や材料特性といった情報が含まれる。
コンピュータ装置1では、入力されたデータに基づいて各要素の剛性マトリックスを作成し(ステップS32)、しかる後、全体構造の剛性マトリックスが組み立てられる(ステップS33)。全体構造の剛性マトリックスには、既知節点の変位、節点力が導入され(ステップS34)、剛性方程式の解析が行われる。そして、未知節点変位が決定され(ステップS35)、各要素のひずみ、応力、主応力といった物理量を計算し、出力する(ステップS36ないし37)。
ステップS38では、計算を終了させるか否かの判定がなされ、否定的である場合には、ステップS32以降が繰り返される。このようなシミュレーション(変形計算)は、例えば有限要素法を用いたエンジニアリング系の解析アプリケーションソフトウエア(例えば米国リバモア・ソフトウェア・テクノロジー社で開発・改良されたLS−DYNA等)を用いて行うことができる。
また、本シミュレーションは、均質化法(漸近展開均質化法)に基づいて行われる。均質化法は、図9に示されるように、図3に示した微視構造(均質化法では「ユニットセル」とも呼ばれる)を周期的に持っているゴム材料全体Mを表現するxI と、前記微視構造を表現するyI との独立した2変数が用いられる。微視的スケールと巨視的スケールという異なる尺度の場におけるそれぞれ独立した変数を漸近展開することにより、図3に示した微視構造のモデル構造を反映させたゴム材料全体の平均的な力学応答を近似的に求めることができる。なお、図10にはゴム材料全体Mの一部分の概略図を示す。
前記変形計算が行われると、その結果から必要な物理量を取得することができる(ステップS4)。物理量としては、シリカ配合ゴムの変形挙動を調べるために、応力−ひずみ曲線が特に有効である。また、前記ゴム材料モデル2の各要素の時系列的な変形状態や物理量の分布を視覚化して表示することもできる。この際、各要素には、応力に応じた着色を施すことが望ましい。
そして、本実施形態では、上述のような連結モデル5を含むゴム材料モデル2を用いてシミュレーションを行うことにより、これまで以上に精度良い計算結果が得られる(後述の実施例参照)。これは、外力が加えられたときのシリカとマトリックスゴムとの界面挙動は勿論のこと、シリカ粒子間の動きが現実のゴム材料の内部での挙動と近似しているためと推測できる。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、種々の態様に変形して実施することができる。例えば、連結モデル5は、図11(a)に模式的に示されるように、界面部6を省略し、接続部7だけで構成されても良い。また、連結モデル5は、必ずしも全てのシリカモデル4を相互に連結する必要はなく、図11(b)及び(c)に示されるように、界面結合剤の配合量などに応じてその強弱を変えるために、外周周りのみ又は内部のみにに設定する等、任意に変更することができる。
1)解析モデル
図3に示した微視構造を周期的に持っているシリカ配合ゴム材料の全体巨視的モデルが設定された。
2)8鎖モデルの具体的構成式
この実施例では、ゴムの粘弾性挙動をさらに正確に記述するために、図12に示されるように、粘弾性8鎖モデルとダンパーで構成されるモデルとを用いた。実際のゴムの分子鎖は、周囲の分子鎖との摩擦に起因した粘性を持っている。このような摩擦を表現するために、8鎖モデルAの各分子鎖に、粘性抵抗をもつバネ・ダンパーの標準モデルが導入された。従って、単分子鎖の二つの接合点を結ぶ方向に伸びλc を加えた場合に生じる応力σcは、前記式(1)から次式で表すことができる。
また,図12に示す単分子鎖の各要素のストレッチをλα、λβ、λγとすると、λα=λcである。その他の添え字α、β、γについても,図12に示す要素と対応させている.ただし,λc=λβ・λγである。
また、変形前の体積を基準とした単位体積当たりの仕事に相当するひずみエネルギー密度関数Wを用いると、応力σcは、次式のように表される。
上記2つの式より、恒等的に次式が成り立つ。
また、8鎖モデルの場合、主ストレッチをλ、λ、λとすると、分子鎖のストレッチλcは、√{(λ 2+λ 2+λ 2)/3}と表すことができるので、下式が成り立つ。
上記3つの式より、上記8鎖モデルAの主ストレッチ方向の応力σi と、ストレッチλiとは次の関係で与えられる。
また、上記8鎖モデルBの主ストレッチ方向の応力σi と、ストレッチλi’とは次の関係で与えられる。
また、この実施例では、非圧縮性ゴム材料を扱うものとする。従って、非圧縮性を満たすために静水圧pを用いる。このとき、上の2つの式を用いると、非圧縮性ゴム材料の構成式は、次のようになる。
σi=σi +σi −p
また、上記構成式の速度形式は、次のように表すことができ、この実施例ではこの式が用いられる。
3)マトリックスモデルの1本の分子鎖の平均セグメント数N
下式が採用された。
N(λc )=N0+f(λc)
=N0+a0+aλc+aλc2
ここで、f(λc)の具体的な関数の決め方の一例について述べる。まず、マトリックスモデルの材料変形に伴うからみ点の変化は、λc(伸び)のみに依存する。従って、最初に、シリカ未充填の純ゴムでの応力−ひずみ曲線をうるシミュレーションを行ない、その結果が実際の純ゴムの試験結果と整合するようにf(λc)の係数が決定される。先ず、1回目の負荷変形サイクルでは、負荷時のからみ点数が変化(減少)し、除荷時は、除荷開始時の値から変化しないものとする。そして、シミュレーションの結果と、実際の試験結果とが整合するよう、前記関数f(λc)の係数が決定される。なお、一旦、除荷された後の再負荷時においては、からみ点数の変化は不可逆的なものとする。即ち、再負荷時において、前回の負荷変形サイクルで到達した最大伸び以下の変形領域では、平均セグメント数Nは変化しないものとする。つまり、1回目の変形サイクルの除荷と、2回目の変形サイクルの再負荷でのNの値は同一になる。そして、さらに変形が進み、1回目の変形サイクルで経験した最大伸びを超えた場合、Nの値が再び変化(減少)するものとして定められる。なお、本実施形態では上式の定数部などを次のように定めた。
=1.20
=−2.19
=0.99

[要素A]
βA=0.22MPa
初期セグメントNA0=14
総セグメント数N=7.54×1026
[要素B]
αB=0.22MPa
初期セグメントNB0=14
[粘弾性要素]
1A=5.0×105
2A=−0.5
A=3.5
1D=3.0×105
2D=−0.5
D=5.5
4)連結モデル
次のように定数等を設定した。
N=N0
初期セグメント数(N=N0):8.0(固定値)
総セグメント数NA:7.54×1026
界面部の厚さ:シリカモデルの径の10%
第1の接続部の幅T1:シリカモデルの径の20%
第2の接続部の幅T2:シリカモデルの径の35%
α Rs =0.385MPa
5)シリカモデルなどのパラメータ
粒子径は全て同一
シリカモデルの縦弾性率:100MPa

シリカモデルのポアソン比:0.3
シリカモデルの体積含有率μ:20%
6)他の条件
材料温度:T=296K
B =1.38066×10-29
ペナルティ定数:100
カップリング剤の含有率:8wt%
7)変形条件
上記巨視的モデルに一様な一軸引張変形を発生させるため、図9のx方向に一定の変形速度100mm/minを加え、所定の最大ひずみが1.5になるまで変形を与えた。また、最大ひずみひずみに達した後は、逆に前記と同じ変形速度でひずみを零まで漸減させた。なお上記巨視的モデルは、厚さ方向(図3のZ軸方向)に変化しないように8鎖モデルを用いた分子鎖網目理論に基づいて計算を行った。
8)計算結果
先ず、図13には、本実施例のゴム材料モデルに用いられた連結モデル及びマトリックスモデルそれぞれ単体の公称応力−伸び(ストレッチ)曲線を示す。図13より、連結モデルは、マトリックスモデルに比して高モジュラス化していることが再現されている。これは、マトリックスモデルの初期セグメント数が14であるのに対し、連結モデルの初期セグメント数を8としたことによる(ただし、いずれについても総セグメント数は7.54×1026で同一とした)。
次に、図14には、この実施例に従うゴム材料モデルの応力−伸び曲線について、シミュレーションと実験値とが並記されている。また、図15には、ヒステリシスロスと、繰り返し変形回数との関係を示す。ヒステリシスロスは、負荷時と除荷時の応力ー伸び曲線で囲まれた部分の面積で評価している。
図14の再負荷時の応力回復や、サイクル終了時の応答の遅れ、さらにはカップリング剤の影響による変形抵抗の上昇など、実験において見られるシリカ配合ゴム材料の変形挙動の主要な特性が本モデルにおいて忠実に再現されていることがわかる。
図15において、1サイクル目から2サイクル目のヒステリシスロスの減少の傾向は再現できていることが分かる。1サイクル目のヒステリシスロスは、実験結果と比べ小さな値を取っている。これは、1サイクル目の負荷時の応力が実験値よりも大きくなっているためと考えられ、その要因として、シリカモデルを単純配置したためと考えられる。
図16(a)、(b)には、材料モデルへの引張方向の応力σの分布、分子鎖伸びλの分布が示される。ゴムに比べ剛性が非常に高いシリカモデルは変形せず、連結モデルの領域の分子鎖ストレッチが非常に大きくなっていることが理解される。このように、本シミュレーションによれば、高ストレッチ領域で分子鎖の配向硬化が進行することが分かる。また、連結モデル(界面結合剤)に高い応力集中が生じていることが分かる。
なお、図17で示した材料モデル20で実際のシリカ配合ゴム材料の実験結果を再現するためには、界面モデルの物性は、マトリクスモデルよりも非常に固く設定する必要があったが、本発明の実施例では、連結モデルの物性(引張弾性率)は、ゴムマトリクスと大きな差はない。従って、入力物性の観点からも、本発明のモデルは、現実的なものになっていることが分かる。このように、本発明のモデルは、従来のものより、高い精度のシミュレーションを可能にする。
1 コンピュータ装置
2 ゴム材料モデル
3 マトリックスモデル
4 シリカモデル
5 連結モデル

Claims (5)

  1. ゴムと、シリカと、これらを結合する界面結合剤とを含むゴム材料の変形をコンピュータ装置を用いてシミュレーションするシミュレーション方法であって、
    前記ゴム材料を数値解析が可能な要素でモデル化したゴム材料モデルを前記コンピュータ装置に入力するステップと、
    前記コンピュータが、予め定められた条件に基づいて、前記ゴム材料モデル変形計算を行うステップと、
    前記コンピュータが、前記変形計算から必要な物理量を取得するステップと、
    前記コンピュータが、前記取得した物理量をディスプレイ装置に視覚化して表示するステップとを含むとともに、
    前記ゴム材料モデルは、ゴムマトリックスをモデル化したマトリックスモデルと、前記該マトリックスモデル中に分散して配置されかつ前記シリカをモデル化した複数個のシリカモデルと、隣接するシリカモデルを互いに連結するとともに前記マトリックスモデルよりも硬い物性が定義された連結モデルとを含むことを特徴とするゴム材料のシミュレーション方法。
  2. 前記連結モデルは、マトリックスモデルよりも限界ストレッチが小さい請求項1記載のゴム材料のシミュレーション方法。
  3. 前記連結モデルは、隣接する全てのシリカモデルの組み合わせを連結する請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法。
  4. 前記連結モデルは、予め定めた距離以下で隣接するシリカモデルの組み合わせを連結する請求項1又は2記載のゴム材料のシミュレーション方法。
  5. 前記連結モデルは、前記シリカモデルの周りを小厚さでかつ環状に取り囲む界面部と、該界面部間をつなぐ接続部とを含む請求項1乃至4のいずれかに記載のゴム材料のシミュレーション方法。
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