以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態には限定されない。
なお、以下においては、熱可塑性樹脂の区別を明確とする目的で、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂(L)とも表記され、プライマー層に含まれていてもよい熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂(P)とも表記される。熱可塑性樹脂(L)及び熱可塑性樹脂(P)の詳細については、後述される。
1.[ラクトン環含有重合体]
本発明の基材は、ラクトン環含有重合体を主成分とする熱可塑性樹脂(L)を含んでいる。即ち、ラクトン環含有重合体は、上記熱可塑性樹脂(L)の主成分である。このラクトン環含有重合体は、好ましくは、下記式(1)で示されるラクトン環構造を有する。
ただし、上記式(1)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基(有機残基)を表す。なお、この炭素数1〜20の有機基は酸素原子を含有していてもよい。
ラクトン環含有重合体におけるラクトン環構造の含有割合RLは、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、ラクトン環構造の含有割合が90質量%を超えると、得られた重合体の成形加工性が低下することがある。この含有割合RLは、後述される方法により測定される。
ラクトン環含有重合体は、上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸及び下記式(2)で示される単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
ただし、上記式(2)において、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R5基または−CO−O−R6基を表し、Acはアセチル基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素数1〜20の有機基(有機残基)を表す。
ラクトン環含有重合体の構造中における上記式(1)で示されるラクトン環構造以外の構造の含有割合Rtは、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。水酸基含有単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、含有割合Rtは、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。また、不飽和カルボン酸を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、含有割合Rtは、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。さらに、上記式(2)で示される単量体を重合して形成される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、含有割合Rtは、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。なお、この含有割合Rtは、上記含有割合RLを用いて、計算式「Rt=100−RL」により算出される。
ラクトン環含有重合体の製造方法は、特に限定されず、例えば、重合工程によって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後、得られた重合体(a)にラクトン環化縮合反応を行うことにより得られる。このラクトン環化縮合反応は、加熱処理によりラクトン環構造を重合体に導入する反応である。
重合工程においては、例えば、下記式(3)で示される単量体を配合した単量体成分の重合反応を行う。この重合反応により、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体が得られる。
ただし、上記式(3)において、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機基(有機残基)を表す。
上記式(3)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。
重合工程に供される単量体成分中における上記式(3)で示される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。上記式(3)で示される単量体の含有割合が5質量%未満であると、ラクトン得られた重合体の耐熱性、耐溶剤性および表面硬度が低下することがある。逆に、上記式(3)で示される単量体の含有割合が90質量%を超えると、重合工程やラクトン環化縮合工程におけるゲル化や、得られた重合体の成形加工性の低下が起こりうる。
重合工程に供される単量体成分には、上記式(3)で示される単量体以外の単量体を配合してもよい。このような単量体は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸及び上記式(2)で示される単量体などが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
上記式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られた重合体の耐熱性や透明性が優れる観点から、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
上記式(3)で示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供される単量体成分中におけるその含有割合は、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、さらに好ましくは40〜90質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。
上記式(3)で示される単量体以外の水酸基含有単量体は特に限定されず、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらの水酸基含有単量体は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。
上記式(3)で示される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
上記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。これらの不飽和カルボン酸を用いる場合は、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
上記式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。これらの単量体を用いる場合は、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
上記式(2)で示される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中におけるその含有割合は、本発明の効果を充分に発揮させる上で、好ましくは0〜30質量%、より好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。
単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を使用する重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
重合温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80〜140℃、重合時間が1〜10時間である。
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるラクトン環含有重合体の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤が添加されてもよい。重合開始剤は特に限定されず、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合工程により、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)が得られる。この重合体(a)の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。即ち、この重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(HLC−8120GPC、東ソー(株)製)により、カラムを用いて、ポリスチレン換算で測定した。カラムは、TSKgelG−5000HXL[東ソー(株)製]及びTSKgelGMHXL−L[東ソー(株)製]を直列に連結して用いた。溶離液はテトラヒドロフランとされ、流量は1ml/分とされ、検出器は示差屈折計とされた。
上記したように、重合工程で得られた重合体(a)は、ラクトン環化縮合工程において加熱処理されることにより、ラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環含有重合体となる。
重合体(a)を加熱処理する方法は特に限定されず、従来公知の方法が用いられうる。例えば、重合工程によって得られた溶剤含有混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いた加熱処理がなされてもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理がなされてもよい。
環化縮合反応は、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させつつなされてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒が用いられてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類が触媒として用いられてもよい。あるいは、環化縮合反応の触媒として有機リン化合物が用いられてもよい。使用可能な有機リン酸化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
環化縮合反応を溶剤の存在下で行い、かつ、環化縮合反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。脱揮工程とは、溶剤、残存単量体などの揮発分と、ラクトン環構造を導く環化縮合反応により副生したアルコールを、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。脱揮工程により、縮合環化反応で副生するアルコールが強制的に除去されるので、反応の平衡が生成側に有利となる。この除去処理が不充分である場合、得られた重合体中の残存揮発分が増加しやすい。この残存揮発分は、成形時の着色、成形不良等を招来しうる。
ラクトン環含有重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。なお、重量平均分子量は、前述の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算により求められる。
ラクトン環含有重合体の、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。この質量減少率の測定方法は、後述の通りである。
濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合におけるラクトン環含有重合体の着色度(YI)は、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、用途が限定される場合がある。
ラクトン環含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、特に好ましくは140℃以上である。このガラス転移温度(Tg)は、後述の方法により求められる。
透明性を要求される用途で用いられる場合、ラクトン環含有重合体の全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、透明性を要求される用途に使用できないことがある。この全光線透過率は、成形された基材において測定され、ASTM−D−1003に準拠した方法で測定される。
2.[熱可塑性樹脂(L)]
熱可塑性樹脂(L)は、ラクトン環含有重合体を主成分とする。熱可塑性樹脂(L)におけるラクトン環含有重合体の含有割合は、少なくとも50質量%、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、さらに好ましくは80〜100質量%である。熱可塑性樹脂(L)におけるラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%未満であると、本発明の効果を充分に発揮できない場合がある。本願において、「ラクトン環含有重合体を主成分とする」とは、ラクトン環含有重合体の含有割合が50質量%以上であることを意味する。
熱可塑性樹脂(L)には、ラクトン環含有重合体以外の重合体(以下「その他の重合体」ともいう。)を含有していてもよい。その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ビニル樹脂などのハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。
熱可塑性樹脂(L)におけるその他の重合体の含有割合は、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、さらに好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜20質量%である。
熱可塑性樹脂(L)は、種々の添加剤を含有していてもよい。この添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;フェニルサリチレート、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
熱可塑性樹脂(L)における添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜0.5質量%である。
この熱可塑性樹脂(L)は、後述される基材に含まれる。熱可塑性樹脂(L)を含む熱可塑性樹脂組成物を製造する方法として、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機で原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する方法が挙げられる。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機が用いられうる。
3.[基材]
基材は、上記熱可塑性樹脂(L)を含む熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。この基材は、フィルムやシートなどの形態に成形されるのが好ましい。基材の成形方法は、特に限定されず、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知の成形方法が採用されうる。これらの成形方法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が好ましい。
溶液キャスト法(溶液流延法)に用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いられてもよいし2種以上が併用されてもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、その際の成形温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
Tダイ法で成形する場合は、例えば、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状やシート状に押出されたフィルムやシートを巻取り、ロール状のフィルムやシートを得る。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムやシートを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
基材は、未延伸であってもよいし、延伸されていてもよいが、延伸されているのが好ましい。延伸により基材の表面付近に微細なクラックが生じやすい。延伸により、基材の表面付近に脆弱層が形成されやすい。この脆弱層に起因する凝集破壊により、基材と他の層との密着性が低下しやすい。後述するプライマー層は、この脆弱層に含浸しうる。プライマー層は、基材に入り込みうる。よって、プライマー層は、基材を補強しうる。プライマー層は、特に基材の脆弱層を補強しうる。プライマー層により、凝集破壊が抑制され、密着性が向上しうる。また、脆弱層は、多数の微細なクラックを有していると考えられ、プライマー層は、このクラックに入り込みうる。この入り込みにより、アンカー効果が生じ、プライマー層と基材との間の密着性が向上しうる。一軸延伸よりも、二軸延伸のほうが、脆弱層が形成されやすい。脆弱層が形成されやすく、本発明の効果が顕在化しやすい観点から、基材は、二軸延伸されているのがより好ましい。
後述する実施例が示すように、本発明のプライマー層は、基材とプライマー層との密着性を向上させる効果を有する。この密着性向上効果から、プライマー層が、基材の凝集破壊を抑制していることが判る。よって、プライマー層は、何らかの作用により、基材の表面の強度を高めていると考えられる。本願では、このプライマー層による効果を、「補強」という文言を用いて表現する。即ち本願では、基材表面の強度が向上していることを、「基材表面が補強されている」と表現する。ただし、プライマー層が、いかにして基材表面を補強しているかについての詳細は不明である。
プライマー層による上記補強効果は、プライマー層が、基材に対して何らかの影響を与えている証拠である。即ち、プライマー層による上記補強効果は、プライマー層が、基材の表層を変質させていることを示している。この補強効果は、プライマー層が、基材に含浸することにより生じていると考えられる。たとえば、基材の上記脆弱層に存在するクラックにプライマー層が入り込むことにより、脆弱層が補強されていると考えられる。また、プライマー層が熱可塑性樹脂(P)を含む場合、プライマー層に存在する溶剤により、熱可塑性樹脂(P)が基材に入り込みやすくなっていると考えられる。この熱可塑性樹脂(P)の入り込みにより、基材表面の強度が向上していると考えられる。
延伸は、一軸延伸でもよいし、二軸延伸でもよい。前述の通り、二軸延伸がより好ましい。二軸延伸は、同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。二軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルムやシートの性能が向上する。
延伸温度は、原料である熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)以上(ガラス転移温度+100℃)以下、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)以上〜(ガラス転移温度+80℃)以下の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)を超えると、樹脂組成物の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義される延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
延伸速度は、一つの延伸方向において、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムやシートの破断などが起こることがある。
なお、基材としてのフィルムやシートには、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)がなされてもよい。
基材の厚さは特に限定されず、例えば5μm以上5mm以下である。
基材表面の濡れ張力は、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が40mN/m以上であると、基材とプライマー層との密着性がさらに向上しやすい。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、等の表面処理を施すことができる。
4.[プライマー層及びプライマー層を形成するためのコーティング組成物]
プライマー層は、上記基材と、後述される機能層との間に設けられる。プライマー層は、基材に接して設けられる。プライマー層は、活性エネルギー線硬化型組成物を硬化させることにより形成されている。通常、プライマー層は、後述されるコーティング組成物を上記基材に塗布することにより形成される。プライマー層は、基材の表面付近に形成されうる脆弱層を効果的に補強しうる。この脆弱層の補強により、凝集破壊が抑制されうる。
プライマー層の厚さは限定されない。プライマー層が薄すぎる場合、基材の補強が十分になされないことがある。プライマー層が薄すぎる場合、基材への含浸が十分になされないと考えられる。この観点から、プライマー層の厚さは、10nm以上が好ましく、300nm以上がより好ましい。プライマー層の硬化収縮に起因する応力を低減する観点から、プライマー層の厚さは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
プライマー層の耐スチールウール性は限定されない。耐クラック性を高める観点から、後述の方法で評価されるプライマー層の耐スチールウール性は、評価B(傷が認められる)が好ましい。
4−1.[活性エネルギー線硬化型組成物]
プライマー層を形成するためのコーティング組成物は、活性エネルギー線硬化型組成物を含む。この活性エネルギー線硬化型組成物が、ラクトン環含有重合体を含む基材を補強しうることが判明した。この活性エネルギー線硬化型組成物が、基材の脆弱層を補強しうることが判明した。活性エネルギー線硬化型組成物が基材に含浸し、基材に含浸された活性エネルギー線硬化型組成物が硬化することにより、基材の脆弱層が補強されていると考えられる。
活性エネルギー線硬化型組成物は、活性エネルギー線硬化型化合物を含む。この活性エネルギー線硬化型化合物は、活性エネルギー線硬化性を有する限り、限定されない。活性エネルギー線は特に限定されず、電子線、紫外線、可視光線、赤外線等が例示される。エネルギー量が高く樹脂を硬化させやすい観点から、好ましい活性エネルギー線は紫外線又は電子線であり、より好ましくは紫外線である。
プライマー層に活性エネルギー線硬化型化合物が用いられることにより、基材と機能層との密着性が向上しうることがわかった。この密着性向上の観点から、プライマー層の全質量に対する活性エネルギー線硬化型化合物の比率Rcは、20重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。比率Rcは、100重量%であってもよい。
活性エネルギー線硬化性の観点から、好ましい活性エネルギー線硬化型化合物は、ラジカル重合性化合物である。このラジカル重合性化合物は特に限定されず、分子中に1個又は2個以上の炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましい。このラジカル重合性化合物として、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、多価アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル等が例示されうる。これらの活性エネルギー線硬化型化合物は、単量体であってもよいし、二量体、三量体、オリゴマー等であってもよい。後述するように、この活性エネルギー線硬化型化合物の数平均分子量M1は、小さい方が好ましい。
ラクトン環含有重合体を含む基材との密着性の観点から、活性エネルギー線硬化型化合物の少なくとも一部が、ウレタン(メタ)アクリレートであるのが好ましい。即ち、活性エネルギー線硬化型化合物としてウレタン(メタ)アクリレートを含むコーティング組成物が好ましい。
上記ウレタン(メタ)アクリレートの種類は限定されない。このウレタン(メタ)アクリレートとして、例えば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとを反応させて得られる化合物を挙げることができる。上記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。上記ポリイソシアネートは、脂肪族系、芳香族系および脂環式系のいずれを用いてもよい。上記ポリイソシアネートの具体例としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルジイソシアネート等が挙げられる。無黄変ウレタンとなるポリイソシアネートが好ましい。ポリイソシアネートは、単独で用いても良く、2種以上を組み合わせてもよい。
また上記ポリイソシアネートに代えて、上記ポリイソシアネートの変性体が用いられてもよい。このポリイソシアネートの変性体として、下記式(4)で表されるビュウレット型変性体、下記式(5)で表されるイソシアヌレート型変性体及び下記式(6)で表されるトリメチロールプロパンアダクト型変性体が挙げられる。ただし、下記式(4)、(5)及び(6)において、R10,R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一もしくは異なる二価の有機基を表す。式(4)、式(5)及び式(6)については、後述される。
より好ましいウレタン(メタ)アクリレートとして、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(A1)が挙げられる。この化合物(A1)は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びアクリル系ポリオールよりなる群から選択される1種又は2種以上のポリオール(a)、1種又は2種以上の多官能イソシアネート(b)及び1種又は2種以上の活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)を反応させて得られる。
他の好ましいウレタン(メタ)アクリレートとして、ウレタン(メタ)アクリレート化合物(A2)が挙げられる。この化合物(A2)は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びアクリル系ポリオールよりなる群から選択される1種又は2種以上のポリオール(a)、1種又は2種以上の多官能イソシアネート(b)、1種又は2種以上の活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)及び1種又は2種以上の低分子量グリコール(d)を反応させて得られる。好ましくは、上記多官能イソシアネート(b)は、ジイソシアネート(b1)と、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート(b2)とを含む。好ましくは、上記ジイソシアネート(b1)は、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートとされる。好ましくは、上記ラジカル重合性ビニル単量体(c)は、水酸基含有アクリルモノマーとされる。
上記ポリオール(a)、上記多官能イソシアネート(b)、上記活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)、上記低分子量グリコール(d)、上記ジイソシアネート(b1)と、上記イソシアネート(b2)及び上記ラジカル重合性ビニル単量体(c)について、以下に説明がなされる。
[ポリオール(a)]
このポリオール(a)は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール及びアクリル系ポリオールよりなる群から選択される1種又は2種以上である。ポリオール(a)は、弾性付与成分として機能する。ポリオール(a)により、基材との密着性、耐クラック性及び耐傷つき性が向上しうる。
ポリオール(a)の数平均分子量は、好ましくは400より大きく20,000以下である。数平均分子量が400以下であると、基材の耐クラック性が低下する場合があり、数平均分子量が20,000より大きいと、基材への含浸性が低下することがある。この観点から、より好ましくは、ポリオール(a)の数平均分子量は1,000以上5,000以下である。
ポリオール(a)としてのポリエステルポリオールは、特に限定されない。このポリエステルポリオールとしては、例えば、直鎖状又は分岐状のポリエステルポリオールや、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等のラクトンの開環縮合反応によって得られるポリエステルポリオール等を挙げることができる。この直鎖状又は分岐状のポリエステルポリオールは、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、テトラハイドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリアルコールとを縮合反応させることにより得られうる。このポリカルボン酸とポリアルコールとの縮合反応は、必要に応じて、変性用成分としてのモノカルボン酸やモノアルコールの存在下においてなされうる。
ポリオール(a)としてのポリエーテルポリオールは、特に限定されない。このポリエーテルポリオールとして、例えば、オキシエチレンのくり返し度が9以上であるポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)グリコール、ポリオキシブチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のグリコール類;ポリオキシプロピレントリオール、ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)トリオール等のトリオール類;ペンタエリスリトール等にアルキレンオキサイドを付加反応させて得られる生成物の如きポリオール類、等が挙げられる。
ポリオール(a)としてのポリカーボネートポリオールは、特に限定されない。このポリカーボネートポリオールとして、1,6−ヘキサンジオール等のグリコールと、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等のカーボネートとを、エステル交換して得られた各種ポリカーボネートポリオール等が例示される。
ポリオール(a)としてのアクリル系ポリオールは、特に限定されない。アクリル系ポリオールは、水酸基を2個以上有するアクリル系化合物である。このアクリル系ポリオールは、アクリルポリオールとメタクリルポリオールとを含む。好ましいアクリル系ポリオールは、例えば、(メタ)アクリル系単量体と水酸基を有する単量体とが共重合されてなる。水酸基を有する不飽和単量体として、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、ダイセル化学工業社製、商品名「プラクセルFM」)等が挙げられる。好ましいアクリル系ポリオールは、Tg(ガラス転移温度)が90℃以下のアクリル系ポリオールである。90℃より大きいと基材への密着性や耐クラック性が低下する場合がある。
[多官能イソシアネート(b)]
多官能イソシアネート(b)は、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。多官能イソシアネート(b)は、ウレタン結合を導入する。多官能イソシアネート(b)により凝集力が高まり、積層体のカール性が低減されるととともにその硬度が高くなる。多官能イソシアネート(b)に起因するウレタン結合により、基材との密着性が向上すると考えられる。黄変を抑制し耐光性を向上させる観点から、多官能イソシアネート(b)は、芳香環を有しないのが好ましい。
多官能イソシアネート(b)の分子中に含まれるイソシアネート基は2個以上である。また、多官能イソシアネート(b)の分子中に含まれるイソシアネート基の数が4個を超えるものは通常市販品として入手するのが困難である。これらの観点から、多官能イソシアネート(b)は、イソシアネート基を分子中に平均2〜4個有するものが好ましい。
多官能イソシアネート(b)は、後述される活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)と上記ポリオール(a)とを、多官能イソシアネート(b)を介して連結させる役割を果たす。多官能イソシアネート(b)により、分子末端にラジカル重合性不飽和基が導入されうる。多官能イソシアネート(b)は、活性エネルギー線硬化型組成物にラジカル重合性不飽和基を導入し、活性エネルギー線による硬化を可能とする役割も果たす。
多官能イソシアネート(b)としては、従来から公知の芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が用いられうる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、
2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
また多官能イソシアネート(b)は、上記ポリイソシアネートの変性体であってもよい。このポリイソシアネートの変性体として、下記式(4)で表されるビュウレット型変性体、下記式(5)で表されるイソシアヌレート型変性体及び下記式(6)で表されるトリメチロールプロパンアダクト型変性体が挙げられる。 ただし、下記式(4)、(5)及び(6)において、R10,R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、同一もしくは異なる二価の有機基を表す。
好ましい多官能イソシアネート(b)は、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート及びそれらの変性体よりなる群から選択される1種以上である。黄変を抑制する観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート及びそれらの変性体よりなる群から選択される1種以上が特に好ましい。
多官能イソシアネート(b)は、1種でもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、多官能イソシアネート(b)は、ジイソシアネート(b1)と3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート(b2)とを含む。ジイソシアネート(b1)とイソシアネート(b2)とが併用されることにより、次の効果が生じうる。即ち、ジイソシアネート(b1)により、合成時の反応の制御が容易となり、ゲル化することなく高分子量のウレタン(メタ)アクリレートを得ることが可能となる。これにより、架橋間距離が長くなり、硬化後の組成物の弾性が高まる。この弾性により、積層体の耐久性が向上しうる。更に、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート(b2)により、分子内に分枝が導入され、より多くのビニル単量体(c)を分子内に導入することが可能となり、組成物の光硬化速度が速くなる。
[活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)]
活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)は、活性エネルギー線硬化性の官能基を導入する役割を果たす。この観点から、好ましい活性水素含有ラジカル重合性ビニル単量体(c)は、水酸基含有アクリルモノマーである。例えば水酸基含有メタクリルモノマーが用いられた場合と比較して、水酸基含有アクリルモノマーが用いられた場合、組成物の光硬化速度が速くなりやすい。この観点からも、単量体(c)は、水酸基含有アクリルモノマーが好ましい。
この単量体(c)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えばダイセル化学工業(株)製商品名“プラクセル”)、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート、コハク酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、各種エポキシエステルの(メタ)アクリル酸付加物、等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、などのカルボキシル基含有ビニル単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有ビニル単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロ−プロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルりん酸などの酸性りん酸エステル系ビニル単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有するビニル単量体等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。多官能イソシアネート(b)のイソシアネート基との反応性を考慮すると、単量体(c)としては、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルが特に好ましい。
本発明の特徴を損なわない範囲でモノイソシアネート化合物と多官能イソシアネート(b)とを混合して用いてもよい。従って、モノイソシアネートを不純物として包含する多官能イソシアネート(b)は特に精製することなくそのまま多官能イソシアネート(b)として用いることができる。尚、ポリオール(a)と多官能イソシアネート(b)とを反応させる際に、反応促進のために有機スズ化合物や第3級アミン等の公知の触媒を用いることは自由である。
[低分子量グリコール(d)]
本願において、低分子量グリコール(d)とは、分子量が400以下のグリコールを意味する。低分子量グリコール(d)は、本発明の組成物に凝集力を付与しうる成分である。低分子量グリコール(d)は、カール性の低減及び硬度の向上に寄与する。ポリオール(a)と低分子量グリコール(d)とが併用されることにより、分子設計の自由度が顕著に向上しうる。低分子量グリコール(d)が用いられることにより、本発明の組成物においてウレタン結合間の間隔が短くされうる。これにより、カール性の低減や硬度の向上が達成されうる。
低分子量グリコール(d)として、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オタンジオール,ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量400以下のポリプロピレングリコール、ジブチレングリコール、分子量400以下のポリブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ヒマシ油、4,4'−ジオキシジフェニルプロパン、ジオキシメチルヒロドキノン等が例示される。
分子量が小さい活性エネルギー線硬化型化合物は、分子が小さいため、脆弱層へ入り込みやすいと考えられる。分子量が小さい場合、基材に含浸しやすいと考えられる。よって、小さい分子量は、基材の補強効果を向上させうると考えられる。この観点から、活性エネルギー線硬化型化合物の数平均分子量M1は、10000以下が好ましく、5000以下がより好ましく、2000以下がより好ましい。数平均分子量M1の下限値は限定されず、上記した活性エネルギー線硬化型化合物の単量体の分子量が、数平均分子量M1の下限値とされうる。
4−2.[溶剤]
上記コーティング組成物は、溶剤を含んでいてもよい。硬化後のプライマー層において、この溶剤は残留していてもよいし、蒸発により消滅していてもよい。
この溶剤は限定されない。この溶剤により、活性エネルギー線硬化型化合物が、基材の脆弱層に入り込みやすくなる。この入り込みにより、脆弱層が補強されうる。上記脆弱層への補強効果の観点から、この溶剤は、上記熱可塑性樹脂(L)を溶解させうるものが好ましい。この熱可塑性樹脂(L)を溶解しうる溶剤により、脆弱層が補強されうる。上記溶剤として、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、安息香酸エチル、アセト酢酸メチル等のエステル類;ジオキソラン、ジオキサン、メチルセロソルブ、メチルカルビトール等のエーテル類;メチルセロソルブアセテート、セロソルブアセテート等の多価アルコールエステル類;テトラヒドロフラン、フルフラール等のフラン類;氷酢酸等の酸類;メチレンクロライド、エチレンジクロライド、テトラクロロエタン等のハロゲン炭化水素類;ニトロメタン、ニトロエタン、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン等の窒素化合物;ジメチルスルホキサイド等のスルホン酸類等が好適に用いられる。塗布後の乾燥を考慮すると、揮発し易い溶剤が好ましく、具体的には、沸点が200℃以下のものが好ましい。
溶剤が基材を溶解する度合いが、以下において溶剤の基材溶解性とも称される。溶剤の基材溶解性が高い場合、溶剤により基材が補強されやすい。溶剤の基材溶解性が高い場合、コーティング組成物が基材に入り込みやすい。基材を補強する効果を高める観点から、溶解性パラメータ(SP値)が考慮されるのが好ましい。即ち、上記コーティング組成物に含まれる上記溶剤の溶解性パラメータSP1と、上記熱可塑性樹脂(L)の溶解性パラメータSP2との差(SP1−SP2)の絶対値は、5以下が好ましい。
基材への入り込みを容易とし、基材を補強する効果を高める観点から、熱可塑性樹脂(L)の溶解性パラメータと、プライマー層に含まれる活性エネルギー線硬化型化合物の溶解性パラメータとは、近いほうが好ましい。即ち、上記活性エネルギー線硬化型化合物の溶解性パラメータSP3と、上記熱可塑性樹脂(L)の溶解性パラメータSP2との差(SP3−SP2)の絶対値は、4以下が好ましい。
上記溶解性パラメータ(SP値)は、単位体積当たりの極性の大きさを示す値であり、公知の方法によって求められうる。
溶剤の溶解性パラメータは、液体のモル蒸発熱をΔH、モル体積をVとするとき、δ=(ΔH/V)1/2で定義される。この式は、J.H.Hildebrandによって提唱されたものである。
上記溶解性パラメータδは、Hildebrandらが、その著書「TheSolubility of Nonelectrolytes」(J.H.Hildebrandand及びR.L.Scott著、Reinhold Publishing Corp.出版、1950年発行)において提唱したもので、下記式1のように表される。
δ[MPa1/2]=(ΔE/V)1/2(式1)
式1において、ΔEは分子凝集エネルギー[J/mol]であり、Vは分子容[ml/mol]である。すなわち、溶解性パラメータは凝集エネルギー密度の平方根に相当する。溶解性パラメータの値が近いものほど凝集エネルギー密度が小さく、親和性が高いといえる。しかし、初期の溶解性パラメータは、分子間力の分散力が主体で、双極子間力や水素結合力については、あまり考慮されていなかった。のちに、Hansenら(C.M.Hansen著、J.PaintTechnol.39巻505号104〜117ページ1967年発行や、C.M.Hansen著、J.PaintTechnol.39巻511号505〜510ページ1967年発行やC.M.Hansenand、K.Skaarup著、J.PaintTechnol.39巻511号511〜514ページ、1967年発行)やHoy(K.L.Hoy著、J.PaintTechnol.42巻541号76〜118ページ1970年発行)によって、これらを定量化したいわゆる三次元溶解性パラメータが提唱された。三次元溶解性パラメータδは、上記式1と下記式2より、下記式3のように表される。
ΔE=ΔEd+ΔEp+ΔEh(式2)
δ2=δd 2+δp 2+δh 2(式3)
ここで、ΔEdは分散力[J/mol]、ΔEpは双極子間力[J/mol]、ΔEhは水素結合力[J/mol]、δdは溶解性パラメータの分散力項[ml/mol]、δpは溶解性パラメータの双極子間力項[ml/mol]、δhは溶解性パラメータの水素結合力[ml/mol]である。本願においては、この三次元溶解性パラメータが、溶剤の溶解性パラメータとして採用される。溶剤の溶解性パラメータは、「SP値 基礎・応用と計算方法」(山本秀樹 著、情報機構、第82頁及び第83頁)に記載されている方法により計算される。主な溶剤の溶解性パラメータが下記の表1で示される。なお、「溶解性パラメータ」は、「溶解度パラメータ」とも称される。上記「SP値 基礎・応用と計算方法」では、「溶解度パラメータ」という用語が採用されているが、この「溶解度パラメータ」は、「溶解性パラメータ」と同義である。
樹脂の溶解性パラメータ(SP値)は、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年、Vol.14、No.2)の147ページから154ページ記載の方法によって計算される。以下にその方法を概説する。
単独重合体の溶解性パラメータ(δ)は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(Δei)及びモル体積(Δvi)に基づいて、下式の計算法により算出される。
δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
Δei: i成分の原子または原子団の蒸発エネルギー
Δvi: i成分の原子または原子団のモル体積
共重合体の溶解性パラメータは、上記式により、その共重合体を構成する各構成単量体のそれぞれの単独重合体の溶解性パラメータを算出し、それらの溶解性パラメータに各構成単量体のモル分率を乗じたものを合算し、その平方根で算出される。
4−3.[熱可塑性樹脂(P)]
プライマー層及びこのプライマー層を形成するコーティング組成物は、活性エネルギー線硬化型化合物に加えて、熱可塑性樹脂(P)を含んでいてもよい。この熱可塑性樹脂(P)は、この熱可塑性樹脂(P)は特に限定されない。前述した熱可塑性樹脂(L)として用いられうる樹脂の全てが、熱可塑性樹脂(P)に用いられうる。基材へ容易に含浸させる観点から、熱可塑性樹脂(P)は、下記の重合性単量体を重合して得られる重合体が好ましい。この重合性単量体として、例えば、アクリル酸;メタクリル酸;メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有メタクリル酸エステル;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有アクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド類;スチレン、酢酸ビニルなどのビニル化合物;アクリロニトリル;などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。熱可塑性樹脂(P)は、基材との密着性を向上するのに寄与しうる。
ラクトン環構造に対する親和性の観点から、熱可塑性樹脂(P)は、極性基又は極性結合を有するのが好ましい。好ましい極性基として、水酸基、アミノ基、カルボニル基及びエステル基が挙げられる。好ましい極性結合として、N−H結合が挙げられる。
基材への入り込み(含浸)を容易とする観点から、熱可塑性樹脂(P)のガラス転移温度(Tg)は、150℃以下が好ましい。熱可塑性樹脂(P)の硬度を高くして、基材に対する補強効果を高める観点から、熱可塑性樹脂(P)のガラス転移温度(Tg)は、30℃以上が好ましい。このガラス転移温度(℃)は、後述の方法により求められる。
熱可塑性樹脂(P)の重量平均分子量は、基材への入り込みやすさに影響しうる。熱可塑性樹脂(P)の重量平均分子量が小さいほど、コーティング組成物が基材に入り込みやすい。熱可塑性樹脂(P)の重量平均分子量が小さいほど、基材の表層部が補強されやすい。この観点から、熱可塑性樹脂(P)の重量平均分子量は、1,000,000以下が好ましい。熱可塑性樹脂(P)の硬度を上げ、プライマー層による補強効果を向上させる観点から、熱可塑性樹脂(P)の重量平均分子量は、1,000以上が好ましい。この重量平均分子量は、前述の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、ポリスチレン換算により求めた値である。
4−4.[添加剤(A)]
本発明のコーティング組成物及びプライマー層は、硬化収縮の低減及び/又は基材への含浸に寄与しうる添加剤(以下、添加剤(A)という)を含んでいてもよい。添加剤(A)は、硬化収縮低減効果のみを有していてもよい。添加剤(A)は、コーティング組成物を基材に含浸させる効果(以下、含浸効果ともいう)のみを有していてもよい。添加剤(A)は、上記硬化収縮低減効果及び上記含浸効果の両方を有していてもよい。
プライマー層用コーティング組成物を硬化させる硬化工程において、硬化収縮が発生しうる。この硬化収縮は、基材に悪影響を与えうる。この硬化収縮は、特に基材の脆弱層にダメージを与えうる。この硬化収縮により、凝集破壊が生じやすい。この硬化収縮により、基材とプライマー層との密着性が低下しやすい。添加剤(A)の硬化収縮低減効果により、基材とプライマー層との密着性が向上しうる。
また、上記含浸効果を有する添加剤(A)により、基材が効果的に補強されうる。特に、この添加剤(A)により、基材の脆弱層が効果的に補強されうる。
含侵効果及び硬化収縮低減効果を有しうる添加剤(A)として、アクリル酸;メタクリル酸;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有アクリル酸エステル;メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等の水酸基含有メタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド類;スチレン;酢酸ビニルなどのビニル化合物;アクリロニトリル;などが挙げられる。
更に、含浸効果及び硬化収縮低減効果を有しうる添加剤(A)として、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、多官能チオール、(メタ)アクリロイル基及びビニルエーテル基を含有する2官能の異種重合性モノマー等が例示される。この添加剤(A)の具体例として、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。
ポリエチレングリコールジアクリレートの市販品として、新中村化学工業(株)製の商品名「A−200」、「A−400」及び「A−600」が挙げられる。トリメチロールプロパントリメタアクリレートの市販品として、共栄社化学(株)製の商品名「ライトエステルTMP」が挙げられる。エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレートの市販品として、共栄社化学(株)製の商品名「ライトアクリレートTMP−6EO−3A」が挙げられる。1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタンの市販品として、昭和電工(株)製の商品名「カレンズMT BD1」が挙げられる。ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)の市販品として、昭和電工(株)製の商品名「カレンズMT PE1」が挙げられる。アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルの市販品として、(株)日本触媒製の商品名「VEEA」が挙げられる。メタクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルの市販品として、(株)日本触媒製の商品名「VEEM」)が挙げられる。
このように、添加剤(A)として、反応性化合物が用いられうる。積層体のプライマー層において、上記添加剤(A)は、単量体(未反応)のまま存在していてもよいし、反応生成物を形成していてもよい。この反応生成物として、添加剤(A)同士の反応により生成した化合物、上記活性エネルギー線硬化型化合物と添加剤(A)との反応により生成した化合物、及び、添加剤(A)と熱可塑性樹脂(L)との反応により生成した化合物が例示される。この添加剤(A)の反応は、硬化工程又は乾燥工程において起こりうる。この反応は、例えば、紫外線等の活性エネルギー線や熱によって起こりうる。また上記添加剤(A)は、乾燥工程等において蒸発してもよい。
また、有機微粒子又は無機微粒子も、硬化収縮低減効果を奏しうる。即ち、有機微粒子又は無機微粒子は、添加剤(A)となりうる。
添加剤(A)は、熱可塑性樹脂であってもよい。上記した熱可塑性樹脂(P)は、添加剤(A)として機能しうる。
基材とプライマー層との親和性の観点から、基材とプライマー層との親和性の観点から、熱可塑性樹脂(P)の少なくとも一部が、基材に含まれる熱可塑性樹脂(L)と同じ化合物であるのが好ましい。
添加剤(A)は、活性エネルギー硬化性を有しているのが好ましい。この場合、添加剤(A)は、活性エネルギー線により、上記活性エネルギー線硬化型化合物と共重合しうるものが好ましい。この共重合により、硬化収縮を抑制しつつ、プライマー層の強度を高めることが可能となる。
4−5.[プライマー層を形成するコーティング組成物]
プライマー層を形成するためのコーティング組成物は、基材上に塗布される。コーティング組成物は、基材に直接塗布される。このコーティング組成物が、プライマー層となる。このコーティング組成物からなる層は、活性エネルギー線により硬化する。活性エネルギー線による硬化工程を経て、プライマー層が形成される。
活性エネルギー線による硬化工程に加えて、乾燥工程がなされてもよい。乾燥工程は、活性エネルギー線による硬化工程の前でもよく、後でもよく、同時でもよいが、後述するように、硬化工程の前に乾燥工程がなされるのが好ましい。
硬化前のコーティング組成物において、活性エネルギー線硬化型化合物は、モノマー、オリゴマー等であるため、分子量が小さい。分子量が小さい状態では、活性エネルギー線硬化型化合物が基材の脆弱層に含浸しやすい。また、一旦基材に入り込んだ後の活性エネルギー線硬化型化合物が硬化されることにより、基材が効果的に補強されうる。この観点から、コーティング組成物が塗布されてから活性エネルギー線が照射されるまでの間の時間Tmは、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。生産性向上の観点から、好ましくは、この時間Tmの間に、乾燥工程がなされるのがよい。
塗布されたコーティング組成物の乾燥方法は特に限定されないが、熱風乾燥や遠赤外線乾燥を用いることができる。1ラインに複数の乾燥機がある場合は、それぞれの乾燥機を異なる温度、風速に設定してもよい。塗工外観の良好な塗膜を得るためには、入り口側の乾燥条件をマイルドにするのが好ましい。
基材のガラス転移温度(Tg)をTg1とするとき、コーティング組成物を基材へと含浸させやすくする観点から、コーティング組成物を乾燥する際の乾燥温度は、(Tg1−50)℃以上が好ましい。基材の熱収乾燥縮による外観不良を抑制する観点から、コーティング組成物を乾燥する際の乾燥温度は、(Tg1+30)℃以下が好ましい。
好ましくは、塗布されてから、硬化工程又は乾燥工程が終了するまでの間に、コーティング組成物は、基材に侵入しうる。このコーティング組成物は、特に基材の脆弱層に侵入しうる。後述するように、コーティング組成物が溶剤を含む場合、この溶剤により、基材への侵入が容易とされうる。また、溶剤の存在により、コーティング組成物の粘度が塗工に適した粘度に調整されうる。溶剤の存在により、コーティング組成物の塗工が容易とされうる。
基材にコーティング組成物を塗布する際には公知の塗工機が使用されうる。塗工機として、例えば、バーコーター、コンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター及びスプレーコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。
このコーティング組成物は、重合開始剤を含むのが好ましい。この重合開始剤としては、エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などのケトン系化合物が好適なものとして例示される。
5.[機能層]
機能層は、上記プライマー層とは別の層である。積層体の断面を観察することにより、機能層とプライマー層との境界面が認識される。機能層の組成とプライマー層の組成とは、異なるのが好ましい。
機能層は、何らかの機能を有する層である。この機能は限定されない。機能層として、ハードコート層、防眩層(アンチグレア層)、反射防止層、近赤外線吸収層、紫外線吸収層、電磁波遮蔽層、光拡散層、偏光層、色調整層等が例示される。機能層は、単層であってもよいし、複数の層からなっていてもよい。機能層は、複数の機能を有していてもよい。
機能層のうち、例えばハードコート層は、ハードコート樹脂成分を有している。このハードコート樹脂成分は、活性エネルギー硬化性を有するのが好ましい。即ちこのハードコート樹脂成分は、活性エネルギーの照射によって硬化されるのが好ましい。なお、活性エネルギー線は特に限定されず、電子線、紫外線、可視光線、赤外線等が例示される。エネルギー量が高く樹脂を硬化させやすい観点から、好ましい活性エネルギー線は紫外線又は電子線であり、より好ましくは紫外線である。活性エネルギー線硬化性の観点から、好ましいハードコート樹脂成分は、ラジカル重合性樹脂である。このラジカル重合性樹脂は特に限定されず、分子中に2個以上の炭素−炭素二重結合を有する単量体を重合して得られるラジカル重合性樹脂が好ましい。より好ましい基材樹脂は、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する単量体を重合して得られるラジカル重合性樹脂である。このようなラジカル重合性樹脂用の単量体として、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、多価アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル等が例示されうる。この機能層用樹脂組成物は、重合開始剤を含むのが好ましい。この重合開始剤としては、エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などのケトン系化合物が好適なものとして例示される。ハードコート層以外の機能層においても、上記ハードコート層用の樹脂が好適に用いられうる。
機能層は、活性エネルギー線により硬化されてなる層であってもよいし、そうでなくてもよい。プライマー層と機能層との親和性の観点から、機能層が活性エネルギー線により硬化されてなる層であり、且つ、プライマー層が活性エネルギー線により硬化されてなる層であるのが好ましい。この場合、プライマー層と機能層との密着性の観点から、機能層を硬化させるために照射された活性エネルギー線により、プライマー層中の活性エネルギー線硬化型組成物の少なくとも一部が硬化されていてもよい。
機能層を形成するための活性エネルギー線硬化型組成物として、プライマー層に用いられうる上記活性エネルギー線硬化型組成物の全てが用いられうる。機能層用の活性エネルギー線硬化型組成物と、プライマー層の活性エネルギー線硬化型組成物とは、同一であっていてもよいし、異なっていても良い。機能層とプライマー層との親和性の観点から、機能層用のコーティング組成物と、プライマー層用のコーティング組成物とは、同一の活性エネルギー線硬化型化合物を含むのが好ましい。
機能層が活性エネルギー線で硬化される際に、この機能層を透過した活性エネルギー線が、プライマー層の活性エネルギー線硬化型化合物の少なくとも一部を硬化させてもよい。この場合、プライマー層の活性エネルギー線硬化型化合物と機能層の活性エネルギー線硬化型化合物とが活性エネルギーにより結合しうるので、機能層とプライマー層との密着性が向上しうる。
機能層は、その機能に応じて、適切な添加剤を含有してもよい。添加剤の例として、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、抗酸化剤、粘性改質剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物分解剤、充填剤、補強材、可塑剤、潤滑剤、防食剤、防錆剤、乳化剤、鋳型脱型剤、蛍光性増白剤、有機防炎剤、無機防炎剤、滴下防止剤、溶融流改質剤、静電防止剤、すべり付与剤、密着性付与剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、光増感剤、表面改良剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
機能層は、任意の適切な有機微粒子又は無機微粒子を含有してもよい。これらの有機微粒子又は無機微粒子により、防眩性、屈折率調整、導電性等の機能が付与されうる。高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機粒子;シリコン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。これらの微粒子は、単独で用いられても良く、2種以上が組み合わされても良い。
6.[積層体]
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体2の断面図である。この積層体2は、基材4と、プライマー層6と、機能層8とを有する。基材4は、プライマー層6に接している。プライマー層6は、機能層8に接している。プライマー層6は、基材4と機能層8との間に介在している。
前述したように、プライマー層6は、上記コーティング組成物を塗布することにより形成される。機能層8は、塗布(及び硬化)によって形成されてもよいし、予めフィルム状に成形された後、プライマー層6に貼り付けられてもよい。
図1では図示されないが、前述したように、プライマー層6は、基材4の表層部分に含浸していると解される。即ち、基材4の表層部分(プライマー層6との界面近傍)に、プライマー層6の一部が含浸していると解される。よって、プライマー層6により、基材4が補強され、基材4の凝集破壊が抑制される。凝集破壊の抑制により、基材4とプライマー層6との密着性が高まる。したがって、基材4と機能層8との密着性も高まる。即ち、機能層8と基材4とが分離しにくい。
積層体2の用途は限定されない。用途によっては、積層体2に透明性が要求される。例えば、積層体2が、液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)等の画像処理装置に用いられる場合、透明性を有する積層体2が用いられる。この場合、基材4、プライマー層6及び機能層8は透明性を有する。
<ガラス転移点>
後述される実施例でのデータも含めて、本願におけるガラス転移点は、次の方法により測定又は計算される。ラクトン環含有重合体及び上記熱可塑性樹脂(L)に関しては、実測によりガラス転移点が測定される。これらのラクトン環含有重合体及び上記熱可塑性樹脂(L)を除き、ガラス転移点は、Foxの式を用いて計算される。ラクトン環含有重合体は、その環化率によってガラス転移点が変化する。このため、ラクトン環含有重合体及び熱可塑性樹脂(L)のガラス転移点を計算により求めようとする場合、下記のFoxの式に代入されるTgiが、環化率によって変動する。よって、ラクトン環含有重合体及び熱可塑性樹脂(L)に関しては、Foxの式を用いた計算よりも、実測によるほうが、より適切なTg値が得られうる。この観点から、本願では、2通りの方法が使い分けられる。各測定方法は次の通りである。
<実測によるガラス転移点の測定>
実測によるガラス転移点の測定は、示差走査熱量計(DSC−8230、(株)リガク製)を用いて、試料約10mg、昇温速度10℃/min及び窒素フロー50mL/minの測定条件で、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めた。
<計算によるガラス転移点の測定>
以下のFoxの式を用いて、ガラス転移点Tgが計算される。
1/(Tg+273)=Σ[Wi/(Tgi+273)] :Foxの式
ただし、このFoxの式において、Tg(℃)は求められるガラス転移点であり、Wiは各単量体(単量体i)の質量分率であり、Tgi(℃)は各単量体成分(単量体i)の単独重合体のガラス転移点である。なお、単量体iの単独重合体のガラス転移点(上記Tgi)は、上記の実測による測定により求められる。
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。なお、以下の成分比率に関し、特に説明した場合を除き、「部」は重量部を意味し、「%」は重量%を意味し、「L」はリットルを意味する。また本願において、「DPHA」はジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを意味し、「MIBK」はメチルイソブチルケトンを意味し、「n−BuOH」はブタノールを意味する。また「PET−30」(商品名)は、日本化薬(株)社製のペンタエリスリトールトリアクリレートである。
まず、評価方法について以下に説明する。
<重合反応率、重合体組成分析>
重合反応の反応率および重合体中の特定単量体単位の含有率は、得られた重合反応混合物中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフ(GC17A、(株)島津製作所製)を用いて測定することにより求めた。
<ダイナミックTG>
重合体、重合体溶液又は重合体のペレットを、一旦テトラヒドロフランにより溶解または希釈し、過剰のヘキサンまたはメタノールに投入して再沈殿を行った。この沈殿物を取り出し、真空乾燥(1mmHg(1.33hPa)、80℃、3時間以上)することによって揮発成分などを除去して、固形状の樹脂を得た。この固形状の樹脂は、白色であった。得られたこの固形状の樹脂を以下の測定条件(ダイナミックTG法)で分析した。このダイナミックTG法により、150℃から300℃までの質量減少率を求めた。
測定装置:差動型示差熱天秤(Thermo Plus2 TG−8120 ダイナミックTG、(株)リガク製)
測定条件:試料量 5〜10mg
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素フロー 100mL/min
方法:階段状等温制御法(60℃から500℃までの範囲における質量減少速度値を0.005%/sec以下に制御)
<ラクトン環構造の含有割合>
まず、得られた重合体組成からすべての水酸基がメタノールとして脱アルコールした際に起こる質量減少量を基準とし、上記ダイナミックTG法により、質量減少が始まる前の150℃から重合体の分解が始まる前の300℃までの脱アルコール反応による質量減少率を測定し、この質量減少率から、脱アルコール反応率を求めた。
すなわち、ダイナミックTG法により、ラクトン環構造を有する重合体における150℃から300℃までの間の質量減少率の測定を行い、得られた実測値を実測質量減少率(X)とする。他方、当該重合体の組成から、その重合体組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成に関与するためアルコールになり脱アルコールすると仮定した時の質量減少率(すなわち、その組成上において100%脱アルコール反応が起きたと仮定して算出した質量減少率)を理論質量減少率(Y)とする。なお、理論質量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中における脱アルコール反応に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体のモル比、すなわち当該重合体組成における原料単量体の含有率から算出することができる。これらの値を脱アルコール計算式:
1−(実測質量減少率(X)/理論質量減少率(Y))
に代入してその値を求め、百分率(%)で表記すると、脱アルコール反応率が得られる。
一例として、後述の製造例で得られたペレットにおいてラクトン環構造の含有割合を計算する。メタノールの分子量は32であり、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの分子量は116であり、重合体中における2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの含有率(質量比)は組成上20.0質量%であるから、この重合体の理論質量減少率(Y)は、[(32/116)×20.0]で計算され、5.52質量%となる。他方、ダイナミックTG測定による実測質量減少率(X)は0.34質量%であった。これらの値を上記の脱アルコール計算式に当てはめると、1−(0.34/5.52)=0.938となるので、脱アルコール反応率は93.8%である。
そして、この脱アルコール反応率分だけ所定のラクトン環化が行われたものとして、ラクトン環化に関与する構造(水酸基)を有する原料単量体の当該共重合体組成における含有量(質量比)に、脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の含有率(質量比)に換算することにより、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合を算出することができる。後述の製造例の場合、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルの当該共重合体における含有率が20.0質量%、算出した脱アルコール反応率が93.8%、分子量が116の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがメタクリル酸メチルと縮合した場合に生成するラクトン環構造の式量が170であることから、当該共重合体におけるラクトン環構造の含有割合は、[20.0×0.938×170/116]で計算され、27.5質量%となる。
<重量平均分子量、数平均分子量>
ゲル浸透クロマトグラフィー(HLC−8120GPC、東ソー(株)製)により、カラムを用いて、ポリスチレン換算で測定した。カラムは、TSKgelG−5000HXL[東ソー(株)製]及びTSKgelGMHXL−L[東ソー(株)製]を直列に連結して用いた。溶離液はテトラヒドロフランとされ、流量は1ml/分とされ、検出器は示差屈折計とされた。
<塗膜(機能層)の密着性>
JIS K5400に基づき、密着性を評価した。具体的には、先ず、塗膜を縦横それぞれ1mm間隔でクロスカットを行うことにより、100マスカットを行った。即ち、このクロスカットにより、1mm四方のマス目が100個形成された。次に、このクロスカット部分に、粘着テープを貼り付けて剥離した。粘着テープとして、ニチバン(株)社製のテープが用いられた。この貼り付け及び剥離を3回繰り返し、残っているマス目の数により、密着性が評価された。この残っているマス目の数が、下記の表の「密着性」の欄に示される。
<耐スチールウール性>
#0000番のスチールウール(日本スチールウール社製)により、プライマー層の表面を、200gf/cm2の荷重をかけながら10往復させて摩擦し、傷の発生の有無を目視により観察した。試験は、スガ試験機(株)製の学振式耐摩耗試験機により行った。目視による観察結果を、以下の判定基準に従って評価した。この評価結果が、下記の表2に示される。
A:傷の発生が全く認められない。
B:傷の発生が認められる。
[製造例]
(ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)の製造例)
まず、攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入管を備えた容量30Lの反応容器に、メタクリル酸メチル8kg、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2kg、メチルイソブチルケトン10kg及びn−ドデシルメルカプタン5gを仕込んだ。
この反応容器に窒素ガスを導入しながら、反応容器内の温度を105℃まで昇温し、還流を開始した。この還流を開始するとともに、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)5gを添加し、更に、メチルイソブチルケトン230gにt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(カヤカルボンBIC−75、化薬アクゾ(株)製)10gを溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下、約105〜120℃で溶液重合を行い、さらに4時間かけて熟成を行い、重合体溶液を得た。
得られた重合体溶液に、リン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(Phoslex A−18、堺化学工業(株)製)30gを添加し、還流下、約90〜120℃で5時間、環化縮合反応を行った。次いで、得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/hの処理速度で導入し、この押出機内で、さらに環化縮合反応と脱揮を行い、押し出すことにより、ラクトン環含有重合体を含有する熱可塑性樹脂の透明なペレット(P−1)を得た。
得られたペレット(P−1)について、上記したダイナミックTG法による測定を行ったところ、0.34質量%の質量減少が検知された。また、このペレット(P−1)の重量平均分子量は144,000であり、このペレット(P−1)のガラス転移温度は131℃であった。
このペレット(P−1)を、20mmφのスクリューを有する二軸押出機を用いて、幅150mmのコートハンガータイプTダイから溶融押出しを行った後、2軸延伸を行い、厚さ約60μmのラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)を調製した。なお、延伸倍率は、縦方向が1.5倍とされ、横方向が1.5倍とされた。
(コーティング組成物1の調製)
紫外線硬化型樹脂である多官能アクリレートモノマー(日本化薬社製の商品名「PET−30」)と、光重合開始剤であるイルガキュア184(チバ・チバスペシャルティケミカルズ社製)とが用いられた。10gの「PET−30」及び0.2gのイルガキュア184に、シクロヘキサノンを加えて、不揮発分が3%とされたコーティング組成物1(C−1)を調製した。
(コーティング組成物2の調整)
紫外線硬化型樹脂である多官能アクリレートモノマー DPHA(日本化薬社製)と、光重合開始剤であるイルガキュア184(チバ・チバスペシャルティケミカルズ社製)とが用いられた。10gのDPHA及び0.2gのイルガキュア184に、シクロヘキサノンを加えて、不揮発分が3%とされたコーティング組成物2(C−2)を調製した。
(コーティング組成物3の調製)
シクロヘキサノンに代えてMIBKを用いた他はコーティング組成物1(C−1)と同様にして、コーティング組成物3(C−3)を調製した。
(コーティング組成物4の調製)
シクロヘキサノンに代えてn-BuOHを用いた他はコーティング組成物1(C−1)と同様にして、コーティング組成物4(C−4)を調製した。
(コーティング組成物5の調製)
9gのDPHA(日本化薬社製)及び0.18gのイルガキュア184に、シクロヘキサノンを加えて、不揮発分が30%とされたコーティング組成物5(C−5)を調製した。このコーティング組成物5(C−5)は、機能層としてのハードコート層を形成する。
(コーティング組成物6の調製)⇒ 防眩フィルム向けコーティング組成物
7.2gのDPHA(日本化薬社製)、1.8gのアクリル微粒子(粒子径 3.0μm、屈折率 1.54)、及び、0.18gのイルガキュア184に、トルエンとシクロヘキサノンとを7:3の割合(重量比)で混合した混合液を加えて、不揮発分が30%とされたコーティング組成物6(C−6)を調製した。このコーティング組成物6(C−6)は、機能層としての防眩層を形成する。
<基材/プライマー層での密着性評価>
(実施例A1)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物1(C−1)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ150nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−1)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A2)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物1(C−1)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ600nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−2)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A3)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物2(C−2)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ150nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−3)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A4)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物2(C−2)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ600nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−4)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A5)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物3(C−3)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ150nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−5)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A6)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物4(C−4)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ150nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−6)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例A7)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物4(C−4)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ600nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−7)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
(実施例B1)
ラクトン環含有樹脂フィルム(F−1)上に、コーティング組成物3(C−3)をバーコーターにより塗布し、100℃で2分間乾燥後、積算照射量150mJ/cm2のUV光を照射して、厚さ600nmのプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(B−1)を得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表2に示される。
<基材/プライマー層/機能層での密着性評価>
(実施例A8−1)
実施例A2で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−2)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表3に示される。
(実施例A8−2)
フィルム(A−2)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表3に示される。
(実施例A9−1)
実施例A7で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−7)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表3に示される。
(実施例A9−2)
フィルム(A−7)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表3に示される。
(実施例B2−1)
実施例A1で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−1)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B2−2)
フィルム(A−1)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B3−1)
実施例A3で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−3)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B3−2)
フィルム(A−3)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B4−1)
実施例A4で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−4)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B4−2)
フィルム(A−4)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B5−1)
実施例A5で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−5)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B5−2)
フィルム(A−5)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B6−1)
実施例A6で得られたプライマー層を有するラクトン環含有樹脂フィルム(A−6)上に、ハードコーティング向けコーティング組成物5(C−5)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmのハードコーティング層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(実施例B6−2)
フィルム(A−6)上に、防眩フィルム向けコーティング組成物6(C−6)をバーコーターにより塗布し、100℃で1分間乾燥後、積算照射量250mJ/cm2のUV光を照射して、プライマー層上に厚さ5μmの防眩層を有するラクトン環含有樹脂フィルムを得た。得られたフィルムについて、密着性試験を行った。この結果が下記の表4に示される。
(プライマー層の組成に関する考察)
実施例A8(実施例A8−1及び実施例A8−2)のプライマー層には「PET−30」が用いられている。一方、実施例B4(実施例B4−1及び実施例B4−2)のプライマー層にはDPHAが用いられている。「PET−30」の官能基数は3であるのに対し、DPHAの官能基数は6である。よって、DPHAは、「PET−30」と比較して、硬化収縮が大きい。実施例A8−1と実施例B4−1とを比較すると、実施例A8−1のほうが、機能層の密着性に優れる。同様に、実施例A8−2と実施例B4−2とを比較すると、実施例A8−2のほうが、機能層の密着性に優れる。この密着性の差異は、硬化収縮に起因すると考えられる。即ち、実施例B4では、プライマー層の硬化収縮が大きいため、プライマー層と基材との界面に歪みが生じており、この界面における密着性が低下していると考えられる。また、実施例B4では、上記官能基数の差に起因してプライマー層の硬度が高く、プライマー層と機能層との相溶性が小さいと考えられる。これらの要因により、実施例A8の密着性は、実施例B4よりも優れていると考えられる。
(プライマー層の厚さに関する考察)
プライマー層の活性エネルギー線硬化型化合物及び溶剤が共通する例同士を比較することにより、プライマー層の厚さの効果を考察する。実施例A8(実施例A8−1及び実施例A8−2)ではプライマー層の厚さが600nmであるのに対し、実施例B2(実施例B2−1及び実施例B2−2)ではプライマー層の厚さが150nmである。実施例B2では、プライマー層が過度に薄いため、基材の脆弱層の補強が、実施例A8に比べて不十分であると考えられる。実施例A8では、プライマー層が厚いため、脆弱層の補強が、実施例B2に比べて優れていると考えられる。また実施例A8のプライマー層は、厚さが大きいため、実施例B2のプライマー層と比較して、機能層になじみやすいと考えられる。これらの要因により、実施例A8の密着性は、実施例B2よりも優れていると考えられる。
実施例A9(実施例A9−1及び実施例A9−2)と実施例B6(実施例B6−1及び実施例B6−2)との比較でも、同様に、プライマー層の厚さの効果が確認される。実施例A9ではプライマー層の厚さが600nmであるのに対し、実施例B6ではプライマー層の厚さが150nmである。実施例B6では、プライマー層が過度に薄いため、基材の脆弱層の補強が、実施例A9に比べて不十分であると考えられる。実施例A9では、プライマー層が厚いため、脆弱層の補強が、実施例B6に比べて優れていると考えられる。また実施例A9のプライマー層は、実施例B6のプライマー層と比較して、機能層になじみやすいと考えられる。これらの要因により、実施例A9の密着性は、実施例B6よりも優れていると考えられる。