JP5432033B2 - 高分子電解質膜 - Google Patents

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Description

本発明は、固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜に関する。
固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜は、発電性能の向上を目的として、薄膜化される傾向にある。電解質膜に使用される高分子電解質として、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)などに代表されるフッ素系材料が用いられているが、電解質樹脂のみからなる膜を薄膜化すると、膜の機械強度が弱いために取扱いが困難となる。
そこで、電解質膜の強度向上手段として、各種基材を補強材として用いることが提案されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質膜(特許文献1)、フルオロカーボンのフィブリル(特許文献2)、ポリイミド多孔質膜(特許文献3)、又はガラス不織布(特許文献4)を用いることが提案されている。また、本出願人もナノファイバー不織布(特許文献5)を補強材としたイオン伝導膜を提案した。
特公平5−75835号公報 特開2001−345111号公報 特開2003−263998号公報 WO2005/086265 特開2008−251314号公報
しかし、これらの方法では、電解質膜の引張強度を向上させることはできるが、実際に燃料電池として評価を行った場合、繰り返し発電を行うと電解質膜に亀裂が生じ、電池の耐久性に劣るという問題があった。
従って、本発明の課題は、繰り返し発電を行っても電解質膜に亀裂が生じることがなく、耐久性に優れた燃料電池を製造することのできる高分子電解質膜を提供することにある。
前記課題は、本発明による、エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布の空隙にイオン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする、高分子電解質膜により解決することができる。
本発明の好ましい態様では、前記ナノファイバー不織布が静電紡糸法により調製されたものである。
また、本発明の別の好ましい態様では、前記ナノファイバー不織布が親水化処理されたものである。
本発明の更に別の好ましい態様では、前記エラストマー繊維がポリウレタン繊維である。
また、本発明は、高分子電解質膜を含む、固体高分子形燃料電池に関する。
発電の際に電解質膜に亀裂が入る原因は、発電時に電池内部が乾燥と湿潤を繰り返し、それに伴って電解質膜が膨潤と収縮を生じるために、電解質膜と接している触媒層との間の摩擦により、膜が引裂かれると考えられた。
本発明の高分子電解質膜によれば、エラストマー繊維は復元性があるため、基材がイオン伝導性樹脂の変形に追従し、亀裂やピンホールを生じにくくする。
また、基材であるナノファイバー不織布を静電紡糸法により作製する本発明の好適態様によれば、静電紡糸法により作製すると基材を薄膜化しやすく、また、基材が高空隙率となることから、基材を用いることによる電解質膜のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
また、延伸処理によって作製された多孔質膜[PTFE膜、ポリプロピレン(PP)膜、ポリエチレン(PE)膜など]を基材とした場合には、基材に異方性があるために電解質膜の強度にも異方性が生じるが、静電紡糸法による基材は異方性がほとんどないため、複合して電解質膜とした場合にも異方性が見られない。
基材を親水化した本発明の別の好適態様によれば、基材を親水化することにより、基材とイオン伝導性樹脂との親和性が向上し、複合する際にイオン伝導性樹脂を充填しやすくなり、製膜時にピンホールを生じにくくなる。
また、基材とイオン伝導性樹脂との密着性を高められるため、複合した電解質膜が膨潤、収縮しても、膜の変形に伴うピンホールや亀裂を生じにくくなる。
エラストマー樹脂としてポリウレタンを用いる本発明の更に別の好適態様によれば、ポリウレタンを使用することで、伸縮性に優れた基材を作製することができる。
また、ポリウレタンは強度が強いため、薄くても強度に優れた基材である。
本発明の高分子電解質膜は、基材として、エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布を使用する。
前記エラストマー繊維としては、高分子電解質膜に伸縮性、復元性を付与することができる任意の繊維1種類又はそれ以上を用いることができ、例えば、スチレン系エラストマー繊維、ポリオレフィン系エラストマー繊維、エステル系エラストマー繊維、塩化ビニル系エラストマー繊維、ウレタン系エラストマー繊維、アミド系エラストマー繊維等を使用できる。エラストマー繊維としては、ウレタン系エラストマー繊維が好ましく、ポリウレタン繊維がより好ましい。ウレタン系エラストマー繊維は強度が強いため、薄くても強度に優れた基材とすることができる。
また、エラストマー繊維の弾性率は、高分子電解質膜材料として用いるイオン伝導性樹脂の弾性率より低い方が好ましい。
本明細書において「ナノファイバー不織布」とは、平均繊維径が1μm未満のファイバーからなる不織布を意味する。
また、「平均繊維径」は50点における繊維径の算術平均値をいい、「繊維径」は不織布の面方向から撮影した5000倍の電子顕微鏡写真を基に測定した繊維の太さをいう。
本発明の高分子電解質膜に用いるナノファイバー不織布は、エラストマー繊維からなり、且つ、平均繊維径が1μm未満のファイバーからなる不織布を製造することができる限り、その製造方法は特に限定されるものではないが、静電紡糸法により製造したものであるのが好ましい。静電紡糸法により作製すると基材を薄膜化しやすく、また、基材が高空隙率となることから、基材を用いることによる電解質膜のイオン伝導性の低下を抑制することができる。
本発明の高分子電解質膜に用いるイオン伝導性樹脂としては、固体高分子形燃料電池のイオン交換膜として一般的に使用されている、プロトン(水素イオン)交換基を有する各種イオン伝導性樹脂を用いることができる。プロトン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などを挙げることができ、これらの中でも、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖から構成されるプロトン交換基を有する樹脂、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)を使用することができる。
本発明の高分子電解質膜に用いるナノファイバー不織布は、親水化処理することなく、そのまま基材として用いることもできるし、あるいは、親水化処理をした後、基材として用いることもできるが、基材を親水化することにより、基材とイオン伝導性樹脂との親和性が向上し、複合する際にイオン伝導性樹脂を充填しやすくなり、製膜時にピンホールを生じにくくなるため、親水化処理を行うことが好ましい。
前記親水化処理としては、ナノファイバー不織布の変形追従性を損なわない方法であれば、不織布の親水化処理に一般的に用いられている各種方法を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、プラズマ処理、コロナ放電処理が好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布を基材とし、その不織布の空隙にイオン伝導性樹脂が充填されている。ナノファイバー不織布の空隙にイオン伝導性樹脂を充填する方法は、不織布の内部にまで均一にイオン伝導性樹脂を充填することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、イオン伝導性樹脂を適当な溶媒に溶解し、そのイオン伝導性樹脂溶液中に基材を浸漬した後、あるいは、そのイオン伝導性樹脂溶液を基材に塗布した後、溶媒を蒸発させることにより、実施することができる。
本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の高分子電解質膜を含むこと以外は、通常の固体高分子形燃料電池と同様にして構成することができる。例えば、固体高分子形燃料電池は、一般に、高分子電解質膜の両側に密着して、電極触媒層及びガス拡散層が配置され、更にその外側にセパレータを配置して構成される。
高分子電解質膜としては、イオン伝導性を有する高分子が用いられる。電極触媒層は、白金などの触媒貴金属を担持させたカーボンブラックと電解質樹脂から、高分子電解質膜の表面に接合して形成され、高分子電解質膜と電極触媒層を、一般に、膜/電極接合体と呼ぶ。
ガス拡散層には、カーボンペーパーなどが用いられ、燃料ガスと酸化剤ガスを透過させ、電流をセパレータに伝える役割をする。セパレータは、導電性の炭素材料や金属材料などが用いられ、膜電極接合体のアノード側には水素ガス、カソード側には酸素ガスを供給すると同時に、電流を外部に取り出す役割をする。
本発明の高分子電解質膜の引裂き強度は、電解質膜の膨潤と収縮による触媒層との摩擦によって引き裂かれないように、2N/mm以上であるのが好ましい。
また、本発明の高分子電解質膜におけるイオン伝導性樹脂量は特に限定するものではないが、ナノファイバーの体積に対して、1〜20倍量のイオン伝導性樹脂を複合するのが好ましく、3〜10倍量のイオン伝導性樹脂を複合するのが更に好ましい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
<実施例1>ポリウレタンナノファイバー不織布を基材とした場合
(1)ポリウレタンナノファイバー不織布の作製
ポリウレタン溶液(DIC株式会社製、クリスボンS−125)にジメチルホルムアミド(DMF)を加え、ポリマー濃度が15wt%の紡糸液を調製した。
次いで、吐出量1g/hr、ノズルとターゲットの距離10cm、印加電圧+10kV、紡糸雰囲気の温湿度25℃/45%RHの条件で静電紡糸を行い、続いて140℃のオーブン中で30分間の熱処理を行い、目付2.7g/mのポリウレタンナノファイバー不織布を作製した。この不織布の平均繊維径は750nmであり、シートの厚さは11μmであった。
(2)複合膜の作製
5%ナフィオン溶液をシャーレに注ぎ、その上に80mm×80mmにカットしたポリウレタンナノファイバー不織布をのせ、溶媒を蒸発させた。その後、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行い、複合した高分子電解質膜(複合膜)を作製した。高分子電解質膜(複合膜)の厚さは23μmであった。
(3)複合膜の物性評価
複合膜の弾性率は132MPa、破断応力は11.2MPaであった。また、引裂き強度は6.7N/mmであった。
なお、高分子電解質膜(複合膜)の弾性率は引張試験機を用い、サンプル幅10mm、標点間距離50mm、速度100mm/minの条件で測定した値であり、破断応力は引張試験機を用い、サンプル幅10mm、チャック間50mm、速度100mm/minの条件で測定した値であり、引裂き強度は、JIS K7128を参照し、幅25mm、速度200mm/minで測定した値である。
<実施例2>親水化処理を行ったポリウレタンナノファイバー不織布を基材とした場合
(1)ポリウレタンナノファイバー不織布の作製
実施例1(1)に記載の操作を繰り返し、ポリウレタンナノファイバー不織布を作製した。
(2)ポリウレタンナノファイバー不織布への親水化処理
15cm角の絶縁性の枠にポリウレタンナノファイバー不織布を貼り付け、距離を10cm離した電極間に配置した。その後、0.4Torrの減圧下、15kHzで1分間、プラズマ処理を行った。
(3)複合膜の作製
(未処理の)ポリウレタンナノファイバー不織布の代わりに、プラズマ処理を行ったポリウレタンナノファイバー不織布を使用すること以外は、実施例1(2)に記載の操作を繰り返すことにより、高分子電解質膜(複合膜)を作製した。高分子電解質膜(複合膜)の厚さは15μmであった。
(4)複合膜の物性評価
高分子電解質膜(複合膜)の弾性率は370MPa、破断応力は23.1MPaであった。また、引裂き強度は7.2N/mmであった。
<比較例1>ナフィオンのみの場合
(1)電解質膜の作製
5%ナフィオン溶液をシャーレに注ぎ、溶媒を蒸発させた後、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行い、電解質膜を作製した。膜の厚さは15μmであった。
(2)電解質膜の物性評価
電解質膜の弾性率は162MPa、破断応力は10.3MPaであった。また、引裂き強度は0.8N/mmであった。
<比較例2>ポリアクリロニトリル(PAN)ナノファイバーを基材として用いた場合
(1)ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の作製
重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルをDMFに溶解させ、濃度10.5%の紡糸液を調製した。
次いで、吐出量1g/hr、ノズルとターゲットの距離10cm、印加電圧+8kV、紡糸雰囲気の温湿度25℃/23%RHの条件で静電紡糸を行い、続いて160℃のオーブン中で30分間の熱処理を行い、目付2.4g/mのポリアクリロニトリルナノファイバー不織布を作製した。この不織布の平均繊維径は330nmであり、厚さは12μmであった。
(2)複合膜の作製
ポリウレタンナノファイバー不織布の代わりに、ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布を使用すること以外は、実施例1(2)に記載の操作を繰り返すことにより、高分子電解質膜(複合膜)を作製した。高分子電解質膜(複合膜)の厚さは13μmであった。
(3)複合膜の物性評価
高分子電解質膜(複合膜)の弾性率は450MPa、破断応力は18.0MPaであった。また、引裂き強度は1.1N/mmであった。
<燃料電池セルでの評価>
実施例2で作製した高分子電解質膜(複合膜)又は比較例1で作製した電解質膜(未補強)に、白金担持カーボン(田中貴金属工業株式会社製TEC10E50E、白金含量50質量%)を塗布したテフロン(登録商標)シートをホットプレス法にて転写し、電極触媒層を形成した。白金触媒使用量は、アノード、カソードともに、0.4mg/cmとした。
電極触媒層の保護および集電性向上のため、カーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL)を電極触媒層上に圧着し、高分子電解質膜(複合膜)、電極触媒層、およびMPLの膜/電極接合体を作製した。なお、MPLは、PTFE多孔体ポアフロン(住友電工製)に、アセチレンブラック(電気化学工業製)と、PTFE微粒子ポリフロン(Polyflon、ダイキン工業製)と、適量の増粘剤とからなる水分散液を含浸し、350℃で30分間、焼成処理を行ったものである。
次いで、単セルの乾湿サイクル試験を行った。なお、供給圧力は大気圧、セル温度70℃として、30秒間、アノードに相対湿度100%RH水素、カソードに相対湿度100%RH空気を供給し、電流密度を1A/cmとし、湿潤状態を保持させた。次の60秒間、アノード、カソードともに乾燥窒素を供給し、乾燥状態を保持させた。このサイクルを繰返し、乾湿サイクルとした。
その結果、実施例2の高分子電解質膜(複合膜)の耐久回数は3200回であったのに対して、比較例1の電解質膜(未補強)の耐久回数は52回であった。
エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布を基材として、高分子電解質膜を作製したことにより、膜の引裂き強度を向上させることができた。
これにより、燃料電池内で電解質膜に亀裂が生じにくくなり、燃料電池の耐久性が向上したと考えられる。

Claims (5)

  1. エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布の空隙にイオン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする、高分子電解質膜。
  2. 前記ナノファイバー不織布が静電紡糸法により調製されたものである、請求項1に記載の高分子電解質膜。
  3. 前記ナノファイバー不織布が親水化処理されたものである、請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
  4. 前記エラストマー繊維がポリウレタン繊維である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質膜。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子電解質膜を含む、固体高分子形燃料電池。
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