JP5430401B2 - 可変容量圧縮機 - Google Patents

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Description

本発明は、車両エアコンシステムに使用される可変容量圧縮機に関する。
例えば車両エアコンシステムに用いられる往復動型の可変容量圧縮機は、ハウジングを備え、ハウジングの内部には吐出室、吸入室、クランク室及びシリンダボアが区画形成されている。クランク室内を延びる駆動軸には斜板が傾動可能に連結され、斜板を含む変換機構は、駆動軸の回転をシリンダボア内に配置されたピストンの往復運動に変換する。ピストンの往復運動は、吸入室からシリンダボア内への作動流体の吸入、吸入した作動流体の圧縮及び圧縮された作動流体の吐出室への吐出工程を実行する。
ピストンのストローク長、即ち圧縮機の吐出容量は、クランク室の圧力(制御圧力)を変化させることにより可変である。吐出容量を制御するために、吐出室とクランク室とを連通する給気通路には容量制御弁が配置されるとともに、クランク室と吸入室との間には絞りが設けられている。
容量制御弁では、例えば文献1(特開2002−285973号公報)に記載されているように、エンジンの運転状態等に基づいてソレノイドの作動が制御されることで弁体が開閉作動させられる。これにより吐出室からクランク室への作動流体の供給が制御され、圧縮機の吐出容量が変更される。
文献1の図2に記載された容量制御弁において、弁体25に作用する力は、以下の式(1)により表される。また、この式(1)を、作動圧力差ΔP(吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差)を求めるよう変形すると式(2)となる。ここで、Svは弁体が吐出圧力を受ける面積、Pdは吐出圧力、Psは吸入圧力、f1は圧縮コイルスプリング28による付勢力、f2は圧縮コイルスプリング27による付勢力、F(I)は制御電流がIの場合のソレノイドによる電磁力を示す。また、f1>f2に設定されている。
Figure 0005430401
ここで、F(I)=A・I(Aは係数)となるようにソレノイドを設定しておけば、式(2)は以下の式(3)に変形できる。この式(3)をグラフに表すと図6となる。
Figure 0005430401
図6から、作動圧力差ΔP、即ちPd−Psは制御電流に比例し、最高の作動圧力差ΔPmaxを得るためには、最大の制御電流Imaxが必要であることがわかる。つまり、制御電流を0からImaxの範囲で調整したときに、これに対応して作動圧力差ΔPは0からΔPmaxまで変化する。
ここで、Pd−Psが0となる制御電流をIminとすれば、式(3)はImin=(f1−f2)/Aとなる。f1>f2に設定されているので、制御電流Iが0からIminまでの間は、弁体は開位置にある。このため、容量制御弁として機能させるためには、制御電流IをImin以上にしなければならない。つまり、圧縮コイルばねの付勢力とソレノイドの電磁力とが対抗しているため、ソレノイド本来の電磁力を制御電流0から有効に使用できていないという問題がある。
そして、Iminが0でないため、電流変化に対する作動圧力差ΔPの傾きが大きくなり、制御電流Iのわずかな変動によりPd−Psが変動し易くなってしまう。
また、電流変化に対する作動圧力差の傾きが大きくなるということは、最高作動圧力差ΔPmaxを得るために、式(3)の電流Iの係数A/Svを大きくしなければならないということである。これはSvを小さく設定しなければならないことを意味している。Svは吐出圧力を受ける面積であると同時に吸入圧力を受ける面積でもある。この面積Svを小さくすると吐出圧力または吸入圧力変化に対する弁体の感度が鈍くなり、吐出容量制御の安定性が損なわれる虞がある。
本発明の目的の一つは、ソレノイドの電磁力を有効に活用し、制御安定性に優れた容量制御弁を備えた可変容量圧縮機を提供することにある。
上記の目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、内部に吐出圧力領域、吸入圧力領域、クランク室及びシリンダボアが区画形成されたハウジングと、前記シリンダボアに配設されたピストンと、前記ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転を前記ピストンの往復運動に変換する傾角可変の斜板要素を含む変換機構と、前記吐出圧力領域と前記クランク室とを連通する第1連通路を開閉する容量制御弁と、前記クランク室と前記吸入圧力領域とを連通する第2連通路に配置された絞り要素とを備え、前記容量制御弁の開度調整により前記クランク室の圧力を変化させ、前記ピストンのストロークを調整する可変容量圧縮機において、前記容量制御弁は、前記吐出圧力領域の圧力を受ける吐出圧力受圧面及び前記吐出圧力受圧面に作用する前記吐出圧力領域の圧力と対抗する方向に前記吸入圧力領域の圧力を受ける吸入圧力受圧面が形成された弁体と、前記弁体に電磁力を作用させるソレノイドと、前記ソレノイドの電磁力が作用していないときに前記弁体が閉弁位置に位置付けられるように閉弁方向に前記弁体を付勢する付勢手段とを有し、前記ソレノイドの電磁力が前記弁体に作用していないときに、前記吐出圧力受圧面に作用する吐出圧力領域の圧力と前記吸入圧力受圧面に作用する吸入圧力領域の圧力との圧力差が、前記付勢手段の付勢力に基づいて規定される設定圧力差に維持されるように、前記容量制御弁を介して前記第1連通路を開閉制御することを特徴とする可変容量圧縮機が提供される。
一態様の可変容量圧縮機では、容量制御弁のソレノイドが励磁されていないとき、即ちソレノイドの電磁力が0となったときに弁体が閉弁位置に位置付けられる。これにより、ソレノイドの電磁力を0から有効に使用しながら吐出容量が制御される。
これに伴い、電流変化に対する作動圧力差の傾きが抑制され、電流変化に対する作動圧力差の制御安定性が改善される。さらに、この電磁力の制御範囲の拡大に伴い弁体の圧力受圧面積を増加させることが可能となり、これにより制御安定性に優れた吐出容量制御が可能となる。
そして、ソレノイドの電磁力が弁体に作用していないときに、吐出圧力受圧面に作用する吐出圧力領域の圧力と吸入圧力受圧面に作用する吸入圧力領域の圧力との圧力差が、付勢手段の付勢力に基づいて規定される設定圧力差に維持されるように、容量制御弁を介して第1連通路が開閉制御されるので、ソレノイドが励磁されていない状態でも付勢手段の付勢力に応じた設定差圧で吐出容量が自律制御される。
ましくは、前記可変容量圧縮機は前記吐出圧力領域に逆止弁を備えたクラッチレス圧縮機であって、前記逆止弁は自身の上流と下流との間での差圧が設定差圧を超えると開弁する一方、前記設定差圧以下では閉弁し、前記付勢手段の付勢力に基づいて規定される前記設定圧力差は前記逆止弁の設定差圧未満に設定されている。
好ましい態様の可変容量圧縮機では、ソレノイドが励磁されていない状態において、冷媒が外部に吐出されない。このため、この可変容量圧縮機をエアコンシステムに適用した場合、ソレノイドが励磁されていないときにエアコンシステムを冷媒が循環することが無く、蒸発器の凍結が防止される。
好ましくは、前記ソレノイドにより発生する電磁力は、前記弁体を閉弁方向に付勢する。
好ましい態様の可変容量圧縮機では、ソレノイドの制御電流が0で最低作動圧力差が得られ、制御電流を0から増大させると作動圧力差が上昇する。このため、この可変容量圧縮機は、クラッチレス圧縮機に好適である。
好ましくは、前記可変容量圧縮機は電磁クラッチを備えた可変容量圧縮機であって、前記ソレノイドにより発生させられる電磁力は前記弁体を開弁方向に付勢するとともに、前記ソレノイドの電磁力が前記弁体に作用していないときに、前記吐出圧力受圧面に作用する吐出圧力領域の圧力と前記吸入圧力受圧面に作用する吸入圧力領域の圧力との圧力差が最大になる。
好ましい態様の可変容量圧縮機では、ソレノイドの制御電流0で最高作動圧力差が得られ、制御電流を0から増大させると作動圧力差が低下する。このため、この可変容量圧縮機は、電磁クラッチを装着するのに好適である。
本発明は、以下の詳細な説明及び添付の図面によってより十分に理解されるけれども、図面は一例であって本発明を限定するものではない。
車両エアコンシステムの冷凍サイクルの概略構成を本実施形態の可変容量圧縮機の縦断面とともに示す図であり、 第1実施形態の容量制御弁の構造を開弁状態にて示す全体断面図であり、 第1実施形態の容量制御弁の構造を閉弁状態にて示す一部断面図であり、 第1実施形態での制御電流と作動圧力差との関係を示すグラフである。 第2実施形態の容量制御弁の構造を示す断面図であり、 第2実施形態での制御電流と作動圧力差との関係を示すグラフであり、そして、 従来技術での制御電流と作動圧力差との関係を示すグラフである。
<符号の説明>
100 圧縮機
300、350 容量制御弁
101 シリンダーブロック
102 フロントハウジング
117 ピストン
106 駆動軸
107 斜板
103c 固定オリフィス
302、352 弁体
316、357 モールドコイル
314、355 圧縮コイルばね
図1は、車両エアコンシステムの冷凍サイクルの概略構成を可変容量圧縮機の縦断面とともに示す。
車両エアコンシステムの冷凍サイクル10は、作動流体としての冷媒(例えばR134a)が循環する循環路12を備える。循環路12には、冷媒の流動方向で順番に、可変容量圧縮機(以下、単に圧縮機100という)、放熱器(凝縮器)14、膨張器(膨張弁)16及び蒸発器18が介挿されている。圧縮機100は、冷媒の吸入工程、吸入した冷媒の圧縮工程及び圧縮した冷媒の吐出工程からなる一連のプロセスを行い、循環路12に冷媒を循環させる。
蒸発器18は、車両エアコンシステムの空気回路の一部をも構成しており、蒸発器18を通過する空気流は、蒸発器18内の冷媒によって気化熱を奪われて冷却される。
圧縮機100は、クラッチレスタイプの斜板式可変容量圧縮機であり、複数のシリンダボア101aを備えたシリンダーブロック101と、シリンダーブロック101の一端に連結されたフロントハウジング102と、シリンダーブロック101の他端にバルブプレート103を介して連結されたリアハウジング104とを備えている。
シリンダーブロック101とフロントハウジング102とによってクランク室105が規定され、クランク室105内を縦断して駆動軸106が延びている。駆動軸106は、クランク室105内に配置された環状の斜板107を貫通し、斜板107は、駆動軸106に固定されたロータ108と連結部109を介してヒンジ結合されている。従って、斜板107は、駆動軸106に沿って移動しながら傾動可能である。
ロータ108と斜板107との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最小傾角に向けて付勢するコイルばね110が装着されている。斜板107を挟んで反対側の部分、即ち斜板107とシリンダーブロック101との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最大傾角に向けて付勢するコイルばね111が装着されている。
駆動軸106は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通して、その先端が外側まで到達している。駆動軸106とボス部102aとの間には、軸封装置112が挿入されており、軸封装置112はフロントハウジング102の内部と外部とを遮断している。駆動軸106はラジアル方向及びスラスト方向にベアリング113,114,115,116によって回転自在に支持されている。駆動軸106は、ボス部102aから突出した先端にエンジン等の外部駆動源から駆動力が伝達されて、回転駆動される。
シリンダボア101a内にはピストン117が配置され、ピストン117には、クランク室105内に突出したテール部が一体に形成されている。テール部に形成された凹所117a内には一対のシュー118が配置され、シュー118は斜板107の外周部に対し挟み込むように摺接している。従って、シュー118を介して、ピストン117と斜板107とは互いに連動し、駆動軸106の回転によりピストン117がシリンダボア101a内を往復動する。つまり、シュー118は、駆動軸106の回転運動をピストン117の往復運動に変換する変換機構を構成している。
リアハウジング104には、吸入室119及び吐出室120が区画形成されている。吸入室119は、バルブプレート103に設けられた吸入孔103aを介してシリンダボア101aと連通可能である。吐出室120は、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介してシリンダボア101aと連通可能である。なお、吸入孔103a及び吐出孔103bは、図示しない吸入弁及び吐出弁によってそれぞれ開閉される。
シリンダーブロック101の外側にはマフラ121が設けられ、マフラベース101bがシリンダーブロック101に一体に形成されている。マフラ121を構成するマフラケーシング122は、マフラベース101bに図示しないシール部材を介して接合されている。マフラケーシング122及びマフラベース101bはマフラ空間123を規定し、マフラ空間123は、リアハウジング104、バルブプレート103及びマフラベース101bを貫通する吐出通路124を介して吐出室120と連通している。
マフラケーシング122には吐出ポート122aが形成されている。マフラ空間123には吐出通路124と吐出ポート122aとの間を遮るように逆止弁200が配置されている。具体的には、逆止弁200は、吐出通路124側の圧力とマフラ空間123側の圧力との圧力差に応じて開閉する。逆止弁200は、圧力差が所定の設定圧力差ΔPset以下の場合閉作動する一方、設定圧力差ΔPsetより大きい場合は開作動する。
吐出室120は、吐出通路124、マフラ空間123及び吐出ポート122aを介して循環路12の往路部分と連通可能であり、逆止弁200はマフラ空間123を開閉可能である。一方、吸入室119は、リアハウジング104に設けられた吸入ポート104aを介して循環路12の復路部分と連通している。
リアハウジング104には、容量制御弁300が接続されており、容量制御弁300は給気通路125(第1連通路)に介挿されている。給気通路125は、吐出室120とクランク室105との間を連通するように、その一部はリアハウジング104からバルブプレート103を経てシリンダーブロック101にまで亘っている。
一方、吸入室119は、クランク室105と抽気通路126(第2連通路)を介して連通している。抽気通路126は、駆動軸106とベアリング115、116との隙間、空間128及びバルブプレート103に形成された固定オリフィス103c(絞り要素)からなる。
また、吸入室119は、リアハウジング104に形成された感圧通路127を通じて、給気通路125とは独立して容量制御弁300に接続されている。
図2A及び図2Bは、本発明の第1実施形態に係る容量制御弁300の構造を示し、図2Aは開弁状態での全体断面図、図2Bは閉弁状態での部分断面図である。
図2Aに示すように、容量制御弁300は、バルブユニットとバルブユニットを開閉作動させる駆動ユニット(ソレノイド)とから構成されている。バルブユニットは、略円筒形状のバルブハウジング301を有し、バルブハウジング301の内部に弁室301b及び感圧室301eがバルブハウジング301の軸方向に並んで形成されている。
バルブハウジング301には、外周面に連通孔301c及び連通孔301fが、端部に弁孔301aが形成されている。弁室301bは、弁孔301a及び給気通路125の上流側部分を介して吐出室120と連通可能であるとともに、連通孔301c及び給気通路125の下流側部分を介してクランク室105と連通している。感圧室301eは、連通孔301f及び感圧通路127を介して吸入室119と連通している。
バルブハウジング301の中央には挿通孔301dが設けられ、挿通孔301dは、弁室301bと感圧室301eとの間をバルブハウジング301の軸方向に延びている。挿通孔301dには弁体302が挿入され、弁体302はバルブハウジング301に摺動可能に支持されている。
弁体302の一端は弁室301b内に、他端は感圧室301e内に位置している。弁体302は、その一端が弁孔301aを開閉することで、給気通路125を開閉する機能を有している。
感圧室301e内には圧縮コイルばね303が設けられている。圧縮コイルばね303は、一端が感圧室301eの内壁に当接し、他端は弁体302に形成された段差部302aに当接しており、弁体302を開弁方向に付勢している。
ソレノイドは、ソレノイドロッド310、固定コア311、可動コア312、筒状部材313、圧縮コイルばね314、支持部材315、モールドコイル316、及び、ソレノイドハウジング317により構成されている。
ソレノイドハウジング317は、略円筒形状に形成され、バルブハウジング301に同軸的に連結されている。固定コア311は、略円筒形状に形成され、ソレノイドハウジング317に収容されている。固定コア311の内部にソレノイドロッド310が挿入されている。
ソレノイドロッド310の一端は弁体302に当接し、ソレノイドロッド310の他端は固定コア311から突出している。ソレノイドロッド310の他端は、略円筒形状の可動コア312に挿通され、可動コア312はソレノイドロッド310に固定されている。可動コア312は、固定コア311と所定の隙間を有して対向配置されている。
筒状部材313は、ソレノイドハウジング317内に固定され、ソレノイドロッド310及び固定コア311の一部を収容するとともに、可動コア312、圧縮コイルばね314及び支持部材315を収容している。支持部材315は、略円板形状に形成され、固定コア311とともに可動コア312を挟むようにして、筒状部材313内に収容されている。
圧縮コイルばね314は、支持部材315と可動コア312との間に設けられ、可動コア312をバルブハウジング301に向かって、即ちソレノイドロッド310及び弁体302を閉弁方向に付勢している。
固定コア311には、突出部311aが形成され、突出部311aにはソレノイドロッド310を挿通可能に支持する挿通孔311bが形成されている。また、連通孔311cにより可動コア312が収容された領域は感圧室301eと連通している。ソレノイドロッド310の一端側は、固定コア311の挿通孔311bに支持され、その他端側は支持部材315によって軸方向に移動可能に支持されている。可動コア312の外周面は筒状部材313の内周面には接触しない構造となっている。
可動コア312、固定コア311、ソレノイドハウジング317は磁性材料で形成され、磁気回路を構成する。なお筒状部材313は非磁性材料のステンレス系材料で形成されている。
モールドコイル316には、圧縮機100の外部に設けられた制御装置400が接続されている。制御装置400から制御電流Iが供給されると、モールドコイル316を有するソレノイドは電磁力F(I)を発生する。ソレノイドの電磁力F(I)は、可動コア312を固定コア310に向けて吸引し、弁体302に対して閉弁方向に作用する。
容量制御弁300では、弁体302の一端側には吐出室120内の圧力(吐出圧力Pd)が作用し、弁体302の他端側には吸入室119内の圧力(吸入圧力Ps)が作用している。したがって弁体302は吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの圧力差である作動圧力差ΔPに応答して動作する感圧部材としても機能する。
図2Bに示すように、弁体302が弁孔301aを閉じたときに、吐出圧力Pdが作用する弁体302の受圧面積(シール面積)と、吸入圧力Psが作用する挿通孔301dに支持された弁体302の断面積を略同等としてある。このため、弁体302の開閉方向にはクランク室105内の圧力(クランク圧力Pc)は作用せず、したがって弁体302に作用する力は、以下の式(4)に表される。また、この式(4)を、作動圧力差ΔPを求めるよう変形すると式(5)となる。
Figure 0005430401
ここで式(4)及び式(5)中、Sv’は弁体302が吐出圧力Pdを受ける面積(=吸入圧力を受ける面積)、f3は圧縮コイルばね303による付勢力、f4は圧縮コイルばね314による付勢力、A・Iはソレノイドによる電磁力をそれぞれ示す。Aは定数であり、電磁力は、制御電流Iに対して比例関係となるように設定されている。
なお、圧縮コイルばね303の付勢力f3は、圧縮コイルばね314の付勢力f4により僅かに小さく設定されており、f3−f4<0となる。従って、ソレノイドによる電磁力が0である場合は、弁体302は圧縮コイルばね314の付勢力により弁孔301aを閉じている。
図3は、式(5)によって示された制御電流Iと作動圧力差ΔPとの関係を示したグラフである。図3中の破線は、Sv’=Svとして圧力受圧面積を従来技術から変えなかった場合の関係を示している。この場合、従来技術と同じ最高作動圧力差ΔPmaxを得るための制御電流Imax’は、従来技術の制御電流Imaxより小さくなる。この結果として、消費電力が低減される。
また、最大制御電流を従来技術と同様にImaxに設定すれば、従来技術の最高作動圧力差ΔPmaxより大きな最高作動圧力差ΔPmax’が得られる。
更に、図3中に実線で示したように、最大制御電流Imaxで最高作動圧力差ΔPmax’が得られるようにすれば、ΔPmax’とΔPmaxとの差に対応して、弁体302が吐出圧力Pdを受ける面積Sv’をSvより大きく設定することが可能となる。この結果として、吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの作動圧力差ΔPの変化に対する感度が良くなり、制御安定性が改善される。
次に、上記容量制御弁300を用いた圧縮機100の制御について説明する。
まず、ソレノイドに通電しない状態、則ちソレノイドが励磁されていない状態で圧縮機100が所定の回転速度で運転されている場合について説明する。この場合、容量制御弁300の動作特性式、詳しくは最小作動圧力差ΔP0は、以下の式(6)に表される。
ΔP0=Pd−Ps=(f4−f3)/Sv’・・・(6)
したがって、作動圧力差ΔPが最小作動圧力差ΔP0を超えれば弁体302は開弁し、吐出室120とクランク室105とが連通路125により連通して吐出ガスがクランク室105に導入される。クランク室105から吸入室119への流出量は、固定オリフィス103cで制限されているので、吐出ガスのクランク室105への流入によってクランク圧力Pcが上昇し、斜板107の傾角が減少して吐出容量が減少する。
その後、吐出容量が減少して作動圧力差ΔPが最小作動圧力差ΔP0以下になると弁体302は閉弁方向に移動し、吐出室120とクランク室105との連通状態が弁体302により制限されて、クランク室105への吐出ガス導入量が減少する。これによりクランク圧力Pcが低下し、斜板107の傾角が増大して吐出容量が増大する。
このような動作により、ソレノイドに通電しない状態であっても、作動圧力差ΔPが最小作動圧力差ΔP0を維持するよう吐出容量が自律制御される。なお、式(6)から明らかなように、最小作動圧力差ΔP0は、圧縮コイルばね303、圧縮コイルばね314及び弁体302が吐出圧力Pdを受ける面積Sv’で規定される。換言すれば、最小作動圧力差ΔP0は、弁体302を閉弁方向に付勢する付勢手段の付勢力に基づいて規定される。
次に、ソレノイドに通電している状態、則ちソレノイドが励磁されている状態の場合について説明する。この場合、ソレノイドに通電する制御電流Iを調整することにより作動圧力差ΔPを自在に変化させられ、作動圧力差ΔPが所望の値を維持するように吐出容量が制御される。例えば、制御装置400において、蒸発器出口空気温度が目標温度に近づくように制御電流Iを調整すれば、所定の空調状態が得られるように吐出容量が自律制御される。
本実施形態では、特にソレノイドが励磁されていないときでも吐出容量が自律制御されるので、ソレノイドの電磁力を0から有効に使用することができる。
なお、最小作動圧力差ΔP0は逆止弁200の設定圧力差ΔPsetより小さく設定されている。したがって最小作動圧力差ΔP0を維持するように圧縮機100の吐出容量が制御されても逆止弁200は開放されず、閉じたままの状態となる。これにより、吐出された冷媒は圧縮機100の内部を循環し、エアコンシステムの循環路12を冷媒が循環することがなく、蒸発器18の凍結が防止される。したがって、ソレノイドに通電しない状態において圧縮コイルばね314で弁体302を閉弁方向に付勢しても問題はない。
図4は、本発明の第2実施形態に係る容量制御弁350の構造を示す断面図である。
本実施形態の容量制御弁350のバルブハウジング351には、吐出室120と連通する弁孔351a、弁体352の一端側が配置された弁室351b、クランク室105と連通する連通孔351cが形成されている。弁体352は挿通孔351dに挿通されて摺動可能に支持され、挿通孔351dが開口する感圧室351eには弁体302の他端側が配置されている。感圧室351eは、連通孔351fを経由して吸入室119と連通している。
弁体352の他端側は可動コア353に圧入され、可動コア353は弁体352に固定されている。弁体352は可動コア353を貫通しており、弁体352の他端は、固定コア354の支持孔に摺動自在に挿入されている。弁体352と可動コア353の一体構成物は、可動コア353と固定コア354との間に配置された圧縮コイルばね355の付勢力により閉弁方向に付勢されている。
固定コア354は可動コア353と所定隙間を介して対抗配置され、その周囲に固定コア354と可動コア353を収容する筒状部材356が配置されている。筒状部材356の周囲にはモールドコイル357が配置され、モールドコイル357はソレノイドハウジング358に収容されている。
可動コア353、固定コア354、及び、ソレノイドハウジング358は磁性材料で形成され、磁気回路を構成する。なお筒状部材356は非磁性材料のステンレス系材料で形成されている。
弁体352は一端側が挿通孔351dに挿入されて支持され、他端側は固定コア354に支持されている。可動コア353の外周面は筒状部材356及びソレノイドハウジング358の内周面には接触しない構造となっている。そして、バルブハウジング351の端部がソレノイドハウジング358の端部に圧入固定されて、バルブハウジング351とソレノイドハウジング358は容量制御弁350として一体化されている。
上記のような構成の容量制御弁350において、弁体352に作用する力は、以下の式(7)で示される。また、式(7)を、作動圧力差ΔPを求めるよう変形すると式(8)が得られる。ここで、Sv”は弁体352が吐出圧力Pdを受ける面積(=吸入圧力を受ける面積)、f5は圧縮コイルばね355による付勢力、A・Iはソレノイドによる電磁力を示している。Aは定数である。
Figure 0005430401
図5は、式(8)によって示された制御電流Iと作動圧力差ΔPとの関係を示したグラフである。
本実施形態では、第1実施形態とは逆に、ソレノイドに通電しない状態で最大作動圧力差ΔPmaxが設定されている。図5に示すように、制御電流Iを0から増加させると、開弁方向に電磁力が作用することから作動圧力差ΔPが減少し、最大制御電流Imaxで作動圧力差ΔPが0となる。したがって、この容量制御弁350は、容量制御弁300と同様に電磁力を0から有効に使用することができ、特に電磁クラッチを装着する可変容量圧縮機に最適である。
また、上述の式(5)あるいは式(8)から、制御電流Iのときの吐出圧Pdの絶対値が得られれば、吸入圧Psを間接的に知ることができる。したがって、容量制御弁300、350を使用し、吐出圧力検知手段をエアコンシステムに設置して吐出圧力Pdを検知すれば、吸入圧力Psが所定値になるように吐出容量を制御することもできる。これとは逆に、制御電流Iのときの吸入圧Psの絶対値が得られれば、吐出圧Pdを間接的に知ることもできる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形が可能である。
例えば、上記の第1実施形態において、弁体302とソレノイドロッド310を一体形成してもよい。
上記の第1実施形態及び第2実施形態では、圧縮コイルばね303、314、355が、ソレノイドが励磁されていないときに、弁体302、弁体351が閉弁位置に位置付けられるように弁体302、351を付勢する付勢手段を構成していたが、付勢手段の構成はこれらに限定されない。例えば、圧縮コイルばね303を削除して圧縮コイルばね314のみとしてもよく、あるいは、3つ以上のばねを組み合わせて弁体302を閉弁方向に付勢してもよい。更に、圧縮コイルばね以外のばねを付勢手段として使用してもよい。
また、弁体302、352にクランク圧Pcを作用させる構造でもよく、感圧部材として小型のベローズを使用してもよい。この場合、ベローズの一端側に弁体302を連結することによりベローズに吐出圧力Pdを作用させながら、ベローズの内側に吸入圧力Psを作用させ、更にベローズの内端面にソレノイドロッド310を連結する構造とすればよい。
また、可動コア312の外周面を筒状部材313の内周面で支持する構造でもよい。
圧縮機としては、揺動板式可変容量圧縮機、あるいはモータにより駆動される可変容量圧縮機を採用してもよい。また、抽気通路126の絞り要素として、流量可変絞りや弁体で開閉制御する絞りを備えた可変容量圧縮機にも本発明を適用できる。
また、冷媒としては、R134aに限定されず、二酸化炭素やその他の新冷媒を使用してもよい。

Claims (4)

  1. 内部に吐出圧力領域、吸入圧力領域、クランク室及びシリンダボアが区画形成されたハウジングと、前記シリンダボアに配設されたピストンと、前記ハウジング内に回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転を前記ピストンの往復運動に変換する傾角可変の斜板要素を含む変換機構と、前記吐出圧力領域と前記クランク室とを連通する第1連通路を開閉する容量制御弁と、前記クランク室と前記吸入圧力領域とを連通する第2連通路に配置された絞り要素とを備え、前記容量制御弁の開度調整により前記クランク室の圧力を変化させ、前記ピストンのストロークを調整する可変容量圧縮機において、
    前記容量制御弁は、
    前記吐出圧力領域の圧力を受ける吐出圧力受圧面及び前記吐出圧力受圧面に作用する前記吐出圧力領域の圧力と対抗する方向に前記吸入圧力領域の圧力を受ける吸入圧力受圧面が形成された弁体と、
    前記弁体に電磁力を作用させるソレノイドと、
    前記ソレノイドの電磁力が作用していないときに前記弁体が閉弁位置に位置付けられるように前記弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段とを有し、
    前記ソレノイドの電磁力が前記弁体に作用していないときに、前記吐出圧力受圧面に作用する吐出圧力領域の圧力と前記吸入圧力受圧面に作用する吸入圧力領域の圧力との圧力差が、前記付勢手段の付勢力に基づいて規定される設定圧力差に維持されるように、前記容量制御弁を介して前記第1連通路を開閉制御することを特徴とする可変容量圧縮機。
  2. 前記可変容量圧縮機は前記吐出圧力領域に逆止弁を備えたクラッチレス圧縮機であって、前記逆止弁は自身の上流と下流との間での差圧が設定差圧を超えると開弁する一方、前記設定差圧以下では閉弁し、前記ソレノイドの電磁力が作用していないときに、前記付勢手段の付勢力に基づいて規定される前記設定圧力差は前記逆止弁の設定差圧未満に設定されていることを特徴とする請求項に記載の可変容量圧縮機。
  3. 前記ソレノイドにより発生させられる電磁力は、前記弁体を閉弁方向に付勢することを特徴とする請求項に記載の可変容量圧縮機。
  4. 前記可変容量圧縮機は電磁クラッチを備えた可変容量圧縮機であって、前記ソレノイドにより発生する電磁力は前記弁体を開弁方向に付勢するとともに、前記ソレノイドの電磁力が作用していないときに、前記吐出圧力受圧面に作用する吐出圧力領域の圧力と前記吸入圧力受圧面に作用する吸入圧力領域の圧力との圧力差が最大になることを特徴とする請求項に記載の可変容量圧縮機。
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