JP5424220B2 - 受動相互変調ひずみの測定方法および測定システム - Google Patents

受動相互変調ひずみの測定方法および測定システム Download PDF

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Description

本発明は、高周波帯域における電気材料、磁気材料等の測定方法および、測定システムに関する。より詳細には、電気材料、磁気材料等の電気磁気特性を、受動相互変調ひずみを用いて測定する方法および測定システムに関する。
相互変調ひずみは、低周波の音声帯域の電子装置から無線通信装置にいたるまで、幅広い周波数帯において問題となる現象の1つである。一般に相互変調ひずみは、近接した異なる周波数の複数の信号が低周波電子装置、無線通信装置または半導体素子などに入力されるときに、または出力されるときに、新たな周波数成分のひずみ信号として発生する。低周波帯においては、例えば、コンタクトの非線形ひずみとしての解析が行なわれている(非特許文献1参照)。また、無線通信装置の高周波化、高効率化、低ひずみ化などの要請から、高周波帯においても相互変調ひずみの低減が検討されてきた。これらの相互変調ひずみは、いずれも装置内に使用されている増幅器や半導体素子などの能動素子における非線形性の問題として取り扱われてきた。
上述の相互変調ひずみに関連して、あらたに注目されている問題に、受動相互変調ひずみ(Passive Intermodulation)がある。従来問題とされてきた相互変調ひずみが能動素子において発生するものであるのに対し、受動相互変調ひずみは受動回路や受動部品において発生する点で異なる。受動相互変調ひずみは、多くは、異種または同種金属の金属接点において、金属間の電位差および非線形な集中抵抗などにより発生することが知られている。簡単のため、以後本明細書においては、受動相互変調ひずみをPIMと呼ぶ。
図12AおよびBは、PIMの概念を説明する図である。PIMは、従来の相互変調ひずみ同様に、近接する2つの信号を被測定物に入力することにより、新たに発生するひずみ信号である。図12Aは、周波数fの試験信号および周波数fの試験信号を被試験物に入力したときに発生するPIM信号(f、f、f・・)を示している。奇数次のPIM信号は、2つの試験信号の周りに近接して発生し、高次ひずみほど試験信号から離れた周波数に位置する関係となる。また、f、fの周波数が離れている場合には、偶数次のPIM信号も受信障害の原因と成り得る。PIMの発生レベルは、一般に、高次のPIMほど低い。簡単のため、図12Aでは試験信号より高い周波数側のPIMのみを示している。試験信号としてそれぞれ電力レベルが+43dBmの信号を入力する場合でも、PIM信号の発生レベルは、−50〜−150dBm程度と非常に低い。能動素子において問題となる相互変調ひずみと比較すれば、非常に低いレベルである。しかし、微小レベルの信号を扱う無線通信装置においてはこのPIMを無視することはできない。
図12Bは、PIMが通信障害を生じさせることを説明する図である。図12Bは、送信帯域(Tx)および受信帯域(Rx)に周波数帯域を分けた周波数複信方式の無線システムにおける、両帯域の周波数関係を示している。例えば、携帯電話システムの基地局の場合を考えると、基地局の送信帯域Txにおいて、周波数fおよびfの2つの信号が同時に送信される。この時、基地局送信機内の送信フィルタ等の受動部品やアンテナ等において、周波数fのPIM信号が発生する。このPIM信号が、送受信共用アンテナを経由して、基地局の受信帯域Rxに入り込む。このような場合、基地局受信機においてPIM信号は、周波数fと同一周波数の受信信号に対する妨害波となり、通信障害が発生する。
近年、無線通信の高周波化、高出力化、マルチキャリア化、ならびに変調の広帯域化を背景として、とりわけ注目を浴びているのは、受動部品の材料において発生するPIMである。当初、PIMは受動部品の接点部分における金属電位差や非線形抵抗などが原因とされていた。しかし、非線形の集中抵抗や異種金属が存在しない状態、例えばプリント基板回路などの金属材料中において発生するPIMが新たに注目されている。
図13Aは、接点部分において発生するPIMを説明する図である。周波数複信方式を使用する無線装置(例えば、携帯電話システム)のアンテナ124周辺部を例として示している。送信アンテナと受信アンテナを共用するために、送信信号および受信信号を分離するアンテナ共用器(Duplexer:以下DUPと呼ぶ)120が使用されている。DUP120は、送信回路が接続される送信端121、受信回路へ接続される受信端122およびアンテナ124に接続されるアンテナ端123を持つ。送信回路から異なる周波数の2つの送信信号がDUP120に入力されると、送信端121のコネクタ接点やアンテナ端123のコネクタ接点などにおいて、それぞれPIM信号125a、PIM信号125bが発生する。
図13Bは、受動部品の材料において発生するPIMを説明する図である。DUP120への各接続に接触点を伴うコネクタを使用せずに、マイクロストリップライン(Micro Stripe Line:以下、MSLと呼ぶ)などの平面回路により直接接続した場合であっても、PIMが観測される。PIMは、アンテナ124内に形成されたMSLなどの平面回路126aや移相器など、無線装置内のプリント回路基板上のMSL126b等の平面回路において発生すると考えられている。また、MSLを構成する導体材料および誘電体材料などにおいてPIMが発生すると考えられている。本発明の出願人等による非特許文献2にも、MSLを用いたPIM測定により、金属材料そのものにおいて発生するPIMの評価結果について開示されている。
図14は、高周波帯域における従来のPIM測定系を示す図である。非特許文献2などに示されているPIM測定系の構成は、大別して、試験信号を発生させる部分、PIMを分離・検出する部分、および被試験物に分けることができる。異なる周波数f、fの試験信号は、信号発生部101、102により発生される。試験信号は、被測定試料においてPIMを発生させるのに十分な電力レベルである必要がある。例えば、1信号当たり+43dBm(20W)またはそれ以上のパワーを出力できる信号発生器を用いる場合もある。通常、信号発生部101、102は、信号発生器(SG)およびA級電力増幅器などにより構成される。
2つの信号発生部101、102からの試験信号は、結合器103により合成され、DUP107の送信端に入力される。DUP107のアンテナ端から出力された2波の試験信号は、被測定試料(以下DUT:Device Under Testと呼ぶ)104の一端に入力される。DUT104の他端は終端器105に接続される。試験信号は、終端器105により終端される。終端器105は、PIM測定系全体を特性インピーダンス50Ωに整合させて試験信号を吸収し、DUT104周辺において不要な反射波を発生させずに測定を安定化させるために使用される。このような従来のPIM測定方法では、測定系全体は50Ωに統一され、高い電力レベルの試験信号はDUT104を透過して終端器105に吸収させることを基本としていた。
DUT104内の試料で発生したPIM信号は、DUP107のアンテナ端に入る。DUP107内のフィルタにより受信帯域に帯域制限され、受信端を経て、周波数fのPIM信号としてPIM測定部106において測定される。PIM測定部106は、例えば、低雑音増幅器およびスペクトラムアナライザなどにより構成される。DUP107は、当業者に良く知られているように送信信号と受信信号を分離する機能を担っており、その動作については説明を省略する。
箕輪 功、他2名、"2周波非直線性測定法のコンタクトへの応用"、電子通信学会論文誌 C Vol.J85-C No.11 pp91-924、1985年11月
久我 宣裕、他1名"マイクロストリップ線路を用いた誘電体基板のPIM"、電子通信情報学会論文誌 B Vol.J88-B No.4,pp847-852、2005年4月
しかしながら、上述した従来のPIM測定方法には、次のような問題点があり十分なものとはいえなかった。第1に、測定を行なう被測定試料の物理的な構造が制限されるという問題があった。例えば、非特許文献2に開示されたMSLを用いたPIM測定に用いられる被測定試料では、測定を行なおうとする電極金属材料および誘電体基板材料を含む平面回路を構成する必要があった。
図15は、MSLのPIMを測定する場合に使用される被測定試料の構成を示す図である。被測定試料DUT104は、幅Ws、長さLs、厚さh、誘電率εrの誘電体基板112の上面に、幅W、導体厚tの銅はくによりMSL113が形成されている。MSL113の対向面はMSLと同じ銅はくによるグランド面となっている。さらに、DUT104は、DUPおよび終端器と接続するために、MSL113の両端において、それぞれセミリジッドケーブル110、111と接続されている。先にも述べたように従来のPIM測定方法においては、DUT104は特性インピーダンス50Ωに整合するように構成される必要がある。
一般に、MSLにより伝送線路を構成する場合、線路の特性インピーダンスは、誘電体基板112の厚さh、誘電率εrならびに線路導体113の幅W、導体厚tにより決定される。1つのパラメータを変化させた場合、特性インピーダンスを一定値に保つためには、他のパラメータを同時に変化させなければならない。したがって、PIMの発生量と上述の各伝送線路パラメータとの関係を評価しようとする場合、単一のパラメータのみを独立して制御することは困難であった。
第2に、DUTを透過する試験信号の電力を吸収するために終端器が必要であるが、この終端器おいて発生するPIMが問題となった。図14に示した従来のPIM測定系においては、終端器105においても、PIM信号108bが発生する。PIM測定部106においては、DUT104からの試料に起因するPIM信号108aおよび終端器105に起因するPIM信号108bが互いに干渉した信号が測定される。ここで、終端器105において発生するPIMレベルが高ければ、DUTにおいて発生するPIMの測定ダイナミックレンジが制限されてしまう。終端器において実際に発生するPIMレベルは、例えば、抵抗を用いた一般的な終端器で−70dBm程度である。先端を開放して十分な伝送線路ロスを利用した非常に長い伝送線路(例えば、100m程度のセミリジッド線路)による終端器でも、−120dBm程度となる。したがって、特別な終端器を準備しなければ、低レベルのPIM測定は困難であり、測定系の広いダイナミックレンジを確保するのは難しかった。さらに、DUT104と終端器105との接続はコネクタ接点を含むことになるため、このコネクタ接点におけるPIMの発生も、測定の不確定要素となる。したがって、測定系内の不確定要素に十分な注意を払う必要があった。このように、インピーダンス整合を前提とした従来のPIM測定系においては、安定に広いダイナミックレンジを確保して測定をするのは難しかった。
上述の被測定試料の構造の制限から派生する問題として、被測定試料の自身の大きさに起因する影響も無視することは出来ない。DUTの製作および取り扱い上からの要請からも、DUTはある程度の大きさが必要となる。DUT104は、50Ωの信号源および終端器の特性インピーダンス50Ωに整合させるために、両端にセミリジッドケーブル110、111を接続する必要がある。したがって、小さい場合であっても、DUT自身は数cm程度以上の大きさを持つ。MSL構造自身が分布常数回路であるため、MSL上で発生するPIMは、集中した一点から発生するのではなく、分布定数的に累積加算されたものとなる。したがって、PIM測定部106において測定されるPIMレベルは、MSLの長さLsにより変動する。
また、MSL上に局所的なPIM発生源が複数ある場合には、この複数のPIM発生源からのPIM信号は互いに干渉し合う。干渉の結果観測されるPIMレベルは、MSL長によって変動し得る。さらに、コネクタの接点や上述のケーブルのはんだ付け点における非線形性も、試料による純粋なPIM評価の妨げとなってしまう。DUTの加工も面倒であり、終端器によるインピーダンス整合を前提とした従来のPIM測定系においては、導体材料等の純粋なPIM測定を行なうことは困難であった。
本発明の目的は、整合終端器の影響を排除して、その大きさや形状の制限が極めて少ない測定試料を用いて、高感度のPIMの検出が可能な方法および測定システムを提供することにある。PIMを生成させる電流密度の定量化が容易であり、金属材料だけでなく、誘電体、磁性体などの電気材料、磁気材料等の素材特性評価を行なうことができる。さらに、本発明のPIM測定方法は、電子デバイスの不良検出方法などへの応用も可能である。
本発明の第1の実施態様は、高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、前記信号分離手段の前記第2の端子に一端を接続された伝送線路であって、被測定試料および前記伝送線路間をインピーダンス不整合の状態として、前記伝送線路上に前記複数の試験信号の定在波を発生させ、前記被測定試料は前記伝送線路上の前記定在波が発生している2導体間または前記伝送線路の他端に配置されることと、前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段と、を備えることを特徴とする。
本発明の第2の実施態様は、高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、開口部を介して前記第2の端子に接続された導体箱であって、前記導体箱の内部に発生した前記複数の試験信号の定在波下に前記被測定試料が配置されていることと、前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段とを備えることを特徴とする。
本発明の第3の実施態様は、高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、前記信号分離手段の前記第2の端子に一端を接続された同軸線路であって、他端から試験信号を放射し、該試験信号により被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を検出する同軸線路と、前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段と、を備えることを特徴とする。
本発明の第4の実施態様は、高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、前記信号分離手段の前記第2の端子に一端を接続された平面状の放射器を備えた平面アンテナであって、被測定試料は、前記平面アンテナから放射される電磁波の位相の影響を受ける近傍界に配置され、前記放射器から試験信号を放射し、前記試験信号により前記被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を検出する平面アンテナと、前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段と、を備えることを特徴とする。
以上説明したように、本発明により、整合終端器の影響を排除して、その大きさや形状の制限が極めて少ない測定試料を用いて、高感度のPIMの検出が可能な方法および測定システムを提供することができる。PIMを生成させる電流密度の定量化が容易であり、金属材料だけでなく、誘電体、磁性体などの電気材料、磁気材料等の素材特性評価を行なうことができる。さらに、本発明のPIM測定方法は、電子デバイスの不良検出方法などへの応用も可能である。
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるPIM測定方法の測定系の構成を示す図である。 図2Aは、実施例1−1にかかるPIM測定系全体におけるシステムノイズを概念的に説明する図である。 図2Bは、伝送線路の線路長とシステムノイズの関係を示す図である。 図3Aは、実施例1−1にかかるPIM測定方法による、銅線のPIM測定結果を示し、銅線試料の本数をパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す図、 図3Bは、試料材料と試料の直径をパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す図である。 図4Aは、実施例1−1にかかるPIM測定方法による、銅はくのPIM測定結果を示し、銅はくの幅WとPIMレベルの関係を示す図である。 図4Bは、銅はくの厚さをパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す図である。 図5Aは、実施例1−2にかかるPIM測定系の被測定試料部分の構成を示す図である。 図5Bは、試料位置とPIMレベルの関係を示す図である。 図6Aは、実施例1−3にかかるPIM測定方法の試料部の構成を示し、点接触の構成を示す図である。 図6Bは、はんだ付けした試料部の構成を示す図である。 図7は、実施例1−3にかかるPIM測定方法による、はんだ試料のPIMおよび試料抵抗率を示した図である。 図8Aは、本発明の第2の実施形態にかかるPIM測定方法の接続部を示す図である。 図8Bは、接続部に不良接合がある場合を説明するための概念図である。 図9は、実施例2−1にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。 図10は、実施例2−2にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。 図11Aは、実施例2−3にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。 図11Bは、実施例2−2にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。 図12Aは、周波数f、fの試験信号を被試験物に入力したときに発生するPIM信号を示す図である。 図12Bは、PIMが通信障害を生じさせることを説明する図である。 図13Aは、接点部分において発生するPIMを説明する図である。 図13Bは、材料において発生するPIMを説明する図である。 図14は、高周波帯域における従来のPIM測定系を示す図である。 図15は、MSLのPIMを測定する場合の被測定試料の構成を示す図である。 図16Aは、本発明の第3の実施形態にかかるPIM測定方法における伝送線路の構成を示す図である。 図16Bは、本発明の第3の実施形態にかかるPIM測定方法における伝送線路の構成を示す図である。 図17は、開放型プローブを用いた点接触試料のPIM測定結果を示す図である。 図18は、開放型プローブの分解能を示す図である。 図19は、短絡型プローブの分解能を示す図である。 図20Aは、開放型プローブを用いたPIM測定方法により接続不良箇所を探索する際に用いた被測定試料を示す図である。 図20Bは、開放型プローブを用いたPIM測定方法により接続不良箇所を探索した結果を示す図である。 図21は、本発明の第4の実施形態にかかる平面アンテナの構成を示す図である。 図22Aは、コイル型試料の平面アンテナ上の位置を示す図である。 図22Bは、コイル型試料の位置と平面アンテナのリターンロスとの関係を示す図である。 図23Aは、コイル型試料の平面アンテナ上の位置を示す図である。 図23Bは、コイル型試料の位置に応じたPIMの測定結果を示す図である。 図24は、コイル型試料の位置に応じたPIMレベル分布を示す図である。 図25Aは、コイル型試料の平面アンテナ上の位置を示す図である。 図25Bは、コイル型試料の高さに応じたPIMの測定結果を示す図である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態のPIM測定方法は、試験信号が入力される伝送線路および被測定試料間を不整合状態として、この不整合により生じる定在波を利用して、被測定試料から発生するPIM信号を測定するところに特徴がある。
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるPIM測定方法に使用される測定系の構成を示す図である。図1の測定系は、複数の試験信号を発生させるとともに反射した試験信号を終端する部分、PIM信号を分離検出する部分、および被測定試料を含む伝送線路部分から構成される。異なる周波数f、fの試験信号は、試験信号発生部1、2から出力される。試験信号発生部1、2は、具体的には、信号発生器(SG)およびA級増幅器などにより構成される。試験信号発生部1、2は、それぞれサーキュレータ3、4に接続される。サーキュレータ3、4の出力は、それぞれDUP7の送信端に接続される。サーキュレータ3、4のもう一つ端子には、終端器5、6がそれぞれ接続される。DUP7は、第1の端子(送信端)に入力された2つの試験信号を被測定試料の接続される第2の端子(アンテナ端子)のみに通過させ、一方で、第2の端子(アンテナ端子)から第3の端子(受信端)へはPIM信号のみを通過させるように、2つの試験信号とPIM信号を分離することができるものであれば良い。2つの試験信号の周波数を適切に選択することにより、例えば、携帯電話システムに使用される既存のアンテナ共用器(DUP)を利用することができる。
DUP7のアンテナ端子には、伝送線路9が接続される。伝送線路9としては、同軸管、同軸線路、レッヘル線路などの2導体系の伝送線路を使用することができる。例えば、中心導体を銀メッキしたUT141セミリジッドケーブルなどを使用できるが、これに限られない。伝送線路9の先端部は、被測定試料10によって短絡されている。すなわち、被測定試料10と伝送線路9の先端は、例えばはんだ付けにより接続されている。DUP7のもう一つの端子である受信端には、PIM測定部8が接続される。PIM測定部8は、例えば、低雑音増幅器およびスペクトラムアナライザなどにより構成される。
次に、第1の実施形態にかかるPIM測定系の動作について説明する。試験信号発生部1、2から出力された2つの試験信号は、それぞれサーキュレータ3、4を経由してDUP7に入力される。サーキュレータ3、4は、2つの試験信号間の相互干渉を防ぎ、試験信号の段階において相互変調信号が発生するのを防止する。また、後に詳細に説明するが、被測定試料10において全反射して試験信号発生部1、2側に戻ってくる試験信号は、終端器5、6において終端される。終端器5、6においてPIMが発生したとしても、PIM測定部8においては、終端器5、6に起因するPIM信号はDUP7を介して観測される。DUP7内のフィルタによる送信端から受信端への帯域阻止特性のため、終端器5、6からのPIM信号は十分に減衰され、被測定試料10からの本来のPIM測定にはなんら影響を与えない。
第1の実施形態にかかるPIM測定方法の特徴は、被測定試料および伝送線路の構成ならびに試験信号の整合状態にある。伝送線路9の先端は、被測定試料10によって短絡してある。被測定試料については後に詳述するが、例えば、PIMを評価したい金属材料の細線とすることができる。伝送線路の先端を金属細線により接続することで、先端を短絡した伝送線路がDUP7のアンテナ端に接続されることになる。従来のPIM測定方法においては、被測定試料を特性インピーダンスの50Ωに整合させ、試験信号は、被測定試料を透過して終端器に吸収されていた。一方、第1の実施形態にかかるPIM測定方法においては、被測定試料と伝送線路とをインピーダンス整合させずに、被測定試料において試験信号を反射させている点に大きな相違点がある。被測定試料自身によって伝送線路端を短絡させるだけなので、被測定試料側において終端器は不要である。被測定試料において全反射された2つの試験信号は、DUP7をアンテナ端から送信端に戻る。さらに、サーキュレータ3、4を経て、サーキュレータに接続された終端器5、6において終端される。第1の実施形態にかかるPIM測定方法は、被測定試料側で終端器を必要としないので、従来問題となっていた終端器において発生するPIMの影響を全く受けないという特徴を持つ。先にも述べたように、DUP7での送信端−受信端間の帯域阻止特性によってPIM測定部8と分離されているので、終端器5、6において発生するPIMはなんら問題とならない。
一般に、伝送線路を特性インピーダンスによって終端しないで、伝送線路の先端を短絡した場合、この短絡端において試験信号には全反射が生じ、伝送線路上には試験信号の定在波が発生する。短絡端は、電流定在波の腹となる。第1の実施形態にかかるPIM測定方法においては、被測定試料により伝送線路端を短絡することによって、被測定試料に試験信号の電流定在波の腹が印加されるところに大きな特徴がある。電流定在波の腹が常に試料に印加されるので、被測定試料には最大の電流が流れる。これにより、従来のインピーダンス整合を前提としたPIM測定方法において印加される試験信号レベルよりも、より大きな試験電流信号が試料に印加されたのと同じ状態となる。例えば、完全反射の状態では、整合状態と比較して、電流定在波の腹においては、電流値は整合時の2倍と成ることが知られている。この高い試験信号レベルにより、被測定試料においてPIMをより効率的に発生させることができる。試験信号発生部の試験信号出力レベルが同じであっても、より感度よくPIM測定ができることになる。試験信号発生部の電力増幅器等に必要な要件を緩和することができる。
また、第1の実施形態にかかるPIM測定方法では、伝送線路9の先端に被測定試料をはんだ付けなどにより接続する簡単な試料構成である。このため、従来のインピーダンス整合を前提としていたPIM測定で問題となっていた試料の形状の制限を受けることがない大きな利点を持つ。被測定試料は、線状導体、棒状導体、角柱状導体などに限られず、母材に被試験材料を塗布、めっき、溶接などした複合部材の評価も可能である。さらに、被測定試料自身が、従来のインピーダンス整合を前提としたPIM測定方法と比較して著しく小さい点に、もう一つの大きな特徴がある。例えば、UT141セミリジッドケーブルを伝送線路として使用した場合の、試料の大きさは数mm程度である。従来のPIM測定方法における大きな試料サイズに起因する分布定数性の問題や、多数のPIM源の干渉によるPIM測定の不安定性の問題を回避することができる。
被測定試料自身が非常に小さく、しかも、電流定在波の腹が確実に被測定試料に位置することにより、試験電流信号が被測定試料に集中して印加されることにも注目されたい。電流定在波による電流密度は計算が容易であり、評価を行なおうとする材料部分に流れる電流密度の定量化がより正確となる。試料の数ならびに形状も、線幅、長さおよび膜厚などのパラメータを、独立して制御することができる。いずれも、インピーダンス整合を前提とした従来のPIM測定方法における試料構成では実現し得なかった、測定パラメータ選定の柔軟性ならびにパラメータ値の定量化の可能性を持つという優れた特徴を持つ。さらに、定在波を利用する第1の実施形態にかかるPIM測定方法は、測定系のシステムノイズをキャリブレーションすることができるという特徴を持つ。次に、このシステムノイズのキャリブレーションについて説明する。
(実施例1−1)
図2AおよびBは、実施例1−1にかかるPIM測定方法のシステムノイズのキャリブレーション原理を説明する図である。図2Aは、実施例1−1にかかるPIM測定系全体におけるシステムノイズを概念的に説明する図である。図2Aにおいては、伝送線路23ならびに定在波が発生する測定系部分である測定システム部21を、概念的に表現している。測定システム部21内には、被測定試料以外の原因により測定系内でPIMを発生する部分、すなわちシステムノイズ源22aが存在している場合がある。例えば、劣化したコネクタの接点部分、機械的応力によって破損したコネクタ内のはんだ付け部分ならびに測定装置のフィルタ内部などである。被測定試料のPIMを感度良く測定するためには、システムノイズ源22aができる限り電流定在波の節の位置となるように伝送線路の長さを調整すればよい。
図2Aでは、伝送線路の先端を開放として、伝送線路23の線路長がlのときおよびlのときの電流定在波の分布を示している。ここで、先端を開放した場合には、伝送線路の先端部分は電流定在波の節となる。先端を短絡した場合と比較して、定在波の腹と節がちょうど逆転することに注目されたい。線路長がlの場合では、システムノイズ源22aと電流定在波の腹の位置が一致しているため、システムノイズ源22aに起因するPIMが最大レベルで測定される。一方、線路長がlの場合では、システムノイズ源22bは、電流定在波の節の位置にあるため、システムノイズ源22bに起因するPIMは最小レベルで測定される。実施例1−1にかかるPIM測定方法においては、伝送線路の先端を被測定試料によって短絡するため、先端開放時にシステムノイズが最大となるような線路長としたときに、PIM測定時のシステムノイズは最低となる。
図2Bは、先端を開放した伝送線路と先端を開放した伝送線路の線路長とシステムノイズの関係を示す図である。試験信号として、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを観測する。試験信号レベルは、それぞれ、DUPのアンテナ端において+43dBm(整合終端時)である。システムノイズレベルは、伝送線路の長さが190mm、240mm、290mmなど、50mmごとに最大値となる。50mmの長さは、2GHzにおけるUT141セミリジッドケーブルの管内波長100mmの1/2に相当している。したがって、先端開放時にシステムノイズが最大となる線路長とすると、先端を短絡した時のシステムノイズは−130dBm近傍の最低レベルとなる。実際には、試料を接続するために、先端短絡時の伝送線路の中心導体を、数mm程度の長さだけつき出す。この中心導体のインダクタンス成分を考慮して最適な線路長を決定する。
以上詳細に述べたように、実施例1−1にかかるPIM測定方法においては、電流定在波の腹が被測定試料の位置となる。そして、伝送線路内の電流定在波の位置も試験信号の周波数および伝送線路の特性によって明確に把握することができる。伝送線路端を開放することにより、システムノイズの特性を把握することができ、線路長の決定によるシステムキャリブレーションが簡単にできる。これにより、PIM測定の広いダイナミックレンジを確保することができる。電流定在波を利用することにより、試験信号の電流レベルおよびそのプロファイルを定量的に高精度に把握できるという特徴を持っていることに注目されたい。次に、第1の実施形態にかかるPIM測定方法を利用した具体的な測定例について説明する。
図3AおよびBは、実施例1−1にかかるPIM測定方法による銅線のPIM測定結果を示す図である。測定に用いた伝送線路は、外径が3.58mm、銀メッキした銅の外径0.98mmの中心導体を持つUT−141セミリジッドケーブルを使用した。伝送線路長は、上述のキャリブレーションの結果180mmとした。中心導体は、伝送線路の先端より2.5mmだけ露出させて試料をはんだ付けした。試験信号およびPIM信号の周波数は、先に図2bで説明したものと同じで、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを測定する。
図3Aは、直径0.2mmの銅線試料の本数をパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す図である。試料の長さは、概ね5mmで、一定の長さである。銅線(試料#1〜試料#4)の本数を1から4まで順次増やすにしたがって、PIMレベルが下がっている。銅線の本数および銅線形状、ならびに印加した試験信号電力から電流密度の計算が可能である。試料を流れる電流密度とPIMレベルとに一定の比例関係があることがわかる。また、PIM測定値は、100秒を経過しても安定しており、従来のPIM測定方法よりも時間的な安定性が高い。
図3Bは、試料材料(銅線と銀線)、試料の直径をパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す図である。銅線および銀線の間で、材料の種類によるPIM値の明確な差異が確認できる。さらに、試料直径の大きい方が、PIM値はより小さくなる。金属細線にかかる電流密度とPIMレベルに一定の関係を見出すことができる。
図4AおよびBは、実施例1−1にかかるPIM測定方法による銅はくのPIM測定結果を示す図である。伝送線路などの測定系構成は、図3について説明したものと同様である。試料の銅はくは、磁性体ニッケルを下地とした金メッキベリリウム銅はくである。
図4Aは、銅はくの幅WとPIMレベルの関係を示す図である。幅Wが大きくなるとともに、PIMレベルは小さくなる関係が明確にわかる。従来のPIM測定方法によるMSLの測定では、被測定試料を特性インピーダンス50Ωに整合させるために、金属導体部分の幅を連続的に自由に変えることはできなかった。実施例1−1にかかるPIM測定方法によれば、このように試料形状を自由に変えることができる。さらに誘電体基板材料を含めずに、導体材料単体のPIMを測定することができる。
図4Bは、銅はくの厚さtをパラメータとしたPIMレベルの経時変化を示す。試料は、幅Wが1mmの純銅はくである。厚さtが大きくなるとともにPIMレベルは小さくなる関係が明確にわかる。PIM測定値の経時変化もほとんどなく、測定値は安定している。実施例1にかかるPIM測定方法によれば、試料を伝送線路先端にはんだ付けをする必要がある。はんだ付け作業を含む測定試行を3−4回繰り返し行なっても、PIM測定値のばらつきは、5dB以内であり充分な再現性を持っている。
以上、説明したように、実施例1−1にかかるPIM測定方法によれば、試料を同軸線路の先端で短絡することで、インピーダンス整合による被測定試料の形状制限を受けることなく、自由に試料形状のパラメータを変化させてPIMの評価が可能となる。試料の大きさは従来のPIM測定方法と比べて格段に小さく、点波源としての純粋な試料のPIMの測定ができる。終端器を被測定試料の整合のために使用しないため、従来問題となっていた終端器において発生するPIMを無視することができる。さらに、先端を開放した状態でのシステムノイズのキャリブレーションにより、システムノイズを最小化して、広いダイナミックレンジに渡ってPIM測定が可能となる。
実施例1−1にかかるPIM測定方法を利用すると、例えば、同軸線路端にスイッチを接続して、スイッチのPIM特性を測定できる。また、同軸線路端にジョイントされたコネクタを接続し、その長さを適切に選んだ先端短絡同軸線路を接続することで、コネクタのPIM特性の評価ができる。さらに、プリント基板の状態で短絡回路を構成すれば、導体部分と誘電他部分を含むプリント基板の総合的な評価を行なうことができる。簡易的には、PIMの測定可能な範囲は制限されるが、伝送線路をマイクロストリップ線路で構成してもよい。
(実施例1−2)
実施例1−1にかかるPIM測定方法は、従来のPIM測定方法のように被測定試料を特性インピーダンスに整合することなしに、試験信号の定在波を発生させ利用するところに特徴がある。これまで述べた実施例は、伝送線路の先端を短絡して電流定在波を利用する方法であった。しかしながら、本発明はこれに限られるものではなく、電圧定在波に注目して、伝送線路の先端を開放したときの電圧定在波を利用することもできる。伝送線路の先端を開放とすると、先端部において試験信号は全反射し、伝送線路上には試験信号の電圧定在波が発生する。伝送線路の先端部は、電圧定在波の電圧の腹となり、試験信号の電圧は最大となる。被測定試料を伝送線路の開放端に配置すれば、試料には最大電圧を印加することができる。したがって、誘電体材料など、伝送線路の先端を短絡することのできない電気材料のPIMを測定することができる。
図5AおよびBは、実施例1−2にかかるPIM測定方法を説明する図である。図5Aは、伝送線路の先端を開放したPIM測定系の被測定試料部分の構成を示す。図1に示した伝送線路先端を短絡した構成における伝送線路9および被測定試料10を、図5Aの構成に置き換えることで、定在波を利用したPIM測定系の構成となる。図5Aは、外導体51および内導体50を持ち、両導体の間は空間となっている先端開放の同軸管を示している。同軸管の左端で、同軸管は、図1のDUP7に接続される。同軸管内の空間の任意の位置に試料52を配置すると、同軸管の先端を開放することにより生じる試験信号の電流定在波または電圧定在波のいずれかが試料に印加される。尚、電圧定在波の節の位置では、電流定在波は逆に腹となっている。
図5Bは、定在波を利用したPIM測定方法における試料位置とPIMレベルの関係を示す図である。同軸管は外径20mm、内導体の径が8.5mmで、全長はおおよそ180mmである。同軸管の開放端面からの距離dの位置に、ドーナツ型フェライトコアの試料を配置する。試料形状は、外径18.5mm、内径12mm、厚さ8mmの円盤状である。試験信号およびPIM信号の周波数は先に図2Bで説明したものと同じで、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを測定する。図示したPIM測定値は、試料に試験信号を印加して、時間的に安定した100秒間における中央値である。
PIMレベルは、おおよそ60mmごとに周期的に変動しており、これは、同軸管の2GHzにおける管内波長の1/2の長さ(75mm)よりも短くなっている。これは、透磁率の高いフェライトが同軸間内に部分的に挿入されて、波長が短縮されているためと考えられる。本実施例のフェライトでは、磁性体材料が磁界の最大点において試験信号により作用を受けると考えられる。したがって、電流最大点すなわち電圧定在波の節の位置においてPIMレベルが最大値となっているものと考えられる。本実施例によれば、同軸管内の任意の位置に試料を配置することが可能であり、試験信号の定在波の位置に対応して試験信号の印加レベルを調整することもできる。PIMを発生しない絶縁テープ(例えばポリイミドテープ)などで試料を覆うことで、誘電体などの絶縁材料以外の導電性のある材料であっても、PIMを測定することができる。さらに、試料を配置する向きを変えて、方向性によるPIM測定値の差異を簡単に比較することができる。
本実施例のPIM測定方法を使用すれば、例えば、伝送線路の先端にプリント基板の誘電体部分などを挟むことで、誘電体のPIM特性を評価することができる。この場合は、電圧定在波の腹の部分を利用することになる。
このように、本実施例によれば、インピーダンス整合による被測定試料の形状制限を受けることなく、自由に試料形状のパラメータを変化させてPIM評価が可能となる。試料の大きさが従来とくらべて格段に小さく、点波源としての純粋な試料のPIMを測定が可能である。終端器を被測定試料の整合のために使用しないため、従来のPIM測定方法で問題となっていた終端器から発生するPIMを無視することができる。先端に適切な容量を接続することで、直流的に絶縁された状態で電流定在波を生じさせることも可能である。これにより、誘電体基板など絶縁材料のPIM特性を評価することもできる。
(実施例1−3)
第1の実施形態にかかるPIM測定方法は、さらに様々に変形して利用することができる。先にも述べたように、第1の実施形態にかかるPIM測定方法においては、試料を非常に小さくすることができるとともに、不整合状態の反射波により発生する定在波を利用する。これにより、高いレベルの試験信号を試料に印加して、被測定試料への電流密度または電界強度を高くすることができる点に特徴がある。次に、試料における電流密度をさらに上げて、より感度の良いPIM測定ができる別の実施例について説明する。
図6Aは、実施例1−3にかかるPIM測定方法の試料部の構成を示す図である。伝送線路9の先端で、中心導体11および外導体間を棒状の被測定試料20によって短絡している点以外は、図1の構成と同じである。本実施例では、被測定試料20の一端は外導体とはんだ付けにより接続するが、もう一端は中心導体11と点接触による電気接点により接続する。図6Bは、被測定試料20の両端を溶接、例えばはんだ付けした図1の構成を比較のため示している。尚、図6AおよびBでは、被測定試料20はL型の形状として示してあるが、これに限定するものではない。電気接点は、例えばプラスチック製の固定具等により一定の接点圧を加えることができる。尚、図6Bの接続方法は、中心導体116と被測定試料20とを合わせた素材としての特性評価に用いることもできる。
点接触をしている電気接点の接触半径は、既知の四端子法を用いた直流抵抗値の測定により計算できる。例えば、直径1−2mmの2本の円柱形の線材を、交差させて圧接することにより、電気接点の大きさを直径数10−100μm程度とすることができる。また、図6Aの構成の試料に実施例1−1のPIM測定方法を適用すると、先端を短絡することにより、電流定在波の腹に相当するレベルの高周波電流が被測定試料の棒状導体を流れる。図6Aの電気接点においては、さらに電流を集中させることで、電気接点近傍の材料のPIMを感度良く測定することができる。
図7は、本実施例のPIM測定方法による、様々なはんだ試料のPIMおよび試料抵抗率を示した図である。測定に用いた伝送線路は、外径が3.58mm、銀メッキした銅の外径0.98mmの中心導体を持つUT−141セミリジッドケーブルを使用した。中心導体は、異種金属接触で発生するPIMを避けるために、さらに、はんだ主成分であるスズでメッキをしてある。試料は、表1に示す各成分組成のはんだ試料であり、それぞれ直径1.6mmの棒状である。中心導体との電気接点半径も表1に示してある。
Figure 0005424220
図7では、中心導体との接続を電気接点とした場合のPIMレベルをプロットしてある。試料の両端をはんだ付けする図6Bの構成で測定した場合を×で示してある。いずれの試料でも電気接点を用いた場合、10−30dB以上もPIMレベルが増加している。各試料の電気接点面積はほぼ等しいため、高周波電流密度はほぼ等しいと考えられる。本実施例の図6Aの構成とすることにより、材料の差異を反映して比較できる程度にまで、各試料のPIMレベルが拡大されていることがわかる。PIMレベルは、各試料の抵抗率との関与も推定され、本実施例のPIM測定により、電気材料の評価ができることを表している。
第1の実施形態にかかるPIM測定方法においては、多様な構成の試料により様々な測定のバリエーションが可能となる。これまで説明した実施例においては、被測定試料は、線材、円柱材、角材、リボン状材、箔状材など、はんだ付けまたは電気接点を形成できるものであれば、その形状を問わない。また、誘電体基板とさらに、先端開放の伝送線路を利用する場合には、様々な形状の試料を自由な位置および向きに配置することができる。さらに、一定形状を持たない鉄粉などの粉体、FET、LEDやチップ部品などの複雑な形状の電気部品の評価が可能である。
先に述べた導体細線は接続が容易であるほか、断面が円形であるため電流が周方向に一様に分布し、電流密度の計算が容易になるという利点がある。細線の本数や直径によっても電流密度が簡単に制御できることは既に述べた。
さらに、第1の実施形態にかかるPIM測定方法では、単純な細線素材ばかりではなく、母材の線材に評価を行ないたい材料を塗布したり、接着したり、メッキをしたり、溶接をしたりなどすることで、複合材料としてPIMを評価することもできる。例えば、母材に銀や銅などの材料を用いて、表面にはんだメッキを施した細線のPIMを評価することで、はんだ材料のPIMを評価したり、はんだと母材との接合面の化合物、あるいは、はんだと母材を合わせた状態のPIMを測定したりできる可能性もある。はんだ材層の層厚を可変することや、試験信号の周波数を適切に選択し、高周波電流の表皮効果に基づいて電流密度の分布を制御することもできるからである。
(第2の実施形態)
第1の実施形態にかかるPIM測定方法は、不整合により生じる定在波を利用して、被測定試料から発生するPIM信号を測定した。図5AおよびBに示した実施例においては、同軸間の内部の電圧定在波の腹または電流定在波の腹の位置に試料を配置して、PIMを測定した。このことから、伝送線路を、開口部を持つ導体箱に接続し、この導体箱内において発生させた定在波の利用へと応用することができる。
図8AおよびBは、本発明の第2の実施形態にかかるPIM測定方法の概念を説明する図である。図8Aは、回路A部31および回路B部32が接続部33を介して接続された構成を持つ試料である。例えば、電子部品やICパッケージ、実装基板などでも良い。この試料にfおよびfの試験信号が印加されると、接続部分33には誘導電流が流れる。ここで、図8Bに示すように接続部分33に不良接合がある場合を考える。不良接合部では、誘導電流に基づいて雑音電磁波成分が発生し得る。この雑音電磁波の発生の有無、および発生レベルによって、不良接合箇所の存在の有無の判定ができる。雑音電磁波は、受動相互変調ひずみfとして試験信号とは異なる周波数において検出が可能である。既に述べたように、PIMはわずかな非線形性を持つ部分において発生するので、微小な不良接合部分も検出ができる。
(実施例2−1)
図9は、実施例2−1にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。このシステムは、図1に示した本発明のPIM測定方法で使用する測定系を変形したものであって、試験信号を発生し終端する部分とPIM信号を分離・検出する部分は、共通している。すなわち、試験信号発生部35a、35b、サーキュレータ36a、36b、終端器43a、43b、DUP37およびPIM測定部38の構成ならびに動作は、図1のPIM測定方法と同じであり説明は省略する。DUP37のアンテナ端に接続された伝送線路42は、開口部において、さらに導体箱39に接続されている。導体箱39の内部には、被測定試料40が配置されている。
開口部より出力された2つの試験信号は、導体箱39の内部で定在波を生じる。被測定試料40の性質に応じて、電流定在波の腹もしくは電圧定在波の腹の位置または適切な試験信号レベルとなる位置に、被測定試料40を配置することができる。導体箱39の寸法および試験信号の周波数により、定在波の分布を予め知ることができる。定在波環境下に被測定試料を置くことで、PIMを検出することにより、半導体パッケージや実装基板などの高周波電源との接続が難しい小型電子部品でも、部品内の接続不良を非破壊で検査することができる。定在波を利用することで、試験信号の電力効率が良く、PIMを感度良く検出することが可能である。また、定在波と試料との相対位関係を制御することにより、PIMの励起状態を制御可能であり、試験信号の周波数を適切に選択することで、不良箇所の位置を特定することも可能となる。この不良接合部分を検出するシステムの導体箱39を伝送線路とすれば、図1に示した本発明のPIM測定方法の測定系と同一の構成となることに注目されたい。
(実施例2−2)
図10は、実施例2−2にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。導体箱40への試験信号の入力方法は、図9の場合と同じであり、PIM測定部の構成が異なっている。すなわち、導体箱39の開口部に対向して、もう一つの開口部を設けて、第2のDUP37bと接続する。第2のDUP37bは、さらに終端器43cおよびPIM測定部38に接続される。PIMによる不良部分の検出動作は、図9の場合と同じである。尚、導体箱39の形状は、直方体に限らず、定在波を発生させることができればどのような形状でも良い。また、試験信号入力およびPIM信号検出用の開口部の位置も、対向している必要はない。定在波を利用してPIMを励起する点において、先に述べた本発明のPIM測定方法と同一の手段を利用していることに注意されたい。
実施例2−1または2−2の構成の不良接合部分を検出するシステムを利用すると、例えば、ジョイントされたコネクタなどに電流を誘導させるための導体を付加し、それを導体箱内に設置すれば、コネクタのPIM特性を非接触状態で評価することができる。
(実施例2−3)
図11AおよびBは、実施例2−3にかかるPIM測定方法であって不良接合部分を検出するシステムの構成図である。この変形例では、導体箱内部において定在波を発生させるための試験信号の入力およびPIM信号の検出のためにアンテナを使用している。図11Aでは、試験信号を放射するアンテナおよびPIM信号を検出するアンテナを備えた構成である。図11Bは、試験信号の放射とPIM信号の検出を1つのアンテナで行なう構成である。導体箱39の内部に被測定試料40を配置する。図11Aの構成では、導体箱39の中に定在波が発生し被測定試料の位置によって、被測定試料40内にあるPIM源41からのPIMレベルの差異を検出できる。また、受信アンテナを移動可能とすることで、被測定試料40内のPIM源41の位置を特定できる。図11Bの場合は、試験信号の発生源も移動するため、アンテナの位置から推定される定在波の位置により被測定試料40内のPIM源41の有無やその位置を特定できる。導体箱39の中でPIM検出を行なうため、従来の同種の不良検出を電波暗室内で行なう必要もない。
図11AおよびBにおいて、先端短絡の同軸線路をアンテナとして使用すると、先端部の試験電流により、DUTの磁気的なPIM特性を、非接触状態で評価することができる。また、先端開放の同軸線路をアンテナとして利用すると、先端部の高い試験電圧によりDUTの電気的なPIM特性を非接触状態で評価することができる。この場合、同軸線路の先端部の近傍にDUTを配置すれば、導体箱を用いることなく評価を行うことができる。この方法について、第3の実施形態で説明する。
被測定試料内のPIM源を特定するためには、上述のような可動アンテナを使用する方法や、被測定試料の一部を導体で覆うことなどで試験信号の被爆を制御することも可能である。第2の実施形態にかかるPIM測定方法を不良部分の検出に使用することで、例えば、ICパッケージの不良接続部分の発見や、不良部分の特定に応用できる可能性がある。ICパッケージを回路動作させない状態で、不良接続部分を検出できるので、多種多様なICパッケージの接続不良、製造不良の検出に応用できる可能性がある。また、導体箱の中でPIM検出を行うため、従来の同種の不良検出を電波暗室内で行う必要もない。
以上詳細に述べたように、第1および第2の実施形態にかかるPIM測定方法および測定システムによれば、整合終端器の影響を排除して、その大きさや形状の制限が極めて少ない測定試料を用いて、高感度のPIMの検出ができるという優れた効果を持つ。PIMを生成させる電流密度の定量化が容易であり、金属材料だけでなく、誘電体、磁性体などの電気材料、磁気材料等の幅広い素材特性の評価を行なうことができる。
(第3の実施形態)
第1の実施形態にかかるPIM測定方法においては、被測定試料により伝送線路端を短絡することによって、被測定試料に試験信号の電流定在波の腹が印加されるようにした。第2の実施形態にかかるPIM測定方法では、導体箱内において発生させた定在波の腹の位置に被測定試料を配置するようにして、誘導電流に基づいて発生する雑音電磁波成分を検出した。一方、第1の実施形態の測定系(図1)において、DUP7に接続された伝送線路9は、アンテナと考えることができるから、第3の実施形態では、伝送線路9の先端から放射される周波数f、fの試験信号を被測定試料に照射する。試験信号の印加によって生ずる誘導電流に基づいて発生する雑音電磁波成分を、伝送線路9を受信アンテナとして検出する。
図16AおよびBは、本発明の第3の実施形態にかかるPIM測定方法における伝送線路の構成を示す図である。図16Aは、UT−141セミリジッドケーブルを使用した線路長165mmの伝送線路61を示す。伝送線路61の先端は、開放されており、中心導体が2mmだけ露出されている。この伝送線路61を開放型プローブとして、図1の測定系の伝送線路9に適用する。試験信号として、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを観測する。試験信号レベルは、それぞれ、DUPのアンテナ端において+43dBm(整合終端時)である。伝送線路61を用いた場合のシステムノイズは−130dBmである。
図16Bは、UT−141セミリジッドケーブルを使用した線路長230mmの伝送線路62を示す。伝送線路62の先端は、例えば、直径1mm程度の中心導体を30mm程度露出させ、これをループ状に折り返して、外部導体に短絡している。この伝送線路62を短絡型プローブとして、図1の測定系の伝送線路9に適用したときのシステムノイズは−128dBmである。
図17は、開放型プローブを用いた点接触試料のPIM測定結果を示す図である。直径0.2mm、長さlのNiのワイヤを、点接触により2本組み合わせてT字状の被測定試料を作製する。被測定試料から伝送線路61の先端までの距離dを1mmおよび3mmとし、試験信号を被測定試料に照射して、PIMレベルを測定した。図17に示したように、ワイヤの長さが長くなるほど、PIMレベルが高くなる。しかし、長さ10mm以上では、PIMレベルの変化の差が小さいことがわかる。
図18は、開放型プローブの分解能を示す図である。直径0.2mm、長さ2mmのFeのワイヤを、点接触により2本組み合わせてT字状の被測定試料を作製する。この被測定試料63a,63b,63cを、X=0の中心位置、および中心位置から所与の間隔で3個配置する。被測定試料から伝送線路61の先端までの距離を1mmとして、試験信号を被測定試料に照射して、PIMレベルを測定した。図18から明らかなように、試料の間隔が3mmの場合、PIMレベルのピークの差は数dBであるが、試料の間隔が5mmの場合、PIMレベルのピークの差は20dBある。従って、試料の間隔が5mm以上あれば、被測定試料の位置を識別できることを示している。さらに、試験信号の周波数を高くすれば、分解能も高くすることができる。
図19は、短絡型プローブの分解能を示す図である。被測定試料として、直径0.5mm、長さ1mmのフェライトビーズ64a,64b,64cを、X=0の中心位置、および中心位置から所与の間隔で3個配置する。被測定試料から伝送線路62の先端までの距離を1mmとして、試験信号を被測定試料に照射して、PIMレベルを測定した。図19から明らかなように、試料の間隔が5mmの場合、PIMレベルのピークの差は10dBあり、被測定試料の位置を識別できることを示している。
第3の実施形態にかかるPIM測定方法によれば、開放型プローブにより、被測定試料の点接触部分、すなわち微小な不良接合部分を検出することができる。また、短絡型プローブによっても不良部分を検出することができる。
次に、第3の実施形態の応用例について説明する。図20Aは、開放型プローブを用いたPIM測定方法により接続不良箇所を探索する際に用いた被測定試料を示す図である。試料(a)は、直径0.2mm、長さl=80mmのNiのワイヤに、直径0.2mm、長さl=10mmのNiのワイヤが7本等間隔(10mm)に接続されている。このとき、#1,#2および#4〜7のワイヤは、はんだによって接続されており(図中○印)、#3のワイヤは点接触である(図中★印)。試料(b)は、直径0.2mm、長さl=80mmのNiのワイヤに、直径0.2mm、長さl=10mmのNiのワイヤが7本等間隔(10mm)に接続されている。このとき、#1〜3および#5〜7のワイヤは、はんだによって接続されており(図中○印)、#4のワイヤは点接触である(図中★印)。試料(c)は、直径0.2mm、長さl=80mmのNiのワイヤに、直径0.2mm、長さl=10mmのNiのワイヤが7本等間隔(10mm)に接続されている。このとき、#1〜7の全てのワイヤは、はんだによって接続されている(図中○印)。
図20Bは、開放型プローブを用いたPIM測定方法により接続不良箇所を探索した結果を示す図である。被測定試料から伝送線路61の先端までの距離を1mmとして、試験信号を照射し、長さl=80mmのNiのワイヤに沿って、開放型プローブの位置を変えながらPIMレベルを測定した。試料(c)では、プローブの位置に寄らずPIMレベルは−120dBm以下と極めて小さなレベルである。これに対して、点接触の接点を有する試料(a)および試料(b)では、点接触の接点付近において、明らかに高いPIMが観測されている。
以上述べたように、第3の実施形態にかかるPIM測定方法によれば、DUPに接続された伝送線路を、試験信号を被測定試料に照射するアンテナおよび被測定試料で発生する雑音電磁波成分を受信するアンテナとして共用することにより、被測定試料と非接触状態で、電子デバイスの不良検出を行うことが可能である。
(第4の実施形態)
第3の実施形態では、伝送線路の先端を試験信号の電波源(点電波源)とし、被測定試料の近傍を走査して、PIMを検出した。ただし、伝送線路9は不整合状態なので、照射する試験信号と、検出する雑音電磁波成分とは、試験信号発生部の試験信号出力レベルと比較して微小電力とならざるを得ない。第4の実施形態では、第1の実施形態の測定系(図1)において、DUP7に信号発生器と整合状態にある平面アンテナを接続する。そして、パッチアンテナなどの2次元平面の電波源(面電波源)から放射される周波数f、fの試験信号を、アンテナの近傍界に配置された被測定試料に照射してPIMを検出する。第3の実施形態と同様に、被測定試料とは非接触の状態でありながら、アンテナが整合状態にあるので、低電力、高効率にPIMを検出することができる。
ここで、アンテナと被測定試料との位置関係を、「近傍界」と「遠方界」とにより定義する。「近傍界」とは、被測定試料から見て、アンテナを点電波源とみなすことができず、アンテナから放射される電磁波の位相の影響を受ける領域をいう。近傍界からさらに離れた領域を「遠方界」といい、アンテナを点電波源とみなすことのできる領域をいう。
図21は、本発明の第4の実施形態にかかる平面アンテナの構成を示す図である。平面アンテナ201は、パッチアンテナ211となるパターンがa面に形成された第1基板202と、無給電パッチ214となるパターンがb面に形成された第2基板203と、パッチアンテナ211とコネクタ205とを接続する伝送線路204とを備えている。パッチアンテナ211と伝送線路204とは、整合用のスタブ212を介して接続されている。また、パッチアンテナ211の給電部と対向する位置にもスタブ213が形成されており、平面アンテナ201は、コネクタ205と接続される信号発生器と十分に整合がとれている。
第4の実施形態では、このような低反射係数(リターンロス)を有する平面アンテナ201の近傍界において、リターンロスに影響を与えない小さな試料を配置する。ここでは、直径0.2mmのFeのワイヤを用いて、外径3.6mm、長さ20mm、巻き数20回のコイル型の試料を作製した。
図22Aは、コイル型試料の平面アンテナ上の位置を示す図である。上述したコイル型の試料を、図21に示した平面アンテナ201の第2基板203のc面に載置した。図22Bは、コイル型試料の位置と平面アンテナのリターンロスとの関係を示す図である。コイル型試料の位置を、図22Aに示した3カ所において、リターンロスを測定した。図22Bによれば、試験信号として使用する周波数2GHz付近においても、コイル型試料を置かない場合と比較して、リターンロスに変化がないことがわかる。
次に、平面アンテナ201の近傍界において、被測定試料であるコイル型試料に試験信号を照射する。図23Aに示したように、図21に示した平面アンテナ201の第2基板203のc面に載置した。コイル型試料を、パッチアンテナ211の給電部を通る中心線上の9カ所の位置に載置して測定した。試験信号として、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを観測する。
図23Bは、コイル型試料の位置に応じたPIMの測定結果を示す図である。パッチアンテナ211の中央部のPIMレベルは、−150dBmと極めて小さなレベルである。これに対して、給電部に接続される一辺の近傍、および対向する一辺の近傍では、−80dBm以上の高いPIMが観測されている。これは、パッチアンテナ211の電流分布が、上記の2辺において腹となり、中央部において節となるからである。
このとき試験信号レベルは、平面アンテナ201の給電部において0dBm(整合終端時)である。信号発生器の出力は、平面アンテナ201と信号発生器とが整合状態にあり、平面アンテナ201の特性が被測定試料により影響を受けない状態にあるので、信号発生器の出力電力が低電力であってもPIMを検出することができる。また、平面アンテナと被測定試料との相対位置関係に応じてPIM測定レベルが異なるので、PIM発生源の位置を特定することができる。
図24に、コイル型試料の位置に応じたPIMレベルの分布を示す。図23A,Bに示した方法で、図21に示した平面アンテナ201の第2基板203のc面上の分布を測定した。上述したように、パッチアンテナの電流分布に応じたPIMレベルの変化がよくわかる。
第4の実施形態によれば、アンテナの近傍界において、アンテナの特性に影響を与えない小さな試料を用いることにより、被測定試料とは非接触の状態でありながら、PIMを検出することができる。また、アンテナが整合状態にあるので、低電力、高効率にPIMを検出することができる。
次に、平面アンテナと被測定試料との間の距離依存性について説明する。図25Aに、コイル型試料の平面アンテナ201上の位置を示す。図24に示したPIMレベルの分布において、PIMレベルの高い位置2カ所と、PIMレベルの低い位置1カ所とを選択し、第2基板203のc面上にコイル型試料を配置した。それぞれの位置で、c面からの高さを変えてPIMを測定した。試験信号として、f=2200MHz、f=2050MHzを入力し、3次のPIM信号f=1900MHzを観測する。試験信号レベルは、平面アンテナ201の給電部において0dBm(整合終端時)である。
図25Bは、コイル型試料の高さに応じたPIMの測定結果を示す図である。高さ1cm以下の領域では、コイル型試料の平面アンテナ上のc面に位置に応じて、PIM測定レベルに差があることから、近傍界においては、PIM発生源の位置を特定できることがわかる。一方、高さ2cm付近から、コイル型試料と平面アンテナとのc面上の相対位置によらず、PIM測定レベルがほぼ等しくなる。すなわち、この平面アンテナの場合、高さ2cm以上を、本明細書における意味において遠方界ということができる。
図25Bからわかるように、遠方界においても、コイル型試料と平面アンテナとの距離に応じて、PIM測定レベルに有意差があることから、PIM発生源の有無を検出することができる。そこで、上述の実施形態のように、被測定試料における不良接続部分の検出に用いるのではなく、不良接続部分を有する試料を積極的に用いて、試料の有無の検出を行うことが考えられる。
例えば、第3の実施形態に使用したT字状の試料が取り付けられた物体が、平面アンテナの遠方界を通過したか否かを検出することができる。
本発明は、電気材料、磁気材料などの電気的、磁気的な特性を初めとして、材料の特性測定に利用可能である。また、これらの材料特性の測定装置に利用ができる。さらに、電子部品などの接続不良、性能不良の検出などの製造検査装置への利用が可能である。
1、2、101、102 試験信号発生部
3、4 サーキュレータ
5、6、105 終端器
7、107 DUP
8、106 PIM測定部
9、61、62 伝送線路
63a、63b、63c 被測定資料
64a、64b、64c フェライトビーズ

Claims (2)

  1. 高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、
    相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、
    前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、
    前記信号分離手段の前記第2の端子に一端を接続された同軸線路であって、他端から試験信号を放射し、該試験信号により被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を検出する同軸線路と、
    前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段と
    を備え
    前記同軸線路の前記他端は開放されており、前記同軸線路は不整合状態にあって、前記同軸線路を経由して、前記試験信号の印加によって前記被測定試料において生ずる誘導電流に基づいて発生する受動相互変調ひずみ信号を検出することを特徴とする測定システム。
  2. 高周波帯域において被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を測定するシステムであって、
    相異なる周波数の複数の試験信号を発生させる複数の信号発生手段と、
    前記複数の信号発生手段からの前記複数の試験信号が入力される第1の端子と、前記第1の端子から入力された前記複数の試験信号が出力され前記受動相互変調ひずみ信号が入力される第2の端子と、前記受動相互変調ひずみ信号のみを出力する第3の端子とを含む信号分離手段と、
    前記信号分離手段の前記第2の端子に一端を接続された同軸線路であって、他端から試験信号を放射し、該試験信号により被測定試料から発生する受動相互変調ひずみ信号を検出する同軸線路と、
    前記信号分離手段の前記第3の端子に接続され、前記受動相互変調ひずみ信号を測定する受動相互変調ひずみ測定手段と
    を備え、
    前記同軸線路の前記他端は、短絡されており、前記同軸線路は不整合状態にあって、前記同軸線路を経由して、前記試験信号の印加によって前記被測定試料において生ずる誘導電圧に基づいて発生する受動相互変調ひずみ信号を検出することを特徴とする測定システム。
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