JP5421872B2 - 曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板並びに高強度α+β型チタン合金板の製造方法 - Google Patents
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Moを代表とする全率固溶型β安定化元素は、β相の体積比を増加させると共に、β相に固溶してチタン合金の強度上昇に寄与する。また、チタン母材中に固溶して微細な等軸晶組織を作りやすくする性質もあり、優れた強度・延性バランスを確保するうえで有用な元素である。こうした全率固溶型β安定化元素による作用を有効に発揮させるためには、Mo当量で2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が多すぎると、β焼鈍後の延性が低下するほか、耐食性が増大して、冷間圧延後に行われる最終焼鈍時に生成する酸化スケールおよびαケースと呼ばれる酸素が固溶した地金の除去が困難になり、加工性を阻害するばかりではなくチタン合金全体の密度を高め、チタン合金が本来有しているはずの高比強度という特性を損なうため、その含有量は、Mo当量で4.5質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下とする必要がある。
Feを代表とする共析型β安定化元素は、少量の添加でチタン合金の強度を高めることができるほか、熱間加工性を向上させる作用も有している。また、その理由は明確ではないが、特にFeをMoと共存させると冷間加工性を高めることができる。こうした共析型β安定化元素による作用を有効に発揮させるためには、共析型β安定化元素をFe当量で0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が多すぎると、β焼鈍後の延性が大きく低下するほか、鋳塊製造時の偏析が顕著になって品質安定性を阻害する原因となるので、その含有量は、Fe当量で2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下とする必要がある。
Alを代表とするα安定化元素は、チタン合金の強度向上に寄与する元素であり、その含有量がAl当量で3質量%以下であると、チタン合金が強度不足となる。尚、強度と冷間加工性の兼ね合いを考慮すると、より好ましいα安定化元素のAl当量の下限は3.5質量%である。一方、その含有量が5.5質量%を超えると限界冷延率が低くなって冷間加工性が低下し、所定の厚さに圧延するまでの冷間圧延および焼鈍の回数を増やす必要が生じ、コストの上昇につながる。
前述した全率固溶型β安定化元素、共析型β安定化元素、α安定化元素に関する要件を満たすチタン合金は、限界冷延率が40%程度以上の優れた冷間加工性を有するα+β型チタン合金であるが、このままでは強度特性や溶接性は必ずしも十分ではなく、更にSiを0.1〜1.5質量%含有させることで所望の特性を満足させることができる。
Cは、α+β型チタン合金の優れた延性を維持しつつ強度特性を更に高める作用を有し、また、溶接熱影響部については、若干の延性低下を招くものの強度を著しく高める作用を有しており、このようなCの添加効果によってチタン合金母材の強度や延性は一段と高められ、溶接熱影響部の強度と延性を更に高めることができる。
本発明では、先に示したSiやCに加えて、少量のO(酸素)を含有させることで、α+β型チタン合金の優れた延性に悪影響を殆ど及ぼすことなく強度特性を一段と高めることができるので好ましい。以上の作用をより効果的に発揮させるには、Oを0.07質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上含有させる必要がある。一方で、Oの含有量が多くなりすぎると、冷間加工性が低下するほか、過度の強度上昇により延性も低下してくるので、Oの含有量は0.25質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下に止める必要がある。
本発明においては、1μm以上のα相を適量生成すると共に、その平均アスペクト比を制御することで、曲げ加工性および曲げ異方性を改善している。ここで、1μm以上のα相の面積率が大きくなりすぎると、α+β型チタン合金板の異方性が大きくなりすぎる傾向があり、結果としてα+β型チタン合金板のα相の曲げ異方性が悪化する。従って、1μm以上のα相の面積率の上限は53%とする。より好ましい上限は50%、更に好ましい上限は48%である。また、反対に1μm以上のα相の面積率が小さくなりすぎると、すなわち、微細な、針状のα相の面積率が大きくなりすぎる状態となって、この場合も曲げ加工性および曲げ異方性が悪化することとなる。従って、1μm以上のα相の面積率の下限は20%である。より好ましい下限は25%、更に好ましい下限は28%である。
1μm以上のα相の平均アスペクト比を規定することで、α+β型チタン合金板の曲げ異方性を向上させることができる。1μm以上のα相の平均アスペクト比が大きすぎると、1μm以上のα相の形状がその圧延方向(L方向)に対して横長に扁平した形状のα相が多くなりすぎて、板の圧延垂直方向(T方向)の曲げ加工性が悪くなりすぎ、結果として曲げ異方性が大きくなる。1μm以上のα相の平均アスペクト比の上限は2.0であり、より好ましい上限は1.8である。
次に、本発明のα+β型チタン合金板の製造方法について説明する。通常のチタン合金板は、分塊圧延→熱間圧延→中間焼鈍→冷間圧延→最終焼鈍といった各工程間に、随時ブラスト、酸洗処理を入れて製造される。
本実施例では、上記各パラメータの測定を、電界放出型走査顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)(日本電子社製、JSM5410)に、後方錯乱電子回析像(Electron Back Scattering(Scattered) Pattern:EBSP)システムを搭載した結晶方位解析法で行った。この測定方法を用いたのは、EBSP法は他の測定方法と比較して高分解能であり、高精度な測定ができるためである。まず、測定原理について説明する。
製造した各チタン合金板から、長さ130mm×幅20mm×厚み1.0 mmの短冊状試験片を採取し、この短冊状試験片を用いて、JIS Z 2248に準拠してL方向(板の圧延方向)とT方向(板の圧延垂直方向)の密着曲げを行った。目視により割れの発生を確認し、L方向、T方向共に割れが発生したときの最小曲げ半径(Minimum Bending Radius):R/tを求めた。これらを夫々L曲げ、T曲げとし、T曲げ/L曲げを求めて曲げ異方性とした。本発明のα+β型チタン合金板は、単に曲げ異方性が優れているだけではなく、曲げ加工性も優れていることを要件としており、本実施例では、L曲げが3.0以下、T曲げが4.0以下であり、且つ、曲げ異方性(T曲げ/L曲げ)が1.5以下のものを合格とし、曲げ異方性に優れたα+β型チタン合金板とした。
Claims (2)
- 全率固溶型β安定化元素の少なくとも1種をMo当量で2.0〜4.5質量%、共析型β安定化元素の少なくとも1種をFe当量で0.3〜2.0質量%、α安定化元素の少なくとも1種をAl当量で3質量%超5.5質量%以下含有すると共に、更にSiを0.1〜1.5質量%、Cを0.01〜0.15質量%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物である高強度α+β型チタン合金板であって、
後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の面積率が20〜53%であり、且つ、後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下であることを特徴とする曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板。 - 請求項1記載の高強度α+β型チタン合金板の製造方法であって、
請求項1に記載の組成を有するチタン合金鋳塊を分塊圧延して圧延スラブを得た後、前記圧延スラブを[β変態点温度(Tβ)−30℃]±20℃のα+β温度域に加熱して熱間圧延を行い、その後、600℃〜Tβの温度範囲での中間焼鈍と、40%以下の圧下率での冷間圧延を、繰り返し行った後、最終焼鈍を実施して前記チタン合金板の製造を行うものであり、
前記最終焼鈍の焼鈍温度を、(Tβ−150℃)以上、Tβ以下とし、焼鈍時間を1分以上とすることを特徴とする高強度α+β型チタン合金板の製造方法。
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