JP5421872B2 - 曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板並びに高強度α+β型チタン合金板の製造方法 - Google Patents

曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板並びに高強度α+β型チタン合金板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板並びに高強度α+β型チタン合金板の製造方法に関するものである。
チタン合金は、軽量で且つ強度、靭性、耐食性に優れたものであることから、近年、航空機産業や化学工業の分野を中心に広く実用化されている。一方で、チタン合金は加工性の悪い金属材料であって、成形加工にかかる製造コストが他の加工材料と比較して非常に高くなるという大きな欠点を有している。例えば、α+β型チタン合金の代表でもあるTi−6Al−4V合金は、難加工材であって常温加工性が悪く、冷間加工によってチタン合金板とすることは現在の技術では非常に困難であるのが実情となっている。
そこで、Ti−6Al−4V合金を板状に加工するには、パック圧延という手法が採用されている。このパック圧延という手法は、一旦、熱間圧延によって加工したTi−6Al−4V合金板を、複数枚層状に重ね合わせて軟鋼製の収納箱(パック)に入れ、所定の温度より下がらないように保温しつつ熱間圧延により所望の薄板とする方法である。しかしながら、このパック圧延は、パックを製造するための軟鋼カバーやパック溶接が必要で、また、チタン合金板同士の拡散接合を阻止するため、重ね合わせるチタン合金板の表面に離型剤を塗布しなければならないなど、冷間圧延と比較して作業性が極めて悪く、多大な費用を必要とするうえに、更には、熱間圧延に適した温度域が700℃前後と限られているため、加熱温度、加熱時間等、加工上の制約も多いという様々な問題を有している。
このような実情に対し、特許文献1や特許文献2で、チタン母材中のAl、VおよびMoの含有量を規定し、且つ、Fe、Ni、Co、Crから選ばれる少なくとも1種の合金元素を適量含有させることによって、Ti−6Al−4V合金並みの強度を有すると共に、超塑性加工性や熱間加工性においてTi−6Al−4V合金より優れたチタン合金が得ることができるという提案がなされている。
また、特許文献3や特許文献4として、Al含有量を1.0〜4.5%レベルに低減すると共に、V含有量を1.5〜4.5%、Mo含有量を0.1〜2.5%に規定し、或いは更に少量のFeやNiを含有させることによって、高強度を維持しつつ冷間圧延性を高め、更には溶接性(特に溶接熱影響部の強度)も高めたチタン合金に関する提案がなされている。
このようなチタン合金は、冷間加工性と高強度を兼ね備え、且つ溶接性も改善された点で優れたものであるとはいえるが、一方で、優れた冷間加工性を確保することの必要上、塑性加工時の変形抵抗が抑えられているため強度が低くなり、高強度とは記載されてはいるものの、焼鈍後の0.2%耐力で784MPa程度を確保するのが限界で、それ以上に強度を高めることは不可能であり、例えば、コイル製造は殆ど不可能であった。
このような問題を解決することを目的に開発されたチタン合金が、本出願人が先に提案した特許文献5に記載の発明である。このチタン合金はα+β型チタン合金であり、その成分組成を、全率固溶型β安定化元素の少なくとも1種をMo当量で2.0〜4.5質量%、共析型β安定化元素の少なくとも1種をFe当量で0.3〜2.0質量%を含み、更にSi:0.1〜1.5質量%、およびC:0.01〜0.15質量%を含有すると共に、Al当量が3質量%超5.5質量%以下としたものである。
このような成分組成のα+β型チタン合金とすることで、焼鈍後の0.2%耐力で813MPa程度以上、抗張力で882MPa程度以上、限界冷延率が40%程度以上とすることができ、コイル製造については可能になった。尚、限界冷延率とは、工業的観点からすると、僅かな割れが発生してもその割れがある程度(例えば5mm程度)で進展が止まっている状態から、板の表面まで割れが進展し始める限界の板厚減少率のことを示し、以下の本発明の説明においても多用する。
しかしながら、このα+β型チタン合金を冷間圧延でチタン合金板に加工した場合、曲げ加工性がやや低くなること、および、L方向(板の圧延方向)とT方向(板の圧延垂直方向)での曲げ異方性が極めて顕著に現れることが多く、高強度、高延性を兼ね備えたこの成分組成のα+β型チタン合金を用いて、曲げ加工性および曲げ異方性が改善されたチタン合金板を確実に得ることができる技術を開発することが従来からの課題となっていた。
特開平3−274238号公報 特開平3−166350号公報 特開平7−54081号公報 特開平7−54083号公報 特許第3297027号公報
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、高強度、高延性という特性を兼ね備えたうえに、曲げ加工性に優れ、また、曲げ異方性にも優れた高強度α+β型チタン合金板、並びに、高強度α+β型チタン合金板の製造方法を提供することを課題とするものである。
請求項1記載の発明は、全率固溶型β安定化元素の少なくとも1種をMo当量で2.0〜4.5質量%、共析型β安定化元素の少なくとも1種をFe当量で0.3〜2.0質量%、α安定化元素の少なくとも1種をAl当量で3質量%超5.5質量%以下含有すると共に、更にSiを0.1〜1.5質量%、Cを0.01〜0.15質量%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物である高強度α+β型チタン合金板であって、後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の面積率が20〜53%であり、且つ、後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下であることを特徴とする曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板である。
繰り返し述べるが、本発明において、「1μm以上のα相」とは、後方錯乱電子回析像(Electron Back Scattering(Scattered) Pattern:EBSP)法により測定した円相当直径が1μm以上であるα相を指す。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の高強度α+β型チタン合金板の製造方法であって、請求項1に記載の組成を有するチタン合金鋳塊分塊圧延して圧延スラブを得た後、前記圧延スラブを[β変態点温度(Tβ)−30℃]±20℃のα+β温度域に加熱して熱間圧延を行い、その後、600℃〜Tβの温度範囲での中間焼鈍と、40%以下の圧下率での冷間圧延を、繰り返し行った後、最終焼鈍を実施して前記チタン合金板の製造を行うものであり、前記最終焼鈍の焼鈍温度を、(Tβ−150℃)以上、Tβ以下とし、焼鈍時間を1分以上とすることを特徴とする高強度α+β型チタン合金板の製造方法である。
本発明によると、高強度、高延性という特性を兼ね備えたうえに、曲げ加工性に優れ、また、曲げ異方性にも優れたα+β型チタン合金板を得ることができる。更には、チタン本来の優れた耐久性はもとより、高い機械的強度に加えて、優れた曲げ加工性および曲げ異方性を有しているので、航空機部材のほか、熱交換器用のプレート材、Tiゴルフヘッド材料、各種線材、棒材、登山用品や釣り具などの民生品等の用途に広く適用することができる。
本発明者らは、特許文献5に記載の高強度、高延性という特性を兼ね備えたα+β型チタン合金を用いて、L方向(板の圧延方向)とT方向(板の圧延垂直方向)での曲げ異方性が改善されたチタン合金板を確実に得ることができるα+β型チタン合金板に関する技術を開発するために、鋭意、実験、研究を進めた。その結果、1μm以上のα相の面積率が20〜53%であり、且つ、1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下とすることで、チタン合金板の曲げ加工性および曲げ異方性を向上できることを見出し、本発明の完成に至った。
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。本発明では、チタン合金板の成分組成と、1μm以上のα相の面積率および平均アスペクト比を規定するが、まず、成分組成について説明する。
(全率固溶型β安定化元素の少なくとも1種をMo当量で2.0〜4.5質量%)
Moを代表とする全率固溶型β安定化元素は、β相の体積比を増加させると共に、β相に固溶してチタン合金の強度上昇に寄与する。また、チタン母材中に固溶して微細な等軸晶組織を作りやすくする性質もあり、優れた強度・延性バランスを確保するうえで有用な元素である。こうした全率固溶型β安定化元素による作用を有効に発揮させるためには、Mo当量で2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が多すぎると、β焼鈍後の延性が低下するほか、耐食性が増大して、冷間圧延後に行われる最終焼鈍時に生成する酸化スケールおよびαケースと呼ばれる酸素が固溶した地金の除去が困難になり、加工性を阻害するばかりではなくチタン合金全体の密度を高め、チタン合金が本来有しているはずの高比強度という特性を損なうため、その含有量は、Mo当量で4.5質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下とする必要がある。
尚、全率固溶型β安定化元素としては、代表的な元素としてMoを挙げることができるが、Moと同様の効果を奏する全率固溶型β安定化元素としては、V、Ta、Nb等も挙げることができる。全率固溶型β安定化元素としてV、Ta、Nb等を含有する場合には、[Mo+1/1.5・V+1/5・Ta+1/3.6・Nb]から求めることができるMo当量が、2.0〜4.5質量%の範囲となるようにして調整する必要がある。
(共析型β安定化元素の少なくとも1種をFe当量で0.3〜2.0質量%)
Feを代表とする共析型β安定化元素は、少量の添加でチタン合金の強度を高めることができるほか、熱間加工性を向上させる作用も有している。また、その理由は明確ではないが、特にFeをMoと共存させると冷間加工性を高めることができる。こうした共析型β安定化元素による作用を有効に発揮させるためには、共析型β安定化元素をFe当量で0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が多すぎると、β焼鈍後の延性が大きく低下するほか、鋳塊製造時の偏析が顕著になって品質安定性を阻害する原因となるので、その含有量は、Fe当量で2.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下とする必要がある。
尚、共析型β安定化元素としては、代表的な元素としてFeを挙げることができるが、Feと同様の効果を奏する共析β安定化元素としては、Cr、Ni、Co、Mn等も挙げることができる。共析型β安定化元素としてCr、Ni、Co、Mn等を含有する場合には、[Fe+1/2・Cr+1/2・Ni+1/1.5・Co+1/1.5・Mn]から求めることができるFe当量が、0.3〜2.0質量%の範囲となるようにして調整する必要がある。
(α安定化元素の少なくとも1種をAl当量で3質量%超5.5質量%以下)
Alを代表とするα安定化元素は、チタン合金の強度向上に寄与する元素であり、その含有量がAl当量で3質量%以下であると、チタン合金が強度不足となる。尚、強度と冷間加工性の兼ね合いを考慮すると、より好ましいα安定化元素のAl当量の下限は3.5質量%である。一方、その含有量が5.5質量%を超えると限界冷延率が低くなって冷間加工性が低下し、所定の厚さに圧延するまでの冷間圧延および焼鈍の回数を増やす必要が生じ、コストの上昇につながる。
尚、α安定化元素としては、代表的な元素としてAlを挙げることができるが、Alと同様の効果を奏するα安定化元素としては、Sn、Zr等も挙げることができる。α安定化元素としてSn、Zr等を含有する場合には、[Al+1/3・Sn+1/6・Zr]から求めることができるAl当量が、3質量%超5.5質量%以下の範囲となるようにして調整する必要がある。
(Siを0.1〜1.5質量%)
前述した全率固溶型β安定化元素、共析型β安定化元素、α安定化元素に関する要件を満たすチタン合金は、限界冷延率が40%程度以上の優れた冷間加工性を有するα+β型チタン合金であるが、このままでは強度特性や溶接性は必ずしも十分ではなく、更にSiを0.1〜1.5質量%含有させることで所望の特性を満足させることができる。
すなわち、Siは、α+β型チタン合金の冷延性に悪影響を殆ど及ぼすことなく強度特性を高める作用を有し、また、溶接熱影響部についても強度と延性を高める作用を発揮する。こうした作用をより効果的に発揮させるためには、前述したように、Siを0.1〜1.5質量%という極めて限られた範囲で含有させることが必要であり、Siの含有率が0.1質量%未満である場合は、強度不足になる傾向があるほか、溶接部の強度−延性バランスの向上効果も不十分になる。一方、Siの含有率が1.5質量%を超えると、冷延性が乏しくなる。より好ましいSiの含有率の下限値は0.2質量%、上限値は1.0質量%である。
(Cを0.01〜0.15質量%)
Cは、α+β型チタン合金の優れた延性を維持しつつ強度特性を更に高める作用を有し、また、溶接熱影響部については、若干の延性低下を招くものの強度を著しく高める作用を有しており、このようなCの添加効果によってチタン合金母材の強度や延性は一段と高められ、溶接熱影響部の強度と延性を更に高めることができる。
以上の作用をより効果的に発揮させるには、Cを0.01〜0.15質量%という極めて限られた範囲で含有させる必要があり、Cの含有率が0.01質量%未満である場合は、強度不足になる。一方、Cの含有率が0.15質量%を超えると、TiCのような炭化物の顕著な析出硬化によって冷延性が損なわれることになる。より好ましいCの含有率の下限値は0.02質量%、上限値は0.12質量%である。
(Oを0.07〜0.25質量%)
本発明では、先に示したSiやCに加えて、少量のO(酸素)を含有させることで、α+β型チタン合金の優れた延性に悪影響を殆ど及ぼすことなく強度特性を一段と高めることができるので好ましい。以上の作用をより効果的に発揮させるには、Oを0.07質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上含有させる必要がある。一方で、Oの含有量が多くなりすぎると、冷間加工性が低下するほか、過度の強度上昇により延性も低下してくるので、Oの含有量は0.25質量%以下、より好ましくは0.18質量%以下に止める必要がある。
本発明において、全率固溶型β安定化元素、共析型β安定化元素、α安定化元素を、本発明に規定する要件で適量含有するα+β型チタン合金に、適量のSiとC、更には適量のOを含有させることで、前述したような作用効果が発揮される理由は明確には解明されていないが、以下に説明するような理由が考えられる。
すなわち、適量のSiを含有させることによって冷延性を損なうことなく強度特性が高められる理由については、Siはβ相中に固溶して強度向上に寄与するにもかかわらず延性には大きな阻害要因とはならず、また固溶限を超えてSiを含有させてもシリサイドが形成されることによって、β相中のSi濃度はある一定値以下に保たれる。従って、過度のシリサイドの生成により延性が阻害されない範囲にSiの含有量を抑えてやれば、高延性を維持しつつ強度特性が高められると考えられる。
更には、適量のSiを含有させると、β相中に生成するシリサイドによって、溶接熱影響部における結晶組織の粗大化が抑制され、且つ、シリサイドの析出によって、Tiがトラップされてβ相が安定し、或いは、固溶Siの変態抑制作用によって、残留β相が増大し、これらの効果が相俟って溶接性が改善されると考えられる。
また、Cもα相中に固溶して強度向上に寄与するが、α相の延性にはそれほど大きな阻害要因とはならない。しかも、固溶限を超えるCが含有されていても、カーバイドが形成されることでα相中のC濃度はある一定値以下に保たれる。従って、過度のカーバイドの生成により延性が阻害されない範囲にCの含有量を抑えてやれば、高延性を維持しつつ強度特性が高められると考えられる。
尚、SiおよびCは、前述した作用効果に加えてチタン合金の耐熱性を高める作用も発揮する。
また、Oは、α相、β相の双方に固溶して固溶強化作用を発揮するが、何れの相においても固溶量が多くなると延性を阻害するので、その含有量は前述した範囲の含有量、すなわち、極少量に抑えるべきである。
以上説明したチタン合金には、前述した元素以外の不純物元素が不可避的に混入してくることがあるが、その特性を阻害しない限りそれら不可避的不純物元素の微量の含有は許容される。また、前記特性を維持しつつ更に他の特性を与えるため、必要であれば、これら不可避的不純物元素を積極的に含有させることは可能である。それら積極的に含有させても問題のない元素としては、耐食性向上効果を発揮する白金族元素(Pb、Ru、Ir、Inなど:好ましくは0.03〜0.2質量%程度)、耐熱性向上効果を発揮するP(好ましくは0.05質量%程度以下)、強度向上効果を発揮するN(好ましくは0.03質量%程度以下)などを例示することができる。
以上説明した成分組成のα+β型チタン合金は、高レベルの強度特性を有しながら優れた延性を有し、更には、溶接性においても優れた特性を有するものであり、具体的には、α+β温度域で焼鈍した後の0.2%耐力が813MPa程度以上、抗張力で882MPa程度以上、限界冷延率が40%程度以上を示すものとなる。
しかしながら、この高強度α+β型チタン合金を冷間圧延でチタン合金板に加工した場合、曲げ加工性が低く、またL方向(板の圧延方向)とT方向(板の圧延垂直方向)での曲げ加工性の差異が極めて顕著に現れることが多く、単に、このような成分組成の高強度α+β型チタン合金を用いただけでは、曲げ加工性および曲げ異方性が改善されたチタン合金板を確実に得ることはできない。そこで、本発明では、α+β型チタン合金板の1μm以上のα相の面積率および平均アスペクト比を規定することでα+β型チタン合金板の曲げ加工性および曲げ異方性を改善した。尚、1μm以上のα相の平均アスペクト比、および1μm以上のα相の面積率の求め方については、後の実施例の欄で詳しく説明する。
(1μm以上のα相の面積率が20〜53%)
本発明においては、1μm以上のα相を適量生成すると共に、その平均アスペクト比を制御することで、曲げ加工性および曲げ異方性を改善している。ここで、1μm以上のα相の面積率が大きくなりすぎると、α+β型チタン合金板の異方性が大きくなりすぎる傾向があり、結果としてα+β型チタン合金板のα相の曲げ異方性が悪化する。従って、1μm以上のα相の面積率の上限は53%とする。より好ましい上限は50%、更に好ましい上限は48%である。また、反対に1μm以上のα相の面積率が小さくなりすぎると、すなわち、微細な、針状のα相の面積率が大きくなりすぎる状態となって、この場合も曲げ加工性および曲げ異方性が悪化することとなる。従って、1μm以上のα相の面積率の下限は20%である。より好ましい下限は25%、更に好ましい下限は28%である。
(1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下)
1μm以上のα相の平均アスペクト比を規定することで、α+β型チタン合金板の曲げ異方性を向上させることができる。1μm以上のα相の平均アスペクト比が大きすぎると、1μm以上のα相の形状がその圧延方向(L方向)に対して横長に扁平した形状のα相が多くなりすぎて、板の圧延垂直方向(T方向)の曲げ加工性が悪くなりすぎ、結果として曲げ異方性が大きくなる。1μm以上のα相の平均アスペクト比の上限は2.0であり、より好ましい上限は1.8である。
(製造条件)
次に、本発明のα+β型チタン合金板の製造方法について説明する。通常のチタン合金板は、分塊圧延→熱間圧延→中間焼鈍→冷間圧延→最終焼鈍といった各工程間に、随時ブラスト、酸洗処理を入れて製造される。
本発明のチタン板を製造するための製造条件を、本発明者らが鋭意検討したところ、以下に示す製造条件を採用することで、本発明で意図する曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板を確実に製造することができることを確認した。
その製造条件は、分塊圧延、熱間圧延、冷間圧延については従来とほぼ同様の条件を採用するものの、最終焼鈍の焼鈍温度を従来採用されていた条件よりも高温にすること、すなわち、Tβ−150℃以上Tβ以下、焼鈍時間を1分以上とすることである。
より具体的に説明すると、本発明のα+β型チタン合金板は、鋳塊をTβ以上で分塊(鍛造または圧延)して圧延スラブを得た後、当該スラブをTβ以下のα+β温度域(通常、[Tβ−30℃]±20℃前後)に加熱して熱間圧延する。その後、600℃〜Tβの温度範囲で焼鈍し、脱スケール処理を行って熱延材を得る。該熱延材を用いた冷延は、圧下率で40%以下程度を目安として、600℃〜Tβの温度範囲で焼鈍する操作を繰り返し行って、所定の板厚を得る。
その後、最終焼鈍を行うが、従来の製造条件では、最終焼鈍は表面酸化の影響などを考慮して、600℃〜(Tβ−170℃)程度の比較的低めの温度範囲で行われていた。しかし、本発明者の検討の結果、従来よりも高温、すなわち、Tβ−150℃以上Tβ以下の温度で焼鈍することによって、前記したような本発明のα+β型チタン合金板組織を得ることができることが分かった。最終焼鈍の温度がTβ−150℃未満、すなわち、従来のような比較的低めの温度範囲であると、1μm以上のα相の面積率が大きくなりすぎ、また1μm以上のα相のアスペクト比も大きくなりすぎるため、その結果、曲げ加工性や曲げ異方性に劣ることとなる。最終焼鈍温度の好ましい下限はTβ−120℃、更に好ましくはTβ-90℃である。また、最終焼鈍温度がTβを超える高温となると、1μm以上のα相の面積率が小さくなりすぎ、また1μm以上のα相のアスペクト比も大きくなりすぎるため、やはり、曲げ加工性や曲げ異方性に劣ることとなる。最終焼鈍温度の好ましい上限はTβ−20℃である。
最終焼鈍における焼鈍時間は1分以上とする必要がある。1μm以上のα相のアスペクト比を2.0以下とすることができない。好ましくは3分以上とする。焼鈍時間の上限は、上記組織制御の観点からは特に規定しないが、20分を超えて行うことは酸化層の形成による歩留まりの低下の観点などから不要であり、20分以下とすることが好ましく、より好ましくは15分以下である。
尚、Tβとはβ変態点のことであり、α+β型チタン合金板の成分組成にもよるが、本発明のα+β型チタン合金板ではおおよそ970℃程度である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
本実施例では、まず、CCIM(コールドクルーシブル誘導溶解法)により、本発明の成分組成を満足するTi−4.5Al−2Mo−1.6V−0.5Fe−0.3Si−0.03C(全て質量%)でなるチタン合金鋳塊を鋳造した。この鋳塊の大きさはφ100mmの円柱形で、約10kgである。この鋳塊を用いて分塊圧延を行い、その後は放冷して厚み75mm、幅100mmの板形状の分塊圧延材を得た。更に、950℃に加熱した後に直ちに熱間圧延を実施し、スケール除去を行い厚み約4.5mmの熱延板を得た。
次いで、大気炉にて、850℃で3分間加熱してから空冷する焼鈍処理、スケール除去、冷間圧延率30%の冷間圧延を繰り返す工程を、計3回実施した後、大気炉にて、表1に示す各条件(焼鈍温度、焼鈍時間)で焼鈍処理(最終焼鈍)を行い、スケール除去を行って厚み1.0mmのチタン合金板を製造した。
本実施例では、製造した各チタン合金板の金属組織の観察・測定と、曲げ異方性の評価を夫々下記の要領で行った。試験結果を表1に示す。
(1μm以上のα相の平均アスペクト比、1μm以上のα相の面積率)
本実施例では、上記各パラメータの測定を、電界放出型走査顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)(日本電子社製、JSM5410)に、後方錯乱電子回析像(Electron Back Scattering(Scattered) Pattern:EBSP)システムを搭載した結晶方位解析法で行った。この測定方法を用いたのは、EBSP法は他の測定方法と比較して高分解能であり、高精度な測定ができるためである。まず、測定原理について説明する。
EBSP法は、FESEMの鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は3次元オイラー角として、位置座標(x、y)などと共に記録される。このプロセスが全測定点に対して自動的に行われるので、測定終了時には数万〜数十万点のデータを得ることができる。
このように、EBSP法には、X線回析法や透過電子顕微鏡を用いた電子線回析法よりも、観察視野が広く、数百個以上の多数の結晶粒に対する各種情報を、数時間以内で得ることができる利点がある。また、結晶粒毎の測定ではなく、指定した領域を一定間隔で走査して測定するために、測定領域全体を網羅した上記多数の測定ポイントに関する、上記各情報を得ることができる利点もある。尚、これらFESEMにEBSPシステムを搭載した結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/Vol.52 No.2(Sep.2002)P66−70などに詳細に記載されている。
1μm以上のα相の平均アスペクト比および1μm以上のα相の面積率を、この測定から得た。これらの測定については、前記したように、FESEMにEBSPシステムを搭載した結晶方位解析法を用いて、チタン合金板の表面に平行な面であって、且つ、板厚方向の1/4t部の集合組織を測定することで行った。具体的には、チタン合金板の圧延面表面を機械研磨し、更にバフ研磨に次いで電解研磨を行い、表面を調整した試料を準備した。その後、日本電子社製FESEM(JEOL JSM 5410)を用いて、EBSPによる測定を行った。測定領域は300μm×300μmの領域であり、測定ステップ間隔0.3μmとした。EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL社製のOIM(Orientation Imaging Microscopy)を用いた。
本発明においては、基本的に、方位のズレが各結晶方位から±15°以内のものは同一の結晶方位に属するとし、また、隣り合う結晶の方位のズレが15°を超える場合にそこを結晶粒界と定義した。
このような測定方法により、測定範囲内のα相、β相の全結晶粒の方位を個別に同定した。そして、1μm以上のα相の平均アスペクト比は、円相等直径が1μm以上のα相のアスペクト比を個別に求め、それらの平均値を算出して求めた。また、1μm以上のα相の面積率は、円相当直径が1μm以上のα相の面積を個別に求め、それらの総和を測定面積で序することにより求めた。
(曲げ異方性の評価)
製造した各チタン合金板から、長さ130mm×幅20mm×厚み1.0 mmの短冊状試験片を採取し、この短冊状試験片を用いて、JIS Z 2248に準拠してL方向(板の圧延方向)とT方向(板の圧延垂直方向)の密着曲げを行った。目視により割れの発生を確認し、L方向、T方向共に割れが発生したときの最小曲げ半径(Minimum Bending Radius):R/tを求めた。これらを夫々L曲げ、T曲げとし、T曲げ/L曲げを求めて曲げ異方性とした。本発明のα+β型チタン合金板は、単に曲げ異方性が優れているだけではなく、曲げ加工性も優れていることを要件としており、本実施例では、L曲げが3.0以下、T曲げが4.0以下であり、且つ、曲げ異方性(T曲げ/L曲げ)が1.5以下のものを合格とし、曲げ異方性に優れたα+β型チタン合金板とした。
Figure 0005421872
No.1〜7は全て本発明の発明例であるが、これら各発明例の製造条件である最終焼鈍の焼鈍温度と焼鈍時間は、No.1、3、7が両方の条件共に標準的な条件、No.2は焼鈍温度が上限、No.4は両方の条件が共に下限、No.5は焼鈍時間が下限であって、No.6は両方の条件が共に最適な条件である。
このような条件で最終焼鈍が実施されてα+β型チタン合金板が製造されるため、No.1〜7は全て、1μm以上のα相の面積率が53%以下と共に1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下であるという本発明の要件を満足する。
その結果、No.1〜7は全て、L曲げが3.0以下、T曲げが4.0以下、曲げ異方性(T曲げ/L曲げ)が1.5以下という本発明の曲げ異方性に優れたα+β型チタン合金板の条件を満足した。特に、最終焼鈍の焼鈍温度と焼鈍時間を最適な条件としたNo.6は、L曲げが2.2、T曲げが3.3と発明例の中でも特に優れた曲げ加工性の試験結果を得ることができた。
これに対し、No.8〜10は比較例であって、No.8は製造条件のうち焼鈍温度が高すぎる比較例、No.9は焼鈍温度が低すぎる比較例、No.10は焼鈍時間が短すぎる比較例である。その結果、製造されたα+β型チタン合金板の1μm以上のα相の面積率、平均アスペクト比の、少なくとも一方が、本発明の要件を満足せず、L曲げが3.0以下、T曲げが4.0以下、曲げ異方性(T曲げ/L曲げ)が1.5以下という曲げ異方性に優れたα+β型チタン合金板の条件を満足することができなかった。

Claims (2)

  1. 全率固溶型β安定化元素の少なくとも1種をMo当量で2.0〜4.5質量%、共析型β安定化元素の少なくとも1種をFe当量で0.3〜2.0質量%、α安定化元素の少なくとも1種をAl当量で3質量%超5.5質量%以下含有すると共に、更にSiを0.1〜1.5質量%、Cを0.01〜0.15質量%含有し、残部がTiおよび不可避的不純物である高強度α+β型チタン合金板であって、
    後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の面積率が20〜53%であり、且つ、後方錯乱電子回析像法により測定した円相当直径が1μm以上のα相の平均アスペクト比が2.0以下であることを特徴とする曲げ加工性および曲げ異方性に優れた高強度α+β型チタン合金板。
  2. 請求項1記載の高強度α+β型チタン合金板の製造方法であって、
    請求項1に記載の組成を有するチタン合金鋳塊分塊圧延して圧延スラブを得た後、前記圧延スラブを[β変態点温度(Tβ)−30℃]±20℃のα+β温度域に加熱して熱間圧延を行い、その後、600℃〜Tβの温度範囲での中間焼鈍と、40%以下の圧下率での冷間圧延を、繰り返し行った後、最終焼鈍を実施して前記チタン合金板の製造を行うものであり、
    前記最終焼鈍の焼鈍温度を、(Tβ−150℃)以上、Tβ以下とし、焼鈍時間を1分以上とすることを特徴とする高強度α+β型チタン合金板の製造方法。
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