JP5419565B2 - ステアバイワイヤ式操舵装置 - Google Patents

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Description

この発明は、転舵用の転舵軸と機械的に連結されていないステアリングホイールで操舵を行うようにしたステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
この種のステアバイワイヤ式操舵装置において、操舵輪を転舵する転舵用モータが失陥しても、補助モータによって操舵輪を転舵するように構成したものが提案されている(特許文献1)。
また、前輪系統または後輪系統における左右輪を独立に転舵するようにしたステアバイワイヤ式操舵装置において、異常時に前記左右輪のそれぞれをトーインあるいはトーアウト状態に制御して制動力を得る方法が提案されている(特許文献2)。
特開2005−349845号公報 特開2005−263182号公報
特許文献1に開示の技術は、転舵用モータの失陥時に補助モータを作動させるフェールセーフ機能を持たせたものであるが、転舵用モータが正常である場合、補助モータは一切機能しておらず不経済である。
また、特許文献2に開示の技術は、各輪を独立に転舵する方法であるが、異常が生じた車輪は制御不能になるため、正常に転舵して危険回避する動作が取れないという問題がある。
この発明の目的は、転舵用モータが失陥してもトー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができるフェールセーフ機能を持たせ、かつトー角調整用モータが失陥してもトー角調整機構を固定して安全に走行でき、しかも構成がコンパクトなステアバイワイヤ式操舵装置を提供することである。
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、転舵用モータと、この転舵用モータの回転を前記転舵軸に伝える転舵動力伝達機構と、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータの回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構と、前記操舵角センサの検出する操舵角を基に転舵角の指令信号およびトー角の指令信号を生成し、これら指令信号を前記転舵用モータおよびトー角調整用モータにそれぞれ与えるステアリング制御手段とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵用モータが失陥したときに、前記転舵用モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、前記転舵用モータに代えて前記トー角調整用モータの回転を前記転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とし、前記トー角調整用モータが失陥したときに、前記トー角調整動力伝達機構を動力伝達不能状態として前記転舵用モータによる転舵のみ行わせる切換機構を設け、前記転舵用モータおよびトー角調整用モータのいずれか一方、または両方に、中空モータを用いたことを特徴とする。
この構成によると、切換機構により、転舵用モータが失陥したときに、転舵用モータを転舵動力伝達機構から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、転舵用モータに代えてトー角調整用モータの回転を転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とすることにより、転舵用モータ失陥時でも転舵可能なフェールセーフ機能を持たせられる。また、切換機構により、トー角調整用モータが失陥したときに、トー角調整動力伝達機構を動力伝達不能状態として転舵用モータによる転舵のみ行わせることにより、トー角調整用モータ失陥時にトー角調整機構を固定して安全に走行できる。
転舵用モータおよびトー角調整用モータのいずれか一方、または両方に、中空モータを用いることにより、ステアバイワイヤ式操舵装置の各構成部品を狭いスペースに無理なく配置することができ、全体の構成をコンパクトにできる。
この発明において、前記転舵軸は、軸方向移動により操舵輪を転舵させ、かつ回転よって操舵輪のトー角を変える軸であり、前記転舵動力伝達機構は、前記転舵用モータの回転により前記転舵軸を軸方向に移動させる機構であり、前記トー角調整動力伝達機構は、前記トー角調整用モータの回転により前記転舵軸を回転させる機構であり、前記切換機構は、前記転舵用モータが失陥したときに、前記転舵用モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、かつ前記転舵軸の回転を止め、前記転舵用モータに代えて前記トー角調整用モータの回転を前記転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とし、前記トー角調整用モータが失陥したときに、前記転舵軸の回転を止めて前記転舵用モータによる転舵のみ行わせる機構であってよい。
この構成とすれば、転舵動力伝達機構を介して転舵用モータの回転で転舵軸を軸方向移動させて転舵を良好に行うことができ、かつトー角調整動力伝達機構を介してトー角調整用モータの回転で転舵軸を回転させてトー角調整を良好に行うことができる。また、切換機構により、転舵用モータが失陥したとき、ならびにトー角調整用モータが失陥したときの、転舵動力伝達機構およびトー角調整動力伝達機構の伝動系統の切換を良好に行うことができる。
この発明において、前記トー角調整用モータを中空モータとし、この中空モータからなるトー角調整用モータの中空モータ軸内に前記転舵軸を挿通させてもよい。また、前記転舵用モータを中空モータとし、この中空モータからなる転舵用モータの中空モータ軸内に、前記切換機構の構成部品を挿通させてもよい。
上記各構成とすれば、トー角調整用モータおよび転舵用モータと、転舵軸および切換機構の構成部品とを、コンパクトに配置できる。
この発明において、前記転舵軸の一部にボールねじ軸部を設け、このボールねじ軸部に螺合するボールナットを回転のみ自在に設け、前記転舵動力伝達機構は、前記転舵用モータの回転により前記ボールナットを回転させて前記転舵軸を軸方向に移動させ転舵を行うものとするのが良い。
この構成によれば、転舵動力伝達機構の動作箇所を最低でボールナットだけにすることができるため、転舵動力伝達機構の構成を簡略にできる。
この発明において、前記転舵軸にスプライン軸部を設け、このスプライン軸部に軸方向に相対移動自在に噛み合うスプラインナットを回転自在に設け、前記トー角調整動力伝達機構は、前記トー角調整用モータで前記スプラインナットを回転させることにより、前記転舵軸の軸方向移動を許容しつつ転舵軸を回転させ、転舵軸の端部のトー角調整用雄ねじ部に螺合したタイロッドの転舵軸からの突出長さを変えてトー角を変化させるものとしても良い。
この構成によれば、トー角調整動力伝達機構の動作箇所を最低でスプラインナットだけにすることができるため、トー角調整動力伝達機構の構成を簡略にできる。
上記構成とする場合、前記転舵軸の前記スプライン軸部のスプライン歯と前記スプラインナットのスプライン歯が滑り接触していても、転がり接触していてもよい。いずれであっても、スプラインナットからスプライン軸部へ、力を良好に伝達することができる。
また、前記転舵軸の両端に設けられた一対のトー角調整用雄ねじ部が、互いに左右逆ねじになっており、前記スプラインナットをある一定方向に回転させることで左右のタイロッドを突出させ、逆方向に回転させることで前記タイロッドを引き込めるものとするのが良い。
この構成によれば、1個のスプラインナットを回転させるだけで、転舵軸に対して左右のタイロッドを軸方向に進退させることができる。
また、前記転舵動力伝達機構を収容し前記転舵軸を貫通させたハウジングを設け、このハウジングに、前記転舵軸のトー角調整用雄ねじ部に螺合する前記タイロッドのナット部の外周側にあり、前記転舵軸のトー角調整用雄ねじ部に螺合する前記タイロッドのナット部の外周に、このナット部の内端よりも軸方向外側に突出させた筒状ハウジング部を設け、前記ナット部の軸心と直交する断面の外周形状を外周の全部または一部が軸心を中心とする円とは異なる形状とし、このナット部の外周形状と合致する内周形状を有する固定滑り軸受を前記筒状ハウジング部の内周に固定して設け、この固定滑り軸受により、前記ナット部を軸方向に摺動自在かつ軸心回りに回転不能に支持してもよい。
この構成とすれば、タイロッドのナット部が固定滑り軸受により軸方向に摺動自在に支持されているため、転舵軸を軸方向移動させるとき、および転舵軸を回転させて転舵軸からのタイロッドの突出長さを変えるとき、タイロッドを安定して軸方向移動させられる。また、固定滑り軸受は前記ナット部を回転不能に支持しているため、転舵軸の回転がタイロッドの軸方向移動に確実に変換させられる。
さらに、前記タイロッドのナット部の外周面における軸方向の一部に、前記筒状ハウジング部の内周面に沿って摺動自在な環状の移動滑り軸受を固定して設けてもよい。
移動滑り軸受を設ければ、タイロッドの軸方向移動がさらに安定する。
前記固定滑り軸受および移動滑り軸受の両方を設ける場合、前記転舵軸が軸方向移動範囲の、車両を直進状態とする位置である中心位置にあるときに、前記固定滑り軸受および移動滑り軸受の対向する端面間の距離が、前記軸方向範囲の長さの半分以上とする。
上記寸法関係とすることにより、転舵軸が軸方向移動範囲の端まで移動したときでも、固定滑り軸受と移動滑り軸受が互いに干渉しない。
この発明において、前記トー角調整用モータは、最大発生トルクが前記転舵用モータの最大発生トルクよりも小さいものとすることができる。
トー角調整用モータによる通常時のトー角調整および転舵用モータ失陥時の転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に転舵用モータに必要なトルクよりもはるかに小さいものである。したがって、トー角調整用モータは、転舵用モータよりも小型のものでよい。
この発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、転舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、転舵用モータと、この転舵用モータの回転を前記転舵軸に伝える転舵動力伝達機構と、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータの回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構と、前記操舵角センサの検出する操舵角を基に転舵角の指令信号およびトー角の指令信号を生成し、これら指令信号を前記転舵用モータおよびトー角調整用モータにそれぞれ与えるステアリング制御手段とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、前記転舵用モータが失陥したときに、前記転舵用モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、前記転舵用モータに代えて前記トー角調整用モータの回転を前記転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とし、前記トー角調整用モータが失陥したときに、前記トー角調整動力伝達機構を動力伝達不能状態として前記転舵用モータによる転舵のみ行わせる切換機構を設けたため、転舵用モータが失陥してもトー角調整用モータを転舵の駆動源に転用して転舵を行うことができ、かつトー角調整用モータが失陥してもトー角調整機構を固定して安全に走行でき、また前記転舵用モータおよびトー角調整用モータのいずれか一方、または両方に、中空モータを用いたため、構成をコンパクトにできる。
この発明の一実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置の概略構成を示すブロック図である。 同ステアバイワイヤ式操舵装置における転舵軸駆動部の正常動作時の水平断面図である。 図2のIII部拡大図である。 同転舵軸駆動部におけるトー角調整用モータ失陥時の水平断面図である。 図4のV部拡大図である。 同転舵軸駆動部における転舵用モータ失陥時の水平断面図である。 図6のVII部拡大図である。 同転舵軸駆動部の回転規制機構の側面図であり、(A),(B)はそれぞれ異なる状態を示す。 通常のスプライン軸のスプライン歯の歯先形状を示す説明図である。 (A)は前記転舵軸駆動部の中間軸の一例の側面図、(B)は同正面図である。 (A)は同転舵軸駆動部の中間軸の他の一例の側面図、(B)は同正面図である。 (A)は同転舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。 (A)は同転舵軸駆動部の中間軸のさらに他の一例の側面図、(B)は同正面図である。 同ステアバイワイヤ式操舵装置タイロッドのナット部の支持部の拡大断面図である。 図14のXV−XV断面図である。 この発明の異なる実施形態にかかるステアバイワイヤ式操舵装置における転舵軸駆動部の正常動作時の水平断面図である。
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。このステアバイワイヤ式操舵装置は、図1に概略図で示すように、運転者が操舵するステアリングホイール1と、操舵角センサ2と、操舵トルクセンサ3と、操舵反力モータ4と、左右の車輪13にナックルアーム12およびタイロッド11を介して連結された転舵用の軸方向移動自在な転舵軸10と、この転舵軸10を駆動する転舵軸駆動部14と、転舵角センサ8と、ECU(電気制御ユニット)5とを備える。ECU5は、ステアリング制御手段5a、失陥対応制御手段5b、および補正動作制御手段5cを含む。ECU5およびその各制御手段5a,5b,5cは、マイクロコンピュータおよびその制御プログラムを含む電子回路等により構成される。
ステアリングホイール1は、転舵用の転舵軸10と機械的に連結されていない。ステアリングホイール1に対して、操舵角センサ2および操舵トルクセンサ3が設けられ、操舵反力モータ4が接続されている。操舵角センサ2は、ステアリングホイール1の操舵角を検出するセンサである。操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に作用する操舵トルクを検出するセンサである。操舵反力モータ4は、ステアリングホイール1に反力トルクを付与するモータである。
図2は転舵軸10を駆動する転舵軸駆動部14の正常時の水平断面図、図3はその部分拡大図である。この転舵軸駆動部14には、転舵軸10を軸方向に移動させて車輪13の転舵を行う転舵機構15と、車輪13のトー角調整を行うトー角調整機構16と、切換機構17とが設けられている。
転舵機構15は、転舵用モータ6と、この転舵用モータ6の回転により転舵軸10を軸方向に移動させる転舵動力伝達機構18とを備える。
転舵用モータ6は、転舵軸駆動部14のハウジング19に、前記転舵軸10と平行に取付けられている。転舵用モータ6は中空モータであって、筒状の中空モータ軸20を有する。この中空モータ軸20の中空部内に、転舵軸10と平行に設けた転舵用中間軸21が、針状ころ軸受22を介して回転自在かつ軸方向に移動自在に支持されている。転舵用中間軸21は、後記トー角調整用中間軸35と共に、後述する切換機構17の直動アクチュエータ47により、図2および図3に示す基準位置と、図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置と、図6および図7に示す転舵用モータ失陥時位置の各位置に軸方向に位置切換される。
転舵動力伝達機構18は、転舵用回転部材である転舵用モータ6の前記中空モータ軸20と、前記転舵用中間軸21と、この転舵用中間軸21の外周にキー23を介して回転伝達可能に嵌合した出力ギヤ24と、この出力ギヤ24と噛み合う入力ギヤ25と、この入力ギヤ25に固定され前記転舵軸10のボールねじ軸部10aに螺合するボールナット26とでなる。これらボールねじ軸部10aとボールナット26とでボールねじ機構Aを構成する。中空モータ軸20の内周に内歯からなるスプライン歯20a(図3、図5、図7)、転舵用中間軸21の外周に外歯からなるスプライン歯21a(図3、図5、図7)がそれぞれ形成されており、転舵軸駆動部14の正常時状態(図2)では、これらスプライン歯20a,21aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部27を構成することで、中空モータ軸20と転舵用中間軸21とが回転伝達可能に連結されている。中空モータ軸20のスプライン歯20aは軸方向に長く、どの軸方向箇所にも転舵用中間軸21のスプライン歯21aが噛み合うことができる。
転舵軸駆動部14の正常時状態(図2)において、転舵用モータ6の回転出力は、転舵用中間軸21、出力ギヤ24、入力ギヤ25を経てボールナット26に伝達され、ボールナット26の回転が転舵軸10の軸方向への移動に変換されて転舵が行なわれる。
入力ギヤ24は転がり軸受28を介して、出力ギヤ25は転がり軸受29を介して、それぞれ前記ハウジング19に支持されている。転舵用中間軸21は、前記のように、転舵用モータ6の中空モータ軸20に針状ころ軸受22を介して嵌合し、かつ出力ギヤ24にキー23を介して嵌合しているため、軸方向への移動が許容されている。
トー角調整機構16は、トー角調整用モータ7と、このトー角調整用モータ7の回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構30とを備える。
トー角調整用モータ7は、転舵軸駆動部14のハウジング19に、転舵軸10と同心に取付けられている。トー角調整用モータ7も中空モータであって、その筒状の中空モータ軸31が転舵軸10の外周に設けられている。
トー角調整動力伝達機構30は、前記中空モータ軸31に固定された出力ギヤ32と、この出力ギヤ32と噛み合う第1中間ギヤ33と、この第1中間ギヤ33とスプライン嵌合部34で噛み合うトー角調整用中間軸35と、このトー角調整用中間軸35とスプライン嵌合部36で噛み合う第2中間ギヤ37と、この第2中間ギヤ37と噛み合う入力ギヤ38と、この入力ギヤ38に固定され転舵軸10のスプライン軸部10bにボール39を介してスプライン嵌合するスプラインナット40とでなる。第1中間ギヤ33および第2中間ギヤ37とトー角調整用中間軸35とは、両中間ギヤ33,37に形成された内歯からなるスプライン歯33a,37a(図3、図5、図7)とトー角調整用中間軸35に形成された外歯からなるスプライン歯35a,35b(図3、図5、図7)とが互いに噛み合うことで、スプライン嵌合部34,36を構成する。トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bは軸方向に長く、どの軸方向箇所にも第2中間ギヤ37のスプライン歯37aが噛み合うことができる。第1中間ギヤ33は、トー角調整用中間軸35の外周に位置してトー角調整用モータ7で回転させられるトー角調整用駆動側部材であり、第2中間ギヤ37は、トー角調整用中間軸35の回転を下流側に伝えるトー角調整用従動側部材である。
転舵軸駆動部14の正常時状態(図2)において、トー角調整用モータ7の回転出力は、中空モータ軸31、出力ギヤ32、第1中間ギヤ33、トー角調整用中間軸35、第2中間ギヤ37、入力ギヤ38を経てスプラインナット40に伝達され、スプラインナット40の回転で転舵軸10が回転させられ、後述するトー角調整用雄ねじ部10cの作用で車輪13のトー角調整が行なわれる。
中空モータ軸31は転がり軸受41を介して、第1中間ギヤ33は転がり軸受42を介して、第2中間ギヤ37は転がり軸受43を介して、入力ギヤ38は転がり軸受44を介して、それぞれハウジング19に支持されている。また、第1中間ギヤ33と第2中間ギヤ37間には転がり軸受45が介在し、両ギヤ33,37は互いに回転自在である。トー角調整用中間軸35は、前記のように、第2中間ギヤ37にスプライン嵌合部36で噛み合っているため、軸方向への移動が許容されている。操舵用中間軸21とトー角調整用中間軸35は、同軸上に互いに隣接して配置されており、両中間軸21,35の互いに対向する軸端間にスラスト軸受46(図3、図5、図7)を介在させてある。これにより、両中間軸21,35が相対回転可能となるようにされている。
なお、この実施形態では、転舵軸10のスプライン軸部10bとスプラインナット40とが、ボール39を介して互いに転がり接触しているが、両者が滑り接触していてもよい。いずれであっても、スプラインナット40からスプライン軸部10bへ、回転を良好に伝達することができる。
トー角調整機構16は、前記トー角調整用モータ7およびトー角調整動力伝達機構30とは別に、転舵軸10の両端に形成され左右のタイロッド11がそれぞれ螺合するトー角調整用雄ねじ部10cを備える。これらのトー角調整用雄ねじ部10cは互いに逆ねじとした雄ねじ部からなり、転舵軸10の一方向への回転で左右のタイロッド11が互いに突出し、転舵軸10の他方向への回転で左右のタイロッド11が互いに後退するようにされている。トー角調整用雄ねじ部10cは、例えば台形ねじとされる。また、トー角調整用雄ねじ部10cには廻り止めが設けられていても良い。
図14の拡大断面図に示すように、前記タイロッド11は、転舵軸10のトー角調整用雄ねじ部10cにナット部11aで螺合している。このナット部11aの外周には、ハウジング19から側方に突出する筒状ハウジング部19bが設けられており、この筒状ハウジング部19bとナット部11aとの間に固定滑り軸受80および移動滑り軸受81を介在させてある。固定滑り軸受80および移動滑り軸受81はいずれも滑り軸受であり、互いの区別のために「固定」および「移動」を付した。
固定滑り軸受80は、筒状ハウジング部19bの内周面における軸方向外端部に形成された大径部82に固定されている。図15に示すように、ナット部11aの軸心と直交する断面の外周形状は、外周の全部または一部が軸心Oを中心とする円とは異なる形状をしている。この例の場合、円周面Cの一部が平坦面Fで切り落とされた形状とされている。固定滑り軸受80は、上記ナット部11aの外周形状と合致する内周形状を有する。この固定滑り軸受80により、ナット部11aは軸方向に摺動自在かつ軸心回りに回転不能に支持されている。
移動滑り軸受81は、ナット部11aの外周面における軸方向内端部に形成された小径部83に固定された環状の部材であり、前記筒状ハウジング部19bの内周面に沿って摺動自在である。転舵軸10が軸方向移動範囲84の中心N、すなわち車両を直進状態にする中心位置にあるときの固定滑り軸受80および移動滑り軸受81の対向する端面間の距離Lは、前記軸方向範囲84の長さSの半分以上としてある。これにより、転舵軸10が軸方向移動範囲84の端まで移動したときでも、固定滑り軸受80と移動滑り軸受81が互いに干渉しないようにできる。
これら固定滑り軸受80および移動滑り軸受81を設ければ、転舵軸10を軸方向移動させるとき、および転舵軸10を回転させて転舵軸10からのタイロッド11の突出長さを変えるとき、タイロッド11を安定して軸方向移動させられる。また、固定滑り軸受80はナット部11aを回転不能に支持しているため、転舵軸10の回転がタイロッド11の軸方向移動に確実に変換させられる。固定滑り軸受80だけでも上記作用を得ることができる。
切換機構17は、転舵用モータ6が失陥したとき、ならびにトー角調整用モータ7が失陥したときに、転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の動力伝達系統を切り換えるためのものである。この切換機構17は、転舵用中間軸21およびトー角調整用中間軸35と、これら中間軸21,35を一緒に軸方向に移動させる直動アクチュエータ47と、両中間軸21,35が常に互いに接する状態に維持されるように押圧力を付与する押圧機構48と、両中間軸21,35の移動により転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の各伝動連結部の伝動を係脱する伝動係脱機構49とを備える。
直動アクチュエータ47は、ばね部材51と、ばね係脱機構52とでなる。さらに、ばね係脱機構52は、ばね部材51の直線運動を回転運動に変換する直線・回転運動変換機構53と、この直線・回転運動変換機構53で得られる回転運動を規制する回転規制機構54とでなる。
この例では、ばね部材51は圧縮コイルばねであり、サポート部材55を図2、図4、図6の左方向に付勢している。つまり、ばね部材51は、サポート部材55に接する側の端部が左右方向に直線運動をする。サポート部材55は操舵用中間軸21と同軸上に互いに隣接して設けられている。サポート部材55と転舵用中間軸21間にスラスト軸受56を、サポート部材55とばね部材51間にスラストころ軸受57をそれぞれ介在させてあり、サポート部材55は中心軸回りに回転自在である。
また、この例では、直線・回転運動変換機構53はボールねじ機構であり、サポート部材55と一体のボールねじ軸58と、このボールねじ軸58に螺合するボールナット59とで構成される。直線・回転運動変換機構53はボールねじ機構以外の構成であってもよく、例えばラックとピニオンを組み合わせたものとしてもよい。
図8に示すように、回転規制機構54は、回転軸であるボールねじ軸58に設けた突起物60、この突起物60に引っ掛かることでボールねじ軸58の回転を止める役割を果たすレバー61、およびこのレバー61を作動させる回転規制駆動源62で構成される。突起物60は、外周の一部が他よりも外径側に張り出す突起部60aとなった板状の部材で、その突起部60aの周方向一方端に、レバー61が当たる段面60bが形成されている。厳密には、突起物60の突起部60aが、レバー61が引っ掛かる突起物である。レバー61は、ボールねじ軸58と平行な回動中心軸61aに回動自在に設けられ、前記突起物60の突起部60aに引っ掛かる一対の引っ掛かり部61b,61cを有する。回転規制駆動源62は、直動式のアクチュエータからなり、例えばリニアソレノイドとされる。回転規制駆動源62は、一方向(上下方向)に進退作動する進退ロッド62aを有し、この進退ロッド62aが前記レバー61に連結リンク63を介して連結されている。
図8(A)は、転舵軸駆動部14が正常時状態にあるときの回転規制機構54の状態を示す。この状態では、レバー61の一方の引っ掛かり部61bが突起物60の突起部60aに引っ掛かっており、それによって突起物60およびそれと一体のボールねじ軸58の回転が拘束されている。そのため、ボールねじ機構からなる直線・回転運動変換機構53の作用により、ボールねじ軸58が軸方向に移動できず、ばね部材51(図2)がサポート部材55(図2)を押すことが規制されている。つまり、ばね部材51は圧縮状態に保持され、両中間軸21,35(図2)を軸方向に付勢することが不能な無付勢状態になっている。
図8(A)の状態から回転規制駆動源62の進退ロッド62aを後退させると、レバー61の引っ掛かり部61bと突起物60の突起部60aとの引っ掛かりが解除され、ボールねじ軸58が回転可能になる。それにより、ばね部材51の弾性反発力によって、ボールねじ軸58がボールナット59に対して回転しながら図2の左方向へ移動する。つまり、ばね部材51は前記圧縮状態から開放され、両中間軸21,35を軸方向に付勢する状態となる。突起物60が所定の位相だけ回転すると、図8(B)のように、突起物60の突起部60aがレバー61のもう一方の引っ掛かり部61cに引っ掛かり、突起物60およびボールねじ軸58の回転が拘束される。この間、両中間軸21,35は左側へ軸方向移動して、図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置になる。
図8(B)の状態から回転規制駆動源62の進退ロッド62aを進出させると、レバー61の引っ掛かり部61cと突起物60の突起部60aとの引っ掛かりが解除され、ボールねじ軸58が回転可能になる。それにより、前記同様、ばね部材51が両中間軸21,35を軸方向に付勢する状態となり、両中間軸21,35が左側へ軸方向移動する。それに伴い、突起物60とレバー61の軸方向位置が外れる。そのため、突起物60が回転しても突起部60aがレバー61のいずれの引っ掛かり部61b,61cにも引っ掛からなくなり、ばね部材51は直線運動範囲端まで移動する。このばね部材51が直線運動範囲端まで移動したときの両中間軸21,35の位置が、図6および図7に示す転舵用モータ失陥時位置である。
前記ばね係脱機構52は、作用的な面から見た場合、次のように言うこともできる。すなわち、ばね係脱機構52は、ばね部材51の直線運動範囲内、またはばね部材51と共に直線運動する部材であるボールねじ軸58の運動範囲内に配されて直線運動を妨げる障害物と、この障害物を取り除くことでばね部材51を圧縮状態から開放する障害物取り除き機構Bとでなる。この場合、障害物は、ボールねじ軸58に取付けた突起物60に引っ掛かってボールねじ軸58の直線運動を妨げるレバー61であり、障害物取り除き機構Bは、ボールねじ軸58の運動範囲内に突出させた障害物としてのレバー61を取り去るように作用する回転規制駆動源62と連結リンク63とを組み合わせた機構である。
押圧機構48は、図3および図5に示すように、トー角調整用中間軸35に隣接して転舵用およびトー角調整用両中間軸21,35と同軸上に配置された押圧軸64と、この押圧軸64をトー角調整用中間軸35に押付ける側に弾性付勢するコイルばね65とでなる。押圧軸64およびコイルばね65は、ハウジング19の一部である押圧機構収容部19aに収容されている。押圧軸64とトー角調整用中間軸35の互いに対向する軸端間にはスラスト軸受66が配置され、これにより押圧軸64に対してトー角調整用中間軸35が回転自在となるようにされている。
伝動係脱機構49は、第1〜第3伝動係脱機構71〜73(図3、図5、図7)を有する。
第1伝動係脱機構71は、転舵用回転部材である転舵用モータ6の中空モータ軸20と、転舵用中間軸21と、トー角調整用駆動側部材である第1中間ギヤ33とでなる。両中間軸21,35が図2および図3に示す基準位置にあるとき、ならびに図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置にあるときは、中空モータ軸20のスプライン歯20aと転舵用中間軸21のスプライン歯21aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部27を構成することにより、中空モータ軸20と転舵用中間軸21とが結合する。両中間軸21,35が図6および図7に示す転舵用モータ失陥時では、転舵用中間軸21のスプライン歯21aが中空モータ軸20のスプライン歯20aから外れ、転舵用中間軸21のスプライン歯21aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aと噛み合ってスプライン嵌合部74を構成することにより、転舵用中間軸21が第1中間ギヤ33と結合する。
第2伝動係脱機構72は、転舵用中間軸21と、トー角調整用駆動側部材である第1中間ギヤ33と、トー角調整用中間軸35とでなる。両中間軸21,35が図2および図3に示す基準位置にあるときは、第1中間ギヤ33のスプライン歯33aとトー角調整用中間軸35のスプライン歯35aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部34を構成することにより、第1中間ギヤ33とトー角調整用中間軸35とが結合する。両中間軸21,35が図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置にあるとき、ならびに図6および図7に示す転舵用モータ失陥時位置にあるときは、上記スプライン嵌合部34の噛み合いが外れて、第1中間ギヤ33とトー角調整用中間軸35とが非結合になる。
第3伝動係脱機構73は、トー角調整用中間軸35と、トー角調整用従動側部材である第2中間ギヤ37と、ハウジング19とでなる。ハウジング19の前記押圧機構収容部19aの基端には、内歯からなるスプライン歯75a(図3、図5)が形成されている。両中間軸21,35が図2および図3に示す基準位置にあるときは、トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bと第2中間ギヤ37のスプライン歯37aが互いに噛み合ってスプライン嵌合部36を構成することにより、トー角調整用中間軸35と第2中間ギヤ37とが結合する。両中間軸21,35が図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置にあるとき、ならびに図6に示す転舵用モータ失陥時位置にあるときは、上記スプライン嵌合部36に加えて、トー角調整用中間軸35のスプライン歯37bとハウジング19スプライン歯75aが互いに噛み合って、スプライン嵌合部75が構成される。このスプライン嵌合部75により、トー角調整用中間軸35は、ハウジング19に結合されて回転が拘束される。
上記伝動係脱機構49の切換動作において、両中間軸21,35が基準位置から転舵用モータ失陥時位置へ軸方向移動する過程で、トー角調整用中間軸35が第1中間ギヤ33から外れるのよりも先に、トー角調整用中間軸35がハウジング19に結合されるように各部材の位置関係が設定されている。
上記伝動切換機構49の切換動作を円滑に行うために、転舵用中間軸21のスプライン歯21a、およびトー角調整用中間軸35のスプライン歯35a,35bは、図9に示す通常のスプライン軸80におけるスプライン歯80aのように歯先の形状を平坦な形状とせず、例えば図10または図11に示すように、その歯先の形状を鋭角状とするのが望ましい。あるいは、他の例として、図12または図13に示すように、スプライン歯21a,35ab,35bの歯先の形状を歯先凸部の無いテーパ状とするのが望ましい。
また、図11または図13に示すように、転舵用中間軸21のトー角調整用中間軸35に対向する側の先端に、スプライン歯21aよりも軸端側に突出させて突出部76を設けてもよい。この突出部76の外径は、スプライン歯21aの歯底半径以下とする。このような突出部76が転舵用中間軸21の先端に設けられていれば、転舵用中間軸21およびトー角調整用中間軸35が基準位置から転舵用モータ失陥時位置に位置切換するときに、突出部76の軸方向長さ分だけ、先にトー角調整中間軸35のスプライン歯35aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aから外れ、その後で転舵用中間軸21のスプライン歯21aが第1中間ギヤ33のスプライン歯33aに噛み合う。つまり、トー角調整用モータ7とトー角調整用中間軸35との動力的な結合が解除されてから、トー角調整用モータ7と転舵用中間軸21とが動力的に結合される。なお、図2〜図7に示す転舵軸駆動部14には、図11または図13に示す軸端形状の転舵用中間軸21が採用されている。
ECU5のステアリング制御手段5aは、操舵反力モータ4、転舵用モータ6、およびトー角調整用モータ7を制御する。すなわち、ステアリング制御手段5aは、操舵角センサ2の検出する操舵角の信号、図示しない車速センサの検出する車輪回転速度の信号、および運転状態を検出する各種センサの信号に基づいて目標操舵反力を設定し、実際の操舵反力トルクが目標操舵反力に一致するように操舵トルクセンサ3の検出する操舵トルクの信号をフィードバックして、操舵反力モータ4を制御する。
失陥対応制御手段5bは、切換機構17の回転規制駆動源62を制御する。すなわち、失陥対応制御手段5bは、転舵用モータ6の失陥、およびトー角調整用モータ7の失陥を検出した場合に、それに応答して回転規制駆動源62を動作させ、転舵用およびトー角調整用の両中間軸21,35を、基準位置から転舵用モータ失陥時位置またはトー角調整用モータ失陥時位置へ軸方向移動させる。
補正動作制御手段5cは、上記失陥対応制御手段5bにより両中間軸21,35を軸方向移動させる制御の補正をする。詳しくは、トー角調整用中間軸35のスプライン歯35bとハウジング19のスプライン歯75aとをスプライン嵌合75させて、トー角調整用中間軸35の回転を拘束する際に、トー角調整用モータ7でトー角調整用中間軸35をスプライン歯35bの1ピッチ分以上回転させることで、両スプライン歯35b,75aの位相を揃える。このような補正動作を行わせることで、トー角調整用中間軸35のハウジング19への固定を誤動作無く円滑に行うことができる。
次に、このステアバイワイヤ式操舵装置の転舵軸駆動部14での動作を説明する。転舵用モータ6およびトー角調整用モータ7が正常である場合には、図2のように、転舵用モータ6の中空モータ軸20の回転が転舵動力伝達機構18を介してボールナット26に伝達されると共に、トー角調整用モータ7の中空モータ軸31の回転がトー角調整動力伝達機構30を介してスプラインナット40に伝達される。転舵軸10のボールねじ軸部10aに螺合するボールナット26の回転は、転舵軸10を軸方向に移動させ、これにより車輪13の操舵が行なわれる。トー角調整動力伝達機構30のスプラインナット40は、転舵軸10のスプライン軸部10bにスプライン嵌合しているので、転舵軸10の軸方向移動が許容される。転舵軸10のスプライン軸部10bに嵌合するスプラインナット40の回転は転舵軸10を回転させ、この回転により転舵軸10の両端のトー角調整用雄ねじ部10cに螺合しているタイロッド11が進退して、トー角調整が行なわれる。
トー角調整用モータ7が失陥した場合、ECU5の失陥対応制御手段5bからの指令により、切換機構17の回転規制駆動源62を作動させて、回転規制機構54を図8(A)の状態から同図(B)の状態に切り換える。それにより、直動アクチュエータ47を構成するばね部材51の弾性反発力によって、両中間軸21,35が図4および図5に示すトー角調整用モータ失陥時位置まで軸方向移動して停止する。
トー角調整用モータ失陥時位置では、第1伝動係脱機構71により転舵用中間軸21は中空モータ軸20に結合したままに保持され、第2伝動係脱機構72によりトー角調整用中間軸35は第1中間ギヤ33に対し非結合になり、第3伝動係脱機構73によりトー角調整用中間軸35がハウジング19に結合された状態となる。すなわち、トー角調整動力伝達機構30が動力伝達不能状態となると共に、トー角調整用中間軸35の回転が拘束される。その結果、転舵用モータ6による転舵のみが行われる。前述したように、この転舵軸駆動部14には、図11または図13に示す軸端形状の転舵用中間軸21が採用されており、トー角調整用モータ7とトー角調整用中間軸35との動力的な結合が解除されてから、トー角調整用モータ7と転舵用中間軸21とが動力的に結合されるため、伝動系統の切換動作が円滑に行える。
転舵用モータ6が失陥した場合、ECU5の失陥対応制御手段5bからの指令により、切換機構17の回転規制駆動源62を作動させて、回転規制機構54を図8(A)の状態から同図(B)の状態を経てから同図(A)の状態に戻す。それにより、ばね部材51の弾性反発力によって、両中間軸21,35が、前記トー角調整用モータ失陥時位置を経由して、図6および図7に示す転舵用モータ失陥時位置まで軸方向移動する。
転舵用モータ失陥時位置では、第1伝動係脱機構71および第2伝動係脱機構72により、転舵用中間軸21と中空モータ軸20の結合、ならびにトー角調整用中間軸35と第1中間ギヤ33の結合が外れて、新たに転舵用中間軸21が第1中間ギヤ33と結合し、第3伝動係脱機構73によりトー角調整用中間軸35がハウジング19に結合された状態となる。すなわち、転舵用モータ6が転舵動力伝達機構18から切り離され、かつトー角調整用中間軸35の回転を拘束したうえで、転舵用中間軸21がトー角調整動力伝達機構30に連結される。それにより、転舵用モータ6に代えて、トー角調整用モータ7の回転を転舵用動力伝達機構18に伝えて転舵することが可能になる。
このように、このステアバイワイヤ式操舵装置では、切換機構17により、転舵用モータ6が失陥したときに、転舵用モータ6を転舵動力伝達機構18から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、転舵用モータ6に代えてトー角調整用モータ7の回転を転舵動力伝達機構18に伝えて転舵可能とすることにより、転舵用モータ失陥時でも転舵可能なフェールセーフ機能を持たせられる。また、切換機構17により、トー角調整用モータ7が失陥したときに、トー角調整動力伝達機構30を動力伝達不能状態として転舵用モータ6による転舵のみ行わせることにより、トー角調整用モータ失陥時にトー角調整機構16を固定して安全に走行できる。これら転舵用モータ失陥時およびトー角調整用モータ失陥時における転舵動力伝達機構18およびトー角調整動力伝達機構30の動力伝達系統を切り換える一連の動作は、直動アクチュエータ47で転舵用およびトー角調整用の各中間軸21,35を軸方向に移動させることで、伝動係脱機構49により確実に行われる。
転舵用モータ6およびトー角調整用モータ7として中空モータを用いることにより、これら中空モータ6,7の中空部内に転舵用中間軸21および転舵軸10をそれぞれ挿通させて設けることができる。そのため、ステアバイワイヤ式操舵装置の各構成部品を狭いスペースに無理なく配置することができ、全体の構成をコンパクトにできる。転舵用モータ6の中空部内に、転舵用中間軸21以外の切換機構17の構成部品を配置してもよい。転舵用モータ6およびトー角調整用モータ7のいずれか一方だけが中空モータであってもよい。また、転舵用中間軸21とトー角調整用中間軸35を同軸心上にかつ軸方向移動自在に配置し、これら両中間軸21,35を直動アクチュエータ47で一緒に軸方向に移動させる構成としたことにより、切換機構17をコンパクトにできる。
なお、トー角調整用モータ7によるトー角調整および転舵用モータ6の失陥のときの転舵用駆動源としての代替は、車両走行時に行う動作であるため、その最大発生トルクは、据え切り動作時に転舵用モータ6に必要なトルクよりもはるかに小さなものである。したがって、トー角調整用モータ7は、転舵用モータ6よりも小型のもので良い。
上記実施形態は、タイロッド11のナット部11aを固定滑り軸受80および移動滑り軸受81で筒状ハウジング部19bに支持させた構成としたが、図16のように、ナット部11aは何にも支持されないフリー状態としてもよい。
1…ステアリングホイール
2…操舵角センサ
5a…ステアリング制御手段
6…転舵用モータ
7…トー角調整用モータ
10…転舵軸
10a…ボールねじ軸部
10b…スプライン軸部
10c…トー角調整用雄ねじ部
11…タイロッド
11a…ナット部
17…切換機構
18…転舵動力伝達機構
19b…筒状ハウジング部
20…中空モータ軸
21…転舵用中間軸
26…ボールナット
30…トー角調整動力伝達機構
31…中空モータ軸
35…トー角調整用中間軸
40…スプラインナット
80…固定滑り軸受
81…移動滑り軸受
84…軸方向移動範囲
L…端面間の距離
S…軸方向移動範囲の長さ

Claims (13)

  1. 転舵軸に機械的に連結されていないステアリングホイールと、このステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、転舵用モータと、この転舵用モータの回転を前記転舵軸に伝える転舵動力伝達機構と、トー角調整用モータと、このトー角調整用モータの回転によりトー角を調整させるトー角調整動力伝達機構と、前記操舵角センサの検出する操舵角を基に転舵角の指令信号およびトー角の指令信号を生成し、これら指令信号を前記転舵用モータおよびトー角調整用モータにそれぞれ与えるステアリング制御手段とを備えるステアバイワイヤ式操舵装置において、
    前記転舵用モータが失陥したときに、前記転舵用モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、かつトー角の変化を止めておき、前記転舵用モータに代えて前記トー角調整用モータの回転を前記転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とし、前記トー角調整用モータが失陥したときに、前記トー角調整動力伝達機構を動力伝達不能状態として前記転舵用モータによる転舵のみ行わせる切換機構を設け、
    前記転舵用モータおよびトー角調整用モータのいずれか一方、または両方に、中空モータを用いたことを特徴とするステアバイワイヤ式操舵装置。
  2. 請求項1において、前記転舵軸は、軸方向移動により操舵輪を転舵させ、かつ回転よって操舵輪のトー角を変える軸であり、前記転舵動力伝達機構は、前記転舵用モータの回転により前記転舵軸を軸方向に移動させる機構であり、前記トー角調整動力伝達機構は、前記トー角調整用モータの回転により前記転舵軸を回転させる機構であり、前記切換機構は、前記転舵用モータが失陥したときに、前記転舵用モータを前記転舵動力伝達機構から切り離し、かつ前記転舵軸の回転を止め、前記転舵用モータに代えて前記トー角調整用モータの回転を前記転舵動力伝達機構に伝えて転舵可能とし、前記トー角調整用モータが失陥したときに、前記転舵軸の回転を止めて前記転舵用モータによる転舵のみ行わせる機構であるステアバイワイヤ式操舵装置。
  3. 請求項1または請求項2において、前記トー角調整用モータを中空モータとし、この中空モータからなるトー角調整用モータの中空モータ軸内に前記転舵軸を挿通させたステアバイワイヤ式操舵装置。
  4. 請求項1または請求項2において、前記転舵用モータを中空モータとし、この中空モータからなる転舵用モータの中空モータ軸内に、前記切換機構の構成部品を挿通させたステアバイワイヤ式操舵装置。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記転舵軸の一部にボールねじ軸部を設け、このボールねじ軸部に螺合するボールナットを回転のみ自在に設け、前記転舵動力伝達機構は、前記転舵用モータの回転により前記ボールナットを回転させて前記転舵軸を軸方向に移動させ転舵を行うものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記転舵軸にスプライン軸部を設け、このスプライン軸部に軸方向に相対移動自在に噛み合うスプラインナットを回転自在に設け、前記トー角調整動力伝達機構は、前記トー角調整用モータで前記スプラインナットを回転させることにより、前記転舵軸の軸方向移動を許容しつつ転舵軸を回転させ、転舵軸の端部のトー角調整用雄ねじ部に螺合したタイロッドの転舵軸からの突出長さを変えてトー角を変化させるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
  7. 請求項6において、前記転舵軸の前記スプライン軸部のスプライン歯と前記スプラインナットのスプライン歯が滑り接触しているステアバイワイヤ式操舵装置。
  8. 請求項6において、前記転舵軸の前記スプライン軸部のスプライン歯と前記スプラインナットのスプライン歯が転がり接触しているステアバイワイヤ式操舵装置。
  9. 請求項6において、前記転舵軸の両端に設けられた一対のトー角調整用雄ねじ部が、互いに左右逆ねじになっており、前記スプラインナットをある一定方向に回転させることで左右のタイロッドを突出させ、逆方向に回転させることで前記タイロッドを引き込めるものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
  10. 請求項6において、前記転舵動力伝達機構を収容し前記転舵軸を貫通させたハウジングを設け、このハウジングに、前記転舵軸のトー角調整用雄ねじ部に螺合する前記タイロッドのナット部の外周側にあり、前記ナット部の内端よりも軸方向外側に突出させた筒状ハウジング部を設け、前記ナット部の軸心と直交する断面の外周形状を外周の全部または一部が軸心を中心とする円とは異なる形状とし、このナット部の外周形状と合致する内周形状を有する固定滑り軸受を前記筒状ハウジング部の内周に固定して設け、この固定滑り軸受により、前記ナット部を軸方向に摺動自在かつ軸心回りに回転不能に支持したステアバイワイヤ式操舵装置。
  11. 請求項10において、前記タイロッドのナット部の外周面における軸方向の一部に、前記筒状ハウジング部の内周面に沿って摺動自在な環状の移動滑り軸受を固定して設けたステアバイワイヤ式操舵装置。
  12. 請求項11において、前記転舵軸が軸方向移動範囲の、車両を直進状態とする位置である中心位置にあるときに、前記固定滑り軸受および移動滑り軸受の対向する端面間の距離が、前記軸方向移動範囲の長さの半分以上であるステアバイワイヤ式操舵装置。
  13. 請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記トー角調整用モータは、最大発生トルクが前記転舵用モータの最大発生トルクよりも小さいものとしたステアバイワイヤ式操舵装置。
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