JP5412651B2 - 共振回路から生成される直流電圧を安定化する帰還回路の構成法 - Google Patents

共振回路から生成される直流電圧を安定化する帰還回路の構成法 Download PDF

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Description

本発明は共振回路を利用して電圧を発生する安定化直流電圧電源において、電源の出力である直流電圧の安定化に関するものであり、電源の出力である広い範囲の直流電圧を広い範囲の負荷に対して安定化するものである。
共振回路を利用して電圧を発生する電源として、たとえば圧電トランスの共振回路を利用して直流高電圧を発生する電源がある。この圧電トランスを用いた電源は比較的高圧の出力を必要とする用途に用いられていた。それらの用途においては、出力電圧に高精度な安定性が必要とされておらず、したがってこのような圧電トランスを用いた電源では、入力電圧あるいは負荷電流の変動に対する出力電圧の安定性が悪く、このためこの種の電源の用途は固定入力・固定負荷の条件を満たす用途に限られる欠点があった。
特開2002-359967 特開2005-137085
特許文献1は、安定化された高電圧を提供する、効率のよい直流高電圧電源装置の簡単な回路の構成を提供することを課題とし、直流高電圧電源に、通常の電磁トランスではなく、圧電トランスによる高電圧発生手段を採用することにより効率の向上を計り、しかも高電圧を安定化するために圧電トランスの共振特性の周波数依存性を利用することにより、回路の簡素化と部品点数の減少を計ることにより課題を解決する。
特許文献2は直流高電圧電源装置に関するもので、当該装置の出力電圧を安定化する帰還について、高電圧の発生に伴う遅れの大きい帰還とは独立な遅れの少ない帰還を実装することにより、出力電圧の安定化の精度の向上と応答の高速化を実現する。
共振回路から出力される高周波交流を整流して得られる直流電圧を広い範囲の負荷に対して安定化する帰還回路の構成とその回路定数とを与える方法。
入力電圧あるいは負荷電流の変動に対する出力電圧の安定性と精度とを確保するために、帰還回路の伝達関数に原点に位置する極を導入する。この極はπ/2の位相の遅れを引き起こす。出力電圧の安定化を実現するためには、位相の遅れを補償することが必要である。整流平滑回路の遅れと共振回路の遅れとを補償する複数個のゼロ点を帰還回路に導入することにより安定な帰還を実現し、広い範囲の負荷に対して電源の出力を安定化する。
高いQ値を備えた共振回路が、局所的に一定な振幅を持つ共振周波数に近い周波数の搬送波によって駆動される。この時、共振回路から出力される高周波交流を復調(整流)することにより得られる直流電圧は、搬送波の周波数に依存する。直流電圧を搬送波の周波数に帰還することにより、直流電圧を安定化する。
安定化された直流電圧を出力とする安定化直流電圧電源は電圧発生回路と帰還回路からなり、電圧発生回路は共振回路を駆動する局所的に一定な振幅の高周波交流である搬送波を出力とするドライバー回路とこの搬送波を入力とする共振回路と共振回路の出力から直流電圧を発生する整流平滑回路とから構成され、帰還回路は整流平滑回路から出力される直流電圧とあらかじめ与えられた参照電圧とを比較する誤差増幅器と、誤差増幅器の出力によって決まる周波数の矩形波を出力する周波数変調回路とから構成され、この周波数変調回路の出力がドライバー回路の出力する高周波交流の周波数を制御し、安定化直流電圧電源の出力電圧である整流平滑回路から出力される直流電圧が搬送波の周波数に帰還され安定化される。
数理解析的手段により解析することが可能なこの安定化直流電圧電源を近似する等価電源を構成し、等価電源から出力される直流電圧が参照電圧の近傍にあるとき帰還が安定である十分条件を数理解析的手段により明らかにし、出力である直流電圧と参照電圧との誤差の搬送波の周波数への帰還がこの十分条件を満たすように回路定数を求めることにより課題を解決する。
電源は、一定な振幅を持つ搬送波を発生するドライバー回路と、ドライバー回路の出力である搬送波によって駆動される共振回路と、共振回路の出力である振幅変調された搬送波を整流することにより直流電圧として取り出す整流平滑回路とを備える電圧発生回路と、整流平滑回路の出力である直流電圧をこの電源の出力電圧を設定するためにあらかじめ与えられている参照電圧と比較する誤差増幅器と、誤差増幅器の出力よって決まる周波数を発生し、前記ドライバー回路を制御する周波数変調回路を備える帰還回路を含み、周波数変調器の出力は前記ドライバー回路の入力となりドライバー回路の発生する搬送波の周波数の制御を行い、直流電圧を搬送波の周波数に帰還することにより出力直流電圧を安定化にする手段を備える。
この電源が安定に動作する条件を明らかにすることを目的として等価電源を導入する。等価電源は仮想電圧発生回路と帰還回路からなる。この仮想電圧発生回路はドライバー回路と仮想共振回路と仮想整流平滑回路とからなる。仮想共振回路は、共振回路と同様に周波数変調された搬送波を入力とし、振幅変調された搬送波ではなく、そのエンベロープを出力する。また仮想整流平滑回路はこのエンベロープを入力とし、エンベロープに対して一次遅れのフィルターとして作用し、整流平滑回路の出力と同等の結果を出力する。
等価電源は、一定振幅を持つ搬送波を発生するドライバー回路と、ドライバー回路の出力である搬送波によって駆動される仮想共振回路と、その出力が入力される仮想整流平滑回路とからなる仮想電圧発生回路と、仮想整流平滑回路の出力である直流電圧を参照電圧と比較する誤差増幅器と、誤差増幅器の出力よって決まる周波数を発生し、前記ドライバー回路を制御する周波数変調回路を備える帰還回路を含み、周波数変調器の出力は前記ドライバー回路に入力され、ドライバー回路の発生する搬送波の周波数の制御を行い、仮想整流平滑回路の出力である直流電圧を搬送波の周波数に帰還することにより出力直流電圧を一定にする手段を備える。
この等価電源は連立微分方程式系によりその動作を記述することができるので、安定性の数理的な解析が可能となる。微分方程式系を導出し、これから等価電源の出力電圧が参照電圧の近傍で安定となる十分条件を明らかにする。この十分条件を基にして安定な帰還を実現する実際の回路を構成し、回路定数を与える方法を示す。
出力電圧の安定化
高いQ値の共振回路は鋭い周波数特性や大きな負荷依存性などの共振特性を示す。周波数変調された一定の振幅を持つ搬送波が共振回路に入力されると、その搬送波は振幅変調されて出力される。共振回路の出力に負荷抵抗を接続し、入力された搬送波と出力された搬送波の振幅電圧の比である昇圧比を駆動周波数の関数として見ると、共振回路は共振を示し、共振周波数の付近で大きな昇圧比を示す。共振回路を用いた電源はこの高い昇圧比を利用して高い電圧を発生する。また昇圧比が搬送波の周波数に依存することを利用して、周波数を制御することにより出力電圧を安定化する。
共振回路を駆動する搬送波の周波数が、たとえば図 1に示すように共振回路の共振周波数より低くなるように選ばれている場合、出力電圧が参照電圧より低いときには周波数を上げて共振周波数に近づき、また出力電圧が参照電圧より高いときには周波数を下げて共振周波数より遠ざかることにより電圧を安定化する。
搬送波の周波数が共振周波数より高くなるように選ばれている場合、出力電圧が参照電圧より低いときには周波数を下げて共振周波数に近づき、また出力電圧が参照電圧より高いときには周波数を上げて共振周波数より遠ざかることにより電圧を安定化する。
周波数変調
周波数変調器は入力される電圧によって周波数変調された搬送波を出力する。出力される搬送波の周波数は入力された電圧の関数である。 u(t)を出力の搬送波とし次のように書く。
ここで wは搬送波の時間的に不変な振幅を表し、共振回路に入力される搬送波は数式 63の実部であるとする。φを次式により定義する。
すると、vを周波数変調器への入力電圧とするとき、
が成り立つ。ここでfselfは周波数変調器の自走周波数を表し、 kはφとvとの間の比例定数を表す。 また今後の計算の簡便のためにωc = ω0
を仮定する。ただしω0は数式 69で定義される。 数式 65から次式が従う。

共振回路
負荷RLに接続された状態で共振回路がしめす共振は、そのQ 値、 共振周波数および共振周波数における電圧の昇圧比を使って近似的に 次式のように書くことができる。
ここでa, b, cは次の条件を満たす正の数である。
Qは共振のQ値であり、γはQ値の逆数、ωrは共振周波数 における角速度であり、またgrは共振 周波数における共振回路の昇圧比である。
伝達関数の分母から作られ方程式s2+as+b = 0の
根をαとβとする。 αとβとをδとω0とを使って 次のように書くことができる。
また数式 68と数式 69から

このときδとω0とは正の数である。
またQ値は数十程度であり、共振が鋭いので
が成り立つ。
Q値が30、昇圧比が100、共振周波数が 120 kHz である伝達関数h0(s)は次のように書ける。
h0(s)の δとωとをそれぞれδ0とω0とすると、その値は次のようになる。
以下に展開される議論では、共振回路の伝達関数h(s)を一つ固定して、この伝達関数を持つ共振回路から生成される直流電圧が安定である条件を求める。
共振周波数近傍での伝達関数
数式 67の伝達関数は、共振周波数の近傍では複素数の極を
持つ一次遅れで近似出来ることをしめす。圧電トランスの入力を数式 63のu、出力をfとして演算子法で計算すると、

ここで

搬送波の周波数は共振周波数の近傍にあるので、数式 65の左辺からから ある正の定数Mが存在して、任意のt (0 ≦ t)にたいして 次の条件を満たすことが判る。
このとき次の評価が成り立つ。

同様に

Aについて積分を実行する。

これからAを求めると、

Aは次のように評価することができる。

同様にして、Bについて積分を実行する。

Bは次のように評価することができる。

周波数変調器が出力の周波数を変調する帯域の上限がMである。 Mはδと同程度か、高々10倍の大きさである。 一方、共振周波数ω0はδの約100倍である。 また|α|=|β|である。これからBを無視しても、 誤差は高々10パーセントであることがわかる。 Bを無視した伝達関数hTは次のようになる。
このとき共振回路の出力gを次のように定義する。
共振回路の出力fとgとの差は高々数%である。これから 共振周波数の付近では、共振回路の伝達関数はhTで近似できることがわかる。
伝達関数h0(s)とその近似であるhT 0(s)との比較
数式 73で与えられる伝達関数h0(s)に対してこれを近似するhT 0(s)を求め、h0(s)とhT 0(s)とを比較する。図 2において昇圧比、図 3において位相のそれぞれについてh0(s)とhT 0(s)とを同時にプロットする。この図から分かるように、hT 0(s)はh0(s)のよい近似になっている。
共振周波数近傍での微分方程式と共振のエンベロープ
gは 数式 97からわかるように 次の微分方程式を満たす。

ここでgを実数を取る変数pとqとにより 数式 101のように変換する。 定数 rr, riを数式 102によって定義する。

ここでwを実数とすると、rr, riは次のようになる。
このときpとqとは次の方程式を満たすことがわかる。

ここでθは周波数変調器から出力される搬送波の位相である。
また数式 100と数式 64から次式を得る。
この式を数式 104と数式 105とに代入すると次のような正規な微分方程式系を得る。

共振回路の出力gの絶対値がエンベロープとなり、これをyとするとyは次式で与えられる。

共振回路からの定常出力の振幅
ここでφは一定であるとする。またp(t)とq(t)とを数式 107, 数式 108の解とする。すると

ここでrを次のように定義する。
共振回路から出力される搬送波の定常振幅は
によって与えられる。 このことから定常振幅は φ=0において最大となり、その振幅は
によって与えられることが分かる。
φの変化に対する定常振幅の変化
共振回路から出力される搬送波の定常振幅は
と表すことができるので、これをφで微分することにより、φがΔφだけ変化したことにより定常振幅に引き起こされる振幅の変化は
と表すことができる。
定数rの評価
数式 102から
すなわち、rは数式 63で与えられている搬送波の振幅 | w | に依存する。この依存性を強調するときには、rではなく r | w | と書くことにする。すると、任意のaに対して
が成り立つ。
数式 73により与えられたh0(s)に対して定義される hT 0(s)に対してrを評価すると

となる。 これから
であることが従う。
共振回路のQ値
共振回路のQ値は共振回路の出力に接続されている負荷により変化する。負荷が軽くなればQ値は大きくなる。多くの共振回路では、共振周波数における出力の振幅がこのQ値に近似的に比例する。つまり、共振周波数における昇圧比が近似的のQ値に比例する。また多くの共振回路では共振周波数も負荷により変化する。すなわち共振周波数もQ値に依存する。しかし多くの共振回路でこの依存は小さい。
昇圧比が図 4に示す周波数特性を備えた圧電トランスについて、共振周波数における昇圧比とその共振周波数とについてQ値に対する依存を調べる。図 5に昇圧比のQ値依存性を、また図 6に共振周波数の負荷依存性を示す。図 5から昇圧比がほぼQ値に比例していることが分かる。図 6から、負荷が150 kΩから300 kΩまで変化すると、共振周波数は600 Hz程度シフトする。このシフトは共振周波数の120 kHzに対して十分に小さい。
ある負荷が接続された共振回路の伝達関数を数式 67に示すようにh(s)とかくと、その係数cは数式 68から次のように与えられる。
ここでgrは共振周波数における共振回路の昇圧比であり、近似的にQ値に比例する。またωrは共振周波数における角速度であり、負荷に依らず近似的に一定であると考える。これから係数cがQ値に近似的に依存しないことが分かる。つまりcは共振回路に固有であり、負荷に依らず近似的に一定であると考えることができる。
共振回路からδとrの抽出
数式 117と数式 103とから

Qは数十はあるので、
係数cは共振回路に固有な定数であり、wは搬送波の振幅であるので、rはQ値したがってδにほとんど依存しない数であることがわかる。このrは共振回路からの出力を測定することにより次のように直接的に求めることができる。
共振のQ値を測定することは広く行われている。一定の振幅を持つ共振周波数の搬送波によって共振回路が駆動されている場合の共振のQ値をQとする。角速度ωrを共振周波数とすると数式 70から
によりδを求めることができる。
また共振回路から出力される搬送波の振幅の最大値をRとすると数式 114から
となり、これからrを求めることができる。このrは数式 125からほとんどδには依存しない。
エンベロープによる等価電源の構成
ここで安定性の解析の対象となる電源は、局所的に一定な振幅を持つ搬送波を発生するドライバー回路と、ドライバー回路の出力である搬送波によって駆動される共振回路と、共振回路の出力である振幅変調された搬送波を整流することにより直流電圧として取り出す整流平滑回路とを備える電圧発生回路と、整流平滑回路の出力である直流電圧をこの電源の出力電圧を参照電圧と比較する誤差増幅器と、誤差増幅器の出力よって決まる周波数を発生し、前記ドライバー回路を制御する周波数変調回路を備える帰還回路を含み、周波数変調器の出力は前記ドライバー回路に入力されドライバー回路の発生する搬送波の周波数の制御を行い、整流平滑回路の出力である直流電圧を搬送波の周波数に帰還することにより出力直流電圧を一定にする。この電源の構成を図 7に示す。
仮想共振回路と仮想整流平滑回路
共振回路の出力は、図 8に示すように共振により振幅変調された搬送波であり、この搬送波が整流平滑回路により直流電圧に変換される。解析を容易にするために、仮想共振回路と仮想整流平滑回路を導入し、これにより共振回路と整流平滑回路を近似する。仮想共振回路は共振回路とおなじ周波数変調された搬送波を入力とし、共振回路の出力する振幅変調された搬送波ではなく、図 9に示すようにそのエンベロープを出力する。このエンベロープは仮想整流平滑回路に入力される。仮想整流平滑回路は、その出力が整流平滑回路の出力と同等なるような伝達関数を備えている。仮想整流平滑回路の入力がこの伝達関数により変換されることにより、整流平滑回路の出力と同等な出力が実現される。
仮想整流平滑回路の伝達関数
整流平滑回路は、振幅変調された搬送波を整流・平滑する事により直流電圧を生成する。このため直流電圧の生成には大きな遅れを伴う。すなわち搬送波の振幅の変化が生成される直流電圧に反映されるまでの遅れが大きい。このように遅れが大きい場合、伝達関数は一次遅れで近似できる。そこで一次遅れの伝達関数を仮想整流平滑回路に仮定する。
一次遅れの時定数をμとする。整流平滑回路が、入力である高周波交流の振幅のν倍の直流電圧を生成する場合、これに対応する仮想整流平滑回路の伝達関数は
となる。 整流・平滑された整流平滑回路の出力を微分回路に入力することにより一次遅れの伝達関数をキャンセルすると、この微分回路からの出力は仮想共振回路から出力されるエンベロープそのものであると考えられる。
この νは倍圧整流にともなう乗数であるが、整流平滑回路の出力インピーダンスに関係する。整流平滑回路から出力される電圧はこの出力インピーダンスと負荷の抵抗の値によって決まるので、この意味で乗数νは整流平滑回路の出力インピーダンスと負荷の抵抗に依存する。
等価電源
等価電源は電源の等価回路であり、ドライバー回路と仮想共振回路と仮想整流平滑回路とからなる仮想電圧発生回路と、誤差増幅器と周波数変調器とからなる帰還回路から構成される。仮想電圧発生回路によって発生された直流電圧が等価電源の出力であり、帰還回路はこの直流電圧を搬送波の周波数に帰還する。誤差増幅器は、引き算回路と位相補償回路からなる。出力電圧と参照電圧の電圧差を検出する引き算回路の出力は位相補償回路に入力される。この位相補償回路の出力が誤差増幅器の出力である。周波数変調回路は、誤差増幅器の出力よって決まる周波数を発生し、この周波数を持つ矩形波を出力する。周波数変調器の出力はドライバー回路に入力されドライバー回路の発生する搬送波の周波数を制御する。等価電源の模式図を図 10に示す。
等価電源の負荷について
等価電源の負荷は仮想共振回路のδに反映される。負荷が重くなると、共振回路のQが小さくなり、δが大きくなる。また逆に、負荷が軽くなると、Qが大きくなり、したがってδは小さくなる。そこで等価電源の安定性を解析する場合、その負荷を駆動する仮想共振回路のδLによって負荷 Lを指定する。つまり、ある負荷 Lが接続された等価電源の安定性は、仮想共振回路のδがその負荷に対応したδLにある時の電源の安定性と理解する、
スマート電源の安定性
仮想整流平滑回路の伝達関数が数式 128で与えられるとき、その等価電源をスマート電源と呼ぶ。スマート電源ついて帰還の安定性を考察する。スマート電源では、出力電圧が仮想共振回路を駆動する搬送波の周波数へ帰還される。帰還の安定性を考察するために、出力電圧のわずかなズレを考え、このズレの帰還による変化を調べる。帰還が安定であれば、ズレは縮小する方向に変化する。ズレが拡大する方向に変化すれば、帰還は不安定である。この出力電圧のわずかなズレの帰還を考える際には、そのズレが微少であるので、δ, μ, νは一定であると仮定する。
スマート電源の一例とその微分方程式系
誤差増幅器は引き算回路と位相補償回路からなる。引き算回路は分割抵抗と増幅器からなり、増幅器がその入力の電圧差を出力する。位相補償回路は増幅器とその周辺回路からなり、引き算回路の出力から誤差増幅器の出力を生成する。仮想共振回路あるいは仮想整流平滑回路の動作に比べて増幅器は十分に速く動作するので、誤差増幅器による遅れはすべてこの位相補償回路によると仮定することができる。スマート電源の一例を図 11に示す。 図 11の電源について、仮想共振回路の出力をy、仮想整流平滑回路の出力をzとすると、

またzを分割抵抗で分割した電圧d zと参照電圧nとが引き算回路の増幅器に入力される。ここでdは分割抵抗の分割比であり、位相補償回路への入力をvとすると、

と書くことができる。図 11の位相補償回路への入力をv、その出力をvoとすると、vとvo
の関係で結ばれている。これは次式のように書き直すことができる。
ここで

数式 130から、
これから

数式 139に数式 66を適用すると、

つまりこのスマート電源は次の微分方程式系で記述される。


スマート電源のループゲイン
仮想共振回路の出力をy、仮想整流平滑回路の出力をzとすると、
またzを分割抵抗で分割した電圧d zと参照電圧nとが引き算回路の増幅器に入力される。ここでdは分割抵抗の分割比であり、位相補償回路への入力をvとすると、

と書くことができる。
このとき、仮想整流平滑回路の出力zがz+Δzに変化したとすると、誤差増幅器への入力はΔvだけ変化する。ここでΔvは
である。誤差増幅器のゲインをLとすると、誤差増幅器の出力は-L Δv (= -L d Δz )だけ変化する。この結果、周波数変調器から出力される搬送波の周波数はΔφだけ変化する。ここで Δφは
と書くことができる。 このとき仮想的共振回路から出力される振幅は数式 116から
だけ変化し、これから仮想的整流平滑回路の出力は
だけ変化することが分かる。つまりループゲインは
となる。Aが誤差増幅器の直流ゲインの場合
と置くと、直流的ループゲインは
と表される。帰還回路としての安定化直流電圧電源には、出力電圧の安定性を高めるために一般に大きな直流的ループゲインが実装される。
δの近傍
図 12に直流的ループゲインをφの関数として示す。これから分かるようにループゲインはφ=δ/√2において最大値となり、φ =3 δで最大値のほぼ1/4となる。後の議論の便宜のために、φの変域のうち 区間[δ/√2, 3 δ]をδの近傍と定義すると定義より δの近傍では
が成り立つ。
共振回路の遅れと整流平滑回路の遅れ
スマート電源における共振回路の遅れと整流平滑回路の遅れとを考える。共振回路の極の遅れをf sec, 整流平滑回路の極の遅れをμ secとすると、
である。共振回路の遅れはδによって
と評価することができる。これから
が成り立つことが分かる。
スマート電源と微分方程式系
仮想整流平滑回路の伝達関数は次のように与えられる。
従って仮想共振回路の出力yと仮想整流平滑回路の出力zとは微分方程式
を満たす。そこでこの仮想共振回路による遅れを相殺するゼロ点を考慮したスマート電源の模式図を図 13に示す。 このスマート電源についてフィードバックの安定性を考察する。誤差増幅器は引き算回路と位相補償回路からなる。
駆動周波数が共振周波数より高い場合
共振回路を駆動する搬送波の周波数が共振周波数より高い場合、すなわちφ ≧
0の場合には、位相補償回路の伝達関数は次のように書ける。
ここでE, AおよびBはそれぞれ正の定数である。 数式 161から
この式からzの2階微分を数式 107、数式(108を使用して計算すると、

結局、スマート電源は次の微分方程式系で記述されることが分かる。


平衡点近傍での安定性
微分方程式系
数式 166〜数式 169の平衡点はp, q, φに 関する次の方程式系の解である。

平衡点では
が成り立つので、平衡点は次の連立一次方程式の解である。

数式 175から数式 177を連立して、p, q, zをφの関数として求め、これを数式 173に代入すると数式 178を得る。 この解である平衡点をpe, qe,
ze, φeとするとき、 pe, qe, zeおよびλは、φeの関数として次にように表すことができる。

Lyapunovの方法により平衡点の近傍での微分方程式系の安定性を調べる。 p, q, z, φをそれぞれpe, qe, ze, φeの近傍で次のように展開する。

この式を微分方程式系 数式 166〜数式 169に代入し高次の項を無視することによりΔp,Δq, Δz, Δφに関する次のような正規かつ線形な微分方程式系を得る。

ここで

このとき、行列Mの要素はpe, qe, ze, φeの関数となるが、数式 182により、φeの関数と考えることができる。したがって、 Mの固有多項式をm(h)とし、
と書く。係数 a0, a1, a2,
a3, a4は以下のようにφeの関数となる。

ここで、rは次にように定義されている。

駆動周波数が共振周波数より低い場合
共振回路を駆動する搬送波の周波数が共振周波数より低い場合、すなわちφ ≦
0の場合、φを-φと置く。たとえば出力電圧が参照電圧によって設定される電圧より高い場合には、駆動周波数は共振周波数から離れる方向に動くので位相補償回路の伝達関数は次のように
数式 162と同一の式で書ける。φを-φと置くと
数式 166、数式 167は次のようになる。

数式 163からzの2階微分を数式 199、数式 200を使用して計算すると、zの2階微分にはφが含まれていないので

と数式 165と同一の式となる。
共振周波数よりも低い
駆動周波数の場合、スマート電源はφ ≧ 0として次の微分方程式系によって記述されることがわかる。

平衡点 pe, qe, zeおよびλは、φeの関数として次にように表すことができる。

この平衡点の近傍で線形化された微分方程式系
数式 202〜数式 205の固有多項式をm(h)とし、m(h)を
と表すと、
として、係数 a0, a1, a2,
a3, a4は再び数式 192〜数式 196によって与えられるので、駆動周波数が共振周波数より高い場合にも低い場合にも、
係数 a0, a1,
a2, a3, a4はφ ≧ 0として 数式 192〜数式 196によって与えられることがわかる。
固有多項式 の再定義
数式 192〜数式 196において、項 k, d, ν, rはまとまってA, B, またはEとともに現れるので、
と置き、さらにB′とE′を

つまり

と表し、さらにこのB′とE′を再びBとEと書くと、係数 a0, a1,
a2, a3, a4は以下のようにφeの関数となる。

またZe
によって導入すると、数式 217〜数式 221は次のように書ける。

数式 191において定義されたMの固有多項式m(h)を、数式 217〜数式 221あるいは数式 223〜数式 227において再定義された係数 a0, a1, a2, a3, a4を用いて再び次のように定義する。

固有多項式の根
スマート電源を記述する微分方程式系において、出力電圧が参照電圧の付近にある場合、言い換えると平衡点の近傍での出力電圧の振る舞いはこの微分方程式系の極によって与えられる。スマート電源を記述する微分方程式系 数式 202〜数式 204の極はこの微分方程式系の固有多項式 数式 228の根によって与えられる。
帰還の安定性は固有多項式の根によって決まる。微分方程式系がLyapunovの意味で安定であるためには、固有多項式のすべての根の実部の負であることが必要十分条件である。電源を記述する微分方程式系がLyapunovの意味で安定であることは、電源の満たすべき必要条件である。Lyapunovの意味での安定性は電源の安定性としては十分ではない。例えばLyapunovの意味で安定な電源の出力電圧が振動する場合が存在する。また出力電圧が参照電圧で設定された出力電圧の近傍で振動する場合、あるいはまた長い時間をかけてに振動しながらゆっくり安定する場合もある。
電源としての望ましい特性は、固有多項式の適切な根の配置によって実現される。つまり電源のδ, μ, νの値に応じてE, B, Nの値を選び、適切な根の配置を実現することにより、望ましい特性が実現される。固有多項式の根のなかでその実部の絶対値が最小である根を特性代表根と呼ぶ。特性代表根は多項式の根のうちで実部が一番原点に近い根である。帰還により安定化された電源の出力電圧の特性はこの特性代表根に強く依存する。後ほど述べるように、特性代表根が虚根から分離された実根である場合に電源は望ましい特性を実現する。次節では実用的な仮定の下で特性代表根が虚根から分離された実根となる条件を求める。
固有関数m(h)の分解
固有関数m(h)は次のように書くことができる。
数式 229の右辺の第2項は帰還回路の伝達関数の分子に一致する。これから第2項は帰還回路からの寄与であることが分かる。また第1項は帰還回路の伝達関数に依存しないので高圧発生回路からの寄与であることが分かる。第一項の項hは帰還回路の原点に位置する極に対応する。項(μ h+1)は整流平滑回路に対応し、その遅れの時定数が1/μであることを示す。また項(( x + δ )2 + φ2)は共振回路に対応する。
数式 229から高圧発生回路の伝達関数をFw、帰還回路の伝達関数をBkとすると、定数倍と共通の定数CにたいしてC Fwと(1/C) Bkとの違いを除いてFwについて
であり、Bkについて
となり、閉ループの伝達関数Fw/(1+Fw Bk)を計算すると

となるので、固有関数m(h)は閉ループ伝達関数Fw/(1+Fw Bk)の分母に定数倍を除き一致することがわかる。
数式 229からφ=0のときのm(h)は
となる。またh=-1/μとするときのm(h)は
によって与えられる。
帰還による原点の近傍に位置する極の導入
スマート電源は微分方程式系によって記述され、固有多項式はこの微分方程式系によって定まる。スマート電源は高圧発生回路と帰還回路から構成される。つまり固有多項式は高圧発生回路の伝達関数と帰還回路の伝達関数に依存する。高圧発生回路は整流平滑回路の生成する極を含む。この極は整流平滑回路の遅れに対応しており低い周波数にある。スマート電源では帰還回路に原点に位置する極を導入することにより、固有関数に原点の近傍に位置する実根を生成すると同時に整流平滑回路の遅れに対応した実根をより高い周波数に移すことにより原点の近傍の極から高い周波数に移動した極までの周波数領域に、一次遅れで近似できる広い周波数の領域を確保する。
たとえばループゲインに対応したNを大きくすることにより整流平滑回路の遅れに対応した根をより高い周波数に移すことができる。この根の移動は固有多項式の原点の近傍の根と整流平滑回路の遅れに対応した根以外の根を結果的に低い周波数に移す。一次遅れで近似できる広い周波数の領域を確保するためには電源のパラメータに応じてE, B, Nを適切に選ぶことが必要となる。
二つの関数
数式 229で与えられたm(h)の表現から関数f1(h)とf2(h)を次のように定義する。

このとき、固有多項式m(h)は
と書くことができる。
関数f1(h)
関数のグラフy = f1(h)を考えると、数式 229からこのグラフは原点と-1/μにおいてh軸と交わる。また-δ ≪ -1/μであることを考慮すると、h < -1/μにおいて正の値を取る関数であることが分かる。図14にy=f1(h)のグラフを示す。
関数のグラフy = f2(h)
関数f2(h)のグラフy = f2(h)は、φとNとが与えられた場合上に凸な二次曲線である。φとNに依らずm(h)=0が原点の近傍に実根を持つ条件を考える。グラフy = f2(h)がh軸と交点を持たない場合、Nまたは φが大きくなるとグラフは-yの方向に移動するのでグラフy = f1(h)とグラフy = f2(h)は原点の近傍に実根を持つことができなくなる。
グラフy = f2(h)がh軸と交点を持つ場合、関数f2(h)の定義からf2(h) = 0の根はすべて負の実根となる。この実根のうち絶対値が最小の実根をhaとし、他の根をhbとする。このときグラフy = f2(h)はφとNに依らずhaとhbとを通る。この実根のうちhaがh軸上の-1/μ ≦
h <0の範囲にあるときにはφとNに依らずm(h)=0が原点の近傍に実根を持つ。さらにhbはhb < -1/μを満たし、図 14に示すように整流平滑回路の遅れに対応した根-1/μはより高い周波数に移動することが分かる。
実根haとhbがともにh軸上の-1/μ ≦ h <0の範囲にあるときにはm(h) = 0が-1/μ ≦
h <0の範囲に2個の実根を持つことになる。また実根haとhbとがともにh軸上の-1/μ ≦ h <0の範囲にない場合にはNまたはφが大きくなるとm(h) = 0は原点の近傍に実根を持つことができない。実根を持つ場合には-1/μ ≦ h <0の範囲に2個の実根を持つ。
固有多項式が原点の近傍に実根を持つと同時に整流平滑回路の遅れに対応した根-1/μをより高い周波数に移すのは、haがh軸上の-1/μ ≦ h <0の範囲にある場合となる。グラフy = f2(h)がh軸と-1/μ ≦
h <0の範囲に一つの交点を持つ必要十分条件は

が同時に成り立つことである。ところで数式 239はE > 0から自動的に満たされる。数式 238から
が従う。これから
であることが分かり、またm( 0 ) >0であることからm(h) = 0は-1/μ ≦
h <0の範囲に一つの実根を持つことが分かる。また数式 240からグラフy = f2(h)がh軸と-1/μ
≦ h <0の範囲に一つの実根を持つためには
の必要であることが分かる。またf2(h) = 0が相異なる実根を持つことから
であることが分かる。
グラフy=f1(h)とy=f2(h)との交点
帰還がLyapunov の意味で安定であるためには固有多項式のすべての根の実部が負であることが必要十分である。数式 240が成り立ち、固有多項式 m(h) = 0 は-1/μ ≦ h <0の範囲に一つの実根を持つことを仮定して、固有多項式のすべての根の実部が負となる条件を明らかにする。固有多項式は実根をもつので、固有多項式は4個の実根を持つ場合と、2個の実根と2個の虚根とを持つ場合がある。固有多項式m(h) = 0はh > 0においてm( h ) > 0であるので、4個の実根を持つ場合にはすべての実根は負となり、Lyapunovの意味で安定であることがわかる。
固有多項式m(h)が実根h1, h2の他に2個の虚根h3, h4を持つとき、虚根h3, h4は共通の実部hrを持つ。このとき実根h1, h2とグラフy = f2(h)とh軸との交点ha, hb
の関係にある。根と係数の関係から

が成り立ち、
がなりたつので、実根の評価から虚根の実部の概略を評価することが可能になる。
数式 247からhrが負となるためには
が必要十分条件である。数式 248の十分条件はいろいろな形で表現することができる。 たとえば
が成り立つ場合、
が成りたち、h1は原点の近傍に位置するので、
と評価することができ、根は原点に近い順番にh1、次にh2と虚根の実部とが前後して並ぶことが分かる。同様にして
が成り立つ場合、
と見積もることができ、根は原点に近い順番にh1、h2、虚根の実部と並ぶことが分かる。また数式 249は
と書くことができるので
は数式 249の十分条件となることが分かる。
BによるNへの制限
数式 247から分かるように、h2が-2δの付近の値であり、
の時には
となるので、虚根の実部hrは原点の近傍にあるが
を満たす。つまりh2が-2δに向かって小さくなると、hrは負の側から原点に向かって大きくなる。h2が-2δを超えてさらに小さくなると、hrは原点を超えて正となり、帰還はLyapunov の意味でも安定ではなくなる。
hbが-2δより大きい場合には、どのように大きくなNにたいしてもh2はつねに-2δより大きくなり、hrが正となることはない。しかしながらhbが-2δより十分に小さい場合にはNを大きくすると、h2が-2δを超えて小さくなるので帰還は不安定になる。つまりhbが-2δより十分に小さい場合には安定な帰還を実現するためにはNに上限のあることが分かる。
関数f2( h )はhの関数として
と書くことができ、haが原点の近傍にあるのでhbについて
の成り立つことがわかる。したがってBが小さくなるとhbは-2δを越えて小さくなる。これからLyapunov の意味で安定な帰還を実現するためには、Bが1/(2δ)より小さい場合にはNに上限のあることがわかる。
まとめると、数式 240が成り立っている場合すなわち
である場合、Bが1/(2δ)より十分に大きい場合に帰還はNに依らずLyapunov の意味で安定となるが、Bが1/(2δ)より小さい場合にはLyapunovの意味で安定な帰還を実現するためにはNに上限が必要となる。
φの関数としての固有関数m(h)
数式 229から固有関数m(h)は次のように書ける。


h ≦ -1/μかつBh2
+ h + E ≧ 0の場合
数式 262からわかるように
ならば第一項は正となり、
を満たすならば第二項も正となるので
がφに依らず常に成り立つ。
たとえばB < μならば h = -1/BにおいてBh2+ h +E =
Eとなるので
がφに依らず成り立つ。
h ≦ -1/μかつBh2
+ h + E < 0の場合
数式 262からわかるように固有多項式m(h)はhのみならずφに依存する。hを固定してφの関数と考えたm(h)をEh(φ)と表す。すなわち
と定義する。まずEh(x)のxに関する微分を計算する。

ここでx=0におけるE′h(x)を求めると、仮定から
であるので
であることがわかる。またxが大きいところでは明らかに
となるので、
を満たすxの存在することがわかる。
ここでEh(x)のxに関する二階微分を計算すると

となる。この式と仮定からx ≧ 0において
が成り立つ。これからEh(x)はxの関数として下に凸であることがわかる。数式 270と数式 271とから、数式 272を満たすxがただ一つ存在する。数式 272を満たすxをφhと書くと、関数Eh(x)はx=φhにおいて最小値を持つ。E′h
h)=0から

これからφhを使ってNを
と表すことができる。
数式 276を使って最小値Ehh)を求めると、

となる。これからh = -δにおいてBh2 + h + E < 0が満たされている場合、すなわち
ならば-δ < -1/μであるので
であることが分かる。
数式 277から
が満たされているとき、Ehh)が正となるφh > 0を満たすφhが存在する。最小値Ehh)が正となるφhの変域は次のように求めることができる。Gh
と定義する。ただしgh( φ )は次のように定義する。

ここで数式 282は数式 277の部分項である。
Gを
と定義する。 gh(x)はx ≧
0においてxの単調減少関数である。gh(x)のx=δ/√2における値を計算すると
これから-2 δ ≦ h ≦
-1/μの場合
またh ≦ -2 δ の場合
の成り立つことが分かる。
Nから決まるφhとEh( φh )
δ (>0) があたえられているとき、x ≧ 0を変域とするxの関数ml(x)を次のように定義する。
定義からml(0) = 0であり、またxが単調に無限大に増大するとき ml(x)は単調に無限大に転移する。 従って任意にあたえられた正数Tに対して、
を満たすxが一意的に存在する。
Nは定義より定数であり、したがってhに依らない。数式 276を次のように書き直す。
数式 289の右辺において、δ, μを定数、N, E, Bはあらかじめ与えられた定数と考えると、右辺はhの関数となる。数式 289は任意のh < -1/μに対してφhが一意的に決まることを示している。任意のh ≦
-1/μに対してφhが一意的に決まり、したがってEhh)が決まる。このときh ≦
-1/μを満たすhにEhh)を対応させる関数をF( h )と書くと、F( h )は

を同時に満たすhすなわち
に対して定義された
のN, E, Bに依存して決まる関数である。Nを大きくするとF(h) < 0となるhの範囲が広がり、小さくすると狭くなるので、NによりF(h) < 0となるhの範囲を制御することができる。
F( h ) > 0ならば任意のφ > 0にたいしてm( h ) > 0となるので、固有多項式m( h )はF( h ) > 0を満たすhの領域にφに依らず実根を持つことはない。
原点の近傍の実根の評価
帰還が安定になるためには数式 240と数式 243とから

の同時に成り立つことが必要であり、さらにたとえば
が成り立つとき帰還はNに依らず安定となる。
実際の回路では出力電圧にリップルが重畳する。Nはこのリップルの増幅に関係し、Bはリップルの微分に関係する。Nを大きくするとリップルが大きくなるので、Nは実際にはリップルにより制限される。この結果、帰還の安定性を損なうことなくBを
とすることが可能になる。リップルとの関係で実際の回路では

が実用的な定数の選択となる。EとBとが数式 298と数式 299とに従うとき、数式 228においいて定義された固有多項式 m(h)は-Eの近傍に実根の特性代表根を持つことが分かる。
言い換えると、図 13に示されたスマート電源の模式図において、この電源に十分な直流的ループゲインが実装され、かつ条件 数式 298および数式 299を満たしているEおよびBによって位相補償回路の伝達関数が次のように与えられているとき、
固有多項式は-Eの近傍に実根の特性代表根を持つ。
固有多項式m(h)の値
固有多項式 m(h)のh=-E/2における値
たとえば、固有多項式m(h)のh=-E/2における値を考える。

となり、数式 301を書き換えると次式を得る。

E ≪ δであり、δ< Zeである。またE μ < 1であるので
が成り立つ。一方 Bは近似的に1/δに等しく、またE ≪ δであるので
となる。 φeN/Ze 3は平衡点φeにおける直流的ループゲインであり、すくなくとも数十はあるので
となることが分かる。
固有多項式 m(h)のh=-2 Eにおける値
また、m(h)のh=-2 Eにおける値を考える。

となり、数式 307を書き換えると次式を得る。

同様の議論により

が成り立つので
となることが分かる。これからm(h)は-1/2 Eから-2Eの区間に少なくとも1個の根を持つことが分かる。次に示すように同様の方法でm(h)は-Eの近傍に根を持つことが分かる。
固有多項式 m(h)のh=-σ Eにおける値
m(h)のh=-σ Eにおける値は

となる。m( -σ E) = 0を満たすσは、数式 306と数式 312から
であることが分かる。 また
同様にして
またμ E < 1であるので
と評価できる。φe N/Ze 3は平衡点φeにおける直流的ループゲインであり、すくなくとも数十はあるので、m( -σ E) = 0となるためには 括弧のなかの第一項の分子の部分項σ2EB-σ+1について
が成り立つ。
そこでσに関する二次方程式
を考え、この根で数式 318の根を近似する。二次方程式 319の根をσ1, σ2とし、σ1
σ2とする。EB ≪ 1であるので、σ1は1の近傍にある。また次のようにσの関数を定義すると
この関数のσ =1における傾きは
と評価できる。 直流的ループゲインN φe/Ze 3が大きいので直線の傾きは急峻となりなり、したがって固有方程式m(h) = 0はh = -Eの近傍に根を持つ。
E B < 1/4の場合
数式 243からBとEは条件
を満たす。このときσの関数f1( σ )とf2( σ )とを数式 313をもとに次のように定義する。

m( -σ E ) =
0をみたすσは方程式f1( σ )-f2(
σ ) = 0から求めることができる。f1( σ ) = 0の根をσ1, σ2とし、σ1 ≦ σ2とする。 f2( σ ) = 0の根はσ = 0とσ = 1/(μ E)の根を含む。σが[0,1/(μ
E)]の範囲にあるとき
であるので

したがってσが[0, 1/(μ E)]の範囲にあるとき関数f2( σ )は次に定義するσに関する2次関数f3(σ)で近似することができる。
方程式f1(σ) - f2(σ) = 0の代わりに方程式f1(σ) -
f3(σ) = 0からm(-σ E) = 0をみたすσの近似解を求める。
グラフy = f1(σ)とグラフ関数y = f3(σ)の交点を考える。ところでσ = 1/(μ E)におけるf1( σ)を計算すると、数式 240から
となる。一方、f3(σ)について0 ≦
σ ≦ 1/(μ E)のσの範囲で
が成り立つ。故にグラフy = f1(σ)とグラフ関数y = f3(σ)の交点のσはσ1より小さい。またE
B < 1/4であることからσ1
と評価される。
条件

が満たされるとき、直流的ループゲインの大きさを仮定することなく固有多項式m( h ) = 0の原点の近傍の根h1について
と評価することができる。
二つの関数
数式 191で定義された係数 a0, a1, a2, a3, a4を使って関数f1(h)とf2(h)を次のように定義する。

このとき、固有多項式m(h)は
と書くことができる。
関数f1(h)はhの関数であるのみならずφeの関数でもある。条件μ δ ≫ 1の仮定の下、関数f1(h)はh < 0において、φe
δ/√8のときhの関数として単調減少関数となり、またφe
≧ δ/√2のときhの関数として下に凸な関数となることが次のようにして分かる。
関数f1(h)
条件μ δ ≫ 1を仮定する。数式 191で定義されているようにa0 =
1である。
となる。

また、μ δ ≫ 1であるから
これから
となり、したがって
これから
が従い、

となる。これからすべての hにたいして
となることが分かる。関数のグラフy = f1(h)を考えると、数式 349からこのグラフは原点に2重根を持ち、原点以外では常に正の値を取る関数であることが分かる。
これから数式 349を適当な正数P, Qによって
と書くと、

となる。
一方、数式 350を使うとf1(h)は次のようにかける。
これからf1(h)の微分を計算すると
これからhによらず
が成り立つとき、h ≦ 0において f1(h)の微分は負となり f1(h)は減少関数になる。ところで

これから
であれば、hによらず不等式 数式 355が成り立ち、h ≦ 0においてf1(h)の一回微分は負となり、f1(h)は減少関数となる。
さらにf1(h)の二回微分を計算すると
これからhによらず
が成り立つとき、f1(h)の二回微分正となり f1(h)は下に凸な関数となる。ところで

これから
であれば、hによらず不等式 数式 361が成り立ち、f1(h)の二回微分は正となり、f1(h)は下に凸な関数になる。
φeが次の条件
を満たしているときy = f1(h)はh < 0で単調に減少する下に凸な関数となる。従って直線y =
f2( h )との交点はたかだか2個である。
関数のグラフy = f2(h)
関数f2(h)のグラフy = f2(h)は直線である。直線の傾きは-a3、y軸との交点は-a4、x軸との交点は-a4/a3である。ここでa3, a4は数式 223〜(227から次のように与えられる。

直線の傾きは
と書けるので、φeの増加に伴い傾きの勾配は急になる。 また

であることが分かる。 これから
であることが分かる。
十分な直流的ループゲインが組み込まれていることを考えると、数式 156から
となるので、数式 370は次のようになる。
つまり、 グラフy = f2(h)のh軸との交点は-Eで近似することができる。
安定な帰還の実現
固有多項式の特性代表根
固有多項式の原点の近傍の実根をe0とすると、e0は固有多項式の特性代表根であり、したがって出力電圧は近似的に
の時間的経過で立ち上がる。つまり立ち上がりの時定数は1/e0である。また実際の回路における実用的な設定ではe0はEの近傍にあるので、立ち上がりの時定数は近似的に1/Eとなる。Eが小さくなればe0は小さくなり、Eが大きくなればe0も大きくなる。Eを大きくすれば立ち上がりは早くなる。
さらにEを大きくすると、Eはやがて数式 240あるいは数式 243を満たさなくなる。これに伴い出力電圧にオーバーシュートが現れる。これは特性代表根e0が虚根に変わったことに対応する。これについて図 15における関数 y = f1(h)と y = f2(h)をもとに考察する。関数 y = f1(h)はEに依存しないが、y = f2(h)はEに依存する。y = f2(h)の傾きはEに依らないが、y軸との切片はEの関数となるので、Eが大きくなるとy = f2(h)は原点からと遠ざかる方向に平行移動する。この結果、図 15に示されている実根h1, h2はEの増加に伴いお互いに近づき、関数が接した状態でh1 = h2となり、さらにEが増加すると2個の虚根に変化する。
整流平滑回路の時定数μと乗数ν
時定数μは整流平滑回路を一次遅れの仮想的整流平滑回路によって近似する際の時定数として数式 128において導入された。共振回路を記述するパラメータには、共振周波数、共振周波数におけるゲイン、共振の半値幅がある。共振回路が整流平滑回路を充放電する過程を記述するためのあたらしいパラメータとして、共振回路が整流平滑回路を充放電する際の時定数μと、出力インピーダンスと負荷と整流回路の倍圧に依存して決まる乗数νを導入した。ここでμもνも出力電圧と出力電流の関数であるが、出力電圧、出力電流の変化に対して緩やかに変化するので、ある指定された出力電圧、出力電流の近傍では定数と近似することができる。
整流平滑回路の充電と放電
スマート電源では、出力電圧は整流平滑回路により生成される。整流平滑回路は内部にキャパシタを含み、その出力電圧はこのキャパシタによってバッファされる。このバッファリングにより出力電圧に含まれるリップルが減少する。たとえば出力電圧が正である場合、整流平滑回路は電荷をキャパシタに汲み上げ出力電圧を上昇させることはできるが、キャパシタから電荷をくみ出し電圧を下げることはできない。整流平滑回路の出力電圧は,おもに負荷抵抗と平滑回路のキャパシタンスによって決まる時定数より早く降下することができない。平滑回路に入力される電圧がこの時定数より早く降下した場合、整流回路の出力は平滑回路のキャパシタンスを充電することができない。つまり整流平滑回路に電流は流れ込まない。
通電状態
そこで整流平滑回路に電流が流れている通電状態と電流が流れ込まない切断状態を区別する。切断状態では出力電圧の低下を伴う。一定の負荷のもとで一定の電圧を出力する状態は通電状態である。一定の負荷のもとで参照電圧で指定された一定の電圧を出力する状態では、出力電圧の上昇を実現する整流平滑回路へ流れる電流の増加、また下降を実現する電流の減少は、一定の電圧を出力する平衡状態における電流の変化に帰着するので、通電状態での電源の動作は微分方程式系
数式 166〜数式 169で記述するこが可能となり、この微分方程式系のμはこの平衡状態を実現する電流が流れたときの整流平滑回路の時定数であることが分かる。このことから電圧が上昇するときの時定数と下降するときの時定数が第一近似で一致することがわかる。
通電状態では帰還が有効に働くので、定常状態では出力電圧と参照電圧の差は微少に保たれる。したがって、微分方程式系の安定性と電源の安定性は等価である。電源が安定となる条件は、微分方程式系が安定となる条件から、特性代表根の実部が負であり、実部がその虚部に較べて絶対値において同程度あるいは大きいことである。
切断状態
出力電圧がたとえば参照電圧より高くなり、整流平滑回路に流れる電流をゼロまで減らしても出力電圧が参照電圧より高い場合に切断状態となる。切断状態では帰還が有効に働かないために出力電圧と参照電圧の差は有限な値となる。切断状態ではキャパシタに蓄えられた電荷を負荷の抵抗を通して放電することにより出力電圧は下降する。放電する場合の時定数は、キャパシタと負荷の抵抗によって決まる時定数より小さくなることはない。切断状態は、出力電圧が参照電圧より低くなった時点で整流平滑回路に電流が流れ始めるので、通電状態に切り替わる。
切断状態から通電状態へ切り替わり
通電状態に切り替わると、出力電圧が上昇する。一般に出力電圧が上昇するためには、共振回路が整流平滑回路のキャパシタを充電し、かつ負荷に電流を供給することが必要である。充電する場合の時定数は負荷が軽くなるに伴い小さくなり、負荷に依存する。しかし通電状態では帰還が有効に働くので、出力電圧の立ち上がりの時定数は帰還によって制御され、固有多項式の特性代表根によって決まる。
出力電圧の立ち上がりにおけるオーバーシュート
この時の出力電圧の立ち上がりにおいて、出力電圧のオーバーシュートが引き起こされると、出力電圧が参照電圧より高くなり再び切断状態が引き起こされる。この結果、切断状態と通電状態を繰り返す断通振動が立ち上がる。
断通振動が立ち上がらないためには、切断状態から通電状態への切り替わりに伴う出力電圧の上昇がオーバーシュートを引き起こさないことが必要であり、またオーバーシュートが引き起こされなければ帰還は出力電圧を上げる方向に働くので、帰還の安定性は微分方程式で記述された電源の安定性に帰着する。
特性代表根が実根でない場合、出力電圧の立ち上がりはオーバーシュートを伴うため、切断状態と通電状態を繰り返す断通振動が立ち上がる。特性代表根が実根の場合微分方程式は安定であり、従ってこの微分方程式系で記述された電源は安定となる。
たとえばノイズにより偶発的に出力電圧が参照電圧より高くなった場合は、出力電圧と参照電圧の電圧差が微少であるために微分方程式系で記述されるように出力電圧を下げる帰還が有効に働いて出力電圧が降下すると考えても、整流平滑回路は出力電圧を下げることが出来ないので整流平滑回路は切断状態になると考えても、切断状態と通電状態を繰り返す断通振動の立ち上がらない限り実質的な違いはない。
Bの値
帰還が安定になるためには、EとBとは数式 240すなわち
かつ数式 243すなわち
を満たすことが必要である。たとえば
を満たすようにEを選ぶと、Bの選び方には自由度のあることが分かる。Bは
hbと数式 260すなわち
の関係にあるので、数式 244すなわち
から、Bはh2の位置を制約し、この結果Nを制約することになる。
hbのEとBとに対する依存は、数式 293において定義されている関数F(h)によって記述される。すなわち
を満たすhが
であるならば任意のφ ( > 0 )に対して
となる。F(h)はE、B、Nに依存する。F(h)<0となるhの範囲はNによって制御できる。E、B、Nに対してF(h)を求めることによりh2を精密に評価することが可能となる。
整流平滑回路によるリップル
実際の回路でBとNとを制約しているのは、電源の出力電圧に重畳しているリップルである。微分方程式系で記述される電源では、仮想的整流平滑回路の出力にリップルは重畳していない。しかし実際の整流平滑回路の出力には整流に伴う高周波の周期的なリップルが重畳している。微分方程式系
数式
166
〜数式 169において、周期的なリップルが出力電圧に対応するzに重畳している場合、zは平衡点 φeによって決まる出力電圧zeを中心に振動する。実際の電源では、出力電圧の立ち上がは微分方程式系 数式 166〜数式 169に従い変化するのが、たち下がりはこの微分方程式系とは独立に変化する。したがって出力電圧に重畳する周期的なリップルの出力電圧に対する影響は複雑となる。周期的なリップルは出力電圧にzeを中心する振動を引き起こす。
周期的なリップルによって、出力電圧は参照電圧によって設定された電圧の付近を振動するが、この振動の振幅はリップルの振幅と
ループゲインが大きくなるにつれておおきくなる。さらに誤差増幅器の出力に大きなリップルが重畳すると、これが駆動周波数を共振周波数を超えて低くするいわゆるフィードバックブレイクダウンを引き起こす可能性がある。リップルによるフィードバックブレイクダウンは電源に好ましくない。
Eが与えられているとき出力電圧の立ち上がりの時定数は1/Eで近似できる。帰還が有効となる周波数帯域の外側にあるリップルをフィルターで減少させることにより、大きな直流的ループゲインを実現することが可能となる。出力電圧に重畳する周期的なリップルの減少に有効な回路が特許文献2に提案されている。
回路定数の選定
原点に極を導入して安定化を達成することができれば、負荷あるいは入力電圧の変化に対する出力電圧の安定性は向上する。誤差増幅器の伝達関数を
と仮定し、帰還が安定となる実用的な十分条件を求めた。共振回路を記述するパラメータには、共振周波数、共振周波数におけるゲイン、共振の半値幅がある。共振回路が整流平滑回路を充電する過程を記述するために、整流平滑回を一次遅れで近似することにより時定数μを、また出力インピーダンスと負荷と整流回路における電圧の倍圧に依存して決まる乗数νを導入した。
共振回路を固定すると、その共振回路が負荷に対して実現する昇圧比からδの大まかな値が決まる。また共振回路の出力インピーダンスから、整流平滑回路のキャパシタンスを充電する時定数μを見積もることが可能となる。キャパシタンスを充電する時定数μは負荷によって大幅に変化する。時定数μの最大値をμmaxとするとき
となるようにEを選ぶ。
実際の整流平滑回路の出力には整流に伴う高周波のリップルが重畳している。Nはリップルを増幅するのでNの大きさは制限される。リップルの微分係数である観点からBは小さい選ぶことが望ましく、B = 0も選択肢の一つである。安定性からは、Bを小さく選ぶことはNの大きさを制限することになる。実際の回路ではNはリップルの増幅によって制限されており、
がBの実用的な選択となる。つまり1/δの数分の一から数倍までが選択の範囲となる。
このとき出力電圧の立ち上がる時定数は近似的に-1/Eであり、帰還が有効な周波数の帯域の外側にあるリップルをフィルターすることにより直流的ループゲインを大きくすることができる。
右半平面のゼロ点
図 16で示すように共振周波数より高い周波数で圧電トランスを駆動する場合、出力電圧を上げるためにはより共振周波数に近い周波数で駆動することが必要となり、駆動周波数を下げることになる。その結果圧電トランスの出力である高周波交流の周波数が下がることになり、この高周波交流を整流して得られる出力の直流電圧も一時的に下がる可能性がある。駆動周波数の変化が引き起こす出力電圧の変化は負荷が重い場合に大きくなる。
圧電トランスの駆動周波数が変化すると、出力である高周波交流の振幅の変化は圧電トランスに定常波が立ち上がるとともに変化するので、高周波交流の周波数がまず変化し、それから遅れて高周波交流の振幅が変化する。駆動周波数が共振周波数より高い場合、高周波交流を整流して得られる直流電圧は駆動周波数を下げると周波数が下がることにより直流電圧はまづ一時的に降下して、その後振幅の増大とともに上昇する可能性がある。直流電圧が降下する程度は圧電トランスの出力に結合している負荷に依存する。
つまり出力電圧を圧電トランスの駆動周波数に帰還して出力である直流電圧を安定化する電源では、駆動周波数の範囲が共振周波数より高く選ばれているとき、出力電圧を上げようとすると、出力電圧はまず下がってから上がる可能性がある。これは右半平面にゼロ点を持つ制御系の特徴の一つである。
右半平面のゼロ点を確かめる方法
右半平面のゼロ点を確かめるために、駆動周波数を変化させたとき出力である直流電圧の変化を直接詳しく見るのではなく、出力電圧を圧電トランスの駆動周波数に帰還することにより直流電圧を安定化する理想的な電源を考え、駆動周波数が共振周波数より高い場合と低い場合についてシミュレーションにより安定性を比較する。右半平面にゼロ点のある制御系を安定に帰還するためには、パラメータを注意深く選ぶことが必要となる。負荷が重い場合ループゲインを大きくすると右半平面のゼロ点の存在は自ずと明らかになる。シミュレーションの結果では、駆動周波数が共振周波数より低い場合と低い場合では明らかに安定性に差があり、駆動周波数が共振周波数より低い場合がより安定である。実際の圧電トランスを使った電源では、共振回路を駆動するドライバー回路の実装が右半平面のゼロ点に関係するが、駆動周波数が共振周波数より低い場合のほうが安定な帰還を実現するパラメータの範囲が広い。
共振回路
共振回路が圧電トランスの場合には駆動周波数が共振周波数より低い場合のほうが高い場合に較べて安定であるが、右半平面にゼロ点の生成される事情は圧電トランスと一般の共振回路で共通であるので、一般の共振回路の場合にも駆動周波数が共振周波数より低い場合が高い場合より安定になる。
本発明は、共振回路から出力される高周波交流を整流して得られる直流電圧を安定化する帰還回路とその回路定数を与える。この結果、たとえば圧電トランスを共振回路として使用した高圧電源が、入力電圧の変動に対して、また負荷電流の変化に対して出力電圧を高い精度で安定化するこを可能とし、さらに広い範囲の負荷に対して可変な出力電圧の供給を可能にする。
出力電圧を高い電圧精度で安定化するためには、出力電圧を安定化する帰還回路に原点に位置する極を帰還回路に導入することが必要である。
本発明では、誤差増幅器の伝達関数を
と仮定し、帰還が安定となる実用的な十分条件を求めた。
電源を記述する微分方程式系の平衡点の近傍において、この微分方程式系を線形に近似した線型微分方程式系の固有多項式m(h)を考える。固有多項式m(h)が原点の近傍に位置する実根とこれに共役な実根を持つとき、その他の根の実部が負となるようにEとBとを決めることにより安定な帰還を実現する。電源に十分な直流的ループゲインが実装されかつEが大きくない場合には、固有多項式は-Eの近傍に実根を持つ。-Eの近傍の実根と共役な実根は-1/Bと粗く評価することが可能であり、1/δは目安となるBの値である。
たとえば出力電圧が正の場合、整流平滑回路は出力電圧を上昇させることはできるが、出力電圧を下げることはできない。帰還が有効に働くのは出力電圧がグランドから離れる方向の場合だけであり、これからm(h)の特性代表根は実根であることが必要となる。特性代表根が実根となるようにEとBを選ぶことは常に可能であり、このとき出力電圧の立ち上がりの時定数は1/Eと近似することができる。
電源の電圧発生回路があらかじめ与えられているとき、電圧発生回路のパラメータから原点に位置する極と2個のゼロ点を持つ十分条件を満たす伝達関数が求まり、この伝達関数を実現した誤差増幅器を含む帰還が安定となる。またこのようにして実現された電源の特性をあらかじめ予測することができる。
本発明の実施例として、共振回路として圧電トランスを使用した高圧発生回路とその帰還回路からなる直流安定化高圧電源について、高圧発生回路のパラメータから本発明の方法に従い位相補償回路の伝達関数を決定し、帰還が安定であることを示す。
直流安定化高圧電源
圧電トランスを共振回路として使用した直流安定化高圧電源は高圧発生回路と帰還回路から構成される。高圧発生回路はドライバー回路、共振回路として使用される圧電トランス、整流平滑回路から構成される。帰還回路は誤差増幅器および周波数変調回路から構成される。ドライバー回路は外部の電源よりドライバー回路に供給される直流電圧を、周波数変調回路の出力する矩形波と同一の周波数を持つ高周波交流に変換し、この高周波交流により圧電トランスを駆動する。
圧電トランスはこの高周波交流を高電圧の高周波交流に昇圧する。整流平滑回路は、圧電トランスの出力を直流の高電圧に変換し、これを高圧電源の出力として負荷に供給するとともに、帰還回路に入力する。誤差増幅器は帰還回路に入力された出力電圧と参照電圧を比較することによりズレを検出し、このズレを周波数変調回路に入力する。周波数変調回路は入力に比例した周波数を持つ矩形波をドライバー回路に出力する。このようにして出力電圧は圧電トランスを駆動する高周波交流の周波数にフィードバックされ、安定化される。
図 1に示すように圧電トランスを駆動する高周波交流の周波数は、圧電トランスの共振周波数より高くなるように選ばれている。したがって、出力電圧が参照電圧より高い場合には、周波数を上げて共振周波数から遠ざかり、また逆の場合には周波数を下げて共振周波数に近づく。
この直流安定化高圧電源は20 MΩか200 MΩの負荷に対して2 kVから4 kVの直流電圧を供給することができる。この直流安定化高圧電源について、図 18を参照しながら説明する。次に、この高圧電源のシミュレーションを行うシミュレーション用回路を構成する。さらに、このシミュレーションをもとにしたパラメータの測定から、高圧電源の安定な動作を実現する回路定数を求める。最後に、この回路定数の電源が広い範囲の負荷と出力電圧に対して安定に動作することシミュレーションによって示す。
圧電トランス
圧電トランスはあらかじめ分極された圧電素子が持つ圧電効果を利用したものである。圧電素子に外力を加えて変形させれば電圧が発生し、逆に電圧を加えれば応力が発生し変形する。圧電トランスではこの効果を利用して、1次側で電気振動をいったん機械振動に変換して二次側に伝送し、二次側でこれを再び電気振動に戻すことにより、電気エネルギーを伝送する。このように、圧電トランスでは、電気的エネルギーが一次側で機械的振動に変換され、これが二次側で再び電気的エネルギーに再変換される。二次側はキャパシタンスであり、ここに機械的振動を通して電荷が注入されることにより電圧が発生する。
機械的振動は負荷によるエネルギーの散逸のため次第に減衰する。減衰の時定数は負荷 Rとともに大きくなる。出力が高電圧の場合、Rの値は一般に大きい。この意味で、機械的振動でエネルギーを蓄える圧電トランスは直流高圧電源に適している。
圧電トランスは内部に共振回路を含む。このため圧電トランスは、通常の電磁トランスと異なり、鋭い周波数特性や大きな負荷依存性を示す。この圧電トランスが高圧発生回路に使用されている。圧電トランスの出力に負荷抵抗を接続し、入力電圧と出力電圧の比である昇圧比を考える。図 19には、それぞれの負荷抵抗に対して昇圧比を周波数の関数として実歳に測定したグラフが示されている。このグラフから圧電トランスは共振周波数の付近で大きな昇圧比を示すことが分かる。
整流平滑回路
整流平滑回路は、図 18に示すようにキャパシタとダイオードをカスケードに接続した3段コックロフト・ウォルトン回路からなる昇圧整流回路とリップルの低減を目的とする出力キャパシタンスから構成される。出力される高電圧はコックロフト・ウォルトン回路により生成される。コックロフト・ウォルトン回路の出力に接続されている負荷の値がきわめて大きいとき、n段の理想的なコックロフト・ウォルトン回路は振幅Eの交流が入力に加えられているとき、電圧2nEの直流を出力する。この昇圧整流における電圧昇圧比は負荷に依存するが、コックロフト・ウォルトン回路の出力に接続されている負荷をコックロフト・ウォルトン回路の入力から見ると、負荷の大きさはこの電圧昇圧比の2乗に反比例することを意味する。つまりコックロフト・ウォルトン回路は昇圧整流回路とともに抵抗変換器としても働く。
コックロフト・ウォルトン回路の出力は出力キャパシタによってバッファされる。このバッファリングにより、出力電圧に含まれるリップルが減少する。出力電圧が正である場合、コックロフト・ワルトン回路は電荷をキャパシタンスに汲み上げ高電圧を発生することはできるが、キャパシタンスから電荷をくみ出し高電圧を下げることはできない。搬送波の1周期で圧電トランスに蓄えられていた電荷が汲み上げられる。電荷を蓄える圧電トランスのキャパシタンスを、圧電トランスの出力側で考えると
と見積もることができるので、コックロフト・ウォルトン回路のキャパシタンスとバッファのキャパシタンスをあわせて100nFと見積もると、平衡に達するまでには約6000周期が必要となる。平衡に達するまでに必要な周期は圧電トランスと整流平滑回路のキャパシタンスの比で決まると考えられるので、第一近似では負荷や出力の高電圧に依らない。
搬送波の周波数が120 kHz付近にあることを考えると、平衡に達するまでに少なくとも50 msecは必要であることがわかる。つまり出力である高電圧の立ち上がる時定数は50 msecより短くなることはない。出力の高電圧が実際に立ち上がるためには、この数倍の数百ミリセコンドを必要とする。平衡に達するまでの時間は、近似的に整流平滑回路の時定数μに等しいと考えられるので
と見積もることができる.
出力電圧が正の場合、出力電圧の変化を考えると電圧が上昇するためには、圧電トランスが負荷に電流を供給すると同時にコックロフト・ワルトン回路のキャパシタと出力キャパシタを充電することが必要である。またこれらのキャパシタを負荷の抵抗を通して放電することにより出力高電圧は下降する。電圧が上昇する場合の時定数は負荷が軽くなるに伴い小さくなる。出力の高電圧が下降する場合の時定数は、キャパシタと負荷の抵抗によって決まる。
ドライバー回路
圧電トランスを入力端子から見るとキャパシタンスが見える。キャパシタンスを効率的に駆動するためには正弦波を使用することが不可欠であり、インダクタンスと共振させることにより、ドライバー回路は近似的な正弦波を作り出している。
ドライバー回路は、2個のインダクタンスL1、L2と2個のMOSFET Q1、Q2とからなる2組の共振回路とFET駆動回路とからなる。周波数変調回路の出力はFET駆動回路に入力される。FET駆動回路は二組のFETを周波数変調回路の出力であるパルス波に同期して交互にオン・オフする。インダクタンスの値は、このインダクタンスと圧電トランスのキャパシタンスとによって決まる共振周波数が圧電トランスの共振周波数とほぼ等しくなるように決められている。この結果、FETのオン・オフの遷移は、FETに印加されている電圧がほぼ 0 V のときに行なわれる、いわゆるゼロボルトスイッチングが実現される。
誤差増幅器
誤差増幅器は分割抵抗と引き算回路と位相補償回路とから構成される。引き算回路は、分割抵抗により分割され端子Xに入力される出力電圧と、出力電圧を設定するために外部より端子Yに供給される参照電圧を比較し、この電圧の差に端子Zに入力された基準動作電圧を加えて出力する。
分割抵抗の分割比は数式 131で定義されている。従ってこの分割抵抗の分割比をd0とすると、次のようになる。
位相補償回路は基準動作電圧を接地電位とした反転増幅器であり、この伝達関数は原点に配置された極と2個のゼロ点を備えている。位相補償回路の入力はこの伝達関数により変換されて出力される。この出力はダイオード D1により基準動作電圧から限られた範囲の電圧にクランプされている。
周波数変調回路
周波数変調回路は電圧制御発振器と分周器から構成される。タイマーとして用いられるTLC555が電圧制御発振器として使用されている。端子Aに入力される電圧によって決まる周波数をもつ矩形波が端子Bより出力される。この矩形波はフリップフロップ74HC73からなる分周器の端子CLKに入力され、1/2 に分周されたデューティ比50%の矩形波がQおよびバーQの端子より出力される。分周器より出力される85 kHzから139 kHzまでの矩形波が周波数変調回路の出力であり、これが駆動回路に入力される。
端子Aに入力される電圧が1V変化すると、QおよびバーQの端子より出力される周波数は約40 kHz変化する。数式 65で定義されるkを計算し、これをk0とすると、

補助電源
補助電源は、誤差検出回路に基準動作電圧を供給するための安定化電源である。
シミュレーション用回路
この直流安定化高圧電源のシミュレーション用回路を図 20に示す。直流安定化高圧電源をシミュレーションすることによりパラメータの測定を行い、これをもとに安定な帰還を実現するN, EおよびBを求め、さらに帰還が安定であることをシミュレーションにより示す。
シミュレーション用回路における高電圧発生回路は、圧電トランスがその等価回路に置き換えられていることを除けば、直流安定化高圧電源の回路が忠実に再現されている。シミュレーション用回路における帰還回路は基本的には線形な回路である。このため帰還回路の入力と出力の関係を再現する簡単な回路がシミュレーション用回路に採用されている。
圧電トランスの等価回路
この高圧電源で使用されている圧電トランスの等価回路とそのパラメータを図 21に示す。 圧電トランスの等価回路には理想トランスが含まれている。図 22のような、1次側コイルと2次側コイルの巻き線比がnである理想トランスを考える。1次側電圧E1と1次側電流I1、2次側電圧E2と1次側電流
は次の関係式を満たす。この理想トランスのシミュレーションには、電圧制御電圧源と電流制御電流源とを使用して理想トランスを実現した図 23に示す回路を使用する。

周波数変調回路のモデル
入力と出力の関係を数学的関係式を用いて指定できるビヘービアモデルと呼ばれる回路素子をシミュレーションに使用することができる。周波数変調回路のシミュレーション用回路は、2個のビヘービアモデルA, Bと振幅制限器を組み合わせて図 24に示すように構成される。振幅制限器には振幅の上限HIと下限LOおよび利得GAINを指定することができる。ビヘービアモデルAは、入力の積分を出力する。ビヘービアモデルBには数式 63に相当する式が設定されている。この結果、ビヘービアモデルAに入力される電圧(すなわち誤差増幅器の出力)に比例した周波数を持つサイン波がビヘービアモデルBから出力される。振幅制限器はこのサイン波を増幅して、その振幅をクリップする。こうして、入力電圧に比例する周波数を備えたデューティ50%の矩形波が出力される。
誤差増幅器の シミュレーション用回路
誤差増幅器のシミュレーション用回路を図 25に示す。誤差増幅器は引き算回路と位相補償回路から構成される。引き算回路は2入力1出力のビヘービアモデルと増幅器からなる。ビヘービアモデルは入力の差が出力となるように設定されている。ビヘービアモデルの出力は増幅器によって増幅され、位相補償回路に入力される。
位相補償回路は、積分器、ゲイン1の増幅器とこれに付属する積分回路、微分器とこれに付属する積分回路、さらに2入力の加算器2個とから構成される。
積分器はゲインEの増幅器とビヘービアモデルとから構成される。関数SDT(x)の設定されビヘービアモデルは入力の時間積分を出力する。このビヘービアモデルからの出力がゲインEの増幅器に入力され、この増幅器からの出力が積分器の出力となる。
微分器はゲインBの増幅器とビヘービアモデルとから構成される。関数DDT(x)の設定されビヘービアモデルは入力の時間微分を出力する。このビヘービアモデルからの出力がゲインBの増幅器に入力され、この増幅器からの出力が微分器の出力となる。
ゲイン1の増幅器および微分器に付属する積分回路は高周波のノイズを積分することにより抑えることを目的としている。積分器のゲインをE、微分器のゲインをBとするとき、位相補償回路の伝達関数は
によって与えられる。この図において S は参照電圧を生成する電圧源である。引き算回路の増幅器に設定されたゲインはCである。引き算回路の増幅器に設定されたゲインを変えることにより直流的ループゲインを制御することが可能となる。図 20のシミュレーション用回路では、E=10, B=0.0002, C=30に設定されている。
共振特性の近似
高圧電源の共振回路に入力される搬送波の振幅等の共振回路の特性を決める諸要素が固定されているので、これにより共振回路のパラメータrが決まる。共振回路のパラメータ δは電源に接続される負荷に依って決まる。この負荷が接続された共振回路の共振周波数における出力電圧は
で与えられる。負荷が軽いとδは小さくなり、共振周波数における出力電圧は高くなる。負荷がδに対応するとき、出力電圧はφの関数となる。φがφeのとき出力電圧は
で与えられる。φeは小さくなると出力電圧が高くなり、大きくなると低くなる。
帰還が有効に働いている回路では、特性はおもに帰還によって決まる。直流安定化高圧電源
に帰還が有効に働いている場合、電源の特性は高圧発生回路あるいは整流平滑回路の特性に大幅に依存することはない。この意味では電源の特性は、たとえば高圧発生回路のrあるいは整流平滑回路のμあるいはνに敏感に依存しない。そこでおおまかにrを見積もる簡単な方法を考える。
おおまかなrの見積もり
負荷の接続された整流平滑回路について、その入力電圧から出力電圧への伝達関数を
で近似した場合、μ, νは負荷あるいは出力電圧に依存する。負荷の変化は共振回路のδに反映され、また出力電圧の変化はφに反映される。この意味でμ, νはδ, φの関数と考えられる。しかしながらこれらの関数の具体的な表現を求めることは容易ではない。
そこで圧電トランスと整流平滑回路とから構成される高圧発生回路を考える。高圧発生回路の出力にあらかじめ与えられた負荷が接続されている場合、出力される高電圧は高圧発生回路に入力される搬送波の周波数に依存する。周波数に対して出力される高電圧をプロットすると、このグラフは共振特性を示す。またこの共振特性の第一近似は数式 113から
によって与えられることが分かる。 この近似により共振特性の
周波数に関する半値幅を求めることができる。この半値幅を角速度に書き直すことによりδを、また高電圧の最大値をvmaxとするとき
からrを求めることができる。なおこのように高圧発生回路の出力から直接rを求めた場合、ν=1なることは明かである。
おおまかなμの見積もり
時定数μは、整流平滑回路を一次遅れで線形近似したときの時定数であり、数式 389においてその上限が与えられている。また整流平滑回路の遅れは、共振回路の遅れに比べて十分に大きいと考えられる。つまりδとμとの間には
が成り立つ。また固有多項式の-Eの近傍の根はμにほとんど依存しないので、回路定数の選定にμの精密な値を必要としない。
高圧発生回路のパラメータの測定
共振特性の測定回路を図 26に示す。この測定から得られる共振特性は、ドライバー回路、圧電トランス、整流平滑回路から構成された高圧発生回路の共振特性である。負荷抵抗を変えて1 kHzステップで測定された共振特性を以下に示す。それぞれの負荷の共振特性から数式 398に従い、rを計算する。このrは負荷に応じてきまる。以下の共振特性から計算したrが、荒い近似ではあるが、負荷に依らず狭い範囲の値をとるのは、共振特性の第一近似が数式 397によって表されるためであろう。
負荷20 MΩの共振特性
共振周波数における出力電圧は7.5 kV, 半値幅は周波数で980 Hzとするとδは6158であり、これからr20は0.46×108と見積もることができる。
負荷30 MΩの共振特性
共振周波数における出力電圧は8.5 kV, 半値幅は周波数で930 Hzとするとδは5843であり、これからr30は0.49×108と見積もることができる。
負荷40MΩの共振特性
共振周波数における出力電圧は9.1 kV, 半値幅は周波数で910 Hzとするとδは5718であり、これからr40は0.52×108と見積もることができる。
負荷50MΩの共振特性
共振周波数における出力電圧は9.1 kV, 半値幅は周波数で910 Hzとするとδは5718であり、これからr40は0.52×108と見積もることができる。
直流的ループゲイン
誤差増幅器の引き算回路のゲインをCと書くと、Nは数式 154により
と書ける。ここでν=1であり、r, k, dをそれぞれ r0, k0, d0で置き換えると、
となる。このとき、直流的ループゲインの最大値は図 12からわかるように
で与えられる。C=1かつδ=6000のときのこの値は134となる。
Eについて
出力高電圧の立ち上がりの時定数について、数式 389の評価からEについて
を得る。そこでE =10とする。実用的な範囲のφ, δ, μに対してB ≧
0.0002が十分であることが分かる。そこで B = 0.0002とする。
安定な帰還のシミュレーション例
このようにして構成された帰還が安定であることを、シミュレーション用回路 20を用いて示す。負荷抵抗20MΩに電圧4 kVを出力する場合と、負荷抵抗 200MΩに電圧2 kVを出力する場合について、シミュレーションの結果を図 31と図 32とに示す。それぞれの図には誤差増幅器の出力、引き算回路の出力、参照電圧の時間的経過が、横軸を時間軸として、縦軸1を誤差増幅器の出力、縦軸2を引き算回路の出力、縦軸3参照電圧として示されている。
共振周波数と駆動周波数の範囲 伝達関数h0(s)とその近似であるhT 0(s)の昇圧比の比較 伝達関数h0(s)とその近似であるhT 0(s)の位相の比較 昇圧比の周波数依存性 昇圧比のQ値依存性 共振周波数の負荷依存性 電源 共振回路と整流平滑回路 仮想共振回路と仮想整流平滑回路 等価電源 スマート電源の一例 直流的ループゲインのφ依存性 スマート電源の模式図 グラフy=f1(h)とy=f2(h)との交点と原点の近傍の実根 グラフy=f1(h)とy=f2(h)との交点 圧電トランスの共振特性と駆動周波数の範囲 圧電トランスを使った直流安定化高圧電源のブロック図 圧電トランスを使った直流安定化高圧電源 測定による昇圧比の周波数依存性 シミュレーション用回路 圧電トランスの等価回路 理想トランス 理想トランスの シミュレーション用回路 周波数変調回路のシミュレーション用回路 誤差増幅器の シミュレーション用回路 共振特性の測定回路 負荷20MΩの共振特性 負荷30MΩの共振特性 負荷40MΩの共振特性 負荷50MΩの共振特性 負荷20MΩに4 kVを出力する場合 負荷200MΩに2 kVを出力する場合

Claims (6)

  1. 共振回路の共振周波数をωr、Q値をQ、共振周波数における昇圧比をgrとするとき、δ, ω0およびcを

    と定義し、定数wを振幅として時間の関数ψを位相として周波数変調された搬送波を
    と書くとき、搬送波の変調帯域が共振回路の共振周波数に較べて十分に狭い共振回路の伝達関数を
    によって近似し、 数式4のψからφへの写像を
    と定義することにより数式4に記載された周波数変調された搬送波の周波数を
    と表し、rrおよびri

    により定義するとき、伝達関数が数式5で与えられる共振回路に数式4で与えられる搬送波を入力したときの共振回路から出力される搬送波の振幅は、連立微分方程式

    を満たすp, qにより
    と表すことが出来るので、共振回路から出力される搬送波を整流平滑して生成される直流電圧を、整流平滑回路の時定数をμ、整流平滑回路 における振幅の乗数をνとして一時遅れを表すzに関する微分方程式
    の解として求め、
    さらに整流平滑回路からの出力電圧zを参照電圧λと比較し、電圧の誤差を搬送波の周波数φに帰還する帰還回路の伝達関数は数式6に定義されたφと数式13のzと参照電圧 λと正数 k, d, E, A, Bとを使って、φ ≧ 0の場合
    と表せるので、この伝達関数を数式10、数式11、数式13の微分方程式と連立させることにより次の正規な微分方程式系を導き、

    この微分方程式系の平衡点を(pe, qe, ze, φe)とするとき、 pe, qe, zeおよびλはφeの関数として

    と表すことができ、この平衡点の近傍で線形化された微分方程式の固有多項式をm(h)とし、m(h)を
    と表すと、
    として、係数 a0, a1, a2, a3, a4

    によって与えられ,
    またφ ≦ 0の場合、φを-φと置くことにより、電圧の誤差を搬送波の周波数に帰還する帰還回路の伝達関数は数式14で表され、 数式10, 数式11において、φを-φと置くと、

    を得るので、数式14、数式30、数式31、数式13をφの変域をφ ≧ 0とした微分方程式として連立させることにより数式15〜数式18に相当する正規な微分方程式系を導き、この平衡点の近傍で線形化された微分方程式の固有多項式をm(h)とし、m(h)を
    と表すと、
    として、係数 a0, a1, a2, a3, a4は再び数式25〜数式29によって与えられるので、いずれの場合にも,係数 a0, a1, a2, a3, a4は φ ≧ 0として 数式25〜数式29によって与えられることがわかり、
    さらに数式25〜数式29において項 k d ν rはまとまってA, B, またはEとともに現れるので、
    と置き、さらにB′とE′を

    つまり

    と表し、さらにこのB′とE′を再びBとEと書くと、係数 a0, a1, a2, a3, a4は以下のように

    φeの関数として再定義され、
    数式23、 数式32において定義された固有多項式m(h)を、 数式39〜数式43の係数 a0, a1, a2, a3, a4を用いて
    と再定義すると、固有関数m(h)は次のように書くことができるので、
    高圧発生回路の伝達関数をFw、帰還回路の伝達関数をBkとすると、数式45から定数倍と共通の定数CにたいしてC Fwと(1/C) Bkとの違いを除いて、Fwについて
    となり、Bkについて
    となることが分かり、閉ループの伝達関数Fw/(1+Fw Bk)を計算すると

    となるので、固有関数m(h)は閉ループ伝達関数Fw/(1+Fw Bk)の分母に定数倍を除き一致することがわかり、固有多項式m(h)のすべての根の実部が負となるようにE, B, Nを選ぶことにより、高圧発生回路と帰還回路からなる閉ループ伝達関数の分母のすべての根の実部が負であるという意味で安定な帰還を実現することを特徴とする方法。
  2. 請求項1の数式45から固有関数m(h)は

    と書くことができ、この第1項はh < -1/μで正となることから、hの領域Sを
    と定義すると、Sに属する任意のhに対してφに依らずにm(h) > 0となり、したがってm( h ) = 0の実根はSの補集合に含まれるので、領域Rを
    と定義し、Rが空集合でないことを仮定してRに属する任意のhに対してm(h)をφの関数と考えたEh(φ)を
    と定義すると、Rに属する任意のhに対して一意的に決まるφhにおいてEh(φ)は最小値Ehh)すなわち
    をとるので、Rに属する任意のhに対して一意的にEhh)を対応させる関数Fすなわち
    を定義することが可能となり、このFについて
    となるhはφに依らずm(h) > 0となるので、FがE, B, Nに依存することを利用してE, B, Nを適切に選ぶことにより、m(h) = 0の実根の範囲を限定することを特徴とする方法。
  3. 請求項1に記載の固有多項式 数式44の特性代表根が虚根から分離された実根となる帰還を実現することにより広い範囲の負荷に対して出力電圧を安定化する方法
  4. 請求項1の数式14に記載された伝達関数に含まれる項
    について、

    と表し、さらにこのB′とE′を再びBとEと書くと、このEとBとを

    を満たすように選ぶことにより、数式44においいて定義された固有多項式?m(h)の実根を
    の範囲に配置する方法。
  5. 請求項1の数式14に記載された伝達関数に含まれる項
    について、

    と表し、さらにこのB′とE′を再びBとEと書くと、このEとBとが数式59と数式60とを満たしさらに

    を満たすことにより、数式61の範囲にある実根を、数式44においいて定義された固有多項式?m(h)の虚根から分離した特性代表根に配置する方法
  6. 共振回路を駆動する搬送波を生成するドライバー回路と、この搬送波を入力とする共振回路と共振回路の出力である高周波交流を整流することにより直流電圧を出力する整流平滑回路とを含む電圧発生回路と、電圧発生回路の出力電圧とこの出力電圧を設定する外部から供給される参照電圧とを入力とする誤差増幅器と周波数変調器とを含む帰還回路とを包含し、周波数変調器はドライバー回路の生成する搬送波の周波数を制御する手段を持ち、誤差増幅器の出力を搬送波の周波数に帰還する請求項1から5のいずれかに記載の方法により出力電圧を安定化する回路
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