(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態の止水構造が適用されるトンネルは、先行トンネルの隣りに並設される後行トンネルである。推進函体は、断面矩形を呈し、その外周面には、先行トンネルの推進函体との間に設けられるリップシールが凸設されている場合を例示する。また、本実施形態の推進函体には、先行トンネルの推進函体と後行トンネルの推進函体との離間距離を保持するためのガイド用レールとガイド用受け金物が設けられている。
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよいが、本実施形態では、元押しジャッキの推力で掘進する推進工法が採用されている。
図1に示すように、本実施形態に係る推進工法用エントランスの止水構造W1は、立坑の土留壁に設けられた発進口1の止水構造である。止水構造W1は、第一シール手段20と内枠部材50と第二シール手段51とを備えて構成されている。
図2に示すように、発進口1は、立坑の側壁面に固定された枠体5の内側に設けられている。枠体5は、例えば鉄筋コンクリートまたは鋼材(本実施形態では鉄筋コンクリート造を図示)にて形成されており、その内側の開口部が発進口1を構成している。発進口1は、推進函体10(図1参照)が通過できるように、推進函体10の外形よりも大きく形成されている。発進口1の内周面2は、立坑内空側から見て(正面視)、矩形(本実施形態では正方形)形状を呈しており、その四隅が面取りされている。具体的には、推進函体10の出隅部11に対応する発進口1の角部3(入隅部)は、推進函体10の外周面12の通過位置よりも外側で曲面状に形成されている。
なお、掘削されるトンネルが最初の先行トンネルである場合、あるいは1本のトンネル掘削のみで工事が完了する場合は、発進口を立坑の側壁面に直接形成してもよい。この場合も、発進口の形状は、図2と同様である。
図3に示すように、第一シール手段20は、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30とで構成されている。図2に示すように、エントランスパッキン21は、発進口1の開口縁部に設けられた弾性部材である。エントランスパッキン21は、例えば、プレート状の弾性ゴムにて構成されている。エントランスパッキン21は、発進口1の開口縁部の形状に沿って正面視で略矩形(本実施形態では正方形)枠状を呈するように形成されている。エントランスパッキン21は、外周部22が発進口1の開口縁部の枠体5の立坑内空側表面6に面接触して固定されており、内周部23が発進口1の開口部の中心側に向かって延在するように構成されている。エントランスパッキン21の内周部23の先端部は、全周に渡ってリップ部を構成しており、内枠部材50の外側面に面接触している。なお、エントランスパッキン21の内周部23は、四隅が発進口1の外側に窪んで形成されており、内周部23が内枠部材50に追従しやすくなっている。
図3および図4に示すように、反転防止用押え板30は、掘削される地山側の地下水圧によるエントランスパッキン21の反転を防止するために、エントランスパッキン21を立坑内空側から押さえる部材である。反転防止用押え板30は、金属製の板ばねにて構成されている。反転防止用押え板30は、発進口1の開口縁部の全周に渡って複数枚設けられている。反転防止用押え板30は、発進口1の開口縁部の周方向に沿って互いに間隔をあけて配列されている。
反転防止用押え板30の枠体5側の基端部(枠体5側の端部)31は、エントランスパッキン21の外周部22を覆うように配置されている。図4に示すように、反転防止用押え板30は、枠体5に埋設されたアンカーボルト33aとナット33bによって、枠体5の立坑内空側表面6に固定されている。反転防止用押え板30の先端部32は、発進口1の開口部の中心側に向かって延在している。反転防止用押え板30は、発進口1の開口縁部から所定長さ内側に延出した部分でヒンジを介して屈曲しており、推進方向前方に向かって傾斜している。この先端部32が、エントランスパッキン21の内周部23を推進方向前方に押さえることで、エントランスパッキン21が立坑内空側へ反転するのを防止している。
図3に示すように、反転防止用押え板30のうち、角部3に対応する位置における複数(本実施形態では3つ)の反転防止用押え板30’は、それらの先端を連ねた形状が発進口1の角部3の内周面形状に沿うように配置されている。反転防止用押え板30’は、基端部31よりも先端部32の幅が狭くなるように形成されており、隣り合う反転防止用押え板30’,30’同士が干渉するのを防止している。一方、発進口1の角部3以外の直線部分に位置する複数の反転防止用押え板30は、発進口1の内周面2に沿って(内周面2と平行に)直線状に配置されている。
図5および図6に示すように、内枠部材50は、鉄板にて構成されている。なお、図5と図6は、図4のA−A線を切断線とした断面図である。内枠部材50は、発進口1の内周面2に沿うように形成されている。内枠部材50は、推進函体10の推進方向に所定の長さを有して形成されている(図4参照)。内枠部材50は、その出隅部59(発進口1の角部3に対向する部分)が、発進口1の角部3の曲面形状に沿って曲面状に形成されている。
図4に示すように、第二シール手段51は、内枠部材50の内側に設けられた弾性部材55と、この弾性部材55を圧縮する圧縮手段60とを有して構成されている。そして、弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させると、内枠部材50の内側面および推進函体10の外周面12に弾性部材55が接触する。圧縮手段60は、弾性部材55を圧縮することで接触圧を高めて、弾性部材55を推進函体10に密着させている。
弾性部材55は、内枠部材50と推進函体10の間に配置されている。弾性部材55は、内枠部材50の内側面に当接するように配置されており、圧縮手段60によって挟持されている。図1に示すように、第二シール手段51は、発進口1の周方向全周に渡って延在している。弾性部材55は、その内周面が、推進函体10の外周面12に沿った矩形形状を呈している(図5および図6参照)。図4に示すように、弾性部材55は、圧縮手段60で推進函体10の推進方向に圧縮されて、推進方向の直交方向に広がるように変形する。このとき、弾性部材55は、内枠部材50の内側面に当接しているので、推進函体10の外周面12側(発進口1の中心側)に広がって、外周面12に押圧される。これによって、弾性部材55は、周方向全周に渡って隙間が無いように外周面12に面接触する。
本実施形態では、弾性部材55は、推進函体10の推進方向後方側(図4中、右側)と前方側(図4中、左側)の二箇所に設けられている。後方側の弾性部材55(以下、「第一弾性部材55a」という場合がある)と、前方側の弾性部材55(以下、「第二弾性部材55b」という場合がある)は、互いに隙間をあけて設けられている。
第一弾性部材55aは、推進方向に見て立坑側に設けられた弾性部材である。第一弾性部材55aは、推進方向に沿って積層された複数のゴム板材57,57…によって構成されている。ゴム板材57には、後記する圧縮手段60の締付部材であるねじ部材62用の貫通孔が形成されている。各ゴム板材57,57…は同等の形状に形成されている。各ゴム板材57は、均一の材質によって構成されている。なお、ゴムの硬度は、例えば、推進方向前側を硬くして後側を軟らかくするというように、変化させてもよい。隣接するゴム板材57,57同士は、接着剤で固定されている。なお、ゴム板材57を付着性(粘着性)の高い材質で形成した場合は、接着剤を用いなくてもよい場合がある。
一方、第二弾性部材55bは、一のゴムブロック58にて構成されている。ゴムブロック58は、ゴム板材57よりも厚く形成されている。ゴムブロック58には、後記する圧縮手段60の締付部材であるねじ部材62用の貫通孔(図示せず)が形成されている。なお、第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間には、テールシーラ54等のシール材を充填して止水性能を高めている。なお、地山の地下水圧が低い場合には、シール材を充填しなくてもよい場合がある。
圧縮手段60は、一対のプレート材61a,61bと、これらプレート材61a,61bを互いに引き寄せ合う締付部材とを備えて構成されている。本実施形態では、締付部材は、ねじ部材62にて構成されている。一対のプレート材61a,61bは、弾性部材55の推進方向前後に位置している。プレート材61a,61bは、推進方向に間隔をあけて、弾性部材55を挟み込むように配置されている。圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮する。一対のプレート材61a,61bは、いずれも推進方向に直交しており、互いに並行になるように配置されている。
推進方向前方側に位置するプレート材61aは、内枠部材50の内側面に溶接等によって固定されており、その中央部にねじ部材62用の貫通孔63と、ねじ部材62が螺合するボス部64が形成されている。推進方向後方側に位置するプレート材61bは、内枠部材50に直接固定されておらず、ねじ部材62で弾性部材55と一体に挟持されることで、プレート材61aを介して内枠部材50に固定されている。プレート材61bの中央部には、ねじ部材62用の貫通孔65が形成されている。
ねじ部材62は、棒ねじ62aとナット62bとを備えて構成されている。棒ねじ62aは、推進方向後方側から前方側に向かって、プレート材61bの貫通孔65および弾性部材55に挿入され、その先端がプレート材61aのボス部64に螺合している。そして、棒ねじ62aの推進方向後方側にはナット62bが螺合されている。弾性部材55を圧縮する際には、ナット62bを締め付け、プレート材61bをプレート材61a側へと押し付ければよい。プレート材61a,61bの弾性部材55と接する面には、凸部67(プレート材61b側のみを図1に破線にて示す)が形成されている。凸部67は、弾性部材55にめり込むことで、弾性部材55がプレート材61a,61bに対してずれ難くなるようにする部位である。凸部67は、推進函体10の外周面12に対して直交方向に延在している。
なお、圧縮手段60は、前記構成に限定されるものではない。たとえば、推進方向前方側(図4中、左側)に位置する圧縮手段60のように、ねじ部材62がボルト62cとナット62dで構成されていてもよい。この場合、プレート材61aにボス部は設けなくてもよい。
また、図7の(a)に示すように、二つの弾性部材55,55を一つのねじ部材62で圧縮するようにしてもよい。この場合、推進方向に隣り合う弾性部材55,55の内側(ねじ部材62の中間部側)に位置するプレート材61cが、内枠部材50の内側面に固定されている。一方、外側(ねじ部材62の両端部側)に位置するプレート材61dが、内枠部材50には直接固定されておらず、移動可能な状態となっている。このような構成では、一対の弾性部材55,55、プレート材61c,61c,61d,61dにボルト62cを貫通させて、その先端にナット62dを螺合させて締め付ける。すると、外側のプレート材61d,61dが前後に位置する弾性部材55,55側へとそれぞれ寄せられて、内枠部材50に固定されたプレート材61c,61cとの間で、弾性部材55,55がそれぞれ圧縮される。
さらに、一対のプレート材を互いに引き寄せ合う締付部材は、ねじ部材62に限定されるものではない。図7の(b)に示すように、例えば、複数の鉤状段差からなる係止部68aを棒状部材68の外周部に形成し、棒状部材68を一方のプレート材61e側から他方のプレート材61fまで挿入して、他方のプレート材61fに形成された複数の鉤状段差が内設されたノッチ部69に係止部68aを係止させて、プレート材61e,61f同士を引き寄せ合わせてもよい。
一方、図4においては、第一弾性部材55aが、複数のゴム板材57,57…によって構成されて、第二弾性部材55bが、一のゴムブロック58にて構成されているが、図7の(a)に示すように、両方の弾性部材55,55を複数のゴム板材57,57…で構成してもよいし、両方の弾性部材を一のゴムブロックで構成してもよい(図示せず)。また、弾性部材55の個数は2つに限定されるものではなく、推進方向において単数であってもよいし、3つ以上であってもよい。
図4に示すように、第一弾性部材55aが位置する部分の内枠部材50は、立坑内空側端部51aが、推進方向前方側に向かうに連れて推進函体10に近づくように傾斜している。具体的には、内枠部材50の立坑内空側端部における推進函体10の外周面12との離間距離が、推進方向前方側における推進函体10の外周面12との離間距離よりも大きくなっている。言い換えれば、内枠部材50に固定されていないプレート材61bの圧縮時の移動方向(プレート材61aに向かう方向)に向かうほど、内枠部材50が推進函体10の外周面12に近づくようになっている。このようにすることで、ねじ部材62を締め付けると、第一弾性部材55aが推進方向前方側に押され、内枠部材50の立坑内空側端部51aに沿って推進函体10側に押し出されるので、弾性部材55が推進函体10に強く押圧される。よって、弾性部材55と推進函体10の外周面12との間の止水性能を高めることができる。
図5に示すように、リップシール13(図1の右下部分)が凸設されている部分の弾性部材55には、凹溝56が形成されている。凹溝56は、リップシール13の突出部分を挿入できるように、当該突出部分よりも一回り大きく形成されている。
リップシール13に対応する部分のプレート材61a,61b(図5では61bのみ図示)には、突出した部分を覆う切欠き部66が形成されている。切欠き部66は、リップシール13の突出部分よりも僅かに大きく(弾性部材55の凹溝56の変形前の断面と同等の断面形状)形成されており、リップシール13が移動可能になっている。
圧縮手段60によって弾性部材55が圧縮されると、凹溝56の断面が小さくなる(リップシール13の突出部分の外周面に接触して、その外周面と同等の形状となる)。そして、弾性部材55が、リップシール13の突出部分を挟持する。弾性部材55は、推進函体10の外周面12およびリップシール13との間に必要な止水性能を得られるとともに、これらが摺動可能な程度に押圧するように、圧縮手段60で圧縮されている。そして、推進函体10が推進する際には、その外周面12およびリップシール13が弾性部材55に対して摺動する。
ガイド用レール14(図1の右下部分)が設けられている部分では、ガイド用レール14の先端突出部の外周面に沿うように、圧縮手段60のプレート材61a,61b(図5では61bのみ図示)に切欠き部70が形成されるとともに、弾性部材55にも切欠き部71が形成されている。各切欠き部70,71は、ガイド用レール14の突出部分の外形よりも一回り大きい同等の断面形状でそれぞれ形成されている。弾性部材55の切欠き部71の内周面は、弾性部材55が推進方向に圧縮されて弾性変形することで、ガイド用レール14の外周面に当接して押圧する。弾性部材55は、推進函体10の外周面12とガイド用レール14との間に必要な止水性能を得られるとともに、これらが摺動可能な程度に押圧するように、圧縮手段60で圧縮されている。
図6に示すように、ガイド用受け金物15(図1の左下部分)が設けられている部分では、ガイド用受け金物15の内周面に沿うように、圧縮手段60のプレート材61a,61b(図6では61bのみ図示)に突出部72が形成されるとともに、弾性部材55に、突出部73が形成されている。各突出部72,73は、ガイド用受け金物15の内周面と隙間をあけるように、内周断面より一回り小さい断面形状でそれぞれ形成されている。弾性部材55の突出部73の外周面は、弾性部材55が推進方向に圧縮されて弾性変形することで、ガイド用受け金物15の内周面に当接して押圧している。弾性部材55は、推進函体10の外周面12とガイド用受け金物15との間に必要な止水性能を得られるとともに、これらが摺動可能な程度に押圧するように、圧縮手段60で圧縮されている。なお、プレート材61bの突出部72の立坑内空側表面には、補強リブ材74が設けられている。補強リブ材74は、突出部72の突出方向に延在する第一リブ74aと、第一リブ74aから周方向両側に延在する第二リブ74bとで構成されている。これによって、圧縮手段60のねじ部材62からプレート材61bにかかる圧縮応力を突出部72まで効率的に伝達できる。
図4に示すように、内枠部材50と発進口1の内周面2との間には、ゴムチューブ25が介設されている。具体的には、ゴムチューブ25は、発進口1の内周面2とエントランスパッキン21の内周部23との間に設けられている。つまり、内枠部材50と発進口1の内周面2との間に、エントランスパッキン21の内周部23とゴムチューブ25が介設されている。ゴムチューブ25は、環状に形成され、エントランスパッキン21の内周部23を挟んで、内枠部材50の全周を覆うように配置されている。ゴムチューブ25には、空気または流体が充填されている。ゴムチューブ25は、膨張することで、エントランスパッキン21を介して、内枠部材50を発進口1の内側に押圧させるようになっている。これによって、内枠部材50が発進口1の内側で所定位置に保持されるとともに、このような構成によれば、ゴムチューブ25が弾性変形することで、シール性を確保しながら、内枠部材50を移動させることができる。内枠部材50は、その大部分が発進口1の内部に挿入されている。ゴムチューブ25は、少なくとも第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間の推進方向中間部に対応する内枠部材50の外周面を、押圧するように配置されている。本実施形態では、ゴムチューブ25は、第一弾性部材55aから隙間を挟んで第二弾性部材55bまでを覆うように延在している。以上のように、ゴムチューブ25が、少なくとも第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間を押圧するように配置したことで、内枠部材50は断面方向から見て3点支持されることとなる。これによって、ゴムチューブ25による押圧力は、第一弾性部材55aと第二弾性部材55bにバランスよく伝達されるので、第一弾性部材55aと第二弾性部材55bの両方が内枠部材50を押さえることとなり、シール部材20と推進函体10間のシール性能を高めることができる。
内枠部材50は、推進方向後方に設けられた第一係止部材80と、推進方向前方に設けられた第二係止部材85とで、推進方向の移動が規制されている。第一係止部材80および第二係止部材85は、図1に示すように、発進口1の周囲に所定の間隔をあけて複数配置されている(図1では、第一係止部材80のみを二点鎖線にて図示している)。
図4に示すように、第一係止部材80は、内枠部材50を立坑内空側から係止する部材であって、立坑内空側表面6に固定されている。第一係止部材80は、アンカーボルト81aおよびナット81bによって、立坑内空側表面6に固定されたプレート材82に鉄骨材83を固定して構成されている。鉄骨材83は、プレート材82から、発進口1の中心側に向かって延在しており、その先端部83aが内枠部材50の推進方向後端に当接して、内枠部材50を係止する。鉄骨材83は、側面視L字状を呈しており、立坑内空側に突出してシール部材20に干渉しないように構成されている。第二係止部材85は、内枠部材50を発進口1の奥側から係止する部材であって、発進口1の内周表面に固定されている。第二係止部材85は、アンカーボルト86aおよびナット86bによって、発進口1の内周表面に固定されたプレート材87に鉄骨材88を固定して構成されている。鉄骨材88は、プレート材87から、発進口1の中心側に向かって延在しており、その先端部88aが内枠部材50の推進方向前端に当接して、内枠部材50を係止する。以上のように、内枠部材50は、第一係止部材80と第二係止部材85とで、推進方向の移動が規制されているので、内枠部材50が推進函体10との摩擦によって発進口1の内部に引き込まれるのを防止できるとともに、内枠部材50が地山側の地下水圧によって立坑内空側に押し出されるのを防止できる。
以上のような構成の推進工法用エントランスの止水構造W1によれば、発進口1の角部3が曲面状に形成されるとともに、内枠部材50の出隅部59が角部3に沿うように曲面状に形成され、さらには反転防止用押え板30が角部3の内周面形状に沿うように配置されているので、エントランスパッキン21が内枠部材50の外側面に沿って滑らかに押圧される。これによって、内枠部材50と発進口1との隙間の止水性能を向上させることができる。
また、弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させることで、推進函体10の外周面12に押圧させるように構成しているので、外周面12に凸設または凹設された部材(リップシール13、ガイド用レール14やガイド用受け金物15等)や出隅部11に対して、エントランスパッキン21が隙間無く接触できる。これによって、推進函体10と内枠部材50間の止水性能を確保して向上させることができる。
また、圧縮手段60が、一対のプレート材61a,61bと締付部材とを備えて構成されているので、締付部材で、容易に弾性部材を圧縮できるとともに、圧縮量を調整することができる。本実施形態のように、締付部材としてねじ部材62を用いれば、ねじ部材62を回転するだけで弾性部材55を締め付けることができる。また、弾性部材55を推進函体10の推進方向に圧縮しているので、弾性部材55は、推進方向に沿って縮んで、発進口1の内側へと膨らむ。これによって、弾性部材55が推進函体10の外周面12に向かって押圧するので、止水性能を確保し易くなる。さらに、ねじ部材62は、立坑内空側からねじ部材62の回転を操作することができ、作業が行いやすい。
さらに、弾性部材55が、ゴム板材57,57によって構成されているので、各ゴム板材57が薄くて変形しやすい。これによって、弾性部材55が推進函体10の出隅部11や外周面の凹凸形状に対して追従しやすくなる。
また、内枠部材50と発進口1の内周面2との間に、ゴムチューブ25が介設されているので、推進函体10が蛇行した場合でもゴムチューブ25が変形することで、内枠部材50が発進口1の内側の範囲内で移動できる。これによって、推進函体10の変位を吸収して、内枠部材50を推進函体10に追従させることができる。
さらに、本実施形態では、ゴムチューブ25と内枠部材50との間にエントランスパッキン21の内周部23が位置しているので、ゴムチューブ25がエントランスパッキン21を内枠部材50に押え付けることとなる。これによって、止水性能がさらに向上する。
つまり、本発明によれば、出隅部11や外周面12に凸設または凹設された部材を有する推進函体10であっても、発進口1周辺における止水性能を向上させつつ、推進函体10の推進を許容することができる。
なお、地山側の地下水圧が低い場合は、図8に示すような構成の弾性部材90を用いてもよい。弾性部材90は、ゴム板91が鉄板92に挟み込まれたサンドイッチ構造を呈している。弾性部材90のうち推進方向後方に位置する第一弾性部材90aは、推進方向に沿って鉄板92とゴム板91が交互に配置されて構成されている。第一弾性部材90aでは、ゴム板91が3枚、鉄板92が4枚設けられており、第一弾性部材90aの両端は鉄板92が配置されている。3枚のゴム板91と4枚の鉄板92にはそれぞれ貫通孔(図示せず)が形成されており、ボルト93aおよびナット93bによって、一体的に固定されている。少なくとも1枚の鉄板92は、内枠部材50の内周面に溶接固定されている。鉄板92はその外周部が内枠部材50に全長溶接されて、内枠部材50と鉄板92との止水性が確保されている。ゴム板91は、その内側端が、推進函体10の通過位置よりも発進口1の内側になるように、大きい断面に形成されている。つまり、発進口1の周縁部に設けられたゴム板91の内周面より内側の断面積が、推進函体10の断面積よりも小さくなるように構成されている。これによって、推進函体10が、発進口1を通過するときに、ゴム板91が推進函体10の外周面12に押圧されて、ゴム板91と推進函体10間の止水性が確保される。
弾性部材90のうち推進方向前方に位置する第二弾性部材90bは、推進方向に沿って鉄板92とゴム板91が交互に配置されて構成されている。第二弾性部材90bでは、ゴム板91が1枚、鉄板92が2枚設けられており、第二弾性部材90bの両端は鉄板92が配置されている。1枚のゴム板91と2枚の鉄板92にはそれぞれ貫通孔(図示せず)が形成されており、ボルト93aおよびナット93bによって、一体的に固定されている。少なくとも1枚の鉄板92は、内枠部材50の内周面に溶接固定されている。鉄板92はその外周部が内枠部材50に全長溶接されて、内枠部材50と鉄板92との止水性が確保されている。第二弾性部材90bにおいても第一弾性部材90aと同様に、ゴム板91は、その内側端が、推進函体10の通過位置よりも発進口1の内側になるように、大きい断面に形成されており、推進函体10が、発進口1を通過するときに、ゴム板91が推進函体10の外周面12に押圧されて、ゴム板91と推進函体10間の止水性が確保されている。なお、図8の構成では、第一弾性部材90aと第二弾性部材90bとの間の空間には、充填材を設けなくてよい。但し、地山側の地下水圧が高い場合等には、繊維入りグリスや加泥材等の充填や加圧注入をしてもよい。
なお、地下水圧が低い場合は、ボルト93aおよびナット93bは、ゴム板91と鉄板92を一体的に固定していればよい。なお、地下水圧が高い場合はボルト93aおよびナット93bをさらに締め付けて、ゴム板91を圧縮して、推進函体10の外周面12への押圧力を増加させればよい。このとき、ゴム板91はそれぞれ両側が鉄板92にて挟まれているので、締付力は、局部に集中することなく、ゴム板91の全面に渡って均一に伝達されるので、止水性能の向上が図れる。一方、ゴム板91を締め付けなくても、ゴム板の寸法を大きくしたり、硬度を高めたりすることによって、推進函体への押圧力を高めることができ、地下水圧が高い場合に対応することが可能である。
また、ゴムチューブ25は、少なくとも第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間を押圧するように配置されている。これによって、内枠部材50は断面方向から見て3点支持されることとなり、ゴムチューブ25による押圧力は、第一弾性部材55aと第二弾性部材55bにバランスよく伝達される。したがって、第一弾性部材55aと第二弾性部材55bの両方が内枠部材50を押さえることとなり、シール部材20と推進函体10間のシール性能を高めることができる。
さらに、地山側の地下水圧が低い場合は、ヒンジ付きの反転防止用押え板30に代えて、フラットバー、山形鋼またはリブ付きの平型鋼等の他の部材を用いてもよい(図8では山形鋼95を図示している)。山形鋼95は、枠体5に埋設されたアンカーボルト33aとナット33bによって、枠体5の立坑内空側表面6に固定されている。山形鋼95の先端部95aは、発進口1の開口部の中心側に向かって延在している。山形鋼95の先端は、推進函体10の外周面12の通過位置と所定の隙間をあけており、推進函体10の蛇行を許容している。山形鋼95の先端と推進函体10の外周面12の通過位置との隙間の寸法は、エントランスパッキン21が立坑側に反転不可能な長さである。
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態を、図9乃至図11を参照しながら説明する。図9に示すように、第二実施形態に係る止水構造W2は、内枠部材150の四隅のコーナー部分150aが、外側に膨らむように構成されていることを特徴とする。コーナー部分150aは、少なくとも、圧縮手段60の各プレート材61bに形成された切欠き部66,70および突出部72が位置する部分を含んで外側に膨らんでいる。コーナー部分150aは小径部分から斜めに傾斜して外側に膨らみ、最外周部は発進口1の内周面2に沿っている。
図9乃至図11に示すように、圧縮手段60の各プレート材61a,61b(図9乃至図11では61bのみ図示)に形成された切欠き部66,70の外側に拡幅部161が設けられている。拡幅部161は、その外周部が内枠部材150のコーナー部分150aの内周面に沿った形状になっている。図示しないが、拡幅部は弾性部材55にも形成されている。これは、第一実施形態の構成において切欠き部66,70の外側部分の強度が不足する場合に、図10および図11に示すように、切欠き部66,70の外側の幅寸法L1,L2を確保することで、プレート材61a,61bの強度を所定以上のものとし、弾性部材55を確実に圧縮できるようにするためである。また、各プレート材61a,61b(図9乃至図11では61bのみ図示)に形成された突出部72の外側部分にも、拡幅部161が設けられている。これは、突出部72にかかる応力を受けるために、各プレート材61a,61bの外側部分の幅寸法L3を大きくしたためである。なお、その他の構成については第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、図9に示すように、切欠き部66,70および突出部72が形成されていない部分にも同形状の拡幅部161が設けられており、内枠部材150の四隅の各コーナー部分150aを同一の形状を呈している。このようにすれば、他の推進函体において、リップシール、ガイド用レールおよびガイド用受け金物の設置位置が変更になった場合でも、内枠部材150の形状を共通化することができ、汎用性が高まる。
なお、図12に示すように、リップシール13、ガイド用レール14およびガイド用受け金物(図示せず)を設けた部分のみに拡幅部161を設けて、プレート材61a,61b(図12では61bのみ図示)を拡幅するようにしてもよい。この場合は、その他の部分のプレート材61a,61bが大きくならないので、圧縮部材60の軽量化およびコストダウンを図れる。
また、プレート材61a,61bの補強方法は、拡幅部161を設ける構成に限定されるものではなく、例えば、リップシール、ガイド用レールおよびガイド用受け金物を設けた部分の周囲の板厚を厚くしたり、補強プレートを貼り付けたりしてもよい。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮しているが、これに限定されるものではない。弾性部材55が、発進口1の中心側に向かって変形する方向であれば、例えば発進口1の周方向に沿って圧縮するようにしてもよい。