図1は、本発明が適用された車両10に備えられた自動変速機12の構成を説明するための骨子図である。図2は、自動変速機12の複数のギヤ段GS(変速段GS)を成立させる際の油圧式摩擦係合装置(クラッチ,ブレーキ)の作動状態を説明するための作動表である。この自動変速機12は、車両10の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース14(以下、「ケース14」と表す)内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部24とを共通の軸心C上に有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車28から出力する。入力軸26は、自動変速機12の入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の駆動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体式伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸と一体的に構成されている。また、出力歯車28は、自動変速機12の出力回転部材に相当するものであり、本実施例では例えば図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達するために、デフリングギヤ36と噛み合うことでファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤとして機能している。そして、このように構成された自動変速機12等において、エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機12、差動歯車装置34、及び一対の車軸38等を順次介して左右の駆動輪40へ伝達されるようになっている(図3参照)。尚、自動変速機12やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
トルクコンバータ32は、エンジン30の動力を流体を介することなく入力軸26に直接伝達するロックアップ機構としてのロックアップクラッチ42を備えている。このロックアップクラッチ42は、係合側油室44内の油圧と解放側油室46内の油圧との差圧ΔPにより摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチであり、それが完全係合(ロックアップオン)させられることにより、エンジン30の動力が入力軸26に直接伝達される。
自動変速機12は、第1変速部18及び第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段(前進変速段)が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」の後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の何れもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。尚、ケース14内には、エンジン30によって回転駆動されることにより、上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3を作動させる為の元圧となる作動油圧を発生する機械式のオイルポンプ48が備えられている。
図2の作動表は、上記各ギヤ段GSとクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。尚、第1ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。つまり、発進時にはクラッチC1のみを係合させれば良い。このように、このクラッチC1は発進クラッチとして機能する。また、各ギヤ段GSの変速比γgs(=入力軸26の回転速度Nin/出力歯車28の回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、及び第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、例えば多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御され、係合によりエンジン30の動力を駆動輪40側へ伝達する油圧式摩擦係合装置である。そして、油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5(図3,4参照)の励磁、非励磁や電流制御により、各クラッチC及びブレーキBの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
図3は、エンジン30や自動変速機12などを制御する為に車両10に設けられた電気的な制御系統の要部を説明するためのブロック線図である。図3において、車両10には、例えば自動変速機12に関連する車両用油圧制御装置としての機能を含む電子制御装置120が備えられている。この電子制御装置120は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン30の出力制御や自動変速機12の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置や油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する変速制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。
電子制御装置120には、例えば作動油温センサ74により検出された油圧制御回路100内の作動油(例えば公知のATF)の温度である作動油温Toilを表す信号、アクセル開度センサ76により検出された運転者による車両10に対する要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル78の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ80により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度Neを表す信号、冷却水温センサ82により検出されたエンジン30の冷却水温Twを表す信号、吸入空気量センサ84により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ86により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θthを表す信号、車速センサ88により検出された車速Vに対応する出力歯車28の回転速度である出力軸回転速度Noutを表す信号、ブレーキスイッチ90により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル92の操作(オン)Bonを表す信号、レバーポジションセンサ94により検出されたシフトレバー96のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ98により検出されたトルクコンバータ32のタービンの回転速度であるタービン回転速度Ntを表す信号などがそれぞれ供給される。なお、本実施例では、図1に示すように上記タービンは入力軸26に直結されているので、タービン回転速度Ntは、入力軸26の回転速度である入力軸回転速度Ninと等しい。
また、電子制御装置120からは、エンジン30の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、例えばアクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御する為の噴射信号やイグナイタによるエンジン30の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、自動変速機12の変速制御の為の油圧制御指令信号Sp、例えば自動変速機12のギヤ段GSを切り換える為に油圧制御回路100内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁などを制御する為のバルブ指令信号(油圧指令値、駆動信号)やライン油圧PL1,PL2を調圧制御する為のリニアソレノイドバルブSLTへの駆動信号などが出力される。
また、シフトレバー96は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機12内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車28の回転を阻止(ロック)する為の駐車ポジション(位置)である。また、「R」ポジションは自動変速機12の出力歯車28の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)である。また、「N」ポジションは自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)である。また、「D」ポジションは自動変速機12の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)である。また、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
上記「D」ポジションは自動変速機12の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するレバーポジションでもあり、「S」ポジションは自動変速機12の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共にシフトレバー96の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するレバーポジションでもある。
なお、上記実施例では、シフトレバー96が「S」ポジションに操作されることにより、最高速側の変速レンジが設定される(シフトレンジ固定)ものであったが、シフトレバー96の操作に基づいて変速段(ギヤ段)が指定される(ギヤ段固定)ものであっても構わない。この場合、自動変速機12ではマニュアルシフト操作される度にその操作に対応する所望のギヤ段となるように変速制御が実行される。
図4は、車両用油圧制御装置の一部を構成する油圧制御回路100のうちクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)ACT1〜ACT5の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する油圧制御回路の要部を示す図である。なお、本発明の車両用油圧制御装置は、上記油圧制御回路100および電子制御装置120等を含んで構成される。
図4において、油圧供給装置102は、エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ48(図1参照)から発生する油圧を元圧として第1ライン油圧PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)104と、そのプライマリレギュレータバルブ104から排出される油圧を元圧として第2ライン油圧PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)106と、スロットル弁開度θthや吸入空気量Q等で表されるエンジン負荷等に応じた第1ライン油圧PL1及び第2ライン油圧PL2が調圧される為にプライマリレギュレータバルブ104及びセカンダリレギュレータバルブ106へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLTと、第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ108とを備えている。また、油圧供給装置102は、シフトレバー96の操作に基づいて機械的或いは電気的に油路が切り換えられるマニュアルバルブ110を備えている。このマニュアルバルブ110は、例えばシフトレバー96が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をドライブ油圧PDとして出力し、シフトレバー96が「R」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をリバース油圧PRとして出力し、シフトレバー96が「P」ポジション或いは「N」ポジションへ操作されたときには、油圧の出力を遮断する(ドライブ油圧PD及びリバース油圧PRを排出側へ導く)。このように、油圧供給装置102は、第1ライン油圧PL1、第2ライン油圧PL2、モジュレータ油圧PM、ドライブ油圧PD、及びリバース油圧PRを出力するようになっている。
また、油圧制御回路100には、各油圧アクチュエータACT1〜ACT5に対応して、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5(以下特に区別しない場合はリニアソレノイドバルブSLと記載する)がそれぞれ設けられている。油圧アクチュエータACT1、ACT2、ACT3、ACT5には、それぞれ対応するリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL5により、油圧供給装置102からそれぞれ供給されたドライブ油圧PDが電子制御装置120からの指令信号に応じた係合油圧(供給油圧)Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb3に調圧されてそれぞれ直接的に供給される。また、各油圧アクチュエータACT4には、対応するリニアソレノイドバルブSL4により、油圧供給装置102から供給された第1ライン油圧PL1が電子制御装置120からの指令信号に応じた係合油圧Pinb2に調圧されて直接的に供給される。なお、ブレーキB3の油圧アクチュエータACT5には、リニアソレノイドバルブSL5により調圧された係合油圧Pinb3またはリバース油圧PRのどちらかがシャトル弁112を介して供給されるようになっている。また、各油圧アクチュエータACT1〜ACT5の上流側にはアキュムレータACM1〜ACM5が設けられている。
このように、油圧アクチュエータACT1、ACT2、ACT3、ACT5にそれぞれ供給される係合油圧Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb3はドライブ油圧PDを元圧として調圧された油圧である。このような油圧制御回路100の構成では、例えばシフトレバー96が「D」ポジションから「N」ポジションへ操作されるD→N操作時には、元圧となるドライブ油圧PDを供給できないので、クラッチC1、C2、及びブレーキB1、B3の解放時の係合油圧Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb3を調圧することができない。すなわち、D→N操作時には、解放時の係合油圧Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb3は単に排出されるだけとなる。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置120によりそれぞれ独立に励磁、非励磁や電流制御がなされて各油圧アクチュエータACT1〜ACT5へ供給される油圧を独立に調圧制御し、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の係合油圧Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb2、Pinb3をそれぞれ制御するものである。そして、自動変速機12は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各ギヤ段GSが成立させられる。また、自動変速機12の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側油圧式摩擦係合装置と係合側油圧式摩擦係合装置との掴み替えによる所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。このクラッチツゥクラッチ変速の際には、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるように解放側油圧式摩擦係合装置の解放過渡係合油圧と係合側油圧式摩擦係合装置の係合過渡係合油圧とが適切に制御される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→4速のアップシフトでは、ブレーキB3が解放されると共にクラッチC2が係合され、変速ショックを抑制するようにブレーキB3の解放過渡油圧とクラッチC2の係合過渡油圧とが適切に制御される。
上記解放側油圧式摩擦係合装置の解放過渡係合油圧および係合側油圧式摩擦係合装置の係合過渡係合油圧は、その油圧式摩擦係合装置(解放側油圧式摩擦係合装置および係合側油圧式摩擦係合装置を区別しない場合には、油圧式摩擦係合装置と記載)の油圧を制御するリニアソレノイドバルブ(SL1〜SL5等)の励磁電流を制御して、リニアソレノイドバルブから出力される指示油圧すなわち上記油圧式摩擦係合装置への供給油圧を制御することで調節される。例えば、3速→4速のアップシフトでは、エンジントルクTeや車速V等の車両の走行状態に応じて、係合側油圧式摩擦係合装置に対応するクラッチC2のトルク容量の目標値である目標クラッチトルク容量TC2*が逐次設定され、その目標クラッチトルク容量TC2*を達成するためのクラッチC2への供給油圧Pinc2が指令値として逐次算出される。そして、リニアソレノイドバルブSL2は、その算出された供給油圧Pinc2を出力するように指令され、その指令に基づきその供給油圧Pinc2をクラッチC2へ供給する。また、3速→4速へのアップシフトにおいて、解放側油圧式摩擦係合装置に対応するブレーキB3においても同様に、リニアソレノイドバルブSL5からの供給油圧Pinb3が制御される。
図5は、油圧式摩擦係合装置(クラッチCまたはブレーキB)とリニアソレノイドバルブSLとの間の油圧制御回路の何れか1系統をモデル化して各構成要素を模型的に示したモデル図である。図5のモデルは、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の各油圧式摩擦係合装置毎に構成されるため、個々に相違するものであるので、上記油圧式摩擦係合装置の何れかを一例として示していると言える。すなわち、図5の係合装置CBは図4のクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の各々に対応しており、図5の係合装置CBへの供給油圧PC1は図4の供給油圧(係合油圧)Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb2、Pinb3の各々に対応しており、図5の油圧アクチュエータACTは図4の油圧アクチュエータACT1〜ACT5の各々に対応しており、図5のアキュムレータACMは図4のアキュムレータACM1〜ACM5の各々に対応しており、図5のリニアソレノイドバルブSLAは図4のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の各々に対応している。図5のように、クラッチCまたはブレーキBとリニアソレノイドバルブSLとの間の油圧制御回路をモデル化することは油圧式摩擦係合装置(以下、「係合装置CB」と表す)への供給油圧を算出するに際して必要になるので、以下に図5について説明する。
図5において、所定の係合装置CB(クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3)を構成する油圧アクチュエータACTの上流側には、係合装置CBへの供給油圧PC1(Pinc1、Pinc2、Pinb1、Pinb2、Pinb3)を出力するリニアソレノイドバルブSLA(SL1〜SL5)が配置され、リニアソレノイドバルブSLAと油圧アクチュエータACTの間には、アキュムレータACMが設けられている。また、リニアソレノイドバルブSLAとアキュムレータACMとの間の油路122にはオリフィス124が設けられ、アキュムレータACMと油圧アクチュエータACTとの間の油路126にはアキュムレータ128が設けられている。さらに、アキュムレータACMと連通する油路130にはオリフィス132が設けられている。
係合装置CBは、油圧により互いに押圧させられる複数の摩擦板133と油圧アクチュエータACTとを含み、その油圧アクチュエータACTは、前記供給油圧PC1の作用により上記複数の摩擦板133を押圧するように摺動可能に設けられているピストン134と、そのピストン134を係合側(図5において右側)へ移動させる際、そのピストン134に推力を付与するための油圧が油路126から供給される油室136と、ピストン134を解放させる側へ付勢するリターンスプリング138とを、含んで構成されている。
アキュムレータACMは、油路130から油圧が供給される畜圧室140と、畜圧室140内に油圧が供給されることで移動されるピストン142と、畜圧室140のピストン142を挟んだ背面側に配置されピストン142を畜圧室140側へ付勢するアキュムレータスプリング144とを、含んで構成されている。
上記のようにモデル化される係合装置CBにおいて、下記式(1)〜(4)に示す方程式(流量方程式)が成立する。ここで、q1はオリフィス124を単位時間あたりに通過する流量を示し、q2はオリフィス128を単位時間あたりに通過する流量を示し、q3はオリフィス132を単位時間当たりに通過する流量を示している。また、a1はオリフィス124の開口面積を示しており、a2はオリフィス128の開口面積を示し、a3はオリフィス132の開口面積を示し、Bは各オリフィスの流量係数を示している。さらに、PC1はリニアソレノイドバルブSLAからの供給油圧(指示油圧)を示し、PacはアキュムレータACMの畜圧室140のアキューム内圧を示し、Pcは油圧アクチュエータACTの油室136内の油圧(以下、内圧Pcと記載)を示し、Pmはオリフィス124とオリフィス128との間の油路の油圧(以下、中間経路圧Pmと記載)を示している。
q1=q2+q3・・・・・(1)
q1=a1×B×(PC1−Pm)1/2・・・・(2)
q2=a2×B×(Pm−Pc)1/2・・・・(3)
q3=a3×B×(Pm−Pac)1/2・・・・(4)
式(1)は、オリフィス124を通る流量q1が、オリフィス128を通る流量q2とオリフィス132を通る流量との和となることを表している。また、式(2)〜式(4)は、公知であるオリフィス前後の圧力と流量の関係を示している。なお、流量係数Bは、一定値とはならず、オリフィスの開口面積、オリフィスの形状等に応じて変化するものであり、予め各オリフィスの流量係数Bが実験によって求められる。
また、油圧アクチュエータACTの内圧PcおよびアキュームレータACMのアキューム内圧Pacは、下記式(5)、(6)でそれぞれ示される。ここで、Fc(Xc)は、油圧アクチュエータACTのピストン134の移動量であるピストンストローク量Xcに対する反力を示し、Fac(Xac)はアキュムレータACMのピストン142の移動量であるアキュームストローク量Xacに対する反力を示し、Acは油圧アクチュエータACTのピストン134の断面積(受圧面積)を示し、AacはアキュムレータACMのピストン142の断面積(受圧面積)を示している。
Pc=Fc(Xc)/Ac・・・・(5)
Pac=Fac(Xac)/Aac・・・・(6)
また、オリフィス128を単位時間あたりに通過する流量q2と油圧アクチュエータACTのピストン134のピストンスロトーク量Xcとは、下記式(7)の関係で示され、オリフィス132を単位時間当たりに通過する流量q3とアキュムレータACMのピストン142のアキュームストローク量Xacとは、下記式(8)の関係で示される。下記式(7)は、オリフィス128を単位時間あたりに通過する流量q2が油圧アクチュエータACTの油室136の体積変化と等しくなることを示しており、下記式(8)は、オリフィス132を単位時間あたりに通過する流量q3がアキュムレータACMの畜圧室140の体積変化と等しくなることを示している。
q2=Xc×Ac・・・・(7)
q3=Xac×Aac・・・・(8)
上記式(1)〜(8)に基づく流量方程式を解くことにより、リニアソレノイドバルブSLAの供給油圧PC1に対する油圧アクチュエータACTの内圧Pcが精緻に算出される。
上記流量方程式を解くに際して、油圧アクチュエータACTのピストン134のピストンストローク量Xcに対する反力Fc(Xc)、およびアキュムレータACMのピストン142のアキュームストローク量Xacに対する反力Fac(Xac)が予め求められる。油圧アクチュエータACTのピストン134のピストンストローク量Xcに対する反力Fc(Xc)は、言い換えれば、ピストンスロトーク量Xcに応じてその全長(軸長)が変化させられる油圧アクチュエータACTに備えられるリターンスプリング138の弾性復帰力に基づくものである。具体的には、ピストンスロトーク量Xcが大きくなるに従って、リターンスプリング138の全長(軸長)が短くなるため、反力Fc(Xc)が大きくなる。また、ピストン134のピストンスロトーク量Xcが予め設定された制限値Xclimに到達すると、ピストン134の移動が制限され、反力Fc(Xc)が一定となる。
また、アキュムレータのピストン142のアキュームストローク量Xacに対する反力Fac(Xac)は、言い換えれば、アキュームストローク量Xacに応じてその全長(軸長)が変化させられるアキュムレータスプリング144の弾性復帰力に基づくものである。具体的には、アキュームストローク量Xacが大きくなるに従って、アキュームスプリング144の全長(軸長)が短くなるため、反力Fac(Xac)が大きくなる。また、ピストン142のアキュームストローク量Xacが予め設定された制限値Xaclimに到達すると、ピストン142の移動がストッパ146によって制限されるため、反力Fac(Xac)が一定となる。
上記反力Fc(Xc)とピストンスロトーク量Xcとの関係および上記反力Fac(Xac)とアキュームストローク量Xacとの関係、オリフィス124、128、132等の各諸元の特性を予め調べて記憶しておき、油圧アクチュエータACTの容積変化と内圧Pcとの関係、オリフィス前後の差圧による流量等の方程式を公知の算出手段によって解くことで、供給油圧PC1に対する内圧Pcが精緻に算出される。このようにして、油圧アクチュエータACTの内圧Pcを算出できれば、その内圧Pcは、その油圧アクチュエータACT内でピストン134が摩擦板133を押圧する押圧力に変換され、その押圧力により発生する摩擦板133相互間の摩擦力によって係合装置CBにトルク容量Tcを発生させるので、例えば、ピストン134の受圧面積Acや係合装置CBの回転半径(例えば図1の軸心Cまわりの回転半径)等に基づいて設定された定数を内圧Pcに乗じることで、その内圧Pcに応じたトルク容量Tcを容易に算出できる。
図6は、電子制御装置120に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6に示すように、電子制御装置120は、油圧制御部としての油圧制御手段160と、供給油圧指令値演算部としての供給油圧指令値演算手段162とを備えている。以下の制御機能の説明でも、図5に示すモデル図に基づいて説明する。
油圧制御手段160は、例えば自動変速機12のクラッチツゥクラッチの変速制御が実行される場合、係合側油圧式摩擦係合装置および解放側油圧式摩擦係合装置のトルク容量Tc(単位は例えば「Nm」)が最適な値となるように、リニアソレノイドバルブSLAから出力される供給油圧PC1(単位は例えば「kPa」)を制御する。すなわち、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3に対応する各油圧式摩擦係合装置(係合装置CB)の実際のトルク容量Tcが、車両10の走行状態等に応じて設定されたトルク容量Tcの目標値である目標トルク容量Tctgtに一致するように、供給油圧PC1を制御する。具体的には、係合装置CBの内圧Pc(単位は例えば「kPa」)が目標トルク容量Tctgtを実現する大きさとなるように、その係合装置CBを制御するリニアソレノイドバルブSLAに供給される励磁電流を制御する。そこで、油圧制御手段160は、供給油圧指令値演算手段162に、リニアソレノイドバルブSLAに対する指令値として用いる供給油圧PC1すなわち供給油圧指令値PC1tgtを目標トルク容量Tctgtに基づいて算出させる。なお、本実施例において供給油圧指令値PC1tgtは、実際の供給油圧PC1と区別するために「指令値」と呼ぶものであるのでその単位としては例えば「kPa」であり、リニアソレノイドバルブSLAは、供給油圧指令値PC1tgtの指令を受けることで、実際の供給油圧PC1をその供給油圧指令値PC1tgtに一致させるように作動する。
供給油圧指令値演算手段162は、図7のブロック線図で示される制御系に従って、油圧制御手段160から逐次与えられる目標トルク容量Tctgtに基づいて供給油圧指令値PC1tgtを逐次算出する。その図7は、目標トルク容量Tctgtに基づいて供給油圧指令値PC1tgtを算出する制御系の構成を示すブロック線図である。供給油圧指令値演算手段162は、供給油圧指令値PC1tgtを算出するため、図6に示すように、モデルトルク容量演算部としてのモデルトルク容量演算手段164と、第1供給油圧算出値演算部としての第1供給油圧算出値演算手段166と、第2供給油圧算出値演算部としての第2供給油圧算出値演算手段168とを備えている。
モデルトルク容量演算手段164の作動は図7の構成要素ELFBに対応しており、モデルトルク容量演算手段164は、供給油圧指令値PC1tgtと係合装置CBに発生するトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係を表すトルク容量モデルMDLTCを記憶している。そして、モデルトルク容量演算手段164は、そのトルク容量モデルMDLTCから実際の供給油圧指令値PC1tgtに基づいて上記トルク容量Tcを算出する。そのトルク容量モデルMDLTCから算出されたトルク容量Tcをモデルトルク容量Tcmdlと呼び、そのモデルトルク容量Tcmdlを発生するときの油圧アクチュエータACTの内圧Pcすなわちトルク容量モデルMDLTCから算出された内圧Pcをモデル内圧Pc1mdlと呼ぶ。
モデルトルク容量演算手段164は、前述したように、前記式(1)〜式(8)に基づく流量方程式を解くことにより油圧アクチュエータACTの内圧Pcを算出し、その内圧Pcの所定の定数を乗じてモデルトルク容量Tcmdlを算出することができるが、演算負荷を軽減するために、トルク容量モデルMDLTCは、前記供給油圧指令値PC1tgtとトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係を、一次遅れ、二次遅れ、またはトルク容量Tcの単位時間当たりの所定の変化量dTcmdl(トルク容量変化率dTcmdl)で表しても差し支えない。その過渡的な関係が一次遅れ、二次遅れ、またはトルク容量変化率dTcmdlで表される場合のステップ入力に対する出力をそれぞれ図8に例示すれば、一次遅れで表される場合の出力は実線L01のようになり、二次遅れで表される場合の出力は一点鎖線L02のようになり、トルク容量変化率dTcmdlで表される場合の出力は破線L03のようになる。そして、実線L01、一点鎖線L02、または破線L03で示される何れの出力値(モデルトルク容量Tcmdl)も、最終的には、上記ステップ入力の入力値(供給油圧指令値PC1tgt)に応じた一定のモデルトルク容量Tcmdl、例えばモデル内圧Pc1mdlが上記ステップ入力の入力値と一致したときのモデルトルク容量Tcmdlに収束する。本実施例では、トルク容量モデルMDLTCは、前記供給油圧指令値PC1tgtとトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係を一次遅れで表すものとして、モデルトルク容量演算手段164は、下記式(9)からモデル内圧Pc1mdlを逐次算出し、下記式(10)を用いてその算出したモデル内圧Pc1mdlをモデルトルク容量Tcmdlに変換してそのモデルトルク容量Tcmdlを逐次算出する。ここで、下記式(9)において、Pc1mdli-1は、モデル内圧Pc1mdlの前回の算出値であり、PC1tgti-1は、供給油圧指令値PC1tgtの前回の算出値すなわち図7のブロック線図で構成要素ELFBの入力となる前記実際の供給油圧指令値PC1tgtであり、KPC1SMは、トルク容量モデルMDLTCを実際の応答に近付けるように実験的に設定された1よりも大きい定数である。また、下記式(10)において、KPTは、モデル内圧Pc1mdlをモデルトルク容量Tcmdlに変換するために、ピストン134の受圧面積Acや係合装置CBの回転半径(例えば図1の軸心Cまわりの回転半径)等に基づいて設定された定数である。下記式(9)で異常値を取り除くため、その前回の供給油圧指令値PC1tgti-1に対しては、前回のモデル内圧Pc1mdli-1を基準として定められる制限範囲GDPC1が設けられ、モデルトルク容量演算手段164は、上記前回の供給油圧指令値PC1tgti-1がその制限範囲GDPC1の上限値を超えていれば下記式(9)ではその前回の供給油圧指令値PC1tgti-1に替えて上記制限範囲GDPC1の上限値を用い、その制限範囲GDPC1の下限値を下回っていればその下限値を用いるのが好ましい。
Pc1mdl=Pc1mdli-1+(PC1tgti-1−Pc1mdli-1)/KPC1SM ・・・(9)
Tcmdl=Pc1mdl×KPT ・・・(10)
なお、トルク容量モデルMDLTCを構成するモデル諸元、例えば前回の供給油圧指令値PC1tgti-1に対する前記制限範囲GDPC1や上記式(9)の定数KPC1SM、および定数KPT等は、モデルトルク容量演算手段164により、係合装置CBの機械的特性または係合装置CB用の油圧制御回路(図5参照)に設けられたオリフィス124,128,132もしくはアキュムレータACMの機械的特性を加味して決定されるのが好ましい。上記係合装置CBの機械的特性とは、例えば、係合装置CBを構成するクッション、リターンスプリング138、ウェーブなどのバネ定数、及びピストン134の受圧面積Ac等である。また、オリフィス124,128,132の機械的特性とは、例えば、そのオリフィス124,128,132の開口面積a1,a2,a3等である。また、アキュムレータACMの機械的特性とは、例えば、アキュムレータスプリング144のバネ定数等である。上記係合装置CBの機械的特性などが加味される場合には、例えば、定数KPC1SMはアキュムレータスプリング144のバネ定数が大きいほど小さくなる。
また、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元は、モデルトルク容量演算手段164により、係合装置CBに作動油が供給される場合(アプライ時)と係合装置CBから作動油が排出される場合(ドレイン時)とで別個に設定されるのが好ましい。例えば、アプライ時の定数KPC1SMは、ドレイン時の定数KPC1SMと比較して大きく設定される。また、アプライ時の定数KPTは、ドレイン時の定数KPTと比較して同じに設定される。
また、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元は、モデルトルク容量演算手段164により、作動油温Toilに応じて変更されるのが好ましい。例えば、定数KPC1SMは作動油温Toilが高いほど小さくなり、定数KPTも作動油温Toilが高いほど小さくなる。
また、前記モデル諸元が作動油温Toil、または、係合装置CBに対する作動油の給排方向に応じて変更される際には、そのモデル諸元は、そのモデル諸元と作動油温Toilまたは上記作動油の給排方向とを予め関係付けたマップ(モデル諸元マップ)から決定されるのが好ましい。そのモデル諸元マップは、例えば実機計測等により実験的に設定される。
第1供給油圧算出値演算手段166の作動は図7におけるモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETC(=Tctgt−Tcmdl)を算出する差分算出箇所PT01及び構成要素ELPに対応しており、第1供給油圧算出値演算手段166は、モデルトルク容量演算手段164が算出したモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに基づいて第1供給油圧算出値PC101を逐次算出する。具体的には、下記式(11)に示すように、第1供給油圧算出値PC101は、そのモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに比例する算出値であり、第1供給油圧算出値演算手段166は、そのモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに比例ゲインKPPC1を乗じて第1供給油圧算出値PC101を算出する。この比例ゲインKPPC1は、実験的に予め設定された定数であり、例えば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元に応じて決定される。例えば、比例ゲインKPPC1は、定数KPC1SMが大きいほど大きくなる。
PC101=(Tctgt−Tcmdl)×KPPC1 ・・・(11)
第2供給油圧算出値演算手段168の作動は図7の構成要素ELSTCに対応しており、第2供給油圧算出値演算手段168は、トルク容量Tcと供給油圧指令値PC1tgtとの間の予め定められた定常的な関係から、モデルトルク容量演算手段164が算出したモデルトルク容量Tcmdlに基づいて第2供給油圧算出値PC102を逐次算出する。上記定常的な関係とは、表現を変えれば、経過時間を無限大としたときの一定のトルク容量Tcとそのトルク容量Tcを維持する供給油圧指令値PC1tgtとの間の関係であり、トルク容量Tcと供給油圧指令値PC1tgtとの間に時間要素が存在しない関係である。従って、構成要素ELSTCの出力である第2供給油圧算出値PC102は、構成要素ELSTCの入力であるモデルトルク容量Tcmdlに基づいて下記式(12)により算出されるので、前記式(10)と対比すれば明らかなように、結局、第2供給油圧算出値演算手段168は、下記式(13)に示すように、モデルトルク容量演算手段164がモデルトルク容量Tcmdlの算出過程で算出したモデル内圧Pc1mdlをそのまま第2供給油圧算出値PC102とする。
PC102=Tcmdl/KPT ・・・(12)
PC102=Pc1mdl ・・・(13)
供給油圧指令値演算手段162は、前述したように目標トルク容量Tctgtに基づいて供給油圧指令値PC1tgtを逐次算出するが、詳細には、第1供給油圧算出値演算手段166が算出した第1供給油圧算出値PC101と第2供給油圧算出値演算手段168が算出した第2供給油圧算出値PC102とに基づいて、供給油圧指令値PC1tgtを逐次算出する。より具体的に言えば、供給油圧指令値演算手段162は、図7における構成要素ELPの出力値(第1供給油圧算出値PC101)と構成要素ELSTCの出力値(第2供給油圧算出値PC102)とを合算する出力値合算箇所PT02としての機能を含んでおり、下記式(14)に示すように、第1供給油圧算出値PC101と第2供給油圧算出値PC102との合計値を新たな供給油圧指令値PC1tgtとして算出する。
PC1tgt=PC101+PC102 ・・・(14)
そして、供給油圧指令値演算手段162は、新たに供給油圧指令値PC1tgtを算出する毎に、その算出した供給油圧指令値PC1tgtを油圧制御手段160に出力し、油圧制御手段160は、供給油圧指令値演算手段162が算出した供給油圧指令値PC1tgtに実際の供給油圧PC1を一致させるようにリニアソレノイドバルブSLAを作動させる。
図9は、電子制御装置120の制御作動の要部、すなわち、図7のブロック線図に示すように供給油圧指令値PC1tgtが目標トルク容量Tctgtに基づいて算出される制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
先ず、油圧制御手段160に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、目標トルク容量Tctgtが決定される。例えば、目標トルク容量Tctgtは、自動変速機12のクラッチツゥクラッチの変速制御の進行度合や車両10の走行状態等に応じて決定される。SA1の次はSA2に移る。
モデルトルク容量演算手段164に対応するSA2においては、モデルトルク容量Tcmdlが、トルク容量モデルMDLTCから、実際の供給油圧指令値PC1tgtすなわち前回の供給油圧指令値PC1tgti-1に基づいて算出される。具体的には、モデルトルク容量Tcmdlは、前記式(9)、式(10)を用いて算出される。本フローチャートは繰り返し実行されるところ、前記式(9)において、前回の供給油圧指令値PC1tgti-1とは、前回の演算サイクルにて算出された供給油圧指令値PC1tgti-1のことであり、前回のモデル内圧Pc1mdli-1とは、前回の演算サイクルにて算出されたモデル内圧Pc1mdli-1のことである。SA2の次はSA3に移る。
第1供給油圧算出値演算手段166に対応するSA3においては、前記式(11)に示すように、第1供給油圧算出値PC101が、前記SA2で算出されたモデルトルク容量Tcmdlと前記SA1で決定された目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに比例ゲインKPPC1を乗じて算出される。SA3の次はSA4に移る。
第2供給油圧算出値演算手段168に対応するSA4においては、第2供給油圧算出値PC102が、トルク容量Tcと供給油圧指令値PC1tgtとの間の予め定められた定常的な関係から、前記SA2で算出されたモデルトルク容量Tcmdlに基づいて算出される。結局のところ、前記SA2におけるモデルトルク容量Tcmdlの算出過程で算出されたモデル内圧Pc1mdlすなわち前記式(9)の算出値Pc1mdlがそのまま第2供給油圧算出値PC102となる。SA4の次はSA5に移る。
供給油圧指令値演算手段162に対応するSA5においては、供給油圧指令値PC1tgtが、前記式(14)に示すように、前記SA3で算出された第1供給油圧算出値PC101と前記SA4で算出された第2供給油圧算出値PC102とを合計して算出される。SA5の次はSA6に移る。
油圧制御手段160に対応するSA6においては、リニアソレノイドバルブSLAに対して、前記SA5で算出された供給油圧指令値PC1tgtに供給油圧PC1を一致させるように指令が為される。そして、リニアソレノイドバルブSLAは、その指令に従って、実際の供給油圧PC1をその供給油圧指令値PC1tgtに一致させるように作動する。
本実施例には次のような効果(A1)乃至(A10)がある。(A1)本実施例によれば、(a)モデルトルク容量演算手段164は、供給油圧指令値PC1tgtと係合装置CBに発生するトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係を表すトルク容量モデルMDLTCから実際の供給油圧指令値PC1tgtに基づいてモデルトルク容量Tcmdlを算出し、(b)第1供給油圧算出値演算手段166は、モデルトルク容量演算手段164が算出したモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに基づき第1供給油圧算出値PC101を算出し、(c)第2供給油圧算出値演算手段168は、トルク容量Tcと供給油圧指令値PC1tgtとの間の予め定められた定常的な関係から、モデルトルク容量演算手段164が算出したモデルトルク容量Tcmdlに基づいて第2供給油圧算出値PC102を算出し、(d)供給油圧指令値演算手段162は、第1供給油圧算出値演算手段166が算出した第1供給油圧算出値PC101と第2供給油圧算出値演算手段168が算出した第2供給油圧算出値PC102とに基づいて、新たに供給油圧指令値PC1tgtを算出する。ここで、前記第2供給油圧算出値PC102は、前記式(13)から、図7に示す構成要素ELSTCの入力であるモデルトルク容量Tcmdlを定常的に維持するための供給油圧指令値PC1tgtに相当すると言えるので、例えば目標トルク容量Tctgtが一定で十分に長い時間が経過した場合(例えば経過時間が無限大)を想定すると、第2供給油圧算出値PC102は、トルク容量モデルMDLTCの入力値である実際の供給油圧指令値PC1tgtと一致する。従って、係合装置CBの油圧制御における定常偏差を解消することができる。すなわち、図7のブロック線図においてモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCの定常値(=定常偏差)を零にすることができる。
(A2)ここで、積分要素で制御系の定常偏差を解消することが従来から行われているので、本実施例の効果を説明するために、その積分要素を含む制御系の一例であるブロック線図を図14に示す。図14は、図7のブロック線図と対比するために、係合装置CBの油圧制御において積分要素で定常偏差を解消する制御系を示したブロック線図である。図14の構成要素ELFBは図7のものと同じである。すなわち、図7と図14とでトルク容量モデルMDLTCは共通である。そして、図14でK1は比例ゲインであり、K2は積分ゲインである。図14では、供給油圧指令値PC1tgtは、モデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに比例ゲインK1を乗じて得た出力値と、モデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCを入力値とする積分要素ELIを経た値に積分ゲインK2を乗じて得た出力値と、リターンスプリング138の反力としてキャンセルされる油圧であるリターンスプリング圧とを合計して逐次算出される。
上述した図14に示す制御系には積分要素ELIが含まれているが本実施例の制御系には図7に示すように積分要素ELIが含まれていない。すなわち、本実施例によれば、図7に示す係合装置CBの油圧制御の制御系は、第2供給油圧算出値PC102に基づいて供給油圧指令値PC1tgtを算出することにより、積分要素ELIを含まなくてもモデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCの定常値(定常偏差)を零にすることができるので、その定常偏差を上記積分要素ELIで零にする制御系例えば図14に示す制御系と比較して、係合装置CBの応答性を十分に高く確保することが可能である。
(A3)また、本実施例によれば、第1供給油圧算出値PC101は、前記式(11)に示すように、モデルトルク容量Tcmdlと目標トルク容量Tctgtとの差分ETCに比例するので、係合装置CBの油圧制御の制御系は積分要素ELIを含まず、積分ゲインを適合させる必要がない。
(A4)また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCは、前記供給油圧指令値PC1tgtとトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係を、一次遅れ、二次遅れ、またはトルク容量Tcの単位時間当たりの所定の変化量dTcmdlで表しても差し支えなく、そのようにしたとすれば、上記トルク容量モデルMDLTCが単純化されるので、そのトルク容量モデルMDLTCを簡単に構成し演算負荷を軽減することが可能である。
(A5)また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元は、係合装置CBの機械的特性または係合装置CB用の油圧制御回路(図5参照)に設けられたオリフィス124,128,132もしくはアキュムレータACMの機械的特性を加味して決定されるのが好ましく、そのようにしたとすれば、車両等に応じて係合装置CBやその係合装置CB用の油圧制御回路(図5参照)が異なっても、相互に異なる係合装置CBや油圧制御回路のそれぞれに適合したトルク容量モデルMDLTCを構成することが可能である。
(A6)また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元は、係合装置CBに作動油が供給される場合(アプライ時)と係合装置CBから作動油が排出される場合(ドレイン時)とで別個に設定されるのが好ましく、そのようにしたとすれば、上記作動油の流れ方向に応じてモデルトルク容量Tcmdlを精度良く算出するトルク容量モデルMDLTCを構成することが可能である。
(A7)また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元は、作動油温Toilに応じて変更されるのが好ましく、そのようにしたとすれば、供給油圧指令値PC1tgtと係合装置CBに発生するトルク容量Tcとの間の予め定められた過渡的な関係が、例えば作動油の粘度が作動油温Toilに応じて変化すること等に起因して作動油温Toilの影響を受けるところ、実際値に対するモデルトルク容量Tcmdlの誤差がその過渡的な関係に対する作動油温Toilの影響によって大きくなることを抑制することが可能である。
(A8)また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元が作動油温Toil、または、係合装置CBに対する作動油の給排方向に応じて変更される際には、そのモデル諸元は、そのモデル諸元と作動油温Toilまたは上記作動油の給排方向とを予め関係付けた前記モデル諸元マップから決定されるのが好ましく、そのようにしたとすれば、上記モデル諸元を逐次算出し決定する場合と比較して、演算負荷を軽減できる。
(A9)また、本実施例によれば、前記式(11)の比例ゲインKPPC1は、例えば、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元に応じて決定される。そのようにしたとすれば、図7のブロック線図に示すような供給油圧指令値PC1tgtを算出する制御系がトルク容量モデルMDLTCに応じて適切な応答性と安定性とを有するようにすることが可能である。
(A10)また、本実施例によれば、自動変速機12は、遊星歯車装置16,20,22を備え係合装置CB(クラッチC,ブレーキB)の係合または解放により変速される有段変速機であり、その係合装置CB(クラッチC,ブレーキB)は、油圧により互いに押圧させられる摩擦板133と、係合装置CBへの供給油圧PC1の作用によりその摩擦板133を押圧するピストン134とを備え、その摩擦板133がそのピストン134の押圧力に応じて発生する摩擦力によってトルク容量Tcを発生するクラッチまたはブレーキである。従って、自動変速機12のクラッチCまたはブレーキBに対する油圧制御に本発明を適用することが可能である。
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、自動変速機12が備えるクラッチCまたはブレーキBを油圧式摩擦係合装置の一例として、本発明がその油圧式摩擦係合装置の油圧制御に適用された場合を説明したが、本実施例では、ベルト式無段変速機218が備える出力側可変プーリ246を油圧式摩擦係合装置の一例として、本発明がその油圧式摩擦係合装置の油圧制御に適用された場合を説明する。
図10は、本発明が適用された車両用駆動装置210の骨子図である。この車両用駆動装置210は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源として用いられる内燃機関としてエンジン212を備えている。エンジン212の出力は、トルクコンバータ214から前後進切換装置216、ベルト式無段変速機(CVT)218、減速歯車220を介して差動歯車装置222に伝達され、左右の駆動輪40へ分配される。
エンジン212は、吸入空気量を電気的に調整する電気式スロットル弁230を備えており、運転者の出力要求量を表すアクセル開度Accなどに応じて電子制御装置280(図11参照)により電気式スロットル弁230の開閉制御や燃料噴射制御等のエンジン出力制御が行われることにより、エンジン212の出力が増減制御される。また、エンジン212の吸気管231にはブレーキブースタ232が接続され、吸気管231内の負圧によってフットブレーキペダル92の踏込み操作力(ブレーキ力)を助勢するようになっている。
トルクコンバータ214は、エンジン212のクランク軸に連結されたポンプ翼車214p、およびタービン軸234を介して前後進切換装置216に連結されたタービン翼車214tを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車214pおよびタービン翼車214tの間にはロックアップクラッチ226が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車214pには、ベルト式無段変速機218を変速制御したり、可変プーリ242、246が伝動ベルト248を挟圧するベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ228が設けられている。
前後進切換装置216は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ214のタービン軸234はサンギヤ216sに連結され、ベルト式無段変速機218の入力軸236はキャリア216cに連結されている。そして、キャリア216cとサンギヤ216sとの間に配設された直結クラッチ238が係合させられると、前後進切換装置216は一体回転させられてタービン軸234が入力軸236に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪40に伝達される。リングギヤ216rとハウジングとの間に配設された反力ブレーキ240が係合させられるとともに上記直結クラッチ238が解放されると、入力軸236はタービン軸234に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪40に伝達される。また、直結クラッチ238および反力ブレーキ240が共に解放されると、エンジン212とベルト式無段変速機218との間の動力伝達が遮断される。直結クラッチ238および反力ブレーキ240は何れも油圧式摩擦係合装置で、エンジン212とベルト式無段変速機218との間の動力伝達を遮断できる断続装置に相当する。
ベルト式無段変速機218は図10に示すように動力伝達経路に配設された変速比γを連続的に変更できる自動変速機である。そして、ベルト式無段変速機218は、上記入力軸236に設けられたV溝幅が可変の入力側可変プーリ242と、出力軸244に設けられたV溝幅が可変の出力側可変プーリ246と、それら1対の可変プーリ242、246に巻き掛けられた伝動ベルト248とを備えている。そして、可変プーリ242、246と伝動ベルト248との間に生じる摩擦力によりトルク伝達が行われる。すなわち、可変プーリ242、246は、その可変プーリ242、246と伝動ベルト248との間に生じる摩擦力によりトルク容量Tcをそれぞれ発生する。
1対の可変プーリ242、246は、互いに平行な1対の回転軸である入力軸236と出力軸244とにそれぞれ設けられている。図12に示すように、その1対の可変プーリ242、246の一方である入力側可変プーリ242は、入力軸236に固定された固定プーリ242aと、入力軸236の軸心まわりに相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に設けられた可動プーリ242bとを有しており、その可動プーリ242bは、変速制御回路350の供給路360からの油圧を可動プーリ242bに作用させ前記V溝幅を変更するために、その供給路360からの油圧を受け入れる油圧シリンダ242cを備えて構成されている。また、図13に示すように、出力側可変プーリ246は、出力軸244に固定された固定プーリ246aと、出力軸244の軸心まわりに相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に設けられた可動プーリ246bとを有しており、その可動プーリ246bは、挟圧力制御回路370の挟圧力制御弁376からの油圧POを可動プーリ246bに作用させ前記V溝幅を変更するために、その油圧POを受け入れる油圧シリンダ246cを備えて構成されている。
そして、入力側可変プーリ242の油圧シリンダ242cの油圧が変速制御回路350(図11参照)によって制御されることにより、両可変プーリ242、246のV溝幅が変化して伝動ベルト248の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。なお、上記入力軸回転速度Ninは入力軸236の回転速度であり、上記出力軸回転速度Noutは出力軸244の回転速度である。また、本実施例では図10から判るように、上記入力軸236の回転速度(入力軸回転速度Nin)は入力側可変プーリ242の回転速度と同一であり、上記出力軸244の回転速度(出力軸回転速度Nout)は出力側可変プーリ246の回転速度と同一である。
伝動ベルト248は、入力側可変プーリ242と出力側可変プーリ246との間に掛け渡されたベルト式無段変速機用の圧縮式伝動ベルト(金属ベルト)である。可変プーリ242、246はそれぞれ前記V溝幅が可変であるV型溝252(図12,図13参照)を外周部に有しており、各可変プーリ242、246では、上記伝動ベルト248はそのV型溝252に巻き掛けられている。上記V型溝252は、可変プーリ242、246の何れでも径方向外側に向かうほど軸心方向の相対距離が大きくなる円錐状の一対のシーブ面254により形成されている。
図12は、上記変速制御回路350の一例で、変速比γを小さくするアップシフト用の電磁開閉弁352および流量制御弁354と、変速比γを大きくするダウンシフト用の電磁開閉弁356および流量制御弁358とを備えている。そして、アップシフト用の電磁開閉弁352が電子制御装置280(図11参照)によりデューティ制御されると、モジュレータ圧PMCVTを減圧した所定の制御圧PVUが流量制御弁354に出力され、その制御圧PVUに対応して調圧されたライン圧PLCVTが供給路360から入力側可変プーリ242の油圧シリンダ242cに供給されることにより、入力側可変プーリ242のV型溝252の溝幅(V溝幅)が狭くなって変速比γが小さくなる。また、ダウンシフト用の電磁開閉弁356が電子制御装置280によりデューティ制御されると、モジュレータ圧PMCVTを減圧した所定の制御圧PVDが流量制御弁358に出力され、その制御圧PVDに対応してドレーンポート358dが開かれることにより、入力側可変プーリ242内の作動油が排出路362から所定の流量でドレーンされて入力側可変プーリ242のV溝幅が広くなり、変速比γが大きくなる。なお、変速比γが略一定で入力側可変プーリ242に対する作動油の供給が必要ない場合でも、油漏れによる変速比変化を防止するため、流量制御弁354は所定の流通断面積でライン油路364と供給路360とを連通させ、所定の油圧を作用させるようになっている。
また、出力側可変プーリ246の油圧シリンダ246cの油圧は、伝動ベルト248が滑りを生じないように、挟圧力制御回路370(図11参照)により調圧制御される。図13は、挟圧力制御回路370の一例で、前記オイルポンプ228によりオイルタンク372から汲み上げられた作動油は、リニアソレノイド弁374に供給されるとともに、挟圧力制御弁376を経て出力側可変プーリ246の油圧シリンダ246cに供給される。リニアソレノイド弁374は、電子制御装置280によって励磁電流が連続的に制御されることにより、オイルポンプ228から供給された作動油の油圧を連続的に調圧して、制御圧PSを挟圧力制御弁376に出力するもので、挟圧力制御弁376から出力側可変プーリ246の油圧シリンダ246cに供給される作動油の油圧POは、制御圧PSが高くなるに従って上昇させられ、それに伴ってベルト挟圧力すなわち可変プーリ242、246と伝動ベルト248との間の摩擦力が増大させられる。
リニアソレノイド弁374にはまた、カットバック弁378のON時に制御圧PSがフィードバック室374aに供給される一方、カットバック弁378のOFF時には、その制御圧PSの供給が遮断されてフィードバック室374aが大気に開放されるようになっており、カットバック弁378のON時にはOFF時よりも制御圧PS、更には油圧POの特性が低圧側へ切り換えられる。カットバック弁378は、前記トルクコンバータ214のロックアップクラッチ226のON(係合)時に、図示しない電磁弁から信号圧PONが供給されることによりONに切り換えられるようになっている。
図11の電子制御装置280はマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、上記ベルト式無段変速機218の変速制御や挟圧力制御を行う制御装置である。電子制御装置280は、レバーポジションセンサ94、アクセル開度センサ76、エンジン回転速度センサ80、出力軸回転速度センサ288、入力軸回転速度センサ290、タービン回転速度センサ292、作動油温センサ74、油圧センサ296などから、それぞれシフトレバー96のレバーポジションPSH、アクセル開度Acc、エンジン回転速度Ne、出力軸回転速度Nout(車速Vに対応)、入力軸回転速度Nin、タービン回転速度Nt、ベルト式無段変速機218の油圧回路の作動油温Toil、出力側可変プーリ246の油圧POなどを表す信号が供給されるようになっている。
また、電子制御装置280には、ベルト式無段変速機218の変速制御やベルト挟圧力の制御に必要な各種の情報、例えばエンジン212の吸入空気量Q、エンジン212の冷却水温Tw、オルタネータの電気負荷ELS、アクセルOFFのコースト走行時にエンジン212に対する燃料供給を停止するフューエルカットの有無、減筒運転の有無、エアコンのON・OFF、ロックアップクラッチ226のON・OFF、などに関する信号が供給されるようになっている。
本実施例でも、前述の実施例1で図6を用いて説明した制御機能、および図9を用いて説明した制御作動を適用することができる。すなわち、本実施例の電子制御装置280に備えられた制御機能の要部は図6で表され、電子制御装置280の制御作動の要部は図9で表される。例えば、本実施例では、図6の制御機能および図9の制御作動は、図13に示す挟圧力制御回路370における出力側可変プーリ246の油圧シリンダ246cに供給される作動油の油圧POの制御に適用され、その油圧POの制御系は図7のブロック線図で表される。その場合、係合装置CBには出力側可変プーリ246が対応し、係合装置CBの油圧アクチュエータACTには油圧シリンダ246cが対応し、油圧アクチュエータACTの内圧Pcには油圧シリンダ246cの内圧Pcが対応し、係合装置CBへの供給油圧PC1には油圧シリンダ246cへの油圧POが対応し、リニアソレノイドバルブSLAにはリニアソレノイド弁374及び挟圧力制御弁376が対応し、係合装置CBのトルク容量Tcには出力側可変プーリ246と伝動ベルト248との間の摩擦力により発生するトルク容量Tcすなわち出力側可変プーリ246のベルト挟圧力に応じたトルク容量Tcが対応し、目標トルク容量Tctgtには上記出力側可変プーリ246と伝動ベルト248との間の摩擦力により発生するトルク容量Tcの目標値が対応し、供給油圧指令値PC1tgtにはリニアソレノイド弁374に指令される上記油圧POを表す指令値が対応する。更に、トルク容量モデルMDLTCは、出力側可変プーリ246が伝動ベルト248を挟圧するベルト挟圧力を加味して予め定められる。例えば、そのベルト挟圧力は、電気式スロットル弁230の開度θth(スロットル弁開度θth)とベルト式無段変速機218の変速比γとの関数として決定されるので、トルク容量モデルMDLTCを構成する前記モデル諸元を決定するためのマップが、そのスロットル弁開度θthおよび変速比γをパラメータとして実験的に予め作成されており、上記モデル諸元は、そのマップから上記スロットル弁開度θthおよび変速比γに基づいて予め決定される。
本実施例には前述した実施例1の効果(A1)乃至(A9)に加えて更に次のような効果がある。本実施例によれば、(a)ベルト式無段変速機218は、互いに平行な1対の回転軸236,244に設けられた有効径が可変の1対の可変プーリ242,246と、その1対の可変プーリ242,246に巻回された伝動ベルト248とを備え、可変プーリ242,246と伝動ベルト248との間に生じる摩擦力によりトルク伝達を行う自動変速機であり、(b)1対の可変プーリ242,246は、回転軸236,244に固定された固定プーリ242a,246aと、その回転軸236,244の軸心まわりに相対回転不能且つ軸心方向に移動可能に設けられた可動プーリ242b,246bとをそれぞれ有し、(c)1対の可変プーリ242,246の少なくとも一方、具体的には出力側可変プーリ246は、前記供給油圧PC1(=油圧PO)を可動プーリ246bに作用させるためにその供給油圧PC1を受け入れる油圧シリンダ246cを有し、その供給油圧PC1に応じて伝動ベルト248を挟圧して発生する摩擦力によりトルク容量Tcを発生することで前記係合装置CBとして機能するものである。従って、ベルト式無段変速機218の出力側可変プーリ246に対する油圧制御に本発明を適用することが可能である。
また、本実施例によれば、トルク容量モデルMDLTCは、出力側可変プーリ246が伝動ベルト248を挟圧するベルト挟圧力を加味して予め定めらたものである。従って、上記ベルト挟圧力は供給油圧PC1(=油圧PO)の作用により発生するものであり、そのベルト挟圧力に対応して出力側可変プーリ246のトルク容量Tcは定まるので、出力側可変プーリ246に対する油圧制御に適したトルク容量モデルMDLTCを構成することが可能である。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の実施例1において、図7のブロック線図に示すように、構成要素ELFBの入力は供給油圧指令値PC1tgtであるが、油圧センサなどにより実際の供給油圧PC1を検出して、その検出された供給油圧PC1が供給油圧指令値PC1tgtに替えて上記構成要素ELFBの入力とされることも考え得る。
また、前述の実施例1において、図7に示す制御系は積分要素ELIを含んでいないが、構成要素ELPと並列または直列に、積分要素ELIや微分要素等の他の構成要素を備えて構成されていても差し支えない。
また、前述の実施例2において、出力側可変プーリ246の油圧シリンダ246cに供給される油圧POに関する油圧制御が、図9のフローチャートで示す制御作動により行われるが、入力側可変プーリ242の油圧シリンダ242cに供給される油圧に関する油圧制御が、上記図9のフローチャートで示す制御作動により行われても差し支えない。
また、前述の実施例2において、出力側可変プーリ246のトルク容量Tcは、出力側可変プーリ246における伝動ベルト248の有効径とベルト挟圧力との積に基づいて算出されるものであるので、図7のブロック線図での目標値である目標トルク容量Tctgtを出力側可変プーリ246におけるベルト挟圧力の目標値(目標ベルト挟圧力)に置き換えて本発明を適用することも可能である。
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。