以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[実施の形態]
(スイッチング電源装置の全体構成)
図1は、本発明の一実施の形態に係るスイッチング電源装置の回路構成を表すものである。このスイッチング電源装置は、入力端子T1,T2から入力される直流入力電圧Vinに対して電圧変換を行うことにより直流出力電圧Voutを生成し、図示しない低圧バッテリに供給して負荷Lを駆動するものである。すなわち、このスイッチング電源装置は、高圧バッテリ10から供給される高圧の直流入力電圧Vinをより低い直流出力電圧Voutに変換し、図示しない低圧バッテリに供給して負荷Lを駆動するDC−DCコンバータとして機能するようになっている。
このスイッチング電源装置は、1次側高圧ラインL1Hと1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられた入力平滑コンデンサ2および6つのスイッチング素子S1〜S6と、共振用インダクタLr1,Lr2と、トランス3と、整流回路4と、平滑回路5と、制御回路6とを備えている。また、6つのスイッチング素子S1〜S6によって、後述するように、入力端子T1,T2に対して互いに並列接続された2つのインバータ回路11,12が形成されるようになっている。ただし、詳細は後述するが、スイッチング電源装置では、これらのインバータ回路11,12のうちのどちらか一方が択一的(選択的)に動作するようになっており、同時に双方が動作しないようになっている。
入力平滑コンデンサ2は、入力端子T1,T2から入力された直流入力電圧Vinを平滑化するためのものである。
インバータ回路11は、上記した6つのスイッチング素子S1〜S6のうちの4つのスイッチング素子S1〜S4により構成されたフルブリッジ型の回路構成となっている。具体的には、スイッチング素子S1,S2の一端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続され、これらの一端同士は、接続ラインL21(共振用インダクタLr1)、トランス3の1次側巻線(後述する1次側巻線311A〜311D)および接続ラインL22を介して、互いに接続されている。スイッチング素子S1,S3の他端同士は、1次側高圧ラインL1H上で互いに接続され、スイッチング素子S2,S4の他端同士は、1次側低圧ラインL1L上で互いに接続されている。このような構成により、インバータ回路11は、後述する制御回路6から供給される制御信号SG1〜SG4に従って、直流入力電圧Vinを交流電圧に変換して出力するようになっている。
インバータ回路12は、上記した6つのスイッチング素子S1〜S6のうちの4つのスイッチング素子S3〜S6により構成されたフルブリッジ型の回路構成となっている。すなわち、2つのスイッチング素子S3,S4はそれぞれ、インバータ回路11,12の双方に属しており、言い換えると、インバータ回路11,12同士が、これらのスイッチング素子S3,S4(一部のスイッチング素子)を共有するようになっている。このインバータ回路12では、スイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S5,S6の一端同士が互いに接続され、これらの一端同士は、接続ラインL31(共振用インダクタLr2)、トランス3の1次側巻線(後述する1次側巻線312A,312C)および接続ラインL32を介して、互いに接続されている。スイッチング素子S3,S5の他端同士は、1次側高圧ラインL1H上で互いに接続され、スイッチング素子S4,S6の他端同士は、1次側低圧ラインL1L上で互いに接続されている。このような構成により、インバータ回路12は、後述する制御回路6から供給される制御信号SG3〜SG6に従って、直流入力電圧Vinを交流電圧に変換して出力するようになっている。
なお、これらスイッチング素子S1〜S6しては、例えば電界効果型トランジスタ(MOS−FET;Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)などのスイッチ素子が用いられる。
トランス3は、後述する互いに対向する上部コアUCおよび下部コアDCから構成される磁芯30と、6つの1次側巻線311A〜311D,312A,312Cと、4つの2次側巻線32A〜32Dとを有している。これらのうち、4つの1次側巻線311A〜311Dは全体としてインバータ回路11に接続され、2つの1次側巻線312A,312Cは全体としてインバータ回路12に接続され、4つの2次側巻線32A〜32Dはそれぞれ、後述する整流回路4内の4つの整流ダイオード41〜44に対して個別に接続されている。
4つの1次側巻線311A〜311Dは、互いに直列接続されている。具体的には、1次側巻線311Aでは、一端が、共振用インダクタLr1を介してスイッチング素子S1,S2の一端同士に接続され、他端が1次側巻線311Bの一端に接続されている。この1次側巻線311Bの他端は1次側巻線311Cの一端に接続され、この1次側巻線311Cの他端は1次側巻線311Dの一端に接続され、この1次側巻線311Dの他端はスイッチング素子S3,S4の一端同士に接続されている。なお、図中に示した黒丸は、1次側巻線311A〜311Dのそれぞれについての巻き始めの位置を示している。
2つの1次側巻線312A,312Cは、互いに直列接続されている。具体的には、1次側巻線312Aでは、一端が、共振用インダクタLr2を介してスイッチング素子S3,S4の一端同士に接続され、他端が1次側巻線312Cの一端に接続されている。この1次側巻線312Cの他端は、スイッチング素子S5,S6の一端同士に接続されている。なお、図中に示した黒丸は、1次側巻線312A,312Cのそれぞれについての巻き始めの位置を示している。
4つの2次側巻線32A〜32Dのうち、2次側巻線32Aの一端は後述する整流ダイオード41のカソードに接続され、2次側巻線32Bの一端は後述する整流ダイオード42のカソードに接続され、これら2次側巻線32A,32Bの他端同士は互いに出力ラインLO上の接続点C(センタタップ)に接続されている。一方、2次側巻線32Cの一端は後述する整流ダイオード43のカソードに接続され、2次側巻線32Dの一端は後述する整流ダイオード44のカソードに接続され、これら2次側巻線32C,32Dの他端同士は互いに出力ラインLO上の接続点(センタタップ)Cに接続されている。なお、図中に示した黒丸および白丸はそれぞれ、2次側巻線32A〜32Dのそれぞれについての巻き始めの位置を示している。ただし、巻線の両端に黒丸および白丸の双方が記してあるもの(具体的には、2次側巻線32B,32D)については、黒丸が、インバータ回路11を用いた動作を行っているとき(後述する第1の動作モード時)の巻き始めの位置を、白丸が、インバータ回路12を用いた動作を行っているとき(後述する第2の動作モード時)の巻き始めの位置を、それぞれ表している。
このトランス3は、インバータ回路11またはインバータ回路12によって生成された交流電圧(トランス3の1次側に入力される交流電圧)を変圧し、一対の2次側巻線32A,32Bの各端部と、一対の2次側巻線32C,32Dの各端部とから、変圧された交流電圧を出力するようになっている。この場合の変圧の度合いは、1次側巻線311A〜311Dまたは1次側巻線312A,312Cと、2次側巻線32A〜32Dとの巻数比によって定まる。なお、図中に示した環状磁路B1(第1の磁路),B2(第2の磁路)はそれぞれ、後述するインバータ回路11,12を用いた動作時において形成される環状磁路を、模式的に表したものである。このトランス3の詳細構成については、後述する。
整流回路4は、4つの整流ダイオード41〜44を用いて構成された単相全波整流型のものであり、トランス3の2次側から出力される変圧された交流電圧を整流して出力するようになっている。整流ダイオード41のカソードは2次側巻線32Aの一端に接続され、整流ダイオード42のカソードは2次側巻線32Bの一端に接続され、これら整流ダイオード41,42のアノード同士は互いに接続されて接地ラインLGに導かれている。一方、整流ダイオード43のカソードは2次側巻線32Cの一端に接続され、整流ダイオード44のカソードは2次側巻線32Dの一端に接続され、これら整流ダイオード43,44のアノード同士は互いに接続されて接地ラインLGに導かれている。すなわち、一対の整流ダイオード41,42および一対の整流ダイオード43,44ではそれぞれ、センタタップ型のアノードコモン接続の構成となっていると共に、これらが互いに並列接続されている。
平滑回路5は、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52により構成されている。チョークコイル51は出力ラインLO上に挿入配置されており、一端がセンタタップCに接続され、他端が出力ラインLO上の出力端子T3に接続されている。出力平滑コンデンサ52は、出力ラインLOと接地ラインLGとの間に配置されている。また、接地ラインLGの端部には、出力端子T4が設けられている。このような構成により平滑回路5では、整流回路4において整流された電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、これを出力端子T3,T4から低圧バッテリ(図示せず)に出力して給電するようになっている。
制御回路6は、インバータ回路11,12内のスイッチング素子S1〜S6を駆動するためのものである。具体的には、スイッチング素子S1〜S6に対してそれぞれ制御信号SG1〜SG6を供給し、これらスイッチング素子S1〜S6を個別にオン・オフ制御(具体的には、PWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)制御)するようになっている。
(トランス3の詳細構成)
次に、図2〜図4を参照してトランス3の詳細構成について説明する。図2は、トランス3における主要部の外観構成を分解斜視図で表したものである。
トランス3は、互いに対向する上部コアUCおよび下部コアDCからなるコア材(磁芯30)に対して、1次側巻線311A〜311Dを構成するプリントコイル310と、1次側巻線312A,312Cを構成するプリントコイル320と、2次側巻線32A〜32Dを個別に構成する4枚の板金とが、以下説明する4つの脚部の延在方向(垂直方向)に垂直な面内(水平面内)に巻回された構造となっている。なお、上部コアUCおよび下部コアDCはそれぞれ、例えばフェライトなどの磁性材料により構成され、プリントコイル310,320および上記した4枚の板金はそれぞれ、例えば銅やアルミニウムなどの導電性材料により構成されている。
上部コアUCは、ベースコアUCbと、このベースコアUCbから上記垂直方向(貫通方向)に延びた4本の脚部分である第1脚部UC1、第2脚部UC2、第3脚部UC3および第4脚部UC4とから構成されている。下部コアDCは、ベースコアDCbと、このベースコアDCbから上記垂直方向(貫通方向)に延びた4本の脚部分である第1脚部DC1、第2脚部DC2、第3脚部DC3および第4脚部DC4とから構成されている。これらの第1脚部UC1,DC1、第2脚部UC2,DC2、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4は、ベースコアUCb,DCbの対向面内で互いに交差する2直線(2つの対角線)上に、一対ずつ離間して配置されている。そして、これらの4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4は、互いに対向する2つのベースコアUCb,DCb同士を磁気的に連結するようになっている。
具体的には、ここでは、第1脚部UC1,DC1、第2脚部UC2,DC2、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4は、ベースコアUCb,DCb上の正方形状の面の四隅をなすように配置されている。すなわち、これら4つの脚部は、矩形状(正方形状)のベースコアUCb,DCbの四隅に配置されている。そして、第1脚部UC1,DC1と第3脚部UC3,DC3とが、互いに一方の対角線上の両端に配置されて脚部対(第1の脚部対)を構成すると共に、第2脚部UC2,DC2と第4脚部UC4,DC4とが、互いに他方の対角線上の両端に配置されて脚部対(第2の脚部対)を構成している。
プリントコイル310には、各脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4が個別に貫通する4つの貫通孔310A〜310Dが設けられている。貫通孔310Aには第1脚部UC1,DC1が貫通し、貫通孔310Bには第2脚部UC2,DC2が貫通し、貫通孔310Cには第3脚部UC3,DC3が貫通し、貫通孔310Dには第4脚部UC4,DC4が貫通している。また、このプリントコイル310では、接続ラインL21側から接続ラインL22側へ向けて、第1脚部UC1,DC1(貫通孔310A)を巻回する1次側巻線311Aと、第2脚部UC2,DC2(貫通孔310B)を巻回する1次側巻線311Bと、第3脚部UC3,DC3(貫通孔310C)を巻回する1次側巻線311Cと、第4脚部UC4,DC4(貫通孔310D)を巻回する1次側巻線311Dとが、この順に互いに直列接続されている。具体的には、上部コアUC側からプリントコイル310を見た場合に、1次側巻線311A,311Cはそれぞれ、右回りに3ターン分(3周分)巻回される一方、1次側巻線311B,311Dはそれぞれ、左回りに3ターン分(3周分)巻回されている。すなわち、対角方向に位置する1次側巻線同士で互いに同じ方向に巻回されていると共に、一対の対角方向の1次側巻線同士では互いに逆向きに巻回されるようになっている。
プリントコイル320には、各脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4が個別に貫通する4つの貫通孔320A〜320Dが設けられている。貫通孔320Aには第1脚部UC1,DC1が貫通し、貫通孔320Bには第2脚部UC2,DC2が貫通し、貫通孔320Cには第3脚部UC3,DC3が貫通し、貫通孔320Dには第4脚部UC4,DC4が貫通している。また、このプリントコイル320では、接続ラインL31側から接続ラインL32側へ向けて、第3脚部UC3,DC3(貫通孔320C)を巻回する1次側巻線312Cの一部分と、第1脚部UC1,DC1(貫通孔320A)を巻回する1次側巻線312Aと、上記した1次側巻線312Cの残りの部分とが、この順に互いに直列接続されている。具体的には、上部コアUC側からプリントコイル320を見た場合に、1次側巻線312Cは、右回りに3ターン分(3周分)巻回される一方、1次側巻線312Aは、左回りに3ターン分(3周分)巻回されている。すなわち、対角線方向に位置する1次側巻線312A,312C同士で互いに逆方向に巻回されている。なお、このプリントコイル320では、上記したプリントコイル310とは異なり、第2脚部UC2,DC2(貫通孔320B)および第4脚部UC4,DC4(貫通孔320D)にはそれぞれ、(1次側)巻線が巻回されていない。すなわち、プリントコイル320では、1次側巻線312A,312Cが、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3に対して選択的に巻回されている。
2次側巻線32A,32Bを構成する2枚の板金はそれぞれ、プリントコイル320と上部コアUCとの間に配置されている。2次側巻線32Aを構成する板金には、第1脚部UC1,DC1が貫通する1つの貫通孔が設けられ、2次側巻線32Bを構成する板金には、第3脚部UC3,DC3が貫通する1つの貫通孔が設けられている。一方、2次側巻線32C,32Dを構成する2枚の板金はそれぞれ、プリントコイル310と下部コアDCとの間に配置されている。2次側巻線32Cを構成する板金には、第1脚部UC1,DC1が貫通する1つの貫通孔が設けられ、2次側巻線32Dを構成する板金には、第3脚部UC3,DC3が貫通する1つの貫通孔が設けられている。なお、これらの2次側巻線32A〜32Dはそれぞれ、上記した貫通孔に1ターン分(1周分)巻回されるようになっている。
なお、ここでは、1次側巻線311A〜311D,312A,312Cおよび2次側巻線32A〜32Dがそれぞれ、配線(接続ラインL21,L22、接続ラインL31,L32、出力ラインLOまたは接地ラインLG)を介して、プリントコイル310,320および4枚の板金の面内方向に沿って外部から取り出しが可能なように構成されている。
このような構成によりトランス3では、プリントコイル310において、後述するインバータ回路11を用いた動作の際に、図2中に示した向きに1次側巻線311A〜311Dを流れる1次側の電流Ia1,Ib1によってそれぞれ、4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4内の貫通方向に磁束が形成されるようになっている。また、プリントコイル320において、後述するインバータ回路12を用いた動作の際に、図2中に示した向きに1次側巻線312A,312Cを流れる1次側の電流Ic1,Id1によってそれぞれ、2つの脚部UC1,UC3,DC1,DC3内の貫通方向に磁束が形成されるようになっている。ここで、このプリントコイル320では、上記したように、第2脚部UC2,DC2(貫通孔320B)および第4脚部UC4,DC4(貫通孔320D)にはそれぞれ巻線が巻回されていないため、これらの部分には磁束が形成されないようになっている。なお、図2中の貫通孔310A〜310D,320A〜320D等内に示した磁束の向きを表す矢印は、1本線の実線のものが、電流Ia1が流れるときに形成されるものに、1本線の破線のものが、電流Ib1が流れるときに形成されるものに、2本線の実線のものが、電流Ic1が流れるときに形成されるものに、2本線の破線のものが、電流Id1が流れるときに形成されるものに、それぞれ対応している。
ここで、このような4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4内に形成される磁束の向きは、プリントコイル310では、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3からなる第1の脚部対内で互いに同一方向であると共に、第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4からなる第2の脚部対内で互いに同一方向となっている。また、これら第1の脚部対と第2の脚部対との間で、磁束の向きが互いに逆方向となっている。言い換えると、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3の各内部に生ずる磁束がともに第1の方向を向くと共に、第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4の各内部に生ずる磁束がともに、この第1の方向とは逆の第2の方向を向くようになっている。一方、プリントコイル320では、プリントコイル310とは異なり、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3からなる第1の脚部対内で互いに逆方向となっている。言い換えると、第1脚部UC1,DC1の内部に生ずる磁束が第3の方向を向くと共に、第3脚部UC3,DC3の内部に生ずる磁束が、この第3の方向とは逆の第4の方向を向くようになっている。
また、2次側巻線32A〜32Dを構成する4枚の板金ではそれぞれ、電流Ia1〜Id1により形成される4種類の磁束に基づいて起電流(起電力)が発生し、整流ダイオード41〜44の向きとの関係で、図2中に示したような2次側の電流Ia2〜Id2が流れるようになっている。具体的には、2次側巻線32Aを構成する板金からは電流Ia2または電流Id2が流れ、2次側巻線32Bを構成する板金からは電流Ia2または電流Ic2が流れ、2次側巻線32Cを構成する板金からは電流Ib2または電流Ic2が流れ、2次側巻線32Dを構成する板金からは電流Ib2または電流Id2が流れるようになっている。そして、詳細は後述するが、後述するインバータ回路11を用いた動作の際およびインバータ回路12を用いた動作の際のいずれにおいても、単位動作周期内において、これら複数の2次側巻線32A〜32Dのうちの全ての2次側巻線に対して起電流が流れるようになっている。
更に、上記したような電流Ia1〜Id1により形成される磁束によって、4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4および2つのベースコアUCb,DCbの内部には、図3および図4に示したような磁路(環状磁路)が形成されるようになっている。図3は、プリントコイル310を流れる電流Ia1,Ib1によって形成される磁路(図1に示した環状磁路B1に対応)を、図4は、プリントコイル320を流れる電流Ic1,Id1によって形成される磁路(図1に示した環状磁路B2に対応)を、それぞれ表している。なお、図3において、環状磁路B12a,B23a,B34a,B41aはそれぞれ、電流Ia1によって形成される環状磁路を、環状磁路B12b,B23b,B34b,B41bはそれぞれ、電流Ib1によって形成される環状磁路を、それぞれ示している。また、図4において、環状磁路B12c,B23c,B34c,B41cはそれぞれ、電流Ic1によって形成される環状磁路を、環状磁路B12d,B23d,B34d,B41dはそれぞれ、電流Id1によって形成される環状磁路を、それぞれ示している。
具体的には、プリントコイル310では、図3に示したように、第1脚部UC1,DC1および第2脚部UC2,DC2同士内を互いに貫通する環状磁路B12a,B12bと、第2脚部UC2,DC2および第3脚部UC3,DC3同士内を互いに貫通する環状磁路B23a,B23bと、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4同士内を互いに貫通する環状磁路B34a,B34bと、第4脚部UC4,DC4および第1脚部UC1,DC1同士内を互いに貫通する環状磁路B41a,B41bと、からなる4つの環状磁路が形成される。ここで、第1脚部UC1,DC1では、環状磁路B12a,B12bと環状磁路B41a,B41bとが共有化され、第2脚部UC2,DC2では、環状磁路B12a,B12bと環状磁路B23a,B23bとが共有化され、第3脚部UC3,DC3では、環状磁路B23a,B23bと環状磁路B34a,B34bとが共有化され、第4脚部UC4,DC4では、環状磁路B34a,B34bと環状磁路B41a,B41bとが共有化されている。そして、これらの4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4ではそれぞれ、電流Ia1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いていると共に、電流Ib1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いている。具体的には、第1脚部UC1,DC1では、環状磁路B41a,B12a同士が同じ方向を向くと共に環状磁路B41b,B12b同士が同じ方向を向いている。第2脚部UC2,DC2では、環状磁路B12a,B23a同士が同じ方向を向くと共に環状磁路B12b,B23b同士が同じ方向を向いている。第3脚部UC3,DC3では、環状磁路B23a,B34a同士が同じ方向を向くと共に環状磁路B23b,B34b同士が同じ方向を向いている。第4脚部UC4,DC4では、環状磁路B34a,B41a同士が同じ方向を向くと共に環状磁路B34b,B41b同士が同じ方向を向いている。これにより、図3に示したように、プリントコイル310を流れる電流Ia1,Ib1によって、4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4のうちの互いに隣り合った2つの脚部と2つのベースコアUCb,DCbとをそれぞれ一方方向に通る磁路が4つ形成されるようになっている。
一方、プリントコイル320においても、原理的には図4(A)に示したように、プリントコイル310と同様の4つの環状磁路が形成される。具体的には、第1脚部UC1,DC1および第2脚部UC2,DC2同士内を互いに貫通する環状磁路B12c,B12dと、第2脚部UC2,DC2および第3脚部UC3,DC3同士内を互いに貫通する環状磁路B23c,B23dと、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4同士内を互いに貫通する環状磁路B34c,B34dと、第4脚部UC4,DC4および第1脚部UC1,DC1同士内を互いに貫通する環状磁路B41c,B41dと、からなる4つの環状磁路が形成される。ただし、プリントコイル320ではプリントコイル310とは異なり、第2脚部UC2,DC2では、環状磁路B12c,B23c同士が互いに逆方向を向くと共に、環状磁路B12d,B23d同士も互いに逆方向を向いている。同様に、第4脚部UC4,DC4においても、環状磁路B34c,B41c同士が互いに逆方向を向くと共に、環状磁路B34d,B41d同士も互いに逆方向を向いている。なお、他の脚部UC1,DC1および脚部UC3,DC3ではそれぞれ、プリントコイル310の場合と同様に、電流Ic1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いていると共に、電流Id1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いている。これにより、プリントコイル320では、実際には図4(B)に示したように、対向方向に位置する第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3同士内を互いに貫通する環状磁路B13c,B13dが形成されるようになっている。これは、第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4ではそれぞれ、互いに逆方向を向いている環状磁路を構成する磁束同士が互いに打ち消し合うからである。
ここで、入力端子T1,T2が本発明における「入力端子対」の一具体例に対応し、出力端子T3,T4が本発明における「出力端子対」の一具体例に対応する。インバータ回路11が本発明における「第1のインバータ回路」の一具体例に対応し、インバータ回路12が本発明における「第2のインバータ回路」の一具体例に対応する。整流ダイオード41〜44が、本発明における「複数の整流素子」の一具体例に対応する。1次側巻線311A〜311Dが本発明における「第1の1次側巻線」の一具体例に対応し、1次側巻線312A,312Cが本発明における「第2の1次側巻線」の一具体例に対応し、2次側巻線32A〜32Dが本発明における「複数の2次側巻線」の一具体例に対応する。プリントコイル310が本発明における「第1の導電部材」の一具体例に対応し、プリントコイル320が本発明における「第2の導電部材」の一具体例に対応し、2次側巻線32A〜32Dを個別に構成する4枚の板金が、本発明における「第3の導電部材」の一具体例に対応する。ベースコアUCb,DCbが本発明における「2つの基体部」の一具体例に対応し、第1脚部UC1,DC1、第2脚部UC2,DC2、第3脚部UDC3,DC3および第4脚部UC4,DC4が、本発明における「4つの脚部」の一具体例に対応する。
続いて、本実施の形態のスイッチング電源装置の作用および効果について説明する。
(スイッチング電源装置の基本動作)
最初に、図5〜図8を参照して、スイッチング電源装置の基本動作について説明する。
このスイッチング電源装置では、インバータ回路11またはインバータ回路12において、入力端子T1,T2から供給される直流入力電圧Vinがスイッチングされて交流電圧が生成され、この交流電圧がトランス3の1次側巻線311A〜311Dまたは1次側巻線312A,312Cへ供給される。そしてトランス3ではこの交流電圧が変圧され、2次側巻線32A〜32Dから、変圧された交流電圧が出力される。
次に、整流回路4では、この変圧された交流電圧が整流ダイオード41〜44によって整流される。これにより、出力ラインLO上のセンタタップCと接地ラインLGとの間に、整流出力が発生する。この整流出力は平滑回路5において平滑化され、出力端子T3,T4から直流出力電圧Voutとして出力される。そしてこの直流出力電圧Voutは、図示しない低圧バッテリに給電されてその充電に供されると共に、負荷Lが駆動される。
ここで、このスイッチング電源装置には、インバータ回路11を用いて上記動作を行う動作モード(第1の動作モード)と、インバータ回路12を用いて上記動作を行う動作モード(第2の動作モード)とが存在する。また、インバータ回路11(第1の動作モード)では、単位動作周期内に、スイッチング素子S1,S4がオン状態になる期間と、スイッチング素子S2,S3がオン状態になる期間とが設けられており、これら2つの期間が交互に繰り返されるようになっている。同様に、インバータ回路12(第2の動作モード)においても、スイッチング素子S3,S6がオン状態になる期間と、スイッチング素子S4,S5がオン状態になる期間とが設けられており、これら2つの期間が交互に繰り返されるようになっている。したがって、このスイッチング電源装置の動作を、動作モード別により詳細に説明すると、以下のようになる。
(インバータ回路11を用いた動作モード)
まず、図5に示したように、インバータ回路11のスイッチング素子S2,S3がそれぞれオフ状態になると共に、スイッチング素子S1,S4がそれぞれオン状態になると、トランス3の1次側には、高圧バッテリ10から、スイッチング素子S1、共振用インダクタLr1、1次側巻線311A〜311Dおよびスイッチング素子S4を順に流れる電流(1次側ループ電流)Ia1が流れる。すると、トランス3では図中に示したように、この電流Ia1により、図3で説明した環状磁路B12a,B23a,B34a,B41aからなる環状磁路B1が形成される。また、これによりトランス3の2次側巻線32A〜32Dにそれぞれ発生する電圧は、整流ダイオード43,44に対して逆方向となる一方、整流ダイオード41,42に対して順方向となる。このため、トランス3の2次側には、整流ダイオード41,42から2次側巻線32A,32B、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る電流(2次側ループ電流)Ia2が流れる。そしてこの電流Ia2により、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷Lが駆動される。
一方、図6に示したように、インバータ回路11のスイッチング素子S1,S4がそれぞれオフ状態になると共に、スイッチング素子S2,S3がそれぞれオン状態になると、トランス3の1次側には、高圧バッテリ10から、スイッチング素子S3、1次側巻線311D〜311A、共振用インダクタLr1およびスイッチング素子S2を順に流れる電流(1次側ループ電流)Ib1が流れる。すると、トランス3では図中に示したように、この電流Ib1により、図3で説明した環状磁路B12b,B23b,B34b,B41bからなる環状磁路B1が形成される。また、これによりトランス3の2次側巻線32A〜32Dにそれぞれ発生する電圧は、整流ダイオード41,42に対して逆方向となる一方、整流ダイオード43,44に対して順方向となる。このため、トランス3の2次側には、整流ダイオード43,44から2次側巻線32C,32D、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る電流(2次側ループ電流)Ib2が流れる。そしてこの電流Ib2により、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷Lが駆動される。なお、図5および図6に示したインバータ回路11を用いた動作モード時には、インバータ回路12のみに属するスイッチング素子S5,S6はそれぞれ、常にオフ状態となっている。
また、この第1の動作モードでは、ここでは、1次側巻線311A〜311D全体の巻数が12ターン(3ターン×4)であり、2次側巻線32A〜32Dの個々の巻数がそれぞれ1ターンであるため、1次側巻線と2次側巻線との巻数比が12:1となる。したがって、この第1の動作モードでは、1次側巻線311A〜311D全体の両端間の電圧と、2次側巻線32A〜32Dの個々の巻線の両端間の電圧との比も、12:1となる。
(インバータ回路12を用いた動作モード)
まず、図7に示したように、インバータ回路12のスイッチング素子S4,S5がそれぞれオフ状態になると共に、スイッチング素子S3,S6がそれぞれオン状態になると、トランス3の1次側には、高圧バッテリ10から、スイッチング素子S3、共振用インダクタLr2、1次側巻線312A,312Cおよびスイッチング素子S6を順に流れる電流(1次側ループ電流)Ic1が流れる。すると、トランス3では図中に示したように、この電流Ic1により、図4(B)で説明した環状磁路B13cからなる環状磁路B2が形成される。また、これによりトランス3の2次側巻線32A〜32Dにそれぞれ発生する電圧は、整流ダイオード41,44に対して逆方向となる一方、整流ダイオード42,43に対して順方向となる。このため、トランス3の2次側には、整流ダイオード42,43から2次側巻線32B,32C、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る電流(2次側ループ電流)Ic2が流れる。そしてこの電流Ic2により、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷Lが駆動される。
一方、図8に示したように、インバータ回路12のスイッチング素子S3,S6がそれぞれオフ状態になると共に、スイッチング素子S4,S5がそれぞれオン状態になると、トランス3の1次側には、高圧バッテリ10から、スイッチング素子S5、1次側巻線312C,312A、共振用インダクタLr2およびスイッチング素子S4を順に流れる電流(1次側ループ電流)Id1が流れる。すると、トランス3では図中に示したように、この電流Id1により、図4(B)で説明した環状磁路B13dからなる環状磁路B2が形成される。また、これによりトランス3の2次側巻線32A〜32Dにそれぞれ発生する電圧は、整流ダイオード42,43に対して逆方向となる一方、整流ダイオード41,44に対して順方向となる。このため、トランス3の2次側には、整流ダイオード41,44から2次側巻線32A,32D、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る電流(2次側ループ電流)Id2が流れる。そしてこの電流Id2により、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷Lが駆動される。なお、図7および図8に示したインバータ回路12を用いた動作モード時には、インバータ回路11のみに属するスイッチング素子S1,S2はそれぞれ、常にオフ状態となっている。
また、この第2の動作モードでは、ここでは、1次側巻線312A,312C全体の巻数が6ターン(3ターン×2)であり、2次側巻線32A〜32Dの個々の巻数がそれぞれ1ターンであるため、上記第1の動作モードとは異なり、1次側巻線と2次側巻線との巻数比が6:1となる。したがって、この第2の動作モードでは、1次側巻線312A〜312C全体の両端間の電圧と、2次側巻線32A〜32Dの個々の巻線の両端間の電圧との比も、上記第1の動作モードとは異なり、6:1となる。
(特徴的部分の作用)
次に、図1〜図8に加えて図9〜図12を参照して、本実施の形態のスイッチング電源装置における特徴的部分の作用について、比較例と比較しつつ詳細に説明する。図9は、比較例に係るスイッチング電源装置100の模式構成を回路図で表したものである。なお、本実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
(比較例の構成・作用)
まず、図9に示した比較例のスイッチング電源装置100は、本実施の形態のスイッチング電源装置におけるインバータ回路11,12の代わりにインバータ回路101を、トランス3の代わりにトランス103を、整流回路4および平滑回路5の代わりに整流平滑回路105を、制御回路6の代わりに制御回路106を備えている。
インバータ回路101は、6つのスイッチング素子S101〜S106からなる2つのフルブリッジ型のインバータ回路により構成されており、スイッチング素子S103,S104は互いに共有されている。
制御回路106は、インバータ回路101内のスイッチング素子S101〜S106に対してそれぞれ制御信号を供給し、これらスイッチング素子S101〜S106を個別にオン・オフ制御(PWM制御)するためのものである。
トランス103は、中足コイル(中足巻線)7A−1〜7A−3が巻回された中足部と、この中足部を共有しつつ中足部と共にループ磁路をそれぞれ構成する2つの外足部とを含んで構成された磁芯104を備えている。一方の外足部には、外足コイル(外足巻線)7B−11,7B−21,7B−31が巻回され、他方の外足部には、外足コイル(外足巻線)7B−12,7B−22,7B−32が巻回されている。外足巻線7B−11,7B−12により外足巻線7B−1が構成され、外足巻線7B−21,7B−22により外足巻線7B−2が構成され、外足巻線7B−31,7B−32により外足巻線7B−3が構成されている。また、これらの巻線のうち、中足巻線7A−1および外足巻線7B−1はそれぞれ、中足部および外足部に対応する1次巻線を構成し、中足巻線7A−2,7A−2および外足巻線7B−2,7B−3はそれぞれ、中足部および外足部に対応する2次巻線を構成している。そして、外足巻線7B−1〜7B−3は、これらの外足巻線7B−1〜7B−3を流れる電流によって2つの外足部にそれぞれ生ずる磁束が中足部において互いに相殺し合うような態様で、外足部に巻回されている。
整流平滑回路105は、中足部の2次側巻線としての中足巻線7A−2,7A−3に個別に接続された整流ダイオードD2A,D1Aと、外足部の2次側巻線としての外足巻線7B−21,7B−32に個別に接続された整流ダイオードD2B,D1Bと、チョークコイル52と、出力平滑コンデンサ52とを有している。
この比較例のスイッチング電源装置101では、外足巻線7B−1を流れる電流によって2つの外足部にそれぞれ生ずる磁束は中足部において互いに相殺されるため、この外足巻線7B−1から中足巻線7A−2,7A−3に電圧が誘起されることは実質的にない。一方、中足巻線7A−1を流れる電流によって2つの外足部にそれぞれ磁束が生ずるが、それらの磁束によって発生する電圧同士は、2つの外足部において互いに打ち消し合う。すなわち、中足巻線から発生した磁束と外足巻線から発生した磁束とは、互いに他方の巻線が巻回された磁脚で磁束が打ち消しあう、もしくは巻線の電圧が打ち消し合うようになっている。これより、このトランス103では、中足巻線7A−1〜7A−3および外足巻線7B−1〜7B−3はそれぞれ、共通の磁芯104に巻回されているにもかかわらず、互いに影響を及ぼし合うおそれはない。よって、部品点数や占有面積の増加を抑制(低コスト化や小型化)しつつ、複数の動作モード(中足部に接続されたインバータ回路を用いた動作モードと、外足部に接続されたインバータ回路を用いた動作モードとの2つの動作モード)の実現を可能としている。
ところが、この比較例のトランス103では、個々の動作モードのそれぞれについて、単位動作周期内に、一部の2次側巻線(一部の整流ダイオード)に対してのみ起電流が流れるようになっている。具体的には、例えば上記した中足部に接続されたインバータ回路を用いた動作モード時には、この中足部に対応する整流ダイオードD1A,D1Bのみが動作し、外足部に対応する整流ダイオードD2A,D2Bは動作しない。一方、逆に上記した外足部に接続されたインバータ回路を用いた動作モード時には、この外足部に対応する整流ダイオードD2A,D2Bのみが動作し、中足部に対応する整流ダイオードD1A,D1Bは動作しない。したがって、この比較例では、整流ダイオードの利用効率が低くなってしまうため、スイッチング電源装置100全体としての効率も十分には高めることができないことになる。
(本実施の形態の作用)
一方、本実施の形態のスイッチング電源装置では、図5および図6に示したインバータ回路11を用いた動作モード時(第1の動作モード時)には、図10に示したように、プリントコイル320において、以下のようにして1次側巻線312A,312C全体として起電圧が生じないようになっている。具体的には、まず、プリントコイル310における1次側巻線311A〜311Dを流れる電流Ia1,Ib1により形成される環状磁路B1を構成する磁束によって、プリントコイル320における1次側巻線312A,312Cで発生する2つの起電圧(図中の2つの起電流IcA,IcCまたは2つの起電流IdA,IdCに対応)同士が互いに逆方向で打ち消し合う。また、プリントコイル310における貫通孔320B,320Dには巻線が巻回されていないため、これらの部分には起電圧(起電流)が発生しない。したがって、この第1の動作モード時には、プリントコイル320(1次側巻線312A,312C)全体としては起電圧が発生しないことになる。
また、図7および図8に示したインバータ回路12を用いた動作モード時(第2の動作モード時)には、図11に示したように、プリントコイル310において、以下のようにして1次側巻線311A〜311D全体として起電圧が生じないようになっている。具体的には、まず、プリントコイル320における1次側巻線312A,312Cを流れる電流Ic1,Id1により形成される環状磁路B2を構成する磁束によって、プリントコイル310における1次側巻線311A,311Cで発生する2つの起電圧(図中の2つの起電流IaA,IaCまたは2つの起電流IbA,IbCに対応)同士が互いに逆方向で打ち消し合う。また、プリントコイル310における貫通孔310B,310Dには磁束が貫通していないため、1次側巻線311B,311Dには起電圧(起電流)が発生しない。したがって、この第2の動作モード時には、プリントコイル310(1次側巻線311A〜311D)全体としては起電圧が発生しないことになる。
すなわち、一方の1次側巻線を用いた動作モード時に、他方の1次側巻線に対して影響を及ぼすことはない。これにより、本実施の形態のトランス3においても、上記比較例のトランス103と同様に、磁芯30を共有化しつつ、1次側巻線311A〜311Dの動作と1次側巻線312A,312Cの動作とが互いに独立したものとなる。
また、本実施の形態のスイッチング電源装置では、上記比較例のスイッチング電源装置100とは異なり、以下の利点も有している。
すなわち、まず、図5,図6,図10に示した第1の動作モード時には、プリントコイル310における1次側巻線311A〜311Dを流れる電流Ia1,Ib1により形成される環状磁路B1を構成する磁束によって、上記比較例とは異なり、単位動作周期内において、4つの2次側巻線32A〜32Dのうちの全ての2次側巻線に対して起電流が流れる。具体的には、単位動作周期のうちの図5に示した期間では、2つの2次側巻線32A,32Bおよびそれらに接続された2つの整流ダイオード41,42に対してそれぞれ起電流(電流Ia2)が流れる。一方、単位動作周期のうちの図6に示した期間では、2つの2次側巻線32C,32Dおよびそれらに接続された2つの整流ダイオード43,44に対してそれぞれ起電流(電流Ib2)が流れる。
また、図7,図8,図11に示した第2の動作モード時においても、プリントコイル320における1次側巻線312A,312Cを流れる電流Ic1,Id1により形成される環状磁路B2を構成する磁束によって、上記比較例とは異なり、単位動作周期内において、4つの2次側巻線32A〜32Dのうちの全ての2次側巻線に対して起電流が流れる。具体的には、単位動作周期のうちの図7に示した期間では、2つの2次側巻線32B,32Cおよびそれらに接続された2つの整流ダイオード42,43に対してそれぞれ起電流(電流Ic2)が流れる。一方、単位動作周期のうちの図8に示した期間では、2つの2次側巻線32A,32Dおよびそれらに接続された2つの整流ダイオード41,44に対してそれぞれ起電流(電流Id2)が流れる。
すなわち、第1および第2の動作モードのいずれにおいても、1次側巻線を流れる電流による生ずる磁束によって、単位動作周期内において全ての2次側巻線(つまり、4つの整流ダイオード41〜44のうちの全ての整流ダイオード)に対して起電流が流れるようになる。言い換えると、1次側巻線311A〜311Dおよび1次側巻線312A,312Cのどちらからでも、全ての2次側巻線(全ての整流ダイオード)を共通して利用できるようになる。これにより、本実施の形態では上記比較例と比べ、個々の整流ダイオードの動作点が下がって電力損失が低減する。つまり、複数の動作モードを実現した際の整流ダイオードの利用効率が向上する。
具体的には、例えば図12に示したように、整流回路4内の4つの整流ダイオード41〜44のうち、1つの動作モードの単位動作周期内で2つの整流ダイオードのみしか動作しない場合(比較例に対応)、各整流ダイオードの動作点は図中の動作点P1となる。したがって、この場合には、整流回路4全体に流れる電流を100Aとすると、それぞれの整流ダイオード(例えば、図9中の整流ダイオードD1A,D2A)に流れる電流の時比率が0.5であることから、このときの整流回路4全体としての整流ダイオードでの電力損失P(P1)は、以下の(1)式に示したようになる。一方、1つの動作モードの単位動作周期内で4つの整流ダイオード41〜44の全てが動作する場合(本実施の形態に対応)、各整流ダイオード41〜44の動作点は図中の動作点P2となる。すなわち、上記した動作点P1と比べ、個々の整流ダイオードの動作点が下がることになる。したがって、この場合には、整流回路4全体に流れる電流を同様に100Aとすると、それぞれの整流ダイオードに流れる電流の時比率が0.5であることから、このときの整流回路4全体としての整流ダイオード41〜44での電力損失P(P2)は、以下の(2)式に示したようになる。このようにして、(1)式および(2)式の結果を比べると、本実施の形態では上記比較例と比べ、実際に個々の整流ダイオード41〜44の動作点が下がって電力損失が低減することにより、整流ダイオード41〜44の利用効率が向上することが分かる。
P(P1)=(0.7V×100A×0.5)×2個=70W ……(1)
P(P2)=(0.6V×50A×0.5)×4個=60W ……(2)
以上のように本実施の形態では、インバータ回路11を用いた第1の動作モード時には、1次側巻線311A〜311Dを流れる電流Ia1,Ib1により形成される環状磁路B1を構成する磁束によって、1次側巻線312A,312Cで発生する2つの起電圧同士が互いに逆方向で打ち消し合うことにより、1次側巻線312A,312C全体としては起電圧が発生しないと共に、インバータ回路12を用いた第2の動作モード時には、1次側巻線312A,312Cを流れる電流Ic1,Id1により形成される環状磁路B2を構成する磁束によって、1次側巻線311A〜311Dで発生する2つの起電圧同士が互いに逆方向で打ち消し合うことにより、1次側巻線311A〜311D全体としては起電圧が発生しないように、1次側巻線311A〜311D,312A,312Cを巻回するようにしたので、一方の1次側巻線を用いた動作モード時に他方の1次側巻線に対して影響を及ぼすことはないため、磁芯30を共有化しつつ、1次側巻線311A〜311Dの動作と1次側巻線312A,312Cの動作とを互いに独立したものとすることができる。また、上記第1および第2の動作モードのいずれにおいても、1次側巻線を流れる電流による生ずる磁束によって、単位動作周期内において全ての2次側巻線32A〜32D(全ての整流ダイオード41〜44)に対して起電流が流れるようにしたので、複数の動作モードを実現した際の整流ダイオードの利用効率を向上させることができる。よって、高効率化を図りつつ、部品点数や占有面積の増加の抑制(低コスト化や小型化)と複数の動作モードの実現とを両立させることが可能となる。
また、第1の動作モードと第2の動作モードとの間で、1次側巻線と2次側巻線との巻数比を異ならせることにより、第1の動作モードでは直流入力電圧Vinと直流出力電圧Voutとの電圧比が12:1となると共に、第2の動作モードでは直流入力電圧Vinと直流出力電圧Voutとの電圧比が6:1となるようにしたので、動作モードの違いによって電圧変換比を変化させることができる。よって、電圧変換比を動作モード間で同一とした場合と比べ、入力電圧範囲または出力電圧範囲を広くすることが可能となる。
更に、2つのインバータ回路11,12同士が、入力端子T1,T2に対して互いに並列接続されると共に一部のスイッチング素子を共有しているようにしたので、インバータ回路全体として使用するスイッチング素子の個数が減少し、更に低コスト化や小型化を図ることが可能となる。
加えて、図2等に示した4つの脚部UC1〜UC4(DC1〜DC4)を有する磁芯30を用いてトランス3を構成するようにしたので、U型コアを用いた場合と比べ、磁芯30における磁束密度を低下させてコア損失を低減することができるため、コア厚(基体部の厚み)を薄くして低背化を図ることができる。また、E型コアを用いた場合と比べて放熱経路が拡大するため、磁芯30、1次側巻線311A〜311D,312A,312Cおよび2次側巻線32A〜32Dの冷却がし易くなる。よって、信頼性を向上させつつコスト低減を図ることが可能となる。
また、1次側巻線311A〜311D,312A,312Cおよび2次側巻線32A〜32Dがそれぞれ、配線(接続ラインL21,L22、接続ラインL31,L32、出力ラインLOまたは接地ラインLG)を介して、プリントコイル310,320および4枚の板金の面内方向に沿って外部から取り出しが可能なように構成したので、このような配線をプリントコイル310,320および4枚の板金の面内に垂直な方向から取り出す場合と比べ、配線も含めた低背化を実現することができると共に、配線の取り出し構造が簡易となる。
[変形例]
続いて、本発明の変形例(変形例1,2)について説明する。なお、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
図13は、変形例1に係るスイッチング電源装置におけるトランス(トランス3A)の主要部の外観構成を分解斜視図で表したものである。本変形例のトランス3Aは、上記実施の形態のトランス3において、プリントコイル320の代わりにプリントコイル320−1を設けると共に、2次側巻線32E〜32Hを個別に構成する4つの板金を更に設けるようにしたものである。なお、これらのプリントコイル320−1および4枚の板金はそれぞれ、上記実施の形態と同様に、例えば銅やアルミニウムなどの導電性材料により構成されている。
プリントコイル320−1には、プリントコイル320と同様に、各脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4が個別に貫通する4つの貫通孔320A〜320Dが設けられている。このプリントコイル320−1では、接続ラインL31側から接続ラインL32側へ向けて、プリントコイル320と同様にして1次側巻線312Aおよび312C互いに直列接続されている。
ここで、プリントコイル320−1では、プリントコイル320とは異なり、一対の接続ラインL31,L32上の途中の接続点からそれぞれ並列に分岐された一対の接続ラインL41,L42間に、更に1次側巻線312B,312Dが接続されている。具体的には、接続ラインL41側から接続ラインL42側へ向けて、第4脚部UC4,DC4(貫通孔320D)を巻回する1次側巻線312Dの一部分と、第2脚部UC2,DC2(貫通孔320B)を巻回する1次側巻線312Bと、上記した1次側巻線312Dの残りの部分とが、この順に互いに直列接続されている。すなわち、このプリントコイル320−1では、1次側巻線312B,312Dが、第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4に対して選択的に巻回されている。また、上部コアUC側からプリントコイル320−1を見た場合に、1次側巻線312Dは、右回りに3ターン分(3周分)巻回される一方、1次側巻線312Bは、左回りに3ターン分(3周分)巻回されている。すなわち、対角線方向に位置する1次側巻線312B,312D同士で互いに逆方向に巻回されている。
2次側巻線32E,32Fを構成する2枚の板金はそれぞれ、プリントコイル320−1と上部コアUCとの間に配置されている。2次側巻線32Eを構成する板金には、第2脚部UC2,DC2が貫通する1つの貫通孔が設けられ、2次側巻線32Fを構成する板金には、第4脚部UC4,DC4が貫通する1つの貫通孔が設けられている。一方、2次側巻線32G,32Hを構成する2枚の板金はそれぞれ、プリントコイル310と下部コアDCとの間に配置されている。2次側巻線32Gを構成する板金には、第2脚部UC2,DC2が貫通する1つの貫通孔が設けられ、2次側巻線32Hを構成する板金には、第4脚部UC4,DC4が貫通する1つの貫通孔が設けられている。なお、これらの2次側巻線32E〜32Hはそれぞれ、上記した貫通孔に1ターン分(1周分)巻回されるようになっている。また、2次側巻線32E〜32Hを構成する板金にはそれぞれ、図中に示したように、整流ダイオード45〜48が個別に接続されている。すなわち、本変形例のスイッチング電源装置では、4つの整流ダイオード41〜44を用いて構成された上記実施の形態の整流回路4の代わりに、8つの整流ダイオード41〜48を用いて構成された整流回路(センタタップ型のアノードコモン接続のもの)が設けられている。
なお、本変形例のトランス3Aにおいても、1次側巻線311A〜311D,312A〜312Dおよび2次側巻線32A〜32Hがそれぞれ、配線(接続ラインL21,L22、接続ラインL31,L32、接続ラインL41,L42、出力ラインLOまたは接地ラインLG)を介して、プリントコイル310,320−1および8枚の板金の面内方向に沿って外部から取り出しが可能なように構成されている。
このような構成によりトランス3Aでは、プリントコイル310において、トランス3と同様に、インバータ回路11を用いた動作(第1の動作モード)の際に、図13中に示した向きに1次側巻線311A〜311Dを流れる1次側の電流Ia1,Ib1によってそれぞれ、4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4内の貫通方向に磁束が形成されるようになっている。
一方、プリントコイル320−1では、インバータ回路12を用いた動作(第2の動作モード)の際に、図13中に示した向きに1次側巻線312A,312Cを流れる1次側の電流Ic1,Id1によってそれぞれ、トランス3と同様に、2つの脚部UC1,UC3,DC1,DC3内の貫通方向に磁束が形成されるようになっている。ただし、このプリントコイル320−1では、接続ラインL31,L32から接続ラインL41,L42に分岐して図中に示した向きに流れる電流Ic1,Id1(接続ラインL31,L32に流れているものと区別して考えるため、便宜上、それぞれ、電流Ie1,If1とする。)によっても、磁束が形成されるようになっている。すなわち、1次側巻線312B,312Dを流れる1次側の電流Ie1,If1によってそれぞれ、2つの脚部UC2,UC4,DC2,DC4内の貫通方向に磁束が形成されるようになっている。
なお、図13中の貫通孔310A〜310D,320A〜320D等内に示した磁束の向きを表す矢印は、上記実施の形態と同様に、1本線の実線のものが、電流Ia1が流れるときに形成されるものに、1本線の破線のものが、電流Ib1が流れるときに形成されるものに、2本線の実線のものが、電流Ic1が流れるときに形成されるものに、2本線の破線のものが、電流Id1が流れるときに形成されるものに、それぞれ対応している。また、それらに加えてここでは、3本線の実線のものが、電流Ie1が流れるときに形成されるものに、3本線の破線のものが、電流If1が流れるときに形成されるものに、それぞれ対応している。
ここで、このような4つの脚部UC1〜UC4,DC1〜DC4内に形成される磁束の向きは、プリントコイル310では、トランス3と同様になっている。一方、プリントコイル320−1では、プリントコイル320と同様に、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3からなる第1の脚部対内で互いに逆方向となっていると共に、それに加えて、第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4からなる第2の脚部対内においても互いに逆方向となっている。言い換えると、第1脚部UC1,DC1および第2脚部UC2,DC2の内部に生ずる磁束がそれぞれ第3の方向を向くと共に、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4の内部に生ずる磁束がそれぞれ、この第3の方向とは逆の第4の方向を向くようになっている。
また、2次側巻線32A〜32Dを構成する4枚の板金ではそれぞれ、電流Ia1〜Id1により形成される4種類の磁束に基づいて、上記実施の形態と同様に図13中に示したような2次側の電流Ia2〜Id2が流れるようになっている。また、2次側巻線32E〜32Hを構成する4枚の板金においてもそれぞれ、電流Ia1,Ib1,Ie1,If1により形成される4種類の磁束に基づいて起電流(起電力)が発生し、整流ダイオード45〜48の向きとの関係で、図13中に示したような2次側の電流Ia2,Ib2,Ie2(Ic2),If2(Id2)が流れるようになっている。具体的には、2次側巻線32Eを構成する板金からは電流Ib2または電流If2が流れ、2次側巻線32Fを構成する板金からは電流Ib2または電流Ie2が流れ、2次側巻線32Gを構成する板金からは電流Ia2または電流Ie2が流れ、2次側巻線32Hを構成する板金からは電流Ia2または電流If2が流れるようになっている。
更に、このトランス3Aにおいても、プリントコイル310を流れる電流Ia1,Ib1によって、図3に示したトランス3の場合と同様に、環状磁路B12a,B23a,B34a,B41a,B12b,B23b,B34b,B41bが形成されるようになっている。また、プリントコイル320−1を流れる電流Ic1,Id1によって、図4(B)に示したトランス3の場合と同様に、環状磁路B13c,B13dが形成されるようになっている。
一方、本変形例のトランス3Aでは、プリントコイル320−1を流れる電流Ie1,If1によっても、図4(A),(B)に示した電流Ic1,Id1の場合と同様にして環状磁路(第3の磁路)が形成されるようになっている。すなわち、これらの電流Ie1,If1によって、原理的には図14(A)に示したような4つの環状磁路が形成される。具体的には、第1脚部UC1,DC1および第2脚部UC2,DC2同士内を互いに貫通する環状磁路B12e,B12fと、第2脚部UC2,DC2および第3脚部UC3,DC3同士内を互いに貫通する環状磁路B23e,B23fと、第3脚部UC3,DC3および第4脚部UC4,DC4同士内を互いに貫通する環状磁路B34e,B34fと、第4脚部UC4,DC4および第1脚部UC1,DC1同士内を互いに貫通する環状磁路B41e,B41fと、からなる4つの環状磁路が形成される。ただし、プリントコイル320−1では、第1脚部UC1,DC1において、環状磁路B41e,B12e同士が互いに逆方向を向くと共に、環状磁路B41f,B12f同士も互いに逆方向を向いている。同様に、第3脚部UC3,DC3においても、環状磁路B23e,B34e同士が互いに逆方向を向くと共に、環状磁路B23f,B34f同士も互いに逆方向を向いている。なお、他の脚部UC2,DC2および脚部UC4,DC4ではそれぞれ、プリントコイル310の場合と同様に、電流Ie1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いていると共に、電流If1によって形成される環状磁路同士が互いに同じ方向を向いている。これにより、プリントコイル320−1を流れる電流Ie1,If1によって、実際には図14(B)に示したように、対向方向に位置する第2脚部UC2,DC2および第4脚部UC4,DC4同士内を互いに貫通する環状磁路B24e,B24fが形成されるようになっている。これは、第1脚部UC1,DC1および第3脚部UC3,DC3ではそれぞれ、互いに逆方向を向いている環状磁路を構成する磁束同士が互いに打ち消し合うからである。
このような構成により本変形例においても、上記実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることができる。すなわち、高効率化を図りつつ、部品点数や占有面積の増加の抑制(低コスト化や小型化)と複数の動作モードの実現とを両立させることが可能となる。
また、特に本変形例では、一対の接続ラインL31,L32上の途中の接続点からそれぞれ並列に分岐された一対の接続ラインL41,L42間に、1次側巻線312B,312Dを更に接続するようにしたので、第2の動作モード時に使用する1次側巻線の個数を増加させることができ、流れる電流を増強することが可能となる。
(変形例2)
図15は、変形例2に係るスイッチング電源装置におけるインバータ回路(インバータ回路11〜13)の回路構成を、本変形例に係る制御回路(制御回路6B)と共に表したものである。本変形例のスイッチング電源装置は、上記実施の形態および変形例1のスイッチング電源装置とは異なり、8つのスイッチング素子S1〜S8により構成される3つのインバータ回路11〜13を備えている。これらのインバータ回路11〜13は、入力端子T1,T2に対して互いに並列接続されている。スイッチング素子S1〜S8としては、上記実施の形態と同様に、MOS−FETやIGBTなどのスイッチ素子が用いられる。また、本変形例のスイッチング電源装置は、上記変形例1で説明したトランス3Aを備えたものとなっている。なお、図中に示したインバータ回路11〜13のうち、インバータ回路11,12についてはこれまで説明したものと同様であるため、説明を省略する。
インバータ回路13は、上記した8つのスイッチング素子S1〜S8のうちの4つのスイッチング素子S5〜S8により構成されたフルブリッジ型の回路構成となっている。すなわち、2つのスイッチング素子S5,S6はそれぞれ、インバータ回路12,13の双方に属しており、言い換えると、インバータ回路12,13同士が、これらのスイッチング素子S5,S6(一部のスイッチング素子)を共有するようになっている。このインバータ回路13では、スイッチング素子S5,S6の一端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S7,S8の一端同士が互いに接続され、これらの一端同士は、接続ラインL41(共振用インダクタLr3)、トランス3Aの1次側巻線312B,312Dおよび接続ラインL42を介して、互いに接続されている。スイッチング素子S5,S7の他端同士は、1次側高圧ラインL1H上で互いに接続され、スイッチング素子S6,S8の他端同士は、1次側低圧ラインL1L上で互いに接続されている。このような構成により、インバータ回路13は、図中に示した制御回路6Bから供給される制御信号SG1〜SG8のうちの制御信号SG5〜SG8に従って、直流入力電圧Vinを交流電圧に変換して出力するようになっている。
ここで、本変形例のスイッチング電源装置には、上記実施の形態で説明した、インバータ回路11を用いた動作モード(第1の動作モード)およびインバータ回路12を用いた動作モード(第2の動作モード)に加え、インバータ回路13を用いた動作モード(第3の動作モード)が存在する。また、この第3の動作モードでは、第1および第2の動作モードと同様に、単位動作周期内に、スイッチング素子S5,S8がオン状態になる期間と、スイッチング素子S6,S7がオン状態になる期間とが設けられており、これら2つの期間が交互に繰り返されるようになっている。
このスイッチング電源装置では、前述の図13を用いて説明すると、第1の動作モード時には、1次側巻線311A〜311Dを流れる電流Ia1,Ib1により生ずる磁束によって、単位動作周期内において、8つの2次側巻線32A〜32Hのうちの全ての2次側巻線に対して起電流(電流Ia2,Ib2)が流れる。一方、第2の動作モード時には、1次側巻線312A,312Cを流れる電流Ic1,Id1により生ずる磁束によって、単位動作周期内において、8つの2次側巻線32A〜32Hのうちの一部の2次側巻線32A〜32Dに対して起電流(電流Ic2,Id2)が流れる。また、第3の動作モード時には、1次側巻線312B,312Dを流れる電流Ie1,If1により生ずる磁束によって、単位動作周期内において、8つの2次側巻線32A〜32Hのうちの残りの2次側巻線32E〜32Hに対して起電流(電流Ie2,If2)が流れる。
すなわち、第1の動作モードでは、1次側巻線311A〜311Dを流れる電流Ia1,Ib1による生ずる磁束によって、単位動作周期内において、全ての2次側巻線32A〜32H(8つの整流ダイオード41〜48のうちの全ての整流素子)に対して起電流(電流Ia2,Ib2)が流れるようになる。また、第2および第3の動作モードを組み合わせると、1次側巻線312A〜312Dを流れる電流Ic1,Id1,Ie1,If1による生ずる磁束によって、単位動作周期内において、全ての2次側巻線32A〜32H(全ての整流ダイオード41〜48)に対して起電流(電流Ic2,Id2,Ie2,If2)が流れるようになる。
したがって、1次側巻線311A〜311Dと、1次側巻線312A,312Cおよび1次側巻線312B,312Dの組み合わせと、のどちらからでも、全ての2次側巻線32A〜32H(全ての整流ダイオード41〜48)を共通して利用できるようになる。これにより、本変形例においても前述した比較例と比べ、少なくとも第1の動作モードの分だけ、個々の整流ダイオード41〜48の動作点が下がって電力損失が低減することにより、複数の動作モードを実現した際の整流ダイオード41〜48の利用効率が向上する。
以上のように本変形例においても、基本的には上記変形例1と同様の作用により、同様の効果を得ることができる。すなわち、高効率化を図りつつ、部品点数や占有面積の増加の抑制(低コスト化や小型化)と複数の動作モードの実現とを両立させることが可能となる。
また、特に本変形例では、第1,第2,第3の動作モード間で、1次側巻線と2次側巻線との巻数比を異ならせるようにした場合には、上記実施の形態と比べ、入力電圧範囲または出力電圧範囲を更に広くすることが可能となる。
更に、3つのインバータ回路11〜13同士が、入力端子T1,T2に対して互いに並列接続されると共に、2つのインバータ回路11,12同士が一部のスイッチング素子S3,S4を共有し、2つのインバータ回路12,13同士が一部のスイッチング素子S5,S6を共有しているようにしたので、インバータ回路全体として使用するスイッチング素子の個数が減少し、更に低コスト化や小型化を図ることが可能となる。
(その他の変形例)
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、上記実施の形態等では、1次側巻線(プリントコイル)や2次側巻線(板金)の形状を具体的に挙げて説明したが、これら1次側巻線(プリントコイル)や2次側巻線(板金)の形状はこの場合には限られず、他の形状でもよい。また、1次側巻線および2次側巻線が、ともにプリントコイルまたは板金により構成されているようにしてもよい。
具体的には、例えば上記実施の形態等では、図16(A)に示した上部コアUC(下部コアDC)のように、4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)の側面が曲面となっている場合について説明したが、各脚部の側面形状は、この場合には限られない。すなわち、例えば図16(B),(C)に示したように、4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)において、少なくとも対向する側面同士が、互いに平行となっているようにしてもよい。このように構成した場合、磁芯30における磁束最短経路の磁束集中がより効果的に緩和されるため、コア損失がより低減する。また、この場合において更に、例えば図16(C)に示したように、4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)において、互いに対向する側面の反対側である外側面が、曲面となっているようにしてもよい。このように構成した場合、各脚部の周囲に対して1次側巻線および2次側巻線が巻回し易くなるため、電流経路が短縮されると共に、角部への電流分布の集中が緩和される。なお、これらの図16(B),(C)に示した4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)において、側面における角部が面取りされることにより、その角部の部分が、曲面または平面からなる側面となっているようにしてもよい。
また、上記実施の形態等では、4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)が、矩形状(正方形状)のベースコアUCb,DCbの四隅に配置されている場合について説明したが、これらの4つの脚部の配置関係は、この場合には限られない。すなわち、4つの脚部は、ベースコア上の互いに交差する2直線上に、一対ずつ離間して配置されていればよい。また、ベースコアの形状や大きさについても、上記実施の形態等で説明した矩形状(正方形状)のものには限られず、4つの脚部の基体として機能するのであれば、どのような形状や大きさであってもよい。
更に、上記実施の形態等では、トランス3,3Aにおいて4つの脚部UC1(DC1)〜UC4(DC4)が設けられている場合について説明したが、トランスにおける脚部の数はこれには限られない。すなわち、トランスにおいて例えば6つの脚部や8つの脚部を設けるようにしてもよく、一般化すると2N個(N:2以上の整数)の脚部を設けるようにすればよい。
加えて、上記実施の形態等では、入力端子T1,T2に対して並列接続された複数のインバータ回路同士が、スイッチング素子の一部(スイッチング素子S3,S4やスイッチング素子S5,S6)を共有している場合について説明したが、この場合には限られない。すなわち、例えば、2つのインバータ回路11,12同士が、スイッチング素子S1,S2を共有しているようにしたり、3つのインバータ回路11〜13同士がそれぞれ、スイッチング素子S1,S2を共有しているようにしてもよい。また、複数のインバータ回路同士がスイッチング素子の一部を共有せずに互いに独立した回路構成となっていてもよく、更に、複数のインバータ回路同士が入力端子T1,T2に対して互いに並列接続されていなくともよい。
また、上記実施の形態等では、インバータ回路11〜13がフルブリッジ型のインバータ回路である場合について説明したが、インバータ回路の構成はこれには限られず、例えば、ハーフブリッジ型やフォワード型などの構成でもよい。
更に、上記実施の形態等では、整流回路4がアノードコモン接続のセンタタップ型の整流回路である場合について説明したが、整流回路の構成はこれには限られない。具体的には、例えば、アノードコモン接続ではなくカソードコモン接続のセンタタップ型でもよく、また、センタタップ型以外(例えば、ハーフブリッジ型やフォワード型、フライバック型など)の構成でもよい。また、全波整流型の整流回路ではなく、半波整流型の整流回路でもよい。
加えて、上記実施の形態等では、直流入力電圧Vinを降圧することにより直流出力電圧Voutを生成する降圧型のDC−DCコンバータについて説明したが、本発明は、逆に、直流入力電圧Vinを昇圧することにより直流出力電圧Voutを生成する昇圧型のDC−DCコンバータにも適用することが可能である。また、これらのような一方向へ出力電圧を出力するものには限られず、双方向へ出力電圧を出力可能な双方向コンバータや、多出力型のコンバータ(その場合、インバータ回路同士が並列接続ではない)にも適用することが可能である。
また、上記実施の形態等では、スイッチング電源装置の一例としてDC−DCコンバータを挙げて説明したが、本発明は、DC−DCコンバータ以外のスイッチング電源装置(例えば、AC−DCコンバータやDC−ACインバータなど)にも適用することが可能である。
更に、上記実施の形態等において説明した変形例等を組み合わせてもよい。