JP5401860B2 - 撥水層形成用ペースト組成物及びガス拡散層の製造方法 - Google Patents

撥水層形成用ペースト組成物及びガス拡散層の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、燃料電池用導電性多孔質基材に撥水層を形成するための新規なペースト組成物及びそれを用いたガス拡散層の新規な製造方法に関する。
固体高分子形燃料電池を構成する電解質膜−電極接合体(MEA)は、ガス拡散層、触媒層、イオン伝導性固体高分子電解質膜、触媒層及びガス拡散層が順次積層された構造を有している。
このうち、ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒層に均一に行き渡らせる役割を果たすため、良好なガス拡散性(ガス透過性)を備えていることが必要とされる。また、触媒層で発生した電子が効率的にセパレータへ輸送されるための導電性を有していることも必要である。このため、ガス拡散層の材質には、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材が一般的に使用されている。さらにガス拡散層に求められている性能として、撥水性が挙げられる。これは電池反応により触媒層で水が発生し、この水がガス拡散層の細孔を埋めてしまうとガス拡散性に悪影響を及ぼすため、水はけを良くし、速やかに水をMEA系外に排出させるためである。
ところが、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材そのものには、一般的に撥水性が備わっていない。そこで、撥水性を付与するために、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂からなる撥水層を導電性多孔質基材に形成させる方法が行われている(特許文献1)。
またフッ化ピッチが溶解したフッ素系有機溶剤を導電性多孔質基材に塗布し、当該有機溶剤を乾燥及び除去することにより、フッ化ピッチを固着する方法も提案されている(特許文献2)。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、電気抵抗が高いフッ素系樹脂を多量に使用するため、ガス拡散層、ひいてはMEA全体の電気抵抗が高くなり、導電性の低下が避けられない。またフッ素系樹脂からなる層では、撥水性が十分に改良されたとは言えない。
一方、特許文献2に記載の技術では、フッ化ピッチは導電性多孔質基材に結合乃至結着しにくいため、フッ化ピッチを主成分とする撥水材が当該基材から脱落し、撥水性が長期に亘って発揮されないおそれがある。また、特許文献2に記載の技術では、フッ素系の有機溶剤を使用するため、環境面からも好ましくない。
特開2003−115302公報 特開2000−67874公報
本発明は、燃料電池用導電性多孔質基材に、一段と優れた導電性及び撥水性を付与できるガス拡散層の製造方法及びそれに用いるペースト組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の成分を含有させたペースト組成物を使用し、当該ペースト組成物から構成される撥水層を導電性多孔質基材の表面上に形成させることにより、上記課題を解決できることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
本発明は、下記項1〜8に示すペースト組成物、それを用いたガス拡散層の製造方法及びそれにより得られるガス拡散層を提供する。
項1.燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層を形成するために用いられるペースト組成物であって、前記ペースト組成物は、導電性炭素粒子、フッ化ピッチフッ素樹脂、分散剤及び水を含有し、且つフッ化ピッチは前記水中に分散状態で存在している、ペースト組成物
項2.導電性炭素繊維をさらに含有する、項1に記載のペースト組成物。
.燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層が形成されたガス拡散層の製造方法であって、項1又は2に記載のペースト組成物を、導電性多孔質基材表面に塗布する工程、並びに当該ペースト組成物を乾燥及び焼成する工程を備えた、ガス拡散層の製造方法。
.塗布工程が、導電性多孔質基材内部にペースト組成物が浸透しないように前記ペースト組成物を導電性多孔質基材の表面に塗布する工程である、項に記載の製造方法。
.塗布工程に先立って、前記導電性多孔質基材に撥水処理を施す工程を備えた、項又はに記載の製造方法。
.導電性多孔質基材の表面の少なくとも一方面に撥水層が形成されたガス拡散層であって、前記撥水層は、項1又は2に記載のペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成されているガス拡散層。
.項のいずれかに記載の製造方法により得られる、項に記載のガス拡散層。
.項又はに記載のガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池。
ペースト組成物
本発明のペースト組成物は、燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層(撥水性の層)を形成するために用いられるペースト組成物であって、前記ペースト組成物は、導電性炭素粒子、非ポリマー系フッ素材料、フッ素系樹脂、分散剤及び水を含有し、且つ非ポリマー系フッ素材料は前記水中に分散状態で存在している。このペースト組成物を使用し、当該ペースト組成物の乾燥及び焼成物を導電性多孔質基材表面上に形成させることにより、優れた導電性と優れた撥水性とを兼備するガス拡散層を得ることができる。
導電性炭素粒子は、導電性を有する炭素材であれば特に限定されず、公知又は市販のものを使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛;活性炭等が挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上で用いることができる。導電性多孔質基材に撥水性を付与することにより導電性多孔質基材の抵抗値が増加するが、導電性炭素粒子等を含有する撥水層(MPL)を施すことによりガス拡散層の導電性を向上させることができる。
炭素粒子の粒子径(算術平均粒子径)は限定的でなく、通常5nm〜200nm程度、好ましくは20nm〜80nm程度とすればよい。
非ポリマー系フッ素材料は、フッ素を含有し、且つ重量平均分子量が1000〜5000程度のものであれば特に限定されない。これらは、公知又は市販のものを使用できる。本発明では特に導電性のものが好ましく、例えば、フッ化ピッチ、フッ化黒鉛等が挙げられる。このような非ポリマー系フッ素材料を含有させることにより、ガス拡散層に高い撥水性を持たせることが可能となり、触媒層上で生成される水を効率的に外部に排出することができ、水によるガス拡散層内部の細孔の閉塞を防ぐことができる。また、ガス拡散層に優れた導電性を付与することもできる。
非ポリマー系フッ素材料のF/C原子は限定的でないが、通常1〜2程度、好ましくは1.1〜1.6程度とすればよい。平均粒子径は、0.5μm〜50μm程度、好ましくは1μm〜30μm程度である。
本発明のフッ素系樹脂は、フッ素を含有し、重量平均分子量が10万〜1000万のポリマーであれば特に限定されない。これらは、公知又は市販のものを使用できる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ化エチレンプロピレン樹脂、パーフロロアルコキシ樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等が挙げられる。このようなフッ素系樹脂を含有することにより、ガス拡散層に撥水性を持たせると共に、非ポリマー系フッ素材料を導電性多孔質基材表面により強固に結着できるため、撥水性を長期に亘り維持させることができる。
分散剤は、フッ素系樹脂及び非ポリマー系フッ素材料を水(ペースト組成物)中で分散させることができるものである限り限定されず、公知又は市販のものが使用できる。このような分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、酸性基含有構造変性ポリアクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上併用できる。
本発明のペースト組成物は、必要に応じて、さらに導電性炭素繊維を含有していてもよい。導電性炭素繊維を配合することにより、ペースト塗布表面でのクラックの発生が抑えられ、且つ導電性が一段と向上する。
導電性炭素繊維としては、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、ワイヤーカップ、ワイヤーウォール等が挙げられる。繊維径は限定的でなく、平均が50〜400nm、好ましくは100〜250nm程度とすればよい。繊維長も限定的でなく、平均が5〜50μm、好ましくは10〜20μm程度とすればよい。アスペクト比は、およそ10〜500である。
本発明のペースト組成物は、上記以外の成分としてアルコールを含有していてもよいが、本発明では、アルコールを実質的に含有しないことが好ましい。このようなアルコールとしては、例えば、炭素数1〜5程度の1価又は多価のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール等が挙げられる。このように実質的にアルコールを含有しない場合、本発明のペースト組成物を導電性多孔質基材の表面に塗布する際に、当該ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に浸透することを効果的に抑制できるため、導電性多孔質基材の表面に所望の撥水層を容易に形成することができる。
ペースト組成物の配合割合は上記成分を含有する限り限定的ではないが、例えば、導電性炭素粒子100重量部に対して、非ポリマー系フッ素材料5〜400重量部(好ましくは10〜250重量部)程度、フッ素系樹脂5〜400重量部(好ましくは10〜250重量部)程度、分散剤5〜300重量部(好ましくは7〜200重量部)程度、水10〜2000重量部(好ましくは100〜1000重量部)程度とすればよい。
本発明のペースト組成物は、表面張力(25℃)が10〜50mN/m(好ましくは20〜40mN/m)であることが好ましい。これにより、本発明のペースト組成物を導電性多孔質基材に塗布する際に、ペースト組成物が導電性多孔質基材表面ではじく現象(はじき)を防止でき、ペースト組成物をより均一に塗布できる。上記表面張力は、自動表面張力計(協和界面科学(株)製:CBVP−Z)を用い、ペースト組成物の温度を25℃に調節し、プレート法を用いることにより測定できる。
ガス拡散層の製造方法
本発明のガス拡散層は、燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層が形成されているものであって、上記本発明のペースト組成物を、導電性多孔質基材表面に塗布し、次いで乾燥及び焼成を行う工程を経ることにより得られる。
本発明のペースト組成物は、導電性多孔質基材との接触角が90°〜150°程度(好ましくは100°〜140°)であることが好ましい。これにより、本発明のペースト組成物を導電性多孔質基材に塗布する際に、ペースト組成物が導電性多孔質基材表面ではじく現象を防止でき、ペースト組成物をより均一に塗布できる。
本発明のペースト組成物と導電性多孔質基材との接触角は、自動接触角測定器(英弘精機(株)製、「OCA20」)を用い、1マイクロリットル程度のペースト組成物の液滴を導電性多孔質基材表面に滴下し、30秒後の接触角を観測することにより求められる。
導電性多孔質基材としては、燃料電池(特に、固体高分子形燃料電池)で一般的に使用されているものを用いればよく、公知又は市販のものを用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布(カーボンフェルト)等が挙げられる。
またカーボンペーパーの特性について、東レ製のTGP−H−060を例にとり言及すると、厚み:190μm、電気抵抗:厚み方向80mΩ・cm、面方向5.8mΩ・cm、気孔率:78%、嵩密度:0.44g/cm3、表面粗さ:8μm、等である。
導電性多孔質基材の厚みは限定的ではないが、通常50μm〜1000μm程度、好ましくは100μm〜400μm程度とすればよい。
導電性多孔質基材の表面張力(後述する撥水処理を行う場合は、撥水処理後の表面張力)は、通常35〜40mN/m程度とすればよい。この表面張力は、自動表面張力計(協和界面科学(株)製:CBVP−Z)を用い、ペースト組成物の温度を25℃に調節し、プレート法を用いることにより測定される。
本発明の導電性多孔質基材は、予め撥水処理が施されたものであることが好ましい。これにより、さらに一段とガス拡散層の撥水性を向上させることができる。また、本発明の撥水層を導電性多孔質基材の表面上に設ける際に、より確実に当該基材表面上に形成させることができる。
撥水処理としては、例えば、導電性多孔質基材をフッ素系樹脂等が分散した水分散体中に浸漬する方法等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、上述したものが挙げられる。
水分散体中のフッ素系樹脂の含有量は限定的でないが、例えば、水100重量部に対して、1〜20重量部程度、好ましくは2〜15重量部程度とすればよい。
本発明では、ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に実質的に浸透しないように塗布することが好ましい。一般的に導電性多孔質基材にペースト組成物を塗布する際、ドクターブレード等のブレード;ワイヤーバー;スキージ等の器具を導電性多孔質基材の表面に接触させ、当該表面に一定の圧力をかけながら、余分なペースト組成物を掻き取る方式が採用される。これに対して、本発明では、例えば、ブレード等を導電性多孔質基材表面に接触しないようにして、余分なペースト組成物を掻き取ることにより、ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に浸透しないようにすることが好ましい。これにより、ペースト組成物が導電性多孔質基材内部に浸透することにより当該基材内部の空隙が閉塞される現象を抑制して、当該基材表面のみに所望の撥水層を好適に形成させることができる。
このような塗布方法に用いる装置としては、例えば公知又は市販のアプリケーターを用いればよい。
ペースト組成物の塗布量は限定的でないが、固形分換算で、例えば、5〜100g/m2程度、好ましくは10〜50g/m2程度とすればよい。
乾燥温度は限定的ではなく、例えば、大気中にて50〜150℃程度、好ましくは90〜130℃程度とすればよい。
乾燥時間は、乾燥温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜30分程度である。
乾燥後に行う焼成時の温度も限定的ではなく、例えば、大気中にて400℃以下、好ましくは250〜350℃程度とすればよい。
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常10〜150分程度、好ましくは30〜120分程度とすればよい。
ガス拡散層
本発明のガス拡散層は、導電性多孔質基材表面上に、上記ペースト組成物の、乾燥及び焼成物から構成されている撥水層(この撥水層は、「Micro-porous Layer」(MPL)とも称されている。)が積層されている。このような良好な導電性及び撥水性を兼備する撥水層が設けられているため、MEA全体の導電性能を向上させることができ、また、MEAの触媒層で発生する水をより効率的にガス拡散層外部(ひいては、MEA外部)に排出できる。このため、本発明のガス拡散層を用いた燃料電池は、優れた電池性能を発揮する。
本発明のガス拡散層は、導電性多孔質基材の表面上に形成されている撥水層が、実質的に導電性多孔質基材に浸透していない構造であることが好ましい。
撥水層は、ペースト組成物の塗布量等に応じて決定されるが、通常5〜100g/m2、好ましくは10〜50g/m2程度である。
ペースト組成物中の分散剤は、ガス拡散層(GDL)の焼成時に分解されるため、拡散層中に存在していない。撥水層の構造は、30nm以下程の細孔が存在する層となっている。
本発明のガス拡散層は、固体高分子形燃料電池用のガス拡散層として使用することができる。具体的には、公知又は市販のイオン伝導性固体高分子電解質膜の両面に触媒層(カソード触媒層及びアノード触媒層)が積層された電解質膜−触媒層積層体(カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層)を用意し、次いで、この両面(カソード触媒層及びアノード触媒層)の少なくとも一つの面(特に、カソード触媒層)に、撥水層が当該触媒層に接触するように、本発明のガス拡散層を積層させることにより、電解質膜−電極接合体(ガス拡散層/カソード触媒層/電解質膜/アノード触媒層/ガス拡散層)を作製して、これを使用すればよい。
本発明によれば、導電性炭素粒子、非ポリマー系フッ素材料、フッ素系樹脂、分散剤及び水を含有し、且つ非ポリマー系フッ素材料は前記水中に分散状態で存在しているペースト組成物を使用し、且つ、当該ペースト組成物の乾燥及び焼成物を導電性多孔質基材の表面に形成させるため、一段と優れた導電性と撥水性とを兼備するガス拡散層を製造できる。 また、本発明のペースト組成物は。溶剤としてフッ素系溶剤ではなく、水を使用するため、環境面でも良好である。
特に、本発明により得られるガス拡散層は、導電性多孔質基材表面に導電性の撥水層(MPL)を有するという構造であるため、当該導電性多孔質基材と、当該基材と隣接する触媒層との界面の接触面積を大きくでき、接触抵抗を下げることが可能なため、MEA全体の導電性を一段と向上させることができる。
従って、本発明により得られるガス拡散層を用いると、優れた電池性能を有する固体高分子形燃料電池を製造することができる。
以下に実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
<ペースト組成物の調製>
ペースト組成物の調製には、下記に示す材料を使用した。
導電性炭素粒子:ファーネスブラック(バルカンxc72R:キャボット社製)
分散剤:ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(エマルゲンMS110、花王社製)
非ポリマー性フッ素材料:フッ化ピッチ、大阪ガス社製、重量平均分子量は約3000、平均粒子径は1.2〜30μm
フッ素系樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ルブロンLDW−410,PTFE31−JR:ダイキン社製)
導電性炭素繊維:VGCF(VGCF(登録商標)(標準品):昭和電工社製)
実施例1〜5
導電性炭素粒子、分散剤、非ポリマー性フッ素材料、フッ素樹脂、VGCF及び水を表1に示す割合(重量部)で配合して、メディア分散により60分程度分散させることにより、本発明のペースト組成物を調製した。
Figure 0005401860
比較例1
導電性粒子200重量部に対して、分散剤20重量部、フッ素系樹脂100重量部及び水500重量部を配合し、実施例1と同様にして、比較のためのペースト組成物を調製した。
比較例2
導電性粒子を使用しない以外は比較例1と同様にして、比較のためのペースト組成物を調製した。
<撥水処理>
導電性多孔質基材としてカーボンペーパーを用いた。ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン製、PTFEディスパージョン)を60wt%含有したフッ素系水性ディスパージョン水溶液にカーボンペーパーを2分間含浸させた後、大気雰囲気中95℃で30分程度乾燥させ、次いで大気雰囲気中約300℃で2時間程焼成を行うことにより、撥水処理を施した。
この撥水処理導電性多孔質基材での撥水性は、自動接触角測定器(英弘精機(株)製、「OCA20」)を用い、1マイクロリットル程度のペースト組成物の液滴を導電性多孔質基材表面に滴下し、30秒後の接触角を観測することにより測定した。
<ガス拡散層の製造>
実施例1〜5及び比較例1〜2で調製した各ペースト組成物を、アプリケーター(Sheen Instruments Ltd社、「Micrometer Adjustable Film Applicator、1117/200」)を用いて塗工量が固形分換算で30g/m2程度になるように、上記撥水処理済み導電性多孔質基材の一方の面に均一に塗工した。次いで、大気雰囲気中95℃で約20分乾燥した後、大気雰囲気中300℃で2時間程度焼成することにより、導電性多孔質基材表面に撥水層(MPL)(約230μm程度)が形成された、ガス拡散層(実施例1〜5及び比較例1〜2のペースト組成物を用いて製造したガス拡散層)を製造した。
<燃料電池の作製及びその評価試験>
(1)電解質膜−触媒層積層体の製造
白金触媒担持炭素粒子4g(田中貴金属工業社製「TEC10E50E」)、イオン伝導性高分子電解質膜溶液40g(Nafion5wt%溶液:「DE-520」デュポン社製)、蒸留水12g、n−ブタノール20g及びt−ブタノール20gを配合し、分散機にて攪拌混合することにより、アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を得た。
アノード触媒層形成用ペースト組成物及びカソード触媒層形成用ペースト組成物を、それぞれアプリケーターを用いて転写基材(材質:ポリエチレンテレフタラートフィルム)上に塗工し、95℃で30分程度乾燥させることにより触媒層を形成させて、アノード触媒層形成用転写シート及びカソード触媒層形成用転写シートを作製した。なお、触媒層の塗工量は、アノード触媒層、カソード触媒層共に白金担持量が0.45mg/cm2程度となるようにした。
上記で作製したアノード触媒層形成用転写シート及びカソード触媒層形成用転写シートを用いて、電解質膜各面に、熱プレスを行った後、転写基材のみを剥がすことにより、電解質膜−触媒層積層体を作製した。
(2)燃料電池の製造
上記で作製した電解質膜−触媒層積層体の両面に、実施例1〜5及び比較例1〜2の各ペースト組成物を用いて製造したガス拡散層を、撥水層が触媒層(アノード触媒層又はカソード触媒層)に接触するように、積層させることにより、電解質膜−電極接合体(MEA)を得、次いで、得られたMEAを燃料電池セルに組み込むことにより、固体高分子形燃料電池(実施例1〜5及び比較例1〜2のガス拡散層を用いて製造した固体高分子形燃料電池)を製造した。
性能試験
(a)ガス拡散層の評価
(i) 導電性
固体高分子形燃料電池用の電池評価セル(JARI製燃料電池評価セル)を使用し、そのセル中にガス拡散層を2枚挟み込み、1〜6Nm圧力でセルを締め、各圧力でのセル抵抗値を燃料電池交流抵抗測定器(チノー社製)により測定した。通常の電池評価時で適用しているセル締め圧は4Nmであるため、その圧力での抵抗値を測定した結果、ペースト組成物中にフッ化ピッチを添加することで導電性が向上することが確認できた。
(ii) 撥水性
フッ化ピッチを添加した実施例1〜5において、150〜160°と高い接触角を示すことが確認できた。これは、カソード触媒層において生成水の高い排出性を発現できることを示している。
(b)電池性能評価
上記のMEAを使用しての電池性能評価を、以下の条件により行った。
セル温度:80℃
加湿温度:カソード80℃、アノード70℃
ガス利用率:カソード40%、アノード70%
負荷電流を1.25〜25Aまで変動させた時のセル電圧値の測定を行った。ガス拡散の影響がより顕著である1000mA/cm2において、実施例1〜5では580mV〜590mVと実用可能レベルであり、良好な性能を示した。
またこの結果を受けてAC−インピーダンス測定(東陽テクニカ製 Solartron1255B)により抵抗値の測定を行った。AC−インピーダンス法による測定結果を図3に示す。
図3において、(a)の領域である左側の切片値においてオーミックに関する抵抗を、(b)の領域である右側の切片値においてガス拡散性に関する抵抗を示し、この値が大きくなる程ガス拡散性が悪化することを示す。図3には、顕著な例として比較例1、実施例1、実施例4の結果を示した。
更に電流遮断法(北斗電工株式会社製、カレントパルスジェネレーターHC-114)により内部抵抗(オーミック抵抗)を1.25〜20Aの負荷電流範囲で測定した。その結果を図4に示す。図4によれば、比較例1では負荷電流が5A以降において急激なオーム損失の上昇が見られ、15A付近からは電池評価の続行が不可能となった。これはガス拡散層の細孔部でのフラッティングの影響であり、比較例1では実施例1〜実施例5に比べて生成水や凝結水の排出状況が悪化、つまり良好な撥水性を示していないが明らかになった。また、比較例2では、実施例1〜5よりも高いオーム損値を示した。
以上の結果を表2にまとめて示す。
Figure 0005401860
表2に示すGDL抵抗値から、実施例1〜5の方が比較例1より良好なガス拡散性を示すことが確認できた。
上記の結果から実施例1〜5は、格段に優れた導電性及び撥水性を兼備するGDLを製造するために有効なペースト組成物であることが確認できた。
図1は、本発明のガス拡散層の概念図を示す。 図2は、本発明のガス拡散層を用いた電解質膜−電極接合体の概念図を示す。 図3は、AC−インピーダンス法による測定結果を示すグラフである。 図4は、電流遮断法によるオーム損失の測定結果を示すグラフである。
符号の説明
1.ガス拡散層
2.撥水層(MPL)
3.導電性多孔質基材
4.アノード触媒層
5.イオン伝導性固体高分子電解質
6.カソード触媒層
7.電解質膜−電極接合体

Claims (8)

  1. 燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層を形成するために用いられるペースト組成物であって、前記ペースト組成物は、導電性炭素粒子、フッ化ピッチフッ素樹脂、分散剤及び水を含有し、且つフッ化ピッチは前記水中に分散状態で存在している、ペースト組成物。
  2. 導電性炭素繊維をさらに含有する、請求項1に記載のペースト組成物。
  3. 燃料電池用導電性多孔質基材の表面上に撥水層が形成されたガス拡散層の製造方法であって、請求項1又は2に記載のペースト組成物を、導電性多孔質基材表面に塗布する工程、並びに当該ペースト組成物を乾燥及び焼成する工程を備えた、ガス拡散層の製造方法。
  4. 塗布工程が、導電性多孔質基材内部にペースト組成物が浸透しないように前記ペースト組成物を導電性多孔質基材の表面に塗布する工程である、請求項に記載の製造方法。
  5. 塗布工程に先立って、前記導電性多孔質基材に撥水処理を施す工程を備えた、請求項又はに記載の製造方法。
  6. 導電性多孔質基材の表面の少なくとも一方面に撥水層が形成されたガス拡散層であって、前記撥水層は、請求項1又は2に記載のペースト組成物の乾燥及び焼成物から構成されているガス拡散層。
  7. 請求項のいずれかに記載の製造方法により得られる、請求項に記載のガス拡散層。
  8. 請求項又はに記載のガス拡散層を用いた固体高分子形燃料電池。
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