JP5400664B2 - フィルム状成形体及び積層体 - Google Patents
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そこでフィルム成形性に優れる熱可塑性樹脂を用いて、フィルム状成形体及び積層体を製造することが検討されている。その中でも耐熱性、耐湿熱性及び電気絶縁性を兼ね備えたポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしポリフェニレンスルフィド樹脂のフィルム状成形体に数%のひずみ量の曲げ応力を付加すると、表面にクレージング(深さ数μmの微細なひび割れ)が発生することが多い。特に曲げ応力を加えた試験片を有機溶剤に浸漬した場合に、クレージング発生がより顕著に発生する。更なる課題としてポリフェニレンスルフィド樹脂は、金属との密着性が不十分で、フレキシブルプリント基板向け、金属との積層体を製造する場合に問題となっている。
ポリフェニレンスルフィド樹脂フィルムの改質例として、熱可塑性樹脂のポリエーテルイミド樹脂を0.1μm未満で分散させ、機械特性を改善させた樹脂フィルム(特許文献2参照)が提案されている。しかしポリエーテルイミド樹脂は耐薬品性に劣り、溶剤浸漬後のクレージング性は更に低下する。耐湿熱性及び電気絶縁性を兼ね備え、柔軟性、特に溶剤に浸漬した後も耐クレージング性に優れたフィルム状成形体や該成形体上に金属層が形成された積層体は得られていない。
<1>樹脂成分がポリフェニレンスルフィド樹脂からなる層に対し、その両面に、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相とし、オレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が形成されていることを特徴とするフィルム状成形体。
<2>前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相とし、オレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対し、オレフィン系共重合体(B)1〜40質量部を含有することを特徴とする<1>項記載のフィルム状成形体。
<3>前記オレフィン系共重合体(B)が、オレフィン系単量体と、エポキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を有する単量体とからなる共重合体であることを特徴とする<1>又は<2>項記載のフィルム状成形体。
<4>前記分散相の粒子の平均粒径が50nm〜5μmであることを特徴とする<1>〜<3>項のいずれか1項記載のフィルム状成形体。
<5>前記樹脂混和層の厚さが、0.5〜50μmであることを特徴とする<1>〜<4>項のいずれか1項に記載のフィルム状成形体。
<6>前記樹脂混和層が、前記樹脂成分がポリフェニレンスルフィド樹脂からなる層上に被覆することにより形成されていることにより形成されていることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1項記載のフィルム状成形体
<7>前記フィルム状成形体の樹脂混和層上に金属層が形成されていることを特徴とする<1>〜<6>項のいずれか1項記載の積層体。
<8>前記金属層が銅又はニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン若しくはチタンめっきで表面処理された銅であることを特徴とする<7>項記載の積層体。
このため、本発明のフィルム状成形体は、特に曲げ変形時に応力が集中する該成形体の表面近傍に前記樹脂混和層を形成することで、柔軟性に優れたものとなる。また該成形体上に金属層が形成された積層体は、金属層との密着性に優れ、柔軟性に優れたプリント基板とすることができる。
一般に、ポリフェニレンスルフィド樹脂に限らず、ガラス転移温度以下条件下で高分子に応力を加えると、応力の集中した一部鎖の伸長によって同じ方向へ多数のフィブリルが形成される。さらに該フィブリル周辺では、体積を補償するためにボイドが発生することが知られている(「界面工学」大塚寛治ら、第44頁、培風館、1994年)。その箇所を光学顕微鏡で観察すると、ボイドによって光が散乱し、複数の白い線が確認できる。このような高分子材料の変形箇所はクレージングとよばれている。
そこで本発明者は、クレージング抑制のため、応力を表面の一部箇所だけでなく、フィルム状成形体の全面体に応力を均一に分散することが重要と考え、鋭意検討した。その結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物中に弾性率の低い成分を分散させることで表面上のクレージングの発生を抑制できることを見出した。しかし分散相の存在により、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の耐熱性が低下することがわかった。そこで本発明者は、曲げ変形時、応力がもっとも集中する表面近傍に分散相を形成させることで耐熱性の低下なく、耐クレージング性に優れたフィルム状成形体を提供できることを見出した。さらに金属と接するポリフェニレンスルフィドフィルムの表面近傍に分散相を有する樹脂混和層を設けることで、金属との密着力が大きいポリフェニレンスルフィドフィルムと金属層との積層体を得ることを見出した。該積層体は、プリント基板として使用することができる。
本発明のフィルム状成形体は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を主成分とする樹脂組成物からなるフィルム状成形体であって、該成形体の少なくとも片面の表面近傍に、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相としオレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が形成されている。本発明における表面近傍とは、表面を含むものとする。したがって本発明のフィルム状成形体の表面には、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相としオレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が形成されている。
多層押出成形においては、2台以上の溶融押出機を用い、該溶融押出機と口金の間の溶融樹脂流路内で合流積層して、フィルム状成形体を製造することができる。この場合、一方の溶融押出機でポリフェニレンスルフィドを主成分とする樹脂組成物を押出すとともに、他方の溶融押出機でポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相としオレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物を溶融混練して、該樹脂組成物と該樹脂混和物は、溶融押出機と口金の間に設けられた合流装置で、ともに溶融状態で積層され、スレット状の口金リップから押出される。樹脂混和物を溶融混練し押出すために用いられる溶融押出機の台数を変更することにより、片面又は両面に樹脂混和層が積層されたフィルム状成形体を得ることができる。また、多層押出においては、溶融押出し機の口金より上流で合流積層してもよい。
又、熱圧着加工においては、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなるフィルムとポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相としオレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物フィルムをポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶融点である280℃以上の高温で加熱ロールや熱プレスなどによって作製することができる。その際、フィルムの組み合わせを変更することにより、片面又は両面に樹脂混和層が形成されたフィルム状成形体を得ることができる。
上記の多層押出成形、又は熱圧着加工の後、フィルムの厚さ調製、熱寸法安定性向上などのため、2軸延伸加工、熱処理加工を行ってもよい。
本発明のフィルム状成形体における樹脂混和層の厚さは、0.5〜50μmが好ましい。さらに好ましくは、1〜40μmである。樹脂混和層の厚さが薄すぎると表面における面内応力を十分分散することができない。樹脂混和層の厚さが厚すぎるとフィルム状成形体中の分散相の量が多くなり、フィルム状成形体の耐熱性が劣ることになる。
フィルム状成形体全体の厚さに対する樹脂混和層の厚さの比率(樹脂混和層の厚さ/フィルム全体の厚さ)は、0.05〜0.5が好ましく、更に0.1〜0.5が耐熱性の低下なく、耐クレージング特性と金属との密着性を改善できるため好ましい。
本発明のフィルム状成形体に用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂は、該樹脂の主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む。かかるp−フェニレンスルフィド成分が少なすぎる場合、該樹脂の結晶性や熱転移温度などが低いため、ポリフェニレンスルフィド樹脂の特徴である耐熱性、機械特性や誘電特性を損なうことがある。
架橋度の低いポリフェニレンスルフィド樹脂として好ましいのは、窒素中で、1rad/s、300℃における初期の損失弾性率が貯蔵弾性率の2倍以上の樹脂である。損失弾性率及び貯蔵弾性率は、これらの時間依存性を測定する装置を用いることで評価することができる。例えば、ティーエイ・インスツルメント・ジャパン社製のARES測定装置(商品名)を挙げることができる。
樹脂混和層におけるオレフィン系共重合体(B)としては、単量体成分の少なくとも1つがオレフィンである共重合体を挙げることができる。オレフィン系共重合体(B)としては、オレフィン成分と、エポキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を有する単量体とからなる共重合体であることが好ましい。また、アクリル成分又はビニル成分の中の少なくとも1種類以上の成分と、オレフィン成分と、エポキシ基又はカルボン酸無水物基含有化合物成分からなる共重合体であってもよい。
オレフィン系共重合体(B)を構成するエポキシ基含有化合物としては、以下一般式(1)に示される不飽和カルボン酸グリシジルエステルの化合物が挙げられる。
上記オレフィン系共重合体(B)の例としては、エチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル3元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/酢酸ビニル3元共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル/酢酸ビニル4元共重合体などが挙げられるが、中でもエチレン/グリシジルメタアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルメタアクリレート/アクリル酸メチル3元共重合体が好ましく、市販の樹脂では、ボンドファースト(住友化学工業社製、商品名)、ロタダー(アトフィナ社製、商品名)がある。
樹脂混和物においては、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対し、オレフィン系共重合体(B)を好ましくは、1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、特に好ましくは2〜20質量部を含有する。この範囲内であれば、分散相による曲げ加工時発生する応力を面内に均一分散可能となり、耐クレージング特性改善の効果を得ることができる。オレフィン系共重合体(B)の配合量が少なすぎると面内応力分散が不十分で耐クレージング特性の改善に至っておらず、多すぎると樹脂材料の耐熱性と耐磨耗特性が低下することとなる。
本発明において、樹脂混和物中のポリフェニレンスルフィド樹脂(A)に分散させたオレフィン系共重合体(B)の分散粒径は、試料の破断面をテトラヒドロフラン又はキシレン溶液に10分以上浸漬し、オレフィン系共重合体からなる分散相を溶解させ、粒子の抜け穴を観察することで容易に確認できる。
本発明の積層板に用いられる金属としては、特に限定するのではないが、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、りん青銅、洋白等を挙げることができる。本発明のフィルム状成形体に上記金属箔を高温高圧下で熱圧着することにより、積層板を得ることができる。熱圧着の方法としては、加熱ロールや熱板プレスなどを採用することができる。熱圧着条件として、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂の結晶融点である280℃以上、100kg/cm2以上の圧力で、3分以上圧着することにより、積層板を製造することができる。フィルム状成形体の樹脂混和層に金属層を熱圧着加工することにより、密着性に優れた積層板を得ることができる。
さらにフィルム状成形体の表面に金属蒸着やスパッタリング法により金属層の導電層を設けて上記薬液エッチング法で回路パターンを形成してプリント配線基板を得ることができる。導電層の厚さは配線基板の用途に応じて、0.1〜200μmとすることができる。用いられる導体としては、無酸素銅、タフピッチ銅、りん青銅、洋白、アルミニウム、鉄、ステンレス等の金属単体や2種以上の化合物や合金を使用することができる。さらに無酸素銅、タフピッチ銅、りん青銅等の純銅と銅合金に対しては、金属表面の不働態化を目的にニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン又はチタンめっきで表面処理を施すことが好ましい。これにより、リフロー炉等の高温熱処理環境における金属酸化膜成長に伴う金属・樹脂間の密着力低下の抑制が可能となる。
また、カーボンや銀ペーストのような導電性を有する塗料を本発明のフィルム状成形体にシルク印刷などの方法で電気回路のパターンを形成することもできる。本発明の電気回路は、片面、又は両面で同種または異種の回路基板が2層以上に積層されていてもよい。また、他のリジッド基板と組合せてもよい。金属板、繊維シート、紙、布、別種類のプラスチックシートやフィルム等の部材が本発明の積層板の片面又は両面に積層されていてもよい。
(実施例及び比較例)
表1に示した樹脂(A)と共重合体(B)との樹脂混和物を、16mm二軸押出機(Prism TSE16TC(商品名)、Thermo Electron Corporation社製)により溶融混練して作製した。その後、一軸押出機(D20−20型ラボプラストミル(商品名)、東洋精機製)を用いて押出した後に、ロール延伸装置により、樹脂混和物フィルムを作製した。
樹脂(A)の単体フィルムも上記の一軸押出機を用いて押出した後に、ロール延伸装置によってフィルム作製を行った。
次に2枚の樹脂混和物フィルム(表1記載の第1層と第3層)の間に樹脂(A)単体フィルム(表1記載の第2層)を挟んだ状態で熱プレス加工(300℃、100kg/cm2の圧力で、3分間プレス)をし、表1記載の第1層〜第3層で構成されたフィルム状成形体を得た。各フィルム状成形体の厚さは表1に記載の通りである。
得られたフィルム状成形体について、以下の試験を行い、その性能を評価した。
(1)耐熱性:フィルム状成形体について、190℃の大気中でl週間(7日間)熱処理を行い、樹脂混和物層(第1層)を外側にして180°曲げ試験を行った。その後、フィルム状成形体の割れ状態を目視で確認し、割れ無し=O、表面割れ=△、皮膜全体割れ=×とし、○を合格、△を使用できるレベルで合格とした。
(2)耐溶剤クレージング性:直径20t(t:フィルム厚さ)の金属巻き棒にフィルム状成形体を巻き付けした後、スチレン及びキシレン溶媒に30秒間浸漬し、乾燥後試料表面の観察を行い、クレージング発生有無判定を行った。その結果、クレージングなし=O、表面に一部僅かなクレージングはあるが使えるレベル=△、クレージング有り=×とし、○を合格、△を使用できるレベルで合格とした。
(3)金属との密着性:表1の構成のフィルム状成形体の樹脂混和物層(第1層)に厚さ100μmの無酸素銅シート(橋永金属社製、C1020)を熱圧着(300℃、100kg/cm2の圧力で、3分間プレス)させてフィルム状成形体上に金属層が形成された積層体を得た。エポキシ系接着剤によって樹脂混和物層(第1層)を厚さ3mmのエポキシ基板に固定し、その後、銅箔部分を引張試験機で90度方向に引き剥がし(剥離速度:50mm/分)、密着力を求めた。その結果、剥離強度が0.5kN/m以上のものを○、剥離強度が0.2kN/m以上0.5kN/m未満のものを△、剥離強度が0.2kN/m未満のものを×とし、○を合格とした。
PPS:FZ−2100 (大日本インキ社製、商品名)
(ポリフェニレンスルフィド樹脂)
共重合体B−1:ボンドファスト7M(住友化学工業社製、商品名)
(エチレン/グリシジルメタクリレート/メチルアクリレート共重合体)
共重合体B−2:ボンドファストE(住友化学工業社製、商品名)
(エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体)
共重合体B−3:ボンダインA X 8390(住友化学工業社製、商品名)
(エチレン/エチルアクリレート/無水マレイン酸共重合体)
ポリフェニレンスルフィド樹脂単体のフィルム状成形体(比較例1)では、溶剤処理後、クレージングが発生し、又金属層との密着強度が低いことがわかった。また、オレフィン系共重合体を3層からなるフィルム状成形体の各層に配合したフィルム状成形体(比較例2)は、熱処理品の180°曲げ試験で割れが発生し、耐熱性に問題があることがわかった。
一方、実施例1から実施例11のフィルム状成形体は、耐熱性と耐クレージング性及び密着性が優れていることがわかった。
Claims (8)
- 樹脂成分がポリフェニレンスルフィド樹脂からなる層に対し、その両面に、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相とし、オレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が形成されていることを特徴とするフィルム状成形体。
- 前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)を連続相とし、オレフィン系共重合体(B)を分散相とする樹脂混和物からなる樹脂混和層が、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対し、オレフィン系共重合体(B)1〜40質量部を含有することを特徴とする請求項1記載のフィルム状成形体。
- 前記オレフィン系共重合体(B)が、オレフィン系単量体と、エポキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を有する単量体とからなる共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載のフィルム状成形体。
- 前記分散相の粒子の平均粒径が50nm〜5μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のフィルム状成形体。
- 前記樹脂混和層の厚さが、0.5〜50μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム状成形体。
- 前記樹脂混和層が、前記樹脂成分がポリフェニレンスルフィド樹脂からなる層上に被覆することにより形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のフィルム状成形体。
- 前記フィルム状成形体の樹脂混和層上に金属層が形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の積層体。
- 前記金属層が銅又はニッケル、コバルト、クロム、バナジウム、タングステン、モリブデン若しくはチタンめっきで表面処理された銅であることを特徴とする請求項7記載の積層体。
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