しかしながら、特許文献1に開示の転写前帯電手段としてプレ転写チャージャーによりコロナ放電を行うと、多量のオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上、その強い酸化力により様々なものを酸化することから、転写前帯電手段の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在し、これを避けるために周辺の部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、被転写材への転写前に中間転写体上のトナー像を、オゾンレスで均一に帯電させ、安定して被転写材上に転写できる転写前帯電装置及び画像形成装置を提供することである。
本発明の転写前帯電装置は、上記課題を解決するために、像担持体上のトナー像を中間転写体に転写する中間転写手段と、該中間転写体上のトナー像を被転写材に転写する転写手段と、を備えた画像形成装置の、上記被転写材に転写する前の上記中間転写体上のトナー像を帯電する転写前帯電装置において、電極基板、薄膜電極、及び該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記中間転写体との間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記中間転写体と対向して配置され、上記電子加速層は絶縁体微粒子を含む微粒子層から成ることを特徴としている。
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出し、その電子により中間転写体上のトナー像を帯電する。この電子放出素子は、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る電子加速層を備えた構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、中間転写方式の画像形成装置において、中間転写体上のトナー像内に帯電量のばらつきがある場合や、中間転写体上のトナー像内の帯電量が小さい場合でも、上記構成の電子放出素子を備えた転写前帯電装置を用いることで、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、本発明の転写前帯電装置は、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
ここで、本発明の転写前帯電装置において、電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る構成であるため、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)を制御するという簡易な方法で、安定かつ良好な量の電子放出が可能な素子を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る構成なので、たとえば、微粒子の分散液を塗布するという簡易な製造プロセスで、容易に電子加速層を形成できる。さらに、本発明の転写前帯電装置において、電子放出素子は、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)により電子放出特性を制御することが可能である。
なお、本発明の転写前帯電装置における電子放出素子の電子放出機構は、明確になっていないが、二つの導電体膜の間に絶縁体層が挿入された、所謂MIM型の電子放出素子における動作機構と類似すると考えられる。MIM型の電子放出素子において、絶縁体層へ電界が印加された時に、電流路が形成されるメカニズムは、一般説として、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ、e)絶縁体物質の欠陥に起因する電子のトラップと、そのトラップ電子の形成する局所的な強電界領域等、様々な説が考えられているが、未だ明確にはなっていない。いずれの理由にせよ、本発明の上記構成によると、絶縁体層に相当する絶縁体微粒子を含む微粒子層よりなる電子加速層へ電界が印加された時にこの様な電流路の形成と、その電流の一部が電界により加速された結果、弾道電子となり、二つの導電体膜に相当する電極基板と薄膜電極のうちの一方である薄膜電極を通過して、電子が素子外へ放出されると考えられる。
本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子の平均粒径は、7〜1000nmであってもよい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子の粒子径が小さすぎると、粒子間に働く力が強いために粒子が凝集しやすく、分散が困難になる。また、絶縁体微粒子の粒子径が大きすぎると分散性は良いけれども、抵抗調整のために電子加速層の層厚や、表面電導物質の配合比を調整することが困難になる。また、絶縁体微粒子の平均粒径が上記範囲であると、電子加速層における抵抗値の調整を行いやすい。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいてもよい。
上記絶縁体微粒子が、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いため、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。抵抗値が高くなるに伴い、電子放出素子内の電流が流れにくくなり、電子放出量が少なくなる。逆に抵抗が低くなるに伴い、電子が加速することなく導通し、電子放出量が少なくなる。したがって、抵抗値を調整することによって、電子放出素子内の電流と電子加速とを制御し、電子放出量を制御することができる。また、絶縁体微粒子として酸化物(SiO2、Al2O3、及びTiO2の)を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難くなるため、転写前帯電装置を、大気圧中でも安定して動作させることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、表面処理されていてもよい。ここで、上記表面処理は、シラノールまたはシリル基による処理であってもよい。
電子加速層を作製する際、絶縁体微粒子を有機溶媒へ分散させて電極基板に塗布する場合に、粒子表面がシラノール及びシリル基により表面処理されていることにより、絶縁体微粒子の有機溶媒への分散性が向上し、絶縁体微粒子が均一に分散した電子加速層を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子が均一に分散することより、層厚が薄く、表面平滑性が高い電子加速層を形成でき、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。薄膜電極は電気的導通を確保できる厚さであれば薄い程、効率よく電子を放出させることができる。
また、上記微粒子層は、導電微粒子及び塩基性分散剤の少なくとも一方を含んでいてもよい。
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、絶縁体微粒子を主たる構成物質とし、導電微粒子及び塩基性分散剤の少なくとも一方が含まれた微粒子層よりなる電子加速層が設けられている。
導電微粒子を含む構成では、電子加速層は、絶縁体微粒子と導電微粒子とが緻密に集合した層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
一方、塩基性分散剤を含む構成では、電子放出のメカニズムは明確に解析できてはいないが、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、電子加速層内に電流が流れ、その一部が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極側より放出される。ここで、電子放出素子より電子が放出されるのは、塩基性分散剤が有する電子対を供与する電子対供与体が作用しているのではないかと推察している。すなわち、塩基性分散剤は、電子対を供与する電子対供与体を有しており、電子対供与体は電子対を供与後、イオン化する。このイオン化した電子対供与体が、付着している絶縁体微粒子の表面において電荷の受け渡しを行い、絶縁体微粒子の表面における電気伝導が可能になっていると考えられる。
また、絶縁体微粒子を溶媒に分散させるにおいて、必須の要素とも言える分散剤に、金属などの微粒子の機能を担わせているので、製造工程の削減、及び材料費も削減できるといった効果も期待できる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記微粒子層に上記絶縁体微粒子と少なくとも上記導電微粒子が含まれている場合には、上記導電微粒子は、抗酸化力が高い導電体であってもよい。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
電子加速層は、絶縁体微粒子と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
上記構成によると、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、電子放出素子を大気圧中でも安定して動作させることができる。よって、転写前帯電装置の寿命を長くでき、大気中でも長時間連続動作をさせることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化を図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。
導電微粒子の酸化膜が厚くなるとトンネル効果の妨げになるため、導電微粒子を成す導電体は、酸化しにくい金属である必要がある。従って、導電微粒子が、金、銀、白金、ニッケル、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることによって、大気中の酸素による酸化をより効果的に防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子の平均粒径は、3〜10nmであるのが好ましい。このように、上記導電微粒子の平均粒径を、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよい。このように、上記電微粒子の周囲に、小絶縁体物質が存在することは、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする電子放出素子の劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記小絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいると、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
ここで、本発明の転写前帯電装置では、上記小絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、該付着物質は、上記導電微粒子の平均粒径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均粒径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。その結果、転写前帯電装置の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記微粒子層に上記絶縁体微粒子と少なくとも塩基性分散剤とが含まれている場合には、上記塩基性分散剤は、立体反発効果により上記絶縁体微粒子を分散させる高分子体に、電子対を供与する電子対供与体が置換基として導入されてなるものであってもよい。
立体反発効果により前記絶縁体微粒子を分散させる高分子体を有することで、絶縁体微粒子の分散性を良好にすることができ、電子加速層として均一な微粒子層を形成することが可能となる。これにより、電子放出素子における作成バラツキを少なく抑えることができる。
ただし、このような塩基性分散剤の添加量には最適値があり、添加量が多すぎる場合には、塩基性分散剤の有する高分子体の部分の抵抗成分が素子内電流を流れ難くしてしまい、電子放出素子からの電子放出を低下させる虞がある。一方、添加量が少なすぎると、電子加速層を流れる電流量が十分得られず、電子放出素子からの電子放出がまったく得られなくなる。塩基性分散剤の最適な添加量は絶縁体微粒子との関連から設計事項となり、この添加量を適切に制御することで、電子放出素子からの十分な電子放出を得ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置は、上記課題を解決するために、像担持体上のトナー像を中間転写体に転写する中間転写手段と、該中間転写体上のトナー像を被転写材に転写する転写手段と、を備えた画像形成装置の、上記被転写材に転写する前の上記中間転写体上のトナー像を帯電する転写前帯電装置において、電極基板、薄膜電極、及び該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記中間転写体との間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記中間転写体と対向して配置され、上記電子加速層は、層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されていることを特徴としている。
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出し、その電子により中間転写体上のトナー像を帯電する。この電子放出素子は、層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されている構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、中間転写方式の画像形成装置において、中間転写体上のトナー像内に帯電量のばらつきがある場合や、中間転写体上のトナー像内の帯電量が小さい場合でも、上記構成の電子放出素子を備えた転写前帯電装置を用いることで、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、本発明の転写前帯電装置は、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
ここで、層状に形成された絶縁体物質は微粒子の集合体ではなく固体の塊として存在するため、電流が流れない絶縁体として機能する。一方、開口部に導電微粒子が収容された部分では、表面抵抗が低下しその部分のみ電流が流れ易くなる。よって、電子加速層に電圧を印加すると、開口部に導電微粒子が収容された部分でのみ、電子放出が生じる。また、この構造を形成するには、微粒子の分散した分散液を均一に塗布する工程を必要としないため、より大面積の電子放出素子を容易に形成可能となる。
本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記絶縁体微物質は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいてもよい。または、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記絶縁体物質は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいてもよい。
上記絶縁体物質が、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いため、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。抵抗値が高くなるに伴い、電子放出素子内の電流が流れにくくなり、電子放出量が少なくなる。逆に抵抗が低くなるに伴い、電子が加速することなく導通し、電子放出量が少なくなる。したがって、抵抗値を調整することによって、電子放出素子内の電流と電子加速とを制御し、電子放出量を制御することができる。また、絶縁体物質として酸化物(SiO2、Al2O3、及びTiO2の)を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難くなるため、転写前帯電装置を、大気圧中でも安定して動作させることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記電子加速層に少なくとも上記導電微粒子が含まれている場合には、上記導電微粒子は、抗酸化力が高い導電体であってもよい。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
電子加速層は、絶縁体物質と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
上記構成によると、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、電子放出素子を大気圧中でも安定して動作させることができる。よって、転写前帯電装置の寿命を長くでき、大気中でも長時間連続動作をさせることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化を図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。
導電微粒子の酸化膜が厚くなるとトンネル効果の妨げになるため、導電微粒子を成す導電体は、酸化しにくい金属である必要がある。従って、導電微粒子が、金、銀、白金、ニッケル、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることによって、大気中の酸素による酸化をより効果的に防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよい。このように、上記電微粒子の周囲に、小絶縁体物質が存在することは、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする電子放出素子の劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記小絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいると、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、転写前帯電装置の長寿命化をより効果的に図ることができる。
ここで、本発明の転写前帯電装置では、上記小絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、該付着物質は、上記導電微粒子の平均粒径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均粒径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、電子放出素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。その結果、転写前帯電装置の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え、上記導電微粒子の平均粒径は、3〜10nmであるのが好ましい。このように、上記導電微粒子の平均粒径を、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、本発明の転写前帯電装置では、上記構成に加え上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質は仕事関数が低いため、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
本発明に係る画像処理装置は、上記課題を解決するために、像担持体上のトナー像を中間転写体に転写する中間転写手段と、
上記中間転写体上のトナー像を被転写材に転写する転写手段と、上記被転写材に転写する前の上記中間転写体上のトナー像を帯電する上記いずれか1つの転写前帯電装置と、を備えたことを特徴としている。
上記構成によると、本発明の転写前帯電装置にて中間転写体上のトナー像を帯電するため、オゾンレスで、均一に帯電させることができ、安定して被転写材上に転写を行え、高品位の画像を得ることが可能な画像形成装を提供することができる。
本発明に係る転写前帯電装置は、以上のように、 電極基板、薄膜電極、及び該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記中間転写体との間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記中間転写体と対向して配置され、上記電子加速層は絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る。
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出し、その電子により中間転写体上のトナー像を帯電する。この電子放出素子は、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る電子加速層を備えた構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、中間転写方式の画像形成装置において、中間転写体上のトナー像内に帯電量のばらつきがある場合や、中間転写体上のトナー像内の帯電量が小さい場合でも、上記構成の電子放出素子を備えた転写前帯電装置を用いることで、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、本発明の転写前帯電装置は、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
ここで、本発明の転写前帯電装置において、電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る構成であるため、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)を制御するという簡易な方法で、安定かつ良好な量の電子放出が可能な素子を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る構成なので、たとえば、微粒子の分散液を塗布するという簡易な製造プロセスで、容易に電子加速層を形成できる。さらに、本発明の転写前帯電装置において、電子放出素子は、絶縁体微粒子の平均粒径や絶縁体微粒子の積粒数(電子加速層の膜厚)により電子放出特性を制御することが可能である。
また、本発明の転写前帯電装置は、以上のように、電極基板、薄膜電極、及び該電極基板と該薄膜電極とに挟まれた電子加速層、を有する電子放出素子と、上記電子加速層にて電子を加速させ、上記薄膜電極から該電子が放出するよう、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する第1電圧印加手段と、上記薄膜電極と上記中間転写体との間に電圧を印加する第2電圧印加手段と、を備え、上記薄膜電極は、上記中間転写体と対向して配置され、上記電子加速層は、層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されている。
上記構成によると、電子放出素子が薄膜電極から電子を放出し、その電子により中間転写体上のトナー像を帯電する。この電子放出素子は、層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されている構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、中間転写方式の画像形成装置において、中間転写体上のトナー像内に帯電量のばらつきがある場合や、中間転写体上のトナー像内の帯電量が小さい場合でも、上記構成の電子放出素子を備えた転写前帯電装置を用いることで、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、本発明の転写前帯電装置は、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
ここで、層状に形成された絶縁体物質は微粒子の集合体ではなく固体の塊として存在するため、電流が流れない絶縁体として機能する。一方、開口部に導電微粒子が収容された部分では、表面抵抗が低下しその部分のみ電流が流れ易くなる。よって、電子加速層に電圧を印加すると、開口部に導電微粒子が収容された部分でのみ、電子放出が生じる。また、この構造を形成するには、微粒子の分散した分散液を均一に塗布する工程を必要としないため、より大面積の電子放出素子を容易に形成可能となる。
以下に本発明の実施の形態について図1〜6に基づいて説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
(画像形成装置の構成)
図1は、本発明の実施の一形態である画像形成装置10の中間転写ベルト(中間転写体)21付近の構成を模式的に示す断面図である。画像形成装置10は、いわゆるタンデム式で、かつ、中間転写方式のプリンタであり、伝達される画像情報に応じて、シート材(被転写材)Pに、フルカラーまたはモノクロの画像を形成できる。画像形成装置10は、複写機能、プリンタ機能及びファクシミリ機能を併せ持つ複合機であってもよい。この場合、画像形成装置10は、コピアモード(複写モード)、プリンタモード及びFAXモードの3種の印刷モードを有しており、図示しない操作部からの操作入力、パーソナルコンピュータ、携帯端末装置、情報記録記憶媒体、メモリ装置を用いた外部機器からの印刷ジョブの受信などに応じて、図示しない制御部により、上記いずれかの印刷モードが選択される。
画像形成装置10は、トナー像形成部1と、一次転写部4及び二次転写部2を有する転写部と、を含む。なお、画像形成装置10は、他に、光学系ユニット、給紙部等を備え、さらにこれらの部材を収容する筐体を備えているが、説明は割愛する。
トナー像形成部1は、カラー画像情報に含まれるブラック(b)、シアン(c)、マゼンタ(m)及びイエロー(y)の各色の画像情報にそれぞれ対応するために、4つ設けられる。4つのトナー像形成部1は、それぞれ、感光体11と、帯電手段12と、現像手段13と、クリーニングユニット14とを含む。それぞれの現像手段13には、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色トナーが収容される。本実施形態ではトナーは負帯電しているマイナストナーを用いる。なお、帯電手段12が、後述の転写前帯電装置3と同様に電子放出素子30を備えた構成となっていてもよい。
転写部は、感光体11の上方に配置され、中間転写ベルト(中間転写体)21、駆動ローラ(転写手段)22、駆動ローラ23、一次転写ローラ(中間転写手段)24、転写ベルトクリーニングユニット25、及び二次転写ローラ(転写手段)26を含む。一次転写ローラ24によりトナー像が中間転写ベルト21に転写される領域が一次転写部4であり、二次転写ローラ26によりトナー像がシート材Pに転写される領域が二次転写部2である。二次転写部2のシート材搬送方向上流側には、図2に示すように、中間転写ベルト21上のトナー像Tを帯電するための電子放出素子30を有する転写前帯電装置3が備えられている。この転写前帯電装置3については、後段で詳細する。
中間転写ベルト21は、駆動ローラ22・23によって張架されてループ状の移動経路を形成する無端ベルト状部材である。中間転写ベルト21は図1において矢符Aの方向に回転駆動する。中間転写ベルト21は、半導電性のものを用いる。中間転写ベルト21は、その他は特に制限はなく、一般的な画像形成装置に用いられている半導電性の中間転写ベルトを用いることができる。中間転写ベルト21として、例えば、導電剤としてカーボンブラックを含有させたポリイミド製フィルム、ポリカーボネート製フィルム等を用いることができる。
画像形成装置10による画像形成の工程は次のようになる。まず、感光体11表面を帯電手段12が一様に帯電した後、帯電した感光体11の表面を図示しない光学系ユニットが画像情報に応じてレーザー露光して静電潜像を形成する。続いて、現像手段13が感光体11上の静電潜像をトナーによって現像し、顕像化により得られたトナー像を、トナーとは逆極性のバイアス電圧が印加された一次転写ローラ24が中間転写ベルト21上に転写する。これにより、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、それぞれのトナー像が、それぞれ中間転写ベルト21上に転写される。
その後、中間転写ベルト21上のトナー像Tは、転写前帯電装置3により均一に帯電され、さらに、二次転写部2まで搬送され、別途、図示しない給紙部から給紙されたシート材Pに対して一括転写される。
さらに、二次転写部2の下流には定着装置(図示せず)が設けられており、トナー像Tがシート材Pに定着される。あるいは、駆動ローラ22及び二次転写ローラ26の少なくとも一方が熱源を有しており、二次転写部2にて、二次転写と定着とを同時に行えるようになっていてもよい。その後、トナー像Tが転写定着されたシート材Pは、外部へ排出される。以上により、画像形成工程が終了する。
(転写前帯電装置)
次に、転写前帯電装置3について説明する。図2は、転写前帯電装置3の構成を模式的に示す断面図である。転写前帯電装置3は、電極基板301、薄膜電極302、及び電子加速層303からなる電子放出素子30と、第1電源(第1電圧印加手段)V1と、第2電源(第2電圧印加手段)V2と、を備えている。電子加速層303は、電極基板301と薄膜電極302とにより挟まれて存在している。第1電源V1は、電極基板301と薄膜電極302との間に電圧を印加するものであり、電子放出素子30における電子加速層303内で電子を加速させ、薄膜電極302から電子を放出させるのに用いられる。第2電源V2は、薄膜電極302と中間転写ベルト21との間に電圧を印加するものであり、薄膜電極302から放出された電子を中間転写ベルト21上のトナー像へ付与するのに用いられる。
ここで、図2に示すように、本実施形態では、電子放出素子30は、中間転写ベルト21から5mm下(離れた位置)に備える。つまり、薄膜電極302の電子放出面は、中間転写ベルト21のトナー像形成面と対向して配置される。
図3は、転写前帯電装置3が備える電子放出素子30の斜視断面図である。また、図4は、電子放出素子30の電子加速層303を拡大した模式図である。電子加速層303は、絶縁体微粒子306を含む微粒子層から成る。本発明の別の形態の電子放出素子30aでは、図5に示すように、電子加速層303aは、絶縁体微粒子306を含む微粒子層から成り、この微粒子層は、導電微粒子307を含んでいてもよい。また、本発明のさらに別の形態の電子放出素子30bでは、図6に示すように、電子加速層303bは、絶縁体微粒子306を含む微粒子層から成り、この微粒子層は、塩基性分散剤60を含んでいてもよい。また、絶縁体微粒子306を含む微粒子層が、導電微粒子307及び塩基性分散剤60を含んでいても構わない。
図2に示すように、電子放出素子30(30a,30b以下省略)は、第1電源V1により、電極基板301と薄膜電極302との間、つまり、電子加速層303に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極302を透過あるいは薄膜電極302の隙間から放出させる。そして、第2電源V2から印加された電圧により放出された電子が中間転写ベルト21側に引き寄せられる。
第1電源V1からの印加電圧は、電子放出素子30から安定して電子が放出され、帯電効果を有する程度であればよく、電子放出量は、画像形成装置のプロセススピードや、第2電源V2からの印加電圧に応じて、制御すればよい。
また、第2電源V2からの印加電圧は、中間転写ベルト21上に形成されたトナー像のトナー表面層の電位に合わせて設定する。ここで、電子放出素子30を配置するに当たって、中間転写ベルト21と薄膜電極302との距離は、薄膜電極302から放出された電子を中間転写ベルト21へ付与することができる距離であれば、特に制限されない。しかし、中間転写ベルト21と薄膜電極302との間の電界強度を高くするための、上記距離は小さい方が好ましい。例えば、その距離は、5〜10mmが好ましい。
電極基板301は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層303との界面に金属などの導電性物質を電極として付着さることによって、電極基板として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた貴金属系材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。ただし、これら材料及び数値に限定されることはない。
薄膜電極302は、電子加速層303内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層303内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物及び硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
また、薄膜電極302の膜厚は、電子放出素子30から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極302を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子30から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極302で弾道電子の吸収あるいは、薄膜電極302で弾道電子が反射されて電子加速層303へ再捕獲される現象が生じてしまう。
本発明の転写前帯電装置3が備える電子放出素子30の電子放出機構は、二つの導電体膜の間に絶縁体層が挿入された、所謂MIM型の電子放出素子における動作機構と類似すると考えられる。MIM型の電子放出素子において、絶縁体層へ電界が印加された時に、電流路が形成されるメカニズムは、一般説として、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ、e)絶縁体物質の欠陥に起因する電子のトラップと、そのトラップ電子の形成する局所的な強電界領域等、様々な説が考えられているが、明確にはなっていない。いずれの理由にせよ、本発明の転写前帯電装置3が備える電子放出素子30の構成によると、絶縁体層に相当する絶縁体微粒子306を含む微粒子層よりなる電子加速層303へ電界が印加された時にこの様な電流路の形成と、その電流の一部が電界により加速された結果、弾道電子となり、二つの導電体膜に相当する電極基板301と薄膜電極302のうちの一方である薄膜電極302を通過して、電子が素子外へ放出されると考えられる。
また、図5、図6に示した、微粒子層に、導電微粒子307又は塩基性分散剤60の少なくとも何れか一方が含まれている電子放出素子30a,30bの電子加速層303a,303bでは、電子加速層303a,303bへ電界が印加された時に、次のようなメカニズムで電流路が形成されるのではないかと考えられる。
導電微粒子307を含む電子加速層303aは、絶縁体微粒子306と導電微粒子307とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層303aに電圧を印加すると、電子加速層303a内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
一方、塩基性分散剤60を含む構成の電子加速層303bでは、電子放出のメカニズムは明確に解析できてはいないが、電極基板301と薄膜電極302との間に電圧を印加することで、電子加速層303b内に電流が流れ、その一部が印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって、薄膜電極302側より放出される。ここで、電子放出素子30bより電子が放出されるのは、塩基性分散剤60が有する電子対を供与する電子対供与体が作用しているのではないかと推察している。すなわち、塩基性分散剤60は、電子対を供与する電子対供与体を有しており、電子対供与体は電子対を供与後、イオン化する。このイオン化した電子対供与体が、付着している絶縁体微粒子306の表面において電荷の受け渡しを行い、絶縁体微粒子306の表面における電気伝導が可能になっていると考えられる。
以下、電子加速層303,303a,303bの構成について、説明する。
(電子加速層その1)
電子加速層303は、図4に示すように、絶縁体微粒子306を含む微粒子層から成る。
絶縁体微粒子306は、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。絶縁体微粒子306の材料は、SiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層303の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子306として、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよい。有機ポリマーから成る微粒子としては、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)や、日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。また、絶縁体微粒子306としては、材質の異なる2種類以上の粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよい。さらに、絶縁体微粒子306としては、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
また絶縁体微粒子306の平均粒径は、電子加速層303が、絶縁体微粒子306を含み、かつ、導電微粒子を含まない場合、7〜400nmであるのが好ましい。後述のように、電子加速層303の層厚は1000nm以下であることが好ましいが、絶縁体微粒子306の平均粒径が400nmよりも大きくなると、電子加速層303の層厚を適切な厚みに制御することが困難となる。よって、絶縁体微粒子306の平均粒径は上記範囲であるのが好ましい。なお、この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。
また、絶縁体微粒子306は、表面処理されていてもよい。この表面処理は、シラノールまたはシリル基による処理であってもよい。電子加速層303を作製する際、絶縁体微粒子306を有機溶媒に分散させて電極基板に塗布する場合に、粒子表面がシラノール及びシリル基により表面処理されていることにより有機溶媒への分散性が向上し、絶縁体微粒子306が均一に分散した電子加速層303を容易に得ることができる。また、絶縁体微粒子306が均一に分散することより、層厚が薄く、表面平滑性が高い電子加速層を形成でき、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。薄膜電極302は上記したように電気的導通を確保できる厚さであれば薄い程、効率よく電子を放出させることができる。
電子加速層303の層厚は、電子加速層303が、絶縁体微粒子306を含み、かつ、導電微粒子を含まない場合、絶縁体微粒子306の平均粒径以上であり、1000nm以下であるのが好ましい。電子加速層303の層厚は薄いほど電流が流れやすくなるが、電子加速層303の絶縁体微粒子306が重なり合わず、電極基板301上に均一に一層敷き詰められたときが最小であることから、電子加速層303の最小層厚は構成する絶縁体微粒子306の平均粒径とする。電子加速層303の層厚が絶縁体微粒子306の平均粒径よりも小さい場合は、電子加速層303中に絶縁体微粒子306が存在しない部分が存在する状態ということであり、電子加速層として機能しない。よって、電子加速層303の層厚の下限値としては上記範囲が好ましい。電子加速層303の下限層厚のより好ましい値としては、絶縁体微粒子が2から3個以上積まれた状態と考える。その理由としては、電子加速層303が構成粒子1個分の厚みであると、電子加速層303を流れる電流量は多くなるけれども、リーク電流が多くなり、電子加速層303にかかる電界が弱くなってしまうために効率良く電子を放出することができないからである。また1000nmよりも厚いと、電子加速層303の抵抗が大きくなり、充分な電流が流れず、そのため十分な電子放出量を得ることができない。
なお、電子加速層303の層厚は、絶縁体微粒子306の粒径や、絶縁体微粒子306が溶媒に分散された分散液の濃度(粘度)によって制御されるが、特に後者の影響を大きく受ける。
このような絶縁体微粒子306を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層303を有する電子放出素子30の電子放出機構について説明する。電子放出素子30の電子放出メカニズムは、明確になっていないが、前述したa)〜e)の5つの導電経路形成のメカニズムから、例えば上記e)の解釈を用いると、次のように説明できる。電極基板301と薄膜電極302との間に電圧が印加されると、電極基板301から絶縁体微粒子306の表面に電子が移る。絶縁体微粒子306の内部は高抵抗であることから電子は絶縁体微粒子306の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子306の表面の不純物や絶縁体微粒子306が酸化物の場合に発生することのある酸素欠陥、あるいは絶縁体微粒子306間の接点において、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層303の薄膜電極302近傍では印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって局所的に高電界領域が形成され、その高電界によって電子が加速され、薄膜電極302から該電子が放出されると考えられる。
次に、このような絶縁体微粒子306を含み、かつ、導電微粒子を含まない電子加速層303を有する電子放出素子30製造方法の一実施形態について説明する。まず、絶縁体微粒子306を溶媒に分散させた絶縁体微粒子分散液Aを得る。ここで用いられる溶媒としては、絶縁体微粒子306を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール等を用いることができる。
そして、上記のように作成した絶縁体微粒子分散液Aを電極基板301上にスピンコート法を用いて塗布し、電子加速層303を形成する。スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。電子加速層303は、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも形成することができる。
電子加速層303の形成後、電子加速層303上に薄膜電極302を成膜する。薄膜電極302の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極302は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
(電子加速層その2)
本発明に係る電子加速層の別の形態として、図5に、絶縁体微粒子306と導電微粒子307とを含む電子加速層303aの模式図を示す。
導電微粒子307の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、抗酸化力が高い導電体であると、大気圧動作させた時の酸化劣化を避けることができる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。抗酸化力が高い導電微粒子であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
抗酸化力が高い導電微粒子としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子307は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
ここで、導電微粒子307の平均粒径は、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子307の平均粒径を、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層303a内で、導電微粒子307による導電パスが形成されず、電子加速層303a内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子307を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、電子加速層303a全体における導電微粒子307の割合は、0.5〜30重量%が好ましい。0.5重量%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30重量%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10重量%であることがより好ましい。
なお、導電微粒子307の周囲には、導電微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子307の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子307の平均粒径より小さい形状の集合体として、導電微粒子307の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子307の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子307を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子307の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
また、導電微粒子307は、後述の製造方法において導電微粒子307の分散液を作成する際の分散性の向上のために、表面処理を施されているのが好ましく、その表面処理が上記の絶縁被膜物質を被膜することであってもよい。
絶縁体微粒子306の構成等は、上記と同様で構わないが、電子加速層303aが、絶縁体微粒子306及び導電微粒子307を含む場合には、絶縁体微粒子306の平均粒径は、10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmであることがより好ましい。
また、電子加速層303aには、電極基板301と薄膜電極302との間に印加する電圧が同じである場合、層厚が薄いほど強電界がかかる。したがって、電子加速層303aの層厚は、薄くすることで、電極基板301と薄膜電極302との間に印加する電圧を低く抑えながら、強電界をかけて電子を加速させることができる。一方で、電子加速層303aの層厚は、層厚を均一化できることや、層厚方向における加速層の抵抗調整を可能にする必要もある。これらのことを鑑みて、電子加速層303aの層厚は、12〜6000nmが好ましく、300〜6000nmがより好ましい。
なお、電子加速層303aに導電微粒子307が含まれると、導電微粒子307による絶縁体微粒子306の表面の電気伝導が向上するため、素子の導電性制御が容易になる。
このような電子加速層303aを有する電子放出素子30aの電子放出の原理について、前述の図5を用いて説明する。図5に示すように、電子加速層303aを構成する微粒子層は、その大部分を絶縁体微粒子306で構成され、その隙間に導電微粒子307が点在している。絶縁体微粒子306及び導電微粒子307の比率は、絶縁体微粒子306及び導電微粒子307の総重量に対する絶縁体微粒子306の重量比率が例えば80%に相当する状態である。
このように電子加速層303aは、絶縁体微粒子306と少数の導電微粒子307とで構成されるため、半導電性を有する。よって電子加速層303aへ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層303aの電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層303a内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極302を透過或いはその隙間を通過して電子放出素子30aの外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
次に、このような導電微粒子307にて、絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にする電子放出素子30aの製造方法の一実施形態について説明する。まず、電極基板301上に、絶縁体微粒子306と導電微粒子307とを分散させた微粒子分散液Bを得る。ここで、分散液に用いる溶媒としては、絶縁体微粒子306と導電微粒子307とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。また、導電微粒子307の分散性を向上させる目的で、事前処理としてアルコラート処理を施すとよい。
そして、上記のように作成した微粒子分散液Bを電極基板301上にスピンコート法を用いて塗布し、電子加速層303aを形成する。スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。電子加速層303aは、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも形成することができる。なお、この電子加速層の製造方法は単なる一実施形態であり、例えば、絶縁体微粒子層上に導電微粒子を添加するといったような、他の方法で製造してもよい。
電子加速層303aの形成後、電子加速層303a上に薄膜電極302を成膜する。薄膜電極302の成膜は、上記と同様である。
(電子加速層その3)
本発明に係る電子加速層のさらに別の形態として、図6に、絶縁体微粒子306と塩基性分散剤60とを含む電子加速層303bの模式図を示す。
塩基性分散剤60は、溶媒中における絶縁体微粒子306の凝集を防ぎ、絶縁体微粒子306を分散させるためのものであるが、ここでは、凝集し易い絶縁体微粒子306の溶媒への分散を良好にして、電極基板301表面に極めて平滑な微粒子層の形成を実現する分散剤としての本来の機能と、絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にするといったさらなる機能とを有する。
塩基性分散剤60は、高分子と、該高分子の一部に導入された電子対供与体とを有する。高分子が、立体反発効果によって分散性を付与する。図6においては、参照符号15にて、絶縁体微粒子306相互間に形成される立体障害となる領域を示す。電子対供与体は、絶縁体微粒子306に吸着するアンカーとしての役割を果たす。また、電子対供与体は、電子対を供与したことで、プラスイオンとなり、イオン電導を可能にする。絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にする機能は、塩基性分散剤60における上記イオン電導を可能にする部分が、電荷の受け渡しをしているためと考えられる。また、塩基性分散剤60のイオン電導部分は、電気的に互いに反発し合うため、絶縁体微粒子の分散性にも寄与する。
電子対供与体部分は、電子供与基から成る特定の置換基であり、上記置換基としては、例えば、π電子系であるフェニル基やビニル基、そしてアルキル基、アミノ基等である。
本発明に適用できる塩基性分散剤60の市販品を例示すると、アビシア社製の商品名:ソルスパース9000、13240、13940、20000、24000、24000GR、24000SC、26000、28000、32550、34750、31845等の各種ソルスパース分散剤、ビックケミー社製の商品名:ディスパービック106、112、116、142、161、162,163、164、165、166、181、182、183、184、185、191、2000、2001、味の素ファインテクノ社製の商品名:アジスパーPB711、PB411、PB111、PB821、PB822、エフカケミカルズ社製の商品名:EFKA−47、4050等を挙げることができる。
電子加速層303bにおける塩基性分散剤60の含有量は、電子放出量と相関のある電子放出素子30bの素子内電流の流れ易さに関係するため、電子放出量を制御する上で、重要な制御因子の一つである。
電子加速層303bへの塩基性分散剤60の添加は、電子加速層303bを構成する絶縁体微粒子306を溶媒中に分散する過程で行う。つまり使用する溶媒に必要量の塩基性分散剤60を投入して分散した分散剤含有溶媒に絶縁体微粒子306を加え、絶縁体微粒子306の十分な分散を行うことで、絶縁体微粒子306の表面に塩基性分散剤60を付着させる。絶縁体微粒子306の表面における分散剤の付着量は、溶媒に対する分散剤の投入量を操作することで制御可能である。しかしながら、分散剤の投入量と、分散剤の添加後に得られる電子加速層303bの電流の流れ易さは一対一の関係ではなく、ある添加量に電流の流れ易さのピークを持つ特性を有する。添加量が少ない場合には、電子の担い手が少ないため、当然ながら電子加速層303bを流れる電流量は小さくなる。一方、添加量が多すぎる場合には、塩基性分散剤の有する高分子の成分が、素子内を流れる電流に対して抵抗成分として強く作用してしまい、電流値を小さくしてしまう。
このように、塩基性分散剤60の添加量には最適値があり、素子内に流れる電流量を鑑みて、最適に設定するものであるため、一概にはいえないが、絶縁体微粒子306が分散された分散溶液を滴下してスピンコート法で電子加速層303bを成膜する条件において、溶媒に対する塩基性分散剤60の添加量にて規定すると、添加量0.4〜10wt%が好ましく、より好ましくは1〜5wt%以下である。
溶媒に対する添加量が0.4wt%未満となると、電子加速層303bを流れる電流量が十分に得られず、電子放出素子からの電子放出をまったく得ることができない虞がある。より好ましい1wt%以上とすることで、電子放出素子からの電子放出を安定して得ることができる。一方、添加量の上限であるが、10%を超えると、塩基性分散剤60の有する高分子の部分の抵抗成分が素子内電流を流れ難くしてしまい、電子放出素子からの電子放出を低下させる虞がある。添加量の下限をより好ましい5wt%以下とすることで、電子放出素子30bからの電子放出を低下させることなく得ることができるといった効果がある。
塩基性分散剤60にて、絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にする電子放出素子30bでは、スピンコート法などの安価な製法で電子加速層303bを形成しても、電子加速層303bにおいて絶縁破壊が生じる虞のない電子放出素子30bを提供することができる。しかも、絶縁体微粒子を溶媒に分散させるにおいて、必須の部材とも言える分散剤に、金属などの微粒子の機能を担わせているので、製造工程の削減、及び材料費も削減できる。
絶縁体微粒子306の構成等は、上記と同様で構わないが、電子加速層303bが、絶縁体微粒子306及び塩基性分散剤60を含む場合には、絶縁体微粒子306の平均粒径は10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmであることがより好ましい。
また、電子加速層303bの層厚は、電子加速層303aと同様に、12〜6000nmが好ましく、300〜2000nmがより好ましい。
このような塩基性分散剤60にて、絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にする電子放出素子30bにおける電子放出の原理について、前述の図6を用いて説明する。
図6に示すように、電子加速層303bは、その大部分を絶縁体微粒子306で構成され、絶縁体微粒子306の表面に塩基性分散剤60が付着している。これにより、絶縁体微粒子306の表面に塩基性分散剤60からなる立体障害領域15が形成され、絶縁体微粒子306の溶媒への分散を良好にする。また、絶縁体微粒子306は絶縁性であるが、その表面に付着した塩基性分散剤60のイオン電導部分が、電荷の受け渡しを行うことで、電子加速層303bは半導電性を有する。したがって、電極基板301と薄膜電極302との間に電圧を印加すると、電子加速層303bに極めて弱い電流が流れる。電子加速層303bの電圧電流特性は、所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層303b内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極302を通過(透過)して、又は薄膜電極302に孔(隙間)がある場合は、その孔から、外部へと放出される。道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
次に、このような塩基性分散剤60にて、絶縁体微粒子306の表面の電気伝導を可能にする電子放出素子30bにおける製造方法の一実施形態について説明する。分散溶媒に、塩基性分散剤60を投入し、超音波分散器にかけて塩基性分散剤60を分散させた後、絶縁体微粒子306を投入して、再び超音波分散器にかけて絶縁体微粒子306を分散させ、絶縁体微粒子分散液Cを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。
ここで、分散溶媒としては、塩基性分散剤60との合性がよく、絶縁体微粒子306を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。分散溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。
そして、上記のように作成した絶縁体微粒子分散液Cを、電極基板301上に塗布して、電子加速層303bを形成する。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。絶縁体微粒子分散液Cを電極基板301上に滴下し、スピンコート法を用いて、電子加速層303bとなる薄膜を形成する。電極基板301上への絶縁体微粒子分散液Cの滴下、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。電子加速層303bの成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。なお、この電子加速層の製造方法は単なる一実施形態であり、例えば、絶縁体微粒子層上に塩基性分散剤を添加するといったような、他の方法で製造してもよい。
そして、電子加速層303bの形成後、電子加速層303b上に薄膜電極302を成膜する。薄膜電極302の成膜は、上記と同様である。
以上のように、本実施形態の転写前帯電装置3では、電子放出素子30(30a,30b)が薄膜電極から電子を放出し、その電子により中間転写体上のトナー像を帯電する。電子放出素子30(30a,30b)は、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る電子加速層303(303a,303b)を備えた構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、中間転写方式の画像形成装置10において、中間転写体上のトナー像内に帯電量のばらつきがある場合や、中間転写体上のトナー像内の帯電量が小さい場合でも、上記構成の電子放出素子30(30a,30b)を備えた転写前帯電装置3を用いることで、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、本実施形態の転写前帯電装置3は、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
また、本実施形態の画像形成装置10は、転写前帯電装置3を有することで、安定して被転写材上に転写を行え、高品位の画像を得ることが可能である。
ここで、上記では、電子加速層が、絶縁体微粒子を含む微粒子層から成る構成として説明したが、絶縁体微粒子を含む微粒子層の代わりに、電子加速層は、層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されているという構成であってもよい。ここで、層状に形成された絶縁体物質としては、例えば、有機ポリマーから成るシート基板を用いてもよい。但しこのシート状基板には厚さ方向を貫通する複数の微細孔を有する必要がある。このような用件を満たす材料として、例えば、ワットマンジャパン株式会社の製造販売するメンブレンフィルターニュークリポア(ポリカーボネート製)が有用である。
この場合、電子放出素子は層状に形成された絶縁体物質から成り、該絶縁体物質は層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有し、該開口部には導電微粒子が収容されている構成であり、オゾンやNOx等の有害物質を生成することはない。よって、上記と同様に、完全オゾンレスで中間転写体上のトナー像を均一に帯電させることができる。そのため、トナー像を転写材に転写するときの転写効率の低下や転写ムラを引き起こすことなく、トナー像を転写材に安定して安全に転写することができる。
以下に本発明に係る実施例及び比較例を示す。
(実施例)
本実施例の転写前帯電装置の電子放出素子は、次のように作製した。電極基板301としてSUS基板、薄膜電極302として金(Au)、導電微粒子307として応用ナノ粒子研究所製の銀ナノ粒子(銀平均粒径10nm、うち絶縁被膜アルコラート1nm厚)、絶縁体微粒子306として平均粒径110nmの疎水性シリカを用いた。
銀ナノ粒子と疎水性シリカとを、配合比1:9、固形分20wt%でトルエン中に分散させ、SUS基板上にスピンコートで塗布し、電子加速層303aを形成した。ここで、SUS基板は10mm×50mm角で厚さ1mmのものを用いた。また、電子加速層303aは層厚が780nmとなるように形成した。
このようにSUS基板上に電子加速層303aを形成後、電子加速層上に膜厚が40nmになるように金をスパッタして薄膜電極302を形成し、電子放出素子30aを作製した。
上記のようにして得られた電子放出素子30aを中間転写ベルト21の鉛直方向5mm下(離れた位置)に6個、それぞれ画像領域の幅で並べた。そしてこれらの電子放出素子30aには、第1電源V1により15Vの電圧を印加し、定電流駆動によって常に電子放出電流量が0.33μA・cm−2になるように設定した。なお、配置した電子放出素子30a全てが、それぞれ電子放出電流量が0.33μA・cm−2になるように設定した。また、第2電源V2により薄膜電極302と中間転写ベルト21との間に100Vの電圧を印加した。なお、ここでは、薄膜電極302が−100V、中間転写ベルト21がグランド(0V)となるようにした。このようにして、本実施例の画像形成装置として、電子放出素子を有する転写前帯電装置を備えた画像形成装置を構成した。
なお、中間転写ベルト21には、厚さ150μmのカーボンブラックを含有させたポリイミド製フィルムを用い、ベルト幅は34cmとした。
そして、本実施例の画像形成装置にて、中間転写ベルト21上のトナー像を電子放出素子30aにて帯電させてから転写材にトナー像を転写し、その転写効率を測定した。このときプロセススピードは、0.3m/s(50枚機相当)とした。測定の結果、転写効率は95%であり、かつ画像ムラも発生しなかった。
(比較例1)
比較例1の画像形成装置では、電子放出素子を用いた転写前帯電装置を設置しなかったこと以外は実施例1と同様の構成にて、中間転写ベルト上のトナー像を転写材に転写し、その転写効率を測定した。結果、転写効率は75%でかつ画像ムラが発生した。
(比較例2)
比較例2の画像形成装置では、電子放出素子を用いた転写前帯電装置の代わりにコロナ帯電装置を設置したこと以外は実施例1と同様の構成にて、中間転写ベルト上のトナー像を転写材に転写し、その転写効率を測定した。結果、転写効率は90%であったが、オゾン臭が発生した。なお、コロナ帯電装置の設置、操作条件は、特許文献1と同一とした。
以上から、本発明の転写前帯電装置は、オゾンレスで均一に帯電させ、中間転写体上のトナー像を安定して被転写材上に転写できることがわかる。
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。