〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について説明する。図2は、本実施形態の転写前帯電装置2・3を備えた画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。この画像形成装置100は、いわゆるタンデム式で、かつ、中間転写方式のプリンタであり、フルカラー画像を形成することができる。
図2に示すように、画像形成装置100は、4色(C・M・Y・K)分の可視像形成ユニット50a〜50d、転写ユニット40、及び定着装置14を備えている。
転写ユニット40は、中間転写ベルト15(像担持体)と、この中間転写ベルト15の周囲に配置された4つの一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、及び転写用クリーニング装置17とを備えている。
中間転写ベルト15は、可視像形成ユニット50a〜50dによって可視化された各色のトナー像が重ね合わせて転写されるとともに、転写されたトナー像を記録紙に再転写するためのものである。具体的には、中間転写ベルト15は無端状のベルトであり、一対の駆動ローラ及びアイドリングローラによって張架されているとともに、画像形成の際には所定の周速度(本実施形態では124mm/s)に制御されて搬送駆動される。
一次転写装置12a〜12dは、可視像形成ユニット50a〜50dごとに設けられており、それぞれの一次転写装置12a〜12dは、対応する可視像形成ユニット50a〜50dと中間転写ベルト15を挟んで反対側に配置されている。二次転写前帯電装置3は、中間転写ベルト15に重ね合わせて転写されたトナー像を再帯電させるためのものであり、詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
二次転写装置16は、中間転写ベルト15上に転写されたトナー像を、記録紙に対して再転写するためのものであり、中間転写ベルト15に接して設けられている。転写用クリーニング装置17は、トナー像の再転写が行われた後の中間転写ベルト15の表面をクリーニングするためのものである。
なお、転写ユニット40の中間転写ベルト15の周囲には、中間転写ベルト15の搬送方向上流から一次転写装置12a〜12d、二次転写前帯電装置3、二次転写装置16、転写用クリーニング装置17の順で各装置が配置されている。
二次転写装置16の記録紙搬送方向下流側には、定着装置14が設けられている。定着装置14は、二次転写装置16によって記録紙上に転写されたトナー像を記録紙に定着させるためのものである。
また、中間転写ベルト15には、4つの可視像形成ユニット50a〜50dがベルトの搬送方向に沿って接して設けられている。4つの可視像形成ユニット50a〜50dは、用いるトナーの色が異なっている点以外は同一であり、それぞれ、イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)・ブラック(K)のトナーが用いられている。以下では、可視像形成ユニット50aのみについて説明し、その他の可視像形成ユニット50b〜50dについては説明を省略する。
可視像形成ユニット50aは、感光体ドラム(像担持体)1と、この感光体ドラム1の周りに配置された潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット(図示せず)、現像装置11、一次転写前帯電装置2、クリーニング装置13などを備えている。
潜像用帯電装置4は、感光体ドラム1の表面を所定の電位に帯電させるためのものである。潜像用帯電装置4の詳細については後述するが、本実施形態では、潜像用帯電装置4によって発生するイオンを用いて感光体ドラム1を帯電させるようになっている。
レーザ書き込みユニットは、外部装置から受信した画像データに基づいて、感光体ドラム1にレーザ光を照射(露光)し、均一に帯電された感光体ドラム1上に光像を走査して静電潜像を書き込むものである。
現像装置11は、感光体ドラム1の表面に形成された静電潜像にトナーを供給し、静電潜像を顕像化してトナー像を形成するものである。一次転写前帯電装置2は、感光体ドラム1の表面に形成されたトナー像を転写前に再帯電させるためのものであり、詳細については後述するが、本実施形態では、イオンを放出することによってトナー像を帯電させるようになっている。
クリーニング装置13は、中間転写ベルトにトナー像を転写した後の感光体ドラム1上に残留したトナーを除去・回収して感光体ドラム1上に新たな静電潜像およびトナー像を記録することを可能にするものである。
なお、可視像形成ユニット50aの感光体ドラム1の周囲には、感光体ドラム1の回転方向上流から、潜像用帯電装置4、レーザ書き込みユニット、現像装置11、一次転写前帯電装置2、一次転写装置12a、クリーニング装置13の順で各装置が配置されている。
次に、画像形成装置100の画像形成動作について説明する。
まず、画像形成装置100は、外部装置から画像データを取得する。また、画像形成装置100の図示しない駆動ユニットが、感光体ドラム1を図2に示した矢印の方向に所定の速度(ここでは124mm/s)で回転させるとともに、潜像用帯電装置4が感光体ドラム1の表面を所定の電位に帯電させる。
次に、取得した画像データに応じてレーザ書き込みユニットが感光体ドラム1の表面を露光し、感光体ドラム1の表面に上記画像データに応じた静電潜像の書き込みを行う。続いて、感光体ドラム1の表面に形成された静電潜像に対して、現像装置11がトナーを供給する。これにより、静電潜像にトナーを付着させてトナー像が形成される。
そして、一次転写装置12aが、感光体ドラム1の表面に形成されたトナー像とは逆極性のバイアス電圧が印加されることにより、トナー像を中間転写ベルト15へ転写する。
可視像形成ユニット50a〜50dがこの動作を順に行うことにより、中間転写ベルト15には、Y,M,C,Kの4色のトナー像が順に重ねあわされていく。
重ねあわされたトナー像は、中間転写ベルト15によって二次転写前帯電装置3まで搬送され、搬送されたトナー像に対して、二次転写前帯電装置3が再帯電を行う。そして、再帯電が行われたトナー像を担持する中間転写ベルト15を、二次転写装置16が図示しない給紙ユニットから給紙された記録紙に対して圧接することにより、記録紙にトナー像が転写される。
その後、定着装置14がトナー像を記録紙に定着させ、画像の記録された記録紙が排紙ユニット(図示せず)に排出される。なお、上記の転写後に感光体ドラム1上の残存したトナーはクリーニング装置13によって、また、中間転写ベルト15上の残存したトナーは転写用クリーニング装置17によって除去・回収される。
以上の動作により、記録紙に適切な印刷を行うことができる。
次に、帯電装置の構成について詳細に説明する。上述した一次転写前帯電装置2、二次転写前帯電装置3、潜像用帯電装置4は、設置する位置が異なっている点以外は同一であり、同じ装置となっている。以下では、一次転写前帯電装置2の詳細を説明し、二次転写前帯電装置3、潜像用帯電装置4については詳細な説明を省略する。
図3は一次転写前帯電装置2の側面図であり、図4は一次転写前帯電装置2の正面図(長手方向から見た図)である。
図3に示すように、一次転写前帯電装置2は、マイナスイオン発生素子20、シールドケース(イオン拡散規制部材)23、固定抵抗(電気抵抗器)24、高圧電源(電圧印加手段)25、電圧制御部(電圧制御手段)31を備えている。
マイナスイオン発生素子20は、複数(ここでは32本)の針状のイオン発生針(帯電用電極)21を金属製(ここではステンレス製)のベースフレーム22に所定のピッチpで配置した構成となっている。各イオン発生針21は、直径1mm、先端曲率半径15μmのタングステン(純度99.999%)であり、各イオン発生針21の先端は感光体ドラム1の方向を向いており、各イオン発生針21間のピッチpは10mmである。
そして、マイナスイオン発生素子20は、各イオン発生針21が直径30mmの感光体ドラム1に近接するように配置されており、各イオン発生針21と感光体ドラム1とのギャップgは10mmである。
高圧電源25のマイナス端子は、抵抗値200MΩの固定抵抗24を介してベースフレーム22に接続されている。これにより、ベースフレーム22に取り付けられたイオン発生針21に所定の直流電圧が印加される。このように、高圧電源25によってマイナスイオン発生素子20に所定の直流電圧を印加することで、マイナスイオンを発生させ、感光体ドラム1上のトナー像を所定の帯電量(ここでは約−20μC/g)に帯電させるようになっている。なお、本実施形態では、画像形成時の高圧電源25によるベースフレーム22への初期印加電圧Va0が−6.5kVである。
また、高圧電源25には電圧制御部31が接続されている。電圧制御部31は、高圧電源25の印加電圧Vaの大きさを制御するものである。具体的には、電圧制御部31は、高圧電源25の印加電圧Vaを段階的に変化させながら感光体ドラム1の表面を流れる電流の値を計測し、この電流の値が目標値になるような高圧電源25の印加電圧Vaを求めるとともに、印加電圧Vaが求めた値となるようにフィードバック制御する。
感光体ドラム1の表面を流れる電流の大きさはトナー像の帯電量と相関する。従って、感光体ドラム1の表面の電流を一定の目標値に保つことによって、トナー像の帯電量も一定の値となるのである。
このように、高圧電源25の印加電圧Vaの大きさを、感光体ドラム1を流れる電流の大きさに基づいてフィードバック制御することにより、イオン発生針21の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、マイナスイオンの発生量や、発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動しても、常に最適な量のマイナスイオンをトナー像に供給できるようになっている。
また、マイナスイオン発生素子20の周囲には、感光体ドラム1側に開口部(本実施形態では開口部の幅w=26mm)を有し、開口部とは反対面に空気取入口28を有する断面がコの字形のシールドケース23が設置されている。このシールドケース23は、樹脂等からなる絶縁性材料あるいは高抵抗材料(帯電用電極21においてコロナ放電を生じさせない抵抗値を有する材料)からなる。換言すれば、このシールドケース23は、樹脂等からなる絶縁性材料あるいは高抵抗材料(帯電用電極21により生じる電荷の移動によってオゾン発生量が急増することのない抵抗値を有する材料)からなる。なお、後述する実験に示すように、このシールドケース23の材料としては、例えば絶縁性ABS樹脂を用いることができる。
このシールドケース23を設けることにより、マイナスイオン発生素子20によって生成されたマイナスイオンの拡散を抑制し、マイナスイオンを感光体ドラム1の方向に導くことで、イオンの利用効率を向上することができる。その結果、例えば、ギャップgを25mm以上に設定した場合でも、ギャップg=5mmの場合の50%以上のマイナスイオン量(密度)を確保することができる。また、一次転写前帯電装置2周辺の部材が不必要に帯電してしまうことを抑制することができる。
また、上述のように、シールドケース23は電気的に絶縁、もしくは高抵抗であるため、マイナスイオン発生素子20とシールドケース23との間隔が短くても、シールドケース23に対してコロナ放電が発生してしまうことを防止できる。換言すれば、シールドケース23に対する電荷の移動により、オゾン発生量が急増することを防止することができる。このシールドケース23は電気的にフローティングであるが、シールドケース23に電荷が蓄積され、イオン発生効率が低下する場合には、蓄積した電荷を逃がすようにアースに接続してもよい。
なお、一次転写前帯電装置2は、イオン発生針21と感光体ドラム1との間に、さらにグリッド電極(制御用電極)が設けられていてもよい。グリッド電極を設け、これに高圧電源(第2電圧印加手段)で電圧を印加することにより、余剰のイオンをグリッド電極で回収し、被帯電物に放出されるイオン量を均一化できるため、イオン発生針21のピッチに起因する長手方向の帯電ばらつきを低減し、被帯電物の表面電位をより適切に制御できる。
次に、転写前帯電装置2・3や潜像用帯電装置4による、マイナスイオンを用いた帯電のメカニズムについて説明する。図1は、転写前帯電装置2・3や潜像用帯電装置4による帯電のメカニズムを示す図である。
イオン発生針21の先端部は先端曲率半径が非常に小さいため、高電圧が印加されると、イオン発生針21の先端部周辺に非常に強い電界が形成される。ただし、従来のコロナ放電方式の帯電装置と比べると、被帯電物(帯電対象物)である感光体ドラム1や中間転写ベルト15などの像担持体とのギャップgが大きいために、イオン発生針21と像担持体との間の電界強度は小さく、像担持体に対して電子が放出されるまでには至らない。しかしながら、イオン発生針21の先端部周辺に形成される強電界の作用により、空気中の分子(酸素分子や窒素分子、二酸化炭素分子など)はプラスイオンと電子に電離する。そして、電離した電子は空気中の分子と結合(電子付着)することでマイナスイオンとなる。なお、プラスイオンの一部はイオン発生針21で電荷を供給して分子に戻り、一部は大地に帰還する。
発生したマイナスイオンは、イオン発生針21の先端部と像担持体との間に形成される電気力線に沿って、像担持体側に放出される。ただし、従来のコロナ放電方式の帯電装置に比べると形成される電界が弱いため、発生したイオン全てが感光体ドラム1方向に放出される訳ではなく、感光体ドラム1の方向とは異なる方向に拡散されるイオンも一部には存在する。そして、感光体ドラム1の表面に到達したマイナスイオンにより、感光体ドラム1が所定の電位に帯電される。
なお、グリッド電極が設置されている場合、イオン発生針21の先端部とグリッド電極との間にも電気力線が形成されるので、発生したマイナスイオンはグリッド電極に向けても放出される。そして、マイナスイオンにより像担持体の表面電位が上昇(帯電)した部分では、余剰なマイナスイオンがグリッド電極に補足され電荷(電子)を供給するため、像担持体表面の電位はほぼ一定に制御されることになる。
本実施形態の転写前帯電装置2・3や潜像用帯電装置4によれば、イオン発生の際のエネルギーは従来のコロナ放電よりも遥かに小さい。したがって、窒素分子や酸素分子の解離も従来のコロナ放電の場合よりも遥かに少なく、NOxやオゾンの発生を大幅に低減することができる。また、コロナ風もほとんど生じないので、トナー像が乱されることもない。
次に、コロナ放電による電子に代わりにマイナスイオンを感光体ドラム1に対して放出することで、感光体ドラム1をマイナスに帯電させることができることを確認するために行った実験の結果について説明する。
[実験1]
まず、図5に示すマイナスイオン発生素子20aを準備した。
マイナスイオン発生素子20aは、複数(ここでは3本)の針状のイオン発生針21を金属製(ここではステンレス製)のベースフレーム22に固定した構成となっている。イオン発生針21は、直径1mm、先端曲率半径15μmのタングステン(純度99.999%)からなり、各イオン発生針21間のピッチは10mmに設定している。
このマイナスイオン発生素子20aを、周囲1m四方に後述する空気吸入口以外は何も無い空間に設置し、高圧電源25のマイナス端子側にマイナスイオン発生素子20aを接続した場合、および高圧電源25のマイナス端子側に抵抗値200MΩの固定抵抗24を介してマイナスイオン発生素子20aを接続した場合について、電圧を印加したときのマイナスイオンの発生量、オゾン発生量、並びにその時の電流量を測定した。つまり、マイナスイオン発生素子20aと高圧電源25との間に抵抗値200MΩの固定抵抗24を挿入した場合と、挿入しなかった場合の2通りについて実験を行った。なお、高圧電源25としてTrek社製MODEL610C、マイナスイオン測定器として佐藤商事社製AIC−2000、オゾン測定器として荏原実業社製オゾンモニターEG2002Fを使用し、マイナスイオンはイオン発生針21から150mm離れた位置、オゾン量はイオン発生針21から10mm離れた位置に空気吸入口を設置して測定を行った。
図6(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合の実験結果、図6(b)は固定抵抗24を挿入した場合の実験結果を示すグラフである。
図6(a)に示すように、固定抵抗24を挿入しなかった場合、印加電圧−2.5kVからマイナスイオンが発生し始めた。また、図6(b)に示すように、固定抵抗24を挿入した場合、印加電圧−2kVからマイナスイオンが発生し始めた。また、固定抵抗24を挿入しなかった場合も挿入した場合も、印加電圧の上昇(印加電圧の絶対値の上昇)とともにマイナスイオン量(イオン発生量)は急増し、ほぼ1×107個/ccで飽和した。また、固定抵抗24を挿入しなかった場合も挿入した場合も、オゾンはほとんど発生しなかった。
この結果から、図5のような針状のマイナスイオン発生素子20aに、周囲に放電対象物の無い状態で高電圧を印加すれば、オゾンの発生をほとんど伴うことなく、マイナスイオンを大量に生成できることがわかる。
なお、固定抵抗24を挿入しなかった場合よりも挿入した場合の方が、マイナスイオン発生開始電圧の大きさが若干低くなる理由は、イオンの発生は大気を仮想のプラス電極として、大気とイオン発生針21との間の電位差により生じていると考えられるが、この大気のインピーダンスが非常に不安定なため、固定抵抗24が無い場合、低い印加電圧でイオンの発生が開始される領域ではイオンの発生が不安定になるのに対し、固定抵抗24を挿入すれば、大気のインピーダンスを含んだトータルでのインピーダンスが安定するので、イオンの発生自体も安定するためと考えられる。
次に、固定抵抗24を挿入し、印加電圧を−3kVとし、イオン発生針21からの距離Lとマイナスイオン量(密度)との関係を測定した。図7はその結果を示すグラフであり、L=5mmの時のマイナスイオン量を100%として、L>5mmにおけるマイナスイオン量を相対的に示したものである。
この図に示すように、マイナスイオンの密度は、Lが大きくなるほど小さくなった。なお、図7に示すように、L≦25mmの位置であれば、L=5mmの位置におけるマイナスイオン量(密度)に対して50%以上のマイナスイオン量(密度)を確保できることがわかる。
[実験2]
次に、上記したマイナスイオン発生素子20aによる感光体ドラム1の帯電特性を実験により測定した。まず、実験装置について図8を用いて説明する。
任意の周速で回転可能に支持された直径30mm、膜厚30μmの有機感光体(OPC)からなる感光体ドラム1に対し、所定のギャップgだけ離れた位置にマイナスイオン発生素子20aを配置した。なお、マイナスイオン発生素子20aを感光体方向に変位可能なステージ(図示せず)上に配置することで、ギャップgを0〜30mmの範囲で任意に設定できるようにした。また、マイナスイオン発生素子20aを流れる電流(トータル電流)を電流計A1により測定した。
また、マイナスイオン発生素子20aのイオン発生針21と感光体ドラム1の間には、厚さ0.1mmのステンレス製からなるグリッド電極26を配置した。なお、グリッド電極26と感光体ドラム1との間の間隔は、1.5mmで固定した。グリッド電極26は高圧電源27のマイナス端子に接続され、任意の電圧を印加できるように構成した。また、グリッド電極26を流れる電流(グリッド電流)を電流計A2にて測定した。
さらに、感光体ドラム1におけるマイナスイオン発生素子20aとの対向位置からこの感光体ドラム1の回転方向に対して下流側90°の位置に、表面電位計プローブ30を配置し、感光体ドラム1の表面電位を測定できるよう構成した。なお、表面電位計プローブ30は、感光体ドラム1の長手方向にスキャン可能なステージ(図示せず)上に設置することで、感光体ドラム1の周方向だけでなく、長手方向の表面電位プロファイルも測定可能なように構成した。また、表面電位計としてはTereK社製MODEL344を使用し、感光体ドラム1の周速は124mm/sとした。また、イオン発生量やオゾン発生量について実験1と同様に測定を行い、感光体ドラム1を流れる電流を電流計A3によって測定した。
なお、実験条件としては、ギャップg=20mm、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧−7.7kV、グリッド電極26への印加電圧−900Vとし、グリッド電極26を挿入した場合と挿入しなかった場合についてそれぞれ実験した。
図9は、この実験結果を示すグラフであり、グリッド電極26が有る場合および無い場合における、感光体ドラム1の長手方向についての表面電位プロファイルを比較した結果を示している。表1は、マイナスイオン発生量およびオゾン発生量を測定した結果を示している。なお、図9の横軸は感光体ドラム1の長手方向に対する距離を示しており、縦軸は感光体ドラム1の表面電位を示している。横軸の感光体ドラム1の長手方向に対する距離については、上記した3本のイオン発生針21を感光体ドラム1の長手方向に沿って配置し、感光体ドラム1における中央のイオン発生針21に対向する位置を0として示している。
図9に示したように、グリッド電極26の有り無しに関わらず、感光体ドラム1の表面は帯電された。また、表1に示したように、マイナスイオンは十分な量(18,000,000個/cc)が発生しているものの、オゾンはほとんど発生していなかった(0.002ppm〜0.003ppm)。コロナ放電が発生した場合にはオゾンが大量に発生するはずであるが、この実験ではオゾンがほとんど発生しなかったことから、この実験において感光体ドラム1の帯電に寄与しているのは、コロナ放電ではなくマイナスイオンであることがわかる。つまり、マイナスイオンによって感光体ドラム1を十分に帯電させることができることがわかる。
また、図9に示したように、グリッド電極26を設置しなかった場合には、3本のイオン発生針21の位置に応じて表面電位にばらつき(3つのピーク)が存在するものの、グリッド電極26を設置した場合には、このばらつきが減少することから、グリッド電極26を設けることによって表面電位のばらつきを抑制して表面電位の制御性を向上できることを検証できた。
[実験3]
次に、上記したマイナスイオン発生素子20aによるトナー像の帯電特性を実験により測定した。まず、実験装置について図10を用いて説明する。
図10に示すように、実験装置としては、実験2の装置と全く同じものを使用した。ただし、本実験3では表面電位計プローブ30及び電流計A3は使用しなかった。
実験方法について説明すると、まずはじめに、図示しないデジタルカラー複合機(シャープ製AR−C280)を用いて、OHPシート上に未定着トナー像を形成した。像形成に用いるトナーとしては、粒径8.5μmのポリエステル製トナーを使用し、未定着トナー像として、付着量0.6mg/cm2のベタ画像を形成した。そして、形成された未定着トナー像の帯電量を吸引式小型帯電量測定装置(Trek社製Model 210HS−2A)により測定した。
次に、上記と同じ未定着トナー像が形成されたOHPシートを感光体ドラム1の表面に貼り付け、マイナスイオン発生素子20aおよびグリッド電極26に所定の電圧を印加した状態で感光体ドラム1を所定の周速で回転させ、未定着トナー像をイオン発生針21の対向する領域を通過させることで、トナー像の帯電を行った。そして、帯電後に、再びトナー像の帯電量を測定し、帯電前後でのトナー像の帯電量の比較を行った。また、実験1と同様に、イオン発生量やオゾン発生量についても測定を行った。
なお、実験条件としては、ギャップg=20mm、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧−7.7kV、グリッド電極26への印加電圧−900Vとし、グリッド電極26を挿入した場合と挿入しなかった場合についてそれぞれ実験した。
表2は、この実験結果を示すグラフであり、グリッド電極26が有る場合および無い場合における、トナー像の帯電量、マイナスイオン発生量、およびオゾン発生量を測定した結果を示している。
表2に示したように、グリッド電極26の有り無しに関わらず、トナー像の帯電量は増加した。また、マイナスイオンは十分な量(18,000,000個/cc)が発生しているものの、オゾンはほとんど発生していなかった(0.002ppm〜0.003ppm)。コロナ放電が発生した場合にはオゾンが大量に発生するはずであるが、この実験ではオゾンがほとんど発生しなかったことから、この実験においてトナー像の帯電に寄与しているのは、コロナ放電ではなくマイナスイオンであることがわかる。つまり、マイナスイオンによってトナー像を十分に帯電させることができることが検証できた。
また、グリッド電極がある場合よりもグリッド電極が無い場合の方がトナーの帯電量の増加量が大きいこともわかる。
[実験4]
以下では、マイナスイオンをより安定して発生させるための条件について、実験により検討を行った。上述した実験2及び実験3の結果から、マイナスイオンによる感光体ドラム1に対する帯電とトナー像に対する帯電とは、全く同じような傾向にあることが示されたため、本実験4においては、感光体ドラム1を被帯電物とした。
本実験では、図8に示す上記の実験装置を用いて、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaと感光体ドラム1の表面電位V0、トータル電流It、オゾン発生量の関係について調べた。実験条件としては、ギャップg=10mm、グリッド電極26への印加電圧−700Vとし、固定抵抗24を挿入した場合と挿入しない場合の2種類について測定を行った。
図11(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合の測定結果を示すグラフであり、図11(b)は固定抵抗24を挿入した場合の測定結果を示すグラフである。
図11(a)に示すように、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさ(絶対値)を徐々に上げていくと、まず−3.75kV付近から感光体ドラム1の表面が帯電し始め(帯電開始電圧)、大きさをさらに上昇させていくと表面電位V0の絶対値も印加電圧Vaに応じて大きくなっていった。また、オゾンの発生量については、印加電圧Vaの絶対値が5kVまではほとんど発生しなかったが、5kVを超えると印加電圧Vaの上昇とともに急激に発生量が増加した。
この結果より、印加電圧Vaの大きさ(絶対値)が3.75kV以上5kV未満の場合には、固定抵抗24が無い場合のイオン発生開始電圧の大きさ(2.5kV)以上であることから、マイナスイオンによって帯電が行われ、5kV以上になると、オゾンが発生していることから、イオンの発生に加えてコロナ放電も発生することがわかる。
また、図11(b)に示すように、固定抵抗24を挿入した場合、帯電開始電圧は−4.5kV、コロナ放電開始電圧は−7.5kVとなり、いずれも固定抵抗24を挿入しない場合に比べて大きさが高電圧側にシフトした。これは、固定抵抗24により電圧降下が生じるため、この電圧降下の分、帯電開始電圧およびコロナ放電開始電圧の大きさが大きくなるためである。なお、実験2では電流はほとんど流れなかったが、本実験ではグリッド電極26や感光体ドラム1に対してわずかに電流が流れるため、固定抵抗24による電圧降下の影響が現れている。
また、図11(a)および図11(b)に示すように、帯電開始電圧のシフト量(固定抵抗24を挿入した場合と挿入しなかった場合の差)に比べて、コロナ放電開始電圧のシフト量の方が大きくなった。その結果、イオンのみによる帯電が可能な印加電圧の範囲は、固定抵抗24が挿入されていない場合の1.0kV(3.75kV≦|Va|<4.75kV)に比べて、固定抵抗24を挿入した場合には3.25kV(4.5kV≦|Va|<7.75kV)と広くなることがわかる。
これは、図11(a)および図11(b)に示すように、イオンのみの場合にはトータル電流Itの大きさが小さい(数μA)ので、その分、固定抵抗24による電圧降下は小さい(数百V)ものの、コロナ放電が伴うとトータル電流Itの大きさが急増し(数十μA)、固定抵抗24による電圧降下が大きくなる(数kV)ためと考えられる。
[実験5]
次に、図8に示した上記の実験装置を用いて、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Va、イオン発生針21と感光体ドラム1とのギャップgをパラメータとし、イオンのみが発生する条件およびコロナ放電が伴う条件について調べた。実験条件としては、グリッド電極26への印加電圧を−700Vとし、固定抵抗24を挿入した場合と挿入しない場合の2種類について測定を行った。
図12(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合、図12(b)は固定抵抗を挿入した場合の測定結果を示すグラフである。
図12(a)、(b)において、「コロナ放電開始」曲線は、コロナ放電が開始するときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示している。つまり、「コロナ放電開始」曲線は、ギャップgごとのコロナ放電開始電圧を示したものであるが、観点を変えれば、印加電圧Vaごとのコロナ放電開始距離を示したものでもある。
同様に、図12(a)、(b)において、「帯電開始」曲線は、感光体ドラム1の帯電が開始するときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示している。つまり、「帯電開始」曲線は、ギャップgごとの帯電開始電圧を示したものでもあり、印加電圧Vaごとの帯電開始距離を示したものでもある。
この「コロナ放電開始」曲線と「帯電開始」曲線とによって挟まれる領域は、コロナ放電を伴わずイオン発生のみが起こり、なおかつ、イオンにより感光体ドラム1を実際に帯電させることのできる印加電圧Vaとギャップgとの条件を表しており、以下ではこの領域のことを適正領域という。
また、図12(a)、(b)において、「イオン発生開始」直線は、イオンの発生が開始するときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示したものであり、この図からイオン発生開始電圧は、ギャップgに依存せず一定であることがわかる。
図12(a)および図12(b)に示すように、ギャップgが4mm未満の場合、イオンのみで帯電できる印加電圧領域は存在せず(帯電開始電圧とコロナ放電開始電圧との差がほとんど無く)、印加電圧の大きさを大きくするとすぐにコロナ放電に移行してしまった。そして、ギャップgを4mm以上にすることでイオンのみで帯電できる印加電圧領域を存在させることができ、ギャップgを大きくするほど、イオンのみで帯電できる印加電圧領域(適正領域)を広くすることができた。また、固定抵抗24を挿入しない場合よりも挿入した場合の方が適正領域が広かった。
この実験結果から、コロナ放電を発生させずにイオンによる帯電を行うには、少なくともギャップgを4mm以上確保する必要があることがわかる。なお、上記した実験1の結果より(図7参照)、感光体ドラム1に到達するマイナスイオン量(密度)はギャップgが大きくなるにつれて減少し、ギャップgが25mmを超えるとギャップg=5mmの時の半分以下となってしまう。このため、感光体ドラム1などの被帯電物を適切に帯電させるためには、ギャップgを4mm以上25mm以下とすることが好ましい。
なお、上記特許文献4に開示されている針状電極を用いた従来のコロナ放電方式の帯電装置は、ギャップgを4mm以下にすることで放電電流を減らす方式のため、イオンだけが発生する印加電圧領域が存在せず、コロナ放電が必ず生じてしまう。このため、特許文献4の技術によるオゾン発生量の低減効果は、本発明に比べれば非常に小さい。
[実験6]
次に、図3および図4に示した一次転写前帯電装置2(潜像用帯電装置4)を用いて、ギャップgを3mmから30mmまで変化させた場合の感光体ドラム1の表面電位とオゾン量を測定する実験を行った。なお、シールドケース23を設置した場合と、設置しなかった場合について実験を行った。表3にその測定結果を示す。表面電位およびオゾン量の測定器具,測定方法は、上記した各実験と同様である。
表3に示すように、ギャップg=3mmの場合(比較例1−1)、オゾンの発生量が0.09ppmと非常に多かった。これに対して、ギャップgを4mm以上にすることで(実施例1−1〜1−4)、オゾンの発生量を0.002ppm以下と、非常に少なくできた。これは、ギャップgが3mm以下の場合にはイオンのみで感光体を帯電できる条件が存在せず、コロナ放電による帯電となってしまうのに対して、ギャップgを4mm以上にした場合、イオンのみで感光体ドラム1を帯電できる条件が存在するためである。
また、シールドケースなしの場合、4mm≦g≦25mmの範囲において(実施例1−1〜1−3)、感光体ドラム1の表面電位を目標値である−600Vに帯電させることができた。このときの印加電圧Vaは4kV≦|Va|≦12kVである。ただし、ギャップg=30mmの条件では(比較例1−2)、印加電圧の大きさを15kVまで上げても、感光体ドラム1の表面電位が−425Vまでしか到達せず、目標の−600Vを下回ってしまった。これは、ギャップgが大きくなることにより、マイナスイオンが拡散して感光体ドラム1に到達する密度が低下してしまうためである。
一方、シールドケース23を設けた場合(実施例1−4)、ギャップg=30mmでも、印加電圧15kVでほぼ目標通りに感光体ドラム1を帯電できた。これは、シールドケース23によりマイナスイオンの拡散が抑制され、感光体ドラム1近傍におけるマイナスイオン密度が上昇し、マイナスイオンの利用効率が向上するためである。
[実験7]
次に、二次転写前帯電装置3によるトナー帯電性能について調べた。
実験方法としては、二次転写前帯電装置3のイオン発生針21に印加する電圧の大きさをコロナ放電に移行しない範囲内で段階的に上げていきながら、中間転写ベルト15上のトナー像に対して帯電を行い、そのときの中間転写ベルト15に流れる電流Ibと、帯電後のトナーの帯電量とを測定した。なお、トナー像には、トナー付着量0.55mg/cm2のベタ画像を用いた。その実験結果を図13に示す。
図13に示すように、二次転写前帯電装置3に電圧を印加しない初期状態では、Ib=0で、かつ、トナー像の帯電量が−12.8μC/gであった。その後、印加電圧Vaの絶対値を大きくするにつれて、マイナスイオンの発生量が増加するために、Ibやトナー像の帯電量の絶対値も増加した。ところが、トナー像の帯電量は、Ibの絶対値が30μA以上になると、ほぼ−19μC/gで飽和した。
この結果から、電圧制御部31が、高圧電源25のイオン発生針21に印加する電圧Vaを|Ib|≧30となるように制御することで、トナー像の帯電量は−19μC/gで安定し、グリッド電極26等を特に設けなくてもトナー像の帯電量を均一化できることがわかる。
従って、電圧制御部31がIbをモニターして、それが−30μAとなるように、高圧電源25の印加電圧Vaをフィードバック制御することにより、イオン発生針21の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、マイナスイオンの発生量や、発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動したとしても、常に最適な量のイオンをトナー像に付与できるようになる。
[実験8]
次に、画像パターンや環境条件等が各々異なる6種類の条件のトナー像について、電圧制御部31のフィードバック制御によりIbが−30μAになるように印加電圧Vaを制御した二次転写前帯電装置3を用いて二次転写前帯電を行い、帯電の前後における各トナー像の帯電量を測定した。その結果を図14に示す。
図14に示すように、二次転写前帯電を行う前は、−12〜−15μC/gと、約3μC/gの範囲でばらついていたトナー像の帯電量が、帯電後では、−18〜−19μC/gと、約1μC/gの範囲内に収束した。
従って、上記のフィードバック制御を行う電圧制御部31を備えた二次転写前帯電装置3の有効性が結論付けられた。
[実験9]
続いて、二次転写前帯電装置3を用いて二次転写前帯電を行った場合と、行わなかった場合での二次転写効率について比較を行った。その結果を図15に示す。
図15に示すように、二次転写前帯電を行うことで、転写効率が5〜10%アップし、また二次転写電流に対するラチチュード(転写余裕度)も広がった。このことから、二次転写前帯電装置3による二次転写前帯電の有効性が示された。
以上のように、本実施形態の一次転写前帯電装置2、二次転写前帯電装置3、潜像用帯電装置4は、コロナ放電を伴うことなくマイナスイオンの発生を行うので、コロナ放電に起因する諸問題の発生を防止しつつ、感光体ドラム1の帯電、あるいは、感光体ドラム1や中間転写ベルト15の表面に形成されたトナー像の転写前帯電を行うことができる。
ところで、本実施形態で示した具体的な数値はあくまでも一例であって、本発明はこれらの値に限定されるものではない。
例えば、イオン発生針(帯電用電極)21に対する高圧電源(第1電圧印加手段)25の印加電圧の大きさは、イオン発生開始電圧の大きさ以上で、かつ、コロナ放電開始電圧の大きさ以下であればよい。このようにすれば、イオン発生針21によってイオンが発生するので、被帯電物を帯電させることが可能になる。また、コロナ放電が生じることがないので、コロナ放電に起因する様々な問題を解決することができる。
なお、「イオン発生開始電圧」とは、イオン発生針(帯電用電極)21の先端から150mmの位置で佐藤商事社製イオン測定器AIC−2000を用いて測定したときにイオンが検知されはじめる(イオン数が変動しはじめる)ときの印加電圧(図3のグラフに示すように、印加電圧を上げていった場合に、イオン測定器によるイオン測定量が立ち上がるところの電圧)のことをいう。また、本明細書において、「コロナ放電開始電圧」とは、あるギャップg(イオン発生針21の先端と被帯電物との間隔)の条件下で、イオン発生針21の先端から被帯電物へ向けてコロナ放電を起こしうる印加電圧のうち、最も小さい電圧のことをいう。
また、上記の印加電圧の大きさは、図12(a)、(b)に示されているような帯電開始電圧の大きさ以上であることが好ましい。これにより、被帯電物である感光体ドラム1やトナー像を実際に帯電させることが可能になる。
なお、「帯電開始電圧」とは、あるギャップgの条件下で、イオン発生針21によって発生するイオンによって感光体ドラム1やトナー像などの被帯電物の帯電量を実際に変化させうる印加電圧のうち、最も小さい電圧のことをいう。
さらに、上記の印加電圧の大きさは、実験7において示したように、被帯電物であるトナー像の帯電量が飽和するような大きさであることが好ましい。これにより、イオンの発生にムラがあっても帯電後のトナー像の帯電量が均一になり、転写を好適に行うことが可能になる。さらに、グリッド電極を省略できるため、グリッド電極にイオンが回収されることがなく、イオンの利用効率を向上させることができるとともに、製造コストを抑制することもできる。
一方、ギャップgに着目すると、ギャップgは、コロナ放電開始距離よりも大きければよい。このようにすれば、コロナ放電が生じることがないので、コロナ放電に起因する様々な問題を解決することができる。
なお、「コロナ放電開始距離」とは、ある印加電圧(イオン発生針21の先端へ印加される電圧)条件下で、コロナ放電を起こしうるイオン発生針21の先端と被帯電物との間の距離(ギャップ)のうち、最も大きい距離のことをいう。
さらに、ギャップgは、図12(a)、(b)に示されているような帯電開始距離以下であることが好ましい。これにより、被帯電物である感光体ドラム1や中間転写ベルト15を実際に帯電させることが可能になる。
なお、「帯電開始距離」とは、ある印加電圧条件下で、イオン発生針21によって発生するイオンによって感光体ドラム1やトナー像などの被帯電物の帯電量を実際に変化させうる、イオン発生針21の先端と被帯電物との間の距離(ギャップ)のうち、最も大きい距離のことをいう。
なお、ギャップgは、具体的には、4mm以上25mm以下であることが好ましい。ギャップgを4mm以上にすれば、実験5において示したように、コロナ放電を伴わずにイオンの発生を行うことのできる印加電圧領域が存在することになる。また、ギャップgを25mm以下にすれば、実験1において示したように、イオン発生針21によって発生したマイナスイオンの半数以上を被帯電物まで到達させることができるので、帯電を効率的に行うことが可能になる。
また、本実施形態では、帯電用電極とこの帯電用電極に電圧を印加するための高圧電源(電圧印加手段)25との間に固定抵抗(電気抵抗器)24を挿入している。固定抵抗24を挿入することで、実験5において示したように、放電を伴うことなくイオンのみで被帯電物を帯電させることのできる印加電圧及びギャップの範囲(適正領域)を広げ、イオンを安定して放出させることができる。ただし、この固定抵抗24については、必ずしも挿入する必要はなく、省略してもかまわない。また、固定抵抗24の抵抗値は特に限定されるものではなく、放電を伴うことなくイオンのみで被帯電物を帯電させることのできる印加電圧及びギャップの範囲を広げ、イオンを安定して放出させることができるように、適宜設定すればよい。
また、本実施形態では、イオン発生針(帯電用電極)21の周囲にイオンの拡散を防止するためのシールドケース(イオン拡散規制部材)23を設置している。イオン発生針21に電圧を印加することにより発生したイオンは、電気力線に沿って被帯電物側に移動するものの、従来のコロナ放電方式の帯電装置に比べると形成される電界が弱いため、全てが被帯電物側に放出される訳ではなく、被帯電物とは異なる方向に拡散するイオンもある。そこで、イオン発生針21の周囲にシールドケース23を設置することで、イオンの拡散を防止し、イオンの利用効率を向上させると同時に、帯電装置周辺の部材が不必要に帯電してしまうの抑制することができる。
また、本実施形態では、帯電用電極として針状の電極(イオン発生針21)を用いている。このため、従来の一般的なコロナ放電帯電装置のように放電電極としてワイヤ状あるいは鋸歯状電極を用いる場合よりも、低電圧で高電界を形成することができる。これにより、コロナ放電開始電圧よりも大きさの小さい印加電圧でイオンを多量に発生させることができる。
なお、本実施形態では、帯電用電極として図3および図4に示したように先端部が尖った針状のイオン発生針21を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、円錐形状(コーン形状)、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の先端が尖った尖端形状の電極を用いてもよい。これらの尖端形状を有する電極は、大きな曲げモーメントが作用する付け根部分は先端よりも直径(あるいは断面積)が大きいので電極の機械的強度を向上できる。また、先端が尖っている(先端の曲率半径が小さい)ので先端近傍の電界強度を低電圧で大きくすることができ、イオンを効率よく発生させることができる。また、電極支持部材(あるいは電極の付け根部分)から先端までの距離を大きくできるので、電極支持部材(あるいは電極の付け根部分)からの電気的干渉による帯電特性の低下を防止できる。
また、鋸歯形状(尖端形状)を有する電極(鋸歯電極)を用いてもよい。この場合にも、鋸歯の先端部分が尖っているので、針状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の電極を用いる場合と同様、低電圧で高電界を形成することができる。ただし、針状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の方が鋸歯電極よりも先端の曲率半径を小さくしやすく、低電圧で高電界を形成しやすい。また、鋸歯電極を用いる場合、フォトエッチング加工や電鋳加工によって電極形状を加工できるので、加工性を向上することができる。また、鋸歯電極を用いることにより、機械的強度に優れた電極を実現できる。
また、例えば、図16に示すように、線状(極細線状)の帯電用電極(線状電極21b)を用いてもよい。なお、図16に示した構成は、帯電用電極以外は、図3および図4に示した構成と略同様の構成なので、それらの説明については省略する。
図16の構成では、複数(ここでは32本)の線状電極21bを金属製(ここではステンレス製)のベースフレーム22に所定のピッチpで配置した構成となっている。線状電極21bは、直径70μmのタングステン線あるいはステンレス線からなり、各線状電極21bの先端は感光体ドラム1の方向を向いており、各線状電極21b間のピッチpは10mmである。また、高圧電源25による印加電圧Vaは−6.5kVである。
このように、線状電極21bを用いた場合であっても、図3および図4に示したイオン発生針21と比較してイオン発生効率としてはやや劣るものの、マイナスイオンを生成することができる。また、線状の帯電用電極を用いる場合、針状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の帯電用電極と同様、電極支持部材(あるいは付け根部分)から電極の先端までの距離を長くできるので、電極支持部材(あるいは付け根部分)からの電気的干渉による帯電特性の低下を防止できる。なお、線状電極よりも針状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の電極の方が先端が尖っている(先端の曲率半径が小さい)ので、低電圧で高電界を形成することができ、イオンを効率よく発生することができる。また、線状電極21bのような線状の帯電用電極には、針状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状等の帯電用電極よりも加工が容易であり、安価に作製できるというメリットがある。
ただし、線状電極の場合、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、コーン形状等の帯電用電極に比べて、機械的強度が確保しにくい。また、線状電極において、機械的強度を確保するために直径あるいは断面積を大きくすると、先端の直径あるいは断面積が増加して電界強度が小さくなってしまうので、針形状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、コーン形状等の帯電用電極に比べると、イオンを発生させるための印加電圧が大きくなりやすい。
なお、円筒状、棒状、段付き円筒状(付け根側から先端側にかけて断面積の異なる円筒形状部分が積み重ねられた形状)等の電極を用いてもよく、これらの電極を用いた場合にも線状電極を用いる場合と略同様の効果が得られる。
また、ブラシ状の帯電用電極、すなわち繊維状(例えば針状や線状)の部材を複数本束ねてなる帯電用電極を用いてもよい。図17は、ブラシ状の帯電用電極(ブラシ状電極21c)を用いた帯電装置2・3・4の側面図である。なお、帯電用電極以外は、図3および図4に示した構成と略同様の構成なので、それらの説明については省略する。
図17の構成では、ブラシ状電極21cを金属製(ここではアルミ製)のベースフレーム22に配置した構成となっている。ブラシ状電極21cは、直径12μmのステンレス繊維を約15本に束にしたものであり、図17の構成では、上記の束からなる複数のブラシ状電極21cを所定のピッチpで配置している。なお、図17の構成では、各ブラシ状電極21c間のピッチpを1.6mmとしている。また、各ブラシ状電極21b(各ブラシ状電極21bを構成する繊維状の部材)の先端は感光体ドラム1の方向を向いている。
また、高圧電源25による印加電圧Vaは−9kVである。
このように、ブラシ状電極21cを用いた場合であっても、図3および図4に示したイオン発生針21と比較してイオン発生効率としてはやや劣るものの、マイナスイオンを生成することができる。なお、ブラシ状電極21cのような線状の帯電用電極には、針状の帯電用電極よりも安価に作製できるというメリットがある。
また、上記の針状の帯電用電極(イオン発生針21)や線状の帯電用電極(線状電極21b)を用いる場合に比べて、各ブラシ状電極21cを構成する繊維(イオン発生針あるいは極細線)の数が非常に多いため、帯電用電極のピッチに起因する帯電ばらつきを低減することができる。また、ブラシ状電極21cの先端にほこり等の異物が付着した場合でも、帯電均一性に対する影響を低減することができる。
また、本実施形態では、タングステンからなるイオン発生針21を帯電用電極として用いているが、帯電用電極の材質はこれに限るものではない。例えば、ステンレスなどの他の金属材料を用いてもよい。
なお、低電圧でイオンを多量に発生できる材料としてカーボンナノチューブ等のカーボンナノ材料が知られているが、以下に示す理由から、カーボンナノ材料よりもタングステンやステンレス等の金属材料を用いることが好ましい。
第1の問題として、カーボンナノ材料は、耐久性が非常に低く、実用には向かないという問題がある。つまり、カーボンナノ材料を電極材料として用いた場合、大気中でイオンを発生させるための電圧を印加するとタングステンやステンレス等の金属材料に比べて消耗速度が非常に速く、頻繁に電極を交換する必要が生じるため実用的ではない。
第2の問題として、カーボンナノ材料は、繊維径が1nm〜数十nmという微細な形状なので、塵埃、油膜、水膜などが微小量でも付着すると、これらの付着物に埋もれてしまって安定した帯電動作が維持できなくなるという問題がある。特に、電子写真装置内の被帯電物を帯電させる場合、電子写真装置内には定着部からのシリコンオイル、トナーに外添されている疎水化シリカの疎水化表面処理剤、ワックス成分、飛散トナーなどの塵埃が存在することから、これらの塵埃が帯電用電極に静電吸着されるなどして付着しやすい。また、定着時に記録紙から出る水蒸気などが露結してカーボンナノ材料の表面に水膜が付着したり、各種動作部品から出る油膜等がカーボンナノ材料の表面に付着する場合もある。これに対して、ステンレスやタングステンなの電極材料を用いる場合、塵埃、油膜、水膜などの付着によって多少の帯電特性の低下が起こったとしても、これら付着物に対する許容量はカーボンナノ材料に比べるとはるかに多い。
第3の問題として、カーボンナノ材料は、タングステンやステンレス等の金属材料に比べて、加工の難易度が非常に高いという問題がある。したがって、タングステンやステンレス等の金属材料を用いる場合のように、上記した針形状、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、鋸歯形状、線形状、円筒形状、棒形状、段付き円筒形状、ブラシ状等の形状に加工することが困難であり、上記した各効果を得ることができない。また、カーボンナノ材料を用いる場合、支持部材に対するカーボンナノ材料の接着強度を適切に保つことが困難であり、帯電領域の全域に渡って均一に帯電させることが困難である。
したがって、帯電用電極の材料としては、カーボンナノ材料よりもタングステンやステンレス等の金属材料を用いることが好ましい。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1と同じ機能を有する部材については同じ符号を付し、その説明を省略する。
本実施形態は、本発明を実施形態1とは異なる観点から捉えたものであり、本実施形態にかかる帯電装置10の構成は、実施形態1における帯電装置10と同様の構成である。また、帯電装置10に備えられる各部位(例えばイオン発生針21など)の形状、材質等についても実施形態1と同様の変形が可能である。
実施形態1と異なる点は、イオン発生針21に印加する電圧範囲の規定である。つまり、実施形態1では、イオン発生針21に、イオン発生開始電圧以上、コロナ放電開始電圧未満の電圧を印加するものとしていた。これに対して、本実施形態では、イオン発生針21に、イオン発生開始電圧の大きさ以上、オゾン急増開始電圧(オゾン発生量が急増し始める電圧)の大きさ未満の大きさの電圧、あるいは、イオン発生開始電圧の大きさ以上、トータル電流急増開始電圧(トータル電流(イオン発生針21に流れる電流)が急増し始める電圧)の大きさ未満の大きさの電圧を印加する。
ここで、固定抵抗器24が挿入されていない場合(イオン発生針21と高圧電源25との間に挿入される固定抵抗24の抵抗値がオゾン急増開始電圧に対する影響を無視できる程度に小さい場合(例えば、N本のイオン発生針21に対して1つの抵抗器24が挿入される場合であって、抵抗値Rが50/N(MΩ)未満である場合))、オゾン急増開始電圧とは、イオン発生針21に対する印加電圧の大きさを所定値(例えば500V)ずつ大きくしていったときに、初めにオゾンが検出される印加電圧(オゾン検出開始電圧)の大きさ以上、オゾン検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、前の測定ポイントからの印加電圧の大きさの増加量に対するオゾン発生量(検出量)の増加量の割合の変化率が最大となる印加電圧である。ただし、オゾン検出開始電圧における上記変化率が、オゾン検出開始電圧よりも大きく、かつ、オゾン検出開始電圧の2倍以下の印加電圧範囲における変化率の平均値に対して2倍以上である場合には、このオゾン検出開始電圧をオゾン急増開始電圧とはせず、オゾン発生開始電圧よりも上記所定値だけ大きい印加電圧をオゾン急増開始電圧とする。なお、オゾン発生開始電圧における前記変化率が、オゾン発生開始電圧よりも大きくかつオゾン発生開始電圧の2倍以下の電圧範囲における前記変化率の前記平均値に対して2倍未満である場合、オゾン急増開始電圧はオゾン発生開始電圧に等しくなる。
また、固定抵抗器24が挿入されていない場合(イオン発生針21と高圧電源25との間に挿入される固定抵抗24の抵抗値がオゾン急増開始電圧に対する影響を無視できる程度に小さい場合(例えば、N本のイオン発生針21に対して1つの抵抗器24が挿入される場合であって、抵抗値Rが50/N(MΩ)未満である場合))、トータル電流急増開始電圧とは、イオン発生針21に対する印加電圧の大きさを所定値(例えば500V)ずつ大きくしていったときに、初めにトータル電流が検出される印加電圧(電流検出開始電圧)の大きさ以上、電流検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、前の測定ポイントからの印加電圧の大きさの増加量に対するトータル電流の増加量の割合の変化率が最大となる印加電圧である。ただし、電流検出開始電圧における上記変化率が、電流検出開始電圧の大きさよりも大きく、かつ、電流検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲における変化率の平均値に対して2倍以上である場合には、この電流検出開始電圧をトータル電流急増開始電圧とはせず、電流検出開始電圧よりも上記所定値だけ大きい印加電圧をトータル電流急増開始電圧とする。なお、電流発生開始電圧における前記変化率が、電流発生開始電圧よりも大きくかつ電流発生開始電圧の2倍以下の電圧範囲における前記変化率の前記平均値に対して2倍未満である場合、トータル電流急増開始電圧は電流発生開始電圧に等しくなる。
一方、固定抵抗器24が挿入されている場合(イオン発生針21と高圧電源25との間に挿入される固定抵抗24の抵抗値がオゾン急増開始電圧に対する影響を無視できない程度の抵抗値である場合(例えば、N本のイオン針21に対して1つの抵抗器24が挿入される場合であって、この抵抗器24の抵抗値Rが50/N(MΩ)≦R≦2000/N(MΩ)である場合))、オゾン急増開始電圧とは、イオン発生針21に対する印加電圧の大きさを所定値(例えば500V)ずつ大きくしていったときに、初めにオゾンが検出される印加電圧(オゾン検出開始電圧)の大きさよりも大きく、オゾン検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、前の測定ポイントからの印加電圧の大きさの増加量に対するオゾン発生量(検出量)の増加量の割合の変化率が最大の極大値となる印加電圧である。
また、固定抵抗器24が挿入されている場合(イオン発生針21と高圧電源25との間に挿入される固定抵抗24の抵抗値がトータル電流急増開始電圧に対する影響を無視できない程度の抵抗値である場合(例えば、N本のイオン針21に対して1つの抵抗器24が挿入される場合であって、この抵抗器24の抵抗値Rが50/N(MΩ)≦R≦2000/N(MΩ)である場合))、トータル電流急増開始電圧とは、イオン発生針21に対する印加電圧の大きさを所定値(例えば500V)ずつ大きくしていったときに、初めにトータル電流が検出される印加電圧(電流検出開始電圧)の大きさよりも大きく、電流検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、前の測定ポイントからの印加電圧の大きさの増加量に対するトータル電流(検出量)の増加量の割合の変化率が最大の極大値となる印加電圧である。
なお、印加電圧ごとのオゾン発生量およびトータル電流の値がばらつく場合には、複数回の測定(望ましくは16回以上)を行い、その平均をとるものとする。
次に、イオン発生針21に対する印加電圧を上記のように規定することによる効果について、実験結果を参照しながら説明する。なお、以下に示す実験1〜9の実験結果は、実施形態1に示した実験1〜9と同一の実験結果であり、異なる観点から捉えたものである。
[実験1]
まず、図5に示すマイナスイオン発生素子20aを準備した。
マイナスイオン発生素子20aは、複数(ここでは3本)の針状のイオン発生針21を金属製(ここではステンレス製)のベースフレーム22に固定した構成となっている。イオン発生針21は、直径1mm、円錐部のテーパー角度34度、円錐部先端の曲率半径15μmのタングステン(純度99.999%)からなり、各イオン発生針21間のピッチは10mmに設定している。
このマイナスイオン発生素子20aを、周囲1m四方に後述する空気吸入口以外は何も無い空間に設置し(開放状態)、高圧電源25のマイナス端子側にマイナスイオン発生素子20aを接続した場合、および高圧電源25のマイナス端子側に抵抗値200MΩの固定抵抗24を介してマイナスイオン発生素子20aを接続した場合について、電圧を印加したときのマイナスイオンの発生量、オゾン発生量、並びにその時の電流量を測定した。つまり、マイナスイオン発生素子20aと高圧電源25との間に抵抗値200MΩの固定抵抗24を挿入した場合と、挿入しなかった場合の2通りについて実験を行った。なお、高圧電源25としてTrek社製MODEL610C、マイナスイオン測定器として佐藤商事社製AIC−2000、オゾン測定器として荏原実業社製オゾンモニターEG2002Fを使用した。そして、マイナスイオンについては、イオン発生針21から150mm離れた位置でイオン発生針21への電圧印加5秒後のイオン発生量を測定した。また、オゾン量については、イオン発生針21から10mm離れた位置に空気吸入口を設置し、イオン発生針21への電圧印加開始後、1測定サイクルを15秒として12サイクル(15秒×12=180秒(=3分))の平均値を求めることにより測定を行った。
図6(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合の実験結果、図6(b)は固定抵抗24を挿入した場合の実験結果を示すグラフである。
図6(a)に示すように、固定抵抗24を挿入しなかった場合、印加電圧−2.5kVからマイナスイオンが発生し始めた。また、図6(b)に示すように、固定抵抗24を挿入した場合、印加電圧−2kVからマイナスイオンが発生し始めた。また、固定抵抗24を挿入しなかった場合も挿入した場合も、印加電圧の上昇(印加電圧の絶対値の上昇)とともにマイナスイオン量(イオン発生量)は急増し、ほぼ1×107個/ccで飽和した。また、固定抵抗24を挿入しなかった場合も挿入した場合も、オゾンはほとんど発生せず、オゾン発生量が大幅に低減されることが示された。
この結果から、図5のような針状のマイナスイオン発生素子20aに、周囲に放電対象物の無い状態で高電圧を印加すれば、オゾンの発生をほとんど伴うことなく(すなわちオゾン発生量を大幅に低減させつつ)、マイナスイオンを大量に生成できることがわかる。
なお、固定抵抗24を挿入しなかった場合よりも挿入した場合の方が、マイナスイオン発生開始電圧の大きさが若干低くなる理由は、イオンの発生は大気を仮想のプラス電極として、大気とイオン発生針21との間の電位差により生じていると考えられるが、この大気のインピーダンスが非常に不安定なため、固定抵抗24が無い場合、低い印加電圧でイオンの発生が開始される領域ではイオンの発生が不安定になるのに対し、固定抵抗24を挿入すれば、大気のインピーダンスを含んだトータルでのインピーダンスが安定するので、イオンの発生自体も安定するためと考えられる。
次に、固定抵抗24を挿入し、印加電圧を−3kVとし、イオン発生針21からの距離Lとマイナスイオン量(密度)との関係を測定した。図7はその結果を示すグラフであり、L=5mmの時のマイナスイオン量を100%として、L>5mmにおけるマイナスイオン量を相対的に示したものである。
この図に示すように、マイナスイオンの密度は、Lが大きくなるほど小さくなった。なお、図7に示すように、L≦25mmの位置であれば、L=5mmの位置におけるマイナスイオン量(密度)に対して50%以上のマイナスイオン量(密度)を確保できることがわかる。
[実験2]
次に、上記したマイナスイオン発生素子20aによる感光体ドラム1の帯電特性を実験により測定した。まず、実験装置について図8を用いて説明する。
任意の周速で回転可能に支持された直径30mm、膜厚30μmの有機感光体(OPC)からなる感光体ドラム1(シャープ製カラー複写機(製品名MX−2300)に用いられている感光体ドラム)に対し、所定のギャップgだけ離れた位置にマイナスイオン発生素子20aを配置した。なお、感光体ドラム1およびマイナスイオン発生素子20aは、マイナスイオン発生素子20aが中央に位置するように、長さ80cm×幅40cm×高さ25cmのアクリル製密閉ケース内に配置した。また、マイナスイオン発生素子20aを感光体方向に変位可能なステージ(図示せず)上に配置することで、ギャップgを0〜30mmの範囲で任意に設定できるようにした。また、マイナスイオン発生素子20aを流れる電流(トータル電流)を電流計A1により測定した。
また、マイナスイオン発生素子20aのイオン発生針21と感光体ドラム1の間には、厚さ0.1mmのステンレス製からなるグリッド電極26(シャープ製AR−625Sに用いられているグリッド電極であり、開口部の幅w=26mm)を配置した。なお、グリッド電極26と感光体ドラム1との間の間隔は、1.5mmで固定した。グリッド電極26は高圧電源27のマイナス端子に接続され、任意の電圧を印加できるように構成した。また、グリッド電極26を流れる電流(グリッド電流)を電流計A2にて測定した。
さらに、感光体ドラム1におけるマイナスイオン発生素子20aとの対向位置からこの感光体ドラム1の回転方向に対して下流側90°の位置に、表面電位計プローブ30を配置し、感光体ドラム1の表面電位を測定できるよう構成した。なお、表面電位計プローブ30は、感光体ドラム1の長手方向にスキャン可能なステージ(図示せず)上に設置することで、感光体ドラム1の周方向だけでなく、長手方向の表面電位プロファイルも測定可能なように構成した。また、表面電位計としてはTereK社製MODEL344を使用し、感光体ドラム1の周速は124mm/sとした。また、イオン発生量やオゾン発生量について実験1と同様に測定を行い、感光体ドラム1を流れる電流を電流計A3によって測定した。
なお、実験条件としては、ギャップg=20mm、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧−7.7kV、グリッド電極26への印加電圧−900Vとし、グリッド電極26を挿入した場合と挿入しなかった場合についてそれぞれ実験した。
図9は、この実験結果を示すグラフであり、グリッド電極26が有る場合および無い場合における、感光体ドラム1の長手方向についての表面電位プロファイルを比較した結果を示している。表1は、マイナスイオン発生量およびオゾン発生量を測定した結果を示している。なお、図9の横軸は感光体ドラム1の長手方向に対する距離を示しており、縦軸は感光体ドラム1の表面電位を示している。横軸の感光体ドラム1の長手方向に対する距離については、上記した3本のイオン発生針21を感光体ドラム1の長手方向に沿って配置し、感光体ドラム1における中央のイオン発生針21に対向する位置を0として示している。
図9に示したように、グリッド電極26の有り無しに関わらず、感光体ドラム1の表面は帯電された。また、表1に示したように、マイナスイオンは十分な量(18,000,000個/cc)が発生しているものの、オゾンはほとんど発生していなかった(すなわち、オゾンの発生量は僅かであり、0.002ppm〜0.003ppmであった)。コロナ放電が発生した場合にはオゾンが大量に発生するはずであるが、この実験ではオゾンがほとんど発生しなかった(オゾンの発生量が僅かであった)ことから、この実験において感光体ドラム1の帯電に寄与しているのは、コロナ放電ではなくマイナスイオンであることがわかる。つまり、マイナスイオンによって感光体ドラム1を十分に帯電させることができることがわかる。
また、図9に示したように、グリッド電極26を設置しなかった場合には、3本のイオン発生針21の位置に応じて表面電位にばらつき(3つのピーク)が存在するものの、グリッド電極26を設置した場合には、このばらつきが減少することから、グリッド電極26を設けることによって表面電位のばらつきを抑制して表面電位の制御性を向上できることを検証できた。
[実験3]
次に、上記したマイナスイオン発生素子20aによるトナー像の帯電特性を実験により測定した。まず、実験装置について図10を用いて説明する。
図10に示すように、実験装置としては、実験2の装置と全く同じものを使用した。ただし、本実験3では表面電位計プローブ30及び電流計A3は使用しなかった。
実験方法について説明すると、まずはじめに、図示しないデジタルカラー複合機(シャープ製AR−C280)を用いて、OHPシート(シャープ製S4BG746)上に未定着トナー像を形成した。像形成に用いるトナーとしては、粒径8.5μmのポリエステル製トナー(AR−C280純正トナー)を使用し、未定着トナー像として、付着量0.6mg/cm2のベタ画像を形成した。そして、形成された未定着トナー像の帯電量を吸引式小型帯電量測定装置(Trek社製Model 210HS−2A)により測定した。
次に、上記と同じ未定着トナー像が形成されたOHPシートを感光体ドラム1の表面に貼り付け、マイナスイオン発生素子20aおよびグリッド電極26に所定の電圧を印加した状態で感光体ドラム1を所定の周速で回転させ、未定着トナー像をイオン発生針21の対向する領域を通過させることで、トナー像の帯電を行った。そして、帯電後に、再びトナー像の帯電量を測定し、帯電前後でのトナー像の帯電量の比較を行った。また、実験1と同様に、イオン発生量やオゾン発生量についても測定を行った。
なお、実験条件としては、ギャップg=20mm、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧−7.7kV、グリッド電極26への印加電圧−900Vとし、グリッド電極26を挿入した場合と挿入しなかった場合についてそれぞれ実験した。
表2は、この実験結果を示すグラフであり、グリッド電極26が有る場合および無い場合における、トナー像の帯電量、マイナスイオン発生量、およびオゾン発生量を測定した結果を示している。
表2に示したように、グリッド電極26の有り無しに関わらず、トナー像の帯電量は増加した。また、マイナスイオンは十分な量(18,000,000個/cc)が発生しているものの、オゾンはほとんど発生していなかった(すなわち、オゾン発生量は僅かであり、0.002ppm〜0.003ppmであった)。コロナ放電が発生した場合にはオゾンが大量に発生するはずであるが、この実験ではオゾンがほとんど発生しなかった(オゾンの発生量が僅かであった)ことから、この実験においてトナー像の帯電に主として寄与しているのは、従来のコロナ放電ではなくマイナスイオンであることがわかる。つまり、マイナスイオンによってトナー像を十分に帯電させることができることが検証できた。
また、グリッド電極がある場合よりもグリッド電極が無い場合の方がトナーの帯電量の増加量が大きいこともわかる。
[実験4]
以下では、マイナスイオンをより安定して発生させるための条件について、実験により検討を行った。上述した実験2及び実験3の結果から、マイナスイオンによる感光体ドラム1に対する帯電とトナー像に対する帯電とは、全く同じような傾向にあることが示されたため、本実験4においては、感光体ドラム1を被帯電物とした。
本実験では、図8に示す上記の実験装置を用いて、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaと感光体ドラム1の表面電位V0、トータル電流It、オゾン発生量の関係について調べた。実験条件としては、ギャップg=10mm、グリッド電極26と感光体ドラム1との間隔は1.5mmに固定し、グリッド電極26への印加電圧−700Vとし、固定抵抗24を挿入した場合と挿入しない場合の2種類について測定を行った。この実験では、印加電圧の大きさを0Vから500Vずつ増加させ、各印加電圧における感光体ドラム1の表面電位V0、トータル電流It、オゾン発生量の関係を調べた。
図11(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合の測定結果を示すグラフであり、図11(b)は固定抵抗24を挿入した場合の測定結果を示すグラフである。
図11(a)に示すように、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさ(絶対値)を徐々に上げていくと、まず−3.75kV付近から感光体ドラム1の表面が帯電し始め(帯電開始電圧)、大きさをさらに上昇させていくと表面電位V0の絶対値も印加電圧Vaに応じて大きくなっていった。
図19(a)は、図11(a)に示した印加電圧とオゾン発生量との関係、および、印加電圧の増加量に対するオゾン発生量の増加率αの変化率βを示すグラフである。
ここで、測定ポイントnにおける印加電圧Vの大きさに対するオゾン発生量Oの増加率αnは、αn=(On−On−1)/(|Vn|−|Vn−1|)で表される。また、測定ポイントnにおける増加率αの変化率βは、βn=αn+1/αnで表される。変化率βを算出する際に零で除する時は変化率β=0とする。なお、測定ポイントの値nは、印加電圧が0Vのときに0であり、印加電圧の大きさが500V増加する毎に1ずつ増加する。また、印加電圧の大きさを大きくしていったときにはじめにオゾンが検出される測定ポイントの印加電圧(オゾン検出開始電圧;図19(a)では−4.5kV)から、オゾン検出開始電圧の2倍の印加電圧(図19(a)では−9.0kV)までの印加電圧範囲を考慮するものとする。
本明細書では、固定抵抗24が挿入されていない場合には、上記印加電圧範囲で上記変化率βが最大となる測定ポイントの印加電圧を、「オゾン急増開始電圧」とする。ただし、オゾン検出開始電圧における変化率βが、オゾン検出開始電圧の大きさよりも大きく、かつ、オゾン検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲における変化率βの最大値に対して2倍以上である場合には、オゾン検出開始電圧よりも上記所定値だけ大きい印加電圧をオゾン急増開始電圧とする。したがって、この実験結果におけるオゾン急増開始電圧は、図19(a)に示すように、−4.5kVであり、オゾン発生開始電圧に等しい。
ここで、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさを、帯電開始電圧の大きさ(ここでは3.75kV)以上、オゾン急増開始電圧の大きさ(ここでは4.5kV)未満にすれば、図19(a)に示すように、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電物をイオンにより帯電させられることが分かる。
図19(b)は、図11(a)に示した印加電圧とトータル電流との関係、および、印加電圧に対するトータル電流の増加率θの変化率γを示すグラフである。
ここで、測定ポイントnにおける印加電圧Vの大きさに対するトータル電流Itの増加率θmは、θm=(Itm−Itm−1)/(|Vm|−|Vm−1|)で表される。また、印加電圧Vの大きさに対するトータル電流Itの増加率θの変化率γは、γm=θm+1/θmで表される。変化率γを算出する際に零で除する時は変化率γ=0とする。なお、測定ポイントの値mは、印加電圧が0Vのときに0であり、印加電圧の大きさが500V増加する毎に1ずつ増加する。そして、印加電圧の大きさを大きくしていったときにはじめにトータル電流が検出される測定ポイントの印加電圧(電流検出開始電圧;図19(b)では−4.0V)から電流検出開始電圧の2倍の印加電圧(図19(b)では−8.0V)までの印加電圧範囲を考慮するものとする。
本明細書では、固定抵抗24が挿入されていない場合には、上記印加電圧範囲で上記変化率γが最大となる測定ポイントの印加電圧を、「トータル電流急増開始電圧」とする。ただし、電流検出開始電圧における変化率γが、電流検出開始電圧の大きさよりも大きく、かつ、電流検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲における変化率γの平均値に対して2倍以上である場合には、電流検出開始電圧よりも上記所定値だけ大きい印加電圧をトータル電流急増開始電圧とする。したがって、この実験結果における「トータル電流急増開始電圧」は、図19(b)に示すように、−4.5kVであり、電流発生開始電圧に等しい。
ここで、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさを、帯電開始電圧の大きさ(ここでは3.75kV)以上、トータル電流急増開始電圧の大きさ(ここでは4.5kV)未満にしても、図19(a)に示すように、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電物をイオンにより帯電させられることが分かる。
一方、図11(b)に示すように、固定抵抗24を挿入した場合、帯電開始電圧は−4.5kVであり、印加電圧の大きさをさらに上昇させていくと表面電位V0の絶対値も印加電圧に応じて大きくなっていった。
図20(a)は、図11(b)に示した印加電圧とオゾン発生量との関係、および、印加電圧の大きさに対するオゾン発生量の増加率αの変化率βを示すグラフである。
本明細書では、固定抵抗24が挿入されている場合には、オゾン検出開始電圧の大きさよりも大きく、かつ、オゾン検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、上記変化率βが最大の極大値となる測定ポイントの印加電圧を、「オゾン急増開始電圧」とする。従って、図20(a)に示すように、この実験結果におけるオゾン急増開始電圧は、−9.0kVである。
抵抗を挿入した場合でも、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさを、帯電開始電圧の大きさ(ここでは4.5kV)以上、オゾン急増開始電圧の大きさ(ここでは9.0kV)未満にすれば、図20(a)に示すように、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電物をイオンにより帯電させられることが分かる。
図20(b)は、図11(b)に示した印加電圧とトータル電流との関係、および、印加電圧の大きさに対するトータル電流の増加率θの変化率γを示すグラフである。
本明細書では、固定抵抗24が挿入されている場合には、電流検出開始電圧の大きさよりも大きく、かつ、電流検出開始電圧の大きさの2倍以下の印加電圧範囲において、上記変化率γが最大の極大値となる測定ポイントの印加電圧を、「トータル電流急増開始電圧」とする。従って、図20(b)に示すように、この実験結果におけるトータル電流急増開始電圧は、−8.5kVである。
マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Vaの大きさを、帯電開始電圧の大きさ(ここでは4.5kV)以上、トータル電流急増開始電圧の大きさ(ここでは8.5kV)未満にしても、図20(a)に示すように、オゾン発生量を抑制しつつ、被帯電物をイオンにより帯電させられることが分かる。
また、固定抵抗24を挿入することにより、固定抵抗24を挿入しない場合に比べて、オゾン急増開始電圧およびトータル電流急増開始電圧はいずれも高電圧側にシフトした。これは、固定抵抗24により電圧降下が生じるため、この電圧降下の分、帯電開始電圧ならびにオゾン急増開始電圧およびトータル電流急増開始電圧が高くなるためである。なお、実験2では電流はほとんど流れなかったが、本実験ではグリッド電極26や感光体ドラム1に対して電流が流れるため、固定抵抗24による電圧降下の影響が現れている。
また、図11(a)および図11(b)に示したように、帯電開始電圧のシフト量(固定抵抗24を挿入した場合と挿入しなかった場合の差)に比べて、オゾン急増電圧およびトータル電流急増電圧のシフト量の方が大きくなった。その結果、オゾン発生量を急増させることなく帯電を行える印加電圧の範囲は、固定抵抗24が挿入されていない場合の0.75kV(3.75kV≦|Va|<4.5kV)に比べて、固定抵抗24を挿入した場合には4.5kV(4.5≦|Va|<9.0kV)と広くなった。同様に、トータル電流を急増させることなく帯電を行える印加電圧の範囲は、固定抵抗24が挿入されていない場合の0.75kV(3.75kV≦|Va|<4.5kV)に比べて、固定抵抗24を挿入した場合には4.0kV(4.5≦|Va|<8.5kV)と広くなった。
これは、図11(a)および図11(b)に示したように、印加電圧が小さい場合にはトータル電流Itが小さい(数μA)ので、その分、固定抵抗24による電圧降下は小さい(数百V)ものの、印加電圧が大きくなるとトータル電流Itが急増し(数十μA)、固定抵抗24による電圧降下が大きくなる(数kV)ためと考えられる。
また、固定抵抗24を挿入した場合と挿入しなかった場合とで、オゾン急増開始電圧およびトータル電流急増開始電圧が異なる理由は、以下のように推察される。
すなわち、トータル電流およびオゾン発生量はイオン発生針21と感光体ドラム1との間の電界強度の影響を大きく受ける。そして、電界強度は、イオン発生針21と感光体ドラム1との間に作用する電圧に比例し、イオン発生針21と感光体ドラム1との間隔(距離)に反比例する。
ここで、固定抵抗24を挿入した場合、印加電圧5.5kVでトータル電流が流れ始め、イオン発生針21と感光体ドラム1との間の空間インピーダンス等の制限と挿入した工程抵抗24の制限とによって印加電圧に比例してトータル電流およびオゾン発生量が増加していく(第1の比例増加)。そして、印加電圧が、オゾン発生量が急増する変曲点を超えると、オゾンの影響によって空間インピーダンスが変化し、上記第1の比例増加とは異なる比例係数で印加電圧に比例してトータル電流およびオゾン発生量が増加していく(第2の比例増加)。したがって、上記変曲点における変化率β,γが極大値になると考えられる。
一方、固定抵抗24を挿入しない場合、印加電圧4.0kVでトータル電流が流れ始めると、固定抵抗24による電圧降下がないので、印加電圧4.0kVの近傍でトータル電流およびオゾン発生量が急増する変曲点が生じる。このため、第1の比例増加は実験結果では観測されず、第2の比例増加のみが観測されたものと考えられる。
このため、本実施形態では、オゾン発生開始電圧における変化率βが、オゾン発生発生開始電圧よりも大きくかつオゾン発生開始電圧の2倍以下の電圧範囲における前記変化率βの平均値に対して2倍以上である場合には、オゾン発生開始電圧よりも前記所定値(イオン発生針21に印加する電圧を一定値ずつ段階的に増加させていくときの前記一定値)だけ大きい印加電圧をオゾン急増開始電圧としている。また、電流発生開始電圧における変化率γが、電流発生発生開始電圧よりも大きくかつ電流発生開始電圧の2倍以下の電圧範囲における前記変化率γの平均値に対して2倍以上である場合には、電流発生開始電圧よりも前記所定値(イオン発生針21に印加する電圧を一定値ずつ段階的に増加させていくときの前記一定値)だけ大きい印加電圧を電流急増開始電圧としている。
なお、固定抵抗24を挿入しない場合でも、第1の比例増加と第2の比例増加とを適切に識別でき、変曲点を適切に把握できる場合には、オゾン急増開始電圧および電流急増開始電圧を、固定抵抗24を挿入する場合と同様に規定してもよい。例えば、各測定ポイント間の印加電圧の差を適切(例えば250V〜1000V)に設定することにより、第1の比例増加と第2の比例増加とを適切に識別できると考えられる。
[実験5]
次に、図8に示した上記の実験装置を用いて、マイナスイオン発生素子20aへの印加電圧Va、イオン発生針21と感光体ドラム1とのギャップgをパラメータとし、オゾン発生量およびトータル電流が急増することなく帯電できる条件について調べた。実験条件としては、グリッド電極26への印加電圧を−700Vとし、固定抵抗24を挿入した場合と挿入しない場合の2種類について測定を行った。
図21(a)は固定抵抗24を挿入しなかった場合、図21(b)は固定抵抗を挿入した場合の測定結果を示すグラフである。
図21(a)、(b)において、「オゾン急増開始」(または「トータル電流急増開始」)曲線は、オゾン発生量(あるいはトータル電流)が急増し始めるときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示している。つまり、「オゾン急増開始」(または「トータル電流急増開始」)曲線は、ギャップgごとのオゾン急増開始電圧(あるいはトータル電流急増開始電圧)を示したものであるが、観点を変えれば、印加電圧Vaごとのオゾン急増開始距離(あるいはトータル電流急増開始距離)を示したものでもある。
同様に、図21(a)、(b)において、「帯電開始」曲線は、感光体ドラム1の帯電が開始するときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示している。つまり、「帯電開始」曲線は、ギャップgごとの帯電開始電圧を示したものでもあり、印加電圧Vaごとの帯電開始距離を示したものでもある。
この「オゾン急増開始」(または「トータル電流急増開始」)曲線と「帯電開始」曲線とによって挟まれる領域は、オゾン発生量(またはトータル電流)を急増させることなくイオンを発生させ、なおかつ、イオンにより感光体ドラム1を実際に帯電させることのできる印加電圧Vaとギャップgとの条件を表しており、以下ではこの領域のことを適正領域という。
また、図21(a)、(b)において、「イオン発生開始」直線は、イオンの発生が開始するときの印加電圧Vaとギャップgとの関係を示したものであり、この図からイオン発生開始電圧は、ギャップgに依存せず一定であることがわかる。
図21(a)および図21(b)に示すように、ギャップgが4mm未満の場合、オゾン発生量およびトータル電流が急増することなく帯電できる印加電圧領域は存在せず(帯電開始電圧とオゾン急増開始電圧との差がほとんど無く)、印加電圧の大きさを大きくするとすぐにコロナ放電に移行してしまった。そして、ギャップgを4mm以上にすることで、オゾン発生量およびトータル電流が急増することなくイオンで帯電できる印加電圧領域を存在させることができ、ギャップgを大きくするほど、オゾン発生量およびトータル電流が急増することなくイオンで帯電できる印加電圧領域(適正領域)を広くすることができた。また、固定抵抗24を挿入しない場合よりも挿入した場合の方が適正領域が広かった。
この実験結果から、オゾン発生量およびトータル電流が急増することなくイオンによる帯電を行うには、少なくともギャップgを4mm以上確保する必要があることがわかる。なお、上記した実験1の結果より(図7参照)、感光体ドラム1に到達するマイナスイオン量(密度)はギャップgが大きくなるにつれて減少し、ギャップgが25mmを超えるとギャップg=5mmの時の半分以下となってしまう。このため、感光体ドラム1などの被帯電物を適切に帯電させるためには、ギャップgを4mm以上25mm以下とすることが好ましい。
なお、上記特許文献4に開示されている針状電極を用いた従来のコロナ放電方式の帯電装置は、ギャップgを4mm以下にすることで放電電流を減らす方式のため、主としてイオンだけが発生する印加電圧領域が存在せず、帯電させるとオゾン発生量が急増してしまう。このため、特許文献4の技術によるオゾン発生量の低減効果は、本発明に比べれば非常に小さい。
[実験6]
次に、図3および図4に示した一次転写前帯電装置2(潜像用帯電装置4)を用いて、ギャップgを3mmから30mmまで変化させた場合の感光体ドラム1の表面電位とオゾン量を測定する実験を行った。なお、シールドケース23を設置した場合と、設置しなかった場合について実験を行った。シールドケースの材質は絶縁性のABS樹脂でフローティングとした。表3にその測定結果を示す。表面電位およびオゾン量の測定器具、測定方法は、上記した各実験と同様である。
表3に示すように、ギャップg=3mmの場合(比較例1−1)、オゾンの発生量が0.09ppmと非常に多かった。これに対して、ギャップgを4mm以上にすることで(実施例1−1〜1−4)、オゾンの発生量を0.002ppm以下と、非常に少なくできた。これは、ギャップgが3mm以下の場合には、オゾン発生量が急増することなくイオンで感光体を帯電できる条件が存在せず、コロナ放電による帯電となってしまうのに対して、ギャップgを4mm以上にした場合、オゾン発生量が急増することなくイオンで感光体ドラム1を帯電できる条件が存在するためである。
また、シールドケースなしの場合、4mm≦g≦25mmの範囲において(実施例1−1〜1−3)、感光体ドラム1の表面電位を目標値である−600Vに帯電させることができた。このときの印加電圧Vaは4kV≦|Va|≦12kVである。ただし、ギャップg=30mmの条件では(比較例1−2)、印加電圧の大きさを15kVまで上げても、感光体ドラム1の表面電位が−425Vまでしか到達せず、目標の−600Vを下回ってしまった。これは、ギャップgが大きくなることにより、マイナスイオンが拡散して感光体ドラム1に到達する密度が低下してしまうためである。
一方、シールドケース23を設けた場合(実施例1−4)、ギャップg=30mmでも、印加電圧15kVでほぼ目標通りに感光体ドラム1を帯電できた。これは、シールドケース23によりマイナスイオンの拡散が抑制され、感光体ドラム1近傍におけるマイナスイオン密度が上昇し、マイナスイオンの利用効率が向上するためである。
[実験7]
次に、二次転写前帯電装置3によるトナー帯電性能について調べた。
実験方法としては、二次転写前帯電装置3のイオン発生針21に印加する電圧の大きさをコロナ放電に移行しない範囲内で段階的に上げていきながら、シャープ製カラー複写機ARC−280の転写ベルトを流用した中間転写ベルト15上のトナー像に対して帯電を行い、そのときの中間転写ベルト15に流れる電流Ibと、帯電後のトナーの帯電量とを測定した。なお、トナー像には、トナー付着量0.55mg/cm2のベタ画像を用いた。その実験結果を図13に示す。
図13に示すように、二次転写前帯電装置3に電圧を印加しない初期状態では、Ib=0で、かつ、トナー像の帯電量が−12.8μC/gであった。その後、印加電圧Vaの絶対値を大きくするにつれて、マイナスイオンの発生量が増加するために、Ibやトナー像の帯電量の絶対値も増加した。ところが、トナー像の帯電量は、Ibの絶対値が30μA以上になると、ほぼ−19μC/gで飽和した。
この結果から、電圧制御部31が、高圧電源25のイオン発生針21に印加する電圧Vaを|Ib|≧30となるように制御することで、トナー像の帯電量は−19μC/gで安定し、グリッド電極26等を特に設けなくてもトナー像の帯電量を均一化できることがわかる。
従って、電圧制御部31が、高圧電源25の印加電圧Vaを段階的に上げながらIbをモニターして、それが−30μAとなる高圧電源25の印加電圧Vaを求めて、−30μAとなる高圧電源25の印加電圧Vaをフィードバック制御することにより、イオン発生針21の先端部への異物の付着や、環境条件の変化、また画像形成装置100内における風の流れの変化等によって、マイナスイオンの発生量や、発生したイオンがトナー像に到達する割合が変動したとしても、常に最適な量のイオンをトナー像に付与できるようになる。
なお、印加電圧の制御方法としては、一般に広く用いられている定電流制御の高圧電源25から−30μAを供給してもよいし、低電圧制御の高圧電源25から−30μAを供給してもよい。
[実験8]
次に、画像パターンや環境条件等が各々異なる6種類の条件のトナー像について、電圧制御部31のフィードバック制御によりIbが−30μAになるように印加電圧Vaを制御した二次転写前帯電装置3を用いて二次転写前帯電を行い、帯電の前後における各トナー像の帯電量を測定した。その結果を図14に示す。
図14に示すように、二次転写前帯電を行う前は、−12〜−15μC/gと、約3μC/gの範囲でばらついていたトナー像の帯電量が、帯電後では、−18〜−19μC/gと、約1μC/gの範囲内に収束した。
従って、上記のフィードバック制御を行う電圧制御部31を備えた二次転写前帯電装置3の有効性が結論付けられた。
[実験9]
続いて、二次転写前帯電装置3を用いて二次転写前帯電を行った場合と、行わなかった場合での二次転写効率について比較を行った。その結果を図15に示す。
図15に示すように、二次転写前帯電を行うことで、転写効率が5〜10%アップし、また二次転写電流に対するラチチュード(転写余裕度)も広がった。このことから、二次転写前帯電装置3による二次転写前帯電の有効性が示された。
以上のように、本実施形態の一次転写前帯電装置2、二次転写前帯電装置3、潜像用帯電装置4は、オゾン発生量を急増させることなくマイナスイオンの放出を行うので、オゾン発生量の急増に起因する諸問題の発生を防止しつつ、感光体ドラム1の帯電、あるいは、感光体ドラム1や中間転写ベルト15の表面に形成されたトナー像の転写前帯電を行うことができる。
ところで、本実施形態で示した具体的な数値はあくまでも一例であって、本発明はこれらの値に限定されるものではない。
例えば、イオン発生針(帯電用電極)21に対する高圧電源(第1電圧印加手段)25の印加電圧の大きさは、イオン発生開始電圧の大きさ以上で、かつ、オゾン急増開始電圧またはトータル電流急増開始電圧の大きさ以下であればよい。このようにすれば、イオン発生針21によってイオンが放出されるので、被帯電物を帯電させることが可能になる。また、オゾン発生量が急増することがないので、オゾン発生量の急増に起因する様々な問題を解決することができる。
なお、「イオン発生開始電圧」とは、イオン発生針(帯電用電極)21の先端から150mmの位置で佐藤商事社製イオン測定器AIC−2000を用いて測定したときにイオンが検知されはじめる(イオン数が変動しはじめる)ときの印加電圧(図3のグラフに示すように、印加電圧を上げていった場合に、イオン測定器によるイオン測定量が立ち上がるところの電圧)のことをいう。
また、上記の印加電圧の大きさは、図12(a)、(b)に示されているような帯電開始電圧の大きさ以上であることが好ましい。これにより、被帯電物である感光体ドラム1やトナー像を実際に帯電させることが可能になる。
なお、「帯電開始電圧」とは、あるギャップgの条件下で、イオン発生針21が発生させるイオンによって感光体ドラム1やトナー像などの被帯電物の帯電量を実際に変化させうる印加電圧のうち、最も小さい電圧のことをいう。
さらに、上記の印加電圧の大きさは、実験7において示したように、被帯電物であるトナー像の帯電量が飽和するような大きさであることが好ましい。これにより、イオンの放出にムラがあっても帯電後のトナー像の帯電量が均一になり、転写を好適に行うことが可能になる。さらに、グリッド電極を省略できるため、グリッド電極にイオンが回収されることがなく、イオンの利用効率を向上させることができるとともに、製造コストを抑制することもできる。
一方、ギャップgに着目すると、ギャップgは、オゾン急増開始距離またはトータル電流急増開始距離よりも大きければよい。このようにすれば、オゾン発生量が急増することがないので、オゾン発生量の急増に起因する様々な問題を解決することができる。
さらに、ギャップgは、図12(a)、(b)に示されているような帯電開始距離以下であることが好ましい。これにより、被帯電物である感光体ドラム1や中間転写ベルト15を実際に帯電させることが可能になる。
なお、「帯電開始距離」とは、ある印加電圧条件下で、イオン発生針21が発生させるイオンによって感光体ドラム1やトナー像などの被帯電物の帯電量を実際に変化させうる、イオン発生針21の先端と被帯電物との間の距離(ギャップ)のうち、最も大きい距離のことをいう。
なお、ギャップgは、具体的には、4mm以上25mm以下であることが好ましい。ギャップgを4mm以上にすれば、実験5において示したように、オゾン発生量を急増させることなくイオンを発生させられる印加電圧領域が存在することになる。また、ギャップgを25mm以下にすれば、実験1において示したように、イオン発生針21が発生させたマイナスイオンの半数以上を被帯電物まで到達させることができるので、帯電を効率的に行うことが可能になる。
また、本実施形態では、帯電用電極とこの帯電用電極に電圧を印加するための高圧電源(電圧印加手段)25との間に固定抵抗(電気抵抗器)24を挿入している。固定抵抗24を挿入することで、実験5において示したように、放電を伴うことなくイオンのみで被帯電物を帯電させることのできる印加電圧及びギャップの範囲(適正領域)を広げ、イオンを安定して放出させることができる。ただし、この固定抵抗24については、必ずしも挿入する必要はなく、省略してもかまわない。また、固定抵抗24の抵抗値は特に限定されるものではなく、オゾン発生量を急増させることなくイオンで被帯電物を帯電させることのできる印加電圧及びギャップの範囲を広げ、イオンを安定して発生させることができるように、適宜設定すればよい。
また、本実施形態では、イオン発生針(帯電用電極)21の周囲にイオンの拡散を防止するためのシールドケース(イオン拡散規制部材)23を設置している。イオン発生針21に電圧を印加することにより発生したイオンは、電気力線に沿って被帯電物側に移動するものの、従来のコロナ放電方式の帯電装置に比べると形成される電界が弱いため、全てが被帯電物側に放出される訳ではなく、被帯電物とは異なる方向に拡散するイオンもある。そこで、イオン発生針21の周囲にシールドケース23を設置することで、イオンの拡散を防止し、イオンの利用効率を向上させると同時に、帯電装置周辺の部材が不必要に帯電してしまうの抑制することができる。
また、本実施形態では、帯電用電極として針状の電極(イオン発生針21)を用いている。このため、従来の一般的なコロナ放電帯電装置のように放電電極としてワイヤ状あるいは鋸歯状電極を用いる場合よりも、低電圧で高電界を形成することができる。これにより、オゾン急増開始電圧またはトータル電流急増開始電圧よりも大きさの小さい印加電圧でイオンを多量に発生させることができる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本明細書で示した数値範囲以外であっても、本発明の趣旨に反しない合理的な範囲であれば、本発明に含まれることはいうまでもない。