以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付している。
図1を参照して、本発明の実施の形態に関わる係るガス漏れ及びガス器具判別装置を含むガス供給システムの全体構成を説明する。ガス供給システムには、ガス供給元からガス器具へ例えばLPガス等のガスを供給するガス流路30、11と、ガス流路30、11の上流側の端部に接続されたガス供給元の調整器20と、ガス流路30、11の下流側の端部に接続されたガス器具10a、10b、10cと、ガス流路30、11の途中に設けられたガスメータ40とが含まれる。
ガスは、ガス供給元の調整器20からガス流路の一部であるガス供給管30内を流れ、ガスメータ40を通過して、ガス流路の他の一部であるガス配管11を流れて、複数のガス器具10a、10b、10cへ供給される。
ガス器具10aは、ガス配管11の下流側端部に接続された器具内遮断弁12と、ガス器具10aがガスを使用している時のガスの圧力を調整するガバナ13(圧力調整手段)と、ガバナ13により圧力が調整されたガスが供給されるノズル15と、ノズル15から放出されるガスを燃焼するバーナー16とを備えている。ガバナ13は、その内部にガバナ内弁14を有し、ガバナ内弁14の開き度合いに応じてガス圧が調整される。なお、ガス器具10b、10cは、ガバナ13等の圧力調整手段を備えていない点を除き、ガス器具10aと同様な構成を備える。
ガス器具10aには、ガスグリル、ガス給湯器、ガス食器洗い乾燥機、ガスオーブン、ガスファンヒータ、ガス瞬間湯沸かし器、ガス床暖房、ガスヒートポンプ(GHP)等が含まれる。上記したほぼ全てのガス器具に圧力調整手段としてのガバナ13が内蔵されており、ガス器具ごとにガス圧力の調整を行っている。一方、ガスコンロ(ガステーブル)は、ガバナ13が内蔵されていないガス器具10b、10cの一例である。
ここで、図11を参照して、ガバナ13の作動原理を説明する。ガバナ13は、ガス入側のガス圧力が高くなると、ダイヤフラム61が上へ押し上げられ、同時にダイヤフラム61に接続されたガバナ内弁14も上に引き上げられ、通過口63の間隔が狭まりガスの流量が減少する。逆にガス出側のガス圧力が下がるとダイヤフラム61が下がりガバナ内弁14の開度が大きくなり、通過口63の間隔が広がりガスの流量が増加する。このようにして、ガバナ13の上流側の圧力が変動しても、下流側の流量が一定に保たれるように下流側の圧力が調整される。
図1に示すガス供給システムにおいて、本発明の実施の形態に係わるガス漏れ及びガス器具判別装置は、ガス供給元の調整器20からガス器具10a、10b、10cへガスを供給するガス流路30、11の途中に設けられている。すなわち、ガス漏れ及びガス器具判別装置よりも下流側のガス流路にガス器具が設置され、ガス漏れ及びガス器具判別装置よりも上流側のガス流路にガス供給元が設置されている。本発明の実施の形態では、ガスメータ40内にガス漏れ及びガス器具判別装置が設けられている場合を例に取り説明するが、ガス漏れ及びガス器具判別装置がガスメータ40とは異なる他の装置であっても構わない。
次に、図2を参照して、本発明の実施の形態に係わるガス漏れ及びガス器具判別方法を実施するガス漏れ及びガス器具判別装置の全体構成を説明する。
ガス漏れ及びガス器具判別装置は、ガス流路30、11内を流れるガスの圧力を所定時間間隔で繰返し検出する圧力検出部1(圧力検出手段)と、圧力検出部1により繰返し検出されたガスの圧力に基づいて、ガスが漏れているか、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかを判別する制御部6(判別手段)とを少なくとも備える。
本実施形態のガス漏れ及びガス器具判別装置は、更に、ガス流路内を流れるガスの流量を検出する流量検出部7と、使用者に対して所定の警報を発する警報部8と、ガス流路30、11内のガスの流れを遮断する遮断弁とを備える。
圧力検出部1は、例えば圧力センサからなり、ガス流路30、11内を流れるガスの圧力を電気信号(以後、「圧力検出信号」と呼ぶ)に変換して出力する。圧力検出部1の内部には、圧力センサからの生の圧力検出信号を増幅する増幅器や、圧力検出信号に重畳するノイズを除去するバンドパスフィルタなどの圧力検出信号を扱いやすくする回路構成を含んでいることが多い。また、アナログ形式の圧力検出信号をデジタル形式の圧力検出信号に変換するA/D変換回路を含んでいても良い。
制御部6は、圧力検出信号を記憶する記憶部6cと、圧力検出部1により繰返し検出された圧力の振動波形を分析する波形パターン分析部6d(波形パターン分析手段)と、波形パターン分析部6dによる分析結果に基づいて、ガスが漏れているか、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかを判別する演算部6a(演算手段)と、遮断弁9の開閉状態を制御する弁駆動制御部6fとを備える。
制御部6は、CPU、ROM及びRAMを有するマイコンで構成することができ、CPUは、演算部6a、波形パターン分析部6d及び弁駆動制御部6fとして機能する。RAMは記憶部6cとして機能する。
演算部6aは、圧力検出信号を高速にサンプリングし、記憶部6cに記憶する。
波形パターン分析部6dは、記憶部6cに記憶されている圧力検出信号を読み出し、圧力検出信号に基づいて圧力検出部1により繰返し検出された圧力の振動波形を形成し、分析する。
具体的に、波形パターン分析部6dは、圧力検出部1により繰返し検出された圧力の振動波形の周波数を分析する周波数分析部6d1(周波数分析手段)と、圧力検出部1により繰返し検出された圧力の振動波形の振幅を分析する振幅分析部6d2(振幅分析手段)とを備える。
演算部6aは、周波数分析部6d1により分析された振動波形の周波数、振幅分析部6d2により分析された振動波形の振幅の少なくともいずれか一方に基づいて、ガスが漏れているか、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかを判別する。
流量検出部7は、ガス流路30、11を流れるガスの流量を検出するものであり、瞬時流量を検出することができる超音波センサやフローセンサ等の流量センサからなる。もちろん、増幅器等の流量検出信号を扱いやすく変換する回路を含んでいても良い。警報部8は、LED等の警報表示部及びスピーカ等の音声警報部の少なくともいずれかを有する。遮断弁9は、ガス器具10a、10b、10cよりも上流側のガス流路30、11を遮断できる弁である。
次に、ガバナ13を備えるガス器具10aがガスの使用を開始する時のガス器具10a及びガス圧力の挙動メカニズムについて、図3(a)〜図3(d)、図4(a)、図4(b)を参照して説明する。図4(a)、図4(b)のグラフにおいて、縦軸は圧力を示し、横軸は時間を示す。
図3(a)は、ガス器具10aがガスの使用を開始する前、例えばガス器具10aを点火する前の状態を示している。つまり、図4の時刻t0におけるガス器具10aの状態である。器具内遮断弁12の上流側であるガス配管11の圧力波形を示している図4(a)で、図3(a)の状態の時刻t0時において、圧力検出部1が検出する圧力は元圧に上昇している。
一方、ガバナ内弁14の下流側の圧力波形を示す図4(b)を見ると、器具内遮断弁12より下流側にガバナ13が存在するため、図3(a)の状態である時刻t0においてガバナ内弁14の下流側の圧力は大気圧となり、すなわち、ゲージ圧でガス圧はゼロになっている。そして、ガス圧がゼロであるので、ガバナ13は、ガス圧を上げようという方向に動作するので、ガバナ内弁14は全開状態となっている。なお、図3(a)〜図3(d)の斜線部は、ガスが充填されていることを示す。
図3(b)は、ガス器具10aがガスの使用を開始した直後、例えばガス器具10aを点火した直後の状態を示している。器具内遮断弁12が開となり、かつ、ガバナ内弁14は全開状態になったままなので、元圧のガスが一気にガバナ13内に流れ込む。よって、ガス器具10aの点火直後の図4(a)の時刻t1において、圧力検出部1が検出する圧力は元圧から大気圧付近まで一気に減少する。
一方、ガバナ13内の圧力は、ガス器具10aの点火直後の図4(b)の時刻t1において、大気圧から元圧以上に一気に上昇する。ガバナ13内に流れ込んだガスは、さらに、ノズル15よりバーナー16内に流れ込み、エアーと混合されて点火される。
図3(c)は、ガス器具10aがガスの使用を開始した後、例えばガス器具10aを点火した後のガバナ内弁14の挙動の様子を示している。ガバナ13内の圧力が大気圧から元圧まで一気に上昇したため、ガバナ内弁14は、ガバナ13内のガス圧力を一定値に調圧するために、閉じる方向へ移動する。つまり、図11のガバナ内弁14を上げる方向に移動する。ガバナ内弁14の開度が下がりすぎるとガバナ13内の圧力が下がりすぎ、また開く方向へ移動する。これを繰り返すことにより、図11のガバナ内弁14を上下に振動させながら徐々に図3(d)に示すように安定開度へ収束していく。そして、ガバナ13内の圧力は、ガス器具10aを点火した後の図4(b)の時刻t2において増加及び減少を繰返しながら時刻t3において正規の二次圧力へ収束していく。このように、ガス器具10aがガスの使用を開始してから0.2〜2秒程度の時間をかけて、ガバナ13内のガス圧力は収束する。
一方、ガス器具10aを点火した後の図4(a)の時刻t2において、圧力検出部1が繰返し検出する圧力も増加及び減少を繰返しながら、図4(a)の時刻t3において元圧よりも低い所定の値に収束する。このように、ガス器具10aがガスの使用を開始してから0.2〜2秒程度の時間をかけて、圧力検出部1が繰返し検出する圧力は収束する。
ガバナ13を備えるガス器具10aがガスの使用を開始した時には、上述のような挙動がみられるが、ガス器具10aによるガスの使用量が変化した時点でも同様な挙動がみられる。圧力検出部1が検出する圧力の振動波形は、ガス器具10aがガスの使用を開始した時、及びガス器具10aがガスの使用量を変化させた時、ともにほぼ10Hz以上の周波数を有する。
また、圧力検出部1が検出する圧力の振動波形の振幅は、ガス器具10aがガスの使用を開始した後、又はガス器具10aがガスの使用量を変化させた後の最初の頃には、ガス器具10aがガスの使用を開始する直前の圧力(元圧)、及びガス器具10aがガスの使用量を変化させる直前の圧力以上に上昇する。
なお、ガバナ13を備えていないガス器具10b、10cについても、ガス器具10b、10cがガスの使用を開始した時、及びガス器具10b、10cがガスの使用量を変化させた時に、ガス圧力の振動波形が現れる。この振動波形の周波数は5〜30Hzであるが、その振幅は、ガス器具がガスの使用を開始する直前の圧力(元圧)、及びガス器具がガスの使用量を変化させる直前の圧力とほぼ同等程度まで上昇する。
次に、ガスが漏れている場合のガス圧力の挙動メカニズムについて、図5(a)〜図5(c)、図6(a)、図6(b)を参照して説明する。図6(a)、図6(b)のグラフにおいて、縦軸は圧力を示し、横軸は時間を示す。なお、ここで説明するガス漏れのモデルは、例えば、ガスメータ40の下流側で、ガス器具につないでいないガスホース、もしくは、穴やひび割れのあるガス配管に接続されているガス栓17を不作為に誤開放してしまった場合を想定している。
図6(a)はガス栓17の上流側のガス圧力の振動波形を示し、図6(b)はガス栓17の下流側のガス圧力の振動波形を示す。
図5(a)に示すようにガス栓17を開放する前の上流側のガス圧力は、図6(a)の時刻t0に示すように、元圧に上昇している。一方、ガス栓17より下流側のガス流路18の圧力は、絞りノズルの一種と考えることができる漏れ出口19の存在により図6(b)の時刻t0に示すように大気圧となっている。なお、図5(a)〜図5(c)の斜線部は、ガスが充填されていることを示す。
図5(b)に示すようにガス栓17の誤開放が発生した場合、図6(a)の時刻t1に示すように、ガス栓17より上流側のガス圧力は、元圧から大気圧付近まで一気に減少する。逆に、ガス流路18内の圧力は、図6(b)の時刻t1に示すように大気圧から元圧付近まで一気に上昇する。
その後、図6(a)の時刻t2時点において、ガス栓17より上流側のガス圧力は、ガス供給元の圧力調整器による圧力振動の影響を受けて増加及び減少を繰返しながら徐々に減衰し、元圧より低い所定の圧力値へ収束していく。同様に、ガス栓17より下流側のガス圧力も、図6(b)の時刻t2時点において増加及び減少を繰返しながら徐々に減衰し、所定の圧力値へ収束していく。
ガス漏れ時には、上述のような挙動がみられるが、この挙動によって発生する上流側のガス圧力の振動波形は、その周波数がほぼ10Hz以下(実測で7〜9Hz程度)であり、図6(a)における時刻t1より後の圧力が元圧以上に上昇することはない。
以上、図5のようなガス栓誤開放相当のガス漏れ時の圧力振動波形について説明したが、それ以外のガス漏れの場合、例えば、ガスが充満しているガス配管に誤って穴を開けてしまったり、ガスが充満しているガスホースを誤って抜いてしまったりした場合には、図6で説明したような圧力振動は発生しにくくなるため、図6(a)の時刻t1時点に相当する圧力上昇はこの図よりも小さめに出ることになり、また、図5のモデルよりは振動周波数も低くなる傾向がある。
以上のように、ガス流量の変化時、すなわち、ガバナ付きガス器具のガス使用開始時やガス使用量変化時には、0.2〜2秒程度の間にガス漏れ時と異なるガバナ特有の振動波形が得られる。よって、この圧力の振動波形に基づいてガス器具の使用中なのかまたはガス漏れなのかを短時間で判別することができる。
次に、図7を参照して、ガバナ付きガス器具10aの使用を開始したときの圧力検出部1が検出する圧力の変化の様子を説明する。なお、図7、図8、図9において、曲線Aは、圧力の減衰振動を求める計算式に基づく振動波形を示し、曲線Bは、それぞれガバナ付きガス器具10aの使用、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用、もしくはガス漏れの開始時の圧力減衰振動の実測波形を示し、曲線Cは、曲線Aの減衰曲線を示す。また、縦軸は、圧力変化量(kPa)を示し、横軸はガバナ付きガス器具10aの使用、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用、もしくはガス漏れが開始してからの経過時間(秒)を示している。
ガバナ付きガス器具10aの使用を開始した場合、圧力検出部1が検出する圧力は、図7に示す所定の振幅を示した後に、安定状態となる。具体的には、ガバナ付きガス器具10aの使用開始直後に、一度「−0.1」kPa弱への圧力低下を示した後(第1の谷)、約「0.05」kPaへの圧力上昇を示す(第1の山)。その後、圧力は約「−0.05」kPa強への圧力低下を示した後に、約「0.05」kPa弱への圧力上昇を示す(第2の山)。以後、徐々に振幅が小さくなりつつも圧力は振動を繰り返し、最終的には圧力変化がない安定状態となる。
このような圧力の振動が発生する理由は、ガバナ13内に調整スプリング66が設けられているからである。すなわち、ガバナ付きガス器具10aの使用が開始されると、調整スプリング66が振動すると共に、ガバナ内弁14についても振動し、通過口63の開口割合についても小刻みに大きくなったり小さくなったりと変化するからである。
特に、ガバナ付きガス器具10aの使用開始時においては、圧力振動の周波数や振幅に特徴が見られる。具体的には調整スプリング66が小刻みに振動することから、圧力について細かな振動を示すこととなる。この結果、圧力の振動波形は比較的高い周波数成分を多く含むこととなる。また、ガバナ付きガス器具10aの使用開始時に調整スプリング66の振動によって通過口63が大きくなったり小さくなったりすることから、圧力波形は、大きな振幅を示す。
図8を参照して、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用を開始したときの圧力検出部1が検出する圧力変化の様子を説明する。ガバナ無しガス器具10b、10cの使用を開始した場合、圧力検出部1が検出する圧力は、図8に示す所定の振幅を示した後に、安定状態となる。具体的には、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用開始直後に、一度「−0.1」kPa程度への圧力低下を示した後(第1の谷)、約「0.01」kPaへの圧力上昇を示す(第1の山)。その後、圧力は約「−0.05」kPa強への圧力低下を示す。以後、圧力は0kPa以上に上昇することが無いまま、振動を繰り返す。そして、振幅が徐々に振幅が小さくなり、最終的には圧力変化がない安定状態となる。このような圧力の振動が発生する理由は、以下による。
図12に示すように、ガバナ無しガス器具10b、10cが使用された場合、燃料ガスはガス流路11からノズルホルダ100を通じてバーナー16等に至る。ここで、ノズルホルダ100にある流速を持った気体が流入したときはその慣性力で急には流速が小さくならずに一端ガスが圧縮され圧力が上昇する。その後上昇した圧力により流入流速が小さく(場合によっては逆流)なって圧力が下がる。これを繰り返すことで圧縮膨張の振動が発生する。
以上のように、ガバナ付きガス器具10aの使用時と、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用時とでは、圧力は振動することとなる。しかしながら、図7に示す圧力波形を図8に示す圧力波形と比較すると、以下のような差異がある。
まず、ガバナ付きガス器具10aの場合、調整スプリング66のように細かく振動する物質を有しているのに対し、ガバナ無しガス器具10b、10cの場合、そのような物質を有していない。このため、図8に示す圧力波形は、図7に示す圧力波形と同様に振動を示しているものの、全体として振動周波数が図7に示す圧力波形よりも低くなる。
さらに、ガバナ付きガス器具10aの場合、調整スプリング66の振動によって振幅が大きくなっているが、ガバナ無しガス器具10b、10cの場合、調整スプリング66が無く、ノズルホルダ100の圧縮性による振動が発生しているのみである。このため、図8に示す圧力波形は、図7に示す圧力波形よりも振幅が小さくなる。
演算部6aは、このような特徴に基づいて、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかを判別することができる。
図9を参照して、ガス漏れ時の圧力検出部1が検出する圧力変化の様子を説明する。ガス漏れが発生した場合、圧力検出部1が検出する圧力は明確な振動を示すことなく緩やかに低下していくこととなる。このように、ガス漏れの場合、調整スプリング66の振動、及び、ノズルホルダ100の圧縮性による振動の双方が発生しないため、圧力波形には明確な振動が見られない。
以上のように、ガバナ付きガス器具10aの使用開始時と、ガバナ無しガス器具10b、10cの使用開始時と、ガス漏れ発生時とでは、圧力波形の周波数や振幅に特徴的な差異がある。制御部6は、上記の特徴から、ガスが漏れているか、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかを判別することができる。なお、ガバナ付きガス器具10aの使用であるかなどを判断するにあたり、演算部6aは、周波数や振幅の値を用いても良いし、周波数や振幅を示す演算結果を用いるようにしてもよい。
以上説明したように、本発明の実施の形態では、ガスを使用し始めた初期の圧力の振動波形、または、ガスの使用量を変化させた時の圧力の振動波形、あるいは、ガス漏れの発生直後の圧力の振動波形を圧力検出部1が検出し、制御部6が、その波形の特徴の違いからガス漏れかガス器具使用か、及び使用中のガス器具がガバナ13を備えているか否かを判断する。
次に、具体的な判別方法について説明する。上述したように、ガバナ付きガス器具10aの使用開始時やガス使用量変化時において、ガバナ13の機械的な調整スプリング66が圧力をある値に調圧しようとする時に発生する振動の影響により、ガバナ内弁14が振動することで、圧力検出部1により検出されたガス圧力には特徴的な振動波形が現れる。そこで、図2において、圧力検出部1から出力される圧力検出信号を演算部6aが高速にサンプリングして記憶部6cに記憶する。サンプリング速度は最大で200Hzくらいの振動波形が計測できる速度が好ましい。
その後、記憶部6cに記憶した複数のガス圧力データに基づいて、波形パターン分析部6dがガス圧力の振動波形を分析する。例えば、周波数分析部6d1で周波数分析を行うことにより、ある特定の周波数を算出することができる。調整スプリング66が振動する時のような機械系の振動では発生しやすい周波数が存在し、これを固有周波数という。この固有周波数や固有周波数の整数倍の周波数(高調波)付近の周波数が、上述の算出される周波数になる。さらに、調整スプリング66の振動以外にも、閉鎖されている配管内をガスが往復する振動(笛のような状態)なども固有周波数を持つ。
振動波形の周波数の具体的な算出例を、ガバナ付きガス器具10aの使用開始時の圧力減衰振動の実測波形を示した図7の曲線Bで説明する。このような圧力Pの振動波形は、圧力変化直前の圧力値よりも高い値と低い値の間で振動している。この振動波形における複数ある極大点(以下、山という)に着目する。
圧力減衰振動の計算式は下記の式(1)で表される。ここで、P:圧力、C:振幅、α:初期位相、κ:摩擦力(減衰係数)、ω(復元力)、t:時間とする。
P=C*exp(−κt)*sin(ωt+α)・・・(1)
図7の曲線Bの圧力減衰振動波形において、ガス圧力は、流量変化に基づく圧力変化直前の圧力値から、まず、圧力減少方向に変化して最初の極小点(以下、谷という)(第1の谷)を形成し、続いて圧力増加方向に変化して圧力変化直前の圧力値より高い最初の山(第1の山)を形成する。その後、次第に振動振幅が減少しながら谷と山を交互に形成していく。そこで、例えば、圧力振動波形の第1の山〜第5の山に着目する。第1の山から第5の山までの経過時間から式(2)により周期T(秒)を求める。
周期T=(第1の山〜第5の山間の経過時間)/4・・・(2)
次に、式(2)で求めた周期Tから式(3)により周波数Fを求める。
周波数F=1/周期T=4/((第1の山〜第5の山間の経過時間))・・・(3)
ここで、例えば、第1の山〜第5の山間の経過時間=0.31秒であった場合、周波数F=1/(0.31/4)=12.9[Hz]となる。したがって、このように10Hz以上の周波数を有する圧力振動波形は、ガバナ付きガス器具の使用により発生したものと判断することができる。
上記の算出例は、山に着目しているが、これに限定するものではなく、例えば谷に着目して周波数を算出しても良い。また、第1の山と第2の山が重なってしまう場合は、正確な周波数が算出できない可能性があるため、第2の山まで見送って、第3の山から所定の数だけ後の山までの山に基づいて周波数を算出しても良い。または、計測開始から一定時間はデータを捨てるという方法でも良い。
また、圧力データを高速にサンプリングし、記憶部6cに記憶させる際、すべての周波数成分を取り込んで分析させると、マイコンの処理時間が長く掛かり、電池の無駄な消費につながる。よって、通過周波数帯を分析すべきガバナ付きガス器具10a、ガバナ無しガス器具10b、10c及びガス漏れの特定の周波数帯に合わせたバンドパスフィルタを用意し、圧力検出部1の出力から制御部6の入力までの間に接続した状態にすれば、マイコンの処理時間を短縮することができる。バンドパスフィルタの通過周波数帯は、例えば5〜150[Hz]に設定すると良い。
同様に、振幅分析部6eは、圧力変化直前の圧力値からの圧力差を計算し、各山と谷の少なくともいずれか一方の振幅(山や谷における圧力差)を分析する。
その後、波形パターン分析部6dのパターン分析結果に基づいて(例えば、圧力振動周波数、圧力振動振幅のいずれかまたは両方に基づいて)、ガス漏れか、ガバナ付きガス器具の使用か、ガバナ無しガス器具の使用かの少なくともいずれか1つの判別を行う。
例えば、演算部6aは、周波数分析部6d1により分析された圧力振動波形の周波数が予め設定された周波数判別値以上(10Hz以上)の周波数であれば、ガバナ付きガス器具の使用中であると判別してもよい。
また、演算部6aは、振幅分析部6d2により求められた図7の第1の山におけるガスの圧力が、ガス器具がガスの使用を開始する前、又はガス器具がガスの使用量を変化させる前、あるいはガス漏れが始まる前におけるガスの元圧よりも所定の差圧(0.015kPa)以上超えている場合に、ガバナ付ガス器具の使用中であると判別してもよい。
演算部6aは、振幅分析部6d2により求められた図8の第1の山におけるガスの圧力が、ガス器具がガスの使用を開始する前、又はガス器具がガスの使用量を変化させる前、あるいはガス漏れが始まる前におけるガスの元圧とほぼ同等(元圧との差圧が−0.015kPa〜+0.015kPaの範囲)である場合に、ガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であると判別し、第1の山が元圧よりも低い(元圧との差圧が−0.015kPa以下である)場合、ガスが漏れていると判別してもよい。
元圧との差圧のしきい値を0.015kPaとした例を挙げたが、圧力センサの精度やノイズとの関係で適宜変更可能である。例えば、状況に応じて、0.1kPa程度としても問題は無い。
他の判別方法の例としては、振幅分析部6d2が圧力検出部1により繰返し検出された圧力の振動波形の減衰係数κを求め、演算部6aが、振幅分析部6d2により求められた減衰係数κが予め設定された減衰係数判別値以下である場合(例えば、κ≦60)に、ガバナ付ガス器具10aの使用中であると判別してもよい。減衰係数が小さく、数十秒以上圧力振動が続くという事は、ガバナ等の圧力調整手段が共鳴などにより連続的な振動を起こしている以外にはなく、ガバナ付ガス器具10aの使用中であると判別してよいからである。また、減衰係数が極端に大きい場合(例えば、κ>300)は、ガバナ等の圧力調整手段によりすばやく圧力が調整できたことを意味しており、このときもガバナ付ガス器具10aの使用中であると判別してよい。
さらに例えば、演算部6aは、振幅分析部6d2により求められた第1の山におけるガスの圧力が、例えば、図9の曲線Bに示すように、ガス器具がガスの使用を開始する前、又はガス器具がガスの使用量を変化させる前におけるガスの元圧より低く(例えば、(元圧−0.015kPa)未満)、かつ、流量検出部7により検出された流量が一定または安定して増加している場合に、ガスが漏れていると判別してもよい。
また、周波数が10Hz未満であり、かつ、第1の山の圧力値がガス器具点火前の圧力値より低く(例えば、(元圧−0.015kPa)未満)、かつ、流量値が一定値または安定して増加する場合は、大量のガス漏れが発生したと判別しても構わない。
ガス器具がガスの使用を開始した後、又はガス器具がガスの使用量を変化させた後では、ガス器具自身、もしくは、ガス器具使用者は、ガス流量を制御してガス流量を変化させる。例えばガステーブルでは、調理をするために火力を変化させるため、ガス流量が変化する。また、給湯器でも、初期は水温を急激に加熱しなければならないためガス流量が大きいが、安定してくると急激な加熱は必要なくなり、ガス流量を抑えて加熱を小さくする。一方、ガス漏れが始まった後では、ガスの流れを急速に変化させる制御部や部材は存在しない。ひび割れが進行することで流量が増加する事はあるが、急激な流量変化とはならない。したがって、流量値が一定または安定して増加している場合には、ガス漏れであると判別することで判別精度を向上させることができる。
その他、ガス器具のガス使用開始時、ガス器具のガス使用量変化時、あるいはガス漏れの発生時のいずれかから数秒以内に現れるガス圧力の振動波形の特徴を抽出できる手段であれば、どんな手段であっても、ガスが漏れているか、圧力調整手段を備えるガス器具の使用中であるか、或いは圧力調整手段を備えないガス器具の使用中であるかの少なくともいずれか1つを判別するために、用いることができる。
次に、ガス漏れ及びガス器具判別動作を図10のフローチャートを参照して説明する。まず、通常流量計測中(ステップS1)、計測した圧力値が判別のために予め設定された計測開始圧力値(例えば2.8kPa)より小さくなったか否かを判定する(ステップS2)。圧力値が計測開始圧力値より小さくなっていなければ(S2でNO)、次いでステップS1に戻り、小さくなっていれば(S2でYES)、ガス器具10a〜10cがガス使用を開始したかまたはガス器具10a〜10cによるガス使用量が変化したか、あるいはガス漏れが発生したかのいずれかが発生したことになるので、ステップS3へ進み、圧力検出部1によるガスの圧力値の高速計測を開始する。
ガス器具10a〜10cがガス使用を開始したかまたはガス器具10a〜10cによるガス使用量が変化したか、あるいはガス漏れが発生したかのいずれかが発生したことを検知する手段は、上記手段に限定するものではなく、種々の手段に変更可能である。例えば、流量検出部7により高速に流量を検出しておいて流量がゼロの状態から増加した時や、安定した流量から流量が変化した時などを検出することで、上記のいずれかの発生を検知しても良い。
また、本実施形態では圧力値の変化を直接計測することで、ガス使用状況等を判別したが、もちろん、圧力の振動波形を計測できる手段であればどんな方法でも良い。例えば、流量の変化を計測して圧力の変化を推定する方法などが考えられる。
次に、計測した圧力値及び流量値のデータを記憶部6cに記憶し(ステップS4)、次に、ある一定時間が経過したかまたはある一定データ数計測したか否かを判定する(ステップS5)。ある一定時間が経過していないかまたはある一定データ数計測していなければ(S5でNO)、次いでステップS3に戻り、ある一定時間が経過したかまたはある一定データ数計測していれば(S5でYES)、次いで、圧力値の高速計測を終了する(ステップS6)。なお、圧力高速計測開始及び圧力高速計測終了は、ガス使用開始時またはガス使用量変化時の周波数分析及び振幅分析に必要なデータ数が集まるように設定される。
次に、集められたデータに基づいて圧力振動波形のパターン分析、例えば、圧力振動波形の周波数分析を行い(ステップS7)、次に、圧力振動波形の振幅分析を行う(ステップS8)。次に、分析により求められた周波数、振幅のいずれかまたは両方に基づいてガス漏れ及びガス器具判別を行う(ステップS9)。
例えば、周波数分析部6d1で分析された圧力振動波形の周波数が予め設定された周波数判別値(例えば、10Hz)以上である場合に、ガバナ13を備えたガス器具の使用状態であると判別し、周波数が周波数判別値(例えば、10Hz)未満の場合に、ガス漏れと判別する。
次に、判別の結果がガス漏れか否かを判定し(ステップS10)、ガス漏れでなければ、次いでステップS1に戻り、ガス漏れであれば、警報部8でガス漏れ警告を行うと共に、遮断弁9を駆動してガス遮断を行う(ステップS11)。以上の手順を経て、ガス漏れ及びガス器具判別動作は終了する。
以上説明したように本発明の実施の形態によれば、以下の作用効果が得られる。
ガス流路30、11の下流側に接続されたガス器具10a〜10cがガスの使用を開始した時、又はガス器具10a〜10cがガスの使用量を変化させた時、あるいはガス漏れが発生した時から一定時間内において発生する圧力の振動波形は、ガスが漏れているか、ガバナ13を備えるガス器具10aの使用中であるか、或いはガバナ13を備えないガス器具10b、10cの使用中であるかに応じて特徴的に変化する。このため、ガス流路30、11の下流側に接続されたガス器具10a〜10cがガスの使用を開始した時、又はガス器具10a〜10cがガスの使用量を変化させた時、あるいはガス漏れが発生した時から一定時間内においてガスの圧力を繰返し検出し、検出された圧力の振動波形の特徴から、ガスが漏れているか、圧力調整手段を備えるガス器具の使用中であるか、或いは圧力調整手段を備えないガス器具の使用中であるかの少なくともいずれか1つを判別することができる。
また、振動波形の特徴は、ガス流路30、11の下流側に接続されたガス器具10a〜10cがガスの使用を開始した時、又はガス器具がガスの使用量を変化させた時、あるいはガス漏れが発生した時から数秒間に現れるため、ガス流路30、11の下流側に接続されたガス器具10a〜10cがガスの使用を開始した時、又はガス器具10a〜10cがガスの使用量を変化させた時、あるいはガス漏れが発生した時から数秒間における圧力の振動波形に基づいて判別することができる。したがって、ガス流路30、11の下流側に接続されたガス器具10a〜10cがガスの使用を開始した時、又はガス器具がガスの使用量を変化させた時、あるいはガス漏れが発生した時からガスが漏れているか、圧力調整手段を備えるガス器具の使用中であるか、或いは圧力調整手段を備えないガス器具の使用中であるかの少なくともいずれか1つを短時間で判別することができる。
本発明の実施の形態によれば、ガバナ特有の振動特性(周波数、振幅)を基に短時間(数秒)でガス漏れかガス器具使用かを判断することができる。そして、図2に示したガス漏れ及びガス器具判別装置をマイコンメータに組み込めば、従来の使用時間遮断のように、長時間にわたって使用者を危険な状態にさらすことがなく、安全で迅速な保安マイコンメータを構築することができる。
以上の通り、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限らず、種々の変形、応用が可能である。
例えば、上述の実施の形態では、ガス漏れ及び器具判別装置について説明したが、ガス漏れ判別を除いてガス器具判別のみを行うガス器具判別装置とすることもできる。また、ガバナ付きガス器具の使用だけを判別するガバナ付きガス器具判別装置とすることもできるし、ガバナ無しガス器具の使用だけを判別するガバナ無しガス器具判別装置とすることもできるし、ガス漏れだけを判別するガス漏れ判別装置とすることもできる。
また、例えば、圧力の振動波形の特徴を主に第1の山の特徴で判別していたが、第1の谷の特徴で判別しても良いし、第2以降の山や谷の特徴で判別しても良い。さらに、元圧より0.015kPa低い圧力値を超える時の回数をカウントするなどで周波数を分析するなどの方法も考えられる。
また、上述の実施の形態では、LPガスのガス供給の場合について説明したが、都市ガス供給の場合についても適用可能である。都市ガスの場合は、ガス供給元の圧力調整器は、何千世帯に1つ大きな調整器があるので、その圧力振動は配管の長さで打ち消され、LPガスの場合の7〜9Hzのような振動は出ないものと想定される。このような想定の下に、バンドパスフィルタがある場合、ない場合、またカットオフ周波数の異なる複数のバンドパスフィルタを並列に設け切り換えるようにしたもの、これらを、顧客の使用ガスが都市ガスか/LPガスか、設置ガス器具の種類、配管長等、諸々の条件で選択し、設定することができる。