JP5384204B2 - 高分子トランスデューサ - Google Patents

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Description

本発明は、イオン交換能を有する添加剤を含む電極を有する、動作性能に優れた高分子アクチュエータ、信号強度に優れた変形センサ等の高分子トランスデューサに関する。
近年、医療機器やマイクロマシンなどの分野においては小型かつ軽量なアクチュエータやセンサといった、ある種類のエネルギーを別の種類のエネルギーに変換するトランスデューサの必要性が高まっている。また産業用として、あるいはパーソナルロボットなどの分野において、軽量で柔軟性に富むトランスデューサの必要性が高まっている。
こういった観点から、軽量、柔軟なアクチュエータとして高分子アクチュエータに注目が集まっている。高分子アクチュエータとしては種々の方式のものがこれまでに提案されている。例えば、含水高分子ゲルに対して、温度変化、pH変化、電場印加等の刺激を与え、これらの刺激に基づく形態変化を利用した高分子アクチュエータ(例えば、特許文献1参照)、含水状態のイオン交換樹脂膜とその両面に接合した電極とからなり、両面の電極間に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせる高分子アクチュエータ(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。特に後者においては、電圧印加後、瞬時に湾曲および変形が起こり、アクチュエータとしての優れた応答性を示す。しかしながら、当該高分子アクチュエータは含水状態でしか動作しないため、それが使用される環境等に制限があり、応用範囲が限定されてしまうという問題がある。
上記の課題を克服するべく、電解質膜となる含水状態のイオン交換樹脂にモンモリロナイト等の層状ケイ酸塩やスルホン酸変性シリカなどの添加剤を添加するか、あるいは電極膜中に同様の添加剤を添加する方法が提案されている(例えば、非特許文献1および2参照)。当該非特許文献1および2には、特に電極膜への層状ケイ酸塩の添加により、高分子アクチュエータからの水の排出が抑制される結果、層状ケイ酸塩を添加しない場合に比べて空気中でより長い時間駆動することができることが示されている。しかしながら、これらの方法は水の揮発という問題を根本的に解決するものではない。
動作に水を必要としない高分子アクチュエータとして、軟質な高分子誘電体と柔軟な電極とからなる高分子アクチュエータが知られている(例えば、特許文献3参照)。この方式の高分子アクチュエータは、上記のとおり動作に水を必要としないことに加えて、アクチュエータの動作がイオンなどの物質移動現象ではなく、より高速なプロセスである電子移動現象によるものであることから応答性に非常に優れるものである。しかしながらその一方では、動作には数1000V程度の非常に高い電圧が必要であり、安全性の観点から応用範囲が限定されるという問題がある。
この課題を克服するものとして、イオン液体およびフッ素系高分子からなる非水系高分子固体電解質の両面に、イオン液体、フッ素系高分子および単層カーボンナノチューブからなる電極を貼り合わせた高分子アクチュエータ(例えば、非特許文献3参照)や、イオン液体およびブロック共重合体からなる非水系高分子固体電解質の両面に、活性炭を含む電極を貼り合わせた高分子アクチュエータ(例えば、特許文献4および5参照)が知られている。これらの高分子アクチュエータは、水の無い状態においても数V程度の低い電圧で駆動する特徴を有する。しかしながら、アクチュエータの発生できる力や動作速度などの点でさらなる改良の余地があった。
一方、高分子トランスデューサはセンサとして使用することもできる。従来機械エネルギーを電気エネルギーに変換するセンサとしては、圧電セラミックス等を用いた圧電素子が広く用いられている。チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などに代表される圧電セラミックスは、該セラミックスが応力を受けることで電荷を発生する圧電効果により、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する。
しかしながら、これらの圧電セラミックスを用いたセンサは、高密度の無機材料を用いるために、低重量であることが求められる用途では使用できないことが多い。また、耐衝撃性に劣るために、外部からの衝撃が加わった場合に圧電セラミックスが破壊されてセンサ機能が低下しやすい。また可撓性に劣るために、球面や凹凸を有する複雑な形状の構造物に設置することが求められる用途では使用することが難しく、大きな変形や小さな応力を検出することが難しいという問題もあった。
特開昭63−309252号公報 特開平4−275078号公報 特表2003−505865号公報 国際公開第2008/044546号 国際公開第2008/123064号
センサーズ アンド アクチュエーターズ B:ケミカル(Sensors and Actuators B: Chemical)、2007年、第120巻、第2号、p.529−537 センサーズ アンド アクチュエーターズ B:ケミカル(Sensors and Actuators B: Chemical)、2007年、第123巻、第1号、p.183−190 未来材料、2005年、第5巻、第10号、p.14〜19
本発明は、低い電圧でも効率よく駆動することができる発生力、変位量、動作速度などの性能に優れる高分子アクチュエータとして、あるいは応答性がよくて検知性能に優れ、しかも可撓性に富み耐衝撃性に優れる変形センサとして使用することができる、軽量かつ柔軟で、水が存在しない状態においても安定して機能することができる高分子トランスデューサを提供することを目的とする。
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、イオン交換能を有する添加剤を電極に配合することにより上記目的が達成されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち本発明は、
[1]一対の電極と、当該一対の電極の間に配設され、イオン液体および高分子を含む高分子固体電解質とを有する高分子トランスデューサであって、一対の電極のうちの少なくとも一方が導電性物質、バインダーおよび有機化処理が施されている層状ケイ酸塩であるイオン交換能を有する添加剤を含む高分子トランスデューサ、
]前記導電性物質が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノシート、ポリアセン、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛および活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]の高分子トランスデューサ、
に関する。
本発明の高分子トランスデューサは、軽量かつ柔軟で、水が存在しない状態においても安定して機能することができる。そして、本発明の高分子トランスデューサを高分子アクチュエータとして使用した場合には、低い電圧でも効率よく駆動することができ、発生力、変位量、動作速度などの性能に優れたものとなる。また、本発明の高分子トランスデューサを変形センサとして使用した場合には、応答性がよくて検知性能に優れ、しかも可撓性に富み耐衝撃性に優れたものとなる。
高分子トランスデューサの高分子アクチュエータとしての性能の評価方法を示す概略図である。 高分子トランスデューサの変形センサとしての性能の評価方法を示す概略図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子トランスデューサは、一対の電極と、当該一対の電極の間に配設され、イオン液体および高分子を含む高分子固体電解質とを有する。
本発明の高分子トランスデューサを構成する電極のうちの少なくとも一方、好ましくは両方は、導電性物質、バインダーおよびイオン交換能を有する添加剤を含む。当該電極が含む導電性物質としては特に制限はないが、例えば、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等)、カーボンナノホーン、カーボンナノシート(グラフェンシート)、ポリアセン、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等)、カーボンブラック(アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、高比表面積カーボンブラック(ケッチェンブラック、バルカン等)等)、黒鉛、活性炭等のカーボン材料;金、白金、銀、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、亜鉛、ジルコニウム、鉄、コバルト、錫、鉛、インジウム、クロム、モリブデン、マンガン等の金属材料;インジウム−錫複合酸化物(ITO)、アンチモン−錫複合酸化物(ATO)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)等の金属酸化物;硫化亜鉛(ZnS)、硫化銅(CuS)等の金属硫化物;ポリ(エチレン−3,4−ジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体等の導電性高分子などを挙げることができる。これらの導電性物質は電極においていわゆる活物質として機能し得る。
これらのうちでも、電気化学的安定性や耐酸化還元安定性の観点から、カーボン材料が好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノシート、ポリアセン、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛および活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、工業的経済性の観点から高比表面積カーボンブラック、カーボンナノホーンおよび黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、高分子アクチュエータとしての性能の観点から高比表面積カーボンブラックおよび/またはカーボンナノホーンが特に好ましい。
電極は上記の導電性物質のうちの1種を単独で含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。電極が2種以上の導電性物質を含む場合には、製造工程の煩雑化を避ける面から、その種数は2〜5程度であることが好ましい。電極が2種以上の導電性物質を含む場合には、そのうちの少なくとも1種を上記活物質として機能させ、残りを電極の抵抗を低減させるための導電材として機能させることができる。
電極における導電性物質の含有率は、多すぎると電極自体が硬くなって高分子トランスデューサの柔軟性が損なわれる場合があり、一方、少なすぎると高分子アクチュエータとして使用した場合に変位が小さくなったり、変形センサとして使用した場合に起電力が小さくなる傾向があることから、各電極の質量に基づいて1〜50質量%の範囲内であることが好ましく、10〜40質量%の範囲内であることがより好ましい。
電極が含むバインダーは、上記導電性物質を固定する機能を果たすことができる。当該バインダーを構成する素材としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン等のポリスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のポリ(メタ)アクリル酸系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンランダム共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン等のハロゲン化ビニル系樹脂;ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリブチレングリコールテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−9T、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンブタジエンランダム共重合体)、アクリルゴム、ニトリルゴム、ノルボルネンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム(軟質熱硬化型ポリウレタンを含む)等のゴム類あるいはこれらの架橋体;オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、架橋性オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPV)、アクリル系熱可塑性エラストマー(例えば、ポリメタクリル酸メチルとポリアクリル酸ブチルとのブロック共重合体等)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマー類;スルホン酸基を側鎖に有するフッ素系ポリマー(例えば、「ナフィオン」(デュポン社製))などを用いることができる。バインダーは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
これらのうちでも、電極を膜状にして使用する場合における造膜性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンランダム共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンブタジエンランダム共重合体)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)が好ましい。また電極中に、後述するイオン液体が含まれる場合においては、当該イオン液体と混合可能な高分子種であることが好ましい。
電極におけるバインダーの含有率に特に制限はないが、電極の抵抗とイオンの拡散の起こりやすさの観点から、各電極の質量に基づいて1〜20質量%の範囲内であることが好ましく、3〜15質量%の範囲内であることがより好ましい。
本発明の高分子トランスデューサを構成する電極はイオン液体を含んでいてもよい。イオン液体は、通常100℃以下(好ましくは25℃以下)に融点を有する塩である。使用されるイオン液体の種類に特に制限は無いが、例えば、有機カチオンと有機系または無機系のアニオンとから構成されるものを使用することができる。当該有機カチオンとしては、例えば、下記一般式(I)〜(V)のいずれかに示されるものを挙げることができる。
Figure 0005384204
上記一般式(I)中、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基および炭素数2〜30のオリゴアルケニレンオキシド基からなる群から選ばれる基を表す。
Figure 0005384204
上記一般式(II)中、Rは水素原子、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基および炭素数2〜30のオリゴアルケニレンオキシド基からなる群から選ばれる基を表し、R’は炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を表し、nは0以上5以下の整数を表す。
Figure 0005384204
上記一般式(III)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基および炭素数2〜30のオリゴアルケニレンオキシド基からなる群から選ばれる基を表し、R〜Rのうち、2つの基が共同して環構造を形成していてもよい。
Figure 0005384204
上記一般式(IV)中、R、R10、R11、R12はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基および炭素数2〜30のオリゴアルケニレンオキシド基からなる群から選ばれる基を表し、R〜R12のうち、2つの基が共同して環構造を形成していてもよい。
Figure 0005384204
上記一般式(V)中、R13、R14、R15はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、炭素数2〜10の直鎖状または分岐鎖状のアルケニル基、炭素数6〜15のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基および炭素数2〜30のオリゴアルケニレンオキシド基からなる群から選ばれる基を表し、R13〜R15のうち、2つの基が共同して環構造を形成していてもよい。
これらのうちでも、イオン液体のイオン伝導性、入手容易性の観点から、一般式(I)で示される有機カチオン(イミダゾリウムカチオン)が好ましく、イオン液体の融点、粘度の観点から一般式(I)におけるR、Rが炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であるものがより好ましく、一般式(I)におけるRとRが互いに異なる基であるものがさらに好ましい。このような有機カチオンの具体例としては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムカチオン(EMI;一般式(I)においてRおよびRのうちの一方がメチル基で他方がエチル基であるもの)、ブチルメチルイミダゾリウムカチオン(BMI;一般式(I)においてRおよびRのうちの一方がメチル基で他方がブチル基であるもの)などが挙げられる。
また、イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、含ハロゲンアニオン、鉱酸アニオン、有機酸アニオン等を挙げることができる。含ハロゲンアニオンおよび鉱酸アニオンの具体例としては、PF 、ClO 、CFSO 、CSO 、BF 、(CFSO、(CSO、(CFSO、AsF 、SO 2−、(CN)、NO 等を挙げることができる。また有機酸アニオンの具体例としては、RSO 、RCO (Rはアルキル基、アリール基、アルケニル基、アラルキル基、アラルケニル基、アルコキシアルキル基、アシルオキシアルキル基、スルホアルキル基または芳香族複素環残基であり、複数の環状構造または分岐構造を含んでいてもよい)等を挙げることができる。
これらのうちでも、イオン液体のイオン伝導率、入手容易性の観点から、PF 、ClO 、CFSO 、CSO 、BF 、(CFSO、(CSO、(CN)が好ましく、特にBF 、(CFSO、(CSOがより好ましい。
本発明において使用されるイオン液体としては、上記した有機カチオンとアニオンとの組み合わせからなるものを使用することができ、これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。本発明において使用されるイオン液体としては、イオン伝導性に優れることから、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)、エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMITFSI)、ブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF)、ブチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BMITFSI)が好ましい。
電極がイオン液体を含む場合、その含有量に特に制限はないが、多すぎるとイオン液体の染み出しが顕著になったり電極の力学強度が劣ったりする傾向があり、少なすぎると電極のイオン伝導度が低くなり高分子トランスデューサとしての性能が低下する傾向があることから、各電極の質量に基づいて30〜95質量%の範囲内であることが好ましく、35〜75質量%の範囲内であることがより好ましい。
本発明の高分子トランスデューサが有する一対の電極のうちの少なくとも一方はイオン交換能を有する添加剤を含む。当該イオン交換能を有する添加剤は、カチオン交換能を有する添加剤でもアニオン交換能を有する添加剤でもどちらでもよい。
上記のイオン交換能を有する添加剤の具体例として、例えば、層状ケイ酸塩やリン酸ジルコニウムなどを挙げることができる。
上記の層状ケイ酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等のスメクタイト;3八面体型バーミキュライト、2八面型バーミキュライト等のバーミキュライト;白雲母、金雲母、黒雲母、鱗雲母、ソーダ雲母、テニオライト、テトラシリシックマイカ等の純雲母などが挙げられる。
これらの層状ケイ酸塩やリン酸ジルコニウムは上記したカチオン交換能を有する添加剤として機能することができる。
一方、アニオン交換能を有する添加剤としては、例えば、ハイドロカルマイト、ハイドロタルサイト等を挙げることができる。
また、上記したもの以外にもイオン交換能を有する添加剤としては、層状ケイ酸塩以外の鉱物(例えば、ホウ酸塩鉱物、硫酸塩鉱物、リン酸塩鉱物等)や、シリカ等の粒子の表面がイオン交換能を有する官能基で置換された変性無機添加剤;リグニンスルホン酸またはその誘導体等のカチオン交換樹脂粉末(ただし、上記バインダーとして機能していないもの);アニオン交換樹脂粉末(ただし、上記バインダーとして機能していないもの)などを挙げることができる。
また上記の層状ケイ酸塩は有機化処理が施されていてもよい。有機化処理は、層状ケイ酸塩を有機カチオンで処理することにより行うことができる。当該有機化処理に用いる有機カチオンとしては、極性官能基を分子内に有するものを好ましく使用することができ、例えば、極性官能基を分子内に有するアンモニウムイオン類、極性官能基を分子内に有するホスホニウムイオン類、極性官能基を分子内に有するスルホニウムイオン類等の有機オニウムイオンが挙げられ、汎用性等の観点から下記の一般式(VI)で示されるアンモニウムイオン類またはホスホニウムイオン類がより好ましい。
Figure 0005384204
上記一般式(VI)中、Mは窒素原子またはリン原子を表し、R16、R17、R18およびR19はそれぞれ独立に水素原子、ベンゼン環上に極性官能基を有していてもよいベンジル基または極性官能基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表す。ただし、R16〜R19のうちの少なくとも1つはベンゼン環上に極性官能基を有するベンジル基または極性官能基を有する炭素数1〜30のアルキル基である。)
上記の極性官能基としては、例えば、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アシル基、カルボキシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基、ニトロ基、ハロゲン原子、エポキシ基等が挙げられ、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基が好ましい。
また上記以外の他の好ましい有機カチオンの例としては、上記したイオン液体を構成する有機カチオンを挙げることができる。
上記のイオン交換能を有する添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の組み合わせ方に特に制限はなく、例えば、カチオン交換能を有する添加剤とアニオン交換能を有する添加剤とを組み合わせて用いることもできるが、併用する個々のイオン交換能を有する添加剤がそれぞれカチオン交換能を有する添加剤であるか、またはそれぞれアニオン交換能を有する添加剤であることが好ましい。
上記のイオン交換能を有する添加剤は、入手容易性や材料選択の自由度の観点から、カチオン交換能を有する添加剤であることが好ましく、有機化処理が施されていてもよい層状ケイ酸塩であることがより好ましく、有機化処理が施された層状ケイ酸塩であることがさらに好ましい。
また、イオン交換能を有する添加剤のイオン交換容量としては、本発明の効果がより顕著に奏されることから、0.3meq/g以上であることが好ましく、0.5meq/g以上であることがより好ましく、0.7meq/g以上であることがさらに好ましい。なお、イオン交換容量が高いほど本発明の効果がより顕著に奏されることからイオン交換容量の上限に特に制限はない。
イオン交換能を有する添加剤は、上記一対の電極のうちの少なくとも一方、好ましくは両方に含有されている。電極がイオン交換能を有する添加剤を含むことによって、導電性物質近傍におけるイオンの流入/流出の量をコントロールすることができる。
また、イオン交換能を有する添加剤は、電極内において均一に存在していてもよいし、例えば、電極の高分子固体電解質側に偏在していてもよい。
電極における上記イオン交換能を有する添加剤の含有率は、多すぎる場合には高分子トランスデューサの柔軟性を損なうことがあり、一方で少なすぎる場合には本発明の効果が得られにくくなることから、各電極における上記導電性物質、バインダーおよび任意成分としてのイオン液体の合計100質量部に対して1〜100質量部の範囲内であることが好ましく、10〜75質量部の範囲内であることがより好ましい。
本発明において使用される電極の製造方法としては、特に制限はないが、例えば、上記した導電性物質、バインダー、イオン交換能を有する添加剤、イオン液体等の電極を構成する成分を乳鉢等を用いて混合または混練した後に、熱プレス成形してシート状の電極を得る方法;上記電極を構成する成分を溶媒または分散媒に溶解または分散させた後に膜状に成形し、次いで溶媒または分散媒を除去してシート状の電極を得る方法などにより製造することができる。
本発明の高分子トランスデューサを構成する高分子固体電解質は、イオン液体および高分子を含む。高分子固体電解質が含むイオン液体としては、電極が含むことのできるイオン液体として上述したものを、同じく好適に使用することができる。電極がイオン液体を含む場合、電極が含む当該イオン液体と同じ種類のイオン液体を高分子固体電解質にも使用することが好ましい。
高分子固体電解質が含む高分子は、イオン液体をその内部に保持することができるものを好ましく使用することができる。当該高分子としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン等のポリスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のポリ(メタ)アクリル酸系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンランダム共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン等のハロゲン化ビニル系樹脂;ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリブチレングリコールテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−9T、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6,12等のポリアミド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(スチレンブタジエンランダム共重合体)、アクリルゴム、ニトリルゴム、ノルボルネンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム(軟質熱硬化型ポリウレタンを含む)等のゴム類あるいはこれらの架橋体;オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、架橋性オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPV)、アクリル系熱可塑性エラストマー(例えば、ポリメタクリル酸メチルとポリアクリル酸ブチルとのブロック共重合体等)、ポリスチレンとポリ(メタ)アクリル酸エステルとのブロック共重合体、ポリスチレンと非晶性ポリエステルとのブロック共重合体、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPAE)等の熱可塑性エラストマー類;スルホン酸基を側鎖に有するフッ素系ポリマー(例えば、「ナフィオン」(デュポン社製)等)などを挙げることができる。
また高分子固体電解質が含む高分子は、上記した高分子に相当する重合体ブロックが2つ以上結合したブロック共重合体であってもよいし、グラフト共重合体であってもよい。これらのうちでも、成形方法の選択自由度、熱に対する安定性、電極材料への低腐食性等の観点から、高分子固体電解質が含む高分子は、実質的に解離性イオン基(例えば、スルホン酸基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、カルボキシル基またはその塩、アンモニウム基等)を含まないことが好ましく、イオン伝導性および高分子固体電解質の力学的強度の観点から、用いるイオン液体と非相溶性の重合体ブロックを有するブロック共重合体であることがより好ましく、用いるイオン液体と相溶性の重合体ブロックと該イオン液体と非相溶性の重合体ブロックとを有するブロック共重合体であることがさらに好ましい。
上記のイオン液体と非相溶性の重合体ブロックの具体例としては、使用されるイオン液体の種類などにもよるが、ポリエチレンブロック、ポリプロピレンブロック等のポリオレフィンブロック;ポリスチレンブロック等の芳香族ビニル系重合体ブロック;ポリメタクリル酸イソボルニルブロック等の脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステルから構成される重合体ブロックなどが挙げられる。一方、上記のイオン液体と相溶性の重合体ブロックの具体例としては、使用されるイオン液体の種類などにもよるが、ポリメタクリル酸メチルブロック、ポリアクリル酸メチルブロック、ポリアクリル酸エチルブロック、ポリアクリル酸メトキシメチルブロック等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体ブロック;ポリエチレングリコールブロック等のポリオキシアルキレンブロック;ポリε−カプロラクトン等のポリエステルブロックなどが挙げられる。
高分子固体電解質が含む高分子は1種類であっても、2種類以上であってもよいが、2種類以上とする場合には、製造工程の煩雑化を避けるため、通常2〜5種類程度であることが好ましい。
高分子固体電解質におけるイオン液体と高分子との質量比に特に制限は無いが、イオン伝導性および力学的強度の観点から、高分子100質量部に対し、イオン液体が1〜1000質量部の範囲内であることが好ましく、10〜700質量部の範囲内であることがより好ましく、20〜500質量部の範囲内であることがさらに好ましく、30〜300質量部の範囲内であることが特に好ましい。
また、高分子固体電解質は、イオン液体および高分子のみからなっていてもよいが、これらの成分以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、電極が含む上記イオン交換能を有する添加剤や、後述する他の成分などが挙げられる。高分子固体電解質の全体の質量に対するイオン液体および高分子の合計の占める割合としては、60〜100質量%の範囲内であることが好ましく、70〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
本発明において使用される高分子固体電解質の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、イオン液体および高分子を加熱下に混練後、所望の形状(例えば膜状等)に成形する方法;イオン液体および高分子を溶媒または分散媒に溶解または分散させた後にキャストし、所望によりさらに当該溶媒または分散媒を除去する方法;高分子を含む成形体を予め製造し、これにイオン液体を含浸させる方法などにより製造することができる。
本発明の高分子トランスデューサには、酸化防止剤、UV吸収剤、滑剤、分散剤、界面活性剤、増量剤、補強材、可塑剤等の他の成分を添加してもよい。これらの他の成分は、上記電極に添加されていてもよいし、上記高分子固体電解質に添加されていてもよい。これらの他の成分の添加量は、高分子トランスデューサを構成する各電極または高分子固体電解質100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
本発明の高分子トランスデューサの形状には特に制限は無いが、膜状、フィルム状、シート状、板状、繊維状、円柱状、柱状、球状など種々の形が可能である。このうち、膜状、フィルム状、シート状、板状の高分子トランスデューサを製造する場合には、例えば、膜状に成形した高分子固体電解質上に、別途、膜状に成形したシート状の電極を貼り合わせる方法;膜状に成形した高分子固体電解質上に電極を構成する成分を含む溶液または分散液を塗工する方法;電極を構成する成分を含む溶液または分散液をキャストし、次いで高分子固体電解質を構成する成分を含む溶液または分散液をキャストし、さらに電極を構成する成分を含む溶液または分散液をキャストする方法などを挙げることができる。繊維状、円柱状、柱状、球状などの場合においても、同様の方法を採用することができる。
上記した膜状、フィルム状、シート状または板状の高分子トランスデューサにおいて、それを構成する電極層および高分子固体電解質層の各厚さは特に制限されず、高分子トランスデューサの用途等により適宜調整することができるが、電極層の厚さは、あまりに厚いと電極層が硬くなり柔軟性が損なわれる傾向があり、逆にあまりに薄いと高分子アクチュエータとして使用した際に変形量が低下したり変形センサとして使用した際に信号強度が低下したりする傾向があることから、1μm〜10mmの範囲内であることが好ましく、5μm〜1mmの範囲内であることがより好ましく、10〜500μmの範囲内であることがさらに好ましい。また、高分子固体電解質層の厚さは、あまりに厚いと抵抗が高くなる傾向があり、逆にあまりに薄いと力学強度が低下したり絶縁性(セパレータ機能)が低下したりする傾向があることから、1μm〜10mmの範囲内であることが好ましく、5μm〜1mmの範囲内であることがより好ましく、10〜500μmの範囲内であることがさらに好ましい。
本発明の高分子トランスデューサには、その長手方向の抵抗を低減することを目的として集電体を設けてもよい。集電体としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、ニッケル等の金属箔や金属薄膜;金、銀、ニッケル等の金属粉またはカーボンパウダー、カーボンナノチューブ、炭素繊維等の炭素微粉とバインダー樹脂とからなる膜状成形体;織物、紙、不織布等の布帛や高分子フィルムなどにスパッタやメッキなどの方法により金属薄膜を形成したものなどを挙げることができる。これらのうちでも可撓性の観点からは金属粉とバインダー樹脂とからなる膜状成形体、布帛や高分子フィルムなどに金属薄膜を形成したものであることが好ましい。集電体は本発明の高分子トランスデューサが有する一対の電極のうちの少なくとも一方の電極の外側(高分子固体電解質が配設される側に対して反対の側)に配設することができる。
本発明の高分子トランスデューサは、空気中、水中、真空中、有機溶媒中で動作することができる。また使用環境に応じて、適宜封止を施してもよい。封止材料の例としては、特に制限はなく、各種樹脂などを挙げることができる。
本発明の高分子トランスデューサを高分子アクチュエータ(高分子アクチュエータ素子)として使用する場合は、相互に絶縁した電極間に電位差を与えることにより駆動させることができ、電気エネルギーを力、変動、変位等の機械的エネルギーに変換することができる。一方で、本発明の高分子トランスデューサに外部より変位、圧力等の機械的エネルギーを加えると、相互に絶縁した電極間に電気エネルギーとして電位差(電圧)を発生させることができることから、変動、変位、圧力等を検知する変形センサ(変形センサ素子)として使用することもできる。
以下、本発明について、実施例を基に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
使用した材料について以下に示す。
(1)スチレン
キシダ化学株式会社より購入した特級スチレンをアルミナに接触させて重合禁止剤を除去し、使用前に十分に窒素でバブリングを行って溶存酸素を除去してから用いた。
(2)メチルメタクリレート
株式会社クラレ製のメチルメタクリレートをゼオラムに接触させて重合禁止剤を除去し、使用前に十分に窒素でバブリングを行って溶存酸素を除去してから用いた。
(3)テトラヒドロフラン
キシダ化学株式会社より購入した特級テトラヒドロフランをナトリウム−ベンゾフェノンケチル存在下に蒸留することにより精製したものを用いた。
(4)1,1−ジフェニルエチレン
アルドリッチ社より購入した1,1−ジフェニルエチレンを水素化カルシウム存在下に減圧蒸留することにより精製したものを用いた。
(5)塩化リチウム
アルドリッチ社より購入した塩化リチウム(99.998%)をそのまま用いた。
(6)α,α’−ジブロモ−p−キシレン
アルドリッチ社より購入したα,α’−ジブロモ−p−キシレンをテトラヒドロフランで希釈し、0.095M溶液として用いた。
(7)ポリ(フッ化ビニリデン−ran−ヘキサフルオロプロピレン)[PVDF/HFP]
アルケマ社製「カイナー#2801」をそのまま用いた。
(8)エチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[EMITFSI]
日本合成化学工業株式会社より購入し、そのまま用いた。
(9)活性炭
クラレケミカル株式会社製「YP−50F」をそのまま用いた。
(10)アセチレンブラック
電気化学工業株式会社製「デンカブラック」をそのまま用いた。
(11)有機化処理が施された膨潤性雲母
コープケミカル株式会社製「ソマシフ−MEE」をそのまま用いた。
(12)リグニンスルホン酸ナトリウム
東京化成工業株式会社より購入したリグニンスルホン酸ナトリウムをそのまま用いた。
その他の材料については、目的に応じて精製を行い使用した。
また、以下の実施例および比較例で採用した各評価方法を以下に示す。
高分子トランスデューサの高分子アクチュエータとしての性能試験
図1に示すとおり、15mm×5mmの大きさに切り出した高分子トランスデューサ膜10について、長さ方向に10mmを金製端子11および12で挟み、高分子アクチュエータとして動作する長さ5mmを空気中に出して測定セルとした。金製端子11と12に、ポテンショスタット13(北斗電工株式会社製「HAB−151」)の電位制御端子、および電流制御端子を接続した。金製端子11は作用電極、金製端子12は対向電極でありかつ参照電極である。高分子トランスデューサ10の金製端子11側の面の空気中に出た部分の先端から1mmの位置Pにレーザー変位計14(株式会社キーエンス製「LC−2440」)のターゲットを定めた。この状態でセルを固定し、ポテンショスタット13から金製端子11に対して、金製端子12を基準として+1Vの電圧(電位差)を印加して、30秒後にレーザー変位計14で変位量を計測し、当該変位量を高分子トランスデューサの高分子アクチュエータとしての性能を示す指標とした。なお、レーザー変位計14を設置した側への変位量を+(プラス)、レーザー変位計14を設置した側と反対側への変位量を−(マイナス)、初期状態を変位0と定義した。
高分子トランスデューサの変形センサとしての性能試験
(1)30mm×20mmの大きさの絶縁フィルム(熱可塑性エラストマー製、厚み約150μm)2枚のそれぞれの片面中央部に銀ペースト(日本黒鉛工業株式会社製「バニーハイトM−15A」)をスクリーン印刷で塗工することで20mm×10mmの大きさの集電体層を形成させた。
(2)図2に示すように、20mm×10mmの大きさにカットした高分子トランスデューサ膜20の両面に、それぞれ集電体層が合致するように2枚の絶縁フィルム21と22を重ね合わせ、130℃で5分間熱プレスを行って貼り合わせて測定サンプル23とした。この際、絶縁フィルム21の集電体層(図示せず)と高分子トランスデューサ膜20の間にリード線24を、および絶縁フィルム22の集電体層(図示せず)と高分子トランスデューサ膜20の間にリード線25をそれぞれ挟み込んだ。
(3)測定サンプル23を、高分子トランスデューサ膜の長さ20mmの半分の10mmが残るように固定治具26および27で挟み、リード線24および25をデータロガー28(株式会社キーエンス製「NR−ST04」)に接続した。また、与えられた変位量を測定するため、測定サンプル23の絶縁フィルム21側にレーザー変位計29(株式会社キーエンス製「LK−G155」)を設置するとともに、測定サンプル23の絶縁フィルム21側の外面の固定端から5mmの位置Pにレーザー変位計29のターゲットを定めた。この状態でレーザー変位計29側に+2mmの変位を与えたときに発生したピーク電圧をデータロガー28で測定した。上記ピーク電圧(リード線25側を基準としたリード線24側の電位)を変位量で除した値(センサ性能、単位:μV/mm)を高分子トランスデューサの変形センサとしての性能を示す指標とした。
[製造例1]
ポリスチレン−b−ポリメチルメタクリレート−b−ポリスチレンの製造
(1)内部の水分を完全に除去した1L容ナスフラスコに磁気攪拌子を入れて、三方コックを取り付けた。アルゴン雰囲気のグローブボックス内でこのナスフラスコ内に塩化リチウム370mg(8.73mmol)を仕込んだ。ナスフラスコをグローブボックスから取り出し、ナスフラスコ内にテトラヒドロフラン560mLを仕込んだ。このナスフラスコをドライアイス/メタノールバスに浸け、−78℃に冷却したのち、sec−ブチルリチウム溶液2mL(sec−ブチルリチウムとして2.6mmol)を滴下した。この溶液にスチレン33.9mL(297mmol)をゆっくりと滴下し、−78℃で1時間重合を行った。
(2)ここに1,1−ジフェニルエチレン1.54mL(8.72mmol)を滴下した。シリンジにより極少量の重合液を抜き出しGPC測定を実施したところ、Mn=18,800、Mw/Mn=1.15であった。計算により求めた開始剤効率は63.3モル%であった。
(3)上記ナスフラスコの重合液を−78℃を保持しながら、ここにメチルメタクリレート26.9mL(252mmol)をゆっくりと加えた。メチルメタクリレートの添加により、系内は濃赤色から薄い黄色へと変化した。そのまま重合を1時間継続した。シリンジにより極少量の重合液を抜き出しGPC測定を実施したところ、Mn=31,200、Mw/Mn=1.08であり、ポリスチレン−b−ポリメチルメタクリレートが生成したことを確認した。
(4)上記ナスフラスコ内の重合液を−78℃で保持したまま、α,α’−ジブロモ−p−キシレンのテトラヒドロフラン溶液8.66mL(α,α’−ジブロモ−p−キシレンとして0.823mmol)を滴下し、−78℃のまま2日間攪拌を継続した。ここに少量のメタノールを添加して反応を停止した。一部をサンプリングしGPC測定を行ったところ、主ピークのMn=56,400、Mw/Mn=1.07であり、GPC曲線面積比から求めたトリブロック化率は88%(すなわち、12%はポリスチレン−b−ポリメチルメタクリレートのジブロック体)であった。
(5)得られた重合液を大過剰のn−ヘキサンに添加してポリマーを再沈澱させることにより、残留した1,1−ジフェニルエチレンを除去し、ポリマーをろ過により回収した。得られた白色粉体状のポリマーをトルエンに再溶解させ、この溶液を水洗し残留したリチウム塩を除去し、大過剰のメタノールを用いて再沈澱させ、ポリマーをろ過により回収した。ポリマーは50℃で24時間真空乾燥し、残留した溶媒、水を除去して用いた。
(6)以上のようにして得られたポリマーをH−NMRにて測定したところ、ポリマー中のポリスチレンブロックの含有量は58質量%、ポリメチルメタクリレートブロックの含有量は42質量%であった。
[製造例2]
電極膜(1)の作製
(1)乳鉢に活性炭0.1g、アセチレンブラック0.06g、PVDF/HFP0.04g、EMITFSI0.3gを取り、乳棒でよくすりつぶし、塊状の電極材料とした。
(2)得られた塊状の電極材料を、厚み100μmのスペーサと金型を用いて、130℃で熱プレスすることで電極膜(1)を得た。
[製造例3]
電極膜(2)の作製
製造例2において乳鉢で電極材料をすりつぶす際に、さらに有機化処理が施された膨潤性雲母0.3gを添加したこと以外は製造例2と同様にして電極膜(2)を得た。
[製造例4]
電極膜(3)の作製
製造例3において有機化処理が施された膨潤性雲母0.3gの代わりにリグニンスルホン酸ナトリウム0.3gを用いること以外は製造例3と同様にして電極膜(3)を得た。
[製造例5]
高分子固体電解質膜の作製
(1)製造例1で得られたポリスチレン−b−ポリメチルメタクリレート−b−ポリスチレンを含むポリマー10gをテトラヒドロフラン50mLに完全に溶解させた。この溶液にEMITFSI8.4gを加え均一な溶液を得た。この溶液をPETフィルム上に広げ乾燥させた。得られた透明で柔軟な固体を50℃で一晩真空乾燥して高分子固体電解質を得た。
(2)得られた高分子固体電解質を、厚み100μmのスペーサと金型を用いて、200℃で熱プレス成形を行い高分子固体電解質膜を得た。
[比較例1]
高分子トランスデューサ膜の作製
(1)製造例2で得られた電極膜(1)2枚で、製造例5で得られた高分子固体電解質膜の両面を挟み込み、厚み300μmのスペーサと金型を用いて、150℃で熱プレスすることで、電極膜/高分子固体電解質膜/電極膜の構成で積層された高分子トランスデューサ膜を得た。
(2)この高分子トランスデューサ膜から、垂直カッター(株式会社西脇製作所製「PF−20」)を用い、膜の中央部から所定の大きさに切り出して試験用素子とした。なお、試験用素子の両側の電極間が絶縁されていることをテスターで確認した。得られた試験用素子を用いて上記した方法により高分子トランスデューサの高分子アクチュエータおよび変形センサとしての性能を評価した。結果を以下の表1に示した。
[実施例1]
高分子トランスデューサ膜の作製
製造例2で得られた電極膜(1)の代わりに製造例3で得られた電極膜(2)を用いること以外は比較例1と同様の操作を行い、高分子トランスデューサ膜から構成される試験用素子を得た。得られた試験用素子を用いて上記した方法により高分子トランスデューサの高分子アクチュエータおよび変形センサとしての性能を評価した。結果を以下の表1に示した。
参考
高分子トランスデューサ膜の作製
製造例2で得られた電極膜(1)の代わりに製造例4で得られた電極膜(3)を用いること以外は比較例1と同様の操作を行い、高分子トランスデューサ膜から構成される試験用素子を得た。得られた試験用素子を用いて上記した方法により高分子トランスデューサの高分子アクチュエータおよび変形センサとしての性能を評価した。結果を以下の表1に示した。
Figure 0005384204


本発明によれば、低い電圧でも効率よく駆動することができる発生力、変位量、動作速度などの性能に優れる高分子アクチュエータとして、あるいは応答性がよくて検知性能に優れ、しかも可撓性に富み耐衝撃性に優れる変形センサとして使用することができる、軽量かつ柔軟で、水が存在しない状態においても安定して機能することができる高分子トランスデューサが提供される。当該高分子トランスデューサは小型アクチュエータや柔軟センサ、人工筋肉などの用途に好適に用いることができる。
10、20 高分子トランスデューサ膜
11、12 金製端子
13 ポテンショスタット
14、29 レーザー変位計
21、22 絶縁フィルム
23 測定サンプル
24、25 リード線
26、27 固定治具
28 データロガー

Claims (2)

  1. 一対の電極と、当該一対の電極の間に配設され、イオン液体および高分子を含む高分子固体電解質とを有する高分子トランスデューサであって、一対の電極のうちの少なくとも一方が導電性物質、バインダーおよび有機化処理が施されている層状ケイ酸塩であるイオン交換能を有する添加剤を含む高分子トランスデューサ。
  2. 前記導電性物質が、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノシート、ポリアセン、炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛および活性炭からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の高分子トランスデューサ。
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