JP5382275B1 - 溶鋼の真空精錬方法 - Google Patents

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Abstract

真空脱ガス設備に配設された上吹きランス先端のバーナーに形成した火炎で酸化物粉体を加熱し、脱ガス槽内の溶鋼の浴面上に上吹き添加する溶鋼の精錬方法において、上記バーナーに、燃料と燃焼用ガスが下記式;
0.4≦(G/F)/(G/F)st≦1.1
(ここで、G:燃焼用ガス供給速度(Nm/min)、F:燃料供給速度(Nm/min)、(G/F):酸素燃料比(=燃焼用ガス供給速度/燃料供給速度)、(G/F)st:燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値)
を満たすよう供給して火炎を形成することで、Mn鉱石を添加する際の溶鋼温度の低下やMnロスを抑制して効率良く脱炭処理し、低炭素高マンガン鋼を溶製する、あるいは、脱硫剤を添加する際の溶鋼温度の低下を抑制して効率良く脱硫処理して低硫鋼を溶製する。
【選択図】図6

Description

本発明は、溶鋼の真空精錬方法に関し、具体的には、真空脱ガス設備で低炭素高マンガン鋼および低硫鋼を溶製する方法に関するものである。
近年、鉄鋼材料は、その用途が多様化し、従来よりも苛酷な環境下で使用されることが多くなってきている。これに伴い、製品の機械的特性等に対する要求も、従来にも増して厳しくなってきている。このような状況下において、構造物の高強度化、軽量化、低コスト化を目的として、高強度と高加工性を兼備した低炭素高マンガン鋼(以降、「低C高Mn鋼」とも記す。)が開発され、ラインパイプ用鋼板や自動車用鋼板等、様々な分野で広く用いられている。ここで、上記低C高Mn鋼とは、C濃度が0.05mass%以下で、Mn濃度が0.5mass%以上の鋼のことをいう。
ところで、製鋼工程において、溶鋼中のMn濃度の調整に用いる安価なマンガン源としては、マンガン鉱石(以降、「Mn鉱石」とも記す。)や高炭素フェロマンガン等があり、上記低C高Mn鋼を溶製するときには、転炉で溶銑を脱炭精錬する際、転炉内にMn鉱石を投入して還元したり、転炉出鋼時に溶鋼中に高炭素フェロマンガンを添加したりすることで、溶鋼中のMn濃度を所定の濃度まで高めることが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、これらの安価なマンガン源を使用した場合には、転炉精錬で溶鋼中のC濃度を十分に低減することができなくなったり、あるいは、高炭素フェロマンガンに含まれるCに起因して、出鋼後の溶鋼中のC濃度が上昇したりする。その結果、C濃度が低C高Mn鋼の許容範囲を超えるおそれがある場合には、別途、溶鋼からCを除去する処理を施すことが必要となる。
溶鋼中のCを効率良く除去する方法としては、RH真空脱ガス装置等の真空脱ガス設備を用いて、未脱酸状態の溶鋼を真空脱炭する方法、真空下で溶鋼に酸素ガス等の酸素源を吹き付けて(送酸)脱炭する方法等が知られている。上記真空脱炭において、安価なマンガン源として高炭素フェロマンガンを使用する方法としては、例えば、特許文献2には、真空脱ガス設備における脱炭精錬初期の段階で、高炭素フェロマンガンを溶鋼中に投入する方法が、また、特許文献3には、真空脱ガス処理炉で極低炭素鋼を溶製するに際して、脱炭処理時間の20%が経過するまでの間に、高炭素フェロマンガンを投入する方法が提案されている。しかし、Mnを多量に含む溶鋼の真空脱炭処理時に酸素を添加すると、酸素が溶鋼中のCだけでなくMnとも反応するため、Mnの酸化ロスが発生してMn歩留りが低下するだけでなく、溶鋼中のMn濃度を精度よく制御することが難しくなる。
また、真空脱ガス設備を用いる脱炭処理における酸素源や、脱炭促進方法については、例えば、特杵文献4には、真空槽内にミルスケール等の固体酸素を投入し、これによってMnの酸化を抑制して優先的に脱炭反応を行わせる方法が、特許文献5には、転炉吹止時のC量と温度を規制した溶鋼に、真空脱ガス装置でMn鉱石を添加し、脱炭する方法が、特許文献6および特許文献7には、転炉出鋼した鋼をRH法で脱炭処理する際、真空槽内の溶鋼表面に向けて、キャリアガスと共にMnO粉やMn鉱石粉を上吹きして脱炭処理する方法が、また、特許文献8には、RH真空脱ガス装置の真空槽内の溶鋼に、真空槽側壁に設けたノズルを介してキャリアガスと共にMn鉱石粉を吹き込み、Mn鉱石中の酸素によって溶鋼の脱炭を行うと共に、Mn濃度を高める方法が提案されている。
一方、鉄鋼材料の高付加価値化や使用用途拡大に伴う材料特性の向上への要求が増しつつある。この要求に応える手段の一つとして、鋼の高純度化、具体的には、極低硫化が進められている。溶鉄の脱硫は、一般には、溶銑段階と溶鋼段階とで行われているが、高級電磁鋼板やラインパイプ等に用いられる極低硫鋼では、溶鋼段階での脱硫が必須である。極低硫鋼を精錬する方法については、例えば、取鍋内の溶鋼に脱硫剤をインジェクションする方法、溶鋼に脱硫剤を添加した後、攪拌する方法等、従来から様々な提案がなされている。しかし、これらの方法は、転炉出鋼から真空脱ガス処理の間に、新たな工程を追加することになるため、溶鋼温度の低下や製造コストの上昇、生産性の低下等を招いている。
これらの問題を解決するため、真空脱ガス設備に脱硫機能を持たせることによって、二次精錬工程を集約し、簡素化する試みがなされている。例えば、真空脱ガス設備を用いた脱硫方法として、上吹きランスを備えたRH真空脱ガス装置で、真空槽内の溶鋼浴面上に、上吹きランスから脱硫剤をキャリアガスと共に吹き付ける(投射する)ことによって溶鋼を脱硫する方法が提案されている(例えば、特許文献9参照。)。
しかし、例えば、Mn鉱石などの固体酸素や脱硫剤などの酸化物粉体を真空脱ガス設備で脱炭処理中に添加する場合には、酸化物粉体の顕熱や、熱分解に要する潜熱によって溶鋼温度が低下する。この溶鋼温度の低下を補償する方法には、真空脱ガスの前工程で溶鋼温度を高めておく方法、溶鋼中に金属Alを添加し、その燃焼熱で溶鋼温度を高める方法等がある。しかし、前工程で溶鋼温度を高める方法は、前工程における耐火物の損耗が大きく、コストアップを招く。また、金属Alを添加して昇温する方法は、生成したAl酸化物に起因して溶鋼の清浄度が低下したり、副原料コストが上昇したりするなどの弊害がある。
そこで、溶鋼温度の低下を抑制しながら固体酸素を添加する方法として、酸化物粉体を、上吹きランス先端に設けられたバーナーの火炎で加熱しながら溶鋼浴面上に投射する方法が提案されている(例えば、特許文献10、11参照。)。また、脱硫剤を添加する方法としては、上吹きランス先端から、脱硫剤とともに、酸素ガスと燃焼用ガスを噴出して火炎を形成し、該火炎によって脱硫剤を加熱、溶融して溶鋼浴面に到達させる方法が提案されている(例えば、特許文献12参照。)。
特開平04−088114号公報 特開平02−047215号公報 持開平01−301815号公報 持開昭58−073715号公報 特関昭63−293109号公報 特開平05−239534号公報 特開平05−239526号公報 持開平01−092312号公報 特開平05−311231号公報 持開昭64−039314号公報 持開平07−041827号公報 特開平07−041826号公報
しかしながら、脱炭や脱窒素、脱水素を促進するために、酸化物粉体を投射する方法である特許文献10および11に開示の技術は、真空脱ガス設備で、マンガン源としてMn鉱石を添加するときの最適条件については、何ら検討していない。同様に、脱硫剤をバーナーの火炎で加熱して添加する方法である特許文献12に開示の技術は、真空脱ガス設備で、脱硫剤を添加するときの最適条件については、何ら検討していない。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、真空脱ガス設備において、マンガン源としてMn鉱石を添加する際に、溶鋼温度の低下やMnロスを抑制しつつ、効率良く脱炭処理することができる低炭素高マンガン鋼の溶製方法と、同じく、真空脱ガス設備において、脱硫剤を添加して脱硫処理を行う際に、溶鋼温度の低下を抑制しつつ、効率良く脱硫処理することができる低硫鋼の溶製方法を提案することにある。
発明者等は、上記課題を解決するべく、真空脱ガス設備で脱炭処理する際におけるCおよびMnの反応挙動および溶鋼温度の変化挙動に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、溶鋼へのMn鉱石の添加条件を適正化することによって、上記課題を解決できること、具体的には、上吹きランス先端に設けられたバーナーの燃焼条件を適正範囲に制御してMn鉱石を加熱・還元し、真空槽内の溶鋼に上吹き添加することで、溶鋼温度の低下を招くことなく、高い歩留りでMnを添加できるとともに、脱炭促進効果をも享受することができること、同様に、脱硫剤についても、上吹きランス先端に設けられたバーナーの火炎で加熱・溶融して真空槽内の溶鋼に上吹き添加することで、溶鋼温度の低下を招くことなく、脱硫処理を行うことができること、また、そのためには、適正な構造のランスを用いることが好ましいことを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、真空脱ガス設備に配設された上吹きランス先端のバーナーに形成した火炎で酸化物粉体を加熱し、脱ガス槽内の溶鋼の浴面上に上吹き添加する溶鋼の精錬方法において、上記バーナーに、燃料と燃焼用ガスが下記式;
0.4≦(G/F)/(G/F)st≦1.1
ここで、G :燃焼用ガス供給速度(Nm/min)
F :燃料供給速度(Nm/min)
(G/F) :酸素燃料比(=燃焼用ガス供給速度/燃料供給速度)
(G/F)st:燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値
を満たすよう供給して火炎を形成することを特徴とする溶鋼の真空精錬方法である。
本発明の溶鋼の真空精錬方法における上記酸化物粉体は、Mn鉱石および/またはCaO系脱硫剤であることを特徴とする。
また、本発明の溶鋼の真空精錬方法は、上記上吹きランスの軸芯部に設けられた中心孔先端のノズルからMn鉱石またはCaO系脱硫剤をキャリアガスとともに噴出し、上記ノズルの周囲に配設した複数の周囲孔先端のバーナーから燃料と燃焼用ガスを供給し、点火して火炎を形成し、該火炎によって前記酸化物粉体を加熱することを特徴とする。
また、本発明の溶鋼の真空精錬方法は、上記燃料として、炭化水素系の気体燃料、炭化水素系の液体燃料および炭素系の固体燃料のうちのいずれか1種以上を供給することを特徴とする。
本発明によれば、真空脱ガス設備における溶鋼へのMn鉱石の添加を、溶鋼温度の低下を抑制し、かつ、高いMn歩留りで実施することができる他、脱炭速度をも高めることができるので、低炭素高マンガン鋼を高い生産性で、かつ、低コストで溶製することが可能となる。また、本発明によれば、真空脱ガス設備における溶鋼への脱硫剤の添加を、溶鋼温度の低下を抑制しつつ実施することができる他、脱硫効率をも高めることができるので、低硫鋼を効率よく溶製することが可能となる。
RH真空脱ガス装置の概略垂直断面図である。 本発明に用いる上吹きランスの構造を説明する図である。 従来技術の上吹きランスの構造を説明する図である。 真空脱ガス処理前のC濃度とリムド脱炭速度との関係を示すグラフである。 真空脱ガス処理前のC濃度とMn歩留りとの関係を示すグラフである。 バーナーの燃焼条件がMn歩留りに及ぼす影響を示すグラフである。 バーナーの燃焼条件が脱硫率に及ぼす影響を示すグラフである。
まず、本発明の基本的技術思想と、その裏付けとなった実験について説明する。
Mn鉱石は、MnOやMn、MnO等、酸化数の異なる種々のMn酸化物を主成分とするものである。このMn鉱石を、マンガン源としてまた脱炭促進のための酸素源として溶鋼に添加する場合、Mn鉱石中の酸化数の異なるMn酸化物は、溶鋼中のCによって、下記(1)〜(3)式;
MnO+2Mn+2CO ・・・(1)
Mn+3 → 2Mn+3CO ・・・(2)
MnO+Mn+CO ・・・(3)
に従って還元されると考えられる。
上記(1)〜(3)式からは、Mn酸化物の酸化数が高いほど、Mn酸化物を還元するために必要なC量が多くなることがわかる。このことから、Mn鉱石中のMn酸化物を、酸化数の低いMn酸化物として溶鋼中に添加した場合には、Mn鉱石の還元に必要なC量が低減するため、溶鋼中のC濃度が低い場合でも、Mn鉱石が十分に還元され、Mn歩留りが向上することが期待される。
そこで、発明者らは、真空脱ガス設備に配設された上吹きランスから、粉体のMn鉱石を溶鋼中に添加する際、上記上吹きランスの先端に設けられたバーナーにおける燃料の燃焼条件(以降、「バーナーの燃焼条件」ともいう)を制御し、Mn鉱石を加熱すると同時にMn鉱石中のMn酸化物を還元して添加することに想到した。
そして、上記効果を確認するため、溶鋼を用いないラボ実験にて、上吹きランス先端のバーナーの燃焼条件およびMn鉱石の投入方法を種々に変えて、取鍋容器に向かって上吹き添加する予備実験を行った。
具体的には、上記予備実験では、上吹きランスとして、軸芯部に設けた中心孔先端のノズルから粉体のMn鉱石をキャリアガス(Arガス)とともに噴出することができ、かつ、上記中心孔の周囲に配設した複数の周囲孔先端のバーナーから燃料と燃焼用ガスを噴出して火炎を形成することができる多重管ランスを用いてMn鉱石を加熱し、上吹き添加した。この際、上記燃料と燃焼用ガスの供給速度およびバーナーによる加熱の有無を表1のように変えて添加し、上吹き添加前後におけるMn鉱石の温度変化およびMn鉱石中の酸化数が異なるMn酸化物の構成比率の変化を調査した。なお、上記予備実験では、キャリアガスにArガスを、燃料はプロパンガスを、燃焼用ガスに純酸素を用いた。
Figure 0005382275
上記予備実験の結果を表1に併記した。なお、表1中に示したGは燃焼用ガスの供給速度(Nm/min)、Fは燃料の供給速度(Nm/min)、(G/F)は酸素燃料比(燃料の供給速度に対する燃焼用ガスの供給速度)、(G/F)stは燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値である。また、燃料をプロパンガス、燃焼用ガスを純酸素とする場合における(G/F)stは5、すなわち、燃料の供給速度Fが1Nm/minに対し、燃焼用ガスの供給速度Gが5Nm/minである。
上記表1から、キャリアガスとともにMn鉱石を添加する際、ランス先端のバーナーの火炎で加熱しなかったNo.1の条件では、投入前後でMn鉱石に何らの変化も認められなかったが、バーナーの火炎でMn鉱石を加熱して添加したNo.2〜7の条件では、Mn鉱石の温度が上昇していること、さらに、上記No.2〜7の中でも、バーナーの燃焼条件が(G/F)/(G/F)stで0.4〜1.1の範囲にあるNo.4〜7では、Mn鉱石中のMnOおよびMnの比率が減少し、MnOの比率が増加している、すなわち、酸化数が高いMn酸化物が還元されて、酸化数が低いMn酸化物に変質していること、しかし、(G/F)/(G/F)stを0.3まで低減したNo.8では、火炎自体が生成しなかったため、No.1の条件と同様、添加前後のMn鉱石に変化は認められないことがわかった。
上記の結果から、ランス先端部に形成するバーナーの燃焼条件を適正範囲に制御した場合には、すなわち、バーナーの燃焼条件を酸素過剰側ではなく、不足側に制御した場合には、形成される火炎が還元性となり、Mn鉱石中のMn酸化物の還元が促進されること、したがって、溶鋼中のC量が少ないときでも、Mn鉱石が十分に還元され、Mn歩留りが向上すること、また、バーナーの火炎でMn鉱石を加熱した場合には、Mn鉱石の温度上昇によって溶鋼温度の低下が抑制されること、さらに、Mn添加によってMn鉱石中の酸素によって脱炭反応が促進されることがわかった。そして、ランス先端から脱硫剤を添加する場合にも、上記と同様の効果が期待できることもわかった。
本発明は、上記の新規な技術思想と知見に基いて開発したものである。
次に、本発明の溶鋼の真空精錬に用いる真空脱ガス設備について説明する。
本発明の溶鋼の真空精錬に用いることができる真空脱ガス設備には、RH真空脱ガス装置やDH真空脱ガス装置、VOD炉等があるが、それらの中で最も代表的なものは、RH真空脱ガス装置である。そこで、RH真空脱ガス装置を例にとって説明する。
図1は、典型的なRH真空脱ガス設備の垂直断面図である。
このRH真空脱ガス設備は、溶鋼1を収容する取鍋2と、溶鋼を真空脱ガス処理(以降、端に「脱ガス処理」ともいう)する脱ガス部3から構成されている。上記脱ガス部3は、溶鋼を内部に導入して脱ガス処理する真空槽4と、それに接続する図示されていない排気設備とからなる。真空槽4の上部側面には排気設備につながる排気口7、および、合金原料(成分調整剤)や媒溶剤等の副原料を添加する投入口(シュート)8が設けられている。
また、真空槽4の下部には、2本の浸漬管5および6が配設されており、そのうちの一方の浸漬管(図1では5)には、溶鋼1に環流を起こさせるための環流ガスを浸漬管内に吹込む配管10が接続されている。そして、脱ガス処理に際しては、上記2本の浸漬管を取鍋内の溶鋼中に浸漬させ、真空槽4内を図示されていない排気設備で排気し、取鍋2内の溶鋼1を真空槽4内に導入すると同時に、上記配管10を介して浸漬管5内に環流ガス(Arガス等の不活性ガス)を供給し、浸漬管5内を気泡として上昇させる。これにより、浸漬管5内の溶鋼も環流ガスとともに上昇して真空脱ガス槽内に流入し、脱ガス処理された後、他方の浸漬管(図1では6)を通って下降して取鍋内に戻る溶鋼の環流が起こり、脱ガス処理が進行する。
さらに、真空槽4の上部には、上方から真空槽4内に挿入する形で上吹きランス9が配設されている。この上吹きランス9は、酸素ガス、ならびに、Mn鉱石やCaO系脱硫剤等の酸化物粉体およびそれらを搬送するキャリアガスの通路と、その通路先端にはそれらを噴出して溶鋼の浴表面に吹き付けるノズルと、燃料およびその燃料を燃焼させるための燃焼用ガスの通路と、その通路先端には上記燃料を燃焼させて火炎を形成するバーナーを配設した多重管ランスである。
なお、上記上吹きランス9は、副原料を貯蔵している図示されていないホッパーと連結されており、Mn鉱石やCaO系脱硫剤等の酸化物粉体がキャリアガスとともに供給される。上記CaO系脱硫剤としては、生石灰(CaO)や石灰石(CaCO)、消石灰(Ca(OH))、ドロマイト(CaO−MgO)等に、蛍石(CaF)やアルミナ(Al)などのCaO滓化促進剤を5〜30mass%程度混合させたものが主に用いられる。また、上記キャリアガスには、通常、Arガスや窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。
また、上記上吹きランス9は、図示されていない燃料供給管や燃焼用ガス供給管と連結されており、上記燃料としては、プロパンガスや天然ガスなどの炭化水素系の気体燃料、重油や灯油などの炭化水素系の液体燃料、コークスや石炭などの炭素系の固体燃料のうちの少なくとも1種が、また、燃焼用ガスとしては、酸素ガス、酸素富化空気、空気などの酸素含有ガスが供給される。さらに、上記上吹きランス9は、水冷されており、そのための冷却水を供給・排出するための図示されていない冷却水給排水管とも連結されている。
ここで、本発明の溶鋼の真空精錬に用いる上吹きランスについて説明する。
図2は、本発明に用いて好適な上吹きランスの一例を示したものであり、(a)は垂直断面図、(b)は下面図である。この上吹きランスは、溶鋼に吹き付ける酸素ガスを供給する酸素ガス通路と、酸化物粉体および酸化物粉体のキャリアガスを供給する酸化物粉体・キャリアガス通路とを兼ねた通路(以降、単に「酸素ガス通路」または「粉体・キャリアガス通路」ともいう)11と、その通路の先端、即ち、ランス先端に設けられたノズル12からなる「中心孔」を軸芯部に備えた内部水冷筒体13と、その内部水冷筒体13の周囲を取り囲む外部水冷筒体14と、さらに、上記内部水冷筒体13と外部水冷筒体14との間に燃料や燃焼用ガスを供給する通路15と、その通路の先端、即ち、ランス先端に設けられたバーナー16とからなる複数本の「周囲孔」から構成されている。上記周囲孔は、2重管構造となっており、内管側には燃料、外管側には燃焼用ガスを流すようになっているが、燃料の通路と燃焼用ガスの通路とを取り替えてもよい。
そして、上記粉体・キャリアガス通路11の先端のノズル12から噴出される酸化物粉体等は、ランス先端のバーナー16に形成される火炎によって加熱され、または、加熱・還元され、または、加熱・溶融されて真空槽内の溶鋼浴面に吹き付けられる。
なお、図2では、8本ある周囲孔のうちの1本を、噴出する燃料に点火するためのパイロットバーナー17として用いているため、バーナー本数は7である。ただし、バーナー16の燃料ガス通路から供給される燃料と、燃焼用ガス通路から供給される燃焼用ガス(酸化性ガス)は、それぞれの噴射孔が近接(重複)しているので瞬時に混合し、燃焼限界範囲内となるが、真空槽内の雰囲気温度が高いため、点火装置がなくても燃焼を開始し、上吹きランス9の下方に火炎が形成される。したがって、パイロットバーナーは、通常は不要であるが、設けてもよい。
ここで、上記上吹きランス先端の中心孔と周囲孔の位置関係、即ち、ノズル12とバーナー16の位置関係は、逆であっても構わないが、酸化物粉体を含む噴流の周囲を、バーナーの火炎で包み込むようにした方が、酸化物粉体を効率よく加熱することができるので、図2に示したように、ランスの軸芯部にノズル、その周囲にバーナーを配設するのが好ましい。
また、図2の上吹きランスの中心孔先端に設けられたノズル12の形状は、断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルとなっているが、ストレート形状のノズルであってもよい。なお、ラバールノズルにおける縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体が連結している最も断面が狭い位置は、通常、スロートと呼ばれている。
このような構造からなる図2の上吹きランスは、酸素ガス通路、粉体・キャリアガス通路、燃料通路および燃焼用ガス通路を備えているので、真空槽の予熱や真空槽内の溶鋼の加熱(昇温)および真空槽内付着物の加熱・除去、溶鋼への粉体吹き付け等、すべての処理を行うことができる。
なお、本発明に用いる上記上吹きランス9は、上記に説明した範囲に限定されるものではなく、例えば、上吹きランスの周囲に複数のバーナーを配設し、このバーナーを用いて上吹きランスから吹き込むMn鉱石を加熱するようにしてもよい。さらに、Mn鉱石添加用の上吹きランスとバーナーを別に設置しても構わない。
次に、上記に説明したRH真空脱ガス装置を用いた低炭素高マンガン鋼の溶製方法について説明する。
まず、高炉から出銑した溶銑は、溶銑鍋やトーピードカー等の保持容器や搬送容器に受銑した後、脱炭精錬を行う製鋼工程に搬送する。通常、この搬送の途中で、溶銑に対して脱硫や脱燐等の溶銑予備処理を施すことが多いが、本発明においては、成分規格上、溶銑予備処理が必要でない場合でも、溶銑予備処理を施すことが好ましい。というのは、転炉では、マンガン源として添加するMn鉱石を添加するが、溶銑予備処理、特に脱燐処理を行わない場合には、転炉での吹錬時に脱炭と同時に脱燐を行うことが必要となり、そのためにCaO系フラックスを多量に添加するため、転炉のスラグ量が増加し、スラグに分配されるマンガン量が増加してMn歩留りが低下してしまうからである。
続く製鋼工程では、溶銑を転炉に装入した後、マンガン源としてMn鉱石を添加し、さらに必要に応じて少量の生石灰等の媒溶剤を添加し、酸素を上吹きおよび/または底吹きして脱炭吹錬し、所定の成分組成の溶鋼とした後、未脱酸のまま取鍋等の溶鋼保持容器に出鋼する。この際、高炭素フェロマンガン等の安価な合金鉄系マンガン源を所定量添加してもよい。
なお、上記製鋼工程では、Mn鉱石や高炭素フェロマンガン等の安価なマンガン源を使用するため、溶鋼中の炭素濃度は必然的に高くなるが、その場合でも、Mn濃度調整後の溶鋼中のC濃度は0.2mass%以下に抑えることが好ましい。C濃度が0.2mass%を超えると、次工程の真空脱ガス設備における脱炭処理時間が長くなり、生産性が低下するだけでなく、脱炭処理時間の延長に伴う溶鋼温度の低下を補償するため、出鋼温度を高める必要が生じ、鉄歩留りの低下や、耐火物損耗量の増大による耐火物コストの上昇を招くため、好ましくない。
次いで、転炉から出鋼した鋼は、RH真空脱ガス装置やDH真空脱ガス装置、VOD炉等の真空脱ガス設備に搬送し、脱炭処理等の脱ガス処理を施す。以下、図1に示したRH真空脱ガス装置を用いた低炭素高マンガン鋼の溶製方法について説明する。
図1に示したRH真空脱ガス装置においては、未脱酸状態の溶鋼1を真空脱炭処理する(以降、この処理を「リムド処理」とも称する)と同時に、このリムド処理中に、上吹きランス9からMn鉱石を上吹き添加する。この際、上記Mn鉱石は、上吹きランス9の先端部に形成したバーナーの火炎で加熱・還元して溶鋼の浴面に吹き付けて添加する必要がある。具体的には、上吹きランス9に設けられた周囲孔の燃料通路を介して燃料を、燃焼用ガス通路を介して燃焼用ガスをランス先端のバーナー16に供給して噴出させ、点火することによってバーナーに火炎を形成する。そして、中央孔の粉体・キャリアガス通路11を介してランス先端のノズル12からMn鉱石を噴出し、噴出したMn鉱石を上記バーナー火炎で加熱・還元して上吹き添加する。なお、Mn鉱石の添加を開始するに際には、予め、バーナーに火炎を形成しておくことが好ましい。
ここで、上記Mn鉱石を加熱・還元するためにランス先端のバーナーに形成する火炎は、燃料と燃焼用ガスとが下記式;
0.4≦(G/F)/(G/F)st≦1.1
ここで、G :燃焼用ガス供給速度(Nm/min)
F :燃料供給速度(Nm/min)
(G/F) :酸素燃料比(=燃焼用ガス供給速度/燃料供給速度)
(G/F)st:燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値
を満たすことが必要である。先述したように、(G/F)/(G/F)stが1.1を超えると、火炎の酸化性が強くなり、Mn鉱石は加熱されるものの、Mn鉱石中のMn酸化物の還元が進行しない。一方、(G/F)/(G/F)stが0.4を下回ると、火炎自体が形成されないため、Mn鉱石を加熱することもできないからである。好ましい(G/F)/(G/F)stは0.4以上1.0未満の範囲である。
このようにしてMn鉱石を加熱して添加することで、Mn鉱石の添加に伴う溶鋼の温度低下(温度ロス)を抑制することができる。また、上記燃焼条件を満たす火炎で加熱されたMn鉱石は、還元されて溶鋼中に添加されるので、Mn鉱石の還元反応が促進され、Mn歩留りが向上するので、Mn合金の添加量を削減することができる。さらに、Mn鉱石の添加は、Mn鉱石中の酸素が固体酸素として機能し、脱炭反応を促進するので、リムド処理時間を短縮し、生産性を高めることもできる。
なお、上記のリムド処理においては、Mn鉱石を加熱して添加した後、酸素ガス通路11およびその先端のノズル12を介して酸素ガスを噴出し、溶鋼に吹き付けることによって、脱炭を促進したり、溶鋼を加熱したりしてもよい。なお、上記脱炭処理や昇温処理時には、バーナーは使用しないので、燃料通路や燃焼用ガス通路に窒素ガスやArガス等の不活性ガスを流して、スプラッシュ等によるバーナーの閉塞を防止するのが好ましい。
上記リムド処理を所定時間行い、溶鋼中のC濃度が成分規格値以下の所定の値に達したなら、原料投入口8から溶鋼1にAl等の強脱酸剤を添加して溶鋼中の溶存酸素濃度を低減(脱酸)し、リムド処理を終了する。なお、リムド処理終了後の溶鋼温度が、例えば連続鋳造工程等の次工程から要求される温度よりも低い場合には、さらに原料投入口から溶鋼にAlを添加し、前述した上吹きランスから溶鋼の浴表面に酸素を吹き付け(送酸)、Alを燃焼させることによって溶鋼温度を上昇させてもよい。
脱酸剤を添加し、脱酸した溶鋼1は、その後、さらに数分間、溶鋼の環流を継続して行い(この処理を「キルド処理」という)、必要に応じて、Al,Si,Mn,Ni,Cr,Cu,Nb,Ti等の成分調整剤(合金成分)を原料投入口8から溶鋼1に投入して溶鋼成分を所定の組成範囲に調整した後、真空槽4を大気圧に戻して、脱ガス処理を終了する。
次に、上記に説明したRH真空脱ガス装置を用いた低硫鋼の溶製方法について説明する。なお、高炉から溶銑を出銑し、転炉で吹錬し、出鋼してRH真空脱ガス装置に搬送するまでは、上記低炭素高マンガン鋼の溶製方法と同じであるので、説明を省略する。
RH真空脱ガス装置に搬送した未脱酸状態のままの溶鋼は、必要に応じて、上吹きランス9の酸素ガス通路11およびその先端のノズル12を介して、酸素ガスを溶鋼に吹き付けて脱炭を行うリムド処理を所定時間行い、溶鋼中のC濃度が成分規格値以下の所定の値に達したなら、原料投入口8からAl等の強脱酸剤を溶鋼1に添加して溶鋼中の溶存酸素濃度を低減(脱酸)し、リムド処理を終了する。
なお、リムド処理終了後、即ち、脱酸後の溶鋼温度が、例えば連続鋳造工程等の次工程から要求される温度よりも低い場合には、さらに原料投入口から溶鋼にAlを添加し、前述した上吹きランスから溶鋼の浴表面に酸素を吹き付け(送酸)、Alを燃焼させることによって溶鋼温度を上昇させてもよい。また、前述した低炭素高マンガン鋼の溶製方法と同様に、未脱酸状態の溶鋼1をリムド処理すると同時に、吹きランス9からMn鉱石を上吹き添加してもよい。
次いで、上記脱酸した溶鋼に、上吹きランス9からCaO系脱硫剤を噴射すると同時に、バーナー16に形成した火炎で加熱・溶融して、溶鋼の浴面上に吹き付けて添加し、脱硫処理する。具体的には、上吹きランス9に設けられた周囲孔の燃料通路を介して燃料を、燃焼用ガス通路を介して燃焼用ガスを、ランス先端のバーナー16に供給して噴出させ、点火することによって火炎を形成すると同時に、中央孔の粉体・キャリアガス通路11を介してランス先端のノズル12からCaO系脱硫剤を噴出させ、その噴出させたCaO系脱硫剤を上記バーナーの火炎で加熱・溶融して上吹き添加する。なお、CaO系脱硫剤の添加を開始するに際には、予め、バーナーに火炎を形成しておくことが好ましい。
ここで、上記脱硫剤を加熱・溶融するために、ランス先端のバーナーに形成する火炎は、燃料と燃焼用ガスとが下記式;
0.4≦(G/F)/(G/F)st≦1.1
ここで、G :燃焼用ガス供給速度(Nm/min)
F :燃料供給速度(Nm/min)
(G/F) :酸素燃料比(=燃焼用ガス供給速度/燃料供給速度)
(G/F)st:燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値
を満たすことが必要である。(G/F)/(G/F)stが1.1を超えると、火炎の酸化性が強くなり、脱硫剤は加熱されるものの、還元反応である脱硫反応が進行しない。一方、(G/F)/(G/F)stが0.4を下回ると、火炎自体が形成されないため、脱硫剤を加熱することもできないからである。好ましい(G/F)/(G/F)stは0.4以上1.0未満の範囲である。
このようにして脱硫剤を加熱して添加することで、脱硫剤の添加に伴う溶鋼の温度低下(温度ロス)を抑制することができる。また、上記燃焼条件を満たす火炎は、過酸化雰囲気とはならないため、還元反応である脱硫反応が促進され、脱硫率が向上する。
なお、成分規格上、RH真空脱ガス装置での脱炭処理が必要でない場合には、溶鋼を転炉から取鍋に出鋼する際に、出鋼中の溶鋼流に金属Alを添加して溶鋼を脱酸してもよい。この際、出鋼流にAlの他に、石灰や石灰を含有するフラックスを添加してもよい。取鍋に出鋼した溶鋼は、その後、溶鋼上のスラグにAlなどのスラグ改質剤を添加し、スラグ中のFeO等の鉄酸化物やMnO等のマンガン酸化物を還元するスラグ改質処理を施した後、RH真空脱ガス装置に搬送する。
上記脱酸剤を添加して脱酸した溶鋼1は、その後、RH真空脱ガス装置で溶鋼を環流して脱ガス処理するキルド処理を施した後、必要に応じて、Al,Si,Mn,Ni,Cr,Cu,Nb,Ti等の成分調整剤(合金成分)を原料投入口8から溶鋼1に投入して溶鋼成分を所定の組成範囲に調整した後、真空槽4を大気圧に戻して、脱ガス処理を終了する。
なお、上記説明ではRH真空脱ガス装置を用いた低炭素高マンガン鋼および低硫鋼の溶製方法について説明したが、DH真空脱ガス装置やVOD炉等他の真空脱ガス設備を用いる場合でも、上記方法に準ずることで、低炭素高マンガン鋼および低硫鋼を溶製することができる。
高炉から出銑した溶銑を、脱燐、脱硫する溶銑予備処理した後、350トン転炉で吹錬して、C:0.03〜0.09mass%、Si:0.05mass%以下、Mn:0.1〜0.85mass%、P:0.03mass%以下、S:0.003mass%以下の成分組成を有する鋼とした。なお、上記転炉では、マンガン源としてMn鉱石を添加してMn濃度を調整した。
転炉吹錬した溶鋼は、未脱酸のまま取鍋に出鋼し、上吹きランスを備えたRH真空脱ガス装置に搬送し、未脱酸状態のままで真空脱炭処理するリムド処理を伴う脱ガス処理を施した。なお、RH真空脱ガス装置到着時の溶鋼中O濃度は、0.03〜0.07mass%の範囲であった。
上記リムド処理では、環流ガス(Arガス)の流量を1500NL/min、真空槽の到達真空度を6.7〜40kPa(各条件で一定)とし、使用する上吹きランスの種類、Mn鉱石の添加有無および添加方法、ランス先端のバーナーの燃焼条件(((G/F)/(G/F)st))および送酸の有無を表2に示したように変化させた。
なお、添加するMn鉱石は、粒度が5〜20mmで、マンガン含有量が約58mass%のものを用い、Mn鉱石の添加速度は100kg/min、添加時間は10min、総添加量は1000kgで一定とした。
また、リムド処理後の溶鋼の目標成分は、C:0.002〜0.003mass%、Mn:0.5〜1.2mass%とし、リムド処理終了後、Mn濃度が低すぎた場合には、金属マンガンを添加してMn濃度調整を行った。
また、リムド処理時に酸素が不足している場合には、上吹きランス先端のノズルから酸素ガスを溶鋼の浴表面に吹き付け(送酸)ながら脱炭を行った。
また、上記RH真空脱ガス装置の上吹きランスとしては、本発明に適合する図2に示したランスと、特許文献10に開示のランスに類似した図3に示したランスの2種類を用いた。図3のランスは、ランスの軸芯部に設けた酸素ガス通路20からつながるスロート21に連接した末広がり部22に、燃料ガス通路23からつながる燃料ガス供給孔24を設けたものであり、さらに、粉体・キャリアガス通路25の先端の噴出孔26から、Mn鉱石を噴出する構造となっている。
そして、Mn鉱石の添加は、図2に示したランスを用いる場合には、中心孔、即ち、粉体・キャリアガス通路11およびノズル12を介して、Mn鉱石をキャリアガス(Arガス)とともに溶鋼浴表面に上吹きすることにより行った。また、上吹きランス先端のバーナーに火炎を形成する場合には、燃料としてLNGを240Nm/hrで、また、燃焼用ガスとして純酸素を120〜600Nm/hrの範囲で変えて供給し、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)を変化させた。なお、この場合の(G/F)stは2(燃料の供給速度Fが1Nm/minに対して、燃焼用ガスの供給速度Gが2Nm/min)である。なお、火炎の形成時間は、いずれの条件も10min(一定)とした。
一方、図3に示したランスを用いる場合には、酸素ガス通路20を介して燃焼用ガス(酸素ガス)を噴出させつつ、Mn鉱石を粉体・キャリアガス通路25を介してキャリアガス(Arガス)とともに溶鋼浴面上に上吹きすることによりMn鉱石の添加を行った。また、上吹きランスの先端に火炎を形成する場合には、燃料としてLNGを240Nm/hr、燃焼用ガスとして純酸素を470Nm/hrで供給した。なお、火炎の形成時間は、10minとした。
Figure 0005382275
表2に、脱ガス処理前(リムド処理前)の溶鋼成分(C,Mn)、リムド処理後(ただし、金属マンガン添加による濃度調整前)のMn濃度、リムド処理で添加したMn鉱石中のMn歩留り、リムド処理時の脱炭速度およびリムド処理前後における溶鋼温度差を併記した。なお、上記表2に記載の脱炭速度は、RH到着時からリムド処理終了までの脱炭量をリムド処理時間で割った平均の脱炭速度のことである。また、溶鋼温度差は、プラスの場合は溶鋼温度が上昇したことを、マイナスの場合は溶鋼温度が低下したことを示している。
表2から、以下のことがわかる。
まず、No.16〜18は、図2の上吹きランスを使用し、リムド処理時にランス先端に火炎を形成したが、Mn鉱石を添加しなかった比較例であり、溶鋼温度は上昇しているものの、脱炭速度は0.0033〜0.0036mass%/minであった。これに対して、Mn鉱石を添加したNo.1〜15における脱炭速度は0.0040〜0.0052mass%/minであり、Mn鉱石の添加により、脱炭が促進されていることがわかる。これは、Mn鉱石中のMn酸化物が固体酸素として有効に機能し、溶鋼の脱炭反応を促進したためであると考えられる。なお、このNo.16〜18の比較例では、脱炭に要する酸素が不足し、送酸を行わざるを得なかったため、Mnロスが生じている。
次に、Mn鉱石を添加した例について解析する。
No.13〜15は、図2の上吹きランスを使用し、副原料投入口(図1の8)から真空槽内へMn鉱石を加熱することなく添加した比較例であり、Mn鉱石添加に伴う顕熱や分解熱(潜熱)による温度ロスによって、溶鋼温度が30℃以上低下しており、脱炭速度は0.004mass%/min台で、Mn歩留りも40〜50%台でしかない。
また、No.10〜12は、図2に示した上吹きランスを用いているが、バーナーの火炎でMn鉱石を加熱せずに上吹き添加した比較例であり、上記No.13〜15と同様、Mn鉱石添加に伴う顕熱や潜熱により溶鋼温度が大きく低下し、Mn歩留りも上記No.13〜15と同様、低位となっている。
これに対して、No.19は、図3に示した従来技術の上吹きランスを用いて、ランス先端に形成した火炎でMn鉱石を加熱し、添加した発明例である。この発明例では、溶鋼温度が10℃以上上昇している。これは、Mn鉱石を加熱して添加したことで、温度ロスが低減でき、着熱効率が向上したためと考えられる。また、Mn歩留りも80%近くまで向上している。これは、Mn鉱石を還元性の火炎で加熱したことによって、Mn鉱石が還元されて添加されたためと考えられる。
さらに、No.1〜6は、図2に示した上吹きランスを用いて、Mn鉱石をバーナーの火炎で加熱しつつ上吹き添加した発明例であり、リムド処理後の溶鋼温度が9℃以上上昇し、脱炭速度がすべて0.048mass%/min以上と高く、Mn鉱石中のMn歩留りも80%以上が得られている。
ここで、No.4の発明例とNo.19の発明例は、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)は同じであるが、No.4の発明例の方が、溶鋼温度の上昇量、脱炭速度、Mn歩留りとも優れている。この違いは、No.19で用いた図3の上吹きランスは、ランス先端でMn鉱石と燃焼用ガスが混合して噴出するのに対して、No.4で用いた図2の上吹きランスは、ランス先端のノズルからMn鉱石を噴射し、その噴流をノズルの周囲に配設されたバーナーの火炎で包み込むようにしてMn鉱石を加熱するので、図2のランスの方が、Mn鉱石を効率よく加熱・還元することができるためであると考えられる。
一方、No.7は、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)が本発明の範囲より高いこと以外は、No.1〜6の発明例と同じ比較例であり、火炎が還元性ではなく、Mn鉱石が還元されなかったため、溶鋼温度は上昇しているものの、Mnの歩留りはNo.13〜15と同様、低位である。
逆に、No.8,9は、((G/F)/(G/F)st)が本発明の範囲より低いこと以外は、No.1〜6の発明例と同じ比較例であり、供給される酸素の不足により火炎が形成されず、Mn鉱石が加熱されなかったため、Mn鉱石添加に伴う顕熱や潜熱による温度ロスによって溶鋼温度が低下し、Mn歩留りもNo.13〜15と同様、低位である。
ここで、図4は、No.1〜6の発明例と、No.7〜15の比較例におけるRH処理前のC濃度と脱炭速度との関係を、図5は、上記No.1〜6の発明例と、No.7〜15の比較例におけるRH処理前のC濃度とMn歩留りとの関係を示したものである。これらの図から、RH処理前のC濃度が同じレベルである場合には、発明例の方が、比較例よりも脱炭速度が高く、Mn歩留りが向上していることがわかる。これは、前述したように、最適な燃焼条件の火炎でMn鉱石を加熱して上吹き添加した場合には、Mn鉱石が溶鋼に到達する前にMn酸化物の還元が進むため、Mn鉱石の還元に必要なC量が少なくなる。その結果、RH処理前のC濃度が低い場合でも、Mn鉱石が十分に還元され、Mn鉱石中の酸素が固酸として十分に機能できるためであると考えられる。つまり、比較例において、RH処理前のC濃度が低い場合には、Mn鉱石を還元するためのCが不足し、Mn歩留が低下したと考えられる。
また、図6は、バーナーの火炎でMn鉱石を加熱して添加したNo.1〜6の発明例およびNo.7〜9の比較例における、((G/F)/(G/F)st)とMn歩留りとの関係を示したものである。この図から、((G/F)/(G/F)stが0.4〜1.1の範囲で、Mn歩留り80%以上が得られ、その中でも((G/F)/(G/F)stが0.4以上1.0未満の範囲では、Mn歩留り90%以上と極めて高い値が得られていることがわかる。
以上の結果から、本発明に適合するランスを用い、かつ、本発明に適合する条件でランス先端のバーナーに火炎を形成し、もってMn鉱石を加熱・還元して上吹き添加することにより、溶鋼温度の低下を抑制し、Mnを高い歩留りで添加することができるだけでなく、脱炭速度をも高めることができるので、低炭素高マンガン鋼の溶製を効率的かつ低コストで実施することが可能となる。
高炉から出銑した溶銑を、脱燐、脱硫する溶銑予備処理した後、350トン転炉で吹錬して、C:0.03〜0.09mass%、Si:0.05mass%以下、Mn:0.1〜0.85mass%、P:0.03mass%以下、S:0.0037〜0.0042mass%の成分組成を有する鋼とした。
転炉吹錬した溶鋼は、未脱酸のまま取鍋に出鋼し、上吹きランスを備えたRH真空脱ガス装置に搬送し、未脱酸状態のままで真空脱炭処理するリムド処理を伴う脱ガス処理を施した。RH真空脱ガス装置到着時の溶鋼中O濃度は、0.03〜0.07mass%の範囲であった。
上記リムド処理では、環流ガス(Arガス)の流量を1500NL/min、真空槽の到達真空度を6.7〜40kPa(各条件で一定)とし、上吹きランス先端のノズルから酸素ガスを溶鋼の浴表面に送酸しながらリムド処理し、溶鋼中のC濃度が成分規格値以下の所定の値に達した後、Alを溶鋼に添加して脱酸し、リムド処理を終了した。その後、上記溶鋼にCaO系脱硫剤を添加し、脱硫処理を施した。なお、上記脱硫剤には、粒度が2mm以下のCaO−Alプリメルトフラックスを用い、脱硫剤の添加速度は100kg/min、添加時間は10min、総添加量は1000kgで一定とした。
この際、脱硫剤の添加条件(バーナー加熱の有無)、バーナーの燃焼条件(((G/F)/(G/F)st))を表3に示したように変化させた。なお、脱硫剤は、図2に示した上吹きランスを用いて、中心孔、即ち、粉体・キャリアガス通路11およびノズル12を介して、脱硫剤をキャリアガス(Arガス)とともに溶鋼浴表面に吹き付けて添加した。
また、上吹きランス先端のバーナーに火炎を形成する場合には、燃料としてのLNGを240Nm/hr、燃焼用ガスとしての純酸素を120〜600Nm/hrの範囲で変えて供給することで、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)を変化させた。なお、この場合の(G/F)stは2(燃料の供給速度Fが1Nm/minに対し、燃焼用ガスの供給速度Gが2Nm/min)である。
Figure 0005382275
表3に、脱ガス処理前後における溶鋼中のS濃度およびその値から求められる脱硫率、脱硫剤投射前後の溶鋼温度差を併記した。なお、溶鋼温度差は、プラスの場合は溶鋼温度が上昇したことを、マイナスの場合は溶鋼温度が低下したことを示している。
表3から以下のことがわかる。
No.9は、図2に示した上吹きランスを用いているが、バーナーの火炎で脱硫剤を加熱せずに上吹き添加した比較例であり、脱硫剤添加に伴う顕熱により溶鋼温度が大きく低下し、脱硫率も60%台と低位である。
これに対して、No.1〜6は、図2に示した上吹きランスを用い、かつ、脱硫剤をバーナーの火炎で加熱して上吹き添加した発明例であり、脱硫剤添加による温度ロスがほとんどない。これは、脱硫剤を加熱して添加したことで、温度ロスが低減し、着熱効率が向上したためと考えられる。また、脱硫率も78%以上が得られている。これは、バーナーの火炎が還元性であるため、溶鋼の脱硫反応が促進されたためと考えられる。
一方、No.7は、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)が本発明の範囲より高いこと以外は、No.1〜6の発明例と同じ比較例であり、溶鋼温度は上昇しているものの、脱硫率は60%台と低位である。これは、火炎が還元性ではないため、還元反応である溶鋼の脱硫反応が進行しなかったためと考えられる。
逆に、No.8は、バーナーの燃焼条件((G/F)/(G/F)st)が本発明の範囲より低いこと以外は、No.1〜6の発明例と同じ比較例であり、供給される酸素が不足して火炎が形成されず、脱硫剤が加熱されなかったため、温度ロスによって溶鋼温度が大きく低下している。しかし、未燃焼の還元性ガスで脱硫剤が供給されたため、脱硫率は88.1%と高位である。
ここで、図7は、バーナーの火炎で脱硫剤を加熱して添加した、No.1〜6の発明例およびNo.7,8の比較例における、((G/F)/(G/F)st)と脱硫率との関係を示したものである。この図から、((G/F)/(G/F)stが1.1以下で、脱硫率78%以上が得られ、中でも、((G/F)/(G/F)stが0.4以上1.0未満の範囲では、脱硫率が90%前後と極めて高い値が得られていることがわかる。なお、(G/F)/(G/F)stが0.3でも高い脱硫率が得られるが、この条件では、前述したように、火炎が形成されず、溶鋼温度の低下が大きいので、好ましくない。
以上の結果から、本発明に適合するランスを用い、かつ、本発明に適合する条件でランス先端のバーナーに火炎を形成し、もって脱硫剤を加熱・溶融して上吹き添加することにより、溶鋼温度の低下を抑制し、かつ、脱硫率を高めることができるので、低硫鋼の溶製を効率的に実施することが可能となる。
1:溶鋼
2:取鍋
3:脱ガス部
4:真空槽
5,6:浸漬管
7:排気口
8:副原料投入口(シュート)
9:上吹きランス
10:環流ガス供給配管
11:酸素ガス通路または粉体・キャリアガス通路
12:ノズル
13:内部水冷筒体
14:外部水冷筒体
15:燃料・燃焼用ガス通路
16:バーナー
17:パイロットバーナー
20:酸素ガス通路
21:スロート部
22:末広がり部
23:燃料ガス通路
24:燃料ガス供給孔
25:粉体・キャリアガス通路
26:粉体・キャリアガス噴出孔

Claims (4)

  1. 真空脱ガス設備に配設された上吹きランス先端のバーナーに形成した火炎で酸化物粉体を加熱し、脱ガス槽内の溶鋼の浴面上に上吹き添加する溶鋼の精錬方法において、
    前記バーナーに、燃料と燃焼用ガスが下記式を満たすよう供給して火炎を形成することを特徴とする溶鋼の真空精錬方法。

    0.4≦(G/F)/(G/F)st≦1.1
    ここで、G :燃焼用ガス供給速度(Nm/min)
    F :燃料供給速度(Nm/min)
    (G/F) :酸素燃料比(=燃焼用ガス供給速度/燃料供給速度)
    (G/F)st:燃料が完全燃焼する酸素燃料比の化学量論値
  2. 前記酸化物粉体は、Mn鉱石および/またはCaO系脱硫剤であることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の真空精錬方法。
  3. 前記上吹きランスの軸芯部に設けられた中心孔先端のノズルからMn鉱石および/またはCaO系脱硫剤をキャリアガスとともに噴出し、前記ノズルの周囲に配設した複数の周囲孔先端のバーナーから燃料と燃焼用ガスを供給し、点火して火炎を形成し、該火炎によって前記酸化物粉体を加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の溶鋼の真空精錬方法。
  4. 前記燃料として、炭化水素系の気体燃料、炭化水素系の液体燃料および炭素系の固体燃料のうちのいずれか1種以上を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶鋼の真空精錬方法。

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