以下本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の異方性散乱フィルムは、少なくとも2種類のポリマーAとBを含み、ポリマーAが連続相を構成し、ポリマーBが分散相を構成している異方性散乱フィルムであり、該異方性散乱フィルムは面内方向に二軸延伸されており、かつ、該ポリマーAのみからなる単一樹脂フィルムAと、該ポリマーBのみからなる単一樹脂フィルムBを、該異方性散乱フィルムの二軸延伸と同一条件で各々単独に二軸延伸したときの屈折率の関係が前記式(イ)、(ロ)の関係をいずれも満たし、かつ、前記異方性散乱フィルムの断面における分散相の長軸/短軸長さ比の平均が1.5〜10の範囲内であり、かつ、前記異方性散乱フィルムに入射する光のうち、該フィルム面の法線方向から入射する光に対する平行透過率をToとし、該フィルム両面を2枚の直角反射プリズム斜面で挟んだ状態で、該フィルムに対し45°傾いた方向から入射する光に対する平行透過率をTαとしたとき、Tα/Toの値が0.001〜0.5の範囲内であり、かつ、前記ポリマーAのガラス転移点Tg(A)と前記ポリマーBのガラス転移点Tg(B)が、Tg(A)≧Tg(B)の関係を満たすことを特徴とする。かかる構成において、生産性、コストに優れ、正面輝度に優れた異方性散乱フィルム及びそれを用いたEL素子、EL表示装置を提供するものである。
前記式(イ)、(ロ)の関係は、連続相と分散相において面内方向の屈折率差をできる限り小さくし、厚み方向の屈折率差を大きくすることを意味している。
請求項1の技術構成をとる異方性散乱フィルムにより、EL素子の光取り出し効率を高めることが可能となる理由は以下の通りと考えられる。
基本的な考え方は、本来、光路変調しなくても外界に取出される角度で進行する光、即ち臨界角内で進行する光に対しては、本発明の異方性散乱フィルムは殆ど散乱作用を及ぼさないか、あるいは程度の弱い散乱作用を与えるに留まるため、該フィルムがない場合と比較し、取出される光量は殆ど減少しない。一方、光路変調しないと外界との界面で全反射し、決して外界に取出されることのない角度の光、即ち臨界角外で進行する光に対しては、本発明の異方性散乱フィルムは程度の強い散乱作用を及ぼすため、一部の散乱光が前述の臨界角内の角度を有する光に変調され、その分だけ取出し光量が増加することになる。
EL素子から該異方性散乱フィルム面に向かって臨界角内で進行する光は、その入射角が小さいため、本発明の技術構成では分散相と連続相との面内の屈折率差は比較的小さく、従って散乱強度も低い。一方、EL素子から該異方性散乱フィルム面に向かって臨界角外で進行する光は、その入射角が大きいため、フィルム厚み方向の電場振動成分を多く含んだ光となっている。本発明の技術構成では連続相と分散相との屈折率差が厚み方向で大きくなっているため、散乱強度も強くなるものと推定している。
<ポリマーの相溶性>
本発明の異方性散乱フィルムは、前記したように少なくとも2種のポリマーを含有し、そのうち少なくとも1種のポリマーは連続相を構成し、少なくとも別の1種のポリマーは分散相を構成しているフィルムである。従って、本発明のフィルムは相分離型の所謂ポリマーアロイからなるフィルムである。ここで、相分離とは、異なる2種のポリマーが非相溶の関係にあることを示しており、非相溶とは、水と油のように混ざり合わない、即ち、本発明の場合、異種ポリマーが分子鎖オーダーで溶解混合していない状態を意味するものとする。
2種のポリマーAとポリマーBが相溶であるか非相溶であるかを簡易に調べる手段として、ポリマーの溶解性パラメーターを参考にすることができる。溶解性パラメーターは、ソルビリティーパラメーターとか、簡単にSP値とも言われるが、本来は液体同士が互いに溶融するか否かをみるための大まかな指標であるが、そこから類推して液体−固体、固体−固体同士などの親和性の目途にも使われている。この数値が近いものは親和性が高く(相溶)、遠いものは親和性が低い(非相溶)と考えられる。ポリマーのSP値は、ポリマーハンドブック第3版(WILEY INTERSCIENCE社刊)に記載されている値を用いることができる。
更に、SP値以外の要因として、ポリマー間に引力的相互作用が働くか否かということも重要である。一般的に水素結合、電子給与−受容体的相互作用、イオン相互作用、エステル基のような極性基による相互作用などが働くポリマー間では相溶性が高く、これらの相互作用が弱い系においては非相溶となる傾向が強い。
また、相分離の状態を実用系に近い系で確かめる方法としては、産業調査会発行の、「プラスチック・機能性高分子材料事典」p.551〜p.554に記載されている方法を用いることができる。該文献によると、市販の位相差顕微鏡または偏光顕微鏡を用いて、ポリマーAとポリマーBの両者を混合させたフィルムを観察し、連続相中に球形〜楕円体形状の分散相があるか否かで確認する方法が挙げられる。
更に、その画像を例えば三谷商事株式会社WinROOFのような画像処理ソフトを使うことにより分散相と思われる部分の面積比を求め、この値が2種のポリマー混合比に対して、被写界深度による誤差程度とみなせる場合、相分離状態であるとみなすこととする。顕微鏡の精度や観察するフィルムの厚みによって異なるが、目安としては、分散相ポリマーの全ポリマーに対する体積割合の三乗根の二乗に対し、顕微鏡画像から求めたフィルム画像面積に対する分散相部分の合計面積の割合が±10ポイント前後の範囲に収まる場合は、まず、意図した相分離構造ができているとみなすことができる。
<本発明に係る異方性散乱フィルムの屈折率>
本発明に係る異方性散乱フィルムは、前記相分離を生じるような2種のポリマーA、ポリマーBを含むフィルムを、更に面内方向に二軸延伸することで屈折率の調整を行い、異方性光散乱性を付与した光学フィルムである。そのときに該ポリマーAのみからなる単一樹脂フィルムAと、該ポリマーBのみからなる単一樹脂フィルムBを、該異方性散乱フィルムの二軸延伸と同一条件で各々単独に二軸延伸したときの屈折率の関係が以下の式(イ)、式(ロ)の関係をいずれも満たすことを特徴とする。
式(イ)MAX(|Nx(A)−Nx(B)|,|Ny(A)−Ny(B)|)<0.03
式(ロ)|Nz(A)−Nz(B)|≧0.05
Nx(A):単一樹脂フィルムAの面内遅相軸方向の屈折率
Ny(A):単一樹脂フィルムAの遅相軸に直交しかつ面内方向の屈折率
Nz(A):単一樹脂フィルムAの膜厚方向の屈折率
Nx(B):単一樹脂フィルムBの面内遅相軸方向の屈折率
Ny(B):単一樹脂フィルムBの遅相軸に直交しかつ面内方向の屈折率
Nz(B):単一樹脂フィルムBの膜厚方向の屈折率
式(イ)は、上記説明したようにフィルム面内の屈折率差は小さいほど臨界角内で進行する光の散乱を小さくできる為、0.03未満、好ましくは0.01未満である。
式(ロ)は、同様にフィルム厚み方向の屈折率差は大きいほど臨界角外で進行する光の散乱を大きくできる為、0.05以上であることが必要であり、好ましくは0.10〜0.80、特に好ましくは0.10〜0.50の範囲である。
式(ロ)の値が0.05未満では光の散乱が小さく、従って光取り出し効果が小さい。0.80を越えると光取り出し効果の向上はあるものの、ヘイズが上昇し易くなる為、上記範囲内であることが好ましい。
ポリマーA、ポリマーBの単独の屈折率は特に制限されるものではなく、ポリマーの種類により適宜所定の値を取り得るが、各々1.4〜2.0の範囲にあることが好ましい。
ポリマーA、ポリマーBの単独の屈折率の測定は、該ポリマーAのみからなる単一樹脂フィルムAと、該ポリマーBのみからなる単一樹脂フィルムBを作製し、該異方性散乱フィルムの二軸延伸と同一条件で各々の単一樹脂フィルムを二軸延伸したフィルムを、自動複屈折計KOBURA・21ADH(王子計測器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下、波長590nmに設定し測定することができる。実際は試料の幅手方向に1cm間隔で3次元複屈折率測定を行い、n数は50〜100に設定し平均値を採用する。
上記単独の屈折率を測定する場合の単一樹脂フィルムの二軸延伸条件は、本発明の異方性散乱フィルムの二軸延伸条件と同一であることが必要である。
ここで、同一条件とは、以下の要因を全て一致させることと定義する。
膜厚:35μm〜400μmの範囲であり、ポリマーA及びポリマーBによって構成される異方性散乱フィルムと同じ膜厚で行う。
温度:ポリマーAのガラス転移温度Tg(A)に対し、−10℃以上のいずれかの温度で、上記異方性散乱フィルムと同じ温度で行う。
倍率:フィルムの製膜時の長手方向(以下MDと略す)、幅手方向(以下TDと略す)にそれぞれ1.03倍〜5倍の範囲のいずれかの倍率で、上記異方性散乱フィルムと同じ方向に同じ倍率で行う。
速度:5%〜500%/分の範囲で、上記異方性散乱フィルムと同じ速度で行う。
残溶媒:0.3質量%以下で行う。
本発明に係る異方性散乱フィルムの屈折率の調整は、基本的に連続相であるポリマーA、分散相であるポリマーBの種類の選択とその混合体積比率、分散層の形状、分散層のサイズ、及びポリマーA、Bよりなる異方性散乱フィルムの二軸延伸条件を適宜設定することにより行うことができる。前記二軸とは、フィルムの一方向とそれと直交する方向のことをいい、通常はフィルムの搬送方向(長手方向ともいう)とそれに直交する方向(幅手方向ともいう)である。
また屈折率調整手段として、連続相または分散相に後述する微粒子を分散させて調整することも好ましい。連続相、分散相に添加する微粒子の割合は、ポリマーAとBが非相溶の関係であることを利用し、製膜前に予めポリマーAと微粒子、ポリマーBと微粒子を各々混ぜて分散させておき、これらを混ぜて製膜することで容易に各々の微粒子含有比率を維持したまま相分離構造のフィルムを製膜することができる。
<ポリマーA>
本発明に係る異方性散乱フィルムの連続相を構成するポリマーAは、可視光領域で実質的に透明な材料を用いることが好ましい。具体的には、例えばトリアセチルセルロースやセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂などを用いることができる。これらの中でも、結晶性あるいは半結晶性のポリマーであることが、フィルムを延伸したときの高分子鎖が配向しやすいという観点で好ましい。具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましい。
<ポリマーB>
本発明に係る異方性散乱フィルムの分散相を構成するポリマーBは、基本的にはポリマーAと同じく種々の樹脂が使える。具体的には、例えばトリアセチルセルロースやセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂などを用いることができる。
具体的なポリマーAとポリマーBの組合せの例としては、上述した相溶、非相溶の確認手段を用いて選択した結果、例えば連続相にポリエチレンナフタレート及び/またはポリエチレンテレフタレート、分散相にシンジオタクチックポリスチレンを用いる組合せ、あるいは連続相にシンジオタクチックポリスチレン、分散相にポリアミドを用いる組合せなどが挙げられる。但し、ポリマーの組み合わせはこれらに限られるものではないことは言うまでもない。
<本発明の分散相について>
連続相と分散相とを合わせた全体の質量に対する分散相の質量の比率は、0.5〜40質量%であることが好ましく、5〜40質量%が更に好ましく、10〜30質量%が最も好ましい。
分散相の形状は、フィルム断面での分散相断面の長軸/短軸比の個数平均で定義される分散相の形状は、アスペクト比1.5以上10以下の扁平である。アスペクト比は、分散相を偏光顕微鏡、または電子顕微鏡で観察し、個々の分散相の長軸径、短軸径を測定して、計100個の平均値を求めることで決定される。また、産業調査会「プラスチック・機能性高分子材料事典」p.551〜p.554記載の方法等も好ましく用いられる。
分散相のサイズは、投影面積円相当径として平均0.1μm〜10μmが好ましく、0.3μm〜5μmが更に好ましい。
分散相の厚みは、平均0.05μm〜5μmが好ましく、0.1μm〜2μmが更に好ましい。
分散相のサイズを制御する方法は特に限定されるものではないが、以下のサイズ制御方法が好ましい。
溶融押出製膜の場合は、
(1)連続相と分散相の組成比
(2)溶融混練時の温度や可塑剤添加有無による連続相と分散相の粘度比
(3)相溶化剤添加有無、量調整もしくは、混練最中に化学反応を用いて新たに相溶化剤を作り出す
(4)混練時の物理的せん断力を決める種々の機械的条件(例えばスクリュー形状、その構成/配置、回転数など)
これら(1)〜(4)の条件を適宜選択することにより制御することが可能である。
例えば、分散相のサイズをできるだけ小さく制御したいのであれば、
(1)分散相比率を小さく、(2)連続相と分散相の粘度比を1に近づけ、(3)相溶化剤添加もしくは化学反応の利用により界面張力を低下させ、(4)回転数を高くする等の技術を適宜選択あるいは組合せることにより実現可能である。
また、分散相を構成する樹脂のガラス転移温度Tg(B)は、連続相を構成する樹脂のガラス転移温度Tg(A)以下である(Tg(A)≧Tg(B))。このことにより、後述する延伸過程で相界面にボイドが発生しにくくできる。本発明において、ガラス転移温度は、セイコーインスツル株式会社製EXSTAR6000を用い、10℃/分の昇温速度で測定した。
<微粒子>
連続相または分散相には屈折率の調整や機械的強度を向上するために微粒子を含有することも好ましい。
本発明において好ましく用いられる微粒子としては、該微粒子の平均一次粒子径が1nm以上、100nm以下であり、さらに1nm以上、50nm以下が好ましく、さらに1nm以上、30nm以下が好ましい。平均一次粒子径が1nm未満の場合、コア粒子の分散が困難になり所望の性能が得られない恐れがあることから、平均一次粒子径は1nm以上であることが好ましく、また平均一次粒子径が100nmを超えると、得られる樹脂組成物が濁るなどして透明性が低下し、全光線透過率が70%未満となる恐れがあることから、平均一次粒子径は100nm以下であることが好ましい。
ここでいう平均一次粒子径は各一次粒子を同体積の球に換算した時の直径(球換算粒径)の体積平均値をいう。
尚、粒子の体積平均分散粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて確認できるほか、BET法により比表面積を測定することで推算することも可能である。
微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、好適には球状の微粒子が用いられる。また、粒径の分布に関しても特に制限されるものではないが、本発明の効果をより効率よく発現させるためには、広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。尚、無機粒子の形状、分布とも、SEM、TEMを用いて確認することができる。
微粒子は構成する金属が、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属である無機酸化物微粒子を用いることができ、具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物(MgAl2O4)等が挙げられる。また、本発明において用いられる酸化物微粒子として希土類酸化物を用いることもでき、具体的には酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。
本発明では、該微粒子を分散させた連続相または分散相の屈折率nは、下記式で計算することができる。
(式) n=n0・R+n3・(1−R)
(式中、連続相または分散相の屈折率をn0、連続相または分散相の体積分率をR、微粒子の屈折率をn3、微粒子の体積分率を1−Rとする。)
屈折率nは、ポリマーAまたはB、及び微粒子の種類、添加量を適宜選択することで調整することが可能である。
微粒子の屈折率については、光工学ハンドブック(朝倉書店)等に記載されているベッケ線を用いる方法等により測定することができる。また、微粒子と同じ組成のバルク体のd線波長における屈折率の文献値を参考にしてもよい。これらの方法は扁平粒子の屈折率の測定にも用いることができる。
連続相または分散相に用いられる微粒子は、より分散性を向上し、クラックの発生を防止する為に表面処理されていることが好ましい。また、微粒子は、樹脂との濡れ性を上げるために表面処理を行い、表面を疎水化することが望ましい。
微粒子の表面処理の方法としては、カップリング剤等の表面修飾剤による表面処理、ポリマーグラフト、メカノケミカルによる表面処理などが挙げられる。
また、微粒子の表面処理に用いられる表面修飾剤としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルシリルクロライド等のシラン系カップリング剤を始め、シリコーンオイル、チタネート系、アルミネート系及びジルコネート系カップリング剤等が挙げられる。
本発明において、微粒子は粉体ないし凝集状態のまま添加することが可能である。或いは、液中に分散した状態で添加することも可能である。液中に分散した状態で添加する場合は、混練後に脱揮を行うことが好ましい。
液中に分散した状態で添加する場合、予め凝集粒子を一次粒子に分散して添加することが好ましい。分散には各種分散機が使用可能であるが、特にビーズミルが好ましい。ビーズは各種の素材があるがその大きさは小さいものが好ましく、特に0.1mm以下で0.001mm以上のものが好ましい。
溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いて製造することもできる。
微粒子の樹脂に対する添加量は所望の効果によって適宜変更が可能であるが、用いる樹脂100質量部当たり体積分率で5%〜50%の範囲であることが好ましい。
<本発明に係る異方性散乱フィルムの製造方法>
本発明の異方性散乱フィルムの作製方法としては、まず溶液流延法あるいは溶融押出法により製膜し、しかる後に二軸延伸機により面内二方向に延伸することが好ましい。製膜方法としては、溶融押出法により製膜することが更に好ましい。
溶融押出には、従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥したポリマーA及びポリマーBの樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
冷却用ロールの表面温度は、連続相を形成するポリマーAのガラス転移点Tg(A)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、連続相を形成するポリマーAのガラス転移点Tg(A)に対して、(Tg−30)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
また、必要に応じて、分散相/連続相界面での張力を低下させることを目的とし相溶化剤を添加したり、各相の粘度バランスを調整するために可塑剤を添加することも好ましく行われる。市販の相溶化剤としては、例えば、産業調査会「プラスチック・機能性高分子材料事典」p.542 表6に記載されている市販の相溶化剤を使用できる。
<延伸方法>
本発明の異方性散乱フィルムは、上記製膜方法により製膜した後に、面内方向を表す二方向に延伸することが必要である。
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも二方向に延伸して二軸延伸を行うことにより、異方性散乱フィルムの光学特性などを、本発明の目的と合致させることができる。
かかる延伸の方法は、逐次延伸機または同時延伸機を用いて行うことができる。また高い生産性を得るためには、異方性散乱フィルムは、上述のシート製造に引続く連続的工程にて製造されることが好ましい。以下、延伸方法を例示する。
例えば、縦方向(製膜方向、長手方向、MDと記載することがある。)に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップなどにより把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が挙げられ、一つないし複数の方法をとってよい。
また、幅方向(製膜方向と直交する方向、横方向、TDと記載することがある。)に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、ポリマーAのガラス転移点Tg(A)に対し、−5℃〜+15℃で行うことが好ましく、−5℃〜+10℃で行うことがより好ましく、−5℃〜+5℃で行うことが特に好ましい。
フィルムの延伸温度がTg−5℃を越える場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度がTg+15℃を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、得られた異方性散乱フィルムの高延伸方向(x方向)における連続相と分散相との屈折率バランスがとりにくくなったり、機械特性、特に破断強度が確保できなくなることがある。
延伸倍率のコントロールは、本発明の屈折率特性を発現する上で最も重要である。延伸倍率は、樹脂の種類、組合せにもよるが1.1倍〜3倍が好ましい。またMD倍率>TD倍率、MD倍率<TD倍、MD倍率=TD倍率のいずれでもよい。
延伸は同時二軸延伸でもよいし、逐次二軸延伸(MD延伸の後にTD延伸、或いはその逆)でもよい。
延伸速度は5〜500%/分であることが好ましく、10〜100%/分が更に好ましい。
延伸時の異方性散乱フィルム中の残留溶媒は0.3質量%以下であることが好ましい。
<本発明に係る異方性散乱フィルムの厚み>
特に制限はないが、十分な散乱効果を発現させることから35μm以上400μm以下の厚みが好ましい。
<本発明に係る異方性散乱フィルムの散乱特性>
本発明に係る異方性散乱フィルムは、該フィルム内に入射する光のうち、該フィルム面の法線方向から入射する光に対する平行透過率をToとし、該フィルム両面を2枚の直角三角プリズム斜面で挟んだ状態で、該フィルムに対し45°傾いた方向から入射する光に対する平行透過率をTαとしたとき、Tα/Toの値は0.001〜0.5の範囲内である。
ここで本発明に係る異方性散乱フィルムの平行透過率To、Tαの値は、以下のような手法により測定する値である。即ち、予め有機EL素子より異方性散乱フィルム部を剥離して取り出しておき、これを図1に模式的に表す光学系、例えば日本電色工業社製ヘイズメータNDH2000のような市販のヘイズメータにセットし、該異方性散乱フィルム面の法線方向より光を当て、直進出射されてくる透過光の割合、即ち平行透過率Toを測定する。次に、市販の45°直角反射プリズムを2つ用意し、三角柱の斜面間に該光学機能性層を接着層などを介して気泡が極力混入しないように貼り合わせた後、これを上記光学系にセットして該異方性散乱フィルムの法線から45°傾斜した角度より光を当て、そのときの平行透過率Tαを測定する。本発明に係る異方性散乱フィルムは、Tα/Toの値が0.001〜0.5の範囲内である。
Tα/Toの値は、異方性散乱フィルムを構成している分散相の厚みや大きさ、フィルム内に含有される全散乱体数の中の分散相の割合、分散相と連続相との屈折率差、分散相密度、該異方性散乱フィルムの厚みなどを適宜単独または組み合わせで変化させることにより制御できる。
また、フィルムの光線透過率(全光線透過率)は、例えばヘイズメータ(日本精密光学(株)製、POICヘイズメータ SEP−HS−D1)を用いて、JISK7105に準拠して測定することができる。本発明に係る異方性散乱フィルムは、該光線透過率(全光線透過率)が80%以上であることが好ましい。
<複数の相>
本発明に従って作製された異方性散乱フィルムは、3つ以上の相から成っていてもよい。この場合、例えば、本発明に従って作製された異方性散乱フィルムは、連続相中に2つの異なる分散相を含有することができる。第2の分散相は、連続相全体にわたってランダムに分散させてもよいし、非ランダムに分散させてもよく、更に、ランダムに配列することもできるし、共通の軸に沿って整列させることもできる。
また、本発明に従って作製された異方性散乱フィルムは、また2つ以上の連続相から成っていてもよい。
<スキン層、反射防止層>
実質的に分散相を含まない層を、異方性散乱フィルム、すなわち、分散相および連続相の押出ブレンドの一方または両方の主要面上に配置してもよい。スキン層とも呼ばれるこの層は、例えば、押出ブレンド中での分散相の一体性を保護するために、最終フィルムに機械的または物理的性質を付与するために、または最終フィルムに光学的機能を付与するために配置してもよい。選択される好適な材料としては、連続相の材料または分散相の材料が挙げられる。押出ブレンドと類似した溶融粘度をもつ他の材料も有用な場合がある。スキン層は一層または複数層であってよく、スキン層に帯電防止剤、UV吸収剤、染料、酸化防止剤、顔料などの他の機能性成分を添加してもよい。
本発明に係る異方性散乱フィルムは、少なくとも一方の面に1つ以上の反射防止層が設けられていてもよい。反射防止層は低屈折率層、高屈折率層等として公知の層を形成することができる。
<本発明に係る異方性散乱フィルムの配置位置>
本発明に係る異方性散乱フィルムの配置位置は、EL素子における、外界に向けて光が取り出される面より発光層側で、光透過性電極の光出射面側の面より視認側のいずれかの位置であることが好ましい。
ここで、外界に向けて光が取り出される面とは、EL素子の最も視認側に位置する面を指す。EL素子の構成として、発光層からの光が光透過性電極を透過した後、透明基板を通り、視認側に達する構成の場合、該透明基板の光透過性電極がある面とは反対側の面に本発明の異方性散乱フィルムが設けられる。本発明の異方性散乱フィルムは、その両面が一般的に屈折率1よりも大きい部材で挟まれていることが本発明の効果を呈する上で好ましい。本発明の異方性散乱フィルムは該光透過性電極の視認側の面と該透明基板の該光透過性電極側の面との間に設けられていても構わない。最も好ましい配置位置は、後述する図4、図5に示すようなカラーフィルター基板上の透明平坦化層の表面に設けられることである。
本発明のEL素子を画像表示装置として用いる場合は、画像滲みに対する配慮が必要である。画像滲みを極力抑えるためには、外界に向けて光が取り出される面ではない位置、即ち、視認側最表面ではない位置に異方性散乱フィルムを配置することが好ましく、光透過性電極に比較的近い位置に設けることがより好ましい。この際の光透過性電極の視認側面から本発明の異方性散乱フィルムの視認側面までの距離の目安としては、0.2μm以上200μm以下が好ましく、0.5μm以上100μm以下がより好ましく、1μm以上50μm以下が最も好ましい。
発明に係る異方性散乱フィルムは適当な粘着剤により所定の位置へ固定化されることが好ましい。粘着剤としては市販のものを使用することができ、アクリル系粘着剤、エポキシ系粘着剤、ビニル系粘着剤等を用いることができる。
<本発明に係るEL素子を適用した産業分野>
本発明に係るEL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
表示装置は、電子機器、例えば、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラなど、電子機器に入力された映像信号、若しくは、電子機器内で生成した映像信号を、画像若しくは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
また、発光光源としては、例えば、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特にカラーフィルターや光拡散板などと組み合わせた各種表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
<本発明のEL素子の構成>
ここでは本発明に係る異方性散乱フィルムを装着したEL素子について説明する。
本発明のEL素子は、有機/無機いずれのEL素子であっても適用可能であるが、ここでは、有機EL素子を代表として主に説明する。
図2は、本発明のEL素子の一例を模式的に示した断面図である。この図に示すEL素子21は、基板22上に、陽極23、有機層24、および陰極25をこの順に積層した構成になっている。このうち有機層24は、陽極23側から順に、例えば正孔注入層24a、正孔輸送層24b、発光層24c、及び電子輸送層24dを積層した構成となっている。本発明に係る異方性散乱フィルムは上記したように透明電極である陰極25の視認側表面より上面に配置されることが好ましい。
以下においては、このような積層構成のEL素子21が、基板22と反対側から光を取り出す所謂トップエミッション型(上面発光型)の素子として構成されていることとし、この場合の各層の詳細を基板22側から順に説明する。
<基板>
基板22は、その片側の面側にEL素子21が配列形成される支持体であって、公知のものであって良く、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
<陽極>
陽極23には、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばアルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブテン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)の金属及びその合金さらにはこれらの金属や合金の酸化物等、または、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、ITO(インジウムチンオキシド)、InZnO(インジウ亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等が、単独または混在させた状態で用いられる。
また、陽極23は、光反射性に優れた第1層と、この上部に設けられた光透過性を有すると共に仕事関数の大きい第2層との積層構造であっても良い。
第1層は、アルミニウムを主成分とする合金からなる。その副成分は、主成分であるアルミニウムよりも相対的に仕事関数が小さい元素を少なくとも一つ含むものでも良い。このような副成分としては、ランタノイド系列元素が好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は、大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、かつ陽極のホール注入性も満足する。また副成分として、ランタノイド系列元素の他に、シリコン(Si)、銅(Cu)などの元素を含んでも良い。
第1層を構成するアルミニウム合金層における副成分の含有量は、例えば、アルミニウムを安定化させるNdやNi、Ti等であれば、合計で約10質量%以下であることが好ましい。これにより、アルミニウム合金層においての反射率を維持しつつ、有機電界発光素子の製造プロセスにおいてアルミニウム合金層を安定的に保ち、さらに加工精度および化学的安定性も得ることができる。また、陽極23の導電性および基板22との密着性も改善することが出来る。
また第2層は、アルミニウム合金の酸化物、モリブデンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、クロムの酸化物、およびタンタルの酸化物の少なくとも一つからなる層を例示できる。ここで、例えば、第2層が副成分としてランタノイド系元素を含むアルミニウム合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)である場合、ランタノイド系元素の酸化物の透過率が高いため、これを含む第2層の透過率が良好となる。このため、第1層の表面において、高反射率を維持することが可能である。さらに、第2層は、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電層であっても良い。これらの導電層は、陽極23の電子注入特性を改善することができる。
また陽極23は、基板22と接する側に、陽極23と基板22との間の密着性を向上させるための導電層を設けて良い。このような導電層としては、ITOやIZOなどの透明導電層が挙げられる。
そして、このEL素子21を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極23は画素毎にパターニングされ、基板22に設けられた駆動用の薄膜トランジスタに接続された状態で設けられている。またこの場合、陽極23の上には、ここでの図示を省略したが絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から各画素の陽極23の表面が露出されるように構成されていることとする。
<正孔注入層/正孔輸送層>
正孔注入層24aおよび正孔輸送層24bは、それぞれ発光層24cへの正孔注入効率を高めるためのものである。このような正孔注入層24aもしくは正孔輸送層24bの材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
また、上記正孔注入層24aもしくは正孔輸送層24bのさらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ−4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N,N,N′,N′−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2,2′−チエニルピロール)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
<発光層>
発光層24cは、陽極23側から注入された正孔と、陰極25側から注入された電子とが再結合して発光光を発生する領域である。このような発光層24cは、炭素及び水素のみから構成される有機材料で形成された有機薄膜であっても良く、正孔輸送性を示す三級アミンを分子構造中に有する材料を用いて構成された層であっても良い。加えて、発光層24cは、ドーパントとして、ベリレン誘導体、クマリン誘導体、ピラン系色素、トリフェニルアミン誘導体等の有機物質を微量含む混合有機薄膜であっても良い。この場合には発光層24cを構成するホスト材料(主材料)と、ドーパントとなる材料との共蒸着によって、発光層24cが形成される。また特に、正孔輸送性を示す三級アミンを分子構造中に有する材料のうち、分子間相互作用が小さく濃度消光しにくい特徴を有するものであれば、高濃度のドーピングが可能になり、最適なドーパントの1つとして機能する。
以上のような発光層24cを構成する材料は、希望する色に応じて選択することが可能である。例えば、青色系統の発光光を得たい場合には、オキサジアゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体などが用いられる。緑色系統の発光光を得たい場合には、青色系統の発光層にクマリン6などのクマリン誘導体、キナクリドン誘導体などの既知の緑色色素をドーピングした層が用いられる。赤色系統の発光光を得たい場合には、青色系統または緑色系統の発光層にニールレッド、DCM1{4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン}、DCJT{4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(ジュロリジルスチリル)−ピラン}などのピラン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、クロリン誘導体、ユーロジリン誘導体などの既知の赤色色素をドーピングした層が用いられる。
尚、この発光層24cは、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層を積層させた白色発光層であっても良く、また接続層を介して発光層を複数積層させたタンデム構造であっても良い。さらに、発光層24cは、電子輸送層を兼ねた電子輸送性発光層であることも可能であり、正孔輸送性の発光層であっても良い。
<電子輸送層>
電子輸送層24dは、陰極25から注入される電子を発光層24cに輸送するためのものである。電子輸送層24dの材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、フェナントロリン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、またはこれらの誘導体や金属錯体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3)、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、1,10−フェナントロリンまたはこれらの誘導体や金属錯体が挙げられる。
尚、有機層24は、このような層構造に限定されることはなく、少なくとも発光層24cと、これに接して電子輸送層24dが設けられていれば良く、その他必要に応じた積層構造を選択することができる。
また、発光層24cは、正孔輸送性の発光層、電子輸送性の発光層、あるいは両電荷輸送性の発光層としてEL素子21に設けられていても良い。さらに、以上の有機層24を構成する各層、例えば正孔注入層24a、正孔輸送層24b、発光層24c、電子輸送層24dは、それぞれが複数層からなる積層構造であっても良い。
<陰極>
次に、このような構成の有機層24上に設けられる陰極25は、例えば、有機層24側から順に第1層25a、第2層25bを積層させた2層構造で構成されている。
第1層25aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(Li2O)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2CO3)、さらにはこれらの酸化物及び複合酸化物の混合物を用いることができる。また、第1層25aは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用しても良い。
第2層25bは、例えば、MgAgなどの光透過性を有する層を用いた薄膜により構成されている。この第2層25bは、さらに、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層であっても良い。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。
以上のような陰極25は、このEL素子21を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極25は、有機層24とここでの図示を省略した上述の絶縁膜とによって、陽極23と絶縁された状態で基板22上にベタ膜状に形成され、各画素の共通電極として用いられる。
尚、陰極25は上記のような積層構造に限定されることはなく、作製されるデバイスの構造に応じて最適な組み合わせ、積層構造を取れば良いことは言うまでもない。例えば、上記実施形態の陰極25の構成は、電極各層の機能分離、すなわち有機層24への電子注入を促進させる無機層(第1層25a)と、電極を司る無機層(第2層25b)とを分離した積層構造である。しかしながら、有機層24への電子注入を促進させる無機層が、電極を司る無機層を兼ねても良く、これらの層を単層構造として構成しても良い。また、この単層構造上にITOなどの透明電極を形成した積層構造としても良い。
そして上記した構成のEL素子21に印加する電流は、通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子が破壊されない範囲内であれば特に制限はないが、有機電界発光素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
さらに、ここでの図示は省略したが、このような構成のEL素子21は、大気中の水分や酸素等による有機材料の劣化を防止するため保護層(パッシベーション層)で覆われた状態で用いることが好ましい。保護膜には、窒化珪素(代表的には、Si3N4)、酸化珪素(代表的には、SiO2)膜、窒化酸化珪素(SiNxOy:組成比X>Y)膜、酸化窒化珪素(SiOxNy:組成比X>Y)膜、またはDLC(Diamond like Carbon)のような炭素を主成分とする薄膜、CN(Carbon Nanotube)膜等が用いられる。これらの膜は、単層または積層させた構成とすることが好ましい。なかでも、窒化物からなる保護層は膜質が緻密であり、EL素子21に悪影響を及ぼす水分、酸素、その他不純物に対して極めて高いブロッキング効果を有するため好ましく用いられる。
尚、以上の実施形態においては、EL素子がトップエミッション型である場合を例示して本発明を詳細に説明した。しかしながら、本発明のEL素子は、トップエミッション型への適用に限定されるものではなく、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機層を挟持してなる構成に広く適用可能である。したがって、基板側から順に、陰極、有機層、陽極を順次積層した構成のものや、基板側に位置する電極(陰極または陽極としての下部電極)を透明材料で構成し、基板と反対側に位置する電極(陰極または陽極としての上部電極)を反射材料で構成することによって、下部電極側からのみ光を取り出すようにした、ボトムエミッション型のEL素子にも適用可能である。
さらに、本発明のEL素子とは、一対の電極(陽極と陰極)、およびその電極間に有機層が挟持されることによって形成される素子であれば良い。このため、一対の電極および有機層のみで構成されたものに限定されることはなく、本発明の効果を損なわない範囲で他の構成要素(例えば、無機化合物層や無機成分)が共存することを排除するものではない。
一方、高分子有機物から形成された高分子有機層の場合には、発光層24cを中心に、陽極23の方向に正孔輸送層だけ備わりうる。前記正孔輸送層24bは、ポリエチレンジヒドロキシチオフェン(PEDOT)や、ポリアニリン(PANI)などを使用し、インクジェットプリンティング法やスピンコーティング法により陽極23の上部に形成され、前記高分子有機発光層は、ポリフェニルビニレン(PPV)、可溶性PPV、シアノ基付きPPV、ポリフルオレンなどを使用でき、インクジェットプリンティング法や、スピンコーティング法、またはレーザを利用した熱転写法などの一般的な方法でカラーパターンを形成できる。
無機電界発光素子の場合、発光層24cは、ZnS、SrS、CaS、CaCa2S4、SrCa2S4、BaAl2S4のようなアルカリ土類カルシウム硫化物、及びMn、Ce、Tb、Eu、Tm、Er、Pr、Pbなどを含む遷移金属、またはアルカリ希土類金属のような発光中心原子から形成され、この発光層24cを中心に、陽極23との間及び陰極25との間に絶縁層が形成される。
<表示装置の概略構成>
図3は表示装置の一例を示す図であり、図3(A)は概略構成図、図3(B)は画素回路の構成図である。ここでは、発光素子として図2で示したEL素子21を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置に本発明を適用した実施形態を説明する。
図3(A)に示すように、この表示装置10の基板2上には、表示領域2aとその周辺領域2bとが設定されている。表示領域2aは、複数の走査線11と複数の信号線13とが縦横に配線されており、それぞれの交差部に対応して1つの画素aが設けられた画素アレイ部として構成されている。これらの各画素aに、前記EL素子21が設けられている。また周辺領域2bには、走査線11を走査駆動する走査線駆動回路bと、輝度情報に応じた映像信号(すなわち入力信号)を信号線13に供給する信号線駆動回路cとが配置されている。
図3(B)に示すように、各画素aに設けられる画素回路は、例えば各EL素子21と、駆動トランジスタTr1、書き込みトランジスタ(サンプリングトランジスタ)Tr2、および保持容量Csで構成されている。そして、走査線駆動回路bによる駆動によって、書き込みトランジスタTr2を介して信号線13から書き込まれた映像信号が保持容量Csに保持され、保持された信号量に応じた電流が駆動トランジスタTr1から各EL素子21に供給され、この電流値に応じた輝度でEL素子21が発光する。
尚、以上のような画素回路の構成は、あくまでも一例であり、必要に応じて画素回路内に容量素子を設けたり、さらに複数のトランジスタを設けて画素回路を構成しても良い。また、周辺領域2bには、画素回路の変更に応じて必要な駆動回路が追加される。
以上説明した表示装置10は、封止された構成のモジュール形状のものをも含む。例えば、画素アレイ部である表示領域2aを囲むようにシーリング部3が設けられ、このシーリング部3を接着剤として、透明なガラス等の対向部(封止基板)に貼り付けられ形成された表示モジュールが該当する。この透明な封止基板には、カラーフィルター、保護膜、遮光膜等が設けられてもよい。尚、表示領域2aが形成された表示モジュールとしての基板21には、外部から表示領域2a(画素アレイ部)への信号等を入出力するためのフレキシブルプリント基板が設けられていても良い。
以上説明した実施形態の構成によれば、素子特性の向上が図られたEL素子21を用いたことにより、表示装置10における画質の向上を図ることが可能になる。特に、このEL素子21は、アクティブマトリックス型の表示装置に有利であるトップエミッション型とした場合であっても、素子特性の向上が図られることから、EL素子21を用いてアクティブマトリックス型の表示装置10を構成することにより、画素開口が広い表示装置10においての画質の向上を図ることが可能になる。
<トップエミッション型EL表示装置の実施形態>
次に、本発明に好ましく用いられるトップエミッション型EL表示装置の具体的実施形態の一例を述べる。
図4は、本実施形態のEL表示装置の断面構造を示す模式断面図である。
図4においては、RGBの各画素領域のみを示しているが、実際には複数の画素領域が有機EL装置における実発光領域の全面に形成されているものとする。
本実施形態のEL表示装置201は、カラーフィルター基板207に対してEL素子の白色光を照射させるようになっている。従って、着色層208R、208G、208Bによって、カラー表示を行うようになっている。
次に、画素電極223及び陰極250によって挟持される低分子系発光機能層の構成について説明する。
図4に示すように、発光層300は、画素電極223から陰極250に向けて、正孔注入層301、正孔輸送層302、有機発光層303、電子注入層304が順次積層された構成となっている。
ここで、正孔注入層301は、トリアリールアミン(ATP)を含むものであり、正孔輸送層302は、TPD(トリフェニルジアミン)系からなるものである。
また、有機発光層303は、スチリルアミン系発光層(ホスト)とアントラセン系ドーパントとを含んで構成される青色の有機発光層や、スチリルアミン系発光層(ホスト)とルブレン系ドーパントを含んで構成される黄色の有機発光層等を含んで形成されている。
また、電子注入層304は、アルミニウムキノリノール(Alq3)層である。
また、陰極250は、MgAg等の合金とITOとが積層されてなるものである。
上記の各有機層301〜304の材料及びLiFは、加熱ボート(るつぼ)を用いた真空蒸着法で順次形成される。また、陰極250の形成については、金属系材料については真空蒸着法を採用し、ITO等の酸化物材料についてはECRスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法等の高密度プラズマ成膜法を採用する。
このようなEL表示装置201においては、画素電極223を色毎にパターニングすれば、発光層300及び陰極を形成し分ける必要がなく、高精度が要求されるマスク蒸着を行う必要がない。
次に、陰極250の上方に形成される層膜について説明する。
陰極250の上方には、陰極保護層255が形成されている。当該陰極保護層255は、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法によって形成される。材質は透明性や密着性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると電極との密着性が向上し、発光ムラが低減する。硬化前の有機緩衝層の浸透を防ぐことも目的としており、膜厚は100nm以上が好ましい。
また、陰極保護層255の上方には、有機緩衝層210が形成されている。当該有機緩衝層210の硬化前の原料主成分としては、減圧真空下で塗布形成するために、流動性に優れかつ溶媒のような揮発成分を持たない有機化合物材料である必要があり、好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーである(モノマーの定義:分子量1000以下、オリゴマーの定義:分子量1000〜3000)。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
また、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤としては、電気絶縁性に優れかつ強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが良く、透明性に優れかつ硬化のばらつきの少ない付加重合型がよい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化は60〜100℃の範囲の加熱で行われ、その硬化被膜は珪素酸窒化物との密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となる。
また、酸無水の開環を促進する硬化促進剤として芳香族アミンやアルコール類、アミノフェノールなどの比較的分子量の高いものを添加することで低温かつ短時間での硬化が可能となる。
これらの原料ごとの粘度は1000〜10000mPa・s(室温)が好ましい。理由は、塗布直後に有機発光層へ浸透してダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させず、かつ膜厚を3〜10μm以下にするためである。この膜厚に抑えることで、カラーフィルター基板207を有機発光層303により近づけることができるため、隣接する着色層に光を漏らさずに、発光領域を広くとることができる。また、これらの原料を配合した緩衝層材料の粘度も、1000mPa・s以上(室温)でなければならない。これらの材料は、60〜100℃の範囲で加熱することで硬化させる。この時点の問題として、加熱直後に反応が開始されるまで一時的に粘度が低下する。この時に、有機緩衝層210を構成する材料が陰極保護層255や陰極250を透過してAlq3に達することで、ダークスポットを発生する。そこで、ある程度まで硬化が進むまでは低温で放置し、ある程度高粘度化したところで温度を上げて完全硬化させる方がより好ましい。また、カチオン放出タイプの光重合開始剤を添加して加熱をする前に10mW/cm2以下の低照度で部分的に硬化して粘度の低下を防いでも良い。しかし、光重合開始剤は着色するものが多いため、ボトムエミッション用途に限られる。
また、ダークスポットを発生させないため、緩衝層材料の主成分(例えば70質量%以上)は1000mPa・s以上であることが好ましい。理由として、低粘度成分が多く混入されていると硬化する際の加熱により硬化前に有機発光層に浸透してダークスポットを発生させるためである。
また、本実施形態においては、陰極250やガスバリア層230との密着性を向上させるシランカップリング剤が有機緩衝層210に含有されている。
特に、低分子系の有機発光層303の場合には、有機緩衝層210の材料中にシランカップリング剤を混合、もしくは、シランカップリング剤による層を追加し、さらに陰極保護層を追加している。更に、シランカップリング剤単独による層は膜強度が脆い問題があるため、有機緩衝層210によって膜強度を補い、陰極保護層255のピンホールへの浸透をシランカップリング剤が防ぐように、有機緩衝層210の材料にシランカップリング剤を混合したほうが好ましい。
シランカップリング剤は、SiO2、SiON、SiNとの共有結合が生じるので、陰極保護層やガスバリア層、ガラス基板などとの密着性が向上する(アルミなどの金属とも反応する。)。シランカップリング剤としてはエポキシシランが好ましい。エポキシシランは、緩衝層原料の硬化剤成分(酸無水物系硬化剤)とも反応するので好ましい。
また、主剤/硬化剤/硬化促進剤の組成は40〜45/40〜45/10〜20であることが好ましい(低分子・高分子発光素子に共通)。このようにすると、未硬化成分が10〜20%(緩衝層原料内の未反応エポキシ基を100%とした場合、硬化後の未反応エポキシ基残留比率:FTIRのエポキシ基吸収ピーク強度差で比較可能)となり、未硬化成分による発光機能層への浸透による劣化を防止できる(20%以下になると完全硬化と呼んでいる)。
また、硬化剤基(酸無水、アミン)が、材料の組成として残留しており、未硬化比率は10%前後(原料中のジカルボン酸無水物基を100%とした場合、硬化後の未反応酸無水物基残留比率)である。この程度を完成した膜中に残留させると、硬化時の収縮が少なく、応力を緩和する柔軟性を持つため有機EL素子へのダメージを未然に防止することができるため好ましい。
特に、粘度の低い原料が低分子発光素子の材料を溶かすため(例えばAlq3を溶かす虞がある)、低分子発光素子に対しては高粘度の原料を用いることが好ましい。一方、高分子発光素子の場合はこのようなことがない。各原料の分子量を上げて粘度をあげると改善することができる。低分子発光素子の場合の好ましい粘度(あるいは分子量)の範囲は、3000mPa・sから8000mPa・s(室温時)の範囲であり、スクリーン印刷時の膜厚(5μm前後)と塗布面の平坦性を両立できる。
なお、シランカップリング剤以外にも、イソシアネート化合物などの捕水剤、硬化時の収縮を防ぐ微粒子などの添加剤が有機緩衝層210に混入されていてもよい。
また、有機緩衝層210の上方には、ガスバリア層230が形成されている。当該ガスバリア層230の形成方法としては、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法が採用される。材質は透明性やガスバリア性、耐水性を考慮して珪素酸窒化物などの珪素化合物が好ましい。また、形成前には酸素プラズマ処理によって密着性を向上させると信頼性が向上する。膜厚は、200nm以下では有機緩衝層の表面及び側面被覆が不足するため、300nm以上が好ましい。
本発明に係る異方性散乱フィルムは、陰極250の視認側表面、陰極保護膜255、有機緩衝層210、ガスバリア層230、着色層208の各表面、カラーフィルター基板207の視認側の反対側の面に、市販の粘着剤等を用いて貼合、装着されることが好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
<異方性散乱フィルムF−03の作製>
まず単一樹脂フィルムであるF−01、及びF−02を作製した。
F−01:シンジオタクチックポリスチレンの単一樹脂フィルム(連続相)
溶融押出法:(株)東洋精機製小型二軸セグメント押出機
ラボプラストミルマイクロ2D15Wを使用
使用素材:出光興産(株)製ザレックS104 Tg=93℃
混練温度290℃、ダイ温度286℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 15N・mを維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上により、厚み200μmの透明なフィルムF−01を得た。
F−02:ポリアミドの単一樹脂フィルム(分散相)
溶融押出法:同上
使用素材:東レ製 ナイロンCM6041 Tg=75℃
混練温度270℃、ダイ温度265℃、スクリュー回転数20rpm、
トルク 20N・mを維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上により厚み200μmの透明なフィルムF−02を得た。
F−03:連続相シンジオタクチックポリスチレン/分散相ポリアミドの相分離フィルム
溶融押出法:同上
使用素材:上記素材のミックス シンジオタクチックポリスチレン:ポリア ミド=80/20(質量%)
混練温度280℃、ダイ温度280℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 30N・mを維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上により厚み200μmの異方性散乱フィルムF−03を得た。
本文中記載の方法により、OLYPUS社製偏光顕微鏡BX51にて観察したところ、F−03は、連続相中に球形〜楕円体形状の平均投影径0.5μmの分散相がある相分離フィルムであることを確認した。三谷商事株式会社の画像処理ソフトWinROOFによる分散相部分の面積比は、理論値34%に対し28%であった。
得られたフィルムF−01〜03を表1の各条件で延伸した。また、相分離フィルムF−03は直接、連続相、分散相の屈折率を測定することが極めて困難なため、F−01とF−02についてのみ屈折率(Nx(A)、Ny(A)、Nz(A)、Nx(B)、Ny(B)、Nz(B))を本文中記載の方法により測定した。
表1のF−01、F−02の屈折率の結果を、本発明に係る式(イ)、式(ロ)に照らし合わせた結果、並びに、後述するF−03a〜gにおける分散相の長軸/短軸長さ比の平均及びTα/Toの値から、F−03c、fが参考例であり、d、eが本発明のフィルムであった。
<異方性散乱フィルムF−06の作製>
まず単一樹脂フィルムであるF−04、及びF05を作製した。
F−04:ポリエチレンナフタレートの単一樹脂フィルム(連続相)
溶融押出法:同上
使用素材:特開2007−298634号実施例3使用素材
但しシリカ粒子等PEN以外無添加 Tg=120℃
混練温度300℃、ダイ温度290℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク20N・m維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上のようにして厚み200μmの透明なフィルムF−04を得た。
F−05:シンジオタクチックポリスチレン+高屈折率微粒子含有の単一樹脂フィルム(分散相)
〈シンジオタクチックポリスチレン+高屈折率微粒子の混合ペレットP−05の作製〉
溶融押出法:(株)東洋精機製ラボプラストミルμを使用
使用素材:出光興産(株)製ザレックS104 Tg=93℃
と酸化ジルコニウム微粒子。
混練温度300℃、ダイ温度296℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 35N・m維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
シランカップリング表面処理済の酸化ジルコニウム微粒子を添加。
体積比率シンジオタクチックポリスチレン:表面処理済粒子=74:26
押出速度1.2、巻き取り速度0.75m/minとした。
以上の組成、条件を揃えて、樹脂、微粒子を混合した単一樹脂製膜フィルム(厚み200μm)および樹脂、微粒子を混合したペレットを得た。
(表面処理酸化ジルコニウム微粒子の調製)
酸化ジルコニア分散液(平均粒径3nm、屈折率2.2、住友大阪セメント社製、10%溶液)100gを純水135mlで希釈した溶液を作成した。この溶液に室温で3−アミノプロピルトリメトキシシラン3.7gをゆっくりと滴下した。さらに、この溶液を60℃で10時間攪拌した。室温まで溶液を冷却し、陰イオン交換樹脂であるアンバーライトを加え、溶液のpHが10.4になるまで攪拌した。この溶液にエタノール680ml、アンモニア水(28%溶液、関東化学社製)230ml、を加える。攪拌しながら、テトラエトキシシラン(信越化学社製)30gをエタノール200ml、水100mlの混合液に溶かし、6時間かけて滴下した。滴下終了後、15時間攪拌した。粒子を遠心分離機を用いて分離し、エタノールで洗浄後、90℃で乾燥し、エタノールを除いた後、450℃で焼成した。
得られた白色紛体17gをなすフラスコに封入し、窒素置換し、さらに塩基性基含有シランカップリング剤HMDS3(信越化学社製)を3.5g加え、30分間150℃で攪拌した。さらに脱気することで、未反応のHMDS3を除いた。該粒子をポリラボシステム(HAAKE社製)を用いて、UV硬化樹脂(新中村化学製 NKエステル 1G (エチレングリコールジメタクリレート)に重合開始剤としてチバ・ジャパン社製IRGACURE369を0.05質量%添加、屈折率1.53)と混練することによって樹脂中に紛体20体積%を含有するサンプルを得た。
(式) n=n0・A+n3・(1−A)
(式中、マトリックスの屈折率をn0、マトリックスの体積分率をA、微粒子の屈折率をn3、微粒子の体積分率を1−Aとする。)
上式に従って微粒子分散マトリックスの屈折率nを計算すると1.66であった。
また、混練時にはイソプロピルアルコール等の溶媒を用いることで樹脂中への分散を容易にすることができた。
F−06:連続相ポリエチレンナフタレート/分散相シンジオタクチックポリスチレン+微粒子の相分離フィルム
溶融押出法:(株)東洋精機製ラボプラストミルμを使用
使用ペレット:上記素材ポリエチレンナフタレート:P−05=80/20
(質量%)
混練温度280℃、ダイ温度280℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 30N・m維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上のようにして、厚み200μmのフィルムF−06を得た。
本文中記載の方法により、OLYPUS社製偏光顕微鏡BX51にて観察したところ、F−06は、連続相中に球形〜楕円体形状の平均投影径0.6μmの分散相がある相分離フィルムであることを確認した。三谷商事株式会社の画像処理ソフトWinROOFによる分散相部分の面積比は、理論値34%に対し30%であった。
F−04〜06を表1の各条件で延伸した。また、相分離フィルムF−06は直接、各相の屈折率を測定することが極めて困難なため、F−04とF−05についてのみ屈折率を本文中記載の方法により測定した。
表2のF−04、F−05の屈折率の結果、並びに、後述するF−06h〜nにおける分散相の長軸/短軸長さ比の平均及びTα/Toの値より、F−06j、k、l、mが本発明のフィルムである。
<異方性散乱フィルムF−07(比較例)の作製>
特許文献5段落番号[0024]〜[0043]に則して比較例の異方性散乱フィルムF−07を作製した。厚み36μmの異方性散乱層をTAC(40μm)上に塗布し、トータル厚み76μmであった。
<異方性散乱フィルムF−09(比較例)の作製>
まず、下記の如く、ポリアミドと高屈折率微粒子の混合ペレットP−08、P−08と全く同じ組成の単一樹脂フィルムF−08、および相分離フィルムF−09を作製した。
〈ポリアミド+高屈折率微粒子の混合ペレットP−08の作製〉
溶融押出法:(株)東洋精機製ラボプラストミルμを使用
使用素材:東レ製 ナイロンCM6041 Tg=75℃
と前記酸化ジルコニウム微粒子。
混練温度:270℃、ダイ温度265℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 35N・mを維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
シランカップリング表面処理済の酸化ジルコニウム微粒子を添加。
体積比率ポリアミド:表面処理済粒子=93:7
押出速度1.2、巻き取り速度0.75m/minとした。
こうしてペレットP−08を作製した。
また、以上の組成、条件を揃えて、樹脂、微粒子を混合した単一樹脂フィルムF−08(厚み200μm)を得た。
F−09:連続相シンジオタクチックポリスチレン/分散相ポリアミド+微粒子の相分離フィルム
溶融押出法:(株)東洋精機製ラボプラストミルμを使用
使用ペレット:出光興産(株)製ザレックS104:P−08=80/20
(質量%)
混練温度280℃、ダイ温度280℃、スクリュー回転数30rpm、
トルク 30N・m維持するようフィーダを調整しながら製膜した。
押出速度は1.2kg/hr、巻き取り速度は0.75m/minとした。
以上のようにして、厚み200μmのフィルムF−09を得た。
F−01、F−08、F−09を表1のbおよびfの条件で延伸した結果を表3に示す。F−01、F−08の屈折率の関係、並びに、後述するF−09b、fにおける分散相の長軸/短軸長さ比の平均及びTα/Toの値より、F−09fは参考例のフィルムである。
<EL表示装置101の作製>
図4に示すEL表示装置を参考に、前述の<トップエミッション型EL表示装置の実施形態>の項に記載した方法、手順にて作製した。即ち、まず、第1のガラス基板上に、陽極(画素電極)、正孔注入層、正孔輸送層、白色発光層(EL層)、電子注入層、陰極(ITO)の順に積層し、その上に有機緩衝層、ガスバリア層を設けてEL素子を形成する。一方、500μmの厚みを有する第2のガラス基板の片面に、特開2008−41381号公報の実施例1に準じて、ガラス基板上にブラックマトリクス形成後、R、G、B3種のカラーフィルターを100μmピッチで形成し、その上に透明平坦化層を設けた。
カラーフィルター付きの第2のガラス基板のカラーフィルター層側の面、正確には透明平坦化層の表面を、積水化学製透明両面テープ、ダブルタックテープ#5511(5μm)の接着剤を用いてEL素子が形成されている第1の基板のガスバリア層上に貼り付け、EL表示装置101を作製した。
<EL表示装置102の作製>
異方性散乱フィルムF−03aを透明平坦化層の表面に、積水化学製透明両面テープ、ダブルタックテープ#5511(5μm)の接着剤を用いて貼合し、EL表示装置101と同様にして図5に示すEL表示装置102を作製した。
<EL表示装置103〜118の作製>
異方性散乱フィルムF−03b〜F−03g、及びF−06h〜F−06n、F−07、F−09b、F−09fを透明平坦化層の表面に、積水化学製透明両面テープ、ダブルタックテープ#5511(5μm)の接着剤を用いて貼合し、EL表示装置101と同様にして図5に示すEL表示装置103〜118を作製した。
《評価》
得られたEL表示装置について以下の評価を実施した。
(相対正面輝度評価)
作製したEL素子について正面輝度測定を行った。
測定は分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)を用いて正面からの発光輝度(2°視野角正面輝度)を測定した。
EL表示装置101(比較例、異方性散乱フィルム無し)の輝度を1として相対値で示した。
(全光線透過率)
日本電色工業社製ヘイズメータNDH2000を用いて、JISK7105に準拠して測定した。
(分散相の平均長軸径/短軸径比)
異方性散乱フィルムF−03、F−06の断面を偏光顕微鏡で観察し、個々の分散相の長軸径、短軸径を測定し、100個の平均長軸径/短軸径比を求めた。
(Tα/Toの値)
図1に示す装置を用いて、前述の本発明に係る異方性散乱フィルムの散乱特性の項で説明した方法により測定した。
以上の評価の結果を表4に示す。
表4より、本発明の異方性散乱フィルムを用いたEL素子105、106、111〜114及び参考例の異方性散乱フィルムを用いたEL素子104、107、118は光取り出し効率に優れ、正面輝度の高いEL素子であることが分かる。
また、本発明の異方性散乱フィルムは、全光線透過率も80%以上であり、光学フィルムとして透明性に優れていることも分かった。
実施例2
<照明装置の作製>
厚み300μmのガラス基板上に、実施例1で作製した異方性散乱フィルムF−03aを積水化学製透明両面テープ、ダブルタックテープ#5511(5μm)の接着剤によって直接貼合し、この異方性散乱フィルム面をEL素子の封止膜上に接着させた以外は実施例1と同様にして、白色光を発するEL素子101′を作製した。
同様にして、異方性散乱フィルムF−03b〜F−03g、F−06h〜F−06n、F−09b、F09fを用いて白色光を発するEL素子102′〜118′を作製した。
次いで、上記EL素子101′〜118′の非発光面をガラスケースで覆い、上記ガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、EL照明装置101′〜118′を形成した。
点灯状態を目視で評価した結果、本発明に係るEL照明装置105′、106′、111′〜114′及び参考例のEL照明装置104′、107′、118′は、優れた輝度を有する照明装置であることが分かった。