以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
本実施形態では、トロイダル式無段変速機を備える車両は、動力発生装置として、内燃機関を備えるものとして説明する。内燃機関は、例えば、ガソリン内燃機関、ディーゼル内燃機関、LPG内燃機関である。但し、動力発生装置は、内燃機関に限定されず、電動機も含まれる。また、動力発生装置は、内燃機関と電動機とが組み合わされたものでもよい。
(実施形態1)
図1は、トロイダル式無段変速機を備える車両の構成を示す概略図である。図1に示すように、車両CAは、内燃機関100から取り出された動力を車輪160へ伝えるための装置として、例えば、トルクコンバーター110と、前後進切換機構120と、トロイダル式無段変速機1と、動力伝達機構130と、ディファレンシャルギヤ140と、ドライブシャフト150とを備える。
また、車両CAには、トロイダル式無段変速機の変速比を調節するための装置である変速制御装置2が搭載される。変速制御装置2は、第1制御装置としてのトランスミッションECU60と、第2制御装置としてのエンジンECU170とが含まれて構成される。トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の動作を制御して、トロイダル式無段変速機1の変速比を調節する。エンジンECU170は、主に内燃機関100の動作を制御して内燃機関100から取り出されるトルクを調節すると共に、本実施形態では、トロイダル式無段変速機1の運転も制御することがある。
内燃機関100は、車両CAを走行させるための動力や、車両CAに搭載される各種装置を稼動させるための動力を発生させる。内燃機関100は、電子スロットル弁や燃料噴射装置等を動作させるアクチュエータがエンジンECU170と電気的に接続されて、エンジンECU170によりこれらの動作が制御される。これにより、内燃機関100は、取り出されるトルクがエンジンECU170によって調節される。内燃機関100から取り出されたトルクは、クランクシャフト101を介してトルクコンバーター110に伝えられる。
トルクコンバーター110は、流体の力学的作用を用いて入力側から出力側に回転を伝えると共に、入力側と出力側の回転差によりトルクを増幅させる装置である。トルクコンバーター110は、ポンプ111と、タービン112と、ロックアップクラッチ113とを含んで構成される。ポンプ111は、クランクシャフト101と連結される。タービン112は、前後進切換機構120に連結される。ポンプ111とタービン112との間には、オイルが介在される。トルクコンバーター110は、クランクシャフト101からポンプ111に伝えられるトルクを、ポンプ111とタービン112との間に介在するオイルを介して、タービン112に伝える。また、トルクコンバーター110は、車輪160側からタービン112に伝えられるトルクを、ポンプ111とタービン112との間に介在するオイルを介して、ポンプ111に伝える。
ロックアップクラッチ113は、タービン112に連結される。また、ロックアップクラッチ113は、ポンプ111に係合できるように設けられる。トルクコンバーター110は、ロックアップクラッチ113がポンプ111に係合することで、ポンプ111とタービン112との間で、オイルを介さず直接トルクを伝達する。なお、車両CAは、オイルを加圧するための装置として、オイルポンプを備える。前記オイルポンプは、内燃機関100とトルクコンバーター110との間で伝達されるトルクの一部を動力として稼動する。前記オイルポンプは、オイルを加圧して油圧制御装置50にオイルを供給したり、潤滑用のオイルを循環させたりする。
前後進切換機構120は、トルクコンバーター110とトロイダル式無段変速機1の入力ディスク10との間でトルクを伝達する。前後進切換機構120は、例えば、遊星歯車装置121と、トルク伝達手段としてのフォワードクラッチ122と、リバースブレーキ123とを含んで構成される。フォワードクラッチ122は、油圧制御装置50から供給された作動油により、トルクの入力側と、トルクの出力側との係合の動作が制御される。以下、フォワードクラッチ122の入力側と出力側とが係合することを、フォワードクラッチ122が係合するという。
フォワードクラッチ122が係合する場合には、前後進切換機構120は、遊星歯車装置121のリングギヤとサンギヤと各ピニオンとが互いに相対回転することなく、トルクの入力側と、トルクの出力側との間でトルクが直接伝達される。つまり、フォワードクラッチ122が係合する場合には、内燃機関100からのトルクは、サンギヤに直接伝えられる。一方、フォワードクラッチ122が係合しない場合には、内燃機関100からのトルクは、リングギヤに伝えられる。
リバースブレーキ123は、油圧制御装置50からブレーキピストンに供給される作動油により、切替用キャリアとの係合の動作が制御される。リバースブレーキ123が切替用キャリアと係合する場合には、遊星歯車装置121の各ピニオンがサンギヤの周囲を公転できなくなる。一方、リバースブレーキ123が切替用キャリアと係合しない場合には、切替用キャリアが解放され、各ピニオンがサンギヤの周囲を公転できる状態となる。前後進切換機構120は、油圧制御装置50と電気的に接続されるトランスミッションECU60によりフォワードクラッチ122と、リバースブレーキ123との動作が制御されることにより、トルクの回転方向を切り替える。
トロイダル式無段変速機1は、入力ディスク10と、出力ディスク20と、パワーローラー30と、トラニオン31と、油圧サーボ機構32と、ローラー押圧機構40と、油圧制御装置50とを備える。トロイダル式無段変速機1は、本実施形態では、対向する2つの入力ディスク10と、出力ディスク20との間に、キャビティC1とキャビティC2との2つのキャビティが形成される。トロイダル式無段変速機1は、キャビティC1、キャビティC2に、それぞれ2つのパワーローラー30が配置される。つまり、トロイダル式無段変速機1は、2つの入力ディスク10と、1つの出力ディスク20と、4つのパワーローラー30とを備える。
入力ディスク10は、前後進切換機構120の出力軸である入力軸11と連結される。各入力ディスク10は、回転できるように入力軸11に支持される。各入力ディスク10は、出力ディスク20を挟んで入力軸11の軸方向で対向して配置される。各入力ディスク10の出力ディスク20と対向する面には、各キャビティC1、キャビティC2の各パワーローラー30にそれぞれ接触する接触面12が形成される。ここで、前後進切換機構120側と反対側の入力ディスク10bは、入力軸11に対して軸方向に移動できる。以下、前後進切換機構120側の入力ディスク10を入力ディスク10aとし、前後進切換機構120側と反対側の入力ディスク10を入力ディスク10bとする。
出力ディスク20は、動力伝達機構130と連結される。トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30を介して入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。これにより、出力ディスク20に伝えられるトルクは、動力伝達機構130、ディファレンシャルギヤ140、ドライブシャフト150を介して車輪160に伝えられる。
出力ディスク20は、入力軸11に対して回転できるように入力軸11に支持される。出力ディスク20は、2つの入力ディスク10の間に配置される。出力ディスク20の各入力ディスク10と対向する面には、各キャビティC1、キャビティC2の各パワーローラー30にそれぞれ接触する接触面21が形成される。ここで、出力ディスク20は、入力軸11に対して軸方向に移動できる。
パワーローラー30は、ローラー押圧機構40により、各入力ディスク10と、出力ディスク20とに押圧される。パワーローラー30は、この状態で転動することで、各入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。パワーローラー30は、トロイダル式無段変速機1に供給されるトラクションオイルにより、パワーローラー30と入力ディスク10の接触面12との間、及び、パワーローラー30と出力ディスク20の接触面21との間に油膜が形成される。トロイダル式無段変速機1は、この油膜のせん断力を用いて入力ディスク10と出力ディスク20との間でトルクを伝達する。
トラニオン31は、4つ設けられて、それぞれがパワーローラー30を1つずつ支持する。トラニオン31は、パワーローラー30を回転できるように支持する。また、トラニオン31は、パワーローラー30を入力ディスク10及び出力ディスク20に対して傾転できるように支持する。また、トラニオン31は、パワーローラー30を入力ディスク10及び出力ディスク20に対して入力軸11と直交する方向に移動できるように支持する。
油圧サーボ機構32は、油圧制御装置50から作動油が供給され、前記作動油の圧力によりパワーローラー30を中立位置から移動させる。すなわち、油圧サーボ機構32は、パワーローラー30を中立位置からオフセットさせるものである。油圧サーボ機構32は、回転する入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30が接触した状態で、パワーローラー30を中立位置からオフセットすることで、パワーローラー30に傾転力を作用させる。これにより、パワーローラー30は、入力ディスク10及び出力ディスク20に対して傾転する。
ローラー押圧機構40は、ローラー押圧力を発生する。これにより、ローラー押圧機構40は、入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30を押圧させる。ローラー押圧機構40は、本実施形態では、油圧制御装置50から作動油が供給され、前記作動油の圧力によって、ローラー押圧力を発生させる。ローラー押圧機構40は、ローラー押圧用油圧室構成部材41と、ローラー押圧用油圧室42とを有する。ローラー押圧用油圧室42は、入力ディスク10bと、ローラー押圧用油圧室構成部材41との間に形成される。
ローラー押圧機構40は、入力ディスク10bと対向するように設けられ、ローラー押圧用油圧室42の油圧により前後進切換機構120側に向かって、入力ディスク10bを押圧する。これにより、入力ディスク10bが出力ディスク20側に向かって押圧されると、ローラー押圧機構40は、入力ディスク10bと入力ディスク10aとにより、パワーローラー30及び出力ディスク20を挟み込む。これにより、ローラー押圧機構40は、ローラー押圧力を発生させる。
油圧制御装置50は、油圧サーボ機構32の作動油の圧力、及び、ローラー押圧機構40の作動油の圧力を調節する。また、油圧制御装置50は、トランスミッションの各部に潤滑油としてオイルを供給する。
トロイダル式無段変速機1は、センサー類として、例えば、傾転角センサー201と、ストロークセンサー202と、入力回転速度センサー203と、出力回転速度センサー204と、油温センサー205とを備える。傾転角センサー201は、パワーローラー30の傾転角θを検出する。傾転角センサー201は、トランスミッションECU60に電気的に接続される。これにより、トランスミッションECU60は、傾転角センサー201により検出された傾転角である検出傾転角θrを傾転角センサー201から取得する。
ストロークセンサー202は、パワーローラー30の基準中立位置Obからのオフセット量Xを検出する。ストロークセンサー202は、トランスミッションECU60に電気的に接続される。これにより、トランスミッションECU60は、ストロークセンサー202により検出されたオフセット量である検出オフセット量Xrをストロークセンサー202から取得する。入力回転速度センサー203は、入力ディスク10の回転速度を入力回転速度Ninとして検出する。入力回転速度センサー203は、トランスミッションECU60に電気的に接続される。これにより、トランスミッションECU60は、入力回転速度センサー203により検出された入力回転速度Ninを入力回転速度センサー203から取得する。
出力回転速度センサー204は、出力ディスク20の回転速度を出力回転速度Noutとして検出する。出力回転速度センサー204は、トランスミッションECU60に電気的に接続される。これにより、トランスミッションECU60は、出力回転速度センサー204により検出された出力回転速度Noutを出力回転速度センサー204から取得する。油温センサー205は、トランスミッションのオイルの温度である油温Toを検出する。油温センサー205は、トランスミッションECU60に電気的に接続される。これにより、トランスミッションECU60は、油温センサー205により検出された油温Toを油温センサー205から取得する。
車両CAは、上記のセンサー以外に、例えば、アクセル開度センサー206を備える。アクセル開度センサー206は、ドライバーによって操作されるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度PAPを検出する。アクセル開度センサー206は、エンジンECU170に電気的に接続される。これにより、エンジンECU170は、アクセル開度センサー206により検出されたアクセル開度PAPをアクセル開度センサー206から取得する。
ここで、エンジンECU170と、トランスミッションECU60とは、互いに電気的に接続される。具体的には、エンジンECU170と、トランスミッションECU60とは、一つの電子基盤に実装されたり、別々の電子基盤に実装されてそれぞれの電子基盤が配線材によって電気的に接続されたりする。よって、エンジンECU170と、トランスミッションECU60とは、それぞれが各センサーから取得した情報を互いに共有して、それぞれの制御対象の制御に前記情報を用いることができる。
トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1の変速比γを調節する。具体的には、トランスミッションECU60は、油圧制御装置50から油圧サーボ機構32に供給される作動油の圧力を調節することでトロイダル式無段変速機1の変速比γを調節する。以下に、トランスミッションECU60が変速比γを調節する方法を説明する。
トランスミッションECU60は、設定された目標変速比γoと、実変速比γrとの偏差に基づいて設定される目標オフセット量Xoと、実オフセット量Xyとの偏差に基づいて、目標オフセット指令値Ixを算出する。ここで、実変速比γrは、入力回転速度センサー203によって検出された入力回転速度Ninと、出力回転速度センサー204によって検出された出力回転速度Noutとの比である。
より具体的には、トランスミッションECU60は、本実施形態では、設定された目標変速比γoに基づいて設定されたパワーローラー30の目標傾転角θoと、実傾転角θyとの偏差である傾転角偏差Δθとに基づいて目標オフセット量Xoを設定する。そして、トランスミッションECU60は、設定された目標オフセット量Xoと実オフセット量Xyとの偏差であるオフセット量偏差ΔXに基づいて目標オフセット指令値Ixを設定する。次に、トランスミッションECU60は、設定された目標オフセット指令値Ixに基づいて変速比γをフィードバック制御する。ここで、実オフセット量Xyは、後述する実偏差オフセット量ΔXrまたは後述する推定オフセット量Xsである。
トランスミッションECU60は、パワーローラー30の実際の傾転角を実傾転角θyとして設定する。トランスミッションECU60は、本実施形態では、傾転角センサー201から取得した検出傾転角θrを実傾転角θyとして設定する。なお、実傾転角θyは、検出傾転角θrに基づいて設定されるのみではなく、設定傾転角θsに基づいて設定されてもよい。ここで、設定傾転角θsは、実変速比γrに基づいて設定されるパワーローラー30の傾転角θである。なお、実傾転角θyは、検出傾転角θrと設定傾転角θsとに基づいて設定されてもよい。
また、トランスミッションECU60は、基準中立位置Obと、パワーローラー30の実際の中立位置である実中立位置Orとの偏差である中立位置偏差ΔOを設定する。中立位置偏差ΔOを設定する理由は、トラニオン31の変形や、トロイダル式無段変速機1が格納されるトランスミッションケースの変形により、パワーローラー30の実中立位置Orが基準中立位置Obからずれることがあるためである。そこで、トランスミッションECU60は、トロイダル式無段変速機1に入力される入力トルク(トルクに基づいたトルク)Tinと、入力回転速度Ninと、実変速比γrと、油温センサー205によって検出されたトロイダル式無段変速機1のオイルの油温Toとに基づいて中立位置偏差ΔOを設定する。
トランスミッションECU60は、あらかじめ設定されている中立位置偏差ΔOマップに基づいて中立位置偏差ΔOを設定する。ここで、中立位置偏差ΔOマップは、入力トルクTinと、入力回転速度Ninと、実変速比γrと、油温Toと、中立位置偏差ΔOとの関係を記したものである。なお、中立位置偏差ΔOの設定は、上記に限定されるものではなく、パワーローラー30と入力ディスク10及び出力ディスク20との接線力(トルク)及び法線力(押圧力)とに基づいて設定されてもよい。
トランスミッションECU60は、ストロークセンサー202から取得した検出オフセット量Xrと設定された中立位置偏差ΔOとの偏差である実偏差オフセット量ΔXrを、実オフセット量Xyとして設定する(Xy=ΔXr=Xr−ΔO)。
または、トランスミッションECU60は、設定された実傾転角θyに基づいて推定される推定オフセット量Xsを、実オフセット量Xyとして設定する(Xy=Xs)。以下に、推定オフセット量Xsの推定方法を説明する。トランスミッションECU60は、本実施形態では、傾転角センサー201から取得した検出傾転角θrの微分値を実傾転角速度δθrとして算出し、算出された実傾転角速度δθrと、下記の式(1)とに基づいて、なまし実傾転角速度δθrnを算出する。ここで、Knは、なまし定数である。また、δθrn(i)は、今回の制御周期で算出されたなまし実傾転角速度δθrnである。また、δθr(i)は、今回の制御周期で算出された実傾転角速度δθrである。また、δθrn(i−1)は、前回の制御周期で算出されたなまし実傾転角速度δθrnである。
δθrn(i)=δθrn(i−1)+(δθr(i)−δθrn(i−1))×Kn…(1)
そして、トランスミッションECU60は、算出されたなまし実傾転角速度δθrn(i)と、下記の式(2)とに基づいて、推定オフセット量Xsを算出し、推定オフセット量Xsを実オフセット量Xyとして設定する。つまり、トランスミッションECU60は、実傾転角速度δθrに基づいたなまし実傾転角速度δθrnに基づいて、推定オフセット量Xsを算出する。ここで、ωoは、出力ディスク20の角速度であり、出力回転速度Noutに基づいて設定される。また、Θは、パワーローラー30の半頂角であり、あらかじめ設定される。また、R0は、キャビティC1、キャビティC2の半径であり、あらかじめ設定される。また、1+K0は、入力ディスク10の回転中心からパワーローラー30の揺動中心までの距離をR0で除算した値である。
Xs=((1+K0)×R0)/((1+K0−cos(2Θ−θr))×ωo)×δθrn…(2)
このようにして、トランスミッションECU60は、トラニオン31やケーシングが変形することに起因する実中立位置Orの基準中立位置Obからのずれを補正するように、目標オフセット指令値Ixを設定する。トランスミッションECU60は、目標オフセット指令値Ixで油圧制御装置50を制御してトラニオン31をストロークさせる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30の傾転角θが変化して変速する。
以上のように、トランスミッションECU60は、目標にする目標変速比と、実際の変速比である実変速比との偏差に基づいて、前記パワーローラーの前記オフセット量の目標値である目標オフセット量を求め、前記オフセット量検出手段から取得した前記実オフセット量と、前記目標オフセット量と、の偏差に基づいて、目標オフセット指令値を求め、前記パワーローラーの実際の中立位置である実中立位置と、基準中立位置と、の差に基づいて前記目標オフセット指令値を補正し、補正された前記目標オフセット指令値で前記パワーローラーをオフセットさせることで前記目標変速比に近づけるように前記変速比を調節する。
次に、エンジンECU170やトランスミッションECU60に不具合が生じた場合に、この不具合に対処するための構成を説明する。なお、エンジンECU170やトランスミッションECU60は、不具合が生じないように設計されると共に製造される。しかしながら、より確実に車両CAの動作、特にトランスミッションを制御するためには、エンジンECU170やトランスミッションECU60に不具合が生じた場合を想定しておく必要がある。
図2は、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブのソレノイドに供給する電流の大きさと、フォワードクラッチに供給される作動油の圧力の大きさとの関係を示すグラフである。フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51は、油圧制御装置50を構成する装置の1つである。フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51は、フォワードクラッチ122に供給される作動油の圧力の大きさを調節する。なお、図2に示すISLCは、図1に示すフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51に供給する電流の大きさを示し、Pcは、フォワードクラッチ122に供給される作動油の圧力の大きさを示す。
ここで、一般的なフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブは、図2に破線で示すように、供給された電流値ISLCの大きさが大きくなるほど、圧力Pcが小さくなるように設定される。より具体的には、一般的なフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブは、電流値ISLCが0のとき圧力Pcが最大値となり、電流値ISLCが最大値のとき圧力Pcが0となる。
よって、例えば、トランスミッションECU60に電力を供給する配線である電力ラインが断線したり、トランスミッションECU60とフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51とを結ぶ配線である信号ラインが断線したり、トランスミッションECU60の不具合によりフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51へ電流を供給できなくなったりなどの不具合が生じた場合、一般的なフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブは、フォワードクラッチ122に供給される作動油の圧力が最大値になる。
これにより、一般的なトロイダル式無段変速機では、トランスミッションECUに不具合が発生して、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51へ電流を供給できなくなると、フォワードクラッチ122が係合する。よって、一般的なトロイダル式無段変速機では、例えばエンジンECU170に不具合が生じている際にトランスミッションECUに不具合が生じると、車両CAが走行中にパワーローラー30に被駆動トルクが働く。ここで、被駆動トルクとは、車両CAの車輪160側から内燃機関100側に向かって伝えられるトルクである。これにより、一般的なトロイダル式無段変速機では、トランスミッションECUに不具合が生じると、パワーローラー30に接線力が働いて、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされる。
しかしながら、本実施形態のフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51は、図2に実線で示すように、供給された電流値ISLCの大きさが大きくなるほど、圧力Pcが大きくなるように設定される。より具体的には、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51は、電流値ISLCが0のとき圧力Pcが0となり、電流値ISLCが最大値のとき圧力Pcが最大値となる。よって、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51は、トランスミッションECU60に前記不具合が生じてフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51に供給される電流値ISLCが0になると、フォワードクラッチ122に供給される作動油の圧力が低下して0になる。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に前記不具合が生じると、トルク伝達手段としてのフォワードクラッチ122の係合が解除されるため、車両CAが走行中にパワーローラー30に被駆動トルクが働かない。よって、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が生じても、パワーローラー30に働く接線力が低下する。これにより、トロイダル式無段変速機1は、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされることを抑制できる。
ここで、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされた状態で車両CAが走行し続けると、パワーローラー30のサイドスリップが増大する。これにより、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれが考えられる。また、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされた状態で車両CAが走行し続けると、パワーローラー30と、入力ディスク10及び出力ディスク20との間に介在される油膜が不足して、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれが考えられる。
しかしながら、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が生じた場合に、フォワードクラッチ122の係合を解除して変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされることを抑制できる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30のサイドスリップを低減できる。よって、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。
(実施形態2)
ここで、トロイダル式無段変速機1は、図2に破線で示すように、供給された電流値ISLCの大きさが大きくなるほど、圧力Pcが小さくなるように設定されるフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブを備えても、以下に説明するローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52を備えることで、パワーローラー30のサイドスリップを低減し、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。以下にローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52の構成を説明する。
図3は、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブのソレノイドに供給する電流の大きさと、ローラー押圧用油圧室に供給される作動油の圧力の大きさとの関係を示すグラフである。ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52は、油圧制御装置50を構成する装置の1つである。ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52は、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油の圧力の大きさを調節する。なお、図3に示すISLSは、図1に示すローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52に供給する電流の大きさを示し、Pdは、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油の圧力の大きさを示す。
ここで、一般的なローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブは、図3に破線で示すように、供給された電流値ISLSの大きさが大きくなるほど、圧力Pdが小さくなるように設定される。より具体的には、一般的なローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブは、電流値ISLSが0のとき圧力Pdが最大値となり、電流値ISLSが最大値のとき圧力Pdが0となる。
よって、例えば、トランスミッションECU60に電力を供給する配線である電力ラインが断線したり、トランスミッションECU60とローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52とを結ぶ配線である信号ラインが断線したり、トランスミッションECU60の不具合によりローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52へ電流を供給できなくなったりなどの不具合が生じた場合、一般的なローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブは、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油の圧力が最大値になる。
これにより、一般的なトロイダル式無段変速機では、トランスミッションECU60に不具合が生じると、ローラー押圧機構40が、パワーローラー30を入力ディスク10と出力ディスク20との間で最大の圧力で押圧する。これにより、一般的なトロイダル式無段変速機では、車両CAが走行中にパワーローラー30に被駆動トルクが働く。よって、一般的なトロイダル式無段変速機では、トランスミッションECUに不具合が生じると、パワーローラー30に接線力が働いて、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされる。
しかしながら、本実施形態のローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52は、図3に実線で示すように、供給された電流値ISLSの大きさが大きくなるほど、圧力Pdが大きくなるように設定される。より具体的には、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52は、電流値ISLSが0のとき圧力Pdが0となり、電流値ISLSが最大値のとき圧力Pdが最大値となる。よって、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52は、トランスミッションECU60に前記不具合が生じてローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52に供給される電流値ISLSが0になると、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油の圧力が低下して0になる。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に前記不具合が生じると、トルク伝達手段としてのローラー押圧機構40が発生させるローラー押圧力が低下して0となる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、車両CAが走行中にパワーローラー30に被駆動トルクが働かない。よって、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が生じても、パワーローラー30に働く接線力が低下する。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされることを抑制できる。よって、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30のサイドスリップを低減できる。結果として、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。
ここで、より好適には、トロイダル式無段変速機1は、遠心油圧キャンセラを備えると好ましい。トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧用油圧室42内の作動油に遠心力が働く。これにより、トロイダル式無段変速機は、前記遠心力により作動油が加圧される分、パワーローラー30に働くローラー押圧力の低減量が低下する。しかしながら、遠心油圧キャンセラを備えることで、トロイダル式無段変速機1は、作動油に働く前記遠心力を低減できる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30に働くローラー押圧力をより好適に低減できる。結果として、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30のサイドスリップをより好適に抑制できる。
また、より好適には、トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧用油圧室42内の作動油の圧力を受けるピストン面積が低減されるほど好ましい。なお、この場合、前記ピストン面積が低減された分、ローラー押圧用油圧室42に供給される作動油の圧力は大きくなる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧用油圧室42の容積を低減できる。よって、トロイダル式無段変速機1は、より迅速にローラー押圧用油圧室42から作動油を排出できる。結果として、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30のサイドスリップをより好適に抑制できる。
(実施形態3)
ここで、トロイダル式無段変速機1は、図3に破線で示すように、供給された電流値ISLSの大きさが大きくなるほど、圧力Pdが小さくなるように設定されるローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブを備えても、以下に説明する油圧開放用ソレノイドバルブ53を備えることで、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。以下に油圧開放用ソレノイドバルブ53の構成を説明する。
図4は、トロイダル式無段変速機のローラー押圧用油圧室への作動油供給油圧回路を示す構成図である。油圧開放用ソレノイドバルブ53は、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52と、ローラー押圧用油圧室42とを結ぶ通路52aに設けられる。油圧開放用ソレノイドバルブ53は、トランスミッションECU60と電気的に接続される。
油圧開放用ソレノイドバルブ53は、トランスミッションECU60から電力が供給されると、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52と、ローラー押圧用油圧室42とを連通させる。一方、油圧開放用ソレノイドバルブ53は、トランスミッションECU60からの電力の供給が停止すると、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52と、ローラー押圧用油圧室42とを連通させないと共に、ローラー押圧用油圧室42とオイルパンとを連通させる。これにより、トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧用油圧室42内の作動油の圧力が低下して0になる。
よって、トロイダル式無段変速機1は、図4に示す油圧開放用ソレノイドバルブ53を備えることにより、トランスミッションECU60に前記不具合が生じると、ローラー押圧機構40が発生するローラー押圧力が低下する。これにより、トロイダル式無段変速機1は、車両CAが走行中にパワーローラー30に被駆動トルクが働かない。よって、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が生じても、パワーローラー30に働く接線力が低下する。これにより、トロイダル式無段変速機1は、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされることを抑制できる。結果として、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するを与えるおそれを抑制できる。
(実施形態4)
ここで、上述のトロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60のみではなく、エンジンECU170に不具合が生じた場合であっても、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。
しかしながら、場合によっては、トランスミッションECU60のみに不具合が生じ、エンジンECU170は正常に動作する場合がある。この場合、トランスミッションECU60のみに不具合が生じた場合の不具合対処方法をエンジンECU170に実行させることによって、トロイダル式無段変速機1は、より好適にトランスミッションECU60の不具合に対処できる。以下に、前記不具合対処方法を説明する。
図5は、エンジンECUが実行する実施形態4の不具合対処方法を示すフローチャートである。まず、本実施形態では、エンジンECU170は、図1に示すフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51の動作と、図3に示すローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52の動作と、図4に示す油圧開放用ソレノイドバルブ53の動作とのうちの少なくとも1つを制御する。
具体的には、トロイダル式無段変速機1は、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51を備える場合、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51がエンジンECU170に電気的に接続される。また、トロイダル式無段変速機1は、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52を備える場合、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52がエンジンECU170に電気的に接続される。また、トロイダル式無段変速機1は、油圧開放用ソレノイドバルブ53を備える場合、油圧開放用ソレノイドバルブ53がエンジンECU170に電気的に接続される。
図5に示すように、エンジンECU170は、ステップST101で、トランスミッションECU60に不具合が発生しているか否かを判定する。トランスミッションECU60に不具合が発生していない場合(ステップST101、No)、エンジンECU170は、不具合対処方法の制御周期の1周目を終了し、スタートに戻る。
トランスミッションECU60に不具合が発生している場合(ステップST101、Yes)、エンジンECU170はステップST102に進む。ここで、トロイダル式無段変速機1がフォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51を備える場合、フォワードクラッチ122は、図2の実線で示すように、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51に供給される作動油の圧力が低下して、フォワードクラッチ122の係合が解除されている。よって、ステップST102で、エンジンECU170は、フォワードクラッチ制御用ソレノイドバルブ51に電流を供給して、フォワードクラッチ122を係合させる。
また、トロイダル式無段変速機1がローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52を備える場合、ローラー押圧機構40は、図3の実線で示すように、ローラー押圧用油圧室42内の作動油の圧力が低下して0となり、パワーローラー30が入力ディスク10及び出力ディスク20によって押圧されていない。よって、ステップST102で、エンジンECU170は、ローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52に電流を供給して、ローラー押圧用油圧室42に作動油を供給する。これにより、エンジンECU170は、入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30を押圧させる。
また、トロイダル式無段変速機1が油圧開放用ソレノイドバルブ53を備える場合、ローラー押圧機構40は、ローラー押圧用油圧室42内の作動油の圧力が低下して0となり、パワーローラー30が入力ディスク10及び出力ディスク20によって押圧されていない。よって、ステップST102で、エンジンECU170は、油圧開放用ソレノイドバルブ53に電流を供給して、ローラー押圧用油圧室42とローラー押圧機構制御用ソレノイドバルブ52とを連通する。これにより、エンジンECU170は、入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30を押圧させる。
次に、エンジンECU170は、ステップST103に進む。ここで、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60が機能していないため、上述の方法で実変速比γrを算出できない。そこで、エンジンECU170は、ステップST103で、推定変速比γsを求める。具体的には、エンジンECU170は、まず、Te=C×Ne2に基づいて容量係数Cを求める。ここで、Teは、内燃機関100から取り出されるトルクのことである。また、Neは、内燃機関100の機関回転速度(機関回転速度)である。
そして、エンジンECU170は、トルクコンバーター110の特性に基づいて速度比eと、トルク比tとを求める。なお、トルク比tはステップST104で用いる。そして、エンジンECU170は、機関回転速度Neと速度比eとに基づいて、入力回転速度Ninを求める。入力回転速度Ninは、タービン112の回転速度と一致する。また、エンジンECU170は、車輪160の回転速度から出力回転速度Noutを求める。そして、エンジンECU170は、γs=Nin/Noutに基づいて、推定変速比γsを求める。
次に、エンジンECU170は、ステップST104に進む。エンジンECU170は、ステップST104で、目標エンジントルクTeTを求める。具体的には、エンジンECU170は、まず、ステップST103で求めた推定変速比γsに基づいて、入力ディスク接点半径Rinを求める。入力ディスク接点半径Rinは、パワーローラー30と入力ディスク10との接点と、入力ディスク10の回転軸までの距離である。そして、エンジンECU170は、下記の式(3)に基づいて目標エンジントルクTeTを算出する。
TeT=Ap×Rin×(Pa0−Pb0)×2/t…(3)
ここで、Apは、油圧サーボ機構32が備えるピストンが作動油の圧力を受ける面積である。以下、前記面積をピストン面積という。ここで、式(3)の(Pa0−Pb0)を説明するために、油圧サーボ機構32に作動油を供給するための構成を説明する。
図6は、油圧サーボ機構の動作を制御するための油圧回路を示す構成図である。トロイダル式無段変速機1は、図6に示すように、第1ソレノイドバルブ54と、第2ソレノイドバルブ55とを備える。第1ソレノイドバルブ54は、圧力Pbの作動油を油圧サーボ機構32に供給するか否かを調節できると共に、第2ソレノイドバルブ55から吐出された圧力Paの作動油をオイルパンにリターンさせるか否かを調節できる。第2ソレノイドバルブ55は、圧力Paの作動油を油圧サーボ機構32に供給するか否かを調節できると共に、第1ソレノイドバルブ54から吐出された圧力Pbの作動油をオイルパンにリターンさせるか否かを調節できる。
第1ソレノイドバルブ54及び第2ソレノイドバルブ55は、トランスミッションECU60及びエンジンECU170に電気的に接続される。これにより、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60が正常時には、トランスミッションECU60が第1ソレノイドバルブ54及び第2ソレノイドバルブ55の動作を制御する。
図7は、油圧サーボ機構の動作に用いられる油圧の特性を示すグラフである。トロイダル式無段変速機1は、図7に示すように、圧力Paから圧力Pbを減算した差圧が三段階で生じる。トロイダル式無段変速機1は、この差圧によって油圧サーボ機構32の動作が制御される。ここで、圧力Pbの作動油が第1ソレノイドバルブ54から油圧サーボ機構32に供給されず、また、圧力Paの作動油が第2ソレノイドバルブ55から油圧サーボ機構32に供給されない時の差圧が棚圧(Pa0−Pb0)である。エンジンECU170は、図5に示すステップST104で、棚圧(Pa0−Pb0)を式(3)に代入し、求めた目標エンジントルクTeTを内燃機関100の目標に設定する。
以上のように、エンジンECU170は、前記入力ディスク及び前記出力ディスクに前記パワーローラーを押圧させると共に、前記内燃機関と前記入力ディスクとの間で前記トルクを伝達させ、エンジントルクTe=容量係数C×機関回転速度Ne2に基づいて前記容量係数Cを求め、前記トロイダル式無段変速機を備える車両に搭載されるトルクコンバーターの特性に基づいて速度比eと、トルク比tとを求め、前記機関回転速度Neと前記速度比eとに基づいて前記入力ディスクに入力される前記トルクの回転速度である入力回転速度Ninを求め、前記車両の車輪の回転速度に基づいて前記出力ディスクの回転速度である出力回転速度Noutを求め、推定変速比γs=入力回転速度Nin/出力回転速度Noutに基づいて推定変速比γsを求め、前記推定変速比γsに基づいて、前記パワーローラーと前記入力ディスクとの接点と、前記入力ディスクの回転軸との半径である入力ディスク接点半径Rinを求め、前記油圧サーボ機構に供給される作動油の圧力を受ける面積であるピストン面積Apと、前記パワーローラーの前記オフセット量が0となる前記油圧サーボ機構の作動油の圧力である棚圧(Pa0−Pb0)と、前記入力ディスク接点半径Rinと、前記トルク比tとを、目標エンジントルクTeT=ピストン面積Ap×入力ディスク接点半径Rin×棚圧(Pa0−Pb0)×2/トルク比tに代入して目標エンジントルクTeTを求め、前記内燃機関から取り出されるトルクを前記目標エンジントルクTeTに近づくように前記内燃機関の動作を制御する。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、変速比γを一定に維持できる。よって、トロイダル式無段変速機1は、車両CAが被駆動の場合に、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされるおそれを抑制できる。また、トロイダル式無段変速機1は、エンジンECU170が油圧制御装置50を制御することによって、フォワードクラッチ122が係合し、また、パワーローラー30が入力ディスク10と出力ディスク20とに挟み込まれているため、車両CAが停止した場合でも車両CAを再発進できる。
(実施形態5)
実施形態4の不具合対処方法は、トランスミッションECU60のみに不具合が生じると、変速比γを変化させないように目標エンジントルクTeTを算出して内燃機関100に目標エンジントルクTeTを目標とさせることにより、変速比γを一定に維持する方法である。対して、実施形態5の不具合対処方法を用いれば、トランスミッションECU60のみに不具合が生じた場合でも、変速比γを調節できる点に特徴がある。
図8は、エンジンECUが実行する実施形態5の不具合対処方法を示すフローチャートである。ここで、図8に示すステップST201からステップST203までの手順は、図5に示すステップST101からステップST103までの手順と同一である。よって、図8に示すステップST201からステップST203までの手順の説明を省略する。
ステップST204で、エンジンECU170は、変速比維持エンジントルクTe0を求める。具体的には、エンジンECU170は、まず、ステップST203で求めた推定変速比γsに基づいて、入力ディスク接点半径Rinを求める。そして、エンジンECU170は、下記の式(4)に基づいて変速比維持エンジントルクTe0を算出する。
Te0=Ap×Rin×(Pa0−Pb0)×2/t…(4)
ステップST204を実行した後、エンジンECU170は、ステップST205に進む。ステップST205で、エンジンECU170は、目標変速比γTを求める。具体的には、エンジンECU170は、車両CAに設けられるアクセル開度センサー206からアクセル開度PAPを取得する。エンジンECU170は、取得したアクセル開度PAPに基づいて、目標変速比γTを求める。
図9は、目標変速比とアクセル開度との関係を示すグラフである。具体的には、エンジンECU170は、図9に示すように、アクセル開度PAPが大きくなるほど目標変速比γTを大きく設定する。エンジンECU170は、例えば図9に示すような、アクセル開度PAPと、目標変速比γTとの関係を記したマップに基づいて目標変速比γTを求める。
次に、エンジンECU170は、図8に示すステップST206に進む。ステップST206で、エンジンECU170は、ステップST205で求めた目標変速比γTが、ステップST203で求めた推定変速比γsよりも大きいか否かを判定する。目標変速比γTが推定変速比γsよりも大きい場合(ステップST206、Yes)、エンジンECU170は、ステップST207へ進む。
ステップST207で、エンジンECU170は、目標エンジントルクTeTを算出する。ここで、目標エンジントルクTeTは、変速比維持エンジントルクTe0よりも大きい値である。具体的には、エンジンECU170は、TeT=Te0+αに基づいて目標エンジントルクTeTを算出する。αは、前進レンジの場合は正の値であり、後進レンジの場合は負の値である。αは、一定の値でもよいし、変化する値でもよい。αは、例えば、目標エンジントルクTeTが、下記の式(5)で算出されるTeα以下となる値である。なお、(Paα−Pbα)は、トロイダル式無段変速機1の変速速度が適正な範囲の値になるように設定される。
Teα=Ap×Rin×(Paα−Pbα)×2/t…(5)
このようにして、エンジンECU170は、目標エンジントルクTeTを算出し、算出した目標エンジントルクTeTを内燃機関100の目標に設定する。ステップST207を実行した後、エンジンECU170は、不具合対処方法の制御周期の1周目を終了し、スタートに戻る。これにより、トロイダル式無段変速機1は、目標変速比γTが推定変速比γsよりも大きい場合に、目標エンジントルクTeTを変速比維持エンジントルクTe0よりも大きく設定することで、現在の変速比γを目標変速比γTに近づくように増加させることができる。
ここで、ステップST206で、目標変速比γTが推定変速比γsよりも大きくない場合(ステップST206、No)、エンジンECU170は、ステップST208へ進む。ステップST208で、エンジンECU170は、ステップST205で求めた目標変速比γTが、ステップST203で求めた推定変速比γsよりも小さいか否かを判定する。目標変速比γTが推定変速比γsよりも小さい場合(ステップST208、Yes)、エンジンECU170は、ステップST209へ進む。
ステップST209で、エンジンECU170は、目標エンジントルクTeTを算出する。ここで、目標エンジントルクTeTは、変速比維持エンジントルクTe0よりも小さい値である。具体的には、エンジンECU170は、TeT=Te0−βに基づいて目標エンジントルクTeTを算出する。βは、前進レンジの場合は正の値であり、後進レンジの場合は負の値である。βは、一定の値でもよいし、推変化する値でもよい。βは、例えば、目標エンジントルクTeTが、下記の式(6)で算出されるTeβ以下となる値である。なお、(Paβ−Pbβ)は、トロイダル式無段変速機1の変速速度が適正な範囲の値になるように設定される。
Teβ=Ap×Rin×(Paβ−Pbβ)×2/t…(6)
このようにして、エンジンECU170は、目標エンジントルクTeTを算出し、算出した目標エンジントルクTeTを内燃機関100の目標に設定する。ステップST209を実行した後、エンジンECU170は、不具合対処方法の制御周期の1周目を終了し、スタートに戻る。これにより、トロイダル式無段変速機1は、目標変速比γTが推定変速比γsよりも小さい場合に、目標エンジントルクTeTを変速比維持エンジントルクTe0よりも小さく設定することで、現在の変速比γを目標変速比γTに近づくように減少させることができる。
ここで、ステップST208で、目標変速比γTが推定変速比γsよりも小さくない場合、つまり目標変速比γTが推定変速比γsと等しい場合、(ステップST206、No)、エンジンECU170は、ステップST210に進む。ステップST210で、エンジンECU170は、変速比維持エンジントルクTe0を目標エンジントルクTeTに設定する。そして、エンジンECU170は、算出した目標エンジントルクTeTを内燃機関100の目標に設定する。ステップST210を実行した後、エンジンECU170は、不具合対処方法の制御周期の1周目を終了し、スタートに戻る。これにより、トロイダル式無段変速機1は、目標変速比γTが推定変速比γsと等しい場合に、目標エンジントルクTeTを変速比維持エンジントルクTe0と等しく設定することで、現在の変速比γを目標変速比γTに維持できる。
以上のように、エンジンECU170は、前記油圧サーボ機構に供給される作動油の圧力を受ける面積であるピストン面積Apと、前記パワーローラーの前記オフセット量が0となる前記油圧サーボ機構の作動油の圧力である棚圧(Pa0−Pb0)と、前記入力ディスク接点半径Rinと、前記トルク比tとを、変速比維持エンジントルクTe0=ピストン面積Ap×入力ディスク接点半径Rin×棚圧(Pa0−Pb0)×2/トルク比tに代入して変速比維持エンジントルクTe0を求め、前記車両が有するアクセル開度センサーから取得したアクセル開度に基づいて、目標変速比γTを求め、前記目標変速比γTが前記推定変速比γsよりも大きい場合は、変速比維持エンジントルクTe0よりも目標エンジントルクTeTを大きく設定し、前記目標変速比γTが前記推定変速比γsよりも小さい場合は、変速比維持エンジントルクTe0よりも目標エンジントルクTeTを小さく設定し、前記目標変速比γTが前記推定変速比γsと等しい場合は、変速比維持エンジントルクTe0を目標エンジントルクTeTに設定し、前記内燃機関から取り出されるトルクを前記目標エンジントルクTeTに近づくように前記内燃機関の動作を制御する。
これにより、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が生じても、車両CAが被駆動の場合に、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされるおそれを抑制できる。また、トロイダル式無段変速機1は、エンジンECU170が油圧制御装置50を制御することによって、フォワードクラッチ122が係合し、また、パワーローラー30が入力ディスク10と出力ディスク20とに押圧されているため、車両CAが停止した場合でも車両CAを再発進できる。さらに、トロイダル式無段変速機1は、変速比γを一定に維持するのみではなく、アクセル開度に基づいて設定される目標変速比γTに近づくように、変速できる。
(実施形態6)
実施形態6の不具合対処方法は、トランスミッションECU60のみに不具合が生じた場合に、車両CAが停止してから、フォワードクラッチ122を係合させる点に特徴がある。または、実施形態6の不具合対処方法は、トランスミッションECU60のみに不具合が生じた場合に、車両CAが停止してから、パワーローラー30を開放状態から入力ディスク10及び出力ディスク20に押圧させる点に特徴がある。
図10は、エンジンECUが実行する実施形態6の不具合対処方法を示すフローチャートである。ここで、図10に示すステップST301は、図8に示すステップST201と同様の手順である。また、図10に示すステップST304からステップST312までの手順は、図8に示すステップST202からステップST210までの手順と同一である。よって、図8に示すステップST301及び、ステップST304からステップST312までの手順の説明を省略する。
トランスミッションECU60に不具合が発生している場合(ステップST301、Yes)、エンジンECU170は、ステップST302に進む。ステップST302で、エンジンECU170は、車速センサーから車速Vを取得し、車速Vが0であるか否かを判定する。車速Vが0である場合(ステップST302、Yes)、エンジンECU170は、ステップST303へ進む。ステップST303で、エンジンECU170は、車両停止情報をエンジンECU170の記憶部に記憶する。なお、車両停止情報は、トランスミッションECU60に不具合が生じてから、車両CAが停止したことがある場合に立てられるフラグである。
次に、エンジンECU170は、ステップST304へ進み、ステップST304以降の手順を実行する。ここで、車速Vが0ではない場合、つまり車両CAが走行中の場合(ステップST302、No)、エンジンECU170は、ステップST313に進む。ステップST313で、エンジンECU170は、エンジンECU170の記憶部に車両停止情報があるか否かを判定する。記憶部に車両停止情報がある場合(ステップST313、Yes)、エンジンECU170は、ステップST304へ進む。
なお、ステップST313からステップST304へ進む場合、エンジンECU170は、前回以前の制御周期で、すでにステップST304の手順を実行している。よって、この場合、エンジンECU170は、フォワードクラッチ122の係合を維持する、または、入力ディスク10及び出力ディスク20でのパワーローラー30の押圧を維持する。ここで、記憶部に車両停止情報がない場合(ステップST313、No)、車両CAは、トランスミッションECU60に不具合が生じてから一度も停止していないことになる。この場合、エンジンECU170は、不具合対処方法の制御周期の1周を終了し、スタートに戻る。
ここで、走行中にフォワードクラッチ122を開放状態から係合させたり、パワーローラー30を開放状態から入力ディスク10及び出力ディスク20に押圧させたりすると、ショックが生じることがある。しかしながら、エンジンECU170は、車速Vが0になるまで、つまり、車両CAが停止するまでは、フォワードクラッチ122を係合させず、車両CAが停止してからフォワードクラッチ122を開放状態から係合させる。
または、エンジンECU170は、入力ディスク10及び出力ディスク20にパワーローラー30を押圧させず、車両CAが停止してからパワーローラー30を開放状態から入力ディスク10及び出力ディスク20に押圧させる。車両CAが停止してから、再発進時にフォワードクラッチ122を開放状態から係合させると、トロイダル式無段変速機1は、車速Vが比較的低速なため、発生するショックを低減できる。また、パワーローラー30を開放状態から入力ディスク10及び出力ディスク20に押圧させると、トロイダル式無段変速機1は、車速Vが比較的低速なため、発生するショックを低減できる。
ここで、トランスミッションECU60に不具合が発生してから車両CAが停止するまでの間、トロイダル式無段変速機1は、パワーローラー30に接線力が働かないため、変速比γが減少する方向にパワーローラー30がオフセットされることを抑制できる。よって、トロイダル式無段変速機1は、トランスミッションECU60に不具合が発生してから車両CAが停止するまでの間、パワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との発熱量が増加するおそれ、及び、前記油膜が不足してパワーローラー30と、入力ディスク10と、出力ディスク20との耐久性が低下するおそれを抑制できる。さらに、トロイダル式無段変速機1は、ステップST304を実行した後は、アクセル開度に基づいて設定される目標変速比γTに近づくように、変速できる。
なお、トランスミッションECU60の不具合が解消され、ステップST301でトランスミッションECU60が正常と判定されると(ステップST301、No)、エンジンECU170は、ステップST314で車両停止情報を消去し、不具合対処方法の制御周期の1周を終了してスタートに戻る。
図11は、エンジンECUが実行する実施形態6の他の不具合対処方法を示すフローチャートである。ここで、実施形態4と、実施形態5と、実施形態6とは、エンジンECU170が第2制御装置としての機能を実現するものとして説明した。しかしながら、変速制御装置2は、第2制御装置としてエンジンECU170とは別の第3のECUを備え、第3のECUが不具合対処方法を実行してもよい。
この場合、第3のECUは、例えば、ステップST301の前にステップST315を実行する。ステップST315で、第3のECUは、エンジンECU170が正常か否かを判定する。エンジンECU170が正常である場合(ステップST315、Yes)、第3のECUはステップST301に進み、ステップST301以降の手順を実行する。エンジンECU170に不具合が発生している場合(ステップST315、No)、第3のECUは、不具合対処方法の制御周期の1周目を終了し、スタートに戻る。