以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
−車両用の駆動装置−
図1は、本発明の制御装置を適用する駆動装置の一例を示すスケルトン図である。
この例の駆動装置1は、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型のハイブリッド車両に用いられるものであって、走行用の駆動源としてのエンジン(例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン)10、後述する電気式差動部20及び無段変速部30などを備えている。
駆動装置1は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース1A(以下、ケース1Aともいう)内において共通の軸心上に配設された入力軸11と、この入力軸11に直接に連結、もしくは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された電気式差動部20と、電気式差動部20の出力回転部材である伝達軸23に連結され、電気式差動部20と出力軸32との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式の無段変速部30と、無段変速部30の出力側に連結された出力軸32(図8参照)とを備えており、図8に示すように、エンジン10からの動力を、電気式差動部20、無段変速部30、出力軸32、及び、ディファレンシャル装置(終減速機)2を介して左右の駆動輪3に伝達するようになっている。
−電気式差動部−
電気式差動部20は、第1電動機MG1と、入力軸11に入力されたエンジン10の出力を機械的に分配/合成する機械的機構であって、エンジン10の出力を第1電動機MG1及び伝達軸23に分配するか、もしくはエンジン10の出力と第1電動機MG1の出力とを合成して伝達軸23に出力する動力分配機構21と、伝達軸23と一体的に回転するように設けられた第2電動機MG2とを備えている。この例の第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、電動機(駆動源)として機能するとともに発電機としても機能するモータジェネレータである。なお、差動用電動機である第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、走行用電動機である第2電動機MG2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備えている。
動力分配機構21は、所定のギヤ比ρ0(例えば「0.436」)を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置22と、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0とを備えている。遊星歯車装置22は、サンギヤS0、遊星歯車P0、この遊星歯車P0を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA0、遊星歯車P0を介してサンギヤS0と噛み合うリングギヤR0を回転要素として備えている。サンギヤS0の歯数をZS0、リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構21において、キャリヤCA0は入力軸11すなわちエンジン10に連結され、サンギヤS0は第1電動機MG1に連結されており、リングギヤR0は伝達軸23に連結されている。
切替ブレーキB0はサンギヤS0とトランスミッションケース1Aとの間に設けられており、切替クラッチC0はサンギヤS0とキャリヤCA0との間に設けられている。これら切替クラッチC0及び切替ブレーキB0が解放されると、サンギヤS0、キャリヤCA0、サンギヤS0がそれぞれ相互に相対回転可能な差動作用が働く差動状態となり、エンジン10の出力が第1電動機MG1と伝達軸23とに分配されるとともに、その分配されたエンジン10の出力の一部により第1電動機MG1から発生した電気エネルギで蓄電装置(例えばバッテリ)5が充電される。また、発生した電気エネルギにより第2電動機MG2が回転駆動されるので、例えば無段変速状態とされて、エンジン10の所定回転に関わらず伝達軸23の回転が連続的に変化させられる。すなわち、電気式差動部20は、電気的に変速比γ0(入力軸11の回転数/伝達軸23の回転数)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで変化する差動状態、例えば変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0max0まで連続的に変化する電気的な無段変速機として機能する。
一方、エンジン10の出力による車両走行中に切替クラッチC0が係合してサンギヤS0とキャリヤCA0とが一体的に係合すると、遊星歯車装置22を構成する3つの要素、つまり、サンギヤS0、キャリヤCA0及びリングギヤR0が一体回転する非差動状態となり、エンジン10の回転数Neと伝達軸23の回転数とが一致する状態となるので、電気式差動部20は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態(有段変速状態)となる。
また、切替クラッチC0に替えて切替ブレーキB0が係合すると、サンギヤS0が非回転状態(非差動状態)となって、リングギヤR0がキャリヤCA0よりも増速回転されるので、電気式差動部20は変速比γ0が「1」よりも小さい値、例えば「0.696」に固定された増速変速機として機能する定変速状態(有段変速機)となる。
以上のように、この例では、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0は、電気式差動部20を、変速比が連続的変化可能な電気的な無段変速機として作動する無段変速状態と、無段変速機として作動させずに変速比変化をロックするロック状態、すなわち、1種類または2種類の変速比の単段または複数段の変速機として作動可能な定変速状態とに選択的に切り替える差動状態切替装置として機能する。
電気式差動部20は、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0が解放され、かつ第1電動機MG1が反力を発生しない自由回転状態にされた場合には、電気式差動部20内の動力伝達経路における動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態となる。一方、第1電動機MG1が反力を発生し、または、切替クラッチC0もしくは切替ブレーキB0のいずれか一方が係合された場合には、電気式差動部20内の動力伝達経路における動力伝達を可能とする動力伝達可能状態となる。そして、電気式差動部20が動力伝達遮断状態または動力伝達可能状態とされることにより、駆動装置1全体が動力伝達遮断状態または動力伝達可能状態となる。ただし、この例では、第2電動機MG2と駆動輪3との間の動力伝達経路は遮断されることがないので、駆動装置1全体を動力伝達遮断状態とするには第2電動機MG2は自由回転状態とする。
上記切替クラッチC0及び切替ブレーキB0は、従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するようになっている。
−無段変速部−
無段変速部30は、変速比γCVT(γCVT=無段変速部30の入力軸(伝達軸23)の回転数N23/出力軸32の回転数Nout)を機械的作用により連続的に変化させることができる無段の自動変速機として機能するトロイダル式CVTである。この例では、ダブルキャビティ式のハーフトロイダル型CVTを無段変速部30に適用した場合について説明するが、フルトロイダル型のCVTを無段変速部30に適用することも可能である。
無段変速部30は、伝達軸23の回転軸上で相対向する2つの入力ディスク33a,33b(以下、特に区別しない場合には「入力ディスク33」という)と、これら2つ入力ディスク33a,33bの間において入力ディスク33a,33bのそれぞれに相対向して同軸上に設けられているとともに、出力ギヤ37及びカウンタシャフト35などを介して出力軸32に連結された2つの出力ディスク34a,34b(以下、特に区別しない場合には「出力ディスク34」という)とを備えている。
また、この例の無段変速部30は、相対向するそれぞれの入力ディスク33a,33bと出力ディスク34a,34bとの間に、その回転軸を対称軸として2つずつ合計4つのパワーローラ36a,36b,36c,36d(以下、特に区別しない場合には「パワーローラ36」という)を備えている。
そして、相対向する入力ディスク33と出力ディスク34とは互いが近づく方向に押圧され、それらの対向面はその間に設けられた2つのパワーローラ36の外周面と摩擦力を発生して接触し、その接触を維持しつつパワーローラ36の回転軸が揺動可能となるように、入力ディスク33及び出力ディスク34の相対向するパワーローラ36との接触面は略円弧状断面を有している。
このように構成された無段変速部30においては、第1の動力伝達経路を形成する1組の入力ディスク33a、パワーローラ36a,36b、及び、出力ディスク34aと、第2の動力伝達経路を形成する1組の入力ディスク33b、パワーローラ36c,36d、及び、出力ディスク34bとが、機械的配置としては伝達軸23の回転軸上で直列に設けられ、動力伝達経路としては並列に設けられている。そして、伝達軸23から入力された駆動トルクは、無段変速部30内の並列な2つの動力伝達経路でそれぞれ入力ディスク33、パワーローラ36、出力ディスク34の順に伝達され、この出力ディスク34にカウンタシャフト35を介して連結された出力軸32を経て駆動輪3へ伝達されるようになっている。
この無段変速部30では、入力ディスク33と出力ディスク34とのそれぞれに対して外周面で摩擦接触する4つのパワーローラ36a〜36dの回転(傾転)角度を同時に変化させることによって、入力ディスク33におけるパワーローラ36との接触点の半径(有効径)と出力ディスク34におけるパワーローラ36との接触点の半径(有効径)との比が変化し、無段変速部30の変速比γCVTが連続的に変化する。以下、この変速比γCVTを変更するための機構について具体的に説明する。
図2及び図3は、無段変速部30を模式的に示す図である。上述したように、無段変速部30は、トロイダル面を対向させてなる2対の入力ディスク33及び出力ディスク34が同一軸線上に配置され、出力ディスク34a,34bの間に出力ギヤ37が配置されている。この出力ギヤ37は上記カウンタシャフト35に動力を伝達するものである。
各ディスク33,34及び出力ギヤ37の中心部を上記伝達軸23が貫通しており、各入力ディスク33a,33bは、この伝達軸23に一体となって回転し、且つ軸線方向に移動できるように取り付けられている。これに対し、出力ディスク34a,34b及び出力ギヤ37は、伝達軸23に対して相対回転自在に嵌合されており、且つ各出力ディスク34a,34bと出力ギヤ37とは一体となって回転するように連結されている。
伝達軸23の一方の端部(図2の左側の端部)には、入力ディスク33aを抜け止めするためのロックナット40が取り付けられている。これとは反対側の端部(図2での右側の端部)には、油圧シリンダ41が取り付けられている。この油圧シリンダ41は、各対の入力ディスク33と出力ディスク34とを互いに接近させる方向に押圧する挟圧力を生じさせるための挟圧力発生機構であって、シリンダ42が伝達軸23に固定されているとともに、そのシリンダ42の内部に軸線方向に移動可能に収容したピストン43が、入力ディスク33bの背面に当接している。従って、これらシリンダ42とピストン43との間に油圧を供給することにより、ピストン43が一方の入力ディスク33bをこれとは反対側に配置されている入力ディスク33a側に向けて押圧するように構成されている。なお、この挟圧力発生機構は、油圧シリンダ41に代えて、トルクを軸線方向の推力に変化させるカム機構やネジ機構などの他の機構によって構成してもよい。
各対の入力ディスク33と出力ディスク34との間にそれぞれ挟み込まれているパワーローラ36は、入力ディスク33と出力ディスク34との間でのトルクの伝達を媒介する略円盤状の伝動部材であって、入力ディスク33と出力ディスク34との間に、各ディスク33,34の円周方向に等間隔に配置されている。各パワーローラ36は、各ディスク33,34の回転に伴って自転し、また各ディスク33,34の間で傾く(傾転する)ように、それぞれトラニオン45によって保持されている。
各トラニオン45は、パワーローラ36を自転かつ傾転自在に保持するためのものであって、中心側を向く面を平坦面とした保持部46の上下両側にトラニオン軸47,47が一体形成されている。図3における上側のトラニオン軸47は軸受(図示せず)を介してアッパヨーク48に嵌合しており、また、図3における下側のトラニオン軸47は軸受(図示せず)を介してロアヨーク49に嵌合している。従って、各トラニオン45は、それぞれトラニオン軸47,47を中心にして回転できるように各ヨーク48,49によって互いに連結されており、トラニオン軸47の中心軸線が傾転軸となっている。
各パワーローラ36は各トラニオン45における上記保持部46に取り付けたピボットシャフト50によって回転自在に保持され、また各パワーローラ36とそれぞれのトラニオン45との間にはスラスト軸受51が設けられている。
各トラニオン45の下側(図3下側)のトラニオン軸47には、直線的な前後動作を行うアクチュエータとして油圧シリンダ52が連結されている。具体的には、上記トラニオン軸47は、各パワーローラ36に対応して設けた油圧シリンダ52のピストン52aに連結されている。これらの油圧シリンダ52は、一方のパワーローラ36を図3で上側に移動させると同時に他方のパワーローラ36を図3で下側に移動させるように構成されている。
例えば、図3において、左側の油圧シリンダ52におけるピストン52aに対し、上側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室52Hであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室52Lとなっている。また、図3において、右側の油圧シリンダ52におけるピストン52aに対し、上側の油圧室が変速比の大きい低速側に変速させるためのロー油室52Lであり、これとは反対の下側の油圧室が変速比の小さい高速側に変速させるためのハイ油室52Hとなっている。そして、ハイ油室52H,52H同士、及びロー油室52L,52L同士が互いに連通している。なお、トラニオン軸47に連結するアクチュエータとしては、流体圧シリンダのほか、トルクを推力に変化させて出力する電動シリンダなどであってもよい。
上記のパワーローラ36を中立位置からアップシフト側あるいはダウンシフト側に変位(オフセット)させて変速を実行するための機構について説明すると、その機構は上記油圧シリンダ52などのアクチュエータを動作させるように構成された機構であり、図3に示すものでは、デューティ制御される電磁弁53によって構成されている。なお、この種の制御弁は、上述したハイ油室52H,52Hに対する油圧の給排を制御する弁とロー油室52L,52Lに対する油圧の給排を制御する弁との2つの制御弁を設けてもよいし、あるいは1つの制御弁で各油室52H,52H,52L,52Lに対する油圧の給排を同時に制御するように構成してもよい。
図3に示す電磁弁53は、ハイ油室52H,52Hに連通するハイ側ポート53aと、ロー油室52L,52Lに連通するロー側ポート53bと、ライン圧が入力される入力ポート53cと、2つのドレーンポート53d,53eと、ソレノイド54及びその反対側に配置されたスプリング55によって軸線方向に移動させられて各ポートの連通状態を切り替えるスプール56とを有している。そして、そのスプール56は、入力ポート53c及び各ドレーンポート53d,53eをハイ側ポート53a及びロー側ポート53bのいずれに対しても閉じた状態と、入力ポート53cをハイ側ポート53aに連通させると同時にロー側ポート53bをドレーンポート53eに連通させたアップシフト状態と、これとは反対に、ロー側ポート53bを入力ポート53cに連通させると同時にハイ側ポート53aをドレーンポート53dに連通させたダウンシフト状態とに切り替えるように構成されている。
上記の電磁弁53を使用した変速制御は電気的に実行されるよう構成されている。すなわち、各パワーローラ36の位置を、トラニオン45の位置もしくは変位量として検出するためにストロークセンサ61が設けられている。このストロークセンサ61は一例として、一方のトラニオン45のトラニオン軸47に取り付けられており、その軸線方向の変位量を電気的に検出し、検出信号として出力するように構成されている。ここで変位量とは、パワーローラ36に対してサイドスリップ力もしくは傾転力が作用しない中立位置からの上記傾転軸方向の移動量である。
また、いずれかのトラニオン軸47に傾転角センサ62が設けられている。図3に示すものでは、上記ストロークセンサ61が取り付けられているトラニオン軸47と同一軸線上にある、他のトラニオン軸47に傾転角センサ62が取り付けられている。この傾転角センサ62は、トラニオン軸47の回転角度を電気的に検出して信号を出力するものであって、例えば入力ディスク33と出力ディスク34との回転数が等しい状態つまり変速比が「1」の状態におけるトラニオン軸47の角度を「0」とし、この状態からのトラニオン軸47の回転角度を傾転角として検出し、その傾転角に応じた電気的な信号を出力するようになっている。
さらに、いずれかの入力ディスク33の回転数を検出して電気的な信号を出力する入力軸回転数センサ63と、いずれかの出力ディスク34の回転数を検出して電気的な信号を出力する出力軸回転数センサ64とが設けられている。従って、これら入力軸回転数センサ63及び出力軸回転数センサ64にて検出された各回転数に基づいて、無段変速部30の実際の変速比(入力軸回転数/出力軸回転数)を求めることができる。
以上のストロークセンサ61、傾転角センサ62、及び、入力軸回転数センサ63,64の各センサは、ECU(Electronic Control Unit)100に接続されている。
次に、以上の構造の無段変速部30によるトルクの伝達及び変速について説明する。
まず、伝達軸23から入力ディスク33a,33bにトルクが入力されると、その入力ディスク33a,33bにトラクションオイルを介して接触しているパワーローラ36a〜36dにトルクが伝達され、さらにそのパワーローラ36a〜36dから出力ディスク34a,34bにトラクションオイルを介してトルクが伝達される。その場合、トラクションオイルは加圧されることによりガラス転移し、それに伴う大きい剪断力によってトルクを伝達するので、各ディスク33,34は入力トルクに応じた圧力がパワーローラ36との間に生じるように押圧される。
また、パワーローラ36の周速と、各ディスク33,34のトルク伝達点(パワーローラ36がトラクションオイルを介して接触している点)の周速とは実質的に同じであるから、パワーローラ36が傾転して入力ディスク33との間のトルク伝達点の回転中心軸線からの半径と、出力ディスク34との間のトルク伝達点の回転中心からの半径とに応じて各ディスク33,34の回転数(回転速度)が異なり、その回転数の比率が無段変速部30の変速比となる。
このようにして変速比を設定するパワーローラ36の傾転は、パワーローラ36を図3の上下方向に移動させることにより生じる。例えば、上記電磁弁53を制御して油圧シリンダ52,52のハイ油室52H,52Hにライン圧を供給すると、図3の左側のパワーローラ36aが下側に移動し、右側のパワーローラ36bが上側に移動する。その結果、各パワーローラ36a,36bには、これを傾転させる力(サイドスリップ力)がディスク33a,34aとの間に生じ、各パワーローラ36a,36bが傾転する。
パワーローラ36a,36bの変位量は、実際の傾転角と目標とする傾転角との偏差に基づいて制御される。従って、パワーローラ36a,36bが次第に傾転して目標傾転角に一致すると、パワーローラ36a,36bは中立位置に復帰させられ、その傾転が止まる。その結果、目標とする変速比が設定される。
ECU100は、スロットル開度などで代表される要求駆動量や車速などに基づいて目標とする変速比に対応する傾転角度を求め、その傾転角度を達成するように電磁弁53に指令信号を出力する。その目標傾転角度は、パワーローラ36をトラニオン45とともストロークさせることにより達成できるので、パワーローラ36のストローク量をストロークセンサ61によって検出し、その検出したストローク量とストローク指令量との偏差を制御偏差として電磁弁53に対する指令信号(例えばデューティ比)がフィードバック制御される。
上記の基本的な変速制御を図4のブロック図を参照して説明する。
図4において、まず、目標変速比に相当する目標傾転角度φoと実際の傾転角度φとの偏差が求められる。その目標変速比及びこれに対応する傾転角度の算出は、従来、トロイダルCVTでの変速制御で実行されているものと同様にして行うことができる。例えば、アクセル開度Accなどで表される要求駆動量と車速Vとに基づいて要求駆動力が算出され、その要求駆動力と車速とから目標出力が求められ、その目標出力を最小の燃費で達成するエンジン10の回転数が求められ、その回転数でエンジン10が駆動するように目標変速比及び目標傾転角度φ0が求められる。
上記偏差に所定のゲインK1による処理を施してパワーローラ36のストローク量(一例として中立点からのストローク量)X0が求められる。そのストローク量X0と実際のストローク量Xとの偏差に所定のゲインK2による処理が施されて、上記電磁弁53について指令信号(例えばデューティ比)が求められ、その電磁弁53の出力する油圧によってパワーローラ36が変位するとともに、これに伴ってパワーローラ36が傾転することにより無段変速部30が変速する。
ここで、無段変速部(トロイダル式CVT)30の変速速度は、パワーローラ36を図3の上下方向に移動させる際の移動量(オフセット量)や移動速度によってパワーローラ36が傾転する速度を変化させることにより制御されるため、電磁弁53の制御(油圧の大きさを制御)により、パワーローラ36の移動量を通常の変速時の移動量よりも大きく設定したり、その移動速度を通常の変速時の移動速度よりも高く設定することにより、無段変速部30の変速速度を高く設定することができる。
−変速制御−
以上のように構成された駆動装置1では、動力分配機構21に切替クラッチC0及び切替ブレーキB0が備えており、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0のいずれか一方が係合することによって、電気式差動部20は上述した無段変速機として作動する無段変速状態に加えて、変速比γ0が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能である。
従って、この例の駆動装置1では、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0のいずれか一方が係合する場合は、定変速状態とされた電気式差動部20と無段変速部30とで機械的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。また、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0のいずれも係合しない場合は、無段変速機として作動する電気式差動部20と無段変速部30とによって、電気的かつ機械的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。なお、駆動装置1内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切替クラッチC0及び切替ブレーキB0の両方が解放されて第1電動機MG1及び第2電動機MG2がともに自由回転状態とされる。
駆動装置1において、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0がともに解放された場合には、動力分配機構21が電気的な無段変速機として機能し、この電気式差動部20に直列に配置された無段変速部30が機械的な無段変速機として機能して、電気式差動部20の変速比γ0と無段変速部30の変速比γCVTとの積である駆動装置1の全体としてのトータル変速比(総合変速比)γT(=入力軸11の回転数Nin/出力軸32の回転数Nout)が無段階に得られる。
図5は、第1変速部として機能する電気式差動部20と第2変速部として機能する無段変速部30とを備えた駆動装置1において、電気式差動部20の各回転要素の回転数(回転速度)の相対関係を直線上で表すことができる共線図(ある特定の動力伝達状態における共線図)を示している。この図5の共線図は、各回転要素を示す横軸と相対的回転数(回転速度)を示す縦軸とからなる2次元座標であり、2本の横線のうちの下側の横線X1が回転数「0」を示し、上側の横線X2が回転数「1」すなわち入力軸11に連結されたエンジン10の回転数Neを示している。
また、駆動装置1の各回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応するサンギヤS0(縦線Y1)、第1回転要素(第1要素)RE1に対応するキャリヤCA0(縦線Y2)、第3回転要素(第3要素)RE3に対応するリングギヤR0(縦線Y3)をそれぞれ表している。共線図の縦軸間の関係において遊星歯車装置22ではサンギヤS0とキャリヤCA0との間が「1」に対応する間隔とすると、キャリヤCA0とリングギヤR0との間が遊星歯車装置22のギヤ比ρに対応する間隔となる。すなわち、電気式差動部20では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔は上記ギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。
上記図5の共線図を用いて表現すれば、この例の駆動装置1は、動力分配機構21(電気式差動部20)において、遊星歯車装置22の第1回転要素RE1(キャリヤCA0)が入力軸11すなわちエンジン10に連結されるとともに、切替クラッチC0を介して第2回転要素(サンギヤS0)RE2と選択的に連結される。また、第2回転要素RE2が第1電動機MG1に連結されるとともに、切替ブレーキB0を介してケース1Aに選択的に連結される。また、残りの回転要素である第3回転要素(リングギヤR0)RE3が伝達軸23及び第2電動機MG2に連結され、入力軸11の回転を伝達軸23を介して無段変速部30に伝達(入力)するように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る直線L0によりサンギヤS0の回転数とリングギヤR0の回転数との関係が示される。
例えば、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0の解放により、電気式差動部20が無段変速状態(差動状態)に切替えられたときは、第1電動機MG1の発電による反力(回転数)を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示されるサンギヤS0の回転が上昇または下降し、リングギヤR0の回転数が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示されるキャリヤCA0の回転数が上昇または下降する。
また、切替クラッチC0の係合によってサンギヤS0とキャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構21はサンギヤS0とキャリヤCA0とリングギヤR0とが一体回転する非差動状態となるので、直線L0は横線X2に一致し、エンジン10と同じ回転数で伝達軸23が回転する。一方、切替ブレーキB0の係合によってサンギヤS0の回転が停止させられると、動力分配機構21は増速機構として機能する非差動状態となるので、直線L0は図5に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示されるリングギヤR0すなわち伝達軸23の回転数は、エンジン回転数Neよりも増速された状態で無段変速部30へ入力される。
また、無段変速部30においては、その変速比γCVTが連続的に変化し、出力軸32に向けて動力が伝達される。
以上の駆動装置1はECU100(図6及び図8参照)によって制御される。
−ECU−
ECU100は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM及び入出力インターフェースなどを備えており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン10、電気式差動部20の第1電動機MG1及び第2電動機MG2の各駆動制御、並びに、無段変速部30の変速制御等の駆動制御を実行する。
ECU100には、図6に示す各センサやスイッチなどからの各種信号、例えば、上述したストロークセンサ及び傾転角センサからの信号、入力軸回転数センサにて検出される無段変速部30の入力軸回転数を表す信号、出力軸回転数センサにて検出される出力軸32の出力軸回転数(車速V)を表す信号、水温センサにて検出されるエンジン10の冷却水温を表す信号、シフトポジションセンサにて検出されるシフトポジションを表す信号、第1電動機MG1の回転数NMG1を表す信号、第2電動機MG2の回転数NMG2を表す信号、エンジン回転数センサにて検出されるエンジン10の出力軸(クランクシャフト)の回転数であるエンジン回転数Neを表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、CVT油温センサにて検出される無段変速部30の作動油温を表す油温信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を示す信号、蓄電装置5の温度を示すバッテリ温度信号、アクセル開度センサにて検出されるアクセル開度Acc(運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量)を示すアクセル開度信号、スロットル開度センサにて検出されるスロットルバルブの開度を示す信号、A/Fセンサにて検出されるエンジン10の空燃比を示す信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両加速度センサにて検出される車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車重センサにて検出される車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号などが供給される。
また、ECU100からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置201(図8参照)への制御信号、例えばエンジン10の吸気管12に設けられた電子スロットルバルブ13の開度(スロットル開度)を操作するスロットルアクチュエータ14を駆動する駆動信号、燃料噴射装置15によるエンジン10の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置16によるエンジン10の点火時期を指令する点火信号、及び、過給圧を調整するための過給圧調整信号などが出力される。
さらに、ECU100からは、電動エアコンを作動させるためのエアコン駆動信号、第1電動機MG1及び第2電動機MG2の各作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号などを出力される。また、ECU100からは、電気式差動部20及び無段変速部30の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路202(図8参照)に含まれる電磁ソレノイドバルブを作動させるバルブ指令信号、その電磁ソレノイドバルブに供給されるライン圧を調整するためのライン圧コントロールソレノイドバルブを作動させるバルブ指令信号、油圧制御回路202の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号などが出力される。
−シフト操作装置−
次に、手動変速操作装置であるシフト操作装置について図7を参照して説明する。
この例のシフト操作装置7は、例えば運転席近傍に配設され、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー71を備えている。
シフトレバー71は、駆動装置1内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態(中立状態)とするとともに、出力軸32をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、駆動装置1内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または、前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」のいずれかのポジションに手動操作されるように設けられている。
「P」ポジション及び「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションである。また、「D」ポジションは、最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションは、エンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、シフトレバー71が「M」ポジションへ操作されることにより、複数の変速レンジ(例えば「D」レンジを含む5つの変速レンジ)のいずれかの変速レンジがシフトレバー71の操作に応じて変更される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」及びダウンシフト位置「−」が設けられており、シフトレバー71がそれ等のアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジを含む5つの変速レンジのいずれかに切り替えられる。
また、シフトレバー71はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」及びダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。また、シフト操作装置7にはシフトレバー71の各シフトポジションを検出するためのシフトポジションセンサ(図6参照)が備えられており、そのシフトレバー71のシフトポジションや「M」ポジションにおける操作回数等をECU100へ出力する。
そして、上記シフトレバー71の手動操作により選択されたシフトポジションに応じて例えば油圧制御回路202(図8参照)が電気的に切り替えられて、駆動装置1内の動力伝達経路が上記選択されたものに変更される。例えば、シフトポジションとして「P」ポジションまたは「N」ポジションが選択された場合には、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0がともに解放され、第1電動機MG1と第2電動機MG2とが自由状態にされ、駆動装置1内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態にされる。
−ECUの動作説明−
次に、ECU100の制御機能の要部を図8を参照して説明する。
ECU100は、ハイブリッド制御部101、切替制御部102及び無段変速制御部103などを備えている。
ハイブリッド制御部101は、電気式差動部20の差動状態においてエンジン10を効率の高い作動域で作動させる一方で、エンジン10と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力が最適になるように変化させて電気式差動部20の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、現在の走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセル開度(アクセルペダル操作量)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転数NeとエンジントルクTeとなるようにエンジン10を制御するとともに、第1電動機MG1の発電量を制御する。
ハイブリッド制御部101は、動力性能や燃費向上などのために無段変速部30の変速比γCVTを考慮して制御を実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン10を効率のよい運転域で作動させるエンジン回転数Neと、車速V及び無段変速部30の変速比γCVTで定まる伝達軸23の回転数とを整合させるために、電気式差動部20を電気的な無段変速機として機能させる。
すなわち、ハイブリッド制御部101は、例えば図9の燃費マップに示すようなエンジン回転数Neとエンジン10の出力トルク(エンジントルク)Teとをパラメータとする2次元座標内において、無段変速走行のときに運転性と燃費性とを両立するように制御する。具体的には、エンジン回転数Ne及びエンジントルクTeをパラメータとし、エンジン10の燃費向上のために予め実験的に定められたエンジン10の動作曲線である燃焼効率最適線LEF(最適燃費率曲線LEF、燃費マップ)を用い、その燃焼効率最適線LEFに沿ってエンジン10が作動するように、駆動装置1の総合変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように電気式差動部20の変速比γ0を制御する。
このとき、ハイブリッド制御部101は、第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ4を通じて蓄電装置5や第2電動機MG2へ供給するので、エンジン10の動力の主要部は機械的に伝達軸23へ伝達されるが、エンジン10の動力の一部は第1電動機MG1の発電のために消費されて電気エネルギに変換される。この電気エネルギは、インバータ4を通じて第2電動機MG2へ供給され、これによって第2電動機MG2が駆動されて第2電動機MG2からの動力が伝達軸23へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン10の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。なお、図9の燃費マップは例えばECU100のハイブリッド制御部101内に予め記憶されている。
ハイブリッド制御部101はエンジン制御部111を備えている。エンジン制御部111は、スロットルアクチュエータ14による電子スロットルバルブ13の開閉制御、燃料噴射装置15によるエンジン10の各気筒内への燃料供給量の制御、及び、点火装置16によるエンジン10の点火時期の制御などの各種制御(燃費を重視したエコノミー走行時の制御等も含む)を実行するための制御信号をエンジン出力制御装置201に出力する。
そして、ハイブリッド制御部101は、例えば下記の駆動源切替線図(図10)から車速Vとアクセル開度Accとで示される車両状態に基づいて、モータ走行領域とエンジン走行領域とのいずれの領域であるかを判断して、モータ走行またはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御部101によるモータ走行は、図10から明らかなように、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低アクセル開度Acc時(低エンジントルクTe時)、または、車速Vの比較的低車速時(低負荷域)で実行される。
このモータ走行時には、停止しているエンジン10の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、電気式差動部20の差動作用によりエンジン回転数Neは「0」もしくは略「0」にされる。
図10の駆動源切替線図は、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとして、モータ走行領域とエンジン走行領域とを判定するための2次元マップであって、例えばハイブリッド制御部101に予め記憶されている。図10の駆動源切替線図において、実線Aは、エンジン10を走行用の駆動源として車両を発進/走行(以下、「走行」という)させるエンジン走行と、第2電動機MG2を走行用の駆動源として車両を走行させるモータ走行とを切り替えるための境界線つまりエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。
ハイブリッド制御部101のエンジン制御部111は、例えば車両状態に基づいて図10の駆動源切替線図からモータ走行とエンジン走行との切り替えを判定した場合に、エンジン10の始動または停止を実行する。
例えば、エンジン制御部111は、図10の実線Bの[点a→点b]に示すように、アクセルペダルが踏み込み操作され、アクセル開度Accが大きくなって車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合にはエンジン走行に切り替える。具体的には、第1電動機MG1への通電により当該第1電動機MG1の回転数NMG1を上昇させてエンジン回転数Neを引き上げ、そのエンジン回転数Neが点火可能な回転数以上に達した時点で点火装置16にて点火を行ってエンジン10を始動させて、モータ走行からエンジン走行へ切り替える。このとき、エンジン制御部111は、第1電動機MG1の回転数NMG1を速やかに引き上げることで、アイドル回転数以下のエンジン回転数領域における共振領域を速やかに回避してエンジン始動を行い、その始動時の振動を抑制するようにしてもよい。
また、エンジン制御部111は、図10の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダルが戻されてアクセル開度Accが小さくなり、車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、エンジン10のフューエルカットを開始するとともに、エンジン回転数Neを引き下げてエンジン10の停止を行うことによってエンジン走行からモータ走行へ切り替える。このとき、エンジン制御部111は、第1電動機MG1の回転数NMG1を速やかに引き下げることで、エンジン回転数Neを速やかに「0」もしくは略「0」に引き下げるようにしてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避することができ、エンジン停止時の振動を抑制することができる。
また、ハイブリッド制御部101は、エンジン走行領域であっても、蓄電装置5からの電気エネルギを第2電動機MG2へ供給し、その第2電動機MG2を駆動してエンジン10の動力を補助するトルクアシストが可能である。なお、この例ではエンジン10と第2電動機MG2との両方を走行用の駆動源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
また、ハイブリッド制御部101は、車両の停止状態または低車速状態に関わらず、電気式差動部20の電気的CVT機能(差動作用)によってエンジン10の運転状態を維持することができる。例えば、車両停止時に蓄電装置5の充電残量SOC(State of Charge)が低下して第1電動機MG1による発電が必要となった場合には、エンジン10の動力により第1電動機MG1が発電状態で、その第1電動機MG1の回転数NMG1が引き上げられ、第2電動機MG2の回転数NMG2が車両停止状態により「0」(略「0」)となっても、動力分配機構21の差動作用によってエンジン回転数Neを自立回転可能な回転速度以上に維持できる。
また、ハイブリッド制御部101は、車両の停止中または走行中に関わらず、電気式差動部20の電気的CVT機能によって第1電動機MG1及び/または第2電動機MG2を制御してエンジン回転数Neを任意の回転速度に維持する。例えば、図5の共線図からもわかるように、エンジン回転数Neを引き上げる場合には、ハイブリッド制御部101は第2電動機MG2の回転数を略一定に維持しながら、第1電動機MG1の回転数NMG1の引き上げを実行する。
切替制御部102は、車両状態に基づいて、電気式差動部20の差動制限手段である切替クラッチC0及び切替ブレーキB0の係合/解放を切り替えることにより、上記した電気式差動部20の無段変速状態(差動状態)と有段変速状態(ロック状態)とを選択的に切り替える。
例えば、切替制御部102は、図10と同じ座標系に表された破線、1点鎖線及び2点鎖線で示す差動状態切替線図(差動状態切替マップ)を予め記憶しており、車速V及びアクセル開度Accに基づいて図10の差動状態切替線図を参照して、切替ブレーキB0または切替クラッチC0を係合(ロック)させるべきか否かを判定し、その判定結果に基づいて油圧制御回路202に指令信号を出力することにより、切替ブレーキB0または切替クラッチC0を係合または解放する。
具体的には、アクセル開度Accが、図10の判定アクセル開度Acc1を超えた高開度である場合には、車両状態がC0ロック領域にあるので、切替制御部102は切替クラッチC0を係合して電気式差動部20の変速比γ0を1に固定する(変速比がローに固定される)。また、アクセル開度Accが比較的低い状況のときに、車速Vが図10の判定車速V1を超えた高車速である場合には、車両状態がB0ロック領域にあるので、切替制御部102は切替ブレーキB0を係合して電気式差動部20を変速比γ0が例えば「0.696」で固定された増速変速機として機能させる(変速比がハイに固定される)。
そして、切替制御部102は、切替ブレーキB0または切替クラッチC0を係合した場合にはハイブリッド制御部101に対して電気式差動部20を電気的な無段変速機として機能させる差動制御を禁止する。一方、図10において低アクセル開度Accで低車速Vの車両状態、つまり、車両状態が上記B0ロック領域にもC0ロック領域にも属さない無段制御領域である場合には切替ブレーキB0及び切替クラッチC0を解放して、ハイブリッド制御部101に対して上記差動制御を許可する。
また、切替制御部102は、電気式差動部20を電気的な無段変速機として作動させるための電気系の制御機器の故障や機能低下時には、切替ブレーキB0または切替クラッチC0を係合する制御を実行する場合もある。例えば、第1電動機MG1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器が機能低下する場合、すなわち、第1電動機MG1、第2電動機MG2、インバータ4、蓄電装置5、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、電気式差動部20の制御領域が無段制御領域であっても、切替制御部102は、車両走行を確保するために優先的に切替ブレーキB0または切替クラッチC0を係合する場合もある。
このように、この例の電気式差動部20(駆動装置1)は、電気式差動部20を無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切り替えることが可能であって、切替制御部102により車両状態に基づいて電気式差動部20の切り替えるべき変速状態が判断され、電気式差動部20が無段変速状態または有段変速状態のいずれかの状態に選択的に切り替えられる。また、この例では、ハイブリッド制御部101により車両状態に基づいてモータ走行またはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り替えるために、エンジン制御部111によりエンジン10の始動または停止が行われる。
ここで、図10の切替線図について説明する。まず、図10の切替線図において、太い破線は、切替制御部102による電気式差動部20の無段制御領域とC0ロック領域との判定のための判定アクセル開度Acc1を示している。また、図10の切替線図において、太い1点鎖線は電気式差動部20の無段制御領域とB0ロック領域との判定のための判定車速V1を示しており、判定アクセル開度Acc1を超えた高アクセル開度Accであって判定車速V1を超えた高車速Vである場合にはC0ロック領域となっている。さらに、図10の切替線図において、太い破線、1点鎖線、2点鎖線で示される判定アクセル開度Acc1と判定車速V1とには、それぞれ、細い破線、1点鎖線、2点鎖線で示されるようにヒステリシスが設けられている。
図10の切替線図において、例えば判定車速V1は、高速走行において電気式差動部20が差動状態とされると、かえって燃費が低下するので、これを抑制するように、その高速走行において電気式差動部20が非差動状態となるように設定されている。また、判定アクセル開度Acc1は、車両の高出力走行において第1電動機MG1の反力トルクをエンジン10の高出力域まで対応させない。
なお、図10の差動状態切替線図は判定アクセル開度Acc1及び判定車速V1の少なくとも1つを含むものであってもよいし、アクセル開度Acc及び車速Vのいずれかをパラメータとする予め記憶された切替線であってもよい。
次に、無段変速制御部103について説明する。
無段変速制御部103は、油圧制御回路202に指令信号を出力し、無段変速部30のパワーローラ36を傾転させることにより無段変速部30の変速比γCVTを変化させて変速を行う。例えば、無段変速制御部103は、電気式差動部20の差動状態に応じて予め設定された車速V及びアクセル開度Accとの関係から変速比γCVTを決定し、その変速比γCVTが得られるように無段変速部30の変速制御を実行する。
ここで、この例では、ハイブリッド制御部101による電気式差動部20の変速比γ0の制御によってエンジン走行中は燃費向上のため、エンジン回転数Ne及びエンジントルクTeなどで示されるエンジン10の動作状態を示すエンジン動作点PEG(図9参照)が燃焼効率最適線LEFに沿うように(燃費最適点となるように)、エンジン10を作動しているが、これに加えて、電気式差動部20におけるエンジン10からの出力(駆動エネルギ)の伝達効率η20を向上させることで、車両全体としての燃費を更に向上させることができる。その具体的な制御について以下に説明する。
まず、無段変速制御部103は、上述のように、無段変速部30の変速制御を実行するが、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合には、図11に示す無段変速部変速比マップから車速Vに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)する。
図11の無段変速部変速比マップは、図9に示す燃焼効率最適線LEF上のエンジン動作点PEGでエンジン10が作動した場合に、理想的には第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」もしくは略「0」になるように、つまり、図5の共線図で第1電動機MG1の回転停止を示すメカニカルロック点になるように、車速Vと変速比γCVTとの関係を、予め実験・計算等により求めてマップ化したものである。従って、この図11の無段変速部変速比マップを用いて無段変速制御部103が無段変速部30の変速比γCVTを決定することによって、燃焼効率最適線LEFにエンジン動作点PEGが沿うように無段変速部30の変速比γCVTを設定することができる。
そして、第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」に近づくほど電気式差動部20の伝達効率η20が向上するので、図11の無段変速部変速比マップに従って決定される無段変速部30の変速比γCVT(基本変速比)は、電気式差動部20の伝達効率η20が充分に高くなるように、具体的に表現すれば、その伝達効率η20が予め定められた下限値以上になるように設定(決定)された変速比である。
また、無段変速制御部103は、切替ブレーキB0が係合されて、第1電動機MG1がメカニカルロック点に維持されて第1電動機MG1の回転が停止された場合にも、図11の無段変速部変速比マップから車速Vに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)する。一方、切替クラッチC0が係合されて、第1電動機MG1が入力軸11と一体的に回転する状態となった場合には、切替ブレーキB0が係合された場合に比べて変速比γCVTが小さく設定されるようになっている。
さらに、無段変速制御部103は、電気式差動部20の切替クラッチC0または切替ブレーキB0が係合されて当該電気式差動部20の差動が制限されている場合と、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0の両方が解放されて当該電気式差動部20の差動が制限されていない場合とに応じて、電気式差動部20の差動動作や無段変速部30の変速を調整する。
また、無段変速制御部103は、電気式差動部20の変速比γ0及び無段変速部30の変速比γCVTを制御することで駆動装置1の総合変速比を調整する。
具体的に説明すると、無段変速制御部103は、電気式差動部20の差動が制限されている場合には、エンジン10の出力が目標出力に略一致するように無段変速部30の変速比を調整することでエンジン10の動作点を設定する。一方、電気式差動部20の差動が制限されていない場合には、エンジン10の出力が目標出力に略一致するように、電気式差動部20の変速比と無段変速部30の変速比との総合変速比γTを調整することでエンジン10の動作点を設定する。
一方、上記したハイブリッド制御部101は電気式差動部20の伝達効率η20を高めるために差動制御部112を備えている。ここで、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合に、無段変速制御部103が、図11の無段変速部変速比マップに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定すると、差動制御部112は、エンジン10からの出力の伝達効率η20を高めるように、第1電動機MG1の回転数NMG1を制御し、電気式差動部20の変速比γ0を決定(設定)して変更する。電気式差動部20の伝達効率η20は、第1電動機MG1と第2電動機MG2との間の電気パスに伝達される電気エネルギである電気パス量、つまり第1電動機MG1の消費電力または出力電力が「0」に近づくほど向上するので、差動制御部112は、第1電動機MG1の消費電力または出力電力を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高める。
具体的に説明すると、差動制御部112は、第1電動機MG1の消費電力または出力電力を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高めるので、その電気式差動部20の伝達効率η20が充分に高いと見ることができる電気パス許容範囲内に第1電動機MG1の消費電力または出力電力(電気パス量)が入っているか否かを判定する。その判定結果が肯定判定である場合(電気パス量が電気パス許容範囲内に入っている場合)には、差動制御部112は、現状の第1電動機MG1の回転数NMG1を維持する。
一方、上記判定結果が否定判定である場合(電気パス量が電気パス許容範囲内に入っていない場合)には、差動制御部112は、第1電動機MG1の回転数NMG1を「0」に近づける方向に補正するための補正値つまり第1電動機回転数変更値ΔNMG1を決定する。具体的には、例えば、第1電動機回転数変更値ΔNMG1と電気パス量との関係を予め実験・計算等によって求めてマップ化しておき、そのマップ(図12)を参照して電気パス量(第1電動機MG1の消費電力または出力電力)に基づいて第1電動機回転数変更値ΔNMG1を決定し、その回転数変更値ΔNMG1を用いて、第1電動機MG1の回転数NMG1を「0」に近づける方向(電気パス量を「0」に近づける方向)に補正する。
なお、第1電動機回転数変更値ΔNMG1と電気パス量との関係は、図12に示すように、電気パス量が蓄電装置5の放電側(または充電側)に行くほど第1電動機回転数変更値ΔNMG1が大きく(または負側に小さく)なる関係であってもよい。また、第1電動機回転数変更値ΔNMG1の正負は原点を境に反転するが、電気パス量に関わらず第1電動機回転数変更値ΔNMG1の絶対値が一定となる関係であってもよい。
そして、差動制御部112は、第1電動機MG1の回転数NMG1の補正を行った場合には、再び上記電気パス許容範囲内に第1電動機MG1の消費電力または出力電力(電気パス量)が入っているか否かを判定する。このように差動制御部112は、第1電動機MG1の消費電力または出力電力(電気パス量)についての判定処理が肯定となるまで、その判定処理と、第1電動機MG1の回転数補正処理とを繰り返して実行する。
以上のように、差動制御部112は、第1電動機MG1の消費電力または出力電力を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高めているが、これに限られることなく、第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」に近づくほど、上記した第1電動機MG1の消費電力または出力電力は「0」に近づく点を考慮し、差動制御部112は、第1電動機MG1の回転数NMG1を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高めてるようにしてもよい。この場合、差動制御部112が実行する判定処理に用いる電気パス許容範囲に替えて、第1電動機MG1の回転数NMG1についての許容範囲である第1電動機回転数許容範囲を用い、差動制御部112は、その第1電動機回転数許容範囲内に第1電動機MG1の回転数NMG1が入っているか否かを判定するようにすればよい。また、この場合、図12のマップの横軸を上記電気パス量から第1電動機MG1の回転数NMG1に置き替えて、第1電動機回転数変更値ΔNMG1を決定するようにすればよい。
以上のようにして、無段変速制御部103が図11の無段変速部変速比マップにより無段変速部30の変速比γCVTを決定し、さらに差動制御部112が上記電気パス量または第1電動機MG1の回転数NMG1を「0」に収束させるように制御することによって、電気式差動部20の伝達効率η20を更に高めることができる。
−効率制御例(1)−
次に、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合に、電気式差動部20の伝達効率η20を向上させる制御の一例について図13のフローチャートを参照して説明する。図13の制御ルーチンはECU100において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
まず、ステップST101においては、上記第1電動機回転数変更値ΔNMG1を初期化する。具体的には、第1電動機回転数変更値ΔNMG1を「0」に設定する。
ステップST102においては、出力軸回転数センサ(図6参照)の出力信号から算出される車速Vに基づいて、図11の無段変速部変速比マップを参照して無段変速部30の変速比γCVT(基本変速比)を決定し、その変速比γCVTが実現されるように、無段変速部30のパワーローラ36の変速制御を行う。
次に、ステップST103では、第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」(上記電気パス量が「0」)に近づくように、第1電動機MG1の回転数NMG1を第1電動機回転数変更値ΔNMG1だけ補正する。具体的には、現在の第1電動機MG1の回転数NMG1に第1電動機回転数変更値ΔNMG1を加算して目標回転数を算出し、その目標回転数に第1電動機MG1の回転数NMG1が一致するように第1電動機MG1を制御する。
ステップST104においては、第1電動機MG1の消費電力または出力電力(電気パス量)が上記電気パス許容範囲内に入っているか否かを判定する。具体的には、図12に示す電気パス許容範囲つまり上限閾値及び下限閾値をそれぞれXE(絶対値)とする許容範囲(「0」を含む)内に、上記電気パス量の絶対値が入っているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(|電気パス量|≦閾値)はリターンする。一方、ステップST104の判定結果が否定判定である場合(|電気パス量|>閾値)はステップST105に移行する。
なお、ステップST104の判定処理において、上記電気パス量として第1電動機MG1の消費電力または出力電力を用いているが、他の物理量、例えば第1電動機MG1の制御電流値を電気パス量として用いてもよい。第1電動機MG1の制御電流値とは上記消費電力に対応する駆動電流値(消費電流値)または上記出力電力に対応する発電電流値をいう。
また、ステップST104の判定処理の対象を第1電動機MG1の消費電力または出力電力(電気パス量)としているが、これに替えて、第1電動機MG1の回転数NMG1を対象として判定を行ってもよい。この場合、ステップST104の処理を、図14に示す処理に置き替えればよい。具体的には、第1電動機回転数許容範囲の上限閾値及び下限閾値をそれぞれXNMG1(絶対値)とし、その第1電動機回転速度許容範囲内に第1電動機MG1の回転数NMG1が入っているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(|NMG1|≦閾値)はリターンする。図13のステップST104の判定結果が否定判定である場合(|NMG1|>閾値)はステップST105に移行する。
ステップST105においては、図12に示す関係つまり第1電動機回転数変更値ΔNMG1と電気パス量との関係に基づいて、電気パス量(第1電動機MG1の消費電力または出力電力)から第1電動機回転数変更値ΔNMG1を決定する。その後に、ステップST103に戻る。なお、以上のステップST101〜ST105の各処理は差動制御部112において実行する処理である。
一方、無段変速制御部103は、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合に、図11の無段変速部変速比マップを参照して無段変速部30の変速比γCVT(基本変速比)を決定した後、電気式差動部20におけるエンジン10からの出力の伝達効率η20と、無段変速部30における伝達効率ηCVTとの乗算値ηP(以下、「乗算効率ηP」という)を高めるように無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)して変更する。この変速比制御について説明する。
まず、図15に示すような電気式差動部20の変速比γ0に応じて変化する上記変速比γCVTと乗算効率ηPとの関係を予め実験・計算等によって求め、その結果をマップ化した伝達効率乗算値マップが無段変速制御部103に記憶されている。
無段変速制御部103は、電気式差動部20の変速比γ0をエンジン回転数Neと第2電動機MG2の回転数NMG2とから検出し、図15の伝達効率乗算値マップとその検出された変速比γ0とに基づいて現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応する乗算効率ηPを把握する。その上で無段変速制御部103は、図15の伝達効率乗算値マップ上でその乗算効率ηPがより高くなるように、図11の無段変速部変速比マップにより決定された無段変速部30の上記基本変速比に対して上記変速比γCVTの補正を行い、その変速比γCVTを決定(設定)して変更する。ここで、図11の無段変速部変速比マップに従って無段変速部30の変速比γCVTが上記基本変速比に設定されることにより、電気式差動部20において、理想的には第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」もしくは略「0」になって、伝達効率η20は高められるので、上記基本変速比に対する変速比γCVTの補正は、上記乗算効率ηP(η20×ηCVT)がより高くなるようにすればよいが、専ら無段変速部30の伝達効率ηCVT(以下、「CVT効率ηCVT」という)がより高くなるように設定することがよい。
具体的に、無段変速制御部103は、図11の無段変速部変速比マップから無段変速部30の変速比γCVTを決定した後、図15の伝達効率乗算値マップから現在の電気式差動部20の変速比γ0に対応する伝達効率曲線Lηを選択し、その選択された伝達効率曲線Lηにおいて、現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応する乗算効率ηPが、点PMAXで示される最高効率から所定量低い伝達効率下限判定値以下であるか否かを判定する。この伝達効率下限判定値は、乗算効率ηPが充分に高いと見ることができる乗算効率ηPの目標範囲の下限値である。その判定結果が否定判定である場合つまり乗算効率ηPが上記伝達効率下限判定値を超えている場合には、無段変速制御部103は、現状の無段変速部30の変速比γCVTを維持する。
一方、上記判定結果が肯定判定である場合つまり乗算効率ηPが伝達効率下限判定値以下である場合には、無段変速制御部103は、最高効率を示す点PMAX(図15参照)に対応した変速比γCVT(目標変速比)と現状の変速比γCVTとの差を求め、その変速比差を変速比γCVTの補正量である変速比変更値ΔγCVTとし、乗算効率ηPが高くなる方向つまり上記点PMAXに近づく方向に無段変速部30の変速比γCVTを変速比変更値ΔγCVTだけ補正する。
このとき、無段変速部30の変速比γCVTが大きく変動しないようにするために、変速比変更値ΔγCVTの上限値を制限する補正ガード値が予め設定されており、無段変速制御部103は変速比変更値ΔγCVT(絶対値)がその補正ガード値を超えない範囲内で無段変速部30の変速比γCVTを補正する。従って、無段変速制御部103は、図15から求めた変速比変更値ΔγCVTの絶対値が補正ガード値を超えた場合には、その絶対値が補正ガード値にまで小さくするガード処理を施した上で、無段変速部30の変速比γCVTの補正をする。例えば図15に示すように、無段変速部30の変速比γCVTが変速比変更値ΔγCVTだけ一度補正されただけでは、その補正後の乗算効率ηPは伝達効率下限判定値を超えないことがある。無段変速制御部103は、無段変速部30の変速比γCVTの補正をした場合には、再び乗算効率ηPが伝達効率下限判定値以下であるか否かを判定する。このように無段変速制御部103は、乗算効率ηPについての判定処理と無段変速部30の変速比γCVTの補正処理とを繰り返す。
無段変速制御部103が無段変速部30の変速比γCVTの補正をすることは、上述したように、専ら無段変速部30のCVT効率ηCVTがより高くなるようにすることでもあるので、この点を考慮し、無段変速制御部103での判定処理の対象を乗算効率ηPとするのではなく、CVT効率ηCVTとしてもよい。この場合、無段変速制御部103は、図11に示すマップ、つまり縦軸を無段変速部30のCVT効率ηCVTとした無段変速部伝達効率マップを用いずに、現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応するCVT効率ηCVTが、上記点PMAX(図15参照)で示される最高効率から所定量だけ低いCVT効率下限判定値以下であるか否かを判定して補正を行う。
−効率制御例(2)−
次に、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合に上記乗算効率ηPを向上させるための制御について図16のフローチャートを参照して説明する。図16の制御ルーチンはECU100において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
まず、ステップST201において、無段変速部30の変速比γCVTを補正する際の補正量である変速比変更値ΔγCVTを初期化する。具体的には、変速比変更値ΔγCVTを「0」に設定する。
ステップST202では、出力軸回転数センサ(図6参照)の出力信号から算出される車速Vに基づいて、図11の無段変速部変速比マップを参照して無段変速部30の変速比γCVT(基本変速比)を決定する。
ステップST203においては、乗算効率ηPが高くなる方向、つまり、図15において点PMAXに近づく方向となるように、無段変速部30の変速比γCVTを、後述するステップST205及びST206において設定変更される変速比変更値ΔγCVTだけ補正する。具体的には、目標とされる無段変速部30の変速比γCVTが、現在の変速比γCVT(無段変速部30の入力軸回転数N30/出力軸回転数Nout)に変速比変更値ΔγCVTを加算した変速比に設定変更され、その目標とされる変速比γCVTになるように、上述した無段変速部30のパワーローラ36の変速制御を行う。
ステップST204においては、図15の伝達効率乗算値マップから現在の電気式差動部20の変速比γ0に対応する伝達効率曲線Lηを選択し、その選択した伝達効率曲線Lηにおいて、現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応する乗算効率ηPが上記伝達効率下限判定値以下であるか否かを判定する。ここで、本来的には、乗算効率ηPが図15の伝達効率乗算値マップでの上記最高効率に達しているか否かを判定すべきであるが、この例では、制御負荷軽減のために上記伝達効率下限判定値を用いて判定処理を行う。
このステップST204の判定結果が肯定判定である場合つまり上記乗算効率ηPが伝達効率下限判定値以下である場合はステップST205に進み、ステップST204の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
なお、ステップST204の判定処理の対象を乗算効率ηPとしているが、これに替えて無段変速部30のCVT効率ηCVTを用いて判定処理を行ってもよい。この場合、ステップST204は図17に示す処理に置き替えればよい。具体的には、図15に示すマップつまり縦軸を無段変速部30のCVT効率ηCVTとした無段変速部伝達効率マップに基づいて、現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応するCVT効率ηCVTがCVT効率下限判定値以下であるか否を判定し、その判定結果が肯定判定(CVT効率η≦下限判定値)である場合はリターンする。ステップST204の判定結果が否定判定(CVT効率η>下限判定値)である場合はステップST205に移行する。
ステップST205においては、最高効率を示す点PMAX(図15参照)に対応した変速比γCVT(目標変速比)と現状の変速比γCVTとの差を求めて変速比変更値ΔγCVTを決定する。
そして、ステップST206においては、変速比変更値ΔγCVTに対して上記ガード処理を実行する。具体的には、ステップST205で決定された変速比変更値ΔγCVTの絶対値が予め設定された補正ガード値を超えないように変速比変更値ΔγCVTを補正する。なお、以上のステップST201〜206の各処理は無段変速制御部103が実行する処理である。
以上の制御を実施することで、以下の効果(A1)〜(A7)を奏することができる。
(A1)図11に基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定すると、図15に示す燃焼効率最適線LEFにエンジン動作点PEGが沿うように無段変速部30の変速比γCVTを設定すると言えるので、切替クラッチC0が係合されている状態、切替ブレーキB0が係合されている状態、切替クラッチC0及び切替ブレーキB0がともに解放されている状態のいずれの状態においてもエンジン10を最適燃費で運転することが可能であり、エンジン10の動作状態に起因した燃費の悪化を抑制できる。
また、無段変速部30が電気式差動部20と駆動輪3との間の動力伝達経路の一部を構成しているので、第1電動機MG1の回転数NMG1を調整せずに無段変速部30の変速比γCVTを変化させることにより、エンジン回転数Neが車速Vに拘束されないようにすることが可能であり、電気式差動部20を、伝達効率η20が充分に高い所定の差動状態に維持しつつ、燃焼効率最適線LEFにエンジン動作点PEGが沿うようにエンジン10を運転できる。
(A2)電気式差動部20におけるエンジン10からの出力の伝達効率η20を高めるように第1電動機MG1の回転数NMG1を制御して電気式差動部20の変速比γ0を決定して変更しているので、電気式差動部20の伝達効率η20低下による燃費の悪化を抑制できる。
また、第1電動機MG1の電力を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高めているので、例えば電圧一定であればその制御電流値を検出することにより伝達効率η20を高めることを容易に実施し得る。なお、第1電動機MG1の回転数NMG1を「0」に近づけることによって電気式差動部20の伝達効率η20を高める場合には、第1電動機MG1の回転数NMG1を検出することにより伝達効率η20を高めることを容易に実施し得る。
(A3)電気式差動部20におけるエンジン10からの出力の伝達効率η20と、無段変速部30における伝達効率ηCVTとの乗算値である乗算効率ηPを高めるように、無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)して変更するので、電気式差動部20または無段変速部30の伝達効率低下による燃費の悪化を抑制できる。
(A4)上記乗算効率ηP(CVT効率ηCVT)がより高くなるように、図11の無段変速部変速比マップにより決定された無段変速部30の基本変速比に対して変速比γCVTの補正を行い、その変速比γCVTを決定して変更するので、図11による基本変速比の決定によって乗算効率ηPがある程度高い状態から上記補正が開始されることとなり、効率的に無段変速部30の変速比γCVTを補正し設定できる。
(A5)現在の無段変速部30の変速比γCVTに対応するCVT効率ηCVTが点PMAX(図15参照)で示される最高効率から所定量低いCVT効率下限判定値以下であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、点PMAXに近づく方向に無段変速部30の変速比γCVTを変速比変更値ΔγCVTだけ補正するので、充分に無段変速部30の伝達効率γCVTが高くなったところで上記補正が終了し制御負荷を軽減できる。
(A6)予め上記補正ガード値が設けられており、無段変速制御部103は変速比変更値ΔγCVT(絶対値)がその補正ガード値を超えない範囲内で無段変速部30の変速比γCVTを補正するので、大幅に無段変速部30の変速比γCVTが変化することが回避され、乗員に違和感を生じさせないようすることが可能である。
(A7)図15に示すような伝達効率乗算値マップに基づいて、無段変速部30の基本変速比に対して変速比γCVTの補正を行い、その変速比γCVTを決定(設定)して変更するので、いちいち上記乗算効率ηPを算出する場合と比較して制御負荷を軽減できる。
−変速時制御−
次に、ECU100が実行する変速時制御について説明する。
まず、図1〜図3及び図8に示す駆動装置1、つまり、エンジン10、電気式差動部20及び無段変速部30を備えた駆動装置1において、無段変速部30の変速速度が速いと短時間で回転数が増加する。このため、ダウンシフト変速の際に無段変速部30の変速速度が速すぎると、無段変速部30の入力系の回転数増加によりイナーシャトルクが奪われてアウトプットトルクが低下する。また、アップシフト変速の際に無段変速部30の変速速度が速すぎると、無段変速部30の入力系の回転数減少によりナーシャトルクが与えられてアウトプットトルクが上昇するので、いずれの場合もドライバビリティが悪化する可能性がある。さらに、複数の駆動源と無段変速部30との連結関係が変わると、無段変速部30の入力系のイナーシャが変化し、それに伴って無段変速部30の変速時に生じるアウトプットトルクの大きさも変化する。
ここで、ダウンシフト変速の際に、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きいと、その回転数を増加させるのに大きなパワーを要するのでアウトプットトルクが大きく低下し、入力系のイナーシャが小さいとアウトプットトルクの低下は少なくて済む。
このような点を考慮し、この例では、無段変速部30の入力系のイナーシャの大きさに応じて無段変速部30の変速速度を設定することで、アウトプットトルクの低下を回避しながら、変速応答性をできるだけ確保する点に特徴がある。
その具体的な制御について図18のフローチャートを参照して説明する。図18の制御ルーチンはECU100において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。なお、図18の制御は、ダウンシフト変速の際に実行する制御の例を示している。
まず、ステップST301において、アクセル踏み込みによる無段変速部30のダウンシフト変速が発生したか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合はステップST302に進む。ステップST301の判定結果が否定判定である場合はリターンする。
ステップST302では、エンジン10を駆動源として走行中(エンジン走行中)であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(エンジン走行中である場合)はステップST303に進む。ステップST302の判定結果が否定判定である場合(モータ走行中である場合)はステップST306に進む。なお、この例において、エンジン走行中である場合、無段変速部30の入力系のイナーシャは、第2電動機MG2によるモータ走行中の場合よりも大きい。
ステップST303では、電気式差動部20がロック(差動状態制限)されているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(ロック時である場合)はステップST304に進む。ステップST303の判定結果が否定判定である場合(非ロック時である場合)はステップST305に進む。
ここで、電気式差動部20がロック時である場合、非ロック時である場合と比較して、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きいので、その入力系のイナーシャの相違に応じて無段変速部30の変速速度を設定する。具体的には、電気式差動部20がロック時である場合、例えば図19に示すように、非ロック時よりも遅いロック時用変速速度を選択して無段変速部30の変速を行う(ステップST304)。ロック時用変速速度については、アウトプットトルクの低下を回避しながら、変速応答性をできだけ確保できるような変速速度を、実験・計算等によって経験的に求めて設定する。また、電気式差動部20が非ロック時である場合、例えば図19に示すように、非ロック時用変速速度を選択して無段変速部30の変速を行う(ステップST305)。この非ロック時用変速速度は、ロック時に対して入力系のイナーシャが小さい分を考慮して、上記したロック時用変速速度よりも速い変速速度とする。ただし、非ロック時用変速速度は下記のモータ走行時用変速速度よりも遅い値とする。
一方、ステップST302の判定結果が否定判定である場合、第2電動機MG2によるモータ走行であり、電気式差動部20の差動作用によりエンジン回転数Neが0rpm付近(図5参照)であるので、無段変速部30の入力系のイナーシャは比較的小さい。このように無段変速部30の入力系のイナーシャが小さい場合は、ダウンシフト変速時に奪われるイナーシャトルクが小さくて済むので、無段変速部30の変速速度を速くしても、アウトプットトルク低下を抑制することができる。このような点を考慮して、モータ走行の際には、図19に示すように、エンジン走行時よりも変速速度を速くしたモータ走行時用変速速度を選択して無段変速部30の変速を行うことで、変速応答性の向上を図る。
なお、図19に示すような入力系イナーシャと無段変速部の変速速度との関係をマップ化しておき、[モータ走行時]、[エンジン走行時・非ロック時]、[エンジン走行時・ロック時]などの各走行状態に応じて、マップを参照して無段変速部30の変速速度を設定(選択)するようにしてもよい。
以上のように、この例の制御によれば、第2電動機MG2によるモータ走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが比較的小さいときには、無段変速部30の変速速度を速くしているので、変速応答性を向上させることができる。また、エンジン走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きいときには、無段変速部30の変速速度を適度に抑えてダウンシフト変速時のアウトプットトルクの低下を抑制しながら、変速応答性をできるだけ確保しているので、入力系のイナーシャが大きい場合であっても変速ショックを抑制することができ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
さらに、この例の制御では、エンジン走行時で電気式差動部20がロック状態であるときには、非ロック状態である場合と比較して、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きい点を考慮して、無段変速部30の変速速度を遅くしているので、エンジン走行時であっても、無段変速部30の入力系のイナーシャの大きさの相違に応じて、その各イナーシャの大きさに見合った適切な変速速度、つまり、アウトプットトルク低下を抑制した変速速度で無段変速部30を変速することができる。
ここで、この例の制御において、無段変速部30を変速する際に、その変速によって生じる変速比幅を考慮して、図19の1点鎖線で示すように、無段変速部30の変速比幅が比較的小さいときには変速速度を相対的に速くしてもよい。具体的には、無段変速部30の変速速度を速くすると、アウトプットトルクの低下が発生しやすい状況となるが、無段変速部30の変速比幅が小さい場合、アウトプットトルク低下が時間的に短くなるので、この点を考慮して、アウトプットトルク低下に対する許容値を緩和して変速応答性の向上を優先させるようにしてもよい。
また、無段変速部30の変速によって発生する入力系の回転数(無段変速部30の入力軸回転数)の変化幅に応じて無段変速部30の変速速度を変化させてもよい。この場合も、同様に、回転数の変化が少ないと、アウトプットトルク低下が時間的に短くなるので、この点を考慮して、アウトプットトルク低下に対する許容値を緩和して変速応答性の向上を優先させるようにしてもよい。
なお、以上の例において、電気式差動部20がロック(差動制限)されている場合、切替クラッチC0の係合によるロックであるか、または、切替ブレーキB0の係合によるロックであるかを判定して、無段変速部30の変速速度を設定するようにしてもよい。具体的には、切替ブレーキB0の係合によるロック時の入力系のイナーシャは、切替クラッチC0の係合によるロック時の入力系のイナーシャよりも小さいので、切替ブレーキB0によるロック時の場合は、切替クラッチC0によるロック時の場合よりも無段変速部30の変速速度を速く設定するようにしてもよい。
以上の例では、ダウンシフト変速時の制御について説明したが、アップシフト変速時にも同様な制御を行ってもよい。この場合、例えば、第2電動機MG2によるモータ走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが比較的小さいときには、無段変速部30の変速速度を速くして変速応答性を向上させる。また、エンジン走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きいときには、無段変速部30の変速速度を適度に抑えてアップシフト変速時のアウトプットトルクの上昇を抑制しながら、変速応答性をできるだけ確保するという制御を行う。
−第2実施形態−
次に、ECU100の制御機能の要部の他の例を図20を参照して説明する。
この例は、図8に示した例(第1実施形態)に対し、エンジン燃焼方式制御部104とエンジン燃焼方式判定部105とが追加されている点が異なる。以下、その相違点について主に説明する。
この例のエンジン10は、理論空燃比の混合気を燃焼させるストイキ燃焼方式と、理論空燃比よりも燃料が希薄な混合気を燃焼させるリーン燃焼方式との複数の燃料消費特性が異なる燃焼方式を備えており、走行状態に適した燃焼方式が採用される。
図20のエンジン燃焼方式制御部104は、スロットル開度、エンジン回転数Neなどからエンジン負荷を推定し、予め実験的に設定された条件に従ってエンジン10の燃焼方式を、エンジン負荷に応じてストイキ燃焼方式またはリーン燃焼方式に切り替える。
この例では、エンジン10の燃焼方式が複数あるので、ハイブリッド制御部101は、燃焼効率最適線LEFとして、図9に示すものを用いるのではなく、ストイキ燃焼方式とリーン燃焼方式とのそれぞれの燃焼方式に応じた燃焼効率最適線、例えば図21に示すエンジン10の燃焼効率最適線LEF(最適燃費率曲線LEF、燃費マップ)を用いる。
そして、ハイブリッド制御部101は、図21においてエンジン10の燃焼方式に応じた燃焼効率最適線LEFを選択した上で、第1実施形態と同様にその選択された燃焼効率最適線LEFに沿ってエンジン10が作動するように電気式差動部20の変速比γ0を制御する。エンジン燃焼方式判定部105は、エンジン10の燃焼方式がストイキ燃焼方式とリーン燃焼方式とのいずれの方式に切り替えられているかを判定する。
無段変速制御部103は、無段変速部30の変速を行う変速制御手段として機能し、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合には、図22の無段変速部変速比マップから車速Vに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)する。
なお、図22に示す無段変速部変速比マップは、第1実施形態と同様に、車速Vから変速比γCVTが決定され燃焼効率最適線LEF上のエンジン動作点PEGでエンジン10が作動させられた場合に、理想的には第1電動機MG1の回転数NMG1が「0」もしくは略「0」、つまり、図5の共線図で第1電動機MG1の回転停止を示すメカニカルロック点になるように、車速Vと変速比γCVTとの関係をストイキ燃焼方式及びリーン燃焼方式について、その各変速比曲線(2本の変速比曲線)を、予め実験・計算等により求めてマップ化したものであって、無段変速制御部103に記憶されている。
この図22に示す無段変速部変速比マップにて無段変速部30の変速比γCVTが決定された場合、各回転要素RE1〜RE3の相対回転速度を示す共線図では図23のように、いずれの燃焼方式でも車速Vで拘束される第4回転要素RE4(出力軸32)の回転数は変わらず、理想的には、第1電動機MG1の回転数NMG1がメカニカルロック点からずれないように運転され、エンジン回転数Neはそれぞれの燃焼方式の燃焼効率最適線LEFに沿ったエンジン動作点PEGに対応した異なった回転速度になる。
このように無段変速制御部103は、エンジン10の燃焼方式に応じて2本の変速比曲線からいずれかを選択する必要があるので、エンジン燃焼方式判定部105によりエンジン10がストイキ燃焼方式に切り替えられていると判定された場合には、図22の無段変速部変速比マップからストイキ燃焼方式の変速比曲線を選択し、エンジン燃焼方式判定部105によりエンジン10がリーン燃焼方式に切り替えられていると判定された場合には、図22の無段変速部変速比マップからリーン燃焼方式の変速比曲線を選択する。
そして、無段変速制御部103は、車速V及びその選択された変速比曲線に基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)する。言い換えると、上記選択された変速比曲線は現在の燃焼方式に応じた燃焼効率最適線LEF上のエンジン動作点PEGでエンジン10が作動させられた場合の車速Vと変速比γCVTとの関係であるので、無段変速制御部103は現在の燃焼方式に応じた燃焼効率最適線LEFに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定(設定)する。
次に、エンジン走行中において電気式差動部20が差動状態(無段変速状態)である場合に、エンジン10の燃焼方式に応じて無段変速部30の変速比γCVTを決定する制御の一例について図24のフローチャート参照して説明する。図24の制御ルーチンはECU100において所定時間(例えば数msec乃至数十msec程度)毎に繰り返して実行される。
まず、エンジン燃焼方式判定部105での処理に対応するステップST401においては、エンジン10の燃焼方式がリーン燃焼方式に切り替えられているか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(リーン燃焼方式に切り替えられている場合)はステップST402に進む。ステップST401の判定結果が否定判定である場合(エンジン10の燃焼方式がストイキ燃焼方式に切り替えられている場合)はステップST403に進む。
ステップST402では、図22の無段変速部変速比マップからリーン燃焼方式の変速比曲線を選択する。ステップST403では、図22の無段変速部変速比マップからストイキ燃焼方式の変速比曲線を選択する。
次に、ステップST404においては、ステップST402またはステップST403にて選択された変速比曲線が無段変速部30の基本変速比を決定するための変速比曲線としてメモリにストアされる。そして、その選択された変速比曲線及び車速Vに基づいて無段変速部30の変速比γCVTが決定される。なお、上記ステップST402〜ST404の各処理は無段変速制御部103が実行する処理である。
以上のように、この例では、エンジン10の燃焼方式に応じて選択された変速比曲線(図21参照)と車速Vとに基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定している。つまり現在の燃焼方式に応じた燃焼効率最適線LEF(図21参照)に基づいて無段変速部30の変速比γCVTを決定しているので、エンジン10の燃焼方式が変更されても、その燃焼方式に応じて無段変速部30の変速比γCVTが決定(設定)され、それぞれの燃焼方式に応じた最適燃費を実現するように、エンジン10が運転され電気式差動部20の伝達効率η20が向上して車両全体として燃費低下を抑制することが可能である。
また、この例においても、上記した第1実施形態と同様に、第2電動機MG2によるモータ走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが比較的小さいときには、無段変速部30の変速速度を速くすることで、変速応答性を向上させることができる。また、エンジン走行時で、無段変速部30の入力系のイナーシャが大きいときには、無段変速部30の変速速度を適度に抑えてダウンシフト変速時のアウトプットトルクの低下(またはアップシフト変速時のアウトプットトルクの上昇)を抑制しながら、変速応答性をできるだけ確保することで、ドライバビリティを向上させることができる。さらに、この例においても、上記した効果(A1)〜(A7)も達成することができる。
なお、この例では、エンジン10の燃焼方式を、リーン燃焼方式とストイキ燃焼方式との2方式としているが、エンジン10の燃焼方式は3方式以上であってもよい。
また、上記した第2実施形態では、エンジン10の燃焼方式が変更される場合について説明しているが、エンジン10の運転方式であるエンジン10の燃焼方式が変更される場合のみならず、その他の運転方式が変更される場合にも同様の制御作動で対応し得る。例えば、軽負荷時にはエンジン10が4気筒で駆動され高負荷時には8気筒で駆動されるような可変気筒の運転方式を備えたエンジン10にも上記制御作動で同様に対応し得る。
−第3実施形態−
図25は駆動装置の他の例を示すスケルトン図である。
この例の駆動装置1は、上記した第1実施形態に対し無段変速部の構成が異なる。具体的には、この例の駆動装置1は、ハイブリッド車両において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に適用されるものであって、無段変速部500が、変速比γCVT(γCVT=無段変速部500の入力軸501(伝達軸23)の回転数N500/出力軸32の回転数Nout)を機械的作用により連続的に変化させることができるベルト式CVTである点に特徴がある。なお、エンジン10及び電気式差動部20(第1電動機MG1、第2電動機MG2を含む)などの構成は上記した第1実施形態と基本的に同じである。
無段変速部500は、第1軸心RC1(無段変速部500の入力軸501)上に設けられた入力側のプライマリプーリ510と、第2軸心RC2(出力軸32)上に入力側のプライマリプーリ510と並列に設けられた出力側のセカンダリプーリ520と、これらプライマリプーリ510とセカンダリプーリ520とに巻き掛けられた金属製のベルト530とを備えている。
プライマリプーリ510は、有効径が可変な可変プーリであって、伝達軸23に連結の入力軸501に固定された固定シーブ511と、入力軸501に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ512によって構成されている。セカンダリプーリ520も同様に有効径が可変な可変プーリであって、出力軸32に固定された固定シーブ521と、出力軸32に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ522によって構成されている。
プライマリプーリ510の可動シーブ512側には、固定シーブ511と可動シーブ512との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ513が配置されている。また、セカンダリプーリ520の可動シーブ522側にも、固定シーブ521と可動シーブ522との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ523が配置されている。
以上の構造の無段変速部(ベルト式CVT)500において、プライマリプーリ510の油圧アクチュエータ513の油圧を制御することにより、プライマリプーリ510及びセカンダリプーリ520の各V溝幅が変化してベルト530の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γCVT(γCVT=Nin/Nout)が連続的に変化する。また、セカンダリプーリ520の油圧アクチュエータ523の油圧は、ベルト滑りが生じない所定の挟圧力でベルト530が挟圧されるように制御される。これらの制御はECU及び油圧制御回路などによって実行される。具体的には、上記したECU100の無段変速制御部103に、上記伝達軸23に連結の入力軸501の回転数N23及び出力軸32の回転数NOUT等、さらには車速Vやアクセル開度Acc等の情報が入力され、予め実験等により求められているマップ等に基づいて、所要の変速比γCVTやベルト挟圧力を得るべく、油圧制御回路202を電気的に制御することによって、プライマリプーリ510の油圧アクチュエータ513の油圧及びセカンダリプーリ520の油圧アクチュエータ523の油圧が制御される。
このようにベルト式CVTで構成された無段変速部500を備えた駆動装置1においても、上述した第1実施形態の場合と同様に、第2電動機MG2によるモータ走行時で、無段変速部500の入力系のイナーシャが比較的小さいときには、無段変速部500の変速速度を速くすることで、変速応答性を向上させることができる。また、エンジン走行時で無段変速部500の入力系のイナーシャが大きいときには、無段変速部500の変速速度を適度に抑えてダウンシフト変速時のアウトプットトルクの低下(またはアップシフト変速時のアウトプットトルクの上昇)を抑制しながら、変速応答性をできるだけ確保することで、ドライバビリティを向上させることができる。さらに、この例によれば、第1実施形態に対し無段変速部500の機械的構造が異なるだけであるので、上記した第1実施形態の効果(A1)〜(A7)も同様に達成することができる。
−他の実施形態−
以上の例では、駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する変速部を無段変速部で構成した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、変速部が、クラッチ及びブレーキなどの摩擦係合要素と遊星歯車装置とを用いて複数のギヤ段を設定する有段変速部である車両用駆動装置の制御装置にも適用可能である。
この場合、ダウンシフト変速やアップシフト変速の際に有段変速部の変速速度を遅くする方法として、例えば有段変速部の摩擦係合要素の係合速度を遅くする方法を挙げることができる。また、他の方法として、有段変速部を変速をするときに、変速をする間隔を長くする方法、具体的には、例えば第4速ギヤ段(4th)→1速ギヤ段(1st)のダウンシフト変速を行う際に、第3ギヤ段(3rd)→第2ギヤ段(2nd)変速終了から第2ギヤ段(2nd)→第1ギヤ段(1st)変速開始までの間隔を長く設定するという方法を挙げることができる。
以上の例では、第1電動機MG1の運転状態が制御されることにより、電気式差動部20(動力分配機構21)は、変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば電気式差動部20の変速比γ0を連続的ではなく、差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。また、無段変速部30,500についても変速比γCVTを敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
以上の例では、エンジン10と電気式差動部20とは直結されているが、エンジン10が電気式差動部20にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
以上の例では、第1電動機MG1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機MG2と第3回転要素RE3とが直結されているが、第1電動機MG1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機MG2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
以上の例では、電気式差動部20と無段変速部30とが直列に連結されているが(図1参照)、駆動装置1全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能と、その電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とを備えておれば、電気式差動部20と無段変速部30とが機械的に独立していなくても本発明は適用可能である。
以上の例では、動力分配機構21はシングルプラネタリであるが、これに限定されることなく動力分配機構21は例えばダブルプラネタリであってもよい。
以上の例では、遊星歯車装置22の第1回転要素RE1にエンジン10が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2に第1電動機MG1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3に駆動輪3への動力伝達経路が連結されているが、これに限定されることなく、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチまたはブレーキの制御により電気式差動部20が有段変速と無段変速とに切替可能な構成にも本発明は適用される。
以上の例では、第2電動機MG2は伝達軸23に直接連結されているが、第2電動機MG2の連結位置はそれに限定されず、エンジン10または伝達軸23から駆動輪3までの間の動力伝達経路に直接的もしくは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
以上の例では、動力分配機構21のキャリヤCA0がエンジン10に連結され、サンギヤS0が第1電動機MG1に連結され、リングギヤR0が伝達軸23に連結されているが、これらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン10、第1電動機MG1、伝達軸23は、遊星歯車装置22の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていてもよい。
以上の例では、エンジン10は入力軸11と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
以上の例では、第1電動機MG1及び第2電動機MG2は、入力軸11に同心に配置されて第1電動機MG1はサンギヤS0に連結され第2電動機MG2は伝達軸23に連結されているが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機MG1はサンギヤS0に連結され、第2電動機MG2は伝達軸23に連結されていてもよい。
以上の例では、動力分配機構21が1組の遊星歯車装置22から構成されているが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
以上の例では、第2電動機MG2がエンジン10から駆動輪3までの動力伝達経路の一部を構成する伝達軸23に連結されているが、第2電動機MG2は、その動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構21にも連結可能とされており、第1電動機MG1の代わりに第2電動機MG2によって動力分配機構21の差動状態を制御可能とする駆動装置1の構成であってもよい。