JP5379769B2 - タイル剥がし工具及びタイル剥がし工法 - Google Patents

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Description

本発明は、接着しているタイル等を取り除くためのタイル剥がし工具に関し、特に建築物の内外壁に張り付け施工されたタイル等を撤去するためのタイル剥がし工具及びタイル剥がし工法に関する。
一般的に建築物の外装仕上げ材としてタイル張り仕上げは、高級感があり、高強度で吸水率が低く、耐候性や耐久性にも優れているので、多くの建築物に適用されている。しかし、長期間に渡る紫外線や日射、雨水や酸性雨、酸性ガス、地震などの環境の影響によりタイル面の汚れ、タイル片のひび割れ、浮き、剥離、欠損、目地部のエフロレッセンスの流出、コンクリートの中性化の進行、さらには漏水などによる様々な劣化現象が見られ、タイル張り面の適切な補修は建築物の寿命を延ばし価値を高めるためにも重要なことである。
このため、外壁のタイル張り面に撥水性処理や汚れ防止のための薄膜塗料などが塗布されている場合も多く見受けられるが、長年にわたる高い防水性能は望めない。また、タイル張り仕上げされたマンション等に於いては新築時は健全な状態でタイルが張付けられているが、建築後10年程度経過すると、躯体への地震による影響やコンクリートの収縮等の原因により、躯体側にひび割れを生じたり、そのひび割れが表面のタイルまで影響してタイル片自身にひび割れや剥落が発生したり、雨水がコンクリート内部まで浸入して白いエフロレッセンスが流出してタイル表面が汚れたりしたものなどが多く見受けられるようになる。
タイル片自身がひび割れした場合の外壁用タイル張り面の補修方法としては、一般にひび割れたタイル片及び補修作業に必要な最小限のタイル片を剥離して撤去し、躯体側のひび割れ部をUカットした後にエポキシ樹脂などの注入材を注入してコンクリートの奥深くまで浸透させ、ひび割れを埋める作業が行われる。
そして注入材或いはシーリング材が固化後、新たなタイル片を、剥離した位置に貼付けるタイル張り作業が行われ、タイル片間に新たな目地材を充填してタイル張り面の補修作業が終了となる。(例えば、2007年度版、国土交通省改修工事標準仕様書、4章外壁改修工事5節タイル張り仕上げ外壁の改修を参照)
その他には、タイル片を剥離撤去しないでひび割れ等を修復するために、例えば特許文献1においては、タイル陶片の浮きを修復するための接着剤注入工程の前工程に使用するために、除去した目地から所定工具を挿入し、タイル陶片下部に所定工具の差込部を差し込み、タイル陶片に剥離隙間を確保して接着剤を注入する工法ならびに工具が開示されている。
また外壁タイルの経年劣化が激しい場合は、タイル片を全て剥離して撤去し、新たに外壁タイルを張り直すという大規模な補修が建築物の長寿命化のために行われることも少なくない。
一般的にタイル片を剥離して撤去する作業としては、剥離する部分のタイル目地材をサンダー・グラインダー・ダイヤカッターなどの電動工具で削って健全なタイル片と縁を切った後、ノミ・タガネとハンマーなどを用いて人手でタイル片を叩き割る方法やノミ・タガネと電動やエアー動力により駆動するハンマーなどを用いてタイル片を叩き割る方法などのハツリ作業、または超高圧水の衝撃力でタイル片を剥離させる方法などがある。
ところが上記のノミ・タガネなどを用いるハツリ作業では、下地である躯体を傷つけてしまう問題があること、衝撃音や高い騒音による居住者や近隣住民への騒音問題、室内への振動伝搬の問題、粉塵飛散などの環境問題があること、電動機械などを使用する場合は、大パワーの機械が必要な割には作業スピードが遅いという問題があること、また高圧水の使用では、振動や粉塵などは少ないが比較的音が大きい大型のポンプが必要であり、さらに使用時に発生する水の処理をしなければならないという問題がある。
特開2008−285820号公報
しかし特許文献1に記載されている工法ならびに工具は、タイル片の底面に接着剤を注入する隙間を設けるものであり、タイル片を完全に剥離して撤去するための工法や工具ではない。また除去した後の目地から所定工具を挿入した後に、タイル片底部に所定工具の差込部を差し込むという工程があるので作業スピードを向上させることができないという問題がある。
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、作業スピードを向上し、かつ騒音や振動を発生させずに接着しているタイル片を簡単に剥離して撤去するための簡易で小型のタイル剥がし工具及びタイル剥がし工法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明に係るタイル剥がし工具は、タイル片底部接着面を剥離するために該タイル片側面を引っかけて持ち上げるための非鋭利な先端部を有した板状体と、板状体のタイル片側面に当接する面とは反対側の面上であって、先端部の突端までの長さがタイル片の厚み以下となる位置に配された、タイル片の周囲に配された目地材の上面を支点としてタイル片を持ち上げ底部接着面を剥離するための突起状の支点部とを備え、板状体のタイル片側面に当接する面及び支点部に、タイル片及び目地材に押し当てた時に該タイル片及び該目地材に食い込んで摩擦抵抗を発生させる滑り止め材を備えることを特徴とする。
本発明に係るタイル剥がし工法は、接着されているタイル片の少なくとも1以上の周囲の目地材を削って分離溝を設ける工程と、分離溝に板状体の所定工具の先端部を差し込んで該所定工具のタイル片側面に当接する面とは反対側の面上であって、先端部の突端までの長さがタイル片の厚み以下となる位置に配された、滑り止め材を有する突起状の支点部を目地材の上面に押し当てる工程と、板状体を、突起状の支点部を支点として先端部の滑り止め材を有する面をタイル片の側面に押し当てて該タイル片を持ち上げるように回動させる工程と、タイル片底部の接着面を剥離する工程と、を有することを特徴とする。
また本発明に係るタイル剥がし工法は、接着されているタイル片の周囲の脆弱な目地材及び凹凸のある目地材を除去する工程と、前記除去した目地材及び欠損した目地材の代わりになる代替目地具を設置する工程と、前記代替目地具と前記タイル片との隙間に板状体の所定工具の先端部を差し込んで該所定工具の突起状の支点部を前記代替目地具の上面に押し当てる工程と、前記板状体を、前記突起状の支点部を支点として前記先端部を前記タイル片の側面に押し当てて該タイル片を持ち上げるように回動させる工程と、前記タイル片底部の接着面を剥離する工程と、を有することを特徴とする。
本発明により、作業スピードを向上し、かつ騒音や振動を発生させずに容易に接着しているタイル片を簡単に剥離して撤去するための簡易で小型のタイル剥がし工具及びタイル剥がし工法を提供することが可能になる。
また、熟練者でなくてもタイル片を剥離する際に、簡易で小型の工具により振動や騒音がなく静かでタイル片をやんわりと剥がすことができ、作業スピードを向上させることができる。
また、タイル片を剥離する際に、人の腕力程度の力で容易にタイル片を剥がすことができ、作業スピードを向上させることができる。
また、タイル片を剥離する際に、小型の電動工具を用いることにより作業スピードを向上させることができる。
また、最初の分離溝(スリット)を設ける作業以外には粉塵や騒音の発生がなく、タイル片を剥離することができる。
また、ハツリ作業により下地の躯体を傷つけることなく、タイル片を剥離することができる。
一般的な外壁タイルの断面図である。 本発明の実施形態を示す補修前の外壁タイルの概略図である。 本発明の第1の実施形態に係るタイル剥がし工具の概略図である。 本実施形態のタイル剥がし工具の握り手部を延長する管状体の概略図である。 本実施形態のタイル剥がし工具の代替目地具の概略図である。 本発明の実施形態に係るタイル剥がし工程の前工程について説明する図である。 本発明の実施形態に係るタイル剥がし工程とタイル剥がし工具の作用について説明する図である。 本発明の第2の実施形態に係るタイル剥がし工具の概略図である。 本発明の第3の実施形態に係るタイル剥がし工具の概略図である。 本発明の第4の実施形態に係るタイル剥がし工具の概略図である。 本実施形態の外壁タイルの剥離理由を説明する図である。
本発明の好適な実施の形態について以下に図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明で言う「タイル片」は、単に陶磁器製タイルだけを指すのではなく、外壁や内壁などの貼着面に貼着されるものを指し、例えば、レンガ,外壁タイル,石板などの総称として用いるものとする。
最初に一般的な外壁タイルの張り付け施工について説明する。
図1は、施工後の外壁タイルの断面図である。図1(a)は躯体4の仕上げ面に不陸などがない場合で、張付けモルタル3を塗ったあとにタイル片1を接着している。この張付けモルタルによりタイル片1をコンクリート躯体4に固定している。これは直付けの一般的な外壁タイルの施工方法である。
タイル片1の周囲及び隣のタイル片1との間には目地2を設けてある。図1(b)は躯体4の仕上げ面に不陸などがある場合に下地モルタル5を塗って調整し、その上に張付けモルタル3を塗ってタイル片1を接着している。これは比較的古いタイプの下地モルタル付きの外壁タイルの施工方法である。本発明の実施形態では、上述したようなタイル張りの方法に限ることなく接着されたタイル片1であれば適用可能である。
図2(a)は、本発明の実施形態を示す補修前の外壁タイルの概略図である。補修前の外壁タイルは、健全なタイル片Bと、目地材11がひび割れたタイル片Cと、ひび割れ10と、ひび割れたタイル片Aと、タイル片の周囲に設けた目地材11と、タイル片が割れて剥落し、目地材11も欠損した部分Dと、で構成されている。目地2には縦側に走る縦目地12と横側に走る横目地13とがある。図2(a)は、縦の目地が直線に通るように張る形式の通し目地図である。
ここで、目地材11のひび割れにより完全にひび割れてしまったタイル片Aは剥離撤去の対象となり、ひび割れのないタイル片Bは裏側のモルタル接着面に浮きなどがない場合は剥離しない。また、ひび割れ10の通っているタイル片Cは裏側のモルタル接着面の健全性に基づいて剥離撤去するかどうかを判断する。またタイル片が剥落して欠損したDの残りの欠けタイル片は剥離撤去の対象となる。
また図2(b)は、タイルの中心に次の段の目地の中心がのるように張る形式の馬踏み目地図である。
(第1の実施形態)
図3は、本発明の第1の実施形態に係るタイル剥がし工具20の概略図である。図3(a)は本タイル剥がし工具20を横から見た図であり、本実施形態の主要な部分を拡大表示してある。図3(b)は先端部側から見た図であり、図3(c)は上から見た図である。
本タイル剥がし工具20は薄い板状体であり、図6に示す分離溝14に差し込み、タイル側面を持ち上げて接着面を剥離するための先端部21と目地材11Bを土台としてテコの原理により先端部21を持ち上げる突起状の支点部22(以下、支点部22とも記述する)と手で握って力を加える握り手部24とを備えて構成される。
先端部21のタイルと接触する面及び目地11Bと接触する突起状の支点部22には滑り止め材23Aと23Bの加工がなされてある。この滑り止め材23Aは先端部21をタイル側面に押し当てた時にタイル側面に食い込んで摩擦抵抗を発生させるものであり、剥離するタイルの素材より固いもので、例えば電着したダイヤモンド粒子などがある。ダイヤモンド粒子の粗さは例えば100番前後が好ましい。なお剥離するタイルの種類によって表面粗さが違うので電着するダイヤモンド粒子の粗さは適宜選択すれば良い。
本実施形態では、先端部21は中央に凹部を設け先端部21が2つに分かれている。これは目地2に障害物があって先端部21の片側が浮いてしまったり、タイル片が曲がっていてタイル片側面に均等に当接しなかった場合に少なくとも先端部21の2点以上がタイル片側面に当接するように設ける物である。なおこれに限定されることではなく、先端部21は分かれていなくても良いし、2つ以上に分かれていても良い。
先端部21の幅は剥離するタイル片の長さの80%以上であることが好ましい。なお支点部22長さは、先端部21の幅の長さに限ることはなく、長くして目地に長く当たるようにしても良い。なお上述したタイルの詳細な規格については、JIS A 5209を参照のこと。
タイル剥がし工具20の薄い板状体の材質としては高強度材や、例えば炭素工具鋼などを熱処理したものが望ましい。なお用いられる材質は特にこれに限定されることはなくタイル片を剥がす時に曲がらない強度を持ったものであれば良い。
タイルを剥離するためのテコの支点となる支点部22が目地材11Bと接触する部分には滑り止め材23Bの加工がなされている。この滑り止め材23Bは支点部22が滑らないように目地材11Bに食い込んで摩擦抵抗を発生させるものであり、剥離するタイルの素材より固いもので、上述した電着したダイヤモンド粒子などがある。
本実施形態における支点部22は図3(a)で断面形状を丸形状または円弧形状としているが、これに限ることではなく多角形状であっても良い。また本実施形態における支点部22は溶接により別部材を設けた例を示しているが、これに限ることはなく薄い板状体と一体に支点部22を成形したものであっても良い。
また支点部22を設ける位置は、目地材11Bを支点とするために目地材11Bに押し当てられる支点部22の下場から先端部21までの長さが剥離するタイル片の厚み以下となるようにする。タイルは規格品(例えばタイルの品質等はJIS A 5209参照)であるので例えばタイルの厚さが5〜7mm程度であれば支点部22の下場から先端部21までの長さは4〜6mm前後が好ましい。なお、これに限ることはなく、種々のタイル規格の厚さに合わせて適宜決定すればよい。
また支点部22の横幅は、支点としての荷重を受け止めるので、目地材11Bを破損させないために薄い板状体先端部21の横幅より長いほうが好ましい。なお、これに限ることはなく、支点部22の横幅は種々のタイル規格に合わせて適宜決定すればよい。
図4は、本実施形態のタイル剥がし工具の握り手部24を延長する管状体の概略図である。
図4(a)はタイル剥がし工具に加える力を軽減するために握り手部24を延長する管状体25を横から見た断面図であり、図4(b)は下から見た図である。
図4(a)の中央の横長の長方形は握り手部24が管状体25の先端部26に嵌め合った状態の断面を示す。管状体25は人の手で握りやすいように円形パイプ形状27の例を示しているが、特に円形パイプ形状27に限ることはなく手で持ちやすい形状であれば良く多角形でも四角形でも良いが、好ましくは軽量化のために中空体パイプ状であれば良い。
また握り手部24は、延長する管状体25の先端部26と嵌め合うように長方形の板状形状となっているが特にこの板状形状に限ることはなく、握り手部24と管状体25先端部26とがお互いに嵌め合う形状と寸法になっていれば良い。
図5は、本実施形態に係る代替目地具の概略図である。図5(a)は代替目地具の斜視図であり、図5(b)は使用方法を説明する図である。
本代替目地具50は、代替目地部51と取っ手部52とを備える。代替目地具50は目地材11Aが欠損していた場合や目地材11Aの強度が劣化により脆弱であった場合にタイル剥がし工具20の支点部22の目地部側の支点となるように目地材11Aの代替として使用するためのものである。
代替目地部51の大きさは、目地材11Aの幅から図6に示す分離溝14の幅を差し引いた幅と目地材11Bと同じ深さの厚みがあれば良いが、タイル剥がし工具20の先端部21が差し込めるスペースが取れる程度の幅と深さを持っていれば良い(分離溝14の幅を確保できる程度)。代替目地部51の長さは剥離するタイル片の長さの80%以上であることが好ましい。さらに好ましくはタイル剥がし工具20の支点部22の長さと同じであれば良いがこれに限定されることはなく、適宜選択すれば良い。
また代替目地部51の材質は繰り返し使用するので金属製であることが好ましいが、タイル剥がし工具20の支点部22の目地部側の支点として加わる力に対して耐えられる強度を有する物であれば、これに限定されるものではない。なお取っ手部52は代替目地部51をセットし易くするためのものであり、別素材のものを溶接等で加工しても良いし代替目地部51と一体成形しても良い。
図5(b)に示すように、例えば目地材11Aが欠損していた場合は、従来あった目地材11Aの位置に本代替目地具50の取っ手部52を持って代替目地部51をセットし、その上面にタイル剥がし工具20の支点部22が当接するように分離溝14に先端部21を差し込んで使用する。
(タイル剥がし工程の前工程)
図6は、本実施形態に係るタイル剥がし工程の前工程について説明する図である。図6(a)は図2の割れタイル片Aの周辺を拡大した図であり、図6(b)は横側から見た断面図であり、図6(c)は下側から見た断面図である。
ひび割れしたタイル片Aを剥離する前工程としてタイル片A周囲の目地材11Aをダイヤモンドカッターなどで削って分離溝(スリット)14を設ける。これは、周囲の健全なタイル片と縁を切るためと、図3で説明したタイル剥がし工具20の先端部21を差し込むためである。従って分離溝14の幅はタイル剥がし工具20の先端部21の厚み以上であるようにする。このように本実施形態では剥離するタイル片の周囲の目地材11Aを全て除去しなくても良く、分離溝14(スリット)を形成するだけで良いので削る部分が少なくて済む。
分離溝14は剥離撤去するタイル片Aに近い位置に設け、剥離撤去しないタイル側の目地材11Bはタイル剥がし工具の支点部22を押し当てる目地部側の支点となる。分離溝14を設ける工程では下地の躯体まで削らないように注意する。
このとき分離溝14はタイル片A周囲の四方全てに設ける必要はなく、タイル片Aの接着強度が弱い場合は、タイル長辺側である下側の横目地材(1)に設けるだけで良い。またタイル片Aの接着強度が強い場合は、タイル短片側である左右の縦目地材(2)と(3)も設けるようにする。
ただし、タイル片Aの接着強度に基づいて判断して、片方の縦目地材(2)または縦目地材(3)だけでも良いし、縦目地材(2)と(3)両方とも設けても良い。
なお、この例では横目地材への分離溝14はタイル片Aの下側と説明したが、タイル片Aの上側に分離溝14を設けても構わない。ただし上側に分離溝14を設けた場合は、タイル片Aを剥離させる時に剥がれたタイル片Aが下に落下しないように注意する必要がある。
なお、目地材11Aが欠損している場合や分離溝14を設けた際に目地材11Bが脆弱であった場合には目地材11Bを除去して代替目地具50を使用する。
(タイル剥がし工程と工具の作用)
図7は、本実施形態に係るタイル剥がし工程とタイル剥がし工具の作用について説明する図である。図7(a)は工程を説明する図であり、図7(b)はタイルを剥がす原理を説明する図である。
まず図7(a)に示すように、図6で説明した前工程で設けた分離溝14にタイル剥がし工具20の先端部21を差し込む。この時、突起状の支点部22は目地材11Bと当接する方向にセットする。
次に先端部21がタイル片Aの概略厚さ分だけ入り込んだら支点部22を支点としてテコのようにタイル剥がし工具20の握り手部24を矢印Eの方向にゆっくりと力を加える。最初に先端部21は支点部22を支点としてタイル片に接着部分を剪断させる矢印Xの方向に力が加えられる。実際には分離溝(スリット)14の幅は、先端部21の板厚より少し余裕があり、先端部21を嵌め合って調整するための隙間や支点部22の食い込みにより小さい隙間ができている。
先端部21は支点部22を中心として回動してタイル片の接着部分を分離する方向(矢印W)に力が加えられるため、タイル片は押し上げられ分離、剥離する。
この時に先端部21のタイル片と当接する面には滑り止め材23Aがあるので、タイル片側面で滑らないでタイル片に食い込む。また、支点部22の目地材11Bと当接する部分には滑り止め材23Bがあるので、支点部が目地材11B上面で滑らないで目地材に食い込む。
その結果、図7(b)に示すように、握り手部24を矢印Eの方向にゆっくりと力を加えるとタイル片Aとの接着部分には分離方向と剪断方向との複合力(剥離方向への力、矢印W)が加えられるためにタイル片Aは容易に押し上げられて静かに分離・剥離する。
また握り手部24に加える力が大きい場合もしくは、より大きいモーメント力が欲しい場合には、握り手部24に管状体25を嵌め合い、握り手部24を延長させる。
これは剥離撤去対象のタイル片の接着強度が全て等しいと仮定した場合、タイル剥がし工具20に加える力は管状体25を嵌め合って握り手部24を延長した方がより少ない力でタイル片を剥離することが可能となる。
例えば管状体25を嵌め合って延長した場合、3.5kg程度の力によりタイル片を剥離することができるため、女性の作業員であっても容易にタイル片を剥離撤去することが可能となる。
上記について図11を参照して説明する。図11(a)は、例えば45二丁(モザイクタイル)と言われるタイルである。大きさは幅Wが95mm×高さHが45mmなので、タイル底面積は4275mm2である。例えば2007年度国土交通省建築工事標準仕様書、11章タイル工事1節一般事項の施工後の確認及び試験によれば、このタイルの引張接着強度は、0.4N(ニュートン)/mm2以上であると仮定できるため、4275×0.4=1710N(タイル1枚)の引張接着強度があると見なすことができる。
次に、図11(b)を参照するが、1710N=175kgであるので、例えば、支点となる支点部22から荷重のかかる先端部21までの長さを6mmとすると支点部22から握り手部24(1)までの長さが10倍の60mmであれば、約17.5kgの力でタイルを剥離することができる。さらに握り手部24を延長する管状体25を嵌め合って長さを延長した場合には、例えば支点部22から握り手部24(2)までの長さが50倍の300mmであれば、約3.5kgの力でタイルを剥離することができることになる。ゆえに2倍の接着力であったとしても7.0kgの力でタイルを剥離することができる。
何れの場合にも引張接着強度が0.4N/mm2以上という仮定で、上述した本実施形態の作用原理では、分離方向と剪断方向との複合力(剥離方向への力、矢印W)を加えるので、さらに小さい力でタイル片を剥離することが可能である。
(本実施形態の作用効果)
本実施形態では、上記で説明したタイル剥がし工程及びタイル剥がし工具の作用により、熟練作業者でなくとも、小型でシンプルな工具を用いるので、短時間で、かつ静かにタイル片を剥離することが可能となる。
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態に係るタイル剥がし工具30の概略図である。図8(a)は本タイル剥がし工具30を横から見た図であり、本実施形態の主要な部分を拡大表示してある。図8(b)は先端部側から見た図であり、図8(c)は下から見た図である。
第2の実施形態において、第1の実施形態と相違する部分について以下に詳細な説明をするが、同様の構成については同じ符号をつけている。
図8(a)に示す本タイル剥がし工具30は、先端部21の滑り止め材23Aを表面裏面の両方に備えている。そして支点部22も表面と裏面の両方に備えている。このようにすれば、タイル剥がし工具30は、両面とも使用可能となり、例えば片面の滑り止め材23Aがすり減った場合でも、他方の違う片面を使用することで、使用回数を2倍に延ばすことができる。
ただし、滑り止め材23Aの厚さが2倍となるので、タイル剥がし工程の前工程で削る分離溝14の幅に注意する必要がある。
また、握り手部24の形状を第1の実施形態の図3で示したものと同様にすれば、図4(b)で示したようにタイル剥がし工具30に加える応力を軽減するために握り手部24を延長する管状体25を嵌め合うことが可能となる。
本実施形態に係るタイル剥がし工程の前工程、及び本実施形態に係るタイル剥がし工程とタイル剥がし工具の作用については、上述した第1の実施形態(図6、図7参照)と同様であるので詳細については省略する。
(第3の実施形態)
図9は、本発明の第3の実施形態に係るタイル剥がし工具40の概略図である。図9(a)は本タイル剥がし工具40を横から見た図であり、図9(b)は先端部側から見た図であり、図9(c)は下から見た図である。
第3の実施形態において、第1の実施形態と相違する部分について以下に詳細な説明をするが、同様の構成については同じ符号をつけている。
図9(a)に示すように本タイル剥がし工具40は、薄い板状体が支点部22の上側で先端部21がタイル片側面と当接する方向に略L字状に曲がっている。このようにすることで、タイル剥がし工程において握り手部24を作業者側に引っ張るように力を加えれば、効率の良い作業姿勢で行うことができる。
本実施形態において、図9の破線で示すように、タイル片を分離、剥離するための力は、FをGで除した値の倍数で大きくなる。
また、握り手部24の形状を第1の実施形態の図3で示したものと同様にすれば、図4(b)で示したようにタイル剥がし工具40に加える応力を軽減するために握り手部24を延長する管状体25を嵌め合うことが可能となる。
例えば管状体25を嵌め合って延長した場合、3.5kg程度の力によりタイル片を剥離することができるため、女性の作業員であっても容易にタイル片を剥離撤去することが可能となる。
上記の理由については、第1の実施形態で図11を参照して説明したことと同様であるので省略する。
なお本実施形態に係るタイル剥がし工程とタイル剥がし工具の作用についての説明は、図7で示した第1の実施形態と同様であるので省略する。
(第4の実施形態)
図10は、本発明の第4の実施形態に係るタイル剥がし工具60の概略図である。図10(a)は本タイル剥がし工具60を横から見た図であり、図10(b)は先端部側から見た図であり、図10(c)は下から見た図であり、図10(d)はスライド機構を説明する図である。
第4の実施形態において、第3の実施形態と相違する部分について以下に詳細な説明をするが、同様の構成については同じ符号をつけている。
図10(a)及び図10(c)に示すように本タイル剥がし工具60は、薄い板状体の握り手部24側に握り手部24をジャッキアップするようなスクリュー型の治具が取り付けられる取付穴64を備えている。
スクリュー型の治具は、ネジ山のようにある方向に回転させることで薄い板状体をジャッキアップする方向にネジ61が切ってある。スクリュー型の治具は、雌ネジを備え、自転しないでスライドするナット部63と自由に回転できるボール65を受ける凹部62Aを持った外壁固定部62とを備える。外壁固定部62の外壁に当接する側には外壁をキズ付けないようにクッション材が設けてある(図示せず)。このスクリュー型の治具の上端に電動ドライバーのように回転する電動工具を接続して回転させることで、外壁固定部62に対して握り手部24が持ち上がる方向に移動する。そのため人手の力でタイル剥がし工具60の握り手部24を持ち上げる必要がないのでより作業スピードを向上させることができる。なお、図10(d)に示すようにナット部63は、取付穴64に凸形状で嵌め合った部分と下側が取付穴64よりも大きい形状部分により、自転することなしにスライドすることが可能となっている。
第4の実施形態に係るタイル剥がし工程の前工程、及び本実施形態に係るタイル剥がし工程とタイル剥がし工具の作用については、上述した第1の実施形態(図6、図7参照)と同様であるので詳細については省略する。
(本発明における各実施形態の作用効果)
上述した実施形態によれば、タイル片を剥離する際に、小型でシンプルなタイル剥がし工具を使って、振動や騒音がなく静かでタイル片をやんわりと剥がすことができ、作業スピードを向上させることができる。
また上述した実施形態によれば、タイル片を剥離する際に、人の腕力程度の力で容易にタイル片を剥がすことができ、作業スピードを向上させることができる。
また上述した実施形態によれば、タイル片を剥離する際に、小型の電動工具を用いることでより作業スピードを向上させることができる。
また上述した実施形態によれば、最初の分離溝(スリット)を設ける作業以外には粉塵や騒音の発生がなく、タイル片を剥離することができる。
また上述した実施形態によれば、簡単な工具によりタイル片を剥離することができる。
また上述した実施形態によれば、重いハツリ機械を使う必要がなく、腕力の小さい人(例えば小柄な人や女性など)でも容易にタイル片を剥離することができる。
また上述した実施形態によれば、ハツリ作業により下地の躯体を傷つけることなく、タイル片を剥離することができる。
なお、上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態であり、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
本発明によれば、建築物の改修工事などにおいて既存のタイルを剥がすなどの建築工事の用途に適用できる。
1 タイル片
2 目地
3 張付けモルタル
4 躯体(コンクリート躯体)
5 下地モルタル
10 ひび割れ
11、11A、11B 目地材
12 縦目地材
13 横目地材
14 分離溝(スリット)
20、30、40、60 タイル剥がし工具
21 先端部
22 突起状の支点部
23A、23B 滑り止め材
24 握り手部
25 管状体
26 管状体先端部
27 円形パイプ形状
50 代替目地具
51 代替目地部
52 取っ手部
61 ネジ部
62 外壁固定部
62A 凹部
63 スライドするナット部
65 回転ボールジョイント

Claims (3)

  1. タイル片底部接着面を剥離するために該タイル片側面を引っかけて持ち上げるための非鋭利な先端部を有した板状体と、
    前記板状体の前記タイル片側面に当接する面とは反対側の面上であって、前記先端部の突端までの長さが前記タイル片の厚み以下となる位置に配された、前記タイル片の周囲に配された目地材の上面を支点として前記タイル片を持ち上げ底部接着面を剥離するための突起状の支点部とを備え、
    前記板状体の前記タイル片側面に当接する面及び前記支点部に、前記タイル片及び前記目地材に押し当てた時に該タイル片及び該目地材に食い込んで摩擦抵抗を発生させる滑り止め材を備えることを特徴とするタイル剥がし工具。
  2. 接着されているタイル片の少なくとも1以上の周囲の目地材を削って分離溝を設ける工程と、
    前記分離溝に板状体の所定工具の先端部を差し込んで該所定工具の前記タイル片側面に当接する面とは反対側の面上であって、前記先端部の突端までの長さが前記タイル片の厚み以下となる位置に配された、滑り止め材を有する突起状の支点部を前記目地材の上面に押し当てる工程と、
    前記板状体を、前記突起状の支点部を支点として前記先端部の滑り止め材を有する面を前記タイル片の側面に押し当てて該タイル片を持ち上げるように回動させる工程と、
    前記タイル片底部の接着面を剥離する工程と、
    を有することを特徴とするタイル剥がし工法。
  3. 接着されているタイル片の周囲の脆弱な目地材及び凹凸のある目地材を除去する工程と、
    前記除去した目地材及び欠損した目地材の代わりになる代替目地具を設置する工程と、
    前記代替目地具と前記タイル片との隙間に板状体の所定工具の先端部を差し込んで該所定工具の突起状の支点部を前記代替目地具の上面に押し当てる工程と、
    前記板状体を、前記突起状の支点部を支点として前記先端部を前記タイル片の側面に押し当てて該タイル片を持ち上げるように回動させる工程と、
    前記タイル片底部の接着面を剥離する工程と、
    を有することを特徴とするタイル剥がし工法。
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