特許文献3では対向する辺が互いに平行な6本の辺からなる六角形構造ユニット(以下、ユニット)を立面上、2方向に配列させ、ハニカム状の架構を構成することで、変形量と曲げモーメントが低減する効果を得ている(段落0076、0077)。但し、基本単位となる六角形状のユニットを立面上、2方向に配列させて架構を構成している以上、架構の周方向(水平方向)に隣接するユニット間には必ずユニットの半分の高さに相当する距離のずれが生じ、隣接するユニットが同一レベルのまま連続することにはならない(段落0064)。
ユニットは上下に並列する上辺と下辺、及び上下の辺を連結する屈曲辺から構成される関係で、ユニット単位で形態が完結していることから、上辺と下辺がそのまま架構の梁を構成することになる。図21の例ではユニットの屈曲辺間に水平にサブフレームが架設されているが(段落0110〜0112)、このサブフレームもユニット単位で配置されることで、架構の周方向(水平方向)には連続しないため、架構の周方向に連続し、ユニット同士を連結する(連続させる)梁として機能することはない。
図6の例では架構の周方向に隣接する各ユニットの上辺と下辺のレベルにスラブが位置し、スラブは見かけ上、各屈曲辺の中間部のレベルにも存在しているように見える。しかしながら、鉛直方向に配列するある列(a列)のユニットにおいてはその上辺と下辺の梁11aにスラブ21aが接合され、それに隣接する列(b列)のユニットにおいてはその上辺と下辺の梁11bにスラブ21bが接合されるが(段落0086)、b列のスラブ21bがa列のユニットの梁11aに接合される訳ではないため、全屈曲辺の中間部のレベルに連続するスラブが接続している訳ではない。
ユニットの上辺と下辺は梁の場合とスラブの場合があるが(段落0067〜0069)、図6の例では各ユニットの上辺と下辺を構成する梁11a、11bにそれぞれスラブ21a、21bが接合されているため、梁が存在しない(架設されていない)屈曲辺の中間部間にはスラブが接合されないことになる(平成18年2月7日付け意見書第2頁〈特徴〉第2行)。結局、梁、またはスラブは各ユニットの上辺と下辺には接合されるものの、屈曲辺の中間部に接合されることはないため、隣接するユニットの上辺と下辺に連続して接合されることもない。
上記の通り、図21の例ではユニットの屈曲辺間に水平にサブフレームが架設され、上辺と下辺にメインフレーム(スラブ)が接合されているが(段落0110〜0112)、サブフレームはユニット単位で完結するため、梁やスラブのように水平方向に連続することはない。またサブフレームは二次部材であり、地震力を負担することがないため(段落0113)、ユニット内の応力をユニット単位で処理するために付加されるに留まり、架構の周方向(水平方向)に分散して流す働きをすることはない。
各列のユニットの上辺と下辺に接続した(接合された)スラブは屈曲部分間の変形を拘束する、あるいは水平力を隣接するユニットに分散させる梁として機能することができるが、そのスラブは隣接するユニットの上辺と下辺には接合されないため、ユニットの屈曲辺間の変形を拘束する機能と、水平力を隣接するユニットに分散させる梁としての機能を発揮することはない。
従って各ユニットは上辺と下辺位置ではスラブによって架構の周方向の変形に対して拘束されるが、屈曲辺の中間部間での周方向(水平方向)の変形は拘束されないことになるため、屈曲辺の中間部間の水平方向の剛性は上辺と下辺位置での水平剛性より低下し、屈曲辺の中間部間は上辺と下辺より変形し易い状態にある。換言すれば、各ユニットの屈曲辺の中間部間に梁、またはスラブが接合されないことで、架構の最小単位の形状は六角形であるため、面内に外力を受けたときに各辺が曲げ変形、あるいは伸縮可能な範囲で変形を起こし易い。
また架構の周方向に隣接するユニットはその方向に連続する梁によって連結されることがないため、あるユニットに入力する水平力が周方向に配列する複数のユニットに分散(分担)されることはなく、各ユニットの負担が軽減されることにはならない。よって特許文献3では各ユニットにおいて荷重の負担が軽減されることによる変形の低減効果は期待されない。
本発明は上記背景より、全斜め柱の屈曲部分間の変形に対する拘束効果が高く、架構の最小単位の水平剛性を高める形態の斜め柱架構を提案するものである。
請求項1に記載の発明の斜め柱架構は、各層の外周梁と、この外周梁の長さ方向に互いに間隔を置き、鉛直に対して傾斜した状態で上下の前記外周梁間に架設される複数本の斜め柱とを備え、
前記斜め柱が前記複数の層間にジグザグ状に連続し、前記各斜め柱の少なくともジグザグの屈曲部分に前記外周梁が接続し、
隣接する前記斜め柱間の前記外周梁が長さ方向に分離し、長さ方向に分離した前記外周梁間に制震装置が架設されている、または前記斜め柱の一部、もしくは前記外周梁の一部に制震装置が組み込まれていることを構成要件とする。
斜め柱が複数の層間(架構の高さ方向)にジグザグ状に連続し、その少なくともジグザグの屈曲部分に、架構の周方向に架設される外周梁が接続することで、隣接する2本の斜め柱と、両斜め柱をつなぐ外周梁の組み合わせからなる架構の基本形(最小単位のフレームの形状)は図1〜図3に示すように台形状、または平行四辺形状になり、特許文献3の六角形のユニットより小さい単位の形状になる。外周梁は架構の高さ方向には少なくとも隣接する斜め柱の屈曲部分間をつなぐ位置(レベル)に配置され、いずれかの隣接する斜め柱を互いにつなぐように架設される。外周梁は平面上の隅角部を含め、周方向に連続する場合と、一部で不連続になる場合がある。
「少なくとも」とは、図1に示すように斜め柱の屈曲部分間の中間部にも外周梁が接続することがあることを言う。「小さい単位の形状になる」とは、形状が細分化されることを言い、特許文献3との対比で言えば、最小単位のフレーム形状が六角形から例えばその半分の形状になることを言う。
架構の最小単位のフレームは隣接する2本の斜め柱における屈曲部分間の(高さ方向の)区間と、外周梁における隣接する斜め柱の屈曲部分間をつなぐ(水平方向の)区間から構成される。最小単位のフレーム形状が台形になるか平行四辺形になるかは、架構の周方向(水平方向)に隣接する斜め柱が互いに高さ方向の直線(一点鎖線で示す中心線)に関して線対称の関係にあるか否かによって決まる。具体的には並列する斜め柱の屈曲部分間の(高さ方向の)区間と、その区間の両端をつなぐように架設される外周梁が台形、または平行四辺形を形成する。ここで言う高さ方向は鉛直方向の他、鉛直に対して傾斜した方向を含む。
外周梁における隣接する斜め柱の屈曲部分間をつなぐ(水平方向の)区間、すなわち外周梁の長さ方向に隣接する斜め柱間の距離は区間毎に相違する。図1に示すように隣接する斜め柱の屈曲部分間距離は外周梁のレベル毎に相違し、同一の外周梁においても区間毎に相違している。同一の外周梁において(水平方向に)は斜め柱の屈曲部分間距離が大きい区間と小さい区間が交互に配列し、高さ方向には外周梁の高さ毎に屈曲部分間距離が変化する。
図1に示すように斜め柱の屈曲部分が2層毎にあるか、図2に示すように1層毎にあるかに関係なく、隣接する斜め柱が互いに線対称であれば、隣接する斜め柱とその屈曲部分に接続される外周梁とで形成される架構の最小単位のフレーム形状は台形になる。図3に示すように隣接する斜め柱が線対称でなく、例えば一方が1層単位で屈曲し、他方が2層単位で屈曲する場合には、隣接する斜め柱と上下に並列する外周梁とで形成される最小単位のフレーム形状は台形と平行四辺形になる。
図4は図2の特殊な場合の斜め柱架構例として、図2における立面上の中心線寄りの2本の斜め柱3が斜め柱ではなく、直線柱4になった場合の例を示している。この場合、立面上の中心線を挟んだ2本の直線柱4と外周梁2とで囲まれた領域は長方形状になるが、直線柱5とそれに中心線から遠い側に隣接する斜め柱3、及び外周梁2とで囲まれた全領域は台形状になる。また外周梁2が一定の高さで配列すれば(階高が一定であれば)、台形は外周梁2に関して上下に対称になる。
図1は斜め柱の屈曲部分が2層毎にある関係で、斜め柱の屈曲部分に加え、屈曲部分間の中間部の位置にも外周梁が架設されている場合(請求項3)の例を示している。この斜め柱の屈曲部分間の中間部を通る外周梁は斜め柱に接続する(接合される)ことで、斜め柱の座屈長さを短縮する機能も有する。
この図1において、屈曲部分間の中間部を通る外周梁が不在であるとすれば、最小単位のフレームを構成する台形は斜め柱の屈曲部分間の区間と、その区間の両端をつなぐ外周梁とで形成される。その場合、架構の最小単位のフレーム形状は2層分の高さを有する台形状になる。
屈曲部分間の中間部を通る外周梁が架設されている図1に示す例の場合にも、架構の最小単位のフレーム形状は台形になるが、2層分の高さの範囲に1層分の高さを有し、大きさの相違する2個の台形が高さ方向に配列する形になる。屈曲部分を通る外周梁と屈曲部分間の中間部を通る外周梁が高さ方向に等間隔に配列していれば、1層分の高さを有する最小の台形は上記2層分の高さを有する台形を高さ方向に2分割した形状と大きさになる。
図1において屈曲部分間の中間部を通る外周梁が不在の場合、2層分の高さを有する最小単位のフレームを構成する台形は架構の周方向(斜め柱が隣接する方向)には交互に反転して隣接し、架構の高さ方向にも2層分の高さを有する台形が交互に反転して隣接する。図1において屈曲部分間の中間部を通る外周梁が不在の場合、斜め柱はいずれかの外周梁の軸に関して線対称の状態で傾斜し(請求項2)、鉛直に対して互いに逆向きに傾斜している。
図1に示す通り、屈曲部分間の中間部位置に外周梁が存在する場合、高さ方向には2層の高さ(3本の外周梁)の範囲に大きさの相違する2個の台形が形成されるため、架構の周方向(斜め柱が隣接する方向、あるいは水平方向)には大きい台形と小さい台形が交互に反転して配列する。
架構の最小単位のフレーム形状が特許文献3のユニットの形状より小さく、台形状、または平行四辺形状になることで、最小単位のフレーム自体は六角形状の場合より変形しにくくなるため、外力に対する水平剛性が向上する。台形状の場合、本発明の最小単位のフレームは六角形状の場合との対比では、六角形の中央に上辺と下辺に平行な辺が付加された形になるため、辺が付加された分、変形しにくさが六角形状の場合より向上することになる。
架構の最小単位のフレーム形状が平行四辺形になる場合の変形しにくさは、単体では台形の場合より低下するが、図3に示すように架構には平行四辺形と共に台形も形成され、平行四辺形と台形が対になることで、架構全体での変形しにくさは最小単位のフレーム形状が六角形のみの場合より向上する。
図1は斜め柱が2層単位で屈曲している場合の例を示しているが、図2に示すように斜め柱が1層単位で屈曲した場合には、架構の基本形である台形、または平行四辺形はより細分化される。また図3に示すように斜め柱の屈曲位置が隣接する斜め柱間で相違すれば、架構の基本形は台形と平行四辺形になる。いずれにしても斜め柱の屈曲部分の位置は任意であるが、斜め柱の屈曲部分のレベルには原則的に外周梁が架設され、屈曲部分に接続するため、最小単位のフレームは架構の周方向に互いに連結された状態になる。
架構の最小単位のフレームが外周梁によって架構の周方向に連結されることで、各層(各階の外周梁)に入力する水平力が分散し、複数の最小単位のフレームによって分担されるため、1フレーム(最小単位)の負担が軽減される。1フレームの負担が軽減されることで、フレームの変形量が低減されることになる。結局、本発明では最小単位のフレームの形状が六角形の半分の大きさになる上、各フレームの負担が軽減される結果、架構の水平剛性が向上することになる。
図1において斜め柱の屈曲部分間の中間部を通る外周梁が不在の状態では、一定の高さ(長さ)単位で屈曲した形状の斜め柱が架構の周方向(水平方向)に互いに線対称となるように隣接する。その場合、架構の形態(台形の配列状態)は図2の例と同じになる。図2は斜め柱の屈曲部分間の間隔を図1の場合の間隔の半分にし、1層分単位で斜め柱を屈曲させた場合の例を示している。この場合、最小単位のフレームを構成する台形の形状と大きさは1種類になる。
図3は図1に示す2層分単位で斜め柱が屈曲した斜め柱と、1層分単位で屈曲した斜め柱を組み合わせて周方向に配列させた架構の例を示す。この場合、架構の最小単位のフレームの形状は一定にはならず(統一されず)、前記のように台形と平行四辺形になる。図3では立面の中心線の片側では1層単位で屈曲する斜め柱と2層単位で屈曲する斜め柱を並列させているが、立面に表れる4本の斜め柱を中心線に関して線対称となるように配置している。
前記の通り、特許文献3では最小単位のフレーム形状が六角形で完結し、梁やスラブが架構の周方向に隣接するユニットを連続させることがなく、サブフレームも隣接する最小単位のフレームを連係させることがないため、梁やスラブ等によって最小単位のフレームが負担する水平力を周方向に隣接するユニットに分散させることはできない。
これに対し、本発明では架構の最小単位のフレームである台形、または平行四辺形は前記の通り、外周梁の一部を含み、外周梁は架構の周方向には少なくとも一部の隣接する斜め柱を互いにつなぐように架設されることで、周方向に隣接する最小単位のフレームを連結するため、外周梁は各最小単位のフレームに入力する水平力を外周の軸方向に分散させ、複数の最小単位のフレームに分担させる働きをする。この結果、最小単位のフレームの水平力に対する負担が軽減され、水平力(応力)の負担による変形に対する安定性が向上することになる。
前記のように架構の最小単位のフレームは台形、または台形と平行四辺形になり、各最小単位のフレーム形状は特許文献3との対比では変形しにくさを確保するが、最小単位のフレームを構成する外周梁の一部を長さ方向に(梁部材に)分離させ、その分離位置、すなわち分離した梁部材間に制震装置を介在させることで、分離位置での外周梁の相対移動を振動の低減のために積極的に利用することが可能である。
前記のように隣接する斜め柱の屈曲部分間距離は外周梁のレベル毎に相違し、同一の外周梁においても区間毎に相違するが、隣接する斜め柱間の外周梁を長さ方向(軸方向)に分離させ、この長さ方向(軸方向)に分離した外周梁間に制震装置(ダンパー)を架設することで、架構に入力する地震動に対する振動低減効果を得ることが可能である。制震装置は分離した外周梁における、隣接する斜め柱間距離の変化に伴って減衰力を発生する。
隣接する斜め柱の屈曲部分間距離は外周梁における区間毎に相違するため、外周梁を長さ方向に分離させる対象(箇所)は複数通りある。但し、制震装置(ダンパー)が発揮する減衰力の大きさが例えば相対移動(相対変位)量に依存する場合には、斜め柱間距離(分離した外周梁(梁部材)の端部間距離)の変化(相対移動(相対変位)量)が大きい程、減衰力も大きくなる。このため、減衰力が相対移動(相対変位)量に依存する制震装置は架構が水平力を負担したときに屈曲部分間距離(外周梁(梁部材)の端部間距離)が相対的に大きくなる区間に架設されることが合理的である。
分離した外周梁(梁部材)における相対移動(相対変位)は分離した外周梁の内、軸方向に対向する一方の梁部材と他方の梁部材との間に生ずるが、相対移動前の対向する梁部材間距離に対する相対移動後の梁部材間距離の比率(相対移動の変化量)は元々、屈曲部分間距離の小さい区間において大きくなる傾向がある。従って制震装置によるエネルギ吸収効率の点からは図8−(a)〜(c)に示すように屈曲部分間距離(外周梁(梁部材)の端部間距離)の小さい区間に制震装置を設置する方が有利なことが多い。
制震装置の設置位置はまた、制震装置のエネルギ吸収の機構に応じても選択される。例えば制震装置(ダンパー)がせん断力を負担することにより弾塑性変形し、履歴エネルギ吸収によってエネルギを吸収する形式の場合には、制震装置に変形を集中させ、エネルギ吸収能力を高める上では、分離した梁部材間に生ずる幅方向(高さ方向)の相対移動(相対変位)量が大きくなる箇所に設置されることが適切である。この点から、せん断変形型の制震装置も上記のように屈曲部分間距離(外周梁(梁部材)の端部間距離)の小さい区間に制震装置を設置する方が合理的である。
この他、制震装置が曲げモーメントを負担することにより弾塑性変形する形式か、軸方向力を負担することにより粘性減衰力を発生する形式か等によって制震装置の合理的な設置場所が決められる。曲げモーメントによって弾塑性変形する形式の場合も、制震装置に与える変形量を稼ぎ、制震装置のエネルギ吸収能力を高める上では梁部材間距離が増大する部分、すなわち屈曲部分間距離(外周梁(梁部材)の端部間距離)の小さい区間に制震装置を設置することが適切である。軸方向力の負担によってエネルギを吸収する形式の制震装置は斜め柱の一部に組み込まれる形で使用されることが適切である。
斜め柱を複数の層間(架構の高さ方向)にジグザグ状に連続させ、その少なくともジグザグの屈曲部分に外周梁を接続させることで、隣接する斜め柱と、両斜め柱をつなぐ外周梁の組み合わせからなる架構の基本形(最小単位のフレーム形状)を特許文献3のユニットより小さい単位の形状の台形状、または平行四辺形状にすることができる。
架構の最小単位のフレーム形状が小さくなることで、最小単位のフレーム自体は六角形状の場合より変形しにくくなるため、外力に対する水平剛性が向上し、架構全体での変形しにくさは最小単位のフレームが六角形のみの場合より向上する。
また架構の最小単位を構成するフレーム形状である台形、または平行四辺形は外周梁の一部を含み、外周梁は架構の周方向に一部の隣接する斜め柱を互いにつなぐように架設されることで、周方向に隣接する最小単位を連結するため、各最小単位に入力する力を外周の軸方向に分散させ、複数の最小単位に分担させる働きをする。この結果、最小単位のフレームの水平力に対する負担が軽減され、安定性が向上する。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1−(a)は各層の外周梁2と、この外周梁2の長さ方向に互いに間隔を置き、鉛直に対して傾斜した状態で上下の外周梁2、2間に架設される複数本の斜め柱3とを備えた斜め柱架構1の例を示す。(b)は(a)のx−x線の平面を示す。図1−(a)、(b)では外周梁2の外周側の面に斜め柱3が重なって接合されている状態に見えるが、斜め柱3は外周梁2の内周側に重なる場合の他、斜め柱3が外周梁2を貫通する場合と、外周梁2が斜め柱3を貫通する場合もある。
斜め柱3は複数の層間に亘ってジグザグ状に連続し、斜め柱架構1の高さ方向には各斜め柱3の少なくともジグザグの屈曲部分に外周梁2が接続する。図1は斜め柱3の屈曲部分間の中間部のレベルにも外周梁2が架設されている場合の例を示しているが、外周梁2は図2に示すように斜め柱3の屈曲部分のレベルにのみ架設されることもある。斜め柱3はブレースの機能を併せ持つため、斜め柱3の軸方向の、鉛直とのなす角度は任意であるが、実質的には鉛直とのなす角度が水平とのなす角度より小さければ、斜め柱3が柱として成立する。斜め柱架構1内の少なくとも外周梁2のレベルには図示しないスラブが構築(配置)される。
外周梁2は図1−(b)に示すように斜め柱架構1における平面上(各床)の外周部を連続し、周回する形で架設され、斜め柱3は少なくとも一部の複数層に亘って高さ方向に連続し、斜め柱架構1の周方向(水平方向)に隣接しながら立設される。複数層に亘って配置される外周梁2が環状に閉じた形で周回し、複数層の外周梁2に亘り、隣接しながら斜め柱3が立設されることで、外周梁2と斜め柱3からなる斜め柱架構1はチューブ構造を構成する。
図示しないが、外周梁2の内周側、すなわちスラブの内周側には内周梁が架設されることもあり、内周梁に沿い、周方向に間隔を置いて内周柱が配置されることもある。その場合、斜め柱架構1はダブルチューブ構造になる。内周梁に沿う内周柱が斜め柱であることもある。
斜め柱3は複数層の外周梁2に交わる状態で立設される。前記の通り、図1−(b)、(c)に示すように斜め柱3は外周梁2との交点位置(接合部)では斜め柱3が外周梁2を貫通する形、もしくは外周梁2が斜め柱3を貫通する形で、あるいはいずれか一方が他方に突き合わせられる形で組み合わせられ、互いに接合される。
図1−(b)は斜め柱架構1の平面上の隅角部に斜め柱3も後述の直線柱4も不在の場合、(c)は隅角部に直線柱4が配置された場合の架構例を示している。(b)の場合、外周梁2は平面上の隅角部位置で周方向に不連続になり、その隅角部寄りに位置する外周梁2は片持ち梁になる。(c)の場合、外周梁2は隅角部位置を含め、周方向に連続し、周回する形になる。
例えば斜め柱3が外周梁2を貫通する(斜め柱3が外周梁2との接合部位置で連続する)形になる場合には、外周梁2は斜め柱3の側面に突き合わせられた状態で溶接やボルト接合等によって斜め柱3に接合される。外周梁2が斜め柱3を貫通する(外周梁2が斜め柱3との接合部位置で連続する)形になる場合には、斜め柱3が外周梁2の上下面に突き合わせられた状態で溶接やボルト接合等によって外周梁2に接合される。
溶接やボルト接合による場合には継手プレートや接合金物等の接合のための部材が併用されることもある。外周梁2と斜め柱3の接合は必ずしも剛に接合されている必要はなく、互いに回転自在な状態に、あるいはいずれか一方がその軸方向に相対移動自在な状態に接合されることもあり、外周梁2と斜め柱3の接合部には両者間の相対変形時に変形し得る粘弾性体等のエネルギ吸収材が介在させられることもある。
図1は斜め柱3の屈曲部分間の区間が2層に亘り、3階分の外周梁2に接合された場合の斜め柱架構1の例を示している。斜め柱3は屈曲部分において屈曲の方向が変わり、屈曲部分を挟んで鉛直に対して逆向きに屈曲する場合と、鉛直方向に対して屈曲した方向と鉛直方向とを交互に向く場合がある。
斜め柱3は図1−(a)の一部に示すように屈曲の方向が変わる外周梁2との接合部分でのみ鉛直方向を向くこともある。只、斜め柱架構1(斜め柱3)に作用する鉛直方向の荷重によって斜め柱3の全長に水平反力を発生させる上では、斜め柱3は全長に亘って鉛直に対して傾斜した方向を向いていることが適切である。
図1はまた、斜め柱架構1のある立面に表れる4本の斜め柱3が中心線に関して線対称に配置され、中心線に片側に付き、隣接する斜め柱3、3が互いに線対称に配置されている場合の例を示している。具体的には立面の中心線に関して片側に2本の斜め柱3、3が配置され、中心寄りの2本の斜め柱3、3が中心線に関して線対称であり、片側の2本の斜め柱3、3も互いに線対称の状態で配置されている。中心線は鉛直方向を向く場合と、下層から上層へかけて平面上の外周側から内周側へ傾斜する方向を向く場合がある。
図1は斜め柱3がその屈曲部分を通る外周梁2の軸に関して線対称の状態で傾斜し、鉛直方向に対して互いに逆向きに傾斜している様子を示している。図1は斜め柱3の屈曲部分に加え、屈曲部分間の中間部を外周梁2が通る場合の例も示している。斜め柱架構1は高さ方向に連続する斜め柱3と、周方向(水平方向)に少なくとも一部の隣接する斜め柱3、3を互いにつなぐように架設される外周梁2から構成されることで、立面上、架構の最小単位となるフレームは大きさと形状の相違する2種類の台形になっている。外周梁2は前記のように平面上の隅角部を含め、周方向に環状に連続する場合と、平面上の隅角部、または図8に示すように隣接する斜め柱3、3間等、一部で不連続になる場合がある。
図1に示すように外周梁2が斜め柱3の屈曲部分とその中間部を通って架設される場合、上記2種類の台形の内、隣接する斜め柱3、3の屈曲部分間距離(外周梁2の斜め柱3、3との接合部間距離:水平距離)が最も大きい部分に接続した外周梁2と、屈曲部分間の中間部に接続した外周梁2とで形成される台形は大きく、屈曲部分間距離が最も小さい部分に接続した外周梁2と、中間部に接続した外周梁2とで形成される台形が小さい。図1の場合、隣接する全斜め柱3、3が線対称の状態で配列し、屈曲部分と屈曲部分間の中間部に外周梁2が通っていることで、斜め柱架構1の周方向(水平方向)には、架構の最小単位のフレームとなる大きい台形に小さい台形が隣接している。
図2は斜め柱架構1の周方向に隣接する全斜め柱3、3が互いに線対称の状態で配列すると共に、斜め柱3が1層単位で屈曲している場合の架構例を示している。この場合、外周梁2で上下に区分され、隣接する最小単位のフレームは同一の形状で、同一の大きさの台形になっている。図面では斜め柱架構1の周方向に隣接する最小単位のフレーム(台形)の大きさが相違しているが、フレームの大きさは隣接する斜め柱3、3間の間隔によって自由に決められる。
図2の場合、中心線の片側で隣接する斜め柱3、3の、最も小さい屈曲部分間距離と、中心線を挟んで隣接する斜め柱3、3の、最も小さい屈曲部分間距離を等しくすれば、斜め柱架構1の周方向に隣接する全最小単位のフレーム(台形)の大きさは等しくなるが、それ以外の場合には周方向に隣接する最小単位のフレーム(台形)の大きさは相違する。例えば図示するように中心線の片側で隣接する斜め柱3、3の、最も小さい屈曲部分間距離と、中心線を挟んで隣接する斜め柱3、3の、最も大きい屈曲部分間距離が等しい場合には、中心線寄りに形成される台形が小さくなる。
図3は中心線の片側において、2層単位で屈曲する区間と1層単位で屈曲する区間を有する斜め柱3、3を隣接させ、両斜め柱3、3の屈曲部分の位置を変えた場合の斜め柱架構1の例を示している。ここでは最も左側に位置する斜め柱3の下層側と上層側の各2層分が2層単位で屈曲し、その間の4層分が1層単位で屈曲し、それに隣接する斜め柱3の下層側の4層分が2層単位で屈曲し、その上の4層分が1層単位で屈曲している。4本の斜め柱3は中心線に関しては線対称の状態にある。
この関係で、左側(中心線の片側)で隣接する2本の斜め柱3、3と外周梁2とで形成される最小単位のフレームは下層側の3層分と最上層が台形であり、その間の4層の最小単位のフレームは平行四辺形になっている。図3に示す立面上、中心線寄りの2本の斜め柱3、3は互いに線対称の状態にあることから、両斜め柱3、3と外周梁2とで形成される最小単位のフレームは台形になっている。
図3の例では最小単位の一部のフレームが平行四辺形になり、そのフレーム自体は水平力に対する安定性が低いが、斜め柱架構1の周方向に台形のフレームが隣接することで、平行四辺形のフレームと台形のフレームを合わせた形態が台形になるため、最小単位の2フレームが集合した形態が1フレームとして挙動することで、変形に対する安定性の低下は回避される。また平行四辺形のフレームと台形のフレームを合わせた合成の台形が特許文献3の最小単位の六角形のフレームの半分の高さであることで、特許文献3より合成の台形の安定性が低下することはない。
図4は図2における立面上の中心線寄りの2本の斜め柱3が直線柱4になった場合の斜め柱架構1の例を示している。図4の例では立面上の中心線を挟む2本の柱が直線柱4、4であることから、中心線寄りの最小単位のフレームが長方形状になるため、図2、図3の例より斜め柱架構1の変形に対する安定性が低下する可能性がある。但し、その中心線の外側に台形状の最小単位のフレームが形成され、この台形状のフレームが長方形状のフレームに隣接することで、長方形状のフレームの水平剛性が補われるため、水平剛性の低下は回避されている。
図5−(a)は本発明の斜め柱架構1と対比されるべき鉛直柱と外周梁からなる鉛直柱架構と、その鉛直柱架構が水平力によって変形を起こしたときの様子を示している。架構自体を実線で、変形状態を二点鎖線で示している。(b)、(c)は本発明の斜め柱架構1とその水平力による変形時の様子を示している。(b)は斜め柱3の鉛直に対する角度が7度の場合、(c)は15度の場合である。
図6−(a)〜(c)は図5−(a)〜(c)に示す架構が水平変形を起こしたときの最小単位のフレームを構成する斜め柱3の区間と外周梁2の区間毎の曲げモーメントの大きさを示している。図6−(a)〜(c)は図5−(a)〜(c)に対応している。
例えば図5−(a)に示す鉛直柱架構における最下層の鉛直柱の下端(柱脚)に生ずる曲げモーメントの絶対値は図6−(a)に示すように14718.3(kN・m)であるのに対し、図5−(b)に示す7度の斜め柱架構1における最下層の斜め柱3の下端に生ずる曲げモーメントの絶対値は図6−(b)に示すように13715.5(kN・m)で、図6−(a)に示す鉛直柱架構との対比では約7%減少している。
図5−(c)に示す15度の斜め柱架構1における最下層の斜め柱3の下端に生ずる曲げモーメントの絶対値は図6−(c)に示すように11569.2(kN・m)で、図6−(a)に示す鉛直柱架構との対比では約21%減少し、図6−(b)に示す7度の斜め柱架構1との対比では約16%減少している。
図7−(a)〜(c)は図5−(a)〜(c)に示す架構が水平変形を起こしたときの最小単位のフレームを構成する斜め柱3の区間と外周梁2の区間毎のせん断力の大きさを示している。図7−(a)〜(c)は図5−(a)〜(c)に対応している。
例えば図5−(a)に示す鉛直柱架構における最下層の鉛直柱に生ずるせん断力の絶対値は図7−(a)に示すように1961.6(kN)であるのに対し、図5−(b)に示す7度の斜め柱架構1における最下層の斜め柱3に生ずるせん断力の絶対値は図7−(b)に示すように1760.3(kN)で、図7−(a)に示す鉛直柱架構との対比では約11%減少している。
図5−(c)に示す15度の斜め柱架構1における最下層の斜め柱3に生ずるせん断力の絶対値は図7−(c)に示すように1371.3(kN)で、図7−(a)に示す鉛直柱架構との対比では約31%減少し、図7−(b)に示す7度の斜め柱架構1との対比では約22%減少している。
図8−(a)〜(c)は図1〜図3に示す斜め柱架構1における外周梁2の一部に制震装置5を設置(架設)した場合の例を示す。図8では外周梁2の、斜め柱3、3との接合部分間距離の小さい区間の一部を軸方向に梁部材21、22に分離させ、この分離した梁部材21、22間に制震装置5を架設している。但し、制震装置5の設置箇所は制震装置5の形態、または機能によって決まり、外周梁2の、斜め柱3、3との接合部分間距離の大きい区間、または斜め柱3の一部に制震装置5を組み込むこともある。
例えば制震装置5が図10に示すように板状の形態をし、面内のせん断力を負担して弾塑性変形することによりエネルギ吸収能力を発揮する形式の場合には、斜め柱架構1が水平力によって変形を起こしたときに、分離した梁部材21、22間距離が最も拡大する箇所に制震装置5を設置することが合理的である。分離した梁部材21、22間距離とは、上記した外周梁2の、斜め柱3、3との接合部分間距離を指す。梁部材21、22間に制震装置5を架設する場合、制震装置5は梁部材21、22間に跨って架設され、双方に直接、もしくは間接的に接合される。
図10に示す板状の制震装置5は上記せん断力によって面外変形しない程度の板厚を持ち、分離した梁部材21、22が対向する方向(軸方向)には梁部材21、22に接合される接合部と、両接合部をつなぎ、曲げモーメントによって塑性変形する変形部から構成される。接合部は梁部材21、22の側面等に重なった状態で、あるいは幅方向に挟まれた状態で梁部材21、22にボルト等によって接合される。
制震装置5がせん断力を受けたときに厚さ方向の表面と背面との間に変位差が生ずるような厚さを有する粘性体、あるいは粘弾性体である場合にように、せん断力を受けたときの変位や速度等に応じて減衰力を発生する形式の場合には、制震装置5は軸方向の相対移動(相対変位)が拡大する箇所に設置されることが適切である。その場合、制震装置5は斜め柱3の一部、あるいは外周梁2の一部に組み込まれる形で設置されることになる。
斜め柱架構1が図5−(b)、(c)に示すように水平力を受けて変形したとき、外周梁2は支点間距離単位、すなわち外周梁2と斜め柱3との接続(接合)部分間の区間単位で鉛直面内(構面内)において曲げ変形、あるいはせん断変形を生じようとする。図9に実線で示すように外周梁2が軸方向に一方の梁部材21と他方の梁部材22に分離したとき、その分離した梁部材21、22間には図9に二点鎖線で示すように斜め柱3、3の変形に伴い、鉛直面内で変形を生ずる。
図9の実線は図1〜図3に示す斜め柱架構1を簡略化した図であり、隣接する斜め柱3、3のそれぞれに上下に距離を置き、軸方向に梁部材21、22に分離した(上下階の)外周梁2、2が架設され、各外周梁2を構成する梁部材21、22間に制震装置5が架設された様子を示している。図9の二点鎖線は実線で示す斜め柱架構1が変形し、外周梁2を構成する梁部材21、22間に相対変位が生じたときの様子を示している。各斜め柱3に接合された梁部材21、22は斜め柱架構1の変形前の斜め柱3との接合状態を維持しようとするため、斜め柱3、3の変形に伴い、対向する梁部材21、22間に相対変位が集中して発生する。
図9に示すように外周梁2の支点間距離(外周梁2と斜め柱3との接続(接合)部分間距離)が大きければ、梁部材21、22はせん断変形より曲げ変形を起こし易くなる。このため、梁部材21、22に極力、曲げ変形を起こさせずに梁部材21、22間の相対変形量を稼ぐ上では、外周梁2の支点間距離が小さい方がよく、図8では斜め柱3、3の屈曲部分間距離(外周梁2(梁部材21、22)の端部間距離)の小さい区間に制震装置5を設置している。
斜め柱3、3の屈曲部分間距離(外周梁2(梁部材21、22)の端部間距離)の小さい区間を梁部材21、22に分離させることで、斜め柱架構1の変形時に梁部材21、22間距離が拡大することから、制震装置5が曲げモーメントを負担し、弾塑性変形することによりエネルギ吸収能力を発揮する形式の場合にも、斜め柱3、3の屈曲部分間距離(外周梁2の小さい区間に制震装置5を設置することは有効である。
制震装置5がせん断力、または曲げモーメントを負担することによりエネルギを吸収する形式の場合、制震装置5は上記した、外周梁2の支点間距離が小さい区間以外の区間に架設されることもある。この他、制震装置5が軸方向力を受けることにより粘性抵抗、または摩擦抵抗を発揮する形式等の場合には、それぞれのエネルギ吸収の機構に応じて外周梁2、または斜め柱3への設置場所が決められる。