本発明は、吸油性連通多孔質構造体に関し、特に樹脂基材の内部に発達した粒状空洞部からなる多孔質体内に油分を保持することができる吸油性連通多孔質構造体に関する。
家庭や飲食店からの排出される廃油、工場等において用いられる油圧用油、切削油、潤滑等の工業用油、乗用車や船舶等の燃料油について、これらを放置すると、周縁環境に甚大な影響をもたらす。そのため、廃油類の適切な除去、処理等に関しては各種法律、条例等により規定されている。また、環境保護の点から、事故等により土壌、路面、河川、湖沼、及び海洋に流出した燃料油や廃油分に関してもできる限り迅速な回収が求められる。
油分除去の最も簡単な方法は油分を吸着することである。例えば、不織布繊維と樹脂フィルムとの積層体(特許文献1、特許文献2参照)が提案されている。特許文献1,2に開示の吸油材は、比較的安価に製造可能であり、吸油量も実用上十分である。しかし、これらの吸油材によると、一度油分を吸収した後に僅かな衝撃で簡単に油分が漏洩してしまう。単に油分の毛細管現象に依存して繊維間の空隙に保持されているに過ぎないため、油分の保液性能が低く、利便性に課題を有していた。また、油分と共に水分も吸収してしまうため、使用法によっては所望の吸油効率が得られないこともある。
油分の漏出に対応するべく、吸油性樹脂を含んだ不織布繊維を不織布内に封入して一体化した袋状物(特許文献3参照)、シート状基材内に、膨潤性吸油材粒子であるアクリル系樹脂とゼオライトである吸蔵型吸油材粒子の混合物を配した吸油性シート(特許文献4参照)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体から成る粒状の油ゲル化剤を連続気泡ポリエチレン系樹脂発泡体に浸透させた油吸着フィルター(特許文献5参照)等が提案されている。
特許文献3ないし5によると、吸油後の油分の漏出は改善される。しかし、種類によっては、吸油に伴い体積膨張が生じる難点がある。また、これらの吸油材の致命的な問題点は、ほぼ1回しか使用できないことである。これは、吸油性材料を使用するために不可避である。とりわけ、吸油材自体の再利用を所望する場合、あるいは油分を回収して再利用、精製を望む場合、これらは不向きである。また、一度の使用により吸油材自体も廃棄物となるため、環境問題への対応を考慮すると、必ずしも望ましいことではない。
このような経緯から、吸油材自体を多孔質化したシート体とすることにより、油分の保液性を高めた吸油材が提案されている(特許文献6、特許文献7参照)。当該特許文献によると、ポリプロピレン等の結晶多形を利用し、β晶からα晶への結晶転移を利用して細孔を形成する方法が好ましく用いられている。具体的には、β晶を含む無延伸シートを作成し、加熱・延伸の組み合わせによりα晶に結晶転移させることによる。β晶を含む無延伸シートを得る方法としては、溶融したポリプロピレンを徐冷することによりβ晶を形成させる方法、β晶核剤を添加したポリプロピレンを溶融、押し出しすることによりβ晶を形成させる方法がある。文献例では、β晶の安定した形成のためには、β晶核剤の添加が好ましいとされる。
しかしながら、前記の方法による場合、完成後のシート体における細孔の大きさ、形状、さらには細孔分布の制御は必ずしも容易ではない。そのため、品質面において差異が生じやすく、現状、量産化には至っていない。
特許2804772号公報
特許3710278号公報
特開平8−52832号公報
特開平8−52350号公報
特開2004−66054号公報
特開2005−144830号公報
特開2006−37095号公報
その後、発明者らは、樹脂基材における多孔質形成に関し鋭意研究を重ねたところ、容易にほぼ均質な空洞を基材内に形成する手法を見出した。そして、極めて良好な油分の吸収性能を得るに至った。
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、比較的安価かつ容易に成形でき、油分吸着のための吸油剤を用いることなく、構造体自体の特性により吸着した油分の保液性能に優れ、取り扱いの簡便な燃料油や廃油分を回収、除去する吸油性連通多孔質構造体を提供する。
すなわち、請求項1の発明は、水に溶解可能もしくは酵素により分解されて溶解可能な被除去物の溶解により形成された平均最大径が100μm以下の粒状空洞部をポリオレフィン系樹脂からなる樹脂基材の内部に有し、前記樹脂基材は前記粒状空洞部同士を連通させた連通多孔質体として構成され、前記樹脂基材の表面に前記粒状空洞部の最大径よりも小さく形成された開口部が開口しており、前記樹脂基材の前記表面は疎水的であって前記樹脂基材の内部への水分の浸透が妨げられ、油分は前記開口部から前記粒状空洞部を伝わりながら前記連通多孔質体の内部に浸透することによって、燃料油や廃油分を回収、除去することを特徴とする吸油性連通多孔質構造体に係る。
請求項2の発明は、水に溶解可能もしくは酵素により分解されて溶解可能な被除去物の溶解により形成された平均最大径が100μm以下の粒状空洞部を生分解性樹脂からなる樹脂基材の内部に有し、前記樹脂基材は前記粒状空洞部同士を連通させた連通多孔質体として構成され、前記樹脂基材の表面に前記粒状空洞部の最大径よりも小さく形成された開口部が開口しており、前記樹脂基材の前記表面は疎水的であって前記樹脂基材の内部への水分の浸透が妨げられ、油分は前記開口部から前記粒状空洞部を伝わりながら前記連通多孔質体の内部に浸透することによって、燃料油や廃油分を回収、除去することを特徴とする吸油性連通多孔質構造体に係る。
請求項3の発明は、連通多孔質体がフィルム状物又はシート状物である請求項1又は2に記載の吸油性連通多孔質構造体に係る。
請求項4の発明は、前記粒状空洞部に吸着材が封入されている請求項1又は2に記載の吸油性連通多孔質構造体に係る。
請求項5の発明は、前記吸着材が活性炭である請求項4に記載の吸油性連通多孔質構造体に係る。
請求項1の発明に係る吸油性連通多孔質構造体によると、水に溶解可能もしくは酵素により分解されて溶解可能な被除去物の溶解により形成された平均最大径が100μm以下の粒状空洞部をポリオレフィン系樹脂からなる樹脂基材の内部に有し、前記樹脂基材は前記粒状空洞部同士を連通させた連通多孔質体として構成され、前記樹脂基材の表面に前記粒状空洞部の最大径よりも小さく形成された開口部が開口しており、前記樹脂基材の前記表面は疎水的であって前記樹脂基材の内部への水分の浸透が妨げられ、油分は前記開口部から前記粒状空洞部を伝わりながら前記連通多孔質体の内部に浸透することによって、燃料油や廃油分を回収、除去するため、油分吸着のための吸油剤を用いることなく、構造体自体の特性により吸着した油分の保液性能に優れ、良好な吸収性能を得ることができ、取り扱いは簡便となる。
さらに、被除去物の溶解を安価かつ容易に行うことができ、被除去物の溶解後の処理として、乾燥のみで済むことから製造に要する処理が簡便となる。また、水に不溶、難溶、あるいは含水に伴いゲル化や粘調化する被除去物を用いてより速い処理速度により粒状空洞部を形成可能となる。そのため、比較的安価かつ容易に成形でき、完成後の粒状空洞部の大きさ、形状の制御も容易である。特に、油分との親和性が良好であり、しかも軽量、安価である。とりわけ、水分の吸収を抑制しながら油分を吸収用途に適する。
請求項2の発明に係る吸油性連通多孔質構造体によると、水に溶解可能もしくは酵素により分解されて溶解可能な被除去物の溶解により形成された平均最大径が100μm以下の粒状空洞部を生分解性樹脂からなる樹脂基材の内部に有し、前記樹脂基材は前記粒状空洞部同士を連通させた連通多孔質体として構成され、前記樹脂基材の表面に前記粒状空洞部の最大径よりも小さく形成された開口部が開口しており、前記樹脂基材の前記表面は疎水的であって前記樹脂基材の内部への水分の浸透が妨げられ、油分は前記開口部から前記粒状空洞部を伝わりながら前記連通多孔質体の内部に浸透することによって、燃料油や廃油分を回収、除去するため、油分吸着のための吸油剤を用いることなく、構造体自体の特性により吸着した油分の保液性能に優れ、良好な吸収性能を得ることができ、取り扱いは簡便となる。
さらに、被除去物の溶解を安価かつ容易に行うことができ、被除去物の溶解後の処理として、乾燥のみで済むことから製造に要する処理が簡便となる。また、水に不溶、難溶、あるいは含水に伴いゲル化や粘調化する被除去物を用いてより速い処理速度により粒状空洞部を形成可能となる。そのため、比較的安価かつ容易に成形でき、完成後の粒状空洞部の大きさ、形状の制御も容易である。特に、成形体としての安定性、加工容易性に加え、吸油材としての環境負荷に対応するべく分解性能等が重視される場合に用いられる。
請求項3の発明に係る吸油性連通多孔質構造体によると、請求項1又は2に記載の発明において、連通多孔質体がフィルム状物又はシート状物であるため、新規の吸油フィルム、吸油シートを得ることができる。また、フィルム状物やシート状物の形態は、保管に都合よく、連続生産できる利点がある。
請求項4の発明に係る吸油性連通多孔質構造体によると、請求項1又は2に記載の発明において、前記粒状空洞部に吸着材が封入されているため、毛細管現象の補助、油分中から不純物の分離、濾過、精製の機能も発揮する。
請求項5の発明に係る吸油性連通多孔質構造体によると、請求項4に記載の発明において、前記吸着材が活性炭であるため、活性炭の種類を選択することにより吸収した油分中より目的とする物質の吸着、捕捉に適応させることができる。
以下添付の図面に従って本発明を説明する。
図1は第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図、図2は第2実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図、図3は第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体の概略工程図、図4は第3実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図、図5は第3実施形態の吸油性連通多孔質構造体の概略工程図、図6は第3ないし第5実施形態に用いる被除去物の断面模式図、図7は第4実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図、図8は第5実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
本発明の吸油性機能を有する連通多孔質構造体とは、当該多孔質構造内に油分を保持可能とした吸油材である。そこで、図1の断面図に示した第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Aは、樹脂基材11の内部に粒状空洞部12を連通させた連通多孔質体13を有する構造である。同時に、当該樹脂基材11の表面14に粒状空洞部12の開口部16が開口している構造体である(後出の電子顕微鏡写真参照)。
吸収対象となる油分とは、常温で液体の炭化水素化合物を示し、例えば、へキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒をはじめ、アルコール類も含まれうる。また、酪酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等の脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)を示し、列記の脂肪酸を含んだトウモロコシ油、大豆油、菜種油、オリーブ油、ごま油、亜麻仁油、綿実油、紅花油、ひまわり油、しそ油、落花生油、やし油、魚油等の油類、ラード、ヘット、乳脂等の脂類等の可食用油脂も含まれる。この他、各種のトリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール類、ろう(ワックス)に加え、ホスファチジルコリン等のリン脂質、テルペン類、ステロール類も含められる。これらに加え、機械用の洗浄油、潤滑油、切削油、エンジンオイル等の各種工業油や、ガソリン(ケロシン)、灯油、軽油、重油等の各種燃料油も含められる。
樹脂基材11内部の粒状空洞部12の形状は、球形状、楕円体、紡錘体等、多角形状体の適宜であり、概ね粒状とみなすことができる限り形状については特段限定されない。粒状空洞部が略球形状の場合には、最大径Szは直径であり、楕円体、紡錘体等であれば、最大径はそれらの最大長となる。粒状空洞部12の最大径Szは、平均最大径約100μm以下の範囲内である。粒状空洞部の形状、大きさは、後述の被除去物の形状、大きさ等に依存して規定される。
粒状空洞部の大きさは、本発明の目的である吸油性能を発揮しうる範囲から規定される。大半の粒状空洞部の平均最大径が100μmを超える場合、樹脂基材内部に形成された粒状空洞部自体の表面積が減少する。そのため、油分の毛細管現象が作用しにくくなり、いったん吸収した油分を容易に放出してしまう。このため、油分の保液性能(保持性能)の低下が顕著となる。粒状空洞部の平均最大径の下限については、約1μmとされる。粒状空洞部の最大径を極端に小さくすると、油分自体の粘性等により、油分の吸収、浸透そのものが阻害され、吸油性能を十分に発揮できないためである。粒状空洞部の大きさ、形状については、前記の範囲としながらも吸油性連通多孔質構造体自体の強度、用途等に影響を与えない範囲において規定される。
図1に開示する第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Aによると、各々の粒状空洞部12は樹脂基材11内部全体に分散して存在している。粒状空洞部同士は、互いに接触した連通構造として形成されている。吸油性連通多孔質構造体10Aの樹脂基材11の表面14に着目すると、粒状空洞部12の開口部16を介してその表面に開口している。開口部16から油分は構造体10A内部に浸透する。図示並びに後出の電子顕微鏡写真からも把握されるように、互いに隣接しあう粒状空洞部12同士が連通している部位の開口部分(連通開口部17)及び開口部16の口径は、粒状空洞部の最大径よりも小さく形成されている。
開口部の口径を考慮すると、吸油性連通多孔質構造体10Aの表面に接触した水分は基材自体の疎水条件や水自体の表面張力により内部への浸透が妨げられる。一方、油分は水よりも表面張力が小さく基材自体の親油条件により開口部から個々の粒状空洞部を伝わりながら速やかに構造体の内部に浸透できる。しかも、粒状空洞部は連通開口部17を有して適度に区画された内部タンクとしての役割を果たすため保液性にも優れる。
図2の断面図に示す第2実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Bによると、樹脂基材11b内部の粒状空洞部12は、その一部側に偏在して連通する連通多孔質構造体13bとして形成されている。第2実施形態のように樹脂基材の一部側、特に図2では樹脂基材内の一面側のみに微細な空洞を有する連通多孔質構造体とすることにより、吸油部位と既存の基材部位との作り分けが可能となる。特に、図2の吸油性連通多孔質構造体10Bの場合、連通多孔質体の単位体積に占める粒状空洞部の体積は前出の第1実施形態と比して少なくなる。従って、多孔質構造体としての強度が求められる利用分野に適する。
吸油性連通多孔質構造体における粒状空洞部は、事後的に溶解可能な被除去物の溶解、除去に伴い形成された空間そのものである。図3に従い粒状空洞部の形成方法を説明する。図示は吸油性連通多孔質構造体10Aの例示に基づく。
始めに、被除去物が樹脂基材材料中に混入され、樹脂基材材料は所定形状の成形体に成形される。図3(a)のとおり、成形体101において、基材110中に被除去物120が適度に分散されている。この成形段階では、被除去物の溶解は始まっておらず、ほぼ混入時の形状を維持している。
樹脂基材材料の成形後、成形体101内の被除去物を溶解させると、当該成形体内に粒状空洞部を形成した連通多孔質体が得られる。図3(b)では、成形体101内の被除去物120の溶解に伴い被除去物が縮小し、続く図3(c)のように、成形体101内の被除去物120は完全に消失し、その空間は粒状空洞部12となる。こうして基材110の骨格が取り残されて連通多孔質体13が得られる。図示はしないが、必要に応じて吸油性連通多孔質構造体の洗浄、乾燥等が行われ精製される。粒状空洞部を互いに連接させるためには、樹脂基材材料中に混入する被除去物の量を増やすことにより対応できる。むろん、被除去物の混入量については、後述の樹脂の種類、用途、耐久性等を勘案して最適量が設定される。
第1製造形態の手法を用いて吸油性連通多孔質構造体10B(図2参照)を製造する場合には、被除去物の混入量、樹脂成形材料に分散させる位置、樹脂成形材料中への被除去物の混入方法や条件、被除去物の比重等の諸条件が制御される。
吸油性連通多孔質構造体の樹脂基材としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、あるいはポリエステル樹脂等の有機高分子化合物が用いられる。油分との親和性が良好であり、軽量、安価であり極めて利便性が高いことから、ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。
ポリオレフィン樹脂を例示すると、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルとの1種または2種以上のランダムまたはブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、1−ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂等の炭化水素系樹脂である。
上記ポリオレフィン樹脂に加え、ポリアミド樹脂を例示すると、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610及びナイロンMXD等のポリアミド系樹脂である。ポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂である。
その他に利用可能な樹脂として、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン−アクリロニトリル系樹脂、PTFE等のフッ素樹脂、ポリイソプレン系樹脂、SRB等のブタジエン系のゴム、ポリイミド樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水素結合性樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリケトン樹脂等を挙げることができる。
これらに加えて、吸油性連通多孔質構造体の樹脂基材(樹脂成形材料)は、生分解性樹脂を用いることができる。生分解性樹脂は、動物、植物からの産生物をほぼそのまま利用した化合物と、この化合物を出発原料として適宜調製した樹脂素材の両方が含まれる。前者の天然物には、キチン、キトサンである。後者の樹脂素材には、羊毛等のケラチン由来のタンパク質樹脂、例えばバチルス属等の細菌から産生されるポリ−3−ヒドロキシ酪酸、あるいはポリ−3−ヒドロキシ吉草酸、並びに両分子からなる共重合体、デンプンから調製されるポリ乳酸等、種々の樹脂が該当する。さらに、これら以外にも、微生物的生分解性能に優れたポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等も含めることができる。
列記の生分解性樹脂は、成形体としての安定性、加工容易性に加え、吸油材としての環境負荷に対応するべく分解性能等が重視される場合に選択される。列記の各種樹脂(生分解性樹脂も含む。)の基材材料としての選択は、耐油性素材である前提において、粒状空洞部形成に用いる被除去物の種類、特性等を勘案して適切に行われる。
続いて、被除去物並びに連通多孔質体内の粒状空洞部形成について述べる。被除去物を水に溶解可能な種類とすることにより、水を溶媒として成形体をその中に浸漬して、成形体内部の被溶解物を溶解、除去できる。水には、冷水、温水、熱水、亜臨界水も含まれる。また、酸・アルカリのpH値の調整や適宜の塩類の溶解液も含まれる。これらは総称して水系の溶剤である。
被除去物の大きさは、粒状空洞部の大きさ(平均最大径100μm以下)に合致する程度の大きさとする必要がある。水溶性の被溶解物を具体的に挙げるならば、糖類の結晶、例えば、グルコースの結晶、氷砂糖、角砂糖(糖の凝固物)等である。塩類の結晶の場合、例えば、塩化ナトリウムの結晶、みょうばんの結晶、硝酸カリウムの結晶等である。他に、所定の粒子径に粉砕、分級された石灰岩や炭酸カルシウム結晶を水溶性の被溶解物とすることも可能である。この場合、水系の溶媒として希塩酸を用い溶解が行われる。自明ながら、樹脂基材(成形材料)は水系の溶剤に不溶、難溶な材料から選択される。
水系の溶剤を用いる利点は、被除去物の溶解を安価かつ容易に行うことができる。また、被除去物の溶解後の処理として、乾燥のみで済むことから製造に要する処理が簡便となり、相対的に製造原価の圧縮が可能となる。
水系の溶剤の別形態として、被除去物は酵素により分解されて溶解可能な物質から選択される。すなわち被除去物には当該酵素の基質が用いられる。使用する酵素は、アミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ(ペプチダーゼ)等の加水分解酵素から適切に選択され、基質に応じて単一種の酵素、あるいは複数種の酵素としても良い。
酵素と被除去物との対応は両者間の基質特異性に依存する。アミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ等による場合、基質となる被除去物は糖鎖化合物となる。リパーゼは直鎖カルボン酸、トリグリセリド、パラフィン等の油脂類の分解に用いられる。プロテアーゼ(ペプチダーゼ)はタンパク質、あるいはペプチド結合、アミド結合を有する高分子化合物、ポリ乳酸等の加水分解に用いられる。
具体例を示すと、基質となる被溶解物がデンプンの場合、その酵素にはα−アミラーゼ(EC 3.2.1.1)、β−アミラーゼ(EC 3.2.1.2)、加えてプルラナーゼ(EC 3.2.1.41)等が選択される。同時に、吸油性連通多孔質構造体の成形体を成す樹脂基材は、前記のアミラーゼ等の加水分解を受けない組成とする必要がある。例えば、基材はポリエチレン、ポリ乳酸等の樹脂素材となる。
デンプン粒子の形態や粒径は植物種によって異なり、粒径は約1〜100μmである。例えば、馬鈴薯デンプン等の粒子は平均粒径約30〜40μmの楕円形であり、コーンスターチ粒子や緑豆デンプン等は平均粒径13〜15μm程度である。目的とする吸油性連通多孔質構造体の粒状空洞部の形態、大きさにより、これらのデンプン粒子が選択され、1種類のみ、あるいは複数種類のデンプン粒子が用いられる。被除去材を上記のデンプン粒子とする場合、酵素分解を容易にするため、成形体は分解するデンプンの糊化温度以上の温水浴中にて加温され、デンプンの糊化(アルファ化)が促進される。
別例として、酵素をプロテアーゼ(Proteinase K)とする場合、基質となる被除去物にポリ乳酸(poly(L−lactide))が選択される。同時に、撥水性多孔構造体の成形体を成す基材は、プロテアーゼの加水分解を受けない樹脂種とする必要がある。そこで、基材はポリエチレンのポリオレフィン系樹脂等となる。また、酵素をリパーゼとする場合、基質となる被除去物には比較的融点が高い油脂類(高分子量の油脂類)、パラフィン類等が用いられる。
酵素処理に供する酵素溶液は、当該酵素の活性が最適に反映される至適温度、至適pHに維持される。被除去物(基質)の酵素加水分解物により、酵素溶液自体のpH等が変化することもあり得るため、適宜の緩衝液が添加されることもある。また、酵素加水分解物が反応阻害剤としても作用する懸念もあり得ることから、図3の工程にあっては、連続処理、回分処理を適式に組み合わせて行われる。併せて、用途に応じ、必要により残存する酵素の失活を行う場合もある。例えば、アルコール、高塩溶液、酸や塩基の溶液への浸す他、加熱することもある。なお、樹脂基材や被除去物の性質によるものの、速度反応論を加味して、至適温度を高めとする酵素の選択が好ましい。
酵素処理の利点は、水に不溶、難溶、あるいは含水に伴いゲル化や粘調化する被除去物を用いてより速い処理速度により粒状空洞部を形成可能な点である。その他、粒度分布の狭いデンプン等を用い酵素で分解除去することにより、大半が均一な最大径を有した粒状空洞部を得ることができる(図1等参照)。そのため、樹脂基材内に形成される粒状空洞部の大きさはいずれも一致し、事後的に基材表面に露出する開口部の大きさも概ね揃う。従って、吸油性連通多孔質構造体としての吸油性能が安定する。
既述の水系の溶剤に加え、溶剤に有機溶剤を用い、被除去物を有機溶剤により除去可能な物質とすることができる。有機溶剤の種類は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールをはじめとする各種アルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、他にアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、他にアセトニトリル等、また、へキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、シリコーンオイル、テルペン類、リモネン等のいずれであっても良い。これらは、単独種で用いることもできるが、樹脂基材及び被除去物の溶解性に鑑み複数種の有機溶剤を混合調整して用いることができる。
有機溶剤に対応する被溶解物には、例えば、ポリスチレン等の微粒子を用いることが検討される。樹脂基材並びに被除去物が共に油溶性成分である場合であっても、被除去物のみ特に有機溶剤に溶解しやすい樹脂種を選択し、樹脂基材の溶解が進行する以前に溶剤を除去することも考えられる。被除去物を有機溶剤に溶出させた後、基材並びに被除去物は適宜乾燥を経て所望の吸油性連通多孔質構造体が得られる。
上記のとおり、吸油性連通多孔質構造体の樹脂基材に関しては、広汎な樹脂素材の使用が可能である。これらの高分子化合物からの加工は、形状いかんによるものの比較的に容易である。そこで、吸油性能を有した所望形状の成形体(例えばペレット状、粉末状、粒状等)、あるいはブロック状、繊維状等とする他、フィルム状物またはシート状物の形態とすることもできる。特にその連通多孔質体(成形体)をフィルム状物またはシート状物の形態とすることにより、新規の吸油フィルム、吸油シートを得ることができる。繊維状の成形体からは吸油性を有する織布とすることもできる。フィルム状物やシート状物の形態は、保管に都合よく、連続生産できることから、製造原価の上で望ましい。これは、一度に大量に使用する用途、例えば海上に投入して油濁汚染をくい止める場合等に好適である。
以上列記した成形材料及び被除去物からなる成形体について、これらの成形には、押出成形、ブロー成形、プレス成形等の適宜樹脂加工分野の公知成形手法が用いられる。この結果、所望の成形形状が得られる。これらの他に、冷間静水圧プレス(CIP)、テープキャスティング法等を用いても良い。また、成形体を繊維状に加工することを所望の場合には、公知の紡出装置が用いられる。
とりわけ、連通多孔質体(成形体)がフィルム状物またはシート状物である場合にあっては、溶液キャスト法、Tダイ法、チューブラー法、カレンダー法等の公知の方法が使用される。成形材料を熱可塑性樹脂とするフィルムは、プレス成形等による無延伸とする他に、機械的物性等から延伸フィルムとしてもよい。延伸フィルムを製造する際の延伸方法には、ロール−一軸延伸、圧延、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、チューブラー延伸等の公知の方法が使用できる。特に、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が、厚薄精度、機械的物性等の点で優れているため好ましい。
図4の断面図に示す第3実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Cにあっては、粒状空洞部12の内部に吸着材35が封入される。この吸着材35には、浸透した油分の吸着、固定を補助する目的から、ゼオライト、シリカ、タルク等の一般的な吸蔵型吸油剤を利用することができる。ただし、これらの吸蔵型吸油剤を担持した吸油性連通多孔質構造体製品は1回限りの使用となる。吸油材としての再利用性を勘案すると、これらの吸蔵型吸油剤の利用は必ずしも好適ではない。
そこで、好ましく用いられる吸着材35には、毛細管現象を補助するためのポリオレフィン系樹脂の繊維や、ポリウレタンフォームの微細片を封入することが考えられる。また特に、吸着材35には活性炭が用いられる。活性炭は、連通多孔質体内に含浸した油分中から不純物を分離する濾過や精製等の作用を有する点で最適である。
活性炭吸着材には、樹木、竹、やし殻、コーヒー豆等の天然素材の炭化物を用いることができる。これに加え、前記の天然物を由来とする活性炭、古タイヤ、フェノール樹脂等の各種有機樹脂を用いた合成物由来の活性炭が用いられる。むろん、活性炭の出発原料はこれらに限られることはなく、また、製造方法、賦活方法等は適宜である。
活性炭は、空洞部内への封入、保持等の取り扱い面において簡便であり、耐熱性、酸やアルカリ等の耐薬品性等においても優れている。また、既存の活性炭製品を容易に転用することもできる。一般に活性炭は、ミクロ孔(細孔直径2nm以下)、メソ孔(2〜50nm)、マクロ孔(50nm以上)までの広範囲にわたる細孔を有し、細孔直径、細孔分布、表面積等の各種指標を比較的均質に制御することができる。従って、活性炭の種類を選択することにより、空洞内部に浸透した油分中から目的とする様々な大きさの物質を吸着、捕捉させることが容易となる。活性炭は粉末状形態が好ましく用いられる。粉末活性炭は、平均粒径1〜60μmの破砕物、粒状物である。活性炭については、単独種のみの使用、もしくは複数の種類、大きさに加え、出発原料等を異とする活性炭の混合使用も当然に可能である。
吸着材を粒状空洞部に封入した吸油性連通多孔質構造体の製法については図5の概略工程図が参照される。図5(a)のように、予め、吸着材35と被除去物31とからなる複合材30が調製される。この複合材30は樹脂基材材料中に混入され、樹脂基材材料は所定形状の成形体に成形される。図5(b)のとおり、成形体201において、基材210中に複合材30が適度に分散されている。この成形段階では、複合材の被除去物の溶解は始まっておらず、ほぼ混入時の形状を維持している。
樹脂基材材料の成形後、成形体201内において複合材の被除去物31を溶解させると、当該成形体内に吸着材35を残しながら粒状空洞部を形成した連通多孔質体が得られる。図5(c)では、成形体201内における複合材の被除去物31の溶解に伴い被除去物は次第に縮小し、続く図5(d)のように、成形体201内の複合材の被除去物31は完全に消失し、吸着材35を封入した粒状空洞部12が形成される。こうして基材210の骨格が取り残されて吸着材35入りの連通多孔質体13が得られる。図示はしないが、必要に応じこの例の吸油性連通多孔質構造体についても洗浄、乾燥等が行われ精製される。粒状空洞部を互いに連接させるためには、同様に樹脂基材材料中に混入する複合材の量を増やすことにより対応できる。複合材の混入量については、前述の樹脂の種類、用途、耐久性等を勘案して最適量が設定される。
続いて、樹脂基材材料中に混入する複合材の構造を図6の断面模式図を用い説明する。図6(a)は、単一の吸着材35x表面の全部または一部が被除去物31xにより被覆された複合材30Xである。この吸着材35xには、粒状活性炭が好ましく用いられる。吸着材35xを用いた場合、吸着材が粒状空洞部の内部空間に占める割合は大きくなり、油分を濾過する機能等が高まる。
図6(b)は、複数の吸着材35y表面の全部または一部が被除去物31yにより被覆された複合材30Yである。この吸着材35yには、粉末粒状活性炭が好ましく用いられる。吸着材35yを用いた場合、吸着材が粒状空洞部の内部空間に占める割合を比較的小さくして、油分の保持と濾過の機能等の両立できる。
図6(c)は、被除去物31zの表面に吸着材35zが被着され、さらにバインダ32により表面が被覆、保護された複合材30Zである。この吸着材35zにも、粉末粒状活性炭が好ましく用いられる。吸着材35zを用いた場合、吸着材が粒状空洞部の内部空間に占める割合をかなり小さくすることができることから、濾過の機能に加えて油分の保持機能等にも優れる。
図6に例示する複合材によると、被除去物の溶解しやすさや処理の簡便さを考慮して、当該被除去物、バインダには、糖、デンプン等が用いられる。また、吸着材は例示の活性炭に限られることはなく、種々の繊維状物を用いることもできる。これらの複合材の調製に際しては、被除去物と吸着材との加熱後の乾固、あるいはスプレードライヤによる噴霧乾固等の手法を用いることができる。
図7の断面図は第4実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Dを示す。当該構造体10Dは前出の複合材30Zを用い、その被除去物及びバインダを溶解、除去して得ることができる。吸着材35zは粒状空洞部12の壁面に付着して残留している。
図8の断面図は第5実施形態の吸油性連通多孔質構造体10Eを示す。当該構造体10Eにおいても、樹脂基材11b内部の粒状空洞部12は、その一部側に偏在して連通する連通多孔質構造体13bとして形成され、その粒状空洞部12に吸着材35が封入されている。前出の第2実施形態と同様に、第5実施形態においても樹脂基材の一部側(樹脂基材内の一面側)のみに微細な空洞を有する連通多孔質構造体とすることにより、吸油部位と既存の基材部位との作り分けが可能となる。図8の吸油性連通多孔質構造体10Eの場合、連通多孔質体の単位体積に占める粒状空洞部の体積は前出の第3実施形態(図4参照)と比して少なくなる。従って、吸着材を封入した多孔質構造体としての強度が求められる利用分野に適する。
各図において、共通する符号は同一箇所を表すものとする。また、開示の形態に必ずしも限定されることなく、必要に応じて組み合わせて作成することも可能である。図示しないが、例えば、複合材30Xと複合材30Zの両方を用い、吸油性連通多孔質構造体の内部に吸着材35x,35zを併存させてもよい。
以上のとおり詳述した吸油性連通多孔質構造体に関し、例えばフィルム状、またはシート状の成形体とした場合、当然吸油材として吸油フィルム、吸油シートを得ることができる。この用途としては、工場や工事現場等において使用される機械油、燃料油等の漏出時の除去、機械類からのふき取り、回収、滑り止め等に用いることができる。また、飲食店等にあっては、食材、器材の油脂類汚れの清掃、衣服や靴からの除去等の用途が想定できる。また、土壌、路面、河川、湖沼、及び海洋に流出した燃料油や廃油分を回収、除去するフィルム、シートの用途にも利用できる。とりわけ、水分の吸収が低く抑えられ、油分の吸収効率が高いため、洋上作業に好適である。
基材樹脂を生分解性樹脂とすることにより、使用後の処理に要する環境負荷が軽減される。特に、海上での使用時の天候悪化等により回収が不十分である場合、吸油材の回収の残りが二次汚染の原因となりかねない。このような場合であっても、生分解性樹脂性の吸油性連通多孔質構造体ならば、事後的に分解が進むため、被害拡大を抑制できること考えられる。
さらに、吸油性連通多孔質構造体は、粉末状、粒状、ペレット状としても良い。これらは、散布目的で使用される。むろん、回収後に圧搾して油分のみを分離することもできる。
加えて、吸油性連通多孔質構造体は、その多孔質体の粒状空洞部内に吸着材を封入できることから、別途、油分の濾過、精製の機能を備える。そこで、油分回収後の再利用時の利便性を高めることができる。他に、活性炭等の吸着材の細孔内に油濁を分解可能な微生物を浸透、担持させて、吸油性連通多孔質構造体自体に油分の分解処理性能を併せ備えることもできる。あるいは、吸着材、吸着材を含む粒状空洞部に適宜の界面活性剤を含浸させておくこともできる。
発明者らは、基材となる樹脂を5種類用意し、馬鈴薯デンプンを被除去物とする内部に粒状空洞部を有した連通多孔質体からなる吸油性連通多孔質構造体を既述の第1製造形態(図3参照)に基づいて試作した。以下の各試作例について、単位体積当たりの吸着量等を算出した。以下、表中の一部の数値は小数点以下を丸めて表記している。
[試作例の作成:樹脂種の評価]
・試作例1
試作例1の作成に当たり、基材となる樹脂に直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(宇部丸善ポリエチレン株式会社製:ユメリット 0540F)を用いた。以下同樹脂を「LLDPE」と略記する。被除去物に馬鈴薯デンプン(東海澱粉株式会社製)を用いた。同馬鈴薯デンプンの平均粒子径は約27μmである。
馬鈴薯デンプン78重量部をLLDPE22重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。この混合樹脂体をステンレス鏡面板内に注入し、140℃を維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形した。成形後、冷却してシート状成形体(縦10cm×横10cm、厚さ300μm)を得た。
酵素にはアミラーゼ(大和化成株式会社製:クライスターゼT−5)を用い、同酵素を1重量%含む85℃に加温した熱水浴を用意し、この中にシート状成形体を2時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、ポリエチレン樹脂を基材とする酵素処理を経た吸油性連通多孔質構造体(試作例1)を得た。混合樹脂体の成分の配合割合は下記の表1にも記した。以下の試作例についても同様である。表中のwt%は重量部である。
・試作例2
試作例1の吸油性連通多孔質構造体の作成において、基材となる樹脂をLLDPEからポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製:ノバテックFX4E)に変更した。以下同樹脂を「PP」と略記する。試作例2では、馬鈴薯デンプン66重量部をPP34重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。その後の成形条件、酵素処理条件等は、試作例1と共通とした。
・試作例3
試作例1の吸油性連通多孔質構造体の作成において、基材となる樹脂をLLDPEからポリ乳酸樹脂(和光純薬工業株式会社製:PLA−0020)に変更した。以下同樹脂を「PLA」と略記する。試作例3では、馬鈴薯デンプン75重量部をPLA25重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。その後の成形条件、酵素処理条件等は、試作例1と共通とした。
・試作例4
試作例1の吸油性連通多孔質構造体の作成において、基材となる樹脂をLLDPEからエチレンビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業株式会社製:ソアノールA4412)に変更した。以下同樹脂を「EVOH」と略記する。試作例4では、馬鈴薯デンプン73重量部をEVOH27重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。その後の成形条件、酵素処理条件等は、試作例1と共通とした。
・試作例5
試作例1の吸油性連通多孔質構造体の作成において、基材となる樹脂をLLDPEからポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリプラスチックス株式会社製:ジュラネックス400LP)に変更した。以下同樹脂を「PBT」と略記する。試作例5では、馬鈴薯デンプン71重量部をPBT29重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。その後の成形条件、酵素処理条件等は、試作例1と共通とした。
試作例1の吸油性連通多孔質構造体に関し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して撮影した写真を示す。図9は倍率200倍の表面写真、図10は倍率200倍の断面写真、図11は倍率1000倍の断面写真である。図9の写真より当該構造体によると、表面に適度な孔径を有した開口部が形成されている。また、図10,図11の写真より当該構造体の断面をみると、いずれの粒状空洞部同士は、互いに接触した連通構造として形成されている。写真中、白い部分は樹脂基材の連通多孔質体であり、スポンジ状を成している。なお、図示しないものの、試作例2ないし5の吸油性連通多孔質構造体も試作例1とほぼ同様の構造である。
試作例1ないし5により調製した吸油性連通多孔質構造体について、その形態、吸油性能を以下の測定手法に基づき測定、算出した。吸収させる油分は、食用油としてサラダオイル(日清オイリオグループ株式会社製:日清サラダ油)、A重油、トルエン、エタノール、n−オクタンとした。さらに、比較例として、既存の吸油材より、ポリプロピレン製不織布(三井化学株式会社:タフネルオイルブロッターBL−50,厚さ5mm)を用い(比較例1)、試作例と同様の測定に供した。結果は表1のとおりである。
[油分の吸着量]
試作例1ないし5により調製した吸油性連通多孔質構造体を1辺5cmの正方形に切り出してシート状物とした。各試作例のシート状物について、予めそれぞれの重量(初期重量(g):W1)を計測した。シート状物が十分に浸る程度の量の油分をビーカー内に注ぎ、ここにシート状物を浸して5分間静置した。ビーカーからシート状物を取り出し、ステンレス金網上に油分を吸収したシート状物を丁寧に広げてさらに5分間放置した。5分間の放置後、再度それぞれのシート状物の重量(吸着重量(g):W2)を計測した。そこで、以下の式(i)に基づいて単位体積当たりの吸着量X(g/cm3)を算出した。式中、dはシート状物の見かけの密度(g/cm3)である。
なお、吸着量Xは単位体積当たりの重量となるため、各試作例と比較例との間のシート状物の厚さが相違する影響は無視できる。発明者らは、当初、試作例の構造体を5mmの厚さで調製し、吸着量等を計測していた。しかし、5mmの厚さの結果と上記の300μm厚さの試作例とほとんど同等の結果となった。このため、試作例については、その厚さを製作容易な300μmのシート状とした。
[空洞孔径]
各試作例の吸油性連通多孔質構造体について、それぞれの電子顕微鏡の断面写真より、任意の20個の粒状空洞部を抽出し、個々の粒状空洞部断面の面積を測定し、20個の平均面積Saveを求めた。次に粒状空洞部断面を真円とみなし、その直径(空洞孔径)D(μm)を求めた。式(ii)参照のとおりである。
[空隙率]
基材として用いた樹脂の密度ρr(g/cm3)及び試作例として出来上がった吸油性連通多孔質構造体の密度ρs(g/cm3)より、式(iii)に基づいて空隙率Bを求めた。
[通気度]
通気度(sec/100mL)は、JIS−P−8117(1998)に準拠し、ガーレ式デンソメータ(株式会社東洋精機製作所製:G−B2C)を用い、同法に準拠して測定した。
表1の結果は、吸油性連通多孔質構造体に使用可能な樹脂種は比較的多様であることを示す。樹脂間において油分の種類毎の吸収性能に差が見られることから、吸着目的に応じて基材組成樹脂を選択することが好ましい場合もありうる。吸油性連通多孔質構造体の組成について、ポリオレフィン系樹脂ほど油分のみを選択的に吸収している。発明者らは、特にポリオレフィン系樹脂が極性部位を持たないことを理由と考える。このため、ポリオレフィン系樹脂並びにそれ以外の樹脂の吸油性連通多孔質構造体は、実需要における既存の吸油材との代替の可能性を示唆する。
表1より比較的油分の吸収性能が高い試作例1及び2の吸油性連通多孔質構造体について、前出の比較例(ポリプロピレン製不織布)と共に次の測定手法に基づき水分の吸収しやすさの評価も行った。この測定手法は、海上に流出する油濁分のみを回収する際、急流にさらされた状況等を想定する。
[水分の吸着量]
試作例1及び2により調製した吸油性連通多孔質構造体を1辺5cmの正方形に切り出してシート状物とした。各試作例のシート状物について、予めそれぞれの重量(初期重量(g):W1)を計測した。ステンレス金網上にシート状物をおき、その上部から、12リットル/分の水道水を5分間当て続けた。このシート状物を取り出し、別の乾いたステンレス金網上に水分を吸収したシート状物を丁寧に広げてさらに5分間放置した。5分間の放置後、再度それぞれのシート状物の重量(吸着重量(g):W2)を計測した。結果は表2のとおりである。油分、水分の吸収は共に重量変化であるため、いずれも前記の式(i)により吸着量X(g/cm3)を算出、評価することができる。
表2の結果が示すように、ポリオレフィン系樹脂からなる吸油性連通多孔質構造体(試作例1及び2)は水分をほとんど吸収しない。これに対し、比較例の吸油材には水分の吸収がある。発明者らは、この相違を構造によると想定する。比較例の吸油材は繊維状であるため、比較的内部に水分、油分共に浸透しやすい。しかし、本発明の吸油性連通多孔質構造体はSEMの写真から分かるように、構造体の表面に空洞部に通じる細孔があるものの、その開口部は空洞径と比べて小さい。そこで、発明者らは、本発明の吸油性連通多孔質構造体の表面は極めて疎水的であることから、水分の内部への浸透を妨げられていると考える。
従って、例えば、海上(水上)に浮遊する油分を回収する場合、吸油性連通多孔質構造体は水をほとんど吸着せず、選択的に油分のみを回収することができ、油分を効率良く回収できることを示唆する。
[試作例の作成:空洞孔径の評価]
次に、表1の結果から全般的に油分の吸収性能が高い樹脂として直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)を用い、これに各種の平均粒径の被除去物を添加し、異なる空洞孔径を有する試作例6ないし10の吸油性連通多孔質構造体を試作した(表3の空洞孔径の欄を参照)。以下の表3に被除去物の粒径の順に試作例の結果を示す。
・試作例6
試作例1の吸油性連通多孔質構造体の作成において、被除去物を前出の馬鈴薯デンプンから平均粒径約13μmの緑豆デンプン(東海澱粉株式会社製)に変更した。試作例6では、緑豆デンプン66重量部をLLDPE34重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。その後の成形条件、酵素処理条件等は、試作例1と共通とした。
・試作例7
試作例6の吸油性連通多孔質構造体の作成において、被除去物を緑豆デンプンから前出の馬鈴薯デンプンに変更した。その他、基材樹脂(LLDPE)、樹脂と被除去物(馬鈴薯デンプン)の配合量、成形条件、酵素処理条件等は、試作例6と共通とした。
・試作例8
試作例7の吸油性連通多孔質構造体の作成において、被除去物を前出の馬鈴薯デンプンからその分級物に変更した。試作例8の作成に際し、粒子径50μm以下の馬鈴薯デンプンを篩い分け、平均粒径約53μmに分級した。その他、基材樹脂(LLDPE)、樹脂と被除去物(馬鈴薯デンプンの分級物)の配合量、成形条件、酵素処理条件等は、試作例6と共通とした。
・試作例9
試作例6の吸油性連通多孔質構造体の作成において、被除去物を前出の緑豆デンプンから粉糖(共立食品株式会社製)の分級物に変更した。試作例9の作成に際し、100μm以下の粉糖を篩い分け、平均粒径約123μmに分級した。試作例9では、粉糖(分級物)69重量部をLLDPE31重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。続く成形条件は試作例1と同様とした。その他、酵素を用いることなく、85℃に加温した熱水浴を用意し、この中にシート状成形体を2時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。
・試作例10
試作例9の吸油性連通多孔質構造体の作成において、被除去物を前出の粉糖から平均粒径約500μmのグラニュー糖(大日本製糖株式会社製)に変更した。その他、基材樹脂(LLDPE)、樹脂と被除去物(グラニュー糖)の配合量、成形条件、酵素処理条件等は、試作例9と共通とした。
表3より、吸油性連通多孔質構造体は空洞孔径の大小に起因して吸油性能が大きく変動する。なお、表3の試作例10では、油分の吸収後に油分が滴ることを確認した。粒状空洞部を大きくしすぎた場合、基材樹脂に作用する油分の表面張力のみでは空洞部内の油分を保持しきれない。そのため、油分は漏出したと考える。ある程度粒状空洞部自体の大きさが小さくなると、基材樹脂に作用する油分の表面張力により、空洞部内の油分は保持される。被除去物の粒径並びに空洞孔径と油分の吸着量との関係から、発明者らは、空洞孔径、すなわち粒状空洞部の平均最大径は100μm以下、特には50μm以下、さらには30μm以下とすることを好適と考える。
前掲表1より、試作例1ないし5の吸油性連通多孔質構造体は、概ねいずれも油分の吸収性能を示している。しかし、試作例の吸油性連通多孔質構造体は、単位体積当たり既存品であるポリプロピレン製不織布を上回るほどの吸着性能を発揮していない。この点について、発明者らは、吸油性連通多孔質構造体と比較例のポリプロピレン製不織布との油分の保液性能の観点から両者の性能の差異を検証した。
[保液性能の評価]
発明者らは、保液性能の差異を検証するため、板状体からなる吸油性連通多孔質構造体(試作例11及び12)を作成すると共に、前出の比較例1であるポリプロピレン製不織布(三井化学株式会社:タフネルオイルブロッターBL−50)を用い比較した。これらについてサラダオイルを吸収させた後、静置時、加圧時、圧搾時の放出率(重量変化率)、再吸収率(重量変化率)を測定した。
・試作例11
試作例11の作成に当たり、基材となる樹脂にLLDPEを用い、被除去物に前出の馬鈴薯デンプン(東海澱粉株式会社製)を用いた(平均粒子径は約30μm)。馬鈴薯デンプン66重量部をLLDPE34重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。この混合樹脂体をステンレス鏡面板内に注入し、140℃を維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形した。成形後、冷却して板状成形体(縦10cm×横10cm、厚さ5mm)を得た。
酵素にはアミラーゼ(試作例1と同じ)を用い、同酵素を1重量%含む85℃に加温した熱水浴を用意し、この中に板状成形体を2時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、板状成形体の吸油性連通多孔質構造体(試作例11)を得た。
・試作例12
試作例12の吸油性連通多孔質構造体の作成では、被除去物を馬鈴薯デンプンからグラニュー糖(大日本製糖株式会社製)に変更した(平均粒子径約500μm)。試作例12では、グラニュー糖69重量部をLLDPE31重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。続く成形条件は試作例11と同様とし、板状成形体(縦10cm×横10cm、厚さ5mm)を得た。その他、酵素を用いることなく、85℃に加温した熱水浴を用意し、この中に板状成形体を2時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、板状成形体の吸油性連通多孔質構造体(試作例12)を得た。試作例11、試作例12の厚さ(共に5mm)は、厚みによる保液性能への影響を考慮して比較例1のポリプロピレン製不織布の厚さに近似させるため変更した厚さである。
静置時の放出率は、試作例11,12、並びに比較例を1辺5cmの正方形に切り出し、これが十分に浸る程度の量の油分(サラダオイル)をビーカー内に注ぎ、それぞれの板状体を浸して5分間静置した。その後、直ちに取り出して試作例、比較例の板状体の重量を計測した。次に、ステンレス金網上に油分を吸収した試作例、比較例の板状体を丁寧に広げてさらに5分間放置した。5分間の放置後、再度それぞれの板状体を計測した。静置直後の吸油量A(g)と5分間放置後の吸油量As(g)の重量変化より下記のとおり静置時の重量減少率Rws(%)を求めた。
静置時の重量減少率は、Rws={(A−As)/A}×100として算出した。
加圧時の放出率は、前記の静置時の放出率において、5分間の放置後さらに50g/cm2の荷重により均等に加圧し油分を滴下させた。静置直後の吸油量A(g)と加圧後の吸油量Ap(g)の重量変化より加圧時の重量減少率Rwp(%)を求めた。
加圧時の重量減少率は、Rwp={(A−Ap)/A}×100として算出した。
圧搾時の放出率は、前記の静置時の放出率において、5分間の放置後さらにローラを押し当てながら適宜加圧し油分を滴下させた。静置直後の吸油量A(g)と圧搾後の吸油量Ac(g)の重量変化より圧搾時の重量減少率Rwc(%)を求めた。
圧搾時の重量減少率は、Rwc={(A−Ac)/A}×100として算出した。
再吸収性能は次のとおり測定して評価した。はじめに、静置直後の試作例、比較例の重量と、圧搾後の試作例、比較例の重量との差より、各板状体における圧搾時の放出量Ae(g)を測定した。次に、圧搾後の試作例、比較例が十分に浸る程度の量の油分(サラダオイル)をビーカー内に注ぎ、それぞれ再度浸して5分間静置した。その後、直ちに取り出して試作例及び比較例それぞれの重量を測定し、再吸収の前後の重量変化Ar(g)を測定した。そして、再吸収の前後の重量変化Ar(g)を圧搾時における放出量Ae(g)により除して、その重量変化率である再吸収率Rra(%)を求めた。圧搾に伴い、多少の体積が変化しているため、体積による比較は難しいとして、重量の対比として再吸収率を算出した。
すなわち、再吸収率は、Rra=(Ae/Ar)×100となる。
前記の各吸油量A,As,Ap,Acは、油分を吸収した試作例、比較例の重量と、これから油分を吸収する前の試作例、比較例そのものの重量との差である。静置時、加圧時、圧搾時の放出率(重量変化率)、再吸収率(重量変化率)の測定結果は表4である。
静置時の試作例11及び試作例12と比較例1との対比において、比較例1の既存品では、いったん吸収した油分について僅かではあるものの漏洩がある。これに対し、試作例の吸油性連通多孔質構造体の漏洩はほぼ皆無である。
加圧時における双方の対比によると、試作例11及び試作例12は、この測定条件のように軽度の圧力が加わった程度ではいったん吸収した油分をほとんど放出していない。一方、比較例1の既存品では重量で約1/3ほどの油分を放出してしまう。従って、既存の吸油材は油分の吸収性能は高いものの、油分の保液性能の点において必ずしも十分とはいえない。
さらに圧搾時の放出率において、比較例1の既存品は非常に高い放出性能を有し、試作例11及び試作例12も十分な放出性能を有している。すなわち、吸油性連通多孔質構造体からいったん吸収した油分を取り出して油分を再生する用途等にも有効であることを明らかにした。
また、再吸収率の比較から分かるように、試作例11は、既存品である比較例1とほぼ同等の性能を示す。このため、複数回の使用が可能である。なお、再吸収率の結果と前述の空洞孔径の比較とを重ねて勘案すると、吸油性能の良さから試作例11の方がより優れている。
以上の結果を総合的に判断するならば、試作例の吸油性連通多孔質構造体は吸収した油分について軽度の圧力による漏出を抑制すると共に、事後的にその放出を可能とした。例えば、実際の使用や使用後の回収を想定した場合、通常、吸油材には何らかの圧力、衝撃が加わる。このような場合、既存品では吸収した油分の漏出は避けられない。この点、吸油性連通多孔質構造体によると吸収した油分の漏出はほとんど生じないことから、吸収油分の拡散、二次汚染の防止に有効となる。
[吸着材封入吸油性連通多孔質構造体]
これまでの検証のとおり、各試作例の吸油性連通多孔質構造体においては概ねいずれも油分の吸収性能を示している。そこで、吸着機能を新たに付加すべく吸着材を粒状空洞部に封入した吸油性連通多孔質構造体(試作例13)も試作し、その吸着性能を評価した。
・試作例13
〈複合材の調製〉
デキストリン(フタムラスターチ株式会社製:FSD103)40重量%の水溶液150重量部に活性炭(フタムラ化学株式会社製:太閤QW,平均粒径20μm)40重量部を分散し分散物を得た。当該分散物を170℃のスプレードライヤにより乾燥し粒子状物とした。さらに粒子状物を105℃の乾燥機内で24時間乾燥し複合材を調製した。この試作例において、活性炭は吸着材であり、デキストリンは被除去物である。
〈多孔質構造体の作成〉
試作例13の作成に当たり、試作例1と同様に、基材となる樹脂にLLDPEを用い、上記の複合材7重量部をLLDPE3重量部に混入し、170℃に加熱して樹脂を溶融しながら混錬し混合樹脂体とした。この混合樹脂体をステンレス鏡面板内に注入し、140℃を維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形した。成形後、冷却してシート状成形体(縦10cm×横10cm、厚さ300μm)を得た。
酵素にはアミラーゼ(試作例1と同じ)を用い、同酵素を1重量%含む85℃に加温した熱水浴を用意し、この中にシート状成形体を2時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、ポリエチレン樹脂を基材とし酵素処理を経た吸着材を封入する吸油性連通多孔質構造体(試作例13)を得た。
試作例13の吸着材封入吸油性連通多孔質構造体に関し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して撮影した写真を示す。図12は倍率200倍の断面写真、図13は倍率1000倍の断面写真である。写真中、白い部分は樹脂基材の連通多孔質体であり、スポンジ状を成している。図12,図13の写真中の粒状物は活性炭である。写真より活性炭は空洞部内に残存している。
[吸着性能の評価]
ビーカー内に赤色アゾ系油溶性染料を適量溶かしたサラダオイルを入れ、この中に試作例13の吸油性連通多孔質構造体を1辺5cmの正方形に切り出したシート状物を漬け込み24時間静置した。静置後、試作例13のシート状物を取り出し、ロールにより押圧して内部に吸収した油分を放出させて回収した。比較のため、試作例1の吸油性連通多孔質構造体のシート状物を用い、同様の吸油を行った。
染料を溶かしたサラダオイルの色は薄赤色であった。試作例13のシート状物から放出された油分の色は黄色であった。試作例1のシート状物から放出された油分の色は薄赤色であった。サラダオイルの本来の色は黄色である。つまり、試作例13の吸油性連通多孔質構造体内に担持されている活性炭に染料が吸着された。
従って、吸着材封入吸油性連通多孔質構造体によると、吸収した油分から不純物を除去できる機能を新たに獲得したため、油分の濾過、浄化等の用途に適用することができる。前述のとおり再吸収性能も確認されたことから、この吸着材封入吸油性連通多孔質構造体も吸着材の性能に応じて複数回にわたり使用可能と考える。
第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
第2実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
第1実施形態の吸油性連通多孔質構造体の概略工程図である。
第3実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
第3実施形態の吸油性連通多孔質構造体の概略工程図である。
第3ないし第5実施形態に用いる被除去物の断面模式図である。
第4実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
第5実施形態の吸油性連通多孔質構造体の断面図である。
試作例1の表面の電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。
試作例1の断面の電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。
試作例1の断面の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
試作例13の断面の電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。
試作例13の断面の電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
10A,10B,10C,10D,10E 吸油性連通多孔質構造体
11,11b 樹脂基材
12 粒状空洞部
13,13b 連通多孔質体
14 表面
16 開口部
35,35x,35y,35z 吸着材
101 成形体
110 成形体
120 被除去物