以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
(活物質材料及びその製造方法)
本発明の活物質材料は、三斜晶LiVOPO4の結晶粒子を含むものであり、この結晶粒子は、最大長さと最大厚みとの比(最大長さ/最大厚み)が5〜100である板状の形状を有するものである。
結晶粒子において、最大長さと最大厚みとの比(最大長さ/最大厚み)は5〜100であることが必要であるが、10〜80であることがより好ましく、15〜50であることが更に好ましい。上記比の値が5未満であると、レート特性が低下する。一方、上記比の値が100を超えると、サイクル特性が低下する。
また、結晶粒子の最大厚みは、10〜300nmであることが好ましく、20〜200nmであることがより好ましく、30〜150nmであることが更に好ましい。この最大厚みが10nm未満であると、サイクル特性が低下する傾向があり、300nmを超えると、板状の結晶粒子の厚み方向にLiイオンが拡散し難くなり、レート特性が低下する傾向がある。
また、結晶粒子の最大長さは、50nm〜10μmであることが好ましく、50nm〜5μmであることがより好ましく、100nm〜2.5μmであることが更に好ましい。この最大長さが50nm未満であると、サイクル特性が低下する傾向があり、10μmを超えると、レート特性が低下する傾向がある。
更に、結晶粒子の最大幅は、10nm〜5μmであることが好ましく、20nm〜2μmであることがより好ましく、50nm〜0.5μmであることが更に好ましい。この最大幅が10nm未満であると、サイクル特性が低下する傾向があり、5μmを超えると、レート特性が低下する傾向がある。
結晶粒子の最大長さと最大幅との比(最大長さ/最大幅)は特に制限されないが、1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。上記比の値が10を超えると、サイクル特性が低下する傾向がある。
ここで、結晶粒子の最大長さとは、板状の結晶粒子の主面における最大径を意味し、最大幅とは、板状の結晶粒子の主面における上記最大長さの方向に垂直な方向での最大径を意味する。また、結晶粒子の最大厚みとは、板状の結晶粒子の主面に垂直な方向の厚みの最大値を意味する。これらの値は、結晶粒子を電子顕微鏡により観察して測定することができる。
本発明において、結晶粒子の最大長さ、最大幅、最大厚み、最大長さと最大厚みとの比(最大長さ/最大厚み)、及び、最大長さと最大幅との比(最大長さ/最大幅)は、結晶粒子を電子顕微鏡により観察し、任意の20個の結晶粒子について上記各値を測定し、その平均値として求められる。なお、本発明においては、上記方法で求められた平均値が上述した各値の範囲内であればよいが、任意の20個の結晶粒子の全てが、上述した各値の範囲内であることがより好ましい。例えば、結晶粒子の最大長さと最大厚みとの比(最大長さ/最大厚み)は、上記の方法で求められる平均値が5〜100の範囲内であればよいが、任意の20個の結晶粒子の最大長さと最大厚みとの比が全て5〜100の範囲内であることが好ましい。
本発明の活物質材料は、上述した結晶粒子のみからなるものであってもよく、結晶粒子と他の成分とが複合化した複合材料であってもよい。複合材料の場合は、例えば、結晶粒子の表面が炭素等からなる導電層で被覆されたものや、結晶粒子にカーボンブラック等の導電助剤が担持されたもの等が挙げられる。なお、複合材料を形成する他の成分としては、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる材料を特に制限なく使用することができる。
本発明の活物質材料において、上述した板状の三斜晶LiVOPO4の結晶粒子は、好ましくは水熱合成により製造される。結晶粒子を、水熱合成を経由すると共に、その後の焼成条件を最適化することにより製造することで、粒子形状を制御することができ、最大長さと最大厚みとの比が上述した範囲内である板状の三斜晶LiVOPO4の結晶粒子を製造することができる。こうして製造される板状の三斜晶LiVOPO4は、従来の三斜晶LiVOPO4と比較して高容量でレート特性、サイクル特性に優れている。
従来の三斜晶LiVOPO4の合成方法としては、例えば、原料となる固体を混合粉砕して焼成する方法や、原料を水に溶かして蒸発乾固する方法が知られている。しかしながら、これら従来の合成方法では、最大長さと最大厚みとの比が上述した範囲内である板状の三斜晶LiVOPO4の結晶粒子を製造することは困難である。
本発明における板状の三斜晶LiVOPO4の結晶粒子は、水熱合成により例えば以下の手順で製造することができる。
すなわち、オートクレーブ等の密閉容器中に、少なくともリン酸化合物水溶液とバナジウム含有化合物とを封入して加熱処理(第1熱処理工程)し、得られた生成物に少なくともLi含有化合物を添加し、更に加熱処理(第2熱処理工程)して粉砕することにより、三斜晶LiVOPO4の結晶粒子を得ることができる。得られた結晶粒子には、製造条件によっては板状の形状以外の結晶粒子も含まれるため、上記工程で得られた粉体を、空気雰囲気中、450℃以下の温度条件で熱処理(焼成)して板状構造を優先的に成長させた後(焼成工程)、気流分級等によりふるい分けして(分級工程)、目的の板状の三斜晶LiVOPO4の結晶粒子を得ることができる。
ここで、リン酸化合物水溶液としては、H3PO4水溶液が好ましい。また、バナジウム含有化合物としては、V2O5が好ましい。更に、Li含有化合物としては、LiOH・H2Oが好ましい。
第1熱処理工程において、加熱温度は、60〜150℃であることが好ましく、80〜120℃であることがより好ましい。上記の加熱温度とすることにより、上記形状の三斜晶LiVOPO4を得やすい傾向がある。熱処理は、1〜30時間行うことが好ましく、3〜20時間行うことがより好ましい。上記の熱処理時間とすることにより、前駆体が均一化し、容量が増加する傾向がある。また、第1熱処理工程は、材料を攪拌しながら行うことが好ましい。
また、第2熱処理工程において、加熱温度は、150〜200℃であることが好ましく、160〜185℃であることがより好ましい。上記の加熱温度とすることにより、上記形状の三斜晶LiVOPO4を得やすい傾向がある。熱処理は、3〜25時間行うことが好ましく、10〜20時間行うことがより好ましい。上記の熱処理時間とすることにより、結晶が成長し、容量が増加する傾向がある。また、第2熱処理工程も、材料を攪拌しながら行うことが好ましい。また、第2熱処理工程の後に粉体の不純物を洗浄除去する工程を設けてもよい。第1及び第2の熱処理工程では、条件によって混合物中に粘ちょう物が形成される場合がある。この場合、水等の溶媒によって洗浄し、少なくとも第2熱処理温度より低い温度において加熱乾燥し、洗浄処理を行うことができる。
焼成工程において、加熱温度は、450℃以下であることが好ましく、350〜450℃であることがより好ましい。上記の加熱温度とすることにより、上記板状の三斜晶LiVOPO4を得やすい傾向がある。焼成は、1〜20時間行うことが好ましく、2〜10時間行うことがより好ましい。上記の焼成時間とすることにより、板状構造を有する結晶の成長を十分に行うことができる傾向がある。
分級工程は、遠心気流分級等により行うことができる。分級工程を行うことにより、所望の形状及び粒径を有する結晶粒子を得ることができる。分級工程を行うことにより、最大長さと最大厚みとの比が5〜100の範囲内である板状の形状を有する結晶粒子を、効率的に且つ確実に得ることができる。
本発明の活物質材料として、三斜晶LiVOPO4と他の成分との複合材料を形成する場合には、第1及び/又は第2熱処理工程において、複合化する他の成分を加えることが好ましい。例えば、第1又は第2熱処理工程において炭素粒子や炭素源を加えることで、三斜晶LiVOPO4と炭素粒子との複合材料や、三斜晶LiVOPO4の表面に炭素層が形成された複合材料を得ることができる。炭素粒子としてはカーボンブラックが好ましい。また、炭素源としては有機酸及びアルコールが好ましく、有機酸であるアスコルビン酸がより好ましい。
また、第1及び/又は第2熱処理工程において上記炭素源を加えると、結晶粒子の表面が炭素で覆われることで粒子成長が抑えられ、より微細な結晶粒子を得ることができるため好ましい。
(リチウムイオン二次電池及びその製造方法)
図1は本発明のリチウムイオン二次電池の好適な一実施形態を示す正面図である。また、図2は図1に示すリチウムイオン二次電池の内部を負極10の表面の法線方向からみた場合の展開図である。更に、図3は図1に示すリチウムイオン二次電池を図1のX1−X1線に沿って切断した場合の模式断面図である。また、図4は図1に示すリチウムイオン二次電池を図1のX2−X2線に沿って切断した場合の要部を示す模式断面図である。また、図5は図1に示すリチウムイオン二次電池を図1のY−Y線に沿って切断した場合の要部を示す模式断面図である。
図1〜図5に示すように、リチウムイオン二次電池1は、主として、互いに対向する板状の負極10及び板状の正極20と、負極10と正極20との間に隣接して配置される板状のセパレータ40と、リチウムイオンを含む電解液と、これらを密閉した状態で収容するケース(外装体)50と、負極10に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケース50の外部に突出される負極用リード12と、正極20に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケース50の外部に突出される正極用リード22とから構成されている。そして、上記正極10は、上述した本発明の活物質材料を含有している。
なお、本明細書において、「負極」とは、電池の放電時の極性を基準とする電極であって、放電時の酸化反応により電子を放出する電極である。更に、「正極」とは、電池の放電時の極性を基準とする電極であって、放電時の還元反応により電子を受容する電極である。
以下、図1〜図7に基づいて本実施形態の各構成要素の詳細を説明する。
まず、負極10及び正極20について説明する。図6は図1に示すリチウムイオン二次電池1の負極10の基本構成の一例を示す模式断面図である。また、図7は、図1に示すリチウムイオン二次電池1の正極20の基本構成の一例を示す模式断面図である。
図6に示すように負極10は、集電体16と、該集電体16上に形成された負極活物質含有層18とからなる。また、図7に示すように正極20は、集電体26と、該集電体26上に形成された正極活物質含有層28とからなる。
集電体16及び集電体26は、負極活物質含有層18及び正極活物質含有層28への電荷の移動を充分に行うことができる良導体であれば特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池に用いられている集電体を使用することができる。例えば、集電体16及び集電体26としては、それぞれ銅、アルミニウム等の金属箔が挙げられる。
また、負極10の負極活物質含有層18は、主として、負極活物質と、結着剤とから構成されている。なお、負極活物質含有層18は、更に導電助剤を含有していることが好ましい。
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF6−、ClO4 −)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能なものであれば特に制限されず、公知の負極活物質を使用できる。このような負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Si、Sn、Si等のリチウムと化合することのできる金属、SiO、SiO2、SiOx、SnO2等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、TiO2が挙げられる。
負極10に用いられる結着剤としては、公知の結着剤を特に制限なく使用することができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。この結着剤は、活物質粒子や必要に応じて添加される導電助剤等の構成材料同士を結着するのみならず、それらの構成材料と集電体との結着にも寄与している。
また、上記の他に、結着剤としては、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
更に、上記の他に、結着剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1、2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体等を用いてもよい。また、導電性高分子を用いてもよい。
必要に応じて用いられる導電助剤としては特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、カーボンブラック類、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属粉、炭素材料及び金属粉の混合物、ITOのような導電性酸化物が挙げられる。
負極活物質含有層18中の負極活物質の含有量は、負極活物質含有層18全量を基準として80〜97質量%であることが好ましく、85〜96質量%であることがより好ましい。活物質の含有量が80質量%未満であると、含有量が上記範囲内である場合と比較して、エネルギー密度が低下する傾向があり、97質量%を超えると、含有量が上記範囲内である場合と比較して、接着力が不足してサイクル特性が低下する傾向がある。
正極20の正極活物質含有層28は、主として、正極活物質と、結着剤とから構成されている。そして、正極活物質含有層28は、更に導電助剤を含有していることが好ましい。
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、ClO4 −)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されないが、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質として少なくとも上述した本発明の活物質材料を含有している。
また、正極活物質としては、本発明の活物質材料以外に、必要に応じて公知の正極活物質を併用することもできる。このような正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素またはVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等の複合金属酸化物が挙げられる。
正極20に用いられる結着剤としては、負極10に用いられる結着剤と同様のものを使用することができる。また、正極20に必要に応じて用いられる導電助剤としては、負極10に用いられる導電助剤と同様のものを使用することができる。
また、正極20の集電体28は、例えばアルミニウムからなる正極用リード22の一端に電気的に接続され、正極用リード22の他端はケース50の外部に延びている。一方、負極10の集電体16も、例えば銅又はニッケルからなる負極用リード12の一端に電気的に接続され、負極用リード12の他端はケース50の外部に延びている。
負極10と正極20との間に配置されるセパレータ40は、イオン透過性を有し、且つ、電子的絶縁性を有する多孔体から形成されていれば特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池に用いられるセパレータを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの積層体や、上記高分子の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種の構成材料からなる繊維不織布等が挙げられる。
電解液(図示せず)はケース50の内部空間に充填され、その一部は、負極10、正極20、及びセパレータ40の内部に含有されている。電解液は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した非水電解質溶液が使用される。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2等の塩が使用される。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、電解液は、高分子等を添加することによりゲル状としてもよい。
また、有機溶媒は、公知の電気化学素子に使用されている溶媒を使用することができる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及び、ジエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
ケース50は、互いに対向する一対のフィルム(第1のフィルム51及び第2のフィルム52)を用いて形成されている。ここで、図2に示すように、本実施形態における第1のフィルム51及び第2のフィルム52は連結している。すなわち、本実施形態におけるケース50は、一枚の複合包装フィルムからなる矩形状のフィルムを、図2に示す折り曲げ線X3−X3において折り曲げ、矩形状のフィルムの対向する1組の縁部同士(図中の第1のフィルム51の縁部51B及び第2のフィルム52の縁部52B)を重ね合せて接着剤を用いるか又はヒートシールを行うことにより形成されている。なお、図1及び図2中の51A、並びに、図2中の52Aは、それぞれ第1のフィルム51及び第2のフィルム52の接着又はヒートシールされていない部分領域を示す。
そして、第1のフィルム51及び第2のフィルム52は、1枚の矩形状のフィルムを上述のように折り曲げた際にできる互いに対向する面を有する該フィルムの部分をそれぞれ示す。ここで、本明細書において、接合された後の第1のフィルム51及び第2のフィルム52のそれぞれの縁部を「シール部」という。
また、第1のフィルム51及び第2のフィルム52を構成するフィルムは先に述べたように、可とう性を有するフィルムである。このフィルムは、可とう性を有するフィルムであれば特に限定されないが、発電要素60に接触する高分子製の最内部の層と、最内部の層の発電要素と接する側の反対側に配置される金属層とを少なくとも有する「複合包装フィルム」であることが好ましい。
また、図1及び図2に示すように、第1のフィルム51の縁部51B及び第2のフィルム52の縁部52Bからなる外装袋のシール部に接触する負極用リード12の部分には、負極用リード12と各フィルムを構成する複合包装フィルム中の金属層との接触を防止するための絶縁体14が被覆されている。更に、第1のフィルム51の縁部51B及び第2のフィルム52の縁部52Bからなる外装袋のシール部に接触する正極用リード22の部分には、正極用リード22と各フィルムを構成する複合包装フィルム中の金属層との接触を防止するための絶縁体24が被覆されている。
これら絶縁体14及び絶縁体24の構成は特に限定されないが、例えば、それぞれ高分子から形成されていてもよい。なお、負極用リード12及び正極用リード22のそれぞれに対する複合包装フィルム中の金属層の接触が充分に防止可能であれば、これら絶縁体14及び絶縁体24は配置しない構成としてもよい。
次に、上述したリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。
発電要素60(負極10、セパレータ40及び正極20がこの順で順次積層された積層体)の製造方法は、特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池の製造に採用されている公知の方法を用いることができる。
負極10及び正極20を作製する場合、先ず、上述した各構成成分を混合し、結着剤が溶解可能な溶媒に分散させ、電極形成用塗布液(スラリー又はペースト等)を作製する。溶媒としては、結着剤が溶解可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
次に、上記電極形成用塗布液を集電体表面上に塗布し、乾燥させ、圧延することにより集電体上に活物質含有層を形成し、負極10及び正極20の作製を完了する。ここで、電極形成用塗布液を集電体の表面に塗布する際の手法は特に限定されるものではなく、集電体の材質や形状等に応じて適宜決定すればよい。塗布方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
その後、作製した負極10及び正極20のそれぞれに対して、負極用リード12及び正極用リード22をそれぞれ電気的に接続する。
次に、負極10と正極20との間に、セパレータ40を接触した状態(好ましくは非接着状態)で配置し、発電要素60を完成する。このとき、負極10の負極活物質含有層18側の面F2、及び、正極20の正極活物質含有層28側の面F2がセパレータ40と接触するように配置する。
次に、ケース50の作製方法の一例について説明する。まず、第1のフィルム及び第2のフィルムを先に述べた複合包装フィルムから構成する場合には、ドライラミネーション法、ウエットラミネーション法、ホットメルトラミネーション法、エクストルージョンラミネーション法等の既知の製法を用いて作製する。
例えば、複合包装フィルムを構成する高分子製の層となるフィルム、アルミニウム等からなる金属箔を用意する。金属箔は、例えば金属材料を圧延加工することにより用意することができる。
次に、好ましくは先に述べた複数の層の構成となるように、高分子製の層となるフィルムの上に接着剤を介して金属箔を貼り合わせる等して複合包装フィルム(多層フィルム)を作製する。そして、複合包装フィルムを所定の大きさに切断し、矩形状のフィルムを1枚用意する。
次に、先に図2を参照して説明したように、1枚のフィルムを折り曲げて、第1のフィルム51のシール部51B(縁部51B)と第2のフィルムのシール部52B(縁部52B)を、例えば、シール機を用いて所定の加熱条件で所望のシール幅だけヒートシールする。このとき、発電要素60をケース50中に導入するための開口部を確保するために、一部にヒートシールを行わない部分を設けておく。これにより開口部を有した状態のケース50が得られる。
そして、開口部を有した状態のケース50の内部に、負極用リード12及び正極用リード22が電気的に接続された発電要素60を挿入する。そして、電解液を注入する。続いて、負極用リード12、正極用リード22の一部をそれぞれケース50内に挿入した状態で、シール機を用いて、ケース50の開口部をシールする。これにより、ケース50及びリチウムイオン二次電池1の作製が完了する。なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、図1に示したような形状のものに限定されず、例えば、円筒形等の形状でもよい。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の説明において、リチウムイオン二次電池1のシール部を折り曲げることにより、よりコンパクトな構成としてもよい。また、上記実施形態の説明においては、負極10及び正極20をそれぞれ1つずつ備えたリチウムイオン二次電池1について説明したが、負極10及び正極20をそれぞれ2以上備え、負極10と正極20との間にセパレータ40が常に1つ配置される構成としてもよい。
以下、本発明のリチウムイオン二次電池の他の好適な実施形態について説明する。
図8は本発明の他の好適な一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100を示す部分破断斜視図である。また、図9は図8のYZ面断面図である。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、図1〜図2に示すように、主として、積層構造体85と、積層構造体85を密閉した状態で収容するケース(外装体)50と、積層構造体85とケース50の外部とを接続するための負極用リード12及び正極用リード22とから構成されている。
積層構造体85は、図2に示すように、上から順に、3層負極130、セパレータ40、3層正極140、セパレータ40、3層負極130、セパレータ40、3層正極140、セパレータ40、3層負極130を順に積層したものである。
3層負極130は、集電体(負極集電体)16と、集電体16の両面上に形成された2つの負極活物質含有層18とを有する。3層負極130は、負極活物質含有層18がセパレータ40と接触するように積層されている。
また、3層正極140は、集電体(正極集電体)26と、集電体26の両面上に形成された2つの正極活物質含有層28とを有する。3層正極140は、正極活物質含有層28がセパレータ40と接触するように積層されている。
電解液(図示せず)はケース50の内部空間に充填され、その一部は、負極活物質含有層18、正極活物質含有層28、及びセパレータ40の内部に含有されている。
集電体16,26の端には、図8に示すように、各集電体がそれぞれ外側に向かって延びてなる舌状部16a,26aが形成されている。また、負極用リード12及び正極用リード22は、図8に示すように、ケース50内からシール部50bを通って外部に突出している。そして、リード12のケース50内の端部は、3つの集電体16の各舌状部16aと溶接されており、リード12は各集電体16を介して各負極活物質含有層18に電気的に接続されている。一方、リード22のケース50内の端部は、2つの集電体26の各舌状部26aと溶接されており、リード22は各集電体26を介して各正極活物質含有層28に電気的に接続されている。
また、リード12、22においてケース50のシール部50bに挟まれる部分は、図8に示すように、シール性を高めるべく、樹脂等の絶縁体14,24によって被覆されている。また、リード12とリード22とは積層構造体85の積層方向と直交する方向に離間している。
ケース50は、図8に示すように、矩形状の可撓性のシート51Cを長手方向の略中央部で2つ折りにして形成したものであり、積層構造体85を積層方向(上下方向)の両側から挟み込んでいる。2つ折りにされたシート51Cの端部のうち、折り返し部分50aを除く3辺のシール部50bがヒートシール又は接着剤により接着されており、積層構造体85が内部に密封されている。また、ケース50は、シール部50bにおいて絶縁体14,24と接着することによりリード12,22をシールしている。
そして、図8及び図9に示したリチウムイオン二次電池100における集電体16,26、活物質含有層18,28、セパレータ40、電解液、リード12,22、絶縁体14,24及びケース50には、図1〜図7に示したリチウムイオン二次電池1と同様の構成材料からなるものが用いられる。
また、積層構造体85が、3層負極130/セパレータ/3層正極140/セパレータ/3層負極の積層構造を有している、すなわち、最外層がいずれも負極であると、釘刺し試験時の発熱をより抑制しやすい傾向がある。なお、この効果は、積層構造体85の構造が、負極/セパレータ/(正極/セパレータ/負極)nの積層構造を有しさえすれば(ここで、nは1以上の整数)得られる。
なお、図8〜図9に示したリチウムイオン二次電池100においては、積層構造体85は単セルとしての二次電池要素、すなわち、負極/セパレータ/正極の組合せを4つ有するものであったが、4つより多く有していてもよいし、3つ以下であってもよい。
また、上記実施形態では、好ましい形態として、最外層の2つをそれぞれ3層負極130とした形態を例示しているが、最外層の2つのいずれか一方又は両方を2層負極としても実施可能である。
また、上記実施形態では、好ましい形態として、最外層の2つをそれぞれ負極とした形態を例示しているが、最外層の2つを、正極及び負極としたものや、正極及び正極としたものであっても本発明の実施は可能である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(活物質材料の作製)
1.5Lオートクレーブ容器に、23.08gのH3PO4を500gの水に溶解したH3PO4水溶液を入れ、そこにV2O5(18.37g)を徐々に加えた。V2O5を全て加えた後、容器を密閉して200rpmで攪拌しながら95℃で16時間還流した。還流終了後、温度が室温に下がってから容器を一旦開放してLiOH・H2O(8.48g)とC6H8O6(7.13g)とを徐々に加えた。その後、再び容器を密閉して、160℃で8時間保持した。得られた混合物に約300mlの水を加えて洗浄し、オーブン中、90℃で約23時間加熱乾燥し、高速回転粉砕機で粉砕することで、灰色の粉体を得た。
得られた粉体をアルミナ坩堝に入れ、空気雰囲気中、室温から45分間かけて450℃まで昇温し、450℃で4時間熱処理した後、急冷して茶褐色の焼成粉体を得た。得られた焼成粉体について、遠心気流分級により0.5〜2μmの範囲に分級し、活物質材料としての板状の結晶粒子を得た。この結晶粒子の粉末X線回折パターンを測定した結果、得られた結晶粒子は、JCPDSカード72−2253に記載されているX線回折パターンを示す三斜晶(α型)LiVOPO4であることが確認された。
また、図10は、得られた三斜晶LiVOPO4の結晶粒子の電子顕微鏡写真(倍率:3万倍)である。図10に示す通り、得られた三斜晶LiVOPO4の結晶粒子は板状の形状を有している。また、この板状の結晶粒子の最大長さ、最大幅、最大厚み、最大長さと最大厚みとの比(最大長さ/最大厚み)、及び、最大長さと最大幅との比(最大長さ/最大幅)を、電子顕微鏡観察により任意の20個の結晶粒子についてそれぞれ測定し、平均値を求めた。その結果、最大長さ(平均値)は1.5μm、最大幅(平均値)は1.1μm、最大厚み(平均値)は50nmであり、最大長さと最大厚みとの比(平均値)は28であり、最大長さと最大幅との比(平均値)は1.38であった。なお、任意の20個の結晶粒子における最大長さと最大厚みとの比は13〜51であり、いずれの結晶粒子も最大長さと最大厚みとの比が5〜100の範囲内である板状の形状を有していた。
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記活物質材料84質量部と、アセチレンブラック8質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)8質量部とを混合し、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解してスラリー状の正極用塗布液を得た。この塗布液をドクターブレード法によってAl箔に塗布し、乾燥することによって正極活物質含有層を形成した。これにより、厚さ15μmの集電体と厚さ50μmの活物質含有層とが積層された正極を得た。
天然黒鉛(大阪ガスケミカル社製、商品名:OMAC)92質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)8質量部とを混合し、NMPに溶解してスラリー状の負極用塗布液を得た。この塗布液をドクターブレード法によって銅箔に塗布し、乾燥することによって負極活物質含有層を形成した。これにより、厚さ15μmの集電体と厚さ45μmの活物質含有層とが積層された負極を得た。
プロピレンカーボネート(PC)20体積部と、エチレンカーボネート(EC)10体積部と、ジエチルカーボネート70体積部とを混合し、混合溶媒を得た。この混合溶媒に、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.5mol・dm−3の濃度となるように溶解し、電解液を得た。
上記負極を17.5mm×34.5mmの寸法に、上記正極を17mm×34mmの寸法にそれぞれ打ち抜き、その負極と正極との間にポリエチレン製のセパレータを配置して積層し、電池素体を形成した。得られた電池素体をアルミラミネートフィルムに入れ、上記電解液を注液し、真空封入した。以上の手順でリチウムイオン二次電池を作製した。
[実施例2]
活物質材料の作製において、遠心気流分級による分級により、1〜5μmの範囲に分級したこと以外は実施例1と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
[実施例3]
活物質材料の作製において、遠心気流分級による分級により、0.1〜0.5μmの範囲に分級したこと以外は実施例1と同様にして実施例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
[比較例1]
(活物質材料の作製)
LiNO3、V2O5及びH3PO4を、モル比で2:1:2となるように水に溶解させた。得られた溶液を25℃で蒸発乾固し、25℃で20時間乾燥した後、乳鉢で粉砕した。
得られた粉砕物をアルミナ坩堝に入れ、空気雰囲気中、室温から60分間かけて700℃まで昇温し、700℃で4時間熱処理した後、急冷して焼成粉体を得た。なお、得られた焼成粉体を電子顕微鏡により観察したところ、焼成粉体中には板状の結晶粒子が含まれていなかった。これにより、活物質材料としての球状の結晶粒子を得た。この結晶粒子の粉末X線回折パターンを測定した結果、得られた結晶粒子は、JCPDSカード72−2253に記載されているX線回折パターンを示す三斜晶(α型)LiVOPO4であることが確認された。
(リチウムイオン二次電池の作製)
上記活物質材料84質量部と、アセチレンブラック8質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)8質量部とを混合し、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解してスラリー状の正極用塗布液を得た。この塗布液をドクターブレード法によってAl箔に塗布し、乾燥することによって正極活物質含有層を形成した。これにより、厚さ15μmの集電体と厚さ50μmの活物質含有層とが積層された正極を得た。この正極を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
[比較例2]
活物質材料の作製において、遠心気流分級による分級により、2〜10μmの範囲に分級したこと以外は実施例1と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池を作製した。
[比較例3]
活物質材料の作製において、遠心気流分級による分級により、0.05〜0.3μmの範囲に分級したこと以外は実施例1と同様にして比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
<放電容量の測定>
上記実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池の放電容量を、0.5C相当の電流で、4.2Vの定電流定電圧充電を行った後、0.5C相当の電流で2.5Vまで放電することにより測定し、LiVOPO4の単位質量当たりの放電容量を算出した。その結果を表1に示す。
<レート特性の測定>
上記実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池について、0.1C(25℃で定電流放電を行ったときに10時間で放電終了となる電流値)での放電容量と、1C(25℃で定電流放電を行ったときに1時間で放電終了となる電流値)での放電容量とを測定し、0.1Cでの放電容量に対する1Cでの放電容量の割合(%)をレート特性として求めた。その結果を表1に示す。
<サイクル特性の測定>
上記実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池について、4.2VのCCCV充電により1Cのレートで充電を行った。その後、定電流放電を2.5Vまで1Cのレートで行った。これを1サイクルとして100サイクル行い、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合(%)をサイクル特性として求めた。その結果を表1に示す。
1,100…リチウムイオン二次電池、10…負極、12…負極用リード線、14…絶縁体、16…集電体、18…負極活物質含有層、20…正極、22…正極用リード線、24…絶縁体、26…集電体、28…正極活物質含有層、40…セパレータ、50…ケース、60…発電要素。