JP5374086B2 - 骨強度診断装置及び骨強度測定方法 - Google Patents

骨強度診断装置及び骨強度測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を導出して、骨強度を診断する骨強度診断装置及び骨強度測定方法に関する。
骨中を伝播する超音波の音速は、骨強度を診断する指標に用いることができる。従来から、長管状の骨の表面を長軸方向に沿って伝播する超音波の音速を測定して、この音速に基づいて骨強度を診断する装置が存在する。
骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を測定する装置としては、図17(a)に示すような、1つの送波用振動子902と2つの受波用振動子903、904とを備えた装置901がよく知られている。
この装置901は、骨の表面が平坦状であって、且つ、骨表面と骨を覆う筋肉等の軟組織の表面とが平行であると想定して、以下の方法により音速を測定している。
まず、送波用振動子902により、骨の表面に対して臨界角付近で超音波を入射させて、骨の表面に表面波を発生させる。表面波は、所定の角度(臨界角と同じ角度)で漏洩表面波を放射しつつ、骨の表面に沿って伝播する。この漏洩表面波を2つの受波用振動子903、904によりそれぞれ受波する。2つの受波用振動子903、904の間隔は既知であるため、2つの受波用振動子903、904がそれぞれ漏洩表面波を受波した時刻の時間差から、表面波の音速が算出される。
しかし、骨の表面と軟組織の表面とが常に平行であるとは限らず、平行でない場合には、上述した装置901では、算出結果に誤差が生じる。
そこで、この誤差を解消できる装置も種々提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。そのような装置の具体例として、図17(b)に示すような、2つの送波用振動子902、905と、2つの受波用振動子903、904とを備えた音速測定装置901´がある。
この装置901´では、送波用振動子902から超音波を送波して、これにより生じる漏洩表面波を2つの受波用振動子903、904で受波し、さらに、送波用振動子905からも同様に超音波を送波して、これにより生じる漏洩表面波を2つの受波用振動子903、904により受波する。
送波用振動子902(又は905)から超音波を送波した場合の、2つの受波用振動子903、904の漏洩表面波の受波時刻の時間差と、送波用振動子902から超音波を送波して、受波用振動子903(又は904)により漏洩表面波を受波した場合の送波から受波までの伝播時間と、送波用振動子905から超音波を送波して、受波用振動子903(又は904)により漏洩表面波を受波したときの送波から受波までの伝播時間の差とを用いることにより、骨表面の傾きを考慮して表面波の音速を算出することができる。
また、特許文献1には、上述の装置901´のように2つの送波用振動子と2つの受波用振動子とを備えた音速測定装置に加えて、複数の振動子から構成されるアレイ振動子を備えた音速測定装置が開示されている。
この装置では、まず、アレイ振動子から超音波を骨に対して送波し、骨表面からの反射波を受波して、この受波信号を基に公知の方法によって骨表面の形状を画像化して、軟組織の厚みを導出する。
この軟組織の厚みから、送波用振動子と受波用振動子との間の最適な離間距離を算出する。軟組織が厚い場合には、送波用振動子と受波用振動子との間隔が近すぎると、漏洩表面波を受波できない。一方、軟組織が薄い場合には、両振動子の間隔が遠すぎると、振幅の小さい漏洩表面波しか受波できないため、好ましくない。このように、送波用振動子と受波用振動子との間の最適な距離は、軟組織の厚みにより異なっている。
次に、算出された送波用振動子と受波用振動子の最適な離間距離に基づいて、アレイ振動子を構成する振動子の中から、音速測定に用いる2つの送波用振動子及び2つの受波用振動子を決定する。そして、決定された4つの振動子を用いて、表面波の音速を算出する。
特表2003‐517328号公報 国際公開 WO03/099132号公報 国際公開 WO03/099133号公報
しかしながら、装置901´や特許文献1〜3の装置は、骨表面が平坦状の場合の超音波の伝播経路を想定して、この伝播経路に基づいて音速を算出しており、骨表面が平坦状の場合にしか適用できない。従って、実際の骨表面の形状が曲面状の場合(例えば、長管状の骨の円周方向の音速を測定しようとした場合)には、誤差が大きくなる。
また、特許文献1のアレイ振動子を備えた音速測定装置では、アレイ振動子を用いて骨表面の形状(画像)を取得しているが、この画像は、あくまで軟組織の厚みを検出し、この厚みに基づいてアレイ振動子の中から音速測定に用いる4つの振動子を決定するためのものであって、音速を算出する際に直接用いるものではない。
本発明は、たとえ骨の表面の形状が曲面状であっても、骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を精度良く導出することができ、骨強度の診断精度の高い骨強度診断装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段及び発明の効果
請求項1の骨強度診断装置は、音速導出用送波振動子から、軟組織に覆われた骨に対して斜めに超音波を送波する音速導出用送波部と、前記音速導出用送波部から送波されて前記骨の表面に沿って伝播した後、前記骨から前記軟組織側に出た超音波を、複数の音速導出用受波振動子により受波する音速導出用受波部と、前記骨の表面の形状を検出する形状検出手段と、前記音速導出用受波部による受波信号と、前記形状検出手段により検出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を導出する音速導出部とを備えることを特徴とする。
音速導出用送波振動子から骨に対して斜めに超音波を送波して、骨の表面に沿って伝播する超音波を発生させる。この超音波は、骨の表面に沿って伝播した後、骨から軟組織側に出て、複数の音速導出用受波振動子により受波される。音速導出部は、音速導出用受波部による受波信号と、予め骨形状検出手段により検出された骨表面の形状とを用いて、骨表面に沿って伝播する超音波の音速を導出し、この音速により骨強度を診断する。
このように、骨の表面の形状の情報を用いて、骨中の音速を導出することにより、たとえ骨の表面の形状が曲面状であっても、骨中の音速を精度良く導出することができる。その結果、骨強度の診断精度が向上する。
請求項2の骨強度診断装置は、前記音速導出用送波振動子と、前記複数の音速導出用受波振動子との間に、遮音材が配置されていることを特徴とする。
この構成によると、音速導出用送波振動子から送波された超音波が、音速導出用送波振動子と音速導出用受波振動子を含む装置内を伝播して、音速導出用受波振動子に直接到達するのを防止する。従って、音速の導出に不要な超音波が音速導出用受波振動子に受波されるのを防止することができる。
請求項3の骨強度診断装置は、請求項1又は2の何れかにおいて、前記形状検出手段が、前記骨に対して超音波を送波する形状検出用送波部と、前記形状検出用送波部から送波された前記超音波の、前記骨の表面からの表面反射波を受波する形状検出用受波部と、前記形状検出用受波部による受波信号を用いて、前記骨の表面の形状を検出する表面形状検出部とを有することを特徴とする。
この構成によると、表面形状検出手段が、超音波を利用した手段であるため、形状検出用送波部及び形状検出用受波部の構成の一部を、表面形状検出手段にも用いることができ、コストを低減できる。
請求項4の骨強度診断装置は、請求項3において、前記形状検出用送波部が、同時に前記超音波を送波する、複数の形状検出用送波振動子を備え、前記形状検出用受波部が、前記表面反射波を受波する複数の形状検出用受波振動子を備え、前記形状検出手段が、前記複数の形状検出用受波振動子のうち近接する2つの形状検出用受波振動子を1組の振動子組として、各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子がそれぞれ前記表面反射波を受波した時刻の時間差を用いて、前記各振動子組に対する前記表面反射波の到来方向を検出する到来方向検出部と、前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子のうち少なくとも1つの形状検出用受波振動子の前記表面反射波の受波信号を用いて、各振動子組に到達する前記表面反射波の伝播時間を検出する伝播時間検出部と、前記到来方向検出部及び前記伝播時間検出部により、前記各振動子組について検出された、前記表面反射波の前記到来方向及び前記伝播時間に基づいて、前記超音波の前記骨の表面における反射点を検出する表面反射点検出部と、前記表面反射点検出部により、構成振動子の異なる複数の前記振動子組についてそれぞれ検出された、前記骨の表面における複数の前記反射点を用いて、前記骨の表面の形状を導出する形状導出部とを備えることを特徴とする。
複数の形状検出用送波振動子から同時に送波された超音波は、平面波として伝播して骨の表面で反射し、これにより生じた表面反射波は複数の複数の形状検出用受波振動子により受波される。複数の受波振動子のうち近接する2つの受波振動子を1組の振動子組として、この1組の振動子組に到達する表面反射波の到来方向及び伝播時間を検出して、これらの値を用いて、骨の表面上の反射点を検出する。他の振動子組についても同様に、骨の表面上の反射点をそれぞれ検出することにより、複数の反射点の位置が検出され、骨の表面の形状を導出することができる。
複数の形状検出用送波振動子から同時に超音波を送波するには、複数の形状検出用送波振動子に対して同じ電気信号(送波信号)を送信すればよい。そのため、形状検出用送波部を比較的簡易な構成とすることができる。
また、複数の形状検出用送波振動子から同時に超音波を送波して骨表面の形状を検出しているため、複数の振動子から送波時間をずらして超音波を送波して骨表面の形状を検出する場合に比べて、形状検出に要する時間が短くて済む。そのため、超音波の送受波の途中に、装置の位置がずれることが少なくなり、骨の形状を精度良く検出することができる。
請求項5の骨強度診断装置は、請求項4において、前記形状検出用送波振動子が、前記形状検出用受波振動子を兼ねていることを特徴とする。この構成によると、骨の形状の検出に用いる振動子の数が少なくて済む。
請求項6の骨強度診断装置は、請求項4又は5において、前記音速導出用受波振動子が、前記形状検出用受波振動子を兼ねていることを特徴とする。この構成によると、超音波の受波を行う振動子の数が少なくて済む。
請求項7の骨強度診断装置は、請求項1〜3の何れかにおいて、前記形状検出手段が、前記骨の表面の形状の検出に加え、前記骨の裏面の形状の検出を行うことを特徴とする。この構成によると、検出された骨の表面と裏面の形状とから、骨の厚みを検出することができ、この骨厚みにより骨強度の診断指標の1つを得ることができる。さらに、検出された骨の表面の形状から骨の大きさ(外径)を推定することができ、この骨の大きさ(外径)も骨強度の診断指標となる。
請求項8の骨強度診断装置は、請求項4〜6の何れかにおいて、前記形状検出用受波部が、前記表面反射波の受波に加えて、前記表面反射波よりも遅れて前記複数の形状検出用受波振動子に到達する、前記骨の裏面からの裏面反射波の受波を行い、前記到来方向検出部が、前記表面反射波の前記到来方向の検出に加えて、前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子がそれぞれ前記裏面反射波を受波した時刻の時間差を用いて、前記各振動子組に対する前記裏面反射波の到来方向の検出を行い、前記伝播時間検出部が、前記各振動子組に到達する前記表面反射波の前記伝播時間の検出に加えて、前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子のうち少なくとも1つの形状検出用受波振動子の前記裏面反射波の受波信号を用いて、各振動子組に到達する前記裏面反射波の伝播時間の検出を行い、さらに、前記形状検出手段が、前記到来方向検出部及び前記伝播時間検出部により、前記各振動子組について検出された、前記裏面反射波の前記到来方向及び前記伝播時間と、前記形状導出部により導出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記超音波の前記骨の裏面における反射点を検出する裏面反射点検出部を備え、前記形状導出部が、前記裏面反射点検出部により、構成振動子の異なる複数の前記振動子組についてそれぞれ検出された、前記骨の裏面における複数の前記反射点を用いて、前記骨の裏面の形状を導出することを特徴とする。
複数の形状検出用送波振動子から送波された超音波の、骨の裏面からの反射波を複数の形状検出用受波振動子によって受波して、その受波信号と、予め導出された骨の表面の形状とを用いることにより、骨の裏面の形を導出することができる。導出された骨の表面と裏面の形状とから、骨の厚みを検出することができ、この骨厚みにより骨強度の診断指標の1つを得ることができる。さらに、検出された骨の表面の形状から骨の大きさ(外径)を推定することができ、この骨の大きさ(外径)も骨強度の診断指標となる。
請求項9の骨強度診断装置は、請求項1〜8の何れかにおいて、前記音速導出用送波振動子の送波信号と各音速導出用受波振動子の受波信号とから、前記各音速導出用受波振動子に受波される前記超音波の減衰係数を検出する減衰係数検出部を備えることを特徴とする。
請求項10の骨強度測定方法は、軟組織に覆われた骨の表面の形状を検出する形状検出ステップと、音速導出用送波振動子から、前記骨に対して斜めに超音波を送波する音速導出用送波ステップと、前記音速導出用送波振動子から送波されて前記骨の表面に沿って伝播した後、前記骨から前記軟組織側に出た超音波を、複数の音速導出用受波振動子により受波する音速導出用受波ステップと、前記音速導出用受波ステップにより得られた受波信号と、前記形状検出ステップにより検出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を導出する音速導出ステップとを備えることを特徴とする。
音速導出用送波振動子から骨に対して斜めに超音波を送波して、骨の表面に沿って伝播する超音波を発生させる。この超音波は、骨の表面に沿って伝播した後、骨から軟組織側に出て、複数の音速導出用受波振動子により受波される。音速導出ステップでは、音速導出用受波振動子の受波信号と、予め骨形状検出ステップにおいて検出された骨表面の形状とを用いて、骨表面に沿って伝播する超音波の音速を導出し、この音速により骨強度を診断する。
このように、骨の表面の形状の情報を用いて、骨中の音速を導出することにより、たとえ骨の表面の形状が曲面状であっても、骨中の音速を精度良く導出することができる。その結果、骨強度の診断精度が向上する。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の骨強度診断装置1は、骨の表面に沿って伝搬する超音波の音速を導出して、この音速により骨強度を診断する装置である。
骨強度診断装置1は、例えば、脛骨などの長管状の骨の皮質骨を診断対象とするが、診断対象となる部位は、これに限定されるものではない。通常、骨は、皮質骨と、皮質骨の内側に存在する網目状の海綿骨とから構成されている。図1に示すように、皮質骨(以下、単に骨という)10の表面10aは、筋肉や脂肪などの軟組織11に覆われている。図1は、骨10の長軸方向に直交する断面(円周断面)を示しており、骨表面10aの形状は、軟組織11側に膨らんだ緩やかな曲面状となっている。なお、図示は省略するが、骨10の長軸方向の断面の表面は、ほぼ平坦状であって、軟組織11の表面に対して傾いている場合がある。本実施形態の骨強度診断装置1は、骨表面10aを円周方向に伝播する超音波の音速(以下、円周方向の音速という)、及び、骨表面10aを長軸方向に沿って伝播する超音波の音速(以下、長軸方向の音速という)を導出して、これら2方向の音速を用いて、骨強度を診断する装置である。
図1に示すように、本実施形態の骨強度診断装置1は、超音波送受波器2と、装置本体3とから構成されている。装置本体3は、送受信分離部4と、送信回路5と、送信切替部5aと、複数の受信回路6a〜6lと、超音波制御部7と、演算部8と、表示部9とを有する。
超音波送受波器2は、超音波の送波及び受波を行うものであって、軟組織11の表面に当接される。軟組織11の表面に当接される面を当接面2aとする。超音波送受波器2は、送波専用振動子21と、一列に配列された複数(本実施形態では12個)の振動子22a〜22lからなるアレイ振動子22と、遮音材23とを有する。振動子とは、電気信号を与えられると振動してその表面(振動面)から超音波を発射し、また、その表面に超音波を受けて振動すると電気信号を生成するものである。
送波専用振動子21と遮音材23とアレイ振動子22とは、アレイ振動子22の配列方向に沿って並んで配置されている。なお、円周方向の音速を測定する場合には、図1に示すように、骨超音波送受波器2は、アレイ振動子22の配列方向が骨10の円周方向にほぼ一致するように、軟組織11に当接される。また、長軸方向の音速を測定する場合には、超音波送受波器2は、アレイ振動子22の配列方向が骨10の長軸方向にほぼ一致するように当接される。
送波専用振動子21は、その表面(振動面)が当接面2aに対して傾くように設置されている。送波専用振動子21としては、指向性の広い超音波を送波するもの(言換えると、放射する超音波の角度範囲の広いもの)が用いられる。振動面の面積が小さいほど指向性は広くなる。超音波の感度と指向性とはトレードオフの関係にあるので、測定対象に合わせて、送波専用振動子21の設置角度と振動面の寸法は適宜設計される。
また、アレイ振動子22を構成する12個の振動子22a〜22lは、その表面(振動面)が当接面2aと平行になるように設置されている。なお、アレイ振動子22を構成する振動子の数は、本実施形態では12個であるが、この数に制限されるものではない。アレイ振動子22の図1中の左右方向長さは、例えば24mmである。
遮音材23は、板状に形成されており、送波専用振動子21とアレイ振動子22との間に配置されている。遮音材23の材料としては、例えば、コルクや、合成ゴムや、多孔質材(例えば発泡樹脂材)などの吸音作用を有する材料が用いられる。遮音材23は、送波専用振動子21から送波された超音波が、超音波送受波器2内を伝播してアレイ振動子22に直接到達するのを防止する。つまり、骨中の音速を導出するのに不要な超音波がアレイ振動子22に受波されるのを防止することができる。
なお、当接面2aと軟組織11の表面との間には、図示しないカップリング材が介在している。カップリング材は、当接面2aと軟組織11の表面との間に隙間が生じるのを防止するとともに、振動子22a〜22lと軟組織11の音響インピーダンスを整合させて、送波専用振動子21又はアレイ振動子22から送波された超音波が、軟組織11の表面で反射するのを抑制するためのものである。
送波専用振動子21は、送信切替部5aを介して、送信回路5に接続されている。また、複数の振動子22a〜22lは、送受信分離部4及び送信切替部5aを介して、送信回路5に接続されている。送信回路5は、電気パルス信号を生成するとともに、この電気パルス信号を送信切替部に送信するものである。なお、電気パルス信号の代わりに、チャープ信号を用いてもよい。電気パルス振動の中心周波数は、例えば1〜10MHz程度である。
送信切替部5aは、送信回路5から送信される電気パルス信号を、送波専用振動子21及びアレイ振動子22の何れかに送信するものである。つまり、送信切替部5aにより、超音波の送波を行う振動子が切り替えられる。
また、アレイ振動子22を構成する12個の振動子22a〜22lは、送受信分離部4を介して、12個の受信回路6a〜6lにそれぞれ接続されている。受信回路6a〜6lは、振動子22a〜22lからそれぞれ送信される電気信号(受波信号)に対して、増幅処理や、フィルタ処理、デジタル変換処理などを施し、演算部8に送信するものである。
送受信分離部4は、送信回路5からアレイ振動子22に送られる送波信号(電気パルス信号)が受信回路6a〜6lに直接流れるのを防止するとともに、アレイ振動子22から受信回路6a〜6lに送られる受波信号が送信回路5に流れるのを防止するためのものである。
超音波制御部7は、送信回路5に接続されており、12個の振動子22a〜22lから超音波を送波させるための信号を送信回路5に送信する。
なお、本発明の音速導出用送波振動子は、送波専用振動子21に相当する。また、本発明の複数の音速導出用受波振動子、複数の反射波送波振動子及び複数の反射波受波振動子は、アレイ振動子22を構成する12個の振動子22a〜22lに相当する。従って、本実施形態では、音速導出用受波振動子が形状検出用受波振動子を兼ねている。そのため、超音波の受波を行う振動子の数が少なくて済む。また、形状検出用送波振動子が形状検出用受波振動子を兼ねているため、骨の形状の検出に用いる振動子の数が少なくて済む。
また、本発明の音速導出用送波部は、送波専用振動子21と送信回路5から構成され、本発明の形状検出用送波部は、アレイ振動子22と送信回路5から構成され、本発明の音速導出用受波部及び形状検出用受波部は、アレイ振動子22と12個の受信回路6a〜6lとから構成されている。
以下、超音波送受波器2の動作について説明する。
<アレイ振動子22により超音波の送波を行う場合>
送信切替部5aにより、超音波の送波を行う振動子として、アレイ振動子22が決定された場合、送信回路5からアレイ振動子22に電気パルス信号が送られ、アレイ振動子22を構成する振動子22a〜22lは、同時に同位相の超音波(入射波)を骨10に対して送波する。図2(a)に示すように、アレイ振動子22から送波された入射波は、平面波として軟組織11中を伝播する。この平面波は、当接面2aに直交する方向に進行する。
図2(b)に示すように、入射波の一部は、骨表面10aで反射する。これにより生じた表面反射波は、振動子22a〜22lに受波される。また、骨表面10aで反射せずに骨10中を伝播した入射波の一部は、骨10の裏面10bで反射する。これにより生じた裏面反射波は、表面反射波よりも遅れて振動子22a〜22lに受波される。従って、各振動子22a〜22lで受波される表面反射波又は裏面反射波は、どの振動子から送波されたものであるか特定されない。
なお、アレイ振動子22から骨表面10aまでの位置関係は、アレイ振動子22から送波された平面波が、拡散することなく骨表面10aまで伝播するような近距離音場であることが好ましい。これにより、骨表面10aの形状をより正確に検出精度が高くなる。また、アレイ振動子22から骨裏面10bまでの距離も近いことが好ましい。
振動子22a〜22lは、表面反射波又は裏面反射波を受波すると、音波を電気信号に変換し、この電気信号(受波信号)を、送受信分離部4を介して受信回路6a〜6lにそれぞれ送信する。このように、表面反射波及び裏面反射波の受波は、振動子22a〜22lより独立して行なわれる。図3は、振動子22a〜22lの受波信号の一例を示している。図3の横軸は、入射波を送波してからの時間を示している。図3中の波形Maは、表面反射波を示し、波形Mbは、裏面反射波を示している。裏面反射波は、音響インピーダンスが密(皮質骨)から疎(海綿骨)の反射でもあるため位相が反転する。
<送波専用振動子21により超音波の送波を行う場合>
送信切替部5aにより、超音波の送波を行う振動子として、送波専用振動子21が決定された場合、送信回路5から送波専用振動子21に電気パルス信号が送られ、送波専用振動子21は、骨10に対して超音波を送波する。図4に示すように、送波専用振動子21からは、指向性の広い超音波(入射波)が送波される。入射波は、当接面2aに対して斜め方向に軟組織11中を伝播する。
送波専用振動子21から送波された超音波は、複数の伝播ルートを経由してアレイ振動子22に受波される。振動子22a〜22lは、アレイ振動子22から超音波を送波した場合と同様に、超音波を受波すると、受波信号を受信回路6a〜6lにそれぞれ送信する。
送波専用振動子21から送波されてアレイ振動子22に到達する超音波の伝播ルートには、以下の3種類が存在する。軟組織11の表面に沿って伝播して、アレイ振動子22に直接到達する伝播ルートと、骨表面10aで反射してアレイ振動子22に到達する伝播ルート(図4中の反射波31又は反射波32を含む伝播ルート)と、骨表面10aに沿って伝播した後、骨10から軟組織11側に出てアレイ振動子22に到達する伝播ルートである。さらに、この3つ目の伝播ルートには、以下に説明する2種類がある。
入射波の一部が骨表面10aに対して臨界角付近で入射すると、骨表面10aに表面波が発生する。表面波は、軟組織11側の所定の方向(骨表面10aに対して臨界角付近の方向)に漏洩表面波を放射しつつ、骨表面10aに沿って伝播する。この漏洩表面波がアレイ振動子22により受波される。図4中の超音波33は、漏洩表面波の一例である。臨界角は、軟組織11中の音速と、骨10中の音速とによって決定される角度である。送波専用振動子21として指向性の広い振動子を用いているため、たとえ被検者によって骨表面10aの傾きが異なっていても、骨表面10aに対して臨界角付近で入射させることが可能となる。
入射波の一部が臨界角よりも小さい角度で骨表面10aに入射すると、骨表面10aで屈折し、骨10中の骨表面10a近傍を伝播した後、骨10と軟組織11との界面10aで再び屈折する。この屈折波(以下、骨表面屈折波という)がアレイ振動子22に受波される。図4中の超音波34は、骨表面屈折波の一例である。骨表面屈折波は、骨表面10aの形状が平坦状でない場合にのみ発生する。
また、アレイ振動子22を構成する1つの振動子に骨表面屈折波と漏洩表面波の両方が受波される場合がある。骨表面屈折波は漏洩表面波よりも先に受波される場合があるが、後に受波される場合もある。
なお、骨幅(図1の左右方向の骨10の長さ)が小さい場合には、送波専用振動子21から離れた位置には、漏洩表面波が到達しない場合がある。つまり、骨幅が短いほど、漏洩表面波を受波可能な範囲が短くなる。また、当接面2aに対する骨表面10aの傾きにもよるが、軟組織11の厚みが大きいほど、漏洩表面波を受波できる振動子のうち最も送波専用振動子21に近い振動子と送波専用振動子21との距離は長くなる。本実施形態では、複数の振動子22a〜22lにより漏洩表面波の受波を行っているため、たとえ骨幅や軟組織11の厚みに個人差があっても、複数の振動子22a〜22lのうち少なくとも何れかの複数の振動子によって漏洩表面波を確実に受波することが可能となる。
上述したように、漏洩表面波は、送波専用振動子21からある程度離れた位置でしか受波できないのに対して、骨面10aからの反射波は、送波専用振動子21に近接した位置にでも受波できる。図4の場合を例に挙げると、漏洩表面波は振動子22d以降の振動子に受波されるが、骨面10aからの反射波は振動子22a以降の振動子に受波される。このように、アレイ振動子22の送波専用振動子21側の振動子は、反射波のみを受波して漏洩表面波を受波しない場合がある。
また、アレイ振動子22を構成する1つの振動子に、漏洩表面波と骨表面10aからの反射波の両方が受波される場合には、漏洩表面波が反射波より先に受波される。これは、骨10中の音速の方が、軟組織11中の音速よりも速いからである。
また、軟組織11の表面に沿って伝播して、アレイ振動子22に直接到達する超音波(以下、直接波という)は、送波専用振動子21に近い振動子に対しては、漏洩表面波よりも先に到達するが、送波専用振動子21から離れた振動子に対しては、漏洩表面波の後に到達する場合がある。なお、直接波の振幅は、遮音材23があるため、漏洩表面波や反射波の振幅に比べて極めて小さくなるように設計されている。
また、演算部8は、CPU、RAM、ROM等から構成されており、信号処理部81と、形状検出部82と、音速導出部83と、骨強度指標導出部84とを有する。
信号処理部81は、記憶部と信号処理回路とから構成されている。信号処理部81は、受信回路6a〜6lから送信される受波信号を受信し、超音波の送波から一定時間内の受波信号を記憶部に記憶するとともに、この受波信号のピーク値等を信号処理回路により検出し、形状検出部82と音速導出部83に送信する。
形状検出部82は、アレイ振動子22から超音波を送波したときの、アレイ振動子22の表面反射波及び裏面反射波の受波信号を用いて、骨表面10a及び骨裏面10bの形状を検出する。形状検出部82は、到来方向検出部82aと、伝播時間検出部82bと、表面反射点検出部82cと、形状導出部82dと、裏面反射点検出部82eとから構成されている。
到来方向検出部82aは、12個の振動子22a〜22lのうち隣接する2つの振動子を1組の振動子組として、11個の振動子組22A〜22K(図1参照)を決定し、各振動子組22A〜22Kに到達する表面反射波及び裏面反射波の到来方向を検出する。
伝播時間検出部82bは、各振動子組22A〜22Kに到達する表面反射波の伝播時間と裏面反射波の伝播時間を検出する。
表面反射点検出部82cは、到来方向検出部82a及び伝播時間検出部82bにより検出された、11個の振動子組22A〜22Kにそれぞれ到達する表面反射波の到来方向及び伝播時間に基づいて、骨表面10a上の11個の反射点(表面反射点)を検出する。
形状導出部82dは、表面反射点検出部82cにより検出された11個の表面反射点を用いて、骨表面10aの形状を導出する。また、形状導出部82dは、後述する裏面反射点検出部82eにより検出された11個の裏面反射点を用いて、骨裏面10bの形状を導出し、さらに、骨表面10a及び骨裏面10bの形状とから、骨(皮質骨)10の厚みを導出する。
裏面反射点検出部82eは、到来方向検出部82a及び伝播時間検出部82bにより検出された、11個の振動子組22A〜22Kにそれぞれ到達する裏面反射波の到来方向及び伝播時間に基づいて、骨裏面10b上の11個の反射点(裏面反射点)を検出する。
音速導出部83は、送波専用振動子21から超音波を送波したときの、アレイ振動子22の漏洩表面波又は骨表面屈折波の受波信号と、形状導出部82dにより導出された骨表面10aの形状とに基づいて、骨表面10aに沿って伝播する超音波の音速を導出する。
骨強度指標導出部84は、音速導出部83により導出された骨10中の2方向の音速と、形状導出部82dにより導出された骨10の厚みとを用いて、骨強度に関する指標を導出する。
また、表示部9は、演算部8に接続されており、形状導出部82dにより導出された骨表面10a及び裏面10bの形状や、骨強度指標導出部84により導出された骨強度の診断指標を表示するものである。
以下、骨強度診断装置1の動作について、特に演算部8の動作を中心に説明する。図5は、骨強度診断装置1の動作を示すフローチャートである。
図5に示すように、アレイ振動子22による超音波の送波及び受波を行った後(S1)、超音波送受波器2の位置を動かさずに、送波専用振動子21から超音波を送波して、アレイ振動子22により超音波の受波を行う(S2)。
<形状検出ステップ>
アレイ振動子22から超音波を送波したときのアレイ振動子22の受波信号を用いて、形状検出部82が骨表面10aの形状を導出する。先ず、到来方向検出部82aが、11個の振動子組22A〜22Kについて、それぞれ表面反射波の到来方向を検出する(S11)。
各振動子組を構成する隣接する2つの振動子(例えば、振動子22a、22b)に対する表面反射波の2つの到来方向は近似している。そのため、到来方向検出部82aでは、上記2つの到来方向を同一とみなして、1つの振動子組ごとに、1つの到来角度を検出する。
以下、振動子組22Aに対する到来角度を検出する方法について説明する。
図6(a)に示すように、振動子組22Aに到達する表面反射波42の到来角度をθaとすると、図6(b)に示すように、2つの振動子22a、22bに到達する表面反射波の到来角度がθaであるため、表面反射波42の波面42aは、アレイ振動子22の配列方向(図6中のx軸方向)対して角度θa傾いている。そのため、振動子22bには、振動子22aに到達した後、さらに距離Dだけ進んだ表面反射波42が到達する。つまり、振動子22bは、振動子22aよりも遅れて表面反射波42を受波している。2つの振動子22a、22bがそれぞれ表面反射波42を受波した時刻の時間差をΔtとする。
Δtは、振動子22a、22bの受波信号を基にして、以下の方法で導出することができる。例えば、2つの振動子22a、22bの受波信号の最大ピークの時間差を用いてもよい。また、2つの振動子22a、22bの受波信号の最大ピークの立ち上がり部分と、振幅が0のラインとの交点の時間差を用いる、いわゆるゼロクロス法を用いてもよい。また、予め演算部8に記憶しておいた波形との相関処理を行い、時間差Δtを導出してもよい。また、直交検波法などにより2つの振動子22a、22bの受波信号の位相差を求め、得られた位相差と入射波の周波数により時間差Δtを導出してもよい。なお、この方法は、2つの振動子22a、22bの受波信号の位相差が180°以内である場合にのみ用いることができる。
軟組織11中の音速をVsとすると、伝播経路の差Dは、D=Vs・Δtにより算出される。また、図6(b)に示すように、2つの振動子22a、22bの間隔をWとすると、伝播経路の差Dは、D=W・sinθaで表される。従って、到来角度θaは、θa=arcsin(Vs・Δt/W)により算出される。なお、軟組織11中の音速Vsは、測定したものを用いてもよいが、仮定値を用いてもよい。
以上、振動子組22Aに対する表面反射波42の到来角度θaの検出方法について説明したが、他の10個の振動子組22B〜22Kに対する到来角度θaも同様の手順により検出することができる。
なお、到来方向を検出する際、振動子組を構成する2つの振動子の受波信号の受波信号の位相差から直接到来角度を検出してもよい。本発明の到来方向検出部の「受波振動子がそれぞれ前記表面反射波を受波した時刻の時間差を用いて」とは、位相差を用いる場合も含むものとする。
次に、伝播時間検出部82bが、アレイ振動子22により超音波が送波されてから、振動子組22A〜22Kに表面反射波が到達するまでの伝播時間Taを、2つの振動子22a、22bの受波信号を用いて検出する(S12)。伝播時間Taは、例えば、アレイ振動子22により超音波が送波されてから、振動子22a、22bに表面反射波42がそれぞれ到達するまでの時間の平均値を用いてもよいが、平均値以外の値を用いてもよい。平均値を用いると、検出される骨表面10aの形状の誤差を少なくすることができる。
次に、表面反射点検出部82cが、各振動子組22A〜22Kに到達する表面反射波の到来角度θa及び伝播時間Taとを用いて、骨表面10a上の表面反射点を検出する(S14)
以下、振動子組22Aに対する到来角度θaを用いて、骨表面10a上の1つの表面反射点の位置を検出する方法について説明する。
図6(a)に示すように、振動子組22Aに対する表面反射波42の到来角度がθaの場合、この表面反射波42は、振動子22a〜22lの表面上の点Eaから送波されて図6(a)中のy軸方向に進行する入射波41が、x軸方向に対してθa/2傾いた骨表面10a上の点(表面反射点)Raで反射したものである。
ここで、図6(a)に示すように、x軸方向に関する振動子組22Aから表面反射点Raまでの距離をXとし、y軸方向に関する振動子組22Aから表面反射点Raまでの距離をYとする。
入射波41の伝播方向がy軸方向であるため、点Eaから表面反射点Raまでの距離はYである。また、表面反射点Raから振動子組22Aまでの距離がY/cosθaで表されるため、点Eaから入射波41が送波されてから振動子組22Aに表面反射波42が到達するまでの伝播距離Laは、La=Y+Y/cosθaで表される。また、伝播時間Taと軟組織中の音速Vsとから、伝播距離LaはLa=Vs・Taにより算出される。従って、Yは、Y=Vs・Ta・cosθa/(1+cosθa)により算出される。また、Xは、X=Vs・Ta・sinθa/(1+cosθa)により算出される。これにより、表面反射点Raの位置が検出される。
このように、アレイ振動子22から送波される超音波(平面波)の伝播方向が予めわかっているため、振動子組22Aで受波される表面反射波42がどの振動子から送波されたものであるか特定されていなくても、検出された到来角度θaと伝播時間Taを用いることにより表面反射点Raの位置を検出することができる。
以上、振動子組22Aに到達する表面反射波の到来角度θaと伝播時間Taとを用いて、1つの表面反射点Raの位置を検出する方法について説明したが、他の10個の振動子組22B〜22Kについても同様の手順により表面反射点Raの位置をそれぞれ検出することができる。
なお、上述した方法では、振動子組を構成する2つの振動子に受波された表面反射波の伝播時間の平均値を伝播時間Taとしているが、2つの振動子のうちの一方の振動子で受波された表面反射波の伝播時間をそのまま伝播時間Taとしてもよい。この場合、各振動子組を構成する2つの振動子のうち、同じ位置関係にある振動子の表面反射波の受波信号を用いることが望ましい。例えば、振動子組22Aで振動子22bの受波信号を用いる場合には、振動子組22Bでは振動子22cの受波信号を用いる。
また、振動子組を構成する2つの振動子で受波された表面反射波の伝播時間と、到来角度θaを用いて、1組の振動子組に対して、2つの反射点を検出してもよい。本発明の伝播時間検出部の「各振動子組に到達する前記表面反射波の伝播時間」とは、2つの振動子に受波された表面反射波の伝播時間をそのまま、「各振動子組に到達する前記表面反射波の伝播時間」とする場合を含む。
形状導出部82dは、表面反射点検出部82cにより検出された11個の表面反射点Raを直線又は曲線で結び、図7に示すようなxy軸平面上の骨表面ラインIaを導出する(S13)。骨表面ラインIaは、後に導出する骨裏面ラインIbと合わせて表示部9に表示される。骨表面ラインIaを用いることにより、骨10の大きさ(外径)を推定することができる。なお、本発明の形状導出部による「複数の反射点を用いて、骨の表面の形状を導出する」とは、複数の反射点を結んで表面ラインを導出することに限定されず、複数の反射点の位置関係を取得するだけでもよい。
次に、骨裏面10bの形状を導出する。
まず、到来方向検出部82a及び伝播時間検出部82bが、表面反射波42の場合と同様の方法で、各振動子組22A〜22Kに到達する裏面反射波の到来方向θbと伝播時間Tb0をそれぞれ検出する(S15、S16)。なお、各振動子による表面反射波の受波信号と裏面反射波の受波信号は、図3に示すように、時間差があるため、容易に区別することができる。
次に、裏面反射点検出部82eが、各振動子組22A〜22Kに到達する裏面反射波の到来方向θb及び伝播時間Tb0と、形状導出部82dによって導出された骨表面ラインIaとを用いて、骨裏面10b上の裏面反射点の位置を検出する(S17)。
以下、振動子組22Aについて、到来角度θb及び伝播時間Tb0とを用いて、骨裏面10b上の1つの裏面反射点を検出する場合について説明する。
図7に示すように、振動子組22Aに到達する裏面反射波54の到来角度θbと、骨表面ラインIaとから、裏面反射波54の骨表面10aにおける屈折角α1が算出される。
骨10中の音速の仮定値をVb´、裏面反射波54の軟組織11への入射角をα2とすると、スネルの法則により、sinα1/sinα2=Vs/Vb´の関係が成立する。この式より、入射角α2が算出され、裏面反射波54の骨10中の伝播方向(図7中のz軸)が導出される。
また、振動子22a〜22lの表面上の点Eb1から送波された入射波51の骨表面10aまでの伝播方向(y軸方向)と、骨表面ラインIaとから、入射波51の骨表面10aへの入射角β1が算出される。
入射波51の骨表面10aにおける屈折角をβ2とすると、スネルの法則により、sinβ1/sinβ2=Vs/Vb´の関係が成立する。この式より、屈折角β2が算出され、図7に示すように、入射波51の骨10中の伝播方向が導出される。入射波51の骨10中の伝播方向と、裏面反射波54の骨10中の伝播方向(z軸)との交点をK1とする。
交点K1が骨裏面10b上の反射点(裏面反射点)であると仮定すると、点Eb1から送波された入射波51が、骨裏面10b上の点K1で反射して、振動子組22Aに到達していることになる。この仮定の伝播ルートにおける、送波から受波までの伝播時間の予測値をTb1とする。Tb1は、点Eb1から振動子組22Aまでの超音波の伝播ルートと、軟組織11中の音速Vsと、骨10中の音速の仮定値Vb´とから算出される。
また、振動子22a〜22lの表面上の点Eb2、Eb3から送波された入射波52、53についても、入射波51と同様に、骨10中の伝播方向とz軸との交点K2、K3をそれぞれ検出する。さらに、交点K2、K3をそれぞれ裏面反射点とした場合の、送波から受波までの伝播時間の予測値Tb2、Tb3をそれぞれ算出する。
図8は、z軸上の裏面反射点の位置と、入射波の送波から振動子組22Aに裏面反射波が到達するまでの伝播時間Tbとの関係を示すグラフである。図8中の曲線は、交点K1、K2、K3を裏面反射点と仮定したときの、伝播時間の予測値Tb1、Tb2、Tb3から得られる3つの点を曲線で結んだものである。この曲線と、Tb=Tb0(伝播時間の実測値)のラインの交点から、裏面反射点Rbの位置を検出することができる。
なお、算出された伝播時間の予測値Tb1、Tb2、Tb3の何れかが、伝播時間の実測値Tb0とほぼ等しい場合には、図8のようなグラフを用いなくても、裏面反射点Rbを検出できる。
以上、振動子組22Aに到達する裏面反射波の到来角度θb及び伝播時間Tb0とを用いて、1つの裏面反射点Rbを検出する方法について説明したが、残りの10個の振動子組22B〜22Kについても同様の手順により裏面反射点Rbの位置をそれぞれ検出する。
形状導出部82dは、検出された11個の裏面反射点Rbを直線又は曲線で結び、図7に破線で示すようなxy軸平面上の骨裏面ラインIbを導出する(S18)。
導出された骨裏面ラインIbは、骨表面ラインIaと共に表示部9に表示される。これにより骨のイメージング画像を得ることができる。また、形状導出部82dは、骨表面ラインIaと骨裏面ラインIbとを用いて、骨10の厚みを導出する(S19)。
以上説明したように、本実施形態の骨強度診断装置1では、アレイ振動子22を構成する複数の振動子22a〜22lから同時に同位相の超音波を送波し、その反射波を利用して、骨表面10a及び裏面10bの形状を導出している。ここで、複数の振動子から送波時間又は位相をずらして超音波を送波する場合、つまり、複数の振動子に対してそれぞれ時間又は位相をずらした電気信号を送る場合には、複数の送信回路又は切替回路を備える必要があるが、本実施形態では、複数の振動子22a〜22lから同時に同位相の超音波を送波すればよいため、1つの送信回路5が、複数の振動子22a〜22lに接続された構成にすることができる。従って、送信側の回路構成が比較的簡易になり、その結果、コストを低減できる。
また、複数の振動子22a〜22lから同時に超音波を送波して骨の形状を検出しているため、複数の振動子から送波時間をずらして超音波を送波して骨の形状を検出する場合に比べて、形状検出に要する時間が短くて済む。そのため、超音波の送受波の途中に、超音波送受波器2の位置がずれることが少なくなり、骨の形状を精度良く検出することができる。
また、複数の振動子22a〜22lが、超音波の送波と受波の両方を行うように構成されているため、骨10の形状を検出するための超音波の送受波に用いる振動子の数を少なくすることができ、コストを低減できる。
<音速導出ステップ>
次に、送波専用振動子21から超音波を送波したときのアレイ振動子22の受波信号と、形状導出部82dにより導出された骨表面10aの形状とを用いて、音速導出部83が骨10中の音速を導出する。まず、骨表面10aの形状に基づいて、複数の振動子22a〜22lのうち、漏洩表面波を受波する振動子を特定する(S21)。以下、具体的に説明する。
図9に示すように、振動子22aと送波専用振動子21と骨表面ラインIaとの位置関係とに基づき、フェルマーの原理を用いて、振動子22aに到達する骨表面10aからの反射波の伝搬経路を検出する。フェルマーの原理とは、2点を通る音波は伝播可能な経路のうち最短の経路を通って伝播するというものである。このフェルマーの原理によると、振動子22aに到達する反射波の伝播経路は、送波専用振動子21の指向性の範囲内で推定できる反射波の伝播経路のうち、送波専用振動子21から振動子22aまでの伝搬距離が最短の経路となる。
次に、振動子22aに到達する反射波の伝播経路における、骨表面10aに対する入射角λ1を算出する。また、骨10中の音速の仮定値Vb´と、軟組織11中の音速Vsとから、臨界角の仮定値Cを算出し、この臨界角の仮定値Cと入射角λ1とを比較する。入射角λ1が臨界角の仮定値Cよりも小さい場合には、入射角が臨界角の仮定値Cと同じ(又はそれ以上)になるまで、送波専用振動子21に近い順に振動子22b以降の各振動子について同様の演算を行う。振動子22cに到達する反射波の伝播経路における入射角λ3が、臨界角の仮定値Cと同じになったとする。入射角が臨界角と同じ場合、骨表面10aでは表面波が発生する。従って、振動子22dが、漏洩表面波を受波する、送波専用振動子21に最も近い振動子と特定される。即ち、振動子22d以降の振動子が、漏洩表面波を受波する振動子と特定される。
なお、上述したように、骨幅(図1の左右方向の骨10の径)が小さい場合には、送波専用振動子21から離れた位置の振動子(例えば振動子22k、22l)は、漏洩表面波が到達しない場合がある。この場合には、上述の方法により漏洩表面波を受波する、送波専用振動子21に最も近い振動子を特定するとともに、骨表面ラインIaを用いて、どの振動子まで漏洩表面波が到達するのか特定(即ち、送波専用振動子21から最も離れた、漏洩表面波を受波できる振動子を特定)してもよい。
次に、漏洩表面波を受波する振動子であると特定された振動子22d〜22lの、送波から一定時間の受波信号の中から、漏洩表面波(又は骨表面屈折波)の波形を検出する(S22)。以下、具体的に説明する。
振動子22d〜22lの受波信号の中から、超音波の波形とノイズの波形を区別して、最も受波時刻の早い超音波の波形を検出する。具体的には、例えば、図10に示すように、一般的なノイズレベルより若干大きいノイズ閾値Nを決定しておき、振幅がn点(例えば3点)連続して閾値Nを超えた場合に、超音波の波形として認識する。
上述したように、1つの振動子に漏洩表面波と骨表面10aからの反射波の両方が到達する場合、漏洩表面波は反射波よりも先に到達するため、最も受波時刻の早い超音波の波形を検出することにより、漏洩表面波又は骨表面屈折波の波形を検出することができる。この波形の最大ピーク値、ゼロクロス値などから、各振動子22d〜22lに到達した漏洩表面波又は骨表面屈折波の伝播時間を導出することができる。なお、直接波の方が、反射波や漏洩表面波等よりも先に到達する場合もあるが、上述したように、直接波はこれらに比べて振幅が非常に小さくなるように設計されているため、ほとんど検出されない。
次に、漏洩表面波を受波する振動子であると特定された振動子22d〜22lの、最も受波時刻の早い超音波の受波信号(漏洩表面波又は骨表面屈折波の受波信号)と、骨表面10aの形状とを用いて、骨表面10aを円周方向の音速を算出する(S23)。
まず、漏洩表面波を受波する振動子であると特定された複数の振動子22d〜22lから、1つの振動子組を選択する。以下、図11に示すように、振動子22dと振動子22eからなる振動子組22Dを選択した場合を例に挙げて説明する。
まず、振動子22d、22eの受波信号から検出された最も受波時刻の早い超音波の波形(漏洩表面波又は骨表面屈折波の波形)が、漏洩表面波の波形であると仮定する。骨表面屈折波の骨表面10aからの出射角は、漏洩表面波の骨表面10aからの出射角(臨界角と同じ角度)に非常に近い。そのため、たとえ最も受波時刻の早い超音波の波形が、骨表面屈折波の波形であったとしても、精度良く音速を導出することができる。
2つの振動子22d、22eに到達する漏洩表面波の到来方向が近似すると仮定し、2つの振動子22d、22eの漏洩表面波の受波信号の時間差から、振動子組22Dに対する漏洩表面波35の到来角度θc1を検出する。到来角度θc1の具体的な検出方法は、到来角度検出部による到来角度θa、θbの検出方法と同様の方法を用いる(図6(b)参照)。
到来角度θc1と、骨表面ラインIaとから、骨表面10aにおける漏洩表面波35の発生点P1を検出する。骨表面ラインIaの点P1における法線方向と、到来角度θc1とから、漏洩表面波35の骨表面10aからの出射角γ1を算出する。骨10中の音速をVbとすると、スネルの法則により、Vb=Vs/sinγ1の関係が成立する。この式から、骨表面10aを円周方向に伝播する超音波(より詳細に言うと表面波)の音速Vbが算出される。
さらに、複数の振動子組22E〜22Kのうち、全て又は選択された一部の振動子組について、同様に骨10中の音速Vbを算出し、複数の音速Vbの平均値を求める。これにより、骨10中の音速を精度良く導出することができる。なお、骨表面ラインIaに、振動子組22E〜22Kについて導出された音速Vbをマッピングすることもできる。
このように、骨表面10aの形状の情報を用いて、骨10中の音速を算出する。そのため、たとえ骨表面10aの形状が曲面状であったり、当接面2aに対して傾いていたりしても、骨10中の音速を精度良く導出することができる。その結果、骨強度の診断精度が向上する。
以上により、円周方向の音速を導出したが、さらに、超音波送受波器2を、アレイ振動子22の配列方向が、骨10の長軸方向にほぼ一致するように設置して、長軸方向の音速も導出する。なお、骨10の厚みは、骨10の長軸方向に直交する断面形状を導出したときに導出された骨厚みを用いるため、この場合は骨裏面10bの形状を導出しなくてもよい。
最後に、骨強度指標導出部84が、音速導出部83によって導出された円周方向の音速及び長軸方向の音速と、形状検出部82(形状導出部82d)によって検出された骨表面10a及び骨裏面10bの形状とを用いて、骨強度に関する指標を導出する(S24)。導出された指標は表示部9に表示される。
以上のように、骨強度診断装置1では、骨強度の指標又は骨強度の指標を導出するための要素として、骨10の厚み、骨10のイメージング画像、円周方向の音速、長軸方向の音速を得ることができる。
骨は異方性構造を有しており、荷重の作用する方向に強い構造をしている。マクロスケールにおいては、大腿骨や脛骨や橈骨などのように長管状形状をしており、荷重方向に強い構造をしている。ミクロスケールにおいては、数十から数百ミクロンの円柱形状に近い空隙が存在する。この空隙はほぼ荷重方向に伸びており、荷重方向に強い構造をしている。ナノスケールにおいては、コラーゲン繊維に生体アパタイト結晶が取り巻いた構造をしている。このコラーゲン繊維や生体アパタイト結晶のc軸は、荷重方向に配向したものが多く存在する。このように、骨の異方性構造を調べることは骨強度を診断する上で重要である。
近年、骨強度は骨量と骨質の2つの要因からなると言われている。骨量である骨の大きさ(外径)や厚みに加えて、異方性構造を調べることは骨質の診断につながる。
まず、骨強度において、皮質骨のマクロ構造である骨の大きさ(外径)や皮質骨厚みは重要な因子である。上述したように、形状導出部82dでは、検出された骨表面10a及び骨裏面10bの形状とから、皮質骨10の厚みを導出するとともに、骨10の大きさ(外径)を推定している。従って、皮質骨10の厚み及び骨10の大きさを用いることにより、骨量に関する指標を導出することができる。
また、骨表面を円周方向に沿って伝播する超音波の音速は、皮質骨のミクロ構造である空隙率や空隙サイズや空隙連結性の影響を大きく受ける。これは皮質骨の骨密度と関係する因子である。そのため、円周方向の音速を用いることにより、骨密度に関する指標を導出することができる。
一方、骨表面を長軸方向に沿って伝播する超音波の音速は、皮質骨のナノ構造である生体アパタイト結晶の配向性と、骨のミクロ構造による骨密度や空隙の両方の影響を受ける。そのため、長軸方向の音速だけでは、骨の異方性構造を評価することができず、骨強度の診断指標としては不十分である。長軸方向の音速と円周方向の音速の両方を用いることにより、骨の配向性に関する指標を導出することができる。
また、物体中を通過する超音波の音速Vは、下記の数式1で表されため、弾性的な性質を表す。
Figure 0005374086
従って、円周方向と長軸方向の音速をそのまま骨強度の指標としても良い。この音速Vは、ミクロ構造やナノ構造を全て含めた平均的な弾性的性質を表すことから、X線と比較して、骨強度に関係する骨質の指標を直接示すことができるという特徴がある。
以上のように、骨強度診断装置1では、骨強度に関する複数の指標を導出することができるため、これらを用いることにより、骨強度をより詳細に診断することが可能となる。なお、実施の形態において、上述の全ての指標を骨強度の指標とせずに、一部の指標のみを用いても良い。
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
1]前記実施形態では、円周方向の音速と、長軸方向の音速の両方を導出したが、円周方向の音速(及び皮質骨10の厚み)だけを導出して、骨強度を診断してもよい(変更形態1)。
2]演算部8は、送波専用振動子21の送波信号と各振動子22a〜22lの受波信号とから、各振動子に受波される超音波の減衰係数を検出する減衰係数検出部を備えるものであってもよい(変更形態2)。この変更形態における具体的な作用を以下説明する。
減衰特性検出部は、まず、振動子22a〜22lによりそれぞれ受波された漏洩表面波(又は骨表面屈折波)のスペクトルと、送波専用振動子21から送波された超音波のスペクトルとをフーリエ変換により算出し、送波信号に対する各振動子22a〜22lの受波信号のスペクトル比を検出する。
一般的に、生体中を伝播する超音波の減衰率は、低周波成分よりも高周波成分の方が大きくなるため、検出されたスペクトル比は傾きを有する。この傾きを算出することにより、減衰係数(BUA:Broadband Ultrasonic Attenuation[dB/MHz])を検出できる。
検出された複数の振動子22a〜22lの減衰係数(BUA)は、表示部9に表示される。複数の振動子22a〜22lの減衰係数(BUA)を用いることにより、骨強度をより詳細に診断することができる。
3]振動子22a〜22lにそれぞれ受波された漏洩表面波(又は骨表面屈折波)の例えば最大振幅を表示部9に表示し、これらの値を用いて、骨強度を診断してもよい(変更形態3)。
4]骨10中の音速を導出する方法としては、以下の方法(変更形態4とする)を用いてもよい。まず、漏洩表面波を受波する振動子であると特定された複数の振動子から、2つの振動子組を選択する。2つの振動子組としては、構成する振動子が重複しないことが好ましい。以下、図12に示すように、振動子22dと振動子22eからなる振動子組22Dと、振動子22hと振動子22iからなる振動子組22Hとを選択した場合を例に挙げて説明する。
前記実施形態と同様に、振動子22d、22e、22h、22iの受波信号から検出された漏洩表面波又は骨表面屈折波の波形が、漏洩表面波の波形であると仮定して、2つの振動子組22D、22Hに対する漏洩表面波36、37の到来角度θc2、θc3をそれぞれ検出する。
到来角度θc2、θc3と、骨表面ラインIaとから、骨表面10aにおける漏洩表面波36の発生点P2、P3をそれぞれ検出する。そして、振動子組22Dから点P1までの距離d1、振動子組22Hから点P2までの距離d2、及び、点P1と点P2の間の距離d3をそれぞれ算出する。
2つの振動子組22D、22Hがそれぞれ漏洩表面波36を受波した時刻の時間差をΔTcとすると、2つの振動子組22D、22Hに到達する超音波の伝播ルートの違いから、時間差ΔTcは、ΔTc=(d3/Vb)−{(d1−d2)/Vs}で表される。ΔTcは、4つの振動子22d、22e、22h、22iの漏洩表面波の受波時刻を用いて算出できる。従って、骨10中の音速Vbは、Vb=d3/{ΔTc+(d1−d2)/Vs}の式から算出される。
5]また、骨10中の音速を導出する方法としては、以下の方法(変更形態5とする)を用いてもよい。まず、漏洩表面波を受波する振動子であると特定された複数の振動子から、1つの振動子組を選択する。以下、図13に示すように、振動子22dと振動子22eからなる振動子組22Dを選択した場合を例に挙げて説明する。
振動子22d、22eの受波信号から検出された漏洩表面波又は骨表面屈折波の波形が、骨表面屈折波の波形であると仮定して、振動子組22Dに対する骨表面屈折波38の到来角度θc4を算出する。到来角度θc4と、骨表面ラインIaとから、骨表面10aにおける骨表面屈折波38の出射点(屈折点)P4を検出し、骨表面ラインIaの点P4における法線方向と、到来角度θc4とから、骨表面屈折波38の出射角(屈折角)γ4を算出する。
骨表面屈折波38は、骨中を伝播する超音波39が、骨表面10aで屈折して発生したものとする。超音波39の骨表面10aに対する入射角φとすると、スネルの法則により、骨10中の音速(詳細には超音波39の音速)Vbは、Vb=Vs・sinφ/sinγ4で表される。
次に、送波専用振動子21から送波される超音波の角度範囲に基づいて、骨表面10a上の超音波の入射範囲のうち、図13中の左端部の位置P5を検出する。超音波39が、点P5から点P4まで伝播したと仮定した場合の入射角φminを算出する。なお、点P5は、形状導出部82dにより導出された骨形状の範囲を超えた位置になる。そのため、形状導出部82dにより導出された範囲の骨形状から予測した骨形状を用いて、点P5を検出する。
入射角φは、φmin から90度までの範囲内の角度である。音速Vbは、Vmin(Vmin=Vs・sinφmin /sinγ4)からVmax(Vmax=Vs/sinγ4)の範囲内の速度である。図14は、入射角φと、送波から受波までの伝搬時間Tcとの関係を示すグラフである。図14中の曲線は、入射角φをφmin から90度まで変化させたときの、各入射角φの伝播経路での伝搬時間Tcを示している。ある入射角φでの伝搬時間Tcは、入射角φに応じた伝搬経路長と、入射角φに応じた骨中の音速Vbと、軟組織中の音速Vsとから算出される。
また、振動子22d、22eの受波信号から、伝播時間の実測値Tc0を算出する。図14の曲線と、Tc=Tc0のラインの交点から、入射角φ0が求められる。この入射角φ0を用いて、骨10中の音速Vbが算出される。このようにして、骨10中を円周方向に沿って伝播する超音波(詳細には骨10中の骨表面10a近傍を伝播する超音波)の音速Vbを導出することができる。
6]前記実施形態では、アレイ振動子22から超音波を送波してから、一定時間空けた後で、送波専用振動子21から超音波を送波しているが、アレイ振動子22と送波専用振動子21から同時に超音波を送波してもよい(変更形態6)。この場合、アレイ振動子22と送波専用振動子21にそれぞれ異なる送信回路を接続し、アレイ振動子22と送波専用振動子21から、互いに周波数の異なる超音波を送波させればよい。
7]前記実施形態では、アレイ振動子22を構成する複数の振動子は、送波と受波の両方を行なっているが、12個の振動子22a〜22lのうち一部の振動子のみが超音波の受波を行うように構成されていてもよい。具体的には、例えば、図15(a)に示すように、12個の振動子22a〜22lのうち、8個の振動子22a、22b、22d、22e、22g、22h、22j、22kが、8個の受信回路にそれぞれ接続され、超音波の受波を行うように構成されていてもよい(変更形態7)。この場合、到来方向検出部82aは、隣接する2つの振動子を1つの振動子組として、4つの振動子組22L〜22Oを決定してもよい。
8]また、例えば、図15(b)に示すように、12個の振動子22a〜22lのうち1つおきに配置されている振動子(例えば、振動子22a、22c、22e、・・・、22k)が、超音波の受波のみを行うように構成されていてもよい(変更形態8)。この場合、到来方向検出部82aは、1つおきに配置されている2つの振動子を1組の振動子組として、5組の振動子22P〜22Tを決定してもよい。
変更形態7、8の構成によると、受信回路の数を前記実施形態よりも減らすことができ、回路構成が簡易になるとともに、コストを低減できる。
9]受信回路とアレイ振動子22との間にアナログスイッチなどの切替回路が設けられ、12個の振動子22a〜22lのうち、切替回路により受信回路に接続された一部の振動子のみが受波を行うように構成されていてもよい。例えば、図15(c)に示すように、切替回路106によって、12個の振動子22a〜22lのうち1つの振動子のみが受信回路6aに接続される構成であってもよい(変更形態9)。超音波を1度送波するたびに、切替回路106によって、受信回路に接続される振動子を順に切り替える。超音波の送波を合計12回行うことにより、12個の振動子22a〜22lの受波信号を取得することができる。なお、図15(c)中、送信側の回路構成は省略して表示している。
この構成によると、受信回路の数を前記実施形態よりも減らしてコストを低減しつつ、前記実施形態と同様に12個の振動子22a〜22lの受波信号を取得することができる。
10]前記実施形態では、アレイ振動子22を構成する複数の振動子22a〜22lは、アレイ振動子22から送波された超音波の受波と、送波専用振動子21から送波された超音波の受波の両方を行っているが、この構成に現限定されない。例えば、送波専用振動子21側の4つの振動子22a〜22dは、アレイ振動子22から送波された超音波の受波のみを行い、送波専用振動子21と反対側の4つの振動子22j〜22lは、送波専用振動子21から送波された超音波の受波のみを行い、中央部の4つの振動子22e〜22hは、どちらの送波の場合にも受波を行うように構成されていてもよい(変更形態10)。この場合、受信回路を8個設け、この8個の受信回路とアレイ振動子22との間に切替回路を設けて、超音波の送波を行う振動子(送波専用振動子21又はアレイ振動子22)に応じて、受波を行う振動子を切り替える構成としてもよい。
この構成によると、受信回路の数を前記実施形態よりも減らすことができる。
11]送波専用振動子21を設けずに、アレイ振動子22の端部の複数(例えば4つ)の振動子から位相を制御した超音波を送波することにより、当接面2aに対して斜めに超音波を送波してもよい(変更形態11)。
この構成によると、送波専用振動子21が必要ないため、超音波送受波器2の構成がアレイ振動子22のみとなり、簡易化される。また、送波専用振動子21を設けない分、アレイ振動子22を構成する振動子の数を増やすことができるため、骨形状を検出できる範囲が広くなる。但し、送信回路が複数必要となり、回路構成が複雑でコストも高くなるため、この点においては、前記実施形態の方が好ましい。
12]前記実施形態の超音波送受波器2では、送波専用振動子21の数は1つであるが、例えば、図16(a)に示すように、アレイ振動子22の配列方向に並んで配置された2つの送波専用振動子21を備える超音波送受波器202でもよい(変更形態12)。このでは、軟組織11の厚みや、骨表面10aの曲率の大きさに応じて、2つの送波専用振動子21から超音波を送波する振動子を選択するようにする。
この構成によると、アレイ振動子22に、漏洩表面波又は骨表面屈折波をより確実に受波させることができる。
13]前記実施形態の超音波送受波器2は、アレイ振動子22と送波専用振動子21を1つずつ備えているが、例えば、図16(b)に示すように、互いに直交する方向に配置された2つのアレイ振動子22と、これら2つのアレイ振動子22の配列方向の一端側にそれぞれ配置された2つの送波専用振動子21とを備える超音波送受波器302でもよい(変更形態13)。図16(b)は、当接面2aと平行な面の断面図である。
この構成によると、超音波送受波器302の設置の向きを変えることなく、骨の円周方向の断面形状と長軸方向の断面形状を検出することができるとともに、円周方向の音速と長軸方向の音速を導出することができる。従って、測定時間を短縮することができる。
14]また、例えば、図16(c)に示すように、6個×6個の格子状に配列された複数の振動子422aからなるアレイ振動子422と、アレイ振動子422の図16(c)中の上側に、左右方向に並んで配置された6個の送波専用振動子421aと、アレイ振動子422の図16(c)中の左側に、上下方向に並んで配置された6個の送波専用振動子421bとを備えた超音波送受波器402でもよい(変更形態14)。この構成によると、例えば、アレイ振動子422の右端から順に、上下方向に配列された6個の振動子422aと、これに対応する送波専用振動子421aとを用いて、前記実施形態と同様に、骨の形状を検出して、検出された骨形状を用いて骨中の音速を導出する。これにより、骨10の立体的形状を導出することができる。さらに、左右方向に並んだ6箇所における、上下方向に伝播する超音波の音速を導出することができる。従って、ある方向の音速を複数箇所で測定できるため、骨中の超音波の音速をより精度よく導出することができる。
また、アレイ振動子422の上端から順に、左右方向に配列された6個の振動子422aと、これに対応する送波専用振動子421bとを用いて、骨中の音速を導出することにより、上下方向に並んだ6箇所における、左右右向に伝播する超音波の音速を導出することができる。
15]骨10の表面の形状を検出する形状検出手段は、前記実施形態の構成に限定されない。例えば、超音波を用いた前記実施形態以外の手段であってもよく、超音波を利用しない手段(例えばX線を利用した手段)であってもよい(変更形態15)。但し、形状検出手段を、超音波を用いた手段とすることにより、音速を導出するための構成の一部(例えば送信回路、受信回路等)を、形状検出手段と兼用することができるため、コストを低減できる。
本発明の実施形態に係る骨強度診断装置の構成を示す図である。 (a)はアレイ振動子から送波される超音波を説明するための図であり、(b)はアレイ振動子から送波された超音波の伝播経路を説明するための図である。 アレイ振動子の受波信号を示すグラフである。 送波専用振動子から送波された超音波の伝播経路を説明する図である。 骨強度診断装置の動作を示すフローチャートである。 (a)は表面反射点の検出方法を説明するための図であり、(b)は到来方向の検出方法を説明するための図である。 裏面反射点の検出方法を説明するための図である。 裏面反射点の検出の際に用いる、伝播時間と裏面反射点の位置との関係を示すグラフである。 漏洩表面波を受波する振動子を特定する方法を説明するための図である。 ノイズの波形と超音波の波形とを選別する方法を説明するための図である。 音速の導出方法を説明するための図である。 変更形態4の音速の導出方法を説明するための図である。 変更形態5の音速の導出方法を説明するための図である。 変更形態5による音速導出の際に用いる、入射角と伝播時間との関係を示すグラフである。 (a)は変更形態7のアレイ振動子を示す図であり、(b)は変更形態8のアレイ振動子を示す図であり、(c)は変更形態9のアレイ振動子と切替回路とを示す図である。超音波送受波器の構成を示す図である。 (a)は変更形態12の超音波送受波器の構成を示す図であり、(b)は変更形態13の超音波送受波器の構成を示す図であり、(c)は変更形態14の超音波送受波器の構成を示す図である。 従来の音速測定装置を示す図である。
符号の説明
1 骨強度診断装置
2 超音波送受波器
21 送波専用振動子(音速導出用送波振動子)
22 アレイ振動子
22a〜22l 振動子(音速導出用受波振動子、形状検出用送波振動子、形状検出用受波振動子)
22A〜22K 振動子組
23 遮音材
3 装置本体
5 送信回路
6a〜6l 受信回路
8 演算部
82 形状検出部
82a 到来方向検出部
82b 伝播時間検出部
82c 表面反射点検出部
82d 形状導出部
82e 裏面反射点検出部
83 音速導出部
84 骨強度指標導出部
10 骨
10a 骨表面
10b 骨裏面
11 軟組織
θa 到来角度(表面反射波の到来方向)
θb 到来角度(裏面反射波の到来方向)
Ta 伝播時間
Tb0 伝播時間
Ra 表面反射点
Rb 裏面反射点
22L〜22O、22P〜22T 振動子組
106 切替回路
202、302、402 超音波送受波器
421a、421b 送波専用振動子
422 アレイ振動子
422a 振動子(音速導出用受波振動子、形状検出用送波振動子、形状検出用受波振動子)

Claims (10)

  1. 音速導出用送波振動子から、軟組織に覆われた骨に対して斜めに超音波を送波する音速導出用送波部と、
    前記音速導出用送波部から送波されて前記骨の表面に沿って伝播した後、前記骨から前記軟組織側に出た超音波を、複数の音速導出用受波振動子により受波する音速導出用受波部と、
    前記骨の表面の形状を検出する形状検出手段と、
    前記音速導出用受波部による受波信号と、前記形状検出手段により検出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を導出する音速導出部と
    を備えることを特徴とする骨強度診断装置。
  2. 前記音速導出用送波振動子と、前記複数の音速導出用受波振動子との間に、遮音材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の骨強度診断装置。
  3. 前記形状検出手段が、
    前記骨に対して超音波を送波する形状検出用送波部と、
    前記形状検出用送波部から送波された前記超音波の、前記骨の表面からの表面反射波を受波する形状検出用受波部と、
    前記形状検出用受波部による受波信号を用いて、前記骨の表面の形状を検出する表面形状検出部と
    を有することを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の骨強度診断装置。
  4. 前記形状検出用送波部が、
    同時に前記超音波を送波する、複数の形状検出用送波振動子を備え、
    前記形状検出用受波部が、
    前記表面反射波を受波する複数の形状検出用受波振動子を備え、
    前記形状検出手段が、
    前記複数の形状検出用受波振動子のうち近接する2つの形状検出用受波振動子を1組の振動子組として、各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子がそれぞれ前記表面反射波を受波した時刻の時間差を用いて、前記各振動子組に対する前記表面反射波の到来方向を検出する到来方向検出部と、
    前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子のうち少なくとも1つの形状検出用受波振動子の前記表面反射波の受波信号を用いて、各振動子組に到達する前記表面反射波の伝播時間を検出する伝播時間検出部と、
    前記到来方向検出部及び前記伝播時間検出部により、前記各振動子組について検出された、前記表面反射波の前記到来方向及び前記伝播時間に基づいて、前記超音波の前記骨の表面における反射点を検出する表面反射点検出部と、
    前記表面反射点検出部により、構成振動子の異なる複数の前記振動子組についてそれぞれ検出された、前記骨の表面における複数の前記反射点を用いて、前記骨の表面の形状を導出する形状導出部と
    を備えることを特徴とする請求項3に記載の骨強度診断装置。
  5. 前記形状検出用送波振動子が、前記形状検出用受波振動子を兼ねていることを特徴とする請求項4に記載の骨強度診断装置。
  6. 前記音速導出用受波振動子が、前記形状検出用受波振動子を兼ねていることを特徴とする請求項4又は5に記載の骨強度診断装置。
  7. 前記形状検出手段が、前記骨の表面の形状の検出に加え、前記骨の裏面の形状の検出を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の骨強度診断装置。
  8. 前記形状検出用受波部が、前記表面反射波の受波に加えて、前記表面反射波よりも遅れて前記複数の形状検出用受波振動子に到達する、前記骨の裏面からの裏面反射波の受波を行い、
    前記到来方向検出部が、前記表面反射波の前記到来方向の検出に加えて、前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子がそれぞれ前記裏面反射波を受波した時刻の時間差を用いて、前記各振動子組に対する前記裏面反射波の到来方向の検出を行い、
    前記伝播時間検出部が、前記各振動子組に到達する前記表面反射波の前記伝播時間の検出に加えて、前記各振動子組を構成する前記2つの形状検出用受波振動子のうち少なくとも1つの形状検出用受波振動子の前記裏面反射波の受波信号を用いて、各振動子組に到達する前記裏面反射波の伝播時間の検出を行い、
    さらに、前記形状検出手段が、前記到来方向検出部及び前記伝播時間検出部により、前記各振動子組について検出された、前記裏面反射波の前記到来方向及び前記伝播時間と、前記形状導出部により導出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記超音波の前記骨の裏面における反射点を検出する裏面反射点検出部を備え、
    前記形状導出部が、前記裏面反射点検出部により、構成振動子の異なる複数の前記振動子組についてそれぞれ検出された、前記骨の裏面における複数の前記反射点を用いて、前記骨の裏面の形状を導出することを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の骨強度診断装置。
  9. 前記音速導出用送波振動子の送波信号と各音速導出用受波振動子の受波信号とから、前記各音速導出用受波振動子に受波される前記超音波の減衰係数を検出する減衰係数検出部を備えることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の骨強度診断装置。
  10. 軟組織に覆われた骨の表面の形状を検出する形状検出ステップと、
    音速導出用送波振動子から、前記骨に対して斜めに超音波を送波する音速導出用送波ステップと、
    前記音速導出用送波振動子から送波されて前記骨の表面に沿って伝播した後、前記骨から前記軟組織側に出た超音波を、複数の音速導出用受波振動子により受波する音速導出用受波ステップと、
    前記音速導出用受波ステップにより得られた受波信号と、前記形状検出ステップにより検出された前記骨の表面の形状とに基づいて、前記骨の表面に沿って伝播する超音波の音速を導出する音速導出ステップと
    を備えることを特徴とする骨強度測定方法。
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